【表紙 右下に図書館シール】 JAPONAIS 637 1 【中央に貼り題箋】 《割書:容貌|寫真》 俳優三階興   【手描き整理番号】7167  乾 【貼り題箋の右下の図書館スタンプ】R.E  【表紙は丸に式亭の図案】 【表紙の裏】 Utagawa Toyokuni, Haïyu SangaïKio Portraits des acteurs chez eux, littéralement, portaits exact des divertissements des acteurs du 3e étage,  Au frontispice, Le titre: Gwazu Haïyu Sangaikio et à la préface Le titre irreversé(?): Haïyu Gwazu SangaiKio,  Préface signeé, Shikitei Samba et dateé Kanoé Saru de Kwansei (1800), Lost, face signeé Samba à l’aurore de 25 ans et dateé Kanoto Tori de Kwansei (1801) Dessinateur à Toto: Utagawa Ichiyosai Toyokuni, cachets Ichiyosai et Toyokawa Date 13e anneé de Kwansei (1801) Calligraphe Chikura Toryu, Libaires à Yedo, Yorozuya Tajiyèmon (Shiba) et Shun, Shoken Nishimiya Shinroku à l’achess Onzaimokucho, 2 vol contenant ou pages(?) de gravures en couleurs plus & frontispice,       couvertures originales fontait en         reliefles "mon" des acteurs 【上部余白に図書館スタンプ】 【図書整理シール】 JAPONAIS 637 1 【筆記】 JAPON 637 (1) 【下部余白に寄贈番号カ】 DON. 7605 東都《割書:式亭主人三馬著|歌川豊國畵》《割書:构欄定規|不許白看》 《題:畵圖俳優》 《題:三階興《割書:春枩軒藏|切落札賣切申候【朱字】|明日御出可被下候》》 俳優画図三階興     自序 如何(いかん)祖師(そし)西来(さいらい)意(ゐ)。楊(やなぎ)は緑(みどり)。花(はな)は紅(くれない)の串童狂(いろこぐるい)に。 念戯(ねんげ)無性(むせう)と戀々(のぼせ)ては五戒(ごかい)を更(さら)に楼上(にかい)の熱閙(さはぎ)。 達磨(だるま)さんがた羣歌妓(げいしやしゆう)。如意(によゐ)にはあらで反杵(うちかへ)す。 直指(じきし)の掅指酒令(けんざけ)【猜指酒令ヵ】人心(にんしん)を。和(やは)らぐるのも狂言(きやうげん)別傳(べつでん)。 不立(ふりう)令節(もんぴ)の討帖(むしんぶみ)には。九(く)季(ねん)なんぞや那移(くめん)面壁(めんぺき)。 色即是空(しきそくぜくう)と悟(さとる)もあれば。空即是色(くうそくぜしき)と迷(まどふ)も有(あり)。 見倡成仏(けんしやうぜうぶつ)の臥房(ねや)の情(ぜう)。豈(あに)大悟(たいご)の眼(まなこ)といへども 及(およぶ)べけんや怎生麼(そもさんか)【怎麼生の誤】大戯塲(たいぎじやう)。優首(とうじう)の坐凳(ゐす)に居(ゐ)て。 戯房(がくや)の壁上(かべ)を看殺(にらみつめ)。行厨器(べんたうばこ)の座禅豆(ざぜんまめ)。空〃(くう〳〵)寂々(じやく〳〵) の賣茶飯(おんちやづけ)。一禅(いちぜん)十二因縁(じうにいんゑん)を觀(くはん)ずるに。両脚(あし)が屈曲(まがる)も 被教坊大王罸(ばちがあたる)も看塲(きりおとし)の毒言(わるくち)にして。因果(いんぐは)は輪囬(めぐる) 𦒳(お)【耂+工】大(ほ)機關(しかけ)なり。生前(ぜんしやう)馬兒(うま)の後脚(あとあし)は現在(げんざい) 連三角紋(しやうぶかわ) の外套(はおり)を破(やぶつ)て。未来(みらい)戯房(がくや)の鼓兒(たいこ)を撃(たゝく)。夫(それ)に由(よつ)て 此(これ)を想(おもふ)に開塲(いちばんめ)の顰蹙戯(うれいごと)。沖塲(にばんめ)の煙花粉黛(はなやかなる) 終塲(おほぎり)の 叱姦駡䜛(ぶつちめる)も。即(すなはち)現世(げんぜ)過去(くはこ)未来(みらい)。都合(あはせ)て 三世(さんぜ)の 三坐勾欄(さんしばゐ)。彼(かの)欲界(よくかい)の副浄(かたきやく)。色界(しきかい)の演春戯(ぬれごと) 生且(し)。无色界(むしきかい)の蒼鶻(あらごと)科諢(どうけ)。その開講(よりぞめ)の末(さがしら)より。雜迠(いなりまちまで) 應有(ひつくるめ)て。三階(さんがい)大穿(だいせん)世界定(せかいさだめ)。編戯文漢(つくり)が院本(せうほん)眼藏(ぐはんざう)の。 讀㫖(ほんよみ)本来(ほんらい)無(む)東西(とうざい)。青然白席(とうざい〳〵)の二棚(さじき)はおろか。爪(つめ)も たゝざる 人山人海(おほいり)に。遠方(とおくの)衆生(しゆぜう)は拂子(ほつす)を放下(なげ)。近(ちかく)は 便(たよ)る縁覚(ゑんがく)に悟故十方(ごこじつぼう)の衆看人(しよけんぶつ)。東抓西尋(うろ〳〵うろつく)有漏(うろ) 路(ぢ)より。无漏路(むろぢ)に通(かよ)ふ鼓門道(はなみち)に。迷故(まよふがゆへの)三階興(さんがいけう)。優子(やくしや) 素瞼(すがほ)の寫真(せううつし)は。西土人(けとうじん)の題號(なだい)を借り。新招子(しんかんばん)の 小説(しやうせつ)は。笠翁(りつおう)卓吾(たくご)に異(ことかは)り。在下(せつしや)が乖巧(ちゑ)も慧黠(ふんべつ)も 全然(さつぱり)こと無(な)き無(む)の見(けん)也。されば禅衲(ぜんぼうず)の白隠(はくいん)は。 磨麺唱(こひきうた)て衆生(しゆぜう)を度(ど)し優魁(おやだま)の白猿(はくゑん)は夷曲(たはれうた)にて 世上(せじやう)の見佛聞法(けんぶつもんぼう)を示(しめ)す。其哥(そのうた)に曰(いはく)。三がいを苦(くるし)と 云ふも理(ことはり)や。生死流轉(せうじるてん)の火速扮(はやがはり)して。嗚呼(あゝ)雅(が) なるかな俳優(はいゆう)の才子(さいし)。風流(ふうりう)勾欄(しばゐ)の在行(みごうしや)に止(とゝま)る。 夫(それ)戯貨(かざりつけ)の花(はな)は盛(さかり)に。銀箔(ぎんばく)の月(つき)は曇(くま)なきを のみ見る物(もの)かは。音(おと)も香(か)もなき朱雀棚(つんぼうさじき)に。悠然(ゆうぜん)として 三角紙(さんかく)の雪(ゆき)を眺望(ながめ)。あけら觀法(くはんぽう)の床(ゆか)に座(ざ)さば。狂言(きやうげん)綺語(きぎよ)も 譬喩(ひゆ)方便(ほうべん)。賛佛乘(さんぶつじやう)の因縁(いんゑん)と悟(さと)るべし。無慙(むざん)の 綴皮(てんほう)。六塵(ろくぢん)の 方罫塲(どま)に猶豫(まよひ)。放逸(ほういつ)の白看的(のんたらう)。五(ご) 欲(よく)の對䑓棚(むかふさじき)に狼狽(まごつか)ば。知識(ちしき)の院子(とめば)に道(みち)を問(とふ) とも。本覚(ほんがく)の舞榭(ほんぶたい)に至(いた)る事(こと)難(かた)かるべし。吁(あゝ) 真個(ほんに)。迷心(まよふ)と悟道(さとる)の両个衙衕(にてうまち)。浮世(うきよ)を茶坊(ちやや) のソレ 小二(わかひしゆ)。■(お)【金ヵ王ヵ玉ヵ】手(て)が響(なる)なら酒提(てうし)と悟(さと)れと 云爾(しかいふ)。維(これ)旹(とき)寛政(くはんせい)庚申(かうしん)の霜月(しもつき)。春演戯(はるきやうげん)の 發談(はなしぞめ)する頃(ころ)。書屋(はんもと)の需(もとめ)に應(おう)して   式亭三馬戯撰【落款】 俳優三階興附言    切落しにもわかる凡例(はんれい)  ◯嚮(さき)に俳優(やくしや)楽室通(がくやつう)一篇(いつぺん)を著述(あらは)す。幸にして行(おこなは)る。一日(あるとき)例(れい)の書林(ほんや)の   欲心坊(よくしんぼう)。予(せつしや)が草盧(さうろ)に來りて拾遺(しうい)を編(あめ)よと需(もと)む固辭(こじ)して曰。既(すて)に   和漢(わかん)の羣書(ぐんしよ)。汗牛充棟(かんぎうじうたう)也。其 聖賢(せいけん)の貴(たつと)き書といへども。後編(こうへん)の   前篇(ぜんへん)に勝(まさ)れる㕝(こと)をいまだ聞(き)かず。此(この)巧案(おもひつき)大きに不(ふ)出来〳〵。   とゝ取(とり)あへねば。板元(はんもと)無據(よんどころなく)ふくれて帰(かへ)りしが止事(やむこと)を得(え)ず終(つい)に歌(うた)川   豊國(とよくに)をして。伎子(やくしや)素㒵(すがほ)の 寫生(せううつし)を書(かゝ)しめ。再(ふたゝ)び來て予に題(げたい)   及び。小説(せうせつ)を附録(ふろく)せん事を乞(こ)ふ。《割書:予》巻を開て大に笑ふ事 一聲(いつせい)。    板元 肝(きも)をつぶしたる顔色にて。先生此 画帖(ゑほん)を 閲(けみ)して。何等(なんら)の可咲(おかしみ)   あり哉。答云 左(さ)にあらず。足下(そつか)しらずや。似㒵繪(にがほゑ)の祖(そ)たる古人 【壷の中に林の文字がある図(地本問屋林屋の仕切判・春章の画印)】   勝川春章(かつかはしゆんしやう)。役者(やくしや)夏(なつ)の富士(ふじ)。《割書:通笑著|全一冊》といへる書(しよ)をおつかぶせて。當世(とうせい)に 書更(かきかへ)猶(なほ)丹青(いろさし)を加(くは)へたる而已(のみ)是(これ)も又 古(ふる)し〳〵と 言(いゝ)ければ赤面(まつか)に成(なつ)て額(ひたい)へ 筋隈(すぢぐま)をあらはし不侫(わし)が折角(せつかく)頼(たのみ)に来(き )た 新作(しんさく)は請合(うけあは)ずに。秘藏(ひそう)する板下(はんした) に悪名(あくめう)を附(つけ)られては。了簡(りやうげん)が成ませぬ。そんならわしも言(いゝ)ませう。こな様(さま) が一生懸命(いつせうけんめい)の才(さい)を揮(ふるつ)て。新作(しんさく)を書(かゝ)れても。楽屋落(がくやおち)では世上(せじやう)へ賣(うれ)ませぬ。 わしが文盲(もんもう)で古(ふる)ひ物(もの)を焼(やき)なをすは。切落(きりおとし)え向(む)くことを第一(だいいち)とする故(ゆへ) に。賣(う)れる㕝が見(み)へすいてござる。智者(ちしや)も千慮(せんりよ)に一失(いつしつ)あれば 愚者(ぐしや)にも一得(いつとく)いかにこなさまが。ないもせぬ学問(がくもん)を。しつたふりに鼻頭(はなのさき)え ぶらつかせても。髙(たか)て戯作者(げさくしや)。へちまでもない㕝(こと)を書(かき)ちらして。わづか 一年限(いちねんぎり)の風來本(ふうらいぼん)也。後世(のちのよ)に美名(びめい)を残(のこ)す程(ほど)の。大業(たいげう)は得(え)なるまじ。 夫(それ)じやによつて新古(しんこ)をいはず。ハテなんでも賣(う)れる方(はう)が勝(かち)でござ ると一(いつ)ぱいにやつてのけられ。更(さら)に一句(いつく)も出(いで)ず。なるほど至極(しごく) 御最(ごもつとも)と斗り。終(つい)に諾(だく)して一部(いちぶ)の書(しよ)なんぬ。 ◯見(み)たき物(もの)芝居の楽屋(がくや)といへる清女(せいぢよ)が言葉(ことば)にもとづきて。役者   素臉(すがほ)の写真(せううつし)を書(ゑか)き先年 物故(ぶつこ)したる市川六代目三升  哥舞妓國(かぶきこく)の島巡(しまめぐり)を附録(ふろく)す旨趣(すじ)は讀本(よみほん)の和荘(わそう)  兵衛にしたがひて俗(ぞく)にちかき小説(せうせつ)也。されば此書を以て。  御夜話のねむけを覚し。夜鍋仕㕝の労(らう)を休(やす)ましめば。 自(おのづか)  ら心をなぐさむるの友(とも)なるべし。 ◯役者夏の富士の初牒(しよてう)に比(ひ)して。三座(さんざの)年禮(ねんれい)を初(はじめ)〆。眠獅(みんし)《割書:嵐雛助|吉田屋》成田屋(なりたや)  と改名(かいめい)するの圖(づ)に終(おわ)る。是(これ)先年(せんねん)故人(こしん)雛助(ひなすけ)。江戸 下(くだ)りの 節(せつ)。夏の冨士  の巻尾(くはんび)なるの以謂(ゆえん)也。 ◯役者附(やくしやづけ)の例(れい)に任(まかせ)てこと〴〵く【枠】画中(ゑのなか)に(に)名面(やくしやのな)【枠閉じる】をしるす。故(かるかゆへ)【かかるゆへ】に繪(ゑ)ならび  くだ〳〵しきといへども。これを 江戸(ゑど)ッ(つ)子(こ)。芝居通(しばゐつう)に見(み)するにあらず。  東土産(あつまのみやけ)となりて。遠(とを)き國(くに)の境(はて)へ至(いた)らん時(とき)。鼻(はな)が髙(たか)けりや團十(だんじう)  郎(らう)を覚(おぼへ)たる田夫(せなあ)野娘(あねへら)。または栢莚(はくゑん)助髙屋(すけたかや)が身ぶりの残りし  御家老(ごからう)より。小長中車(せうてうちうしや)の昔咄(むかしはなし)に涎(よだれ)を流(なか)すお局(つほね)さま迠(まて)。今(いま)の  役者のいきうつしを見安(みやす)からんがため也 ◯役者上中下 混雑(こんざつ)して次第(しだい)をゑらばず。勿論(もちろん)校合(けうがう)全(まつた)からねば  當時(とうじ)休座(きうざ)或(あるひ)は旅行(りよかう)。或は脱漏(もれのこり)たる役者。最(もつとも)すくなからず。  拾遺(しうい)三階興(さんがいけう)にゆづりて。こゝに委(くは)しくせず。㕝(こと)はすべて  舞䑓扇(ぶたいあふぎ)。夏(なつ)の富士(ふじ)。楽屋通(がくやつう)に同(おな)じ。 ◯澤村(さはむら)訥子(とつし)を始(はじ)め。大江戸(おほゑど)御 取立(とりたて)の役者。近(ちか)き頃(ころ)旅行(たびゆき)の部(ぶ)は。  浪美新町(なにはしんまち)の圖(づ)。二葉(にまい)を出(いだ)す。餘(よ)は推(おし)て知(し)るべし。 ◯此書(このしよ)全部(ぜんぶ)成(なつ)て凡(およそ)二ヶ年。故障(ゆへ)あつて。出版(しゆつぱん)遅滯(おそなは)る依(よつ)て  杜若(とじやく)《割書:岩井|半四郎》。蘭耕(らんこう)《割書:中村|のしほ》。の輩(ともがら)。既(すで)に没(ぼつ)すれども改(あらた)めず。御贔屓  殊(こと)に髙名(かうめい)の役者なれば。せめて此(この)画本(ゑほん)にとゞめて永(なが)く   名人(めいじん)上手(ぜうず)の俤(おもかげ)を残(のこ)さんと。作者(さくしや)が一片(ひとつ)の老婆心(らうばしん)なり        例尾 《割書:新下り役者の出は来春|早〳〵出加へ可申候以上》                    【落款】三馬    八文舎流(はちもんじやふう)に         此處(このところ)で一寸(ちよと)お耳(みゝ)に入置(いれおき)升              【ここより板元による宣伝】 来戌の正月二日より賣出し申候   《題:歌(か)舞(ぶ)妓(き)訓(きん)蒙(もう)圖(づ)彙(い)《割書:全部五冊繪入讀本|東都畵巧寄合書|式亭主人三馬著》》 京都(きやうと)大阪(おほさか)の戱塲(しばゐ)は八文舎(はちもんしや)自笑(じせう)に譲(ゆづり)て更(さら)に言(いは)す東都(とうど)三座(さんさ)の劇塲(しばゐ)を一箇(ひとつ)の 國(くに)に見立て唐土(もろこし)訓蒙(きんもう)圖彙(ずい)に比(ひ)し部類(ぶるい)を乾坤(けんこん)時候(じかう)より始(はじめ)て數量(すうりやう)言語(げんきよ) に至(いた)る迠十三門に分(わか)ち東都 浮世繪(うきよゑ)の諸名家(しよめいか)に需(もとめ)て細畵(さいぐわ)を悉(こと〴〵)く加(くわ)へ 傍(かたはら)に戱文(げぶん)の註(ちう)をほどこし古今(こゝん)となく先賢(せんけん)の諸説(しよせつ)を国風(こくふう)になぞらへ 引書(いんしよ)して億 説(せつ)をとらず實(じつ)に戱塲の大全(だいぜん)見功者(みかうしや)未發(みはつ)の辦疑(べんぎ)なり 芝居通の君子(くんし)見ずんばあるべからずと云     板元 【図は役者の森田又吉と箕助改坂東三津五郎が挨拶している、中央に口上文】 乍憚口上 恐悦至極奉存候■顔見世狂言来遊成応出■■ 相叶。。。。。仕候御贔屓 以口上故と座元に不 例年の通曽我物語二十番目おそめ久松お仲つかm(なつ?)清十郎 市川八百藏嵐雛助沢村宋十郎其外並対■ふは■ 相勤奉の■も永當御評判程偏奉希上候                  座元 俳優三階興附録        東都市隠  式亭三馬著 夫(それ)戯塲(しばゐ)は太平(たいへい)の代(よ)の翫(もてあそ)び人(ひと)を和(くは)するの道(みち)にして勧善懲悪(くはんぜんてうあく)の 器(うつは)なり又(また)孟子(もうじ)にも世俗(せぞく)の楽(がく)たりとは先哲(せんてつ)の賞辭(ほめことば)実(げに)宜(むべ)なるかな 遠(とを)き漢土(もろこし)の事は胡元瑞(こげんすい)の見功者(みごうしや)にこと〳〵く至(いた)れり盡(つく)せりはた わが日域(ひのもと)の神(しん)狂言(きやうげん)天(あま)の戸隠(とがくれ)の第一番目は常闇(とこやみ)の段(だん)本舞䑓(ほんぶたひ) の方に庭火(にはひ)を焚(た)く若衆(わかひしゆ)大勢(おほぜい)をあしらひ岩戸神楽(いわとかぐら)の幕明(まくあき) より、長鳴鳥(ながなきどり)の長唄(ながうた)にてうすめの尊(みこと)の正旦(わかおやま)が所作(しよさ)事の大でけ〳〵 それより三(み)立目のしばらく〳〵は角(すみ)かづらの荒㕝株(あらごとかぶ)手力雄尊(たちからをのみこと)と 名(な)のりて岩戸(いわと)をさつと押開(おしひら)き《割書:トド》天照皇大御神(あまてらすすめおほんがみ)を引出(ひきいだ)し奉り しりくめ縄(なは)をひき渡(わた)して《割書:グツト》にらんだ幕際(まくぎは)は《割書:アヽ|》つかもねへ神(かんつ) 代(よ)の大(おほ)あたりそれよりつゞきて神楽(かぐら)申楽(さるがく)田楽(でんがく)とてくだれる代(よ)〻(〳〵) 【正旦:「旦」は女形の意、中国の演劇で、たておやま。】 【しりくめ縄:端を編んだまま切らないでおく縄の意、上代、神聖な場所を区切るしるしとして引き渡す縄。】 のさま〴〵は今更(いまさら)いり珎(めづ)らしからず八雲(やくも)たつ出雲(いづも)なるお国と いへるしな者(もの)吾妻(あづま)にきこへしまめ男(おとこ)名古屋三左エ門とかたらひて 男女(おとこおんな)の打(うち)まじりて哥舞妓(かぶき)と名(な)つけ初(そめ)し頃(ころ)はいまだ桟敷(さんじき)なんど いふ事なく菰(こも)打回(うちまは)したるばかりにて芝居(しばゐ)といへる名(な)も出来(いでき)しと かやしかしよりこのかた千変万化(せんべんばんくわ)して桧舞薹(ひのきぶたい)に羅綺(らき)を粧(よそほ)ふ 三(さん)ヶ(がの)津(つ)大芝居(おほしばゐ)の繁昌(はんじやう)ははんかたなく名(な)たゝる役者は藝評(げいつう)に 甲乙(かうをつ)を爭(あらそ)ひ贔屓(ひいき)髪結床(かみゆひどこ)に會(あつまつ)て初日(しよにち)の出(いづ)るを競(きそ)ふ就中(なかんづく)雷名(らいめい) の徳(とく)をもて後世(かうせい)に残(のこ)す者一二を挙(あげ)てかぞふるに沢之丞帽子(さはのぜうほうし)小六(ころく) 染(ぞめ)小太夫 鹿子(かのこ)吉弥結(きちやむす)びは中古(なかむかし)に流行(おこなはれ)て最早(もはや)ことふりにたりされば 役者の名(な)ある艾(もぐさ)には四百四病(しひやくしべう)は云(い)ふも更(さら)貧(ひん)の病(やまひ)もおそれつべく伽(きや) 羅(ら)の油(あぶら)のかんばしく名と共(とも)に髙(たか)く薫(かほれ)ば嗅鼻(かぐはな)も目(め)の舞(まひ)鼻(はな)の 置処(おきどころ)を失(うしな)ふべし或(あるひ)は団十郎 煎餅(せんべい)岩井櫛(いわゐぐし)路考茶(ろかうちや)あれば路考(ろかう) 髷(まげ)髙麗屋縞(かうらいやじま)三升 繋(つなぎ)とおの〳〵名誉(めいよ)を今(今)に残(のこ)すさりや晋子(しんし)が妙(めう) 【羅綺:羅うすものと綺あやぎぬ。美しい衣服。綺羅。】 句(く)の今(いま)こゝに鬼(おに)をもひしぐ豪傑(ごうけつ)あり東夷(とうい)南蠻(なんばん)北狄(ほくてき)西戎(ざいしう)四夷(しい) 八荒天地(はつくはうてんち)乾坤(けんこん)のその間(あいだ)にしる人ぞしる役者(やくしや)の魁首(おやだま)誉(ほまれ)は高(たか)きは なの都(みやこ)お江戸市川の藝名(げいめい)元祖(ぐはんそ)才牛(さいぎう)より連綿(れんめん)として六世(ろくせい)の孫(そん)大 極上〻無敵【類ヵ】藝頭にして此道の稀者(まれもの)なり五代目の市川鰕藏一つ の名は白猿さりし年世をうしとみし牛島にのがれてよりおのが 氣儘(きまゝ)の夷哥連俳(いかれんばい)を鋸屑(をがくず)のごとくに吐(は)きひとり文机(ふづくへ)にもたれて は蛍雪(けいせつ)のおもむきをしたひ墨河(すみだがは)の流(なが)れに枕(まくら)して木母寺(もくぼじ)の石(いし)に 口(くち)をそゝぎ秋葉の山にわけ入てはわらびを需(もとめ)ん事をおもひ三闓【圍ヵ】 の御手洗(みたらし)に耳(みゝ)を 洗(あら)ふて常(つね)に盤上(ばんしやう)をもて老(おひ)を養(やしな)ふいはゆる橘中(きつちう)の 仙(せん)といふも実(じつ)に及かたし嗚呼此人にして此子あり実子(じつし)團 十郎は相續して即六代目也 容貌美麗(ようぼうびれい)の壮夫(わかもの)宋玉(そうぎよく)もゆび をくわへて隣(となり)の内(うち)へかけ込(こ)み彼(かの)色男(いろおとこ)の業平(なりひら)もならべて三河(みかは)のやつ しごどは定(さだめ)て恥(はぢ)をかきつばた骨(ほね)を折句(おりく)の甲斐(かひ)さへあらじ抑(そも〳〵)御 【橘中の仙: 大きな橘(たちばな)の実を割ったら、中で仙人が囲碁を楽しんでいたという『幽怪録(ゆうかいろく)』にある故事による「橘中之仙」、趣味を楽しむ人。】 贔屓の徳蔵より舞䑓(ぶたい)の評判(ひやうばん)日々に重(かさな)り忽(たちまち)チ出世をゑび藏 と改今団十ともてはやす生長(ひとゝなり)温和(おんくわ)柔順(にうじゆん)天性(てんせい)大物(たてもの)の気性 あり好(このん)で書画(しよぐわ)を翫(もてあそ)び又ためしなき若冠(じやくくわん)の坐領株(ざかしらかぶ)是(これ)をや 古今(ここん)特歩(とつぼ)といはん古拍莚(こはくえん)の再誕(さいたん)か成田(なりた)の不動の化身(けしん)かと 世こぞつて贔屓する人山をなす發句(ほつくの)おたのみに地紙(ぢがみ)うり も價を尊(たつと)み■■(ひとふてかき)【麁盡ヵ】の楊枝(やうじ)さしはお中老の尾上どの箱背(はこせ) にへ秘 蔵(そう)すればお局(つぼね)の岩藤さまは似㒵絵をみていたつら に心をうこかす部屋方者(へやがたもの)は寧(むしろ)一ツてうらに■(うゆる)【襖ヵ】ともかへ紋のかんざしをあつ らへ銅行燈(かなあんどう)の妄書(むだかき)は■(はな)【鼻の図】と■【三枡紋の図】とにとゞめたりお家の舞鶴(まいつる) はつき出しの銀煙管(ぎんきせる)にはりをもたせ新妓(しんこ)の煙包器(たばこばこ)に情(なさけ)の 薄(うす)色をいましむ浴衣(ゆかた)の色(いろ)に染安(そみやす)き歌妓(おとりこ)の細腰(さいよう)をまとひ 緋縮緬(ひちりめん)の腰帯となつてはお乳母(うば)の棚(たな)ツ尻(ちり)をかくす娘子の櫛(くし) に輝(かゞや)く金蒔画(きんまきゑ)の鶴は頼朝公(らいてうこう)もはなす事あたはず若(わか)後 家の帽子針(ぼうしはり)には費長房(ひてうぼう)も乗(のる)ことかたしその狂言といつ■【ぱヵ】 形(かたち)は切幕の内に有て一声(ひとこへ)響(ひゞ)く本舞薹しばらくやまぬ なりたやの若旦那 侠客(きほひ)の胴背(どうぜなか)に篠塚(しのつか)の像(かたち)を雕(ゑれ)ばたのみ 切たる片腕(かたうで)の猪(いの)熊入道も引立(ひつたて)の鯰坊主(なまずぼうず)に等(ひと)しく鯉(こい)の滝(たき) 昇(のぼり)は既(すで)に龍(りゆう)のごとく吟(ぎん)ずる声色(こわいろ)にきく人 雲(くも)を起(おこ)し嘯(うそぶ)ける 虎(とら)やの蒸籠(せいらう)あれば風(かぜ)を生(しやう)ずる団扇絵(うちはゑ)あやしの出格子(でかうし)へ呼(よび)い るゝあり田舎 同者(とうしや)の江戸見物はいづれ団十郎を先(さきに)して追込(おひこみ)に 見るお株の荒事には肝(きも)を弁當(べんたう)の焼飯(やきめし)とともに潰(つぶ)し案内(あない)者 が三升自慢に鼻の高き一枚絵を求て兄(せなあ)が守り袋に封(ふう)じ 息災(そくさい)延命一生をまめお祓(はらひ)と相店(あいたな)に住めば都(みやこ)も鄙(ひな)人も貴賤【淺ヵ】上 下おしなへて感(かん)ぜぬ者こそなかりけれしかるに去りし未の春祖 父の廿三回忌とて助六の初役を勤たりしがその鉢巻の色 しらず祖父の俤 目下(まのあたり)に見るがごとく再び開く花道のまへわたり 風精(ふぜい)はくらぶる詞なく誰もみのわのさへかへる忠臣蔵の狂言も打 つゞきて大當りなりしに未の夏のなかばよりおもはずも風の心地(こゝち)と打 伏ければ大江戸の贔屓連お姫さまとなく花賣 婆(ばゞ)となく貴賤(きせん) 老若(らうにやく)諸(もろ〳〵)の神や佛へ歩(あゆみ)をはこび何卒 快気(くわいき)なさしめ給へと祈る 心も源艸のせう〳〵ならでお百度に通(かよふ)も更(さら)にいとはじとて氣(き)を張(はり) 護符(ごふう)の利益(りやく)だになく〳〵哀(あはれ)を三ツ升や凡(およそ)氷(こほ)らぬ水(みづ)の筋(すぢ)流(ながれ)に 浮(うか)ぶうたかたの消(きへ)安さ申は是非(ぜひ)なけれあらゆる方の加持祈念(かぢきねん)名(めい) 医(ゐ)も術をつくせども天より給(たまは)る薬艸(やくさう)すら沙蘿雙樹(しやらそうじゆ)にとゞまり黄帝(くはうてい) の昇(しやう)天に黄龍(くはうりゆう)の鼻毛(はなげ)の抜(ぬけ)たるがごとく限りなき世(よ)に限りある命は 不 動(どう)の縄(なは)にも繋(つな)かれず降魔(がうま)の利釼(りけん)に病(やまふ)の根(ね)は断(たち)がたく貴(たふと)き 良剤(みくすり)の驗(しるし)もみつのあはれむへし皐月(さつき)の中の十あまり二【三ヵ】日の 暁(あかつき)を先(まづ)今生(こんぜう)は是限(これぎり)として命の大切定なき浮世の狂言 僅(わづか)に 廿二年の早替(はやがは)りをなして法(のり)の花道より西(にし)の楽屋(がくや)へ引キ道具とは 【降魔:(ごうま)とは、仏教においてマーラ(漢訳:天魔波旬、魔羅、天魔、悪魔)を降す(くだす)、または、マーラの攻撃を退けてマーラに勝つという意味をもつ。】 げに定業(ぜうごう)の役廻(やくまは)りとはいへども《割書:ナント|》皆様あんまり若ひじや厶(ござ)《割書:り》ま せぬかこは相圖(しらせ)の拍子木(ひやうしぎ)間遠たる欤 有異轉変(ういてんべん)の道 具立(ぐだて)ぞ と贔屓のひく手も今はたゆみ《割書:アヽ》つがもねへとりきみてもしば らく〳〵ととゞむることかなはずされば愁傷(かたみ)の泪(なんだ)は五月雨(さみだれ)の絶(たえ) 間(ま)なく市川の水(み)かさもまさりつべう覚へてなか〳〵三升にはから ずも欣求浄土(こんぐぜうど)の舞薹に至りて蓮(はちす)の座頭(ざがしら)となるとは厭離(ゑんり) 穢土子(ゑどつこ)の親玉おしいかな手向(たむけ)の唱名(せうめう)は現(げん)世のジヤ〳〵に異(こと)ならず 思ひきや鉦(ぜう)鋁(にやう)鉢(はち)のはやし町(まち)讀經(どきやう)のうしろをきつかけ に引導(いんだう)のせりふ廻(まは)しを聞(きか)んとはかゝりし程に御寺(みてら)に群(むらが)る参(さん)  詣(けい)の男女 大路(おほぢ)に満(みち)〳〵たる老若(らうにやく)は教主(きやうしゆ)世尊(せそん)跋大河(ばつたいが)の波(なみ) にきへたまひしもかくやとばかり可惜(おしむべし)嗟(あゝ)かあいのものやなとな きさけぶありさま目もあてられぬ風情(ふぜい)なりき      第二囘 さる程に市川三升は。夢(ゆめ)ともなく現ともなく。風 雅(か)でもなく洒 落(れ)でなく。しやう事なしの山坂を。十萬億土は《割書:チト》あやまるよしや 嶮(けは)しき劍山(つるぎのやま)は。畜獄(ちくせうどう)の馬ても越(こ)せど。越(こす)にこされぬ三途(さんつ)川。もし川止に あふ時は。通駕(とをしかご)にも埒明(らちあか)ずと。一生の智恵(ちゑ)を出して。彼(かの)替紋(かへもん)の 鶴にまたがり。何国(いつく)をあても半天(なかそら)え舞(まい)上るよと思ふ間に。忽ひとつヽ の島に至る。いかなる国かしら浪の。打よする音はどん〴〵として。から〳〵 と響(ひ)く。是なん和荘兵衛もまだ見ざる。哥(か)舞妓国といふ島 にて。大千世界の垣根(かきね)の外(そと)。陽(やう)気 盛(さかん)の別(へつ)世界也。其国の風土  を窺(うかゝ)ふに。漢土(から)にもあらず日本でなし。繁栄(はんゑい)余国にならふ 方なく。晋(しん)【秦ヵ】の始皇(しくはう)が聞(きい)たなら。必ず徐福にお薬をかけらる へき。長生(てうせい)不老(ふらう)の仙都也。まづ表州(ひやうじう)【「表」の左に「おもて」】といふ処の。人物の光景(ありさま)を 見るに。木綿(もめん)の羽織(はをり)あるひは革(かはの)羽織をきて。いさゝかも日本に かはらず。又 傍(かたへ)には黒の半襟(はんゑり)揃(ぞろひ)にて。上下ともにぶつかさね。晒 の手拭を肩(かた)に掛(かけ)たるあれば。腰(こし)に挟(はさみ)たる有り。股引をはきたる あるに素足(すあし)で裾(すそ)を馳折るもあり。尤 常(つね)は尾と足(あし)とへ半分つゝ 貝(かい)の口に結(むす)ふなど。とひ〳〵の新形(しんかた)新物(しんもの)。おの〳〵花美(くはひ)を争 ふ中にも。揃(そろ)ひの惣模様(そうもやう)は。痃癖(けんへき)の邊(あたり)に比 翟紋(よくもん)の大紋を染出し。 天窓(あたま)は「蓮(はす)がけ。」「《割書:チヨツキリ|》本田(ほんた)。」先《割書:キラ|》ちうして左りへ捻(ひね)り。其外(そのほか)平なで 角銀杏(かくいてう)。意氣(いき)も無意氣(ぶいき)もこきまぜて。磨(みが)くは額(ひたひ)と日和下駄(ひよりげた) 草履(ぞうり)の名にも冷食(ひやめし)をいわす。らうのすけかいも。煙管(きせる)の鳫(かん) といつて首(くび)を憚(はゞか)るは又おかしからずや。往さ来さの人をさし て。「合羽(かつは)」。「はおり。後(あと)の傘などゝ。大音声にさもとか〳〵しく呼はりて。 白眼(にらみ)つけて通(とをす)は往来(わうらい)を改むるにや。いまた㕝(こと)の子細(しさい)をしらず。 ゆきこふ人〳〵数多(あまた)なるが中にも。余国(よこく)の人とみれば彼(かの)女人 国の南風をしたふにひとしくはなしつたへに聞たる草履(そうり)を なほさぬばかりにて見物固辞すれどもさらにゆるさず 向(むかふ)の茶屋の楼上(にかゐ)にて。羅綾(らりやう)の袂(たもと)も引(ひ)かばなどか切(きれ)ざらんと。琴唄(ことうた)に 氣(氣)を付(つけ)らるゝとも。七尺(しちせき)の屏風(へいふう)なんぞ。二尺の藩籬(ませ)をも躍越(おどりこ)ゆる 事 能(あた)はじ調市(でつち)は帰(かへ)る㕝(こと)を 忘(わす)れ。折助(おりすけ)覗(のぞい)て毒言(はりこみ)をくらふなど。 十六文の紙札を握(にきつ)て馬の小便(せうへん)一杯(いつばい)二文のお茶にさるゝことおそるへし。三升 はつく〴〵と。此(この)様子(やうす)をうかゞひ見て。密(ひそか)に奇意(きゐ)の思ひをなす處(ところ)に。 はるか向(むかふ)の方(かた)より。箱燈灯(はこてうちん)。丸(まる)てうちん。万燈(まんどう)に燈(とも)し連(つれ)。あまたの人声 かまびすしく。中央(ちうはう)に乗物(のりもの)一挻(いつてう)をつらせて。羽織 袴(はかま)を着(き)たる者。何人(いくたり) となく。附(つき)そひ来りしが。またゝく内(うち)に。三升(さんじやう)が前に来(きたつ)て。三拜九拜(さんぱいきうはい)し て申すやう。君は只今御のり込(こみ)にて候や。我〳〵ども近松翁(ちかまつおう)の命(めい)を受(うけ)て。 是迠 御 迎(むかい)に参つて候。いざ〴〵御 乗物(のりもの)にめされ候へ。はやとく〳〵と大 㔟の。詞(ことば)に不審(ふしん)ははれねども。流石(さすが)の大丈夫(だいじやうぶ)。。少しも動(どう)ぜず。乗移(のりうつ) るに。あまたの同㔟 前後(ぜんご)を囲(かこ)み。拍子(ひやうし)を揃(そろ)へて手うちの連中。三升(みます) に鯉(こい)の瀧昇(たきのぼり)の手拭(てぬぐひ)にて。親方一つしめやせう。シヤン〳〵シヤンの。シヤン〳〵シヤン。 うち連(つれ)急(いそ)ぐ乗物の。内より傍(あたり)を見わたせば。軒並(のきならび)の丸てうちん 遠(とを)くつらなつて星(ほし)のごとく。月宮殿(げつきうでん)の日待(ひまち)かとあやまたる。風に 飜(ひるがへ)るのうれんの家名(いへな)は。おのづから見物を招(まね)くに似(に)たり。樓上(にかい)の 半格子(はんかうし)は七五三をつらねて。手(て)をつくしたる彫物(ほりもの)は。少し左(ひた)りも きく客の。甚五郎さんあれはな《割書:ア|》。あのおしやんす事はひのと。青(あを) 髭(ひげ)のある振袖(ふりそで)にも。いづれうはきの水浅黄(みづあさき)に。染(そま)るは花の兄分(あにぶん) こと。弟草(おとゝぐさ)との裾模様(すそもやう)。色香(いろか)も深き編笠(あみかさ)の。内や■からととがむれば。 ぞの字(じ)で返(かへ)す閨(ねや)の中(うち)。彼處(かしこ)に魂膽(こんたん)の枕拍子(まくらびやうし)あれば。此處(こゝ)に哀(あはれ) をとゞめしは。辛苦(しんく)に泪(なみだ)の濁(にごり)を添(そへ)て。じんくに心 躍(おど)れるあり。支離(しり)の 菩薩(ぼさつ)の千枚起請(せんまいきせう)には。傘(からかさ)一本の施主(せしゆ)にもつかず。弘法大師(こうぼうだいし) の教化(きやうけ)には。奉公大㕝(ほうこうだいじ)の主管(ばんとう)も。帳尻(てうじり)を損(そこな)ふ有り。字餘(じあま)りの 潮来(いたこ)は。無上(むしやう)に長(なが)くして。線香(せんかう)の短(みぢかき)を慮(おも)はず。文字(もじ)たぼ【「文字たぼ」左に傍線】の老婆(おふくろ)。 ぶら燈灯(てうちん)で贈(おく)れば。豊(とよ)むす【「豊むす」左に傍線】が老父(おやぢ)。三弦筥(さみせんばこ)をかたげ。長唄(ながうた)の 鄭聲(ていせい)。江戸 節(ふし)の雅楽(かかく)を■(みた)【乱ヵ】せは。土佐(とさ)外記(げき)永閑とひねるやつ己(うぬ) 獨(ひとり)江戸ツ子の如(ごと)し。茶飯(ちやめし)にたらぬ義大潜人(きだせんにん)は。一 座(ざ)大に睡(ねむ)氣を 生じ。聞人(きゝて)か上手の狂話(おとしはなし)に。しびれも京へ登(のぼ)れは。叭(あくび)は大和 巡(めぐ)り をやなさん。《割書:チヱイでリウ》での拳(けん)を拳として。色子の色にかへたがるは。お国出 の新五兵衛。能(よく)酒(さけ)呑(の)めどもやぼてんをはなれす。幇間(たいこもち)の鸚鵡(あふむ)。よく 物いへども声色(こはいろ)を。はなれぬ中しや《割書:ニ|》しよんかへと。一寸うしろをきつか けて。序《割書:ニ|》出来する障子(せうし)の影(かげ) 唇(くちひる)を動(うご)かせは。工夫を爭(あらそ)ふかざり物の。 花も物はや夕景色(ゆうけしき)。積(つみ)上る酒樽(さかたる)は一夜に生する山の如く。進上 若者中の書法は。燈灯(てうちん)屋の猩(せう)々(〳〵)翁(おう)。酔(すい)亀でみしらせたり。雲(くも)を つんさく篜(せい)籠(ろう)の上。霞(かすみ)の引幕(ひきまく)一張(ひとはり)は下戸(げこ)もたてたる幟(のほり)の染抜(そめぬき)。新(しん) 下り誰丈(たれぜう)《割書:え|》。ひゐき連(れん)中の文字と倶(とも)に。帳屋が筆意(ひつゐ)の堅炭俵(かたすみたはら)。門 口(くち)へ舁(かき)込は。明樽(あきたる)を出す若ひ者。裏襟(うらえり)揃(そろへ)の重着に。躾(しつけ)の絲(いと)の掛(かけ)はなし は此国のならひ也。年の内に春は来にけりひとゝせに。二度正月の壽 【鄭聲「中国春秋時代の、鄭の国の歌謡がみだらであったところから」みだらな俗曲。野卑な音楽。】 するは。彼(かの)周(しう)の代のまねびにや。神無月の神〳〵も。けふ出雲より 乘(のり)込を吉例の大晦日とするは。わが国 南部(なんふ)の私大に比ぶへき。掛(かけ)取 の燈灯(ちやうちん)は神 棚(だな)の十二燈に光を奪(うば)はれ寳盡(たからつくし)の帋(かみ)ひきはへたる傍(かたはら)。烟り の内なる料り番(ばん)のすかたは。明《割書:ケ|》けてくやしき鍋(なへ)の蓋 浦島(うらしま)か昔(むかし)に 似たり。窈窕(ようてう)たる息女(そくぢよ)。前垂(まへたれ)の出端(では)。おかみさん舞 臺皃(たいかほ)また婵姢(せんけん)た り。茲子(このこ)お客の肩にとりついて。那子(あのこ)二階へお茶をあげ申せはれ【手ヵ】 の帰る事 尤(もつとも)繁(しけ)し。《割書:アイ|》と云ふ返詞(へんし)を聞ゆへ引ずりまはして誰(たれ)そ 呼(よ)への倫言(りんけん)。先刻(せんこく)承知(せうち)。遅(おそ)いと疳(かん)■(しやく)【癪ヵ】也。稽者(けいしや)の草盧(そうろ)を訪(とむ)らふ こと三たび。先(まつ)商賣道具(しやうはいとうく)来る。されは座附の硯蓋(すゝりぶた)に。しゝたけ しそのみを用ひず慈姑(くわい)の色附。蓮根(れんこん)のうす切。既(すで)に酩酊(なまゑい)の 脊(せ)中に比翼(ひよく)紋となる頃 戦(せん)〻(〳〵)競(きやう)〻(〳〵)たるギヤマンの髙脚杯(こつふ)は。遠く 躬(み)退(しりそ)き。沈金彫(ちんきんほり)のふ■【不廻ヵ】は丼に浮(うか)んで。弘誓(くせい)の舟真如の月とす ましつなり。唄(うた)の三の糸(いと)ヒンと切れて衆人(しうじん)ヤンヤの声(こへ)。そのはな 【窈窕「ようてう」美しくたおやかなさま。山水・宮殿などの奥深いさま。】 【嬋娟・嬋妍「せんけん」顔や姿の美しくあでやかなさま。】 【倫言「りんけん」「礼記」緇衣から。「綸」は組み糸。天子の口から出るときは糸のように細い言葉が、下に達するときは組み糸のように太くなる意。天子の言葉。天皇の仰せごと。みことのり。】 はたしきに及んては煙管(きせる)の附拍子鳫首に手疵を負はせ 唇紅(くちべに)てした隈取は《割書:ギツクリ|》の見へ至て御器用なり杉箸散乱 して烟草盒(たはこぼん)壁際にひそめは盃盤(はいばん)狼藉(らうせき)殆(ほとんど)もてあまして お駕籠の横着終には御機嫌能ふ醒(さめ)ての後の御了簡 後(こう)悔一句 も出ず夕部に袖の梅を奢族も朝(あした)に豆花(きらず)の塩湯を喰(くら)ふなと唯 内と外との差別にてかくまで心もたがふ物かはげに繁栄の地なる かな。わや〳〵がや〳〵の人声。馬じや〳〵と東南(とうなん)へ去り頼む〳〵と 西北(せいほく)へ走(はし)るありさま。三 舛(じやう)もたゞあきれてのみ居たりける。兎角(とかく) して都の入口なる。大城門(おほきど)といふ處にいたれば其幅(そのはば)一《割書:ツ|》間《割書:ン》あまりなる 大 的(まと)に。五人 張(はり)十五 策(さく)を。三 増培(ぞうばい)なる大鳫股(おほかりまた)の矢を以て。射貫(いぬき) たる下に大(おほ)入としるしたるは。大入(たいにう)といふ者の射(ゐ)たるにや。但し は大なる矢にて。大なる的(まと)をいるといふ。こじつけのいはれなる欤。 明(あけ)六《割書:ツ|》時より相始。惣座中不残罷出。相勤申候の張紙は。この 【 豆花「きらず」切らず・雪花菜。 料理をするのに切る必要がないとの意。豆腐殻からが空からと通ずるのを嫌って言いかえる語という。豆腐のしぼりかす。おから。】 役所の定例(ぜうれい)としられたり。都(すべ)て。國人の板牌(かんばん)と称するは。 制札と覚しき物にて。文字の書法一面にいつたりとして。恰(あたか) も崑崙人(くろんぼう)の屎(はこ)したるを。暗闇(くらやみ)にて蹈附たるごとく。又 呉服(ごふく)や の賣上。医者(いしや)さまの生姜入(せうかいり)に似て。一字も讀かたし。文育 なる者には。別に喜怒哀楽(きどあいらく)の状(かたち)を盡て。善(せん)を賞(せう)じ。悪を 罸(ばつ)する政(まつりごと)は。正(たゞ)しくおしへ導けり。此役所を守護(かため)たる面〳〵 の衣類(いるい)を見るに。さのみ寒国にもあらされどもおひたゞし く綿いりたる羽織の。染色はさま〴〵あれども多くは丁 子(じ)茶。萠黄(もへき)色の類(たぐひ)なるが。手拭(てぬぐひ)のあらたなるを。八重十文字 或は空(そら)さまに引かぶりて。歌膝(うたひざ)に居並び。黒骨(くろぼね)のあふぎに 朱塗の紋所あるをひらきて。声うるはしくはり上て。〽️舞 臺〳〵。舞臺(ぶたい)やらうと呼ぶあれば。こなたには高き臺にの ぼりて。〽️なかよ〳〵〳〵などゝ一《割書:ツ|》の巻物を讀(よみ)て終(おは)れば。大勢立上りて 【崑崙「こんろん」中国古代に西方にあると想像された高山。書経の禹貢、爾雅じが・山海経せんがいきょうなどに見える。崑山。】 アリヤ〳〵〳〵〳〵〳〵と同音(どうおん)にはやしたつる。そのにきやかなる事 譬(たと)ふ るに物(もの)なし。此處より少しへだゝりたる片(かた)山里(やまざと)に。切(きり)まで〳〵 と啼(な)く鳥(とり)の住(すめ)るよし。彼(かの)太平記(たいへいき)にのせたる化鳥(けてう)は。いつまで 〳〵と鳴(なき)しと聞(きけ)るに。こはいかなる鳥ぞと里人に問(と)ひけるに。 此鳥にむかひて。先(まづ)今日(こんにち)は是切(これぎり)といへば。明日(みやうにち)は早ふ△(ござ)【厶】り舛(ます) おとしけりは跡(あと)へのこらつしやりませう。評(ひやう)ばんで〳〵〳〵 と人の物いふにことならずして。その後( のち)飛(とび)さるとかや。又この 国(くに)に名(な)も髙(たか)き福山(ふくやま)の高根(たかね)を見上(みあぐ)れば。四時もわかずおも白(しろ) たへにふりつもる。雪(ゆき)の名におふ淡路島(あわじしま)。かよふちろりの 中居(なかい)すら。幾夜(いくよ)ねづみの木戸(きど)の関守(せきもり)は。仕切塲(しきりば)の守(ま) 護(もり)きびしく。切落(きりおとし)の切手札(きつてふだ)往来(ゆきゝ)をあらため。客畄(きやくどめ)の 関門(くはんもん)はたと閉(とざし)て。賣切(うりきり)の威風(いふう)現金(げんきん)たり。追込(をひこみ)の里(さと)より畄(とめ) 塲村(ばむら)を横(よこ)に見て峩(が)〻(ゞ)たる桟敷(さんしき)が嶽(たけ)を望(のぞ)めば。毛氊(もうせん)の 虹(にじ)東西(とうざい)にひきわたし。太夫が岸。門格子の峯なる。後(うしろ)の 桟道(さんどう)を傳(つた)ひて。麓(ふもと)に下れば。鶉(うづら)なくなる内簾(うちみす)の岡新(をかしん) 格子(かうし)の左右より。花道の橋がゝりに出て。はるかに見る龍(りゆう) 耳山(じせん)。雲(くも)に蟠(わだか)まるがごとく。此山は往古(いにしへ)神代の頃(ころ)。新(しん)狂 言(げん) を《割書:チト|》爰(こゝ)で見(み)の尊(みこと)。諸事(しよじ)万事(ばんじ)吝(しわ?と)の風(かぜ)に。吹しづめたる処と て。一《割書:チ|》日二百 末社(まつしや)を勘定(かんぢやう)【勧請ヵ】し奉る。ひとたび山上へ登(のぼ)らん者(もの) はかならず神道(しんたう)の教(をしへ)を守りて。目(め)に諸(もろ〳〵)の狂言を見て。耳(みゝ)に 諸(もろ〳〵)の道念(せりふ)を聴(き)かず。鼻(はな)に諸(もろ〳〵)の献立(こんだて)を嗅知(かぎしつ)て。心に銭を費(ついや) す事を思はずとかや。絶頂(ぜつてう)の太鼓樓(たいころう)には。狂言づくしの文字 現然(げんぜん)とあらはる。是わが国山城の大の字火に似たり。山の 半覆(はんぷく)に一ツの池(いけ)あり。池水を《割書:チト|》かわかして見る時(とき)は。先(せん)の主(ぬし) 忽然(こつぜん)と出来りて。終(つひ)に引出(ひきいだ)さるゝ怖(おそろ)しき事也。是よりして 中の間川へながれ落(をつ)るに。上(のぼ)り下(くだ)りの引舟(ひきふね)の賑(にきは)ひ。商人(あきうど)あ またの賣声。淀(よど)舟のよどみなく。まんぢうよしか。茶(ちや)はよし か此 幕(まく)の出語(でがた)り淨瑠璃絵本番付(ぜうるりゑほんばんづけ)あふむ石(せき)よしかなどゝ。声 おもしろくあやどりたる中にも〽️《割書:アヽ|》弁當(べと)よしか〳〵《割書:ア》〽️《割書:アヽ|》おこ し松風饅頭(まつかぜまじゆ)よしかななどゝ。長短(てうたん)の開語(かいご)に嗚呼(あゝ)の口(くち)くせ またひと拍子ありておもしろし。本舞臺の都。下座門(げざもん)の 表(おもて)に羅漢臺(らかんだい)とよべる髙(たか)き臺(うてな)に登(のぼ)りて。国中を一覧する に。遠(とを)く切幕(きりまく)の湊(みなと)に来(きた)る大入舩は。土間(どま)の奥海(おくみ)を過(よぎ)り。 眼下(がんか)に見る引幕(ひきまく)の瀧(たき)は。三色の布(ぬの)をひくがごとし。滝壺(たきつぼ)の もとに。上(か)み下(しも)を着(き)たるばかりの像(ぞう)あり。あやしみ問(と)ふに。 近(ちか)き頃(ころ)篠塚(しのづか)浦(うら)右衛門なる者(もの)。頗(すこぶる)心願(しんぐはん)ありしが。直(たゞち)に大願成就(だいくわんじやうじゆ) 忝(かたじけ)ねへを得(え)て。此處に《割書:イヨ|》口上(こうじやう)大名人(だいめいじん)の像(ぞう)を刋(きざ)むといへり。 辨舌(べんぜつ)流(なが)るゝ事 懸河(けんが)も及ぶべからず載岸(きりきし)高ふは△(ござ)【厶】《割書:り》ますれ ども此所より東西〳〵へ漲(みなぎ)り。す■や水の〽️出(で)がある〳〵時にの 【「鸚鵡石」おうむ‐せき 歌舞伎の名せりふを書きぬいた書物。俳優の声色こわいろをまねたりするのに使う。】 ぞんでは。土人(どじん)堤(つゝみ)を切落(きりおとし)が渕(ふち)へおとし■■ゝ。此渕/火縄(ひなわ)蔓(かつら)生茂(おひしげ)りて。幾(いく) 半畳(はんでう)とも。底(そこ)の限(かぎ)りもしれざる魔(ま)所なりとて。おそるゝも理(ことは)りふるかな。異(い) 形(きやう)の鳥飛びあるく。みかたちのおそろしき事。頭(かしら)は蜜柑(みかん)九年坊の皮(かは)に 似て。尾(を)は紙を引さきたるが如し。目鼻(めはな)とおぼしき物もなくて。飛行自(ひぎやうじ) 在(ざい)の化鳥(けとう)なり。或時(あるとき)鳴呼(おこの)者。此化鳥を退治(たいぢ)すべきとて。青(あを)ッ切(きり)の勢(いきほ)ひ 猛(たけ)く。一《割書:ト》切十六/碗(わん)を喫(きつ)して。南無(なむ)大酒(たいしゆ)三舛(じやう)五合(ごんごう)と心に信(しん)じ。《割書:イヨ》金箱(かねはこ)大明 神さま〳〵〳〵ありがてへと申やす。とたからかに念じて。無二無三に渕底(ゑんてい)へおど り入しに。不思義(ふしぎ)や俄(にはか)に騒(さはが)しく。夥(おびたゝ)しき人声にて。罰(ばち)があるぞ。引込(ひつこみ)《割書:ヤア》がれ《割書:ヱ》尤 だぞ〳〵。《割書:ヤイ》あたまが高い早く/歩(ある)け(け)《割書:ヘ》。と口ゝに鳴(なり)わめくよと思間に。すさ まじき腕骨(うでつぽね)にて。宙(ちう)に引ずり引出されしが。危(あやう)くも命は助(たすかり)しとかや。其外 臺州(だいしう)本舞臺の都(みやこ)に。さま〴〵の名所古跡(めいしよこせき)。おもしろき雑説(ざうせつ)など。道すが ら物語(ものがた)ると聞(きゝ)て。まづ楽州(がくしう)へとぞ急(いそ)ぎける 俳優三階興附録巻之上終