コレクション1の翻刻テキスト

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救急撮要

救急撮要  一冊

        本
救急撮要    川 キ 2
        士   6
        富


救急撮要  一冊


川 キ 2
士   6



救急撮要

安政丁巳秋
救急
撮要
方 単
富士川游寄贈【朱印囲みによる寄贈者名】
櫻寧室蔵刻 

救急撮要方序
夫舎_二之通_一【邇ヵ】。而求_二之遐_一。
春_二【蓋ヵ】之易_一。而求_二之難_一。末【未ヵ】
_レ有_二能得者_一也。姑以_二吾
医之道_一言_レ之。前庭之
馬勃。可_三以止_二出血_一。後
圃之芋梗。可_三以治_二蜂
螫_一。竃中黄土之於_二嘔
吐_一。食塩煖湯之於_二霍
乱_一。豈非_二薬方之至近
旦【且ヵ】易者_一耶。而皆足_二以
救_レ急応_一レ卒。則何必求_二
上党之漢。当門之麝。
至遠且艱之物_一。然後

為_レ可乎。矧乃在_二海隅
山陬。荒遠窮僻之地_一。
一旦有_二暴病卒痾之
養_一。不_レ知_三薬物之在_二目
下_一。愴惶狼狽。拱_レ手待
_レ斃。最為_レ可_レ慨也。曽祖
考藍渓先生。宿有_レ憾_二
于斯_一。著有_二済急方一
書_一。祖考桂山先生。継
有_二救急選方之著_一。盖
済急。専便【𠊳】_二于僻遠乏
_レ医之地_一。而救急。兼資_二
於医家応急之用_一。其
為_二世之鴻益_一。匪_レ浅焉。

但済急。大巻厚冊。不
_レ便_二于提挈_一。而救急。復
有俗之人不_レ易_レ暁者。
人或病_レ之。隠士黙翁。
有_レ見_二于斯_一。撰_二成捄急
撮要方_一。其書一原_二本
済急救急二書_一。且多
取_二捷方之親験體試
者_一。裒為_二小冊子_一。分_レ門
類聚。務帰_二簡易_一。盖其
為_レ物。取_二之前庭後圃
之間_一。而其為_レ説。愚夫
愚婦可_二得而暁_一。於_レ是
乎。行者可_レ撃_二肘後_一。居【㞐】

者可_レ秘_二之枕中_一。其品
庶_二幾乎藍渓桂山二
先生之遺意_一歟。当_三其
来請_二予言_一也。書_レ此還
_レ之。
安政丁巳後五月江
戸丹波元佶棠邊識

   漬如鼓【「教」では】中書



     凡例
一 此(この)書(しよ)は。素人(しろうと)の急病(きふびやう)を救(すくひ)得(え)らるべき
 ことを旨(むね)としたるものなれば。行旅(たびぢ)の輿(かごの)
 中(うち)。または戍兵(さきもり)の在陣(ざいぢん)などに。これを懐(ふところ)
 にし。閑隙(いとま)あるときに熟読(じゆくどく)し。予(あらかじめ)これ
 を記得(そろえ)おくときには。自己(おのれ)の為(ため)のみ
 ならず。衆人(おほくのひと)の病(やまひ)あるときに。医師(いし)な
 しと雖(いへども)これを治(ぢ)することを得(え)せしめんが
  為(ため)に。薬物(くすり)も専(もつぱら)草方(やくみずゝな)にして実験(たしかなるしるし)を
  歴(へ)たるものゝ。且(かつ)修治(こしらへ)やすきものを
 択(えらび)て載(のせ)たるなり。故(ゆゑ)に従前(むかし)より世に
 伝るところの救急(きうきふ)の書の。徒(いたづら)に衆(あま)
 多の方を羅列(かきならべ)たるが。事(こと)あるときに
  臨(のぞみ)ては。素人(しろうと)の意(こゝろ)を以て適従(えらびとる)べきと
 ころを弁(わきまへ)がたき比(たがひ)にはあらざる也
一 急病(きふびやう)の外にも。宿疾(ぢびやう)の治方(ぢはう)。婦(ふ)人 小児(こども)
 の病(やまひ)にいたる迄(まで)も。素人(しろうと)の意得(こゝろえ)て裨益(たすけ)
 になるべきこと。はふかたこれを記載(かきのせ)たるは。
  済世(よをすくふ)の一助(たすけ)にもなれかしとおもへは。

 一 方(ぱふ)一 術(じゆつ)といへども。正据(よりどころ)なく。確実(たしか)
 ならざることは洩(もらし)たり。故(ゆえ)にこの編(へん)に
  挙(あげ)たる中(うち)には世(よ)には纔(わづか)に一 方(ぱふ)を執(とり)
 て。これを奇方妙薬(きはふめうやく)と称(となへ)。秘(ひ)して妄(みだり)に
  伝(つた)へざるものをも。尽(こと〴〵)く之(これ)を記(しるし)たり。
 故(ゆゑ)に此(この)編(へん)は。僅々(わづか)なる一小 冊子(さつし)なれども。
 よく之に従(したがひ)て。急卒(きふそつ)の病(やまひ)を療(れう)ずる
 ときには。世の伎(わざ)拙(つたな)く心 怯(おくれ)たる毉人(いじん)の。
  事(こと)あるときには。俗家(しろうと)と俱(とも)に狼狽周(うろたえあは)
  章(て)て。これを委任(まかせおき)がたき輩(やから)には。邈(はるか)に
  優(まさり)たる処置(とりさばき)を為得(なしう)べきなり。又 毉人(いじん)
 といへども。朝夕(あさゆふ)にこれを読(よみ)て。自得(じとく)
 することあるにいたらば。人を救(すくふ)ことも又
  多(おほ)かるべきは。全編(ぜんぺん)悉(こと〴〵く)皆(みな)実造実詣(じつなるすぢみち)に
 して。猥雑無益(らちもなきむやく)の事(こと)はたえて記(しるす)こと
 なきを以てなり。
一先師 桂(けい)山先生の迺公(ちゝぎみ)藍渓(らんけい)先生
 台(たい)命を奉(ほう)じて。広恵済急方(くわうけいさいきふはふ)を撰(えらば)れ
 し時。先師 専(もつぱ)ら其事を幹(つかさどり)。そののち

  再(ふたゝび)その遺漏(もれたる)を拾集(ひろひあつめ)て。救急撰方(きうきふせんぱう)を
  著(あらは)されてより。毉俗(いぞく)救急の書。此(こゝ)に於
 全く備(そなはり)たり。今 此(この)編(へん)は彼(かの)二書に載(のせ)たる
 ことも。又 遺漏(もれ)たることをも。俗間に伝た
 る奇(き)方。自己(おのれ)の発明(はつめい)の試験(こゝろみ)をも。並(ならべ)
  挙(あげ)たれども。もとこれ巻懐(くわいちう)の一小 冊(さつ)子
 なれば。詳(つまびらか)にその同異 出典(でどころ)等(など)を記(しるす)ま
 でには至(いたら)ざるなり。看者(みるひと)これを恕(おも)へ。
一済急方に薬物挨穴(くすりきうけつ)等(など)の図(づ)を出し
 て。丁寧(ていねい)にこれを諭(さとさ)れたり。此(この)編(へん)の説(せつ)
 のそれに及べるものあるは。採(とり)て参考(まじへかんがふ)
 べし此 編(へん)は。以呂波(いろは)を以て部(ぶ)を分つと
 いへども。再(ふたゝび)此(こゝ)に広恵済急方の目
 次に效(なら)ひ。たゞ諸物入九竅(しよぶつきうきやうにいる)を。卒暴諸(そつばうしよ)
  證(しよう)の中に摂(おさめ)。緩慢諸證(くわんまんしよしよう)と並(ならべ)挙(あげ)。
  瘡瘍(さうよう)一門を別(べつ)にしたるのみなる
 は。すべて急卒(きふそつ)の捜索(さぐりもとむる)に。彼(かの)書と
  参攷(まじへかんがふ)るに便(たより)宜(よ)からしめんが為(ため)也
    卒倒諸證(そつたうしよしよう)にはかにたふるゝやまひ

憤怒(いかり)て気(き)を失(うしな)ふ 一丁【白抜き文字】 三丁【白抜き文字】
肩脊卒痺(はやうちかた) 三丁【白抜き文字】
疔毒(ちやうどく)にて暴(にはか)に死(しに)たる如くなる 六丁【白抜き文字】
                十一丁【白抜き文字】
卒(そつ)中風 十三丁【白抜き文字】
雷震死(らいにうたれたる) 二十八丁【白抜き文字】
打撲(うちみ)にて気絶(きぜつ)したる 三十二丁【白抜き文字】
餓(うえ)て卒(にはか)に倒死(たふれしに)たる 三十二丁【白抜き文字】
井戸 穴庫(あなぐら)の蟄気(こもりたるき)に中(あたり)て卒(にはか)に死(しに)たる 丗二丁【白抜き文字】
癲(てん)  癇(かん) 五十一丁【白抜き文字】
入浴後頭眩昏倒(ゆあがりにめくらむきてたふるゝ) 五十七丁【白抜き文字】
  卒暴諸證(そつばうしよしよう) にはかなるやまひ
虫(むし)【齲蝺ヵ】 歯(ば) 痛(いたみ) 三丁【白抜き文字】
衂(はな) 血(ぢ) 三丁【白抜き文字】
腹痛諸證(はらいたみしよしよう) 四丁【白抜き文字】
吐(はき)の止(やみ)かぬる 六丁【白抜き文字】
歯齦(はぐき)うきたる 六丁【白抜き文字】
鼻卒(はなにはか)に塞(ふさか)りたる 六丁【白抜き文字】
蛇(へび)の誤(あやまつ)て陰戸(いんもん)に入たる 八丁【白抜き文字】
小蛇を呑(のみ)て悶乱(もだへくるしむ) 八丁【白抜き文字】

雀(とり) 目(め) 九丁【白抜き文字】
毒害(どくがい)せられたる 九丁【白抜き文字】
頓死(とんし) にはかに死たる 六丁【白抜き文字】
血(ち)を吐(はき)たる 九丁【白抜き文字】
茶(ちや)を喫(のみ)て睡(ね)かぬる 十六丁【白抜き文字】
脚気(かくけ)衝心(しようしん) 十九丁【白抜き文字】
卒中風(そつちうふう) 廿二丁【白抜き文字】
走馬牙疳(さうばげかん) 廿二丁【白抜き文字】
真頭痛(しんづつう) 廿五丁【白抜き文字】
咽喉腫痛(のんどはれいたむ) 卅四丁【白抜き文字】
咽(のど)へ粢(もち)などの噎(つかへ)たる 卅六丁【白抜き文字】 六十五丁【白抜き文字】
上衝(のぼせ)つよく昏冒(うつとりとなり)気(き)を失(うしな)ひたる 卅七丁【白抜き文字】
霍乱(くわくらん) 卅七丁【白抜き文字】
煙(けむり)に咽(むせ)たる 四十七丁【白抜き文字】
注車船(ふねかごのゑひ) 四十九丁【白抜き文字】
暑(あつさ)に中(あたり)たる 五十二丁【白抜き文字】
酒(さけ)に酔(ゑひ)て昏冒(きをうしなひ)たる及 灰(はい)直しの酒に中たる
                   五十三丁【白抜き文字】
眼(め)に塵(ちり)砂(すな)の入たる 五十七丁【白抜き文字】
耳(みゝ)へ蟲(むし)の入たる 五十九丁【白抜き文字】

水(みづ)に落(おち)たる時の心得 五十七丁【白抜き文字】
耳(みゝ)卒(にはか)に腫(はれ)痛(いたむ) 五十九丁【白抜き文字】
食傷(しよくしやう) 六十丁【白抜き文字】 呃逆(しやくり) 六十丁【白抜き文字】
跌仆(つまづき)て舌(した)を咬(かみ)たる 六十丁【白抜き文字】
焼酒(せうちう)を呑(のみ)て解(さめ)がたき 六十六丁【白抜き文字】
傷寒時(しようかんじ)疫感冒(えきひきかぜ)の心得 六十二丁【白抜き文字】
   緩慢諸證(くわんまんしよしよう) ゆるやかにわづらふやまひ
黄胖(わうはん)俗(そく)に阪下病(さかしたやまひ)といふもの 十五丁【白抜き文字】
淋(りん)  病(びやう) 十六丁【白抜き文字】 痢(り)  病 十六丁【白抜き文字】
脚(かく)  気(け) 十九丁【白抜き文字】 頭(づ)  痛(つう) 廿四丁【白抜き文字】
遺(ねせう)  尿(べん) 二十六丁【白抜き文字】 上衝(のぼせ)つよき 卅六丁【白抜き文字】
毛(け)  蝨(じらみ) 四十七丁【白抜き文字】 毛ぎれ 四十八丁【白抜き文字】
腰(こし)  痛(いたみ) 五十一丁【白抜き文字】 灸(きう)  報(いぼひ) 五十六丁【白抜き文字】
寸白(すばく)の病 六十六丁【白抜き文字】
   外傷(ぐわいしやう)の類(るゐ) けがのたぐひ
犬(いぬ)に咬(かま)れたる 一丁【白抜き文字】
鍼(はり)を刺(さし)て出がたき 五丁【白抜き文字】
鍼(はり)釘(くぎ)をのみたる 五丁【白抜き文字】 四十五丁【白抜き文字】
蜂(はち)にさゝれたる 七丁【白抜き文字】

蛇(へび)に咬(かま)れたる 蛇に繞(まか)れたる 八丁【白抜き文字】
竹木刺(とげ)をたてたる 八丁【白抜き文字】
毒蟲(どくむし)にさゝれたる 九丁【白抜き文字】
肉刺(まめ) 十八丁【白抜き文字】 撲眼(つきめ)廿六丁【白抜き文字】
猫(ねこ)に咬れたる 廿六丁【白抜き文字】
鼠(ねづみ)にかまれたる 廿六丁【白抜き文字】
蜈蚣(むかで)に咬れたる 卅一丁【白抜き文字】
咽(のんど)へ芒刺(のぎ)のたちたる 卅六丁【白抜き文字】
打撲(うちみ)閃挫(くじき) 四十四丁【白抜き文字】
蜘蛛(くも)にかまれたる 四十四丁【白抜き文字】
湯火傷(やけど) 四十五丁【白抜き文字】
壁宮(いもり)に咬れたる 四十六丁【白抜き文字】
蝮蛇(まむし)にかまれたる 四十六丁【白抜き文字】
ふみぬき 四十九丁【白抜き文字】
少陽魚(あかゑひ)の刺(はり)をさしたる 五十三丁【白抜き文字】
金刃傷(きりきず) 五十四丁【白抜き文字】
打撲(うちみ)にて眼珠(めのたま)の突(とび)出たる 五十七丁【白抜き文字】
跌仆(つまづき)て舌(した)をやぶりたる 六十丁【白抜き文字】
舌(した)を咬断(かみきり)たる 六十一丁【白抜き文字】

舌より血を出す 六十一丁【白抜き文字】
人にかまれたる 六十五丁【白抜き文字】
擦(すり) 傷(きず) 六十七丁【白抜き文字】
   横死(わうし)の類 やまひにあらでしぬる
雷震死(らいにうたれたる) 廿八丁【白抜き文字】
打撲(うちみ)にて気絶(きぜつ)したる 卅二丁【白抜き文字】
縊死(くびれしに)たる 四十一丁【白抜き文字】
溺死(おぼれしに)たる 五十八丁【白抜き文字】
凍死(こゞえしに)たる及 凍(こゝえ)て起(おこ)る諸證(しよしよう) 五十丁【白抜き文字】
   諸物(しよぶつ)中毒(ちうどく) もろ〳〵のどくに
              あたりたる
芋(いも)の毒に中たる 二丁【白抜き文字】
糒(ほしい)を食(くらひ)て腹(はら)はりたる 八丁【白抜き文字】
鯛鰹魚(かつを)の毒に中たる 二十丁【白抜き文字】
蟹(かに)の毒に中たる 二十丁【白抜き文字】
蟹と柿(かき)とを合食(あはせくらひ)て毒に中たる 廿一丁【白抜き文字】
礜石(よせき)の毒に中たる 廿二丁【白抜き文字】
煙草(たばこ)に酔(ゑひ)たる 廿二丁【白抜き文字】
煙草のけぶりに噎(むせ)たる 廿二丁【白抜き文字】
章魚(たこ)にあたりたる 廿二丁【白抜き文字】

竹筍(たけのこ)に中たる 廿四丁【白抜き文字】
蕎麦(そば)に中たる 廿四丁【白抜き文字】
蚰蜒(げぢ〳〵)と烟草(たばこ)の脂(やに)と合(あはせ)て大 毒(どく)となるを解(げす)こと
                四十七丁【白抜き文字】
河豚(ふぐ)魚の毒に中たる 四十八丁【白抜き文字】
阿片(あへん)の毒に中たる 五十二丁【白抜き文字】
菌(きのこ)の毒に中たる 五十六丁【白抜き文字】
砒霜(ひさう)の毒に中たる 六十五丁【白抜き文字】
   婦人(ふじん)諸證(しよしよう) をんなのやまひ
産後(さんご)に冷(ひや)水を喫(のみ)て昏眩(めくるめき)て死(しぬ)るを防(ふせ)く
                 卅七丁【白抜き文字】
崩(なが) 漏(ち) 廿七丁【白抜き文字】 帯下(こしけ) 五十丁【白抜き文字】
   小児(せうに)急證(きふしよう) こどもの
            にはかやまひ
馬(ば) 脾(ひ) 風(ふう) 六丁【白抜き文字】 卅六丁【白抜き文字】
撮(つぼ) 口(くち) 七丁【白抜き文字】
乳(ち)を吐(はき)青(あお)き大便を下す 十五丁【白抜き文字】
   瘡瘍(さうよう)の類 さま〴〵のできもの
陰癬(いんきん)の妙灸 二丁【白抜き文字】
陰処(いんしよ)湿痒(しめりかゆさ) 二丁【白抜き文字】
陰門(いんもん)を擦傷(すりやぶり)たる 三丁【白抜き文字】
疔瘡(ちやうさう) 十一丁【白抜き文字】

瘭疽(へうそ) 七丁【白抜き文字】 痔疾(ぢしつ) 十四丁【白抜き文字】
雁瘡(がんがさ) 廿一丁【白抜き文字】 便毒(べんどく) 廿一丁【白抜き文字】
下疳瘡(げかんさう) 四十八丁【白抜き文字】 重舌(こじた) 四十九丁【白抜き文字】
舌に瘡(できもの)を生じたる 六十一丁【白抜き文字】 癜風(なまづ) 六十三丁【白抜き文字】
肥前瘡(ひぜんさう) 六十五丁【白抜き文字】
 これその大 概(がい)なり。この撰述(せんじゆつ)は。
 素(もと)より急卒(にはか)の用に供(そな)んがため
 にはあれど。もし危急(ききふ)の時に臨(のぞみ)て。
 卒(にはか)にこれを捜索(さぐりもとめ)んとせば。おそ
 らくは諺(ことはざ)にいはゆる。賊(ぞく)をとらへて
 索(なは)を綯(なふ)の失(あやまち)なきことあたはず。
 ゆゑに平居無事(へいぜいぶじ)の時(とき)に終篇(のこらず)を
 よくよみて。あらかじめこれを
 記得(こゝろえ)て。もつて病苦(やまひ)をすくふ
 ものゝ多からんことを庶幾(ねがふ)なり
  安政四丁巳歳夏閏五月
        蘿藦舡人識

救急撮要方
い【白抜き文字】憤怒(いかる)【左ルビ:はらだつ】こと甚(はなはだ)しくて。卒(にはか)に失気(ひきつけ)死(しに)たる
がごとくになることあり。これ血気(けつき)上迫(のぼり)て然(しかる)こと
なり。後(のち)のら【らの右に長四角】の部(ぶ)に雷震死(らいしんし)とある。かみ
なりにうたれて死(しに)たるを。救(すくふ)ところの條(くだり)に
出したる。肩(かた)を捏(ひね)る活(くわつ)の術(じゆつ)にて。多(おほ)くは甦(よみがへ)
るなり。息出(いきいで)て後(のち)に肩(かた)なほ強(こはり)て。上衝(のぼせ)
つよくば。肩(かた)を刺(さし)角子(すいふくべ)【吸瓢】を施(かけ)て血(ち)を多(おほ)く
とりたるがよし。或(あるひ)はの【のの右に長四角】の部(ぶ)上衝(のぼせ)の條(くだり)に
出したる。消石大円(せうせきだいゑん)などを用て。軽(かろ)く下
したるも又よし▲犬に咬(かま)れて病(やまひ)となる。
その因(もと)をこゝろうれば。これを治(ぢ)するとも知ら
るゝなれば。まづそのことをいふべし。すべて人と
異類(とりけたもの)とは天稟(うまれつき)同じからずして。大に
かわりたる所あり。然(しかる)に犬の咬(かみ)たる創口(きずぐち)
に歯(は)の涎唾(よだれ)がのこり。これが人の血液(ちしる)に
混(こん)じはびこりて。つひには精神(こゝろ)までもみ
だれ。犬のまねして吼(ほえ)などするやうになり
て死(し)ぬるなり。ゆゑに此よだれをよくとり

さへすれば。後(のち)の患(うれひ)はなきことなれば。犬に
咬(かま)れたらば。はやく血(ち)を搾(しぼり)いだしてのち。
冷(ひや)水にてよくあらひて。血(ち)が止(とま)りたらば。犬
の歯(は)のあたりたるところをよくみれば。
底(そこ)のところに。白(しろ)き葛(くず)ねりのごときものが
肉(にく)につきてある。これよだれのかたまりたる也。
それをとくとかきいだしてのち。また〳〵血
をしぼりて。ふたゞび水にてあらへば。どくは
とれて。後(のち)の患(うれひ)をまぬかるゝなり。されど是(これ)
はかまれてすぐにかくせねば。毒(どく)ののこること
あるおそれあれば。かまれて程(ほど)すぎたるは。
そのあとへ発火(ほくち)【火口】をおほく塡(つけ)て火をつく
るか。鉄砲(てつぱう)の火薬(かやく)をしたゝかにつけてもや
すかして。毒(どく)をたゝするか。又はふくろもぐ
さを七八 壮(さう)もすゆるか。または人の屎異(くそ)を
貼(つけ)て。その上より灸(きう)するは。ます〳〵よし。
もし時(とき)をすぎて。きず口いえかゝりた
るは。そのきずぐちをすこしきりて。血(ち)
をいだしてのち。巴豆(はづ)か。葛上亭長(まめはんめう)の

細末(こ)を油(あぶら)に蝋(らふ)すこし加(くはへ)たるにてねりて
つくるかして。毒(どく)を外へさそひいだすべし。
もし日をへて後(のち)ならば。蕃木龞(まちん)子二匁。
大 黄(わう)一匁を一貼とし。水一合入て五 勺(しやく)に
せんじ。二三貼も用ゆるか。又は細末(さいまつ)してさゆ
にて用れば。周身(そうみ)に麻痺(しびれ)を発(はつ)してのち。
下利(くだり)て治するなり。犬のまねするまでに
なりたらば。井戸ばたへつれゆき。髁(はだか)にして
からだのふるへ。歯(は)のねのあはぬ程(ほど)に成迄(なるまで)
に。水を百四五十つりもかけべし。爰(こゝ)にいたり
ては斑猫(はんめう)を用る方あれど。大かたは水にて
効(こう)あるなり。▲芋(いも)をくらひて毒(どく)にあたり
たるには。生姜(しやうが)のしぼり汁(しる)を砂糖湯(さたうゆ)に
辛味(からみ)にたへかぬるほどさしてのむべし
▲陰癬(いんきんだむし)あるもの旅行(りよくう)して。痒(かゆみ)つのり。堪(たへ)か
ぬることあり。此 病(やまひ)は。脂肪(あぶらかは)のうちに毒あり
て。侵潘(ひろがり)ゆくものにて。みだりなる貼薬(つけぐすり)な
どして。毒気(どくき)内攻(ないこう)しさま〴〵の病に変(へん)
じ。死(し)にいたることもまゝ多ければ。その心得(こゝろえ)

あるべきことなり。されど。旅行又は在陣(ざいぢん)中
などにては。さしあたり困艱(なんぎ)することなれば。
後(のち)の害(がい)なくして。これを治(ぢ)すべき灸(きう)を
つたへん。それは脊骨(せぼね)の骶(とまり)を。ゆびさきにて
さぐりてみれば。下のかたとがりてうごく骨(ほね)
あり。俗(ぞく)にかめのをといふ所なり。此ほねを
はづして。その下のすこしくぼみたる所へ。
灸(きう)七 壮(さう)づゝ。七日ほどすれば。かゆみたちま
ちやみて。こらへよくなり。日々こゝに灸(きう)し
ておこたらざれば。貼薬(つけぐすり)内服剤(ないふく)を用るに
およばず。後(のち)の害(がい)なくいゆること妙(めう)なり。この
灸(きう)は。痔疾(じしつ)の腫痛(はれいたみ)。痔漏(じろう)の愈かぬるもの
にも。薬(くすり)にまさる効(こう)あるものあり。また泄(く)
瀉(だり)の止らぬるもの。疝気(せんき)。すばく。又は労證(らうしよう)
などにも。灼(すへ)て効(こう)をえたるものおほければ。
おろそかに思ふべきことにはあらず▲陰所(いんしよ)し
めりかゆきには。野(の)または路旁(みちばた)に生(はえ)たる蕺(どく)
菜(だみ)《割書:ほしたるは薬|店にもあり》を採(とり)。水に煎(せん)じてあらふて
よし。車前葉(おんばこ)または菊(きく)の茎葉(くきは)を用ひ

たるもよし。または蒲黄(がまのほのこ)。あるひは火薬(たまぐすり)に
用る硫黄花(いわうくわ)《割書:薬舗に|もあり》の類をふりかけたる
もよし▲陰所(いんしよ)に蝨(しらみ)を生(しやう)じたるには俗後(ゆあがり)
に軽粉(けいふん)をふりかけてよし▲陰門(いんもん)を擦破(すりやぶり)
たるには。烏賊魚骨(いかのかふ)又は鶏卵(たまご)殻を細末(さいまつ)し
て。鶏子白(たまごのしろみ)にてねりあはせつけてよし
は【白抜き文字】肩脊卒痺(はやうちかた)は旁(そば)にありあふ茶盌(ちやわん)など
をうちこはし。肩(かた)のはりつめたる所をかき
やぶりて。血(ち)をおほく出すべし。ひまどりて。
血(ち)の出ぬやうになれば。そのまゝ死(し)ぬることの
あれば。速(すみやか)なるをよしとす。さてくみたての水
を一合ばかりをのますべし。やゝおちつきた
る時(とき)。下剤(くだしぐすり)を用てくたしてよし。此 證(しよう)は。かた
はり気(き)ふさぐかと思ふうち。にはかにお
こりてそのまゝに死ぬることあれば。すみ
やかにかくすれば救(すくふ)ことをうるなり▲歯(は)の
痛(いたみ)は。さま〴〵別(かはり)あれど。詳(つまびらか)なるは。こゝには
記(しる)さず。齲歯痛(むしばのいたみ)には。萊菔(だいこん)のしぼり汁。
又は蔊菜(わさび)をおろして。その汁を痛所へ

しぼりかくるもよし。丁子をせんじて
ふくむもよし。薤白(にんにく)をすりて頬(ほゝ)へぬれば。
細疱(ふきで)を発(はつ)して痛(いたみ)ゆるやかになるな
り。痛つよきには。まじりなき銀十匁ば
かりを。うすくのばして。水に煎(せん)じて
ふくむべし。呑(のむ)べからず。または龍脳(りうなう)の細(さい)
末(まつ)を醋(す)にかきたてゝふくむもよし。是(これ)は
のみてもくるしからず。それらにても
いたみやみかぬるには。龍脳(りうのう)四厘(よりん)阿片(あへん)
二 厘(りん)を酒(さけ)にてねりあはせ齲歯(むしば)の上に
はさむべし。これはとけたらばはき出すべし
のむべからず。または磠砂(とうしや)の塊(かたまり)五分ばかりを
挿(はさみ)たるもよし▲衂血(はなち)は気血有余(ちのおほき)ものは。
にはかにとむるはよろしからず。されど
途中(とちう)などにて。多(おほ)く出て止(やみ?)がたくば。冷(ひや)
水を鼻(はな)より吸(すい)入て。口へ吐(はき)出すことを
たび〳〵すべし。駅里(しゆく)近(ぢか)くならば。薬舗(きぐすりや)
にて枯礬(やきみやうばん)三四匁ばかりを買(かふ)て厳(きつき)醋(す)五六
勺へかきまぜ。鼻(はな)の中へ竹の管(くだ)にてふき

こますべし。又は枯礬(みやうばん)に醋(す)すこし入て。
綿(わた)もしくは撒綿絲(ほくしもめん)。あるひは揉(もみ)たる紙(かみ)に
浸(ひたし)て。鼻孔(はなのあな)へさしこむべし。枯礬(やきみやうばん)なければ。生(しやう)
明礬(みやうばん)を細末(さいまつ)して用てよし。檞茸(はゝそだけ)。馬勃(ほとりたけ)
の類(るゐ)は。金創(きりきず)一切の血を止るによきものなれば。
旅行(りよこう)陣(ぢん)中などには。かならず蓄置(たくはへおく)べき物(もの)
なれば。もしあらばよきほどにさきて。これに
醋(す)の枯礬(みやうばん)を浸(ひたし)て。鼻孔へ挿(さしこむ)こと。もつともよ
し。頭上へは冷(ひや)水をしきりに拊(うち)かけ。両脚(りやうあし)は
湯(ゆ)にて温(あたゝめ)たるも又よし▲腹痛(はらいたみ)。とき〴〵お
こり。とき〴〵やみ。口中 唾(つば)たまり。面色(めんしよく)青(あお)く
黄(き)ばみ。脣(くちびる)紅(あか)きにすぎ。食にむかへば。にはか
にむねわろくなる。これらの證(しよう)あるもの。
多(おほ)くは蚘蟲(くわいちう)なり。かゝる證(しやう)あるものゝ。旅行(りよこう)
などにてにはかに腹(はら)おほひに痛(いたみ)て。たへ
がたきことあらば。甘草四匁ばかりをせんじ。
それに甘草の細末二匁ばかり。好(よき)蜂蜜(はちみつ)を
加(くは)へ。かきたてゝ服(のま)すべし。これは蟲(むし)を駆(かる)た
めにはあらず。しばらく蟲(むし)を鎮(しづむ)るまでの

ことなり。平常(へいぜい)蚘蟲(くわいちう)の患(うれひ)あるもの。もし旅(りよ)
行(こう)陣屋(ぢんや)づめなどせんには。朝倉山椒(あさくらさんせう)を細末(さいまつ)
し。丸 薬(やく)にして。日々多く用るか。又は塩(しほ)を
加へて炒(いり)たるを。朝夕(あさゆふ)にくらふかすべし。よく
蚘蟲(くわいちう)を治(をさむ)るものなり。榧(かや)の実(み)は。蚘蟲(くわいちう)絛蟲(さなだむし)
を治する効(こう)あるものなり。七日が間一切の
食をたちて。これをのみくらへば。蟲(むし)は悉(こと〴〵)く
死(しに)て下るなり。鷓胡菜湯(しやこさいとう)は。蟲(むし)を駆(かる)もの
なり。その方(はう)は鷓胡菜(しやこさい)一匁六分。苦棟根皮(くれんこんび)
八分。大 黄(わう)。蒲黄(ほわう)おの〳〵三分。これ一服のめ
かたなり。波斯鶴蝨(せめんしいな)の効(こう)は。鷓胡菜(しやこさい)にやゝ
まされど。近来は偽雑(にせもの)多(おほ)ければ。真(まこと)なる物
を撰(えらみ)て用れば頗(すこぶる)効(こう)あるものなり。また腹
痛の。ときにおこりときにやむものに。蟲(むし)
の痛(いたみ)にはあらで。大 便(べん)の腸中(はらはたのうち)にとゞこほり
てより。痛をなすものあり。これは下して治
するなり。もし又 腰脚冷(こしあしひへ)。腹(はら)とき〴〵痛(いたみ)て
下利(くだる)ものは。冷腹(ひえばら)なり。此 證(しやう)旅中にておこら
ば。乾姜(かんきゆう)の細末(こ)に砂糖を等分(とうぶん)にあはせ

朝夕(あさゆふ)におほく用てよし。胡椒(こせう)の末(こ)も又
効(しるし)なり。それにて効なきは。附子剤(ぶしざい)を用ゆる
也。又 腹(はら)にはかにいたみて。何のゆゑとも知(し)
れがたきには。小茴香(せうういきやう)一匁六分。甘草(かんざう)。木香(もくかう)お
の〳〵六分を合せ。《割書:いづれの薬|店にもあり》生姜(しやうが)二片入て。
さら〳〵とせんじ用べし▲鍼(はり)を肉(にく)にさし。
折(をれ)て出ざるには。衛矛(にしきゞ)の実(み)を二匁ばかり
煎(せん)じてのむべし。松葉(まつば)の黒焼(くろやき)は。よく肉刺(とげ)
を出すものなれど。あまりに手近(てぢか)き品(しな)ゆ
ゑ。人はこれをあやしめども。実(たしか)に験(こゝろみ)て。そ
の効(こう)を知たるものはうべなふなり。また箭鏃(やじり)
ぬきの方とて。征古名将(むかしのめいしやう)の秘蔵(ひさう)し給ひし
ものあり。その方は。蟷螂(たうらう)和名「いぼじり」又
「かまきり」関東(かんとう)にて「かまぎつてう」と云
蟲(むし)を三ツとり。生(いき)ながら紙帒(かみのふくろ)に別々(べつ〳〵)に入
て乾(ほし)ころし。蝸牛(かたつぶり)一ツ。皮(かは)をさり。牛(うし)の蠅(はい)三
ツ。これも陰干(かげぼし)にして。おの〳〵細末(さいまつ)にして。
用るとき飯糊(めしのり)に油(あぶら)をすこし入てねり。矢(や)
の箆(の)のふるく折(をれ)こみて出がたききずの

上へ塗(ぬり)おけば。かならず出る。一方に。蟷螂(たうらう)一ツ
に。巴豆(はづ)半箇(はんぶん)入て。ねりあはせて用る。これ
もまたよし。前の衛矛(にしきゞ)の実(み)と。松葉霜(まつばのくろやき)
は。一切のとげぬきに用るなり。蟷螂(たうらう)は鉄(てつ)
を吸所(すふところ)の効(こう)あるなり。蘇鉄葉(そてつのは)を煎(せん)じて
服(もちふ)れば。鍼(はり)をさしたるものに効(こう)ありと云(いふ)
も。鉄鍼(てつのはり)に効(こう)あるものなるべし▲鍼(はり)をあ
やまつて呑(のみ)たるが。咽(のんど)に入て出かたきに。癩(ひき)
蝦蟇(がへる)の頭(かしら)をきりすて。倒(さかしま)にして血(ち)をしぼ
り出したるを。一 盃(ぱい)ばかり咽(のど)へそろ〳〵と。た
らしこめば。やゝしばらくありて。鍼(はり)軟(やはらか)に成
て出るなり▲吐(はき)の止(やみ)かぬるには。土めのよ
き地(ところ)ならば。その地(ち)を一尺四方ばかりほり
て。新汲水(くみたてのみづ)をいれてかきたて。しばらく
おきてそのうはずみを汲(くみ)とりわかして
湯(ゆ)となし。生姜(しやうが)のしぼり汁十四五 滴(たれ)さし
て用べし。これを土漿水(どしやうすい)といふ。土にすな
などまじり。土のはだよからぬところならば。
竃中黄土(さうちうわうど)といふて。ふるきかまどの下に

真赤にやけたる土を。薬舗(きぐすりや)に伏龍肝(ふくりようかん)
とよぶ。この土の細末を水にかきたてたる
上清(うはずみ)をとり。煎(せん)じて用るも又よし。これに
も生姜(しやうが)の搾汁(しぼりしる)を入る。諸病(しよびやう)ともに。吐の
止りかぬるものに用て効あるなり。この
水にて半夏一味を煎(せん)じもちひたるは。
ます〳〵よし。▲歯齦(はぐき)うきて。たべものに
なやむには。鹿角霜(ろくかくのくろやき)《割書:薬店に|あり》をしきりに
ぬりつけてよし。又は五倍子(ふし)の末(こ)に。炭(すみ)の
末を等分にあはせ。塩(しほ)を少し加(くはへ)てぬる
もよし。また無花果(いちゞく)を煎(せん)じてふくみ
たる跡(あと)へ。これらの薬をつけてます〳〵よし
▲蜂(はち)に螫(さゝ)れたるは。生(なま)の芋梗(いもがら)をきりたる
を束(つかね)て。つよく擦(こする)ときは。いたみ忽(たちまち)いゆる也。
生(なま)の芋梗(いもがら)なきときは。ほしたるをしめして
もちふべし。生芋(なまいも)も又代用すべし。また
はまづその刺(はり)をぬき。蝋燭(らうそく)に火をつけて。蝋(なが)
涙をたらしこむもよし。又小便にてあら
ひてのち。歯垢(はくそ)をつけたるもよし▲鼻(はな)俄(にはか)

にふさがりてきかずば。管(くだ)にて龍能(りうのう)の細末(こ)
を吹こむべし。又は細辛(さいしん)。皀筴(さうきやう)の細末(こ)。もし
くは舌交草(くさめぐさ)。木藜蘆(はなひりぐさ)。または爪蒂(くわてい)の末を
吹入べし。それらの類(るゐ)も得(え)がたくば。紙條(こより)を
ふかくさし込て嚏(くさめ)をさすべし▲馬脾風(はびふう)と
いふは。小児にある病(やまひ)なり。次のの【のの右に長四角】の部(ぶ)咽痛(のんどいたみ)の
條(くだり)に記たるをみるへしに【には白抜き文字】暴(にはか)に死て。なにの
ゆゑとも知(し)られざることあり。疔毒(ちやうどく)による
ものあり。後のち【ちの右に長四角】の字の部(ところ)にいふべし。卒(にはか)
にものいふことならず。声(こゑ)出さるやうになりた
れど。精神(こゝろもち)にかはりたることなきは。萊菔(だいこん)と
生姜(しやうが)のしぼり汁を等分(とうぶん)にあはせ少し
づゝしきりに呑(のみ)。気を慎(しづ)め。息(いき)をかぞへ
て。臍(ほそ)の下へとゞくやうにして。しばらく坐て
居れば。かならずいゆるなり。されどこの
證(しよう)おこりたるものは。あとの養(よう)生に意(こゝろ)を
注(もちひ)ざれば。卒厥(そつちうぶう)などの発(はつ)すること有もの
なれば。つゝしむべしほ【ほは白抜き文字】樶口(ほつきむし)は。初生小児(うまれおちのこ)
の病(やまひ)にて。そのはじめは。しきりに啼(なき)て

止(やま)ず。漸(しだい)に声(こゑ)出(いで)ず気息(いきづかひ)促(せはし)くなり。やがて
口を撮(つぐみ)てひらかず。ゆゑに「つぼくち」ともよ
ぶ。急卒(にはか)なる大病(たいびやう)にて。とかくするうち
に。手足 冷(ひえ)て死ぬる也。早く心づきて。口を
ひらきて。歯齦(はぐき)の内外(うちそと)をみるべし。小さきこと
粟粒(あはつぶ)のごとく。丸く赤きこと酸醤(ほうづき)の如(ごと)き血(ち)
疱(ぶくれ)が。いくつも発(でき)てある。それを爪(つめ)又は鍼(はり)
にて破(やぶり)て血をいだし。硼砂(はうしや)の細末五分に
極製朱(ごくせいしゆ)か辰砂(しんしや)二分。磠砂(どうしや)一分ばかりをあ
はせ。筆(ふで)の先にてつけ。はやく紫円(しゑん)を
多くのませて下すべし。薬店(きぐすりや)にて。
大なる紫円(しゑん)を買(かひ)。うちくだき用たる
が。口内(くちのうち)咽頭(のんど)へつき。はれあがりて。乳(ち)を吸(すふ)こと
ならずして死(しに)たる小児もあれば小児(こども)には
かならず小さきこと芥子粒(けしつぶ)のごとき物(もの)を
もとめて。臍風(へそはれ)撮口(つぼくち)などには。一 次(ど)に五十 粒(りう)
程(ほど)づゝも。咽(のんど)へつまみこみ。湯をそゝぎいる
れば。よくのむものなり。わきてこの撮口(つぼくち)
などには。一日夜に芥子(けし)の大きなるを二三

百粒ものませて下さねば。危急(あやうきところ)を救(すく)
ふことあたはず。よくこゝろうべし。煎薬(せんやく)には一 味(み)
の甘草湯(かんざうとう)を用てよしへ【へは白抜き文字】瘭疽代指(へうそたいし)と
て。手(て)の指(ゆび)のかはる〴〵膿(うみ)て。痛(いたみ)つよくなや
むものあり。最初(さいしよ)その痛(いたみ)の軽(かろ)きものは。
金銀花(きんぎんくわ)。小茴香(せうういきやう)等分(とうぶん)にしたるを以て。
よく熨温(むしあたゝ)めて後に。胡麻油(ごまのあぶら)に蝋(らう)を入
たるにて片脳(へんなう)をねりたるを。つけてよし。
もし其重(そのおも)きものに至りては。それらのく
すりにては治しがたし。いかにとなれば。この
病の甚しきは。毒気増長(どくきぞうちやう)して。命を失(うしな)ふ
にいたる。容易(ようい)ならぬことなるを以て。最(さい)
初(しよ)の痛(いたみ)の軽(かろ)きと重(おもき)とによりて。もし痛(いたみ)
堪(たへ)がたく。惣身(そうみ)に熱(ねつ)あるものは。早(はや)く良(りやう)
毉(い)を撰(えらみ)てこれを委任(ゆだぬ)べきことなれど。其(その)
初には。軽(かろき)重(おもき)ともに先(まづ)此(こゝ)にいふ治法(ぢはふ)を
用てよきことなれば。記(しる)して示(しめす)ものなり
▲蛇(へび)に咬(かま)れたるには。創口(きつぐち)の血(ち)をしぼり
出して烟草(たばこ)の脂(やに)を塗(ぬり)つくべし。蛇(へび)に

咬(かま)れて。目眩(めくるめき)。熱(ねつ)出(いで)て悩(なや)むには。烟草(たばこ)の脂(やに)
に。明礬(みやうばん)の細末(こ)を合(あは)せ。丸じてのますべし。
一方に。明礬(みゃうばん)四匁。甘草(かんざう)二匁を細末して用
る。これも又 試(こころむ)べし。田家(いなか)などには。蛇(へび)の誤(あやまつ)て
女の陰戸(まへ)へ入て悩(なやむ)ことありときけり。若(もし)さる
時(とき)には。みだりに引出さんとすべからず。かれが
鱗(うろこ)さかしまにかゝりて出(いで)がたければ。かへつて
あし。もしさる時(とき)には。手(て)にて尾(を)をかたくに
ぎり。小刀にてもさしたるまゝにて。早(はや)く烟草(たばこ)
の脂(やに)を。その刺(さ)たる所(ところ)へしたゝかに塗(ぬり)つくべし。
蛇(へび)死(し)ぬれば。おのづから出る也。蛇(へび)の煙草(たばこ)の脂(やに)
を怖(おそる)ること甚(はなはだ)しく。わづかに芥子(けし)ばかりを口(くち)へ
入ても。たちまち悶苦(もだへくるし)みて死(し)ぬるときけば。
尾(を)をさきて。蜀椒(さんせう)を入よといふにはまさるべし。
又 誤(あやまつ)て小蛇を吞(のみ)て悶乱(もんらん)して。死(しな)んとせしもの
に。籖柿(くしがき)を煎(せん)じて服(のま)せたりしかば。速(すみやか)に治(ぢ)
したるよし。この物も又 蛇(へび)の怖(おそる)ることしられたり。
霜柿(ころがき)にても同 効(こう)也。これらにもたばこの
脂(やに)を用てます〳〵よろしかるべし▲蛇(へび)に繞(まか)

れたらば。早(やは)く人をして小便をしかけさ
すれば。たちまちはなるゝといへり。是(これ)
にも烟草(たばこ)のやに。又は烟草灰(ふきがら)をはませた
るもよろしかるべし▲糒(ほしいひ)/道明寺(だうみやうじ)などを。乾(ほし)
たるまゝを多(おほ)くくらひ。腹(はら)のうちにてふへ。
腹(はら)はりて悩(なや)むには。醤油(しやうゆ)を服(のむ)べしと【とは白抜き文字】竹木刺(とげ)
には。衛茅子(にしきゞのみ)【矛】。松葉焼存性(まつばのくろやき)などを用てよし。
一方に。松葉(まつば)と。鳳仙花(ほうせんくわ)の茎(くき)/葉(は)/子(み)とも。等(とう)
分(ぶん)に。焼(やき)たるを細末(さいまつ)して用ふれば。鍼竹木刺(はりとげ)
魚骨哽(うをのとげ)を治(ぢ)すといへり。これも又用ふべし。
また魚骨鯁(うをのとげ)には。飴糖(ぶつきりあめ)を粉団(だんご)ほどに丸じ
て呑(のむ)べし。又は。磠砂(どうしや)の末(こ)を舌(した)の上へのせて。
解(とくる)をまちて嚥下(のみくだ)すもよし。又 檑盆箒(さゝら)の竹(たけ)
の折(をれ)たるが。味醬汁(みそしる)などへ入たるを。誤(あやまつ)て呑(のみ)
たる後(のち)に。腹痛(はらいた)むことあり。これにも竹木刺(とげ)の薬(くすり)
を内服(もちひ)てよし。▲雀目(とりめ)は。眼球(めのたま)の膜(ふくろ)へ。水気(みづけ)の。と
どこほりたる也。これはすべて後(のち)の水腫(すゐしゆ)の治法(ちはふ)
をこゝろえて治すれば。速(すみやか)に癒(いゆる)もの也。唐(から)の
蒼朮(さうじゆつ)の佳品(よきしな)なくば。佐渡蒼朮(さどさうじゆつ)一 味(み)を細末して

用べし。さし薬には。鱓膽(うなぎのい)を用てよし。膽(い)は
鱓(うなき)の腸(はた)のうちに至(いたつ)て小さきふくろありて。中
に苦(にが)き水あり。これをとり鍼(はり)にてさし。膽汁(たんじう)を
しぼり出し。それに水をいさゝかくはへて
さすべし。又 鱓膽(うなぎのい)を内服(ないふく)するもよし。大暑(たいしよ)
のころ終日(ひめもす)船(ふね)にありてその夕よりにはか
に雀目(とりめ)になることあり。これ水より蒸(むし)たつ
る水気が。眼(め)を射(い)て。膜中(めのうち)へ侵(おかし)入たる也。おど
ろくべからず。この病(やまひ)は。すべて小便の通しさへ
多くなれば。速(すみやか)にいゆるもの也▲毒蟲(どくむし)にさゝ
れて。いかなる蟲(むし)ともわきがたきは。まづその
血(ち)をしぼり出して。あとを水にてよくあ
らひたるのちに。歯垢(はくそ)をつくるか。又は燈(とう)しん
または発燭(つけぎ)の油(あぶら)つきたるに火(ひ)をつけて。油
をたらしこむべし。蝋燭涙(らうそくのながれ)をたらしこみたる
もよし。鶏冠雄黄(けいかんいうわう)の細末(こ)をつけたるも又
よし▲毒害(どくがい)せられたりと覚(さと)らば。速(すみやか)に
油(あぶら)をのむべし。胡麻(ごま)の油。菜子(なたねの)油。荏(ゑの)油。何(なに)に
ても拘(かゝは)る所にあらず。砒霜(ひさう)。礜石(よせき)。斑猫(はんめう)。いか

なる毒(どく)なりとも。疾(はや)くこれを一二合も用れば。
よくその毒(どく)を抱摂(ひつつゝむ)ことは。歒(てき)を縛(しばり)くゝりたる
がごとく。決(けつ)して害(がい)をなさしめず。故(ゆゑ)にこれをよく
記得(こゝろう)れば。己(おのれ)が身(み)の禍(わざはひ)をまぬがれ。人を救(すくふ)こと
もまたあるべきなり。近来(きんらい)和蘭毉学(おらんたいがく)世(よ)に
行(おこな)はれてより。未熟(みじゆく)の庸工(へたいしや)ともが。妄(みだり)に阿片(あへん)。
曼陀羅花(まんだらげ)葉(えふ)。蕃木鼈子(ばんもくべつし)などの麻剤(まざい)など
を誤(あやまり)用て。人を損(そこなふ)こともまた多し。それらの類(るい)
は。それ〳〵に毒(どく)を解(げ)する物はあれど。速(すみやか)に
油を用れば。死ぬるまでにはいたらぬなり。
世に甘草(かんざう)よく諸薬(しよやく)の毒(どく)を解(げ)すといへど。
毒(どく)の至(いたつ)て軽(かろ)きものにはさもあれど。劇(はげし)き
物には効(しるし)なし。また人乳(ちゝ)および無花果(いちゞくのみ)の生(しぼり)
汁(しる)よく一切の毒(どく)を解(げ)すといへば。軽物(かろきもの)には用
てよし▲頓死(とんし)は。前の卒(にはか)に死(しに)たる條(くだり)にてみ
るべしち【ちは白抜き文字】血(ち)を吐(はき)たるには。さま〴〵のわかちあ
り。吐(はき)たる血の色。黯黒(すゝぐろく)たちまち凝結(こりかたまり)て切(とりの)■(きも)【䘓ヵ】
の如(こと)くになるもの。これは胃府(ゐぶくろ)とて。飲食(たべもの)を
受納(うけいる)る嚢(ふくろ)より。上溢(あふれ)て出るものなれは。飯(めし)

粒(つぶ)または粘稠(ねばり)たる凝飲(りういんのかたまり)などを混(こん)じてある
ものなり。これは治(ぢ)しやすし。色赤(いろあか)くして。泡沫立(あはだち)
たる血(ち)は。肺蔵(はいざう)とて。気息(いき)の出入して。生命(いのち)を
保(たもつ)ところの嚢(ふくろ)の破(やぶれ)たるより出るものなれば。
少しといへども。治(ぢ)しやすからず。またこの
肺蔵(はいのざう)より出る吐血(とけつ)も肺蔵(はいのざう)の中に留潴(たまり)たる
ものが出るときには。凝結(こゝり)て黯紫色(すゝけいろ)になりて
出れば。疎脱(そりやく)にみては。胃府(ゐぶくろ)より出たるものか
とおもはるれど。これには線状(いとすぢ)の如(ごと)きものが
まじりてあれば。混(こん)ずるものにあらず。この
二道(ふたとほり)の吐血(とけつ)に。さま〴〵の起因(おこるもと)はあれど。胃府(ゐぶくろ)
より出たる吐血ならば。まづふたゝび嘔気(むかひけ)の
おこらぬやうにして。みだりに泥滞(なづみ)やすき
薬(くすり)はもちふべからす。羇旅(たびさき)などにて。用べ
き薬(くすり)もなくば。前のと【との右に長四角】の部(ところ)にいだせる吐(はき)
を止る土漿水(としやうすい)。竃心土水(さうしんどすい)などを用ひ。または
赤石脂(しやくせきし)の末などを熱湯(あつきゆ)にかきたてゝ。用ひ
などして。吐気おちつきたらば。三 黄湯(なうとう)な
どを用て下したるがよし。三黄湯は唐(から)の

大 黄(わう)一匁二分。黄連(わうれん)。唐 黄芩(わうこん)各六分を一 貼(てふ)
とし。沸(に)たちたらそのまゝ火(ひ)よりおろし。
滓(かす)をこして用べし。又は大 黄(わう)□匁二分。桂枝(けいし)。桃(たう)
仁(にん)。芒消(ばうせう)各(おの〳〵)六分。甘草(かんざう)二分。五 味(み)合せて三匁
二分を一 貼(てふ)とし。生姜(しやうが)を多く加て煎(せん)じ
もちふ。これを桃核承気湯(たうかくじようきとう)といふ。治法(ぢはふ)は
さま〴〵あれど。羇旅(たびがけ)などにては。これらに
て事 足(たり)ぬべし。この吐血は。多くは酒客(さけのみ)に
あれば。たとひ治(ぢ)し得(え)ても。酒は決(けつ)して呑(のむ)
べからず。再発(さいほつ)しては。死ぬるもの多ければ
なり。又 肺臓(はいのざう)より出たる吐血も。はじめは
まづ土漿水(どしやうすい)。または新汲水(くみたてのみづ)なとを用るが
よけれど。再大に吐(はく)ときは。にはかに死(し)ぬる
ものあれば。旅行などにて用べきくすり
もなくば。焼塩(やきしほ)を細末(こ)にして新汲水(くみたてのみづ)に
て用べし。焼塩なくば。常(つね)の塩を炒(いり)たるを
末(こ)にして用るがよし。又は坩(かはらけ)をうちくだ
きたるを十匁ばかり。水にて煎じたる汁
に。枯礬(やきみやうばん)の細末(こ)二三匁に砂糖(さたう)を入てかき

まぜ。冷(ひや)して用べし。あるひは。麒麟血(きりんけつ)。一匁や
き明礬(みやうばん)二匁を末(こ)にして。砂糖(さたう)をよきほど
に加て。新汲水(くみたてのみづ)にて用るは。もつともよし。
それより後(のち)の手(て)あてに。二 途(とほり)のわかちあり。
広東人参(かんとうにんじん)三四匁を一 貼(ぷく)とし濃煎(こくせん)じたるに。
童子(こども)の小便を二三 勺(しやく)づゝ入て。つゞけてのま
すること。三 黄湯(なうとう)に。硝石(えんせう)。または芒消(ばうせう)を入て
用ること。竹葉石 膏(かう)湯。麦(ばく)門冬湯などを
もちふるなどの差別(しやべつ)なり。これを詳(つまびらか)に記(しるし)
たりとも。素人(しらうと)には領解(がてん)しがたきこと多けれ
ば。くはしくはいはず。たゞ沙生地黄(すないりぢわう)と云(いふ)て。
なまなる地黄の汁をとりて用るは。いづれ
の證(しやう)にもよろしければ。若(もし)あらば早(はや)く用べし
▲疔瘡(ちやうさう)。発(でき)んとして発(でき)ず。そのまゝにはかに
死(しぬ)るものあり。それを卒(そつ)中風などゝいふて
其侭(そのまゝ)にして検(たゞす)こともなきは。嘆(なげか)はしきこと
なれば。その事を記(しるし)て衆人(おほくのひと)に示(しめす)べし。疔(ちやう)
瘡(さう)の最初(さいしよ)は。わづかに粟粒(あはつぶ)の如(ごと)く。至(いたつ)て
ちいさくして。たゞ内にふかき物にて。さして

痛(いたみ)もなければ。その人も心づかず。それが
ふと物に觸(ふれ)てたちまちに痛をおぼゆ
るか。又はかゆしとて。柧破(かきやぶり)てより。大に
いたみを発(はつ)するもあり。この疔瘡(ちやうさう)の初(しよ)
発(ほつ)は。小さけれど。よくみれば。そのあたりに
凝結(しこり)つよく。或(あるひ)はその一部(ひとところ)のみ不仁(しびれ)て。お
ぼへなきか。あるひは。寒熱(かんねつ)はげしく。傷(しやう)
寒(かん)かとうたがはるゝもあり。又は胸(むね)腹(はら)に
動悸(どうき)つよく。鬱冐(きをふさぎ)。眩運(めまひ)などあるか。さま
〴〵の證(しやう)おこりて。他病(ほかのやまひ)にまぎれやすく。
それ迄(まで)もならぬうちに。気(き)を失(うしな)ひて。
死(しに)たるがごとくみゆるもあれば。よくこゝろ
えて検(たゞす)べし。すべて此 瘡(できもの)は頭面(かほ)。口吻(くちわき)耳(みゝ)
鼻(はな)手(て)足(あし)の関節(ふし〴〵)などのうちにて。肉薄(にくうす)
く。やゝ窊(くぼめ)なる所に発(でき)て。皮表(おもて)へ張出(はりだ)す
力なきゆゑに内攻(ないこう)すること多ければ。捷(て)
疾(ばや)にこれを誘発(さそひいだす)ことを専(せん)一とすへし。
瘡(できもの)の所を刺(さし)て。まづ血(ち)をとるべきなれど。そ
れもなしがたくば。蛭(ひる)を二三十とりて。瘡(できもの)の

中央(まんなか)と思ふ所へかはる〳〵つけて。血(ち)を吸(すは)せ。
したゝかに血を吸(すい)をはりたらば「まめはんめう」
の葛上亭長(かつしやうていちやう)といふものゝ細末(こ)を。《割書:いづれの薬|店にも有て》
《割書:これを芫菁(げんせい)といへど。芫菁(げんせい)は同類異種(どうるゐいしゆ)にて「まめは|んめう」は。葛上亭長なれば。このことを心えてもとむべし》
胡麻油(ごまのあぶら)に白蝋(はくらう)をあはせたるものに。いろの
真黒(まつくろ)になるほど入てねり。その跡(あと)へぬり
つくべし。もしそのものなくば。巴豆(はづ)を四五 粒(りう)
研(すり)たるに。油をすこし加て。つくへし。これに
て毒(どく)を誘(さそひ)出すなり。さて瘡(できもの)のまはりへは。
代赭石(たいしやせき)の細末(こ)を醋(す)に糊(のり)をいさゝかくはへて。
煉(ねり)たるを瘡より一寸ばかりもよけて塗(ぬり)
まはすべし。これにて毒(どく)を外へちらさじ
とて。かくはすること也。此(この)證(しよう)の最初(さいしよ)。悪寒(さむけ)つ
よく。脉沈(みやくしづん)で微(かすか)に力なくば。麻黄(まわう)附子(ふし)細(さい)
辛湯(しんとう)といふ方を用て。その汗を発(はつ)すべし。
其方は。唐(から)の麻黄(まわう)。細辛(さいしん)。各(おの〳〵)一匁五分。唐(から)の
附子(ぶし)一匁を一 貼(てふ)とし。水一合五勺入て六勺に
せんじ。とりかぶりて汗をとる。薬(くすり)は一時 余(あまり)
もすごしたらば又用べし。唐附子なき

ときは。白川附子。又は烏頭(うづ)を代(かへ)用てよし。
稀粥(うすきかゆ)か。なにぞあつき物をくひて。身(み)あたゝ
まり。汗(あせ)出るやうにするなり。もし脉沈(みやくしづ)まず
して。熱(ねつ)のかたかちたらば。磠砂(どうしや)を五分ばか
りもとめて。厳醋(つよきす)の中へ入て。それに熱湯(あつきゆ)
を多くさしたるを用て。汗をとるがよし。
疔毒(ちやうどく)を誘発(さそひいだ)して。根(ね)を抜(ぬく)に。外台秘要(げだいひよう)に
は斑蝥(はんめう)を貼(つく)ることをいへり。斑蝥(はんめう)も葛上亭(かつしやうてい)
長(ちやう)と其功用は同うして。やゝまされる物
なれど多(おほ)く有(ある)ものならねば。葛上亭長(かつしやうていちやう)
を用てよし。これは根(ね)の出る迄(まで)は貼(つけ)おくなり。
これをつけかゆるとき。痛(いたみ)にたへがたく
なりたらば。いゆるにちかしと思ふべし。その
外(ほか)に内服剤(のみぐすり)貼薬(つけぐすり)も。さま〴〵あれど。
初発(しよほつ)の内攻(ないこう)せんとする危急(あやうき)所を救(すく)ふ
べきことをのみしめすなり。又疔毒の赤き
血絲(いとすぢ)を引を。紅絲疔(こうしちやう)といふ。手に生じ
たるは。胸(むね)にいたり面(おもて)脣(くちびる)などに生じたる
は。降(さがり)て咽喉(のんど)にいたる。その胸(むね)に至(いた)り喉(のんど)に

いたるものは。嘔逆(むかひけ)し悶乱(もたへ)て死(し)にいたる。
怖(おそろ)しき病(やまひ)也。故(ゆゑ)にこの血絲(ちすぢ)発(でき)たる物は。速
其 絲(すぢ)の延(のび)ゆくかたを。さきのかた二三分
計を残して。絲(すぢ)のうへより。深さ三分計
も刺(さし)て血(ち)を搾(しほり)とるべし。服薬(ふくやく)貼薬(つけぐすり)などは。
上にいふが如し。又疔瘡に鍼(はり)したる跡へは。
蝸牛(かたつぶり)を殻(から)ともに搗(つき)て貼(つく)べしともいへり
▲中風(ちうふう)。いにしへは痱(ひ)といひ。痱は一 方(ぱう)の疾(やまひ)と云(いふ)
て。右か左か一方が。麻木不遂(しびれふきゝ)になる病也。
にはかにおく【「こ」ヵ】るやうなれどかならず其 幾(きざし)有。
その幾(きざし)は。自身(じしん)に心得て考(かんがふ)れば知らるゝ
ものなれば。旅行(りふこう)在陣(ざいぢん)などには。あらかしめ
其 覚悟(かくご)有べきことなり。その幾のあらま
しをいはば。とかく居動自由(たちゐじゆう)ならず。手先
ふるへ。文字をかゝんとすれば。筆つまづき。
指(ゆび)しびれて。物をとりおとすことまゝあり。
舌(した)をり〳〵強(こはり)て。言語艱渋(ものいひにくゝ)。飯粒(めしつぶ)口より洩(もれ)
いで。又はものわすれしやすく。万事(ばんじ)に退(たい)
屈(くつ)し。下剤を用ても。大便通じがたきか。

又は小便 頻数(しげく)なり。または小便心付ば。
いさゝも堪(こらへ)がたく。亦(また)は思はず洩(もら)すことあり。
かゝる證候(しようこう)のうちが。二 證(しよう)も三 證(しよう)も発(おこる)こと
あらば。この病の幾(きざし)にはあらぬかと心づけて。
飲食(たべもの)を節(ほど)よく減(へら)して。酒をかたく禁(きん)じ。
房慾(ばうよく)をたちて。つとめて身體(しんたい)を運動(うごか)し
て。一切に心を労(らう)することは省(はぶき)て。なるたけこと
をすくなくして。養生(ようじやう)を専(もつぱら)にすべし。項(うなじ)
より尾骶骨(かめのを)にいたるまで。脊椎(せぼね)の両旁(りようほう)椎(せ)
骨(ぼね)につきたる所の陥(くぼり)なる。左右相去こと
曲尺(かねさし)にて一寸四五分なる所を。項(うなじ)より日毎
左右二ケ所づゝ灼(すえ)さがれば。尾骶骨(かめのを)の上に
至るまで。凡三十日ばかりにてをはる。俗
にこれを楷子灸(はしごぎう)といふ。これらの灸を。く
りかへし日ごとに灼(すゆ)るか。又は大椎骨(たいずいこつ)の
四方の陥(くぼり)なるところ。七。九。十一。腰眼(ゐのめ)。腰(こし)の
八髎(はちりやう)。臍(ほぞ)の両 旁(わき)の天 枢(すう)。または脇(わき)の章門(しやうもん)
などをたび〳〵すゑて。大麦(むぎ)赤小豆など
を専(もつぱら)に食ひて。膏梁油膩(うまきものあぶらけ)の品を禁(きん)じ

餌食(くすりぐひ)には。蔊菜(わさび)。白芥子(からし)。生姜(しやうが)。辣茄(とうがらし)。蜀(さん)
椒(せう)。葱白(ねぎ)。韮(にら)。薤白(にんにく)。などの類(るゐ)を用べし。
古人(こじん)この病を陶器(せともの)に劈痕(ひび)のいりたるに
たとへ。もし裂破(われ)ては。これを接続(つぎあはせ)ても。芽(われ)
蔑(め)は素(もと)に復(ふく)しがたきがごとく。一度(ひとたび)発(はつ)
したるは。よく治(ぢ)し得(え)ても。長寿(ちやうじゆ)する
ものなきゆゑに。幾(きさし)あらば。よくつゝしみて
発(おこら)ぬやうにすべきこと也。此病の起因(もと)は
さま〴〵にして。治法(ぢはふ)も大に差別(しやべつ)ありて。
附子(ぶし)。人参(にんじん)に宜(よろしき)ものも。大 黄(わう)。芒硝(ばうせう)の類(るゐ)
を用て治すべきものも。その他(ほか)の薬物(くすり)
をもちひて効(こう)ある物もありて。一途(ひとすぢ)には
いひがたければ。此(こゝ)には記(しる)さゞる也▲痔疾(ぢしつ)
あるもの。旅行(りよこう)して。疾(やまひ)おこり艱(なやむ)ことまゝ
あれば。かねてかろき下剤(げざい)などを日ごと
に用て。大便の燥結(かたく)ならぬやうにして。
胡麻(こま)の油一合に。白蝋(はくらう)。夏(なつ)は四十匁。冬は廿
五匁をくはへ。火に融(とか)して後(のち)。白手龍脳(しろでりうのう)
もしくは片脳(へんのう)二十匁を相和(ねりあはせ)て。腫(はれ)たる

所へぬれば。速(すみやか)にいゆるなり。もし腫痛(はれいたみ)て
堪(たへ)がたくば。い【いの右に長四角】の部(ぶ)陰癬(いんきんたむし)の條(ところ)にいでたる。
尾髎骨(かめのを)の灸(きう)をすべし。一 次(ど)にて痛(いたみ)たち
まち癒(いゆ)ること妙(めう)也。此(この)證(しよう)は。罨熨剤(むしぐすり)または
妄意(みだり)なる貼薬(つけぐすり)などをして速(すみやか)にいや
さんとして。真(まこと)の治法(ぢはふ)に従(したが)ふことなければ。
遂(つひ)に内攻(ないこう)して。変(へん)じて眼病(がんびやう)となるか。耳(つん)
聾(ぼ)となるか。癥疝気(しゆくせんき)とも。痱(ちうぶう)。脚痺(かくけ)
ともなり。または労瘵不治(らうさいふぢ)の證(しよう)とも
なり死にいたるゝものもまゝあれば。かね
てよりそのこゝろえあるべきこと也。また
痔疾(じしつ)の血(ち)がをり〳〵洩出(もれいで)たるものが。と
まりて。出ぬやうになり。それより肛門腫(こうもんはれ)
痛(いたみ)。脱肛(だつこう)して。馬輿(うまかご)にも乗(のる)ことならずして
悩(なやむ)ものは。野(の)または路旁(みちばた)に生(はえ)たる蕺菜(どくだみのは)
を多く刈採(かりとら)せて。布(ぬの)につゝみ。熱湯(あつきゆ)に
しぼりて蒸(むす)べし。此物なくば。苦薏花(のぎくのはな)。
忍冬(すいかづら)。金銀花(すいかづらのはな)の類(るゐ)にても。用てよし。又は
これらの類(るゐ)に。枳実(からたちのみ)。小茴香(せうういきやう)などを加(くは)へ

たるもよし。貼薬(つけぐすり)には。前の龍脳(りうなう)の入た
る油菜を用べし。いかに按(おし)入れても収(おさま)らさる
ものは。蜞(ひる)を多くとらせて。肛門(こうもん)の輪轑(きくざ)
の脹(はれ)て垂(たれ)たるところと。輪轑(きくざ)をはなれ
たること四五分なる臀肉(しりこぶら)のあたりまでに。蜞(ひる)を
五六十もつけ。飽(あき)ておのれとはなれをはり
たるときに。布(ぬの)を熱湯(あつきゆ)にしぼりてあてお
けば。吸(すい)たる口(くち)より血出(ちいで)て。布(ぬの)にたまるなり。
それが出やみたるときに。とりすつる也。かくして
のちに収(おさむ)れば大かた納(おさまる)なり。もし痔疾(じしつ)に
て厠(かはや)に登(のぼ)るたびごとに。血多く洩(もれ)てやまず。
それよりして面色萎黄(めんしよくきばみ)。脚脛(あし)に腫(はれ)をもよ
ふし。胸腹(むねはら)に動悸(どうき)ありて。起(たて)ば眩運(めまひ)し。高(たか)
き所へ登(のぼら)んとすれば。気喘(きあえ)ぎなどするやう
になりたるは。これを黄胖(わうはん)といふ。方言(はうげん)に
阪下(さかした)の病(やまひ)といふは。阪(さか)などへのぼらんとすれ
ば。動悸(どうき)おこりて陟(のぼ)ることならず。仰(あふ)ぎ見
れば。眩運(めまひ)して。阪(さか)の下にて悩(なやむ)といふより
の名なり。世(よ)にはこの病を治することを

知ざる毉士(いし)多きゆゑ。いたづらに疾(やまひ)を
抱(いだき)て。生涯(しやうがい)を終(をは)り。あるひはこれが為(ため)に
夭死(わかじに)するものも又あれば。この病を治すべ
き薬方の中にて。俗人(しらうと)の自製(じせい)せら
るべき一方をこゝにのせてこれを示(しめす)べし。
その方は。鉄粉(てつぷん)二十匁。蕨粉(わらびのこ)十匁。鷹(たか)の
目(め)硫黄(いわう)。焼牡蛎(やきぼれい)各五匁。乾姜(かんさやう)甘草(かんさう)各(おの〳〵)二匁
の六味を。細末して。白湯(さゆ)にて三四匁つゝ用
べし。この薬の主治(しゆぢ)は。衂血(はなぢ)下血など多く
して。血液(ぢしる)少(すくな)くなり。周身(そうみ)の血(ち)に水を交(まじ)へ
たるをもつて。面部(めんぶ)はもとより。身體(みうち)すべて
黄(き)いろになりて。神彩(いろつや)あしく。皮膚(はたへ)うき
はれたるがごとく。甚(はなはだ)しきは爪(つめ)の甲(かう)白(しろ)く成(なり)
て。裂(さけ)る也。この散薬(さんやく)に。緑礬(りよくばん)の真赤(まつか)になる
まで焼(やき)たる。絳礬(かうばん)とよぶもの五匁を加へ。
丸薬にして用るも又よし。此方 黄疸(わうだん)
には効(しるし)なく。用れば却(かへつ)て害(がい)となること
あれば。誤(あやまり)混(こん)ずることなかれ▲乳(ち)を吐(はき)青(あを)
き大便をするは。小 児(に)のまゝあることにて

大 便(べん)の色(いろ)青(あお)く酢臭(すえくさ)きは。乳(ち)の腹(はらの)中
にて敗壊(すえ)るゆゑなり。これは瘈攣(ひきつり)。急(きふ)
驚風(きやうふう)となる漸(したじ)なれば。はやく紫円(しゑん)を用て
下すべし。紫円(しゑん)の方は。代赭(たいしや)石。赤石 脂(し)。各
一匁。巴豆(はづ)。杏仁(きやうにん)各十ケ。この四味合せて。芥子(けしのみ)
のごとくに丸じ。一 次(ど)に十四五 粒(りう)。または二三
十 粒(りう)づゝも用て。下してよし。母もしくは
乳母(うば)の病より。小 児(に)の大便の酢臭(すえくさく)なり。
やがて色青(いろあを)くなることあり。それは母子
ともに治をくわへねばならず。心えべき
ことなり▲茶(ちや)を呑(のみ)て睡(ねむり)かぬるものは。白(うめ)
梅(ぼし)を砂糖湯(さたうゆ)にて用べし。厳酢(きつきす)もまた
よく茶の毒(どく)を解(げ)するもの也り【りは白抜き文字】淋病(りんびやう)
にて。痛(いたみ)甚しく。小便するになやむもの
は。桃膠(もゝのやに)二匁。甘草(かんざう)一匁を一 貼(ぷく)とし。水一合入
五勺にせんじ。日に三四貼づゝ用べし。桃(もゝ)
の膠(やに)は薬店にあり。又 胡桃(くるみ)を研(すり)て泥(どろ)の
如(ごと)くし。霜糖(さたう)をよきほどに入たるに。熱湯(あつきゆ)
をさして用るもよし。膿(うみ)出る淋病(りんひやう)は。陰(いん)

莖(きやう)のうちに。下疳瘡(げかんさう)の発(でき)たる也。茎内(さをのうち)
の缺蝕(かけそん)せぬうちに。はやく療治(りやうぢ)せず。たとひ
薬(くすり)を用ても。的当(てきとう)せざる処方(くすり)は。棄(すて)おく
につ【「ほ」ヵ】けれは。それにては癒(いゆ)る期(ご)はあるべか
らず。素人(しらうと)にもその用心(こゝろえ)あるべきこと也
▲痢病(りびやう)は。伝染(うつり)やすき病にて。多くは糞(ふん)
気(き)よりうつるものなれば。己(おのれ)が家(いへ)なれば。
圊(かはや)を別(べつ)にし。また病者(やむもの)の糞(ふん)を川(かは)へすつ
るか。地中に埋(うずむ)るかして。これを禦(ふせぐ)ことも
なしやすけれど。旅行(りよこう)中などにては。是(これ)
を知(し)るよしもなければ。圊(かはや)よりどくを
つたへて患(わづらふ)ことなしとはいふべからず。此病
の初発(しよほつ)は。寒熱(さむけねつ)などもあれど。いたつて
微(かすか)にして知がたし。且(かつ)その初(はじめ)多くは
下利あれど。快通(かいつう)せず。後重(ごうぢう)とて肛門(こうもん)へ
しきりに窘迫(はり)があるにて。この病の初(しよ)
発(ほつ)なることはしらるゝ也。はじめにくだり
かねて。しきりにうらごゝろあるときに。
大 盤(だらひ)の中ヘ。塩(しほ)五合ばかりと白芥子(からしのこ)

《割書:これは入ず|ともよし》一合ほどを入て。上より苞(たはら)をかけ。
沸(にへ)たちたる湯をいるれば。塩(しほ)はとけ藁(わら)の
気はいづる。その湯をいりかげんにして。
坐(すはり)て半身を浴(よく)し温(あたゝ)むれば。顔(かほ)より惣(さう)
身(み)へ汗(あせ)の出るやうになる。其時また〳〵
熱湯(あつきゆ)をさして。よく腰(こし)脚(あし)のあたゝまりた
るとき。浴衣(ゆかた)にてよく拭(のごひ)て。𥃨床(とこ)に入り。
熱(あつき)稀粥(うすかゆ)か温飩(うんどん)などをくひて。とりかぶ
りて汗(あせ)を取べし。此 法(はふ)は。我邦(わがくに)のむかし。感冒(ひきかせ)
の初発(しよほつ)などに。汗をとるに必用たる
こと。栄花物語(えいぐわものがたり)などに見えたる「ゆゝで」
といふものなり。今これを痢病(りびやう)の初発(しよほつ)
にもちふれば。これにて大便も心よく
通じて。そのまゝ解(げ)するもあり。後重(いけみ)
なほ止ざるもあれど。浴後(よくご)は病勢(ひやうせい)多(おほ)
くは緩慢(ゆるやか)になるなり。此「ゆゝで」をし
たるうへに。葛根湯(かつこんとう)などを用たるは
ます〳〵よけれど。葛根湯も。唐麻黄(からのまわう)
を用て方のごとく調合(てふがふ)せざれば効なし。

其方は。葛根(かつこん)一匁六分。麻黄(まわう)一匁。桂枝(けいし)。
芍薬(しやくやく)。大棗(たいさう)。各八分。甘草二分にて。一貼
四匁四分これを。三が一を減(けん)すれば。三匁三
分を一貼とす。これより小服にては効なし。
さて汗をとりての後も。後重窘迫(しもへはりいけみ)猶(なほ)
止ざるは。腸裏(はらのうち)に下すべき毒(どく)あるなり。
しかれば。舌(した)にかならずその候(めあて)をあらは
して。白胎(しろきたい)が厚(あつ)くかゝり。舌(した)のおくのか
たは。黄(き)いろになるか。舌一めんに黄(き)ば
むかする。それをめはてに下すなり。
舌にかゝりものなくて。後重窘迫(しもにはりのくること)あ
るは。にはかには下されず。下剤(けさい)は。調胃(てうゐ)
承気湯(じようきとう)よし。その方は。大 黄(わう)一匁。芒消(はうせう)二
匁。甘草(かんざう)は本万の半を減(へらし)ても。二分五 厘(りん)。
この甘草は。それよりはへらされず。これ
に水一合二勺入て六勺をとり。用る
なり。この方に。芍薬などを加て
もちひてもよし。病勢 劇(はけし)きものは。
大 承気湯(しやうきとう)。または紫円(しゑん)。備急円(びきうゑん)など

といふ巴豆(はづ)の入たる丸薬をもちひ。脉(みやく)
と舌とによりては。附子をも大に用て
効(こう)あるものあれど。毉士(いし)にすら其わかち
をよく弁得(わきまへえ)て。決断(けつだん)するもの少(すくな)ければ
妄(みたり)なることはせぬがよし。下剤をしきりに
用て。却(かへつ)て後重努力(しもへはりいけみ)のつのるものも
あれば。旅(りよ)中などにて。いつれとも決(けつ)した
がたきには。薬をもちひすして。その
動静(なりゆき)をみて。かへつてよきこともある物
なり。ゆゑにこゝにもいち〳〵には記(しるし)
がたし。此病は。灸(きう)の効あるもの多ければ。
臍(ほそ)の両 旁(わき)。天 枢(すう)といふところへ灸するか。
塩(しほ)を臍(ほそ)へ填(もり)て。其上よりふくろ艾を多(おほ)
くすえるか。するもよし。また口 吻(わき)の寸
を。唇(くちひる)と肉(にく)とのあいだにとりて【唇の図】《割書:この下くち|びるのはし》
《割書:よりはしにて|とるなり》その幅(はゞ)に紙(かみ)を四角にきり。真中(まんなか)
に穴(あな)をあけ。その穴を臍(ほそ)へあて【口吻の寸の図】口吻の寸【図の右にルビ】かく
のことく。左右上下 四隅(よすみ)にて。八ケ所(しよ)。これ
を八 花(こ)の灸といふ。この灸は。霍乱(くわくらん)。癥疝(しやうせんき)

留飲(りういん)などにも用ひ。わきて小児の疳疾(かんしつ)
に用ひて効あるなり。痢病の治法には
さま〴〵の差別(しやべつ)あれは。此にいふところは。
たゞこれ実痢(じつり)最初(さいしよ)の治法のうちにて。
捷便(てみじか)なるものを示(しめし)たるのみなりとこゝ
ろうべし。痢病に。おしなへて効(こう)ある物は。
無患子(むくろじ)の黒焼(くろやき)なり。これは皮(かは)も実(み)も
そのまゝに坩罌(やきつぼ)に容(いれ)て銅線(はりがね)にて十字(ちふもん)
様(じ)に紮(くゝり)。蓋(ふた)の間を泥(どろ)に塩(しほ)をいさゝか交(まぜ)
たるにて塗(ぬり)かため。火にて焼(やき)たるを。
とりいだして細末にし。一 次(と)に一匁づゝ
もたひ〴〵用るなり。又 鼹鼠(うころもち)【左ルビ:もくらもち】の焼存(くろ)
性(やき)も。諸(もろ〳〵の)痢(り)に効あるものなれば。これら
はかねて製(せい)しおきて。在陣(ざいちん)旅行(りよこう)な
とには持(もち)ゆくべし。無患子(むくろじ)の焼存性(くろやき)は。
腸胃(はら)の消化(こなれ)あしくて泄瀉(くたる)にも。効有
ものにて。さる諸侯(しよこう)にては昔(むかし)より君侯(とのさま)
みづから製(せい)して弘(ひろ)く施(ほどこ)さるゝよしをきけり。
わ【わは白抜き文字】草鞋(わらんじ)にくはれ。水疱(まめ)の出来たるは

その水疱(まめ)を破(やぶり)て水をとり。焼(やき)たる赤(あか)
螺(にし)と。半夏(はんげ)を等分(とうぶん)に細末して。飯糊(そくい)
に交(まぜ)てつくれば癒(いゆ)るなり。後(のち)の金創(きりきず)
の部(ところ)に出したる。魚膠膏(にべのこうやく)。または俗伝(そくでん)
の即効帋(そくこうし)などをはりたるもよし。か【かは白抜き文字】脚(かく)
気(け)は。最初(さいしよ)より脚(あし)にいさゝかの腫(はれ)なく。
脚(あし)たゞ重(おも)くして。行歩(あゆみ)なやむもあり。
足脞(はぎ)より腫(はれ)て。周身(しうしん)におよび。小便ます
〳〵通ぜざるもあり。いづれにも両 脚(あし)
麻㿏(しびれ)あるものなり。もし在陣(ざいぢん)旅行(りよこう)
などにて。小便通じあしく。脚(あし)よわく
皮膚不仁(はだえしびれ)ることあらば。はやく後(のち)の
水腫(すいしゆ)の部(ところ)に出せる。三輪神庫(みわしんこ)の小
便通利の剤(くすり)を用て。その禁忌(いましめ)を守(まも)
り。遄(すみやか)に小便の快通するやうにすべき
ことなり。むかし唐時代(たうじだい)に嶺南(れいなん)といふ
極南方(ごくみなみのかた)より流行(はやり)て。北(きた)の方へ漸(しだい)に
伝(つたへ)たる脚気(かくけ)は。一 種(しゆ)の疫癘(えきれい)にて。今
の世の脚気とは。病 因(いん)大に異(こと)なれば。

其薬方をのみ用ては。今の脚気(かくけ)は
治しがたし。今の脚気は。多くは腸胃(はら)
の消化(こなれ)あしく。水気の結滞(とゞこほり)より。小
便通しあしくなり。それが進(つのり)て胸腹(むねはら)
に迫(せま)り。衝心(しようしん)するにもいたれば。唐時代
に流行(りうこう)せし脚気の。人より人に
伝染(うつる)べき邪毒(じやどく)あるものとは同からず。
今脚気にて。身體浮腫(からだはれ)。胸腹(むねはら)に水
気を潴(たゞへ)たるものが。拘急衝逆(ひきつめさしこみ)て。横床(よこね)
することもならずなりたるは。止ことを
得(え)ず。水を下さねば。危急(ききふ)をすくふ
ことならず。手近き瀉水剤(みづくだし)には。鼠李(そり)
子(し)三匁に。木香(もくかう)。乾姜(かんきやう)。呉茱萸(ごしゆゆ)。各(おの〳〵)一匁
をあはせて。六匁を一貼として。水二合に
煮(に)て六勺とし。二三 貼(てふ)も用れば。水を
大便道へ下して衝心(しようしん)はゆるまるなり。
もし事(こと)急(きふ)なる時は。画家(ゑをかく)に用る
雌黄(しわう)とよぶ物を三分ばかり。生姜の
しぼり汁を湯にさして用ふべし。此物は。

やゝもすれば吐(はくけ)を誘(さそ)ひやすきものなれば。
それをふせがんには。水をすこしくはへ
火上に融(とか)したるに。乾姜(かんきやう)の細末(こ)を三 倍(ばい)
ほど加て丸薬となし。大棗(たいさう)二三匁を煎
じたる湯にて服(もちふ)れば。吐(はく)ことなし。又 證(しよう)に
よりては。附子剤(ぶしざい)を用て治するもの
も。水を下してのちに。続(つゞき)て附子剤を
用ふべきものもありて。病の変化(へんくわ)定なけ
れば。方も又一様ならず。故に此にはさし
あたりたゞ危急(ききふ)をすくふべきことを記(しる)し
たるのみなり。されど水気は小便へ通
じさするを。順正治法(たゞしきぢほふ)とすることにて。大
便道へ導(みちび)くは。このましきことにはあらず。
たゞ脚気(かくけ)衝心(しようしん)を治するに。檳榔子(びんろうじ)。木瓜(もくくわ)。
呉茱萸(ごしゆゆ)。旋覆花(せんぶくげ)。犀角(さいかく)。紫蘇葉(しそのは)など
の。一 貼(てふ)わつかに二匁内外の薬剤(くすり)にて
治(ぢ)したるは。薬(くすり)の効(こう)ありしにはあらで。
病のかたからおのれと治したる也。よく
此 理(わけ)を弁(わきま)ふべきことなり。▲鯝鰹魚(かつを)の

毒(どく)にあたりたるには椎茸(しいたけ)を煎(せん)じて服
べし。桜実(さくらんぼ)もまた効(こう)あり。甚しきは吐剤(はくくすり)
を用ひてはやく吐(はか)しむるがよし。吐剤
のことは。後のく【くの右に長四角】の部 霍乱(くわくらん)の條(くだり)に述(のぶ)べ
ければ。参攷(かんがへあはす)べし。橄欖(かんらん)。よく諸(もろ〳〵)の魚肉(ぎよにく)を
消化(け)し鯗魚(するめ)は。諸の魚毒(きよどく)を解(げ)すとい
へど。予はいまだ試(こゝろみ)ず。又 鯝鰹魚(かつを)と胡椒(こせう)
とを同時(ひとつ)に喫(く)へば。人を殺(ころ)す。これはこの
二物が配合(いであひ)て。大 毒(どく)となるものとみえ
たり。此事は確(たしか)にその事(こと)ありしゆゑに。
こゝに記(しるし)て弘(ひろ)く人につぐるものなり
▲蟹(かに)の毒(どく)にあたりたるには。丁子(ちやうじ)を多く
煎(せん)じて服(のむ)べし。或(あるひ)は細末して。生姜の
しぼり汁を少しくはへ。湯にかきた
てゝ用ることもつともよし。冬瓜(とうくわ)の汁も
また蟹(かに)の毒(どく)を解(げ)すといへど。それは
いまだ試(こゝろみ)ず槖吾(つはぶき)の生汁をしぼりて用
れば。一切の魚の毒を解(げ)す。蟹(かに)の毒を
解するに尤(もつとも)効(しるし)あるよしをいへど。槖吾

の生汁をのますれば。吐(はき)を得(え)て治する
ものにて。毒を消(けす)にはあらず。たゞ軽(かろ)き
吐剤(はきぐすり)ぞとこゝろえて用べし▲蟹(かに)と
柿(かき)とを同時(ひとつ)にくらへば。毒となりて。血
を吐(はく)ことあり。唐木香(からのもくかう)三匁を一 服(ふく)とし。
生姜二片ばかりをくはへ煎じて用べし。
又は木香二戔。丁子一匁を細末して
用るもよし。▲雁瘡(がんがさ)は仲秋(はちがつ)ごろ。雁(がん)の
来(く)るころより。膝膕(ひつかゞみ)へ発(はつ)する浸滔瘡(できもの)
なれば。かくは呼(よび)しなり。これは妄(みだり)なる
貼薬(つけぐすり)。罨熨剤(むしぐすり)などをして。強(しひ)て愈(なほ)さん
とすれば。内攻(ないこう)して。脚気(かくけ)。痛風(つうふう)などに
なり。甚しきは。心腹(しんぷく)の病となりて。
命期(いのち)を促(ちゞむる)ことまゝあれば。慎(つゝしむ)べき事也。
旅行(たびさき)などにて。この瘡(できもの)発(はつ)して。艱(なやむ)時には。
止ことをえず。その辺(まはり)を刺(さし)て血をす
こしとりなどして凌(しの)くべし。かならず
水などにいることを。戒(いまし)て為(なす)べから
ず。しば〳〵浴(ゆあみ)するもこのましからず。

かならず毒(どく)を誘(さそひ)いだし。膿(うみ)となして
治するやうにすべしよ【よは白抜き文字】便毒(よこね)発(はつ)せん
とするに。痛(いたみ)甚しくとも。強(しひ)て歩行(ほこう)
して。速(すみやか)に膿(うみ)潰(つひえ)んことをもとむべし。
いまだ膿(うま)ざるに。鍼(はり)などすべからず。毒
のこりて後の害(がい)となればなり。この
処(ところ)にてよく膿(うみ)熟(じゆく)すれば。後の患(うれひ)を
免(まぬか)るゝなり。旅舎(やどや)に宿(とまり)たらば。浴後(ゆあがり)に。
白芥子末(からしのこ)を布(ぬの)につゝみ熱湯(あつきゆ)にしぼ
りて。夕ごとによく罨熨(むしあたゝむ)べし。膿潰(うま)ざ
る以前に。便毒(べんどく)下しの薬などといふ
ものを。決(けつ)して服(のむ)べからず。軽粉(けいふん)などの
入たる剤(くすり)も。膿(うみ)を催(もよふ)さんとするとき
には。用て害(がい)あり。故に家に帰(かへり)たら
ば。巧者(こうしや)なる毉師(いし)に委(ゆだね)て。後(のちの)害(がい)を
のこさぬやうに治をうくべし。膿(うま)ん
とする勢(いきほひ)あるときは。必 妄意(みだり)なる
ことをせず。自然(しぜん)に任(まか)せたるがよし。
故に卒爾(そつし)に薬方は記(しるさ)ざるなり

▲礜石(よせき)の毒に中(あた)りたるも。はやく油を
服(のむ)ときには。その毒を抱摂(つゝみおさへ)て。死にいた
ることなきは。前に既(すで)にいふがごとく。桃仁(たうにん)の
泥(すりたる)を服(のま)すれば。よく火薬の毒焔(どくえん)を解(げ)
するといふも。その旨(むね)はおなじことなり
た【たは白抜き文字】煙草(たばこ)に酔(ゑひ)たるには醋(す)を服(のむ)べし。又
は甘草をせんじて用るもよし▲煙草(たばこ)
の烟(けぶり)にむせてくるしむには。萊菔(だいこん)の
しぼり汁をのむべし▲章魚(たこ)を喫(くらひ)て
毒にあたりたるには。鹿角菜(ふのり)を熱湯(にえゆ)の
中ヘいれ解(とか)してのち。滓(かす)をこして服(のむ)べ
し▲竹筍(たけのこ)を多くくらひて。毒にあ
たりたるには。生姜を多く喫(くふ)か。又は
汁をしぼり。砂糖(さたう)をあはせ。湯に
点(てん)じて用ふるかすべし。海帯(あらめ)の煎(せん)じ
汁。鹿角菜(ふのり)の汁。および蕎麦殻(そばのから)の
せんじ汁も。よく竹筍(たけのこ)の毒を解(げ)す物
なり。苦痛(くつう)甚しきには。胡麻(ごま)の油を
服(のむ)べしそ【そは白抜き文字】卒(そつ)中風は。厥(けつ)といふ病(やまひ)の類(るゐ)

にて。暴(にはか)に発(はつ)するものなれど。よくこ
れを考(かんがふ)れば。かならず以前に其幾(そのきざし)
ある病なり。これは胃府(ゐぶくろ)を胸膈(むね)へつり
つけ。諸蔵(はらわた)もそれに従(つれ)て上吊(つりあげ)て。周(しう)
身(しん)の気血(きけつ)頭部(づふ)に進迫(せま)りて。精神(こゝろもち)を
閉(とづ)るゆゑに。人の見さかひなく。ものいふ
こともならず。鼾(いびき)出て。睡(ねむる)がごとくにして
覚(さめ)ず。甚しきにいたりては。大小便を迷(しそこ)
失(なふ)ものあり。脉(みやく)は弦(げん)といふて。弓の弦(つる)を
はりたるやうにて。力あるがごとくなれども。
神彩(つや)なき脉(みやく)をあらはすなり。この證(しよう)
手を開(ひら)くを虚候(きよこう)とし。手を握(にぎり)たるを
実候(じつこう)とすと。古人はいへど。惣(すべ)てこの
證(しよう)を発(はつ)する人は。たとひ體肥(からだふとり)肉満(にくみち)た
りとも。元気(げんき)衰弱(おとろへ)て。血液(ち)の運行(めぐり)遅渋(しぶり)
たる所へ外邪(くわいじや)に腠理(はだせん)を壅塞(とぢふさが)るこの。一時(ふと)
飲食(たべもの)の停滞(とゞこほる)か。志意(こゝろもち)の蘊結(むすぼる)ることあ
るかの妨碍(さはり)あるによつて発(はつ)するの證(しやう)
にて。平常(へいぜい)上衝(のぼせ)昏眩(めまひ)。又は肩強(かたはり)。耳鳴(みゝなり)

寐(いぬ)れば鼾息(いびき)を発(はつ)し。又は頻(しきり)に眠顚(ねごと)を
いひ。またはをり〳〵昏睡(ねむりすぎ)て覚(さめ)がたく。
或(あるひ)は凶夢(あしきゆめ)を見て魘(うなさ)れやすく。あるひは
妄(みだり)に怒(いかり)。みだりに㥿(たかぶり)。または凡(すべ)てのこと
に懊熱(くつたく)多く。志(こゝろざし)定(さだ)まらず。志のみなら
ず。膏梁美味(おもくろしきうまきもの)をこのみ。房慾(かくしごと)をすごし。
表(おもて)は盛(さかん)にみえて。裏(うち)は衰(おとろへ)たる身體(からだ)に
発(はつ)する病(やまひ)なること。たとへば樹木(たちき)の。うちは
朽(くち)て皮(かは)は栄(さかえ)たるものが。暴風(あらし)の為(ため)に吹(ふき)
折(をら)るゝがごとくなれば。病證(びやうしよう)は実候(じつこう)の如(ごと)
くに見ゆれど。元気衰弱(げんきのおとろへ)より起(おこ)らざ
るはなし。されどさしあたりたる所は。胃口(ゐぶくろ)上
に迫(せま)り。気血(きけつ)上部(うへのかた)に壅塞(ふさがり)。腹中(はらのうち)に停(とゞこ)
蓄(ほりもの)あり。痰飲沸溢(たんりういんわきたち)たれば。止(やむ)ことを得(え)ず。
肩(かた)を刺(さし)て角子(すいふくべ)を以て血(ち)を瀉(とり)。あるひは
肩(かた)項(うなじ)に蜞(ひる)などを多くつけて。血(ち)を吸(すは)せ。
吐剤(はきぐすり)を用て。上溢(わきたち)たる痰飲(たんいん)を吐せて。
胃(ゐ)中の壅塞(ふさがり)を開達(かいつう)し。吐後(はきたるのち)には必(かなら)ず
下剤(くだしぐすり)を用ひてこれを下すにあら

されば之を救(すくひ)がたきもの多し。初発(しよほつ)に
は。まづ舌交(くさめ)薬をはなへ吹入て。嚏(くさめ)をさす
べし。くさめぐすりは。皀莢(さうけふ)。細辛(さいしん)二味の
細末(こ)。胡椒(こせう)の細末(こ)筥根(はこね)のくさめぐさ。木(はな)
藜蘆(ひりぐさ)の類。あまりに急卒(にはか)にしてこれ
らを求る間もなき時は。烟草(たばこ)の末(こ)。又は
半夏(はんげ)の末(こ)。薄荷(はくか)の末か。白芥子(からし)の末に
ても。はやく鼻(はな)へつよく吹入て。嚏(くさめ)をさ
すべし。これらの薬を吹入るには。まづ紙
をひねりて。鼻涕(はなしる)をのごひとりて後に。
左右ともによく鼻の底(そこ)まで通るやう
に吹こみて後。結髪(たぶさ)をとりて頭(かしら)を提起(ひきおこす)
べし。斯(かく)して嚏(くさめ)出るものは。やかて正気
つくものなれば。まづ吐法を行(おこなふ)べし。はき
薬のことは。次のく【くの右に長四角】の部の霍乱(くわくらん)の條(くだり)に
いふべし。肩(かた)より血を瀉(とる)ことは。時の宜(よろしき)に
従(したかふ)へく。且(かつ)素人(しらうと)には行がたきことも
あれば。毉(い)の来るをまちてもよし。灸
は天 枢(すう)か。前の痢病(りひやう)の條(ところ)に記(しるし)たる八花

の灸よし。正気(しやうき)つけば。右か左か半身
却(かへつ)て不遂(ふきゝ)になるもの也。吐を得て後
に。下 剤(ざい)を用ひ。大便通利したるのちに。
附子(ぶし)。天南星(てんなんしやう)。細辛(さいしん)。木香(もくかう)四味。各一匁二分
に。生姜四五片を加へ。水一合五勺を六勺
に煎じ用ふべし。或(あるひ)は千金方の附子(ぶし)
散(さん)。和剤局方の三 生飲(しやういん)などの単方(やくみすくな)に
て効(しるし)ある方も。また多し。其 佗(ほか)證(しやう)に
応(おう)じてさま〴〵に処方(くすり)の差別(しやべつ)はあ
れど。此(こゝ)にはたゞ急卒(にはかなる)を救(すくふ)べき片端(かたはし)を
記(しるし)たるまでなりと思ふべし▲蕎麦(そば)に
あたりたるには。牡蠣(かき)の生汁(なましる)をのむ
べし。楊梅皮(やうばいひ)と薬店にていふ。やまもゝの
木の皮(かは)を細末(さいまつ)して。さゆにて用ふるか。又
は煎じて用るもよし。この二品は。しば〳〵
試(こゝろみ)て確(たしか)に効(しるし)あることを知(し)れり。萊菔(だいこん)の搾(しぼり)
汁も。又よく蕎麦(そば)の毒を解(げ)するもの也。
香橙皮(くわんぼのかは)の搗(つき)てしぼりとりたる生汁も
また効ありといへり。これも又心得べし。

▲走馬牙疳(そうばげかん)は。はくさといふ小児の急(きふ)
病(びやう)にて。はぐき腐(くされ)て。歯(は)こと〴〵くおち。脣(くちびる)
頬(ほう)までも蝕(かけ)て死(し)にいたる。おそろしき
病なり。速(すみやか)に硇砂(どうしや)。龍脳(りうのう)等分(とうぶん)に。枯礬(やきみやうばん)
少ばかりを研(すり)合せてつけ。紫円(しゑん)を用て
下すべしつ【つは白抜文字】頭痛(ずつう)は其 因(もと)さま〴〵に
して。一 概(がい)にはいひがたし。外邪(ぐわいじや)にて頭痛(づつう)
さむけあるものは。すみやかに汗(あせ)を発(はつ)
すれば解(げ)すれども。上衝(のぼせ)甚しく。と
りかぶりて。汗をとりがたく。堪(たへ)かぬ
るもの。我邦(わがくに)上古の湯煮(ゆゆで)といひし。半(はん)
身浴(しんよく)の法(はふ)に效(ならひ)。腰湯(こしゆ)をつかひて汗(あせ)を
とれば。頭(かしら)を覆(おほふ)までにいたらずして。汗(あせ)
よく出れば。頭痛(づつう)甚敷ものもおとなひ
やすくして。愈(いゆ)ることもまた速(すみやか)也。前の
痢病(りびやう)の條(ところ)に。その事を記(しるし)おきたれば。
あはせ考(かんがへ)て用ふべし。常(つね)に頭痛(づつう)の持(ぢ)
病(びやう)あるもの。旅行(りよこう)して。終日(ひめもす)日にあた
りて。宿疾(やまひ)のおこりたるものは。かならず

この法(はふ)を用て速(すみやか)に解(げ)することを求(もとむ)べし。
もし上衝(のぼせ)はなはだしきものは。大なる薬(やく)
罐(くわん)やうのものに冷(ひや)水を汲(くみ)入て。椽端(えんばな)へ頭(かしら)を
出して。頭(かしら)へ濯(そゝぎ)かくべし。婦人(ふじん)は髪(かみ)を
ほどきてふたつにわけ。中 剃(ぞり)のところよ
り額(ひたひ)へ濯(そゝぎ)かけてよし。これを柎水(ふすい)と云(いふ)
て。水 療(りやう)の一 法(はふ)とす。または顳顬(こめかみ)項(うなじ)肩(かた)
および缼盆(けつぼん)といふて。導引(あんま)科の脊後(うしろ)
に居(ゐ)て。まづ手の次指(ひとさしゆび)中指(なかゆび)のあたる
所などへ。蜞(ひる)をつけて。血を多く吸せるも
またよし。又は。白芥子末(からしのこ)一匁。龍脳(りうのう)末五
分を醋(す)に和して。顳顬(こめかみ)項(うなじ)肩(かた)へつける
もよし。また数(す)日大 便(べん)通(つう)ぜず。舌(した)に黄(き)
なる胎(たい)ありて。食味(しよくのあぢはひ)をうしなひ。頭痛(づゝう)
するものは。調胃承気湯(てうゐじやうきとう)を用べし。其
方は。唐大黄(からのたいわう)八分。芒消(ばうせう)一匁六分。甘草(かんざう)三
分。煎じて用ふ。また上好の茶を濃(こく)煎
じて用るも。軽(かろ)き頭痛には効ある
もの也。また食事(しよくじ)するたびことに。頭痛(づゝう)

するものに。唐呉茱萸(からのこしゆゆ)を用ひて効ある
ものなれば。不 換(くわん)金正気 散(さん)などへ多く加へ
て用ふべし。建(けん)中散もよし。あるひは。呉茱(ごしゆ)
萸湯(ゆとう)といふ方をもちふること最(もつとも)よし。
その方は。呉茱萸(ごしゆゆ)一匁。人参八分。大 棗(さう)六
分 甘艸(かんざう)二分に生姜を加(くはへ)。水一合二勺を六
勺に煎じて用ふべし。いたつて効
あるもの也。此 剤(くすり)は食事するごとに
咳逆(せきいり)。または眩運(めまひ)嘔逆(むかひけ)を発するもの
にも。用て効ある経験(けいげん)もまた多し。
また真頭痛(しんづつう)とて。頭脳中(あたまのしん)に痛(いたみ)をおぼ
え。やがて劇(はげし)くなりて堪(たへ)がたく。或(あるひ)は
昏眩(めくらみ)失気(きをうしなひ)。やがて手足(てあし)厥冷(ひえ)。脉(みやく)沈微(ちんび)
にして力なく。爪甲(つめのかふ)の色(いろ)青(あを)く脣(くちびる)白
くなり。気息(いき)も絶(たえ)んとするものあり。
これ多くは救(すくひ)がたし。はやく頭上(あたま)の正中(まんなか)
の百 会(ゑ)といふ所と。腹(はら)の天 枢(すう)。前に出せ
る八花の灸などをして。唐附子(からのぶし)。細辛(さいしん)。麻(ま)
黄(わう)の三味。各一匁の麻黄附子細辛湯(まわうぶしさいしんとう)と

いふ剤(くすり)を濃(こく)煎(せん)じて連服(つゝけてのま)すべし。これに
硇砂(どうしや)を点服(てんぷく)するも又よし。前にいふ白芥(から)
子(し)。龍脳(りうのう)の引薬。または柎(ふ)水の術(じゆつ)。舌(く)
交薬(さめくすり)などを試用(しよう)したるもよし。また
證(しよう)によりては。はげしき吐剤(はきぐすり)を用べけれ
ど。その方はこの編(へん)には載(のせ)がたし。また一方
の用べきものあれど。素人には伝へかたし。
▲撲眼(つきめ)にて眼(め)赤くなり。焮痛(ほめきいたむ)には。白梅(うめぼし)
を煎じてしきりにむしてよし。又 水仙(すいせん)
の根をすりて汁をとり。枯礬(やきみやうばん)を小さき
耳(みゝ)かきに一ツほど加へてさすもよし。
ね【ねは白抜文字】寝小便(ねせうべん)は飽食(くひすぎ)によるものも。蚘蟲(くわいちう)に
因(よる)ものも。腹(はらの)気 攣急(ひきつり)によるものも
ありて。一 様(やう)ならず。飽食(くひすぎ)は。食(しよく)を減(へら)
させ。蚘蟲(くわいちう)は蟲(むし)を下せば愈(いゆ)る。腹(はらの)気 攣(ひき)
急(つり)て起(おこる)ものは。卒(にはか)には愈(いえ)がたし。寝(ね)小 便(べん)
の止(やみ)かぬるは。性怯(うまれかひな)く懶怠(ふしやう)なるものに
多しあるものなれば速(すみやか)に治しがた
き病(やまひ)なれど。羇旅(たびさき)在陣(ざいぢん)などにて

従者(つれしもの)にこの患(うれひ)あらば。竊(ひそか)に猫(ねこ)の屎(くそ)
の屋上(やのうへ)にありて。数月(すげつ)雨露(あめつゆ)にさらさ
れたるもの得(え)。日に乾(ほし)て細末(さいまつ)したるを
丸薬にして。日々これを用れば。寝(ね)小
便(べん)を治すること不思議(ふしぎ)の効(しるし)ある物也。
火に炙(あぶり)て末(こ)にして丸じたるもよし。
また烏骨鶏(くろずねのにはとり)の屎(くそ)も効あるよしを
いへど。それはいまだこゝろみず▲猫(ねこ)に
噛(かま)れたるも。前の犬にかまれたるを
治するものとほゞ同じこと也。猫(ねこ)薄荷(はくか)
をくらへば。かならず酔(よふ)ものなり。薄荷(はくか)
よく猫(ねこ)の毒を制(せい)すといへば。内 服(ふく)する
か。もし生(なまの)葉を得たらば。犬毒を
治する手あてのごとくにしたる跡(あと)へ。
すりこみてもよし▲鼠(ねずみ)に咬(かま)れたる
も。犬毒と同じことなり。これにも
漢土人(もろこしびと)は。斑猫(はんめう)をつけよといひ。または
斑猫(はんめう)を焼灰(やきはい)にし。麝香(しやかう)を交(まぜ)てつくべ
しなどいへど。多くある葛上亭長(まめはんめう)を

用ふるかた便宜(べんぎ)なり。また雄黄末(をわうのこ)を
つくるもよろしければ。創(きず)の至て浅(あさ)きもの
には。用へし。創所(きず)の血(ち)をよくしほり出し
たるあとへ。焔消(えんせう)の細末(こ)。発火(ほくち)。あるひは火
薬(やく)を填(もり)て。火を点(てん)じ。毒気を散(さん)ずべし。
檪木皮(くぬぎのかは)よく鼠毒(そどく)を解(けす)といへど。予(おのれ)は
いまだ試(こゝろみ)ず。綿実(わたのみ)を焼(やき)て。その煙にて咬(かま)
れたる所を薫(ふすぶ)へしといへど。これも試(こゝろみ)
たることなし。猫(ねこ)の屎(くそ)をつけよといふは。
これを制(せい)するの意(こゝろ)なるべし。いづれに
も獣咬毒(けものかみたるどく)も。諸(さま〴〵)の蟲(むし)の咬(かみ)たるも。こと
ごとく皆 肉(にく)中に毒をのこして後の
害(がい)となるものなればこれをよく洗(あらひ)て
後。毒を外へ誘(さそひ)出す物をつけてこれ
を除(のぞ)くにしくことあるべからず。此義(このわけ)を
よく領会(がてん)すべしな【なは白抜文字】崩漏(ながち)は。婦人(ふじん)の病(やまひ)
なり。婦(ふ)女子 旅(りよ)中にて此病に逢(あふ)時は。
道行(みちゆく)こともならず。大に艱(こまる)もの也。陰(いん)中
を冷(ひや)水にて洗(あらひ)て。之(これ)を治する法(はふ)も

あれど。喞筩(みつはちき)を用ひて深(ふか)く子宮中(こつぼのうち)を
洗(あらひ)て後(のち)。坐薬(さしぐすり)を挾(さし)て止る術(しゆつ)なれば。それも
旅舎(はたこや)にては施(ほどこ)しがたくいづれにもあれ。
血の下ること多ければ身體(からだ)頓(にはか)に疲(つかる)るもの
なれば。速(すみやか)にこれを止ることをこゝろえべし
その法(しかた)は繭綿(まわた)を二十匁ばかりを小さく
束(つかね)て。陰(いん)中に容(いれ)て。横(よこ)に臥(ねかし)。右にあれ左
にあれ。上になしたる足をむかふへねぢ
りて。臀肉(しりのにく)を掌(てのひら)にてしかと圧(おさへ)さすれば。
陰戸(まへ)かたく閉(とづ)るなり。かくのごとくする
こと一時ばかりをすぐれば。陰戸(まへの)中の破(やぶけ)
たる細絡(ちのかすひ)【「ちのかよひ」では】おのづから愈(いえ)あふて。血の出る
ことは止ものなり。内服剤(のみぐすり)の速(すみやか)に効(こう)あ
るものは。枯礬(やきみやうばん)二匁。騏驎血(きりんけつ)一匁を細末(さいまつ)し
て丸じて用るか。枯礬(やきみやうばん)阿煎薬(あせんやく)各二
匁を。散薬(さんやく)にて用るか。又はこれらの剤(くすり)を
布(ぬの)につゝみ。陰(いん)中ヘ坐薬(さしぐすり)としてもよし。
此二 種(しゆ)のうちにて。薬品(やくひん)のあるにまか
せてこれをつゞきて服(もちひ)てよし。漏血(ながち)

止ざるあひだは。丸散を用るにも冷
水を以て送(もちひ)下。煎剤(せんやく)も冷(ひや)して用る
をよしとす。大かたはこれにて治すれども
もし煎薬(せんやく)をもちひんとおもはゞ。艾葉(もぐさのは)。
当帰(たうき)。各六分。唐阿膠(からのあけう)。川芎(せんきう)各四分。生(しやう)
乾芍薬(ぼししやくやく)八分。地黄(ぢわう)一匁二分。甘草一分。
七味合せて四匁一分を一 貼(てふ)とし。生姜を
多く加へ。水煎して用べし。これを芎(きう)
帰膠艾湯(きけうがいとう)といふ。また子宮(こつぼの)中に蓄血(とゞこほりたるち)
あるか。息肉(そくにく)などを生じ。又は瘡(できもの)を
生(しやう)じたるなどより。崩漏(ながち)を発(はつ)するも
のあり。それらは證候(しようこう)も治法も大に
異(こと)なれば。これもまたこゝろえべし
ら【らは白抜文字】雷震(らいにうたれ)死(しゝたる)は雷火(らいくわ)の地におつる響(ひゞき)
にふれて。気絶(きぜつ)したるなり。これは
多く時を過(すご)さずるものはなほ救(すくふ)べし。
その救(すくふ)べきものと。すくふべからざるものと
をよく見わけて。これを行(おこのふ)べし。その救(すくふ)
べからざるものは。腹(はら)脹(はり)色(いろ)変(へん)じ。周身(しうしん)

うきはれて。色 青(あを)く。ぶつ〳〵たちたる
斑点(あざ)あちこちにあらはれ。肉柔脆(にくやはらか)くして。
これを按(おせ)ば。匾(ひらた)くなりたるまゝにて。口 鼻(はな)
より臭(くさ)き液(しる)ながれいで。眼(め)凹(くぼ)みて口 開(ひら)き。
厭(いとひ)にくむべき屍臭(しびとのか)あるものは。救(すくふ)べきたよ
りなし。其救て蘇(よみがへる)べきものは。静(しづか)に
心をとめてよく診(み)れば。口吻(くちびる)をり〳〵び
くつくもの。燭(ともしび)をとりて眼(めの)中をてらせ
ば。瞳孔(ひとみ)ちゞみ。燭(ともしひ)を遠(とほ)ざくれば開(ひら)くもの。
鳩尾(みづおち)に掌(て)をあてゝ診(み)れば。内(うち)に温(あたゝまり)を
おぼゆるもの。燈心(とうしん)又は鳥(とり)の羽(はね)または蝋燭(らうそく)
の火を口 鼻(はな)のあたりへ近(ちか)づくれば。動(うごく)と見
ゆるもの。或(あるひ)は眼(め)を。左にあれ右にあれかた
〳〵あき。かた〳〵はふさぐもの。頬(ほゝ)の色(いろ)
なほ赤(あか)みあるもの。磨破(すりやぶり)たり所より。
血の流出(ながれいづ)るもの。耳(みゝ)に口をよせて其名
をよべば。面(かほ)の肉(にく)動(うごく)がごとく見ゆるもの。眉(まゆ)に
つきたる上のところを。指(ゆび)さきにて強(つよ)く
按(おし)てはなてば。凹(くぼみ)たる所だん〳〵にもとの

如(ごと)くなるもの。この九ツの候(うかゞひ)のうちに
て。二ツ三ツあらば。必(かなら)ず死(しに)たりとは定(さだ)むべ
からず。いかなる急病(きふびやう)にて呼吸(いき)のかよひ
絶(たえ)さるものにても。此 救(すくふ)べきものとすくふ
べからさるものとの差別(わかち)をよく弁(わきまへ)知(しり)て。
これを決(けつ)すべきことは。これ診候(みわけ)の緊急(だいじ)
なること也。近世の毉人は多くは薄情(はくじやう)に
して。診候(みわけ)にふかく意(こゝろ)を注(そゝぐ)ものも少(すくな)
ければ。素人(しろうと)もよくこゝに述(のぶ)る所を撿(たゞし)て。
これを救(すくふ)ことをこゝろがくべし。さて急病(きふひやう)
卒死(そくし)あるとき。第一に心 得(う)べきことは。呼吸(いき)
の往来(かよい)絶(たえ)たるものに。気付薬(きつけぐすり)といふて。
蜜(みつ)にて煉(ねり)たるものを用ふるははなはだ
あしきこと也。気息(いき)のかよはぬ咽喉(のんど)のあ
ひだには。些少(いさゝか)の物にても妨礙(さまたげ)となり。
これによりていよ〳〵気息(いき)の往来(かよひ)を
歇(とゞめ)。活(いく)べきものも蘇(よみがへる)ことならぬやうにな
れば。煉薬(ねりやく)はもとより。丸散煎薬(ぐわんさんせんやく)の類(るゐ)
も。呼吸(いき)の出ざるうちは。一切 戒(いましめ)て用べか

らず。柔術家(じうじゆつか)の拳法(やはう)の中(うち)にて。肩(かた)の
活(くわつ)。天枢(てんすう)の活(くわつ)。内股(うちもゝ)の活(くわつ)臍下(へそのした)の活(くわつ)。い
づれなりともよく学(まなび)得(え)て。卒死(そくし)の者(もの)
に行(おこのふ)べし。今 此(こゝ)にその梗概(あらまし)を示(しめす)べし。肩(かた)は
按摩(あんま)の人の脊後(うしろ)【濁点衍】へまわれば。まづ大指(おやゆび)と
次指(ひとさし)中指(なかゆび)とをかくる所の肩(かた)の肉(にく)を。
三指頭(みつのゆびさき)にて緊(きびし)く掴(つかみ)。力を極(きはめ)てぐるり
〳〵とうしろのかたへひねりかへすべし。
背(せ)は六七 椎(ずい)のあたりを。四指(よつのゆび)を屈(かゞめ)て
平手(ひらて)にて内に徹(とほる)やうにうつなり。天枢(てんすう)
は。臍(ほぞ)の両旁(りやうわき)左右へ。臍(ほぞ)より曲尺(かねざし)にて一寸
五六分のところ。左右相去こと三寸一二
分。この両旁(りやうわき)を指(ゆび)さきにて。力を極(きはめ)て
按(おす)ときには。ことの外に徹(とほり)て痛(いたみ)をおぼ
ゆるところなり。内股(うちもゝ)は。陰所(いんしよ)へ近(ちか)き。
股(もゝ)のつけねの所の肉(にく)をつよく按(おす)也。
臍(ほそ)下の活(くわつ)は。後のく【くの横に長四角】の部(ぶ)縊死(くびくゝり)の條(ところ)
にいへり。其(その)処(ところ)は。臍(ほそ)の下と陰所(いんしよ)との
正中(まんなか)にて。丹田(たんでん)といふ人の體(からだ)の中心也。

この五ヶ所の外にも。内に徹(とほ)るところ
はあれど。まづこの五ヶ所の中一ケ処(しよ)にて
も。内に徹(とほり)。頭脳(あたま)へこたゆれば。気息(いき)は出る
なり。もしこれにて息(いき)出ずば。帯(おび)をと
きて。頭面(かしらかほ)より。肩(かた)。脊(せなか)。胸腹(むねはら)。両脇(りやうわき)。肩上(かたのうへ)
より左右の手の関節(ふし〳〵)。股(もゝ)の内外(うちそと)。膝(ひざ)臏(ひさがしら)
両脚(あし)にいたるまで。壮年(としわか)の者両人にいひ付
て。関節(ふし〴〵)より肌膚(はだえ)を按摩(あんま)しながら。
摩擦(こすら)すべし。羅紗(らしや)毛氈(もうせん)などの類あ
らば。それにて摩擦(こすら)するもよし。如此(かくのごとく)惣(さう)
身(み)を揉(もみ)やはらげ。皮膚(はだえ)を摩擦(こすり)をは
りたらば。鼻(はな)の左右の穴(あな)へ。竹の管(くだ)を
さしこみ左右一 齊(ど)につよく息(いき)を吹
こますべし。または鼻(はな)をふさぎて。壮者(わかきもの)
の口を直に卒死(そつし)人の口へあはせて。息(いき)を
吹(ふき)入るもよし。または鞴(ふいご)の管(くだ)を口内へ
接(さしこみ)て。風気(かぜ)をつよく吹いるゝもよし。斯(かく)
吹入てのち。胸肋(あばら)を左右の手掌(てのひら)にて
按(おし)て。内より入たる風気(いき)をおし出(いだし)て。又

吹入るなり。かくするは胸肋(むね)の内なる肺(はいの)
蔵(ざう)の呼 吸(き)を出納(だしいれ)する機転(はたらき)の絶(たえ)たる
ものを挽回(ひきかへさ)んためにすることなれば。よくその
意(こゝろ)をえて行(おこなふ)べし。膻中(だんちう)とて両乳の真(まん)
中平常は鍼(はり)すべからざる所なれども。
卒死(そくし)の者にはふかく此所へ鍼(はり)を一寸
あまりも骨(ほね)を貫(つらぬ)き刺(さし)て。生を回(かへす)べき。
鍼科(はりいしや)にて秘伝とすることあり。これは
心臓(しんのざう)を刺(さし)て。絶(たえ)たる機転(はたらき)を再(ふたゝび)呼回(よびかへさ)ん
とするの術(じゆつ)にて。脊(せ)を打(うち)て内に響(ひゞき)
の徹(とほる)も。この心肺(しんぱい)へこたへさするためなり。
よくこれらの意を得てこれを行べし。
また鞴(ふいご)を以て。気を肛(こう)門へ吹こむか。
芩吹(きせる)の大頭(ひざら)を去(さつ)て。吸管(すいくち)のかたを肛門
へさしこみ。別(べつ)の煙管(きせる)をとりて。煙(けふり)を口
にふくみ。肛門(こうもん)へつよく。吹入るもよし。
嚏(くさめ)ぐすりには。皀莢(さうけう)。細辛(さいしん)二味の細末(さいまつ)。胡
椒(せう)の末(こ)。萆撥(ひはつ)の末。瓜蒂末(くわていのこ)。木藜蘆(くさめぐさ)の
末。白芥子末などを用ひてよし。いさゝかも

気息(いき)かよふとみば。冷(ひや)水を面(かほ)へふきかけ。
又は醋(す)を鉄器(てつき)。石 瓦(かはら)の焼(やき)たるか。炭火(すみび)に
そゝぎて。その烟(けふり)を薫(ふすべ)かくるか。醋(す)の気(き)つ
よきものに。磠砂(どうしや)を入てのまするか。天
枢(すう)。臍下(ほそのした)。または前にいふ八薔の灸な
どをするがよし。生気(しやうき)復(つき)たりしも。脉(みやく)
なほ微(かすか)にして。四肢(てあし)冷(ひゆ)ること甚しきは。
附子(ぶし)。人参(にんじん)。おの〳〵二匁。乾姜(かんきやう)。甘草(かんざう)お
の〳〵一匁に。水一合八勺入七勺に煎じ。
少しづゝのますべし。諸卒死(もろ〳〵のそくし)とも。この
旨(むね)を領解(がてん)したる後(のち)には。時(とき)に応(おう)じた
る裁量(はからひ)も出るものなり。嘗(かつ)て三歳
の女子の滞食(しよくたい)して気息(いき)の絶(たえ)たる
ものに。小 粒(つぶ)の紫円(しえん)三百 粒(りう)許(ばかり)を舌上(したのうへ)に
入て。湯(ゆ)をつよく吹入しかば。やうやく
に下降(さがり)たりと見えしが。時すぎて下(くだ)
利(り)を得て治したりしなり。これらのこと
もよく考(かんがへ)あはすべしむ【むは白抜文字】蜈蚣(むかで)に咬れ
たるも。前の犬に咬れたるものと同じ

こゝろえにてよし。蜈蚣(むかで)の毒(どく)内攻(ないこう)すれば。
舌(した)脹(はれ)出る。それには雄鶏冠血(をんどりのとさかのち)を生(いき)ながら
切て。口中にそゝぎ入て服(のま)しむれば愈る
といへり。雄黄(をわう)に。生姜(しやうが)のしぼり汁を加へ
てぬりたるも。服(のませ)たるもよし。醋(す)を加へたるも
又よし。雄黄は。諸蟲咬傷(もろ〳〵のむしのかみさしたる)に効(しるし)ある
ものなれば。いづれにも内服したるがよし。
いづれの咬傷(かみさしたる)にても。硝石または火薬(くわやく)
の類を傷所に塡て。火を点(つけ)て毒を
たゝしむることと。葛上亭長(まめはんめう)。斑猫(はんめう)の類(るゐ)
を外伝(つけ)て毒(どく)を誘出(さそひだ)すことはするがよし。
またもろ〳〵の小蟲(むし)の刺咬(さしかみ)たるは。血を
しぼりいだしたるあとへ。発燭(つけき)又は
紙條(こより)に胡油(ごまのあぶら)を蘸(ひたし)たるに火を点(つけ)て。傷所(きずくち)
へ滴(たらし)こむもよし。一 切(さい)の毒蟲(どくむし)の咬刺(かみさし)た
るに用てよき方は。雄黄(をわう)。磠砂(どうしや)明礬(みやうばん)
露蜂房(はちのす)各五分。麝香(じやかう)二分 細末(さいまつ)し
て。蜜(みつ)にてねりおきたるを。創所(きずぐち)につ
け。又さゆにて用てよし▲齲歯(むしば)の痛(いたみ)は

は【はの横に長四角】の部(ぶ)。歯(は)痛(いたみ)の條(ところ)に見えたり。むし
ばのいたみあるものは朝夕の口欶(うがひ)【嗽】に。
冷水(ひやみづ)のみを用ひ。食後(しよくこ)はもとより。いさ
さかの物をくひても。かならず冷水
にてうがひすること。久しうしておこた
らざれば。痛(いたみ)やみて。歯(は)牙 堅(かた)くなるもの
なり。もし下顎(したあご)につきたる齲歯(むしば)の
痛(いたみ)ならば。乳香末(にうかうのこ)。小麦粉(こむぎのこ)を等分(とうふん)に
あはせ。鶏子白(たまごのしろみ)と焼酎(せうちう)を加(くは)へて煉(ねり)たる
を。下顎(したあこ)の脉動(みやくのひゞき)ある所へつくべし。この
薬を顳顬(こめかみ)へつけて。よく頭痛(づつう)を治す
る効ありう【うは白抜文字】馬に咬れたるには。葱白(ねぎのしろね)
を四五寸ばかりにきりたるを束(たばね)て。
創口(きずぐち)をしきりに摩擦(こする)へし。痛(いたみ)その
まゝ愈(いゆ)るなり。また馬歯筧(すべりひゆ)をすり
つくるもよし。▲打撲(うちみ)は。はやく醋(す)に
樟脳(しやうのう)を入たるを温(あたゝ)め。布(ぬの)に浸(ひたし)て熨(むす)べ
し。血の凝渋(とゞこほり)たる所あらば。鍼(はり)にても
剃刀隅尖(かみそりのかど)にてもあさくさきて血をし

ぼり出たるがよし。そのまゝに置(おき)ても。
やがてちるものなれど。かくすれば。
ます〳〵よし。すへて酒は血を凝結(こゞら)させ。
醋(す)は血を融解(とかす)ものなるを。世間の正(ほ)
骨科(ねつぎ)が。酒を用ひて薬(くすり)を調和(ねり)てつ
くるは。こゝろえ違(ちがひ)なること也。俗人(しらうと)も
よくこのことを弁(わきまふ)べし▲打撲(うちみ)にて
気絶(きぜつ)したるも。ら【らの横に長四角】の部 雷震死(らいしんし)の條(くだり)
に記(しるし)たるごとくにて救(すくふ)べし。また仰に
ねかして其上へ跨(またがり)て。両手掌(りやうてのひら)を以て。
小腹(こはら)を。うんといふて。下(した)より力(ちから)をきはめて
上のかたへつきあぐるやうにすべし。
これも又ひとつの活(くわつ)なり。前の雷(らい)
震死(しんし)の條(くだり)にあはせ考(かんがへ)て。たがひに
これを一切の卒死(そつし)に用べし▲餓(うゑ)
死(じに)は。数日(すじつ)食(くら)はずして死ぬるなり。
気息(いき)絶(たえ)てほど遠(とほ)からぬは。熱(あつき)
湯(ゆ)に塩(しほ)少ばかりを入て。手拭(てぬぐひ)やうの
ものをいくつともなくその中へいれ。

かろくしぼりてとりかへとりかへ
臍(ほそ)のあたりよりはじめ。腹(はら)をのこり
なく蒸温(むしあたゝ)むべし。あたゝまりよく腹(はら)
の裏(うち)へ徹(とほ)れば。息(いき)出(いづ)るなり。その時(とき)
紙條(こより)にて鼻(はな)をさぐり。かろく嚏(くさめ)を
させて。味噌汁(みそしる)ありあはさず。その
中へ湯を半分ほど入て。少つゞ服(のま)
すべし。白米を煎じたる湯ならば。
もつともよし。それより程過(ほどすぎ)て。稀(うす)
き粥(かゆ)をすゝらせ。その後に白粥(しらかゆ)を
一二日の間 喫(くは)せ。三日めに飯(めし)をくはす
べし。餓人(うゑびと)を救(すくは)んとて。飯(めし)を与(あたふ)れば。
食(くら)ふやいなや死ぬるものあり。故(ゆゑ)
に凶歳(きゝんどし)に。志(こゝろざし)あるものは。よく此(この)義(わけ)を
記得(こゝろえ)て。数日(すじつ)食(しよく)を得(え)ざるものには。
濃粥(こきかゆ)なりとも。卒爾(そつじ)にくらはすべ
からず。一切 餓莩人(うゑたるもの)を救(すくふ)には。この
こゝろえあるべきことなりゐ【ゐは白抜文字】井戸(ゐど)
の久(ひさし)く廃(すて)おきたる水を汲(くま)んと

して。その毒(どく)にあたり。昏眩(めをまわし)失気(きをうしなふ)
ことあり。はやく厳醋(きのつよきす)を頭面(かほ)へ吹かけ。
口中へもいさゝかたらしこむべし。
忽(たちまち)息(いき)出(いで)て甦(よみがへる)なり。穴庫(あなぐら)の気(き)に
中(あたり)たるも。また醋(す)を用て妙(めう)に覚(さむ)る
ものなり。醋(す)はすべて窒塞(ふさがり)て生ずる
ところの戻(あしき)気(き)を解(げ)すること。これに
まさるものなければ。傷寒(しようかん)病人の
室(ねどころ)などは。土鍋(どなべ)に醋(す)を入て。やはらかな
る火(ひ)の上に煮(に)て。これを薫(かほらす)れば。
病者の為(ため)にもなり。人に伝染患(うつるうれひ)を
も免(まぬが)れて。その益(えき)はなはだ多し。
すべて欝閉(うこもり)たる所には。人にあたり
やすき気を生ずるもの也。これを
排除(はらひのぞ)んとおもふには。火を焚(たく)がよし。
井戸 穴庫(あなぐら)などは。火をたきがたけれ
ば。醋(す)を多くそゝぎ入るゝか。または
炬火(たいまつ)を下(おろし)などしてこれをはらふべし。
故に久く蓋(ふた)をあけざる穴庫(あなぐら)。井戸

などは。まづ蝋燭(らうそく)に火をつけて。内にお
ろして見るべし。忽(たちまち)消(きゆ)るものは。かな
らずこの気を生じたる也。故(ゆゑ)に炬火(たいまつ)
もよく燃(もえ)つきたるにあらねは消(きえ)安(やす)
し。常(つね)に人の住(すま)ぬ堂社(だうしや)。又は石室(いはむろ)。又
はまれにいたる別荘(べつさう)などの。常に戸ざし
たる所などは。かならずまづその戸(と)障(しやう)
子(じ)をあけはなち。風の往来(ゆきかふ)やうに
し。内にて火をたかすべしの【のは白抜文字】咽喉(のんど)腫(はれ)
痛(いたむ)證(しよう)の起因(おこり)には。さま〴〵なれど。此(こゝ)には
世に多くある所のもののみを挙(あげ)て
示(しめす)なり。まづ前(まへ)なるは。気息(いき)の往来所(かよふところ)
ののんどにて。これを喉(こう)といひ。後(うしろ)なるは
飲食(たべもの)の下降(さがる)ところののんどにてこれ
を咽(いん)といふ。喉(こう)ののんどが腫(はる)る時は。息(いき)する
に障(さはり)となり。咽(いん)ののんどが腫(はる)るときは。飲(たべ)
食(もの)の下降(さがる)に妨(さまたげ)となりて悩(なやむ)なり。今の世
の人こうひ【こうひの横に長四角】といふは。多くはこの咽(いん)にして
喉(こう)にはあらず。名義(めいぎ)さへ違(たがひ)ぬれば。療治(りやうぢ)

をすることも。また疎漏(やゝゐへはなし)なること多し。この
咽(のんど)の痛(いたみ)の最初(さいしよ)ならば。速(はや)く唐(から)の甘草(かんざう)
一味を。一 貼(てふ)三匁ほどにして。水一合二 勺(しやく)を
六勺に煎(せん)じ。二三 貼(てふ)も用れば。痛(いたみ)忽(たちまち)
愈(いゆ)ること。おどろかるゝが如(ごと)きことあり。
これを甘草湯(かんざうとう)といふ。もしやゝ腫(はれ)いで
たりと思ふものには。生乾(しやうぼし)の桔梗(きゝやう)一匁
五分加へて用べしこれを桔梗湯(きゝやうとう)と
いふ。これにて大かたはいゆるものなり。
もし腫(はれ)つのり膿(うみ)潰(ついえ)て。痛(いたみ)甚しく。
ものいふこともならずして悩(なやむ)ものには。
厳醋(きのつよきす)一合に。半夏(はんげ)の細末(さいまつ)五分。鶏卵(たまこ)
一ツの白みばかりをとりわけたるをいれ。
茶筌(ちやせん)にてかきたてゝ。よく混和(まじり)たる
を見て。火にのぼせ。一沸煮(ひとにたちに)たちた
らば火をおろし。絹(きぬ)にてこして。冷(ひやし)た
るまゝに少しづゝのむなり。これ古(いにしへ)の
苦酒湯(くしゆとう)を。予が意(こゝろ)を以て。今に用ひ
たるところの方なり。また醋(す)五勺 許(ばかり)に。

磠砂(どうしや)七八分を融化(とか)してしきりに含(ふくみ)て。
咽(のんど)にいたらしめてのち。呑下(のみくだし)たるもよし。
あるひは磠砂(どうしや)。枯礬(やきみやうばん)等分(とうぶん)を細末(さいまつ)して。竹(たけの)
管(くだ)にて咽(のんど)の中へ吹入るゝもよし。此三方は。
疱瘡(はうさう)などの。咽(のんど)に多く発(でき)て。声唖(こゑかれ)。飲食(たべもの)
のとほりがたきものにも。黴毒(かさけ)にて咽(のんど)の
腐蝕(くされ)たるものにも用て。効(しるし)を得(え)たること
まゝ多し。大 便(べん)秘結(ひけつ)するものには。涼膈散(りやうかくさん)。
又は調胃承気湯(てうゐじようきとう)などゝいふ薬を用る
ことあり。もし病勢(びやうせい)劇(はげし)く。熱(ねつ)燬(やく)がごとく。
咽(のんど)の内外 腫痛(はれいたみ)て。堪(たへ)がたきものは。蜞(ひる)
多くとりて。項(うなじ)より咽(のんど)のまはりへ。四五十も
つけて血を吸(すは)すべし。また傷寒(しようかん)にて。
下利(くだり)甚(はなはだ)しく。脉(みやく)も微(かすか)にして絶(たえ)だえ
になりて。咽(のんど)の痛(いたみ)甚しきものは。通脉(つうみやく)四
逆湯(ぎやくとう)といふて。参附(じんふ)の大 剤(ざい)を用て。救(すくふ)
ことを得(うる)ものあり。その證(しやう)にも。咽(のんど)の
壊(くされ)燗(たゞれ)て。飲食(たべもの)の下降(さがり)かぬるやうに
なりたるものも。まゝあるもの也。もし

それらに血(ち)をとり下 剤(ざい)などを用れば。
たちまち人を殺(ころ)す。おそろしきこと也。
今の世の和蘭毉者(おらんだいしや)に。まゝこの弊(ついえ)多
ければ。素人(しらうと)もよく心得(こゝろえ)おくべきこと也。また
婦(ふ)人の病に。咽(のんど)になにか物のかゝりたる
ごとくおぼえて。まゝ痛をなし。あるひは腫(はれ)
ありて。嚥下(のみくひ)を妨(さまたぐ)ことあり。これは前の
咽(のんど)の痛(いたみ)とは大に相違(さうゐ)の證(しやう)にて。混(こん)ずべ
からざるもの也。これには半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
といふて。いたつて平穏(やはらか)なる剤(くすり)なれ
ども。妙(みやう)に効(しるし)ある方あり。その方は。半夏(はんげ)
一匁六分。厚朴(こうぼく)六分。茯芩(ぶくりやう)八分。紫蘇(しそ)の
葉(は)四分。合せて三匁二分を一 貼(てふ)とし。生
姜三片をくはへて。水一合二勺を六勺に
煎(せん)じ。わづかに五六貼を用ればいゆる
なり。これらもかの蘭毉(おらんだいしや)が。瀉血(しやけつ)などを
して妨碍(さはり)となりしことを見たり。かく相(あひ)
似(に)て異(こと)なるものもあれば。忘意(めつた)なる
ことはせぬがよし。つゝしんで思ふべきことならず

や。又小 児(に)に馬脾風(ばひふう)といふて。息(いき)の往来(かよふ)
ところの喉(こう)ののんど。にはかにつまりて。
ひい【ひいの横に長四角】といふて息(いき)出(いで)ず。大に悩(なやむ)ことあり。これ
には硝石(せうせき)一匁。枯礬(やきみやうばん)五分。銀朱(しゆ)三分の三
味を細末(さいまつ)して。竹の管(くだ)にて喉頭(のんど)へ吹込(ふきこみ)。
新汲水(くみたてのみづ)を口うつしに吹こむか。または器(うつは)
に入て呑(のま)すべし。妙(めう)に効(しるし)あるもの也。
この薬を用るには。かならず水にて送(おくり)下
すべし。湯は一切もちふべからず。今 和(お)
蘭毉士(らんだいしや)の為(する)ところを看(み)るに。此 證(しよう)に。
緩汞(かろめる)をのませ。蜞(ひる)をつけて血(ち)を吸(すは)すれど
も。これ知見(みること)の至(いたら)ざることにて。やゝも
すれば却(かへつ)てこれを損(ころす)なり。今 此(こゝ)に記(しるす)と
ころの方の効(こう)の速(すみやか)にして。百 発(ほつ)百中
なるにはしらざるなり▲咽(のんど)へ芒(のぎ)のたち
たるは。しきりに餹(かたあめ)をくふべし。膠飴(みづあめ)
もよし。又 紙條(こより)を鼻(はな)へさし。くさめして
もぬけることあり。魚骨(うをのほね)の哽(たちたる)も又くさ
めにていゆることもあれば。心得(こゝろえ)べし。

▲咽(のんど)へ粢(もち)などのかゝりて。いかにすれども
下りかぬることあるを。扇(あふぎ)のほねを紙(かみ)に
つゝみて。つきいれよといふことをいへど。これは
いたづらに咽(のんど)をいためて効(こう)なきこと多き
もの也。乾芋梗(いもがら)にておし下せといふは。
扇(あふぎ)のほねにはまさりたりとおもはる
れど。それらよりも油をのみて滑(すべら)せて
下すにまさりたることはあるべからず。
これらにはわづか一二勺をのみて効を
うるなり。鹿角菜(ふのり)を熱湯(あつきゆ)にもみて
滓(かす)をしぼりすてたるにても。団餅(たんご)
粢(もち)などの咽にかゝりたるは下るなり。
かゝることはたゞ速(すみやか)に行(おこな)ふをよしとす
れば。この意(こゝろ)を得(え)てのちは。時に応(おう)じ
ての裁酌(さりやく)あるべきことなり▲上衝(のぼせ)つよ
く肩強(かたはり)。眩運(めまひ)。頭痛(づつう)などして。旅行(りよこう)に
艱(なやむ)ことあり。大 便(べん)通(つう)じなきより起(おこる)と
しらば。下 剤(ざい)を用て下したるがよし。
されどあまりに下しすぐれば。心下

却(かへつ)てつかへ。上衝(のぼせ)のつのることあるもの也。
其時は。黄連(わうれん)。胡黄連(こわうれん)。熊膽(くまのゐ)。猪膽(ちよたん)。牛膽(ぎうたん)
などまたは黄蘗(わうばく)皮を煎(せん)じつめたる。
陀羅助(だらすけ)などやうの。味苦(あぢはひにが)き物を用れば。
痞(つかへ)はいゆるなり。もし上衝(のぼせ)つよく。卒(にはか)に
昏冐(うつとうとなり)失気(きをうしなは)んとせば。はやく冷(ひや)水一 盃(ぱい)
を一 息(いき)にのむべし。むかし日本武尊(やまとたけのみこと)が。
近江(あふみ)の膽吹(いぶき)山にて。雨をしのぎ霧(きり)をお
かして。山を陟(こえ)ゆきたまひしとき。山の
瘴気(あしきき)にあたりたまひ。うつとりと酔(よへ)
るがごとくになり給ひし時。麓(ふもと)の清(し)
水を飲(のみ)て覚(さめ)たまひしといふは。水の
効(こう)あるがゆゑなり。婦人(をんな)の児(こ)を産(うみ)
おとすと。そのまゝに冷水一 盌(ぱい)をのめば。
昏眩(ひきつけ)て死(し)ぬる患(うれひ)決(けつ)してあること
なきものゆゑ。賀川家には黒薬と
いふて。麻(あさ)の嫩苗(わかなへ)を焼(やき)たるを。胞衣(のちざん)の
いまだ下(おり)ぬうちに。冷水にて服(のま)するは。
麻(あさ)の苗(なへ)に効あるにはあらで。水に効

あるをたのむなり旅行(りよこう)在陣(ざいぢん)の下 剤(ざい)
には。加 減消石大円(げんせうせきだいゑん)を製(せい)して持ゆく
べし。その方は。唐大黄(からのだいわう)八両。官製人参(たねにんじん)
六両。精製消石(せい〳〵せうせき)四両。唐甘草(からのかんさう)三両。この
四味を細末して丸となす。又唐大黄
百匁に。水三升入て一升に煎じ。滓(かす)をこ
して。再(ふたゝび)火(ひ)に上せ。五合ばかりになりた
るとき。精製消石(せい〳〵せうせき)五十匁。白蜜(はちみつ)百匁
を入て煮(に)たるを。重湯(りもん)にて煮(に)つめて。
かたき飴(あめ)のごとくにして。器(うつは)にいれて
蓄(たくは)へ。用るときに。湯にて融化(とかし)て用る
もの。殊(こと)に良とすく【くは白抜文字】霍乱(くわくらん)は。食傷(しよくしよう)の
吐瀉(はきくだし)甚しく悶乱(もんらん)するをいふの名にし
て。別に霍乱(くわくらん)といふ病のあるにはあらす。
暑気あたりのやうにこゝろうる人あれ
ども。これは四時にある病にて。暑邪(しふじや)に
はあらず。暑(しよ)は正(たゞしき)気(き)なれば。妄(みだり)に人に
あたるものにあらず。然(しか)るに暑月 夏(なつ)
秋(あき)の間(あはひ)にこの病の多くある所以(わけ)は暑を

凌(しのが)んとて冷(つめたき)物を多くくらひ。恣(ほしいまゝ)に水
を呑(のみ)。または酒を飲(のむ)にも。冷物(つめたきもの)を肴(さかな)とし
ておほくくらひ。その上に。樹陰(こかげ)に涼(すゞみ)を
納(とり)。風のとほる所に仮寝(うたゝね)して。身體(からだ)を
冷(ひや)し。夜気(やき)に侵(おか)されなどして。腠理(はだえ)の
開逹(しまり)あしくなり。内に迫(せまり)て発(おこ)る病(やまひ)
なれば。畢竟(つまり)は冷気(ひえたるき)に中(あたり)て病となる
ものにて。暑熱(しよねつ)に傷(やぶ)られたるものには
あらず。此(この)病(やまひ)甚しくて。上に吐(はき)下に瀉(くだし)
て止(やま)されば。たちまち元気 脱(ぬけ)て。卒(にはか)に
死ぬる。怖(おそろ)しき病なり。すべて病は。皆(みな)
手前(てまへ)ごしらへなるものなれど。殊(とりわけ)この
病は。至(いたつ)て不養生(ふようしやう)なる人にある病にて。
その小なるものを養(やしなひ)て。大なるものを
忘(わする)る。小人の患(うれふ)るところにして。道にこゝ
ろざすものにあるべき病にはあらざる也。
さて吐瀉(はきくだし)甚しく。四肢(てあし)も厥冷(ひえあがり)て。脉(みやく)も
微(かすか)になりたらば四逆加人参湯(しぎやくかにんじんとう)といふ方
を用べし。その方。唐附子(からのぶし)一匁二分。人参(にんじん)一匁

もしくは二匁。乾姜(かんきやう)八分。甘草(かんさう)六分。四味合せ
て三匁六分。もしくは四匁六分に。水一合五勺
入て六勺に煎じ。連(つゞけ)て二三 貼(てふ)を服(のま)すべし。一
もし下利(くだり)は甚(きせる)こともなく。吐逆(むかひけ)劇(はげしく)して
止(やみ)かねるには。甘草(かんざう)。乾姜(かんきやう)各(おの〳〵)一匁。二味合せ。
て二匁に。水一合入て五勺に煎(せん)じ用べし。
これを甘草乾姜湯(かんざうかんきやうとう)といふ。至(いたつ)て軽(かろ)きもの
には。益智飲(やくちいん)とて唐木香(からのもくかう)。唐 呉茱萸(ごしゆゆ)。唐
益智(やくち)各六分ばかりを。水一合入 沸(にたち)たらば。火
より下し滓(かす)をこして用るもよし或(あるひ)は呉(ご)
茱萸(しゆゆ)を去(さり)て青葉藿香(あおばのかくかう)を加(くは)へ用てよし。
下利(くだり)あるものには。唐 良姜(りやうきやう)を加(くはへ)たるも
よし。建中散(けんちうさん)もまた用べし。もし吐下(はきくだし)
甚しく。薬を煎ずる間もいかゞと
思(おもは)るゝものには腹(はら)の天 枢(すう)に灸すべし。
これは臍(ほそ)をさること。大人の體(からだ)にて。曲尺(かねざし)
一寸二三分。左右 相去(あひさる)こと二寸五六分の
所の穴処(けつしよ)也。これを確(たしか)にせんとおもはゞ。
紙條(こより)か稲稗(わらしべ)にて。乳(ちゝ)と乳とのあひだを

とり。それを八ツに折(をり)その半(なかば)を去(すて)。のこ
りのなかばをふたゝび二ツにをりて。折目(をりめ)を
臍(ほぞ)へあて。左右の端(はし)に点(てん)する也。この
灸(きう)する所(ところ)は。前(まへ)の雷震死(らいにうたるゝ)ところに出せ
る。卒死(そつし)のものを救(すくふ)べき活法(くわつほふ)にも用る
うちの一ケ所にて。よく響動(ひゞき)の内に
応(こたへ)るところなれば。霍乱(くわくらん)の吐瀉(はきくだし)はな
はだしきにも。傷寒(しようかん)の陰證(いんしよう)にも。用て
薬に優(まさ)れる即効(そくこう)は。数(す)十年来 試(こゝろみ)て知
ところなり。前にいふ八花の灸も又
よろしければ。いづれなりとも速(すみやか)に灸
するをよしとすることなり。また吐(はき)も
なく瀉(くだし)もなく。心下苦迫(みづおちへさしこみ)。腹痛(はらいたみ)。悶(もだ)
乱(え)。胸膈(むなもと)へひしとつまりて。息(いき)もつき
がたきやうならば。指(ゆび)をさし入させて。
吐気(はきけ)をさそふて見ても吐(はか)ざるは。まづ
鳥の羽のさきへ油を少しつけて。深(ふか)く
咽(のど)のおくをさぐり見るべし。夫にても
吐(はく)ことなくば。瓜葶(くわてい)といふて。越前(ゑちぜん)より

出るまくわ瓜(うり)のへたあり。薬店に
まかすれば。そのまゝ末(こ)にすれど。茎(くき)の
つきたる所は効(こう)なければ。切すてゝ。蒂(ほぞ)ば
かり三分に生(なま)なる赤小豆(あづき)を等分(とうぶん)
にあはせて。細末にし。砂糖湯(さとうゆ)に入。
かきたてて用べし。苦瓢(にがふくべ)の実(み)。茶(ちや)の
実(み)も又よく吐をもよふすものなれば。
瓜蒂(くわてい)なきときは用べし。分量(ぶんりやう)瓜蒂(くわてい)
より少し多くしてよし。その外に
吐(はか)すべきものは。箱根(はこね)なる藜蘆(りろ)の
類(るゐ)なる嚏(くさめ)ためぐさ。藜蘆(りろ)。木藜蘆(もくりろ)
のるゐは。品は劣(おと)れども代用してよし。
和蘭(おらんだ)より舶来(もちわたる)ところの吐根(とこん)といふ物も。
瓜蒂(くわてい)とほゞ同じ力のものなれば。これも
代用してよし。其外に劇(はげし)き吐薬(はきぐすり)はあ
れど。素人(しろうと)に用がたし。蒼蠅(あをばい)の頭(かしら)はわづ
かに三ツばかりを用ても。吐を誘(さそふ)もの也。
人屎(くそ)よく吐を催(もよふす)ものなれど。不潔(きたなき)もの
ゆゑ。人も厭(いとへ)ば。用ひがたけれど。いづれをも

得(え)かたき時には用べし。古人は牛屎(うしのくそ)にて
吐せたることをいへば。これもこゝろえおくべし。
屎(くそ)などはさもなりがたけれど。すべて吐
薬は。砂糖湯(さたうゆ)か大棗(なつめ)などの煎じ汁にて
用るがよし。左なければ。よく胃府(ゐふくろ)に落(おち)
つかぬなり。吐薬を用たらば。極(きはめ)て熱(あつき)
湯(ゆ)をしきりにのむべし。吐ても猶(なほ)湯(ゆ)を
のめば。吐を催(もよふす)ことはやければ。湯をたび〳〵
呑(のむ)がよし。すべて熱物(あつきもの)は吐をさそひ。冷物(つめたきもの)は
吐をとむるゆゑに。吐剤(はきぐすり)を用ては。水を
いむなり。吐つくしたりとみば。消(せう)石大
円(ゑん)。大黄煉(たいわうれん)の類(るゐ)。または調胃承気湯(てうゐじようきとう)
を用て下すべし。吐後(はきたるのち)腹痛(はらいたみ)やまず。
宿物(とゞこふりもの)なほあるものは。備急円(びきふゑん)といふ
丸薬を用てくだすべし。これは大黄(だいわう)。
乾姜(かんきやう)。巴豆(はづ)の三味(み)を等分(とうぶん)にして細末(さいまつ)
し。火にて煉(ねり)つめたる蜜(みつ)にて丸ず。糊(のり)
をすこしまぜてもよし。大黄(だいわう)。乾姜(かんきやう)は。
十 倍(ばい)にしても。巴豆(はづ)には大に力おとり

ぬれど。巴豆(ばづ)ばかりにては。丸薬になり
がたきゆゑに。隊伍(くみあはせ)たるもの也。これを
うちくだきて用れば。吐をも誘(さそひ)。下利(くだり)
をももよふすものなれども。胃口(むね)に停(とゞ)
滞(こほり)たるものは。吐(はか)せて後(のち)に下すが順(じゆん)な
れば。まづ吐剤をあたへて。のちに下す也。
備急円(びきふゑん)は。在陣(ざいぢん)羇旅(たびぢ)などには用意して。
人の危急(ききふ)を救(すくふ)べき方なり。この丸子
おほかた三分ばかりを用れば瀉(くだる)也。
なるたけ小さく丸じたるがよし。
水腫(すいしゆ)。脚気(かくけ)の衝心(しやうしん)。または肥前瘡(ひぜんさう)内攻(ないこう)
して水腫(むくみ)を発(はつ)し。やがて衝心(しやうしん)する
ものにも。これを用て水を大に下して
治することあり。これも又こゝろえべし。
霍乱(くわくらん)の吐下なきものも。卒爾(そつじ)には
じめより吐下の峻剤(つよきくすり)は用べからず。
平常(へいぜい)壮実(たつしや)なるものにて。よく〳〵苦(くる)
悶(しむ)を観決(みさだめ)ても。まづ羽をもつて咽(のんど)を
さぐり。または生熟湯(せいじやくとう)とて熱湯(ねつとう)と水

とを各半(はんぶん)にあはせ。それへ塩を少し
入たるをのませて。吐を誘(さそひ)などして
も。吐がたきを見てのちに。吐下の薬は
用べし。すべての病は。人の體(からだ)におのづ
からこれを排除(はらひのぞく)べき力用(はたらき)あるもの
なれど。その力の足(たら)ざるところを助(たすけ)ん
が為(ため)に。用る鍼(はり)灸(きう)薬(くすり)なれば。まして
素人(しろうと)などの。周章(あはて)て忘意(めつた)なることを
せんより。なるべきたけは。自然(しぜん)にまか
せたるがよし。建中散(けんちうさん)といふは。乾姜(かんきやう)。桂(けい)
枝(し)。唐木香(からのもくかう)。唐 良姜(りやうきやう)。唐 縮砂(しゆくしや)。丁子(てうじ)各(おの〳〵)等(とう)
分(ふん)。唐呉萸(からのこしゆゆ)半減(はんげん)。この七味を細末に
して。気(き)の洩(もれ)ぬ器(いれもの)へいれて。旅行(りよこう)に用
意(い)し。もちふる時(とき)は。一 貼(てふ)二匁ばかりを
沸湯(にえゆ)にかきたてゝ服(のむ)なり。この薬は。
感冒の汗をとり。暑気(しよき)あたりの下利(くだり)
をとめ。痢病(りびやう)。霍乱(くわくらん)。疝気(せんき)積(しやく)つかへ。婦人
の血のみちなどにも効あれば。いたつ
て便利(へんり)の薬剤(くすり)なれば。霍乱(くわくらん)のかろき

ものは。おほかたはこれのみにてよし。
また霍乱(くわくらん)にて用べき薬の一切なき
ときには。生姜二三 顆(つ)ばかりを剉(きざ)み。
湯に煎じても用ひ。又は研(すり)て汁を
しぼりて湯に入て用るもよし。又は
醋(す)へ塩(しほ)を一 撮(つまみ)入てのまするもよし。
白梅(うめぼし)の大なるもの五ツ六ツ。水煎じて
用る方もあり。細茶(よきちや)と乾姜(かんきやう)と等分(とうぶん)
にして。細末したるを用る方も。又は
芥子末(からしのこ)をのませ。湯にてねりて。臍(ほそ)へ
塗(ぬり)つくることも。皆(みな)古(ふるき)書(ほん)に見えたる
ことにて。効あるべきものなれば。記得(こゝろえ)
おきて急(きふ)を救(すくふ)助となすべきなり。
霍乱(くわくらん)吐利(はきくだし)止(やみ)てのちは。米粥(かゆ)を稀(うす)くして。
少つゝ喫(のま)せ。四五日の間は。決(けつ)して飽食(くひすぎ)
さすべからず。すべて消化(こなれ)あしきもの
は禁(いみ)たるかよし▲縊死(くびれしに)たるはみだり
にその縄(なは)を断(きる)べからず。あはてゝ縄(なは)
を断(きら)んとすれば。そのはずみに縄(なは)が締(しまる)

ゆゑに。一 段(だん)つよく縊(くびる)れば。活(いく)べき者(もの)も。
息(いき)止(とま)りて死ぬるなり。故に台(だい)にすべ
きもの。さしあたりてなくば。畳をいくつ
もかさね敷(しき)て。縊人(くびれたるひと)の足(あし)の平(たいら)け
とゞくまでにして。一人は縊人(くびれびと)の後(うしろ)へ
まわり。両手の指(ゆび)を組合(くみあは)せて。臍(ほそ)の
下をしかと抱(かゝへ)て。上のかたへもち
あぐるやうにして。そのまゝに手をはな
たず。一人は利刀(きれるはもの)をとりて楷子(はしご)へ登(のぼ)り
て。縄(なは)を断(きる)ときに。臍(ほそ)の下を抱(かゝへ)たる者(もの)と。
たがひに声(こゑ)をかけて。縄(なは)をたつと。
臍(ほそ)の下を持(もち)あぐると。すこしも先後(せんご)
なきやうに。うんと力を入て。臍(ほそ)の下を
抱(かゝへ)たるまゝに。足(あし)を踏(ふみ)とめて。上のかたへ
引あぐる也。これも券法家(やわらとり)の活(くわつ)の一ツ
なれば。組合(くみあは)せたる指(ゆひ)にて力を入て。
つよく上のかたへ擪(おす)ものが。内へ徹(とほ)る
やうにすれば。この時 縊人(くびれたるひと)おほかたは
一 息(いき)はつとつきて息(いき)出(いづ)るなり。さて

臍下(ほそのした)を抱(かゝへ)たるもの。其まゝに立て。少し
も動(うごか)ずこらへゐるなり。縄(なは)を断(たち)たる
ともに。畳(たゝみ)もしくは台(たい)の上へあがりて。
手を縊人(くびれびと)の首(かしら)へそえて。身(み)のうごか
ぬやうに。たがひに力をあはせてそろ
〳〵と畳(たゝみ)の上へ坐(すは)らせて。さて臍下(ほそのした)
を抱(かゝへ)たる手を離(はな)し。項後(うなじ)頸(くび)すぢの
あたりを大 指(ゆひ)と次指(ひとさし)中指(なかゆび)にて。しかと
掴(つかみ)揉(もむ)ことやゝ久くして。内に徹(とほり)て。縊(くびれ)
者(びと)の顔(かほ)をしかむるほどにすべし。それ
より両 肩(かた)の真中(まんなか)の肉(にく)をつかみひね
りかへすこと。雷震死(らいしんし)の條(ところ)にいふが
ごとくにしてのち。脊(せな)の六七 推(すい)のあた
りを右手(みぎのて)の指(ゆび)をかゞめ《割書:手をかくの|ごとくにして|うつなり》【手の絵】《割書:左|脊|右》
平(たひら)にして。したゝかにうつべし。これ
にて正気(しやうき)つくなり。この時 顔(かほ)へ水を
多く吹かけて。嚏薬(くさめくすり)なくば。紙條(こより)を
鼻(はな)へふかくさし入て。くさめをさすべし。
もしこれにて息(いき)出(いで)ずば。口をあはせて

息をつよく吹入て見るべし。息気(いき)出
ざるうちは。一切薬は用べからず。却(かへつ)て
噓吸(いきのかよひ)を止て。死を招(まね)くこと。前にいへる
がごとくなればなり。再(ふたゝび)肩井(けんせい)天枢(てんすう)内(うち)
股(もゝ)などの活(くわつ)法を施(ほどこ)し。鞴(ふいご)を用て気を
つよく吹入。胸肋(あばら)を按(おし)て気をかへし。
または肛門(こうもん)へふいごを接(さし)て風気を吹
入るか。煙草(たばこ)を吹入るか。すべてら【らの横に長四角】の部
雷震死(らいしんし)の條(くだり)にいふ所を照(てら)し合(あはせ)て
試(こゝろむ)べし。縊(くびくゝり)て時を過(すぐ)れば。咽頭(のんど)のあたりへ
血が集(あつまり)て凝結(こる)ものなれば。三稜鍼(さんりやうしん)を
乱刺(おほくさし)て。角子(すいふくべ)をかけて血を吸せてみ
るべし。血出ればかならず甦(よみがへる)なり。少し
にても気息(いき)のかよひありと見ゆる
ことを。前にいふ燈心(とうしん)。鳥(とり)の羽(は)。または蝋(らう)
燭(そく)の火のうごくにて診(うかゞひ)知(し)らば。頭上(あたま)
の正中(まんなか)百会(ひやくゑ)のあたりへ二三が所(しよ)。臍(ほそ)
の両 旁(わき)天枢(てんすう)などの灸(きう)をも灼(すへ)て見る
べし。すべてかゝる治法(ぢはふ)はあはてゝ

行(おこなふ)ことなく。心 静(しづか)に。愛隣(あはれみ)の情(こゝろ)を専(もつはら)に
して。あら〳〵しからぬやうにとりあつ
かふべし。されど舌(した)伸出(のびいで)て。口より涎(よだれ)を
流(なが)し大 便(べん)洩(もれ)出るものはすくひがたし
▲折傷(くじき)は。骨臼(ほねのつがひ)の脱(ぬけ)たるところを。引ぱり
曳(ひき)のばすが。正骨科(ほねつぎ)の極意(こくい)の秘伝(ひでん)なり。
肩(かた)の骨(ほね)なれば。下へひくか。うしろへとり
前へ廻(まわ)して引やうにするか。肘(かひな)は左の
手(て)を肋骨(あばらぼね)へかけて。右の手にてひつ
ぱるか。いづれ骨節(ふし〴〵)にても。此こなたで引ば。
あなたでかゝるものなることを知得(こゝろうる)時(とき)は。
身體(からだ)の中に接(つげ)ざる骨(ほね)はなし。かく正(ほね)
骨(つぎ)といふものは。一 言(ごん)にて秘訣(ひけつ)は尽(つく)せ
るものなれば正骨科(ほねつぎ)の弟子をいとふは。
外に伝(つたふ)べきことのなきがゆゑ也。骨節(ふし〴〵)が
はづれたらば。よくこの義(わけ)を領会(がてん)して
速(すみやか)にこれを療治(れうぢ)すれば。さして腫(はれ)も出
ず。そのまゝに愈(いえ)て。素(もと)のごとくになるも
のなり。醋(す)は血を融(ほど)き。酒は血を凝(こら)すもの

なれば。すべて打撲(うちみ)折傷(くじき)は醋(す)に樟脳(しやうのう)
を入たるを。すこし温(あたゝ)めて熨(むし)たるがよし。
然(しか)るを。正骨科(ほねつぎ)が。酒を用て貼薬(つけぐすり)など
を調(とゝのへ)て用るは。こゝろえ違(ちがひ)也。また臂(ひぢ)
肘(かひな)股脞(もゝはぎ)などの骨。もし折(をれ)たるときは。
木綿(もめん)を醋(す)に浸(ひたし)たるを以て。いくへとも
なくまきて。黄栢(わうばく)の皮(かは)の厚(あつ)き物を
熱湯(ねつとう)に漬(つけ)おきたるにてつゝみ纏(まとひ)て。
又そのうへよりかたくまきて紮(くゝり)おき。
股脞(もゝはき)ならば。大小 便(べん)も寝(ね)たるまゝにて
するやうにし。手ならば。食事(しよくじ)も人に
餌(やしな)はせて。すこしもうごかさぬやう
にして。二三日をすぐれは。おのれと接続(つげ)
て。十日あまりにて素(もと)に復(ふく)する。天地(むすぶの)
造化(かみ)の機関(からくり)の至妙(しめう)なること。実(げ)に驚(おどろ)か
るゝごときもの也。かく正骨科(ほねつぎ)の秘訣(ひけつ)を
みだりに記(しるし)ぬるも。彼(かれ)に対(たい)してはいかゞ
なることにあれど。旅(りよ)中などにて。不慮(ふりよ)
の厄難(さいなん)に遇(あふ)ことあるものゝ為(ため)に。かく迄(まで)

にはいへるなり。近年 刊(かん)行の軍中備(ぐんちうひ)
要救急摘方(ようきうきふてきはう)といふ書(しよ)に。俗家(しらうと)に示(しめさ)ん
とて。正骨(ほねつぎ)の図(づ)を出したれば。それらを
見てこれをこゝえおきて。急(きふ)を救(すくふ)べきこと也
▲鉄(てつ)の釘(くぎ)を口に含(ふくみ)たるを。誤(あやまつ)て呑(のみ)たるに
は。生(なま)の韮(にら)の葉(は)をくふべし。韮(にら)の葉(は)釘(くぎ)をつゝ
みて出る。こゝを以て釘鍛冶(くぎかぢ)の家(いへ)には。かな
らず韮(にら)を蓻(うへ)おくといへり。此(この)物(もの)の釘(くぎ)に
かゝる効(こう)あれば。鉄(てつ)の鍼(はり)を呑(のみ)たるにも又
必効あるなり▲蜘蛛(くも)に咬(か)れたるにも血を
しぼりいだすことは。犬咬毒(いぬにかまれたる)にいふがごとくに
して。薤白(にんにく)をすりて貼(つく)べし。後の壁宮(やもり)の
貼薬(つけぐすり)も。また用てよし。青蜘蛛(あをぐも)もつとも
毒(どく)あり。西虜(いこく)にはこれを毒烟(どくえん)に用ふといへり
や【やは白抜文字】箭(や)の肉中(にくのうち)に入て出がたきには。前の
竹木刺(とげ)の條(くだり)に出せる蟷螂(たうらう)の貼薬(つけぐすり)よし。松(まつ)
葉(ば)の黒焼も効あり。いかにもふかく入て
出がたきは。肉(にく)を切ひらきて出すべけれど。
おほかたは蟷螂の貼薬(つけぐすり)にて効あるなり

▲湯火傷(やけど)には。鶏卵(たまご)を摺盆(すりばち)にて摺(すり)て胡(ご)
麻(まの)油をよき程(ほど)にあはせてぬりつくべし。
又かねて製(こしらへ)おきて。湯盪(ゆやけど)にも火傷(ひやけど)にも
用て効のすぐれたる方は。鶏卵(たまご)六七十 個(こ)を
湯煮(ゆで)て。白(しろみ)をさり。黄(きみ)ばかりを。炒鍋(いりなべ)にて
そろ〳〵と炒(いる)時は。油出るとき。油搾(しめぎ)なく
ば。細布にて濾(こし)て油をとり。壜(とくり)に入て蓄置(たくはへおき)。
これを塗(ぬり)つくるなり。これを湯火傷(やけど)の最(さい)
上の薬(くすり)とす。雲丹(うに)を水にてときてぬるも
効あり。やけどの至(いたつ)て軽(かろ)きものは。火の上に
かざせば。しばらく痛(いたみ)こらへよくなる
もの也。又は稿灰(わらばい)を多く水にかきたて
たるを。布にてこし。その水の中ヘ浸(ひた)
しおけば。痛(いたみ)軽(かろ)くなるなり。又 惣身(そうみ)焼(やけ)
爛(たゞれ)たるは。酒樽(さかだる)の中ヘ髁(はだか)になりて暫(しばら)く
浸(ひたり)ゐるをよしとす。重(おも)きものもかく
すれば。火毒 内攻(ないこう)して死(し)ぬる患(うれい)を免(まぬがる)べし。
此外に湯火傷(やけど)に効(こう)ある方は。蛤(はまくり)の生汁(なましる)
にて。蒲黄末(ほわうのこ)を煉(ねり)てぬりつくること。老黄瓜(きうり)

をすりてしぼりたる水をぬりつくること。
又 牛糞(うしのふん)の新(あらた)なるものを。鶏卵(たまご)にあはせ
てぬること。また胡麻(ごま)をすり末(こ)にして貼(つくる)こと。
また葱白(ねぎのしろね)を搗爛(つきたゞらか)して。蜂蜜(はちみつ)をくはへて。
膏薬(かうやく)の如(ごと)くにしてつくること。白亜(たうのつち)を鶏卵(たまご)
にてねりあはせて。樟脳(しやうのう)を少しくはへ。
胡麻の油をも入て。つくべきほどにして
用ること。竃中黄土(かまどのしたのやけつち)の細末(こ)を。よく水に
煮(に)たるを濾(こし)てぬること。大 黄(わう)の細末(こ)を
水にねりてつくるなどは。いづれも理(ことはり)
あるものなれば。時(とき)に応(おう)じて撰(ゑらみ)用べし。
もし身熱(みのねつ)甚しきものは。前に出せる。調(てう)
胃承気湯(ゐじやうきとう)の類(るゐ)を用て。一たびは下し
たるがよし。もし腐爛(くされたゞれ)てあしき臭(にほ)
気(ひ)あるものは。樟脳(しやうのう)を焼酒(せうちう)に入て。火に温(あたゝ)め。
布に浸(ひた)して熨(むし)たるがよし。又は。石灰十匁。磠(どう)
砂(しや)五匁を焼酒(せうちう)に浸(ひた)し。しばらくおきて滓(かす)を
こしさり。火に温(あたゝめ)て熨(むす)もよし。火毒もし内 攻(こう)
すれば死にいたることもまゝあれば。かねて

こゝろえべきことなり▲壁宮(やもり)に咬(かま)れた
るは。血を搾(しぼり)出したるあとへ。磠砂(どうしや)。雄黄(をわう)
二味を研末(こな)にしたるを貼(つけ)てよし。この
薬は諸蟲咬傷(さま〴〵のむしのさしたる)に用べしま【まは白抜文字】蝮蛇(まむし)に咬(かま)
れたるは。其 害(がい)犬毒より甚しく。且(かつ)速(すみやか)
なれば。その心得あるべきこと也。これも前の
犬毒の條(くたり)にいへるごとく。咬(かみ)たる牙歯(は)の
涎(よだれ)が。人の血肉に混(こん)じ。はびこりて周身(しうしん)
へつたへて害(がい)となり。甚しきは死に至(いた)る
ものなれば。速(すみやか)にその毒(どく)を去(さる)ことを第一と
すべし。蝮蛇(まむし)の咬(かみ)たる創(きず)口は。ちいさければ。
必(かなら)すまづこれを切開きて後に。血を搾(しぼり)
出て。水にてあらふことは。犬咬傷(いぬのかみたる)にいふ
が如くすべし。ことに毒の蔓延(はびこる)こと
いたつて早き物なれば。まづ咬(かま)れたる
手にあれ足にあれ。創(きず)よりやゝ上の方(かた)
を木綿(もめん)をさきてかたく紮(くゝり)て。その
弥蔓(はびこる)をふせぐべし。人の屎(くそ)をつけて
大なる艾(もぐさ)を灼(すへ)るか。葛上亭長(まめはんめう)を貼(つくる)か

することも。すべて犬毒と同じことなれば。
見あはせてこれを療(れう)ずべし。蝮蛇(まむし)に咬(かま)
れたるを治するに。別に一法あり。これは
山中などにて。猟師(れうし)などのすることなり
ときけり。その法は。咬(かま)れたるところを。
煙管(きせる)の大頭(ひざら)を以ておほひ。力を極(きはめ)て
おしつけて手を放(はな)たず。しばらくありて。
肉(にく)腫(はれ)あがりて。火皿の中ヘ丸く満(みち)たるを
見て。その処(ところ)をたちわつて。血を搾(しぼり)出(いだ)し
てのち。鳥銃(てつぽう)の火薬(くわやく)を喫(かま)れたる創(きず)口へ
おしこみ。丸く成たる肉をとりまき。
高(たか)く填(うづめ)て。それに火をつけ燃(もや)すといへ
り。此法は瘢処(きず)を断截(たちきる)にも便宜(べんぎ)にて
行(おこなひ)やすければ。かくしてのちに雄黄(をわう)。磠(どう)
砂(しや)などを貼(つけ)たるがよし。山にては血を搾(しぼり)
たる跡(あと)を。小 便(べん)にてあらひてのちに火
薬(やく)をうづめて燃(もやす)といへり。これも又よし。
また霜柿(ころがき)串柿(くしがき)の類(るゐ)の中の柔(やはらか)なる
ところを。醋(す)に煮(に)て多くつけ残(のこり)を

喫(くふ)か。又は煎じて用るもよし。または
瘢(きず)を柿渋(かきしぶ)にてあらふもよしけ【けは白抜文字】煙(けむり)に
むせて悶絶(もんぜつ)したるには。早く嚏薬(くさめくすり)を
用て。くさめをとり。萊菔(だいこん)のしぼり
汁を多く服(のむ)べし。そね【れヵ】にて解(げ)しかぬる
には。吐薬(はきぐすり)を用ふれば。黒(くろ)く汚液(くさきしる)を
吐(はき)て愈(いゆ)るなり。又 毒煙(どくえん)にあたりたる
には。桃仁(たうにん)を研(すり)たるを。湯にてかきたてゝ
服(のむ)べしといふは。油の毒を抱摂(つゝむ)所の
効なり。すべて失火(てあやまち)の煙(けふり)にあれ。毒煙(どくえん)
にあれ。悶絶(もんぜつ)して息(いき)出ずば雷震死(らいにうたれたる)
にいふごとく。まづ息(いき)のかよふやうにして
のちに。萊菔汁(だいこんのしぼりしる)をあたふべし。さなけ
れば咽(のんど)に降(さがり)がたければなり。また軽(かろ)き
火瘡(やけど)には。萊菔汁(だいこんのしぼりしる)を塗(ぬり)てよし▲煙(けむり)に
むせたらば。はやく地(ち)にむかひて息(いき)を
呵(ふき)かけよといふは。すべて烟(けふり)にまかれ
たる時。地(ち)に這(はへ)ば。命(いのち)をおとすまでに
いたらず。煙(けふり)は上へのほるもの故(ゆゑ)。失火(てあやまち)

にて。たとひ衣服(きるもの)に火(ひ)がもえつきたり
とも。はふてその所を出るやうにして。
のがれいづれば。衣服(きるもの)の火は消(け)しも。ぬ
ぎすてもして。命(いのち)は助るなり。このこと
をよくこゝろえおくべし▲蚰蜒(げぢ〳〵)を。煙(きせ)
管(る)の大頭(ひざら)にて打ころし。この煙管(きせる)
にて煙草(たばこ)をのみて。即死(そくし)したるもの
あり。これは蚰蜒(げぢ〳〵)の毒(どく)と。煙草(たばこ)の脂(やに)と
相合て。猛厲毒(はぎしきどく)となるものとしら
れたり。もしかゝることあらば。早く油
をのむか。吐剤(はきぐすり)を用るかすれば。決(けつ)し
て死ぬるまでにはいたらぬもの也。これ
らも記得(こゝろえ)おくべきこと也▲毛蝨(けじらみ)は。頭髪(かみのけ)
にも生ずるものなり。それにも軽粉(けいふん)を
髪(かみ)の根(ね)もとへつけおけば。自然(しぜん)と死ぬる
ものなり。また苦参(くじん)を煎じて髪(かみ)を
あらふもよし。されど。頭髪(かみのけ)にあれ。陰(いん)毛
にあれ。蝨(しらみ)のわくことあるは。おほくは。【注】
黴毒(かさのどく)に因(よる)ものなれば。毒を消す。治(ぢ)

術(じゆつ)を施(ほどこす)べきもの也▲下疳瘡(げかんさう)とて。陰茎(いんきやう)
へ豆の如くなる瘡(てきもの)発(でき)たるが。やがて弥(はび)
蔓(こり)て。陰頭(いんとう)漸(だん〳〵)に腐蝕(くされうみ)。つひには缺(かけ)おちて
不具(ふぐ)の人となるものあり。旅(りよ)中などに
て。身の慎(つゝしみ)あしく黴毒(ばいどく)ある妓(ぎ)など
より毒をつたへ。妄(みだり)なる膏薬(かうやく)を弁(わきまへ)も
なく貼(つけ)て。腐蝕(くされこま)する起本(もと)となること多
ければ。もし羇旅(たびさき)にて。この瘡(かさ)発(でき)ぬる時は。
よく膿(うみ)熟(ついめ)るを見さだめて。鍼(はり)をさして
膿(うみ)を出したるあとへ。蒲黄末(ほわうのこ)をふりか
けおくべし。膏薬(かうやく)をつくれば。却(かへつ)て腐蝕(くされ)
をますことあり。いづれにも内治(ないぢ)の宜(よろし)きを
得(う)るにあらざれば。よく毒を排除(はらひのぞく)ことは
為(なし)がたけれど。此(こゝ)には行旅(たび)などにて。さしあた
る悩(なやみ)を免(まぬが)れしむるまでにいふ所にして。
正(たゞ)しき治法(ぢはふ)にはあらずと思ふべし。また。
蒲黄(ほわう)に軽粉(けいふん)を少し交(まぜ)て傅(つく)る【塗布する】もよし
▲毛(け)ぎれとて。陰茎(いんきやう)にすりきずのごとく
なりて。爛(たゞれ)たる所できる。これもまた黴(ばい)

【注 カスレ部分は国会図書館所蔵本を参照 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536777/56】

毒なり。そのまゝにおくときは。そのとこ
ろより膿(うみ)て。下疳瘡(げかんきう)の潰(つひへ)たるがごとくに
なり。やがて腐蝕(くされこむ)ものあり。はやく前に
いふふりかけ薬をすべしふ【ふは白抜文字】河豚魚(ふぐ)の
毒は。腸(はらわた)にあらず。頭(かしら)にあらず。一 種(しゆ)肉(にく)中
に至毒(しどく)の物あれど。形状(かたち)にては漁人(れふし)と
いへども。これを別(わか)つことあたはず。偶(たま〳〵)その
どくにあたりて即死(そくし)するなり。よく
これを解(げ)するものは。油にまさる物有
ことなし。毒に中りたるとしらば。胡麻(ごまの)
油にても。ありあふものを一合ばかり速(すみやか)に
のむべし。これにてかならず解(げ)する也。
又 吐薬(はきぐすり)を用て吐するもよし。人 糞汁(くそのしる)
よくその毒を解(げ)することをいへど。油の
効の速(すみやか)なるには及ざる也。その外にさま
ざま解毒(げどく)の薬を古書(こしよ)に載(のせ)たれど。かな
らず効あるべしと思はるゝものはなし。
故にこの編(へん)には挙(あげ)ざる也。又此物の乾(ほ)し【注】
たるを喫(くひ)て。しばらくのうち骨節痿(ふし〴〵なへ)

て。立ことあたはざりしものゝありし也。これは
至毒(しどく)の物が。偶(たま〳〵)に混(こん)じたるを知ずして。【注】
くらひて毒にあたりたる物成べしもしかゝ
ることあらば。白鮝(するめ)を煎じてその汁を服(のむ)
か。蘘荷(めうが)の生汁(なましる)を服(のみ)たるがよし。油を
用る迄にいたらずして解(げ)すべしと
思へばなり。▲ふくびやうと。方言に云(いふ)は。
黄胖(わうはん)のこと也前のち【ちの横に長四角】の部(ぶ)痔疾條(ぢしつのくだり)に
記(しるし)たり▲注車船(ふねかごのゑひ)には。硫黄(いわう)の細末(さいまつ)を内(の)
服(み)。臍(ほそ)へもつめて。上より糊(のり)にて紙をはり
おくべしといへど。予はいまだ試(こゝろみ)ず。また
醋(す)をのむべしといへり。又 阿煎薬(あせんやく)も
効(こう)あるべければ。紫金錠(しきんぢやう)。萬(まん)金丹の類(るゐ)
を多く用てよし。されど船輿(ふねかご)によふ
やうなる身にては。よく百事(なにごと)をも成(なす)
ことあたはず。志あるものは。ふかくはづ
べきことなり▲踏(ふみ)ぬきは。釘(くぎ)または竹木の
るゐを足下より踏(ふみ)ぬく也。その殺(そげ)たる
ものが。あとへ少しにてものこれば。かな

【注 虫損部は国会図書館所蔵本を参照 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536777/57】

らず膿(うみ)を醸(かもす)ゆゑに。よくとり出したる
あとへ紙條(こより)か発燭(つけぎ)へ油をぬりたるに火を
点(つけ)て。油を創(きず)へたらしこみ。その上より粉(とうの)
錫(つち)【注②】を蝋(らう)と油にてねりたるをつけおくべし。
生鶏卵(なまたまご)を油に和(ねり)たるをつくるも又よし
こ【こは白抜文字】重舌(こじた)は。舌(した)の下に舌を重(かさ)ねたるが
如くに腫(はれ)出して。漸(しだい)に延(のび)ゆく也。この中
には粘稠(ねばり)たる水に少し血を交(まじへ)て。淡紅(うすもゝ)
色(いろ)なる液(しる)が瀦(たまり)てあるもの也。鈹鍼(はばり)なく
ば。小刀やうのものにて。皮(かは)を裂(さき)て其水
をとれば。そのまゝに愈(いゆ)るなり。口中に附薬
などは不便利(ふべんり)なるものなれば。それ迄
にもおよはねど。硼砂(ぼうしや)二三分ばかりに。
枯礬(やきみやうばん)五六 厘(りん)をくはへたる細末をつけ
たるもよし。鉛糖(えんたう)の末もよし▲帯下(こしけ)は。
婦人の病なり。白き粘稠液(ねばりたるしる)が通ずる也。
これに黄色(きいろ)なる臭気(にほひ)ある液(しる)を交(まじ)
下すものは。男子の黴毒(ばいどく)淋(りん)を患(うれふ)る者(もの)【注①】
と交接(まじはり)て。黴毒(ばいどく)を伝染(うつ)され。子宮(こつほ)の口(くち)に

瘡(かさ)を生したる膿(うみ)をまじへて出すもの
なれば。尋常(よのつね)の治法にては愈(いえ)かたし。【注①】
いづれにもあれ。旅(りよ)中にてこの病が発れ
は。歩行(あゆむ)に艱(なやむ)もの也その時は。蛇床子(しやじやうし)。小 茴(うい)
香(きやう)。苦薏花(くよくのはな)の三味を各二三匁ほどあつ
き湯に浸(ひた)したるにて。毎夕 熨(むし)洗(あらふ)べし。
塩(しほ)気をへらし。膏梁膩味(うますぎあぶらつよきもの)をとほざ
け。もし大麦。赤小豆などをくはるゝな
らば。それを用ひ。内服剤(ないやく)は。後のす【すの横に長四角】の部 水(すい)
種(しゆ)の條(くだり)に出せる。三輪神庫(みわしんこ)の剤(ざい)を用
ひてよし。すべて黴毒(ばいどく)より来(きたる)ものには
あらで。尋常(よのつね)の帯下(こしけ)ならば。小 便(べん)通利
の剤(ざい)を用れば。愈(いゆ)ること速(すみやか)なるものなり。
これに小 便(べん)淋瀝(りんれき)をかねて。尿口(すゞぐち)に痛(いたみ)を
おほゆるものは。桃膠(もゝのやに)二匁に。甘草七八分
をあはせせんじて用るか。又は胡桃肉(くるみ)
を研(すり)。沙糖(さたう)をくはへ。あつき湯にとかして用
るもよし。または。大麦を炒(いり)たるに。甘草
を多く入。煎じて用るもよし。▲凍死(こゞえしに)

【注① 虫損部は国会図書館所蔵本を参照 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536777/58】

【注② 「唐の土」=炭酸鉛を水で煮沸したり硫酸鉛や塩化鉛を炭酸ナトリウムの水溶液で煮沸したりして得られる白色粉末。鉛白。『書言字考節用集(一七一七)』に「粉錫 タウノツチ 宮粉。解錫。並同 鉛華 同 [文選註] 白粉也」とあり。ちなみに「鉛白、宮粉、解錫、鉛華、」はみな「おしろい」のことです。】

たるものゝ息(いき)の絶(たえ)たるは。溺死(おぼれ)て水を呑(のみ)
たるものよりは救(すくひ)やすし。外表(おもて)は凍(こゞえ)て。氷
の如くに成たりとも。些(いさゝか)にても内に残(のこり)
たる陽気(ようき)があれば。必(かならず)活(いき)るもの也。されど
周章(あはて)て。これを焼火(たきび)などにて温(あたゝめ)んとす
るは。事理(ことわり)に昧(くら)きものゝすることにて。却(かへつ)て
救(すくひ)難(かたき)ことになれば。よく之(これ)を心得(こゝろう)べし。之(これ)を救(すくふ)
の法(はふ)は。まづ凍死人(こゞえたるもの)を坐(すはら)せおきて冷(ひや)水を
夥(おびたゝし)く頭(かしら)より身體(からだ)へ濯(そゝぎ)るか。又は地を堀(ほり)て
頭面(かほ)ばかりを地上に出し。土をかけ埋(うづめ)おき
て見るかして。一二時を過(すご)し堀(ほり)出(いだ)して検(みれ)ば。
體(からだ)の柔(やはらか)になるものは。必定(ひつぢやう)活(いく)べき者(もの)なれば
ら【らの横に長四角】の部(ふ)雷震死(らいしんし)の條(くだり)に言(いふ)がごとくにして救(すく)
得(ひう)べし。凍死(こゞえしに)のもの。もし息(いき)やゝ出たらば。
まづ生姜の絞(しぼり)汁をのませたるがよし。
生姜をつき砕(くだき)たるを煎じて用るも
又よし▲凍(こゞえ)て手足の指(ゆび)痛(いた)み。また
おぼえなくなれば。やがておつるも
の也。それには馬糞(ばふん)を極(ごく)熱湯(ねつとう)にてとき

その中へ指(ゆび)を漬(ひたす)こと半日ばかりすれば。
素(もと)のごとくなる也。あらかじめこれを防(ふせが)ん
とするには。白蝋(はくらう)六十匁に。胡麻油(こまのあぶら)冬は二合
夏は一合を火にてときたるへ。片脳(へんなう)六十匁
を煉(ねり)あはせてこれを手足にぬりつく
べし。この薬は。胗(ひゞ)胝(あかがり)【あかぎれ】を治するにも用て
よし。北国 極寒(ごくかん)の地にては寒気にて
手足の指をおとすもの多ければ。蝦夷(えぞ)
の地などへおもむくものは。予(かね)て用意(こゝろえ)べき
ことなり予(あらかじめ)この患(うれひ)を禦(ふせが)んとならば。日ことに
水を濯(あび)たるがよし▲凍(こゝえ)て皮肉(ひにく)の潰(やぶれ)爛(たゞれ)
たるは。樟脳(しやうのう)を焼酒(せうちう)に融化(とけ)る程に入たる
に。石灰を水にかきたてたるものを清(すま)
したるにあはせて。布に漬(ひたし)て貼置(つけおく)
べし。或(あるひ)は前のごまの油 白蝋(はくらう)に片脳(へんのう)を和
したるものを貼(つく)るもよし。または人尿(せうべん)
もしくは醋(す)を温(あたゝ)めてあらひたるも又
よし。または前の湯火傷(やけど)に用る鶏(たま)
卵(ご)と麻油(ごまのあぶら)とをあはせたる物を貼(つく)る

もよし▲腰痛(こしのいたむ)には。薤白(にんにく)を二ツ三ツに
切て紙(かみ)につゝみ。こしに狭(はさむ)へし。癢(かゆみ)出ていゆ
る也て【ては白抜文字】癲癇病(てんかんやみ)は。旅(たび)の道つれにはすべか
らずと戒(いまし)あり。実(げ)にこの病は不意(ふい)に
発(はつ)するものにて。山 路(ぢ)船路(ふなぢ)などにて。病
発(はつ)する時は。おもひもよらす命(いのち)をうし
なふこともあれば。心を用べきこと也。もし同
行(きやう)のものにこの病 発(はつ)したらば。はやく
冷(ひや)水を面へ吹かけ。又は醋(す)を口 鼻(はな)へぬり。
またはのませなどすれば。覚ることも
はやく。噎薬(くさめぐすり)の用意(ようい)あらば用たるな
どもつともよし。妄(みだり)に内服剤(ないやく)は用べから
す。もし薬を服(のま)せむとおもはゞ。芍薬(しやくやく)
甘草各二匁を。水煎じて用べし。又
阿魏(あぎ)といふて。いたつて臭(くさ)き薬あり。こ
れは掌(て)のうちにて。温(あたゝ)むれば柔(やはらか)になる
物也。これを丸じて。一次に五六分づゝのま
すること。もつともよし。又は白芥子末(からしのこ)一匁
ばかりを湯にかきたてゝ用べし。この

もの一味を丸となし。長服(ちやうふく)して癲癇(てんかん)を
治したるものあり。百治効なきものに
試用(こゝろみ)てよしあ【あは白抜文字】暑(あつさ)に中(あた)りたりと。世(よ)に
いふもの。多くは感冒(ひきかぜ)にて。不養生(ふようじやう)なる
人にあること也。夏月(なつ)の暑(あつき)は。季候(きこう)の正しき
気にて。妄(みだり)に人にあたるものにあらず。
しかるを慎(つゝしみ)あしき人は。平常(へいせい)といへ
ども。宿疾(ぢびやう)なきこと能(あた)はず。故に暑熱(しよねつ)に
堪(たへ)ずしてわづらふは。皆 己(おのれ)が身をあしさま
にもつより起(おこ)ることにて。暑気あたりな
しといふにはあらねど。それはまれなる
ことにて。多くは涼(すゞ)しき所に。仮寝(うたゝね)して。
風ひきたるをも。暑邪(しよじや)なりといふて。
無益(むやく)の香薷飲(かうじゆいん)などいふ剤(くすり)を用るは。
皆 毉(い)士のとりとめたることなきが故也。
よくこの差別(しやべつ)を弁(わきまへ)て。暑月にても。悪(さむ)
寒(け)。発熱(ほつねつ)。肩強(かたはり)。頭痛(づゝう)などの證(しよう)あるも
のは。まづ汗をとるかたが早く解(げ)する也。
▲悪気(あしきき)にあたりて気 絶(ぜつ)し。なにの

ゆゑとも知がたきには。前の雷震死(らいしんし)
の治法にて救(すくふ)べし。薬物を多く蓄(たくはへ)
蔵(おき)たる室(ところ)。または密器(きのもらぬもの)に芳烈品(きのつよきもの)を納(いれ)
おきたる蓋(ふた)をあけて。にはかに其気にあた
りて死ぬるものあり。それらは。醋(す)を頭面
へ濯(そゝぎ)かけ。又は口中にたらしこみて蘇(よみがへ)る
ものあり。よく心得べきことなり▲阿片(あへん)
または阿芙蓉(あふよう)といふものは。麻剤(まざい)と云て。
たとへば酒(さけ)に酔(よふ)て。精神(こゝろ)の乱(みだる)るがごとく。
又は眼(め)口 鼻(はな)などをふさぎて。ものいふことも。
視(み)ることも聴(きく)こともならぬやうにするが
ことく。また手足を縛(しばり)て動(うご)くこともな
らぬやうにするやうなる効能(こうのう)のある
薬にて。その功能(こうのう)をよく弁(わきまへ)知(しり)てつかは
ねばならぬものにて。用法いたつて巧者(こうしや)
ならねば。いたづらに害(かい)となるのみにて。病
に益(えき)なし。この物を用れは。咳嗽(せき)はたゞち
にやみ。痛(いたみ)は其まゝ軽(かろ)くなり。睡(ぬむり)かぬる
ものもよくねむるがゆゑに。近来(きんらい)薄情(はくじやう)

なる和蘭(おらんだ)毉者(いしや)が。一時の効(こう)をとり。人を
駭(おどろかし)て。後の妨害(さまたげ)となることを顧(かへりみ)ず。これを
用たるが。そのまゝに睡(ねむり)て覚(さめ)ず。又は眼(まなこ)昏(くらみ)て
物の視分(みわけ)なく。やがて昏憒(ふさぎ)て覚(さめ)す。
または頭痛(づつう)。眩運(めまひ)。耳鳴(みみなり)。面赤(かほあか)く。或(あるひ)は周(しう)
身(しん)痒(かゆく)して堪(たへ)がたく。甚しきは。精神(こゝろ)錯乱(みだれ)
譫語(うはこといひ)。或は脉(みやく)遅(おそく)渋(しぶり)。腰(こし)脚(あし)冷(ひえ)て。腹(はら)拘掌(ひきつり)。遂(つひ)
には卒中風(そつちうふう)の如くになりてそのまゝ死(しぬ)る
なり。もしかゝる證(しよう)のおこるとき。この物(くすり)
を用たる害(がい)なることを確(たしか)に知(しら)ば。はやく
吐(はか)する剤(くすり)を用て吐(はか)しめ。鼻(はな)には嚏薬(くさめぐすり)を
吹こみて。くさめをさすべし。吐薬は前の
く【くの横に長四角】の部(ぶ)霍乱(くわくらん)の條(ところ)に記(しるし)たるを見あは
すべし。嚏(くさめ)薬はら【らの横に長四角】の部 雷震死(らいしんし)の條(でう)に
挙(あげ)おきたるにて撰(ゑらぶ)べし。醋(す)と。麝香(じやかう)。よ
く此物の毒を解(げ)すといへど。麝香は近
来 偽雑(まじり)多くして。効(こう)少ければ。醋を多
くのませたるがよし。瞑眩(めんけん)の軽(かろ)き物
には。吐薬を用るまでにいたらず。たゞ醋(す)

のみを服(のま)せて。必(かならず)解(げ)するなり。売薬(ばいやく)の
一 粒(りう)金丹。粒甲丹(りうかふたん)。金 匱救命丸(ききうめいぐわん)。また廷利(てり)
也迦(やか)の類(るゐ)は。この物を主として製(せい)せし
方なれば。その證(しよう)をも弁(わきまへ)ずして。妄(みだり)にこ
れを用て毒に中ことも。また多ければ。素(しらう)
人(と)といへども。心得おきて。人を救(すくふ)へし。
吐薬を用て吐たるあとは。かならず一下
すべきことも。前にすでにいへるがごとく。
とりわけ阿片(あへん)の毒などを解(げ)するには。
劇(はげし)き下剤(げざい)がよければ。霍乱(くわくらん)の條(でう)に載(のせ)た
る。備急円(ひきふゑん)の類(るゐ)を用たるがよし▲少陽(あか)
魚(えい)の尾(を)に毒あり。もし人これに触(ふる)れば。指(ゆび)
を損(そこなふ)といへど。これは毒あるゆゑにはあらず。
此魚の尾(を)さきに。至(いたつ)て細(ほそ)き芒刺(のぎ)が逆(さかさま)に
ありて。それが肉中へ螫(さし)入て痛(いたみ)をなして
腫(はる)る也。この故(ゆゑ)に漁人(りやうし)もこの尾(を)を多く切(きり)
断(たち)て輸(いたす)なり。これには鰔魚(さより)の皮(かは)を剥(はぎ)て
よく纏(まとひ)おけば。速(すみやか)にいゆる。これ漁夫(りやうし)の
伝(つたふ)る所也さ【さは白抜文字】酒(さけ)に酔(ゑひ)て昏冐(うつとり)となり

人事(ひこと)の省(み)さかひなく。軈(やが)て気(き)を失(うしな)ひ
て。卒中風(そつちうふう)の如くになることあり。これは
多くは癇證(かんしよう)か。または卒蕨(そつけつ)の萌(きざし)ある
か。平常(へいぜい)に頭痛(づゝう)。昏眩(めまひ)なとあるものに
発(はつ)する證(しよう)にて。常(つね)の酩酊(めいてい)の甚しき
ものなどと思ふて。そのまゝにおけば。必(かならず)死
ぬるものなれば。遄(すみやか)にこれを解(げ)すること
をなすべし。まづ鳥の羽に燈油(あぶら)をしたゝ
かにつけ。咽(のんど)をふかく探(さぐり)て吐(はき)を誘(さそふ)べし。
もしそれにて吐(はか)ずば。瓜蒂散(くわていさん)にても。何(なに)
にても速(すみやか)に吐(はく)べきものを用て。快(こゝろよ)く吐(はか)
すべし。肩(かた)項(うなじ)などへ。強(つよ)く壅塞(ふさがる)物なれ
ば。雷震死(らいしんし)にいふがごとく。肩(かた)の肉(にく)を内
へ徹(とほる)やうに拈(ひねる)か。又は鍼(はり)を刺(さし)て。吸角(すいふくべ)を
以て吸(すは)するかするもよし。生気つきて
のちは。硝石大円(せうせきだいゑん)。調胃承気湯(てうゐじようきとう)などを
用て下すがよし。方は前に挙(あげ)たるを見
るべし。もし泥飲(どろのごとくよひ)て。宿酒(しゆくしゆ)の残(のこ)れるもの
ありと思はゞ。雌黄(しわう)二分ばかりを用るか。

鼠李子(そりし)二匁ほどを煎じて服(のむ)べし。大
に腐敗(くされ)たる水を下して治するなり
▲阪下病(さかしたやまひ)とて。血のふ足(そく)したるより。
黄色(きいろ)になる黄胖(わうはん)といふ病あり。これに
用べき剤(くすり)は前のち【ちの横に長四角】の部 痔疾(ぢしつ)の條(くだり)に
出したり▲酒に直(なほ)し灰(ばい)といふものを
用て。敗壊(すえ)て酸味(すみ)を生じたる酒を直(なほ)し
て酤(うる)ものあり。もしこれを過飲(のみすぎる)ときには。
暗(われしらず)に腸胃(はら)を害(そこね)。身體(からだ)を疲(つから)し。諸液(しよえき)の
運輸(めぐり)を妨(さまたげ)て。麻痺(しびれ)不遂(ふきゝ)の證(しよう)を発(はつ)する
を。痛風(つうふう)。または石淋(せきりん)といふて小便道へ
石を生ずる淋(りん)病などの原(もと)となること有
もの也。ゆゑに灰(はい)を用て製(せい)したる酒(さけ)は。
決(けつ)して飲(のむ)べからず。これ酒客(さけのみ)の意(こゝろ)を注(つけ)
て択(えらぶ)べきことなりき【きは白抜文字】金刃傷(きりきず)の小さなる
ものは。切たりと思ふやいなや。そのまゝゆび
さきにて切たる所を圧(おさへ)て。血を出さず。半
時あまりも過(すぐ)れば。おのれと愈合(いえあふ)て。即日(そくじつ)
に素(もと)に復(ふく)するもの也。もし創(きず)やゝ大なる

ものは。火爐(ひばち)の灰の。炭末と灰塊(はいのかたまり)なき
所を。創(きず)口に填(つけ)て紮(くゝり)おくべし。これにて
大かたは血とまるなり。石灰はよく血
を止る効あるものなれば。これを以て
血を止る薬(くすり)をかねて製(こしらへ)おくべし。其
方。生石灰の細末したるを。鶏子白(たまごのしろみ)に
て溲(でつち)て。日に乾(ほ)して堅(かた)くなりたるを。
再(ふたゝび)細末(さいまつ)して蓄(たくはへ)おくなり。もし創所大
にして血出て止ざるものは。生石灰の
細末したるを水にかきたて。其上清を
こしとりて洗べし。もし石灰なきと
きは。常の灰汁(あく)を用てよし。それも
なき時は。冷水にてあらふ也。焼酒(せうちう)を用
ひしは。古代のことにて。今はこれを用
る者(もの)はすくなし。創(きず)をぬふことは。外科の
あづかることなれど。皮(かは)と皮の齟齬(くひちがは)ぬ
やうに。襞(ひだ)のなきやうにさへ縫(ぬふ)ときは。
さしてむづかしきことにもあらず。鍼(はり)は
衣服(きるもの)をぬふ鍼(はり)を用ひ。木綿糸(もめんいと)にて縫(ぬひ)

てもよきことなれば。外科(げくわ)もなにもな
きときには。そのまゝにして血をとめる
こともなく。みす〳〵命 危(あやう)きことにせん
より。はやくぬひたるがよし。されど裏(まき)
縛(もめん)をだによくすれば。大 体(てい)なる創(きず)は
ぬはずともよきもの也。木綿(もめん)は白 晒(さらし)と
呼(よぶ)ものを両 縁(みみ)をとり八ツばかりにさき
て用る也。縫(ぬひ)たる所へ胡麻油(ごまのあぶら)を少し
ひき。鎹(かすがひ)とて。さきたる木綿(もめん)へ鶏子(たまごの)
白(しろみ)をつけてあてるか。魚膠(にべ)の膏(かう)やく
にても。売薬(ばいやく)の即効紙(そくこうし)にてもはり。
その上へ木綿(もめん)のたゝみたるを醋(す)に
浸(ひたし)てはり。それよりさきたる木綿(もめん)
にてまくなり。夏月(なつ)は麻(ごまの)油をひかざ
るも又よし。血のはしり出したる脉(みやく)
なども。三時を過(すぐ)れば愈(いえ)あひかゝる
ものなれば。とかく血の多く出ぬ
やうにするがよし。血を止る第(だい)一の
物は。檞茸(はゝそだけ)なり。上の硬(かた)き皮(かは)を去(さり)て

槌(つち)にてとくと打(うち)て貯(たくはへ)おき。よろしき
程(ほど)にさきて用るなり。次は楡茸(にれたけ)。其次は。
馬勃(ばぼつ)とて。林下。竹 藪(やぶ)。崖(がけ)などの陰(かげ)に
生ずる。みゝつぶれ。又はほこりだけといふ
物を貯(たくはへ)おき。裂(さき)て用ひてよし。これらの
ものは。いづれも内服(ないふく)してよし。よく血を
止る効(こう)をいへど。それはいまだ試(こゝろみ)たることも
あらず。もし内服するには。細末して
冷(ひや)水にて用るなり。金創(きりきず)の血の大に濆(はき)
出ものは。動脉(どうみやく)の太(ふと)きものをたち切たる
なれば。もし血出て止ざれば。たちまち
死にいたるが故に。その脉管(みやくかん)を引出し
て。糸にて紮(くゝる)か。鉄(てつ)を焼(やき)てあてゝふさ
ぐかせねばならぬことなれば。素人には行
かたきことながら。もし旅(りよ)行山中などにて。
毉師(いし)もなきときには。煙管(きせる)の大頭(ひざら)なり
とも。ありあふ物をまつ赤(か)にやきてこれ
にて血を止などするか。いづれにも此
意得(こゝろえ)を以て。はやく血を止るやうにすべ

きことなり▲灸(きう)のいぼひは。内に鬱(こもり)たる
毒(どく)の外へ洩(もれ)て。病の愈(いえ)んとするため
なれば。これを厭(いとひ)て速(すみやか)に乾(かはか)さんとするは
灸(きう)せぬには劣(おとり)たること也。故に。蠹吾(つはぶき)の葉(は)
か。青木(あをき)の葉(は)などを火にあぶりもみて
貼(つく)るか。何ぞ膿(うみ)を催(もよふす)へき膏薬(かうやく)をつけて。
多くうみをとるべし▲菌(きのこ)の毒にあた
りたるは。人糞(くそ)を服(もちふ)ればたゞちに解(げ)す
とはいへど。臭穢(きたなき)ものを用んよりは。油を
飲(のむ)にはしかず。また黒大豆の汁。及ひ
土漿水(どしやうすい)なども。この毒を解(げ)するものには
あれど。異菌(きのこ)には。至毒(しどく)なる物あり。死
に瀕(なんな)んとせし蛇(へひ)の口より流出たる
汚液(よだれ)が樹上(きのうへ)より土に落(おち)て。即(すぐ)に生出
たる菌(きのこ)の。玉蕈(しめじ)に似(に)たるものを。下毛(しもつけ)の
野(の)にて親(したし)く見(み)たるものあり。これらを
誤(あやまつ)て喫(くひ)たらんには。忽(たちまち)毒(どく)にあたりて
即死(そくし)すべし。すべて毒と知(しり)ては。速(すみやか)に
吐出ずべきことをなすがよし。吐ぐすりは

霍乱(くわくらん)の條(くだり)にてもとむべし。楓樹(かへでのき)に生
ずる笑菌(わらひたけ)。雑木(ざふぼく)の朽株(くちかぶ)に生ずる雞(まひ)
㙡(たけ)。または八丈島には。喫(くら)へば必(かならず)高き所へ
昇(のぼら)んとする異菌(きのこ)ありときけり。すべて
菌(きのこ)は妄(みだり)にくらふべからざるものなれば。
旅行(りよこう)などには。ことさらにつゝしむべし
ゆ【ゆは白抜文字】入浴後(ゆあがりご)に。頭眩(めくらみ)。昏倒(たちくらみとなり)?たるには。冷(ひや)水
を面へ吹かけ。周身(しうしん)へも灌(そゝぎ)かけ。または
飲(のま)しむるもよし。醋(す)もまた効(こう)あり。さめて
後(のち)。なほ欝冐(きをとぢ)て快(こゝろよ)からずば。桂枝(けいし)加龍(かりやう)
骨牡蠣湯(こつぼれいとう)を用ふべし。其方。桂枝(けいし)。芍(しやく)
薬(やく)。龍骨(りうこつ)牡蠣(ぼれい)各八分。大棗(たいさう)六分。甘草(かんざう)
ニ分。六味合せて四匁に。生姜二片をく
はへ。水一合二勺を煎じて六勺となす
なりめ【めは白抜文字】眼(め)に薼(ちり)砂(すな)などの入たるは。
筆の尖(とがり)にすみをつけて。眼(めの)中を拭(のごふ)べし。
または薄墨(うすずみ)を点(さし)たるもよし。指(ゆび)にて
いらふべからず。かへつてあしし▲眼球(めのたま)
を打撲(うちみ)の激動(ひゞき)に走(はしり)出さすること

【参照 国会図書館所蔵本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536777/65】

あり。其時は突出(つきだ)したる眼球(めのたま)に。
したゝかに唾(つば)をしかけ。手巾(てぬぐひ)を摺(たゝみ)て
両 手(て)の掌(ひら)にて眼球(めのたま)を按(おさ)へて。むかふへ
圧(つき)入べし。あとを冷(ひや)水にて洗(あらひ)て木綿(もめん)を
巾(はゞ)一寸あまりに裂(さき)て。頭後(あたまのうしろ)へめぐら
して。かたく縛(しばり)おくべし。又出んことを
おそるればなりみ【みは白抜文字】水に落(おち)たる者(もの)あ
らば。ありあふ板(いた)。箱(はこ)。竿(さを)。なににても水
に浮(うかみ)て攫(とらゆ)るたよりに成べき物を早く
水中へ投(いれ)て。かろく手をかけさす
べし。つよく力を用れば。ともに沈(しづ)めば也。
かくすれば。身はかならず水の上に浮(うかみ)
出て。溺(おぼれ)死ぬることなし。人の體(からだ)はもと
より胸(むね)肋(あばら)の中に。肺(はい)の臓(ざう)といふ浮(うき)嚢(ふくろ)
あれば。まことはつかまる物なしとも。手に
て水をかけば。おのづから浮(うかみ)て。ちゝ
より上は水の上にあるべきものなれど
周章(あはつ)るゆゑに溺(おぼる)る也。犬(いぬ)猫(ねこ)などが。水
に入てもおのれと游(およぎ)わたるもおなじ

ことにて。水に落(おち)て死ぬと死なぬは。
たゞ心のおちつくと。おちつかぬに
よることなるを。よく思ふべし。今の世
の水馬の。馬に止りつきて。人馬とも
辛(かろう)じて水を渉(わた)るは。馬の尾の腱(すぢ)を
たち。ふか爪(づめ)をとりて。馬の天質(うまれつき)を
損(そこなふ)ゆゑ也。よく思ふべきことにこそ。▲水に
溺(おぼれ)て死(しに)たるものは。早くその衣帯(きるもの)を
とき。髁體(はだか)にして。両 脚(あし)をとり。逆(さかさ)に引
起(おこ)して。両 脚(あし)を肩(かた)へかけ。溺(おぼれ)たるものゝ腹(はら)
を脊(せ)にて按(おす)やうに。少し前へ屈(かゞみ)て歩(あゆみ)な
がら。水を吐すべし。もしこれを仰(あを)に
して。脚(あし)を前へ曲(かゞめ)て。肩(かた)へかけ。立たる
まゝにして。別に人をして腹(はら)をつよくも
ませて。水を吐するもよし。漢土人(もろこしびと)の
牛(うし)の脊(せ)へ乗(のせ)て。腹(はら)を牛の脊(せ)にて按(おさ)
せ。あゆませながら水を吐(はか)するは。手
おもにして。便宜(べんぎ)ならず。たゞ倒(さかしま)に引
立れば。水はかならず吐出すもの也。

水をあらかた吐 尽(つく)したりと思ふ
ころ。静(しづか)に下して。新淨衣(あたらしききるもの)をきせ。
蒲団(ふとん)のうへゝ横(よこ)に臥(ねか)して。先(まつ)口を開(ひら)き。
土砂などの口内にあるものを。手巾(てぬぐひ)やう
のものを水に浸(ひた)し。指(ゆび)にまとひて。よく
掃除(さうぢ)し。鼻(はな)の中をばもみたる紙(かみ)にて拭(のごひ)と
りて。さて鼻(はな)に嚏(くさめ)薬をさすべし。夫(それ)
より後(のち)の治法(ぢはふ)は。雷震死(らいしんし)の條(くたり)に云所(いふところ)と
ほゞ同じこと也。嚏(くさめ)出るか。気息(いき)出れば
必(かならず)蘇生(そせい)するもの也。もし水を多く飲(のま)
ずして胸(むね)腹(はら)も膨脹(はら)ぬものならば。水を
吐するにおよばす。またすべて凍死(こゞえじに)溺(おぼれ)死
の類(るゐ)にても。灸(きう)は必 宜(よろし)けれど。気息(いき)の出
ざるうちは。灸火の応(こたへ)なければ益(えき)なし。
気息(いき)微(かすか)に出て後(のち)には。必灸してよし。又
これらの身體(からだ)を按摩(もむ)ときには。手に
塩(しほ)を多くつけて塩を肌膚(はたへ)へすり込(こむ)
やうにしながら揉(もむ)べしといへり。これも
またよし。すべてこれらはとりわけ仁(なさ)

愛(け)の情(こゝろ)を主(おも)として。心 静(しづか)にとりあつ
かひて救(すくふ)べきこと也。又よく心得べきことは。
水中にて呼吸(こきふ)さへせねば。水を呑(のむ)ことも
なく。また死ぬるものにはあらず。故に
わきて武士などは。此 気息(きそく)を暫止(しばしとゞめ)
て呼吸(こきふ)せぬことを。平常(へいぜい)修(しゆ)し習(ならひ)て不(ふ)
虞(ぐ)の用に備(そなふ)べし▲耳(みゝ)卒(にはか)に腫(はれ)痛(いたむ)に
は。軽(かろ)きと重(おも)きとの。差別(しやべつ)あり。かろき
ものは。周身(しうしん)の熱(ねつ)もさして甚しからず。
耳辺(みゝのあたり)たゞ熱(ねつ)ありて。痛(いたみ)にをり〳〵たゆ
みあり。重(おも)きものは。耳(みゝ)の熱(ねつ)やくが如(ごと)
くにして。そのあたりの脉(みやく)のびく〳〵
と動(うご)くが。自己(じしん)にも知られ。みゝの中
鳴(なり)躁(さはが)しく。痛(いたみ)も又 忍(しの)ぶべからず。これは
ゆだんのならぬ證(しよう)にて病が一 段(だん)進(つのる)
時には。讝語(うはこと)をいひ。直視(めをみつめ)。昼夜(ちうや)寝(いぬ)ること
ならず。または昏冐睡(うつとりとねむり)て覚(さめ)ざる
などの。證(しよう)続(つゞき)て起(おこる)にいたつては。死
生もまた測(はかり)がたければ。それらの危険(あやうき)

ことにならぬまに。はやく蜞(ひる)を多く
耳(みゝ)のまわりへつけて。血を吸(すは)せ。内服剤(ないやく)
には。大 黄(わう)。悄(せう)石。黄蘗(わうばく)各一匁。山 巵(し)子五
分を一 貼(てふ)となし。水煎して。連(しきり)に服(もちふ)るか。
又は調胃承気湯(てうゐじようきとう)。凉膈散(りやうかくさん)を用ること
あり。それより上の療術(れうじゆつ)に至(いたり)ては。世(よ)の
時毉(はやりい)などのよく治するところに
あらず。况(まし)て素人(しろうと)の為得(なしう)べきことにあ
らねど。羇旅(たび)などにて。この患(うれひ)に羅(かゝり)【罹ヵ】し
時の備(そなへ)とて。その一端(かたはし)を記(しる)せしまでなり。
耳(みゝ)の輪(まわり)腫痛(はれいたむ)には。樟脳(しようのう)を醋(す)に入たるにて
熨(むす)か。前にいふ麻油と蝋(らう)とに 片脳(へんなう)を和(ねり)
たるをぬりてもよし。又は金銀花(きん〴〵くわ)。苦薏(くよくの)
花。小 茴香(ういきやう)等分に。樟脳少しばかりを
加へて。湯に温(あたゝ)めてむすことは。かろきも
重(おも)きも用てよし。▲耳(みゝ)へ蟲(むし)の入たるは。
蟲(むし)のこのむものを。耳の輪(わ)へつけて。しづ
かにその出るをまつべし。いかにすれども
出がたきは。喞筩(みづはぢき)を以て。微温湯(ぬるまゆ)を弾込(はちきこみ)

て耳(みゝ)の中をあらふべし。。耳(みゝ)には膜(まく)といふ
て底(そこ)のごとき物あれば。耳(みゝ)を下へかたむ
けてこれをあらへば。必出る也。牽牛(あさがほ)の
葉(は)。苦棟実(せんだんのみ)などの。蟲(むし)を制(せい)する物を
煎じて。洗(あらひ)たるなど尤(もつとも)よし。また一 法(はふ)に。
椶櫚(しゆろ)の毛(け)のさきへ黐膠(とりもち)をつけて。蟲(むし)を
釣(つり)出すべしといへり。この法尤よし。又
紙條(こより)のさきに油をつけて。耳(みゝ)をさぐり
て釣(つり)出すべしともいへり。これもまた
心得おくべしし【しは白抜文字】食傷(しよくしよう)は多くは。常(つね)に
消化(こなれ)のよろしからぬものにあることにて。
一時におこる病にあらず。腸胃健(はらすこやか)にし
て消化(こなれ)のよきものは。偶(たま〳〵)に喫過(くひすご)した
りとも。腹(はら)のやゝ脹満(はる)までにて。害(がい)と
はならず。然(しか)れば。これは毒ある物に
当(あた)りたるにあらねば。不養生(ふようじよう)なる
ものにある病也。その軽(かろ)きものには。前に
出せる益智飲(やくちいん)。建中散(けんちうさん)などを用て
よし。重(おも)きものは。吐剤を用るか。下剤を

用るかすべし。前のく【くの横に長四角】の部(ぶ)霍乱(くわくらん)の
條(でふ)を見あはせて治すべき也▲呃逆(しやくり)は。
冷(ひや)水を息(いき)をつかず。一 盌(わん)つゞけてのみほ
すべし。また紙條(こより)を鼻(はな)へさし。嚏(くさめ)をと
りてとまるものあり昼夜(ちうや)。出て止(とまら)ざ
るは。霜柿(とろがき)【「ころがき」ヵ】又は串柿(くしがき)の中の。柔(やはらか)なる
ところを喫(くひ)。外の堅(かた)き所に。生姜を
加へ煎じて服(もちふ)るがよし。柿蒂(かきのほそ)を薬(きぐす)
舗(りや)にて賣【買】なり。それを二匁に。丁子五
六分づゝ加へて煎じ。生姜の搾(しぼり)汁を
加へ用たるもよし。傷寒(しようかん)にて呃逆(しやくり)の
甚しきは。下すと。参附(しんふ)を用ふるの
差別(しやべつ)あり。俗人(しらうと)ににはかにはいひとき
がたきことなれば。此(こゝ)に論(いは)ざる也。▲舌(した)を
跌仆(つまづき)たる激動(はづみ)に。自咬(みづからかみ)て創(きず)つけ。血出
て止ざることあり。速(すみやか)に水をふくみて。
いくたびとなくはき出して。洗が
ごとくすれば。血はおほかた止るもの也。
その後に蒲黄(ほわう)の末。または枯礬(やきみやうばん)の類(るゐ)

をふりかけおくべし。粉錫(とうのつち)も又よし
▲舌頭(したのさき)を誤(あやまつ)て噛断(かみきる)ことあり。断(きれ)たるさき
続(つゞき)てあらば。水を含(ふくみ)てたび〳〵吐出すか。
醋(す)を含(ふくみ)てたび〳〵吐出し。早く血の
止るやうにして後。鶏卵の中の薄皮(うすかは)
をとりて。舌頭(したのさき)をよく包(つゝみ)て。乱髪(かみのけ)を
焼(やき)て細末にしたるを蜜(みつ)にてねり。其
上へぬるべし。騏驎血(きりんけつ)を細末してぬり
たる。もつともよし。二三日にておほく
は愈(いゆ)るものなれば。其間は成丈もの
いふべからず堅(かた)きものはくらふべからず。
▲舌よりなにとなく血の出ることあ
り。これは多くは。頭瘡などの内 攻(こう)
したるか。又は頭(かしら)胸(むね)などに。病の催(もふし)
ありておこることにて。忽(ゆるかせ)にならぬこと
なり。はやく巧者(こうしや)の毉士(いし)に任(まかせ)て治
術(じゆつ)をうくべし▲舌(した)に瘡(できもの)を生ずる證(しよう)
に。かろき重(おも)きの差別(しやべつ)ありて。治法
も又さま〴〵にわかれたれど。其中に

舌疽(ぜつそ)といふて。初(はじめ)は舌にわづかなる瘡(できもの)が
発(でき)て。それが膿(うみ)て陥(くほく)なり。漸(しだい)にひろがり
ゆく。これがふかく腐蝕(くえこむ)ときには。
飲食(のみくひ)することもならずして。遂(つひ)には
死にいたる。至(いたつ)て険證(むつがしきしう)なり。故にはや
くその腐蝕(くえこみ)を止ることをせねばなら
ぬことは。いふまでもあらねど此 證(しよう)を発(はつ)
するものは。その以前より心意(こゝろもち)。舒愓(のびやか)な
らず。面色(かほいろ)萎黄(つやなく)。腰(こし)脚(あし)冷(ひへ)。脉(みやく)も沈(しづみ)て力
なく。なにとなく陰気(いんき)なる人に多
き病なり。これを和蘭毉者(おらんだいしや)などは。巧(たくみ)に
病 因(いん)を説(とい)て。きく人の耳をおどろか
せども。治 術(じゆつ)にいたつては。迂遠(まわりどほ)にして
救得(すくひえ)がたきこと多く。後世(こうせい)毉師(いし)はも
とより鈍(にぶ)く。確保(とりとめ)たることもなく。吉益(よします)
派(は)などの下剤ずきなる匕頭(さじさき)にて治すべ
き病にもあらされば。この病に逢(あふ)時には。
多くは死に至るもの也。もとより此 證(しよう)は。
欝毒(うつどく)あるうへに。身體(からだ)疲倦(つかれ)。気 血(けつ)の

運行(めぐり)遅渋(あしく)なりて起(おこ)る物故。初より参(じん)
附(ぶ)の大 剤(ざい)を主とし。毒を消(さる)ことを兼(かね)て。治
術(じゆつ)をなさねば成ぬことなれど。参附(しんぶ)は焮(きん)
衝(しよう)をいたし。毒の勢(いきほひ)を長ぜしむるなどゝ。
和蘭毉輩(おらんだいしのやから)などのいふことを信(しん)じ。遂(つひ)には
不治にいたらしむること多し。すべて疽(そ)とは。
表(おもて)へはたかくもならず。腫(はれ)も甚しからすし
て。肉(にく)中に深(ふか)く弥蔓(はびこり)ゆく物をさしていふ
の称(な)にて。いづれも虚乏(ふそく)にわたる物にて。和蘭(おらんだ)
毉師(いし)の口 癖(くせ)にいふ焮衝(きんしよう)といふものとは。懸(はるか)に
別(こと)なる物也。故に俗家(しろうと)もよくこれらのこと
をもよく記得(こゝろえ)おきて。毉師(いし)の巧言(くちさき)に誆(たぶらか)
さるゝことなかるべし▲傷寒(しようかん)と。時疫(じえき)。疫(えき)
癘(れい)などゝいふ称(となへ)は。各別(かくべつ)なるやうなれど。も
とはひとつ也。且(かつ)世にいふひき風の感冒(かんはう)
といふ物も。其 実(じつ)は。傷寒(しようかん)の軽(かろ)き物にて。
軽重(かろきおもき)に拘(かゝは)らず。頭痛(づゝう)。悪寒(さむけ)。発熱(ほつねつ)の表(へう)
證(しよう)あるものは。必まづ汗をとるべし。汗(あせ)を
発剤(とるくすり)はさま〴〵あれど。羇旅(たびぢ)在陣(ざいぢん)など

には。尽(こと〴〵)く其用意も成かぬれば。前に
出せる健(けん)中 散(さん)を熱湯(ねつとう)にかきたてゝ用て。
汗をとるべし。汗を発(とる)には。米(こめ)の粥(かゆ)を稀(うすく)
して用るか。温飩(うんどん)。羮蕎麪(ぶつかけそば)。鶏卵湯。酒(さけ)
客(のみ)は生姜味醤の酒などを飲(のみ)てよし。
我邦(わがくに)のむかし風ひきたるには。必 腰湯(こしゆ)を
つかひて汗を発(とる)ことをおしなへて行(おこなひ)て。
これをゆゝで【ゆゝでの横に長四角】といひしこと。古き物語に見
えたり。旅中にてなまなかなる薬を
用んよりは。此ゆゝで【ゆゝでの横に長四角】の法(はふ)を行ひて。汗を
とることは。薬にもまさる効あるもの也。
柚(ゆづ)の皮。香橙皮(くねんぼのかは)。蜜柑(みかん)の皮などを煎じ
て用るも。又よく汗を発するもの也。近
来の和蘭毉者(おらんだいしや)が。妄(みだり)に焮衝(きんしよう)といふこと
を唱(となへ)て。傷寒(しようかん)最初(さいしよ)の必汗すべき病
者に。蜞(ひる)をつけ絡(らく)を刺(さし)などして血をと
り。下剤を用て下しなどして。壊證(えしよう)
にすることまゝ多し。雑病(ざつびやう)とちがひ傷(しよう)
寒(かん)。時疫(じえき)の病は。汗すべきものを下し。

下すべきものに参附(じんぷ)を用ひ。参附(じんぷ)を
用べきものに。下剤をあたへなどすれば。
わづかに二三 貼(てふ)の薬にて人を殺(ころす)にい
たる。怖(おそろ)しきものあれば。俗人(しろうと)にもその心
得あるべきことなり。况(まし)て旅(りよ)中にて。この
病に遇(あえ)ば。妄(みだり)なることをせんよりは。薬を
用ずして。その動静(なりゆき)を旁観(みたるかた)がよし。
すべて人の體(からだ)には。自然(しぜん)受用力(じゆようりき)といふ
て。おのれと病を排除(はらひのぞく)ところの機関(はたらき)
はあるものなればなり。この義(わけ)をよく
おもふべし。▲白癜風(しろなまづ)には。青胡桃(あをぐるみ)を生
のまゝわさび擦(おろし)にておろしぬりつくれば。
膿(うみ)を醸(かもし)て愈(いゆ)るがゆゑに。毒の内攻(ないこう)する
ことなし。あるひは。青胡桃(あをぐるみ)一个に巴豆(はづ)二ツ
を研合(すりあは)せてつくるは。もつともよし
ひ【ひは白抜文字】肥前瘡(ひぜんさう)は。そのむかし異国(いこく)人が。
肥前の州(くに)の長 崎(さき)にて。妓婦(ぎふ)に流伝(うつし)
て。それよりはびこりたる一 種(しゆ)の毒(どく)
なることは。足利(あしかゞ)時代に。黴毒(ばいどく)を

筑前(ちくぜん)の博多(はかた)にて。異国(いこく)人よ
りつたへたるを以て。呼(よん)で唐瘡(からがさ)と
いふがごとく。これらの病は。おの〳〵
一 種(しゆ)のどくにて。人より人につた
へてわづらふものなり。しかるを
憶測(あてちがひ)なる病因(びやういん)をとなへて。的当(てきたう)
の治 術(じゆつ)をするものゝ少きゆゑに。
治しかぬるなり。ゆゑに今この
病毒の人より人につたへて弥蔓(はびこり)
ゆくことは。なほ草木の種子(たね)を
藝(うゑ)。または分根(ねわけ)して繁茂(しげり)ゆくも
のと一 般(ぱん)なることを領解(がてん)して。
その伝染(でんせん)を御(ふせ)ぎ。転つりたる初(はじめ)に
はやくこれを排除(はらひのぞ)くことを思ふ
べし。羇旅(たび)の客店(はたごや)などにて。枕席(ねどころ)
などよりもうつるものなれば。もし
羇楼(たびさき)などにて。指(ゆび)の間(また)などに
二ツ三ツも発(でき)たらば。はやく鍼(はり)か刀(こが)
子(たな)などにて刺破(つきやぶり)て。血をしぼり

出てのちの。硫黄(いわう)の細末をつくべ
し。この時の硫黄(いわう)は発燭(つけぎ)に用たる
をけづりとりてもよし。薬舖(きぐすりや)あ
るところならば。鵜(う)の目。鷹(たか)の目と
呼(よぶ)ところのものゝ細末を買(かふ)て貼(つく)るが
よし。礦硫黄(かねほりいわう)の。世に金硫黄とよぶ
もの一匁に。片脳(へんなう)三分。磠砂(どうしや)一分をくは
へて。細末したるものを貼(つく)れば。もつ
とも効(こう)あり。その毒すでに蔓延(ひろがり)て。
肘臂(かひなひぢ)におよびたるも。一ツ〳〵に血(ち)を
しぼり出して。このくすりをつく
れば。よくそのどくを消除(のぞく)こと。しば
〳〵こゝろみて験(しるし)をえたるところ
なり。また蝋(らう)のけぶりよくこの毒を
消(さる)こといたつて妙(めう)なるものなり。いか
ほど周身(しうしん)にはびこりたるものにて
も。日〳〵蝋(らう)を煮(に)て。その煙(けぶり)をもつて
惣身(そうみ)をふすぶれば。いつかいえて。
内 攻(こう)することもなく。治するもの

なり。ゆゑに蠟燭(らうそく)を多く製(こしらへ)る家
にては。肥前瘡(ひぜんさう)あるものをいとはず。
これらは物類(もの)の相感(あひかんずる)のもつとも至(し)
妙(めう)なるものなり。また硫黄(いわう)よく肥前(ひぜん)
瘡のどくを制(せい)し。これを排除(はらひのぞく)の効(こう)
あること。諸藥その右に出るもの
なし。硫黄(いわう)に。鵜(う)の目/鷹(たか)の目と
よぶものを上品とす。これを細末し
て。日に二匁ほどづゝも服(もちふ)ること
ひさしければ。惣身(そうみ)に硫黄(いわう)の臭気(にほひ)
を発(はつ)し。大便/微利(すこしくだり)。小便も硫黄の
にほひをなす。おほかた百日ばかり
も用ておこたらざれば。毒はこと〴〵
くのぞくなり。近世火藥に用るに。
此ものを製(せい)して。精粹(きつすい)なるものを
とりたるを。硫黄華(いわうくわ)といふ。商家(きぐすりや)に
はおほくは發燭(つけぎ)に用るものを似て
これをせいするはよろしからず。
えらびて用べし。内服には。此硫黄花を

用るを尤よしとす。肥前瘡内/欝(うつ)
して。水/腫(しゆ)を發(はっ)することあり。甚し
きは衝心(しようしん)するものなり。小便つうじ
あしく。水腫(むくみ)を発(はつ)したるは後のす【すの右に長四角】
の部水/腫(しゆ)の條(でふ)にいふところの治法
に從(したかひ)てよし。衝心(しようしん)するものは。前の
か【かの右に長四角】の條(でふ)の脚気(かくけ)の衝心(しようしん)と異(こと)なること
なし。肥前瘡内/攻(こう)して。心腹(むねはら)の病と
なり。或(あるひ)は眼病(がんびやう)となり。又は變(へん)じて
腰(こし)あしの病となりたるもの。および
年久しく皮膚(はだへ)の間に浸淫(しみひろがり)【「滛」は「淫」の誤字】て癢(かゆみ)
をなすものゝるゐは。日々水を灌(あび)て
おこたらざれば。その毒ふたゝび外表(そと)へ
發(はつ)して膿(うみ)を醸(かも)して治するなり。
この一/叚(だん)に至ては。世人の卒(にはか)にきゝ
て駭(おどろく)ところの治療(ぢりやう)にして。庸毉(なみ〳〵の)
鼠輩(いしや)【注】のよく知ところにあらず。故
に此(こゝ)には論ぜざるなり。▲砒霜(ひさう)の毒
には。胡麻油(ごまのあぶら)にても。燈(ともし)油にてもよく

【注 庸毉(医)=平凡な医者。藪医者。 鼠輩(そはい)=とるにたらない者ども。人をののしる語】

    ひもせ                六十五


用れば解(げ)す。また明礬(みやうはん)二匁ばかり
を細末して冷(ひや)水にて服(もちふ)れば。これも
毒(どく)を解(げ)するものなり▲人にゆびを咬(かま)
れたるも。同類とて慢視(ゆだん)しがたき
ことあるもの也。もし血出て痛(いたみ)たへ
がたくば。はやく小便をしかけなか
ら洗てよし。または小便を器(うつは)にとり
て。その中へゆびさきを浸(つけ)おき。血のと
まりたる後に。冷水にてよく洗ひ。
發燭(つけぎ)か紙撚(こより)に油をつけたるに火
を點(てん)じ。創口(きすぐち)に滴(たら)しこむか。又は灸を
六七壯したるがよし も【白抜き文字】粢餻(もちだんご)の類(るゐ)
の咽(のんど)に噎(かゝり)て下がたきに。ごまの油を
二三勺/服(のめ)ば。すみやかに下るなり。又は
きつき醋(す)を鼻(はな)へ吹こむか。服(のま)するも
よし。蘿菔(だいこん)の自然汁(しぼりしる)もまたよし
せ【白抜き文字】疝気には。菩提子(じゆずだま)の根(ね)を煎(せん)じ
て用る。これを疝気(せんき)の一/服(ふく)薬と云(いふ)
は。一ぷくにて効(こう)ありといふて。賣薬(ばいやく)

にするなり。また馬蓼(いぬたで)の莖葉(くきは)を
乾(ほし)て刻(きざみ)煎(みせん)してもちふるも効あり。
または唐(から)の苦楝子(せんれんし)。小/茴香(ういきやう)。唐木(からのもく)
香(かう)を等分(とうぶん)にして。それに川穀根(じゆずだまのね)を
倍(いちばい)加(くはへ)て。疝気(せんき)の妙藥なりといふて
鬻(ひさく)ものあり。これらは尋常(なみ〳〵)の毉士(いしや)の
藥よりまさりたる効のあるもの也。
川穀根(じゆずだまのね)。馬蓼(いぬたで)などは。多くあるもの
なれども。時に臨(のぞみ)ては得(え)がたきことも
あれば。この宿疾(ぢびやう)あるものゝ旅装(たびばり)【たびなりヵ】には。
用意したるもよし。または前の建(けん)
中散(ちうさん)にも。疝気(せんき)を治する効あれば。
それにてもよし。せんきにて。陰嚢(いんのう)に
はかにはれたるには。小/茴香(ういきやう)を細末
して多く服(もちふ)れば。効あるもの也
▲焼酎(せうちう)を飲(のみ)て解(さめ)がたきときは。きの
つよき醋(す)を多く呑(のむ)べし。もし毒に
あたりて。靣色(めんしよく)青(あを)くなり。昏眩(ひきつけ)んと
するものは。すみやかに咽(のんど)をさぐりて
   せす        六十六

吐か。またははきぐすりを用るがよし。
またはやくあつき湯(ゆ)に浴(いれ)ば解(け)す
るといへり。せうちうを呑(のみ)て。水を
多く飲(のむ)ときは。卒死(そつし)する者(もの)有(あり)と云(いへ)り
す【白抜き文字】寸白(すんばく)と俗(そく)にいふは。もと長さ一寸
ばかりなる色白き蟲(むし)のことなるを。
條蟲(でうちう)。または長蟲(ちやうちう)とよぶものゝひら
たくして長(なが)く。かたち真田紐(さなだひも)に
にたるをもつて。これをさなだむ
しといふものを誤(あやまつ)て。寸白の蟲(むし)と
いひ。小腹(したはら)より腰脚(こしあし)へひきつりていた
むものゝ。またこの蟲(むし)を通(つう)ずるより
うつりて病の通名となりし也。
この證(しよう)。實(げ)にこのむしの腸中(はらのうち)に生
じたるよりおこるものあり。この
蟲を下すもの。五六尺または一𠀋あ
まりも通じたるを引きりたる。
その殘(のこり)たるは。死ずして延(のび)ゆくも
のとみえて。先後(ぜんご)十/餘(よ)丈/乃至(ないし)二十
𠀋/餘(よ)も通じたるものあり。この蟲(むし)
を治(いや)さんには飲食(たべもの)を断(たち)て。榧(かや)の實(み)
一品を三/次(ど)の食にかへて。七日が間
喫(くは)すれば。蟲(むし)かならず死て下ること
妙なり。つねに蚘蟲(くわいちう)とて。蚯蚓(みゝず)のごと
きむし多く生じて。さま〴〵の
患(なやみ)をなすものも。かやの実(み)をくへば。
こと〴〵く下りていゆるなり。
また。阿魏(あぎ)といふいたつて臭気(くさみ)あ
るものあり。これも蟲(むし)に効(こう)ある物
なり。これに藤黃(しわう)を十分一くはへて
ひさしく用れば。よく蟲を下す也。
また前の疝気(せんき)の藥に。草烏頭(さううづ)を
一/貼(てふ)に七八分つゝくはへ漫火(ゆるきひ)にていた
つて濃(こく)煎(せん)じて用れば。よく一時の苦(くる)
悩(しみ)を治するものなり。また薤白(にんにく)に
味噌(みそ)をつけ。火に炙(あぶり)てくらふも効(こう)あり
▲擦傷(すりきず)には。魚膠膏(にべのかうもく)をつけてよし。
その方は。安息香(あんそくかう)三十匁を細末し
    す              六十七

て。燒酎(せうちう)に二日ばかりつけおき。澤(かす)を
しぼりすて。魚膠(にべ)百匁に。水一升ほ
ど入。よく煮(に)て。五合ばかりに成たる
とき。安息香(あんそくかう)の焼酎(せうちう)を加へ。かきまぜ
て膠飴(みづあめ)のごとくなりたるときに。
火より下し。細布(めのこまかきぬの)または絹(きぬ)にのべて
貯(たくはへ)おくなり。これを略(りやく)して水透膠(じゆうすきにかは)
とよぶものに水を入。煮(に)とかしたる
を。紙にのべたるを。即功紙(そくこうし)といふて
うるものあり。かろきものには用べ
し。この魚膠膏(にべのかうやく)は。擦破(すりやぶり)たる創(きず)。金刃(きり)
傷(きず)の浅(あさ)きもの。肉刺(はなをづれ)などにも用ひ
らるべく。且(かつ)唾(つば)をもつてしめして
貼(つく)るのみにて。捷便(てばや)なれば。旅行(りよこう)番(ばん)
兵(ぺい)などは。ふところにしてえき
あるものなり。即功帋(そくこうし)の色を黄(き)
にするには。黄蘗(わうばく)を煎(せん)じて入るなり。

救急撮要方

救急撮要方拾遺 嗣刻
 前編に洩たることをこと〳〵く記したり
救急摘方前編  中本一冊刊行
 火やけど湯やけど打身きり疵鉄炮の
 玉疵一切急病の救ひかた骨のつぎかた
 まても素人に会得せらるゝやう
 にくはしく図を出して示す所の
 書なり
同後編     同刊行
 朝夕に用る水のゑらびかた濁たる水を
 すます仕方熱病痢病其外うつり
 安き病のふせぎかた蝦夷などの寒
 地にありて寒気をふせぐべき仕方
 鉄炮疵のうみたるを治する法一切の
 急病をすくふことを詳にしるし
 たり前後一帙にしたる本もあり
厩馬新論    大本一冊刊行
 馬はかならず半身は水に浮てわたる
 べき獣なれども仕立かたあしき故に
 当世の乗馬にては軍用に立がたき
 ことを論じいかなる困窮の士にても
 費少くして馬を飼るべき仕方をも
 詳にしるして馬の病を察する目
 きゝをまでかきのせたり
日本開闢由来記 絵入よみ本七冊
 日本は世界第一の国なる由来を
 古書によりて詳に記しやまとだま
 しひを引起さしむる書なり

安政五年戊午九月発行
 書物問屋 和泉屋金右衛門

シヤ
   □文淵丗五年千二百六十
□ソ?

(養生教訓)医者談義

【収蔵用外箱・表紙】

医者談義 五冊


【収蔵用外箱・背表紙】
医者談義 五冊       富士川本 イ 395


【収蔵用外箱・表紙】
医者談義 五冊

【整理ラベル・富士川本/イ/395】

【表紙 題箋】
医者談義  一

【貼紙ヵ、手書き文字】
イ一ヲモテ

【整理ラベル・富士川本/イ/395】




医者談義(いしやだんぎ)
   目録
一 人(にん)参 好悪(よしあし)之(の)談義(だんぎ)
一 配剤(はいざい)大小之 談義(だんぎ)
一 加持祈祷(かぢきとう)之 談義(だんぎ)
一 病家(びやうか)需(もとむる)_レ医(いを)之 談義(だんぎ)
一 至賤中(しいせんのなかに)有(ある)_二殊常功(しゆじやうのこう)_一談義(だんぎ)

【朱印・京都帝国大学図書之印】
【朱印・富士川游寄贈】
【朱印・山口文庫】
【黒印・705823 昭和15.9.5】

一 疱瘡神(いものかみ)之(の)談義(だんぎ)
一 医者(いしや)発(はやり)不(はやら)_レ発(ざる)之(の)談義(だんぎ)






医者談義巻一
  人参(にんじん)好悪(よしあし)之(の)談義(だんぎ)
夫(それ)医者(いしや)の起(おこ)りは天地ひらけて八十一万五千五
百八十二年にして今より算(かぞへ)て二万二千八百七十
七年 前(さき)にあたつて天竺(てんぢく)震旦(しんたん)我朝(わがてう)三国の真中(まんなか)
の大唐(たいとう)に太昊伏義(たいかうふつき)氏(し)出たまひて八卦(はつけ)を開(ひら)き陰(いん)
陽(やう)五 行(ぎやう)の道をあきらかに教(をしへ)たまふこれを易(ゑき)と
名(な)付て上下二 巻(くわん)の書(しよ)と成て今につたはれり
伏義より一万七千七百八十七年にして炎帝(ゑんてい)

神農(しんのう)氏(し)出たまひて一 切草木(さいさうもく)の気味(きみ)を嘗(なめ)味(あぢは)ひて
一年の日の数(かず)に充(あて)て三百六十五 種(しゆ)の薬品(やくひん)を定(さだ)め
られ上中下三巻の本経(ほんきやう)本草(ほんさう)をあらはして今に
つたはれり神農氏(しんのうし)より五百年の後に黄帝有熊(くわうていゆういう)
氏(し)出たまひて岐伯(ぎはく)鬼曳区(きゆく)【鬼庾区ヵ】等の諸臣(しよしん)と人身(じんしん)の形(けい)
体(たい)五 臓(ざう)六 腑(ふ)十二 経絡(けいらく)等(とう)の理(り)を論(ろん)し一切諸 病(びやう)を治(ぢ)
する法(ほう)を定められ素問(そもん)九 巻(くわん)霊枢(れいすう)九巻 合(がつ)して十
八巻 内経(だいきやう)といふ以上三 世(せい)の書(しよ)を学(まな)ぶを以て医は三
世ならずんば用ゆべからずといへり黄帝(くわうてい)より三千

年の後今より千五百年の先(さき)後漢(ごかん)の世(よ)にあたつ
て長沙(ちやうしや)の太守(たいしゆ)張仲景(ちやうちうけい)出(いで)て傷寒雑病論(しやうかんざつびやうろん)十六巻
をあらはし一百十三 方(はう)の薬法三百九十七法の治法を定
められしなりこれより医道(いだう)盛(さかん)に成て隋(ずい)唐(とう)宋(そう)
元(げん)明(みん)にいたつて医書(いしよ)のおほくなりしこと牛(うし)に
汗(あせ)し棟(むなぎ)に庇(さしかけ)することに成しなり是は唐(から)の事日本
にしては大己貴命(おゝあなむちのみこと)少彦名命(すくなひこなのみこと)既(すで)に神代(かみよ)より和流(わりう)の
医法(いはう)伝りて和気(わけ)丹波(たんば)の二 流(りう)近代(きんだい)は半井家(なからいけ)道三
家の両流また盛(さかん)なり然れども慶長(けいちやう)以前は諸国に

医家(いか)幾許(いくばく)もなしいにしへは 天子より諸国へ施(せ)
薬院使(やくいんし)をくだされ民病(みんびやう)を救(すく)はせたまひしとなり
元和以来は太平の御代(みよ)となり馬(むま)の靴(くつ)ひらふ童(わつは)も
筆持(ふでもつ)すべをならひ墨(すみ)にて髭(ひげ)つくる奴(やつこ)の角内(かくない)角
介もいろは知らぬは稀(まれ)なる世(よ)と成て衆方(しゆはう)規矩(きく)
万病(まんびやう)回春(くわいしゆん)の仮名(かな)付あるを見て医者(いしや)の真似(まね)する
者(わろ)【注】が何(いつ)の間(ま)にやら頭(あたま)をまろめて長羽織(ながはおり)見る内に
駕籠(かご)乗物(のりもの)にとび上(あが)り昼夜(ちうや)いそがしげにはしり
廻(まは)り子孫(しそん)虱(しらみ)のわくがごとく分散(ぶんさん)して国々里々

【「わろ」=人をののしっていう時に使う】
【左ページは挿絵のみ】

【右ページは挿絵のみ】


村々に医者(いしや)のなき所なし此故に狂哥にはひがし
しらみ日の出医者とよまれ絵馬(ゑま)には駒(こま)ざらへにて
さらゆるていをゑがゝれ医道の昌(さかん)成に似(に)て衰(おとろへ)也
且(かつ)恥(はぢ)なり是よりして医者のふり売(うり)出来(でき)て棒(ぼう)
手(て)ふりも同しやうに卑(いや)しめらるむべなるかな此
比(ころ)の医者は何(なん)の御 存知(ぞんじ)もなふて人参(にんじん)さへ用(もち)ゆれ
は病(やまひ)は愈(いゆ)るものとおぼへて外感(げかん)内傷(ないしやう)の別(わかち)もなく鼻(はな)
嗽気(がいき)の少し重(おも)く三日とも熱(ねつ)ねぢひけは傷寒(しやうかん)也
内傷(ないしやう)なりと劫(おび)やかしはや人参とすゝめかけ病家(びやうか)

【赤線や黒丸の書き込みがあるが翻刻には書かず】

も面扶持(つらふち)に百日取 小者(こもの)【左ルビ・ちうげん】の妻(さい)が今日(けふ)七日に成ます
少々人参を用ひて宜(よろ)しからば御入■■■といふ様(やう)
になりしは世界(せかい)に人参が沢山(たくさん)に成しや銀(かね)が沢山
に成しや夫(それ)人参 伝(でん)に論(ろん)せしは用ゆべき用ゆべか
らずの病証(びやうしやう)を明(あき)らかにし且(かつ)人参は遥光星(ようくわうせい)の精(せい)散(さん)
して人参となるゆへに下(しも)に人参あれば上(うえ)に常(つね)に
紫気(しき)【左ルビ・むらさき】あり背陽向陰(はいやうかういん)に生じて自然生(じねんじやう)を以て好(よし)と
す唐より渡る人参中にも上黨参(しやうたうじん)を最(さい)上とす新(しん)
羅(ら)高麗(かうらい)百済(はくさい)そ■三 韓(かん)といふ乃(すなはち)三 韓(かん)合して朝鮮(てうせん)

といふ此三 韓(かん)の中にも新羅(しんら)を上とす高麗(かうらい)是に次(つげ)
り百済(はくさい)また高麗の次なり三韓より猶奥(なをおく)唐(から)の北(きた)
つゞきに遼東(りやうとう)といふ所あり是より出る参を遼東(りやうとう)
参(じん)といひて朝鮮にまさりて上黨に亞(つげ)りまた朝
鮮より北(きた)に遼東につゞきて女直(ぢよちよく)といふ嶋あり是
より出る人参を朝鮮に交(まじへ)又(また)女直(ぢよちよく)よりすぐに唐(から)の
南京(なんきん)に毎年二十万斤 宛(づゝ)貢(みつき)物とす朝鮮より劣(おとれ)り
是を商(かひ)唐(たう)人共か受得(うけゑ)て日本に売来りこれを唐(たう)
人参(にんじん)といひ又 判子(はんす)ともいふ元禄年中まで朝鮮(てうせん)

および唐(から)より来れる人参は皆(みな)真(しん)の物(もの)にして偽(にせ)
物(ぶつ)なし此故にわづか寸(すん)にたらざる人参を噛(かむ)で卒倒(そつたう)
したる者の面(おもて)に吹(ふき)かくれば忽(たちまち)蘇(よみ)がへり些少(すこし)の人参の
煎汁(せんじしる)を呑(のめ)ば立所に乱心(らんしん)す此ゆへに人参を恐(おそ)るゝ事
蛇蝎(しやかつ)のことし唐(から)にて人参の真偽(しんぎ)を試(こゝろみ)るには口にくわ
つて走(はしる)事三五里にして息(いき)きれざるを真(しん)とす正
徳年中より以来は唐も日本も人 上手(じやうづ)に成て人
参を作(つく)り出せること夥(おびたゝ)し故に種々の似(に)よりもの
偽贋(ぎよう)の物おほく今の人参は口に頬(はう)はりて走(はし)り

ても三町ともゆかずして息(いき)きれぬべし蓋(けだし)唐の
一里は日本の六町なり然れば唐の五里は日本の三十
町なり且又唐の独参湯(どくじんたう)は一両を以て独参湯(どくじんたう)とせ
り唐の一両は十匁を以て一両とせりいかにも真(しん)の
人参十匁をもつて独参湯(どくじんたう)とせば起死回生(きしくわいせい)の功(こう)あ
りて死(し)に垂(なん〳〵)たる者も元気(げんき)を無可有(ぶかゆう)の郷(さと)に回(かへ)す
ことあるべし今見る所の独参湯は五分或は一匁
二匁三匁をかぎりとせり儀に奔哺(はんほ)【左ルビ・ふきだす】にたへたり且
元文の頃より広東(かんとう)といふ中(うち)にまきれもの出て卑賎(ひせん)の

者を惑(まどは)し家財(かざい)を費(ついやさ)しむるは人参人を助(たす)くるには
あらで人を死(しな)すなり無用のものなれども遠鄙(ゑんひ)は
なを取はやすよしなり近比時めく医者に本(ほん)の名
は白地(あからさま)にいはれぬ陰(かげ)の名(な)は人参(にんじん)牙人(すあい)といふげ也四枚
肩(がた)に常乗(ぢやうのり)薬箱(くすりはこ)持(もち)草履取(ざうりとり)若党(わかたう)かけて上下八人
鳴(なり)わたりてありくいしやどの薬店(やくてん)より安(やす)い大人
参をあづかりて病家(びやうか)へしたゝかなる朝鮮人参に
してあてがふをたれも乗物(のりもの)のいきほひにて真(しん)
の朝鮮とうけがへり■■【去々ヵ】年の事とや室(むろ)町に常(つね)に

在金(ありかね)千両の身代(しんだい)くつろがぬ者(もの)あり一人男子十八歳
陰虚(いんきよ)火動(くわどう)の症(しやう)にて肺火(はいくわ)高(たか)ぶりごほ〳〵と嗽(せき)す亭(てい)
主(しゆ)僭上(せんしやう)にて贅(ぜい)はる者(もの)ゆへ件(くだん)の乗物(のりもの)より外に医者
はないものゝのやうにおぼへ薬師(やくし)と崇貴(あがめたつと)ひて日の始よ
り他医にみせす此乗物に取付(とりつい)て放(はな)さず乗物
どのも見懸(みかけ)家がまへ窯(かまど)のけふりの淋(さみ)しからぬに見
こみ随分(ずいぶん)見 廻(まは)り人参は手前が持料(もちりやう)を用ゆべしと
例(れい)のまぎら人参を一両代金十両とかき付てやる手■【にヵ】
受取 猿(さる)の餅(もち)一 服(ふく)に二分 宛(つゝ)入て一日に二 服宛(ふくあて)三年


【牙人=がじん、牙儈=すあい、どちらも売買の仲買人のこと】

に人参百八両 銀(ぎん)にして六十四貫八百目千両の身
代こ つ(ツ)きりや つ(ツ)てうわの四貫八百目諸道具売りて子(む)
息(すこ)の葬送(さう〳〵)やう〳〵仕(し)まふて百ヶ日の茶湯(ちやたう)に油揚(あぶらふげ)さへ
ならぬやうにしたは彼(かの)人参牙人(にんじんすあい)のはぎむいたゆへ去(さり)
とはむこい仕方(しかた)また一医是も本名はいはれぬ異名(いみやう)
は投田簺庵(なげたさいあん)云(いふ)にいはれぬ名人(めいじん)人(ひと)の手にある双六(すごろく)の
さいの目をも勘(かん)がゆること刺(さす)の巫(みこ)耆婆(ぎば)扁鵲(へんじやく)もおよ
ばず胗脉(しんみやく)が此通りならば乗物はさておき輿車(こしくるま)に乗(のり)
て天上までも引上られん山 祭(まつ)りにおゐては出合(であい)

【耆婆=古代インドの名医、扁鵲=古代中国の名医】


【左ページ・挿絵のみ】

【右ページ・挿絵のみ】

【左ページ】
つり者茶屋風呂屋晴屋 巾着(きんちやく)屋 背小路(ぜこうじ)かゝらぬ嶋
なく随分 昼夜(ちうや)我家(わがや)に居(を)らぬあそび好(ずき)の医者也
或(ある)たゝきやめば喰(くい)やむ貧(まず)しき薬鑵屋(やくわんや)あり母ひと
り子ひとり四十におよんで妻もたず至て孝行(かう〳〵)
成こと世間に知られたり母 既(すで)に老病(らうびやう)におよびぬれば
たゝきやめての看病(かんびやう)貧(まづ)しき中に心をつくせり仲(なか)
間(ま)の薬鑵(やくわん)屋より投田(なげた)をたゝき付(つけ)ければ生れてより
つゐにくすり三昧(ざんまい)せぬものなればくすりさへ飲(のめ)ば
人は命(いのち)の百までもあるものとおもつてしがみつゐ

ての頼(たの)み何とぞ今一たび本復(ほんぶく)いたさせたきとのこと
ばに乗(のつ)て年よりての痰(たん)せきこしの痛(いたみ)是 本脾(もとひ)
胃(い)のよはみなれば帰脾湯(きひたう)でなければならず人参(にんじん)
黄芪(わうぎ)【黄耆】木香(もつかう)酸棗仁(さんそうにん)龍眼肉(りやうがんにく)の高貴(かうき)の薬品(やくひん)をとゝのへ
越(こ)されといへばつゐにくすりといふもの取扱(とりあつかひ)いたさね
ば其許(そこもと)にて御調(おとゝのへ)くださるべし代物(だいもつ)は是よりといふ
にまかせて三十日ばかりにやくわん屋の身代たゝ
きつぶして母もむなしく鳥辺山(とりべやま)へやるやこのかた
人参代をせがまれ家(いへ)うり払(はら)いやう〳〵にして手と

身に成ていと不便(ふびん)にあはれなることは母の吞残(のみのこ)され
しくすりに龍眼肉(りやうがんにく)とやらいふものことの外(ほか)高直(かうじき)なる物
のやうにお医者のいはれしなり三十 粒(つぶ)ほどあり今は
これなりとも銭(ぜに)にして母の茶湯(ちやたう)にいたしたきと
いふを見れば龍眼核(りやうがんかく)なりあゝふずることか投田(なげた)かいか
に薬物(やくぶつ)しらぬものなればとて病家(びやうか)を欺(あさむき)て龍眼
肉の肉(にく)をおのれがくらい核(さね)を病家へつかはして薬に
入させしこと言語道断(ごんごだうだん)医中の横道者(わう?うもの)きつと恥(はぢ)しめ
たいやつやゝもすれば見せ懸(かけ)花麗(くわれい)にする医者の中

に此類あるは六十六部の中に護摩(ごま)の灰(はい)あるがごとし
六十六部は世間になふても事かけず医者と金銀
は世間になふてかなはぬもの金銀の悪(わる)かねは石(いし)にて
見る医者の悪腸(わるわた)は人の眼鏡(めがね)にて見る是第一病
家の用心あるべきことなりと声はりあげ机(つくゑ)を叩(たゝき)
いきまきて談(だん)じける所に勝手(かつて)より山の神間(かみあい)の
障子(しやうじ)をさらりとあけて又 糞得斎(ふんとくさい)の我(われ)しりがほ
の講談(こうだん)勝手(かつて)にてきけばはあ〳〵とおもふて気(き)が升(のほ)
りて頭痛(づつう)かする皆(みな)若(わか)い諸生衆(しよせいしゆ)あのやうなる講談(こうだん)

を聞(きい)て心内(しんない)に秘(ひ)して居(い)るゝともかならず世間(せけん)に
出ていひひろめらるゝなあれにては医者ははやら
ぬぞよ第一 薬店(やくてん)ににくまれて通(かよひ)がつかゆるたとへ
元禄年中の人参が今あればとて五十年以前
の古黴(ふるかび)たもの薬力(やくりき)があるべきか其上(そのうへ)金銀を車(くるま)に
積(つん)でもないものはないにして馬(むま)のないとき牛(うし)と
いふ水(みづ)なき里山坂(さとやまさか)に渇(かつ)しては梅(むめ)といふ名(な)を聞(きい)て
も口中(こうちう)に津(つ)がたまりて喉(のんど)をうるほすためしも
あり大切至極(たいせつしごく)の親(おや)の今(いま)死(し)なれては跡(あと)はいかゞせん

いとしかあい子の是が死(しん)では共(とも)に火(ひ)に入らんと思ふ
折節(おりふし)何(いづ)れのくすりもきゝめがない此うへは独参湯(どくじんたう)
補薬(ほやく)にあらざれはならすといふ段(だん)におよんではたとへ
桔梗(ききやう)でも干大根(ほしだいこん)でも是が人参といへばとび付程(つくほど)
にたのもしく鰯(いわし)の首(かしら)も信心(しん〴〵)から奇妙不思議(きめうふしぎ)の
効験(こうげん)もあるものぞうたがふては阿毘羅牟件(あびらうんけん)も験(げん)が
ない一心(いつしん)決定(けつでう)してはあぶらおけそわかとそんでもな
いこととなへて呪(ましなひ)し婆々(ばゞ)疼(うつき)を止(やめ)し例(ためし)もありあな
がち真(しん)の人参 似(に)より人参とて忌嫌(いみきらひ)あるべからす

【阿毘羅吽欠・あびらうんけん=大日如来の真言】

【左ページ・白紙】

【一巻の背表紙】

【二巻表紙】

《割書:養生|教訓》 医者談義  二

【整理ラベル・富士川本/イ/395】

【整理ラベル・富士川本/イ/395】




医者談義巻二
   配剤(はいざい) 大小之 談義(だんぎ)
毎(いつ)も来(きた)る諸生(しよせい)の中に嶋村蟹蔵(しまむらかにぞう)とて横(よこ)に行(ゆく)
者(わろ)すゝみ出(いで)ていはく拙者(せつしや)此頃(このごろ)仲景(ちうけい)の傷寒論(しやうかんろん)を
読(よみ)候所に桂枝湯(けいしたう)麻黄湯(まわうたう)の分量(ぶんりやう)を見れば桂枝湯(けいしたう)は
桂枝(けいし)三両 芍薬(しやくやく)三両 甘草(かんざう)二両 生姜(しやうが)三両 大棗(なつめ)十
二 枚(まい)とこれあり宋元(そうげん)以来(いらい)明朝(みんてう)の方書(はうしよ)共に古(いにし)への
三両は今の一両とあり明朝(みんてう)の一両は十匁を一両とす
然れは桂枝湯(けいしたう)の薬品(やくひん)五 味(み)合(がつ)して四十二匁そこら


【朱印・京都帝国大学図書之印】
【朱印・富士川游寄贈】
【朱印・山口文庫】
【黒印・705823 昭和15.9.5】

なり水七升を以て煎(せん)じて三升を取(とつ)て三 服(ふく)と
して一 服(ふく)にて汗(あせ)出(いで)たらば後服(ごふく)をやめるとあり
古(いにし)への一升は今の京升(きやうます)一合たらずとなり然れば七
升は七合たらずの水なり薬味(やくみ)四十匁 余(よ)あるを三合
にせんじつめてはあぶらのごとく蜜(みつ)のごとくなる
べし傷寒論(しやうかんろん)に見ゆる所の薬方(やくほう)桂枝湯(けいしたう)麻黄湯(まわうたう)
以下一百十二法の内 湯薬(たうやく)の分(ぶん)何(いづ)れも皆(みな)薬剤(やくざい)多(おほ)く
水 多(おほ)し煎(せん)じつめてははなはだ厚濃(あつくこき)くすりなり
然(しかふ)して用ひやうは一服(いつふく)にして験(しるし)を取法(とるはう)なり然るに

当世(たうせい)のくすりは一ふくわづか一匁より一匁四五分
大服(おゝふく)なるは稍(やゝ)二匁に過(すぎ)ず水は一合半あるひは二合
反に過(すぎ)す然(しかふ)して病(やまひ)を治(ぢ)するに日(ひ)を経(へ)月(つき)を越(こゆ)る
是古への傷寒(しやうかん)と今の傷寒と異(こと)なるや又 唐(から)と日本(にほん)
と人物(じんぶつ)ことなるや此義くわしく御 談(かたり)候へ糞得斎
つく〳〵聞て足下(そなた)は学頭(がくとう)ほどありて医家(いか)の肝門(かんもん)
を問(と)はるゝよ内経(だいきやう)にいはく病(やまひ)に遠近(ゑんきん)あり證(しやう)に中外(ちうぐわい)あり
治(ぢ)に軽重(きやうちう)あり近(ちか)きものは之(これ)を奇(き)とし遠(とを)き者は
これを偶(ぐう)にす汗(あせ)するには奇(き)をもつてせず下(くだ)す

には偶(ぐう)をもつてせず上(かみ)をおぎなひ上(かみ)を治(ぢ)するには
制緩(せいくわん)をもつてし下(しも)をおぎなひ下(しも)を治(ぢ)するには制(せい)
急(きう)を以てし近(ちかふ)して偶奇(ぐうき)の制(せい)其服(そのふく)を小にす遠(とを)く
して奇偶(きぐう)其 服(ふく)を大にす大なれば数(すう)すくなし小
なれば数多(すうおほ)し多ければ之(これ)を九ふく少ければこれを
一にす之(これ)を奇(き)にして去(さら)ざれば之(これ)を偶(ぐう)にし之(これ)を偶(ぐう)
にして去(さら)ざれば反佐(はんさ)して以て取之(これをとる)所謂(いはゆる)寒熱温涼(かんねつうんりやう)
反(かへつ)てしたがふとあり仲景(ちうけい)の立方(りつはう)は医家(いか)治法(ぢはう)の元祖(ぐわんそ)病
に対(たい)して百発百中(ひやくはつひやくちう)にして病(やまひ)を治(ぢ)するの大法(たいほう)也 譬(たとへ)ば

聖人(せいじん)の書(しよ)にも刑罰(けいばつ)の大法(たいほう)あるがごとし其罪の者(もの)へ
其刑(そのけい)其罪(それのつみ)の者(もの)は其罰(そのばつ)かくのごとしそのほど〳〵の
法あるがごとしたとへば分(わ)れすまふの評(ひやう)に理(り)ありと
見ゆる者の無口(むくち)不弁(ふべん)にして非分(ひぶん)になるあり非(ひ)あり
と見ゆる者の弁舌(べんぜつ)利口(りかう)にしていひまわしてかちに
成ありこゝにおゐて疑似不分明(ぎじふふんみやう)にして未決(みけつ)のときは
左右の頭取(とうとり)行事(きやうじ)こゝかしこをいひなためて勝負(しやうぶ)は
おつてとのべて置(おく)は彼関取(かのせきとり)の重(おも)ければなりふりさはなし
に前(さき)の伊州(いしう)後(のち)の防州(ばうしう)へいひおくりに惣而(そうじて)国民(くにたみ)の争(あらそ)ひは

【見開き挿絵】

小僧(こぞう)の三 事(じ)鈴木(すゞき)か奥州(をうしう)くだりと意得(こゝろへ)らるべしと有
しとなり寺(てら)の小僧(こざう)か親(おや)の許(もと)へ逃帰(にげかへ)り父母(ふぼ)にいふやうは和(を)
尚(しやう)のきびしさいらひどさもはやこらへがたく候これ見さ
しやれ頭(あたま)り生疵(なまきづ)たゆることなく殊(こと)に不自由(ふじゆう)なるは朝夕(てうせき)
の飯(めし)を蓋(かさ)でくれやりますそして気短(きみじか)にせわしな
く小僧〳〵といらへする間もござらぬ雪隠(せちん)に行(ゆけ)ば長居(ながい)
するとて棒(ぼう)でみしらしやります是では命(いのち)もござ
らぬと泣口説(なきくどけ)ば父(ちゝ)聞てまことくし扨〳〵不仁不慈(ふじんふじ)成
和尚(をしやう)見 懸(かけ)とは大にちがふたりいで隙(ひま)取(とつ)て得(ゑ)させん

とて寺へ走行(はしりゆき)右の三事一々に云ひ立て述懐(しゆつくわい)す
れば和尚(をしやう)大にけでんして先(まづ)あれなる雪隠(せちん)を見やし
やれ手(て)ならひせよ経(きやう)よめよといへば其まゝ雪隠(せちん)へ走(はし)る
何をするやらと始のほとはおもひましたが壁(かべ)をむし
り榀(こまい)を折取(をりとり)あのごとくあばれ雪隠(せちん)にして野中に
用(よう)に居(い)るやうに拙僧(せつそう)のなんぎ御 推量(すいりやう)あれ朝夕(てうせき)の飯(いひ)
を炊(かし)かすれば飯揚(いひあぐ)るときに杓子(しやくし)にててんがうに鍋釜(なべかま)
のふちをたゝいて御 覧(らん)候へ此ごとくと申に成たる杓子(しやくし)
を十四五本出して杓子もとむる間(あいだ)にはせふ事なしに

飯椀(いひわん)の蓋(かさ)で■【たヵ】つさせます頭をそれといへば髪(かみ)おし
みして月に一度も押(おし)てとらへて剃(そり)ますればはね
まわりて是非(ぜひ)なく剃刀疵(かみそりきづ)がたへませぬこなたの子息(しそく)て
ござれども何ともならぬあん■■【ばくヵ】者けれとも愚僧(くそう)が弟(で)
子(し)にいたしたれば不便(ふびん)に存(そんじ)年たけ成長(せいちやう)したらばよく
ならんとだましすかしてそだてますと涙(なみだ)おとして
語(かたり)たまへば父(ちゝ)けうさめて小僧(こぞう)が口と大ちがひいひわけな
くして帰(かへ)りしといふ世俗(せぞく)の諺(ことわざ)に和尚(おしやう)が和尚(おしやう)なれば小(こ)
僧(ぞう)が小僧(こぞう)とは片口問答(かたくちもんどう)をいましめたる古事(こじ)なり鈴木(すゞき)が

奥州(おうしう)くだりは義経(よしつね)は都(みやこ)より舟路(ふなぢ)よりこられしに大物(だいもつ)の
浦(うら)にて悪風(あくふう)にあい北国越(ほつこくごへ)に奥州(おうしう)へ三十 余日(よにち)で着(ちやく)せら
れしに鈴木(すゞき)は跡(あと)じまいして京(きやう)かまくらの様子(やうす)聞合(きゝあはせ)
せこゝかしこに遅滞(ちたい)逗留(とうりう)して東海道(とうかいだう)を七十五日かゝ
りて奥州(おうしう)につきしとなり是月日を経(へ)て善悪(ぜんあく)の
表裏(へうり)を聞定(きゝさだ)むるの法(ほう)なり又 防州(ばうしう)の計略(けいりやく)に石地蔵(いしぢぞう)の木(も)
綿(めん)をぬすまれしを町内(てうない)数月(すげつ)の張番(はりばん)に困窮(こんきう)して終(つい)に盗人(ぬすびと)
あらはれしは遷延(せんゑん)と日数(ひかづ)を経(へ)しゆへしれがたき盗賊(とうぞく)を
出(いだ)されたり医(い)の治法(ぢほう)も此通り仲景の立法は大法なり

凡 傷寒(しやうかん)の似より者二十四病あり六経(りくけい)の伝證(でんしやう)も太陽(たいやう)
陽明(やうめい)少陽(せうやう)太陰(たいいん)少陰(せういん)厥陰(けついん)の六経(りくけい)に渉(わた)るに伝本(でんほん)順経(じゆんけい)
越経(をつけい)誤下(ごげ)表裏(へうり)首尾(しゆび)の次第あり経病(けいびやう)府病(ぶびやう)併病(へいびやう)合病(がつびやう)
壊病(ゑびやう)の分別(ふんべつ)あり汗(あせ)するには早(はや)きをいとはず甚(はなはだ)はやき
ことなかれ下(くだ)すには遅(おそ)きをいとはず甚おそきことな
かれ桂枝(けいし)喉(のんど)にくだつて陽(やう)盛(さかん)なれば斃(たをれ)承気(じやうき)胃(い)に入て
陰(いん)盛(さかん)なれば亡(ほろぶ)とのいましめあり此ゆへに西晋(せいしん)以後 隋唐(ずいとう)
宋元明(そうげんみん)に至て仲景の立方を證(しやう)にして人(にん)々家(け)々
種(しゆ)々の変方(へんはう)を立て服(ふく)を小にし日数をのぶる事 医(い)

家の秘事(ひじ)なり明(みん)の王(わう)時勉(じべん)が常勲(じやうきん)の徐氏(ぢよし)が中気 不足(ふそく)の
症を療(りやう)ぜしときいへることあり不足虚分の症を補(おぎなふ)には
日 数(かず)を積(つむ)て治(ぢ)を緩(ゆる)くするにはしかじ家屋(かをく)を建(たつ)るが
ごとし不日 急速(きうそく)にはなるべからずといひて百日を限り
て治療(ぢりやう)するに十日ばかりにして何のしるしも見へざれ
ば徐氏(じよし)性急(しやうきう)にして医を更(かへ)て利気のくすりを用ひし
に甚(はなはだ)そむきければ立帰りて時勉(じべん)にあやまり乞(こふ)て終
に三 月(がつ)余にして本復平愈(ほんぶくへいゆ)せしとかや伝記(でんき)に此こと
ありて医の日数を経(へ)る證(しやう)とせり又 効(しるし)を急(いそい)で命(めい)を促(ちゞめ)

し證拠(しやうこ)には六朝(りくてう)のとき梁(りやう)の右僕射(ゆうぼくや)范雲(はんうん)九錫(きうしやく)の命(めい)
あらんとする折ふし范雲傷寒を病(やめ)り名医 徐文伯(じよぶんはく)
を邀(むかへ)てしか〳〵のことあり何とぞ此病を愈(しや)すことあ
らんや此度 錫命(しやくめい)にはづれなば一生此 官(くわん)にいたりがた
しとなげく文伯のいはく病を愈すことはいとやすし
今日(けふ)明日(あす)に愈(いや)すべけれども恐(おそ)らくは二年の後かなら
す死なん范雲がいはく朝(あした)に道(みち)を聞て夕(ゆふべ)に死すとも
可(か)なりましてや二年をやはやく治したきといへり
文伯 止(やむ)事を得(ゑ)ずして地を焼(やい)て桃(もゝ)の葉を敷(しき)其上(そのうへ)に

范雲を伏(ふ)させあつく衣を着(き)せて蒸(むし)ければ暫時(さんじ)の
間に汗(あせ)出てくすりを用ひて翌日(よくじつ)平復(へいふく)し終(つい)に九錫(きうしやく)の
命(めい)にあづかり悦(よろこ)ぶことかぎりなし文伯のいはく喜(よろこ)ぶにたら
ず人の重(おもん)ずる所は命なりといひしに終に翌年(よくねん)死せ
しとなり又 明(みん)の孫景祥(そんけいしやう)は名医なり長沙の李文正公(りぶんせいこう)
二十九歳のとき脾病(ひびやう)を煩(わづら)ふて其證 能(よく)食して化(くは)す
ることあたはず此故に食(しよく)を節(ほどよま)して多からず漸(やうやく)節(ほど)よく
すれば漸々 食(しよく)減(げん)じて幾(ほとんど)不食の症と成て日々に痩(やせ)
憊(つかれ)て危症(きしやう)となれり月 重(かさな)りて年暮(ねんぼ)に及べり諸医

皆いふ労瘵(らうさい)なりこれを補(おぎな)はゞ病いよ〳〵劇(はげ)しかるべし
然して脾気(ひき)おとろへたり春(はる)になり木気(ぼくき)旺(わう)ずる時に
至りなば木尅土(もくこくど)と脾胃(ひい)いよ〳〵衰憊(すいはい)せんといふこれに
よりて李子(りし)か父(ちゝ)大きに憂(うれい)て孫景祥(そんけいじやう)を邀(むかへ)て此(これ)を視(み)
す祥脉(しやうみやく)を胗(しん)じて云はく此病(このやまひ)春(はる)にいたりて愈(いゆ)べし
父子(ふし)恠(あやし)みて是を問ふ孫(そん)が云はく此病 心火(しんくわ)にあり春に
いたらば木(き)旺(わう)じて木生火(ぼくしやうくは)と心火(しんくは)生気(せいき)を得べし諸医の
脾病(ひびやう)といふものは其 本(もと)を揣(はから)ざるがゆへなり病者(びようじや)本(もと)憂鬱(ゆううつ)
あらずやといへば李(り)氏が云はくあり我(われ)妻(さい)をうしなひ弟(おとふと)を

失(うしな)へり是より憂鬱(ゆううつ)すること久して積(しやく)と成れり
諸医は此 病因(びやういん)を察(さつ)せず我また其ことを忘れて云は
ざるなり然らば治すべしやといへば薬(くすり)急(いそぐ)べからず五日に
一 服(ふく)して春にいたらばまさに愈(いゆ)べしといひしに果し
て春にいたりて本復(ほんぶく)せしとなり是医は気候(きこう)を知り
運気(うんき)に達(たつ)し其日〳〵の支干(しかん)晴晦(せいくわい)気色(けしき)がらをかんがへ土(ど)
用(よう)八専(はつせん)の病気を犯(おかす)事知るべし既(すで)に脉学四言挙要(みやくがくしげんきよよう)に
春秋(はるしう)脉(みやく)を得れば死 金日(きんじつ)に有といふは医の常に記臆(きおく)
する所ならずや然して補瀉損益(ほしやそんゑき)を旨(むね)とすべきに

当世は医者も病家も只補ふとさへいへば是(ぜ)なりと思ひ
不学(ふがく)の医(い)は補薬(ほやく)といへば人参ならで外になき物のやう
にいへり人参は脾肺(ひはい)気分(きぶん)の補薬(ほやく)にして血分(けつぶん)の補薬に
はあらず凡(およそ)気分の補薬人参の外に許多(そこばく)あり血分の補
薬もまた許多(そこばく)なり程明裕(ていめいゆう)がいへる今の人は補(ほ)の補た
るを知つて補(ほ)の瀉(しや)たるを知らず瀉(しや)の瀉たるを知て
瀉(しや)の補たるを知らずとむべなるかな補中に瀉あり瀉中
に補ありといふ事をわきまへずして一向(ひたすら)補薬を要とす
るは不学 /愚昧(くまい)のいたりならずや其もと薛氏(せつし)が医案(いあん)

に朝(あした)には補中益気湯(ほちうゑききたう)夕(ゆふべ)には地黄丸(ぢわうぐわん)といふなり荒淫(くはういん)
の輩(ともがら)皆是(みなこれ)に依て補薬を事とす薬(くすり)は事なきに用
ゆべからず地黄益気湯(ぢわうゑききたう)とても無事に用ゆれば暗(あん)に
害(かい)あるなり近世の学者(がくしや)は多(おゝく)は薛氏(せつし)によれり是より
して医学(いがく)高(たか)ふして術(じゆつ)下(くだ)れり一渓翁(いつけいおう)道三は術(じゆつ)精(くはしう)
して学(がく)は今の医におよばずしかし和国(わこく)は和学(わがく)を専(もつは)ら
にすべきなり道三の医案(いあん)の堂上方(とうしやうがた)にありし古きを
見しに皆/假名書(かながき)にして婦人女子(ふじんぢよし)のよめやすく病家(びやうか)
看病(かんびやう)に便(たより)あり門人(もんじん)におしへらるゝ書(しよ)も全九集(ぜんくしう)は假名(かな)かき

なり今時の医は文学(ぶんがく)をこのみて道三の切紙(きりかみ)全九集(ぜんくしう)は
手にもとらず唐本諸家(たうほんしよか)の大部(たいぶ)の書(しよ)をよむ事を要(よう)と
すといへども病人に臨(のぞん)では明らかならず叔和(しゆくくは)がいへる意(こゝろ)には明らか
にして指下(しか)に明らかならずとは此こと也殊に頃年の医者は新古(しんこ)
の流義(りうぎ)あることをしらざるもの多し古流(こりう)といふは大己貴命(おほあなむちのみこと)よ
り伝りて和気(わけ)丹波(たんば)の二流百王百代 相続(さうぞく)して近代(きんだい)和気丹
波一 家(け)と成て半井家(なからいけ)と称(しやう)す新流(しんりう)といふは道三家なり
此道三といふは信長公(のぶながこう)の時代なり其比天下に道三といふ
名三人あり一人は半井(なからい)通仙院(つうせんいん)驢庵(ろあん)五代 前(さき)の道三なり

一人は曲直瀬(まなせ)一渓翁(いつけいおう)道三なり今一人は斎藤(さいとう)山城守(やましろのかみ)道
三なり是は武士なり一渓翁(いつけいおう)道三は洛陽柳原(らくやうやなぎはら)の産なり
十歳にして相国寺(しやうこくじの)塔厨(たつちう)蔵集軒(ざうしうけん)に入て喝食(かつしき)と成 等(とう)
伯(はく)と号し東破山谷(とうばさんこく)等の詩集を諳(そらん)じ二十二歳にし
て関東(くはんとう)におもむき足利(あしかゞ)の学校(がくかう)に寄宿(きしゆく)し文伯(ぶんはく)に師
として事(つか)へて博(ひろ)く群書(ぐんしよ)を学(まな)ぶ其比 鎌倉(かまくら)に久我三喜導(こがのさんきとう)
道(だう)とて大明(たいみん)に入て張月湖(ちやうげつこ)の医法を伝へ留学(りうがく)すること
十二年にして本邦(ほんはう)にかへり鎌倉(かまくら)に住(ぢう)し医業(いげう)をさかんに
行(おこな)へり等伯(とうはく)是にしたがふて医術(いじゆつ)の奥儀(おうぎ)を伝授(でんじゆ)し導(とう)

【挿絵のみ・地黄丸を売っている店先の様子】

道の道の字三喜の三の字を取てみつから道三と名
のり洛陽にかへり光源院(くはうげんいん)義輝公(よしてるこう)に謁(ゑつ)し寵遇(てうぐう)殊(こと)に渥(あつ)
し且(かつ)細川勝元(ほそかわかつもと)三好修理(みよししゆり)及(および)松永弾正(まつながだんじやう)等に原(あつ)く遇(ぐう)じこゝ
に於て其名天下に聞へたり今世上に用ゆる所の服薬(ふくやく)の分(ぶん)
量(りやう)水一 盃半(はいなから)入て一盃 煎(せん)法貴【常ヵ】のごとしといふ法は此道三より極(きわま)
れりかるがゆへに新流を当流といひ古流を他流と云ふ包(つゝみ)
形(がた)も当流他流ともに昔は皆小包は香包にせしを片臂(てんぼ)
馿庵(ろあん)の片手(かたて)にてつゝまれしより半井流は山形(やまがた)つゝみなり
上包(うわつゝみ)を剣形(けんきやう)に包(つゝむ)に右は短(みぢか)く左は長(なが)くするは出(しゆつ)の字の形(かたち)也

発散(はつさん)催(はやめ)生一切病を去出(さりいだ)すに用ゆ左短く右長くす
るは入の字の形なり反胃(ほんい)膈噎(かくいつ)不食(ふしよく)虫積(むししやく)等の病を治
するに用ゆ惣して医薬は病家の禁忌祝表(きんきしゆくへう)を専(もつは)らと
すればなり凡(およそ)薬(くすり)に甘草(かんざう)の入は峻(するど)なる薬味(やくみ)のあるには和(くは)【左ルビ・やわ】
緩(くはん)【左ルビ・らけん】ならしめんがためなり生姜(しやうが)の入は表達引用(へうたついんよう)のためなり
棗(なつめ)の入は脾気(ひき)を助養(じよよう)するがためなり道三の撮甘草(つまみかんざう)片生姜(つぎしやうが)
一粒棗(ひとつぶなつめ)といふは甘草多ければ和(くわ)し過(すご)して余薬(よやく)のちから
うとし生姜(しやうが)多ければ逆上(ぎやくじやう)の害(かい)あり棗(なつめ)多けれは胸膈(きやうかく)に
恋(もたれ)て不食することあればなり薬(くすり)の拵(こしらへ)やうも麻豆(まづ)のごとく

とは麻(ま)はあさだねなり豆(づ)はあづきなり薬のつぶの大き
さ麻(あさ)だね小豆(あづき)のふとさなり粗(あら)からず細(こまか)ならず中庸(ちうよう)の刻(きざみ)か
げん是当流の法なり古流は細末(こまか)【左ルビ・さいまつ】を用ゆるなり然るに此
頃は薬品(やくひん)の彩色(いろどり)を好(このん)で角(かく)こしらへにするは病家に衒(てろう)也
煎湯は粗(あら)ければ薬汁(やくじう)うすし薄(うす)ければ薬力(やくりき)弱(よは)し細(こまか)なれ
ば薬汁(やくじう)濃(こし)濃ければ胸膈(けうかく)に停滞(ていたい)す故にあつからずうす
からず是また中庸を用ゆ蓋(けだし)水加減(みつかげん)のこと近代 宋元(そうげん)
明(みん)より来れる方書(はうしよ)に或(あるい)は一 鍾(しやう)あるいは一 盞(さん)とあり鍾(しやう)も
盞(さん)も觴(さかづき)のことなりひらきてうすきを盃(はい)といふつぼみて

ふかきを 盞(さん)といふ方(はう)■(しよ)【書ヵ】に只一 鍾(しゅ)一 盞(さん)とあれば何ほどの
觴(さかづき)やら測(はかり)がたし道三の切紙に一番に水 天目(てんもく)に一ッ半(なから)入て
一ッにせんじ二番は一ッ入て半(なから)にせんずとあり此天目と
いふものむかし高麗(かうらい)の天目山(てんもくざん)にて焼し茶(ちや)わん也これ
にも大小ありといへども大(おゝ)やう水八十目入を正とせり八
十目は明朝(みんてう)の半斤(はんぎん)なり明(みん)の一 斤(きん)は百六十目なり是を広(くわう)
秤(しやう)といひ又 大秤(だいしやう)ともいふ半斤を半秤と云ひ小秤と云ふ
故に水は半秤を用ゆ天目に一盃は京 升(ます)に二合入京升一
合に水清上なるもの四十目入る然れば天目に一 杯(はい)半は

水目百二十目京升に三合入なり天目といふは茶わんの
出所なりわんといふは飯器(はんき)なり字 椀(わん)なり今茶わんといふは
非なり茶盞(ちやさん)なり故に方(はう)■(しよ)【書ヵ】に白茶盞(はくちやさん)と往々にあり然
して当家の配剤(はいざい)の服量(ふくりやう)二■【匁ヵ】五分をかぎりとせり是 両(りやう)
の四分の一水 広秤(くわうしやう)の四分の三と配合(はいがう)すかるがゆへに紫(し)
蘇(そ)薄苛(はつか)軽葉(けいよう)の薬(くすり)は服(ふく)がさ大なり当皈(とうき)地黄(ぢわう)土石(どせき)の入
薬は服がさ小なり然れども煎じてあちはひ等(ひとしく)なるなり
然るに近年 清水焼(きよみづやき)の薬盞(やくさん)少(ちいさ)く成てやう〳〵京升に
一合入これに準(じゆん)じて薬(くすり)も少服になれば病人の平愈(へいゆ)

もすくなし依て病家の謝礼(しやれい)も少哉(すくないかな)礼銀



医者談義巻二終

【白紙】

【貼紙に イ二ウラ の書き込みあり】

【二巻の背表紙】

【整理ラベル・富士川本/イ/395】

【三巻表紙 題箋】
《割書:養生|教訓》 医者談義  三

【整理ラベル・富士川本/イ/395】




医者談義巻三
  加持祈禱(かぢきたう)之談義
諸生の内に一人すゝみ出ていふやう只今 爰許(こゝもと)へ
来る道に或(ある)病家に立ちより候所に日蓮宗の僧徒(そうと)
多く並居(なみい)て読経(どくきやう)することすさまじ扨は病人
埒明(らちあき)たるやとおもへばさにあらず血狂(けつきやう)の病人を
物の怪(け)成と云ひて千巻陀羅尼(せんぐはんだらに)を異口同音(いくどうおん)に
呉音鄭声(ごおんていせい)奇(き)なるこゑを張上(はりあげ)て町内もひゞく
ばかりに候ひけり何と血狂の病人を物の怪(け)にして

【朱印・京都帝国大学図書之印】
【朱印・富士川游寄贈】
【朱印・山口文庫】
【黒印・705823 昭和15.9.5】


祈(いの)り加 持(じ)して治する理も候やと問けれは糞
得斎聞おはりて成程物の怪(け)にもせよ血狂(けつきやう)にも
せよ祈(いの)り加持して治するに験(しるし)ありと本皆(もとみな)陰(いん)
陽(やう)動静(どうじやう)二 儀(ぎ)の妙用なり儒者(じゆしや)の天に祈り地を祭(まつ)
り医家の移精変気(いせいへんき)の法あるも同じ 諸生いはく
しかれば仏法の地獄極楽(ぢごくごくらく)の沙汰も実語(じつご)に候や
云はく仏法の事は寺庵(じあん)に入て尋らるべし礼儀(れいぎ)
の事は儒学者(じゆがくしや)に問はるべし我医道に預(あづか)る事なら
ねば一 向(かう)に貪着(とんじやく)いたさず我医道は陰陽二儀の妙

用 高(たか)ふして上(うへ)なきは天 下(ひき)ふして底(そこ)なきは地
然れば上(うへ)なき上を尋ぬるにおよばず底なき底
を探(さぐ)るにおよばず天地 一太極(いつたいきよく)の内にしてこと
足(たり)ぬ夫(それ)太極(たいきよく)は大にしては天地小にしては毛(もう)微(ほ)
塵(こり)のうちに陰陽(いんやう)の二儀 極(きはま)れり故に太極(たいきよく)と云ふ
今聞所の天台(てんだい)真言(しんごん)の大般若(だいはんにや)日蓮(にちれん)浄土(じやうど)の題(だい)
目(もく)責念仏(せめねんぶつ)は戦場(せんじやう)の鬨声(ときのこゑ)陣貝(ぢんがい)のひゞきに敵(てき)の恐(おそれ)
退(しりぞ)くは陽動陰静(やうどういんじやう)の相(あい)せめぐに同じ真言宗(しんごんしう)の
印相(いんそう)は喑聾(いんりやう)の指摩(しま)に似たり唖聾(おしつんぼ)は手まねをし

て事通ず天台真言の僧は絵像(ゑざう)木像(もくさう)に我(わが)心(しん)
霊(れい)を移(うつ)して指(ゆび)を曲(まげ)手(て)を叩(たゝい)て理(り)を通(つう)ずるも
陰陽動静の二儀ならずや我医道の書(しよ)素問(そもん)に
移精変気(いせいへんき)の法あるは伏義(ふつき)より前(まへ)の人間(にんげん)は穴(あな)に
住(すみ)木(き)の葉を着(き)て動(とう)にしては寒(かん)をしのぎ静(じやう)に
しては暑(しよ)を凌(しの)ぐと云て冬天(とうてん)には走(はし)り狂(くる)ふて
汗(あせ)をながして寒(かん)を凌(しの)ぎ極暑(ごくしよ)には木陰(こかげ)に静(しづ)まり
伏(ふ)して暑(しよ)を凌(しの)ぐ是よりして移精変気(いせいへんき)の術(じゆつ)
あり人の病める所の痛(いたむ)と云ひ痒(かゆ)しと云ひ腫(はる)ると

云ひ痩(やせ)るといひ塞(ふさが)ると云ひ撒(ひらく)といひ閉(とづ)るといひ泄(もる)る
といひ升(のぼ)るといひ下(さが)ると云ひ熱(あつし)と云ひ寒(さむ)しと云ふ
是皆 気血(きけつ)水火(すいくは)陰陽(いんやう)升降(しやうがう)の相(あい)せめぎ戦(たゝ)かふ也
平(たいら)かなるときを無事といふ是を平(たいら)ぐるに草根(さうこん)
樹皮(じゆひ)の薬を用ゆ寒(かん)ずるものには温熱(うんねつ)を用ひ
熱(ねつ)するものには寒涼(かんりやう)を用ひ鬱(うつ)するものには灸(きう)
して散(さん)じ滞(とゞこる)ものには針(はり)してめぐらす是
陰陽二儀の妙用なり夫陰陽の気を霊と云ふ
霊(れい)のすめる正(たゞ)しき 者を神(しん)といふ濁(にご)りて不正(ふせい)

【右挿絵・祈祷の様子】



【左挿絵・薬屋の店先ヵ】
【衝立】本家 黒丸子
【暖簾】香具屋 合薬

なるものを鬼(き)と云ふ此鬼神の霊は用ゆる所の医(い)
者(しや)坊(ぼん)祈(いの)る所の僧法師にあり神(しん)は陽(やう)なり清(せい)なり
鬼(き)は陰(いん)なり濁(だく)なり彼(かの)物の怪(け)は陰(いん)にして濁(だく)なり僧
は清にして陽なり陽すみて清(きよ)ければ濁(にご)れる陰(いん)
に勝(かつ)濁陰 清陽(せいやう)に伏(ふし)してにごれるものゝ澄(すむ)は必(ひつ)
然(ぜん)の理なれば千巻陀羅尼(せんぐはんだらに)の著(いちしる)きことうたがふ
べきにあらずされども一僧に一 封(ふう)の御布施(おふせ)が
いやぢや是より僧法師の心中の霊(れい)が濁出て
何(なん)どもかへるさまは石かけ縄手(なはて)と出かけぬと

胸中(けうちう)に海老(ゑび)のむき身 章魚(たこ)の吸(すい)もの飛躁(とびさわぎ)て
物の怪(け)よりは坊(ぼん)さまの心中の材木(ざいもく)がまぎれる也
医者のくすりを用ゆるもさのことし陰陽(いんやう)升(しやう)
降(がう)寒熱(かんねつ)温涼(うんりやう)の理を明弁(めいべん)することはなくて古
人の世話(せわ)をやきたる薬方を何のわけしらず
に間(ま)に合てあてがひ薬あたれば呀唅(はじかみ)のくひ合せ
多くは矢路(やぢ)のちがふた空矢胗脉(そらやしんみやく)するにも指下(しか)
に意(こゝろ)なく世事が心中に滔(はび)こりて雑談(ざうたん)挨拶(あいさつ)に
浮沈(ふちん)遅数(ちさく)もわきまへざるは常に陰陽五行の

理をわきまへざるがいたす所なり加持祈禱(かぢきたう)は効(しるし)
なしといへども害(がい)なし医薬の誤(あやま)ることあれば
不尽(ふじん)の命を立所に殺(ころ)すおそろしきは不学の
医者のくすりなり諸生のいはく加持祈禱は害(かい)
なしといへとも女の嫉妬(しつと)の祈り丑(うし)のとき詣(もふ)で
して神木(しんぼく)に釘(くぎ)うつ事あり其 験(しるし)現(げん)にして人を
病しめ多くは詛殺(のろひころす)ことありといへるは如何(いかん) 糞
得斎から〳〵と笑(わらつ)ていはく其事あつてその応(おう)
■てなし元来女のはかなき手わざに神木に

釘打(くぎうつ)て其 応(おう)をたのむといへども木魂(こたま)【左ルビ・きのかみ】何ぞ
其 願(ねがひ)にしたがふて彼(かの)当人に仇(あた)をなさんや立木(たちき)
に釘(くき)うたれなば打人をにくみて却(かへつ)て其人に
仇(あだ)すべし是を還着於本人(げんぢやくをほんにん)といふ医はやゝも
すれは薬事に託(かこつけ)て人を害することあり天文
の頃にや江戸本丁筋の裏屋(うらや)に牢人(らうにん)者あり一
人の娘(むすめ)を持(もつ)はなはだ美色(びしよく)なり屋主(やぬし)是に心を
かけて兼て妻(さい)にせんとおもひける所に芝筋(しばすぢ)の
薬種屋の富家(とみけ)より媒(なかだち)を以てよめにせんと拵(こしらへ)


料(りやう)をつかはし近月何時に嫁聚(かじつ)せんと定(さだ)む屋主(やぬし)
此 沙汰(さた)聞て大きにほ本意(ほい)なきことにおもひて胸(むね)
こがし常に入魂(じゆこん)にする医者にかたらひけるはしか
〳〵のことなり何とぞ薬種屋の婚礼(こんれい)を婆羅(ばら)す
る方便(てだて)あるまじやと相談しければ医者しばら
くさしうつむき何ごとやらん工夫してやす〳〵
とばらしてのけん金子二十両出せといふいとや
すしと金子を渡しければ医者彼薬種屋の店(たな)
に行てべいさらばさらを買わんといふ薬種屋の

手代共候とて出しければひたもの【注】ひねくり廻し
て見居たりければ手代どもいひけるはそも此べい
さらばさらと申物いかなる病を治する薬にて候
哉近年黒舟に始て渡り候ゆへ親方(おやかた)共 買置(かいおき)候
得(へ)ども効能(こうのう)をうけたまはり伝へずと云ふ医者の
いはく成程さあるべし此薬種■て珎物(ちんぶつ)なりまた
此物にて治する病(やまひ)も千人万人の中にあるやなし
といふ手代共いよ〳〵訝(いぶ)かしくおもひてさやうに
大切(たいせつ)なる病(やまひ)は何と申病に候やといへば聞及たまふ

【虫損部は山口大学図書館所蔵本を参照 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100269851/viewer/46】

ことはあるべけれども近く見聞したまふことは有
まじ轆轤首(ろくろくび)といふ病なり手代共大きにおどろき
咄(はなし)にては異国(いこく)にろくろくび嶋とやら候よしうけ
たまはり候へども日本にはなきものゝやうに存候
ところに然れば現在(げんざい)当地にも御座候や何れ
の方にあたり候やといへばあまり遠(とを)からず本丁(ほんてう)
筋(すじ)の裏店(うらだな)に牢人(らうにん)の娘(むすめ)なるがきりやうはよけれ
どもいやな病あり聞ば近月に縁組(ゑんぐみ)これあるに
付て何とぞ此病を治する医者やあるとたづね

ける所に拙者一 家(け)一 流(りう)にて此病を治すること数
代 相伝(さうでん)せるを聞出して頃日しきりにたのむゆへ
に此すくりをもとむ然れども此薬に真偽(しんぎ)あり
黒舟に渡(わた)りしは皆 偽物(ぎぶつ)なり真(しん)の物は慶長(けいちやう)年中
に少く渡りたれども今はたへてなし残念(ざんねん)なるは
彼病人治する手がきれたり今見る所は偽物(ぎぶつ)な
れば所用になしとて既(すで)に立んとしければ番頭(ばんとう)
ことの外いぶかしくおもひてなを〳〵其病人の
親(おや)の名は御 存知(ぞんじ)あるべけれども仰聞られまじ


くるしからずはちらとおしらせくだされかしと
いへば医者心中にしてくれたりとおもひかなら
ず他言(たごん)は無用 何(なに)の何がしといひすてゝ去ぬ是に
よりて薬種屋の婚礼(こんれい)ばれて媒(なかだち)の者をよびに
やり此 様子(やうす)ありて変改(へんがい)いたすといひやりければ
件(くだん)の牢人(らうにん)大きにげうてんしいかなる様子にて
か程事極り結納(けつなう)まで相済変改は以て離別(りべつ)同
時 身不肖(みふせう)に候へども士(さふらひ)の事に候へば娘(むすめ)も貞列(ていれつ)を
守(まも)り両夫(りやうふ)にまみゆる所存なきものに候へば様子の

子細(しさい)をうけたまはり届(とゞけ)て父子(ふし)ともに存より候と
ことむつかしく尋ければ媒(なかだち)当惑(とうわく)して薬種やの
手代共にぬげくなく問ひ尋ければ止(やむ)事を得ず
してしか〳〵の事ありしとべいさらばさらの
事をくわしくかたりければ媒(なかだち)彼牢人(かのらうにん)につぶさに
談しけるに牢(ろう)人のいはく医者の名を聞きとゞけ
けるやといへば媒其義はうけたまはらずといふに付
て牢人あやしくおもひて手代共定て聞 留(とめ)
たるべし委細(いさい)たしかに聞来れといへは媒是は御


尤とまた薬種やへ走り行て尋れば手代共
されば其ときにたれも気が付ずして医者
の名を尋ざりしと是よりむつかしく成て
薬種屋 変改(へんがい)すべきいひ立の作り事のやうに成
て薬種や甚(はなはだ)迷惑(めいわく)して毎日手代共をおして彼
医者を尋しに果(はた)して本丁筋の裏店(うらたな)に借宅し
て居ける所を尋付て何ごとなきていてにて先日
は始て心意を得候御宿は是にて候哉と名札し
かと見とめて帰(かへ)りけり牢人方へ委細(いさい)に名も

宿もいひつかはしければ牢人けでんしてそれは
屋主(やぬし)へ昼夜(ちうや)出入医者なり打て捨んとおもひし
がきつと思案(しあん)して定てふかき子細ぞあるべしと
日を経(へ)て様子(やうす)を聞つくらいけるに屋主の所為(しよい)な
る事を知りて下(した)にて事すましがたしとて沙汰(さた)
所(ところ)へ訴(うつたへ)ければこと〴〵く御吟味ありしに屋主と
医者との所為成事白状しければ屋主は退出(たいしゆつ)
にて江戸追ひはらはれ家財を牢人に下され
医者は賄賂(まいない)を取て前代未聞(ぜんだいみもん)の悪事を巧(たくみ)し


とて町中にもばつと沙汰有程になりけるとなり
是等は此類なき悪事なり又あるべきことならず而(のみ)巳
ならずやともすれば医薬に便(たよ)りて悪事(あくじ)に荷担(かたん)す
ることありまのあたり見るに堕胎(だたい)【左ルビ・こおろし】のくすりを出
す医者あり不仁至極(ふじんしごく)第一の悪事なり小の虫(むし)を
殺(ころ)して大の虫を助くるとの利口をいふといへども
子をおろすは多くは密通(みつつう)の不義の中にあり是不義
に荷担(かたん)するなり或は夫婦の中にも子共大勢に成て
なんぎするとて堕胎(だたい)するあり是また父子 人倫(じんりん)の

不仁(ふじん)なり大名高家には一向なきことにして正月
餅(もち)を人なみに搗(つく)ほどの者(わろ)にやゝもすればあること
あり親(した)しき朋友(はうゆう)主人(しゆじん)たりとも悪(にく)むべき事也
且くすりにては効(しるし)なきもの也 陰戸(いんこ)より刺針(さしはり)して
おろすはなを刃(やいば)を以て人を殺(ころす)なり然れば不義に
荷担(かたん)し不仁(ふじん)に処(しよ)し天にうくる所の人命を断(たつ)は
まことに龕霊(がんれい)の巨賊(こぞく)なり名医録(めいいろく)にいへる京師(けいし)に
白牡丹(はくぼたん)といふ子おろし婆(ばゞ)あり或日(あるひ)忽(たちまち)頭痛(づつう)し次
第につよく打くだくごとくに成て日数つもりて



【挿絵】

いよ〳〵つよく疼痛(うづきいたみ)日夜 啼喚(なきさけび)声(こへ)隣家(りんか)を驚(おどろか)し
諸医を招(まねき)て治すれどもさらに効(しるし)なく後は膿爛(うみたゞれ)
腐潰(くさりついゑ)て痛(いたむ)ことなを劇(はげ)し既(すで)に死におよんで子共を
集(あつめ)て堕胎(だたい)の方書をとりよせて我前にて焼捨(やきすて)よ
汝等(なんぢら)かならず此薬を伝ふべからすといふ子共のいはく
此 方(はう)を家業(かげう)として今日まで大勢(おゝぜい)富有(ふゆう)にくら
せる所いかなる子細ぞといへば其母のいはく我 発病(はつびやう)
の始より日夜 夢中(むちう)に数百(すひやく)の小児(こども)来りて我(わが)頭(づ)
脳(のう)を噛(かむ)こと隙(ひま)なし是に因(よつ)て叫喚(けうくわん)するなり是我

平常(へいぜい)常(つね)に堕胎(だたひ)を家業(かげう)としたる報(むくひ)なりといひ終(おは)
りて死せしとなり孔子(こうし)も俑(よう)を作るものは後(のち)なから
んかとのたまへり古(いに)しへは人死すれば従者(しうじや)を殉(した)がへ
て生(いき)ながら人をうづみしなり後(のち)には藁人形(わらにんぎやう)を作り人
に代(かへ)て埋(うづみ)しとなり藁(わら)人形を俑(よう)といふ是を作りて
売(うる)ものあり此者は後絶(あとたへ)なんと孔子 歎(たん)じたまへり
ましてや陰陽(いんやう)和合(わがう)して命(めい)を天に受(うけ)て人 体(たい)
と成ものを堕殺(ださつ)するはむくふべきこと更(さら)なり此薬
を施(ほどこ)し行(おこな)ふ医者は其むくひ現(げん)に見へずといふとも



自然(しぜん)に貧災(ひんさい)あることまぬかれがたし又其 親(おや)も
おのれか恥(はぢ)をかくさんため子を殺(ころす)の不仁(ふじん)いふばかりなし
しりぞいて見れば婦女(ふぢよ)の陰悪(いんあく)男子(なんし)にまされり
其 本(もと)不義におこりて然して亦是を殺す無慚(むざん)
無愧(むぎ)なることおそるべしにくむべし或は多産(たさん)を
いとふて夫(おつと)是をすゝむといふとも女はおそれかな
しむべきに多くは女よりすゝんで子を堕(おろ)すを見
れば其 残忍(ざんにん)成ことはなはだし医は仁術(じんじつ)を表(おもて)とす
るに裏(うら)に残害(ざんがい)の事あるは医道の冥理(みやうり)に背(そむく)べし

医家(いか)十禁(しつきん)の第一に女室(によしつ)に入て他意(たい)をなすべから
ずとあるは仮(かり)にも病婦(びやうふ)病女に対(たい)して妄(みだり)に戯(たはふれ)ごと
いふべからず傍人(ぼうじん)なくては胗脉(しんみやく)すべからずと禁(いまし)めた
り唐(から)の法には大夫(たいふ)以上の脉(みやく)を胗(しん)するには
簾(れん)をへだてまくをへだて婦女の手に羅(うすもの)を覆(おほ)ふ
て脉を胗すとなり此故に中華(もろこし)には腹胗(ふくしん)【左ルビ・はらをみる】の法なし
和邦(わはう)は腹(はら)を胗(み)ざれば医の粗末(そまつ)なるやうに言へり
かるがゆへに男女おしなへて腹胗(ふくしん)するといへど
も相かまへて臍下丹田(さいかたんでん)より下(しも)の胗脉は無用〳〵

【右ページ】

医学談義巻三終



【左ページ・手書き文字】
イ三ウラ

【裏表紙】

【整理ラベル・富士川本/イ/395】

【四巻表紙 題箋】
《割書:養生|教訓》 医者談義  四

【整理ラベル・富士川本/イ/395】



医者談義巻四
   病家 需(もとむる)_レ医(いを)之談義





【朱印・京都帝国大学図書之印】
【朱印・富士川游寄贈】
【朱印・山口文庫】
【黒印・705823 昭和15.9.5】



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五躰不具毒解薬

【表紙】
五体不具毒解薬

寛政十二年

五躰不具毒解薬《割書:蘭奢亭作|豊国画》全三冊

夫(それ)外(ぐわい)邪(じゃ)易(やすし)治(しし)【治し易し】貧(ひん)の病(やまい)の/内(ない)傷(しゃう)ハ難(がたし)冶(じし)【治し難し】寒(かん)熱(ねつ)
温(おん)凉(りゃう)尤(もっとも)有(あり)_レ反(はん)【反有り】君(くん)臣(しん)佐(さ)使(し)くりも出(で)来(き)ぬ亡頼(とくもの)ハ親(おや)
の勘当(かんとう)人参(にんじん)を用(もち)ひ当帰(とうき)の寄戸(いそうろう)となれㇵ金(きん)銀(ぎん)花(くわ)
犀角(さいかく)一両もなき難病(なんびょう)も人の異見(いけん)に肝心(かんじん)の蔵(ぞう)を
補(おぎな)ひ酒色(しゅしょく)の欲(よく)に匕(さじ)をなげさし稀(き)苓(れい)の家(し)妻(たば)をむかひ
ちといゝ悋気(りんき)応変(おうへん)にし年(とし)を薬(くすり)にすれㇵいゆるを神(しん)の
如(ごと)し五体(こたい)不具(ふぐ)の毒(とく)を解(け)して北向(きたむき)の郭(くるは)通(かよひ)を止(やめ)れㇵ
外(げか)の方(ほう)剤(ざい)ㇵ薬袋(かたたい)もない大事(たいじ)の令郎(むすこどの)めつたにりやうじ
                      めさるなァ
  寛政十二申とし         蘭奢亭香保留

【右ページ・本文】
こゝにぐつとむかしのこと
なりしがせいめいは
しかとしらね
どもふぐのゑんの
うそをつくゆへかてつほう
先生といふ名医あり
瘂科婦人(あくわふじん)
科本道(くわほんどう) 外(ぐわい)科(りやう)
のうちにあらで
薬箱ハあれども
くすりをもたず
みやくをもみず
ただからだのやうす
をはなせばたち
まちなおすをことをしること
奇々妙々なる
医なりければ
諸人くんじゆ
してりやうじを
たのみける

【右ページ・挿絵内屏風の文字】
方粛殺百
非楽戦之子
侵南部邊風掃北
盧龍寒帰邊麟閣名

【左ページ・挿絵内】
いかさま
 なるほど
  さやう

【左ページ・本文】
内経(たいきやう) ̄ニ曰(いわく)
精神守
於内則
病自
何入とあれは
五たいのうちを
大丈夫に
しておくか
せんいちで
ござる

みやくは
みるものでは
ござらぬ
びょうにんに
手をとる
とはわるい
  ことさ

【本文】
人間五たいのその
中に鼻口(こく)【ひくヵ】
耳目(じもく)は入
ようはやき
もの又中にもたいせつ
なるは目なり朝おきるから
ばんのねるまですこしもやす
みなくいるものなりこれをきつう
つかうときはふうがんそとひのやまひ
をうくるなりよつて目をばおか〳〵やすませて
おもしろいものでも見せねばならぬものこのやすむ
事を しないで正月をするといふそのれいをいて
目に 正月をさせろと目ばかりづきんをかぶせ
けるねんれいのかへりにはだいし
から山下にてま
めぞうをのぞき
女は■本くま
いりの■■りの
だいかぐらのた
めにあしをとゝめ
でつち子ものはそれ〳〵に
【左ページ】
にんぎやうしばゐでも
はしけてみる目に正
月をさせるなり

【右ページ・挿絵内右下】
ひとでにふたご
めをたすよあ
ごいつでもやたし
なんでもあれは
その子の
く■■
【同左下】
さかやのこようも
かるたはそつくり
ひろうがの■き
■くりてもみて
目は正月を
する■
めたすこよう
のたちすがた
とはおれが
   ことさ

【左ページ・挿絵内上中】
正ぐわつに
 なるとそとへ
  あそびに目の
   でたいといふに
    よつて
【同左】
めでたひ
  〳〵と
   いゝける

【挿絵内中央】
けふはあるき
どころが
■■■目
■大き
にくた
びれた

【同右下】
としたまは
目が年めぐ
すりをつかふ
さかなもめ
ざしひら目
などをくふ

【右丁 本文】
口はわさわひ
のかとといへ
ともくちが
なくては
よきも
あしきも
わからぬなり
にち〳〵
みなをくちかせぎ
ばかりして よく口に
はつかわるゝ
ものにて
おやより口をば
かうかうをし
子より
口をかあ
いがり なつ
になると
まづくち
には土用(どよう)
かいりしと
うりすいくわ【瓜・スイカ】

【左丁 本文】
どうめうじ【道明寺羹ヵ】
などもつてくる
口のやかましいと
みるとかへつて
おおくもつて
くるなり

人のあし
きことを
みるとぢきに
はなし鳥はつと
うきなのたつ【浮名の立つ】を
いとひて口ふさぎ
をせんときんぐつわ【金での口封じ】
などはめければけして
いわぬといふがひよつと
はなしてはわるいによつ
て人のくちには戸はたて
られぬといふがここぞ立て
やらんとすき戸をこしらへ引
立てあごのかきがねをひつかけて
              おく

【右丁 中段】
どようの
うちは
すいくわはくわれ
まい なせといつて
みさつし すい
くわくわぬは
しよき【暑気】の
うちだ
 【右の台詞、何かの決まり文句の洒落と思われます】

ばいやく

【左丁 中段】
いきで
ふきはづ
やうにた
のみやす

【左丁 下段】
ごしん
ぞうへ
どうめう
じを上
ます

おかつてへ
めうがとしじ
めをあげましたれ
ば三分どのは身
ぶんほどかるい口
でござります
みないつしよに
して申ました
めうがのこしゞめ
道明寺とは取合
せてこしらへ
  ました

【本文】
五たいの口はきゝものにてある日 貴人(きにん)へししやの
やくをいいつけられしかむま【馬】にのつてゆくべき
はづのところなるをわれみちゆくことたて
いたにみづをながせるごとくはやきに
よつてかち【徒歩】にてまいるべしとてすぐ
にたちいでける おりふしふりつゞく
ながあめにみちはぬかつてあゆ
まれぬをむりやりにいそき
ゆきければあまりはやま
つてけんくわのしきたいの
きわにてくちはすべつ
てまつさかさまにころ
びければ主人の口上も
なにもできず大きに
せきめんする とりつき【取次】に
   いでし人もきの
        どくがる

【右ページ挿絵内】
おこしてあげ
たいがこふいふ
ときにはくちが
おもくておい
らがてぎ
わにいか
ぬものだ

【左ページ挿絵内】
せきめんに
けさ■と
あふらげの
こころと
たるこ

口から
ころひた
まいつた
くはかうやと
いふしやれた
そふたけ玉川
のみつできの
とくなことさ



【右丁】

 【上段本文】
はなはいたつて
おこつたものに
てかう【お香】なとをな
くさみして□しわ
ぼうのきふくを
まねきてはわか
しりたるをかう
まんにし むせうに【無性に】
はなかたかくなり
う■なることを
はなにかけて
     ゐる

ある日そうしか
きてせつちんをかき
まわしけれは なに
とそこれをふせき
くれとたのむゆへ はなに
せうしをたててやるは
よつほとてうほうなり

 【中段台詞】
この中にはなをたかく
してもたれもなへとも
いゝてはねへかしかし
かさ【瘡。天然痘】かくるとへこま
ねはならぬ

おれにやさか
やきもねへものを
せうしをたてるも
   大わらいた


【左丁】
「花」の一字 書き入れあり 

【白紙】

【右丁 白紙】


【左丁 上段本文】
みみはかほのよこに
ゐてすくしもおこりの
こころなくちとすま
しかほはすれとひん
ふくのふたつを
しるなり
よきこと
をきくとき
はよかれどもわるいこ
とをは
 きかぬ

ほう
ろあ
らふか
といいけ
ればやす
いことのみ
にかへを
  ぬりける
よきことをきくときは
かやく【加役ヵ】なるによつて さつ
そくとるべしとしゆう
なことををおしへる

【左丁 中段台詞 右】
戸なかひつたて
みみもなりふり
かへでは
ちとふじ
ゆうた

【左丁 中段台詞 左】
みゝにぬる
かへ おもひ
たすた

【左丁 下段台詞】
かべにみゝ
といふこ
とはあ
るか
みゝにかべ
とは
■かだ
ぬり
たての
なまた
さわゐを
きものがよ
これそうた

【右丁 本文】
くるわよりよひにきたりけいせいに
手のわつらいあり生れついたる二
ほんの手はあれどただ
てがない〳〵とひやう
ばんをするゆへりやうじ
して下されとたのみけるゆへ【虫損部を別本より判読】
とつてかへりせんしゆくわん
おん【千手観音】をもちきたりかうやく
うりのやうにきりつきにせん
         といふ

まづひだりにゆみ【弓】をもた
せたまふは はりのつ
よきをもたせん御
手みぎ
にや【矢】をも
ち給ふは
まことに
おかし
きやくに
異【矢ヵ】のつか
いをや【「ゆ」ヵ】
んてやり
をもちた
まふは
■■ふ
神の

【右丁 本文】
やり
さきを
しり
きやくの
どうばら
をえぐる
御手

しゆ
じやうを
もたせしは
しゆじやう
ゑん【衆生縁】の
ある手
玉を
もち給ふ
はたまに
くるきやく【客】
もだいしに
してよき
玉とほめ
らるべし
れいをもち
給ふは物日もん
ひ【紋日】のれいをはづ
さぬためにならん
御手きやくは■■【「ふん(分)」ヵ】
といふゑんもご
ざります

【右丁 中段台詞】
わつちやあの
おかほかほ
しい■【事ヵ】

座へな
てい【このあたり意味不明】
もの


おさとしをもつてい
さわしゆ【「や」ヵ】るおてはご
しやうておつまを
いふ手ておつ
    しやう

【左丁 下段台詞】
下のほうはやすうこざり
ますかほにけんをもち
給ふはよくしばら【自腹】をきる
手こちらにりんぼう
しゃうの手もありさ

上のほうは上手と申て
たかふござります下は
下手と申すからたたでも
あげます まん中の
おがみんす といふ手
がいつち
たかふ
こざり
ます

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100061649/viewer/9】


おいらんには
ことことく手
をつけて
かへらんと
するに
しんぞうかたち
いでにつちやとふ
したものかなじみか
おつせぬかかりやらじ
してくんなんしといふ
そのふりそでの
ふうもうつくし
くて手も
としそう
おうにはあると
みへしがよくよくみるに
このふりしん
のつめ
いたつて

ひつかかとはそ
りやさる
ものの
事で
おつ
りは
あしのつ
めなら
そつと
切ては?
せはどう
で?ん
せう

?子ゆびも
これか身
かわりをださ
にやなる
めへ

なくまたなじみもさして
なきうちに大むしんを
いいちえもなくてながき
つめにてひつかくゆえ
きへての大きにいた
みとなりちのでる
やうなかねを
しぼりとる
ゆへつい
には大
きずに
きれて
し?
なり
よつて
のこら
ずつ
めを
きりて
やり
ける

ものおもひかほなる
おとこきたり?たて
はきがくさつて
どふも
なりませぬ
おりやうしを
たのみます
といふてくれは
みやくくもみず
それはさつそくのりやうしわる
まづきのくさつたときはきを
ほうじるがよしちゃならばほう
ろくあるいはほいろなどを
もつてみな火にてほう
じるものなれどきはみづ
にてほうじるが
よしさすれば
つちやかみ
にて
はで
きずね
がせんいちと
さけさかなは
いしやな?て
どをいれい
ちにちみづのうへをわ
ちくゆきこち??もどる間
よくほうじるさわるさする
とほりへてもつけて?の??


ふねの
しん
ぞう
はかわ
よし
げい
しや

しん
そう
はかほ
よし
めう
でご
ざん

あん
まり
うは
きは
よす
が上々
うはき
ころ
びは
やめに
せはと
いふ
もんさ

どふ??だゆふかしにし
ばなしでかたつたつむ
りのことを?しいふ

きりにもな???これと
おそくなつ?内をあんじて
又きをつかふ?ほうじても
むきになるつつしむべし

せわしなき人き
たりいやわつちゃ
ちつとの事には
らをたちおおさ
じれていことた
に??いふがや
まいたなをり
ませかうとしのふ
それはきがみし
かくなつた?へ
たき?きのはし
といふことをせねば
ならぬまづこの
ごろはさかうな
ればあすか山へ
つきみにこざれと
すぐにともか
いさくらの下の
しばのうへに
ながくなつて
ねているをあとさ
きへまわりたを
引のばしさけさか
なにてたのむ
なとよつほと
おかしきやつら

これか
ぜうふ
になつ
しおれ
がかたを
もつは
気(き)が曰(いわく)
きをひいて
みろとはおめへ
がたのことだ
のろまのこ
びきじやある
めいし

つれのきはわみし
のほうへゆくと
いつて
わはれだん
〳〵ゆくと
なんたか
みへるかみ
へぬやうに
なるときが
とふく
なつた

いふ

でんろくやさかなる
すへているなら
よすが上ゝ
すへたさかな
になせか
ねつかふ?ふ?

ぜんたいきが
たいぶもめて
しわになつて
あるひきめはし
たる大きになか
なりましたもつとも
のばしたらは花を
おろうと手を
おばすとまた
ながくなる

それより
きをあまり
のばしたれば
ははがへり
しゆへ
うなぎやへ
はいり
かば
やきもな
かやきに
あつーい
きをやし
なふてくい
けるかばや
きをしたた
かくふゆへ
とくにならねば
よいがとそばから
そのやうにくつ
てはきのとく
しや〳〵といふ

なんにもい
わすき
てくつて
いるかおれが
すきだ

のどく
でもつけへたり
さすつて
おけは
きをみ
てするは
いやみなしさ

?の本いつかたゑ
まいり候ても早早
御かへし下され候

【白紙】

みちをあやむこといたつて
へたなおとこきたりかへ
なみよりみちがほそく
てはなはだこまりま
すなにとぞおりやう
じたのみますと
いいければそれは
さだめしあしが
おもひゆへに
らちがあ
かぬだらう
まつあしを
はかりにかけて
ゆくがよひと大
はかりをだして
ひつかける

あしはかりおんねへ
六十くわんめはあるのさ

おれがこふいふ
みははかりに
あしかけのの
字といふみが
あらふ

また
としごろ四十ばかりの
おとこへたり
いたりことしより
めきてはなはだこ
まりますゆへおくしと
りをくだされものといいける
いやそれはくすりにては
なか〳〵いゑずそこもとは
いたつてきたないきせ?
ゆへいいのちがよごれてござる
そのいのちをせんたくせねば
ならぬやまひをさりみのく
すりとなりきのほよう
とならんはまづおんせんにて
あらふべしくらしもいろ〳〵
ありといへども????はあた?
がそうおこすべし


ゑりあかのつい
てるところよく
あらてくんねへ
ゑりあかだい
じんといわれ
ちやならぬ

わたみはしほゆなればきこうの
みにしみこみしせちからき?ほ
のよひしほとなるべしこのゆに
ていちにちに五六度つつみまはり
ほどいるならばよきいのちのせん
たくなるべし
それもき?にせんと
はしめから十度づつも
あらふならばあかはおつる
ともあとのよわつと
まつべしと
くわしく
おしゑ
られ
さちそく
とうじにゆきにける

これか一へき
?うへいつて
一かせいのもの
すぐねとしよう

とつしが
とうじに?
?たよ??
あた?丸?
いの?
がういて
あ?

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100061649/viewer/14】

おしへのとをりあたみへ
ゆきしひとはみのやし
せうともなれど
もおつくふにおもい
ゆかすにいのちの
せんたくとなづけ
さけなどおおくいむと
さけもどくなれ
ばせんたくもののいり
のつよくきくかことし
しやちらでわくなり
しまひには人も手に
?わまし両そでゑり
をひつはりやうやうお
くつてやることよくある
やつなり

こなさんはあの川へ
おちると言ぬところ
たこれはさつはり
ばかになつたいの
ちめうがでももくつ
たそうだ

?さ??ふだ??
たけのせうも
こすれた
ふか?
みつや?

めめはいのちのかける
とたかやへわつらいておい
た?は

いのちのせん
たくにさけといふのり
をつよくはかふときは
人の心のかたすみのあ
くしよかよひときがか
わるたびたびにおよぶと
しんせうもあらひがわと
なり身もよわりしんるい
よりつきをあてても中々
きれたしてはたまらずただ
人にきれてじやじやとほめ
ら?られしかるはせうしな
ことなり

あらつてはげたるいろの
あげやにて松ばいろに
そめの人???にあるみる
ちやいへてもそめちんはや
すくあからねへよ

だんながいの
ちのせんたく
にござるといふ
からおいらもて
をふりたして
きたのりつ
けたる??
ぼうぐみ
おねだり
申せ

そりや
だんなが
ご?に?いは
ねいはさ

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100061649/viewer/15】

いおちがさけがすきると
なかなるむしどもよりあつ
まりおもひおもひにむしのす
くものをくつたりのる
たんとすると
だん〳〵むし
がさわぎ
だしおどり
をおどるやら
かたをこたふ
やらなんだかぐら〳〵と
いふてよしうさわぎ
けるけいしやちややの
はらいに一もんも
なけれはむし
どもは大
きにかぶ
りける
そのとき
これには丸薬がよし
と一里うきく

むなさ
わぎを
すると?
れるから
はらで
さわけ

してのむしさん
なすのなまづけ
でおちやづりはどふ
でござります

あまり
さわいで
あつくなると
むしあついといふ

たんまんきんたんわう
ごんまたそのうへにきん
〴〵のはりをもちひ
けるゆへさつそくおさ
まるなり

きうでも
すへられ
なへけりやと

こらあかりのき
わに?たいを
おくな?
わりいし?れ
だが大だいま
ふるしは
どふ


【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100061649/viewer/16】

うつくしき女ぼう
をもちしおとこ
だんだんおとろへ
あこではいを
おつているところへ
行けるがこれはあか
りふうじでなければ
なおるまじきぜつ
するによつておどろく
べからずとなにまじめに
なつていはぞうをむすぶ
とひとしく
どろんどろん
とろ??といふと
びやう人はうんとばかりにいきたへ
たへけりみなおどろくをおしとどめ
おしゆうといふと人だまのほの
ふかすかにみへてとんでいじける
をとらまへおいたるよう
ちうをはたまりへの
こりのきれへたはよりひたすとたち

たましゐ
ぬけるひやう
にんさんと
いのとちき?
りかどた

まちほのふさかはにもへ
あかるをひつとらへびやう人
のはらへさらへこみまたほうを
むすぶとたちまち大ぜう
ふのからだになりけるぞふしぎ
なこともなんにもねへ人のいのち
は火と水とでもつているその
みずをつかふときは火がたかふり
いつさんさんにもへてしまふなり
人うせうちうといふみづにて
しめせばもとのごとくになる
そそれたか?みづはあんまり
つかふべからず

これでぢきに
いろ??せう
さけでいかさ
ぬ人もなしさ

女ぼうはこのていを
みてきもをつ
ぶすまた?り
やうしもた
のみてへがもう
てうかすがねんから
らいねんのことにしよう

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100061649/viewer/17】

なたる有徳?の人の
いのちをのばしける
ゆへまことにいのちは
おやおやどふせう
といふほどに
千両箱を
?いにもつて?たり
たま〳〵のい?やうじを
こるほんふくしけるに
よつて金べつ?山の
ごとくはえかさね
???金一?の
とち万両のめで
たきはるを
むかひける

???ねんうつかりと
くらしましたおかげで
わかみのひをしり
ました

ごたいふく
のどくを
けしてくへ
たつて?る
ふところは
たいぶあつ
たかに
なり
まし



松田氏

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100061649/viewer/18】

【白紙】

【裏表紙】

救民薬方

救民薬方

救民薬方 富士川本 キ 29 30

救民薬方

富士川本 キ 129

救民薬方  全

              其小吉平凡

救民薬方    【印】富士川游寄贈
 /凶年(きよふねん)の/後(のち)に/必(かならす)/時疫(じゑき)/流行(りうかふ)することは/昔(むかし)
 より言伝へしなりされども山中など
 /醫者(いしや)もなき/村々(むら〳〵)は/難儀(なんき)のものも/多(おゝ)
 き事なれは/享保(きよふほ)年中/飢饉(ききん)の/後(のち)時(じ)
 /疫(えき)/流行(りうかふ)せし時に
 いつもより/簡易(かんい)の/薬方(やくほう)を/板行(はんこふ)せし
 められ/其後(そののち)/天明(てんめい)の/飢饉(ききん)にも右の薬
 方/写(うつし)村々へ申/触(ふれ)べしと仰(おゝせ)出されし

 なり去年の凶作に/麁食(そしよく)/艱難(かんなん)して
 /命(いのち)を/全(まつた)くせし/者(もの)もゆくさき/病難(びよふなん)を
 /救(すくふ)へき/事(こと)を/心得(こゝろへ)すんはあるへからす
 /依(よつ)而/享保中(きよふほちふ)/板行(はんこう)の/薬方(やくほう)を/本文(ほんもん)に
 して/其外(そのほか)にも/簡易(かんい)の/方(ほふ)あるをした
 /付録(ふろく)となし村々へ/頒(はか)ち/行(おこの)ふなり
 ○/時疫(じゑき)/流行(りふこふ)の節此/薬(くすり)を/用(もちい)て/其(その)/煩(わつらい)をの
  がるへし
一/時疫(じゑき)には大つふなる/黒大豆(くろおふまめ)をよくいりて
 壱合/甘草(かんぞふ)一匁水ニてせんじ出し時に呑てよし
         右/医渥(いあく)に出
一/時疫(じゑき)には/茗荷(めうが)の/根(ね)と/葉(は)をつきくだき
 /汁(しる)を取り/多(おゝ)く/呑(のん)てよし
         右/肘後備急方(ちうごびきふほふ)に出
一時疫(じゑき)には/午蒡(ごぼふ)をつきくだき汁(しる)をしぼり
 /茶(ちや)わんニ/半分(はんぶん)ツヽ二/度(ど)呑て/其上(そのうへ)/桑(くわ)の/葉(は)を
 一ト/握(にぎ)り/程(ほと)/火(ひ)にてあふり/黄色(きいろ)になりたる時
 茶わんに水四/杯(はい)いれ二はいにせんじ一/度(ど)

 のみて/汗(あせ)をかきてよし/若(もし)/葉(は)なくは/枝(ゑだ)
 にてもよし
         右/孫真人食忌(そんしんじんしよくき)に出
一/時疫(じゑき)にてねつ/殊(こと)の/外(ほか)つよく/気違(きちかい)のごとく
 /騒(さわ)きくるしむには/芭蕉(ばしやう)の/根(ね)をつき/砕(くだ)き
 汁(しる)をしぼり/呑(のん)てよし
         右肘後備急方に出
 ○/一切(いつせつ)/食物(しよくもつ)の毒にあたり又いろ〳〵の
  /草木(くさき)の/葉(は)/魚(うを)/鳥(とり)/獣(けもの)なと/喰(くい)/煩(わつろう)に/用(もちい)て
  /死(し)をのかるへき方
一/一切(いつさい)の/食物(しよくもつ)の/毒(どく)にあたり/苦(くる)しむにはいり
 たる/塩(しほ)をなめ/又(また)はぬるき/湯(ゆ)にかきたて
 /呑(のみ)てよし/且(かつ)/草木(くさき)の/葉(は)を/喰(くらい)て/毒(とく)にあた
 りたるには/愈(いよ〳〵)よし
         右/農政全書(のうせいぜんしよ)に出
一 一切(いつさい)の/食物(しよくもつ)の/毒(どく)にあたり/胸(むね)くるしく
 /腹(はら)つよくいたむには/苦参(くしん)を/飯水(めしみづ)にて/能(よく)
 /煎(せんじ)出しかみ/食(しよく)を/吐出(はきだ)してよし

         右に/同(おなし)
一/一切(いつさい)の/食(しよく)にあたり/苦(くる)しむには/大麦(おゝむぎ)の/粉(こ)を
 /香(こふ)ばしくいりて/素湯(さゆ)にて/度々(たび〳〵)/呑(のみ)てよし
         右/本草綱目(ほんそうこふもく)に出
一/一切(いつさい)の/食物(しよくもつ)にあてられて/口鼻(くちはな)より/血出(ちいてゝ)も
 たへくるしむには/葱(ひともぢ)をきざみて一合水に
 て/能々(よく〳〵)/煎(せん)じ/冷(さま)し/置(おい)て/幾度(いくど)も/呑(のむ)べし
 /血(ち)の/出(で)やむ迄/用(もちい)てよし
         右/衛生易簡(ゑいせいいかん)に出
一/一切(いつさい)の/食物(しよくもつ)の/毒(どく)にあたり/煩(わつろふ)に/大(おゝ)つぶなる/黒(くろ)
 /大豆(まめ)を/水(みづ)にて/煎(せん)し/幾度(いくど)も/用(もちい)てよし/魚毒(うをのどく)
 に/中(あた)りたるに/愈(いよ〳〵)よし
         右/千金方(せんきんほふ)に出
一/一切(いつさい)の/食物(しよくもつ)の/毒(どく)に/中(あた)り/煩(わつろう)に/赤小豆(あづき)の/黒焼(くろやき)
 を/粉(こ)にして/蛤貝(はまぐりかへ)にて一ツ/程(ほど)ツヽ/水(みづ)にて/用(もち)ゆべ
 し/獣(けもの)の/毒(どく)ニあたりたるニハ愈(いよ〱)よし
         右に/同(おなじ)
一/菌(くさびら)【左ルビ「きのこ」】を/食(くら)ひあてられたるには/忍冬(にんどうの)/茎葉(くきは)

 /共(とも)に/生(なま)にて/噛(かみ)み/汁(しる)を/呑(のみ)てよし
         右/異堅志(いけんし)に出
 右/薬方(やくほう)/凶年(きよふねん)の/節(せつ)/辺土(いなか)の者(もの)/雑食毒(そふしよくのどく)に
 /中(あた)り/又(また)/凶年(きよふねん)之/後(のち)/疫病(じゑき)/流行(りふこふ)之/事(こと)あり
 /其為(そのため)メ【シテヵ】/簡便(かんべん)之/方(ほふ)を/可(へき)_レ/撰(ゑらむ)/旨(むね)/被(られ)_二 /仰附(おふせつけ)【一点脱ヵ】
 /依(よつ)而/諸書(しよ〳〵)之/中(うち)より/致(いたし)_二/吟味(ぎんみ)_一/出也(いだすなり)
 /享保(きよふほ)十八/季(ねん)/丑(うし)十二月
            /望月(もちつき)/三英(さんゑい)
            /丹羽(にわ)/正伯(しよふはく)
 右者/享保(きよふほ)十八年/丑年(うしのとし)/飢饉(ききん)之/後(のち)時疫(じゑき)/流行(りふこふ)
 /致(いたし)候処/町奉行所(まちぶきよふしよ)へ/板行(はんこふ)被(られ)_二 /仰附(おゝせつけ)_一/御料所(ごりやふしよ)
 /村々(むら〳〵)へ/被(れ)_二/下置(くたしおか)_一候/写(うつし)
 右ハ/当時(とふじ)/諸国(しよこく)村々(むら〳〵)疫病(じゑき)/流行(りふこふ)致(いたし)/又(また)は/軽(かろ)き/者(もの)
 /共(ども)/雑食(ぞふしよく)之/毒(どく)にあたり/相煩(あいわつらい)/致(いたし)_二/難儀(なんぎ)_一候/趣(おもむき)相
 /聞(きこへ)候処/前書(ぜんしよ)享保(きよふほ)十八年/被(くだ)_二 下置(しおかれ)_一候/薬方(やくほふ)/書(かき)
 /附(つけ)之義/年(とし)/久敷(ひさしき)/事故(ことゆへ)村々(むら〳〵)にて致(いたし)_二/遺失(いしつ)_一【左ルビ「なくし」】候/儀(ぎ)も
 可有之候ニ付/此度(このたび)/為(ため)_二/御救(おんすくい)_一/右写(みきのうつし)村々/領主(りよふし)/地(ぢ)
 頭(とふ)より/相触(あいふれ)候様/可(へく)_レ/致(いたす)候【歟ヵ】

 右(みき)之(の)趣(おもむき)可_レ被_二相觸_一■【歟ヵ】
    五月

    附録
  ○時疫(じゑき)に用ゆべき方《割書:傷寒(しよふかん)熱病(ねつびよふ)疫疾(ゑきしつ)と云も同(おなし)病(やまい)|にて幾(いく)つも名付(なつけ)たると知(しる)べし》
一 時疫(じゑき)にて熱氣(ねつき)あるには蚯蚓(みゝづ)の腹(はら)の土(つち)をよく
 さり水にて煎(せん)じ飲(のみ)てよしよく熱氣(ねつき)をさ
 ますなり其外(そのほか)の疾(やまい)にても熱氣(ねつき)あるに用て
 よし蚯蚓(みゝづ)も頭(あたま)の方に白(しろ)き筋(すじ)あるものは尚(なを)
 よろしきなり

一 時疫(じゑき)にて熱(ねつ)つよく頭痛(づつう)するには鷄子(たまご)一ツ

茶碗の内

江戸花俳優贔屓

【表紙】
【右上に図書票】
207
212
【左に題箋は無くて】
江戸花俳優贔屓

【右肩に図書票】
207
212
【左端に題ヵ】
江戸花

【右頁】
中むかしのころ
にほんばしの
たもとにいぶき
くんさい【医者の名。注】というて
いかなるなん病
にてもきうじ【灸治】
にてじきさま
げん【験=効果】を見せるゆへ
みなひともぐさ
いしやとあだ
なしてその
はやることひもん
やのにおう様【碑文谷の仁王様】も
おゝきなわらじ
をうつちやつて
はだしで
にげたまふ
ほどのこと也
てうないに
やどなしの
たおれものが
有りてばん
たろう【注】をはじめ
おゝや五人ぐみも
あぐみはて二百文
にてあつかへどもがてん
せずいろ〳〵とゆすり
けるゆへかのくんさい

【注 いぶき=艾の名産地とされる「伊吹山」から/くんさい=芳香性生薬を用いて臍部に行う灸法「薫臍灸」から】
【注 番太郎=江戸市中の木戸番勤務の番人】

【右頁中段】
これは〳〵いたみ
入ました
【右頁下段】
ばんた【番太=番太郎の略】
御礼

きた
もゝ

きは
どう
だろ


【左頁上段】
にりようじをた
のみければこゝろへたり
とてもぐさはこを
もたせきたり大ゆび
のはらほどなきうを
やどなしのしりつへたへ
おみまいもふしければ
やどなしもこれにて大に
へこみけるをさつそく
さきの丁へおくり出しける
りようじのほどこそ
     めざまし
        けれ

てうないのもの
大よろこびにて
れいにくるくんさい思ひ
よらず
礼金ならび
といふ所を
しめる
【左頁下段】
おてぎ
わのほ
  と
てう
 やく
のもの
ども
 かん
しん
いたし
ました

【右頁】
【上段】
くんさい
なかばなしを
するきやくを
はやくかへらせる
りようじを
たのまれければ
はきものゝ
うらへきうを
すへておちを
     とる

いつでもれつがものは
ござりますが
御きうが
  きいた
そうでもふ
 たばこいれ
  をしま
   はれます

これでき
   かすは
すりこ木を
 けづつてのませ
 せるがいゝ
     のさ
【中段】
これは十四けい【注】にも
 もれた大じの
  きうしよ【灸所】て
     ごさる
しかし此くらいなことは
 御やうだいがきて
     すむことだ

【注 十四経=全身の経絡、もしくはそれらについて記した中国の医書『十四経発揮』】

【左頁】
また〳〵きん日
ゆるりとさん上
 つかまつり
  ませう

しきりに
ようじが
できてまいつた
はてがてん
のゆかぬ

もそつと
おはなしなされまし
どうか
これではいしべや
金さへもん【石部屋金左衛門=「石部金吉」に同じ】の
ようだす

【右頁上段】
さる所の
おいらん
ために
なるき
やくじんに
いろ
おとこの
ほり
ものを
見つかり
大にもめて
【右頁下段】
花ざとさんのいね
むりのりよう
じをおたのん
もふし
  てへ
  ものだ

【左頁上段】
おまへの
つうくは
ひきくしの
やぐその
ほかの
あてが
ちがい大ふさぎにて
きやくじんの
たちかへるりようしを
くんさいにたのみ
ければなんのいけ
ぞうさもない
ことじやとほり物
をもぐさにて
やきけし
てしまい
ければきやくじんも
あんとしてたちかへりける
りくつといふものは
あらそはれぬものなり

おいらんへあへう
おはせうね

おか
みいす
つれへよ
【下段】
いねふり
にはかゝとが
めうさ

ひたり
  より
まづすへ
そめて
みぎの
ほうのは
のこし
やせふ
   ね

わつちも二つ
斗けして
もらいやせう
     よ









【右頁上段】
また其ころ
千の利き
うがおとしたねに
ひげのいきうと
いふ大じん
まつがね
やのあげまきに
うち
こみ
いろ〳〵と
くとけども
すけ六と
いふまぶが
あるゆへおもふよふに
ならねば大に
あつくなりて
わかいものを
たのみ
介六を仲の丁の
人中
にて
ぶた
せる

【右頁上段】
すけ六はおおぜいにてぶたれきをうし
ないけるあけまきは
大門のふじやの二かい
より此ていを見て
あるにもあられず
二かいよりとび
おりければこれ
も同しく
きをうしない
中の丁ぢう
大らんを
いれる

すけ
 ろく
さんあげ
 まきさん
  〳〵

  すけまき
   さんあげ
    六さん〳〵
【右頁下段】
あけ
まき
さん
〳〵


さん






〳〵
【左頁上段】
こへを【「こゝ」では】はかりに
あげまき
さん〳〵介六さん〳〵と
いふこへみゝに?つ
と思ひてきが
つきけるゆへ二人
ともにむつくと
おきはおきたれ
ども一ツ所でふたり
のなをよびけるゆへ
あけまきとすけ六が
たましい大うろたへにて
からだをとりちがへ介六が
からだへあげ巻がたましい
はいりけるゆへ介六が
たましいしやう
ことなしに
あけまきのからだへはいり
けるこそきの
どくなる

あけ巻がからだ■【へヵ にヵ】
介六かたましい
いりかはりてきが
つきけるゆへいまゝでの
あけまきとちがい
とんだきんひら
あけまきになりて
太平らくをいふ 
からたかすけ六こゝろは
あけまきゆへ
介六とんだきか
よわくなり大ぬけろくになる
【左頁中段】
そのぼうがちつとでも
あたりいすと五丁まちを
くらやみにしてしびとのやまを
       つきいすにへ
【左頁下段】
これさもう
いゝかげん
よし
ねへ
  な

これはおいらん
どうでござり
  やす

まづおめて
    たい





【右頁上段】
まるい
せかいの
ふり
そでに
なぜに
かとある
ひげ大じん
あけ
まき
をあ
げつめにしてわが
ものがほに
くどけどもあけまき
には介六かたましい
が入■わつている
ゆへほんとうの
あけまき
よりは
いちわう
てひとく



とし

かゝつ


つみのようの
ふつて〳〵ふり
つけられる
【右頁中段】
ぬしのつむりはぢおう
をくはた【かへた?】
かうと
いうもので
おす左【頁下段】
ひけのいきうと
いふがいつそ
うぬばつかり
いゝなんす

もしいきう
さんはらはおたちなんすなよし
はらの女からには
かねで斗はほれ
やせんなとゝ今ときの
女郎のいゝそふもないくを
          はく

【ここに注記を書きます】












【右頁上段】
うはきのかせに
さそはれて
むれくるそめき
でゝやいあけまきにけんくわを
しかけられ
しようこと
なしに
あけまきが
またをくゝる

ゑちごのかんしんせへ
またを
くゞつた
からおいらは
ものか
わざ

なくことじよ
ろうにや何
かたれねへ

【右頁下段】
それも
しよう
ちの
介六
もど
きさ

しりへたを一寸
たゝいてつかはそう

【左頁上段】
こんざいめう
きなくとう
りやあがり
なんし

【左頁下段】
ゆらの介ではないが
ふな玉さまか
みゆるは
〳〵

女にまけて
またくゞりた











【右頁上段】
はんとうしん兵へきを
きかせて二かいの上り
口へあきんと二かいへ上る
べからすとすみ
くろにみしらせる

それにひきかへすけ六が
からだへはあけまきが
たましいがくらがへしけるゆへ
あさからばんまで
つくりみかきにかゝつて
しよじ女のすることばかりしている

もちろんそのはづの
ことなれども
とんとけいせいのきもちにて

【右頁中段】
はてさて
こまつた
ものじや

【左頁上段】
きるものゝあんじもむらさきぢりめんの
小そでにあらいそのぬいおびはかべちよろの
さゝづるなどゝいふものなりもつとも
はちまきは
むらさき
ぢりめん
こいつは
おいへの
もの也

【左頁中段】
新兵へ
どん下へいつてもう
ゆがいいかきいて
くだせへ内せうしや何
すんだかの

【左頁下段】
けふは
廿五日だ
うれしいの
あしたは
かみ
あらい
びた






【右頁上段】

六は
おもふ
まゝに
おと
こを
つくつて

うら
やの
まかきへ
きて

くり
ごへ
をして
あけ

きを
よび



あがりを

せて

ほる

どきの
きやくに
よく
あるとんさ

【右頁中段】
どうでもするから
まあ上りなんし

それもあんまり
きのどくだ
    よ
【右頁下段】
あふげは
きうし
からし
より
たれを
うつして
すがた
みのだ

【左頁上段】
そうだろう長さ
きやにでんかうが
見らんたつけ

二丁めへ
はいつた
のは
文京さん
ではねへか
うしろつきがよくにたぜ

【左頁下段】
このごろは
まいばん
御つ■
へな














【右頁上段】
からだはあけまきこころは介六ゆへ
あげまきはみあがり【注】をして介六を
よひやりてわかいものゝ
しうぎまで
して大やにさぐりで
たのしむ
いろそさみしいから
花兵衛ても松蔵
でもよんでくんにん

かぶつ【酒のさかな】が
くるはづだ
ろとう
した


すけろくあげ
まきいあけ
られやみといやみ
ばかしている

【注 身上り=遊女が自分で揚げ代を払って勤めを休むこと】

【右頁中段 あげまきと介六の間の台詞】
すけ六さんあんまり
さけがすぎる
   よ
【右頁下段】
これは有
かた


きいろ

【左頁上段】
きやく人のほうから女郎に
むしんをいゝかけるもよくあ
るやつにてすけ六が
ほうからあげまきかかたへ
かねのむしんをいゝ
かけゝるが
あがりかぶとゝ
いふ口上で
みをのやもときに
にけのひける

【左頁中段】
さつして
くれろも
すざま
しい

おいらんもこのお
まへはたびへお出
なんして御る
すで厶【ござ】ります

【左頁下段】
あれほどかたく
やくそくし■
金がちかつては
わたしは
くびでも
くゝらねば
なりやせ
    ぬ

どうぞ
そうでもして
おあけな
さいまし







【右頁上段】
ちやよりや
なる宿
のつげて
いくけやりてかぶろ
のしきせ
までおも
てむき
をはぬしつなでな
■せうは
えまきさんなあげまき
がまのあぶらなればもの
まへには
水ものまれぬ
ところをやつはり
へいきで
たるさけにてあをつきりはおろか〳〵
うがいぢやわんで
あをりつけ
しやつきんていを
いゝまくる

からだはあげまき■
こゝろはすけろくなれは
あたゝいのまきものっはやはたよう
ではなしさ
【右頁中段より、順に下段まで】
かご代ばかりも
十両や十五両
ではなしさ

みどりやうき
つけでもとりに
やりや

げめんによぼさつ
つらきなりけり
《割書:アゝ》おそろ
   しい

ばからしいこと
というなんし
びくにくしゞ
をだせば
ねへものがとうだされる物か
三うらやのあ
けまきで
ざんす一ばん
まつてもら
いやしよう

【左頁上段】
介六はばんとう新兵衛介六みもちほうらつ【身持放埒】も
ひとへにあげまきゆへと思ひこみみうけ【身請】して 
やどのはなとすればみもちもなをる
しようばいもかせぐこゝろも【稼ぐ心】
でるであろうと玉しい【魂】の
いりかはつてあることはしら
ずあげまきかみのしろ
七百両にて手をうち
まんまとみうけしけれは
おもひよらすあけ
まきはほんまに
けふくう三■も引
やんすといふ
かぶ引なる

【左頁中段】
へん 
そうもんも
なかやの
てだい


【左頁下段】
介六さんへしうへこつかはさつたやぐの
代りご張両おわと■が三十両さ










【右頁上段】
あげまき思ひよらず
うけだされすあしも
やぼな
たびになり
いねつをつねの此ゆひに
とちもんめ
とちりとちもうを
はぢきだし
とんだち
みたものにて
米やのしろ
ねまみだと
あたりの
ひやうばんは
よけれども
とかくけんくわ
ずきと
大ざけを
のんで太平楽をほかへる
には新兵へも
大へこみなり

わしが
なりはしつり
われお
わぬさ
まといふ
ものだわいな
【左頁上段】
すけろくは
いよいよ
いやみに
みかはりは
このごろ
しよし
女ぼう
きどりで
あげまき
にかほ
みせをねだり
大にしかられ

これをぬつ
たらうちの
ひとのとう
さんのこそで
 をこし
 らへて
 ふきやてう【日本橋葺屋(ふきや)町、江戸三座のひとつ村山座があった。】
    を
 ねだつて
 見よ
  う
【左頁中段】
もしおかみさんへ
 おひるが
  でやしとよ
【左頁下段】
ちりめん
のたちぬいは
できぬ
はづだ
すわつ
てさへ
ぬへぬ




















【右頁上段】
ばん新兵衛つら〳〵思ふ
にあけまきは
おとこのわさ
をこのみ
て女の
することは
かいしき
てきず介
六は女のしわざが
ゑてものにて
男のやくめは
かたきしなれば
まつたく
たましいの
入りかはつた
のであ
ろうと
はじめて
こゝろづき
けれども
こればかりは
りようじの
しかたもない
ものゆへ一生の
ちへをだして
めかねやけしの介
しちやのばんとう
なといれかへることの
ゑんのあるものを
あつめてそうたん
     する
【右頁中段】
めかねのいれかへ
こそいたせ玉しい
のいれかへはぞん
しま
せぬ

しちのいれ
かへなら
どうても
してあけや
せう
【右頁下段】
玉のお
ふくろ
玉のお
はさま
なとはいれ
かへませ■
玉しいの
いれかへは外へ
おたのみ
  なされ
【左頁上段】
新兵衛はせんほうつきて
くんさいをたのみ
けれはさすが
わきやくしの
ことなれば
よろつはけにいける

うさんくん
さいことては
ないのさ
【左頁中段】
御礼金は
三百目で
こざる
  ぞや

金子の事はいかほ
どでも■
■   とかく玉しい
のいれかわるやうに
      おたのみ申ます
【左頁下段】
めつそうかい【滅相界】な
ことじやおもはつ
しやろうがばかを
  りこうにさへ
   いたし
     ます




















【右頁上段】
くんさい
はこゝぞ
りようじの
しどころ
とはれ
さう木になりかはり
■とりようぢ
仕らん

まづ

六と
あけまきをひとつ所
へねかし
おき
介六には
だんしや
もぐさを
すへあ
げまき
にはろこう
もくさを
すへければ
たちまち
もとのことく
介六はほん
の男
らし

なり
【右頁下段】
こゝへひとひらすへひとひひと

此所あついかとて
介六もあけ巻
 もむごんとみへ
    たり
【左頁上段】
あけまきも
ほんま
の女らしく
なりける
くんさいが
とんちのほとぞ
たくひなき
っときけん
じよう■
おしなめて
ものはみなかんせぬ
ものは
さくしや
斗也

玉しいがもとの如く
入かはつてほん心に
なりけるゆへ今のよにも
おやじが
むすこに
いけんを
するとき
玉しいを
いれかへろと
いふはかやう
のことを
  いふや
    らん

【左頁下段】
番頭新兵へ
わたしもいまゝては
ばんしんのきで
いやした

きうによいく■
まつはてよみに
まはすくせの
なまいだ





















【頁下段囲いの中に題】
\tけいこふ戯作■
北尾政美画
【頁上段】
しゆびよくりようじもすみ■
きうきように此ところにて
さくしやの山をお目に
かけませうと
介六とあげ
まきに
ちやばんの
しゆこう



つけ
させ
ける
【介六の図横に】
ねつ
 きり
【同じくあげまきの図横】
はつ
 きり
【頁上段本文続き】
やまひもきれて
いは
ほんぶくのよろこびは
つきせぬはるのねむけのたねと
            いちごさかへける

【裏見返し左肩に図書票】
207
【朱印】特別
212

【背表紙 紙に帝國圖晝館藏のレリーフ】

団十郎蓬芥伝

【表紙 題箋】
団十郎蓬芥伝

【管理ラベル】
京 乙 112 特別

【見返し】
団十郎蓬芥傳

【資料整理ラベル 右上】
京 乙
特別【朱印】
112

【同 中央】
東京図書館
一冊
一一二号
四架
京乙函

そのむかし江州あさいごほり
伊吹山に浅井太郎といふもの
のふあり一人のひめをもつ
つねにかりをこのみふ
しつといふいぬを
あいす

此ちかきにとれ
ゐぶき三郎
といふもの
此ひめに心
をかくる

【挿絵内せりふ】
あの妓はまだ入ふだ
はあるまい とうそわ
れらかほうへくるめ
たいものた とうやき【唐焼】
ではいくまいへつかうの
かうかゐ【鼈甲の笄】でみしらそふか

【左下】
わん〳〵

このあさいひめゑをすきてつねにもて
あそぶしかるにゑかくしな〳〵
のうちさるうさきひつじ
りやうこ【龍虎】とりわけゑもの
にてふすまにさいし
き朝夕のなぐさみと
する

きめうかな〳〵わ
がむすめなから
さてもゑにめう【妙】
をゑたり
そのまゝ
いきて
はたらく
やうなひつせい【筆勢】どこ
そよいはしよをみ
たてゝみせをだしたらはやりそうな事じや

何をこちの人のあほうらしゐ事ばかり女
ははりしごとこそしはざなれいらさる
さいはじけた【才弾けた=出しゃばって余計なことをする】ゑかきとはふさ
〳〵し
い【太々しい】ほん
に此
はゝ
はむ
ねむし【胸虫=腹の虫】むつ
とするせかいだ
あんまりわるいあて
こともない【とんでもない】あんほん
たんじや

けいぼ【継母】
あくりひめを
にくみ
いかにして
もうしなは
ばやとおもふ

あぐりみちならぬいふき
の三郎にひそかにつうし
太らうをころしあとし
き【跡職=遺産相続】をして
やらん
とた

む小じろ
ちく
るい



此ことをきく
三郎どのこなた
もやほてはなし
わしがめつきでも
がてんがあろこち
のはなたらしをふつ
ちめて此あとしき
はとんときさまに
あけまきの介六た

【右頁・右下】
それはみゝより
しかしひめがこ
とはちと
のひかけ山なれ
はとうしやうあん
のそばきりた

【左頁・右上】
あるときつまの太郎石山へ
まふでけるるすのまに
みな〳〵をかたら
いひめをなはめに
かくる
やれ〳〵
いとしや
此はゝが
つね〳〵そな
たをかあいがれとおとつ
さまの御きにそむけば
せひもないみつからが心
をすいりやうしやなみたで

【左頁・右下】
おひめさま御ちちごの仰付
なればしやう事かござ
らぬなはかけ
まする

【左頁・中央】
道が
みつぬほうい
 〳〵


さあ
 〳〵
御たち〳〵

ひめをはしらに
くゝり付くひうたんと
するひめ石山のにき

【右頁・下】
くわんおん
せいしければ
ふしきやふすま
にかけるりやうこゑをは
なれいきほひすさまじ
くたけりかゝる
ちゝうへの御るすに
かゝるなんぎに
あふ事もひとへ
にけいほと
三郎があく
しん
から
おこつ
た事ひころ
ねんする石
山のくわん
せおん此
きうなんを
すくひたまへ

【右頁・左上】
みな〳〵
おとろき
  にけ
   はしる

【左頁・上】
うはらたつ
もしとう
せなかひつ
しのかしらに
さるのをいふは
ゑのめきゝの事なり

【左頁・下】
なむねびくわんおんりき〳〵
のふこわやまづ
にけ給へ〳〵しか
しこれは西のしやう
るりはん
こんかう【反魂香】
の初段といふ
けいだその時はとら
一疋此度は
まして
りゆう
がてた
あいつに
くらわれ
てはならづ
けのかもくつた
【ならず⇒奈良漬、の洒落】

やれこはや〳〵
ほんにおがみんすにへ

あこら【太郎ヵ】石山よりとく
にかへりものかけ
にてみるに
いふき□で
太郎□め
かけき

こむ所をこじろ三郎がのどへくら
いつきついにくいころす

【右頁・下】
たらうめを十わ
りとばらしてひめを
して
こまそ


おも
ひの
ほか
ちく
しやう
めにし
められたこ
れはほんのいた
事わんつくう
んつくつ

〳〵
には
きゝに


まつ

あゝくるしい
 〳〵

【右頁・左上】
あくり此ていをみてにくきちくし
やうのふるまいかなとすかさずいぬ
のくひきる此くびとびあがり〳〵
ゑんの下にしのひいるもののあたま
へくらいつくぞふしき
なれ

【左頁・右下】
いぬぼね
おつてはゝ
にきら
れるとは此
事だ

【左頁・中央】
いや此
ちくしやうめは
さま〳〵のしう
ちをひろく六だ
んめとたのん
だだん平迄
くいころした
さて〳〵大ぼくのは
へぎわて此いぬめは
ふといのねと
きたは

太郎にとんやゆるされじであくりをさしころす
おのれよふ ひめをころしそのうへおれをしめ
よふとたく みおつ た をれがしるまい
とおもふか しにひらきか■□
うちお【出ヵ】し まてしつて
いるは やいおも
ひしつたか
 〳〵

ああせつ
ないかね
やすが


のゑでどう
ばらにあな
があいたこん
とから いた
し   ます
まい どう
   ぞお
   たすけ
   〳〵

それより太郎こしろ
がこころざしをかんじ
神にいわゐまつる
これをいぬ神と
いふなり

きんしやうさい
はい〳〵つヽし
みおそれみ〳〵
をまふす

それひのもとは
しんこく【神国】れいじやう
のちなり此う
わが
してん
つん
おん
なき

め□
□□
□□
□□□

らい
〳〵

三郎かあくねん【悪念】いふき山にてあくき【悪気または悪鬼・悪戯ヵ】となり山
中よりつふてをなげつけとくき【毒気】ふきかけ
ける

【右頁・下】
村のしうこれこ
のやういた事は
きんねんおほえ
ぬ はいとく
さん【敗毒散 注】ではいき
ます
まい

【注 近世、広く愛用された売薬。頭痛、せき、かぜなどに効があった】

【右頁・中央】
うぬめらいち〳〵
わつらわせ
ておち
をとる【落を取る=見物人の喝采を受ける】
さて
〳〵
ふて〳〵
しい村のやつらかな
あれ〳〵せつながつ
て【押迫られて苦しがって】てん
やわや【大勢が先を争って混乱する】
ひろぐ【しをる:「する」「行う」の意をののしって言う語】

【左頁・中央】
つぶてになけたる石大石小石ともにもち
だんごなとひきちきりて  つかみ
たる  やうにあと
つきて
いぶき



と三四里がほどい まに
みち〳〵
たり  これ を
いふき  山の
     つかみ
     石と
     申

ねつから
いこかれぬ【動かれぬ】
あんと【「なんと」するの意。「何と」の変化した語】する
事だ
 もさ【注】

【注 終助詞。近世の関東方言。感動をこめて人に告げることばの末尾につける。~よ。】

とりはけ
ひめにあ
たり月【産み月】を
こへてくるし
めり

【吹き出し】
いかに太郎なんぢ
をやく【お役ヵ】われをねん
する事年久し
よつて此度のわつらい
をすくひゑさする かまへ
て【必ず】うたがふ事なかれ しか
しまめ入【豆煎りヵ】はたくさんに
しやれ どらやきさつまい
もよものあか【四方の赤=銘酒「たきすい」】もちつい【つい:ちょっと】や
いとぎやう【灸饗=灸をすえる時、苦痛の慰めのために食べる菓子。また灸をすえた子どもへの褒美。13コマの豆煎りもこの意と思われます。】によかろ
きみやう
てうらい
〳〵
【帰命頂礼=拝み言葉】

【左頁】
石山のくはんせおんぼさつあさい
太郎かゆめにつけてのたまはく
三郎があくねん人みんをなや
ます事いとふひんなり
これをまぬかれんにはきたる
たんこのあけ七ツにいふき山
のよもきをとりきうぢ【灸治】せば
やまひこと〳〵く
へいゆうすべしと
つけさせたまうぞ
ありがたき
 〳〵
  〳〵

【左頁・下】
はやうあげ
ましたい【差上げ致したい】
ものじや

【左頁・中央】
これで二
ばんせん
じだ

くわんをんのぶつちよく【仏勅:仏のおことば】にまかせ五月
五日のみめいに村中いぶき
山のよもきおとりもぐさ
にこしらゆる
さて〳〵くわんをんさま【さ・まの合字】の
御ちかいがなくはこち
ごとはやみくもてんこち
ないめ【天骨無いめ=とんでもないめ】にあわふとお
もふたにさてあり
かたきくわん
ぜおんみ
なのしうこん
どいのち
びろいした
いわゐにはこち
のみそ
づ【味噌吸いものの略】で
たき
すい【銘酒の名。13コマ参照】を
のみかけ
山のかん
からす【注】と
でませう

【注 寒烏:寒中のカラスを黒焼にしたものは、のぼせ、眼病、血の道の薬として用いられた。】

【右頁・下】
くわんおん
さま
はあり
がたい事
じや

【左頁】
ほんぞうかうもくぢちん【『本草綱目』の作者李時珍のこと】がいわく【注】
きうてんのうんきにてけんやう
をおきなひきうつする
ものは火気にて
はつさんす
【きうてん=灸点、うんき=温気、けんやう=元陽。おきなひ=補い、きうつ=気鬱】
ちのへりたる人は
けいらくを
あたためて血
をめぐら
すか
てんか
〳〵
【「血をめぐらすがてんか〳〵(天下〳〵:この上ないこと)ヵ】

【注 李時珍『本草綱目』巻十五・草之四・艾 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557947/18】

【左頁・下】
今もくさやにてかんばん
にごうしういぶき
山もぐさと
なだいするは
此いわれ也

一かわらけ
 何ほと
    じやな


子ともに
きうを
すへてやる
にまめいりを
する事此て
めが
まめになる
やうにとのい
はれなり

【豆煎り:煎り豆。灸治の療法食として煎り豆を食べさせる風習<十一ページ参照>】

それにすが
りておとな
もなを〳〵まめ
になるやうにやいと
すべ


とかく人は二八月
にはきうをたや
すべからず

【右頁・下】
あさひひめくせ【救世】ほ
さつ御おしへにて
きうぢ【灸治】せし
にたちまち
やまひへいゆう【病平癒】し
けるそれよりその
きんへん
くだん
のことくきう
をすへて長
くそく才【息災=健康】
に成たり

村中いゑ〳〵で此ことく
きうを仕そく才なりますれ
ど てうちそはきりによものあか
をもちいますれはとうてもちとは
【手打蕎麦に四方の赤=銘酒を用いますれば、どう考えてもいささかは】

【左頁・下】
いた事【出費】 〳〵 さりながら人はそく才がかんぢ
んみのよふしやう【身の養生】が大あたり〳〵

【左頁・右上】
なるほと〳〵まつ
けんへき七のゆ十一 【肩癖(けんぺき)=肩こり】
十四さて

てんすう
など
でよ
かろいつれ
も五十そう
□すへら成
れい

【左頁・中央】
御いしや
さまわたくしがきう
てんはおほし
めしした
いに
 頼上
ます

【よものあか(四方の赤)=江戸時代、江戸日本橋和泉町にあった酒と味噌を商う四方久兵衛の店を「四方久(よもきゅう)」といい、そこの銘酒「滝水(たきすい)」を「四方の赤」というそうです。】
【そばきりは5ページにも「とうしやうあんのそはきり」の用例あり】

未正月《割書:新|板》目録 絵師 《割書:鳥居清信|鳥居清満》

【上段】
《割書:天女|龍女》娜(まいひめ)二代 鉢木(はちのき) 五冊
《割書:節|季|作》大厚木(おほはらぎ)の始(はじめ) 三冊
周防内侍仮寝枕(すわうのないしうたゝねまくら) 三冊
沖石水魚筆始(おきのいしいもせのふではじめ) 三冊
《割書:萬や助六|総角助六》相谷蛇目傘(あいやいじやのめがさ) 三冊

【中段】
《割書:夢者|栄茅》宝船(たからぶね)の始(はじまり) 三冊
䲬(きじの)𩿦(こゑ)藤戸魁(ふじとのさきがけ) 三冊
夫家所婦中珠取(おとこあまふちうのたまとり) 三冊
《割書:出世|偉人》和国二十四孝(わこくにじうしかう) 二冊
《割書:京|江戸》鶯問答(うぐひすもんどう) 二冊

【下段】
《割書:江州|伊吹山》 團十郎蓬艾伝(だんじうろもぐさのでん) 二冊
源太夫旅行生土(げんだゆうりよかうのうぶすな) 二冊
《割書:浮世|世話》 萬能金徳丸(まんのうきんとくぐはん) 二冊
《割書:漢倭|軍配》 本記原(しやうぎのはじまり) 二冊 

【丸に三つ鱗の紋=商標】版元《割書:鱗形屋| 孫兵衛》

珍敷新板物御歴ゝ追々出し懸御目申候

【管理ラベル】
京 乙 112

【管理ラベル】
京 乙 112

【裏表紙】
【「帝国図書」のエンボスあり】

袖珍仙方

袖珍仙方

袖珍仙方     一冊

袖珍仙方

斯冊子□図而
於来其案可□
逐名之書也

袖珍仙方叙
天生 ̄シ地成 ̄シ人長_二養 ̄ス其間 ̄ニ_一元氣充 ̄チ

視薬霞報条

【看板風挿絵】
御めしるし
【本文】
あばら家(や)ふり出(だ)し薬(ぐすり)  棟梁軒(とうりやうけん)大九郎製
             御作料(おんさくりよう)一口(いつく)三匁

あばら屋(や)ふり出(だ)しぐすり
の儀(ぎ)は予(よ)が先祖(せんそ)飛騨(ひだ)の
番匠(ばんじやう)聖徳太子(せうとくたいし)の御 告(つげ)
によつてはじめて製(せい)
するところの良材(りやうざい)に
して規矩準縄(きくじゆんじやう)の工(く)
夫(ふう)をもつてふたゝび
製法(せいほう)しあるひは挽(ひき)
わりあるひはけづり
おがくずの散薬(さんやく)と
なしすべつちのねり
薬(やく)ともなす第一
天上(てんじやう)のものをとめ
てたる木(き)のくされ

を愈(いや)し土蔵(どさう)の艶(つや)
を出(いだ)してしつくい
のいろを白(しろ)くす
夫(それ)ねだ板(いた)のがた〳〵
するは大引(おほひき)のおとろへ
より出るところ屋(や)
根(ね)のあたまのかたむくは
どだいの不順(ふじゆん)より
発(おこ)るなり蓋(けだし)雨(あま)
もりは家(いへ)のやまひの
はじめにして早く是
をなをさゞればその
くされ柱(はしら)につたひ
土台(どだい)におよび終(つい)に
修覆(しゆふく)とゞきがたし
これらの症(しやう)に用て
甚(はなは)だ妙(めう)なり調法(ちやうほう)一たび
やとひてしるべし

【挿絵内・右ページ】
○こゝのうちは
 あめがふると
 そとにいる
 よりたんと
 ぬれる
ちつと
おもて
  へ
出て
あめを
しの
がう
   ○なにを
    いふやら
     もる
    お■【「と」ヵ文脈から「音」ヵ】で
    ねつから
      きこへねへ

【挿絵内・左ページ】
○大工さんころはねへ
 やうにかつてへきて
 おめしをあがれ
 ざしきはいつそ
 ぬかるか■■【「らな」ヵ】ん
  なる【「る」に見えるが文脈からは「ら」ではと思われる】つえを
かして
   あげやう

【看板風の挿絵あり】
八分地蔵丸(はちぶぢざうぐわん)  再(さい)仝(〳〵)庵(あん)无心老人(むしんらうじん)製法(せいほう)

借金(しやくきん) わきはらの証文(しやうもん)に
とゞこほりてつねに利足(りそく)に
せめられものまへくびの
まはらぬ事ありて難儀(なんぎ)
する人つねに此(この)くすりを
用(もち)ゆればくらしかたの不足(ふそく)を
おぎなひ家内(かない)の元気(げんき)を
益(ます)こと妙(めう)なりそも〳〵八分(はちぶ)
ぢぞう丸(くわん)と名(な)づくることは
むかしさい〳〵庵(あん)無心老人(むしんらうじん)
地蔵(ぢぞう)のかほを三ン度(ど)なでゝ
はちぶされたるより
此(この)くすりせいほうして

銭箱(ぜにばこ)はらをくだして米(こめ)の
めしのくわれぬ症(しやう)にほとこし
こゝろみるに倹薬(けんやく)のしるし
立所(たちところ)にみへて大にしんだいを
ますのきとくあり故(あるかゆへ)に
あまねく薬 弘(ひろ)めて
首(くび)のまはらぬうれ
ひをすくふものなり
但(たゞ)しくすり用ゆる
うちしやつ金(きん)無心(むしん)
しち屋の間をつゝしむべし
質屋(しちや)の内(うち)まけもの【質種】を
もちゆればさらに
けん薬の
 しるしなしと
 しるべし

【挿絵内・右ページ】
○みそ屋の
 はらひが
 とゞこほり
  まして
 いつかう
  大べんの
  つうじが
  ござり
  ませぬ

【挿絵内・左ページ】
○よくものをかんがへてみさつしやれ
 ぢぞうのかほもさんどゝいふでは
  ないかかしてあいそをつかさて
  よりかさずにあいそをつかす
  ほうがきさまのためになり
         ますてや

○くちくひものにおこるから
 ながしもとの水がへつてかま
 どの火がたかぶりたがるけん
 みやく【見脈=外見から見て推察すること】を見れはうちの
  ようたいがいはすとしれ申す

【看板?家紋?の挿絵あり・青龍刀に関の字】
八十二斤(はちぢうにきん)青龍湯(せいりうとう)  関雲町(くわんうんてう)
             寿亭小路(じゆていこうぢ)
         本家 三国子調合(さんごくしてうごう)

三国相伝(さんごくさうでん)美髯香(びせんこう)青龍湯(せいりうとう)は
はなはだおもき秘方(ひはう)なりと
いへども此度(このたび)諸人(しよにん)のすゝめ
によつて五月 節句(せつく)まへ
十 軒店(けんだな)にて売(うり)ひろめ
申候 抑(そも〳〵)青龍湯(せいりうとう)に三ツ
の不思議あり第(だい)一に
ちからをつよくし第二に
顔の色なつめ【棗の実】のことくし
第三に髭をなかくす是(これ)を
のぼりのわきだてに用ゆれば
節句(せつく)をにぎやかにする事
妙(めう)にしてよく人きやうの景(けい)

気(き)満しのぼりの
いきほひをます
のぞみの御方は定日(じやうじつ)の
うち御出なさるへく候
のぼりのようだい
くはしくうけ給り
候うへかつこう
 かけんいたし
    進(しん)じ可申候

【挿絵内・右ページ】
○コレ〳〵どうめいつたの
  孔明(こうめい)たのとけんくわを
 すると曹操(さう〳〵)おとつさん
    へ仲達(ちうだつ)する
        によ
○おいらは関羽(くわんう)だ
  からつよい〳〵
 つよひ関羽(くわんう)すりや
   正月とおもふてか

【挿絵内・左ページ】
○おいらは張飛(ちやうひ)
 だから丈八(じやうはち)の
  蛇棒(じやぼうん)を
  ひつさけて
  出るところ
  だが丈八の
  じつぼうは
   ねへから

   十八の
   たぼ【若い女性】を
   ひつさげ
     て
   ねよう
    とは

  たがおしえ 【誰が教えたか】
  たかとんだ
  こしやくを 【小癪=生意気なこと】
  いふ子供た

【家紋風挿絵あり】
本家        御目じるし大極上々吉の
   神仙路考油(しんせんろこうゆ) 一枚看版(いちまいかんばん)出し置(おき)申候
瀬川        十包(とつゝみ)入 一箱(ひとはこ)に付 給金(きうきん)千両

一第一かほのいろを白くし
 こうせきをさわやかにす
一あいきやうをつけ身
 ほねをやはらかにし
 身のきくこと至(いたつ)て
 妙(めう)なり所作(しよさ)おどり
 などならふ人つねに
 ふり付(つけ)てはなはだ
 しるしあり
右(みぎ)路考油(ろこうゆ)の儀(ぎ)は王子(わうじ)
の社(やしろ)御むさう【無双】の妙薬(めうやく)
にしてつねに用ゆる
人は年よらずして
かんしよくおとろへず
ゆゑに神仙(しんせん)の名(な)あり
先(まづ)第一 鷺(さぎ)むすめの
ゆきの夜(よ)も
寒気(かんき)をうけ
ず女なる神(かみ)の
雨(あめ)の日もしつけを
うけずむけん道成寺(どうしやうじ)
汁(る)にあたる時(とき)はわる口(くち)の
どくをけしてむねの
ひらく事 石橋(しやつきやう)の
ぼたん【注】のごとしねむり
をさましたいくつを
しりぞくる其功(そのこう)その
妙(めう)うしろ面々(めん〳〵)
   用ひて後(のち)
      しるべし

【注 石橋の牡丹=能楽の曲名。僧寂昭が唐土巡礼中、清涼山で石橋を渡ろうとした時、文殊菩薩に仕える獅子が現れ、咲き乱れる牡丹の花に戯れていたという故事が謡曲化されたもの】

【挿絵内・右ページ】
○たのまれた
  扇面(せんめん)も
 けふはかゝずは
  なるまい
  かずが
  おほいから
  印(いん)をおす
  ばかりも
  大ことだよ

【挿絵内・左ページ】
○にしのさじきにゐる
 けんぶつはどうかみた
 やうなかほだがどうも
 おもひだされん
      わいの

○太夫どんの
 おいでなさる
  しばゐはよこ
  ほりのちやふねときていつでも
  あたらねへといふことはござりやせん


【菅笠に太の字の図】
       日本一社(につほんいつしや)勢州山田氏製(せいしうやまだうぢせいす)
唯一太太香(ゆいちだい〳〵こう) 取次諸国(とりつぎしよこく)に有之候 講中(こうちう)もより
       よろしき方にて御 信心(しん〴〵)可被成候

夫(それ)太々香(だい〳〵こう)は神秘不思議(しんぴふしぎ)
の良法(りやうほう)にして世(よ)もつて
しるところの寄特(きとく)あり
一ヶ月二百 粒(りう)三百粒
づゝ用ゆればわざはひを
はらひて幸(さいはひ)をむかえ
愁(うれ)ひを転(てん)じて悦(よろこ)びに
かへす家内(かない)つねに
すこやかにして無病(むびやう)也
能(よく)〳〵信心(しん〴〵)して用(もち)ゆべし
奉納(ほうなう)あげてかぞへ
      がたし

【挿絵内セリフ】
〇これぢゃァ
 ちやうど
  たかなわで
  よが
   あける
   だらう

〇としのくれにだい〳〵にたつていつちやァ
  だい〳〵ごくらうほんだはらといふもんだ


【左ページ】




()





【白紙】

【左ページに朱印・静岡上石町 二丁目翠庵 松井敬一】


【家紋風の図あり】
一子(いつし)  あんぽん丹(たん)  本家(ほんけ)惣領(さうりやう)甚六
惣領(そうりやう)         代料(だいりやう)百の口(くち)十六文 抜(ぬけ)

一めじりさかりたるによし
一はなのしたなかきによし
一ものわすれをするによし
一 団子(たんご)さへくへばひがんと思(おも)ふによし
一ほた餅(もち)を見れば■【ゐ】のこと
 おもふによし
一つかひにやつてもしれずに
 かへるによし
右あんほん丹はこれまで何(なに)を
させてもらちのあかぬ症(しやう)と
いへども此くすりながく用れば
御くらうなしにて長命(ちやうめい)也
此御くすりおや子の中にても
一切(いつさい)さしあひなし

〇かゝさんなかずにかみをゆふから
もつとたんごをかつてくんねへ
十五になつておとなしくかみを
             いふ
             ものは
             おそ
             らく
             ひろい
             江戸
             にも
             ある
             めへ
              のう
            かゝ
            さん

〇十五
十六になり
ながらだん
ごばかり
くひたがると
せけんでおやが
あまひからだ
といふさとう
だんこはもう  よう【しヵ】やれ〳〵

【家紋風の図あり・梅の枝? かば焼きの串?に一心の文字】
             本家
 大盡空児(だいじんくうに)うわき薬(ぐすり)   不了軒(ふりようけん)
               阿法(あほう)

此くすり用ひやうは
能(よく)うは気(き)ののらくら
をあらひすて大きに
あぶらをとつて青(あを)
菜(な)にしほをかけ
たることくにして
常(つね)に食(しよく)すれば
第一のぼせを引(ひくき)
さげせきこみを
しづめてりやう
けんを出しのひた
はな毛(け)をちゞめ

出たかるあしを
とをくす此くすり
は五かんのめう
やくなるがゆへに
たへず用ゆれは
親達(おやたち)の五かん
たうの首尾(しゆび)
をおぎなひ
いんしん不通(ふつう)
の不食(ふしよく)を治(ぢ)す
べしもつとも
らうそくを
忌(いむ)なり

【挿絵内・右ページ】
テンツル
  〳〵
テンツル
  ツン〳〵

【挿絵内・左ページ】
○しのだの
  もりの
  きつねを
 つろな〳〵
 テンツル〳〵
  テンツルツン
  こいつは
  なるほど
  おもしろ
  たぬきだ

○けいせいに
 つられるよりは
 きがはらねへで
     めうだ

○ヲホヽヽ
   ヲホヽヽ
 此女はしやれでも
  なんでもなく
     こくうに【虚空に=やたらに】
  わらふやつさ
   ホヽヽ
     ハヽヽ
    アハヽヽ
      アハヽ


【家紋風の図あり・山にもみじ葉】
ヲイランタ    弘所(ひろめどころ)北州三浦(ほくしうみうら)
  内股膏薬(うちまたごうやく)      高尾氏(たかおうぢ)

前々(まへ〳〵)より御 披露(ひろう)
仕候おいらんだうち
股(また)こう薬(やく)の儀(ぎ)は
ヲガミンスと申す
おいらんだ人(じん)より
薬方(やくほう)授受(しゆ〳〵)いたし
きせうせいもん一紙(いつし) 【起請誓文ヵ】
相伝(さうでん)の妙薬(めうやく)なり膏(こう)
薬(やく)はみす紙(かみ)へのへて
そのいろらうそくの
ごとくあつちへへつたり
こつちへへつたりつく
やうにみへ候えともいきちに

御は■こみなされ
候へば身あがりの
じばらを
おぎなひ
もん日の
いたみ骨(ほね)をりを
いやしつき出しの
新造(しんざう)をのかれてかたの
は■ふさぎをひらき日々
朝(あさ)がへりの霜やけに妙
にして尻(しり)のすはらぬねぶと
客(きやく)の根をきり種ものにさはる
かんしやくもちをやはらぐるなり
こうやく御のそみの御かたへは
九貝(くかい)の中へねんいつはいつめて
さし上 ̄ケ申候

【挿絵内・右ページ】
○ぬしやアあたま
 からのほせて
 きなんすから
 かみをきつて 
 あげい
 しよう
○なるほといろをとこは
 とう〳〵おれに
     とゞめを
     さした

【挿絵内・左ページ】
○ぬしはかき
 たがりなんすから
  ゆびをきつて
  あげまうしいす
○たかおにゆびをきらせた
   おとこはおれより
   ほかにはあるめい
     きついもの〳〵




【家紋風の図あり・山に金銀出入帳】
ぼんぜん盆後(ぼんご)づつう妙薬(めうやく)  物前出入町(ものまへでいりてう)
              鎗栗屋(やりくりや)辛(ひど)ゑもん

凡(およそ)ぼんぜんぼん後(ご)は
づつう八百のふさぎ
つよくあたまのかけを
取(とら)んとするに其掛(そのかけ)
とれず問屋(とひや)の古(こ)
積(しやく)をおさめんと
するにそのかけ
おさまらず此時(このとき)
目(め)はさかづりて
ぬかばらをたち
常(つね)に呑(のま)ぬむり酒(さけ)
をこのみ内外(うちそと)の者(もの)
をしかりちらし

さま〴〵ねつを吹(ふき)身(み)の
うち破(やぶ)れかぶれ出来(でき)
てはては欠出(かけだ)して遊(あそ)び
に行(ゆき)古積(こしやく)のうへに
しんしやくをおこす
これらの症(しやう)に此薬(このくすり)
出入一張(でいりいつてう)をもちゆれば
帳(てう)じりのしまり
おのづからとゝのひて
古しやくをふせぎ
しんしやくをはらひ
しんだいゆつたりと
なりてづつう
八百のねを
 きる事妙(めう)也

【挿絵内・右ページ】
これはとうだ

【挿絵内・左ページ】
これば
どうだ

ものまへ【節季の間際】二十両といふ
ふさ【無沙=借金を返さないこと】をうたれ【借りたままにされ】た
うへに又十両といふ
ものふまれては
うたれたりふまれ
たりこしのぬけるも
     むり
     じやア
     ある
      めへ

○あきれかへつても
  ばんとうへいひ
 わけかねへといつて
 けへらねへても
  ゐられめへ


【右頁】
【庵に木瓜の紋の図案 曽我兄弟に関連】
胃(ゐ)保(ほ)痢(り)に 木(もつ)瓜(こう)丸(ぐわん)《割書:兄包(あにづゝみ)曽我(そがの)十粒(じうりう)入(いり)|弟包(おとづゝみ)同(おなじ)く五粒(ごりう)入(いり)》
【本文】
右(みぎ)いほりに木瓜(もくこうぐわん)は
曽我(そが)大明神の
神託(しんたく)によつて
毎年(まいねん)春(はる)の門
三 芝居(しばゐ)にて
弘《割書:メ》申候
御 望(のぞみ)の
御 方(かた)は御出
なさるべく候
尤御こゝろみ一《割書:ド》切(きり)
十六文より箱(はこ)入
御 桟敷(さじき)三十五玉まで
【右中段】
ばいやくとうせんのそが
兄弟すけつねどのに
あはふとはどくのこゝろみ
ならぬ〳〵
【右下段】
十〽︎おとゝが古方(こほう)を
  おぎなふて兄は
  はたちの後世家(こうせいか)
五〽︎傷寒(しやうかん)金匱(きんき)
  よくつらのたわ
  こと補剤(ほざい)でな
  まのろひ素問(そもん)
  霊櫃内経(れいようたいきやう)を

【左頁】
【本文】
これあり候此 方(ほう)へ
御 出(いで)なされがたき
御方(おんかた)は御つかひにても
相すみ候やうに
ばん附(づけ)狂言(きやうげん)絵(ゑ)
本(ほん)しん上仕候
此くすりしんせう
にも奉公(ほうこう)にも
さゝはりなく見物(けんぶつ)
一《割書:チ》日にて相すみ
申候 此度(このたび)きやう
げんがへ仕候 ̄ニ付
弘(ひろ)めのため
名題(なだい)かんばん
相あらため
あまねく世上(せじやう)へ
ひろむる
  ものなり 
【中段】
●わたがさん薬
小ばやしの
おじいがひけへて
いるさし合
なしに
くぜれ〳〵
【下段】
さかさにしたる
兄弟がねらふは
まさしく
十〽︎《割書:コリヤ》とかくたんきは
孫思邈(そんしばく)たゞ
仲景(ちうけい)に
ひかへ

ゐや

【数珠と「西」の図案】精(せい)性(しよう)朝(あさ)間(ま)看(かん)経(きん)丹(たん)《割書:壹劑(いちさい)|煩惱(ほんのう)百八 銅(とう)》
【本文】
朝間(あさま)かんきん丹(たん)は
釈迦佛(しやかぶつ)薬艸(やくさう)
諭品(ゆほん)にとき給ふ所(ところ)の
めう薬(やく)にして大《割書:サ》
じゆずの玉のごとく
紅(あか)きころもをかけて 
これを製法(せいほう)す第一 娵(よめ)しうとめの
中をやはらげがや〳〵とやかましき
こゞとを止(とめ)る外(ほか)に
念仏香(ねんぶつこう)と申付薬
しん上いたし候 談義(だんぎ)
一《割書:ト》まはり用ひて
邪見(しやけん)のつのをもぐ
こうのうあり
【中段嫗の会話】
おかゝさん御ちやができましたそして 
おこたつへも
火が
はいりました
【下段姑のことば‘】
なまいだ〳〵〳〵〳〵
〳〵〳〵ねんぶつで
口をすくして
おかねへと
ぢきに
こゞとが
いひたく
なる
なん
まい

〳〵



【左頁】
【右下に蔵書印】 
静岡上石町
二丁目翠濤
松井敬一

【上段】
視(みるが)藥(くすり)
霞(かすみの)報(ひき)
條(ふだ)下【㊦】
   通油町
   鶴喜板

【下段】
馬琴作
【鶴丸紋】

乗掛の
  娵も
うつむく
 椿かな
   晋如

【左頁】
【紋(牡丹)ヵ】旡(む)小児(せうに)きほふ丸(くわん)《割書:古人(こじん)市川三舛 通(とをり)| 藝(げい)の上(あが)ル町(まち)|弘所(ひろめどころ)萬屋介六》
【本文】
抑(そも〳〵)きほふ丸(くわん)の功能(こうのう)は
第一あたまの血(ち)のけを
とり両(りやう)うでのちから瘤(こぶ)を
おとしほりもののあざをぬく
けんくわのこしををりて
出入引(でいりひき)のもつれを
おきなひ腹内(ふくない)の
よはきものを
たすけてあく
體(たい)をすこやかにす
かんにん五両目ほど
もちゆれば俠客(きやうかく)の
あいだをやはらぐる
事(こと)神(しん)のごとし
【右下会話】
《割書:コウ》
こまたを
くゞつては
ずいふん
まうかる
はづだが
◯きよねん古人(こじん)になつた
からゆうれいのきほひ
だとおもふとあてが
ちがふぞ《割書:コレ》
あしをみな〳〵

【右頁】
【尺八と編笠の図】《割書:天蓋散(てんがいさん)》こむさうの妙薬(めうやく)《割書:忠臣蔵通(ちうしんぐらとをり)|九段目(くだんめ)語(かた)ル町|竹田(たけだ)出雲掾(いづものぜう)製(せいす)》
【本文】
てんがい散(さん)こむ
さうの藥(くすり)は
加古川(かこがは)本草(ほんざう)に
のする處(ところ)の
薬品(やくひん)を撰(ゑら)み
九たんめ雪(ゆき)の
ふるをまつて
これを製(せい)す
第一 尺(しやく)八のね
を出しとな背(せ)
よりむねの
いたみを
おさめお石(いし)

【中央会話】
いはゞそなたは
本剤(ほんざい)【(本妻)】の子わし
とはなさぬ中じや
ゆゑ余薬(よやく)にしたかと
おもはれてどう《割書:マア》
さじがあてら
     りやう
【左頁】
【本文続き】
のぼせを引下るたとへいかなる
即症(そくしやう)たり共くすり見物(けんぶつ)の胸(むな)へ
おつるとひとしく脉(みやく)のあかつた
小なみの恋(こひ)やみをすくひこん
れい【(婚礼)】のもつれをとゝのふ
こゝをもつて芝居(しばゐ)の
元氣(げんき)をます事 速(すみやか)
なるがゆへに三ヶの津は
申におよばす諸國(しよこく)へ
相弘(あひひろま)り今(いま)もつて繁昌(はんじやう)
いたし候 猶(なを)此度(このたび)役衆(やくしゆ)
ぎんみいたし名人(めいじん)の
かげんをくはへ藝方(げいほう)
ねん入相つとめ申候
其(その)ための功能(こうのう)さやう
【会話文】
かこ川本ざうがいのちしん上
まうさう《割書:コウ》かくごをきはめ
ねへけりやアやぶゐしやにはかゝられねへ




【右頁】
【料紙中央に】
百韻
《割書:正風(しやうふう)【(蕉風)】体(てい)万評(まんひやう)【(万病)】によし》
俳諧(はいかい)ばせを膏薬(こうやく)弘所(ひろめどころ)《割書:本家(ほんけ)|荒木田(あらきだ)守武(もりたけ)製(せいす)|芭蕉庵(ばせをあん)桃青(とうせい)調合(てうごう)》
【本文】
ばせをこう薬(やく)の儀(ぎ)は一巻(いちくわん)
百 韻(いん)より御こゝろみ哥仙
三十六句まで調合(てうごう)いたし
進(しんじ)申上候御 附(つけ)なされ候 節(せつ)三
句のわたり第一《割書:ニ》御つけなさる
べく候御 巻(まき)のようだいにより
此方にて高点(こうてん)おろししんじ候
◯此(この)藥(くすり)さし合(あひ)甚(はなはだ)多(おほ)し有増(あらまし)を
              しるす
一 同季(どうき)五句 去(さり)てよし
一 居所(きよしよ)水辺(すいへん)山類(さんるい)う【そヵ】へもの
 三句さりてよし
一 生類(しやうるい)三句 恋(こひ)五句の間(あいだ)
【中段会話文】
此さんはきめう
によくできた
きよ年さる所
で見たもこの
さんであつた
などゝおさき
まつくらて
ほめてゐる此をとこ
さくしやのまはし
ものかもしれす
【左端会話文】
此をりは月花
をむすびに
いたしてすぐに
べんとうに
いたさう
【左頁】
【本文続き】
 いむべし
一 書体(しよてい)火体(くわたい)一句
 にて捨(すて)てよし
此外さしあひ
あまたあり
【中段会話文】
しろうとで
羅文子(らぶんし)ぐら
ひする人は
《割書:モウ》てきま
せぬおしゐこと
には古人(こじん)に
なられ
ました
【掛軸】
かたちは■■の円きにやつれて
実相無満の古地を愛しこゝろは
竹杖のほそきをたどりて遠縁
真如の新月に嘯く願ふところ
僧にして僅にあらす吟ずる所
哥に脈【「似」では】てるに異なり懼魔(??)生か
なら茶三斛をくらはすんば
いかでか俳諧の味ひをしらん
        曲亭主人題【落款】





【右頁】
【筆と硯の図】千金(せんきん)字(じ)筆(ひつ)の薬(くすり)《割書:五節句(ごせつく)一廻(ひとまは)り|     二百 銅(とう)|附薬(つけくすり)天神香(てんじんかう)一會(ひとくわい)拾六文》
【「附薬」はタイトルの一部か?】
【本文】
小児(せうに)七八歳より
二月はつ午(うま)に
はじめてこの
くすりを用ひ
三五年があいだ
たへず服用(ふくよう)すれば
おのづからまなこ
あきらかになり
て四かくな文字(もじ)
を見(み)わけ
生涯(しやうぐわい)あき
めくらとなる
うれひなし
【下段会話文】
梅さんみやうにち
        よ

かけていつたり
さはいでかへる

おし
しやう
さんがお
しかりな
さるのう
おふぢさん
【左頁】
此くすりもち
ゆるときはかほ
のいろすみの
ごとくあるひは
口(くち)のはたおはぐろ
をつけたるごとくに
なるべしかならずおど
ろくべからずつくえ
にしりがおちつくと
ひとしくはしり書(がき)の
はしりぢもとまり水(みづ)
いれのでぢもやみて
しりのきやうぎよく
なるにしたがひかほの
いろも又たん〴〵に
しろくなるなり   
【左下会話文】
てならひの
字願(ぢぎやう)に
ふでの
みちぶ
しん
あとへもどるは
くるまどめなりといふ
うたもあるからおいらは
とめられぬように
せいだしましやう


【右頁】
【櫛と煙管(簪)ヵの図案】  
眠(みん)參(じん)新(しん)造(ぞう)圓(ゑん)《割書:壹劑(いちざい)金一歩 《割書:但(たゞ)し一じばんに|もちゆべし》
取次所(とりつぎどころ)何(いづ)れも茶屋(ちやや)有_レ之(これあり)》
【本文】
夫(それ)心臓(しんざう)の一経(いつけい)は
複心(ふくしん)の伴候(ばんこう)にして
よく客腎(きやくじん)の足(あし)を
とめ肺肝(はいかん)二階(にかい)の
手くだをめぐらす
しんぞう一《割書:ト》たび
うはつけば大ぞう
たちまちふわと
のり大町傾(だいてうけい)の
ふさがりできて
内所(ないしよ)のあんばい
はなはだわるし
【中段会話】
しんぞうたかぶりて
うへにいたればたちまち
ざしきもちとへんじ客腎(きやくじん)
水がへつて
ふところ
かはけば
ついに
せんき
もちと
なるは
このとをり


ざい


【左頁】
【本文】
抑この新造内(しんぞうない)は
しんそうをとゝ
のふる事(こと)を第一
とするがゆゑに
もん日のいたみ
おとらずして
廿五あき【注】の天年(てんねん)
を全ふす仙傳(せんでん)
不老(ふらう)の神薬(しんやく)なり
功験(こうげん)ひとばん
もとめて
しるべし
【中段台詞】
〽︎おたちあひ
のおかたさまに
おゐしやがたも
ござりましやうが
しんさうのおとろへより
ねむりをもよほし
ものにたいくつしておもしろく
ないよをあかすもまつたく
しんぞうよりおこりますれば
しんぞうの心?【しんぞうけい(経)ヵ】ほどむつかしい
ものはござりませぬ

【「しんぞう」「新艘」とも書く)近世後期、遊里で、「おいらん」と呼ばれる姉女郎に付属する若い遊女の称。出世して座敷持・部屋持となるものもあり、新造のまま終わるものもあった。この店先には「新造」の浮世絵なども飾り、心臓と新造を関連付けている】

【注 二十五あき。二十五歳で年季が明ける事。ちなみに江戸、吉原の遊女は二十七歳で年季があけ、遊郭を出る事を二十七あけ(明)という】






【右頁】
【上段】
養生(ようじやう)は長寿(ちやうじゆ)の良法(りやうほう)なりたとへば
ゆきは春きへべきはづの物なれども
これを氷室(ひむろ)にたくはへおげば六月の
ゑんてんにもそのゆききへずこれ
ゆきのようじやうよきゆへなり人
間五十年のじゆめうかきりありと
いへどもようじやうをよくもちゆれば
百年二百年のじゆめうもうたがふ
べからず此 理(り)をもつて世上(せじやう)をつとめは
検約(けんやく)はせたいのようじやうなり
忠孝(ちうこう)は臣子(しんし)の養生(ようじやう)也 惻隠(そくいん)
は主人(しゆじん)のよう生(じやう)也 恩愛(おんあい)は妻(さい)
子(し)のようじやうなり聖人(せいじん)五常(ごじやう)の
薬法(やくほう)を立給ふことみなかくのごとし
こればつかりは
まじめて止(とめ)て
おくも又け作者(さくしや)
のようじやう  かもしらず
【下段】
曲𠅘 馬琴作【落款】馬琴

〽︎元旦から引札を
くばつたりおくれ
ばせのかきだしだと
おもはねへけり《割書:ヤア》
いゝが
〽︎めでたし〳〵

▲戯子(しばゐ)名所(めいしよ)圖會(づゑ)と申本
 出板仕候これは三しばゐの 
 やくしやをめいしよに見
 たておかしくつゞりなし候
 ゑ入よみ本に御座候御
  求め御覧可被下候

【左下の蔵書印】
羽州神山
増戸藏書




【蔵書印二個】
松井
文庫

【石橋湛山に関連ヵ?】

腹京師食物合戦

安永八

腹京師(はらのみやこ)食物(しょくもつ)合戦(かっせん)

【上部】
こゝにへびつかじやご
へもんという男
ありけるうまれ
つきがうせひ【強勢】
にしていたつて
大しよくにて
かくの上さ
ま〳〵のあく
しき【悪食】をいた
しけり
人々とゞめ
けれとももちいず
あるときせけん
いゝふらす くひ
合せのどくといふ
ほどのものをとりあつめてくひける
いわゆるそのどくは
〽ふぐしるにもち〽うなぎにすし
〽すいくわに和中さん さつまいもに
はんこん丹 〽ほうれん草に
おはくろ かつをに秋かいとうの
葉をしきて くらふときはたち
まち がいをなすとなり 右の
くい合せの どくはあまねく
世ぞくにいひふるす所なれば
心つく【心づく=心がける】べきことなり

【下部】
ともだちども
じやごへもんが
あくじきを
とゞめる
それはほんのそとへに
いふどくのく【心ヵ】見
ひらにこむ
ようだ
をへもたる
よつて
やを
まもの【このあたり意味不明】

はいつた
どくは
ごされま
せぬぞよ
や心が

これはおそろしい
いつれやまこふへおた
みせものよりきびしいほんの
その□くだ【このあたり意味不明】

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/3 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/14】


【石柱】
 左りみぞおちむら道

【右頁・上部】
ほうれんそうは
じやごへもんがふくちうへは
いり とほうにくれていたりしが さて
しもあるべきことならねは そことも
しらぬ はらのなかを あしにまかせて
さまよいしが おもはすも はらのうちの
あるじ 米つぶに行あいて ひめのやくそく有る

さても蛇五右エ門がはらのうちのぬし
米つぶは よはひかたむきけれとも 子のなきこと
をかなしみ みそおちむらの【動悸あるいは当帰ヵ】大明神へ
くわんをかけ かんする日のかへりがけに ほう
れん草に ゆ【別本にて】きあひ だん〳〵のはなしをきく
わがやへともないかへり むすめにこ□【「と」ヵ】はなしにける
〽ほおむとゝひす■□いわれ子とてもなし
ころはひのしろにさへあぢしで
いのりしかいありてそこもと

【右頁・下部】
それはあり
かたうござりますよそに
たのむかたかた なきみなら

こふひん【不憫】
をかけ
てくだ
さり
ませ

ゆきあふこと まことに神の
おんひきあわせなれは
そ□し われらところへ
おこしあれは さゝ

【左頁・下部】
ふだいのさむらい
むかさく
むさへもん

はてさて
うつくしき
女しやうかな
とんと
きくのじやう
ふたひかほと
【舞台顔ヵ】
きている

われらははらが
へりま大こん
はやくうちへかへつて
いのき【胃の気ヵ】をやしない
たひ
やつこあわ平


【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/4 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/15】


【右頁・上部】
きたのかた
しるのみ御せん
よろこひ玉【別本にて】ふ

【右頁・下部】
まことにかほどめてたいことは
ござりませぬ このうへは よき
むこきみを おたつねなされて
しかるへやうぞんじ
    たてまつりまする

【左頁・右下部】
ほうれんそうひめの
めのとかうもの大こん左衛門

【左頁・左下部】
さて もみの赤米つぶの太夫
みぞおちむら とうき大明じん
の神とくによつて ひとりのむすめをもうけ
北のかた しるのみ御ぜん もろともに よろこひのまゆを
ひらき【ホッとした顔をする】ふだいのさむらいどもをあつめ ひめに
百ひろのまきもの すじほねのしやうぞく
とうをゆづり ひめもす【「ひねもす」の洒落または訛ヵ】酒ゑんにおよび
けり
〽いかに かうもの 大こん左衛門をば ひめかめのとに
申つくるあいだ しよじこゝろをつけませい

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/5 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/16】

【右頁・上部】
よこはらの
さと
天すう
たかをの
もみぢ

【左頁・右上部】
きりもちももみちけんふつに
いで【別本「で」。この本は「で」の上から太く「く」と書く】ほうれんそうを見
そめる
〽アノむすめは うつくしいか こちらに
いるやつは われらきつい
きんもつ〳〵

松魚(かつを)はつ之助

【右頁・右下部】
ほうれんそうひめ
つれ〳〵のあまり こ
はらのさと てんすう
たかをのもみちけん
ふつとして いでられけるが
かつをのうつくしさ
みとれこれよりわり
なきなかとなりに
けり
〽これなふぐあのとのこは
お名はなにというそ
とうぞ きゝまして
たもれ とんと
市川門之介と
いふやくしやだの【「やくしやニ その」と読めないでしょうか】
まゝ■にんき

【右頁・左下部】
〽おひめさまはた【或は「さ」ヵ】り□へすはやいと
わたくしも一目みるよりこいの
たね あんなとのこかはらにも
□□□

【左頁・右下部】
かつをも じやごへもんがはらへ は入り
とせん【徒然≒退屈】のあまり おに【「な」の誤記か】じくもみち
ゆうらんにいでけるが ほうれんそう
ひめをこれも見そめ あいぼれ【相惚れ=相思相愛】の
なかとぞなりにける

とんだうつく【注】な
ものもあるもの
はらのうちだとて
もばか
なら

まつ
ばや


め印
もそこ
のけときた

〽おらが
だんなが
もはや
見こん

そう


【注 「うつくし(美し)の「うつく」が語幹のように意識されて独立したもの。美しいさま。】

【左頁左端】
きりもち角弥

けらい
 からし門

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/6 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/17】



【右頁上部】
きりもちも ひ
そかにしのびきた
りけるが はや
かつをにせんを
こされ むねん
がる

〽けちいま〳〵しい【非常にいまいましい】
もう口切を
させた

かつを ほうれんそうと ふかきなかと
なり こしもとおふぐが手引にて
しのびきたり 人しれす ちきり
をこめ みづもらさぬなかとぞ
なりにける

ほうれんそうねやにて
かつをゝまちわびる

【右頁下部】
かつを ほうれん
そうがねやへ し
のびきたる

〽こわたのさとに
むまはあれと【馬はあれど】
きみをお
もへは

かちはたし【徒裸足】
われをまつゝ
のかたゝみ
ざん【占いの一つ。】とんと【?】
われらがみは
う【「か」ヵ】ちはら【?】
けん大しきだ【?】

【左頁上部屏風】
ほうれんそうのちゝ
みのまへは らうねんと
いゝいねのやま
ひにてもつての外
すくれす【すぐれず】
いろ〳〵と

りやうし【療治】をつくせ
どもしるしなし
あるいし 金子二百
りやうほどせんじ
のまは さつそくに
なをらんとなり





なか〳〵の
びやうき
にて さいかく
できず あんじ
わづらひいる所へ
きりもち きたり
二百両かしけるゆへ

【左頁下部】
きりもちは
かつをにひめ
をねとられ
いろいろとあん
じけるが
しよせん
おや みの
米になん
おかけ ぎ
りつめに
□□はん
と大
金を
用だつ
〽この
金をせんじ
て おも
ちいなさ
るゝと
さつそく
なをります
またしやう文は
この月ずへのへんさい
いたしましやう

みの米なゝめならずよろ
こひける



【右頁上部】
さてもみのまへは きりもちにかりたる
金をせんじのみし よりびやうき
よくなりしかとも ひさ〴〵の
びやうきにていろ 〳〵
もの入ありしゆへ
みぎの金子みな
つかひしまひぬ しかると
ころか きりもちは こゝぞの
ぞむところぞと おもひて
みの米がところへ きたり
金子さいそくし けるに
かへすことならす よつて
金のかわりなりと りふ
ぢんにほうれん草 ひめを
ひきたてゆく

〽なんでも金がで きずはおすましなさるまで
ほうれんそうをば おれがつれていつて
くげあく【公家悪(歌舞伎の役柄)ヵ】ではなひがねやのはなに
            するは

みの米金をかへす
ことならす きり
もちに ちやうちやく
にあいむねんかる

【右頁下部】
ほうれんそうひめ
手ごめにあい
なんぎの
てい

しかるところへ
ひめがめのと
かうのものかけ
つけてきり
もちをなた
める
〽まつ〳〵
それはこた
んきかり
そめなが
ら みの米が
むすめ あと
より吉日
をゑらみ
きつと
ひめを
しん上い
たしま
しやう

【左頁右上部】
きりもちがけらい
すいくわなれはきり
つふす【?】のりものから
つん出たおたふく
そもまあうぬはなに
やつだ

〽みの米がかしん かうの
ものがかたよりも
やくそくのことく
ほうれんそう
ひめをのりものにておくり
しゆへよろこびのりものよりいだせば

【左頁左上部】
こしもとのおふぐゆへ
きもをつぶし 大きに
いかり しよせんぐんぜいをもつておしよせ
一かつせんして うでさき【腕ずく】にてうばひとらんと
      おもひつく

【左頁下部】
こしもとおふぐ
かうのものにたの
まれ ほうれんにな
りかわりきた
り きり
もちに
ぬれる【媚びる】
〽かすなら
ぬわたくし
をおほし
めし さ
りとは
あり
かたう
そんじ
ます
このみは
ひふぐ【干河豚=河豚の干物】
なりとて
も ちつとも
いとひはし
やんせん

ほうれんそうだとおもつていた
にけうけげん【稀有怪訝】なやつがつんでゝ【つん出て】此上に
すゝでもおちるがさいご
はらのみやこの おいとま
ごいだ

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/8 /九州大学所蔵本 右頁 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/19 左頁 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/5】

【左右頁上部】
みの米
かしん
かうのものか
はかりことにて
きりもちをまん
まとたはかり
いまはこゝろやす
しと吉日を

ゑらみ かつを初の助を■【「こ」ヵ】よひむかへ
ほうれんそうひめと こんれいを
とゝのへけるこそ めでたけれ

【右頁下部】
ひめの
めのと
かうの
もの
むこぎみ
かつをの
おとも
して
ざし
きへ

ともなひ申

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/9 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/6】


【右頁上部】
みの米がたてこもるはとむねのしろ
にははんこん丹和ちうさんかうもの
むぎあわひへのたくひ 一きとうぜんの
つわものどもしろの風 門をおし
ひらきどつとおめいて
たゝかいける


【右頁下部】
ゑりどもはかり
でも たかゞさつま
いも 此やりでいも
ざしにして とう
がらしみそお
つけるぞ
おれはきり山
三りやう【注】が
はつかだは
   やい
へんてこめ

【注 桐山三了=江戸室町(東京都中央区日本橋室町)にあった薬商。地黄丸などの薬や、養生糖などの薬菓子で知られた。】

なんちしらずやわれは
これ 上かたにては大つの
しゆく むさしにてはかな
川かわさきのあいた 大森
に名のたかいおとこだぞ
ちかよるともどすか
くだすか ふたつのうち
かさいふねへ
さらいこむ
ぞよ

【左頁上部】
きりもち けし
なす
ものないわせそ
ふみつふし【別本にて】て かつを
のしほからに
しろ〳〵

【左頁下部】
きりもちはこし元ふぐにて
あざむかるゝのみならず
ほうれん草の
かたへ はや
むこ入も
すみたる
よし むねんこつずいにてつし【無念骨髄に徹し】
このうらみむさんせんと【この恨み無散せんと】
くい合せのしよくもつの
わるもの さつまいも すい
くわ うなぎ べつして
ほうれんそうか
きらいのおはくろ
などを
いんそつして
せほねとうけをう
ちこへけん ひさの
なんじよをしのぎ みの
米がたてこもる はとむね
の城のふう門までこそはし
よせける
〽はんこん丹め うぬこのなき
なたでまけたぞよ
おれは これで□□り
うて【?】いもた

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/10 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/7】



【右頁上部】
おゝきついじや
きちや かさねて
からあくじき【空悪食=無暗な悪食】はこむ
      やう〳〵

へびつかじや五右衛門は一たん【一旦=一時】のけつき【血気】に
まかせどくといふ どくくひけれはなほ
かわかつてたまるへきはらのうちにて
いくさはよとほとなくつた□ん【意味不明】
かへは そのはらのいたさはかぎりなし

【左頁上部】
よつてせんかたつきて はりいの
めいじん ちく市といふ ざとう【座頭】
をよび見せけるに つく〳〵
かんがへ これまつたく くひ
あわせのどくふくちう
にてたゝかうなり われ
よくするほうありとて
はりを二三ぼんたて
げどくといへる大きなる
丸やくをあたへける
〽ちくいちどのましない あくじき
をいたせしゆへに 此くるしみなるほど
おゝせのとうり
はらのうちにて
いくさが
あるそうで
ときのこへ【鬨の声=合戦の始に全軍で発する掛声】
矢さけび【矢叫び=矢が命中した時にあげる射手の声】
のおと
手に
とるやうに
きこへ
ます

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/10 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/8】


【右頁右上部】
さるほどに 両ちん此みだれたゝかいけるに 手おひし人
おひたゝし きりもちも大わらはになり たゝかいけれども
じや五へもん ぐわんらい下戸なりけるゆへに はらのうちの
あんないをろくにしらず かつほは 米つぶむぎいね
とうがおしへにて よくしつたり はいのぞうをまわつ
ては 心のぞうへうつていで かたきぢん【腎】のぞうに
ぢんをとれば 火をたかぶらせて 水ぜめになし
けるゆへに きりもちも いまはわづかにうち
なされ かつをとさしちがへて しなんと
おもひすでにちかつき すでに
かうよとおもふところ ざとう
ちくいちか うつはり 切もちが
よろひのあげまきづけより
せんだんのいたまで ぐさと
つきぬき はりのさき白く
いでければ なにかはもつて
たまるべき
そくざに
むなしく
なりに
ける

【右頁左上部】
      よゝ
     むねんなは
    なしほうれん
    草とかつほが
   ふうふになつてすむ
  ものはほんのうそた
 から なんともおも
わぬやつさ

【左頁右上部】
なんと見たり よいきみ〳〵
おのれかつみおのれを
せめるのだは
われらは
あとにて
ほうれん

そうと
ゆるりと
たのしみ
じるし
うまい〳〵

【左頁左上部】
みのまへがふだい
ころよりのかしん
むぎあわひへ
かうのものとう
こゝをせんどゝ【先途と】
たゝかう

【右頁下部】
おはくろつぼにげる
なむさんほう【南無三宝】おらが
おやかたはしてやられた
一ぢんやぶれてざんとう
まつたからず【注】といふ
たとへのことくに
にけま
 しやう

和ちうさん
ふみつけられる
なむさんむ
ねんな
ゆるせ〳〵

【注 『太平記』巻九・「六波羅攻事」に「一陣破て残党全からざれば、六波羅の勢竹田の合戦にも討負け」とあることを引いている。】


【左頁下部】
うぬかくごを
ひか【「ろ」ヵ】げ あんまり
さけのみのむね
のやけるやうに
した
むくいだ
  ぞ

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/12 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/9】

かくて きりもちはほろひけれども いまだ手したの
しよくどくのこりいて せめたゝかうところに
ふしぎや
みかたの
はたの上に
けどく丸
あり
われ
いで
五臓(ぞう)

腑(ふ)を
かけま
わると
見へしが

あらゆるしよくどく
一どにどつとはとむね城
のしたなるかう門谷に
なだれおちてこと〴〵く
かさいのもくすと□て
ければ みの米の一そく
あんどのおもひをなし 天下
たい平 はらつゝみのひゞくを
きいてくらしけるこそ目出たけれ

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053676/viewer/13 /九州大学所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100023745/viewer/10】

【文字無し】

腹内養生主論

寛政十一

《題:腹内養生主論 《割書:一九|  画作三冊|    ■■》》

飲食(いんしい)は身命(しんめう)をつなぐ至宝(しいほう)にして。礼義の本 原(げん)
なり。予年 頃(ごろ)。いかもの喰(ぐひ)を好(この)みて。紅葉(もみち)牡丹(ぼたん)はいふに
およばず。蟒(うはばみ)【蠎】のかばやき。狼(おほかみ)の酒亀煮(すつぽんに)【泥亀煑】。蛇(じや)の鮨(すし)【鮓】に天狗(てんぐ)
のしぎやき。鉄砲玉(てつぽうだま)の座禅豆(ざぜんまめ)。四文銭のはり〳〵。
といふも更(さら)なり。身体(しんたい)鉄石(てつせき)にあらざれは。遂(つい)に
脾胃(ひゐ)を破(やぶ)り。病症(やまひ)をいだし。後悔(こうくはい)先(さき)にたゝずの
業(ごう)さうしを。此(こゝ)に模写(もしや)して。養生(ようじやう)の道をひらく
といふ。于時寛政十一未の春
             十偏舎【十返舎】誌

【右丁上】
慎言語以養其徳節飲食以(つつしんでげんきよをもつてそのとくをやしないいんしいをせつにしてもつて)
養其体(そのたいをやしなふ)といへりとくにはせ川丁
へんに一九といふなまけものあり生とく
のいやしぼうにてとかくなんでも見るもの
をくいたかりはぢもぐはいぶんもかまわず
くいたいがやまひ也
このせつはあ
まりくい
すごして
ひゐはそこ
なひげん
きはお
とろへ
ものにたい
くつしてくさ
ざうしのさくさへ
できずなんぞ
しゆかうをかんがへ
よふとするとつへ
ねいつてしまいにし
むらよりはたび〳〵の
さいそくあんじつかれて
とろ〳〵とまどろみし
うちにふしぎのゆめを
見るまことにゆめは五ぞうの
【左丁上へ】

【右丁右下】
   〽このおとこのくい
   たいやまいはいくら
   いつてもきかぬから
  くすりをのんでも
  じきにまたくう
 からこのうへははら
のうちへいしやを
かかへておくより
 ほかはしかたが
   ないといふもんだ
  さて〳〵こまつた
     おとこだ

【右丁左下】
 〽これはごくろうでござり
 ますこれへおいでくだ
 さりませのどのあいだの
ろじがせもふこさります
いぬのふんをおふみなされ
ますなこのおとこのことで
ござりますからいぬのふん
 でもたべかねはいたし
    ませぬから

【左丁上】
わづらひといふにちがい
なし一人のいしや一九がま
くらもくにてわれはかい原
とくしんといふもの也その
ほうのげびぞうより
はらのうちの五ぞう
こと〴〵くわづらひと
なりわれにりやうぢ
をたのみ
きたれり
これによつて
いまそのほうがくちの
うちへはいるなりこと
わりなしにとび
こまばたちまち
がり〳〵とかみくだ
かれんことをおそれて
ちよつとわたり
をつけてとび
こむ也といふ
うちに一九が
くちのうち
よりゆめが
むかいにいでかの
かいばらを
 どう〳〵して
  口中へとびこむそ
   ふしぎなり

【右丁上】
一九ゆめ心にも
ふし
ぎにおもいわが
目の玉をうしろむき
にひつくりかへして
はらのうちをのぞき
見れば心は一身の主也と
古語にいふごとく
しんのぞうをたい
せうとしてひのぞう
はいのぞうかんのぞう
じんのぞうたいしよく
にあてられいづれも
いろあをさめてろみ
いりばつざへくちを
よびいだしてしんの
ぞういゝわたし
けるはひつ
きゆうその
ほうけび
ぞう
より
はらの
うちの
わづらひ
となる
ことわさにもやまひは
くちよりいるといへば
みなそのほうがとが也
【左丁上へ】

【右丁左下】
〽とかく
 そのもとは
  くちがわるいから
   このくちきつと
    たしなんだが
      よふござる

【左丁上】
このゝちよくつゝし
みてどくなるもの
やたらむせふに
とりこむこと
むよう也と
いゝわたしける
この心(しん)といふは
むねのあいだに
ありてその
おくかたを
魂(こん)といふ也
さればしん
こんとつゞ
きてふうふ也
脾(ひ)の蔵腎のぞう
は五ぞうのうちでも
よつぽどねめつく
見へけるがちかごろ
だん〴〵いたみて
大きにおとろへ
けるみなくちの
しはざなりされば
脾腎(ひじん)の■【後ヵ】をたの
んでゐんしいを
ほしいまゝにせず
       とは この事也

【左丁右下】
〽いさいかしこまり
ましたともちまへの
 くちさきにて
  いゝよふに
   あわしている

【左丁左中】
口がいふ
〽とかくわたくしは
 たべませぬ
 よふにいたし
  ましても
   目でみたり
    はなでかい
     だりいた
       して

【左丁左下】
どふもすゝ
    めて
 なりませぬ
  からめはな
   へもそのだん
    おゝせつけられ
     下さりませ

【右丁上】
人の元気のや
しないとするいん
しよくを
かろくして
すきゞれば
生れつい
たる元
気をやし
ないいのち
なが〳〵てん
ねんをたもつ
なりとゆう
じやうしゆ
ろんにに見へたり
元気はひのぞう
にぞくして則
ひのぞうの
むすこなり
ひのぞうおと
ろへげんき
もうすく
ぶら〳〵と
なまけ
たし
まだわかいげんきゆへさかんな■【るヵ】
はづなるにいつか■【うヵ】よはくなり
ければこのうへげんきがなくならぬ
やうにとあるひけらいの下部(げぶ)を
つれてぶら〴〵でかけてせい気を見  そめる
【左丁上へ】

【右丁下】
〽かはゆらしい
  とのごじや

【左丁上】
精気(せいき)は腎(じん)のぞうのむすめ
にてこれもじんのぞうおとろへ
せいぶんよはくなりけるゆへ
きばらしにとてでかけ
けるがふつとげんきを
見そめてたがいに
おもいやいし
事なれば
そうだん
さつそく
できて
げんきも
よく也
せい
きも
つよ
く也
やまひ
はさつぱり
とわす
れて
しまつた
よふになる

【左丁右下】
じんのぞうのむすめと見へて
  みづだくさんにみづ〳〵と
           している

【左丁中央】
けらい下部(げぶ)
  ともする

【左丁左下】
〽おいらもおうば
   どのゝちゝなり
    ともひねくり
     まはして
      やりてへ
       もんだ

【左丁上】
医書曰臍下(いしよにいはくほそした)
三寸 丹田(たんでん)といふ
腎間(じんかん)の動(どう)
気(き)此(こゝ)に有
是(これ)十二 経(けい)
の根(こん)本也
じんの
ぞうのや
かたはたんでん
といふところ也
元気はせいきと
いゝかはしてより
よな〳〵しのび
てたんでんの
やしきへかよい
けるにせいきも
うれしくち
ぎりけるにたび
かさなりてせいき
つかれ元気も又
よはりはてけれ共
なをもかよいける
にしんのぞうのおく
がたたましいはせいきの
【左丁上へ】

【右丁右中】
〽いやはや
むすめが
みづづかいの
あらい
にはこ
まり
ます

【右丁左下】
このとふり
 ではなんぼじん
 のぞうにほりぬき
  をいたしてもたまりませぬ
   むせうにふるまいみづでも
     いたすと見へます

【左丁上】
おばさまなり
ゆへわざ〳〵
たんでんへ
きたり
たましゐ
へその下
におち
つきて
せいきへ
だん〴〵
いけん
をくわへ
  ける

【左丁左上】
〽元気は
しのび
きたり
よふ
すを
うか
 がふ

【右丁上】
このふたりは
めとはなの
あいだがら
にていたつて
こゝろやすく
ことに目と
はなはいろ〳〵の
ものを見たり
かいだりして
もうねんもふ
ぞうをおこす
わるものなかま也
こんどくちがかぶりの
よふすをきゝ
つね〴〵くちから
さきへでもうま
れたよふにひとりで
しやべりちらす
つらのにくさ
なんでもこのうへ
いじはにむせふ
に見たりかい
だりして
くはして
  やらんと
   そうだん
     する

【右丁右中】
   〽耳目鼻口舌
    といつておなじ
    六こんのなか
    まなるに
    へいぜい口が
    わるくなん
    でもかほ
  ぢうにくち
 があるよふ
いつはいに
 しやべりやぁ
     が■【るヵ】

【右丁左下】
あさね
をして
 めがあ
 かぬと
  いつて
  つばきをつけたり
   おいらがころんだ
   ときもきたねへ
   あいつがつばき
    を又しても
    つきやぁがる
     にはあや
        まる

【左丁上】
くちはわざはひのかど舌は
わざはひのねなりへいぜい
くちがわるいゆへ人ににくまれ
目やはなが見たりかいだりして
むしやうにすゝめるゆへもと
よりいぢきたねへもちまへ
なればついくふきになりてひゐ
をやぶる事もうちわすれ
やたらにとりこむおにの
女ぼうにきじんとやら女
ぼうの舌もとかくわるい
くちにそつていれば
べちやくちやと舌を
うごかしおり〳〵は
したを二まいつかつて
うそをつきそのくせに
人のことはしたをだして
わらひそしりける
ゆへとかくしたなが
なおんなだと
にくまれもの也

【左丁左上】
〽わつちもした
  であぢわつて
   見やせう
    ちつとばかり
      すわせなせへ

【左丁中央】
〽すつぽんには
  ばくろ丁の
   ひしやの
    ことだろ
  そばはまた
 にんぎやう丁の
 みやまがいゝの

【左丁右下】
〽いろけより
  くいけだ
   とかく
    くはずに
    いんではこの
     むねが
     くはぬこゝろ
     のなかにも
     しば〳〵
     くふはや
      たらに
      すきの
       もの

【右丁上】くちはいよ〳〵
ぼうしよく
やまずして
ひのぞう
大になやみ
やせおとろへ
ちからうせて
むしやうにもの
にはらたち
むすこのげん
きがせいき
とのいろごと
をきゝだし
て大きに
いかり
けるひの
ぞうの
女ぼう胃(い)の気は
いろ〳〵わび
ことをして
とりなし
けれ共せう
いんなく
ついにげんき
をかんどうして
おいいだしける
これをひのぞう
【左丁上へ】

【右丁左下】
〽おのれ
 おれが
 もふちつ
 とわか
 ければ
 まつ二つ
 にする
 やつなれ
 ども今は
 おれが
 ひゐのよ
 はくなつ
  たのが
【左丁右下】
 うぬが
 しやはせ
 といふ
  ものだ

【左丁上】
きよして
元気を
うしなふとは
このこと也
脾胃(ひゐ)は
五蔵の本
にして
飲食(いんしい)を
うけて
消化(せうくは)し
その
精液(せいえき)を
蔵符へ
おくるゆへ
養生の
みちは先
ひゐを
とゝのふを
もとゝす
子どもしゆ
つとめたまへ
 がてんか〳〵
  こんな事より
   かくことなし

【左丁左中】
〽げんき
  大よはり
   にていち
   ごんも
     なく
   かんどう
   のみとなり
    いでてゆく
     げんきが
      おちたとは
        このこと也

【右丁上】
脾胃の腑に
しよくもつ
こと〴〵くとゞ
こほりてくだら
ずあるひは
せうくはせず
してくだり
または
ひけつ

ければ
大腸(だいてう)の
十六回(じうろくくわい)も
みちすじ
とゞこをり
ければそのだん
しんのぞうへ
うつたへわたくし
どもひゐのぞう
よりしよくもつ
をうけてこれを
それ〳〵にくだす
をもつてかぎゆう
といたし候にこの
ほどはひゐぶくろ
にとゞこをりいつかう
【左丁上へ】

【右丁左中】
さそ〳〵
 きの
 どく
 せん
 ばん
  な

【左丁上】
くだり申さず
かよふにひけつ
いたし
ては
せう
ばい
ひまに
てなんぎ
つかまつり候
そのうへ
下かたのこう
もんよりは
しりがまいり
めいわくつかま
つり候
膀胱ぼうくはう【振り仮名ヵ】
もおなじねがい
何とぞひゐを
とゝのへ
候やう
おゝせつけられ
下さるべしと
 うつたへける

【左丁左中】
〽ひゐきよして
 こんきよは
 くなりしこ
  とこれも
   ねがいに
    いづる

【右丁上】
ひのぞう
げんきを
うしない
ければしん
のぞうも
せいきを
たもつ
事なり
がたく
どうざい
なりと
てせい
きを
かん
どうし
ければ
げんきは
せんかた
なく
けらいの
げぶを
ともに
つれて
いづく
とも
なくせい
きとみち
ゆきとでかけ
【左丁上へ】

【右丁左下】
〽このさきが
ふんどしの
 むすびめ
めいふつの
 そばきり
   いろ
   でも
   あ
   がり
   ませ
 まだこれ
  から
 四(し)り
  ござり
  ます

【左丁上】
けるがほんかい
どうはひとめ
おほしとよこ
はらよりせす
じへいでだん〴〵
おちゆき
けるがむね
のあたりは
ひろければ
そのところへ
おちつきて
うばがざい
しよちぶさの
かたへと
こころざし
てたどり
  ゆく

【左丁左中】
〽なかほど
  このかいだうはなんじよだ
   いつそあけてもくれても
         ほねばかりだ

【左丁左下】
大よう小よう
 みちの
  おいわけは
   まだかの

【右丁上】
じんのぞうてうあいのむすめ
せいきをうしない大きに
ちからをおとし
わするゝまなく
あんじくらし
やまいと
なり
き水
をへらし
ければ
じんの
ぞうの
弟に
心火(しんくは)と
いふものひ
ごろ水と火
なれば中あしく
よりつきも
せずいたり
けるがこのせつ
じんのぞうおと
ろへたるところへ
つけこみむせふに
火がたかぶり
わがまゝばかり
いつてじんのぞうを
    いじめる
【左丁上へ】

【右丁左中】
〽このはじめの
 はんこ【てヵ】うに
 くちめが
  大ひらのくはの【ゐヵ】
  をくらつて
 いやあがつたが
  大かたそれで
   水がへつたで
    あろふとしよりの
     ぶんざいでほかに
      へりよふはねへはづだ

【右丁下】
〽あごではいと【をヵ】
 おつているぐら
  いの事だ
  とてもきさ
   まにたて
   づくち
   からはねへ
   ごめん
    〳〵

【左丁上】
たましゐは
めいのせいき
いゑでして
ゆきかたしれ
ずときゝ
大きにかな
しみついに
きをとり
のぼして
こゝろみだ
れける
たましゐ
のきちがい
になつたを
よく人がたまし
ゐを見ちがへたなとゞ
いふせりふはこんな
事より出たるなり
はなは折ふしこゝへ
きやわせかねてたまし
ゐに心をかけいたりし
ゆへきのちがいたるを
さいわいさそひだして
わがやへつれかへるこれ
よりたましゐは
はなのさきにぶらついて
いるからどふでむつかしいはらの
             うちだ

【左丁左中】
〽すこしみだれ
  こゝろはなをあり
 がてへきはちがつて
 もよもやほかの
  ところにちがいは
   あるめへ
     ■
      たましゐは
      どふり〳〵
       おいらでさへむせふに
        はな水がこぼれる

【左丁下】
〽これから
 はなが
ところへ
ちよいと
 きなさ
   い
  これ
  かん
  ばん
   に
   いつ
   わり
   なし
   だ

【右丁上】
それより
元気ふうふは
やう〳〵とまづ
みぞおちむら
のどのかたへおちつく
こののどぶへといふ
おとこはところの
とふりものにて
なんでもよく
のみこむおとこにて
このてやいをかく
まいおく
千金方曰(せんきんほうにいはく)胸(けう)
中(ちう)に気(き)集(あつまり)滞(とどこほる)
は病(やまい)の愁(うれい)を
しやうずつ
もとゐへと
いへりこの
ところへ元
気せいきの
あつまると
いふはその
きをふさぐの
はなはだしき也
とかくむねにきを
こらさぬやふにするがよ
         し

【右丁左中】
きづ
 けへしな
  さるな
  こののど
   ぶへがぐつと
    のみこみ
       〳〵

【右丁下】
〽わたしらが
  こゝろのうち
   かみわけて
    下さんせ
     のどぶへ
       さん

【左丁上】
はらのうち
大そうどうと
なり心のぞうも
おくがたのたましゐ
をうしないうてう
てんとなりければ
れいのわるくち
こゝへつけこみいろ〳〵
あくじをすゝめる
くちが曰
〽養生訓に曰
心は人の主君として
天君と云耳
目鼻口形は
五友といつて
天君のつかはしめ也
しかれははらのうち
の臓腑よりわれ〳〵
かみにたつべき事也
このゝちはふくちう
のこらずそれがし
にしはいおほせ
つけられ下さる
べしとくちに
まかしてねがい
     ける

【左丁左中】
〽いかさま
 その
  ほう
 申とふり
ひとひやうぎ
 してみよふ

【左丁左下】
〽近年
補薬(ほやく)が
はやつて
ことのほか
ざうふの
きがつよく
 なり
  まし
   た

【右丁上】
とかく
ものゝ
ひやうぎ
をしりの
くゝりを
よくすると
いふこゝろにて
こうもんへ
みな〳〵
はらの
うち


やい
あつ
まり
ひやう

する
この
とこ
ろを
けつ
だん  しよともいふ
わるくちがいふとふり
いらいはらのうちの
しはいは五友のもの■【にヵ】
まかすべしとそのひやう
ぎにみな〳〵けつだんしるに
あつまりけるにこゝにかんの
【左丁上へ】

【右丁左中】
〽うなぎ
やさるの
きもと
ちがつて
いきたきもだ
きものにへたも
しりもしねへで
ふてへやからだ
【左丁右中へ】

【右丁下】
しんの
 ぞうは
 かきつけ
 をして
 おかねへ
ととふか
 かべと
まちがい
 そふ
  だ
  から

【左丁上】
ぞうにぞくしたる
きもといふものあり
このおとことんだきの
ふときものにてしかも
大きなるきも也こう
もんのくはいのよふすを
にくきくちめが
たくみ也そとに
ありてはらの
うちをしはい
せん
だい
いち
この
きもが
かつてん
せじそれ
をまたとり
あげるしんの
ぞうのふらちを
いましめてくれんと
こうもんのけつだん所へ
きたりしんのぞうを
とつてさしあげくちを
大きにいましめ
 あやまりせう
   もんをかゝせる

【左丁右中】
きもどくながら
   いち〳〵に
    きもざしだぞ

【左丁左中】
ごうてき
 なきもの
  やろうだ

【左丁下】
 くら
 まくゝ
 いつて
御しよ
おこし
 でも
さし
あげれば
  いゝ

【右丁上】
きもだまにあつて
さすがのくちも大
へこみにへこんで
しまいければ
これからまづ
はらのうち
をつくろふが
よいとまづ
大てうの
十六くはい
ひゐぶくろ
から
くだり
ゆく
しよく
もつの道
すじとかく
とゞこをらぬ
よふにと
大よう小よう
の大どいを
ふしんし
けるにこれ
よりして
とゞこをり
なくりやう
べんともにつうじける

【右丁中央】
〽はらのうちの血気といふは
  とかくあたまにちのけのおほい
   てやいにていつす んもあとへはひかず
       げんきの  いゝてやいをけつき
             にさかんなといふは
                  この事也

【左丁右上】
ふしんちう
ちうやばん
をつけて
血気(けつき)

よく
めぐ

ける
ゆへ
いよ
〳〵
おだ
やかに
 なり
  ける

【左丁上左】
〽はらの中にても
十四けい十六くはい
などゝいふはとふり
すじにてこの
めいもんなどゝ
 大てう小てうの
  ぐつとすへの
   丁にてしりから
  一ばんめのまち也

【左丁下】
〽ぼんのふ
 のいぬも
   もは
    や
   ある
 けばぼう
   にあ
   たり
    て
   にげ
  まはる

【右丁上】
ひのぞうにしよく
もついまだとゞこをり
あるゆへなにとぞしばら
くぜつしよくしてはら
をほしたくねがいける
そのとふりいゝわたされ
けれ共とかくまだ
くちがくいたがるゆへ
こゝろがきつと
くちをいましめて
いるそれゆへひのぞう
もだん〴〵
とゝのいける
はらの
うちの
大どいの
ふしんもでき
ちがよくめぐりて
とゞこをらず
ひゐもだん〴〵
とゝのいければ
しんのぞうにも水
たくさんになりけるゆへ
たかぶつてあばれ
あるきし火をけして
しまい又きもだまは
【左丁上へ】

【右丁右中】
〽だん〴〵
 ありがたふ
  こさり
   ます

【右丁左中】
〽こいつも
 あやまり
 けへつてくち
 を むすんで
      いるやつさ

【左丁上】
はなをひし
いでたましい
をうばいかへし
けるそれより
げんきも
せいきも
もとの
ごとくに
たち
かへり
はらの
うち
やふ〳〵
おさまり
やまいは
きつぱり
ねきり
はきり
どこもかも
ごうてきに
たつしやと
  なる丁そ
 めでた
   けれ

【左丁中央】
〽これがほんの
   としよりの
    ひや水だ

【左丁左中】
まことにはなが
 ひしやげました
     フニヤ〳〵〳〵

【右丁上】
一九ははらのうちの
ゆめを見てふしぎに
めがさめると
たちまちはらが
ぐはら〳〵となり
むねがわるくなり
むか〳〵としてげろ
〳〵とこまもの
見せをだしけるに
そのうちより
けふりのことく
なるものたち
のぼりかいばら
とくしんあらわれ
いでゝいふやう
そのほうこれまで
いかものぐいをこのみ
ちゝはゝよりゆづり
うけしはつぷ
しんたいをあやま
たんとする事
ふらちせんばん也
やまいはくちより
いるゆへまたくち
よりはきいださせ
【左丁上へ】

【右丁左下】
のや〳〵
 いしやさま
  をはきだした
  たけのこ
   よりやぶ
   いしやは
【左丁右下】
   どくだと
    見へる

【左丁上】
し事みな
返報のどうり
にして善をなせば
そのみによくむくい
あくをなせはあしく
むくふことわりにて
くちよりおこりて
くちよりはく
とかくわざわひは
くちからおこる也
つゝしむべし
おそるべしくち
さへたしなみ
ているとき
はやまい
もいで
ずわざ
はひもおこらず
やうじやうの
みちはくち
をたしなむに
ありとおしへ
 さとして
   たちさりけるぞ
      ふしぎなれ

【左丁中央】
〽とかく
 おぬしも
  くちがわるいから
   にくまれるそして
    かならずうそ
     をつくめへぞ

【左丁上】
きん〴〵はうへをすく
はずといへ共きん〴〵
とぼしくしてうへにお
よぶもの又おほし
まことにせかいのたから
也そのたからをまた
もとめんとするには
まづからだのもとで
をじやうぶにすべし
いちもんもなきとこ
ろよりかねもふけ
するはからだのたつ
しやなるがもとで也
とかくようじやう
だい一にしてわづら
わぬまにあしこし
たつしやにかせぎさへ
すればきん〴〵は
めのまへゝふつて
わくなり

【左丁中央】
ありがたや
  〳〵

【左丁下】
〽めでたい
 ひより
   だ

【左丁上左】
 うたに
 〽ながいきはたゞはたらくに
  しくはなしながるゝ水の
  くさらぬを見よ
 〽うへを見ずかせぐうちでのこづちより
  よろづのたからわきいづるなり   一九作
                        自画

【裏表紙】

家伝寿命薬

【表紙 題箋】
家伝寿命之薬   全

【整理ラベル】
208
特別【朱印】
642

【右ページ・白紙。右肩に書き込みあり】
天明二壬寅
【右ページ・朱印/瓢型】
花盟

【左ページ】
こゝに竹野
小庵といふいしや
ありさのみ【別本にて判断】が【別本にて】くいと
いふでもなけれども
おびたゝしき出入ば
にてしんのことくに
こふみやう【功名】てがらを
あらわし人に
もちいられ
又らしやの
はをりりんずと
いふところを
ぬき【抜き?】【脱ぎヵ】
くろしたて【黒仕立=黒ずくめの装い。粋な人の装い。】
にて
とふせい
ふうなれば
やまいも
こゝろより
でるものなれば
そのきどりにて
りやうし【療治】するゆへ
なをす事
きついものなり

【挿絵下せりふ】
せんせい
さいしゆく【在宿】
なれば
よいが

【左ページ・朱印/鳥の形ヵ】
【左ページ・朱印/円形に ■■図書館】
【左ページ・朱印/円形に 明治三七・五・三■■】
【左ページ・朱印/四角に 定ヵ】

【右丁】
こゝろやすきもの
おり〳〵はなしに
来りにければ
にげたといふ事は
おくびにもださす
このちうも【先だっても】
みんなの
すてた所を
わしがいちに
ふくで
たちまち
しよくに
   くいつき
ふゆぼう
こう人【冬奉公人 注①】も
はだしと
いふやつとてがらばなし
いづれもいしやしゆが
きどりがなくてはいけませぬ
まづすこしのかぜははいどくさん【敗毒散 注②】
そのうへが正気さん【正気散 注③】
ずつう【頭痛】かするなら
さいこ【柴胡 注④】せんきう【川芎 注⑤】を
かみするせきが
てるならそふはくひ【桑白皮 注⑥】

【左丁】
きやうにん【杏仁 注⑦】
みな四時の
きにあたり
たるもの
なれば
ふかんきん【不換金 注⑧】
いかぬ事は
   なし
こゝの所が
りやうけんもの【料簡物=よくよく考えてみなければならない事柄】
とかくしよもつに
ばかりまかせ
しやうぶな
もので
きつかいは
なけれども
その人に
よりて
かけひきのある事これは
りやうじがすこしおそふ
ござるのにかいからおちぬ
うちにこしのりやうじも
いらぬものわしなどは
おそいぶんはかまい
ませぬとみそ【味噌=自慢】をぶちあげる

【右丁下部】
いりやう
てびき
くさと申
本を
ごろふしろ【御覧じろ=御覧なさい】
けつかうな
 ものじや

【左丁下部】
わし
などは
とんと
つまるは
おかげて
  よいが
 すこし
  くすりが
 なずみ
   ます【離せない意か】

【注① 江戸時代、北陸・信濃地方から農閑期の冬期だけ江戸に奉公に来る人。】
【注② 近世、広く愛用された売薬。】
【注③ 粉薬の名。風邪に効く漢方の薬。解熱、発汗の作用をもつ。】
【注④ シマサイコの根を乾燥したものを慢性の体熱をとる解熱剤とし、漢方医学では呼吸器病などに使用される。】
【注⑤ 鎮痛、鎮静、駆瘀血、強壮作用あり。】
【注⑥ 漢方の薬物の一つ。クワの根皮。消炎・利尿・解熱・鎮咳剤として用いられる。】
【注⑦ アンズの核の中にある胚を乾燥したもの。薬用。】
【注⑧ 風邪薬の名。室町時代から江戸時代にかけて、全国的に知られた。】


【右頁】
小庵
きん
じよ
にて
やくし
さまの
よふに
おもひ
年も
山のごとくに
もちたる
百ばかりのおやぢわしは
もふいきた所が七十ねんか
八十ねんなにとぞ
せがれにばいやくの
ごでんじゆをねがいます
とふぶんはうれずとも
しぢうのかぶにいたさせとふ
そんじますとたのみけれは
いかさまそれは
よいおぼし
めしいろ〳〵
おはなしもふしませう
そのうちて
【左頁】
おほしめしのになされ
しよ【書】に曰
くすりめはもん【「めいもん(明文)ヵ】
せされば
そのやまいいへずとあり
かんそうは
くすりを
よくひく
きやうにんは
かみのものを
下へまわす
につけいはよくめくりて
やまいのいをしる
わさびがいきでも
そうめんにはわるし
いりさけにからしも
ならすいわしのぬたは
とうからし大こんおろし
さんしよのめもちいる
所か御座ります
いてなにぞ
おもしろい
事あらうて
〳〵

【右頁下】
とり〴〵
ひき
ふだを
いたし
ませう

【左頁下】
今日はひやうか【病家】へ
でかゝつて
 おります
ゆるりと
 おまへにも
 わかるよふに
 おはなし
   申
  ませう



【右丁】
○たむしの
  くすり
たむしの
できたるに
みなみと
いふじを
かけば
なをると
いふ事は
たいがいは
人のしる
事なれと
いかなる
ゆゑんが
そのわけを
しりたる
ものなし
もろこしの
ちゑしや
しよかつ
こふめいの
おもひ
つきてもなし日本の
ものではだれであろうと

【左丁】
おもへはかわちのくにのぢうにんくすのきまさしけが
はかり事なりくすのきといふじはきへんに
みなみといふじたむしといふものきより
いでたるものなりきにみなみくすのきゆへ
みなみと
いふじて
いかぬ事
  なし
のちに
みなと
川にて
まきものに
して
むすこに
わたし
いまのよ
までも
きゝつたへ
たるもの
たむしを
なをす
  事
きみやう
    なり

【右丁下部】
しつと
  して
   いや
はゝ
 あか【別本にて】
よい
ものを
やると

いごき
  な
 さんな

【左丁下部】
〽ばんこ■
   たんな
  よ【?】んといちばん
  しま■やしめん
   たのしみた
【この戯れ歌の部分、別本に無し。後の書き込みか。】





【右頁】
○酒のよいを
  さます薬

さけの
よいには
そばの
むめか
よけれ
とも
所に
よりて
なし
又すさ
まじく
よいて
けんくわ
など
する
ものも
あり
二日
よいとて
づつう
などしてあたまあがらず

【左頁】
こまりてもうちなれはまつよし
あそひなぞのさき【別本にて】てはおほきに
こまる事はまきものなとくいにゆき
なんそないか【別本にて】といへはいきなものを
たしか【別本にて】けられこいつはありかたいと
むらぶうにのみかけもつとなんそ
〳〵となにをたしてもこれは
こめんたというよふになり二日も三日も
かへり
そうも
なく
よい
たる
には
壱分
とるか
なんりやう【南鐐 注】
三へんかと
おもふ所へ
三分でござりますといへば
たちまちさめる事
      きみやうなり

【右頁右中】
しらうとも
こができ
ては
こめんだ

【右頁左中】
それではおさへるよ

【注 二朱銀の異称。二枚で一分(いちぶ)、八枚で一両に当たる。】

【右丁】
○むしばのくすり
わかきうち
はのわるいは
きついそんなり
正月のもちは
五月ごろ
ひうち石の
よふな
やつをがり〳〵
いかぬといふは
みなむしはの
わさなり
むしのくわぬ
よふにする
    には
四月八日に
たんざく
ほどに紙を
きり
ちはやふる
卯月八日の
吉日にかゝみ
さげやらせ
せいばいぞ
するとかきて
かほに
はりておけははを
むしにくわるゝ事なし

【右丁下部】
ちつと
みにくゝとも
むしばには
ましじや

【左丁】
○こへのくすり
こへのたゝぬには
むまのしりを
なめるは大めうやく
なれども
ま事とは
おもわぬ
ものも
  あり
しばいの
太夫も
長うたも
こへのよい所を
見れはかくやで
なめると見へたり
しやうのものさへ
なめやうなら
ふうこう
ろゆうも
そつちへゆけと
いふほど
たつ事しんの
    ことし

【左丁下部】
次郎【馬の名前が次郎】
 ぼう
ちつと
まちな

【右頁】
○しやくの薬
こいはおなごの
しやくのたね
とぶでも
しやくはおんなに
おゝしなかにも
つとめの身には
こゝろつかい
おゝくもんひ【紋日】
もの目【「日」の誤記 注①】に
あたり
このせつく【節句】は
文こふさんに
いわふかぬしに
いわふかいんきよ
さんにたの
まふかとこゝろ
まちにして
いれどもひとりも
こすおもひも
よらぬきやく
しん【客人】かくれは
さへ【ふせぐ】ねとも
ひまゆへ
いくたり【幾人】もあつまり
なにやらたみさん【畳算 注②】

【左頁】
はかりおき
そわ〳〵〳〵と
すれはおめへ
たちはおかしな
かほつきだがどふしな
すつたといへはしやくか
おこりんしたと
      いふ
一おいらん五両
一しんぞう弐両
一ほふばい三両
一やりて一分

つねのごとくに
ざわ〳〵して
もちゆれは
うその
よふに
けろ
〳〵と【平然として】
よし

【右頁右下】
みどりや
おや〳〵
ばから
 しい
  よ

【左頁右下】
さよ
きぬ
 さん
はなし
 ねへ

【注① 紋日物日(もんびものび)=江戸時代の遊里における特別の日。「紋日」は「物日」の変化した語とされ本来両者は同義であるが並べていうことが多い。主として官許の遊里で五節句やその他特別の日と定められた日。この日遊女は必ず客をとらねばならず、揚代もこの日は高く、その他祝儀など客も特別の出費を要した。】
【注② 婦女子などが畳で行なう占い。特に遊里で行なわれたもので、待ち人が来る、来ないなど、その他の是非・吉凶を占う。】

〇かんしやくの
   くすり
かんしやくの
りやうじは
やすく
あからぬやう
あそびになど
ゆきてとなり
ざしきは大さへ【非常に陽気に騒ぐこと】にて
てまへのほふは
いくらてを
たゝいても
へんじも
   せず
いま〳〵しい
やつらだ
どうして
くりやうと
きのいら〳〵
してはじめは
のぼせそれより
かんしやくおこる
つよいのは
あたけまわ【別本では「わ」】り【あだけまわり=暴れて動き廻る】
さかづきを
ふみこわし

【左頁】
しやうじを
けやぶりなか
〳〵うち
じうのてに
おへぬには






【右丁】
〇目の薬
女中には
ごふくもの
くしかうがいは
めのどくなり
おとこの
めのわる
きには
あさくさ
などの
人の
おゝき
所へ
まいり
みづちや
  屋
こしを
かけて
いれば
おびたゝしき
女の
中にも
ふじ
いろの
もんちりめんの

【左丁】
□【むヵ】く
三ツほど
とひいろ
ひろうどの
   おび
ひぢりめんの
ほそき□くけ
又はくろ
ちりめんの
つまあかり【褄上り=着物の褄の、裾より上がった部分】
しろむく
ばかり三ツ
四ツきんなし【金梨子地のこと】の
もふる【モール】のおび
もへき
びろうとの
こしおび
いつれもすあしに
うらつけぞうり【注】
いかやうに
むづかしき
人のめにも
きみやうに
 よし

【左丁下部】
どこだか
わからねへ


しけさんかと
  おもつた
    ついそ
     ねへ【終ぞねへ=まったくめずらしい。】


【注 裏付け草履=裏を付けて厚くった草履。わら製、竹の皮製などがある。裏は三枚または五枚重ねが普通。また重ね草履の間に革を入れて、水が浸み込まないようにすることもある。】


【右丁】
小菴
いろ〳〵
みやうやくを
はなしけれども
とかくせけんに
かい【害】のなき
めいほう【名方=薬の名高い調合法】が
ありそふな
ものとたづぬれは
とうらくなやまいに
としはくすり【注①】といふほう【方】もあり
人のせんきをづゝうにやむと
いふによいくすりもあれど
なに
よりは
うれそうな
ものは
しゅ
 みやうの
くすりが
よかろふと
ほうくみは
のかけ【野懸け=野遊び】の
つみくさ
よし原の
【左丁】
さくら
さん芝居【注②】の
みかんのかわ
まんくわんしても
けんひし【注③】にても
あたゝめさけにて
もちゆさしやい
きんもつは
こゝろつか【別本にて判断】いと
大晦日と
おしへければ
いかさま【きっと】これは
よさそふな
くすりと
しやうち
   して
むすこに
きん【別本にて判断】〳〵と
しやうかぶを
こしらへてやる
つもりにて
よろこひ
小菴くふに
おすいものにて
ちそふする

【右丁下部】
おまへも
ち【別本にて判断】と
もち【別本にて判断】いて
ごろふ
  じろ

いかさまな

【左丁中段】
ねむるな

こく〳〵【この語別本には無し】

【注① 年は薬=年をとるに従って思慮分別ができること】
【注② 三芝居=江戸にあった中村座、市村座、森田座の三座】
【注③ 剣菱=摂津国(兵庫県)伊丹から産する上等の酒の銘柄。江戸時代最も賞味され、将軍の御膳酒にもなったもの。】

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053339/viewer/14】

【右丁】
かてんじゆみやうの
くすりと
ひき
ふだを
まわし
けれは
みな
〳〵
もち【別本にて】
いて
みれば
なんによ
ともに
よくあい
きのふさがり
たるなどは一ふくで
こゝろよく
ろ【別本にて】ふしやうのたぐいも
けんきを【別本にて】まし
くすりの目出たいといふは
これかはじめてとひやうばんの
大うれにてぜんたいじやうぶな
しんだいが
したい〳〵に
おふきくなり
かねのおき所【別本にて】にばかり【別本にて】
こまりて栄け【別本にて】り

【右丁下部】
通笑作【▢で囲む】

くすり
  か
 こふ
うれ
 ては

うまい

  もの
  じや

【左丁白紙 資料整理ラベル】
208
特別【小判型朱印】
642

【参照 東京都立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053339/viewer/15】

【裏表紙】

養生一家春

【収蔵用外箱・表紙】
養生一家春

【収蔵用外箱・背表紙】
養生一家春

【背表紙下部 整理ラベルあり。】
【ラベル外枠】
京 大 図 書
【ラベル内側】
冨士川【次のコマのラベルの記載で推測】本

68

【収蔵用外箱・表紙】
養生一家春

【整理ラベル・富士川本/ヨ/68】


養生一家春   再刻   完

【右頁】
百瀬養中先生著

養生一家春
  容安居蔵

【頭部欄外に横書き】
文政庚寅春再刻

【左頁】
幸(さいわい)に有難(ありがた)き
聖代(せいたい)に生(むま)れ仁澤(じんたく)の深(ふかき)に浴(よく)し農(のう)は耘耕(うんかう)に懈怠(けだい)なく商(しやう)は
交易(かうゑき)を平直(へいちよく)にして各々(おの〳〵)其(その)業(げう)を勤(つと)めおの〳〵其(その)天命(てんめい)を
尽(つく)す吾儕(わなみ)醫(い)を業(げう)として耕(たがへ)さずして児(こ)餒(う)へす織(おら)すして
妻(つま)凍(こゞ)えず枕(まくら)を高(たか)ふして臥(ふ)し几(おしまづき)に𠙖(よ)つて眠(ねむ)るいかがして
国恩(こくおん)の渥(あつき)に報(むく)ひ奉(たてまつ)りいかがして天命(てんめい)の厳(をごそか)なるに答(こた)へ奉(たてまつ)
らん哉(や)恐(おそ)れても又(また)おそるべし爰(ここ)におもへらく四民(しみん)各(おの〳〵)其(その)業(げう)
を勤(つと)むるに病(やまひ)無(な)くして壮健(さうけん)ならざれば勤(つと)め行(おこな)ふ事(こと)あた
はず故(かるがゆへ)に古(いにしへ)より醫薬(いやく)の設(もふけ)有(あ)りて小伎(しようき)なりと云(い)へとも
天職(てんしよく)に列(つら)なれりしかれば天下(てんか)の人(ひと)に病(やま)ひ無(なか)らん事(こと)をのみ

【朱印・京都帝国大学図書之印】

【朱印・富士川游寄贈】

【黒印・187256 大正7.3.31】

【右頁】
醫(い)の本意(ほんい)とすべし予(よ)小少(しよう〳〵)より醫(い)を業(げう)として常(つね)に其(その)恐(おそ)る
べきをおそれ只管(ひたすら)古醫聖(こいせい)の規則(きそく)を守(まも)る事(こと)既(すで)に三十又(さんじうゆう)
餘年(よねん)一(ひと)つの成(な)せる功(こと)なし始(はしめ)は栄勢(ゑいせい)の利(り)を遂(お)ひ巧拙(かうせつ)の
名(な)を競(きそ)ひ病(やまひ)を治(ぢ)するの方(はう)を求(もと)め孜々(じゞ)として自(みつから)強(つと)めしに
中比(なかころ)賢者(けんしや)の教策(けうさく)に触(ふ)れ利(り)に依(よ)り名(な)を尚(たうと)ふの己(おのれ)を克し
人(ひと)の病(やまひ)を見(み)て躬自(みづから)病(や)むが如(こと)く気(き)を屏(しりぞ)けて病(やまひ)を胗(しん)するに
微(すこ)しく分(わか)り方(はう)を處(しよ)するに偶々(たま〳〵)中(あた)る事(こと)を覚(おぼ)ゆ十年前(じうねんぜん)
実(じつ)に文化(ぶんくわ) 元年(ぐわんねん) 甲子春(きのへねのはる) 豁然(くはつぜん)として古醫聖(こいせい)の方法(はうはう)深切(しんせつ)
著明(ちよめい)なる底(ところ)を窺(うかが)ひ得(ゑ)て是(こゝ)に於(おい)て病(やまひ)を治(ぢ)する事(こと)の
難(かた)きに非(あら)ずして生(せい)を保(たも)ち天年(てんねん)を全(まつた)ふするの実(じつ)に難(かた)き

【左頁】
事(こと)を辨(べん)じ夫(それ)より五七年来(ごしちねんらい)薬(くすり)を忘(わす)れて薬(くすり)を御(ぎょ)【左に「ツカヒ」と傍記】し病(やまひ)を
忘(わす)れて病(やまひ)を治(ぢ)するの義(ぎ)に通(つ)ふずる事(こと)を得(ゑ)たり此(この)義(ぎ)
筆舌(ひつぜつ)に尽(つく)しがたき所(ところ)有り其(その)旨(むね)を序(じよ)するのみ古醫聖(こいせい)の
方法(はうはう)全(まつた)く生命(せいめい)を全(まつた)ふするの一(いつ)を以(もつ)て貫(つらぬ)く事(こと)を知(し)る生(せい)は
実(まこと)に天地(てんち)の大徳(たいとく)なり誰(たれ)か是(これ)を好(このま)ざらんや誰(たれ)か是(これ)を愛(あい)せ
ざらんやしかるに已(すで)に病(やむ)の病(やまひ)を患(うれ)へて未(いま)た病(やま)ざるの病(やまひ)を治(ぢ)する
事は世人(よのひと)と醫(い)と倶(とも)に是(これ)を忽諸(ゆるかせ)にする事(こと)怪(あや)しむべし故(かるかゆへ)に
三四年来(さうしねんらい)予(よ)通家(つうか)【昔から親しく交わってきた家】の人々(ひと〳〵)へ切(せつ)に生(せい)を養(やしな)ふの方(みち)を語(かた)りすゝ
むるに是を用(もち)ひて行(おこな)ふ人(ひと)旧瘕(きうか)【左に「シヤク」と傍訓】の聚(じゆ)【左に「シコリ」と傍訓】を痊(いや)し宿癥(しゆくちやう)【左に「ツカヘ」と傍訓】の結(けつ)【左に「ムスボリ」と傍訓】を
解(と)き漸(やうや)く生(せい)を養(やしな)ひ得(ゑ)て無病壮健(むびやうさうけん)にして業(げう)を楽(たの)しむ

【右頁】
人(ひと)多(おゝ)し其(その)人々(ひと〳〵)此(こ)の道(みち)をしるしくれよと需(もとむ)るに應(おうず)る事
左(さ)の如(ごと)し
太平(たいへい)の人(ひと)に水飲(すいいん)の病(やま)ひ多(おゝ)し其(その)根本(こんぼん)を尋(たづぬ)るに期(ご)せずして
生(せう)ずるの患(うれ)へにして人々(ひと〳〵)是(これ)を忽諸(ゆるかせ)にし醫(い)も又(また)是(これ)を等閑(なをざり)
にし其(その)原(もと)を探(さぐ)らずして妄(みだり)に薬(くすり)を與(あた)へこも〳〵誤(あやま)り遂(つい)に
一家(いつか)の痼癖(こへき)【左に「ヂヒヤウ」と傍記】と成(な)りて頗(すこぶ)る生気(せいき)を害(がい)し天年(てんねん)を損(そん)する
人(ひと)少(すくな)からず予(よ)治療(ぢりやう)に心(こゝろ)を潜(ひそ)むる事(こと)三十又餘年(さんしうゆうよねん)にして
診(しん)し得(う)る所(ところ)を演(の)ぶ庶幾(ねがはく)は蔑(ないがしろ)に視(み)給はずして返(かへ)す〳〵も
生(せい)を養(やしな)ふの方(はう)を得(え)給え太平(たいへい)の人(ひと)勤(つとめ)に怠(おこた)り易(やす)く楽(らく)に
逸(いつ)【左に「ハヤリ」と傍記】し易(やす)し是(これ)より此(この)患(うれ)へを生(せう)す

【左頁】
勤(つと)めに怠(おこ)たる人(ひと)は身(み)を動(うこか)さずして心気(しんき)を労(らう)し胃(ゐ)の気(き)亢(たかぶ)るが
ゆゑに常(つね)に膏梁(かうりやう)滋味(じみ)【左に「ムマキシヨクモツ」と傍記】を貪(むさぼ)り重滞(ぢうたい)【左に「トゞコヲリ」と傍記】して留飲(りうゐん)【左に「タン」と傍記】を生(せう)ず此人
必(かな)らず忿怒(ふんと)【左に「イカリ」と傍記】の気(き)多(おほ)し心胃(しんゐ)の火(ひ)たかぶる故(ゆゑ)也
楽(らく)に逸(いつ)する人(ひと)は體(たい)を労(らう)せずして腎気(じんき)を動(うご)かし脾(ひ)の気(き)
行(めぐ)らざるゆゑに旨酒(ししゆ)甘醴(かんれい)【左に「ヨキサケ」と傍記】に酖(ふけ)り蓄聚(ちくじゆ)【左に「タクハヘアツマリ」と傍記】して宿水(しゆくすい)と成(な)る
此人(このひと)必(かな)らず情欲(じやうよく)多(おほ)し脾腎(ひじん)の気(き)固(かた)からざるゆゑなり
右/水飲(すいいん)の病(やまひ)諸病(しよひやう)に変化(へんくわ)して尤(もつとも)生気(せいき)を害(かい)し天寿(てんじゆ)を
損(そん)する事(こと)多(おほ)し夫(そ)れ病(やまひ)の生(せう)ずる由(よし)を辨(べん)ぜずして徒(いたづら)に
生命(せいめい)を養(やしな)はんと欲(ほつ)するは譬(たとへ)ば波瀾(はらん)【左に「ミツコヽロ」と傍記】を知(し)らずして舟揖(しうしう)【左に「フネカチ」と傍記】を
操(と)【左に「ツカフ」と傍記】るが如(ごと)し故(かるがゆへ)に今(いま)水飲(すいいん)の病(やまひ)を挙(あ)げて生(せい)を養(やしな)ふの義(ぎ)【左に「ワケ」と傍記】を

【右頁】
喩(さと)す人々(ひと〳〵)此(この)患(うれひ)をまぬかれんと欲(ほつ)せば夙(つと)に起(おき)て調息(てうそく)し
夜(よは)に寐(いね)て調息(てうそく)して《割書:調息(てうそく)の法(ほう)|後(のち)に演(の)ふ》心腎(しんじん)【左に「コヽロ」と傍記】を安定(あんてい)【左に「ヤズン」と傍記】し身體(しんたい)【左に「カラタ」と傍記】を運(うん)
動(どう)して業(げう)をつとめ各々(おの〳〵)強弱(きやうじやく)【左に「ツヨキヨワキ」と傍記】の分(ぶん)を量(はか)りて飲食(いんしい)を節(せつ)に
すべし《割書:諺(ことわざ)に命(めい)は食(しよく)に有(あ)りと実(じつ)に然(しか)り食法(しよくはう)殊(こと)に多(おゝ)しくだ〳〵しき|ゆへ爰(こゝ)に略(りやく)す大抵(たいてい)三時(さんじ)は古今(こゝん)の通礼(つうれい)也/慎(つゝしん)て時(とき)ならざるに食(しよく)する》
《割書:事(こと)なかれ二椀(にわん)三椀(さんわん)にかぎり過(すぐ)すべからず|病(やまひ)は口(くち)より入(い)り禍(わざはい)は口より出(いづ)るといふもむべ也》はやく怒(いかり)に懲(こ)り堪(た)へ忍(しの)ぶ
べし常(つね)に欲(よく)を塞(ふさ)ぎて敬(つゝ)しみ慎(つゝし)むべし《割書:敬(つゝしむ)はつちにしまると云(いふ)|訓(おしへ)なりと深(ふか)き義(ことは)り有べし》
しかる時(とき)は心腎(しんじん)交(こも)〴〵堅固(けんご)にして脾胃(ひゐ)互(たが)ひに運轉(うんてん)【左に「メグリ」と傍記】し
留滞(りうてい)【左に「トヽコフル」と傍記】の飲(いん)なく蓄聚(ちくじゆ)【左に「タクハヘアツマル」と傍記】の水(みづ)なく気血(きけつ)分布(ぶんふ)【左に「ワケシク」と傍記】するがゆゑに陰(いん)
陽(やう)調和(てうくわ)す陰陽(いんやう)調和(てうくわ)【左に「トヽノヒ」と傍記】するがゆへに精神(せいしん)安寧(あんねい)【左に「ヤスラカ」と傍記】也/精神(せいしん)安寧(あんねい)
なるがゆゑに呼吸悠長(こきうゆうてう)【左に「イキナガク」と傍記】なり呼吸悠長(こきうゆうてう)なるがゆゑに天地(てんち)の

【左頁】
生気(せいき)と同(おな)じく長(なが)く我(わが)天年(てんねん)を全(まつた)く保(たも)つべし然(しか)れども
此(この)理(ことわり)は幽玄(ゆうげん)【左に「ヲクフカキ」と傍記】にして会得(ゑとく)【左に「ガテン」と傍記】しがたき底(ところ)あるべし只管(ひたすら)是(これ)を事業(じげう)【左に「ワザ」と傍記】
に勤(つと)め行(おこ)なひて日々(にち〳〵)壮健(さうけん)なる事(こと)を覚(おぼ)えて顕露(けんろ)【左に「メノマヘ」と傍記】に自知(じち)自得(じとく)
すべし《割書:行(おこなひ)は己(おの)がこゝろむなしといふ訓(おしへ)也と少(すこ)しにても私(わたくし)の念慮(ねんりよ)を|まじへず此(この)養生(やうぜう)の道(みち)を勤(つと)め行(おこな)ひ給ふ事(こと)を希(こひ)ねがふのみ》
調息(ちやうそく)は養生(ようぜう)第一(だいいち)の義(き)也/嘗(かつ)て聞(き)く命(いのち)は呼吸(いき)の中(うち)と云(い)ふ訓(おしへこと)也
と生(せい)も亦(また)呼吸(いき)の義(ぎ)なるべし故(かるがゆへ)に呼吸悠長(こきうゆうちやう)【左に「イキナカク」と傍記】なる人(ひは)【「ひと」の誤ヵ】は生命(いのち)
必(かな)らず長(なか)し調息(ちやうそく)と云(い)ふ事(こと)は夙(つと)【左に「アサハヤク」と傍記】に起(おき)て目(め)さまし盥(てあら)ひ
漱(くちそゝ)ぎして東(ひがし)の方(はう)にむかひ《割書:其時(そのとき)と所(ところ)により|方(はう)にかゝはらず》吸(ひ)く息(いき)を悠々(ゆう〳〵)と
いかにも長(なか)く口(くち)へ吸(ひ)き納(い)れ呼(は)く息(いき)を舒々(じよ〳〵)といかにも静(しづか)に
鼻(はな)へ呼(は)き出(いだ)し再次(ふたゝび)吸(ひ)く息(いき)を舒々(じよ〳〵)といかにも静(しづか)に鼻(はな)へ

【右頁】
吸(ひ)き納(い)れて呼(は)く息(いき)を悠々(ゆう〳〵)といかにも長(なが)く口(くち)へ呼(は)き出(いだ)し
此(かく)の如(ごと)くする事(こと)三五十息(さんごじつそく)すべし数多(かすお)ふきほどよししかし
其時(そのとき)と所(ところ)により数(かず)にかゝはるべからず夜(よ)寝(いね)て又(また)必(かな)らず此(かく)の
如(ごと)くすべし唯(ただ)に朝(あさ)と夜(よる)とのみにかぎる事(こと)にあらす時々(じゝ)
刻々(こく〳〵)調息(ちやうそく)すべし纔(わづか)に二三息(にさんそく)しても佳(か)【左に「ヨシ」と傍記】也(なり)就(なかん)_レ 中(づく)酒(さけ)に酔(ゑ)ひ
食(しよく)に飽(あ)き或(あるひ)は思慮(しりよ)【左に「ヲモイ」と傍記】に心労(こゝろつか)れ又(また)は忿怒(ふんど)【左に「イカリ」と傍記】に気(き)滞(とゞこふ)る時(とき)は必(かな)らず
調息(ちやうそく)すべし必(かな)らずしも数(かず)にかゝはらす自然(しぜん)に胸中(けうちう)【左に「ムネノウチ」と傍記】/爽朗(ほがらか)に
臍下(さいか)充実(じうじつ)【左に「ミチミチ」と傍記】する事(こと)を知(し)るべし鵠林禅師(こくりんぜんじ)の常(つね)に臍輪(さいりん)【左に「ヘソ」と傍記】以下(いか)
腰脚(ようきやく)【左に「コシアシ」と傍記】足心(そくしん)【左に「アシノウラ」と傍記】まで気(き)を充(みた)しめよと教(おしへ)給ふ事(こと)実(まこと)に生(せい)を
養(やしな)ふ確実(かくじつ)【左に「キツトシタ」と傍記】の善教(ぜんけう)【左に「ヨキヲシエ」と傍記】なり此(かく)の如(こと)く養生(やうしやう)する人(ひと)は三十日(さんじうにち)又(また)は

【左頁】
五十日(ごじうにち)にして必(かな)らす胸中(けうちう)空洞(くうとう)【左に「ムナシク」と傍記】として物(もの)なく臍下(さいか)瓠然(こぜん)【左に「フツクリ」と傍記】と
して気(き)の充実(じうじつ)する事(こと)を覚(おぼ)へ永(なが)く行(おこな)ふ時(とき)は飲食(いんしよく)の分布(ぶんふ)
滞(とゞこふ)る事(こと)なく經絡(けいらく)【左に「スヂミチ」と傍記】の運行(うんかう)【左に「メグリ」と傍記】/支(さゝ)ふる事(こと)なく心神(しんじん)安寧(やすらか)に
一点(いつてん)の
薬(くすり)を服(ふく)せず一炷(いつちう)の艾(もぐさ)を用(もち)ひずして長(なが)く病(やまひ)無(な)くして天年(てんねん)の
寿(じゆ)を保(たも)つ事/疑(うたが)ひをいれずして決(けつ)して薬(くすり)に泥(なず)み灸(きう)に癖(へき)【左にクセツキ」と傍記】し
て生(せい)を養(やしな)ふの道(みち)を誤(あやま)る事(こと)なかるべし
夫(そ)れ生(せい)を養(やしな)ふの本(もと)は一元(いつけん)陽気(やうき)を養(やしな)ひ得(え)て相続(さうぞく)するの道(みち)
なり病(やまひ)は来(きたつ)て元気(げんき)を害(そこな)ふの賊(ぞく)也/故(かるがゆへ)に病(やまひ)を治(ぢ)する事(こと)は微少(みしやう)【左に「スコシ」と傍記】の
うちにおそれはやく療(りやう)ずべし緩(ゆるかせ)にする時(とき)は進(すゝ)む事はやく
凝(こ)る事(こと)革(すみやか)なり譬(たと)へば不善(ふせん)【左に「ワルキコト」と傍記】を行(おこな)ふ人(ひと)身(み)を亡(ほろ)ぼすが如(ごと)し

【参照 京都大学附属図書館富士川文庫所蔵本 請求記号ヨ/70 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100316911/viewer】

【右頁】
易曰(ゑきにいはく)霜(しも)を履(ふ)み堅氷(けんへう)至(いた)る【霜が降る時期が過ぎれば、堅い氷の張る季節が来る。物事が起こるには、まずその前兆があるというたとえ】と陰(いん)の始(はじめ)て凝(こる)の象(しやう)【左に「スガタ」と傍記】なり病(やまひ)をおそ
るゝ事(こと)微少(ひしやう)のうちに消(け)し堅氷(けんへう)に至(いた)らしむる事(こと)なかれ生(せい)を
養(やしな)ふ事(こと)は確乎(かくこ)【左に「シツカリ」と傍記】として動(うこ)かず長(なが)く勤(つと)め行(おこな)ふべし生(せい)を養(やしな)ふ
道(みち)は譬(たと)へは善(せん)を行(おこな)ふ人/身(み)をつゝしみ徳(とく)を積(つ)むが如し陰陽(いんよう)の理(り)
善悪(ぜんあく)の義(ぎ)と生(せい)を養(やしな)ふの道(みち)病(やまひ)を治(ぢ)するの術理(じゆつり)二(ふた)つならざる
事(こと)を世(よ)の人々(ひと〳〵)と醫(い)を業(ぎやう)とする人々(ひと〳〵)深(ふか)く是(これ)を辨(わきま)へおそれつゝ
しみて一箇(いつこ)小天地(しやうてんち)【左に「ヒトノコト」と傍記】の元陽(げんやう)一気(いちき)を害(そこな)ひ給ふ事(こと)なかれ然(しか)【左に「ソウヨ」と傍記】り
如(かくの)_レ是(ごとし)【左に「ソウシヤ」と傍記】と一縁(いちゑん)ひき出(いだ)しておもひつき給ふ人あらばそでひちて結(むす)
びし水(みづ)の氷(こほ)れるを春(はる)たつけふの風(かぜ)や解(とく)らん陽気(やうき)自(おのつか)ら復(ふく)【左に「カヘル」と傍記】
するの義(ぎ)【左に「コトハリ」と傍記】を古哥(こか)の意(こゝろ)に取(と)りて確(かた)く生(せい)を養(やしな)ふ人は愛(めで)
【「そでひちて~」は、古今和歌集に収録される紀貫之の和歌】

【左頁】
たき天寿(てんじゆ)の域(かぎり)に躋(のぼ)らん事(こと)疑(うたが)ひなし今茲(ことし)文化(ぶんくわ)十二年(しうにねん)
乙亥(きのとのい)の新春(しんしゆん)生養(せいよう)の風(かぜ)に御(ぎよ)して博(ひろ)く四方(しはう)の君子(くんし)に生(せい)を養(やしな)ふ
の術(じゆつ)をすゝむる事(こと)只管(ひたすら)世(よ)の人々(ひと〳〵)病(やまひ)なくして壮健(さうけん)なら
ん事(こと)を庶幾(こひねがふ)のみと云(いふ)こと尓(しか)り
  世(よ)に愛(めで)たき人(ひと)の有(ある)ものにて天稟(てんりん)幸(さいわ)ひに厚(あつ)く飽(あく)まで
  食(しよく)し痛(いた)く飲(のみ)て生(せい)を養(やしな)はざれども偶々(たま〳〵)無病(むびやう)壮健(さうけん)なる人(ひと)
  あり必(かな)らず天稟(てんりん)【左に「ムマレツキ」と傍記】をたのみ暫時(ざんじ)の勢(いきほ)ひに誇(ほこ)り災害(さいがい)【左に「ワザハイ」と傍記】を
  招(まね)き給ふ事(こと)なかれ人々(ひと〳〵)もまた是(これ)を羨(うらや)み給ふ事(こと)なかれ跡(せき)が
  富(とめ)る跡(せき)が壽(いのち)ながきは我(われ)におゐて求(もと)むる所(ところ)にあらず
  毎年(まいとし)冬(ふゆ)十一月(じういちぐわつ)冬至(とうじ)より正月(しやうぐわつ)雨水(うすい)の節(せつ)まで毎朝(まいちやう)酒(さけ)を呑(の)む

【右頁】
  べし分量(ぶんりやう)は其/人々(ひと〳〵)によるべし微酔(びすい)【左に「スコシヱフ」と傍記】を度(ほど)とす夏(なつ)五月(ごぐわつ)夏(げ)
  至(し)より七月/処暑(しよしよ)の節(せつ)まで毎朝(まいちやう)塩湯(しほゆ)を呑(の)むべし凡(をよそ)茶(ちや)
  椀(わん)八九分(はつくぶ)を度(ほど)とす此(この)法(はう)甚(はなは)だ理(ことはり)有(あ)る事にて勤(つと)め行(おこな)ふべし
  手(て)の曲池(きよくち)足(あし)の三里(さんり)《割書:五壮(いつひ)|七壮(なゝひ)》毎日(まいにち)灸(きう)すべし冬(ふゆ)の内(うち)は腰眼(ようかん)【左に「イノメ」と傍記】の穴へ
  時々(とき〳〵)灸(きう)すべし夏(なつ)の内(うち)は天枢(てんすう)【左に「ヘソノワキ」と傍記】の穴へ時々(とき〳〵)灸(きう)すべし
  養生(やうじやう)の道(みち)をかける書(しよ)和漢(わかん)その数(かず)多(おゝ)し七八(しちはち)は醫家(いか)より出(いで)て
  其(その)三四(さんし)は黄老家(くわうらうか)の説(せつ)なり事(わざ)に泥(なづ)み術(じゆつ)に拘(かかは)りて誤(あやま)り説(とく)事(こと)
  少(すくな)からす心得(こゝろえ)て是(これ)を読(よ)み撰(ゑら)みて是(これ)を用(もち)ゆべし夫(それ)仁義(じんぎ)の
  道(みち)礼楽(れいがく)の教(おし)へは大中(だいちう)至正(しせい)にして貫通(くわんつう)せざる事(こと)なければ
  聖賢(せいけん)の書(しよ)は云(い)ふも更(さら)なり道家(どうか)の道(どう)を説(と)き禅門(ぜんもん)の禅(ぜん)を

【左頁】
  話(かた)る其(その)端(はし)を異(こと)にすといへども頗(すこぶ)る其(その)理(り)を明(あきら)かにする事(こと)多(おほ)し
  輓近(ばんきん)【左に「チカコロ」と傍記】の人にしも袁了凡(ゑんりやうはん)か陰騭(いんしつ)を録(ろく)せる徳(とく)を養(やしな)ふの方(はう)【左に「テタテ」と傍記】
  捷径(せうけい)【左に「テバヤク」と傍記】にして鵠林師(こくりんし)の参玄(さんげん)【参玄:仏道を修行すること】を話(かた)る性(せい)を養(やしな)ふの理(り)卓越(たくゑつ)【左に「タチコヘタリ」と傍記】
  なり況(いはん)や赫敬山(かくけいざん)が養気(やうき)を解(と)き貝原翁(かいはらおう)の養生(やうせう)を訓(おし)
  ゆる気(き)を養(やしな)ひ質(しつ)を養(やしな)ふの説(せつ)丁寧(ていねい)にして頗(すこぶ)る采(と)り用(もち)ゆ
  べき事(こと)あり是(これ)等(ら)は世(よ)に多(おほ)く見(み)易(やす)き書(しよ)にしあれは是(これ)を挙(あげ)る
  のみ凡(おふよそ)書(しよ)は道(みち)を載(の)するの器(うつはもの)なれば心得(こゝろえ)て善(よ)く見(み)るときは
  縦(たと)ひ十全(じうぜん)【左に「トウマツタキ」と傍記】の書(しよ)は稀(まれ)なりとも豈(あに)一得(いつとく)の益(ゑき)無(なか)らんや只(ただ)泥(なづ)ま
  ん事(こと)を恐(おそ)れ癖(へき)せん事(こと)を厭(いと)ふのみ故(かるかゆゑ)に心(こゝろ)を正(たゞし)くし意(こゝろばせ)を誠(まこと)にし
  善(よ)く書(しよ)を見(み)る人(ひと)は必(かな)らず道(みち)を得(え)て心(こゝろ)広(ひろ)く体(たい)胖(ゆたか)ならん生(せい)を

【右頁】
  養(やしな)ふの良方(りやうはう)也/心(こころ)正(ただ)しからず意(こゝろばせ)誠(まこと)ならずして書(しよ)に見(み)らるゝ人(ひと)は
  徒(いたつら)に精神(せいじん)を費(ついや)し驕慢(けうまん)の気(き)日(ひゞ)に長(てう)じて身(み)を終(おふ)るまで道(みち)を
  得(う)る事(こと)あたはず遂(つい)に生(せい)を亡(ほろぼ)すの毒(どく)と成(な)る事(こと)譬(たと)へは酒(さけ)は天(てん)の美(び)
  禄(ろく)にして百薬(ひやくやく)の長(てう)とす実(じつ)に生(せい)を養(やしな)ふの佳品(かひん)【左に「ヨキシナ」と傍記】なるに酒(さけ)に呑(のま)るゝ
  人(ひと)は心(こゝろ)を乱(みだ)し腸(はらわた)を腐(くさら)して遂(つい)に性(せい)を伐(き)るの斧(おの)と成(な)るが如(ごと)し
  医(い)を業(げう)として養生(やうじやう)の道(みち)を誤(あやま)り説(とく)事(こと)あるは他(た)なし事(わざ)に泥(なづ)み
  術(じゆつ)に拘(かゝは)りて究竟(きうけう)【左に「ツマルトコロ」と傍記】其(その)道(みち)に明(あき)らかならざるが故(ゆゑ)なり譬(たと)へば碁(ご)を
  囲(かこ)む人(ひと)局【左に「バン」と傍記】に当(あた)【左に「ムカフ」と傍記】る者(もの)は昧(くら)く傍(かたはら)に観(み)る者(もの)は明(あきら)かなる如(ごと)し儻(たま〳〵)其(その)道(みち)
  明(あき)らかに其(その)術(じゆつ)精(くわ)しく碁(ご)の極(きよく)【左に「ゴクイ」と傍記】に詣(いた)れる人(ひと)碁(ご)を囲(かこ)む時(とき)は傍(かたはら)に観(み)る
  人(ひと)幾千万人(いくせんまんにん)力(ちから)を戮(あは)すといへども争(いかで)か是(これ)に敵(てき)せんや医(い)もまた其(その)道(みち)

【左頁】
  明(あき)らかに其(その)術(じゆつ)精(くわ)しく医(い)の極(きよく)【左に「ゴクイ」と傍記】に詣(いた)りて是(これ)を説(とく)人(ひと)あらは誰(たれ)か
  是(これ)に勝(まさ)らんや古今(こゝん)其(その)人(ひと)少(すくな)し特(ひと)り漢(かん)の長沙(てうしや)の大守(たしゆ)南陽(なんやう)の
張仲景(てうちうけい)氏(し)方法(はうはう)を建(たて)て治療(ぢりやう)を論(ろん)じ万世(ばんせい)医(い)の規則(きそく)【左に「ノリ」と傍記】と成(な)
  れる其(その)論中(ろんちう)を尋(たづ)ぬるに一(ひと)つも養生(やうじやう)の辞(ことば)を措(おか)ずして治法(ぢほう)一(いつ)と
  して貫通(くわんつう)せざる事(こと)なく実(しつ)に存(そん)して議(き)せざるの聖経(せいけい)宜(むべ)なり医(い)
  中(ちう)の聖人(せいじん)と称(しやう)する事(こと)医(い)を業(げう)とする人々(ひと〳〵)長沙(てうしや)の聖流(せいりう)を汲(く)み其(その)
  道(みち)を明(あき)らかにし生(せい)を養(やしな)ふの理(り)を辨(わきま)へ給へ病(やまひ)を治(ぢ)するの術(じゆつ)は是(これ)を掌(たなこゝろ)に
  視(み)るが如(こと)くならん歟(か)庶幾(こひねがはく)は医(い)の不養生(ふやうぜう)と云(い)ふ諺(ことわざ)に陥(おちい)る事(こと)なかれ
    信山(しんざん)の無名(むめい)逸医(いつい)東都(とうと)におゐて杏露(けうろ)の春園(しゆんゑん)に
                        しるす

【左頁】

ある人(ひと)の云(いは)く去年(こぞ)の春(はる)杏霞(けうか)の芳園(はうゑん)に遊(あそ)ひ生(せい)を養(やしな)ふの道(みち)を
得(え)しより神(しん)旺(わう)【左に「サカン」と傍記】し気(き)豁(かつ)【左に「ホカラカ」と傍記】なる事(こと)を覚(おぼ)えて旧来(きうらい)の癥(やまひ)【左に「ヂビヤウ」と傍記】を忘(わす)るゝ
事(こと)半(なかば)に過(すき)ぬ愈(いよ)〳〵此(この)道(みち)を守(まも)り長(なが)く此(こ)の術(じゆつ)を修(しゆ)さば必(かな)らす
天寿(てんじゆ)を保(たも)たん事(こと)疑(うたが)ひなし敢(あへ)て問(と)ふ養生(ようぜう)の道(みち)男女(なんによ)其(その)差別(さべつ)あ
りや否(いなや)と嗚呼(あゝ)君(きみ)学(まな)ぶ事(こと)篤(あつ)く思(おも)ふ事(こと)の深(ふかき)にあらずんは争(いかで)か
此(こ)の博愛(はくあい)の問(とひ)に及(およ)ばん哉(や)予(よ)謹(つゝし)んで其(その)概(おふむね)をしるし答(こた)へて云(いは)く
春雨(はるさめ)の別(わけ)てそれとは降(ふ)らねどもうへる草木(くさき)の己(おの)がさま〴〵古歌
生(せい)は万物(ばんぶつ)一体(いつてい)なれども各(おの)〳〵/禀(うく)る所(ところ)の器(うつは)に随(したがつ)て柳(やなぎ)は緑(みど)り花(はな)は
紅(くれな)ひの色々(いろ〳〵)に其(その)養(やしな)ひの道(みち)を異(こと)にするのみ夫(そ)れ人(ひと)は万物(はんぶつ)の霊(れい)に

【右頁】
しあれば其/養(やしな)ひに理(ことは)りある事(こと)嘗(かつ)て演(のぶ)る所(ところ)の如(ごと)しそれが
中(なか)に男女(なんによ)の稟賦(りんふ)【左に「ムマレツキ」と傍記】は固(もと)より天命(てんめい)にして其(その)道(みち)を同(おなじ)くせさる所(ところ)あり
男(をとこ)は純(もつは)ら陽徳(ようとく)を根(もと)とし常(つね)に剛健(かうけん)【左に「スコヤカ」と傍記】にして善(よ)く養(やしな)ふ時(とき)は其(その)気(き)和平(くわへい)
にして遊蕩(ゆうとう)【左に「ウワツカズ」と傍記】せず血脈(けつみやく)【左に「チ」と傍記】おのづから治(をさま)りて耗散(かうさん)【左に「ヘリチラス」と傍記】する事(こと)なく手足(しゆそく)
康健(かうけん)に耳目(しもく)爽朗(さうらう)【左に「サワヤカ」と傍記】なり孟子(もうし)善(よ)く浩然(かうぜん)の気(き)を養(やしな)ふと謂(のたま)ひ
しも是(これ)なり女(をんな)は純(もつぱ)ら陰徳(いんとく)を本(もと)とし常(つね)に柔順(じうじゆん)【左に「ヤワラカ」と傍記】にして善(よ)く
養(やしな)ふ時(とき)は其(その)血(ち)調和(てうくわ)【左に「トヽノヒ」と傍記】して凝結(げうけつ)【左に「ムスホラス」と傍記】せず気分(きぶん)おのづから開(ひ)らきて鬱(うつ)【左に「トヾ」と傍記】
滞(てい)【左に「コウラ」と傍記】する事(こと)なければ種々(くさ〳〵)の病(やまひ)を生(せう)せず長(なが)く天年(てんねん)を全(まつと)ふ
すべし
血(ち)に余(あま)りあるは女(おんな)の質分(しつふん)【左に「ムマレツキ」と傍記】なれば血(ち)常(つね)に閉(とち)易(やす)く気(き)は常(つね)に

【左頁】
塞(ふさ)ぎ易(やす)し故(かるかゆへ)に喜怒(きど)に触(ふ)れて堪(た)へ忍(しの)ぶ事(こと)あたはす情欲(じやうよく)に
泥(なづみ)て推(を)し開(ひら)く事(こと)あたはず呼吸(こきう)【左に「イキ」と傍記】滞(とゞこ)ふり血脈(けつみやく)【左に「チノミチ」と傍記】運(めく)らずして遂(つゐ)に
病(やまひ)を生(せう)し生命(せいめい)【左に「イノチ」と傍記】を短(みじかく)する人(ひと)多(おゝ)し早(はや)く此(こ)の理(ことは)りを辨(わきま)へ養生(ようぜう)
の道(みち)を守(まも)り安(やす)らけく楽(たの)しみ給ふこそ最(もつと)も愛(めで)たかるべし
故(かれ)女(をんな)の生(せい)を養(やしな)ふ方(みち)は血(ち)を調(とゝの)ゆる事(こと)を本(もと)とすべし然(しか)るに心(しん)の
臓(さう)は血(ち)の海(うみ)と云(い)ふ事(こと)の有(あ)れば先(まづ)心気(しんき)を安(やす)らかにおし鎮(しづ)めされば
血(ち)の調(とゝの)はざる理(ことはり)あり能々(よく〳〵)是(これ)を辨(わきま)へ知(し)りて事(わざ)に誘(ひ)かれ物(もの)に犯(をか)
され覚(おぼ)へず喜怒(きど)のために心気(しんき)を乱(みだ)す事(こと)なかるべし心気(しんき)を乱(みだ)る
時(とき)は血(ち)の動(うご)く事(こと)譬(たと)へば心(こゝろ)に怒(いか)りを含(ふく)めば面(おもて)の色(いろ)赤(あかき)が如(こと)し
体用(ていよう)源(みなもと)一(いつ)なれば気(き)と血(ち)との間(あいだ)に糸髪(しはつ)【左に「ケスジ」と傍記】を容(い)るべからすこも〴〵

【右頁】
調和(てうくわ)【左に「トヽノヘ」と傍記】して生(せい)を養(やしな)ふべし其(その)質(しつ)【左に「カタチ」と傍記】に就(つい)て暫(しばら)く先後(せんこう)【左に「アトサキ」と傍記】を序(じよ)【左に「ツイデ」と傍記】し
其(その)方(みち)を異(こと)にするのみ
敬(つゝ)しみは朝夕(あさゆふ)なるゝことの葉(は)のかりそめ草(ぐさ)のうへにこそあれ
《割書:又|》つゝしみを人(ひと)の心(こゝろ)の根(ね)と知(し)ればこと葉(は)の花(はな)もまことにぞ咲(さく)
《割書:二首古歌|》婦(をんな)の長(ながき)舌(した)とは詩(し)【左に「カラノウタ」と傍記】にも戒(いまし)めおかれし事(こと)聞(きこ)へぬ兎(と)にかくに
古賢(こけん)の教(おしえ)は事理(じり)相当(あいあた)りて我(わ)が養生(ようぜう)の道(みち)にもかなへる事(こと)也
深(ふか)く監(かんが)み法(のつと)るべし
性情(せいじやう)【左に「コヽロ」と傍記】より分(わか)れ出(いづ)るなれば言(ことば)は常(つね)に慎(つゝ)しみて多(おほ)く言(ものい)ふ事(こと)
なかれ多(おほ)く言(ものい)ふ時(とき)は気(き)耗(か)れて血(ち)調(とゝの)はず生(せい)を養(やしな)ふの道(みち)に
あらず

【左頁】
血脈(けつみやく)より生(お)ひ出(いつ)るものなれば髪(かみ)は日々(ひゞ)に梳(くしけづ)り乱(みだ)さざれば血(ち)の
運(めぐ)り逆(くるは)ずして心気(しんき)もおのづから直(すなほ)なると知(し)るべし
聖人(せいじん)四(よつ)の教(おしへ)を立(たて)給ふにも婦言(ふけん)【左に「ヲンナノモノイヽ」と傍記】婦容(ふよう)【左に「カタチ」と傍記】を先(さき)とし給へり歩行(あゆむ)こと
緩(ゆる)やかにすべし気(き)おさまりて血(ち)調(とゝの)ふ飲(の)み食(く)ふ事(こと)は過(すご)すべか
らす形軀(かたち)を養(やしな)ふ事(こと)を要(むね)とすべし
見(み)るにひかれ聞(きく)にさそはれて養(やしな)ひの道(みち)を誤(あやま)るべからす花(はな)に鳴(な)く
うぐゐすを聞(きく)水(みづ)に澄(すめ)る月(つき)を詠(なが)むるさへに心得(こゝろえ)有るべし況(いわん)や
目(め)を奪(うば)ふ俳優(わざおき)【俳優:さまざまな芸をして神の心を慰めたり、人を喜ばせたりすること。また、それをする人】/耳(みゝ)を乱(みだ)る糸竹(いとたけ)【糸竹:「糸」は琴、三味線などの弦楽器、「竹」は笛などの管楽器。管弦】の伎(わざ)はこれを見(み)ずこれを聞(き)か
さるにしかじ千早振(ちはやふる)神楽(かぐら)と云(い)へる事(こと)はふさぐ気(き)を開(ひら)き滞(とゞこ)ふ
る気(き)を抜(はら)ひ不祥(さがな)き心(こゝろ)をすぐしめ給ふよし唐(もろこし)虞舜(ぐしゆん)【虞舜:中国、古代の伝説上の天子、舜の別名】と云(い)へる

【右頁】
帝(みかと)五弦(ごげん)の琴(こと)を造(つく)らせ給ひて南風(なんふう)の薫(かほり)兮【注:語勢を強める助辞。一行目から二行目「解く」までは『十八史略』巻一 太古・三皇五帝の「南風の詩」からの引用】わが民(たみ)の慍(いきどを)りを
解(と)くとの玉(たま)へり凡(おほよ)そ礼楽(れいがく)の教(おしへ)は陰陽(いんやう)を和順(わじゆん)し気血(きけつ)を調和(てうくわ)
して民(たみ)の視(み)聴(きく)を易(か)へ邪曲(よこしま)なる心(こゝろ)を退(しりぞ)け正直(すなほなる)に移(うつ)らしむる
道(みち)也と聞(きこ)へぬしかるに悪(にく)むべきは耳(みゝ)を乱(みだ)り目(め)を奪(うば)ふの伎(わざ)
ならめしかれども世(よ)の玩(もてあそび)と成(な)り来(きた)る事(こと)久(ひさ)しく絶(た)へて見(み)聞(きゝ)せ
ざる事(こと)のなりがたければ古(いにしへ)の教(をしへ)を心(こゝろ)に心得(こゝろえ)て須臾(しばらく)も心(こゝろ)を放(はな)【左に「トリニガス」と傍記】つ
べからす
形(かたち)に暇(いとま)あれば心(こゝろ)に思(おも)ひを生(しやう)ずるものなれば織(を)り縫(ぬ)ふ事(こと)はいふも
更(さら)なり朝(あさ)け夕(ゆふ)けのものまでに心(こゝろ)を用(もち)ひて形(かたち)に暇(いとま)なかるべし
聖人(せいじん)四(よつ)の教(おしへ)に婦功(ふこう)婦徳(ふとく)を立(たて)玉へり此(この)ゆへに視(み)る事(こと)聴(きく)く事(こと)に心(こゝろ)

【左頁】
を用(もち)ひ言(い)ふ事(こと)動(うご)く事(こと)に敬(つゝ)しみを加(くわ)へ我(わ)が気(き)の儘(まゝ)にせず己(おの)が心(こゝろ)
に思(おも)ひを止(とゞ)むべからず
嘗(かつ)て聞(き)く女(をんな)とは己(おの)れむなしと云(い)ふ訓(おしへ)也と常(つね)に己(おの)れを虚(むな)しく
して仮(かり)にも世(よ)の善悪(ぜんあく)を云(い)はず人(ひと)の是非(ぜひ)を語(かた)らず物(もの)ごと争(あらそ)ふ
心(こゝろ)なく専(もつは)ら内(うち)を守(まも)るべし女(をんな)の名(な)の上(うへ)にかの字(じ)を冠(かふむ)らしむる
事(こと)其(その)始(はしめ)を知(し)らず其(その)由(よし)を分(わか)たずと云(い)へども世(よ)に賢(かしこ)き人(ひと)の語(かた)られ
しに陽(を)に従(したが)ふと云(い)ふ義(ぎ)【左に「コヽロ」と傍記】也とありしがむべさもあるべき事也
聖人(せいじん)の教(をしへ)にも三(みつ)の従(したか)ひ《割書:家(いゑ)に有(あ)る時(とき)は父母(ふぼ)に従(したが)ひ嫁(か)しては|夫(おつと)に従(したが)ひ老(おい)ては子(こ)に従(したが)ふ》と云(い)ふ事
あれば思(おも)ひあわせて己(おの)れをむなしくするこそ女(をんな)の道(みち)と知(し)るべし
しかも且(かつ)【左に「ソノウヘ」と傍記】幽玄(ゆうげん)の道理(だうり)【左に「コトワリ」と傍記】ある事(こと)ならんなれとも偏(ひとへ)に道理(だうり)に

【右頁】
泥(なづ)むときは却(かへつ)て心得(こゝろえ)たがふ事あるものなれば養生(やうぜう)の道(みち)には
唯(たゞ)血(ち)は気(き)に従(したがつ)て順行(じゆんこう)【左に「メグル」と傍記】する物(もの)とのみ心得(ころえ)て喜怒(きど)情欲(じやうよく)を心(こゝろ)
にとゞめずして我(わ)が気(き)の儘(まゝ)にせさるこそ己(おの)れを虚(むな)しくする也
と思(おも)へば気(き)に滞(とどこ)ふる事(こと)なく塞(ふさ)ぐ事(こと)なくして血(ち)はおのづから調(とゝな)ふ
ものなり日々(ひゞ)に我(わ)が気(き)にまかせぬ事(こと)の折(おり)にふれては心(こゝろ)に思(おも)ひ
をとゞめざる事(こと)譬(たと)へば鏡(かゞみ)の影(かげ)をうつし物(もの)去(さ)れは跡(あと)なき如(ごと)くなる
べし其(その)上(うへ)鏡(かゝみ)は己(おのれ)の美醜(びしう)【左に「ヨシアシ」と傍記】を照(て)らし見(み)る具(ぐ)【左に「ダウグ」と傍記】にして人(ひと)のよしあしを
見(み)る器(うつはもの)にあらざる事(こと)を知(し)りかれこれを深(ふか)く考(かんが)へ見(み)て鏡(かゞみ)は実(じつ)
に婦人(ふしん)生涯(せうがい)の守(まも)りとせば生(せい)を養(やしな)ふ道(みち)の源(みなもと)に逢(あふ)ふべし
  鏡(かゞみ)を常(つね)に曇(くも)らし又(また)は麤忽(そこつ)【左に「ヲロソカ」と傍記】にあつかひし人(ひと)必(かなら)らず思(おもひ)を労(らう)し

【左頁】
  或(あるひ)は心(こゝろ)を狂(くる)はし又(また)は災害(さいかい)【左に「ワサワイ」と傍記】を招(まね)きし事(こと)を伝(つた)へ聞(き)きぬ予(よ)も
  また面(まのあた)り見(み)し事(こと)あり恐(おそら)くは其(その)咎(とがめ)ならん歟(か)別(わけ)て是(これ)を爰(ここ)に
  しるし置(を)くも世(よ)の人々(ひと〳〵)慎(つゝし)んて是(これ)を守(まも)り給ん事(こと)をねがふのみ
女(をんな)に血(ち)の余(あま)り有(あ)るは子(こ)を育(いく)【左に「ソダツ」と傍記】すべき自然(しぜん)の生得(せうとく)【左に「ムマレツキ」と傍記】なれば月々(つき〳〵)の
経行(けいかう)【左に「メグリ」と傍記】最(もつと)も調養(てうよう)【左に「トヽノエ」と傍記】すべき事(こと)也/血(ち)は気(き)を得(ゑ)て運(めぐ)る物(もの)なれば経行(けいかう)【左に「メグリ」と傍記】
の中(うち)は格別(かくべつ)に喜怒(きど)に犯(をか)されす情欲(じやうよく)にひかれず飲食(いんしよく)を節(せつ)にし
坐臥(さぐわ)を慎(つゝし)しみて心気(しんき)を正(たゞ)しく守(まも)る時(とき)は経行(けいかう)順(じゆん)にして血(ち)の瘀(を)【左に「トヾコヲルと傍記】
する事(こと)なく唯(たゞ)病(やま)ひを生(しやう)ぜざるのみにあらす妊娠(にんしん)【左に「ハラメル」と傍記】の時(とき)必らす
堅固(けんご)にして産(さん)の前後(せんご)かならず安寧(あんねい)【左に「ヤスラカ」と傍記】なり
女(をんな)の天命(てんめい)はそも〳〵妊娠(にんしん)【左に「ハラム」と傍記】にある事(こと)也/嗣(よつぎ)を得るの至(いたつ)て重(おも)き事

【右頁】
なればなり胎養(たいよう)の道(みち)は殊更(ことさら)に慎(つゝし)むべし夫(それ)胎内(たいない)の児(こ)は母(はは)の呼(こ)
吸(きう)とともに消息(せうそく)して生成(せいせい)するものなれば胎養(たいよう)の道(みち)は慎(つゝしん)
で心得(こゝろゑ)べき事(こと)なり《割書:胎養(たいよう)の概(おふむね)を後(のち)に附録(ふろく)す|》
先(まづ)心意(しんい)【左に「コヽロ」と傍記】を正(たゞし)くし気血(きけつ)を調和(てうくわ)して胎養(たいよう)の道(みち)に随(したが)ふ時(とき)は妊娠(にんしん)
必(かな)らす堅固(けんご)にして決(けつ)して難産(なんさん)の患(うれひ)なし且(かつ)小児(せうに)未生(みせう)【左に「ムマレザル」と傍記】の先天(せんてん)【左に「サキ」と傍記】
より気質(きしつ)を正直(しやうじき)に稟(うく)るがゆへに已生(きせう)【左に「ムマレテ」と傍記】の後天(こうてん)【左に「ノチ」と傍記】に無病(むひやう)壮健(さうけん)なり
しかのみならず心(こゝろ)に不善(ふせん)【左に「ワルキコヽロ」と傍記】を生(せう)ずる事(こと)なし爰(こゝ)におゐて其(その)理(ことわり)を
推(を)して尋(たづ)ぬるに心(こゝろ)の賢(かしこ)きも愚(おろか)なるも行(おこな)ひの善(よ)きも悪(あし)きも形(かたち)
の美(うつく)しき醜(みにく)きも未生(みせう)先天(せんてん)に稟(う)けはじまる理(ことはり)あれは敬(つゝ)ん
で是(これ)を罔(な)みし給ふ事(こと)なかれ是(これ)を罔(なみ)する事(こと)の已甚(はなはだ)しくは

【左頁】
盲(もう)【左に「メクラ」と傍記】聾(らう)【左に「ツンホ」と傍記】唖(あ)【左に「ヲシ」と傍記】躃(へき)【左に「イザリ」と傍記】頑質(ぐわんしつ)【左に「カタワ」と傍記】まで未生(みせう)一点(いつてん)の天命(てんめい)より稟(うけ)はじまら
ざる事(こと)なし篤(あつ)く慎(つゝ)しみ深(ふか)く恐(おそ)るへき事(こと)也
  胎教(たいけう)胎養(たいよう)の義(ぎ)古今(こゝん)其(その)説(せつ)多(おゝ)し其(その)詳(つまびら)なる事(こと)は儒(じゆ)
  家(か)医家(いか)に問(と)ひ求(もと)むべし今(いま)爰(こゝ)にしるすは予(よ)が識得(しきとく)【左に「コヽロヲホヘ」と傍記】
  せる所にして其(その)概(おふむね)を挙(あぐ)るのみ
胎養(たいよう)の略(りやく)
  夫(そ)れ胎内(たいない)の児(じ)母(はゝ)の呼吸(こきう)【左に「イキ」と傍記】と倶(とも)に呼吸(こきう)するものなれば
  是(これ)を心得(こゝろえ)て常(つね)に調息(てうそく)して《割書:調息(てうそく)の事(こと)前編(せんへん)に書(しよ)せり必(かなら)ずしも|法(はう)にかゝはらず時(じ)々/刻々(こく〳〵)に調息(てうそく)すべし》
  呼吸(こきう)を悠長(ゆうてう)にすべし生命(せいめい)を長(なが)くする方(みち)なり
  心気(しんき)は常(つね)に静(しづか)にすべし形軀(げうく)【左に「カタチ」と傍記】は日(ひゞ)に動(うごか)すへし甚(はなは)だ喜(よろこ)び

【右頁】
  甚(はなは)だ怒(いか)り甚(はなは)だ悲(かな)しみ甚(はなは)た憂(うれ)ふる事(こと)なかれ呼吸(こきう)【左に「イキ」と傍記】滞(とゞこ)ふり
  経絡(けいらく)【左に「スジミチ」と傍記】舒(のび)ずして気血(きけつ)和(くは)せざるゆへ也
  物(もの)に驚(おとろ)くべからずおどろく時(とき)は肝胆(かんたん)の気(き)を損(そん)ずるゆへ也
  さりながら驚(おどろ)く事(こと)は自分(じぶん)の力(ちから)に及(およば)ざる事(こと)あり傍(かたはら)の人(ひと)も又(また)心(こゝろ)
  付(つけ)べき事(こと)也/万一(まんいち)驚(おとろ)く事(こと)あらば速(すみやか)に調息(てうそく)して腹気(ふくき)を調(とゝの)ふ
  べし飲(の)み喰(く)ふ事(こと)に別(わけ)て心(こゝろ)を付(つ)くべし臭(にほひ)の悪(あ)しき物(もの)を
  食(しよく)すれは神気(しんき)【心の働き】を穢(けが)し味(あしはひ)の悪(あ)しき物(もの)を食(しよく)すれば精血(せいけつ)【精力と血】を
  濁(にご)らす甚(はなは)だ苦(にが)く甚(はなは)だ辛(から)く甚(はなはだ)酸(す)く甚(はなは)だ甘(あま)き物(もの)を
  食(しよく)すれは気(き)を耗(へら)し血を散(さん)ず
  耳(みゝ)に淫声(いんせい)を聞(き)く事(こと)なく目(め)に邪色(じやしよく)を見(み)る事(こと)なかるべし

【左頁】
  歩(あゆ)む事(こと)は緩(ゆるや)かに言(ものい)ふ事(こと)は低(ひく)かるべし手足(てあし)を強(しゐ)て伸(のば)す時(とき)は
  筋脈(すじみやく)を断(だん)【左に「キル」と傍記】ずる事(こと)有(あ)り欠伸(けんしん)【左に「アクビ」と傍記】するまでに心(こゝろ)を付(つく)へし仰(あを)ひて
  高(たか)き物(もの)を取(と)るべからず俯(ふ)して深(ふか)き物(もの)を汲(く)むべからず強(しゐ)て重(おも)き
  物(もの)を挙(あぐ)べからず及(およ)んで遠(とふ)き物(もの)を引(ひ)くべからす坐するに倚(かたより)て
  坐(ざ)すべからず坐(ざ)して手(て)を伸(のば)すべからず臥(ふ)すに偏(かた〳〵)に臥(ふ)すべか
  らす臥(ふ)して脚(あし)を伸(のば)すべからす皆(みな)是(これ)胎(たい)を安(やす)んし児(じ)【左に「コ」と傍記】を養(やしな)ふ
  の方(みち)なり慎(つゝし)んで是(これ)を守(まも)るべし
  妊娠中(にんしんちう)病(やま)ひをおぼへば速(すみや)かに医薬(いやく)を加(くわ)ふべし病(やまひ)なきに
  決(けつ)して薬(くすり)を用(もち)ゆべからず灸(きう)すべからす勿論(もちろん)鍼(はり)は禁(きん)すべし
  手(て)の曲池(きよくち)足(あし)の三里(さんり)の穴(けつ)は始(はじめ)より灸(きう)して佳(か)【左に「ヨシ」と傍記】なり気血(きけつ)を運(めぐ)

【右頁】
  らし任(にん)?気(き)【左に「ハラノキ」と傍記】を動(どう)ぜざるがゆへなり五月(いつゝき)に満(みつ)るより章門(しやうもん)の灸(きう)
  時々(じゝ)五壮(いつひ)七壮(なゝひ)灸(きう)すべし寒疝(かんせん)を退(しりぞ)け陽気(ようき)を運(めぐ)らすがゆへなり
  淫房(いんばう)を禁(きん)ずべし五月(いつゝき)頃(ころ)より浴(よく)【左に「ユニイル」と傍記】する事(こと)を禁(きん)じ過酒(くはしゆ)を禁(きん)ず
  べし是(これ)を守(まも)らざれば産後(さんご)に必(かな)らず血暈(けつうん)【左に「メマイ」と傍記】し又(また)は産後(さんご)
  痿癖(いへき)【左に「アシナヘ」と傍記】の患(うれ)ひあり
  産(さん)に臨(のぞ)んで心得(こゝろえ)べき事(こと)あり既(すで)に催(もよほ)しとおぼへば安臥(あんぐわ)【左に「ヤスラカニネ」と傍記】
  して腰(こし)をあたゝむべし火気(くわき)のつよきを厭(いと)ふ愈(いよ〳〵)催生(もよう)しと
  ならば産所(さんじよ)にかゝり体(たい)【左に「カラタ」と傍記】を正(たゞ)しく心(こゝろ)を静(しづ)かにして時々(とき〳〵)其(その)方(みち)
  の薬(くすり)を服(ふく)すべし既(すで)に産(さん)あらば産婆(さんは)【左に「トリアゲバ」と傍記】の挙作(とりあげ)すみて後(のち)
  必(かな)らす早(はや)く坐(ざ)を移(うつ)すべからず一二時(いちにとき)許(ばかり)りやはり其儘(そのまま)に

【左頁】
  体(たい)を正(たゞ)しく心(こゝろ)を鎮(しづ)めて焼塩(やきしほ)かつをぶしにて少(すこ)しばかり
  湯(ゆ)づけ飯(めし)を食(しよく)し能々(よく〳〵)気血(きけつ)の運(めく)りを定(さた)め坐(ざ)を移(うつ)し物(もの)
  ごと慎(つゝし)むべし枕(まくら)を高(たか)くすると低(ひき)くするとは産婦(さんふ)の
  安(やす)んずるに随(したか)ふべし
  産後(さんご)の調護(てうご)【左に「トヽノヘ」と傍記】を専(もつぱ)らとすべし熱飲(ねついん)【左に「アツキユ」と傍記】を禁すべし冷水(れいすい)を
  飲(の)む事(こと)最(もつとも)禁(きん)すべし冷水(れいすい)にて手(て)洗(あら)ふ事(こと)三七日(さんしちにち)も禁(きん)す
  べし其外(そのほか)飲食(いんしよく)に禁(きん)ずる品(しな)多(おゝ)し数多(あまた)なるがゆへに是(これ)を
  略(りやく)す時医(じい)【はやり医】に尋(たづ)ね問(と)ひ飲食(いんしよく)すべし中(なか)にも柿(かき)鰻鱺(うなぎ)を食(しよく)し
  忽(たちまち)異変(いへん)を生(しやう)ぜし人(ひと)多(おゝ)し七十日(しちじうにち)も是(これ)を禁(きん)すべし甚(はなはだ)しき
  毒(どく)にして世(よ)の人(ひと)心得(こゝろえ)ざる事(こと)あるゆへに是(これ)をしるす

【右頁】
  初生(しよせい)の小児(せうに)とりあげて後(のち)風(かぜ)を厭(いと)ひ静(しづか)なる所(ところ)に臥(ふ)さしめ
  世(よ)にまくり【新生児の胎毒を下す薬。乾燥した海人草と甘草を湯に浸した液】と唱(とな)ふる薬(くすり)を時々(より〳〵)あたふべし早(はや)く乳(ち)につける
  事(こと)を厭(いと)ふ凡(おふよ)そ一日(いちにち)一夜(いちや)乳(ち)につけずしてまくりを吞(の)せ穢(ゑ)
  物(ぶつ)を下(くだ)すべし乳(ち)につける事(こと)早(はや)ければ穢物(ゑふつ)残(のこ)り乳(ち)と倶(とも)に
  化(くわ)して胎毒(たいどく)となるが故(ゆへ)なり乳(ち)をつけて後(のち)も七日(なのか)程(ほと)はまく
  りを吞(のま)すべし臍(へそ)の帯(を)おつる跡(あと)へ直(すぐ)に七八壮(なゝひやひ)或(あるひ)は十壮(とひ)も灸(きう)す
  べし熊胆(くまのゐ)或(あるひ)は麝香(じやかう)の類(るい)を付(つく)る人(ひと)あり苦(くる)しからざれとも灸(きう)
  にはしかじ灸(きう)は必(かな)らず灸(きう)すべし○父(ちゝ)教(をし)え母(はゝ)養(やしな)ふて子(こ)を育(いく)する
  事(こと)は最(もつと)も至要(しよう)【左に「ダイシ」と傍記】の理義(りぎ)【左に「コトハリ」と傍記】を存(そん)する事(こと)にして心得(こゝろえ)有(あ)るべきの
  道(みち)なれども爰(こゝ)に雑(まじ)ゆべき事(こと)ならねば聊(いさゝ)か初生(しよせい)の挙作(きよさく)【左に「トリアゲ」と傍記】と臨(りん)

【左頁】
  産(さん)の消息(せうそく)【左に「ヨウジヨウ」と傍記】と産後(さんご)の調護(てうご)【左に「トヽノヘ」と傍記】との三条(さんでう)を併(あわ)せ挙(あげ)て略(ほゞ)其(その)
  心得(こゝろえ)をしるし胎養(たいよう)の後(のち)に附(ふ)するのみ
去年(こぞ)の春(はる)通家(つうか)の人(ひと)の需(もとめ)に応(おう)じてかひもらしぬる一家(いつか)の春(はる)の
台(うてな)に登(のぼ)りし人々(ひと〳〵)熙々(きゝ)として生(せい)を養(やしな)ひ給ふこそ世(よ)に病(やま)ひなく
人(ひと)の寿(いのちなが)からん事(こと)を庶幾(こひねが)ふ私(わたくし)の願(ねが)ひに愜(かな)ひしに今茲(ことし)また常磐(ときは)
なる松(まつ)が枝(え)を連(つら)ねて今(いま)一(ひと)しほの愛(めでた)さを世(よ)に博(ひろ)くせんとある人(ひと)の
問(と)ひ給(たま)へるに答(こた)へしを騫(かけ)ず崩(くず)れすみよし野(の)のさくら木(き)に
寿(いのちなが)くせんと望(のぞ)む人(ひと)にまかせて愚(おろか)なるを忘(わす)れ拙(つたな)きを顧(かへり)みず
梓弓(あつさゆみ)春(はる)たつ日(ひ)霞(かすみ)の園(その)に筆(ふで)をとれば巻(まき)の第(ついで)にあたる二(ふた)ま
きとなれり

【左頁】

先師(せんし)百瀬(もゝせ)養中(ようちう)先生(せんせい)諱(いみな)は正春(しやうしゆん)字(あさな)は雲明(うんめい)杏霞園(きやうかゑん)主(しゆ)
人(じん)と号(がう)す信州(しんしう)松本(まつもと)の人(ひと)なり資性(しせい)豪励(がうまい)【劢】にして博(ひろ)く
群書(ぐんしよ)に渉(わた)り最(もつとも)医療(いりやう)の術(じゆつ)に精(くは)し京師(けいし)何某(なにかし)家(け)の
後見(こうけん)したまひし時(とき)《割書:予(よ)|》遊学(ゆうがく)して其(その)門(もん)に入(いり)東都(とうど)
に下(くだ)りたまひても猶(なを)親(した)しく随従(ずいじう)し諸(しよ)門人(もんじん)の中(うち)
にも殊(こと)に《割書:予(よ)|》が弱劣(しやくれつ)なるを憐(あはれ)み居恒(つね〳〵)諭(さと)し置(おか)れ
たることゞもをおもひ出(いづ)れは胸(むね)にみち心(こゝろ)に溢(あふ)れて
忘(わす)るゝに暇(いとま)なしされば師(し)の恩(おん)は天(てん)なを低(ひく)く海(うみ)
なを浅(あさ)かるべし《割書:予(よ)|》わかゝりし時(とき)は殊(こと)に虚弱(きよじやく)に

【右頁】
して多病(たびやう)なりしが先師(せんし)専(もつは)ら説(とき)示(しめ)したまひし調息(てうそく)
の法(はふ)冬(ふゆ)の酒(さけ)夏(なつ)の塩湯(しほゆ)等(とう)を勤(つと)め行(おこな)ひ無病(むびやう)壮健(さうけん)の
身(み)となり病(やまひ)を胗(しん)し薬(くすり)を売(う)るの業(げう)を勤(つと)め膝(ひざ)を
容(い)るゝの茅屋(ぼうおく)に安住(あんぢう)し粗羹(そかう)淡飲(たんいん)に老少(らうしや)数口(すこう)を
養(やし)ふことを得(ゑ)たり去年(こぞ)の除夕(しよせき)【大晦日】暫時(しはらく)丹竈(たんそう)【仙薬をつくること】の煙(けふり)
をとゞめ夜(よ)も半(なかば)過(すぎ)て丑(うし)みつのころ老少(らうしやう)閨(ねや)を閉(とぢ)
僮僕(どうぼく)厨下(ちうか)に眠(ねふ)れば独(ひとり)灯前(とうぜん)に閑坐(かんざ)しけるに先師(せんし)
忽然(こつぜん)と来(きた)り薬架(やくか)の下(もと)に坐(ざ)し《割書:予(よ)|》を喝(かつ)して曰(いわく)汝(なんぢ)を

Picture

【表紙】
【白四角内】
狂歌四季人物   《割書:一立斎廣重画|    壱
【左下隅に1】

【右丁】
HIROSHIGE (1855)
KYOKA SHIKI JIMBUTSU
7 volumes bound in one
preface
ANSEI 2 (1855)
(R. Keyts?)【文字不鮮明】
【左丁】
人物の文字を外題に呼ふは絵師の著述を紛らはし
けれと画を以て無聲の詩とし詩をもつて有聲の
画とする唐人之戯れはしらされとも画家のためには
ひとつの幸福なり爰を狂類四気人物集と号るは当時
外に類ひも中はしの先生宮齊ぬしの画言に尋ね
ても亦となき黄金のわらしはくや町なる天明調
の棟梁
盡語楼大人のすみかねにてなれるものなりそもこの集は
家作りの夏をむねとする教はいふへくもあらす月雪花を

【右丁】
兼題の人物に配当なさは図とりの面しろき事必せり
さなから見るに目新しく画組のよきは集冊の幸ひ
此上なしとやいはむおのれ春の人物にて気の長かるをいか
に冬の人物とたかへてや老人の気短かく急るゝまゝに只
ひと言をしるして其ことわりを述るになん
               六朶園
   安政ふたとせ
       卯の春
【左丁】
狂歌四季人物諸初篇
   天明老人尽語楼撰
 兼 汲若水 年礼 万歳 吉書始 宝舟売 白酒売
 題 鳥追 太神楽 手鞠娘 凧上ル 鮓売 払扇箱買
  当座 《割書:語安臺有恒主人|馬遊亭喜楽主人》 判
     《割書:信濃者別  絵馬商人》
  《割書:画|工》 立斎廣重先生

【右丁】
汲若水【朱囲み】【以下右側から上下に分かれている歌は上段下段と明示】
【上段】
鶯のはつ音きゝつゝ
 あらたなる月日
  くみこむけさの  六朶園
      若水

わかさりの
 ふりわけ髪や  銭の屋
  うつるらん
   をさなき
    春に汲る若水
【右歌下段】
浦嶋の太郎月とて
 腰みのをしたる
  手桶に汲る若水
       瀧のや清麻呂
【上段】
去年の秋朝かほゆゑに
 手もかけぬつるへに   蝶那言
  汲や千代の若水     澄兼

井にうつる星の影くむ若水は  さの
 清きを祝ふきり火なるらん   子日庵
                  松彦
【下段】
門松の下くゝりつゝ
 くるま井の海老錠  在明亭
  あけてくめる若水    月守
【左丁】
【上段】
一日てかたをつけんと
 袴まてはしよつて  勇々館
  まはる春の門礼    道竹
【右下段】
とし玉の扇をくはる門礼に
   きる裃も末広の形
         いせ松坂
           菊の舎露満
【上段に戻る】
目出たいといへは   スンフ
 礼者もめてたいと   望月楼
  出喰つみの山の
      こたまか

松とれて碁はん
割地に年礼のためをも
   さしてありく春の日
        鶴告亭夜宴

掛与の鬼の宅へも
 年礼に供をつれ行
    桃太郎月
       俵舎
【右下段】
御慶そとあふむ
  かへしの訪ひこたへ
   黒鴨供につれし
        年礼
          鶴のや
            松雉
年礼【朱囲み】


【右丁】
万歳【朱囲み】
               スンフ
万才の素袍の紋もたきめうか【注】 東遊亭
  馬鹿けた顔を見する才蔵     芝人

【注 抱き茗荷=紋所の名】

万歳のひらく扇に
 撫子の笑ひの種も
  けさや蒔くらん
       六朶園

万才の柱算ふる
  つらかまち皺の   緑樹園
   杢目もみえてをかしき
【以下上段中段下段の順】
雲の上にめされて
 千代をほきぬらん
  羽袖ひるかへし舞ふ
          鶴太夫
         無窓園敏住

万歳のかそふる春の
  柱立胴突聲も
   出す才蔵
     草のや
       富芳

三河から八ツ橋
  こえて国〳〵へ
   蜘手にわかれ
    出し万才
     都柳園守安
【左丁】
【右上段】
元日も済んで二日の
 かきそめに箒の   勇々館
  筆も遣ふ大文字   道草
【右下段】
長屋流習ふ子ともは上杉の   馬遊亭
   内職筆をつかふ書そめ    喜楽

豊うけの神代の春はいねあけて
  今日書そめに遣ふわら筆  梼の門

都路の筆のあゆみに
  たるき子へ師は
    あへ川【安倍川餅】を出す書初
       鶴告亭夜宴

する墨の硯のうみに
  ひそみけん龍といふ字の
      子等か書そめ
        文栄子雪麻呂

筆のさやぬく手もみせす高麗劔  仁宿迺
   今日書そめにつゝる唐やう   阿都麿

書初【朱囲み】

【右丁
宝舟売【朱囲み】
初夢の種
 もちあるき    勇々館
  喰ひぬらん     道草
   宝船うる
    はみ〳〵
       親父

一枚は中より
 見出すえひす紙
  にこ〳〵歩行【あるく】 楽々亭
      宝船売       琴樽

宵のうち何万艘も宝ふね
 うれる江戸こそ大湊なれ
          スンフ松経舎
【右歌下段】
大としの灘を      芝口や
 首尾よくのりこして
  声もゆたかな宝舟売
【上段に戻る】
板行になしたるやうな
 商ひのなみのりを
   みるたから船売
      松月亭繁成
【右歌下段】
宝船売し財布も滿汐と
  見るはかりなる銭のうら浪
           菊の門久盛
【左丁】
柄杓より長くたらしてはかり売
 声まて細く呼る白酒
         和風亭
           国吉
【右歌下段】
商人かへつらふ口も        松梅亭
  うすつへら【うすっぺら】硝子徳利 槙住
       はかる白酒
【上段に戻る】
するか町人穴しのふぬけ裏の
  前にひさける不二の白酒
          雖園美鳥

白酒をこめてひさける
 硝子の元も薄手な
     春の商人
       花輪堂
        糸路

おまへのはよい
 白酒と陶をも
  たらしてそ買ふ
   うら店の者   文語楼
             梅実

山川をたこ【たご】に荷ひて
 ひさき来る聲もたかねの
      不二のしろ酒  綾の門               ■【竹に冠】丸
【右歌下段】
芝居の白酒売【以上囲み】を写候は
画組をよくせんため也
兼題にふれ狂哥に     立斎
付さる所はゆるし給へ

白酒売【薄黄色囲み】
柄杓

【右丁】
鳥追【薄黄色囲み】
高輪に海上
 はるかと鳥追の
  唄うたふ声のそく
      武者工窓
        伶月舎
【右下説明】
先会倭人物に女太夫
門付女有て姿似より
たれは此鳥追は古代の
さまを模写するなり
        立斎
【上段】
鶯も雀も
 来なく軒へ来て
  百さへつりに
   ましる鳥追
      板ハナ六源園
           寿々雄【この字コマ4の62行目にも出ていますが「雉」にも「雄」にも見えます】

飛〳〵に潜る
 場末の松かさり   風柳庵
  鳴子の方は行かぬ   舛丸
        鳥追
【下段】
餌さし町鷹匠町も
  おそれすにこゑ    万時庵
    かしましく唄ふ   拍木
          鳥追
【上段】
かゝる世にあふむかへしの目出たさを
  いふ門礼のあとに鳥追  いせ松坂
              芦花楼汝友
【左丁】
太神楽おはくろ獅々を舞ふそはに
   口あいて見る人もありけり  語同堂
                  春道
【下段】
太神楽よひ込
 門の削りかけ乱す
  うつもや風の獅々舞
         秋のや改
           花屋
【上段より少し下がる】
太神楽うはき女房を留守におき  輪湊楼
   ひたひに梭の角はやす曲   停舫

つむし毛とみる
 削りかけ釣る軒に  伶月舎
  舞ふて落せる
    太神楽獅子

七やしき行も
 まはりて太神楽
  初おはくろの
   獅子舞ひそする
        松の門鶴子

太神楽玉まろはすは
  鶯の産れし竹の  都月庵
      籠まりの曲
太神楽【薄黄色囲み】

【右丁】
手鞠娘【薄黄色囲み】
竹の秋少女かつける手鞠にも
   鈴むしいれてかゝる桔梗
           槙のや

つきくらにうき身
  やつしてをとめ子の   花垣
    鞠にしんくのかゝり  真咲
          糸みゆ

少女子か
  しら魚ほとな
   ゆひをもて網に
    かゝれる鞠や
      つくらん  語同堂
             春道

とりやりは暮に
 すましてまり唄の
  かしかりをする春の少女子
             東風のや

かしかりをとりかへはやの
  手まり唄男髷なす
     おみなましりて
        文語楼梅実
【右歌下段】
手まり唄うたふ娘もひいふうみ
   よめも出てつく春の長閑さ
          番多楼姫利
【左丁凧紐の下】
ひゝきぬるうなりにきもを
 けし坊主小人嶋めく   花垣
     鶴の大凧     真咲
【右歌下段】
たにさくをつけて?【梏カ】やる
    鶴の凧鎌倉かし【河岸】に 和朝亭
       あくるうなゐ等    国盛

大空の霞のきぬをつらぬくは  勇々館
  晋の豫譲をしのふ釼凧    道草
【凧紐の上】
門前の
  童も
  経はよます
      して
   坊主いと目の
    凧あくるらん
      水々亭楳星

糸きれてうな
 なからにとひて行  いせ松坂
  凧の其絵も      神風や
    猪の熊【注】の首  青則
【右歌左下】
春風に鶴の絵凧の糸きれて   歌道廼
  小人嶋ほとさわくうなゐ等  晴記

【注 「猪熊入道」の略=江戸時代の小説、演劇、音曲などに登場する豪勇な人物】

   

【右丁】
鮨売【朱囲み】
とり交て
 蓼食ふ虫も   梅屋
  すき〳〵に
   かせてひさく
    門の鮨売

はけ兼る
 日はすもとりも    《割書:鎌倉| 雪の下》
  すし売はなんと    《割書:皆元迺| 寄友》
   せうかのからき世渡り

なつかしき声も
 萼の一夜つけ
  薄むらさきの   雲井園
   海苔すしそ売る

あつ巻の玉子の鮨の
 月の輪に熊笹そへて
   売歩行なり  尚丸
【右二歌下段】
千金と愛ぬる
 春の時の間に
  四箱五箱はや
   売れし鮓
     望止庵
      貞丸
【最下段】
押売は
 せぬと手際の
  握りすし
   つまみ喰する
    人を待らん
      雪の下
       千羽楼
        鶴成
【左丁】
紫の帯しめ払ひ扇箱
 二度の嫁いりさする商人  槙の屋
【右歌下段】
扇箱買はん〳〵と歩行けり
 其台町や二本抜を
       水々亭楳星

【上段二番目】
御新堂仕入扇のはらひ箱  いせ松坂
              神風や
 阿弥陀割なる町〳〵に買ふ  青則

追羽根の中を潜れは少女子の  語安台
  腮をも払ひ扇箱買ひ      有恒
【右二歌下段】
酔しれの
 礼者のおきし
  年玉を背負ふて
    もとる扇箱買ひ
       森風亭
        波都賀
【上段最後】
神風のいせやの
 見世の桐の箱
  振つて見て
   買ふおはらひ扇        
      平山庵
        貞丸
払扇箱買【薄黄色囲み】

【右丁】
   汲若水
十二
今朝春の天の戸ひらや開くらんくむ若水にきし
る車井      宝市亭
ふる年を丸う納めて方円にしたかふ水をくむ筒
井筒       勇々館道草
此年もみな安政にくらさんと卯の一天にくめる
若水       馬遊亭喜楽
先汲は井のすめる物のほりけり神代のまゝの春
の若水  松代  藤少々波樹
明て今朝きも若〳〵と若水は汲始めなり人の心も        番太楼姫則
はつ雀なく声きいて若水をくむはかゝへの鳶の
者なり  仝   風月軒五柳
若水を汲井も今朝は化粧かは初日の紅粉や霜の
おしろい     銭の屋
釣瓶から音もさらりとけさの春あけてそ清くす
める若水 仝   良材庵清樹
花鳥の春若〳〵と汲あける鶯ふくむ玉川の水
    イセ松坂 鼻辺赤人
梅かえの露ふへる井より一釣瓶あけ方のほし
うつる若水    甘信亭古麿
【左丁】
当座絵馬商人
   馬遊亭喜楽主人判
直の出来て商人のうつ     天衆
  柏手のみつのひかりや    道人
        初午の絵馬

初午に二見か浦の絵馬売の
  日の出にひさく伊勢町のかし
         草のや富芳

鳴くきしの鳥居の
  もとに声立て絵馬を   在明亭
     商ふ妻乞稲荷    月守
【右歌下段】
月日星みつの
 燈火うくひすの
  玉の絵馬をも
    ひさく初午
       紀関守
【上段に戻る】
  おなし心を
稲荷ふ神へ納る絵馬売て
   豊な年と祝ふ初午  馬遊亭
              喜楽


【右丁】
当座信濃者別
   語安台有恒主人判
【上段】
えどすれて
 丸くなりてそ
  帰りける
 木賊かりする
  園原の者
     勇々館道草

あかきれのわれも〳〵と
 しなのもの江戸の
  わかれをいたく  於三村
      をしまん   菱持

姥捨の山の端さして
  しなの者帰る背中に
     月のこく餅
        鶴告亭夜宴
【下段】
おはちまてけさは掃除を
  しなの者あしを喰はるゝ
      冷飯草履
         弥生麿

   おなし心を
奉公もわつかしなのへ
  もとり道まめて帰れる
      鳩かやの宿
        語安台有恒
【左丁】
狂歌四季人物二篇
  天明老人内匠撰
兼 初午詣 初灸 彼岸詣 野遊 雛店見物 汐干
題 曲水宴 奉公人出代 紅毛人登城 苗売 桜草売 花見
《割書:当 俵舎大人|坐 勇々館主人》 判
   女蕨売 藪入
《割書:画|工》立斎広重先生

【右丁】
初午詣【朱囲み】

あやまつた
 稲荷さまなり    スンフ
  九郎助を末に    松経舎
   なりてもとる初午

太鼓うつ翁稲荷も
 土巳坊も四つかつちりに
   ひけるはつ午
       勇々館道草


初午に入かはりはる
 午社札かうやくと見る
     瘡守稲荷   在明亭
             月守
【下段】
初午の稲荷詣の
 奉納に壱歩の額は
    ちとすきの森
      蝶那言
         澄兼
【上段左端】
鳴きしの
 妻恋稲荷初午の
  納る額にありか
     しれけり
         和風亭
【下段】
初午にさわく小供の
  鼻からもてうちんさかる
        藤棚の下  俵舎
【左丁】
草いろの手拭      勇々館
  口にくはへつゝ神農艾  道草
       すうるはつ灸
【右歌下段】
線香の無言にまさるうき事と
   おもふ筆子のけふの初灸  槙のや
【上段に戻る】
きさらきの初雷に初やひと  歌種廼
  おさへてすうる臍の両わき  風彦

初灸をすうるはあつい親の恩  風柳庵
  薬にもなり仕置にもなり   舛丸

神農の艾とり出す初灸に
  薬となめる草のもえ売  梼の門

団十郎艾をすゑのおとゝ子【弟御=弟の敬称】の  万町庵
  しはらくむしもおこらさりけり           柏木
初灸【朱囲】

【右丁】
彼岸詣【朱囲み】
六阿弥陀ひかん詣に珠数は耳  望上庵
  達者は鼻にかくる老人    貞丸

六あみた行来も
 遠き老の耳   鎌倉雪の下
  珠数かけ鳩も  千羽楼
   きく彼岸かな   鶴成

六文で廻る
 あみたの彼岸会に    楽々亭
  真田の紐てくゝる巾着  琴樽

念仏の声を枝折にひかんには  松の門
  参るあみたのます西か原   鶴子
【以下上中下段の順】
投出す彼岸詣の
 手のうちを見事
  扇て受ける浪人
       俳松法師

極楽をしのふか
 岡や蓮葉に
  乗るを願ひの
   六あみた  松梅亭
      道   槙住

亭主をは
 彼岸詣に
  団子ほと
   丸めて内を  松代
    妻は出けり  風月軒
            五柳
【左丁】
枯草の山を作りて
 いつよりも日のいり  六朶園
  はやく思ふむさしの
【右歌下段】
鍋よりも夫の
 散やかふるらん
  すみれに一夜    空満や
   あかすつくま野
【上段に戻る】
              イセ松坂
角力草さかる野中にまとゐして  神風や
  友とくみあふ吸筒のさけ酒   青則

ふら〳〵と瓢さけさす
 下女か帯胴中くゝり  松月亭
   野遊のとも     繁成

爪さきのつんむく方へ   雪の下
 野遊ひの酒にはたれも   皆元廼
  へろ〳〵の神       寄友

早わらひのにきりこふしに
  あらそふて中よき友の  語同堂
       むるゝ野遊    春道

野遊【薄黄色囲み】

【右丁】
雛見世【薄黄色囲み】
花のころ見る人むれてやまとなる  草のや
  吉野内裏とならふ雛店       冨芳

綿かふる箱入雛をほしさうな  鶴告亭
  嫁かこゝろの内みせの前   夜宴

倭歌とはうらうへに古今雛  清之舎
  鼻うたましりそゝる見物  千代住

両天の傘もて雛の前店を     馬遊亭
  ひやかしてみる照りふる人形  喜楽


軒下をいく度廻りて御車を
  ひかしてそ買ふ雛の見物   俵舎

あしもとをみて   桜園
 売る雛を口先て   勝波
  ふみ倒しにも
   いける内見世

つかまへてはなさす   勇々館
 客へ目隠しをしたる   道草
  ひひなに手を打て売る
【左丁】
海のなき国かとそ思ふ
  汐干かたみのあるかひに  語真衆
       しなのありける  喜樽
【右歌下段】
落穂をも拾ふ姿の汐干かた    語安台
     雀の化したはまくりやとる  有恒
【上段に戻る】
帆のはらむ
 南ふく日の汐干狩    槙のや
  女嶋うと思ふひとむれ

汐のさす蜂の
 すさきをあさりつゝ
  子安貝とる妹か
       こしほそ  陽月舎

汐干する沖にて得たる
 石かれひ人にしらさて   森風亭
      家つとにせり   波都賀

ほうろくももてる汐干の舟の内
   かはらけ色の妹かこしまき  五葉園
                   松蔭

汐干【朱囲み】



【右丁】
【曲水宴】
曲水にうく盃も水や空  花垣
 雲の上なるいやよひの宴  真咲

高きよりひくきへ流す盃に
  五位も六位もましる曲水
          勇々館道草

橘も藤原もまたありはらや
  みなもと清き曲水の宴  筑波嶺
                村咲

浮みたる歌かく     文栄子
 筆か下戸ひとりなめては  雪麻呂
     流す桃の盃
【以下上中下段の順】
うへ〳〵のお慰みとて
  盃は川下〳〵へ  文語楼
    廻るお流れ    梅実

酒肴哥もよみつゝ
  曲水に一日流す
    桃のさかつき
      睦月軒浦船

方円に随う
 みずの長〳〵と
  長歌もよむ
   桃の盃
   朝鶴舎
     真抱
【左丁】
【上段四首】
雛しまふをりに
 わかれのなき顔を  陽月舎
  紙に包みて下る水仕女

東井の清く出代る
 一つるへさかれはあかる サノ
       水仕奉公   子日庵
                松彦
富士額作る目見への
 山出しも出代る下女の  和朝亭
    あとのぬけ穴    国盛

出代りに紙一ひらの
 證文もすみつきの
  よくきまるはした女
         宝市亭
【下段二首】
出代りは木綿布子に絹小袖   伶月舎
 てさはりちかふはしたお仲井

化粧をもするおしろいの別れ霜
 けふ出代りの水仕女の顔
           鶴告亭
             夜宴
出代り【朱囲み】

【右丁】
紅毛人登城【朱囲み】

縄はりに鶴の
 舞ひにし大城へ
  毛衣を着て登る
        蘭人
     勇々館道草

登城する紅毛人は
 献上もはえた侭なる  銭のや
       人参の髭

登城する紅毛人の下馬先は  和松亭
 わたりの徒も多くみえけり  羽衣
【右歌下段】
直な御代紅毛人の登城にも
 ゆるさぬ文字の横つけの駕籠
           水々亭楳星
【以下上中下段の順】
やとはれて出る
 蘭人の供まても
  銭と木札の
   かふえきはしつ
      語同堂
        春道

海原を渡り来つれて
 登城すに渡り者をは
      つれぬ蘭人
       文栄子
        雪麿

あつまてる神を
 仰きてひの色の
  紅毛羅紗もさこく
       たから田
       無窓園敏住
【左丁】
朝かほのめ出し荷ひて二葉町 蝶那言
   日陰町へと曲る苗うり  澄兼
【右歌下段】
瓜茄子の苗はうりても
 八百やとは少し畑の
       ちかふ商人
        水々亭楳星
【上段に戻る】
まけて売るへちまの     雪の下
 苗は目の先へふらさかる銭  皆元廼
      早とらんとて    寄友

汝か宿を鴈に出て月に迄   上サ大堀
 ひさく朝かほ夕かほの苗   花月楼

売歩行苗の根にみる
 土団子宿は谷中の
  かさもり門前
    花輪堂糸路

朝の間にきれいに   いせ松坂
 はけて塵ひとつ     野良
  残さす帰る箒苗     庫人
        うり
苗売【朱囲み】

【右丁】
桜草売【朱囲み】
よそほひし蝶々髷の少女等に  伶月舎
   跡したはるゝさくら草売

あらき風へたつる戸田の
  さくら草むしろを花に  雲井園
      かこひてそうる

さくら草売るも
 あすかへ残さしと    望上庵
  元直になけるかはらけの  貞丸
            鉢
【右歌下段】
桜草戸田の
 渡りゆ請売に   鶴のや
  江戸をうねりて   松雄【雉カ】
       流れ商ひ
【上段左端】
直をつけし
 風替るなと
  其人をこちへと  スンフ
   招く桜草売    望月楼
【右歌下段】
雨風もしらぬ嵐と
   おもふらんいやねきらるゝ
           桜草うり
             常村田
                緑洞園
【左丁】
【上段】
桜さく上野は江戸の
 大錦三枚橋を人の  六朶園
      つゝき絵

隅田の花なかめたらいて
 夜桜に下ふしするもよき
         枕はし
          伶月舎

夜嵐のさそはぬ
 うちに行んとや誘ひ
  だされし花見連中
      瀧のや清麿

雨風に
  よわき
 桜を
   はしらとも
  力ともする花の
      かけ茶や
          板ハナ
           六源園寿々雄
【下段】
樽の酒かろくなるまて花を見て
   しりはいよ〳〵おもくなりけり
           板ハナ
             末広庵老泉

味酒の三輪の山路の
 桜より上戸そひとり  都柳園
     杉をたつぬる   守安
花見【朱囲み】

【右丁】
   初午
十二
初午の馬に狐をのせしこと其いひわけも九郎助
稲荷    板ハナ   梢栗園保彦
稲荷山賑はふ今日の初午に淋しくなりし杉のも
とつ葉         更科庵月芳
初午は植馬いなりの内陣へ高上りして拝むもろ
人           和風亭
油あけをあくる白狐のほこらにて鈴の尾をふる
初午祭り        松月亭繁成
たおやめかはれ着も目たつ稲荷山絵馬に対する
額裏の老        六朶園
初午に参る王子の穴稲荷のそかせたまへ悪事災
難     上サ大堀  花月楼
午祭り瘡守稲荷夜宮から仕こむ像もきうの出来
物           語安台有恒
初午に王子もとりもよし原とふちも瀬となる飛
鳥山こし        清之舎千代住
午の日の王子もとりは天窓にも狐をのせて帰る
家七座         瀧のや清麿
詣来る人もとゝまるうま参りとう〳〵〳〵と
ひゝく太鼓に      槙の屋
【左丁】
当座女蕨売  俵舎大人判

おもき籠抱へて売れる
 賤の女の手もむらさきに  宝餘亭
     なりし早わらひ   魚海

折て売る元手
 いらすの早わらひは   杉の門
  握りこふしの女商人   笹好

根枝ひもせさる蕨のはかり売 和朝亭
 髪もむすはて売ありく妹       玉盛

縁遠き四十女か世わたりに  勇々館
 ひさく蕨もたうに立けり   道草

すきはひ【すぎわい=生業」】に親をたすけて片腕の  在明亭
   わらひを里にひさく賤の女             月守
【下段】   
  おなし心を
筑波嶺のふもとの
  わらひ折取て
   夫婦かせきの
       女商人
          俵舎

【右丁】
当座 藪入 勇々館道草主人判

藪入にあかつき告るには鳥の
 声かなしさに夜具の羽たゝき  銭のや

御主人へ長く勤るやうにとて  鶴告亭
 蕎麦を喰はせて帰す宿下り  夜宴

藪入か財布にあまる
 小つかいも残りをしけに  楽々亭
        帰る夕くれ   琴樽

藪入にもらふ二百のつるへ銭   弥生庵
  水をもくめる凧を買ひけり

やふ入は近処へ一寸顔出させ
  窓の月をは手土産にしつ
           夜宴
【下段】
  おなし心を
我家へと主人の虎の
  威をかりて千里一飛ひ
       いそく藪入
       勇々館
          道草
【左丁】
狂歌四季人物三篇
  天明老人尽語楼撰
兼 鰹売 蚊屋売 願人釈迦 団扇売 田植
  蛍狩
題 心太売 納太刀売 水游 水馬 金魚売
  花火見
《割書:当 出久廼坊画安主人|坐 楽々亭琴樽主人》  判
  鬼灯売 女枝豆売

《割書:画|工》立齊廣重先生

【右丁】
鰹売【朱囲み】
初鰹銀皮作り商人も  宝市亭
 これて一分と見する額皿

鎌倉の海にてつるの
 そのあしもこかねの札の
     つく初かつを
        板ハナ 六源園

腹にあはぬ直を
 つけられて青筋を
  額に見する鰹商人
      スンフ 松経舎

一位まさるやはつの
 えほし魚めせとすゝむる
    直はたかつかさ
      上サ大ホリ 花月楼

鉢巻をしてそ商ふかつを売   和朝亭
 おろすかたみを見するはた脱  国盛
【下段】
鰹うりおのれか
 したる鉢巻を買人に  都柳園
    させぬ請合の魚   守安
【左丁】
ひとり寝の蚊やも商ふ加賀やしき 和風亭
 千代の松葉のいろを見せつゝ
【下段】
本所は蚊の名物と蚊や売も
  蚊のなくやうに声を立つ
         スンフ 望月楼
【上段に戻る】
四つ手網はるか如くや
 海士か家にひろけて  語安台
  みつの浜かやそ買ふ   有恒

近江蚊や売り行    梼の門
 声も長橋やよひとめられて
     中はきれけり

蚊の影て身をも
 たつらん近江かや
  かつきて売るや
   棒ふり商人
    いせ松坂
      桑の舎露満

鶴の脛長浜出来と
 売る蚊やにうなしの
  いろを見する紅へり
      水々亭 楳星
蚊屋売【朱囲み】

【右丁】
願人釈迦【朱囲み】
【上段右から】
天と地へゆひさす   勇々館
 仏持歩行和尚も     道草
  衣あけさけそする

願人はあらめのやうな衣きて
 持しお釈迦も鉋物細工
        花垣真咲

はたか身へ
 破れ衣をかけ
      歩行
  橋本町を
     出山の釈迦
       雪の下千羽楼鶴成

誕生の釈迦もて
 ありく願人の
  財布も銭に  文栄子
   さくる横腹  雪麿
【下段右から】
天窓から甘茶に釈迦の誕生言
 おのれは酒をあふる願人
          伶月舎

天地にもたつた
 ひとつのけさ衣  前路楼
  かけてまはれる  麹住
      願人の釈迦

天と地へゆひさす
 釈迦は願人の
  家根と畳と  無窓園
   くふてん建立    敏住
【左丁】
【上段右から】
深草もならもやほそと
 出る風も秋に似顔の   語真衆
     絵うちわやうる  喜樽

秋風のたゝぬうちにと
 直を少しおとしてひさく  梼の門
     桐の柄うちわ

商人もおとろく秋の
 くるま町風におとせる 松月亭
     桐の柄団扇   繁成

かたけ来て
 深草団扇
    ひさくなり
 うつら衣を
   着たる商人
     毛衣人髭面
【下段右から】
直段にも上り下りのあるならん  緑樹園
  都の町をせる団扇売

二本棟にさして商ふ   天明老人
  団扇売これもやしきの
        内職細工

団扇売【朱囲み】

【右丁】
田植【朱囲み】

御田植る乳守のあそひ   文尚堂
 着た笠のうらにもふたつ  尚丸
       枕ありけり

鴨川の水
 せきいるゝ小田にみな  板ハナ
  はきは短かくみゆる   末広庵
          早乙女  老家

住よしの小田に    鶴告亭
 乳守は泥水の      夜宴
  にこりへ落す松葉かんさし

うつふきに稲も伏せよと
 みをいれて賤やとゝみて  板ハナ
       小田植るなり  六源園

豊作を願ふ田植に揃ひたる
 百万石の加賀の菅笠
       清々舎千代住

下戸上戸ならんて植る若苗も   馬遊亭
  餅と酒とに末はなるらん  喜楽
【下段】
水車かけし
 山田にゆたんなく
  すれとうゝるに
   あとしさり
       しつ
      鶴のや
        松雄
【左丁】
【上段】
袖につゝみ光る蛍の玉つしま
 姫のむかしをしのふ少女子
             槙のや
蛍持ころひし身には
 けかなくて破りし籠に
     はれる膏薬
        語同堂春道

団扇もて追へは
 蛍も宇治川の   鶴告亭
  扇の芝に金砂子まく  夜宴

卯の花の雪見る宇治の
 川の辺にひをとらんとて  蝶な言
       出る蛍かり   澄兼

文をよむ心の
 そこも深草の
  くされ儒者まて
      蛍狩せり
       遊蝶定歌雅
【下段】
素裸にて蛍とらへし
 童のその嬉しさは
    手の内にあり
        スンフ
         東遊亭
           芝人
蛍狩【薄黄色囲み】

【右丁】
心太売【朱囲み】
【上段】
腹わたをたつつめたさは  勇々館
 かんはんに水ひく猿を   道草
     出すところてん

日光のはしもて   筑波嶺
 うける曲つきを   村咲
  うら見か瀧と見る
      ところてん

売歩行ところてんかの  雪の下
 御膝もとすね一本に   千羽楼
     二本とる銭    鶴成

心太うる人よせの
 水仕かけその世わたりも
  からくりにして
    花輪堂糸路
【下段】
あら磯の草もて作るところてん  上サ前クホ
   売れて涼しくよするなみせん 鏡月亭
                  池水
拍子木に似しところてんたえかたき
   あつき時をそたかえすに来る
             スンフ望月楼
【左丁】
【上段】
直うれて元の鞘へは
 中々に納まらぬとて 望上庵
    売る納太刀   貞丸

前不動納める太刀も
 昼中のひを背おふてそ
      売れる商人
       五葉園
          松陰
いかはかり
 おもくや
  あらん片
     なかし
  人のねかひを
   納め太刀
      うり
    語空窓
      喜樽
【下段】
天か下みな泰平ときりつけて  達磨卿
  しのきをけつりうる納太刀  芦丸

石尊の山へさゝくる相州の  雲波楼
  いと正宗の納太刀うり   船住

いさみ船にて直をつける納太刀  鴇鶴亭
  なまくらなけていかぬ商人   美鳥

納太刀【朱囲み】

【右丁】
水遊【朱囲み】

しかつても尻から
 ぬけて水およき
  へとも思はぬ  勇々館
   河童神官     道草
       そ

水中に岡を
 つき地のびぜん橋
  すり体およき   宝市亭
     なせる子供等

河童天窓の子は
 よその子を引こんて   桜園
  度〳〵しりをくふ水およき 綾波

親の異見きかておよきに
 はひる子は渡す水馬の   暁月新
      耳に風かも    浦舟

水およきしたる
 子供のしりか出て
  河童か岡へあかりたる哉
        和松亭羽衣
【右歌下段】
宇治川のほとりの
 子等は茶柱の立つ
   やうに立およき
         せり
      鶴告亭
        夜宴
【左丁】
夕月の浮ふ川瀬を乗る馬は  いセ花息
 みなもと清き弓流しけり    浅景

夕立のきのふにかへてまし水の  杉の門
 瀬をわけて乗る馬のけいこは   笹好

夏のよに残るかひるの水稽古  鶴のや
 月毛の駒のはしる波の上    松雄
【以下上段下段の順】
竹沢の小屋の
 前なる水の上を
  こまも自由に
   乗り廻しけり
     宝満亭実生

水馬から
 ふみはつしては
  己のみあわを
   吹てそ乗る
    とち栗毛
      楽々亭
        琴樽

川水にうつれる
 雲にいるとみん
  乗りこむ駒は
   雲雀毛にして
     水々亭楳星

逆波をたつる
 水馬に口とりの
  くりから龍もきほふ
         瀬もの
       文栄子雪麻呂
水馬【朱囲み】
神官

【右丁】
金魚売【薄黄色囲み】
          板ハナ
金魚持魚商人は分銅の  ■湊楼
 なりなす桶をになふ天秤  停舫

琉球の種の金魚や黒尾をは  花輪堂
 腹のふくれし人の買ふらん  糸路

鏡なす水にはなちて山鳥の
 尾なか金魚をひさく商人
         在明亭月守

昼も蚊のさすか場末の金魚やは
 孑孑とりしむくいなるかも 雪の下
               千羽楼鶴成
【以下上段中段下段の順】
江戸の水度〳〵
 かへて本町の
  鰤立の金魚をそ
       うる
        和風亭

硝子に金魚を
 いれてをさな子を
  たましすかして見する
          商人
      板ハナ
        末広庵老泉

琉金も和金も
 うれる金魚やの  語同堂
  縁日にいつる   春道
   さつま蝋そく
【左丁】
【上段五首】
磨かねと花火の    雪の下
 玉のかゝやきて石瓦まて 皆元廼
      光る川きし   寄友

■【「故」ヵ】をひく仕かけ花火の
 道火縄あくるも茶やの
     からくりにして
           杉の門
            笹好
川ひらきやみは
 てらせと星下り    教和楼
  石につまつきまろふ
        花火見

入相をさかりに
 出て花火見の   松代
  寝にかへるのは  ■かし
    暁のかね    波樹

花火見の客のさし図に  イセ松坂
 ほとのよい玉を仕こみて  神風や
        出す舟宿   青則
【下段二首】
鶯の古巣の竹の筒花火   都柳庵
  とひつゝ玉の声はありけり 守安

両国のけしきは夏のよと川や
 傘仕かけの花火をそみる
         三輪園
           甘喜
花火見【水色囲み】


     初鰹
十二
鎌倉の海の初荷のえほし魚買ふは得意の大天衆
なり        常村の 緑 洞 園
土佐さつまふしともなれる魚ゆゑに五分もひか
さる直の鰹売        恵能喜園秀世
鎌くらのむかしをしのふ初かつを其直をとへは
天衆かちなり        天霞道人
初かつを売人はうしろふりむかす買人はいつれ
もむかふみすなり  雪の下 皆元廼寄友
三枚におろしてひさくはつ鰹かこをとはせてい
そく商人      さの  子日庵松彦
かり衣ときゝおちしてや逃にけん元ほし魚うる
けちな商人         毛唐人髭面
はつ鰹呼声もよく通り町日本橋より買出した声
              遊月舎岩住
そへてうるおろし大根の雪の下鎌倉よりそ来た
るかつをに         望山庵貞丸
勇ましく己かして来た鉢巻を買人にさせぬ初か
つを売           桜園綾波

当座女枝豆売
   楽々亭琴樽主人撰
【上段】
小夜ふくるまでやちまたを
 枝豆にみを入てうる女たくまし
          望止庵貞丸

商ひの道にあかるく枝豆を
 やみに女の呼ひあるくなり
         勇々館道草

売り歩行女たてらの
 ゆて豆はさやはちけなる
      夜半の呼こゑ
           宝市亭

鶴ならぬ枝豆売は
 背負ふたる子ゆゑの  蝶那言
     やみに夜るの商ひ 澄兼

【下段】
枝豆の籠を小わきにかいこんて  語古窓 
   うれる女も長刀さうり【注】 喜樽 

【注 なぎなた草履=履き古して、長刀形にゆがんだ草履】

  同し心を
売る妹か顔むき出して
  いひ直よりことはにさやは 楽々亭
         あらぬ枝豆  琴樽
【左丁】
狂歌四季人物四篇
  天明老人尽語楼撰
兼 天王祭 冷水売 富士詣 西瓜売 土用配
  琵琶葉湯
題 涼舟 うろ〳〵舟 雨乞 大山参 麦湯見
  世 御祓

 《割書:当 森風亭波都賀主人|坐 鶴の屋松雄主人》  判
  土用鱣客  《割書:女の湯あみ|する処》

 《割書:画|工》  立斎広重先生

【右丁】
天王祭【囲み】
【右下】
天王に雇はれて出る白丁は
   人をみこしに拾ふ
         鳥の目
         語智窓
          酒盛
【上段】
天王の御輿もて来る人の浪   宝帰亭
 よせてはかへす手わたしの場処  実生

笹につけ持行道に人むれて  神風や
 こねかへされぬ団子天王   青則
【以下上段中段下段の順】
小船町鰹ふし店は
 祇園会の祭りを
  たしに呑喰ひそする
      筑波嶺村咲

角樽の酒にみこしを
 すえてけりうしの
  頭の天王祭り
    在明亭
     月守

廻り場所
 多き御こしの
  小船町明に
   仮屋へこきつけに
          けり
      風柳庵
        舛丸
【左丁】
【上段】
かつく荷の前へ井桁をくみ立て 神風や
 つるへ銭とる冷水商人     青則

いきるそと客にいはせて呑す水に 板ハナ
   うかふはそれか咽払なり   六源園

ひやつこい売る世わたりの汝か身は 《割書:いせ松坂| 一満堂》
  水をのませてあたゝまるらん   《割書:巴来|》

風の来る場所
 見すまして家台をは
  くみたてゝてうる
     冷水商人
      暁月軒
        浦船
【下段】
暑き日にうすき
  元手の水売は  春風亭
   腹の中迄つめた 波都賀
       さうなり

両国の橋をわたれは    三輪園
 かつしかのこほり〳〵と  甘喜
       よへる水売
冷水売【囲み】

【右丁】
富士詣【囲み】
【上段】
つむ雪は麹の花のさくや姫   陽月舎
  ひと夜は宝に寝かす同行

下り来ていきた
 こゝちもするかなる
  不二にあるてふ
   しなぬ薬に
     勇々館
        道草

珠数は首へかけ念仏の
 不二もとりむかひもこしに
     ふらしつきし鈴
      語同堂春道

よし原へ泊るもあれはす通りも  東海堂
  するかの不二と浅草の不二   歌重
【下段】
不二詣で戻る日まては女房の
  むねにも雲のはるゝ一日そ
        いせ花岡
         東洲芦朝景

土産に買ふ
  麦わらの蛇も
   老の身も嶺こし兼る  玉川亭
       駒込のふし   正好
【左丁】
西瓜売【囲み】
【上段】
夏の日もはやたけ町に三日月の  語同堂
  たちうり西瓜うれる京橋    春道

偽りはないと西瓜をうちわりて 杉の門
  赤きこゝろを見する商人   笹好

両国の手品の
 席の楽屋口  松梅亭
  たねをちらかす 槙住
   西瓜商人

真心の赤う
 こさると引さけは
  しら〳〵しさの西瓜商人
        鎌くら雪の下
          皆元廼寄友
【下段】
いろ赤き月の輪きりにたち売の
  西瓜も中に水はもしけり
        文栄子雪麿

丸売の西瓜は
 ねをもきいて買ふ   和朝亭
  やすくつけたる客の赤■  国盛

【右丁】
土用配【囲み】
【上段】
土用配り団扇の月を遠くまて  松月亭
  手のとゝきたるさる若の茶や  繁成

たえ兼る暑さ見舞に
 こちらから衣を
  ぬかせてくはる
       新芋
        教和楼

青籠にいれし
 鳴子の瓜持て     東明亭
  土用見舞にいつるわら沓 月守

ぬかつきて土用配りのあいさつや 望止庵
  頭に土のつきし新いも     貞丸

みつ口のさる若町や跡先へ  東風のや
  くはる土用の雁皮紙団扇
【下段】
背をあふるほとにそ
 あつき丑の日に土用くはりの鱣   和風亭
           もて来つ
【左丁】
【上段】
うりつける琵琶葉湯の一ふくも 雪の下
  合点のゆかぬ今のふるまひ  千羽楼
                 鶴成
宮人の名を
 うり衣の烏丸
  琵琶葉湯をひさく
      京はし
     勇々館
       道草

烏丸殿て
 ひろむる琵琶葉湯
  はゝかり多き
   薬なりけり
    板ハナ
     轉湊楼
       停舫
【中段】
一はいの琵琶葉湯て一つゝみ
  大ふくのます商人の方
        無窓園敏住
【下段】
軒下や庇をかりて本家そと  望止庵
  琵琶葉湯をうるもをかしや  貞丸

商人も鵜のまねをする
  からす丸水を煮出して
    のます琵琶のは
         都月庵

時鳥はくや
 血しほの
   からす丸
  熊野炭焚く
   琵琶葉湯売
     和松亭
       羽衣

【右丁】
涼舟【囲み】
掛直る両国橋の下すゝみ    勇々館
  きにくされなき声のうたひ女  道草

昼中の汗の玉子のかへもてや 語安台
  鳥肌となる夕すゝみ船   有恒

蔭芝居まくのきれ間に売に来る
  うろ〳〵舟のおこし松かせ
           宝市亭

すゝみ舟命のはして唄ひ女の
  ころし文句をきくもをかしや
          桃樹園仙齢

陸とちかひ舟は一しほ涼しきを
  たとはゝ雪とすみた川の風
            遊蝶窓

石濱て口をそゝきて夏の夜は
 流れに枕するすゝみふね 鶏告亭
               夜宴
【左丁】
間にあはせつなくきれ目もうろ〳〵を 梅屋
  舟から呼てかふ三のいと

川中をうろ〳〵舟の瓢たんや  花輪堂
  夜る昼水に浮た商人     糸路

つくりたる一重衣きて横たてに  伶月舎
  浪を縫ひ行うろ〳〵の舟

両国のうろ〳〵舟は不二筑波
  このもかのもにこき廻るらん
           花垣真咲

命をも洗たくに出し
  人々へのり売あるく
    うろ〳〵の舟
        一矢斎喜楽
【下段】
行燈にかきし
 扇のかはほりも
  橋間うろ〳〵
   ふねの行かふ
    えのや
      元枝
うろ〳〵舟【囲み】

【右丁】
雨乞【囲み】
         勇々館
こえたこの底まて   道草
 たゝき祈るなり田畑を
  こやす雨のふれやと

田はおろか口も
 かわ来て呑水も
  なきの涙に
   雨乞ひをする
      遊蝶衆
        歌種

いにしへの小町か哥の徳利にも 草のや
  榛名の水をねかふ雨乞    富芳
【以下上段中段下段の順】
雨乞の雨にうるほふ
 日の本を水穂の国と 鶏告亭
    いふそ尊き   夜宴

麦はらのおろち
 つくりて稲長か山田
  うるほす雨やよふらん
       都柳園
         守安

       森風亭
鋤鍬もとらて  波都賀
 日てりに雨よふる
  たかやす国の印
     あれかし
【左丁】
【上段】
大山の無言の場所はさい銭の 銭のや
 財布の口もむすふ同行

あとになる人をもまてる地蔵堂 遊月舎
  こやすみをしてのほる大山  岩住

良弁の瀧にかゝりつ手ぬくひを 水々亭
 わしつかみにてのほる大山   岩住

大山へ太刀を納めて  杉の門
 かへさには梅酢の鑓を 笹好
   かたけてそ来る
【下段】
手のうちのちりも
 積りて山参り願人連の
      もつ納太刀
        海のや広志

人の口いましめたまふ
 大山にしはし無言て
       通る笹はら
         朝鶏舎
           真抱
大山参【囲み】

【右丁】
麦湯見世【囲み】
【上段】
青さしの麦湯の
 見世も日本橋
  ほうひ札ある
    高札場前  伶月舎

やしなひし娘を出す
 麦湯見世勇湯とくにも
   まゝこにそなる  遊蝶舎
              歌椎

いりかけんよくてこみあふ麦湯見せ 松の門
   こはほうろくの火宅なるらん   鶴子

ふとしまてはつす麦湯の腰掛に
   すゝむ人さへ裸なりけり  雲井園

夕立のはれて麦湯を出す妹に   松代
   あまたれりくる客もありけり 良材庵
                  清樹
【下段】
来る客をうまくをみなの
 はたか麦すてに元湯を
     のませんとする
       清流舎
         谷住
町中を己か畑に
  麦湯うり夜なか比まて
       ひさく定見せ
          歌道や
           晴記
【左丁】
月と見るちの輪くゝれる夏はらひ スンフ
  隣の秋へいるこゝちせり    望月楼

罪料をはらふ御祓にひとゝせの  文栄子
 中という字をみするいぐしか   雪麿

雛形に厄を負はせて御祓には  證真衆
 みなつき流す川の中従    喜樽

飛鳥川あすをも
 またて御祓する夏も
  ふち瀬とかはる秋風
       蝶神之
         澄兼

住よしの社すゝしく
  夏秋の行合のまに  和風亭
    御祓するらし
御祓【囲み】

【右丁】
       天王祭
十三
稲田姫祭る祇園の大しめは出来よき作の米俵な
り         宝市亭
十二
しりにのみ目のつく五色ふとしにてかつはと海
へ這入る天王    松月亭繁成
御祭りのかつは天王たしにして親父にしりもふ
かす居つゝけ    綾の門【竹+冠】丸
豊なる五日十日の中橋に雨風もなくわたる天王
          和風亭
祭礼も処かはれはしなか川のみなみに海へ出る
祇園会       花垣真咲
わや〳〵とさゝの上なるこたつきを丸めて祭る
団子天王      雪の下 千羽楼鶴成
氏子等のあしき病ひはさるた彦先払はせてわた
る天王       森風亭波都賀
夜宮から友を引こむ呑喰ひのしりもあるらんか
つは天王      笹の門然那子
草なきの釼蔓備ふ御酒所前樽天王も通祇園会 
          松梅亭槙住
天王の祭りにはれなゆかた着てかうらまてぬら
す品川       三輪園甘喜
【左丁】
【上段】
当座土用鱣客
     森風亭波都賀主人撰
【上段】
二人連狐鱣の穴這入り   遊蝶衆
  宿ては角のはえる丑の日 歌椎

腹見せて奢る
 土用の鱣より
  きもの大きな
   江戸前の客
    在明亭月守

丑うなき薬喰ひ
 する客よりも遣う
  団扇にみゆる
      夏やせ
       幸亭
【下段】
蝉をとる子等に
 土用のみやけとて
  鱣も袋きする  魚海
     椎の木

薬喰ひ土用鱣と
 うしの日にとらの   鶏告亭
  子もみなはたく巾着  夜宴

   おなし心を
うとき月に見るも薬か客のすく
  土用鱣の■の肝たま  森風亭
              波都賀

【右丁】
当坐 盥のもとに女の湯あみする所
     鶴のや松雄主人撰

糠袋遣ふて色もしらけ米  望止庵
 俵乳まて洗ふたをやめ   貞丸

湯あみする盥にうつる不二額  蝶那言
 糠の雫も時しらぬ雪      澄兼

小たらひに洗たく婆々あ浴みして 桃樹園
 縮緬皺もよくのはしけり     千齢

孟宗の竹のたかなる
 たらひにて母の背洗ふ
      孝行のよめ
       学のや
          富芳
【下段】
おなし心を
 ゆあみする盥の月に
  はした女の水うめる  鶴のや
   手をのはす猿棒    松雄
【左丁貼紙手書】
廿イヨノ十八
四冊カロヨ【?】

【裏表紙】

鼻下長生薬

《題:鼻下長生薬》

寛政十年

鼻下長生薬  《割書:馬琴作|重政画》 三冊

鼻下長生薬(はなのしたながいきのくすり) 《割書: 江戸通油町|本家 蔦屋重三郎》  
《割書:こごにいはくおいしやさんでもかみさんでもほれたやまひはなをりやせぬむべなるかなこのことはやけだしおもんみれは》
古語云。医薬神力不_レ容_二男女之間_一。宣哉此言也。益惟
《割書:にんけんまんびやうごよくよりいづ  ゐのいたるゆゑん  またまたかたからずや そも〳〵この》
人間万病出_二於五欲_一。所_二-以医之為_一レ意又弗_レ難耶。抑此
《割書:ちやうせいのくすりはふしのせんほうふらうのしんやくなりむかししんくわうしんやくをほう》
長生薬。不死仙方不老神薬也。昔者秦皇帝需_二神薬於
《割書:らいにもとめかんていせんたんをわうぼにとふしこうしてついになしうること いまさいわいにありこのほう》
蓬莱_一。漢帝問_二仙丹於王母_一。而終莫_レ得焉。今幸有_二此方。
《割書:せけんどうなんどうによついてこれをもちいはころくひやうねんのしゆめううたかふへからず》
世問童男童女就用_レ之。則五六百年寿命不_レ可_レ疑矣

一㐧一とし玉によし一なく子に用てよし
一ねむけざましによし一はらのたつ時によし
其外何でもよしかき入れたし合きんもつなし

一ざい十五丁御こゝろみ三冊ゟ上中下

曲亭主人製 【馬琴】

【上欄外】
午新版

【右丁上】
▲酒色(しゆしよく)命(いのち)を削(けづる)
人のやまひのこんほんは
なんだろうとよく〳〵
かんかへてみたところが
人のやまひはよくから
せうするなり人げんに
五よくといふやまひが
あつていろとさけ
とが此五よくのおかし
らなり人さけを
のめばこゝろがあじ
になつてかきねの
そとのりやう
けんがおこる
かきねのほ
かのりやう
けんはいろ也
このいろと
さけとは
人のけづる
のみとかん
ななり
今も大工
の方言(ほうけん)に
さけをの
む事を
【左丁上へ】

【右丁左中】
〽さけもいゝ
 かげんに
 しなへし
 みのどくで
    をす

【左丁上】
けづるといふまた
めりやすのけん
〳〵にこひはおなご
のしやくのたねな
どゝもいへりこの
五よくのやまひを
なをすくすりは
仁義礼智信
の五道なりまた
しゆにまじはれば
あかくなるといふが
ごとくわるひともだ
ちとましはればわる
ひ心かたちまちう
つる事のつひぜん
よりすみやかなり
子どものうちてな
らひがくもんのよふ
ぜうをよくせねば
かつてうつりたがるも
のなりりやうやく
口ににがくかんげんみゝ
にさかふといふごとく
いづれくすりとな
のつくものにうまひ
ものはなし

【左丁右下】
〽源八もうひるだ
  ろうけづゝて
   しまやな

【左丁中央】
   〽とどのつまり
   大みそかには
  むねでせんぼん
 づき【注】の
しごと
   か
 あるぜ
 【注 千本搗き=土を棒でついて固める作業】

【左丁左中】
〽ひの木山のひは
 ひの木からでゝ
 ひの木をやく人
 の五よくはわが
 身からでゝわが
 みをほろぼす
 さればうたにも
  われとわが身をやくからに
  むねのひもこいの山より出るなる  べしがてんか〳〵

【右丁上】
▲愚蠢(ばか)につける薬(くすり)
たとへのふしにばかに
つけるくすりがないと
いへどばかにつけるくす
りもあるなりばかに
つけるくすりはぜに
かねなりどんなあわゝ
の三太郎も金さへあ
ればりこうらしく
みへるまたくろあば
たでおたふくでびっこ
でかんこちでそのうへ
百の口が三拾二かへも
五十もぬけている
あねへでもぢさん
きんといふくすりを
つけれはせけんの
きのきいたき
りやうのよい
よめよりもうつ
くしくみへて
しうとめのほう
からきげんを
とるこうのう
ありもちひて
しるべし

【右丁右下】
〽こなたに
のませうと
おもつてに
はな【煮花】をした
ちやくわし【茶菓子】は
何をとりに
  やろふ

【左丁右上】
〽コレ〳〵よめしよ
そのよふにし事
ばかりしたら
きがつきませう
ドリヤかたをもんで
しんぜうか

【左丁左上】
〽アレ〳〵いつそ
ありがはう【蟻が這う】
ようだ ついぞ
よめのかたを
もんだ事が
ないそうだ
そんな事
じやぁもん
でもろふ
にはおとり
やす

▲薬毒(やくとく)

くすりにやくどく
とてあまりくすりを
もちいすごすとそ
のくすりかへつてどく
となることありこの
やくとく【薬毒】はばかにつ
けるくすりなどに
よくあるやつなり
これはひとまはりで
なをすの二たまはり
でねをきる【(病の)根を切る】のといふ
はやなをし【早治し】のりやう
じちかひ【療治違い】からおこる
このばかにつけるくすり
をもちゆるせう【証】はなが
しもと【流し元】のみづがへつて
こめびつがはらをくだ
しかまのしたの火が
たかぶりしんせう【身上】の
ぐわいがちがつた
ひんのやまい【貧の病】にくる
しみはやなほし【早治し】
のぢさんきん【持参金】をも
ちゆればいつたんは
こうのふ【功能】がみへる
よふなれど

【左丁右上】
そのやくとくが
のこつてじさん金
をはなにつけて
ていしゆをしり
にしきいでおさ
だまりのとをり
すりこ木すり
はちのたてと
なるこれやく
どくのなす
わざなり

【右丁中段】
〽コレあんまりてへへゑをいわつ
しやるなきよねんまでは
ひものゝあたまをこ
なにくだいてしるの
みのだしにいれた
しんせう【身上】がおれさ
まのおかけでたい
のみそづけもまい
にちもとたれる【?】も
すさまじい くや
しかァ出して
みたが
いゝや
ろうの
むけん
のかね【注壱】で
つかざアさりぜう【去り状。三行半】
はよこされめい
とほうもねへ
三太郎【注弐】じやあ
    ねへか

 【注壱 無間の鐘。この鐘をつくと現世で金持ちになるが、来世で無間地獄に落ちるという。 注弐 江戸時代、丁稚・小僧の通称から転じて、愚鈍な者をいう擬人名】

【左丁右下】
〽マア〳〵しづ
かになさい
  ませ

【左丁左上】
〽うぬ口に
たなちんが
でぬといつて
とんだ事を
ぬかしやあがる
そのしたを
ひつこぬいて
むやづけの
かんばん【?】に
  するぞよ

【左丁左下】
〽これはどふした
ものしづかにいつても
わかることじゃ ぐわ
いぶん【外聞】といふことを
しらしやらぬか

【左丁上】
▲万病(まんひよう)は欲心(よくしん)

よの中にあるもの
ひとつとしてやまひ
のなひものはなし
月にむらくもの
やまひあり天
はらをくだして
大あめ大がみ
なりとなり
地づつうたち
ぐらみして
しんだうぢ
しんとなる
とふぞくは
くにのやまひ
ねづみはいへの
やまひ木のや
まひは木から
わくがごとく
人けん五よくの
やまひは心から
せうずるもの
なり子ども
のくいたひこもりの
あそひたいむすこ
むすめのあいたい
みたいきたひくいたい
【左丁上へ】

【右丁右下】
〽此ところそう〴〵しくうかれて
おとる【浮かれて踊る】ゆへべつにかき入【収入】なし この
  やうす   ではしじう
             ね
              だ
              も
             ふみ
              ぬ
              き
             かね
             めへ

【左丁上】
ぢいさんばあさんかねが
ほしいぼんさんのほんどう
がこんりうしたいおいしや
さんのよいひやうかゞたんと
ほしいあきんどのたんと
もふけたいこれみな
心から出るやまい
にてこれから
いろ〳〵の
せうに
へんずる
しやつ
きんこく
にせがまれ
てはづゝう
八百と也
うちの
おしゆび
があし
ければ
きづもつ
あしと
なる御用
心〳〵

【左丁右下】
〽うたにも心こそ心ま
よはす心なれといふ
ごとくみなおのれ〳〵
がこゝろのまよひから
心のわなにかゝりきつ
ねのねづみのあふらげ
をみてくいたいと思ふや
まひのおこるも人の
ほしい〳〵と思ふや
まひもおなじ事にて
いづれよくがてつだつ
てついにはみをほろぼ
すことうたがひなし

【左丁左中】
〽てん〳〵つる〳〵
てんつるつん〳〵〳〵
ナント欲(よく)ひくだろふ
よくにひかれるといふも此事也

【左丁左下】
〽此ひぼを心といふ字に
むすんだはなんといゝさいくか

【右丁上】
▲癪(しやく)は気(き)の凝(こり)
たて今のあいたいみたい
ほしいくいたいがこり
かたまつてしやくと
なる人げんとうまれて
よくのないものゝせう
こにはしやくのないもの
もなし百人に百人ぜに
かねがほしい〳〵のよく
しんがかたまつてしやく
となるゆへ金をかりる
ことをしやくきんといふ
またあいたいみたいとお
もふ女男のしやくは石
のごとくこりかたまる
久米の平門まつらさ
よひめなどみなしや
くのこりかたまつた
てあいにて石といふじ
をしやくとよむもこの
いはれなり

【右丁右中】
〽こふしたところは
たくわんづけのおもしに
ほかならぬしろ
ものた

【左丁中央】
〽ふたりのくびへしめをはると
べちやァねへふたみがたのぶん
だいときている
此思ひつきははい
かいしにきか
せることだ

【左丁左中】
〽ここはとり合せもないゆへ
かきいれの思ひつきもなく
さくしやだいのてこずりなり
しかし此半丁はさそゑしがよろこぶだろう

【左丁白紙】

【白紙】

【白紙】

【右丁白紙】

【左丁上】
▲心病(こゝろこゝろ)_レ心(をやむ)
こゝに長命や寿兵へと
いふものゝひとりむすめ
お梅はことし二八のそば
からみてもとをめでも
どことつていゝふんのない
きりやう 寿兵へは
おむめがきりやうを
うりつけてまへの
しんだいより百そう
ばいましたと
ころでなければ
かたつけぬとこいつも
よくのやまいからとしたけた【年闌けた】
むすめをべん〳〵とかゝへて
かくうちお梅はいつしかとなり
のむすこ久米■■【之介ヵ】を
みそめ心ばかりに
こいしたいさすか
おぼこむすめの
ことなればうちつけに
いゝよることもならず
たゝく  よ〳〵と
思て
いるそ
のあいだみ
たいがつもり〳〵
てしやくとなる
こしやくむすめ  といふも此ときよりぞまた久しいもんだ

【左丁右下】
〽お梅くめ
 のすけが
 事を思ひ
つめうたゝ
 ねのゆめ
  にみる
  これ
  ゆめは
  小性の
  わづら
  い【注】と
   いふ
 【注 「夢は五臓の患い」の洒落】

【左丁中央】
〽わたしやおまへ
 にあいとうて〳〵
 つかへのおこらぬ日
とてもこのむなさき
のしやくを
みてうた
がいはら
  して
くだ
 さんせ

【右丁上】
▲恋々情无薬(れん〳〵のせうくすりなし)
却説(かくて)寿兵へかむすめお梅ぶら〳〵と
とわづらいければ寿兵へふう婦は
ひとりむすめの事なればはり【針】
ほどのこともほう【棒】ほどに
大そうにしてかぜにあたつて
はわるひととぼぐちへも■【出ヵ】さず
お梅はけつく【結句=結局】久米のすけが
かほをみる事もなら
ねばいよ〳〵もだへて
しやくはだん〳〵ぞう
てう【増長】する これはきの
おとろへだから本町の
八味ぢわう【八味地黄丸】がよかろふ
といふものもあれば
いや〳〵このこの
むなさきへつかゆるは
しやくのせいだから
田町のはんごんたん【反魂丹】
をおもちいなさ
れといふものも
あり寿兵へは
人のよいと
いふものは
なんでも
のませて
はやくよく
【左丁上右へ】

【左丁上右】
してやりたいが
せいいつぱいな
ればどちらも
のがさぬつもり
にぢわうと
はんごんたんを
かつてかへに【交互に】
のませる
これこいの
わづらいおゝ
こちやしら
ぬといふうた
のこゝろいき
ににたり

【左丁上左】
〽ひるめしは
 なにがよか
   ろふの

【右丁右中】
〽ちときをはつきりと
 もつたがよいわいのはるきやうげんが
 はじまつたら二けんながらみせるぞや

【右丁左中】
〽なにもたべとふ
 ごさんせぬ

【左丁左下】
田町の
おつかいが
 かへり
   まし
    た

【右丁上】
▲腹(はら)は海道(かいどう)の如(ごとし)
不題(これはたてむき)はらの中と
いふものはかいどうすぢの
ごとくのんだりくつたり
するものがあさからばん
までとゞこをることなく
わうらいする もしひい
ぶくろ【脾胃(袋)】の川どめにあへば
しよくたい【食滞】となるさて
二度〳〵のめしとしるは
上下ひきやくのごとく
はらのうちのようす
もよくのみこみだう
ちうなれているゆへ
ひいふくろといふぢやう
やど【定宿】へつく こののんだり
くつたりしたものは
ぜんにならべてある
うちはしるはみぎ
めしはひだりと
ぎやうぎよく
ならんでいれど
此ひいふくろへおち
つくと大そらの
さこね【青天井の雑魚寝=野宿?】のことく
すまのはつがつほ
も三文のしいのみも
ひとつにところへはいつて
【左丁上右へ】


【左丁上右】
ねるゆへたがいに
あじなきになつて
それわち【?】にこし
らへて水ももら
さぬこひ【肥ヵ】となり
あくるひはせつ
ちんへくだる也

【左丁上中】
〽さてまたげん
気といふものは
道中めつけの
ごとくしよく
もつのすこし
もとゞこをらぬ
やふにあとから
おつたてゝゆく
もししよくもつが
なまけてやすみ
たがれば口きたなく
しかりつけてさん〴〵に
こなすなりげんきの
しよくをこなすと
いふはこのことなり

【右丁右中】
〽ひいふくろのやど引はめいどで
  いのちなりいのちのあるうちは
  くはねはいられずゆへに
        めいは
        しよく
        を引と
         いふ

【右丁右下】
〽サア〳〵おなじみのうちて
ござりますこれからは
わづか百ひろのみちじや
こあんないいたし
       ませふ

【右丁下中】
〽ゆのときくつた
 こうのものもモウ
 きそうなものだ

【右丁左中】
〽きんねんはけんやく
 をしますから
  つぼひらやき
   ものなどゝいふ
    みちつれは
     なしさ

【左丁右下】
〽げんき口き(た ヌケ)なくしよくを
 こなす みづおちからひざ
 がしらまでたつた三里ほか
 ねへくたびれたもすき
    ま也

【右丁上】
▲丸丹(くわんたん)/効(こう)を争(あらそふ)
かくてお梅がはらの
うちはぢわう【八味地黄丸】とはん
ごんたん【反魂丹】のくすりずく
めになりけるがこと
はざにいふごとく
両ゆうならび
たゝずと
ぢわうは
はんごんたん
をおいしり
ぞけおのれ
ひとりがてがらに
せんとはかりまた
はんごんたんはちわう
をしりぞけおのれが
こうのうをあらわ
さんとたがいにこれ
より中あしく
なる

【右丁右下】
〽ぢわうのかほもさんど
 やら もふりやうけんがならねへわへ

【右丁中央下】
〽なんぼじた
 ばたしたと
 てもみつざい
 なあま口で
 しやくやつかへか
 てにのるもの
 かおよばぬ事
 だかなはぬこ
 とだはなどゝ
 はんごんたん
 まつかにな
 つてりきむ【注】
   やつさ

【注 カスレ部分は磐田市立中央図書館所蔵本を参照 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/11】

【左丁右上】
▲返魂丹(はんこんたん)/積(しやく)を砕(くだく)
ぢわうはいつたい
うちのよはりをおぎ
のふくすりなれば
お梅がしやくは中〳〵
ぢわうの手にのら
ず はんこんたんは
しやくをくだくのう【効能】
あればそここゝと
たづねあるきある
とき水おち【みぞおち】
の橋づめにて
しやくにでつ
くわせさん〴〵
にちやう
ちやくする

【左丁左上】
〽こうつかめへたが
 さいごおてらさま
 がしやしけ【?】のころもを
 かりて命こひをしても
 ゆるしゃアしなへかくごゥ
 しやあがれ

【左丁右下】
しやくはたゝ
グウ〳〵と
のたをうつ
 てくる

【左丁左下】
〽おのれよくむなさき
 つゝばたかつてしよく
 もつのおうらいをとめ
 たなはんごんたんのて
 なみをみろふた〴〵しい

【右丁上】
▲さつま芋(いも)の敵薬(かたきやく)

はんごんたんお梅が
しやくをはんしはん
せうにちやうちやく
せしかばしやくは
たちまちいき
ほいをうしない
ふかくかくれゐて
ふたゝびてある
かねばお梅
この四五日はすこ
しむなさき
もすいてこゝ
ろよくおぼへ
ければこれは
まつたくはん
ごんたんのこう
なれば今より
ぢやく【持薬】にはぢわう
をやめてはんごん
たんばかりを
もちひんといふ
ことをぢわう
ひそかにきゝい
だしわれはげん
きをましきけつ
をめぐらすこう
のうあるをきゝ
【左丁上へ】

【左丁上】
ひといろのしやく
をしりぞけたり
とてはんごんたんに
とかへられたる【と替えられたる、または取替えられたる】こそ
やすからね なにと
ぞはんごんたんをう
つて此むねんをはら
さんと思ふおりふし
おむめやほらしく
ひるめしにさつま
いもしるをくい
ければぢわう
これさいわいと
さつまいもをひ
そかにたのみ
はんごんたん
をうつてくれ
よとたのむ

【右丁右下】
〽はかりことは蜜(みつ 原文ママ)なるを
 よしとす ずいぶん心
 をねりやくにしめされ
       がてんか〳〵

【右丁左下】
〽此二三丁ゑくみ【絵組=構図】にたね【材料】か
 なくあいきやう【愛嬌 注壱】かない
 からどういふわけかおへそ
 がちやをわかしてもつて
【右の行、のど部分に当たり読み取り不能のため左記参照】
【参照 磐田市立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/12】

【左丁右下】
  でるそしておへそといふ
        から女に
         したもいゝ
          じやあ
           ねへ
            か

 【注壱 前頁まで男ばかり出てきて殺風景だから、おへそという名の女中に茶を出させて画面に花を添える趣向】

【左丁中右】
〽八味(はちみ)■う【しう=衆ヵ】の
  れんはんでう【連判状】
   しつかりと
    うけとり
     ました

【右丁上】
▲薬(くすり)の禁物(さしもの)
さつまいもはぢわう
にたのまれはんごん
たんをやみうちに
してたちのく
これさつまいもは
はんごんたんのて
きやくといふ事
もこのときより
ぞヲツトあとは【注】
せうち〳〵

【注 カスレ部分は磐田市立中央図書館所蔵本を参照 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/13】

【右丁右中】
〽ぐわんじる【願じる】よりうつが
 やすい【注】とあんぼんたん
 めがよいざま〳〵
【注 案ずるより産むが易しの洒落】

【右丁上左】
〽さつまいも
 だけこういふば
 てはふけるがはやい
 人のこぬうちに
 げるこつた

【右丁左下】
〽むねん
  〳〵〳〵

【左丁白紙】

【白紙】

【右丁白紙】

【左丁上】
▲蘿蔔(たいこん)の玅(めう)【注】
ちわうにうたれ
たるはんごんたんの
女ぼうむすめは
かたきぢわうを
うたんとつけね
らふよくきこへ
けれはぢおうは
かたきのめ【敵の目】をしの
ばんとおりふし
むぎめしのからみ
大こんむなさきを
とをりかゝるぢわう
これさいわいと大
こんをとつておさへ
そのしぼりしるを
おのれがからだへぬり
つけければふしぎや
今まてまつくろ
なるぢわうたち
まちはくはつ
となりそう
でうあふ
きにかはる

【注 カスレ部分は磐田市立中央図書館所蔵本を参照 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/13】

【左丁右下】
〽今がたいこだ
 くわんねんしろ

【左丁左下】
これ
ふくな
にかへは
いつ■
であへ
 〳〵

【右丁上】
▲ひにん丸(くわん)の功(こう)
かくてはんこん
たんの女ぼう
むすめはかたき
ぢわうをつけ
ねらいはらの
中山のふもと
なる土手っはら
といふ土手のし
たにこやがけして
ひにんぐわんに
身をやつし
うきとし
つきをおくり
けるにをり
ふしかたき
ぢわう土
手っばらを
とをりかゝり
けれども大
こんのき
どくにて
ぢわうの
かみのけ
のこらず
しろくなり
【左丁上右へ】

【右丁右中】
〽コウ
  こもをかゝつて
  りきんだところ
  はしつかいよたかの
  しんぢうと
  きてゐる

【左丁上右】
そうこう
おふきにかわり
ければそれとも
しらずやみ〳〵と
わかるゝ

【左丁上中】
〽あふひ下坂
ようくきれ
ますひとた
ちぬいておめに
かけんはみかき
はんごんたん此
あいだにおもと
めなさいなか〳〵
  さよでござい

【右丁上右】
▲胸倉(むなぐら)のせき
おむめがはらの
しやくは今はたれ
はばかるものな
ければはらの
むしはおれひとり
とむなさきへつゝ
はだかり水
おちにたんせき
といふせきを
すへしよくもつ
をおひかへし
ければおむめ
もつてのほか
にあげつもど
しつなんぎする

【右丁右下】
〽きいてもへんぢやく
 でもとんちやくは
 ねへとふすことは
 ならぬ〳〵

【右丁左下】
〽しよくもつ
 おいもどさるゝ
 おしひとおぼし
 めしとしる 
 おとふしなされ
 てアヽこういふ
 うちもひだるく
 つていきが
 きれる

【左丁上】
ここにまた
寿兵へがまた
となりに長井
寿庵といふ《割書:デモ》
いしやありにわか
の事なればまづ
寿あんでもたの
むがよいと家内
ちやにしなから
まんざらしろふ
とよりはまし
たろふとよびに
やつてようす
をみせればじゆ
あんさつそくかけ
つけおむめがやう
すをみてこゝろ
やすくうけ合
すゞりすみ一てう
なまねぎ一本を
せんじてのませる
これさつまいもと
ぢわうをたいぢ
するくふうと
みへたり

【左丁中央】
〽なにもあんじます
 事はござります
 まいか

【左丁左下】
〽ぢきになをして
 しんぜませう

【右丁上】
▲媒人医生(なかうどいしや)
さてじゆあんはまづ
むなさきへはりを
たてゝしやくをおさへ
すゞりずみとなま
ねぎにてぢわうさつ
まいものどくをげし
このうへしやくのねを
きる事は中〳〵はり
くらいではゆかず
これをなほすくすり
あり此出つけのしな〴〵を
となりの久米之介の両しん
よりもらひてもちひなはゞ
さつそくしやくの
ねをきるべしと
何かほうしやう【奉書(紙)】へ
かいたるやくほう【薬方】
を寿兵へにわた
して立ちかへり
ける寿兵へふう婦
がてんゆかずと
そのかきつけを
ひらいてみれば
ゆいのうのもく
ろくにてやなぎ
だる一荷するめ一だい
【左丁上右へ】

【右丁右中】
〽けふはとんだいそ
 がしい日だまだ
 おまんまも
 たべねへわな

【右丁左下】
〽てうづの
 ゆをあげ
 たらおくわ
   をだす
   のだよ

【左丁上右】
おびだい千びきと
おさだまりのしう
の品々これはふしぎ
とおむめをとひつめて
みればとなりのむすこ
久米之介とだん〴〵やう
すをきいて両しんはじ
めてさとりすぐに寿庵を
仲人にたのみゑんだんをいゝ
こめばむかうもさつそく
せうち【承知】にてゆいのうの
もくろくもさつそく
やくにたちおむめが
やまひぬぐつてとつた
ごとくくわゐき【快気】する
せけんなかうどいしや
のめうもく【名目】これより
はじまる

【左丁上左】
〽これはつよひ
 おしやくだ
 ちとひゞき
    ませう

【右丁上】
▲野夫(やぶ)にも功者(こうのもの)あり

寿あんがやくほうのかの
すゞりずみはおむめが
のどをとほるやいな
やさつまいもをとつておさへ
たかてこてにいましめ
うらもんさしてくだり
けるぢわうはたのみきつ
たるさつまいものおひ
くださるゝをみていかゞは
せんとうろつくところ
をはんごんたんの
女ぼう
むすめ
ぢわうが
しらがと
なりてよを
しのぶ事をきゝ
いだしそここゝと
たづねあるきしが
此ところにてでつくわ
せ火花をちらして
たゝかいけるがぢわうは
ぶしにつけい【附子・肉桂】のやくりき【薬力】
つよくはんごんたんの女ぼう
むすめすでにあやうくみへ
たるところとかのなまねぎ
いつさんにかけつけ両人に
【左丁上へ】

【右丁下中】
〽かへり
 うちだ
 かくご
  しろ

【左丁上】
ちからをあはせければぢわうは
なまねぎをみてたちまち
やくりきをうしない
ついに両人にうたるゝ今も
ぢわうをのんで大こんを
くへばしらかとなりなま
ねぎをくへばこうのうを
けすといひつたへたり
さてまたおむめがしやくは
寿あんがはりにつゝ
ぬかれてあしを
もがきくるくるしみ
しが久米之介がゆひ
のうきはまりお梅
が心ヤレうれ
しやと思ふと
ひとしくぼん
のうの五よくたち
まちにしりぞき
かぜのくもをちら
すがことくおむめ
がしやくいづくとも
なくきへうせける
このときおむめがはらの
うちぐわんらくわら〳〵
と大さわぎてくすり
めんけんせざればそのやまい
いへずとなか〳〵医者(いしや)らしい事を
             いふやつさ

【右丁左下】
〽おやのかたき
  おぼへたか

【左丁中央】
〽いやいもくな
 なんとあたら
     しかろふ

【左丁右下】
〽さあ〳〵しまひ
     ■【さヵ】けた

【左丁左下】
〽一ぼん三文のちへも
  なくつてふさ〴〵しい
       やろうだ

【右丁上】
かくておむめがしやくたち
なほり久米之介とふうふに
なり今は世の中にねがいの
ぞみもなければよくのやま
いのねをきりまことに
むびやうそく才にて
五六百ねんさかへけり
されば寿兵へがよく
しんのやまひより
としたけた
むすめをべん〳〵と
かゝへておきしゆへ
ついにおむめがしやくの
たねとなるこれをおもへば
人けんのやまひは五よくゟ
出るにちがいなし一升はいる
ふくべは壱升とあきらめ身に
おうぜぬねがいをせず人のよいも
うらやまずわかみのあしきもくゆる
事なくてん  とふさまのおさづけ
しだいに今日 をまつすぐにまづ
いものを   くつてまめにはた
らかば      五六百年の寿命は
          うけあいなりかならず
          うたがいたもうべからす

【右丁右中】
〽めでたし〳〵

【右丁左中】
〽ちと中だけ
 ふうをかへて
 おめでたうござんす〳〵

【左丁】
寛政十年
午五月吉日
    ■■■■

【白紙】

【裏表紙】

養生歌

【収蔵用外箱・表紙】
養生歌

【収蔵用外箱・表紙】
養生歌

【収蔵用外箱・背表紙】
養生歌

【整理ラベルあり、薄くて読めず】


【整理ラベル・富士川本/ヨ/77】

【朱印・富士川家蔵本】


養生歌

養生歌序
一橋黄門のきみ仰ことあり凡
人ことに生楽を遂しめんには
養生の道をしらしむるにありと
いへとも其書載る所繁冗にして
【蔵書印 朱】京都帝国大学図書之印
【受入登録印 朱】富士川游寄贈
【受入登録印】187265/大正7.8.31

諳誦しかたくかつ雅言は解しかぬる
人も多けれは俚語もて歌に作り
たらんには博愛の一端なるへ
しとそ僕深く其厚徳を感し
奉るといへとも徒に犬馬の年を
経て和歌の道いかなることをしら
す然れとも医【醫】も亦仁の術也修養
の道とその帰する所一にして
おのれか任の関係する処【處】なれは
固辞し奉らむによしなく蕪陋

を忘れ翠竹院の養生歌【謌】の体に
擬して漫に三十一字に綴り其
命に応し奉ることゝはなれり
その躰陋にして言野なりと
いへともそのことは皆先賢の格言
なりもし人ことに此意を謹み
守らは永く壽数を保つへき
こと疑ひなからんのみ寛政六
年【秊】八月初旬法印安元しるす

養生歌八十一首
          法印安元
   大意(たいい)
養生(やうじやう)はその身のほどをしるにあり
ほどを過すはみなふやうじやう

不養生とおもひながらもふやうじやう
なさば思はぬ人にをとらん

薬(くすり)さへ仕方(しかた)によれば毒(どく)となる
飯(めし)と酒(さけ)とを見てもしるべし

【右頁】
身(み)のうちのぬしはこころよ一身(いつしん)の
安危(あんき)はぬしの心(こゝろ)にぞある

心(こゝろ)にてこころよきぞとおもふこと
おほくはためにならぬ物なり

若(わか)き身(み)の丈夫(ぢやうぶ)だのみの不養生
やがて老後(らうご)の後悔(こうくわい)となる

をのが身に病(やまひ)ありては何(なに)の身で
君父(くんぷ)につかへ奉(たてまつ)るべき

達者(たつしや)だて丈夫じまんの無理(むり)わざは
つゐに病の種(たね)とこそなれ

【左頁】
すくこともよき程(ほと)にせよ耽(ふけ)りては
身のやしなひは忘(わす)れはつべし

心をはつねに静(しつか)にその身をば
つねにほどよくうごかすぞよき

兎(と)も角(かく)も癖(くせ)になしなばくせづかん
ただよきくせをつくるにぞある

不養生はこらへこらへてすべからず
のちには常(つね)の癖となる也

常(つね)にただ義理(ぎり)の書物(しよもつ)をよむか又
よませてきけばよき癖(くせ)ぞつく

【右頁】
慾情(よくしやう)は獅子(しし)/身中(しんぢう)のむしなれや
こころよりこそ身をもほろぼせ

大病(たいひやう)となりてのゝちは如何(いかが)せむ
ただつね〴〵に養生をせよ

少々(せう〳〵)は苦(くる)しからじの不養生
つもり〳〵て後悔をすな

自由(じゆう)なる都人(みやこびと)より不じゆうに
くらす山家(やまが)に長寿(ちやうじゆ)おほきぞ

目(め)なとめそ耳(みみ)になふれそ情慾(しやうよく)は
見きゝにつけて動(うご)くものから

【左頁】
   飲食(ゐんしよく)
飲食は我身やしなふ為(ため)なるを
口のためぞと思(おも)ふはかなさ

目と口のために食(しよく)すなたゞ食は
腹(はら)のかげんを第一(だいいち)とせよ

よほど腹(はら)すきて食事(しよくじ)は喰(くら)ふべし
すかぬにくへば八重(やへ)食(しよく)となる

食事をはすき過(すぎ)ぬ間(ま)に食すべし
すき過ぬれはやまひとぞなる


【右頁】
前(まへ)の食に厚味(こうみ)しよくせばその次(つぎ)は
あぢはい淡(あは)きものを食せよ

むましとも八(はつ)九(く)/分(ぶ)/喰(くは)ば足(たる)とせよ
十分(じふぶん)ゆへに身の害(かい)となる

一(ひと)しなを偏(へん)に食して害なきは
飯(めし)と汁(しる)との二(ふた)つなりけり

菜(さい)の類(るい)はその時々(とき〳〵)に取(とり)かへよ
おなじ品(しな)のみ偏(へん)に食すな

食事して直(ぢき)にいぬれば食もたれ
やがて病になるものとしれ

【左頁】
食後(しよくご)まづ額(ひたい)と両(りやう)の頬(ほう)までを
自身(みづから)数度(すたび)撫(なで)おろすべし

食後には縦(たて)横(よこ)数間(すけん)あゆむべし
しよく気(き)めぐりて養生によし

食事(しよくじ)せば立(たち)はたらきて時(とき)をうつし
一時(ひととき)ばかり過(すぎ)てねよかし

食/物(もつ)はこなれやすくてやはらかに
あぢはひ淡(あは)き品(しな)のみぞよき

厚味にて重(おも)きはもたれ硬(こはき)もの
冷(ひえ)たるしなも多(おほ)く食すな

【右頁】
嗜(すけ)ばとておなし品のみしよくすれば
偏気(へんき)つもりて病とはなる

飽食(ばうしよく)は数 日(じつ)つゝけばたゝまりて
つゐに大事(たいじ)の病とはなる

賤者(かろきもの)はおり〳〵厚味/喰(くふ)もよし
貴人(きにん)は常(つね)に麁食(そしよく)まされり

喰度(くひたき)も暫時(ざんし)の間(あいだ)こらゆべし
のちに益(えき)あるほどの久しさ

夏(なつ)もたゞあたゝかなるを食すべし
冷物(れいふつ)をのみ喰(くへ)ば霍乱(くわくらん)

【左頁】
百薬(ひやくやく)の長(ちやう)なる酒もわが分(ぶん)に
すごして飲(のめ)ば百/毒(どく)の長

酒のまばほろ〳〵酔(ゑひ)を程(ほど)とせよ
その盃(さかづき)の数(かず)はかぎらで

一杯(いつぱい)の酒にゑふ人/十杯(じつぱい)の
さけにゑはぬも其人(そのひと)のほど

饑(うえ)過て食するときはそのまへに
湯茶(ゆちや)か味噌汁(みそしる)とくとのむべし

食(しよく)こなし持薬(ぢやく)にのみて大しよくの
人の脾胃虚(ひゐきよ)は十倍(じふばい)としれ

【右頁】
渇(かはく)とも湯水(ゆみづ)はおほくのむなたゞ
口にふくみて数度(すど)うがひせよ

飽食とうえてものくふ時ならば
いり湯【注】はかたくせぬをよしとす

【注 「入り湯=桶(おけ)の中にすわってはいる湯】

さなきだに夏は食物(しよくもつ)こなれがたし
冷たるものと過食(くわしよく)ばしすな

   閨門(けいもん)【家庭内での行儀作法】

腎水(じんすい)は人の命(いのち)の本(もと)なれば
おしみたもちて大切(たいせつ)にせよ

【左頁】
男女(なんによ)こそ子孫(しそん)/求(もとむ)るためなるを
わが慰(なくさみ)とおもふおろかさ

二十歳(はたとせ)は四日に一度(いちど)三十歳(みそとせ)は
八日に一度/房事(ばうじ)有べし

四十(よそじ)歳/経(へ)ば十六日め五十歳(いそとせ)は
廿日/六十歳(むそし)は房事(ばうじ)/慎(つつ)しめ

持(もち)まへのよはき生(むまれ)はさだめある
房事の数も猶(なを)へらすべし

たゞ一度/泄(もら)すも精気(せいき)/耗(へる)ぞかし
重(かさ)ねもらさば大病のもと

【右頁】
大寒(だいかん)と大暑(たいしよ)の時に房事せば
なにか病を起(おこ)すとぞしれ

日(ひ)と月(つき)の蝕(しよく)と雷電(らいでん)/大風雨(だいふうう)
/地震(ぢしん)の時は房事/慎(つつ)しめ

色念(しきねん)をこらへて情(じやう)を遂(とげ)ぬには
腰湯(こしゆ)に下(しも)をあたゝめてよし

房事あらば胸(むね)と腹(はら)とをさすりつゝ
しばらくしてのちいねるよしとす

房事/以後(いご)しばらく歩行(ほかう)するもよし
かならず直(ぢき)に寝入(ねいる)べからず

【左頁】
色念(しきねん)の起(おこ)るまかせに房事せば
陰虚火動(ゐんきよくわどう)【注】となるぞおそろし
【注 陰虚火動=漢方医学の病名。房事過度のため精力が減退し、鼓動が激しくなり熱が出て衰弱する病気】

腎薬(じんやく)を呑(のみ)て恃(たのみ)の不やうじやう
はては頥(あご)にて蝿(はい)をゝふべし

灸治(きうぢ)せば前(まへ)は三日にのち七日
緊(きび)しく房事/慎(つゝしみ)てよし

やみあがりよきに由断(ゆだん)し房事せば
これ労復(らうふく)【注】の大病となる
【注 労復=治った病が過度の疲労により再発すること】

   起居(ききよ)

【右頁】
家(いへ)にあらば程(ほど)よく身をばつかふべし
しよく気(き)めぐりて薬(くすり)にもます

行住(ぎやうぢう)も坐臥(ざぐわ)も久(ひさ)しくすべからず
ひさしきときは皆(みな)/毒(どく)となる

譯(わけ)もなく昼寝(ひるね)/度(ど)ゞする楽寝(らくね)こそ
気血(きけつ)をふさぎ病とはなる

大風雨らいでん雲霧(うんむ)ふかきには
雨戸(あまど)をさして其(その)/気(き)/避(さく)べし

閑(ひま)ならば常に手足(てあし)をつかふべし
徒(たゞ)に坐(ざ)しなば気血めぐらず

【左頁】
ひや〳〵と冷気(れいき)おぼえはたゞはやく
衣服(いふく)かさねよこらへべからず

枕(まくら)もとに火(ひ)の気(け)はをかぬ事(こと)ぞよき
逆上(ぎやくじやう)の気(き)をたすくればなり

寝(ね)つきにはむねと腹(はら)とをいくたびも
自身(じしん)しづかになでさするべし

夏はそのほどよくすゞみ暑(しよ)をしのげ
すゞみ過(すご)せば病とぞなる

寒気(かんき)より暑気(しよき)に中(あた)ればすみやかに
はげしきやまひやむものとしれ

【右頁】
夏のよの更行(ふけゆく)までにすゞみ居(ゐ)ば
夜気(やき)にあたりて大病となる

なつのよの夢(ゆめ)のかりねに寝冷(ねびえ)せば
これ大病の基(もとゐ)ならまし

ねむりなば風ふくところさけぬべし
あふぎうちはのかぜもよからず

寒(さむ)き日か凍(こごえ)たる時はじめより
すぐに熱湯(あつきゆ)つかふべからず

冬(ふゆ)は先(まづ)日の出(で)を待(まち)て起(おき)つべし
なつのあしたは早起(はやおき)ぞよき

【左頁】
ふゆの朝(あさ)気(け)寒さはいたく厭(いと)ふなり
ゆうべ夜中(よなか)はことに避(さく)べし

ふゆ寒(かん)にあたれど冬は目(め)にみえず
春(はる)にいたりて大病となる

老(おい)は老(おい)わかきは若(わか)きほど〳〵に
その養生を心得(こゝろえ)てよし

貴(き)と賤(せん)と身(み)のならはせの違(ちがひ)あり
とりちがゆれば病とぞなる

八千世(やちよ)ふる椿(つばき)も伐(きら)ば枯(かれ)なまし
のこる氷室(ひむろ)も人の手(て)わざぞ
【この歌はどのような意味でしょうか?】

月と日のめぐるがごとく我(わが)/業(げう)を
つとむる中(うち)に養生
        もあり

病家心得艸

【帙の表紙 題箋】
病家心得艸 二冊

【帙を開いたところ】
【背表紙】
病家心得艸 二冊
【題箋】
病家心得艸 二冊

【帙の背表紙下部の資料整理ラベル】
7-02

20

【帙の裏表紙の資料整理ラベル】
京都大学 図書
200035335969

京都大学 図書
200035335978

【表紙 題箋】
病家心得艸(ひょうかこころへくさ) 上

【資料整理ラベル】
02

20

靈蛇之珠荊山之玉世之所䝿
菽粟【異体字】布帛世之所賤也然靈珠
荊玉餞不可食寒不可衣而粟【異体字】
帛也晨昏之資不可須臾缺也
而䝿彼賤此何也珠玉難得粟【異体字】
帛易得之故然矣今之世養疴

之書刊而行者奚翅汗牛充棟
耳哉而其書咸古今賢喆之撰
述而率如珠玉矣雖然庸劣無
文之人不能讀而曉之苟有疾
病則唯醫是任唯藥是依而醫
者不可漫信藥物不可必頼焉
且也設俾良醫撰用湯液鍼灸
之宐非節飲食時起臥慎情慾
而護其病便猶卻行而求進矣
然則人人當護病之時不可不
粗知之吾友藤井子祥摘護病
之家可預慮之事録以國字将

【右丁】
弘 ̄メ_二于世 ̄ニ_一益 ̄セント_中于人 ̄ニ_上焉是 ̄レモ亦 ̄タ粟【異体字】-帛 ̄ノ之
賤 ̄フメ而所 ̄ロハ_レ用 ̄ル勝 ̄ルノ_二於珠-玉 ̄ニ_一之比 ̄ヒ【送り仮名の位置にある「也」は入力できず。】也讀 ̄ム
者勿 ̄レ_下以 ̄テ_二其 ̄ノ易 ̄キヲ_一_レ暁 ̄シ忽 ̄ニスルコト_上_レ諸 ̄レヲ爲 ̄メニ_レ之 ̄レカ序 ̄ス
  盧門 岡崎信好 譔
       【落款印二つ】
     南牕武吉幹書【落款印一つ】

【左丁】
病家心得艸
巻之上目録
 平生養生(へいぜいやうじやう)の心得     服藥(くすりをのむ)の心得
 医者(いしや)を撰(ゑらぶ)む心得     脈(みやく)を見する心得
 医者(いしや)の言(ことは)に取捨(しゆしや)ある心得 薬を煎(せん)ずる心得
 大 病(ひやう)の萌(きざし)を知る心得   急病(きうひやう)人を扶(たすく)る心得
 鍼灸(はりきう)の心得        灸穴(きうけつ)を点する法(ほう)〇《割書:五臓兪穴(こざうゆけつ)|を知る歌》
  《割書:〇 要穴主治(ようけつしゆぢ)の歌|〇小 児(に)斜灸(すしかい)【注①】の歌》 《割書:〇 身柱膏肓(ちりけこう〳〵)【注②】の歌|〇 灸壮分量(きうかすふんりやう)【注③】のうた》
 灸瘡発方(きうそうはつほう)        灸瘡(きうそう)洗薬(あらいくすりの)方
 占(うらない)祈祷(きとう)の心得      疾病名目(しつひやうめうもく)俗解


【注① 斜灸(すじかい)=背中の一部で灸をすえる場所。脊椎の左右に一ヶ所ずつある灸のつぼで小児の風邪や、胃腸病予防に効果があるとする。】
【注② 「身柱(ちりけ)=灸点の名。襟首の下で、両肩の中央の部分。ぼんのくび。またそこにする灸。 「膏肓(こうこう)」=「膏」は心臓の下の部分、「肓」は横隔膜の上の部分。膏と肓の間は薬も鍼も及ばぬ、病気のなおしがたい所という。】
【注③ 灸壮(きゅうかず):灸の一灼を一壮というところから、灸をすえる数の単位。】

【左丁右下部の印】
故医学博士前島淳一記念
 前島正一寄贈本

瘡邑(そうやう)名目俗解   身體(しんたい)名目■■
醫者(いしや)流儀(りうぎ)の心得  古方(こほう)後世(こうせい)を知る心得
醫書(いしよ)名目俗解   治療(ぢりやう)名目俗解 附中節生
巻之下
病人/食物(しよくもつ)の心得 諸病(しよびやう)宜禁(よしあし)
食物(くいもの)能毒(よしあし)いろは分  合食(くいあはせ)禁(もの)忌

病家心得艸巻之上
藤井玄芝著
平生養生の心得
夫(それ)養生(やうしやう)とハ服薬(ふくやく)鍼灸(しんきう)薬餌(やくじ)【左振り仮名:くすりをのミはりやいとくすりぐい】なとをいふにあらす専(もつはら)飲食(いんしよく)【左振り仮名:のミくい】
起居(ききよ)【左振り仮名:たちい】をなどよくし思慮(しりよ)【左振り仮名:おもひ】色欲(しき■く)【左振り仮名:いろ】力役(りよくゑき)【左振り仮名:ちから】などをほしいまゝに
せず常(つね)に心をつけて慎(つゝし)むをいふなり若(もし)飽食(ほうしよく)大酒(たいしゆ)を好(この)ミ
色欲(しきよく )力役(りよくゑき)を過(すご)し分限(ふんげん)不相應(ふさうおう)の望(のぞミ)を發(おこ)し利欲(りよく)を貪(むさぼ)り
心氣(しんき)を労(ろう)すれハ疾病(しつびやう)【左振り仮名:やまい】忽(たちまち)に發(おこ)る其時(そのとき)ニ至(いたり)て仮令(たとい)扁鵲(へんじやく)華(くわ)
佗(だ)妙術(めうじゆつ)を盡(つくす)とも何(なんぞ)効(しる)しあらんや平生(へいせい)養生をよくする人ハ
一旦(いつたん)病に臥(ふす)とも服薬(ふくやく)鍼灸(しんきう)の功(こう)速(すミやか)なり然(しか)れともあまり

養生のミ心をこらし食物ハは秤(はかり)にてかけ力態(ちからわさ)をいとひ思(し)
慮(りよ)をついついやすまじとて家職(かしよく)をすて閑居(かんきよ)【左ルビ:しつかなるすみまい】に引罷(ひきこもり)いるハ
却(かへつ)て不養生なりされバ内経(だいきやう)にも小欲知節(しやうよくちせつ)【左ルビ:よくをすくなふしほとをしる】といふ事
あり是(これ)養生の肝要(かんよう)なり人〻 我(わが)分限(ぶんげん)相應(さうおう)に心もつ
かい食(しよく)も充満(しうまん)せざるほどくい酒(さけ)も中(あたら)ぬほどのミそのほか
万事(よろづのこと)我身(わがミ)において少(すこ)しも苦(く)にならぬほどに心がくべし
しかし色欲(しきよく)【左ルビ:いろ】と美食(ひしよく)【左ルビ:むまきもの】とハ随分(ずいぶん)戒(いまし)むへし
 服薬の心得
夫(それ)病人(びやうにん)薬(くすり)を服(ふく)【左ルビ:のまバ】せハ第一(たいいち)それ〳〵の禁戒(きんかい)【左ルビ:いましめ】を守(まも)り房事(ばうし)飲(いん)
食(しよく)を慎(つゝ)しむべし諸事(しよじ)醫者(いしや)の指图(さしづ)をもうけ食物(しよくもつ)の
禁忌(いミさしわい)をとくと尋問(たずねとふ)べし何ほど良薬(りようやく)【左ルビ:よきくすり】を用ても病人
禁戒(いましめ)を守らざれハ其(その)効(しるし)なし凡(およそ)薬(くすり)ハ病症(びやうしやう)に應(おう)ずるを
よしとす若(もし)其(その)病(やまい)ニ中(あたら)ざれハ人参(にんしん)白朮(びやくしゆつ)も人を害(がい)す其
病(やまい)に應(おう)すれハ石膏(せきかう)芒硝(ばうせう)も恐(おそ)るべからず只(たゝ)其薬の病に
應(おう)するか應せざるかを考(かんかふ)べしさて薬(くすり)ハ病(やまい)あらバ服(ふく)すべし
病なきに薬を服(ふく)するは壁(かべ)の裏(うら)に柱(はしら)を添(そへる)るかごとし
とて益(ゑき)ハなくして大に害(がい)をなす事あり針灸(はりきう)導(とう)【左ルビ:さ】
引(いん)【左ルビ:すり】なとも妄(ミだり)に好(この)むハ同じことなり
 病家醫者を招(まね)く心得
医者(いしや)を招(まね)くに心得(こころえ)あるべき事なり病人(ひやうにん)によりて捕(ほ)

薬(やく)を好(この)むあり瀉剤(しやざい)を好むあり温剤(うんさい)【左ルビ:あたゝめ】ぎらひあり寒(かん)【左ルビ:ひやす】
剤(ざい)ぎらひあり温補(うんほ)を好む人ハ補薬(ほやく)さへ用ゆれバ命(いのち)
の延(のび)る様(やう)に思ひ道三流(どうさんりう)の医者を招(まね)きかりそめの
疾(やまい)にも人参(にんじん)の入る薬をのミ却(かへつ)而/大病(たいびやう)となるもの有(あり)
又大病にて専(もつは)ら攻撃(こうげき)すべき症(しやう)にても古方(こはう)家の療(りやう)
治(じ)ハあらきとて招(まね)かす瀉剤(しやざい)【左ルビ:くだし】ハ脾胃(ひい)に害(がい)ありとて用ひ
ず終に不治(ふじ)【左ルビ:なをらす】となるあり又 寒涼攻撃(かんりやうこうげき)を好む人は後世(こうせい)
の感冒(がいき)にも白虎湯(びゃくことう)の大柴胡湯(だいさいことう)のといふをよろこび常(つね)
に三 黄丸(わうぐハん)抵當丸(ていとうぐハん)などを用ひ過(すぎ)て命(いのち)を損(そん)ずるあり
病家すへて此癖(このくせ)ありて假令(たとひ)医者を轉(てん)ずれとも温剤(うんさい)
を好(この)む家(いゑ)ハ温薬(うんやく)つかい斗(ばかり)を招(まね)き寒剤(かんざい)を好(この)む家(いゑ)にハ
寒薬つかいばかりを招(まね)くたま〳〵了簡(りようけん)のかハりたる医者
きたれバ其(その)薬(くすり)を用(もち)ひずこれ大なる誤(あやま)りなり先医(せんい)の
薬にて効(こう)なきものなれバたとひ心に叶(かな)ハずともかハり
たる了簡(りようけん)の医者を用ゆべしさすれハ医を轉(てん)【左ルビ:かへる】ずるの
功あり又 近頃(ちかころ)の医者は病人にあたらぬ様(やう)にとて
平和(へいわ)【左ルビ:やはらな】なる薬方(やくはう)づくりにて療治(りやうぢ)するゆへ軽(かろ)き病ハ
自然(じねん)と治(ぢ)し少(すこ)しにても病勢(びやうせい)つよけれハ薬カ
病勢(ひやうせい)にまけて傷寒(しやうかん)ほどの大熱(だいねつ)をうぢ〳〵とすて

おくゆへ終(つい)に難治(なんじ)【左ルビ:なをりかぬる】となる又 攻撃(こうげき)の剤(さい)ハ其 効(しるし)すミ
やかなれども滋補(じほ)の薬ハゆるやかなれハ急(きう)に効(こう)も見(ミ)へぬものと云てうか〳〵ときかぬ薬を久(ひさ)しく用る
ハ大(おゝき)なる誤(あやまり)なり却(かへつ)て病をおもくするものなり古方(こはう)
家(か)の寒涼攻撃(かんりやうこうげき)にて人をあやまるよりも急(きう)に目
にハミへねども甚(はなハだ)病者(びやうじや)に害(がい)あり ヶ様(かやう)の医者の治(ち)【左ルビ:なをし】し
たる病(やまい)ハ薬にて治(ち)したるにてハなし白湯(さゆ)を用ても
治する病なり又 當世(とうせい)の古方(こはう)を用る医者(いしや)ハ病(やまひ)ハなを
せども命(いのち)ハ天(てん)にまかすと云(い)ふ若(もし)薬(くすり)ちがいにて死(し)する
者(もの)も皆(みな)天命(てんめい)なりと云べしや且又(そのうへ)病(やまひ)ハなをりても
命(いのち)がなけれハ何のやくに立(たゝ)ぬ事(こと)なり病(やまゐ)を恐(おそ)るゝハ
死(し)を恐(おそ)るゝななり命(いのち)をかまハねハ医者ハいらぬ
者(もの)なり
 脉見する心得
医者(いしや)の病人(ひやうにん)を見(ミ)るに望聞問切(ばうもんもんせつ)とて四(よつ)の法(はふ)あり先(まづ)
病人の顔色形容(かほのいろかたち)を望(のぞ)ミ見(ミ)病人の聲(こえ)を聞(き)き病人
の様躰(やうだい)病因(ひやういん)などをよく〳〵たづね問(と)ひ次(つぎ)に脉(みやく)を深(しん)
切(せつせつ)に診(しん)すこれ古(いにしへ)より医術(いしゆつ)の大法(たいほう)なりしかるに當(とう)
世(せい)の医者に人心(ひとごゝろ)同しかざる事 面(おもて)のごとし脉(みやく)も
またしかり人〻(ひと〳〵)にかハりあれバびょ病證(ひやうしやう)を見るにた

らずとミへるありあらき了簡(りやうけん)なり又 或(あるひ)ハ病人の
様躰(やうたい)病因(びやういん)などを聞(き)かす脉(ミやく)はかりを見(ミ)て医者(いしや)ゟ
病因(ひやういん)様子(やうす)などをいふて病気(ひやうか)を驚(おどろか)すありこれは
巫(ミこ)山伏(やまぶし)など見どをしうらかたの類(るい)なり望聞問(ハうもんもん)
切(せつ)の問診(しん)を用(もち)ひされバ病證(ひやうしやう)ハ見(ミ)るべからずしかるを脉(ミやく)
を用ひず或(あるひ)ハ脉(ミやく)ばかりにて病症(ひやうしやう)を知(し)るといふは皆〻(ミな〳〵)
奇説(きせつ)を云(いゝ)て素人(しろうと)を欺(あさむ)くなりしかしこれにて病症(ひやうしやう)
を知(し)り薬(くすり)を用ひて一〻効(しるし)あらハ名医(めいい)なり効(しるし)なけ
ればかたりの賊(ぬすびと)なり
 醫者(いしや)の言(ことバ)に取捨(しゆしや)ある心得
信(しんして)_レ巫(ふを)不(す)信(しんせ)_レ醫(いを)とハ扁鵲(へんじやく)六不治(むつのふじ)の一 ̄ツ なりこれハ巫(ミこ)道士(やまふし)な
どどのいふ事(こと)を信(しん)して醫者(いしや)の言(いふ)ことを信用(しんよう)【左ルビ:しんしもちひ】せざる病人(ひやうにん)ハ
治(ち)せずとなりまづ病人(ひやうにん)ハ医者(いしや)の言(ことバ)に従(した)ひ外(ほか)より
彼是(かれこれ)と差出(さしいつ)るごとを用(もち)ゆべからずしかし醫者(いしや)のいふ
事(こと)信(しんし)しがたきことならバ其(その)医者(いしや)を轉(てん)すべきなり
又 大病(たいひやう)必死(ひつし)【「死」は「歺」+「人」[U+239B8]か】の證(しやう)にて諸醫(しよい)手(て)を尽(つく)したる後(のち)に初(はじめ)て
来(きた)れる醫者(いしや)の珎敷(めづらしき)病名(やまいのな)をつけて療治(りやうじ)するに程(ほど)な
く病人(ひひやうにん)死(しす)れハ其(その)醫者(いしや)の云(いふ)今(いま)一両日(いちりやうにち)早(はや)くバ療治(りやうじ)も
なるべきに先醫(せんい)の了簡(りやうけん)ちがいにて手(て)おくれして残(ざん)
念(ねん)なりというこれ所詮(しよせん)快氣(くわいき)せまじき様躰(やうだい)ゆへ

奇病(きひやう)を云(いふ)て素人(しろうと)を驚(おとろか)し過(あやまち)を先医(せんい)におゝせ我術(わじゆつ)
を衒(てらふ)なり病家(ひやうか)ヶ様(かやう)の言(ことバ)に迷(まよ)ひて今少(いますこ)し早(はや)く
此(この)醫に療治(りやうじ)をたのまバ本復(ほんぶく)すべしなど〳〵公開(こうくわい)する
ハ大なる惑(まどひ)なり又 今時(いまどき)はやり療治(りやうし)する人に病人(ひやうにん)を
請合(うけあい)て治(なを)すと云(いふ)医者(いしや)まゝありこれハ病家(ひやうか)に慥(たしか)に
思(おも)わせて薬(くすり)を賣付(うりつく)るなりこれらの言(ことバ)ハ必(かなら)す信(しん)
じ用ゆべからす又さすり按摩(あんま)とりなどの言(ことバ)をむさ
と信すべからず按摩(あんま)とりなどに病(やまい)のわけを知(し)る人
ハすくなきもの也
 薬を煎ずる心得
薬(くすり)を煎(せん)ずる事(こと)病家(ひやうか)第一(だいいち)の心得(こゝろえ)なり随分(すいぶん)念(ねん)を入(いる)
べき事 肝要(かんよう)なり水(ミづ)の分量(ぶんりやう)生姜(しやうが)の多少(たしやう)など医者(いしや)
にとくとたづねとふべし傷寒(しやうかん)感冒(かんぼう)其外(そのほか)邪氣(しやき)にあ
たりたる病(やまい)急病(きゅうびやう)には火(ひ)をつよくして早(はや)く煎(せん)し上(あく)べ
し又 内傷(ないしやう)の病 補薬(ほやく)などハ大(たい)ていの火(ひ)にて緩〻(ゆる〳〵)と煎(せん)
ずべししかしあまりぬるき火はあしゝ扨(さて)煎(せん)しあげ
たらバ其(その)まゝ薬袋(くすりぶくろ)をあげ置(おく)べし薬袋をつけて
おけバ薬氣(やくき)もどるなり又 嘔吐(ゑづき)の症(しやう)か或ハつかへ又ハ薬
ぎらいにハ初(ハじめ)に湯(ゆ)をたゝせ薬(くすり)を入(いれ)随分(すいぶん)つよき火ニて
急(きう)に煎(せん)ずべし又 人参(にんじん)の入薬ならハ別(わけ)て念(ねん)を入れ

【右丁】
腰痛宜

枸杞(くこ) 黒豆(くろまめ) 大根(たいこん) 粟(あわ) 蒲公(たんぼヾ) 胡麻(ごま)
干梅(ほしむめ) 藕(はす) 栗(くり) 山芋(やまのいも) 零餘子(むかこ) 野老(ところ)

禁物

糯(もちごめ) 麺(めんるい) 蕎麥(そは) 瓜(うり) 蕨(わらび) 枇杷(びわ) 杏(あんず) 梨(なし)
茄(なすび) 胡瓜(きうり) 茗荷(めうが) 酢(す) 鮓(すし) 菌(くさびら) 鯛(たひ) 鮎(あゆ) 鯽(ふな)

疝氣宜

黄粱(きび) 小豆(あづき) 大根(だいこん) 葱白(ひともし) 芥子(からし) 山椒(さんせう)
胡桃(くるみ) 牛房(こほう) 苣(ちさ) 蒲公(たんほゝ) 莧(ひゆ) 姜(はじかみ) 獨活(うど) 烏賊(いか)
田螺(たにし) 海月(くらげ) 蛎(かき) 鰻(うなき)

禁物

稷(ひゑ) 油(あぶら) 豆腐(とうふ) 御米(けし) 糯(もちごめ) 麪(めんるい) 茄(なすび) 瓜(うり)
蓼(たで) 蕨(わらび) 菌(くさひら) 林檎(りんご) 楊梅(やまもゝ) 鯽(ふな) 鱒(ます) 鮎(あゆ)

腳氣(かつけ)宜

牛房(ごばう) 枸杞(くこ) 黒豆(くろまめ) 小豆(あづき) 粱(きひ) 粟(あわ) 獨活(うど)

【左丁】
山椒(さんせう) 葡萄(ふどう) 梅(むめ) 干梅(ほしむめ) 橘(みかん) 柑子(かうじ) 柚(ゆ) 栗(くり) 山芋(やまのいも)
胡桃(くるみ) 覆盆(いちご) 胡麻(ごま) 角豆(ささげ) 韮(にら) 蒜(にんにく) 莇(あざみ) 葱(ひともじ) 藕(はす)
昆布(こんぶ) 和布(わかめ) 陟釐(あをのり) 蘩蔞(はこべ) 鯖(さば) 鰻(うなぎ) 鱧(はも) 鯛(たひ) 鮭(さけ)
田螺(たにし) 海鼠(なまこ) 海月(くらげ) 蛤蜊(はまぐり) 鮑(あわび)

禁物

糯(もちごめ) 麪(めんるい) 蕎麥(そば) 蕨(わらび) 黄瓜(きうり) 茗荷(めうが) 茄(なすび) 林檎(りんこ)
杏(あんず) 楊梅(やまもゝ) 餅(もち) 烏芋(くろぐわい) 夕顔(ゆふかほ) 大根(だいこん) 莧(ひゆ) 菘菜(ふりつけな)【菘は漬菜 ふり?は不明】 笋(たけのこ)
酢(す) 酒(さけ) 鮎(あゆ) 蛸(たこ) 鮓(すし) 鯰(なます)

通風(つうふう)宜

大根(だいこん) 牛房(こほう) 粱(きび) 山椒(さんせう) 枸杞(くこ) 芹(せり)

禁物

麪(めんるい) 油(あぶら) 蕨(わらび) 蕎麦(そば) 黄瓜(きうり) 瓠(ひさこ) 茗荷(めうが)
諸肉(しよにく)

長生法

【収蔵用外箱(帙)・表紙】
長生法

【収蔵用外箱(帙)・背表紙】
長生法 一冊

【整理ラベル・富士川本/チ/98】

【収蔵用外箱(帙)・表紙】
長生法

【冊子 表紙題箋】
長生法 初編 全

【資料整理ラベル】
富士川本

98

辻恕介抄譯
《割書:扶|氏》長生法
理外無物樓蔵板



から国(クニ)のいにしへには方士(マジナヒビト)といふもの有
て不老不死の業なといひてあらぬ物
もて代々(ヨヽ)の帝王(ミカド)をあさむきけり西(ニシノ)
洋(クニ)にもかゝるたくひのこと多かりけれと
今は学の道ひらけゆくものから迷神(マヨハシガミ)
のましこり【注①】もおのつからたえ果て真(マコ)
正(ト)の長生方を物せし書(フミ)の世にあら
はれたるかいとおむかしさ【注②】にかくなん

【朱印・京都帝国大学図書之印】
【朱印・富士川游寄贈】
【黒印・186140 大正7.3.31】


【注① まじこり(蠱凝り)=「マジ」は「マジナイ」の「マジ」に同じ。呪術に熱中する】
【注② おむがし=よろこばしい】

大かたの人のねかひの末つひに
 なるへにこともいのちなりけり
おのが身におふともら伝いく薬
 よもきか島に
     何もとめけむ
        源ノ極何ノ■【春ヵ】蔵



長生法初編

     江戸     嵐山芳策 閲
     松本     辻 恕介譯《割書:並》註

 〇大氣
人の氣中に居るは、猶 ̄ホ魚の水中に在るが如し、氣
身躰に觸れば、口則ち呼吸す、氣無れば人生活せ
ず、氣穢汚なれば呼吸に害あり、此悪汚の起る所
を明知して、之を浄潔せんことは、長生法 ̄の第一た
り、故に筆を爰に起すと云ふ、

氣含む所の汚物、種々なりとす、就中恐るべき者
は、炭酸氣是 ̄レなり此氣生ずる所更に多し、即ち人
畜の呼氣、炭火◦薪熖◦燈火等是 ̄レなり、其理大畧左の
如し、
夫 ̄レ大氣は窒素と酸素の混和物なり、氣人の肺中
に入れば、酸素は血中の炭素と親和し血液浄潔
の後、炭酸と為り、呼氣に從て躰外に出 ̄テ、氣中に飛
散す、抑炭酸氣は呼吸に害あり、衆人一所に群衆
すれば、此氣随て多し、此時頭痛 眩暈(めまい)等を起すは、
此毒氣に中れるなり、全少時 戯塲(しばゐ)を好めり、然れ
ども、此所に遊べば必す欝悶す、登時(そのじぶん)此理を知ら
ず、後漸く之を知て、遂に戯塲を顧みず、若 ̄シ夫 ̄レ事あ
つて、衆人一室に連 ̄リ坐せば、屡《割書:々》障戸を開て、新氣を
通ずべし、
 血は心より出 ̄テ、血脉より周身を運行し、再び心
 裏に歸る、此時血◦紫黒色を帯るは、炭分等を含
 むに因す、乃ち先づ肺に入り、酸素に逢て再び
 紅色と為る、則ち炭分は、酸素と親和して、炭酸
 氣と為り、躰中を謝し去る、尚 ̄ホ細論を知らんと
 欲せば、人身究理の書を讀むべし、
抑々物躰の焚焼するは、全く酸素の力に依る、炭◦薪
の如き者といへども、酸素無ければ、発火に縁な

し、故に炭火◦薪㷔の類は、徐々に室内の酸素を吸
収し、炭酸と成て四方に散布す、若し室内の氣新
陳交代せざれば、炭酸の量漸々増加して、人畜遂
に斃る事必せり、冬時温室内に在て、往々頭痛眩
暈等を起すは、炭酸の所為に因る事夛し、又輓近
人身究理家の所説に據れば、卒中の諸症を發す
る事、更に疑を容るべからず、故に火力を以て温
煖を取れば、寒氣防ぎ昜く、毒氣防ぎ難し、思ふに
寒を忍ぶは、害なきに非ずといへども、毒氣を吸
収して、疾病を招くに勝れり、(𤇆突は、炭酸氣を驅
逐するの要器なり、其用法に就て、論示すべき事、

少からずと雖、之を後編器械の條下に讓る、)
 試に火爐を日光中に置き遥に之を望めば、火
 辺に一種の氣を見る、是 ̄レ即ち炭酸なり
  室中に酸素を増加し、炭素を減却するの簡
  法
 水盤に夥く緑葉を插み、或は大瓶に石灰水に盛
 て之を室内に置くべし、《割書:夜間は緑葉を|遠くべし》
 動物炭酸を吐けば、植物之を取て、其炭分を奪
 ひ、純粹の酸素を吐く、是 ̄レ酸素の缺乏せざる所
 以なり、動植此 ̄クの如く相資くるは、実に造化の
 妙手段と云ふべし、故に都下の如き、村落に比

 すれば、人身に害あること、推して知るべし、此
 等の理論は、理学化学の書に詳なり、有志の士、
 必らず之を讀むべし、
 炭素と酸素の親和物は、酸化炭素(◦◦◦◦)及ひ炭酸(◦◦)是 ̄レ
 なり、甲の毒は乙の毒に勝る、甲乙相異る所は、
 酸素の量に多少あるのみ、
氣含む所の汚物甚た多し、今枚擧せずと雖、偏に
浄潔を思はゞ、悪蒸氣を放つ者の如きは、一切之
を遠くべし、故に汚衣腐魚の類は、居室の辺に置
く可からず、厠は力所及(なるたけ)遠きを良とす、尚 ̄ホ居室の
條下を参考すべし、

 ○飲食
人の生は其血に在り、血の源は飲食是 ̄レ なり、抑《割書:〻》食
物は胃に入り、消化の後津液と為り、遂に血と成
て全身を養ふ、故に飲食の好悪に隨て、血に良否
あり、血の良否に隨て、身躰に强弱あり、粗食の国
は、人民弱なるを以て知るべし、然れども過食は
大害あり、胃は消化(こなれ)の機を司ると雖、其質◦强 ̄キを極 ̄ハ め
ず、一朝損敗すれば、百病隨て生す、豈慎まざるべ
けんや、是 ̄レ長生法中、最も務むべきの急たり、若 ̄シ夫 ̄レ
之を忽(ゆるかせ)にする時は、他法を守るも、無益に属すべ
し、

凡そ飲食は、各人 ̄の性質◦動作の多少、及び時の寒熱
等に從ひ、一日の量を定め、之に増減なき事を要
す、此量の如きも、冝しく頻々に食ふべし、一時に
飽くべからず、総て飲食は、尚 ̄ホ欲するの間に収む
べし、又大飢を俟て食ふは害あり、◯各日の食時
を定むべし、深夜に食ふ可からず、食後直ちに眠
るべからず◯飲食の前後には、思考す可からず、
笑語戯談は甚 ̄タ隹なり、食後には必ず運動すべし、
但 ̄シ労動に過るは甚 ̄タ不隹なり、徐々に高処を登降
するは、極めて妙なりと言ふべし
朝夕の食は淡薄なるを要す、滋養の食物は昼間
に用ゆべし、◯夏日は多く肉食すべからず、暖国
亦然り◯熱食は消化機に害あり、冝しく冷物を
食ふべし、然れども熱食に慣れたる人、急に冷食
するは害あり、故に漸々此慣 ̄レを廃止すべし、◯食後
直ちに水を飲み、其後一時《割書:凡そ我|が半時》の間は禁すべ
し、
肉類は消化最も易く、又血となるの原質甚だ多
し、就中獣肉を良とす、鳥肉之に亜(つ)ぐ、魚肉は末な
り、◯五穀は最も食に供すべし、然れども渣滓【左ルビ:カス】甚
た多く血となるの原質少しとす、唯脂肪を生ず

 ◯家屋
家屋は、風-雨霜-雪等を、凌て足らんか、否◦然らず、注
意すべき事件、大畧左の如し、
居室は、/力所及(なるたけ)床下を高くし、極めて感想なるを
要す、湿地に住する人は、殊に茲に注意すべし、病
其因を、湿氣に取る者甚 ̄タ夛し、(居室は二階三階を
良とす、嘗て脚氣を患ふるの人、二階に住するこ
と三 ̄ヶ月にして、全治せし例あり、)
障戸に隙なきを要す、戸隙の風は人身に害あり、
但し居室久しく密閉すれば、氣◦腐敗するの患あ
り、故に時々障戸を開て、新氣を通ずべし
居室の壁は、白色■、淡緑色を良とす、
寝室の注意は、大抵居室に同し、但し寝室は、晝間
盡く障戸を開き、/晡時(ななつさがり)之を閉さし、就眠の前暫時
之を開き、再び密閉すべし、
夜間寝室に燈燭を點すべからず
臥床は高きを良とす《割書:本邦 ̄は別に臥床を設けずして、直に畳に臥す、|其害、幾許ぞや本文を見て戒心すべし》
厠は屎尿を納む、不潔言ふべからず、故に居室に
接するは大害あり、務めて之を離隔し、屡く掃潔す
べし、(厠の造作に法あり、後編に詳なり、)
尿は腐敗の後、一種の毒氣を放つ、決して之に近
くべからず、

 ◯睡眠
人寝むるの間は、霊液を費し、費すこと漸く夛け
れば、睡を催す、睡中霊液元 ̄トに復すれば即ち醒む、故に
睡眠足らざれば、霊液随て缺耗し、人身又健康な
ること能わず、又睡眠多きに過くれば、血液運行
遅滞等の害あり、唯過不及なきを以て、最要とす
べし、
古人曰く、暁色は人に/金(きん)を与ふ ̄ト、是れ早起の人身
に益ある謂 ̄ヒ なり、然れども唯◦早起を守て、早眠を
/忽(ゆるかせ)にするは害あり、/甲夜(よい)の就眠、/爽明(よあけ)の早起とて、
古来養生家 ̄の、専ら務むる所なり、
読書人を見るに、爽明に早起して、読書するは
よし、深夜に至れども、机上を離れず、甚しきに
至ては徹夜し、明朝尚寐ねず、愚も亦甚哉、是れ
漢土の常論に習て、鞭策而巳を良とするなり、
苟も窮理の一端を知る者は、豈此 ̄クの如き所置
あらんや、故に読書人の勉勵家は、身-躰脆-弱、勇
気少く、無用の人は甚た多し、
或《割書:人|》曰、勉学は国家の為めなり、然るに、其法を知
らずして廢物となり、却て国家の厄介となる、
其愚憐むべし、

床中注意すべき事件左の如し
睡中身躰を屈曲すべからず
手を胸腹に揚ぐべからず
枕の低きと固きとを禁ず
身躰の上部は軽き物を覆ふべし《割書:総て衾衣の重|きは害ありと》
《割書:云ふ|》

 ○浴湯
夫れ皮膚は、無数の氣孔あつて、是より躰内無用
の物を廢泄し、又有用の物を吸収す、肉眼◦嘗て及
はずといへども、蒸氣◦常に躰外に濛々たり、是れ
即ち人身◦無用の汚物にして、これを蒸発氣と稱す、
若 ̄シ夫 ̄レ障妨あつて、此氣一 ̄ど止まれば、悪寒◦発熱等を
起す、世に風邪と稱する者は、寒冷の為に氣孔◦閉
塞し、汚物◦血中に留るよりして発するなり、人◦久
しく浴せざれば、脂垢◦全躰に生じて、氣孔を閉塞
し、遂に病を発すは、是れ前文の理と相同し、浴や
怠るべからず、但し之に就て、注意すべき事件◦甚

た多し、今其要なる者を述ること左の如し、
浴後◦躶躰にて、涼を納るヽは害あり、速に衣服を
着し、少〳〵運動すべし、
熱湯に浴するは大害あり、温水浴◦寒水浴甚た佳
なり、但し水中に石鹸を浴解せば、益《割書:〳〵|》良なり、
浴中◦皮を以て、身を刷擦すべし、
浴後◦頭上に、数回冷水を注くべし、
毎日◦一回の浴を怠るべからず、夏日◦発汗◦夛きの
時は、二回なるもよし、三回は夛きに過ぐべし、
食の前後には浴すべからず、忿怒◦悲哀の情ある
時又然り、
聞説米人ペルリ【右傍線】、初めて日本に来りし時、一浴
事に就て、三驚嘆せり、其一は熱湯浴、其一は男
女◦混浴、其一は浴後の躶躰なりと云ふ、ペルリ【右傍線】
驚嘆の事は、同人の日本紀行にも、見へたりと、」
官嘗て男女混浴を禁ず、故に江戸市中の/混堂(ゆや)
には、此悪風を見ずと雖も、他所には今尚 ̄ホ有り
と聞く、先年清人横濱竹枝の中にも、此悪風を
譏れり、

 ○運動
坐して業を務むる人、身軀の運動少き時は、躰中
の諸機、奮起することなく、遂に疾病を醸すに至
る、苦諫す世上坐業の人、決して運動を怠ること
なかれ、
  運動の注意
食後はは半分時許安坐し、然 ̄る後◦徐歩すべし、総して労
動は、有害◦無益と知るべし、(高所を徐々に登降す
るは極めてよし、)
冬時は運動、夏時より多かるべし、
寒国に住する人は、殊に夛く運動すべし、湿地に
住する人また然り
午後には餘り運動すべからず、朝夕を以て最良
と為すなり、
 坐業の中、讀書寫字等 ̄は専ら精神を使役す、故に
 勤敏の間、放学運動は勿論、時々快楽樂して精神
 を養ふべし、西国の学校には、ギ【キに半濁音】ムナスチーキ【左傍線】
 といひて、踊躍動作を学ふの場所ありて、毎日
 児童をして、一定時間、身体を動 ̄か さしむるの制
 度あり、

 ○房事
壮年健康の人と雖も、房労過度なる時は、病必ら
ず生ず、況や老少にして淫乱なるは、無二の命を
以て、淫樂を買ふに似たり、豈/愚魯(おろか)と言はざるべ
■【からヵ】んや、
/手淫(せんずり)は、天理に背くの最大なる者ににして、人身に
害あること最も甚し、長生を思ふの人、決して此
卑事を行ふこと勿れ、
 嘗て一洋医の話を聞くに、一度の房事は六オ
 ンス【左傍線】の瀉血に同く、一度の手淫は六度の房事に同
 しと言へり、手淫の人身に害あること、推して知るべし

 ○旅行
旅の利益は、/勝(あげ)て言ふべからず、是 ̄レ衆人の普く知
る所、今更に記載せずと雖も、長旅に歳月を/累(かさ)ね
て、/旅宿(たびね)の憂苦を覚ゆるは《割書:大|》害あり、唯短旅頻憩を
以て、長生の妙法といふべし、
多血家は旅すべからざる者あり、故に/首途(かどいで)の前、
先づ医家に走て、旅すべきや否やを細問すべし、」
今左に旅中の/注意(こゝろゑ)を畧説して、茲に初編の筆を
/閣(さしお)く、
旅中乗◦歩の一に片すべからず○舩中に在ては、
時々行作を替ふべし、即ち或は坐し或は臥し或

倚るべし○夜行を禁ず、
飲食に過不及なかるべし○熱飲を禁ず、○水に
橙汁を加へて用ゆるを最良と言ふべし、
蒸発氣に遅滞なからんことを要す、若夫 ̄レ皮膚の
感觸鋭敏なる人は、旅中常に、フラネル【左傍線】の帽子を
戴くべし、
身躰の浄潔最も緊要たり、故に沐浴を怠るべか
らず、

長生法初編《割書:終|》