NDL鳥居清長の翻刻テキスト

このテキストはみんなで翻刻で作成したものです.利用条件はCC-BYです.

名代干菓子山殿

名代干菓子山殿 全

安永七
        番外壱

名代干菓子山殿 完

      口上
一甘ふは御座りますれどもおことわり
 申上ます去年中の新板物殊之外
 御子様方の御きけんに入ありがたき
 仕合に奉存ます是によつて
 こんへいも何ぞめづらしき
 趣向もあるへいと
 ぞんじますれど
 ちゑも小りんの
 事ゆへむかし〳〵の
 草ぞうしをみどりほふもん
 みな〳〵さまのひやうばんを
 松風に桜あめ花ぼふろ
 さかせたくくろさとうの
 三冊物大ころばしとも思召
 御読被下さふらはばせんべい
 ありがたかるやきとあまい
 ことばに筆をとめ
 まいらせ候

【画中中央、紙面】
《割書:戌年|新版》目録
神田与吉一代噺
    上中下
掘出し
  天□の皮
    上中下
□打目貫獅子
    上中下
かみなりへそ
    喰金
    上下
化物箱根の先
    上下
名代干菓子山殿
    上中下
  以上

【画中左】
奥付
絵草紙□□

こゝにおぼろ
まんちう【朧饅頭】にあら
ずたゝのまんぢう
九代のそん【孫?】京都
ひくわし山どの【干菓子山殿】
とて六十余州
をおさめ
給ひじやう
ごはすこし
そしるとも
子にひかさるゝおや
こゝろきせんなんによ【貴賤男女?】の
しやへつなくうやまい
したわぬ人もなくきみの
いとく【君の威徳】ぞすさまじき

ひくわし山とのおん
ちやをすきたまい
御ひそう【御秘蔵】のちやわん
らくがんがせがれ小らく
かんへ御あづけあそ
ばしちゝのひそうせし
ちやわんずいぶん
大切にいたすべし

【挿絵内・小らくがんセリフ】
いさいかし
 こまり
  まし
   た

【挿絵内・大らくがんセリフ】
せがれ
ありがたい
きよい【御意?】じやそ
大切にいたせ



小らくがんはとのより大切のちやわんを
あづかりたちかへるおりからおくがたの
こしもとまつ風□ねて【かねて?】らくがんに
心をかけしによきおりから
なればおもひのたけを
あかす

らくがんも
松風がいろか 【松風が色香に愛で?】
にめでわり
なき
中と  【わりなき仲】
なる

こん平とうは
あるへいより
のまわし物
にてらくかん
がそうり    【草履掴み?】
つかみとなり 
かねてひくわし 【干菓子山殿秘蔵の茶碗】
山とのひそう
のちやわん
をばいとら
んといりこみ
らくがんがあづ
かりしゆへ
なんなく
うばいとり
たちのく

【画中の下】
もしおは
かまの
こしが
まがり
ました
なをして
あけ
ませふ

あまくちな
してやらん

【画中の左】
こしもと
もみぢ
小りんやう
すをたちきゝ
松風さんはうまいの

小らく
かんは
とのより
御あつけ
のちやわん
ふんぢつせし
ゆへすくにやか
たをしつほん
せしおやらく
かんおとろき
せつふくせんと
かくごきわめし
おりからあい
かろう花
ほうろ来り
しばしせん
きの
うち
たづね
たし
めされ
しはいつたんにして
や□□はなほうろらく
かんはふたりはなれぬ中ゆへ
     いろ〳〵といさめる
【大落雁セリフ】
なにめん
ほくに
なからゑん

【右ページ下】
小らくかん
ちやわんをうし
ないはらきらんと
するを松風とめる

なるほど
もつとも
てこさんす
かみんな
わたしか
らおこつた
ことおまゑが
はらを
きりなさ
ればその
ちや
わん
がで



いの

な 



せんぎ
しておわひなさる
こゝろはないかいな
しぬれはいぬじにじやが


こゝにとうくわし【唐菓子?】の中にもずい一とよばれし
あるへいとう【有平糖】あまり人のそんき□うに
よりひにましおごりをきわめおふく【多く?】の
てしたをこしらへかねてひくわし山殿【干菓子山殿】
ひそふのちやわんをのぞみし所てにいり
             よろこぶ 

こん平らくがんにほう
こうしてあつかりのちや
わんをばいとりふく
りんとう【福輪糖・せんべいの一種?】とすがたを
 やつしつぼの内へ入れ
 あるへいとうへ
      わたす

てしたのある平
こゝは酒の所た
がにがくて
   のめぬ

ねんらいのそみしが
かたじけない
たいぎ〳〵
ほうびはのぞ
みしたい

でくわした
  〳〵


小らくがん
あつかりの
ちやわんを
ばいとられ
松風もろとも
すかたをやつし
ちやわんの
せんき
ゆへ

から

やき
おちや
わん
くわし
うりと
なり
けら

【下へ続く】
こん平を
たづねいた
さんとしよ
〳〵ほう〴〵
とさかしあるく

【右ページ挿絵内・右中】
からつやきの
御ちやわん
 くわし

名代〳〵〳〵

【右ページ挿絵内・下】
はぜももよ□□
ちやわん
しや

まちぢうひやう
はんゆへはぜとも
かう

【右ページ挿絵内・左】
ひやうばんのちやわんくわしめしませ〳〵

【左ページ本文】
さて□とうくわしのやうがいはまいの
うみはさとうのうしろはけわしき
とうりさとう山あたりのすなは白さとう
もんのがくにはきんか
とうといふもじを
うちさん
かんあめと
いふはたを
たいてわん
かたなき
けつこう
  なり

【左ページ挿絵内】
黒さ
とう

はま


ひくわし山どの【干菓子山殿】ひそう【秘蔵】
のちやわんなにもの
ともなくばいとられ
いろ〳〵と御せんぎ
ありしにあるへい【有平糖】が

ばいとり
しとしれ
とふく□【唐菓子】
大王□
さしあけ
しと
おもひ
じやく
しと
して
かせ
いた【加勢以多・熊本銘菓?】
をと
かい【渡海?】
させ
ちや
わんの
あり
しよを
たつぬる

しゆじんはなはたひそふのしな
ふんじつ【紛失?】いたしわれ〳〵まて
がてんがまいらぬとふくわし大王【唐菓子大王】
きこしめしいま日本とすい
ぎよのまじわり【水魚の交わり】かゝるふしん
かゝりきのどくせんばんいか
やふ【如何様】ともせんきしてひくわし
山とのゝうたがいをはらさん

【挿絵内右ページ】
かせいた【加勢以多?=熊本銘菓】を
御たのみ
申ます

【挿絵内左ページ】
ひしやかん

唐くわし大王

てんもんどふ

□ふくわし大王【唐菓子大王】
ちやわんあるへい
とう【有平糖】がばいとりしと
きゝたまひいろ〳〵と
きんみ【吟味】し給ひどもある
平ゆきがたしれぬ【行き方知れぬ】
ゆへひくわし山【干菓子山】へいゝわけ
なくせがれがくびうつて
日本のいゝわけに
せんとかんろう
とう【甘露糖?】をけんし
につかわしけん
ふんのためかせ
いた【加勢以多?】をともないけり

あるへいのかしんけしとう【けし糖?】
大王のせうい【上意】ゆへあるへい
のせがれをうたんと
うけおふ


けしとふしゆじんのなんぎぜひなく
うたんとおもひしにわがせがれおなじ大
きさなれともしゆじんは上ひんそれ
  がしがせかれは

 おなしあるへいなれ
 どもやふ〳〵壱文
 弐文にてもにつ
 かぬゆきと
 すみ【似ても似つかぬ雪と墨】ちうぎのため
 とはいゝながらみなみ
 かせに
 て
 き
 ゑて
 も
 しま
 いたき
 ふぜい也

けしとふかせがれ
なにこゝろなく
あそびいる所を
くびうちおとし
おみかわりに
たつる


ある平につ
けいとうが   【有平糖と肉桂糖?が】
すいぎよにて  【水魚の交わりにて?】
ちんきやくやう 【珍客?】
かんおしやう  【羊羹和尚】
ぎうひを    【求肥を】
ちやを
ふるまふ

かねてのそみしちやわん  【予て望みし茶碗で】
につけいとうといふこゝろ 【肉桂糖という】
やすきいしやののそみに  【心安き医者の望みにより】
よりむしくわしの     【蒸し菓子?蒸羊羹のこと?】
せんせいへちやを     【先生へ茶をふるまう】
ふるまふ

【画中の右中央】
とうろが
よくさび
ました

【画中の左】
くちとりの  【口取りの】
しゆこうに  【趣向に】
とんとこまる 【とんと困る】


ある
へい
とう【有平糖】は
ちやの
ゆにて
しうしつ【終日?】ち
そうしけれは
につけいとう【肉桂糖】
やうかんおせう【羊羹和尚】
はやわらかに見へ
れどもかたい人ゆへ
さきへかへしぎうひ【求肥】
ひとりのこりある
へいによしわらをすゝ
むる此間つきだしの松
風とてとんだ
うつくしいものが
ござるせんせいも

ちと
おい

なさ

とけ
〳〵と
なり
ます

ちとは
やいきて
中の町を
はり
ませう

いかさまちよびと
しこふいたそふ

【右ページ】
こらく
がんはあつかりのちやわんをばいとられしよ〳〵
をたづぬれどもありかしれず人の大せいあつまる
所にはてがゞりもあらんと女ほう【女房】松風をけいせいに
うり【傾城に売り】そのみもよしわらへいりこみある平がかたに
あるともしらずまい日〳〵松風にあいにかよいけり

はやがえりが
よいおいらが
かぶのひがしが
しらんで
かへりは
ねア

【左ページ】
らくがん松風が
中の丁へでる道にて
あいよいてがゝりも
ないかとやふす【様子】を
きゝし所をあるへいが
てしたのだある平
どもやふすをたち
きく

かならず
たん
きな
きを
おだしあそはすな

松風かむろみとり

中の町
さくらあめの
さかりこんけんきり
やのみせ
ここなだまつ
かぜめがくじ
とりにでもでろ

けいせいよしの

ふきよせ

ふかあみかさの
さむらいやふすをたちきく
〽あるへいとふはひやう
ばんの松
風にかよ
いどもふか
つけるゆへ
かてんゆかぬ
とおもひて
したの
ものにせん
ぎさせけれ
はまぶ【間夫】のあるといふ
ことをきゝ中の丁の
人なかにて松かせを
いろ〳〵と
あつこうし

だくわし【駄菓子?】に□りして
やすうりとうせんに
こなしけり

らくがんあるへいと
あいてにならんと
するを松風せいす
おまへがでなんしては
ためになりん
せん

おやこわ
らしい
すきん
せんによ

かむろ
みとり

【右頁上】
はんにん
大ころ
ばし
【右頁下】
らくがんは中の丁にて松風があるへいとの
たてひきをむねんにおもひしかへしを
せんとどてにまちている所へその
ばにたちきゝせしさむらいらく
     がんがにける
     ほうへゆき
     あたりしゆへ
     こうろんに
    なりなんなく
  とつてひきすへあみ
  がさをとればいぜん
  つかいしこんへい
  とう【金平糖】なり
【右頁中】
うぬゆへにいろ〳〵と
くろふするちやわん
のありかを

ぬかせ〳〵
どふた〳〵


【左頁上】
らくかんさんちや
わんのありかゞ
しれたかへうれしや
      〳〵
【左頁中】
ひととふり申たきしさいありかならず
りやうしあそはすな大小をなけだし
ましたなるほどちやわんはたのまれて
ほうびのかねにあくしんおこりさん
だいそうおんのしゆじんへなんきを
かけくにもとへたちかへりしにやふせう【幼少?】の
ときよりほうこういたしはゝのものかたり
をうけ給はればおまへとはちきやうだい【乳兄弟】
おまへのうばのはくせつこう【白雪糕=落雁に似た菓子】がせかれで
ござりますおきつかいなされますなちや
          わんのあり
          しよも申
          ますとせん
           をくゆる 

 

あるへいとうがちや
わんをしよしする
よしひくわし山との
ゑらくかんより
うつたへけれはとり
てのものすかた
をやつし
とうじんあめ【唐人飴…文政の頃から明治にかけて唐人のような装束をして唐人笛を吹き、歌ったり踊ったりして売り歩いた飴】
とへいあめ【土平飴…明和の頃土平屋という者が江戸町中を売り歩いた飴】
おこたあめ
あまいたあめと【あまいだ飴…あまいだ節をうたいながら売り歩いた飴】

いろ〳〵にさまをかへとりまく
あるへいとうもこゝをせんとゞ
はたらきけるゆへすこし
てにあまり
し所へしは
らくにて
団十郎せんべい
いであるへいを
からめる

【画中、右ページ左上】
かたはし
なできり
だそ

【画中、右ページ右下】
させい
いた
〳〵
〳〵

【画中、左ページ上】
こちらのうでにも
せんべい

き【煎餅力と千人力がかかる】

【画中、左ページ右下】
三平へれ〳〵
とつこいへい

【画中、左ページ中下】
あるへい
細工の

くわし

みぢん

なり

あるへいとう【有平糖】はかり
事にてからめとられ
ひくわし山とのゝ御せん【干菓子山殿の御前へ】
ゑ引いだされし所へ
かすてらのちうし【かす寺の住持?】よう   
かんおしやう【羊羹和尚】のねかいにて 
これまてのこゝろをあらた
め申わけにはてしたのある
へい上くわし【上菓子?】のふをはな
しへつにとふくわし【唐菓子】
となをつけちやの
ゆのはしよへはいつ
せつでませめやうに
いたさせませう

【画中の右】
だるまとう

【画中の右下】
ちやわん
をさし
あけ
おこりの
こゝ






かみ
しも

はい
りやうし【拝領し】いつほうの
たいしやう
となり
ける

【画中の左上】

ほうろ【花ぼうろ】

ひくわし山との【干菓子山殿】
御よろ
こひ

【画中の左中】
小らくがんきさん【小落雁】
しておやのかめいを
おこしま事に【誠に】
花ほうろらくがん

両家
ろう
たいゝ
こふう
にていき
な事はす
こしもなし
かろふ
しよく

はかくあり
たきもの
なり

【画中の左端】
かせいた【加勢以多?=熊本銘菓】
唐くわし
大王へ   【唐菓子大王へ】
やう
す     【様子、書をしたためる】
しよ

したゝ
める


ひくわし山との
よりのこめん
にてらくかん
松風ふう
ふとくなりおや
らくがんはいんきよ
にてこれがほんの
らくがんなり
しよ〳〵の
くわしやより【菓子屋】
おひたゝしき
しんもつなり

【画中の右上】
おちや
あかり
ませ

【画中の下】
□□【せめ?】

し□
さ□
でも
くれ

よい


【画中の上、板壁?】
壱丁目
澤丹後
本町壱丁

【画中の上、障子】
らくがんのたい【鯛】
大ばんのせん
べい
花かまの□の
よかのしん□□つ

【右端】
鳥居清長画

【白紙】

【背表紙】

間似合嘘言曽我

新版 間似合嘘言曽我 蓬莱山人帰橋著 全

天明五乙巳年印行
  清長画

年(ねん)〻歳(さい)〻華(はな)相(あい)似(にたり)歳〻年〻曽我(そか)同からす
元禄(げんろく)延宝(ゑんほう)の春(はる)狂言(きやうげん)より此種(たね)を植(うへ)て栢莚(はくゑん)納子(とつし)【正しくは訥子で澤村訥子のこと。屋号紀伊国屋】
に至て花咲(はなさき)実結(ミ のり)少長(せうてう)定花(ぢやうくわ)に枝葉茂て
当時(とうじ)紀(き)の国(くに)屋|瀧(たき)野屋の世界(せかい)とはなりぬる此
絵草子(ゑそうし)のをもむきは芝居(しばい)の趣向(しゆかう)と一盃か以て
おかしみ半ふん浮世(うきよ)が粒(づふ)安目(やすめ)を売(うる)気(き)の
版元のねがひ巳(ミ )の初春(はつはる)の商始(あきないはじめ)と
歌|舞(ふ)伎(き)の作者(さくしや)にあやまつて申す

ねん〳〵さい〳〵筆を
とりてかくも久しひ
ものゝけん久四年の
あけたつ春の君か
代はのりだくさんの
麻上下もめでたく
た〻んてすそふく
小松とかわれとも
かはらぬものはそが
のうち父のかたき
は工藤左衛門尉と
しつてはゐれ
ども天下に
たれならぶ
ものなくゐ
こう【威光】つよけ
れはうつ事
はさてをき
かをみしる
事もなら
すしてしな
らぐならと
月日をおく
るもほんい
ならすと
ふたいのけ
らい鬼王
新左衛門は
なしのやう
に兄弟へ
きやう
けんを
おしへる

【鬼王の台詞】
これ若たん
なたち今の
世に四角文
字ばかりよ
んで父のあ
た【仇】にはとも
に天のいたゝ
かずと申由【不倶戴天の意ヵ】
はしれた事夫
よりは草そうし
てもみたりとかく
てみしかに【手短に】祐つね
さまへ取いるほうか
よふこさりませう
第一には敵の面て
いを見覚るため
明十日は箱根山
こんげんへ頼朝公
御さんけいな
れば諸大名は
いふに及はす
敵祐つねさま
もお出はひつ
ぜう【必定】頼朝公
くはんきよ跡【還御跡?】
で祐つねさまのかへり
【すぐ下へ】
を待てゑ【絵】をおゝ
ほへなさりませ【お覚えなさりませ】

【左ページ下段、曽我兄弟のせりふ】
でかした鬼王日ごろおれも
そう思ふあしたのさんけい
こそよきさい
わいなり
祐経殿
へはさたな
しに行ふ
ほどにたいき
ながらそな
たもいつて
くりやれ

「是からはやぼらし
く敵討【仇討ち】のさたを
やめてやわたの三郎へ
頼み祐つねへ取入り気
をゆるさせてしつかり
とうごきの
ないやうに
本望を
とげる
かかん
じんさ

【祐常の敬称は鬼王の台詞の途中に「祐つねさま」と平仮名で書かれており、その続きで漢字もつかわれている。漢字は殿のくずし時にも似ているが、話者が同じなのに途中で敬称が変わるのもおかしいので、「さ満」を合字的にくっつけて書いているものと解釈し「さま」とした。】

上を下へ
ゑいとう
さん花見
かなのほつ
句はとこと
やらの事
にしてこゝは
相州はこね
ごんげんへ
れい年吉
れいとし
て源頼朝
公御さんけ
いありて
くはんぎよ
も相すん
だれば跡
がためは新
かいのあら
四郎とし
てせうぶ
かはの足
がる大ぜ
いれつ
をたゞ
して
【右頁下】
守りし
中を大
名おい〳〵
下山其内に
敵工藤左衛門
尉は当時
かまくら
の□□
なれはおの
かいこうを【己が威光を。続く「立」=「威光を(押し)たてて」に続く】
立ゑぼ


ゆう
ぜんと
して出
くるを兄方
初鬼王も
はがみを
なして
むねん
かる

【右頁上の続き】
アノ
いほり
にもつこう【庵(屋根型)に木香=袖の家紋】
をつけしが
祐つね様御
ふたり様よく
御らんなさり
ませ是から
はあさひな
様を御たの
み申て八わた様へ
いゝこんてもらひはやく
かつてどをりにさへなれは
敵討はぢきになります
「こんな事ははやいがいゝのさ

「さつき
とん〳〵あん
ではなした
とほり小は
やし殿の内へ
かへりに
ゆかふ

小林かとり
もちにて八わたに
初てあふに
はわつさりと
大いそかよか
ろうといふゆへ
けふは中の丁
あふみやにて
昼より三人し
て八はたかくる
をまちしにほど
なく来りければ
みな〳〵ましめに
なつてうそを
まけだす


「おはやういらつ
しやりました
かの御はなし申
た人はこれにおり
ますびんぼうか
みの兄弟はなは
だのふこつものゆへ
すへながく御目を
かけられておつて
は大守さまへもお
めみへをいたし
たいしんぐわん
そうにござり
ます
【右頁下】
ながふ此せきで申上ます
もやぼなき只今朝いな
先生の申上ました通り
しんのいもほりでござり
ますればなんぶんよろ
しう願ひ奉ります

【右頁上の続き】

「これは〳〵御三
人さまの御て
いねいな御
あいさつま
ことにおそ
れ入ます
此やうな
せきて一
度おてあ
い申せば百度にも
ますお心やすさ
何もかもおつくるめ
てせうちの事なれ
はいさゐくつとのみ
こみさ


「すけさんは
いつもとちが
い四かくだね
もしあささん
まいつるさんと
はな□【川ヵ】さんは
おしまい申て
置ましたとら
さんはしれた事
もうお出なん
しな


「なるほと三ツ
ゆびてつめひらき
もへんちきだはた
さんもういきや
せうあん内の女ぼう
先へ立ねへおれには又しん
ぞうをあてがうのか

夫より大いそや
のまいつるが三
間の大ざしきへ
あがれは介なりか
なじみのとら計
はじきにくれ共
跡のけいせいはつ
ゆへしばらくして
来りまきゑの
たばこほんをに
らんですはれ共
いつもの初会
とはちがいすけ
なりとみな〳〵
心やすきゆへ
くだけもはやく
八はたにまい
つる時むねに花
川と盃もすん
て酒事にうつ
りにきやかにな
るうちに時むね
は色男の大通
ゆへ二丁めのせう
〳〵か事はしつ
てしらぬかほ
にてどうぞわ
がきやくにし
てあしをつ
けんと花川

あじにいろ目
をつかう


「是(これ)おいらんたち
そうきうくつに
してはいふき【煙草盆の灰落とし】へ酒
をこぼすももつてへ
ねへちとさしきを
やわらげてくんねへ
な どふかおいらを
こうのいけ
のやうにとり
あつかうの そして
おれがこんやのかみさま
へとふするつもりた
てうしもかへし
なにほども
あるもんだ
やけ【?】るすし
たはねへ


「朝さんのひげは
仲人のかんばん
さ時においらん
へおさかづき

「わたくしかへちつと
あげ申いせうか
な□みさんついで
あげ申な

【左頁下】
あん
まり
しやれ
なさんな朝いな
さん おわりやへくる
き□うさんをみる
やうにみんなわるく
いゝす□そして
まあ ぬしの

やうに
ふか
めへな五丁まちへ
くるもの か其
ひけも すら
ずに

花川は時宗に
しぬほとほれ
たれ共二丁めの
せう〳〵とな
じみのわけも
しつてゐれば
かいはなしに
あわんとさつし
やわたをせう人【世話人の誤りヵ】
にくるやうにし
てもらはんとた
のみけれはやわた
も五丁まちてし
られたかほなれは
いさゐをうけこん
て時宗をまい
つるがさしきへ
よんでたのむ
「是 時さんかんしんの時のおしやま
を入るのは外の事でもねへがあ
の花川さんか大のぼせてせひ
此すへによこしてくれろとのたつ
てのたのみは□二丁めのせ印【?】
か事はわたしがせうちたからどふぞ
かいはなしにしてくんなさんないやでは
あろうがわたしか顔を立てくんねへな
とたのまれけれは今けんもんのは八わたいやとも
いわれすていよくするあいさつする
「これは八わたさんのお仲人おそれ入ましたはな川さまの顔もつぶ□□□
□□【おまへヵ】のことばもほく【反故ヵ】にやアしやすめへいづれせうちきと□□
【右頁下】
のみや
せうげい
しやをみん
なおけは
よかつた

【左頁】
花川は時宗
かねてゐる
ひやうぶのそ
とにてうがいを
つかいそれより夜
ぎへよりかゝりせう
〳〵が事をしつた
やうにしらぬやうに
わたくしは今夜計の
おなぐさみ 其うちへは
はいつても
おじやまた
ろうのと
いふゆへ時宗
もてのあるものにてしつ
かりとこつよく【?】かいてみる

コレはな川さんかわつた事
をいゝなさるの おめへの
むねにやア二丁めの
事かあるゆへかへせう〳〵か事
をかくしやアしんせんなるほと
久しくゆきやすか人といふも
のはそふしたものでもねへのさ
事と品によつたらあつちをきれ
てどこそのうちへきめへもんでも
ねへそりやアおめへの心に有
そふな事さ
今もはたさんに申いした
通り私かやうなもので
も虎さんの所へ祐成
さんか外ならす

きなんすし
主かきてさへ
くんなんすな
らとふとも
しい す【?】

せう〳〵さんに
きやくしんでも
有時はつきあいた
と思つてきて
おくんなん

さてもそか兄弟は
おさきての
朝ひなかせ
わにて八わ
たの三郎へ
取入り吉
原大いそ
品川も度〻
ふるまい八
わたが女
房へはしばい
もきやうげん
のかはりめ〳〵
にみせければ
しきに心やす
くなりだん
〳〵としよせ
て祐つねへ目
みへの願ひも
よふ〳〵とすんて
いついつかにあわんと
おしきせの太刀馬代
にて祐つねがかまくらの
御所への出仕かけぐはい
きやくの間にて
あふなり
其元ふたりか
十郎殿五郎殿
よな初てあい
ました此間う

ち八わたかはな
してくはしく御
やうすもうけた
まはつたがしちく
すへたのもしい御
心ざしとかくおつめ
なさるはわかいうち
の事及ぶたけはせつ
しやもおせわ
いたし申そふ
扨又きのふは思
召より何より
の品き□□かけ
られはなはだ
いたみ入ますじ
こんは御ゑんりよなく
かへつてお通りなされい
そう〳〵ながらたゞ今は出仕
かけ此間にゆるりつとゝいつて
くわん〳〵とうらつけ上下の音
さはやかに出て行
兄弟のものもむかしのたいめんの
やうにさんぼうをこはすのにらみ
つけるのといふしうちはなくきにん
とあがめてへん
じも口のうち
はむきしつかり
ごうはら半分
といふつけめであ
たまをさげる

兄弟のもの
は朝ひなか
初よりの大
せわにて祐
つねへの目みへ
もしゆびよく
すみ此うへ
にも八わた
をとりは
つさぬやう
にしてお
しつけ
ふじのす
そのの御
かりは野
奉行は
工藤とさた
あるゆへはむ
きにはむき
つけて下奉行
になりとなつて
しゆひよくちゝの
あた十八年の本
望をとげんとも
くろみ人がどふい
をふがなんと思はふ
がちつともか
まはす□□しん
はまたさ□くゞ
つた【韓信の股くぐりへの言及ヵ】なぞとひ

とりで心にいけん
をくわへ祐つねに
あいしかへりかけに
八わたがやしきへゆ
きげんくわへあんない
をこいて一礼をのべる

コレ御家来だん
なおかへりの
をり申上やう
にはいよ〳〵御
ゆうけんに御
つとめなされ
めで度ぞんじ
奉ります先(まず)
もつて今朝は
大守さまへ御目
みへもしゆひよ
く相すみ御かげ
ゆへとてう〳〵
有かたくぞんじ
奉ります右御
礼として十郎五郎
御しきたいまで
参上いたしまし
た此をもむき御
きたくのをり申
上てくりやれ
 せつしやもそのをも
 むき【趣】よろしう

【右頁下】
主人八ツ時過
はきたくいたし
ますればその
せつ申きかせ
ませう

大いそやの
とらは祐成
に大ほれにて
しまいのきや
く人か有て
もざしきを
あけたりによなか
きやくがきても
もらつて出る
事はおろかつらも
出さぬゆへだん〳〵
と客もなく
なりとんたく
るしい身の上
になつたにもかま
わずまいばん祐
なりをよびかんさ
しが一本なくな
れはなべやきと
へんじわかひ
ものやりてのしう
ぎははくむくをな
わめにあわせる
やうなれとも祐成
は大名のふ
ところご
ゆへかはひ
そふとも
思はすけふ
も又ゐつゞ
【右頁下】
はな
川さん
よくき
なすつ
たこゝへ
ちよつ
とす
わん
なへ

【右頁上の続き】
けの小なべ
だてなり

 川さん客人は
 忠太さんかそん
 ならはやく
 いきなんし
 せんどのやも
 あるからやか
 ましいよ

モシ祐成さん
おたのみ申事
かありんすせん
ど時さんのき
なんした時小田
原やからくる忠
太さんかきてゐ
なんして時さん
の事をなんのか
のとやかましく
いゝしたを
いゝくるめて
よう〳〵とゑびすこうの
きものをこしらへてもらう
はづにしいしたからどうぞはつか
には時さんをよこし申てくんなし二丁めの
せう〳〵さんのほうのわけも有しないしよのてまへも
有からきつと時さんをよこし申てくんなんし其事を文にも
かきいしてつかはしいす今にこどもがふうじてきいしたらかならずとゞけておくんなんし

祐成は祐のぶ
が長やすまい
にてありけれは
時宗はじめわ
かいものより合
所でいきまを
はなしてゐる
所へ祐なりは
帰りはな川ゟ
たのまれし文
を時宗へとゞけ
れはひらいてみ
て大きにこまり
しわけは二丁め
のせう〳〵をき
れたといふはお
もてむきにて
しぬほどほれ
ていれども八わ
たへのけんもん
計でてづよく
いゝし事なれば
花川かゑびす
こうをしまつ
て中の丁でも
はらせたなら
ば箱根山に
あらぬよし
原てかみそり
さわぎをき
【右頁下】
おれがそんな
事ができよう
と思つたよいか
にけんもんだと
つてせう〳〵
をきれるといふ
□はつよすぎるそ
そして手めへは
どふするつもりだ

団三にみすがみを
かいにやつてなにゝ
する小うりはしめへ


【右頁上の続き】
かん事をお
それていやといへは
八わたがたのみし
事もつぶれるゆへ
文をみながら
とつおいつしあ
んをしきやう
げんをがんがへ
だし団三郎
にみす紙を
一じやうかい
にやる

此文を見
ねへ小田原
やのへら
ほうにき
ものをこしらへてもらう
から仕廻計できてくれろと
かいてありやすそこで此文を
ふうじて小田原やにて忠さま大
いそや御そんじよりとかいてばん
に団三に小田原やへほうりこま
せやすいかさまとはしらず
きやく人へ
とゞけるはしれた事ぐつ
とかんしやくをおこさせて
かくきやうげんがあるのさ又みすがみ
でふうじるは跡ゟふうじがみののこらぬ

ようにと
いふあんじさ

とらは祐成との色事
五丁まちにしれて客人
といふ物祐成ゟ外には
なく内しやうややりて
もたび〳〵いけんすれ
共きかぬゆへ大いそや
ていしゆ伝左もこまり
はてぜげんの惣太を
よんでそうだんする
惣太てめへをよびにやつ
たも外の事じやアねへ
せんどもはなしたとら
めはとかくへぼくた大名
の祐成めにほれて此
比はあのざましよせん
いけんでもひやうたん
でもきかぬよふすゆへ
こうしようと思ふだ
ましてにかしてやれは
祐成がやしきへゆくは
ひつしやうそこへ大
ぜいつけこんでかゝへの
遊女をぬすんだと代
官所にして金をゆすり
とるほととつて跡はやる
ともどふどもしよう此句
はどふだろう
大のみやうけいさしかししきに
つけこんではわりい二三日もたづ
ねて代官所へもうつたへた跡でつけこむかよし

それより伝左は二かい
よりとらをよびおろ
しかこいて茶などを
のませきやうくんに
かゝる
今さらあ
らためいゝ
きかずで
はないかてまへも□□
から内しようて見所あ
あれはこそそだてしに思ひ
の通り大鳥やれうれしやと
思ひしに此比のやうすはが
てんがゆかず何かくらうに
なる事ても有りて色つ
やもわるしひよつと女のせ
まいきでひよんな事なと
しておれにくろうをかけてくれ
るなよ命さへあれはどふでも
して一生そわれぬといふ事は
ないもし先
か大名でも
有ならは
にけて行さへすれは御一
家かたも有ものゆへどふか
わけかついてじきにおくさまと
あがめられるはしれた事し
かしをれがおしへる事ではな
いが心ざしかふびんゆへうき世
のはなしをしてきかせるかな

らずたんき
をだして今までの心ざし
をむにしてくれるなよと
いゝけれはとらはおやかたの

じひ
なる心
ざしを
うれしく
思ひなみ
だをなが
して其
ばをた
ちか
ねる

扨も時宗か
はかり事の
文あんのこ
とく小田原
やよりじきに
とゞけければ忠
太はいつもの文
と思ひひらいて
みれは何かぐれ
ちがつたやう故
だん〳〵よむう
ちにおだはらやの
へらほうにきもの
をこしらへてもらう
といふもんごん
時さまへきさゟ
といふおさな名
のふみ忠太は大
かんしやくにて
取ものも取
あへず花川か
所へきたりど
きつくむねを
おししづめさあ
らぬていにてたゞやく
そくのきものもやめに
するといふゆへ花川は
おどろく
なんだへばからしい忠さん
思ひ付所じやアありい

せんまあとふしたわけたへ
又だれぞにしやくられなんし
ろうそりやアおめへでもありい
せんどうりで中の丁でもてう
しかおかしいとおもひした
わけか有なら
いゝなんしな
「てうしもかんなべも
しつた事じやアねへ
てめへの心に有こ
つた此文をみやと
だすゆへひらいてみ
れば時宗か所へやり
しこんたんの文ゆへ
はつとおどろきどう
して行し物と思ひ
しがかふろにふうじ
させしゆへ取ちがへ
しならんとかんがへ
これをみらるゝから
はやぶれかぶれ忠太
をつきたさんとお
もひしがそれでは
まのないゑびす
こうにきものゝあ
てもなければひとまづ時宗をきれ
ようといつてきものをとりしあとにては
とうかしかたもあらんと思ひ時宗をきれると
いつてそのはをまるめしなり

とらは伝左かよそ
なからのおしへを
実と思ひやう〳〵
くるはをかけをちし
て祐成がすきや
がしのやしきへ来り
ていしゆが心ざし
にてかみゆひをた
のみにけて来りし
とつぶさにはなし
ければ祐成も伝
左か大通の心い
きをかんじとら
を内に置しが
せけんのさたに
てわけをして
たづぬるよし
をとらはきゝた
とへたづぬる
くらいならは
じきこゝへくべきはづを山の手の方を
せんぎするはがてんゆかずとかんがへしかさ
すがは大いそに名高きとらほど有て
きつと心つきたしかにこうして置ておし
つけつかまへ祐成になんぎをかけ代官所に
て金にせんといふはかりことゝさつし祐成
にそうたんする
せけんのうはさをきいてかんがへやしたがおしつけ
私をつかまへておまへになんぎかけ金をとる
きやうげんとみへましたから其うらをかひ
て今から私に人をつけて大いそやへおかへし

【右頁上の続き】
なんし大いそを
かけおちしてき
たりし遊女は此
方に置かたく
といつておかへしなんすれ
ばいやともいわれず又私を
ば親かたのおしへた事ゆへ
せつかんにあわせる事も
できす其うへにげたひやう
ばんも有しゆへ中の丁へは
なをたされず
もてあました
時かまくらまへの
衆でもたのんで
もらいなんすれ
はおまへになんぎ
もかヽらずといゝ
ける
時宗か所へ花川よりきう
用事のふみ来りしゆへひ
らいてみれば主さまへ
上参らせ候文をおだはらやの
客の方へ取ちがへ遣はし
参らせ候所客人大かん
しやくにて主さまをきれろと申
参らせ候ゆへきものを取迄と
そんじ其あいさつをいたし参らせ候間ゑび
すこうの仕廻は御へんがへねかい参らせ候この
やうにかつてづくを申参らせ候も御きのどく
などゝかいてあやまつてあつちより
仕廻のへんがへは時宗もての有もの也

かうきやうげん
もゆく物なら
いゝ

【右頁下】
なるほどそうだろう
ちつともはやく団三郎
をつけてやるから
いつた

いゝ

それより団三郎
はとらをかこにの
せ来り大いそや
へかへしろう〳〵と
今の通りせりふ
をいゝければさす
がの傳左もあき
れはて受とら
ぬといふ事もな
らずにげろかし
とおしへたれは
いつものやうに
せつかんもし
にくゝ大かき
ぞくないの
きやうげんと
なつて大事
のしろもの
にきづをつけ
たればかつは
のへのやうに
きやうを
さます

かゝへの遊女
とら事
大いそを
かけおち
いたし
まして

おやしきへ
かけ
こみました
だんじう〳〵
ふとゝきなる
けいせいめき
つとしをき
を申付ませう

武家やしき
ともわきまへ
すけいせいの
身としてま
いるだんごん
ごどうたん
のぎでご
ざる
これとらどの
なく事はない
おめへの人がらだ
これからへやもち
にでもほたもち
にでもさがつて
もうちつと
みよしの
はんきりを
ついやし
たかいゝ

とらがかけおち 
をして客人より
かへされし事大いそ
五丁町はいふにおよ
ばずかまくらうちも
さた有ければ又よ
びだしにして中の丁をはらせる事
もならずしかれども大金の代物を
ねかして置も大ぞんなりいかゞはせ
んと傳左はくふうするうちかまく
ら中のとりさたは傳左かしかたが
わるいのきやうけんのかきぞくない
たのとかべにみゝありの世の中はつ
とひやうばんしけれはおかはしよへ
もやられすしよせんと思ひきり
ちつとても金をとり祐成方へや
つてしまはんと大通の惣六を
   たのみつかいによこす
「祐さんおめへの所へけふきたのも
人にたのまれての事先おめへさん
は御大名の御子ほど有てすへ
たのもしいりつ
はな御心ざし
せんととらさまか
かけをちをし
てきなすつた時
一通りのものなら跡
の事にはきがつかす
□ん〳〵ととめておく
所をかけをちした

【左頁】
女郎はとめておかれ
んとほれてゐる女
をおけへしなすつ
たはさすが御武家
のかたい御心さし
大いそやの傳左
もあまり有かたい
思召だからとら
をさし上たいと
申やすおかけに
なりとなんに
なりとあの
子か一生
せわを
やいて
おやん
なさり
やしし
かしお
めへさま
の事だ
からたゞ
はもらはれ
やすめへさかな
代として五十も
おやりなすつた
らよふごせへ
     しよう

【左ページ下段】
人にも
しられた惣太とんが
たのまれての事な
ればまんざらかほも
つぶされめへとふとも
こう ともいゝやう
にしてくんねへ
半つゝみぐらい
はどう
とも
なり
 やす

当時
大通

大磯や
惣六か
仲人にて
とらと祐成は
れいねんの
とほり夫婦に
なりければも
弟の時むねと
せう〳〵はいまだ
しうげんもすまぬ
ゆへ兄弟そろつ
てねまへしのび入
てのかたきうちは
できぬゆへそれは
こうへんに御らん
にいれ申へく間
こん礼ぎりにて
此はるは
おしまい
〳〵

ヤマトヤ

キノ国や
サマ
         清長画

通風伊勢物語

写昔男  通風伊勢物語 全
     天明二年壬寅

ここにさけ
せうばいを
せしいせや
徳右衛門といふ
ものあり
ちかきころ
より 
だんだんしん【「せ」では】う
しだし国元ゟ
ねんきこども
二人りよび
よせとくいをまはらせ日々はんぜう
せしなりこれ徳吉めをさませ
われも幸介といっしょにゆにでも
いってこいあのおひのしさまをみさつしやれ
あれこ□□□□□幸助も
徳吉おな□□□こふ
なれ共幸介めはまい
はんゆにてもゆきかみ
もこつ
ちから
いわぬ
先にさ
いそくしてゆいますにとくきちは
ゑりもみゝも
まつ黒に
してたゞ
いねむりが
ゑて物だ【得手物だ=得意だ】

【挿絵内】
アヽねぼ【「ぶ(婦に濁点)では」】つ
   てへ

もしだんなさま
 ちよつとゆにいつて
     もよふ
     こさり
     ますか


扨も徳右衛門かたの二人り
の御用は日〳〵とく
いをあるきむかし
とちかい今時は
御用はよふごさり
ますかとはいわず
だがまへてもふと
ころでをして
のそり〳〵と
のぞく斗それ
ても用はたりる
なり幸介は
きんじよのかみ
さまやしぶむけ【渋剥け=あかぬけ】
た娘などにゑゝ
子たからいゝ酒
をはやくもつて
きてくりやと
いわれいゝ酒は
わすれてもゑゝ
子はといはれたか
なによりうれしく
たちまちもつて
くるやうなき
だてなれは
ふだんわ■し
てしりをはしより

うちを出ても
きんしよをはな
れるとしりを
おろしてたゞ
あそこのかみ
ゆひとこ【髪結床】こゝの
じしんばん【自身番】の
ゑんはなへ
よこたおしに
なつてあそ
このにやう
ぼう【女房】はいき
たのこゝの
むすめは
ざつたのと
いふよふな
はなしが
おもしろく
たちまち
このごろは
しほから
でも
くつた
よふな
こへに
なり


もし此中
向ふうらの【向こう裏 か】
大工のかみさんか
ねてたのにたつた
ひとついるふとん
□□□□さんか 【に?五郎さんか】
ねていてわしが
ゆくと酒五合のんで
□□□おいたした【追い出した】
あとて
きさつたら【気障ったらしい か】
しいもんだ

こいつは
とんた事
をゆうや
つだ御用
まあ
いつて
きてまた
あそべ

それにひきかへ
徳吉はあさから
はんまて内へ百度
まいりして用を
たしかみも
ふたんすゝ
はきのやう
にしてみゝも
ゑりもまつ
くろになつ
てあるき
きん所の
子どもが
五六人むく
ろんじを
もちふき
むしをし【ムクロジのシャボン玉遊びか】
たりあるいは
けてあつた
をとりてあ
そぶをつく〴〵
見ておもしろく
なりどふぞ
おれもして
みたいとおもへ
ともむくろんし
もなく

二三日も心
かけとふり【通り?】の
店下にて
むくろんけ
しやうろん
けをはじめ
仕合とひとつの
むくが六ツ七ツに
なりよ【余】はたい
せつにぬのこし
上ヶ【布腰上げ】の中へおしこみ
ねるにもおさへ
てねるほどに大
事にしてまた二ツ
ふへ三ツふへのちに
は二三十にもなり
けりこれよりわるく
かけ事に心のうつる物
なり徳吉凡そ元手一ツ
にもせいたして一ツを大切に
してかせけは【稼げば】利益する事
に心がけあけくれおやかた
の帳面さんやうする
そばにていくつも利方【りかた: 利を得る法】と
ゆふことおもしろくのちには
徳右衛門□□□此の徳吉なるべし

【挿絵内】
たつたひとつでは
 いや〳〵□には
      いれぬ
 御用ききめ
  とんたふてへ
      やつた
    のふさんたン

エヽ子だ一ツても棄ては
 ふへるまける□ぞ付たりに
 するからわしもしんに入れ□□

そののちこういんやのごとく【光陰矢の如く】
といつてはなにかかたき
うちめいてかたくるし
いからひらつたくこ
どもののびるはたけ
のこのごとく徳吉
幸介もはや十五
六才になりおに
わかしゆ【鬼若衆】ではむかし
めいてわるい【元服させないままではよくない】ととく
ゑもんふうふが
せはをやき二人り
ともにげんぷく【元服】
させ幸介が願
にてやはり幸
介がよろしいと
いふゆへそのまゝ
おきさてとく
兵へ【徳吉から徳兵衛に改名】はとしは一つ
おとりしかみせの
こともよくのみ
こみはんじ【万事】
見所ありとて

まづばんとう
したぢにして
とくゑもんか
くちまねも
させける

【台詞右ページ下から】
もしせ□しは
なへかよふ【? ねぇ(ない)が良ふ ヵ】
こざります
もちつと
かへらせて
下され

かみとの【髪結どの】
あつに【あいつに ヵ】
かまはつと【構わずと ヵ】
しつていに【実体に=まじめな髪形で】
たのみ
ます

よくにやつたの【似合った?】

大ふつめたい
そうで
ござります

おまへは徳さん
とちかつて
いきにし
たかるの

とく兵へはわかいものになりし
ゆへもはや子供ではなく
少しのしまいも今迄
とはちかつて【違って】ふかくおしへ
なるとふり【道理?】といよ〳〵
心を付てつとめ
しに幸助【「介」では?】は
のらくら物
のくせにとし
下たる【年下たる】
德兵へに
帳面を
され少し
くやしくは
をもへとも
とてもとく
兵へか身持
のまねはなら
ぬとあきらめ
いよ〳〵男ぶり
みかき【磨き】けれはいつ
たいうまれ付か
よこふとりにて
すかた【姿】かひらつ

たく【平たく】とく兵へとは
男ぶりもおとりし
がてまへの気にて
はあのとくめは
とんたやぼな
なりだ□やつ
ばりうぬが
ほうから男か
ゑへと心へ【心得】あたまも
百会【百会=頭頂部 ヵ】がくれ【隠れ ヵ】といふ
所でびん【鬢】はきり〳〵
すかみのやうに
しておしいまゆ
げをいゝわけの
ために少しのこし
てすり付しよし
きん〳〵めかし大き
にかぶる

【挿絵内】
幸介そこへてろ【出ろ】まあ
わか【我が=おまえの】あたま【頭=髪型】かきに

いらぬ此ころわれはとほう もない三升【みます=成田屋の定紋から図案化】の
手ぬくいをもつてゆに行 ふたときほと
いゝながゆそれ德兵へこし にさしている
きせるをぬいて見やれ おれかちよつと
見たかかんくひ【雁首】もすい口【吸口】 のあなも同しやふた

きやうこうかみの
ふうもなを
させませう
ごめんなされて
つかはされませ

ハヒ〳〵
此きせるの
なは大つふ【大粒 か】
はりと申ます【張り=煙管を作ること】
これをもては
□ふいたし
ます

【右ページ本文】
幸介はなんでも
ひとつとして我
気に入らねば
ならふなら
おやかたも徳兵へも
叩き出してし
まいたけれども
そのかぶはなし
しょせんかけ
おち【欠落】してはら
いっぱいにきん〳〵
といろおとこ
にこしらへせ
けんのおん
なにきを
もませて
たのしみせう
と金子百両
ぬすみ出し
くびにかけ
づいとくじ【随徳寺=ずいと後をくらます意味の掛詞】と
でかける
【右ページ挿絵内】
今までは人の
あたまやきものの身はば【身幅?】
までどうだの
こうだのと
おおきに
おせは
どいつも〳〵一生へん
てこでくちはてる
であろうきの
どくだ

わん〳〵〳〵

犬まで
やぼだ
きのきか
ねへしづ
かにほへ
ろおれ
たは

【左ページ本文】
徳右衛門家内
にてはいつもの
とふり朝おき
たるところ金箱
のひき出しへ
おいたる百両の
かねみへずかぎ
ははこのそばに
すてて有り
されども幸介
がかけおちにて
ほかへうたがいも
かゝらずやうち
きもをつぶす

あいつめこう
あろふとおもふ
たにくいやつおや
かたの
ばちが
どこへ
あたる
ものだ
【左ページ挿絵内】
扨〳〵お そろしいだいおん有
御主人の お金ことに大金をうばいたち
のくとは いやはやにんげんではござり
ませぬ 人にゆだんはなりませぬ
どうか 私とてもごゆだん
はなされ ぬがよふご
ざり



幸介は主人のかねを
盗とり少しのしる
べにて谷中辺へ
いそうろふとなり
我おもい入れにいるい【衣類】
をこしらへなにがよこ
ひろい男で引づる
やうな黒なゝこの
袷ばおり【袷羽織】にこもんちり
めん【小紋縮緬】かはり八丈といふ所
をふりかさねさめ
ざや【鮫鞘?】いほん【一本】おとしざし
おびはくろじゅす【帯は黒繻子】に
赤糸てきくじゆ【菊寿(模様)】を
おりこみうら付は
ふんぐりかへすよやうな
のをはきふだん
浅草山下両国其
外向ふじまはもち
ろん江戸中をある
くにどふもぶかつ
こうにひらつたい
なりのおとこと

人の目に付き
あそこの娘ここの
女房ちゃ屋女と
なりひら〳〵と
あたなをいゝける
をちときゝつけ
むかしのなり
ひらは【昔の業平は】
おくげ【公家】で
あつたそう
たかおゝくの
女に心を
かけられた
色男そふ
なおれも
男かゑゝから
□今なり平【=現代版業平】
といふと見へて
是はかくあだ
なを付たしかし
江戸中の女に
ほれられるには
よはつたす

お梅□□
あれあれ
又かのなり平
かとふるはな 【が通るわな】

【下段】
通行のもの幸介が
ぶをとこてなりのごたい
そうを見てみな〳〵
ふりかへり見る

とんだもの
だの
しやとも【しや=者(通人)?】
見へす

こうおんなに
おもわれるも
きついつみ



そののちも幸介は
とこへ出てもとおり
のものまして女と
名のついたほどの
者はめひき
そてひき笑【目引き袖引き=目くばせしたり袖を引いたりして】
を みなおれに
ほれたか所へ
このひふろい【ひーろい(広い)?】江戸
中の女にほれ
られてひよつ
とひとりの
女にゑゝへん
じをして
あいをかなへ
たらば四方
八方から
うらみ
おろふし
どれ〳〵も
すこしなへ
てみては

まあからだ
がつゝかぬ
からさり
とはつみさ【だ?】
がこゝをこらへ
てまづやう
ぜうくひを【養生食ひを】
せんいちとして
大せうぶと【大丈夫と】
なつてせけん
の女の百ぶ
いち【百分一】もかなへ
てやろふと
思ひ又ぞろ
なをせい
のつく
ものを
このむ

夫から幸介は
とんたきの長い
のかはな下の
なかいのか五六
年になれ共
日〳〵【日々】うなぎ
やすつぽん
おつとせい其
外かん【感?】に入れは
あらゆる
ねりやくを【練薬を】
用ひそれても
内にいる事は
ならすおり
ふし出て見
ればこのころ
なりひらが
見へなんたか
あれ向ふを
通るのか今
浅草の方へ
いつたのき
のふはくちやく【孔雀茶屋】
茶やて
みたのと

ひやうはんされ【評判され】
いよ〳〵身を大
し【大事?】にてもふ
十年もやうぜう【養生】
をして大はら抜け【=大きな腹が抜けるほど?】
いつぱいにのまんと
いうを はらの上へ
を通る□がわら【?】
うも□つ□もなり
そう〳〵人のせわに
なつていられす
おし【御師】の店【たな=借家】をかりて
ひとつくらしなれ共
いつなんときに□□【女房ヵ】
を持たければ五百人
もとうが てんし【天子?】
ではなへかさん
ぜんかんをもたづ
すきな
ことと
おさめ

いる

【台詞右ページ】
ゑんの下ニ
あるもつて
いけめいな【迷惑?】
やつだこいつは
六百には
安い物だ
すつぽんは
いり付の
事だ

【台詞左ページ】
アイ
酒かまいり
ましたきのふ
のとつくりを
下されませ


おのれ
も今
なり
ひらと
あたな【仇名】
されて
おれも
よっぽど
の色男
とおもふ
うちはや
今は三十
になり
もふ少し
いゝいろ
ことを
はじめ
やうとは
おもへ共
はじめ
たときいた
ならば
世間で
女ともが
あさゆ【朝湯】の
くゝり【繰り戸 ヵ】の明た
やふにとろ〳〵
とおしかけ
てくるであろう
とうぞちう【中ほど=ほどよく】
ほど女の
ほれるやう
にしたい物と
おもひあさ
くさのいんぐわ
ちぞう【因果地蔵】へ
ぐわん

かける

【 中 段 】
わたくしはいかなるいんぐわやら
ちょっと見ても女がほれますには
こまりはてましたどふそ一日に五人か
十人くらいはよう

【 下 段 】
やうこさへ【「り」】ます
は【「其」】よ【ほ」】
う【「か」】ど





やふにお守り
下されませ
南無地蔵
ぼさつ

【 下 段 右 】
あれがひようばんのなり
ひらさ
おつな
男だの

幸介は
くわんはみる
とそよしと
おもひ馬
道へんを過
しにある
かうしつくり【格子造り】
の内より下
女と見へてこ
きれいなる
女しぶ
うちは
にほし
なすの
へたやなかご
おのせすてに
出しをこれもおれ
にほれてわざと
すてにてた【捨てに出た】と
こころへやにくし
■■たき付【抱きつき】ヒしヲ
おんなはきも
をつぶし
ふつきつて
逃ける
それより幸介はちとあそここゝの
女にかへて見ても所〳〵にて
ちらされればながやの大家
のかも■はどうつきている
やうすなればこれは
じやうぶにで
きるといやミ
をいた■しに
□ねの辺り
□□さまも
はんぶん
なふる
きにて
すこし
あやなし
たところが
ほんのこと
になり
そふな
あばい【案配ヵ】ゆへ
はづしてきんじよへ出る

【 中 下 段 】
はてなそのはづではないにあゝ
おもへたしいはきのふ地蔵処へ
願んたからほれぬと見へる

ひかる源氏ならばうちワへ
のせたとうなすてうなれ 【唸れ】
といふ所だは此なり平は
うたをよむふうでは
なければはな
うたて
文みを
くへる

幸介さんおまへゑゝ処へ
きなさつたいのとの内
るす居して下た
さりませ

こいつもいけ
ぬわへはて
地蔵処
があん
まり
きゝすぎ
てひとつ
もで
きぬ

【右頁上部本文】
幸介つく〴〵かんかえて
見るにとう〳〵おれは
男がよすきるゆへ
女どもりきみはあ【力み】
つてひとつも
そうだんが
できぬと  
見へたいつ
そ地いろは【地おんな•一般女性を諦めての意味か】
おもひ切て女郎
かいとでよふと
おもい付よし
はら【吉原】にて名
有女郎を
あそここゝ
にてかへども
とかくおもふよう
に先からほれた
やうすに
は見へず
すねんとして
さほどのおも
しろみはなく
いろ〳〵きをもむ
【左頁続き】
これ〳〵
昔のいろ
男といふ物は
かはつた物だ
よ宵にざし
きでもうち
中の女郎か
入れかはりたち
かはりのぞい
てあだいゝ【御愛想を言い】
そしてあい
かたの女郎も
あんまりほれ
たやふてはない【ようではない】
から此ように
けつしよりは
かねやう【るカ】にする
それもどうり
だほかのじやう
らうともになぶ
られるがせつ 
なへからはやく
きたくても
それではのぼせたとか
なんとかいふようだからよ

【右頁下会話文】
是故ぢきに
しそふで
ござります
だんなおひと
つあがり
ませ
【左頁中会話文】
イヤ
今一寸
とこへは
いつた
そふ

【右頁本文】
幸介は
そのゝちも
所々にて
あそひし
がどこでも
おもしろ
おかしくも
されてねつ
からさへぬ事
ゆへ切とばしよ
をかへてあそばんと 【場所を変えて】
品川にてかけある 【品川に出かけ】
うちにておきくと
いふまはり女郎を上ケ
しによく〳〵のぶいき 【無粋】
者とみへてとんだよく
せしゆへ
はじめて
女はこう
した物と
いふ事を
しりさあ
中〳〵ほとにめつた
むちゆうにかよひし
ゆへおやかた徳右衛門
【左頁】
かたにて盗し金もしやうらい其外
店ちんになくした上かしの残りを北
国にて遣いならしかん者へおもしろく想ひ 
しだんになつた所のひんかくとなりだん〳〵 
有いるひ【衣類】其外をぶちこわしこのころは
人のものをかつぎの女郎かひとなりたるも
はかなし

【左頁 幸介とおきくの会話文】
おれの名を
かへなんたも
てめへとこうふかく
なるゑんだ
ろう
もうおれもこんや
切りでこられまへ
いきつい


ばか
らしい
どうでも
しんすから
そんな事を
いゝなんすな

【右頁遊女とかむろの会話文】
わかばやしんかう
さんからは
たよりはなかつたか
アゝしとつたへぞなぜたの

【左頁中段右の会話の続】
イゝエ
この文は
ふんきさんの
所から
きひした

【右頁上】
人の身のなり行
はあたな【仇な=皮肉な】物にて
うかち□をくらし
おもひ入にわう
者【王者】か文ミち【文道 か】を
しのぎ心へする
心にて気なが
にやらじにゆくを
してさらばと
おもつたとき
おもひ人が
ちがひゆく〳〵品
川の果てにて
女におもいつか
れおもしろいと
おもふとおちぶれ
るかいちとき
にて今は土手ヘ
もみのおき所
さえなくともいち
まいを八丈とも
しまちりめんとも
おほひ身にま
とひなからも
やつはり【やっぱり】 うぬ
ほれはやまず
むかしのふぢや
伊左衛門はゆふ
きりといふ女
に金銀を遣ひ
すてかみこ【紙子】
【左頁へ続く】
一ツとなつ 
て悪名をのこ
し望みこの上を
いつて我はこも
をかぶると
いふも伊左衛門
よりは上を
するもおれは
伊左衛門よりいろ
男なるを
こればっ
かりが
ほんまふ
とあきら
めとなり
の人に
いつせん
二せん
をもら
いひを
おく

ける

又徳右衛門の方■■■■■■となし家
おゆつり【を譲り】ふう婦はいんきよして今は徳兵への
身上となり浅草寺かんぜおんまいり
かへりにいせんのほうばい【朋輩=同僚】幸介にめぐり
あひまつ世話してやらんと入れたりけり

【右頁下 幸介の台詞】
おまへ様は徳兵へ殿
ではこざりませぬか
めんぼくもござり
ませぬ

【左頁中 徳兵への台詞】
さて〳〵も久しや〳〵
あさましいなりに
おはしあやることにそ
しよふもあろうから
まあわしの所へ
ござれ

【左頁下 浩輔の台詞】
それはありがたふ
そんじます












【右頁上】

徳右衛門は幸介を
つれかへりいろ〳〵と
いけんしていんきよ
所もわび事いゝて
かしもとでを
つかはしせは
いたしたきと【世話いたしたき】
ねがいければ
いんきよふ
うふも
とくべいが
じんしんに【仁心に】
めんじ【免じ】どふ
なりとも
せよと
ゆるし
けるゆへ
元手を
あたへ
同町へ
みせ
をだ
させ

や【持屋】
させ

【左頁】
に幸介も
今になつ
て我身の
たわけを
くやみかせ
ぎしかば
わつか【僅か】の
内に利■
してたん〳〵【段々】と
はんじやうしける誠に
二人なからつれ
たちはなつたらし【洟たらし】のじぶん【時分】
いせ【伊勢】より江戸へきてひとの心は
きついちかい【違い】な物にてあくし【悪事】
をなし主人のおんをすてかけ
おち【欠落=逃亡】したると主人の子となり
家をつぐとは下た【下駄】とやきみそ【焼き味噌】【板につけて焼いた味噌の形は、下駄に似ているが、実際は違うところから、形は似ていても、内容はまったく違っていることのたとえ。】ほ
どのちかいなれどもすへにはんぢやう
せしはふしぎこれもよくしん【欲心】でせすたゞ
こうしよく【好色】のみゆへ神のめぐみと見へたり
それたからお子様方も
おヽきくなりなさつ
ても女郎買いちつ
とづゝなさつてもよく
かけ事はほう引【宝引き、福引】も正月
の内計りがようこさいます

【右頁下】
早荷かつきました大
ひやう
五十俵
こゝへつんで
おき
ます

【右頁中から左頁】
いよ〳〵幸介
塩屋はんしやうせしも
ふしぎ此時より
うぬぼれを
塩やといふ
ことはじまる


【左頁丁稚台詞】
ごたいき〳〵【御大儀「ご」は接頭語 人の行為をねぎらっていう語。 ごくろうさま。】
ちやでも
のまつしやれ

【右頁】
其後徳兵へもしんるい内より女房をよひ【呼び】そのついでに
またいんきよへねがい幸介にもせはしておきくをそはせ両
けともにはんじやうひにまし徳兵へふうふはいんきよ
徳右衛門ふうふへかう〳〵【孝行】をつくしめで度はるをむかへ
にぎやかにさかへけるこのめでたいついでにつまらぬ
二人りのいせものかたりの
御ひやうばんもたゞよい〳〵と
ごひゐきをねがいまいらせ候
かしく

【頁中隠居妻】
めでたふさし
まじやう

【左下徳兵へ】
おめでたう
ぞんじます

【最左下端】
清長 画
可笑作
【左 裏表紙 左下に図書標  207 78】【】

【裏表紙  無記載】

四天王宿直着綿

芝居絵手本 四天王宿直着綿 市村坐 十一

四天王宿直着綿 市村座

進上

四天王宿直着綿(してんのうとのゐのきせわた)

ひいき

【登場人物】奴中波四五平
【役者】儀蔵
源のより親ゑ
もんの尉とき
あきらと一味
して先帝を
くらいさだめの
御ゆいでう【遺状】ふん
じつ【紛失】をさいわいにみとしろのしん王を位に
つけ頼光をうしない其身天下のぶせうと
ならんとたくみじゆんれいを見とがめ花山の
ゐんをとりこにせんとする

【登場人物】のせ八郎
【役者】伝五郎

人皇六十五代の
みかど花山ゐん
大内をしのひ出
ぶつもんに
入給ふ
【登場人物】くわさんいん【花山院】
【役者】いせの

【右ページ下】
【登場人物】みなもとのよりちか【源頼親】
【役者】小次郎

ひろつな
花山ゐんを
かこいより
ちかとあら
そふ

【登場人物】
みの
田の
源太
ひろ
つな【箕田源太広綱】
【役者】


郎【坂東又太郎】

【登場人物】大江左きん吾【『歌舞伎年表』では大江小金吾】
【役者】政蔵【尾上政蔵】

【左ページ】
【登場人物】
ごうどうのてうぼん【強盗の張本】
はかまたれやす介【袴垂(藤原)保輔】
【役者】仲蔵

左大将【?】女□□さん
どみつ書を見とがめ
られてごめにせし所を梅の木の
うろよりやす介左大将をさしころし
みつ書をうばいせうぞくをはぎ
取より親にたのまれにせ
ちよくしとほり【なり】保まさ【保昌】
のやかたへ 入こ
       む

やすゝけ
せんていれいぜいゐんの
くらい定の御ゆい
でうをぬすみ取二のせ庄司【?】を
がいせしおり兄保昌にゆつ
られしふたばのふゑを取り
をとせしが日本をつりがへの【釣替えの(引き換えの)】
御ゆいでう手に入しと女房に
ものがたりよろこぶ


【登場人物】ひげ黒の左大将【源氏物語の登場人物】
【役者】伴【仲?】五郎【】


【登場人物】くさ花
うり
おしづ実
ははかま
たれ【袴垂】
女房
小笹
【役者】乙女【瀬川乙女】

【登場人物】うすいあら太郎定光【碓井荒太郎定光(貞光)】
【役者】松助

【登場人物】源より光【源頼光】
【役者】宗十郎

【左ページ上段、本文】
よりみつごやく
のやまい【御薬の病(貴人の病気)】にて四
てん王とのゐ
して頼光を

なぐさめ
かづらき山の
つちをもつて作りし
うねめ【?】と名付
しかわらけ
又あさか
山と
いへる


しゆ【酒】をすゝ
むるおりから
くも【蜘蛛】のさがりしを
あやしみ此かはらけこそ
どく有と打くたかんと
する所へしづく 【坂田】金時【渡辺】綱
引立に出つまぎくいゝまはされ
定光すへたけ引立んとして御酒ゑんの
あいてに取もつ
よりみつ金札を綱【?】あたへふんじつなせし
ひのをざの御剣【昼の御座の御剣】たづね出すべし又

【右ページ下、本文つづき】
きんときはせんてい御ゆいでうたづね
出しとうぞくのてう本にはかまたれをせん
ぎいたすべしと両人を次へ立せ女を
近付けしにひさ丸の
つるぎ【膝丸の剣】おのれと
ぬけしを
あやし


つまぎく
よりみつに
心をかけし
たいきたり
人〳〵をあざ
むきより
光のしん
所へつき
そい行ん
とせしに
ひさ丸
のたちに
おとろく【おそるゝ?】


【左ページ最上段の人物の右】
【登場人物】うらへのすへたけ【卜部季武】
【役者】門之介

【右ページ階段】
【登場人物】わたなべの
げんじ綱
【役者】仲蔵

【登場人物】坂田兵庫介金時
【役者】団十郎

【登場人物】
みやこ六条
舞子つま菊
実はかづらき山
くものせいれい【蜘蛛の精霊】
【役者】菊之丞【瀬川菊之丞】

【このコマは『平家物語』や能に見える『土蜘蛛』の話。源頼光が瘧に倒れて寝込んでいるところへ怪僧が現れ連れ去ろうとするので、四天王が膝丸の剣で切りつける。僧は葛城山の大蜘蛛の精魂だった。】

【右ページ上段】
【登場人物】太郎作妹□□
【役者】歌川【?】

【本文】
又治いへでせし妹にたづねあい
つれかへらんとしてみなれぬ笠の
かをり
て此家に花山いんのかくまい有事を
さとりつとにかくせしひのをさの御剣を
太郎作にあやしまれのちに
いばらきけんば【茨木玄蕃】にわたす

太郎作花山ゐん
とぎよ【渡御】ありしを
かくまい又治がせおいし
つとの内を
あやしむ

【右ページ挿し絵内】
【登場人物】庄や
麦竹孫左衛門【?】
【役者】伝九郎

【登場人物】丹波の百姓栗の木の又治実は右衛門尉ときあきら
【役者】広右衛門

【登場人物】生の村百性
太郎作実は
二ノせの【二ノ瀬の】
源六
【役者】宗十郎

【登場人物】太郎作女房おさと実は
ときあきら妹はし立
【役者】里好

【右ページ左下、本文つづき】
兄の家をぬけ出て
たろ作をしたい
ぬり笠のあるをみて
たづね来りしは女ならんけんき【女ならん元気?】


【左ページ上、縞の着物の人物の右脇】
【役者】宗十郎【太郎作の役、5コマ源頼光と二役?】

【本文】
太郎作かくし置たる
花山ゐんせんぎ
きびしく立のかん
とせしに
見へさせ
給はぬ
ゆへおど
ろく

【役者】里好【はし立の役】

はし立わざとおつとにあい
そをつかしおつとの手に
かゝり花山ゐんのみかはりに
たつ

大でき〳〵

【左ページ中段】
【登場人物】しゆ行者なく山【奈がひしゃげているが、11コマに「なく山」とある】
実は相馬太郎良門
【役者】門之介【5コマの卜部季武と二役?】

【本文】
小鳥の
あつまるを
あやしみ
□【笈?】に花
山ゐんを
うばい立
のく

【左ページ下、本文】
太郎作親の三くわいきゆへしゆ行者
をとめ御ゆひでうふん
じつのせつおや
二のせ 庄


【人物を挟んで続く】
しがいの
そばにおち ちりし
ふゑをぶつまへおきしを
保昌が家につたわるふゑな る
よししゆ行者に聞親のかたきは
保昌なるを よろこぶ

【役者】宗十郎【縞模様の着物、太郎作役】


定光つまぎくをともなひよりみつへとりもち
きれとのもんじゆのゑづへくものおり
さるにつまきくせうたいなく
なりしをあやしみひざ丸のゐ
とくにて本せうをあらはす
【登場人物】つまきく実はかつらき山の
くものせいれい
【役者】菊之丞
身の上を見とがめられひざ丸の
太刀のとくにおそれ
くものせいを
あら
はす

大でき〳〵
大さつま主膳太夫
此所ひやうしまい相動申候
富士田音蔵【長唄唄方】

【右ページ下】
【登場人物】源頼光
【役者】宗十郎


【登場人物】定光【碓井貞光】
【役者】松助


【左ページ】

【登場人物】保昌娘
小しきぶ
【役者】七次【?】

はかまだれよりちかに【頼親に】たの
まれちよくしとなり兄保昌
のやかたへ来り法皇のりんげん【綸言】
によつてかくまい有かねひとしん
王【兼仁親王】のくびをうてといゝ二ヶ条の
なんだいをいゝ付いづみしきぶ【和泉式部】に
れんぼして保昌にみの
上をしられながら
あくじをたくむ

いづみし□【き】ぶ
娘小式部がよみし大江
山の歌をおつと保昌に
一【ごみ?】なぞにかけられ娘
【左下へ続く】
小式部をかねひと
しん王のみがはり
にたてかなしむ
【登場人物】保昌妻いつみ式部
【役者】里好【立はしと二役?】

【左上】
【登場人物】大木戸八郎
【役者】鉄五郎【?】

【右下】
【登場人物】ひけくろの左
大将実ははか
まだれやすゝけ
【役者】仲蔵【渡辺綱と二役?】【4コマに出てくる髭黒の左大将とは別人※】

【登場人物】丹後守
平井保昌
【役者】団十郎【坂田金時と二役?】

【※『歌舞伎年表』によれば「仲蔵の袴垂保輔。梅の木のウツロより黒子にての出。髭黒の大将を殺し、冠装束を奪ひ持入る」とある。これは4コマで描かれているシーン。7コマの髭黒は奪った冠装束で袴垂が化けている髭黒であろう。】


【登場人物】かねひと
しん王
のおかゝへ
此花
【役者】三木蔵

【登場人物】冷泉院の御らくいん
みとしろの王子【神田皇子】
【役者】三甫蔵

【登場人物】妹てりは
【役者】三代蔵

【右ページ本文】
やす介
かねひと花山
ゐんのくびをにせ物と
見し所へすへたけ
【刀の下へ続く】
やす介が女ぼうを
よび出す
【刀の上へ続く】
小笹おつとの
あく心をいさめ
じがいする
すへたけ保介が
せうぞくをはぎにせ
ちよくしをあらはす
保すけ見あらはされ
みとしろの王子の□【座?】に
さして王位をのぞむ

【刀の下】
【登場人物】はかまだれ
やすゝけ
【役者】仲蔵


【右ページ下】
源のよりちかちよくしに付そい来り
あくじあらはるゝ
【役者】小次郎

【登場人物】すへたけ
【役者】門之介

【登場人物】はかま
たれ
女房小笹
【役者】乙女

【登場人物】平井保昌
【役者】団十郎


【左ページ上、本文】
物かたりをして二のせ源六
が親のかたきのせうこになるべ
きふたばのふへをひしぎかたき
は兄の保昌なりといゝかんげん
せし女房をふみころしいづみし
きぶをうばい取んとして保昌
季武源六三人をてうちやくし
手向ひせばぬすみ取りし
せんていの御ゆいでうを
引さかんとてごめにせし
所保昌に御ゆいでう
をばいかへされ
くびを付るゝ

保昌御ゆいでうをばい
返し保介がくびを源六
にわたしみとしろ王子の
くはい中にあるみかゞみと
よりちかがうばいしひげ切
のたちも取返しよりのぶに
あたへ王子よりちかよし時
をおひはらふ

【登場人物】むさしの介
よし時
【役者】大七

【登場人物】源のより
のぶ
【役者】座本
勘三郎

【左ページ下】
【登場人物】二のせ
の源□【源六】
【役者】宗十郎

【登場人物】奴□や蔵
【役者】時蔵

【登場人物】奴ても平
【役者】仲八

【ここから第二番目】
【右ページ上段】
【登場人物】源の
より光
【役者】宗十郎

【登場人物】かみぐし
姫の
しんれい【『歌舞伎年表』では「夏磯姫の神霊」とある。】
【役者】里好【和泉式部、立はしの三役】

【左ページ上段】
【登場人物】禁の【楚の間違い?】
よう
ゆふき【養由基】
娘せう
くわ女【桝花女】の
しんれい
【役者】乙女【小笹と二役】
【楚の養由基は伝説の弓の名手。その娘とされる桝花女(しょうかじょ)は前太平記などに出てくるとのこと。】

【登場人物】源のよりちか
【役者】小次郎

【登場人物】いがの入道
【役者】五郎四郎

【右ページ下段】
【登場人物】□□……【一行かすれ】
いん

二の

かね
ひと
しん王
【役者】弁之助

【登場人物】すとう六郎【かとう六郎?】
【役者】福松
【登場人物】かとう七郎
【役者】□蔵

【登場人物】平井保昌
【役者】団十郎

是より
第二ばん


【登場人物】たわらのちはる
【役者】吉次
【『歌舞伎年表』では中納言惟仲の息女ちはる姫、役者は山下万菊とある。「たわらのちはる」は俵藤太の娘・千晴の事。挿し絵は髪形からして女性の武者姿のように見える。設定の混乱が何によるものかはよくわからない。ちはる姫ならば俵藤太の娘のほうが妥当であろう。】

【登場人物】むさしの□
よしとき
【役者】大七








いばらきげんば【茨木玄蕃】ときあきらより【斎明】ほうけん
を受取しよりへいにんのもつべき物に
あらぬゆへかいなをはなれぬをなんざ【ぎ?】
なしかごかきとなりほうけんをたづ
ぬる左金吾に出合わたさじとあらそふ
をわたなべ【渡辺(綱)】かごのうちより
出ほうけんをてに入□【れ?】
立かへる
大江の左金吾わたなべが
跡【後?】をおいゆく

【登場人物】左金吾
【役者】政蔵

【登場人物】つな
【役者】仲蔵

【登場人物】いばらきげんば
【役者】此蔵【此はママ、中村比蔵】

【登場人物】三田平
【役者】又太郎【坂東又太郎】

【左ページ】
わたなべよりみつの仰をうけ良門
せんきのため

わたなべ
より光の
仰をうけ
良門せん
きのため
月のみさきに
べつそうを
しつらい酒色に
てうし
女に
たはふれ金時がたん
りよをとゞむる
【役者】仲蔵

金時鳥【?】の見まいにきたり
恋いさかい【恋諍い】のわりに入り
わたなべかほうらつ【放埓】をいさ
めんとする
【役者】団十郎

【登場人物】わたなべが 妻
つの国や【津の国屋、そういう屋号がある】
おつな 実は
すわうのないし【周防内侍】
【役者】菊之丞【蜘蛛の精霊つまぎくと二役】

わたなへしゆ行者をとゞめ【?】
与吉にかわたひのに【革足袋の荷】の内に
将門の娘七あやひめかくし
有ゆへ
かい取ん
といゝみとしろ
の御かゞみを
わたし両人が
心をひき見る

修行者なく山にの内より【荷の内より】
七あや姫□□□ゆへにをか
こひまさかと【将門】かよるい【?】
とみ□□
【役者】門之介
【『歌舞伎年表』によれば、七あや姫は将門の娘(良門の妹)だが、将門の子孫は不死身であるため、革足袋屋茂次兵衛に庖丁で切られるが傷つかなかったとあるので、そのエピソードがここで語られているかもしれない。】

【登場人物】つな
【役者】仲蔵

かわたひやの荷かつき【革足袋屋の荷担ぎ、茂次兵衛とは別人】
実は将くん太郎良門【平良門、伝説上の将門の長子】
【登場人物】神田与吉
【役者】松助【碓氷荒太郎と二役】

【左ページ】
修行者よし門と
名のりしも
主くんよし
門にめくりあい
たくひたちの
介となのりし所与吉妹かたの ゑ【?】と
心をゆるして其めぐりあいたき将ぐん太郎よし門はわれ也
となのりしを見てまさかとの家臣ひたちの介とは
いつわりま事はすわうけのかしん五位の介忠家と
なのり主くんの姫きみすわうのないしと
みつつうして立のきし夜ほうけん
うせけるゆへ身のあかりを立ん
と心をくだきせつふくぜ【せ】し
ゆへよし門を見出せしと
かたりひのおざのほうけんも
わたなべのてに入しを悦ひさいご

わたなべ忠家が忠心を
かんじよしかどにつめ
よする
【役者】仲蔵

与吉忠家がけいりやくにおち入
よし門と名のり
むねんかる
【役者】松助

【登場人物】忠家
【役者】門之助【うらべすへたけと二役】

【この先かすれている】

はうの
ないし
めぐり
あいし
忠家【? 切腹しているのは忠家ではなく与吉(良門)】が
せつふくを
かなしむ
【役者】菊之丞

【『歌舞伎年表』によると、良門は渡辺綱の家で枕を乞うて「春の世の夢ばかりなる手枕に」と周防内侍の歌が書かれた袖を貰う。これを枕にして寝たせいで腹を切り、自分こそ良門であると名乗ったとある。挿し絵で腹に刀を刺しているのが荷担ぎの与吉=良門。】



【登場人物】将ぐん太郎よし門
【役者】松助

【登場人物】すへたけ
【役者】門之助

【登場人物】わたなべのつな
【役者】仲蔵
よしかとを
みのがす

【登場人物】すわうのないし
【役者】菊之丞

【登場人物】きんとき
【役者】団十郎

【右ページ下段】
【登場人物】たかなわのけい者
さよ浪実は
良門妹
七あや姫
【役者】万菊【山下萬菊】


きんとき花山いん
をしゆごなす

【左ページ上段】
【登場人物】かわたびうり【皮足袋売】
よりみつもぢ兵へ
実はむさしの太郎
【役者】三甫蔵
【むさしの太郎は初出?三甫蔵はみとしろの王子役で既出。】

【登場人物】左金吾
【役者】政蔵

【登場人物】花山いん
【役者】いせの


大てき
〳〵

大当り〳〵

【下段】
【登場人物】奴
みた平
実は
三田の
源太【?】
【役者】又太郎【坂東又太郎】



清長画
【枠内】
《割書:狂言|作者》桜田治助


【墨で書き込みここから】
惣座中不残
罷出相勤申候
【ここまで】
太夫亢様【?】

化物七段目

化物七段目【読みは、ばけものしちだんめ】
【別本が、東京都立中央図書館 加賀文庫にあり】
【新日本古典籍総合DBで画像を見る→https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053320/viewer】

天明四辰

化物
七段目
幾次茂内著
上下
【著者名は巻末にもあり、幾治茂内と見える】

天明四辰年

こゝにみな〳〵さまごぞんじのみこしにうだう【みこし入道】がまごにのつ
べ【別本より判読】らにうどう【のっぺら入道】といふものありてつく〴〵おもひけるはとか
く【別本より判読】このごろはどんなにおもしろくばけてもにんげんも
わからずばけかたもおやのゆづり
もくろくどをりはばけてし
まふどふもしかたなくこれ
からはばけものもぶつほう【仏法】
にいらんとかいちやう【開帳】を
せんとだんかうする
おらがだんなでら本
じよのねかう、
いんさまでした【本所の回向院のダジャレで猫ゥ院、本所の回向院で江戸時代に出開帳が良く行われた】
らはやとおもふ


いかさまかい
ちやうをして
みよふまづな
にがよかろうと
おもわつしやる
子くいのゑんま
はどうだろう

【絵の下】
おれが
おもひ
つきは
ばけち
そう【化け地蔵】か
いゝとお
もふはへ

さると大
へびいろ
〳〵とは
やりそふ
なかい帳
ぶつをかん
がへけれども
とかくきり
どをしの
ばけち
ぞうが
よかろふ
とさう
だん
きま
りね
こをいん
へもゆき
ていろ〳〵すゝめ
こみみけおせう【三毛和尚】も【?】
かねもうけのすじ
なればさつそくとくしんし
てはやかまくらへゆきたの
みくれよといわれけるゆへ

むかいにいで
だん〴〵と
ゆきろく
がうのわたし
へゆきしに
山〳〵のゆき
とけてみづ
せいはやくわ
たるべきよふも
なしへびはおよいで
ゆかんといへども
さるはみづはねから
しらずいかゞせんと【水は根から知らず如何せんと?】
あんじけるところへ
此川のあるじすつほん
いでゝわたしてやらんと
いふふたりは大きによ
ろこびすつほんにのりて
わたりける
〽すぽんとおちたらさる
くつてなるまひ
〽おあんじなさることはない
かへりにもわたしてあげよふ

【右ページ下】
これはよいところで
おまへにおめにかゝり
おかけてわたり
ますしかしどふ
もへびかわるく
てならぬ【きびがわるいの洒落か?】

さるとへびはさうしう【相州】
きりどをしへゆき
魚好(きよかう)おせう【魚好和尚?】を
すゝめいろ
〳〵とだまし
うけてたのみ
ければぢうじ【住持?】
がてんしけれ
ばさよふなら当
三月より四月まで
夜かづ六十やがあ
いだかいちやうにいた
すべしとそうだん
きまりちか〴〵に
むかいにまいるべ
しとてかへり
けりそれからきう
にふだをこしらへて
しよ〳〵へ高札を
たてる

これはとんだこと
だおいらもいゝあ
わせてよい
まいりをし
ようぜへ
これはめづらしいこと
だだん〳〵あつた
かになるからいゝじ
ぶんだはやり
ませう

【右ページ下へ】
とふ〳〵かいてう
があるそふでご
ざるとふ
からさた
があつ
たあり
がたい

ぢぞうさま
だそふだはやり
ませう
はゝァ
れいほう【霊宝】
もいろ〳〵
ある
そふだ

【左ページ立て札】
開帳
大磯化地蔵菩薩
霊宝数多
本所猫ゥ院に於而夜数
六十夜ヶ間開帳令者也
月日
猫ゥ院

おみやげにう
づらやきをおか
いなさい
なだい〳〵

三月ついたちの
よよりかいちやう
しけるになにが
めづらしき
ことゆへわれ
も〳〵と
さんけい
ぐんじゆ
なして
ほうのう
もたく
さんにお
さまる

ひきかいる
は目がう
しろに
あるゆへ
たつてあ
るけばひと
につきあたる
ゆへこゞんで
いるがいゝ
し【?】いゝ
たてをする
ばけぢぞう
はこなたでご
ざいちかう
よつてごゑん
をむすばれま
せういちどはい
するともがらはけん
なんをのがしたま
わんとのごせいぐわん
でござる
おみゑいてつほう
よけのまもりは
これからでます


【挿し絵・傘】


【挿し絵・回向柱】
天明四年魚三月 猫好大和尚導
天下泰平国土安栓
【天下泰平の上の梵字風の文字はでたらめ】

【挿し絵・左ページのちょうちん】
女猫中

いづれもしん〴〵の
ともがらはちかくへ
よつてはいあられ
ませうまた三十
三ねんでなければ
おがむことはなりま
せぬぞ
これにたてゝござる
はそのむかしみ
こしにうだう
きんときとたゝ
かいしてつの
ぼうでござる
しよ〴〵にたち
きづがござる
これにかけおくところのうた
はくずのはのうたで
あべのやす
なにわかれ
しときの
うたでござ
る子わか
れのめう
がうと申
ます

このき
ねはみな
さまもごぞんじ
でござりませう
そのむかしたぬ
きどの
がばゞを
つきころ
したるき
ねでござる
ちかう
よつて
はいあられませう

ゑんむすびのまもりは
これからでます
このおまもり
をごてう
だいな
されてつねに
くはいちう
なされば
おもふなん
によにそわれ
ます


【右ページ下】
どうぞわたくしが
てがまつすぐに
なりますよふにな
されて下さりませ

かいてう大き
にはやりところは
いふにおよばす
きんこくゑんごく
よりわれも〳〵
とさんけいくん
じゆなす中に
もふしぎなるは両
ごくばしへでける
いぬのいざり子
どものときくる
まに両あしを
ひかれける此
かいてうはじ
まりしよりぐわん
をかけしん〴〵
しければこし
たちて
なをりける
とて



せうを
うり
あるく

さてこんどのかいちやう大きに
やまがあたりければなんぞめづ□【ら?】
しきみせものまたはしばゐを
たさんとそうたんする
さるかせわにてたんばの
むじながむすめをかいだ
さんといふ

へび
おれがお
もふはかふ
きしは
いをたして
上るり
きやうけんを
しようそ
れにつけ
てもこつち
にふたが
いない
からそふ
〳〵かみ
がたへよび
にやりませう

【右ページ下】
ばけぢそうさま
御りせう
のしだいい
ざりのこし
がたちまし
たさか
なだ
な【小石川の肴店町(さかなだなちょう)のこと】のい
ぬがけが
はへました

ふしきなことだ
ごろうしろ

【左ページ下】
さる
おいらも
こんとは大きにかね
がもふかつたからま□【づ?】
むすめもさるひきが
ところへうるはつだが
やめにしよふ

ぶたをよびに
やりしところに
さつそくき
たるゆへみな
〳〵よろ
こふ

此たびぞん
じつき
ましてかい
ちやう
いたした
ところに
おもひの
まゝには
やります
からなんぞ
しばゐを
とりく
むつもり
ゆへおまへ
をよびに
あげた

わたしも
わかいじ
ぶんはかるわ
ざでおち
をとつた
こともあつ
たさ
なるほと
こんどの
かいちやう
のさた
とふから【疾うから?】
かみがたでも
ひやうばんで
ござりました
わたしもいち
どはさんけいの
つもりでおり
ましたところへ
よくぞおむ
かいくたされた
ゆへそふ〳〵
まいりました

【右ページ下】
さる
おまへがおいで
なされてはおも
いつきができ
よふてつほう
ばでいのしゝ
のみがわり
なぞといふ
しくみはどふ
たろふ
【「鉄砲場の猪の身代わり」は『仮名手本忠臣蔵』の五段目】

いたち
わしはとかく
あまりせまいと
ころをとをつた
らちみか【け?】して
いたちがな
ゆふで
ならぬか
らやは
りれい
ほうの
いゝた
てがいゝ
やくさ
【「ちみかして」または「ちみけして」の意味がよくわからない】
【いたちがなゆふで、は何かの駄洒落になっているかもしれないが、元ネタがわからないので意味もわからない】

【左ページ下】
いかさまいたち
どのがみちをいつ
たりきたりする
とみちをきろ
たとて【別本より判読】
みへ
【いたちが道を横切るのは不吉の前兆なので縁起がわるいと言っている】

【左ページ左すみ】
なかいや
が□ちつとして【がの下はゴミか?】
いるもよか
ろう

それより
りやう
ごくの
川ば
たへ
しばい
をたて
じやうるり【浄瑠璃】
きやうげん
ちうしん
ぐらをはしめ
ければとほうも
なくけんぶつが
はいりよるも
四つ
すぎ
にはき【?】り
おとし
ふだうり
きりもふ
すのふだ
をいたし
とんだ
ことなり

【左ページへ】
きりは
よあけ
まへだ
そうだ
からよが
あけたら
ちやや
にとまつ
てこよふ

【右ページ下】
これ あにさんいまがとんだ
いゝところだみていきねへ
いまから百【?】にしてみせよふ

七だんめじや
〳〵

木戸ばんはねづみ
がよかろふといふこと
にてねつみきど
ばんになる
これねづみき
どのはじめなり

【左ページ簾の下】
帳【大福帳の一部か】

【右ページ上】
ぬらさん
かわたしや【ぬらさんか、わたしゃ】
おまへになめ
こすられ
あんまりく
さゝにふいて
いるわいな
【おかるが由良之助に酔いつぶされて、酔いざましに風に吹かれている、と話すシーンのパロディ】

【右ページ下】
そこに
いやるはおさるか
なにしていやるようか
あるおりてたも


【右ページ左下】
ゑんの
下にはなを
ゑつほむ【つっこむの意?】
まいは〳〵
ぶたまじ【ぶたの洒落であるには違いない】
くあるは
【豚の台詞は「縁の下には猶ゑつぼ」を「縁の下に鼻をゑつほむまい」と洒落ているらしい。後半このようにしか読めないが、意味がよくわからない】
【 豚は仮名手本忠臣蔵七段目の斧九太夫に相当し、斧太=ふた(豚)の洒落。 原作では縁の下で文を盗み読み、「縁の下には猶ゑつぼ(笑壷)」となるシーン。 ここでは文ならぬ鮒を捕まえて、鼻を突っ込もうとしているので、 「縁の下に鼻をつぼむまいは~」という洒落だろう。ゑは調子をとっているだけの文字とみなしています。】

【左ページ上と屋根の下】
あたりみ
まはしぬら
のすけ
つりとう
ろうのあ
かりをふき
けしのむな
まふなはいけ
すよりいたち
のよふすこま
〳〵となめら
れそろ【なめられ候】では
かどらずなま
のふなよとう
ら山しくお さるはうへよりみおろせど
よめさるま なこなりどぢやう【泥鰌?】とも 【読めざると猿がかかってる】
しれずかた てをのべてとるとて【「のべ鏡」にかかっている】
おとすし ぶかき【渋柿】ゑんのした
にはぶたゆふ がなめおろすふな【「ふな」は「ふみ」の洒落】
おちたる
かきにぬら
のすけみ
あけてう
しろへかくす
ふな【「後ろへ隠す文」の洒落】


【左ページ左下】
まんじうよしか
おこしふなまんじうと
いふことはこのことなり
【鮒の饅頭売りなので、舟饅頭=遊女にかかっている。お猿=おかるは夫のために身売りして遊女になった。由良之助はおかるを好条件で身請けするので、まんじゅうよしか=まずよしか、の洒落?】

たん〳〵かいてう
はやりみせもの
を出しければ
大きには
やり□【け?】り

とうざい〳〵
たかふはござり
まするがこれ
より申あげま
するさてごらんな
されまするとをり
此ものはたんばの
くにのむまれでご
ざりまするおやが
にんげんの子をた
べましたむくいに
てからだはたぬき
かほとてはにん
げんでござり
まする此身のごう
のめつするため【業の滅するため】
おの〳〵さまがたへ
おめにかけまする

このものが
げいと申ては
ふへたいこに
あわせまして
はらつゞみを
うちまする
このぎしゆび
よくお
めにと
まりま
すれば
せんの【先の】
かたはお【方は、お】
かはり〳〵

【右ページ下】
なるほどめつら
しいものでござる
こんなものもみて
おくかいゝはなし
のたねだ

あの口上
をいふあふむ【を言ふ鸚鵡】
はもと両
ごくみせ
物にてた
から口
上を
よくお
ぼへて
いゝ
ます

つくり
ものでは
ないかの

【左ページお囃子】
ひとろゝ〳〵

てれつゝ〳〵
てれつゝ
てん〳〵

しんあれば【別本より判読】
とくあると【別本より判読】
たとへのと
をりのつへら【のっぺら】
入道がおも
ひつきで人
げんをばかして
もこはからず
たとへこはがらした
とてなんにもなら
ずとおもいなをし
こんどのかいてう大きに
ぜにもふけしけれはこれ
でらくにくらされるとまた
らいねんもなんぞおもいつ
きをせんとおもう
まつ〳〵ぜにかねは
ふへるこれほどめで
たいことはない
ぶたとのもとうぞ【ぶた殿もどうぞ】
ゑどにござれはいゝ今は
ゑとにもずんどこなた
のなかまもすくない
それよりぶたにもあつくれいを
いゝみゝづそばをふるまいそのうへ
かねをたんとやりかへしけり

【右下】
またらいねん
まいろう

【左下】
此たびは
ぶたいぎ【お大儀を豚にかけている】
でごさり
ました

【左下枠内】
幾治茂内作

[化物一代記]

天明元丑 は
  化物よつき鉢の木□

化物世継の鉢木《割書:可笑作|清長画》五冊合

【国会図書館登録タイトル「化物一代記」】

□くあいにたるばけものつくし
おこさまがたもよう御そんじ
いつてもおや玉はみこし入道なりしかれ
どもいづくいかなる地のことと
いふ事をしらず又うまれ
ながらのほうずにても
あるまじとそのゆいしよを
きゝいたせし□□ゑち
このくにの大ほうす□
とつとせんねんすぎ
さりそのこみこしの
介とてかほはおそ
ろしけれども
かみはいき
ちよん【粋ちょん】にていづれも
人げんにかはる
事なし女房はおろくとてうつくしき
ものなりすねんなるむつましくくら
せしがこのなきをかなしみゑんおり【?】を
いのりしかいあつてみこもりはや十つき
になりぬ

とうぞはやく
みふたつに
なりとふ
ござんす
いますこしの事
ずいぶんくびを
のはさぬやうに
しやれちづな【?】か
きれるけな

おゝとかくみもちか
大せつさ

ほかへおいで
なさる
なら
く□□□の
□□□
□□□□
□いて
なさん
せん

いしや
やぶうち
いちがん【一丸?】
くすりを
てうがうする【調合する】

御さたはない
ことちとけうな【こと、ちと希有な】
うまれでござり
ます

□□とが【かすれている】
大じてござる

まあ
おさんふへは【御産婦?】
さたなし〳〵

【右ページ下】
時きたりておろくも
あんざんしたまのやう
なるにんげんのなんしを
もうけみこしの介【見越入道の名前?】
大きにおとろく

いへ〳〵ない事
でもござり
ませぬちかい
ころにんげんの
くに□にむすめ
もこざりました

とり
あげ
きもを
つぶす

おや〳〵
□□□□【ページの隙間にて見えず】
からぬ
おこしや

【左ページ】
おろくにんげんを
うみしときく
おもわずくびを
のばし
ちのみち【血の道】を
おこす

おろくもほどなく七やにて
めでたくいわゐよふけ
ければちつけ【?】うぶめも
やす
みて

こし
の介たゞ
ひとり

とぎ

てくすりなぞせんじ
つくりしが此ほどのつかれにて
とろ〳〵とまどろみしうちに
かみをみだせしいじんゆめ
まくらにたち給ふ
うぶめも
此ほどのつかれ
ぜんごしらず
ねいる

ぜんざい〳〵
われはこれしよ
ばけ物のうふすな
やまのかみなり われ
まもりてまづへい□んはさま【た?】し
はゝのたしなみつらくみこもりて
よりいちどもくひをのはさぬゆへ
そのすがたにんげんのことしこれによつて
まちがいにて人のたましい入たりくやんでかへらぬ
事いんぐわとあきらめとてもはけものゝ
こ□【に?】は大きな
かたはなれば
そう〳〵
山へ
なり
とも
すて
べし
かならす〳〵
うたがふ事
なかれ
とろ〳〵〳〵〳〵【どろどろどろどろ?】

それよりみこしの介は山のかみの
御つげにて女ぼうへもとくしんさせそう〳〵
わがこをいだき□【山?】おくふかくわけ入ふびん
ながらすておきかへる□にゆきしき
りにふりきたりければ□□きやかけの
ことくさもうつくしき女むかふよりきたる
ゆへみこしの介おもふよう はけものなかまの
きつねたぬきのわれをしらぬといふ事は
あるまじいかなる女なりともわれをたぶら
かさんとはにつくきやつとだん〳〵ちか
よりみ ればかねてばけ
物なか まのわかい
ものども

ひやう
ばん
せし
はこ入
むすめ
のゆき
女なり
【下へ】
みこし
はおゆ□【き?】
ときが
つくと
ながい□ひ【長い首?】
すじ
も□□
ぞつと
する
ほど
ほれこみ
なにとぞ
てに入ん



□なし
ける【?】

よびかけ
られて
わたりに
ふねと
てにてをとり
いちがのなかれ
もたしやうの
ゑんとか□□□
みはたしか
とうふうの
ニだんめの【「小野道風青柳硯」二段目】
くちに
あつた

【左ページ】
□□……【ページの隙間で読めず】さんこの
さむいのにたゞおひとり
まあわたしがかくれがへおいで
なさんせ

さても
みこし
の介は
さりし
よ【夜?】お雪
がかたへ
たちより【お雪が方へ立ち寄り】
たかいに
おもひの

けをあかし
そのあとははけ物の
ことなれば何
をしたかしらず
ちん〳〵かものなかと
なりてそのゝち
よごとにかよひ
たのしみけるこの
ゆき女いつもまつ
しろかとおもへば
そうではなし
ゆきのふら
ぬときは
やつ
はり人げんのやう
で□つくらい事
はまむらやも【浜村屋=歌舞伎役者の屋号?】
はだしなり

みこしはこよひ
もきたり
れいのごとく
いちやつきける

またおろくは
おつとのまいよ
いつく ともなく
いでゝあさかへるを
ふしぎ
におもひ
からだは
うちにるすをまもり
くびはかりひそかに
あとをしたひ此やうすをみて
さてはとおどろきしがこゝろに
おさめたちかえるくびばかり
なればじゆふな事なり

【見越之介と雪女の会話、かすれ多し】
たれはゝからず【誰かばからず】こういふ
たのしみが□□にも
あろ□
もつとこつちへ
よりかけい〳〵
もしへさゝが【?】すぎやんしよ

みこしの介はよあけぬうちなにくわぬかほ
にてかへりしを女ぼうおろくとうはだん〳〵うらみ
をいふもしわたしかりんきはしまいしおかくし
なさんしてまいよ〳〵うちをあけておいでな
されはわたしはくびをながくみちかそ【く?】して
よのあけるまでまつていますいつそゝれより
おゆきさんもひとりみなりまたおとこの
めかけてかけ
はあるならい
てんしに十二人【天子に十二人】
とやうばけ物
にもひとり
ばかりはあり
うちいつてうちへ
入てくださんすりや
わたしもちからになつて
よふござんす

そうでられては
一ごんも
なかばし
〳〵【一言もないのなから中橋につなげる洒落か?】

【左ページ】
《割書:猨山先生書|勝川春章画》錦摺(にしきすり)三十六 歌仙(かせん)《割書:先年| 出板》
【猨山先生=猨山周暁】

錦摺(にしきすり) 女(をんな) 三十六 歌仙(かせん)箱入《割書:細井鳥文斎栄之画|花形門人幼女寄合書》

《割書:錦摺|画尽》海(うみ)の幸(さち)
魚つくし生写し
発句なり

みこしは
つみかくせし
こひぢも
おろくがくびに
みつけられ
もつけのさい
わいとうちへ
よびよせこゝ
ろのまゝに
たのしむ
【ここから台詞か】
なにさまたいやみをいふよ
あのかゝあはつねはゑゝがおりふし
くびのでる□
ぐつとあいそうだ

おれが
ことは
たなへ
あけ

おく

おもやるか
また
おとこは
かくべつさ

【下へ】
こうしてまいれはいつしやうつれそう
にやうほうもとうせん【女房も同然】おろくさま
ほとにこそ
おもわんせす
とかはへい【?】
かつて下
さんせ

あるときおろく
おゆきつれ〳〵
のあまりすごろくをうちける□ふたりともにとろ〳〵とねいりしが
つね〳〵たがいにか□【ほ?】へはなかよくうつくしけれどもないしんに
ねたみつよくふたりのものゝかみのけさかたちあらそふあり
さまばけ
ものゝめにもおそろしかりける
みこしの介このていをみて【?】はじめてこゝろづきさても
女はないしん
やしやのことく
とは
いま
はじ
めて
さとつ
たり
われな
がら□
まよふこり
〳〵とこれより
ぶつどうにいり
ふたつには
【左ページへ】
□□□
なからもせがれが
ゆくへもたづねたしと
われとわがくろかみ
をきりはらい
ふたりへかたみ
にのこしおき
ほつしんしていへを
いでしよこく
あん
きやと心
さしける
これよりして
みこし入道
となり
うきよを
さとり
しよ〳〵にて
もしや
わがこか
とおもへば
うしろよりくびをのばし
人をみこせしゆへあそこへもこゝへも
見こし入道がでるとおそれける

こゝに又ばけ物のうちにても
こゝろよからぬわるものおこさま
かたもごそんじのもゝんくわといふ
ものさんぬるころ人げんのこを
ひろい六七ねんそだてゝやま
しどもとそうだんする
あゝやすいものだかつて
おけ〳〵しやん〳〵〳〵
かほ□【か?】あぶらなめ
いろ〳〵ちそうする

山しねこまた
いろ〳〵といひて
三十五両に【数字が不鮮明】
かいとる
しろものか
めつらしい
からふみこんで
かいます
三十両て
□【う?】ち給へ

それ
より人げん□【の?】
こはねこまたが
て□【に?】わたり山しなかま
あをさぎきつねたぬきの□いと
そうだんのうへすこしはかりげいをしこみ大さる下り
人げんのこといふのぼりをたてしんやにおよびりやう
ごくひろかうじに
おいてみせ
物にいたし
大きにあたし
まる【?】みこし
入道この
所を
とをり
かゝり
もし

わが
こかと
くびはかり
よし
づば
り【葦簀張り】より
うち
はいり
みる

【見越しの首の下】
とんたものだ

みこし入道はわがこに
ちがひなければなみたを
うかめすぎしこしかたのことを
おもひ出しおどりもみずに
しほ〳〵とかへる なみだを
ふきたいにもてはきどの
そとにおいてきたからしかたか
ないかへりませう
とうさい〳〵此たび人【大?】さる下り
人げんのこあまりめつらしき
ものゆへかれかこりを□【囲り置き?】
めしつかはさんと
そんしおめにかけまする
一とをりにておなくさみも
うすふ【薄ふ?】ござりますれは
すこしばかり□□あわせ
ましてししよこと【所作事】をあい
つとめまするまつはおどり
のはしまり〳〵
御けんふつさまがた
ふるいとうみや【堂宮】のゑん
の下へおかへりなされ
御ひやうはんのほど
ひとへにねかいたて
まつります

【右ページ挿し絵内台詞】
こいつは
さとい
ものだ

なんの
いん
ぐわて
あやう
なもの

うんだ
やら

さてもみこし入道は
両こくにての事いろ〳〵思い
つゞけけるが日にましよに
ましみせ物はんしやう
しよのあけるまで
ばけ物くんじゆせしゆへあまり
ふびんにおもひ入金子をいだし
ねこまたよりわがこをかい
もどしだん〳〵といんくわのもの
かたりをしてはや□□
がことそのみのほつしん
のわけをいひきかせ
そのほうも
人げんにうまれし
がう【業】をめつせんと
かみをおろさせ
うまれつき
たる人
けんは

やんで
かはらす
せめて
はしゆかけ【?】
して
のちの
よには
ばけ物にも
うまれよと
きやう
くんして
ほど
ちかき
山でら
どうらくし【道楽寺】
といふ人げん
のおしやうを
たのみでし
となしそのみは又しよこく
とめぐらんといへをいでし

わたくしがやうな
いんぐわな
ものはござり
ませぬ

それよりみこし入道がこはとしへて
道楽寺のぢうじとなり
はじめはしゆつけけんごに【初めは出家堅固に】
つとめしがどうでも
ばけものゝたね
とてのちには
め□□□ひを
□□□□□せう
と□□あるひは
い□とばけて
□□けるどうか此しそんは
□だいふありそうな事なり
もし【?】だんないそぎやした一つ
おのませなされませ

□□くみたんなもつうたは
今どきやぼとばけ物は
ねへのさ ねへだんな

やぼはゑゝが
ばけ物とは
きにかゝる

《割書:書用|普通》手紙之文言(てがみのもんごん)《割書:十返舎一九著|中本全一冊》
世に行事の書用案文数多ありといへ共平生日用の
事に洩たるも少からず依て今是を増益し且不仁不
義の人或は酒色におぼるゝ人え遣す異【?】見状等をこと〴〵
あらはし児童の為に両かなをつけて手本とす

《割書:状通|便利》懐中案紙(くはいちうあんし)同作両面摺折本
四民平生入用の状通案文并手形諸□文残らず記【?】
且尊卑の差別時候の次第連名の書やう封じめ□【?】
高下目録折紙等のしたゝめ方他本にのせざるをあらため
しかす猶懐中折本たるをもつて旅行或は他所へ出て□
時の弁利すみ【?】やかに用たれり
【…左ページまだ不十分です】
東都書林 永寿堂 
《割書:馬食町二丁目南角|西村屋与八梓》

扨もばけ物のおや
だまみこし入道はさき
だつて世をみかぎり
てしよこくしゆぎやう
に出しよりかしらを
おさへるばけ物もなく
はなはだばけ物のふう
ぎ【風儀】もわるくなりばけ
物どもより合そうだん
□□□ なかにも
かはなら【妖怪の名?】いふよふ【言ふよふ?】みこし
入道のおとしだねありし
がはゝのろくろくびたし
なみよく人げんをうみ
て今人けんとなりて
とうらくしのぢうじ
みつどう【住持の名前】を□□□□
これをすくあて【?】
みこしのいへをそう
ぞくしてらにさだめ
んといふ【相続し寺に定めんといふ】

【下へ】
うみぼうず
なるほど
かしらが
なくて
もすま

きん
ねんは
ばけ
ならいども
が人をおど
してものどり
をすることもある
げな【?】

さん〳〵
わるいふう
になり
ました

こゝにどうらくじ
のぢうじみつどう
はしゆつけの【は、出家の】
あるましき
けいせいくるひ【傾城狂い】に
うちこみ
おやみこし入道
はいづこにゐる
ことやらおやの
こともうちわす
れあるひは
ふか川又は
ほつこく【吉原のこと】
がよひ□【と?】
つきひを
おくり
たのしみ
ける

【入り口近くの女】
ちつとあげ
もみらんしやう【?】

【ちょんまげの男の下】
おまへ
がたも
なんた

おでわ【?】
でも
ひき
なさへ


【僧侶のとなりで鼠を見せる女】
此ねづみを
みなんし
いつそ□□【よく?】
なしみんした【馴染みんした(よく慣れました)】

【僧侶(みつどう)】
とれめは【どれ、目は】
あかいな

【左端の女、かすれている】
すか
つ□ □□や
さんの □た
ふちも □□□
□の□ろは
よくて□
□へで

【下の女、後半かすれている】
おい
らん

ちつ


かし
なへ


みつとうはとう
かんかへても
ぼうすを
大事にするは【?】
みなこの
とし□もひ
それより
しな川へ
ばかり
かよひ
井出野と
いふ女に
はまり
あけくれ
かよひ
ける

【下へ】
ほくちはその
ひなわばこの
ひき出しにござんす
たはこを
あかり
やせんか

なんとまた
こうみた【?】
ところは
こまつた
ものでは
ない□□【ゑゝ?】

【左ページ、つぶれている】
高輪【?】より
□の
景色【?】

みつとうはよひ
よつあそひて
九つすぎにとこに
入いつもの通り
いろ〳〵と
【ここから】
はなし
なと
して
□□□
とね
入しが
いてのは
そつと
おきな
【ここまで別の摺りにて補いました】
おりみつ
どうが
はなに
てをあて
ねいき
を□んかへ【考へ?】
ひやう
ぶの
そとへ
いでしか
みつとう
はねいり
たるふりにて
そつとのそき
みるに今
まてうつくしき
かほかたち
さもすさましき
ふるねこの
すがたを
あらはしそはに
ありしゑひ【海老】を
からともに
かり〳〵と
してやるを
みて大き
におとろく

【右ページ、みつどうの台詞】
やれおそろしい
□□□はならふ
さ□た
□□な
みた
なんてもしらぬ
ふりて
とい【?】
おうて
やろふ

いでのはとこへ入てみつにとろどう【?】めさたる
ゆへぬしあなんぞみなんしたかといふかほつき
のうつくしさいまのねことはへつかしらぬと
おもふほかなりい□なにもみは
せぬかこれほどならんでくるふ
なにもかくすことは□□【ねへ?】おれが
みのうへもはなすからてめへも
みのうへを
はなしてきか
しやとあやなす【?】
おれはせんたい
人けんてはなく
みこし入道といふ
はけものゝ子たか
つい人げんにうまれ
そこなつたから
さいわいと女郎でもかつてあそぶ
のさ
ぬしかとうありて
はなしなんすからはわたしも
つつまずにはなしんせうわたしか
おやはゐでの山に化ねこといふ【?】
ふるねこなりしがそのむ□□【かし?】
あたをなしついに
かりうとのてに
かゝりむなしく
なりそのときは
□□わたくしは
つめもかくさぬ【爪も隠さぬ】
しぶんそれより【時分、それより】
たん〳〵
せいじんして
なにとぞふた
またのいへを【二又の家を】
そうぞくせんと
ちかきころより
御てん山にすまひ
□□なししゆ
きやうのため【修業のため】
このところにて
人をばかしんす
おまへもそういふ
みのうへならば
どうぞすこしづゝ
ばけならつて【化け習って】
おやごみこしのいへを
ふたたびおこしなんすが
こう〳〵
といふもの
かならず
わるく
きゝなん
すなへ

みつどうは
□ぶき
ねこが
いけんにて
やう〳〵
いま
きが
つき
なるほど
ばけ物
のこに
うまれ
ながら
女郎
ばかり
かつ


すん



つまらぬとおもひ
どうらくしのあとを
でしのうちへゆつり
あてどもなくいでゝ
ゆく

どうぞ
ちつといく【?】
ばけてみたひものだ
そしておやじも
まめでいられる
か□【こ?】れもたつね
たいものだがちつとは
ばけならいましたと
いわねばどふもめん
ぼくもない

【上段】
絵本 《割書:白井権八(しらいごんはち)|□□□□》名高江戸紫(なたかきえとむらさき) 全二冊
同 《割書:管(かん)|家》天神御一代記(てんしんごいちだいき) 全二冊
同 曽我 一代記(いちだいき) 全二冊
同 忠臣金短冊(ちうしんこがねのたんさく) 全二冊
画本(ゑほん)讃怪興(さんくわいきやう)全二冊
      見立化物つくし
【下段】
同 《割書:宇治(うぢ)|猿橋(さるはし)》由井浜昼夜物語(ゆゐがはまちうやものがたり) 全二冊
同 頼光山入酒呑童子(らいくはうやまいりしゆてんどうじ) 全二冊
同 義経新高館(よしつねしんたかたち) 全二冊
画本(ゑほん) 武者手綱(むしやたづな) 全二冊
画本(ゑほん) 福寿草(ふくじゆさう) 全二冊

右はかうせい紙(かみ)のひやうしにて【以下かすれていて読めず】

それより
みつどうは
どうぞ
ばけ てみたいと
まづこゝろみに
たかいあしだ
をはき
ふしくれし
つゑを
つき
やぶれがさを
かぶりせいげんのひものを【?】
みるやうなみで
たび人を
おとしてみる

【旅人の台詞】
どふも
おればつかり
ばけ物の
きで

さきで
ねつか□

おしやうちが【?】
なへ

まつ

もの


あれはなんだ
きちがいでもなし
かわつたみぶりを
するやつだ

いくら
おどして□【も?】
人がもち
ひぬ【用ひぬ?】ゆへみつ
どうはふつと
おもひつき
はりぬき
のざとう
の大あたま
をかふり
おどして
みんと
人みな□
【腕の左へ】
□山おくへ
ゆき
人どをりを
まちしに
かりうど
とも
おも
はれ

【左ページ上へ】
ものひとり
とをりかゝりしゆへ
うしろよりぬつと
かほをいだせしに
おもひのほか
ごうせいものにて
とつておさへ
あたまの
はりぬきを
ひつたくり
ひどいめに
あふ

【右ページ中段へ】
おのれにくいやつ
おれをたれ
たとおもふ
かん平が【勘平が】
はらきりの
ばへも【場へも】
でた
たぬきの
かく兵へと【各兵衛と】
いふなを
しれた
おとこだ
そんな事で
おぢるものか【怖じるものか】
ばけ物の
にた□
ぼ□



【左ページ中段へ】
まつぴら
ごめんなされ
ませお人を
みそこ
ないまし
たきつと
いごを
つゝしみ
ませう【きっと以後をつつしみませう】

【下へ】
ころし
くじつ
ても
つまらぬ
ものだ

みつ
どふは
かく兵へ
にはん

はん
しやうの
めに
あい
よふ〳〵

ばかり
をた
すかり
おしつけ
よも
あけんと
みちばた
のいし
ぢぞうにより
かゝり□□□〳〵□【うつら〳〵と?】
せしにゆめに□□【とも?】なく
まほろ し も なく【幻ともなく?】
さきたつて
□このときわかれし【あかこのときわかれし?】
はゝくろくろくびにたいめん
する
これ〳〵みつどうわれは
そのほうがはゝろくろ
くび□まれ□なり
なつかしや〳〵なんじ
けなげにも□の□と
おつきはけものに
ならんとのこゝろ
さしのやさしき
【上へ】
ゆへまみゆる【松を挟んで下へ、以下同】なりとても【さても?】
人げんのかたち にて
ばけんことおも ひ もよら
ずみこしのいへをつがんと
おもはゞこれより二三りひがし
に大入道大ごんげんといふ
やしろあり此御かみを
いのりなはついには
ばけものゝかず
にも入べし
そう〳〵たちこへ
きぐわんをなすべしと
いふかとおもへば
くもきりの
はれたる
ごとくかたちは
きへて
うせに
けり

みつどうは
はゝのおしへにまかせ
大入道へ
七日つやなし
□とてすこし
なりとも
人間を□□
はけ物らしきかたちになしてたび
給へといつしんにいのりしが七日
まんするに大ごんげんあら
あらわれ給ふぜんざい〳〵われ
は大入道也なんぢいつたん人げんと
うまればけ物のあとそうぞく
せんとはかなわぬねがいなれども
これまでいろ〳〵かんなんしてばけ
そこないいつしんにわれをいのる心ざしにめんじ
わがしよじせしまなこのうちそのほうに一つ
あたふるなりずいぶんしゆぎやうし
てはけ物の かしらともなるべし三(み)つ道(とう)の
もじをわりめ入る とかき入これより
三つめ入道となるべしかならず【?】ど〳〵
うたがふことなかれ
そのゝち此ごんげんを一もく大ごん
げんと はけ物 なかま
にてそん きやう

ける

【右ページ下段へ】
ねん
くわん
じやう
しゆ
やれあり
かたや
〳〵

みつめ入道は心ちうに□い□□□を
さづかりこれからはほんのはけものゝ□□
よろこびいぜんようせうのじぶん
せわになりしもゝんぐわがかたへ
たづ□□たる

【下へ】
ひとつふへたれば
かくへつあかるいわへ

まへど【?】より
だいふきれ
いになり
ました

【ページのさかいめ】
おひさしや〳〵たゞ今では
とうらくしをもおのきなされ
□□つせつてこさるか

【左ページへ】
やれ〳〵おまへかその
やふにおゝきく
ならしやつ
たをみ てはわし
ら は よく人げん
にもば けませぬ【?】

こゝに又ばけ物なかまにてはさきだつて
よりいろ〳〵どうらくしをたづねしが
人のすみかはばけものにはしれ
かね□やういつくにゆくへしれぬ
ゆへたぬききつねなどひきやく
となつてしよこくのばけ物
ともへもよりわけのくわい状
をもつてたづぬる
きつせんせいどこへ
とまるきた

きさま
はどつちの
ほうへ
ゆく

おれはしなのゝほうへ ゆくが四五日も
とうりうせうさ【?】
わしはせんねん【先年】むそう【夢想=夢のお告げ】 でつけた
かうやくうり【膏薬売り】のとこ ろへとまる
きだ

ふしう【武州】のひがしにあたり
てばけものゝすむ山
あり此山のあるじはむま
のかしらのやうなばけ物
なりしかるになかま
より
こくげん
づけの
くわい状を
もつて
みこしがこを
たづね
みあたり
しだい
その子へ
よりあ
わんとの
ことゆへ
きんへんの
心やすき
ばけ物を
よびあつめ
そうだん
して
たつねん
といふ

ずいぶん
きをつけ
ませう
水の うちは
せつ
しやが
うけ

じゃ


【左下へ】
わしはめつたにしん
かのやねへあかり
のそいてみませう
人けんめかひより【日和り?】
になると
うれしかるで
あらふ

三つま
なこは三つの
めにてねめ
まはしあるくに
ひとなみなら□
□ゆへ人みなおそれを
なすゆへ心によろこび此所に
にてばとう【馬頭】をみちがいて【見違いて】はかし
ひつくみんひのちに【?】みのうへ
ものがたる
なんぼめは三つあつても
この
ごろの
ばけならい
ゆへみちがへ
ましたゆるし
給へわしもいまは
とうげん【とうぶん?】
もゝん
ぐあが
ところにゐ
ます
どふあつても
おやぢをたづねいだし
おやぢの口からばけ物のかしら
をゆるされぬうちは
どうもな□□
ませぬ

はとう【馬頭】よく〳〵かんかへみるに
なかまにきゝおよ
はぬ三つめゆへ
もしやみこし
入道がこなる
かとたつね
いさいをきゝ入て
きもをつぶす
なかま
のもの
おまへを
たつねいだし
みこしのいへのあとを
たてみな〳〵かしらに
さだめんと
そうだんきわめ
ましたさやうならば
みこし入道さまをたづねいだす
までごふじゆにではござりませうが
もゝんぐわがかたにおしのびなされませ

見こし入道は品々しゆぎやうして
此山にきたりし
がおりしも
大ゆき
にてなん
ぎする

あゝ ハ【「ハ」は絵の一部?】
ふつたる
ゆきかなわれわかかりし
ときおゆきがいろかに
まよひゆき
をなかだち
にかいかう
のかたらい【邂逅の語らい?】
をなせし
がそれも
ゆきこれも
ゆきかはり
はてたる
うきよじや
なあ

もうし申【?】女ら
此大ゆきにわこへも
□□へも行□し【行がたし?】
とふぞそのくびはし【首端?】
に【?】なりとも一夜のやとを
おたのみ申

□□□□□た【かすれている】
おや□□□□
なれども
こゝは
やとやにては
□□なれは□
□□□おやどは申され
ませぬほかを
おたのみなされ
ませ

かゝる所へあるし
のばとう【馬頭】たち
かへりやれみこし
入道にてわた
らせ給ふかさあ
〳〵これへとうちへ
しやうじ山がなれば
なにとかし【?】ごちそうもなし
きついものあわ【?】のめしまで
ござりませぬと
ひそみせし【?】はち
うへのばけき【化け木】ども
をひのき□くべ
あた
る【?】

【中段へ】
やれ〳〵しらぬ事とて
もつたい
ないそま
つな
御あい
さつ

まし


【馬頭の首の下】
まづ〳〵
四五日【?】も御とう
りうなされ
ませ

やせたり□□な
むまが心いつ
はい御ち
そう申そう

【左ページへ】
□□□□【ページの隙間にて読めず】
ふぎなき
のふ□に入て
きみの□□
とのいまは
三つまな
こ□となり
い給ふ所【?】【挿し絵の斜め線の上へ続く】
おめにかゝりそうばけ【斜め線の下へ続く、以下同じ】ものゝ
かしらにと□まいら せしか
き□よりゆへしなと い□御しやういんな□【?】
もゝんぐわと□もの□た に
い給ふゆへに
これ

【頭の左へ】

いでな
され門【?】
□□し
御たいめん
なされ
□□□□に【?】
そんじまする

【下へ】
あわのめしもいや〳〵
こめのめしもいや〳〵
いりびがはち
□□のてつ
へんで
ござる

みこし
入道は
それより
もゝん
ぐわが
やかたへ
たづね行
おやこ久しぶりにて
たいめんあり三つ目
になりしものがたりを
きゝよろこびそう〳〵
みこしのいへをゆづりはけ物の
かしらとなるへしとしばらく
たへしみこしのかとく
そくぞくある
このよろこびのつい
でにひがし
らふ□□
ばとうといふかの
なさけふかきばけ
物なればと
□□よせは
ちの木をきつてこゝろ
ばかりのちそうの
□□□□と
あつて
今より
東山(とうざん)の白馬(はくは)と
なり

【右ページ右はし】
おめでたふござります

【左ページ上】
西竹林鶏三足(さいちくりんかけいさんそく)
南海鶏魚(なんかいかけいきよ)
北州古狸(ほくしゆかこり)【ほくしう?】
あわせて三がしよの
ばけものそのほうに
つかはす□□
そのほうかしらをふまへ
こゝろのまゝに
□んい
すべし

【下へ】
みの
めんぼく
ありがたい
しあわせで
ござり
ます

さても三つ目入道は
父みこし入道にゐんきよさせ
ばけ物のそうかしらとあをがれむかふ
かわ□【の?】
大ひろ
そでに
てつのぼうと
いふみにて□け□の
おこさまかたにもこは
かられいくひさしく
さかへけるこそ
めでたき

大ごんげんよりさづかつた
このめのひかりでかほも
かたちもとんだ大ぶりに
みへるわへ
うれしや
〳〵

可笑作
清長画


当年の
再板物目録
【上段】
郡花百人一首和歌薗(くんくはひやくにんいつしゆわかのその)
頭書(づしよ)三階板(さんかいはん)にて女諸礼(おんなしよれい)其外(そのほか)女一 道要用(だうようやう)の事 餘多(あまた)
集(あつ)め重宝(てうほう)第(だい)一の本 此度(このたび)再板物(さいはんもの)にて北尾先生(きたをせんせい)の書画(しよくは)也

庭訓往来両かな附 出来

御成敗式目両かな付 同

新刀銘書両面摺 出来

【シールで一文字ほど読めず】朝画家系圖印譜 両面摺

【下段】
桜川慈悲成咄の戯作
永寿堂の見世に而即席作

新刻 出来
栄之画彩色摺
万台百人一首文寿抄(まんだいきやくにんいつしゆもんしゆしやう)
頭書
かうしやく入

右の外
本□品々
新刻出来仕る
何によらす
本□【上掲?】
□□□【御用か向?】
□□□【奉願上候?】以上

津以曽無弟の甚六

208
【印「特別」】
648
【題簽】
津以曽無弟甚六     完


【検索用タイトル:津以曽無弟の甚六】

安永九年 ◯
  め
208
【印「特別」】
648

【題簽】
津以曽無弟甚六 《割書:通笑作|清長画》 三冊

こゝにいけやの九平といふ
ものありさま〳〵とかき
かなんしけるがしやう
とくりちぎにて
てんのめぐみにより
そふおうよりよき
あきんとゝなり
家のよつきに一子をもう
けなを吉松とつけはつ
めいにておとな
しくいしねつき
とじなんが
でき
なを甚六とつけ
てふあいかきりなくよろこぶ

【図中の言葉】
あたまてん〳〵を
しろよいこわどれ


あすは
おやす

だから
よく
ならいやれ
かゝさんおべんとう




【右丁】
たとへのふしに
そうりやうの
甚六とあにの
なにはいくらも
せけんに有物
おとゝの
なには
よか
ろふとおもひおやぢのおもひ
つきにてつけたれども
百のくちが四文
ぜにて十六文
ほとぬけあな
いちをすればいつでも
きんちやくのそこを
はたきたこを
あけるといとめ
ばかりもちめかくしのおにゝなると
てまへばかりなぶられそのうへ
百とのかしおにゝ
なればしやふがい
【左丁】
おにのかぶはぬけづ
とのさま事
をしてあそ
ふとむまに
なりぞふりかくしはかいをくふて
せなかをつちたらけに
しみのなるきははな
からしれるあにの吉松
ともだちつきやいもせず
かんがくいんのすゞめはもうきふ
をさへづるしせんと下いちりん
をみならひまへかみの内から
そうばわりまておほへ
おとゝの甚印を見て
きのどくにおもふ

【右丁、下の言葉】
ごよふ
しんに
なれ

かし
こはない

甚六だん〴〵せいじん
しけるゆへよふ〳〵
てならひにやり
けれどもついたちの
やすみから廿五日を
まちかね天神さまの
あづきもちばかりのあてゞ
てならいをしてとかく
やすみをたのしみししやう
さまがかせをひくとよろ
こびなんでもやすむつもり
てならひはさかにくるまを
おすごとくといへとも
つくへにかゝると
ふねばかりこいで
いるあとのものにおい
ぬかれてもかまわずさうし
ゑはならわいてかほへばかり
ならいぎやうぎがわるくて
ししやう
さまの

【左丁】

まて
わるく
いわせ
この
かわい
さに
あの
ししやうは
ねつから
おしへぬ
から
ほかのへ
やつたが
よいと
いふよふに
するは
こまつた
もの
なり

【右丁下の言葉】
にんきよ【?】
かくこは
あたま
かくも
ふるい
から
なんとも
おもわぬ

【左丁下の言葉】
しかう
して

源太郎
との
なら
わつ
しやい
【左丁。師匠の妻の言葉】
もふとう
ふやかま
いりまし
たおひる
になさり
ませ

【右丁】
もはや吉松はよいわかいものになりおとなしきうちに
よめをもらわんそうおうなる所へやく
そくしてきわまり吉日をゑら
みしるしをやるつもりになり
あほうな子はなをかわ
ゆいとおとゝの甚六
ひとりまへにていかぬ
やくしやなれといつま
ても天川やのでつち
のやうにまへかみても
おかれずゆいのうのしう
ぎをさいわいにけんふく
させけるがこどものとき
はつめいよりこのくらいがよいかけんと
でいりのいしや
とのゝ見たて
そればつかりが
たのしみは百両
とみのふだにきつ
ているやうなもの
なり

【右丁下。甚六の言葉】
びんが
あつく
ても
よい
いたく
てならぬ
【右丁下から左丁下へ。吉松の言葉】
次介
とん
ほんたに【本田(髷)に】
して
やら
しやれ
【左丁。九平の言葉】
こふくやへ
人をやつて
みやれなん
ぼふた
かさね
ても
もふでき
そふ
なもの
しや

【右丁】
さい上吉日なれば吉松に
よめをむかへふたおやの
よろこびいわんかたなく
みな〳〵せんしうばん
ぜいをしゆくしそう
りやうといふものは
ばかにきわまつた
ものではなし
すこしゆふな
ものなり
よりとも公は
しばいては
はんとうにすれと
そうおやだまと
なりよしつね公
よし中こうは
ちゑがこぼるゝ
ほどあつても
そここゝと
いそう
ろふに成
給ふそれにひきかへ
吉松そうりやうの

【左丁】
ようにはなくこせ
〳〵とせいをだし
もの事にぬけめ
なくかせきけり

【右丁中ほどの言葉】
てんきも
よろしう
べつして
めてたふ
そんじます
【右丁下の言葉】
うつ
くし
いもの


しや

といふところか
ある

【左丁右下の言葉】
おとゝがこなたの
おせわでござ
ろふたのみ
ます
【左丁左下の言葉】
おふくろ
さまはさぞ
おうれ

かろう

【右丁】
いけやのかない
こんれい
にていそ
がしけれとも
甚六ひとり
ひまじんにて
うまいものだらけゆへ
よろこびけるさどいきの
おんなともおとふとごに
つまらぬもを【と?】うわき
する

【左丁】
子ゆへのやみのおやこゝろ
甚六人なみにしたくおもひ
はゝは
ありとあら
れぬかじ
きとう
あさくさの
ぢぞう
さまほかの
うちへは
つき
まいり
りしゆぶんをたのんだり
かみさまなにしうしの
へだてもなくその
おかけやらあつい
さむいぐらいわ
いふやうになり
けり

【右丁下の言葉】
とふぞ
まい日
おきやくが
あれば
よい
うまい
ものなり
まんちう

あかで
よい

【左丁下の言葉】
なに事も
かみしんじん
おふきに
おせわ
だアい
はんにや
はらみつた

【右丁】
甚六かみさまの
おかけにてすこし
はなしもできる
やうにになりければ
なんぞけいこごとでもはじめたらば
人ずきやいもできるやうになろふと
いしやのでんはくをたのみかねは
せう〳〵いつてもよいとおやじ
までいゝけるゆへ甚六にすゝめる
ぬしにはなにがよかろふといふ
おもひつきもないとさま
〳〵の
けいを
くじにしてだいしさまのおみくじと
いふみにてふりいだす第一はんの
くじにうたひ第二つゝみ 第三
さみせん第五上るり第六
けんじゆつ第七はな第八
はいかい第九がくもん第十
ちやのゆこれほどけいこした
ならばそれからはこゝろまかせじゆ
しゆかう【十種香】れんが【連歌】こきう【胡弓】どら【銅鑼】
めうはち【妙鉢】にいたるまでなら
つて
おけば

【左丁】
そんはなし
まつ一ばんに
うたひ
から
けいこを
なされと
すゝ
める

【右丁下の言葉】
まづけい
こにゆくと
はなしが
できて
よい

【左丁下の書き入れ】
けいこのくじ
をかきつけ
をく

 

【右丁】
せけんはれてのけいこ事うたひに
あがり人つきやいものう【?】
はいがよくまづ
でしいりに
せんせいも
ぢん六を
とうへん
ぼくと見たて
とうぼくをはじ
めして
わき

うたふ
やうになればだん
〳〵におもしろく
なりみわのうたひとちかひ
よるはくれどもひるもくるよふにせいをいだし
うたひ
かう【謡講】の
あとて
じぐち
でも
いふ
【左丁】
やうになりけり

【右丁。下の言葉】
二郎兵へさま
わたくしともは

かつ

もふ
た□
のりは
すみ
まし

【右丁。左の言葉】
「こんばんは二八でなしに
ちやめしでよい

【左丁。上の言葉】
なか〳〵
甚六どの
あじを
やります
【左丁。下の言葉】
まつかぜは
おもしろい上るりで
ないからきゝては
ひとりもない

【右丁】
甚六うたひにせいをだしすうたひ
にてはおもしろくないとはやしでも
うたうきになりひやうしをおぼへとく
小つゞみへ
あがり
はせをお
はしめておけのそこをたゝ
くやうにみしやうにたゝき
もみのしはんてやはし
でもうつきのところへ
ともだちばなしに来り
なんとそのやうにやあ
はあといわすに二上り
でもさんさがりでも
わつさりとした事
をな□いなわとしが
ゆく所にとんだ
よいところがある
とてまへの
しうしへ
すゝ



【左丁】
よつぽとうつくしいと
きいてさみせんもなろう
きになりおかざき女郎しゆ
でもないとねこのつまを
はじめおびから
さきへほそくして
ぞうげのばちの
さへちりへまき
ゑにじやうもんを
つけ
ふところから
たしかけちつとも
はやくおぼへて
やねふねへでもでゝ
ぎをんばやしでもひき
たくてうしをあわせるも
しらでつめのいとみち
ばかりいぢり人のならふところ〳〵と
きゝおぼへそら〳〵【そろ〳〵?】ざがけりにてやつて見る

【右丁。下の言葉】
さみせん
もちつと
ひかねは
よくない
あまり
よいと
げびる

マア
はア

【左丁。図中の言葉】
みとせ
うへで
はなし

ちん〳〵

あい
〳〵

きつい
もん
だよ

【右丁】
さみせんも人のけいこを
見てまだるくおもひ
上るりときかかわりまづ
かとりひめの道ゆきといふ
ところをすてんへんからさん
のきりをやるつもりにて
せんちんもんどうやとらふう
の二の口はおぼへもせぬさき
にいもせ山のはる太夫ばを
のぞみまたなんぞあり
そうなものといわれて
さんかつのかきおきばの
【左丁】
□んをもつて来りし
ゆへしやう事なしに
はじめたとへていわば
みやまきとみやこの
はなふつつりわんき【りんき?】
せまい
ぞと
たし
なんで
見てゝもなさけ
なやといやなこへにて一だんおぼへ
そればかりのもとでにてほう〳〵の
くわいをあるきうまい〳〵とほめ
られてまいのきでは
ちつにゑらいものだと
おもひしん上るりがでると
五日ほどゆかのしたへきゝにゆき
ならひもせぬちうしんくらの
七段めのかけやいのとこ□はん
ないではやくぶそくゆら之助をまさ太夫の
きでやりつけ大ぶつのはしらときてふといの
うへなしなり

【右丁中の言葉】
千ぼうが
たてくわいは
いつだの

ぶん
しや
さんは
よつ
ほど
ひなわ
くさく
なつた

【左丁中の言葉】
かぜを
ひいたが
いければよいが

【右丁】
けいこ事にてむしやうにふけてすこしは男の
たしなみとけんしゆつ 【剣術】へあがりぼうのいつても
おぼへぬうちたしなみがあると
見せたくめつきをこわくして
うちの子共やめしたきの
てをねぢつていやからせゝん
せいのてのうちを見てとかく
人かなけたくなりやみの
ばんにさみしき所へゆきやつて
見る所がむかふはさみしきを
あるくくらいなればぢよさいわなし

【左丁】
なまひやうほう【生兵法】
大きなめにあひ
うちにはかりひきこみ
けれはそのやふにきを
つめてはどくしやきを
やしのふには花か
きついくすりと
いけはなを
ならわせけれハこれもおも
しろくなり梅やつばきや
すいせんのなをしらぬものもなし
その


ぐさの
なも
おほへず
しきの
花おもとりあつかわぬ
うちになみきいけの
はたではなのくわいもふせんを敷
まくをうちくんしゆの中でおち
をとるきで上下なとででかければふたおやなからいけはなは心
やすき
ものかと
おもふ

【右丁。下の言葉】
かゝるをはづしてしたゝか
なめに
あいに
けるが
いちの
てとかけいだし
けいこして人を
なけるにはあら
ずなけられぬ
やうにする
事をしら
ぬなり

「すいさん
せんばん

いつ□□で
いつても□きのないやつだ

【左丁。右下の言葉】
はなはたつ
ふりとなされ
かん
せいに
たれ
でも
【以下不明】
□と
に□□
きり
なご

もふ
ござ
ろふ

【右丁】
ちやうすはひといろのやく
なれはさしきにいてもち
いられひきうすはなん
てもこされ〳〵たいつも【?】
するかかへもぬ□といふやつで三度の
てまか四度とはいかす弐度もじなり【?】
いけはなもくちもとのけいこにして
又はいかいにかゝり甚光となひろめの
すりものおふほうせうに
三十五へんすりにしてもふ
はいかいするといふかほで
あるきつけあんばいなと
はさておき三句のわたり
てにはさりきらいもしらず
ばんにはそんぞそこの

【左丁】
はいかいはらみ句を四つ五つ
こしらいまへの句にも
かまわすむしやうやたらに
おつつけてみれはしゆ
ひつのはたらきにて
ててんにてもなると
大のかうまんそれから
その句をゆくさきで
つかいまじ〴〵として
いるはたくわんの石を六つも
七つもおくよふなるものなり

【右丁。下の言葉】
こいつれて
うまいところ

女ほうは
どうだの

ないぞ
〳〵
ついぞ
  ない

【左丁。下の言葉】
このぢうの
かふらいやは
しやわせを いたした

【右丁】
甚光しよ〳〵に
つきやいが
ひろく
なりすこしよめねば
はつかしくかくもんを
はしめ四しよごきやう
のありがたき事をば
そこ〳〵におほへとうし
せんをならいおせんすを
ちとはいけんとよみたゝ
いちぎやうものでも
ひやうぶでもよめる
よふになるとばんしの
事をからめかせうまれも
つかぬはなをたかくして
大てんぐから
うわまいを
とるくらひ
のかふまん
になり
さわかしき
事をきらいしつかな所を

【左丁】
このみからのほうにもちかよりたく【唐の方にも近寄りたく?】
こゝろのまゝにならねばこうしもときに
あわぬとおふせられしととほうもなく
たかくとまりほうつを見るとりくつ
づめにしたがりびやうき見まいにゆくと
いしやのやうな事をいゝこのぬける
くらいのかゝもんはなか〳〵なみや
はたいていの事てはなし

【右丁。下の言葉】
たいぶ
ふじんが
見へ
ます

せいろふ
とも見へず
とんと
げせ
 ませぬ

甚六ひとつとしてならひ
ゑたる事もなくさま〳〵に
かゝり二七日がひまとちやも
はじめこゝろやすきものゝ
はなしにまづちやのゆのふう
りうはとりあつかうとかぐが【?】
おもしろくくいものかやほて
なく
にはの
こしらいが
や□□か□
さしきにいつ【以下破れ】
みなしも【以下破れ】
ずきの□【以下破れ】
ときゝか【以下破れ】
おするかみ【以下破れ】
みづを
のむと
いへども
みつもたまらす【以下破れ】
なりにはいつはい□【以下破れ】
うへ十人まいのど【以下破れ】
【下段に数行文字が続くが破れとかすれでほぼ読めず】

御代の御寶

【図書ラベル:207-特別-1797】

《割書:知縁|外意》御代の御寶 《割書:鳥居清長画|  
    全》

【検索用「御代の御宝」「御代の御寳」】

安永十年印本 【朱印】
《割書:知縁(ちゝん)|外 意(ふ い)》御代の御寶
       清長画

【二重丸印:IMPERIAL LIBRARY/帝国図書館】
【二重丸印:図/明治三三・三・三〇・購求】
     口上
当春(とうはる)はとてつもないおつりきな事を
なにいたしましやうといろ〳〵と
さかねて見ますれどもおもいつきが
ぶきつちやふゆへひらつたくなり
井戸(いと)のはたへちやわんをのつけて
いのかすやふなぐらいかあした
事なれどもふかいきだと
おつしやらづすていへんだと
御(ご)ふいてふねがいまいらせ候
かしく恐惶謹言候以上

こゝにくらまや金蔵といふものあり
ちゝはふとりのわたいれかわの
きやはんにてかせききんぎん
やまのごとく
ゆづりけれは
なにくらからず【何暗からず】
くらしぜに壱文
もふけた事も
なけれどもこめは
こめびつより
でるもの
ぜにはぜに
ばこに
あるものと
おもひあへて
みもち
ふらちにも
なしたゞよを
しつかに
おくりしが
ふと
もつたが
やまいと
いふひやうきに
やみつきけり此やまいはいしよりも
くわしけれどもちうよりうへの
【右下】
うちにばかり
おつて
おもしろくも
ござりませぬが
どこへまいろふと
いふきも
ござり
ませぬ

ときにおしよ
くじわな

【右頁上段の続き】
人はいたいかいといふ事をしらず
ちうよりしたのものはなつも
あわせをきたりふゆは
はをりのかさねききのいらくして
つう人のおふきしやうなりおいしや
さまのみたてはかんしやくと見て
ほねをおれどおもいれにいかず
すこし
ほかへも
ごそう
だんと
おいとま
もふす

金蔵はしちしやうはいにて
手代つき〳〵にちうめんを見せ
ま事にあめをのはすかごとし
とし〳〵にひとこまいつゝたてれども
しちもつのおき所なくかじちも
じよさいなくかせどもたとへのふしに
かねのおきところなくだん〳〵にくらを
ふやしてもせわもおゝしせけんにるいのない
事をひとくふうをせんこゝがかのひやうきの
もつたがやまいくすのきまさしげ
しよかつこふめいと
【下段】
だん〳〵くらをふやしても
いろはにほへとから
さきはきさまたちも
せわじや

【右頁上段続き】
はかり
事を

くら


さやふで
ござります
しんぐらへも
いわみ
ぎんざん
しかけ
まし

くらまやの
だんなどの
むねにてをあてまゆをひそめいろ〳〵と
くふうをめくらしよく人のいふ事
じやがしやつきんしちにおいても
いかねはならぬあんまりやすいもの
じやしやつきんをしちにおいて
かおふといへどもそれをしちにとるものを
これまできかずこいつをはじめたらさぞ
おきてがあろふくらもふさがらず
とんだおもいつきじやはじめぬさきから
はやりそうな

はじむれば
なるほどきついおふはん
しやうなり

このぢう
いつほん
かりたの


はい
ばんとうさん
けさほどの
はんじ
もの

此とふりにおもいれか
きけはおもしろいもの
しちもつ
おびたゝ
しき

にて
そん

そこの
むすこ
ありかねはさつはり
つかいすて
はめなし二万両の
しやつきんこんど
ぜひうけださねは
ならぬたてひき
おしいものじやが
しちにいれ
まづうちばに
千両かりる

おやかたも
こくちなは
いやかられ
ます

いやはや
きもがつぶ
れる

みつもの
やのかりか
さんぶ
ありやすが
ちつと
ない
しやうて
かいたい
ものが
ある
から
二□
かして
くんな
もし
ふそく
ならかん
ざしの
うち
ちんを
十匁
いれ

せふ

【左頁】
かまくら
あふぎが
やつのさるおやしき
でいりのものともに
よほどの
しやつきん
これはまあどうでも
すれとつへをついて
くるやつがうるさく
廿両ばかりあれは
よいがとてもの事に
さつはりはらつて
しまいたい
みともは
かりているは
きついきらい
みぎのわけゆへ
そうたんか
いたしたい

ごもつ
とも
せんばん

ふしさんより
たかきかねのやま
なれとも
ほかに
るいなしにて
かしかけければ
さんじのまに
かねづかへ
やつきも
すきぬ
うち
ながるゝ

ふち川よりはやく
せめてはたゞのひとりも
うけにくるものなし
てう
めんを
見れば
とちおく
まん両なれど【億万両?】
しだい〳〵にかねにこまり
すこししたしちのくちを
きゝたてるやふになり
けり
【右頁下】
五十
三もんめ
アイ
三十なゝ
もんめ
アイ

【右頁上段の続き】
金蔵は
しんだいを
さんじの
うちに
たいらげ
とふざの
いり
やふにも
こまるよふになり
くらしかたに
もちきたりし
とうぐまで
うりはらい
ま事に
ろくのつらとやらが
じつはいほど
□たよふにて
どう文【な?】ぶれ
かりた
ほうからてらとやら
なんとやらんもしてくれず
あんまりむこいものなり
 〽弐百両のしやつきんへ
  たつた一分かしてくれと
         申ます

この
わき
ざしを
うつ

なら
かし

やろう
おしい
もの
じや

金蔵
しんしやふ
さつはりに
して
しまい
ければ
もつたが
やまい
さつはりと
ほんふくして
ゆめのさめたる
こゝちして
かないのものも
ちり〳〵
はら〳〵と人に
かほあわすも
めんぼく
なく
こんぞう
わらじ
よりほかに
はいた事もない
ものが
わらん

はいて

はて江戸
しゆのこへ
じやが【はて、江戸衆の声じゃが】

【右頁上段の続き】
こきやふを
たち
のき

こまつかわといふところに
うばがざいしよなれば
あゆみもなれぬ
みちなれどよふ〳〵と
たつね来りけり

女ぼうは
きつと
したる
おや
さとも
あれど
おつ
とゝ
ともに
たち
のき
これ
ほとの
事を

すこしはなんぞと
いゝそふなものそれを
なんともいわぬは
どふかあねさまかと
おもへど夫の事に
さしつせぬき
なり

うばはふたりの
たづねきたりしを
きもをつぶして
なみだをながし
ひさしぶりにて
うれしき事は
さておきいか
なる事かと
よふすを
きゝておとろき
わたくしも
てんじ
まで
かつて
おもらい

らくを
しろと
おつしやるこがたつたひとりの
せがれめがのらくらものゝ
おふざけのみこのとしになり
くろうをいたしごぶさた
ばかりでみぎのわけ
つゆほともそんしませぬ
よふこそおいでなされましたと

【下段】
はじめていなかを
あるいたせいか
まめができ
まし


しをゝつけて
あぶると
よふござり
ます

【左頁、右頁本文の続き】
いろ
〳〵に
いた
わり
けり

うばがむすこところの
わんはくものこのていを見て
やふすをうかがふ

□さいも
よつほと
うつ
くしい

わつかのみちてもはつたび
事にあゆみもなれぬ
みちなれは金蔵
ふうふくたびれはて
うばかところ
なればあふふねに
のりしこゝろにて
たわいなく
ねいりしおりふし
三人のわるものども
うらぐちをおしやぶり
きやはん
わらじかけ
まで
ふつちめ【ぶっちめる-手に入れる】
そのばを
たちのき
けり

おふくろが
めざとい
とて
みそを
あげ
るが
おきやあ
がれだ

金蔵はなんぎのうちに
うばがかたにてとうぞくに
あいこのしやわせにては
いのちのほともこゝろ
もとなしこのやふに
おちぶれしよ人にかほゝ
なかめられしぬもましかと
おもひしがしゆんかんの【俊寛の】
上るりにもさすがいのちの【浄瑠璃にも「さすがいのちの】
かなしさにとあれは二人つれにて【悲しさに」とてあれば、二人連れににて】
たちいてければふしぎや
むかふのかたよりかつちうを
きたる人ひつくりすれば
これ〳〵金蔵せんさい〳〵も
ひさしいものゆめに見せるも
ふるいからこれまで
あらわれ
いでたる成
どろ〳〵〳〵と
じしんに
のたまい
なんじ
たねん
おれを
しん〴〵も
【右頁下】
なにやら
ごしんせつ
ありがたふそんじ
ます
おかほつきに
にや
わぬ

せめてこれ
二三両もかしたいが
むかでめもあしは
たくさん

【右頁上の続き】
せぬが

くらまやと
いふな
ゆへおれががいふんが
わるいよつてなんじに
さつくる事ありかべに
みゝありとつくりに
くちありみゝをこゝへ
だせとなにか
さつけ給ふ
【右頁下の続き】
でも
やくに
たゝぬ
やつと
びしや
もん
でんの
のたまいし
ゆへ
むかで
こばんは
やくに
たゝぬと
いゝつた
なり

びしやもんてんは金蔵が
とうぞくにあいし
事をきゝ給ひふどう
そんとはあいくち
にて
こゝろやすく
かなじはりの
ほうをでんじゆを
うけていた両人は
こゝぞとおもひ
三人のものを
かなしばりの
ほうにて
いごく事ならず
ひとかたまりに
なり
いわみぎんざんを
くいしねずみの
ごとくにくいながらも
あわれな
ものなり

こふかたくなつては
かんどうは
ゆるされよう

みな〳〵しやうべんに
おきてとまどいの
ごとくうるたいる【ママ、うろたえる、の意味か】
【左頁上段】
三人のものとも
たちすくみになりし
事をうばきゝつけ
ぬすみし
もの
のこらず
とりかへし
ひとふろ
しきに
して

金蔵か江戸へ
いでしゆへたづね
来り両国のへんにて
ゆきやい二人ともに
よろこひどう〴〵
してかへりけり

みんなとりかへし
ました
あまつさへおふきな
たはこ入まで
ござります

つかもなく【つがもなく(途方もなく)】
こみます

金蔵は
びしや
もんの
さづけ
給ふまじないを
はじめしに
まづ十二こうには
およばすといへば
そのきく事なにゝ
たとゑん
よふもなし
うすいたを五寸
くきにてうちしごとく
ねがいのぞみはおちやのこ
とうぜんりつしん
しゆつせくいたいものは
ほしいものきみやうに
かのふゆへあきれが
れいにくるとはこれが
はじめなり

いかなるものも
ねがいのぞみの
なきものはなし
〽まづ
いちばんに
つめかけし
あきんど
ものまへには
まへびに
かけをはらつて
しまふやうに
ましなつて
やり
〽おやぢさま
おまへのは
ちつとむづ
かしいあとへ
おのこり
なされ
〽さて
おあねいさま
ちりめんの
つまあがり
はちしやうの
むくなんでも
かでも
はやり【?】のいろ

ちゝんふい〳〵
ごよのおん
たから
ふい〳〵〳〵

道中でも
江戸のうち
でも
まじ
ない

いたせは
くたひれる
事などは
ござらぬ

【左頁、27行目の続き】
しばいは
しんきやう
けんのたび
さじきで
見るやふ
それ


〽どりや
あにき
おいでなされ
大つうになる
事はなんの
ざうさもなし
おふきなきせる
さらさのかみ入も
ついてにましなつて
やります〽はなのたかいあねさまおまへ
ゑんぐみたのすいぶんよし〳〵〽ときに
おやじさまおまへは二百までいきたいと
おつしやるがこいつはわたしが
てぎわにもいかぬ五百まで
いきてもへんてつもなし
一日でもおもしろい
ところをおかんかへ
なされ

ふしぎとも
きみやうとも
いわんかたなし
いつあそびに
いつても
ついに
もてた事なしもつとも
ふおとこにてとうせいふうと
いふ事もしらずそのうへ
むくちにてざしきのつき
わるく人のあそびにいつて
おもしろかる事を
うらやみせめて
いちどなりと
もてるやうにあそび
たくおもひかのましないを
うけてあそびにゆきしに
しよかいの
ばんが
十郎
すけなりの
ことく
□□てのこのやうに
【右頁下】
またいつ
おいてなんす 
どこぞへ
□□□
□□
□□んせんよ

あ□□り
□□□□
ござり□□
ホヽ〳〵〳〵
ハア〳〵
〳〵

【右頁上の続き】
わらつた事をきいた
事もなし百両の
とみを一二三とならべて
とつたこゝろもちうけにでも
いりはせぬかとおもふ


たまちの
ほういん
さんが
あすの
ばんに
くると
いゝ
なん
したが
きいせん
ばから
しいよ

みどりや
〳〵

金蔵がまじない
ひとつとして
かなわざると
いふはなし
おひたゝしき
れひもつにて
しんだいを
もちなをし
ければ
いかなる
しゆつを
ゑたる事かと
せけん一つとふに【世間一統に】
ふしんを
うちけり
金蔵も
きいの
おもひを
なし
まじないの
か□□を
□□□も
なしと
これより
こゝろやすき
□□□は
□□らせたく
□つ

□□□を
□□□
あり
がたい

日待御利生此ごろ噂

安永六年

《割書:日待|御利生》此頃噂 鳥居清長画作 合三冊

【国会図書館登録タイトル「日待御利生此ごろ噂」】

こゝに幸之
進とて
こも
さいし

あり

【下へ】
らう人
ありけるが □し
の□つ
しを
はな
はだう
れひに
おもひ
今こう
せいな
ること
をう

やみ
【斜線の上へ?】
けれ共
□□し□
もかた□
のかわ□□
おへあけくれ
わかきむか□
おもひほ□□
□のたのしみ
のみくらし
ける

【吹き出し】
ふしぎなる
かなすこしすいめんの
うちにもゝ太郎ま
くらかみにたちくわしく
わかやくやふすを
つたへける

幸之進をは桃太郎がおしへのとふりゆめさめかんがへけるにいかにもりのとふ【如何にも、理の当然なり】
せんなりむかししゞは山へしばかりにばゞは川へせんたくにゆきしときもゝ
なかれきたりそのもゝをふうふくひけれはた ちまちわかくなり
けるもとこのもゝはかふしんのつかわしめさる
のおとしたるもゝなりよつてかふしんを
しんじんせばたちまちわかく
なるべしとつげにまかせて
かうしんまちを
はじめける

【右ページ下台詞、かすれ多し】
さて人事いふても【?】
九つまでといふは
まちがい人事
いわず□九つ
ま□じやげな

【左ページ中ほど台詞】
かうしんまち
にちやめしは
ちやにうかされ
てねられぬ
よふにしたもの


【左ページ下、かすれて読めず】
□□□□
ま□□□
□□□なし
ませう

幸之進はかうしん待にて
よちうつやおしすくにてふ
づをつかわんとたらいに
水をくみけれは廿
四五のわかきかたちに
なりけりこれはふしき
ゆめではないかよもや
ねつにゆめを見ること
はあるまい

「そのとなりに与兵衛と
いふものいまたねむいさいちう廿
二三になりけるかかふしん ても
なんでもねるが
よいとかかまはす
【下へ】
ひくれよりねてあすも
かほへひのあたるまてた
かいひきなり

女ほうやふ〳〵十九才ていしゆはしらがにて
大ちかいなりこれをおもへはせけんにふつりやい
なるふうふもこのやうなることなるへし

【ふすまの横へ】
与兵へはかうしん
のよもひくれ
よりねてやふ
〳〵ひる
しぶんに
おきたい
ところへいてけれは女房
□□□まいているかゝみ
にうつりみな〳〵きもを
つふすなにことにて
おし事はせぬもの
なり

【女房の台詞】
これは
まあ
どふ
した
事だ

【左ページへ】

あに
ても
あか【た?】つ
たか
おや
〳〵

うら
しま
此かたの事

幸之進はのそみのとをりわかくなり
とふせいふうにこしらいきふ【急】
のことなれはいまゝてのけん
ほうこもん【憲法小紋】をあをちや【青茶】
かへしにそめさせ
けれはことの外
わかやきその
小もんはやり
今はわざ〳〵ごふく
やにてふるてかへし
とてこしらへ
ける

「わかくなつたゆへ目出度からさけを
ふるまわしやれといゝけれは酒たるのかゞ
み【酒樽のふた】をぬき一日おふ
らいのものまでに【往来の者までに】
せつたいをいたしける【接待をいたしける】

□□
といへは
さけを
かおふと
いふもこの
ときより
はしまり



ても
めつら
しい事

【左ページ上へ】
かたちは廿四五なれとはなはた
なさけふかくみなさまの
あかりよいやうによい
酒をさしづする

【下へ・台詞】
こしゆばかり
ては
おもひしんを
すこし
ませま
せう

うつりかわりし二人つれ幸之進は
ま事のとしは八十五与兵へは廿八才
なれ共かみはしらかにてかたちに
めんじてかみこはをりこしらへ
さらさのひうちもみの
じばんはでにこしらへ
けれどもごしやうこゝ
ろはなくいまのとし
よりかた此与兵衛を
見ならひおなし
あふなり幸之進は
かたちは廿四五
なれとものこ
らすくすみ
したてにてたもと
にてじゆすつまくり【数珠爪繰り】
すこしとしより
かたきなり

【右人物の足下】
与兵衛

なん□□□□□
ちよひとゆく
きはないか

【左人物の足下】
幸之進

【左ページへ】
こゝに又
太兵衛
といふ
もの


てんを
しんじん
しけるが
あるよ
大黒


あらわれ
なんじよく
このへね【甲子】をまつるゆへ
このつちをあたへん
これより両かへやを【両替屋を】
はじめよとの給ひ
てみづしのうちに【御厨子のうちに】
いり給ふ

これはありかたや
かしこまり
ました

大黒
てんより
さづ
かりし
こづち
にて
両かへ
をはしめひに
ましはんじやう
しなにくらくら
ずさかへけり

【台詞】
ふも廿両
ほど

をだし
なされ
ませ

【左ページ台詞】
さて〳〵
きめうな
事だ
うら


しい

せにゝして
くりや

そうばは
いくらじや
四文銭が
よいぞ

百両か
ぜにをかをふと
おもへはそれほど
うちいだすなるほ
とてうほうな
ものなり

にしざんで【二朱銀?】
御座り
ます

その頃巳之介といふ
ものありしがかんらい【者ありしが、元来】
みのとしのうまれゆへ【巳の年生まれゆへ】
弁才てんをしんこうし【弁財天を信仰し】
みまちにはともだち【巳待ちには友達】
あつまり大さわき
にてよぢうたの
しみけり【夜中たのしみけり】

【台詞】
おやだま

きゝたい

【三味線で唄】
おふさかわァ

【左ページ・顔の前で扇を広げている人】
ヱゝほうどう
まるとぬかせ

【左ページ上】
みまちのよおく【?】
にはきやくみな
こゝろやすき
人とて御座る
「さてよんとこなき所より
そのもとをむこにほし
がる五百両のしたく金
じやとふぞ御出なされ
とそふだんにくる

【仲人の下、三行ほどかすれて読めず】

ちう七【仲七】はむこの
事たのまれ
そうたんに

なにいかいお
せは【おおせば=仰せば の変化した語】

わしも
これから
はらく
じや

ふたおや
よろこぶ

【下へ】
かう
さつそく
しゆ
びして
あひ
□□

くる

ひから【日柄】



すぐ








さり
ませ

【左ページへ】
よいそう
だんてござん
すぞへ

むすめ
やうすを
きく

いか
さま
よい

とこ
じや

うら
やましい
ことじや

弁才てんを
しんかうしゆへ
おもひもよら
ぬうとくなる
かたへむこ入に行
ける

【右ページ下へ】
むかうが
とで【?】
ござり
ます

【左ページ上】
こよいは二百た
銭の
やすい【?】

なわぬ【?】
〳〵

【左ページ下】
あとを見
やわせ

こんれいしゆびよくとゝのへ
なかよくくらし所々より
おびたゝしくしんもつものもらい けり

【下へ、台詞】
ごぜんは
まだかへ

これみづを
入て
下され

【左ページ】
太兵へは
きんぎんに
ふそくなく
いろ〳〵のたのしみ
大せい□□をあつめ
て□□くらからず
くらしける

【下へ】
ちとどこぞへ
でかけ
やふ

せん
せい
どこだ
ろふの

なんでも
ふねのある
所さ

みどりやァ〳〵
てをたゝき
なんし

ひへん
した
ら【冷へんしたら?】
のみ
なん

なへ

【下へ】
ふみじ【?】
ごてさんの【ごてたな?】
かほを
見や

【左ページ上】
太兵へは酒のたのしみに
あきそれよりたび〳〵
吉原へゆきけるがしやう
とくなりにもかまわ
ずさんとめじかけ
なれと金にことの
かけぬおとこゆへし【?】
まいよしそでとめ【?】
ござれせつくのみこみ【?】
とつかいかえるゆへ
大もて
いくらつかつてもへらぬ
しんだいは大黒天
のおかけなり

【下へ、台詞】
あさづま
さんちよ【三丁?】
ひとりん
きじや【悋気?/人気?】

幸之進はわかやぎ
ふだんさとかよいしける
が女郎かいも七千年
ほどすれはあらゆる
わけしりとこへいつ
てもおふもてむこ入のため
になり女郎かいのせんせい
となりと【た?】のしみける


之介

おり
〳〵
かよ

けるか
五百両で
もらわれ□□
ほ……【五行ほどかすれて読めず】
なり

【下へ、遊女の台詞】
ただかふかて【?】ものを
いつたばかりだやかま
しい
□んならやふありんす
かんにん

なん



申きく
てのさんと【?】
何かよ【?】
さんせん

むかしからにて
ねむりしはしゆすいと
いゝしがこれは
さんすいの
きん〳〵ふし
きにこんや
ひとつうちにて
おちあひたかいに
こゝろやすくなり
みなしん〳〵の物がたり
をして巳之介は
このはるまた
江の嶋へさんけい
せずみな〳〵を
さそいて
きんぢつ
まいろふと
やく
そく
する

【右ページ下、台詞】
はるは

ゑの
しまは
よいて

【左ページへ】
ふねはよいか

たんなこのころは
きついおき
まりな

三人つれにてやくそくのとをり
江の嶋へ□□り

幸之進は九十のうへ
にていくらあるきても
くたひれず道中にて
はこれにすき
たるたのしみは
なし

「いにしへの
仙人はこい
やつるに【鯉や鶴に】
のり
あるき

しに
太兵衛は
金銀に
ふそくなく
どうちうのつちを
ふまずいくらのたび
もうちにいるも
とうぜんなり

「巳之介はちよつとやすん
てもちや屋の女さきへ
ちやをだしける
べんてんしんこうの
ゆへきめうなり

【茶店の女】
おちや
上がりませ

【かごかきの台詞】
よいてん
きじや


いつはいしやう

【巳之介の台詞】
なゝとき【なんどき?】
だの

与兵衛はかふしんのひくれより
ねて□□よりしをくやみ三人
のゑいぐわを見てしん〳〵をおこし
ければかうしんのりしやうにても
このとふりわかくなり大こくてんの
御かけにてきんぎんにふそくなく
へんてんの御かこにて女ほうおつとの
としよりのかたちとなりしをいとわす
そいとけしおつとのよろこび
あさからす

【女房の台詞】
ありかたや
〳〵

【下へ、破れ、かすれあり】
いよ
〳〵
ふ□□
むつ□

たかへ
く□

ける
これ

おも
ゑば
ずい
ぶん
ひまち

するが
よし
目出度し
〳〵

鳥居清長画

瞻雪榮鉢樹

芝居繪手本 瞻雪榮鉢樹 中村座 十五
【検索用 芝居絵手本】

【ラベル】

38
376

【タイトル】
瞻(もとみし)雪(ゆき)榮(さかへ)鉢(はちの)樹(き) 中村座

【張り紙】
安永七此年顔見せ

【右頁・上】
わかさのぜんじ
やすむら【若狭前司・泰村=安村】
純右ヱ門【役者の名前、市川純衛門?】

やす
むら
金くわん
はくへ【金冠白衣】

もち
三人を
あつこう【悪行?】
する

【右頁・下】
桜井七郎 春蔵【市川春蔵?】

桜井七郎
しやう
がいせんと
せしを
松ゑたにとゞめ
られたがい
のかたなを
みて
きやう
だいと
しり

のり

三人
にて
やす
むらを
さゝ
へる

松ゑだ
三郎
紋三郎【尾上?】
梅田の四郎
小山三【中村?】

【左頁・上】
崇尊
しん王


ぜんじ
やすむら
純右ヱ門【市川?】
天しの
御しやう
ぞくを
ちやくししん
王をてこめ
にする

青と
五郎門之介【青砥五郎?/市川門之助?】
かつ山をともない
いで安村をさゝへる

【左ページ中、登場人物と役者】
常世母継はし
広右ヱ門

赤ほし太郎
三甫右ヱ門

【左頁・下】
入道
三甫蔵


むら

かた

もち
あくし
をたくむ

しん王の
なんぎなる
所へいでしん王
をたすけやす
むらがちやくせし
金くわんはく
ゑをは

とる

 

【右頁・上】
経世【常世と同一】
はち
のきの
へんほう
にてほん
りやうにあんど【本領に安堵】
してさいめうじ【最明寺入道・北条時頼】
につかへる
つね世しゆつしの
おりからしのびの
ものをさゝへ大介
にかたきな□【ら?】ざる
ようす
をかたる
源左衛門
つね世【登場人物名:佐野源左衛門常世】
幸四郎【役者:松本?】

【右頁・下】
あさはら二郎影かた此御てんへしのび
入つね世にみとがめられこづかを打
たちのくあさわら二郎【登場人物名:浅原二郎】広右衛門【役者:大谷?】
大介しゆじんいぐのぜんじ【伊具前司】か
かたきを たづ
ねん
ため
しのび入
しか
とうそくに
しゆりけんをうたれつねよに
さゝへられしゆじんさいこのばにおちありし
よろひのそでをしやうこに主人の
かたきなりと源左衛門【常世】につめかくる


【左頁・上】
つね世

ふくの

さの
源藤太【登場人物:佐野源藤太】
友右衛門【役者:市川?】
まつしたのせんに
よりの ししやに
きたり しんわうにほつしん
させよと いふ
けいせい 丹前のかつ山
実は いぐのせんじ【伊具前司】
むすめ なみぎぬ
おや のかたきを
た つねんため
け いせいになり源
左衛門になじみうけ出 されて
かたきうちのたよりにせんとする

【左頁・下】
つねよ女ほう白たへ【登場人物】
半四郎【役者:岩井?】ざいしよへ
おきざりにあい
あとにてうみ
おとせしむすめ
玉づさ【玉梓(玉章)】をいだき
おつとをしたひ
きたりしがおつとの
そばに女のいると
みて
うらみる

つね世【登場人物:佐野源左衛門常世】
幸四郎【役者:松本?】

くせものゝ あとを
つけきたり かたなの
のりを ぬぐい
さゝゑる

源藤太 友右衛門【登場人物/役者:大谷?】
あくじをたくみ
くらまきれに【暗紛れに】
しんのうを
ぬすみ
いだし
人しらず
てにかけ
たちのかん
とするを
さゝへ
られ
きり
はらふ

むね
たか
しん王【登場人物:崇高親王】
松代【役者名】

常世 幸四郎【前半登場人物名 後半役者名】
りやう人を
とゞめ 大介
に主人のいへの
たつべきふん
じつ【紛失】せしふじ
まきのかま【藤巻の鎌】の
ありかを
たづね出
すべしと
いひわかるゝ
かつ山里好【登場人物:勝山/役者:中村?】さいぜんゆび
をきりしそのちしほおもわじ【その血潮思わじ】
なきなたにかゝりしがちしほの
しみしをみてもしやたつ
ぬるかたきかとあやしむ
大介三津五郎【登場人物:弓削の大介/役者:坂東三津五郎】かつ山は主人
のむすめなることをしりつね
よかたへ来りしようすをきゝ
【左ページ下へ続く】
ものかけへ
しのびし
がかつ山が
ゆひを
きりしを
おどろき



たの

しほ【この先かすれ多し】

ふけ【拭け】




□□しを【しみしを?】
みて扨
は此なき
なたにて
主人を

うちしことの
ちしほとゞ
まりおやこ
ゆへちしほ
一つになり


【血潮がしみる事で親兄弟を判別する話はこの時代の物語によく出てくる話だそうで、有名どころでは『南総里見八犬伝』で父親の髑髏に息子の血を受けて髑髏が血を吸い取ることで真の親子と判別する話がある(ただし八犬伝は本書より後年の作品)】
【本書よりも前では天和二年の『新語園』に同様の話があるとのこと。】
【『新語園』などでは親の骨が子の血を吸うという話になっているが、骨は生きている時は本人の血が通っていたものだから、血に血をそそいでひとつになるのは親子という理屈。】

【挿し絵】
つねよけい母つきはし【登場人物:常世継母・継橋】
広右衛門【役者:大谷?】

□□□□
かたきは
つきは しなりと
つめかくる
【勝山はいぐのぜんじの娘で親の仇を探している。大介は主君の仇を探している(ともに4コマに記述あり)。勝山の血がなぎなたに染みて拭いてもとれないということは、そのなぎなたは勝山の親の血を吸っているということになる。大介はつきはしが主君の仇(勝山の仇でもある)であることに気づく。】

【右ページ本文】
さいめうじ【最明寺】□□よりのちよくし【勅使】をゑちごの守
光時【北条光時?】とみあらわし【見顕し】上使のおもむきは
くわんばくの姫をやうし【養子】にせしはせい
てうののち【成長の後】しんわう【親王】とめやわせ
むほんのねさしありとうたがい
かゝりやうし
せし【養子せし】あや

ひめの

くび
をうつべしとの
じやういさしあたりなんたいゆへ
何とせんとつねよにとひ
梅さくら松のもしをもつて【茂しを以て?】
占をひきみる【?】【本文は二行飛ばしたところへ続く】
さいめうし時頼入道四郎十郎【登場人物:最明寺時頼/役者:山科四郎十郎】
源藤太 友右衛門【登場人物/役者:市川友右衛門?】
つねよいつれをきらんと
とうわくしひめになそらへし
□木【桜木?】をきりみかわりを
たてんとおもふ

【右ページ下、登場人物名と役者名】
つきはし【登場人物:継橋(常世の継母)】
純右衛門【役者】

源左衛門
つね世【登場人物:佐野源左衛門常世】
幸四郎【役者】

【左ページ本文】
つねよ幸四郎わがこたまつさ【わが子玉梓(玉章)】
をあやこ姫の
身がわりにせんと
したひ来りし
女ぼうにわざと【?】
つれなくあたり
むほんにんあさ
はらが
いもと
なることを
しりりゑん
しやうをわたし
のちにりゑん
もまぢかいを【?】
みてまこと
をあかし
しうたん【愁嘆】
する

しろたへわかみを
くやみじかい【自害】
してみがはり
のやうすを
きゝおつとの
こゝろざし

よろこび
さいど【済度?西土?いずれにしても死んだということ】

しろたへ 半四郎【登場人物名/役者名】
実は
あさ原



【左ページ左上、衝立の左】
□長□ 松永忠五郎【長唄唄方】
めりやすうきの夕べ【?】大てき〳〵

新五左衛門伝五郎【前半登場人物名/後半役者:早川伝五郎?】
源藤太にたの
まれしを
はくしやう【白状?】
する
めのと八重
桜【登場人物名】
しげ八【役者:岩井?】

むね
たか
しん王【登場人物名】
吉次【役者:瀬川?ほんものの親王を演じた役者。松代が演じたのは影武者か?】

大でき〳〵【芝居がうまくいったという称賛】

秋田主馬之介【? 登場人物名】
こま蔵【役者名、市川高麗蔵?】

源左衛門つねよ【登場人物名:常世】
幸四郎【役者:松本幸四郎?】

さいめうし時より【最明寺時頼】
四郎十郎【山科四郎十郎】つねよか
ちうしんにてふんしつ
のはうけんをとりへ【て?】
よろこひ給ふ

あをと五郎門之介【登場人物名/役者名】
あしかる高岡清右衛門□蔵【登場人物名/役者名:宗蔵? 宇蔵?】

やつこ
さふ
六【登場人物】
八蔵【役者:藤川八蔵?】



【右ページ右端中ほど】
あかほし太郎【登場人物名】

【右ページ下】
三甫右衛門【役者名:中島三甫右衛門?】ほうけんのとうぞく
を引立 きたる
つぎはし
広右衛門
つねよにあつこうしておや
このゑんを切つねよが
よろひのかた袖をぬすみ【盗み?】
いぐのせんじをうちしをつね
よになすらんとせし【罪をなする?】
ことあらわれ【露見して、の意】

ねん
がる【無念がる】

【左ページ】
つねよ【横棒は汚れか】玉つさを
あやこひめのみかはりに
たてくひをわたして
上しのみつ
ときを
かへし

源藤太か悪
しをあらわし
おやこのゑんをきりしと
きいてつきはしかたくみ【企み、工み】
をあらわす源藤太つき
はしと心をあわせ四てう【?】
のおちとをこしらへつね
よをつみにおとさんと
せしかへつてたく
みをあ
らわれ
まことのしん
おうをみておと
ろきいふく大小【刀?】をはかれおいはら
              はるゝ

【左ページ右下】
源藤太【登場人物】
友右衛門【役者】

【枠内】なつの部
つきはし広右衛門【登場人物/役者】いくのせんし【伊具前司】をうちし事あらわれなみきぬ
とせうふ【勝負】してさころもを
かへりうちにしてなみきぬに
てをおらせうち
とめん とせし
ところ
にかみ
なり
にお
それ
うた
るゝ

みつとき□蔵【登場人物/役者:沢蔵?】
みつとき松へ【え?】た三郎両人
ときよりのおゝせを□けんし
なみきぬに
ちからをつける
松枝三郎紋三郎【登場人物/役者】

なみきぬ【登場人物】
里好【役者】てをいなから つきはしを
しとめ父のかたきを 打
父のいへにつたはり【る?】一くわんを
【なみきぬの足下へつづく】

かへ



こふ

大介妹さころも富五郎【登場人物/役者:吾妻富五郎】

【左ページ枠内】あきの部
大介【登場人物:弓削の大介】
あゐのゝ
介【役者:片岡愛之助だとすれば踊り字が余分】
大くらの
いなり
へしん
くわん【心願】
あつてさん
ろう【参籠】する

此所浄留利【?】にて
せり出し
はなやか
大てき〳〵【大出来〳〵】

二かいどうしなの介【登場人物:二階堂信濃介(信濃之介)】
門之介【役者】
大くらの小女郎
きつね【登場人物:大倉の小女郎狐】
半四郎【役者】

ゆげ大助【登場人物:弓削の大介】
三つ五郎【役者:坂東三津五郎】
【秋の部は上段に「大介/あゐのゝ介(あゐの介?)ともあるのでダブルキャストだったか途中で交替したのかもしれない】

【三味線方】
名見崎
徳次【富本節の三味線方、名見崎徳治】

【浄瑠璃太夫】
富本豊前太夫

同斎宮太夫

同富太夫

上るり
色時雨紅葉玉籬(いろしくれもみぢのたまかき)

大くらのふうふぎつね
いなりのしんぜんにこめ
ありし八ゑがきのみかま【5コマではふじまきのかま(藤巻の鎌)】
ふんじつ【紛失】ゆへめうふのくわんを【命婦の官を】
とられみかまをたづね
いたさんと心をくだく

あかほし妹秋しの【登場人物】
久米次郎【役者】

万作狐【登場人物】
三つ五郎【役者】
すがた

かへて
信濃介
がなん
ぎを

くう

信濃の
介【登場人物:二階堂信濃之介】
門之介【役者】

小女郎狐半四郎【登場人物/役者】

ふうふ
ぎつね
しなのゝ
介に
めい



あた
ゑら

もと

ふるすへ
かへらんとよろこぶ

万作狐【登場人物】
三つ五郎【役者】

小女郎狐半四郎【登場人物/役者】

利根蔵【役者?】

入道三甫蔵【登場人物/役者】

伝五郎【役者?】

大右衛門【役者?】

入道がけらい
ともみちし【?】
きつねに
ばかさるゝ

【左ページ】
ひわた
御せん
ぼうこん【登場人物:檜皮御前亡魂】

三甫右衛門門【役者:ひわた御前役】
時よりに
うらみをな
さんといふ
秋田城之介【? 登場人物】
幸四郎【? 役者】
是より
第二はんめのはしまり
【秋田……之介と読める登場人物は春の部7コマにも出てくる。春の部ではこま蔵が演じていた。】

あをと五郎門之介【登場人物:青砥五郎/役者】
つまもりのうちと
あやしみあらそひ
はた 引だす【?】

かとう【?】
之介
こま蔵【役者】
【虎に座っている】

しなのゝ介【登場人物:信濃之介】
門之介【役者】時より【時頼】の
仰をうけ孫三郎に
天下のせいとう
をたのまんため
のしやしや
にきたり
かへりをまち
うける
あをとむらの浪人【?】
あを戸孫三郎ゆき
みにいできやくのある
しらせのうぐいすの

こへを
きゝ


かへり
しばら

あつて
しなのゝ介に
たいめんしてやうす
をきゝもろこしのこじを引のちまでに 
        こおらいのけん【?】とらせんといふ
【『歌舞伎年表』によれば「もろこしのこじ」とは許由の故事で、帝位をゆずると聞かされ汚れたといって川で耳を洗ったこと。信濃之介は時頼(最明寺入道)の命で孫三郎をスカウトに来るが、許由の故事をひいて琴の音を流れにみたてて耳を洗った(断った)と言う。「こおらいのけん」と見えるものにつていは記述なし。】

□□□□郎【かすれている 登場人物:あをと孫三郎?】
幸四郎【役者】
孫三郎女房
おかゑ【伊原敏郎『歌舞伎年表・第四巻』には尾上(おのえ)とある】
実は
しなのゝ介
あね
やどり木【登場人物名】
あやめ【役者名:芳澤あやめ(芳澤崎之助)】

【左ページ枠内】冬の部
青と村の
庄や甚左衛門実は 【庄屋の名前は『歌舞伎年表』に小左衛門とある】
浅原八郎【次郎? 春の部には浅原二郎とある。登場人物名】
三甫右衛門【役者名、おそらく中島三甫右衛門】

庄や弥惣
左衛門ふう
ふをせ



して
孫三郎も二りのへ
やうつりさせる【孫三郎も二人の部屋移りさせる】

あをと村
浪人【?】くまがへ
弥惣左衛門
実は万作
ぎつね【登場人物】
三つ五郎【役者:坂東三津五郎】

弥惣左衛門女房おたま実は小女郎狐【登場人物】
半四郎【役者】

はしばの
ぜん
 □□
□□

弥惣左衛門女房
お玉
半四郎

庄屋
甚左衛門
孫三郎
にやち
んの

さいそくして
ふうふけんくわ
をとりさへる【?】
三甫右衛門
甚左衛門孫三郎が
二かいへやか

はりしてやき
もちけんくわ
してさり状
をかく
孫三郎女房
おかゑ【登場人物】
あやめ【役者:芳澤崎之助と同一】

【右ページ下】
孫三郎女房おかゑふう
ふをなためお玉おつとの
よりそいしをみてりんきし
ふうふけんくわするを庄屋
□□左衛門【弥惣左衛門?】二かいよりおりたがいに【?】
女房をとつかへる【?】

孫三郎【登場人物:青砥孫三郎】
幸四郎【役者】


【左ページ】
女房おかゑ【登場人物】
あやめ【役者】

源藤太【登場人物】
友右衛門【役者】

かまくらをおひはらはれ
此所へまよひ来り
したのやうすを
みてあやしむ
弥惣左衛門【登場人物】
三つ五郎【役者】

【左ページ下】
孫三郎幸四郎【登場人物/役者】小女郎がてい
をあやしむ
にかいよりおちしあづきがゆに
ねづみのつきしをみてしやうをあらわす
小女郎 狐(きつね)半四郎 

大でき〳〵
大あたり〳〵

弥惣左衛門源藤太を
よひかへしいちやの
やどをかしちそう
して
にしきの
ふくろ



がめ


【枠内】
《割書:狂言|作者》桜田治助

清長画

扨化狐通人

【表表紙】
《割書:新|板》扨化狐通人(さてもはけたりきつねつうじん)


【表表紙見返し】
安永九子年

【左丁】
【上段】
□□【爰?】に松川むらといふ
ところにとしふる
白きつねありむす
めをみさきとて
ことし二八の花
さかりいなかに
はおし
きほど
のきりやうなりし
がちかきころ
やなかより
やうしをして
きぬがさもり
の丞
といへり
これもこゝんの
いろきつねにて
ありけるいまた
みさきとこん
れいはせさりしが
たがいにおもひおふ
ことなれば中むつましく
くらしける
此ごろはもりの丞めが
つうじんと
やらのふうになつてまいばん〳〵
であるくがろくなところへはゆくまい
ちとこなたいけんをいひめされ


【下段】
手代九郎介
きのとくかり
ちとわたくしが御
いけん申しませう

されば
わたしも
そふおもひます
とかくはやくこんれい
させておちつき
たい
ものでござる


【右丁】
さてもて代九郎介はうはべは忠義にみへれども何とぞ
もりの丞をおいうしない
此あとしきをおうりやうして
むすめみさきを心にしたかへんといろ〳〵すゝめて
とう〳〵もりの丞をとうせいのつうじん
とはしこみけるなんとわかだんなごく
らくとはこゝのことほかにはなかばしさ
こうばけた所は何としう
くわく【?】といふ身でござりませう
もりの丞は九郎介がすゝめに
よりいろおとことばけ
てかみはいきちよんの長ばをり
ちとふるけれどもひはかたなぞ
とでかけいつのころよりか此
のはらといふくるわへかよひて
まつ
さきといふぜんせいの
太夫にふかくなじみ
このごろは
少しかねに少し
ゆきつまり
九郎介と
いひ
あはせ
いろ〳〵
くふう
する
此野原
といふくるわは
のきつね
ども人を
たふら
【左丁へ】
かさんと
いろよき
けいせいと
ばけて
ちうやにぎ
わしき
ことほつこく
にことならす
中にも
まつさきは
もりの丞に
あこがれ
ほかの
きやくをば
そでに
なし
あけくれ【?】
こゝろを
かよはし
ける

あれ〳〵
もりさんが
みへなんす
あの九郎介
さんの
かほのにくさ
みなんしな

【右丁】
そのよ九郎介はもりの丞をくるわへつれ行
われひとりかへりるすをみこみによき
おりなりとみさき出とらへて【?】くどく
これさあのばかだんなは
まつさき
といふうつ
くしい女にほれておまへの
事はねつから
おもひ出しもせず
又まつさきがほう
からも とんだほれやう
そのはづでもあり
おまへのまへでは七文のはり
ぬきめんを□□【みる?】やうな
かほをしていて まつさきには
大のいろおとことばけて
みせることだものほれるも
どうりさ
あんなぶしんちうな
人をおもひきり
わしになびき
なさいおまへさへ
かてんなら
じきにとんだ
いろおとおに
はけやんす

【中段】
これ〳〵
九郎介
しゆじんの
むすめこと□【に?】
もりの丞といふ
□□【おとこ?】のあるみ
いやらしいそこ
はなしや
とゝさんやかゝさんに
そふいふぞへ

【下段】
それを
いつて
こまる
ものか
そふはらを
たつた
ところが
また
たまらぬ
ちよつと
〳〵


【左丁】
【上段】
もり
の丞は
まつさき
にうち
こみ
日夜
かよひつめいまはあげ代に
つまり あんじわづらひいる
ところ九郎介がちへを
出して此
いへにつた
わるたから
のほうじゆ
とかぎ【宝鍵 挿絵より】を
ぬすみ出し
三百両の
しちに入る
わかだんな
しづかに
〳〵
まんまとして
やりました
なんのおやの
ものは子のもの
しつほがで
たらそのとき
のことさ

【下段】
どふ

その
ほうよい
よふに
して
くりや

あとで

しりが
われねば
よいが

【右丁】
そのゝち白ぎつねふうふはくろ介【九郎介】をちかくよびだん〳〵ともりの丞がみもちあし
ければかんどうせんとそうだんするにしてやつたりと九郎介いふようなるほど御もつとも
にぞんじます
おわびも申はつのわたくし
なれどもいまだ御そんじは
あるまじく候へども 御いへの
たからほうじゆかぎまで
とうにしちもつに入レ御ほう
ぞうはからものといひける
ゆへふうふきもをつぶす
せがれめにつくきやつ
けいせいぐるいのあまり
たからものまでうし
ないせんそへいひ
わけがない七しやうまで
のかんとうじやでゝうせおれ
むすめみさき
なげく
かゝさんどうぞ
しやうはござん
せぬか

とうもぬしの
あのはらたち
ではわびても
がてんは
なされまい

【下段】
どふも
きのどく
なこと
しかし
みからで
たさびと
やらしかたがない
もし【?】みすほらしい
なりのおやごの
ばちおもひ
あたり
まし




【左丁】
これ〳〵もりの丞
とうぞたからの
しなをとり
もどしきたらば
そのせつはわしが
とりなして
くわんどうもゆりる【ゆりる=許される】
やうにしませう
これから心を入かへてしんぼうし
とかくたからをとりもどすが
かんようじやぞかわいや〳〵
むこどのさらば〳〵

【下段】
みにあやまり
あるゆへなん
にもいわぬ
九郎介おほへていよ
おふたりさま
みさきも
さらば
〳〵

【右丁】
それより
九郎介は又
みさきをく
どけともきゝ
入ずあまつ
さへ父母につげける
ゆへ此いへにもいられず
あるよどぞうへしのび入金す
をぬすみ出しかけおちするあのめろうめゆへ大ぶんくろうをしたにあはび
のかいのかたおもひにくさもにくし【ふくさもにくし?】此かねと此中しちに入たたから
物のあたへとあわせて五六百両うま□□
これからおれがすき【すゝき?】のいろさとのうらへでも
引こんでくらしませうハヽアそれよ

【左丁】
【上段】
かくてもりの
丞はちゝの
ふけうをうけ
たからはありか
しれても
とりもどす
べき金子
もなくたゝ
にくきは九郎介おもへとも
これも
ゆきかた
しれす【ここより五行ほどかすれ】
□□□□かるべき
□□

なく
□□して□□ねしまつ
さきがかたへ又いろ
男と
なつてきたり
かねのさいかくを
たのむ
かならずくろうに
しなん
すなとうぞしよふがありんしよふ
此御
くろうも
みな
わたしゆへ
かんにん
して
くんなんし

【下段】
此身に
なりて
かほをあわすも
はつかしけれども
つきてきました
くれ〳〵たのみます

【右丁】
まつさきはもりの丞にたのまれ身にかへて
さいかくしても今の世の中きつねのなか
まても金はめつたに出きすふとおもひ
つきおゝにはのてうすばちにてむけんの
かねをつくたとへ此身は
むけんちこくへおちるともだんない
〳〵大じないいとしおとこのためじや
ものなむ日本のくに〳〵のかみさん
金ならたつた三百両とうぞ
おさつけなされて下さんせ
あんまりたゝいたらひしやくの
あたまがぬけた

なか〳〵
きん
ねんの
むけんのかねは
ひさくのいたむ【柄杓の傷む】
はかりなんにも
ですまつさきも
ほんにとうせうねと
あきれる


【左丁】
さても
もりの丞は両人
のきやうだちがせわ
にて金とゝのゆると
いへともなか〳〵とゝのは
ずその二人われはかく
あそひてふたりに
ほねおらせんことも
きのどくにおもひて
いろ〳〵あんしけるにおりしも
なつのことなれば
人の大ぜいあつまるしんち
へしばゐをいだしやくしやにばけて
ぜにもふけせんとおもひ付三人いひ
あわせかんはんをいたしわがこきやう
松川村をめうじになしもりの丞は松川
つる七となをかへ兄弟はたん蔵米松と
しるしみぶりこはいろとはじめければ
ものみだかい江戸のこと初日より
けんぶつ大ぜいはいりおゝくの金を
もうけける
さあ〳〵三しばゐやくしやこはいろ
はじまりじや〳〵〳〵

【中段】
すゞみのくんじゆ大きに
はかされみな〳〵
けんふつする

【右丁】
【上段】
扨もつる七いでゝみぶりこはいろの口上をいふ此ところ山下
金作大谷慶次【?】中村仲蔵右三人かけ合身ぶり
こわいろ御らんに入まするまづははじまり〳〵と大こに
つれがくやに入三人ともおもひ〳〵にばけて出る
金作新左衛門ふうふ
のものが此やう
に申しますに
たつた
一口すけ
やすは
此すけ
つねが
うつ
たりと
おなのり
なされて
下さん

その
ほう
ふうふがちうぎにめんじなるほときやうだい
がかたきは此左衛門すけつねとなのりて
やりたいものなれどもかはづ【河津祐泰】をうつたは
またの五郎がすまいのいこんてとをや【遠矢?】を
もつてうつたはやい
またのゝ五郎かけ久が【俣野五郎景久。河津祐泰との相撲のエピソード】


【左丁に続く】
すまいのいしゆとはいつわりまことは
しよりやうのあたなりとけらいあふみ【大見(小藤太)】
八わた【八幡(三郎)】にいひつけあか沢山【赤沢山】
のかへるさに【?】うちとつたりといさ
きよくなのつて下されすけつね
どのいつ
わり給ふは
そりや御ひきようで
ござるぞへ

やんや〳〵
とうして あのやうに
にるの
やつ
はり
ばけ
ものた


【右丁下段】
もふ
ひきり

やふ【もう一区切り見よう?】

此つぎ
は おや玉
だが

おそ




【右丁】
【上段】
三人のものは
この□【ほ?】とまいよ
しの大入
にて金子
四五百両
できたれば
もはやしやう
たいをあらわし
てもよしとそれ
より三百両に
利ふん【利分?】をいたし
たからの二しな
とりもどし両人
がわびにてかん
どうゆるされ
みさきとしう
げんしてすへながく
さかへそのゝちくわん
いをゑてきぬ
かさ
もりの丞

かさ
もり
いなり女ぼう
みさきは
みさき
【左丁へ】
いなり大めう
じんと
あがめられ
しよ人あゆ
みを
はこびける
いまでは
あのこも
つう
じん
とやらのふうそくもやめ
しやうたいをあらわし
たればもふきづかいはござ
らぬむすめよろこべ
あい〳〵このやうな
うれ
しい
ことはない
わいな


【右丁中段】
此やうな
よろこびは
ござらぬ
おゝ
やすい
ことな
のりめされ

【右丁下段】
すぎのもりきゃうだいはしゆびよく
わびもかないしろぎつねふうふの
ものゝきげんよきを
みてこのたびたから
ものとりもどせし
御ほうびになに
とぞたまと
かぎ
とを

われらきゃうだい
がいへなに申うけたくと
ねがふ

【左丁中段】
ばゝも一ツすご
しやれ


【左丁下段】
これはあり
がたい
しあわせで
ござります

いやもう両人のもの□け
でござります此金子
はこのたひのつかいのこり
御両人へしん上申もと
でになりともなさ
れい

【右丁】
【上段】
扨もすぎのもり富介はいまだ
あつさもさりかねたるじせつ
なればふとおもひつき白ぎつ
ねよりもらひし玉をのふれんに【暖簾=のふれん】
そめさせむさししもふさのあいだを
みせをいたし花びをしこみそのゝちねん〳〵
はんじやうしてぶげんの みとなりて
おもふやういせんもりの
丞のちぎり給ふまつ
さきをたづねしに
そのせつきん子とゝのは
ざる


にやみ
ついにむな
しくなり
たると
うはさゆへ
富介大金
をいだし

【左丁へ】
まつ
さき
いなり




あん

なし
今も
つうじん
たちの
さんけい
おびたゝ
しき
ことなり


【右丁下段】
此ごろは
此みせかとんだ
はんじやうだ


【左丁中段】
ばんにはむつが
あるから人の
おゝいのなんほ
せい出しても







【下段】
此つぎには
十二てうちんを
つけようはやく
しまつてきりを
みにゆきたい
富介人けんにはけ
花火しやうばい
をして大かねを
もうけみせ
はん
しやう
せし
なり

又おとゝか【?】き次郎は同じくはけ
てそのきんしよに□□【こう(香)?】しやうばい
をいたしのうれんにしろきつね
よりゆつりうけしかきをそめぬき
みせはんしやうせしゆへそのゝちきやう
だいのものくわんゐをゑてすぎの
もりいなり大明神とあがめられ
まい月富のこうぎやうありて人の
くんしゆは おくさまがた【おこさまがた?】御ぞんしの
とをりいつれもたつときいなりさま
つうりきしたいのいろのしかう【通力次第の色のしかう?】
おもひついてきつねの通人とは
だいしぬ【?】いのり給へ〳〵

可笑偽作 清長画

【裏表紙】

早出来

《割書:道楽|世界》早出来

天明二寅年

《割書:道楽|世界》早出来 《割書:豊里舟作|鳥居清長画》全三冊

【上段】
むかし〳〵かち〳〵
山田□□しぶん
の事なりしか神田の
八丁ほりかはにぜう
ほん大かふといふひと有り
女房をおあやといゝ
やした【?】きりやうも【器量も】
ちうさしたかぶにん
そう【不人相】だからせけんで
あやふにん【あや夫人】とあだな
を付た
ぜうばん二人りが中に
子なき事をかな
しみ日本中の
□仏【神仏?】をいぢり【?】
しがあるとき
二人りがゆめに
かるたのしやか
十をのむと見【釈迦十はトランプのクラブの10】
て一人の男子
をもふけ名を
しやか十郎と
よびこの子五
六才より外の
子供とちかひ
かうまんにて長い
きものにぎんきせる
かみもとこで
ゆわせたし
いきなことばかり
このみける

【下段】
此子とした事か【が】
見るほどの物を
ほしがる

かゝさん
九角からとんふりかできて
き■【た?】から■【と?】つておきな






【右上段】
こゝにや【?】草
そうしほと【草双紙ほど】年
月のはやくたつ
ものはなししや
か十郎もとう
らくざかりとなり
くろしたはき【下履き】細
身のおたちさん
まいうら【三枚裏=三枚芯 カ】の高ひ
そうりは人を下た【草履は人を下】
に見をろすふみ【に見下ろす踏み】
たいと見へ【台と見へ】
てんにも【天にも】
ちにも【地にも】
我し一人りと【我し一人と】
いろおとこ【色男】
の身にて【このあたり「天上天下唯我独尊」のパロディ】
あるとき
となりの
むすこを
さそひ
よしわらへ
きたり
むしやう
やたらに
しやれ
の□す【のめす?】
モウ
■■はきそうな
     □□
【左上段】
しよくわい【初会?】
の女郎衆
と見た
やほに【野暮に】せ
すと
なんぞ
たわつ【?】
せいな
くらで
おもひ
出した
とう〳〵
大横丁【?】が
たてくわひ
を倉つた
むすこ
なんその【?】
あんまり
つふに
なろふと
おもわねへ
がよい
旦那〳〵と
いわれる
たび残が
入てならねい
【右下段】
ぬしのきやく【ぬしの客】
しゆは【衆は】
よく
おしやれ
なんすの
いつそ
すきん
せんよ
【しゃか十郎が駄洒落ばかり言うので嫌いだと言ってる】

【右上段】
しやかはあまり
かうまんをいゝ
すきけれはあい
かたの女郎も
にくみあるべき
とふりの仕内
にてとこへは
いつてより付か
す壱人り床の
うへて【上で】しやれ
本【洒落本】にある
しんこざと【新五左(田舎武士)と】
いふ身ている
あまりまち
かねとろ〳〵と
いねむりしか
ふしぎや赤と
あいにて【藍にて】
ゑがきし
ころもきて
たるほうし
壱人まほろ
のことくし【最後の「し」は前行の「まほろ」の続きを彫り間違えた?】
あらはれ
けり
【左上段】
わちやア皆様
御そんじの
ひかる十て
こざり
ますかね
あんまり
をれぼう
    □
おさみし
からうし又
御礼【?】し
申事か有て
参り申した
いけんちやア
ねいかおめへ
あんまり■とか
すきるからまつ
とふせいのつふといふは【当世の通と言ふは】
人の道を元とし
いやがる事をせづおふよう
にある【り?】たきものさ
まだしゆ行かたりや【まだ修業がたりや】
せんなんぎやうくきやう【せん。難行苦行】
こけのぎやうをしの【虚仮の行をしの】
いて大通ふとなり
あまねくせかいをどうらくじやうとへ道引たまへぬしと
わつちや一つなへてくふから【一つ鍋で食ふから?】
こんな事を申やすといふと思はは【思ハは(思はば)】
うせにけり




しやかは
へんな夢
をみて我か
ふつふ【不通】成る
事をはじ
めてしり
是より
心をあらため
しゆ
ぎやうを
しのいて大つふ世尊
ともなりせかいを
皆通ふにせんと
思いたつおりふし
友達ち来りし
ゆへにはかに【俄に】にした
から【下から】おてさきの
いふ通りにまを
合【間を合わせ=その場を適当に処理し】めつた
むせう
と喰物を
とり
よせて
めい〳〵に
【左上段】
くいものをしゝいる

しやか十が
ふたんの
仕内と
ちかい
めつた
にち
そう
するゆへ
みな〳〵
きもを
つぶす
【右下段】
けふはこゝのてい【今日はこゝの亭】
しゆはなんたかつがも【主はつがも】
なくのませるか【なく飲ませるが】
何かめでたへ【何か目出度へ】
すしでも【筋でも】
あるか

さひしくは【さびしくば】しんミちの
もじ■よでも【文字〇=三味線弾きの芸名】
よびやせう
なんでも
わつちに
ゑんりよ
はねへよ

【左下段】
モウ
こめん〳〵

モウ
ひとつ〳〵

さんやあたりの地廻りに
大間(だいま)の八といふわるもの
なにかけんくわ【喧嘩】の出入
にてあいてをぶたんと
二三人にて土手に
いたりし所
しやかは
なにの気も
■か■あさかへり
のとふりかけ【の通りがけ】
人ちがひにて
さん〳〵ぶた
るゝなれ共
しやかは
つふの心【通の心】
かけあれば
少しも
かまはず
いたいの
こらへて
いる
【左上段】
もしおまへ方は
さだめし人か
ぶちたか
らう
いくら
でもぶち
なさへ
したが
お手が
いたみ
ませう

もしおや【もし、親】
かたこう【方、こう】
せうち【承知】
じやア
ぶちに
はり
やいが
ない

【右下段】
おれも大間の八様と
いつちやアよつほどけむつ
てい
男だ

【右上段】
しやかは人ちかひ
にて大きにふたれ
そふこうするうち
よもあけけれは
かほを見て
あいてもきの
どくかりいた
みはしませぬか
といへはなにさ
これしき
な事はかまはん
のさといたいの
をこらへ〳〵よふ〳〵
さんやの
まちを
きて見
れはさい
わいかみ
ゆひどこ
こひ
つは
イヽと
あがる

朝なれは我〳〵もとかみをゆひに来りみなはやくゆひたき
をしやかはみてとり何さ
わつちはおそくても
いゝとたん〳〵後と【後と(あと)】
からくる人にゆは
せまつ内其日【せ、待つうち、その日】
もくれにけり

【左上段】
大間の八はしやか
つふなる【通なる】
心にはぢ【心に恥】
こゝに来り
でしとなる【弟子となる】
【ここからしゃか十郎の台詞】
つふにならう
と思ふにやア
とかく気生
をよく持給まへ
あんまり大つら【大面?】
八【は?】そんだよ
そして八をよして
大間としな
日より下太は【日より下駄は】
ごめんだ


ある時
しやか
一人ゆきの
ちよんの間に
あそばんと梅ばし【柳ばし?】
にて舟にのり折しも
大ゆきふりけれはおれかさ
むいも人のはじ事【恥事 カ】とむりやり
せんとうをねかし其身は
じゆばん一つにてふるへ〳〵
舟をかくこれかほんのこけの
ぎやうなり
【左上段】
せんどうはうれしさの
あまり
〽しやか様は此ちよき
ぶねのろを
おしてゆきもろともに
いくしほの
これもあなたの
せはかけやおれは
なにもひますきて
はやよしわらへ
つきにけり

アヽ高砂のうたひときこへるか
しらんなるほどこうして
いた所は千金だわたしが
ねた【て?】いておめいかおこき【お漕ぎ】
なさるしといふは
ほんの
しやか
さま
とだ


【右上段】
しやかは中
の町へ来り
まつ一はい
のまんと
茶やへ上り
しかいや〳〵
こゝでの
人ては

【左上段】
あるべき
通り【?】
向ふても大せいの
きやくたからさそ【客だからさぞ】
せはたらうとめつ【世話だらうと滅】
たむしやうに【多無性に】じき【辞儀?】
をしてま□り【まはり?】何に【何に(なに)】も
おさ【き?】せすてまどら
づ【?】ゟよからうと
めつたむしやうに
じきをするのこり
おゝいくらゐもた
のしみなもの

しやかでも
そつちの
よさ
そうな
ところに
したが
いゝ


【右上段】
初会のさかづき
もずつと
すみ床へ
きた所か
あいさつも
なくあい方
はなにか
物思ひ
とみへ顔【皃、貌】
付わる【付ワる】
けれは
しやか
はつら〳〵
思ふよふ
こいつは
なんても
よひてい
男かあつて
こよいまち
がつたのた
とそれから
すこしほね
をおりつゝ【?】
やつと其事
をきゝいたし
■かこゝ【?】

【左上段】
見の【けんの=初見=いきずり?】
所と
心をつく

なになく其男を
よんであはせける

まぶに女郎を
あはせてめいは
びやうふの
外で手しやくて
ひつかけながら
おれと
した
こと事か【事は衍字?】
金をたして
こふ気を
とふす事も
なへ
いかい
たわけ

【右下段】
ぬしもさむいに
そうして
いなすつちやア
どうも
わるふこせんす

【左下段】
茶ても
のみたか
ねへか

【右上段】
しやかはひやうふの
外にいてもあいら
かさしあいたら【?】
うとうそう〳〵【?】
と下たへ来て見
れはないせう
にてはいびき
のこへたい
所て
はつち〳〵
といふゆへ
なんてあ
らうと
さしの
そけ
は【さし覗けば】悪者
三四人
ゑて
ものを
して
いるこい
つわいゝ
と中へ入
めくり【?】
けるゆへ
れいの
通り【?】
をこり
皆に
【左上段】
勝た
せたく
おれが
此七【カードの7】


てる


なり
に仲
蔵【役の名前】か
できる
又両人
赤か
させ
たいの
うれし
やとう【?】
つき
ぬき
をくら
つた
のと
おも
いの
まゝに


ふくろ【財布のこと】を
から


けり

【右ページ下】
けしから
ねへ
きやく
だの

【左ページ下】
私共の中へおいてなさるゝと
いふはあなたも
とんだ
ものすきた


またしやかが■てしに五百(いを)蔵といふあり
はいめうをらかんといゝしゆへ五百らかんと
よびけるしやか
がゆへはかりを【?】
うりにくる
しやかはぜう
せき【定石】かねが
いるだ
らふと
羽織
のそでへ
二三両
ちよつ
とひねつ
ていれて
やる

【右ページ下】
今日はちつと
かも入れに【?】
■けやすから
りうもんの■
はかりと
いふ所を
かしておくれ

【左ページ】
それよりしやかはこけの
ぎやうを
しのきどうらう
上土の
ほつ
ほうを
とらんとかんばんを
出しける

【看板】
来る十五日とりの時雨とも【?】
吉原上土(どうらくぜうど) 北法(ほつほう)
              しやか
【極楽浄土と道楽上土の洒落】
【説法と北方(吉原のこと)の洒落】

しやかは北方をとく
是より北の
方にあつて
吉原上土と
国かごせいやす
こういつちやア
どうやら
かれいとのなんを【?】
いゝなさらふか
せかいのやぼ【世界の野暮】
そふたちを【僧たちを】
つふしやに【通者(つうしゃ)に】
しろとの
こせいかん【御請願】
とかくどう
らくへゆきて
おとけになつ【戯けと仏の洒落】
たかあみだ
によらい
の事を
おきゝなさへ是から
またかんにたへかした【?】
ありかたい事か
ごせへやすから皆様方
ゆる〳〵とこちよう
もんなさへ
【左ページ】
しやかがほつほうをきゝいて
ありがてへ〳〵と
いゝし
ゆへ今
のよに
つふ
こん

なり

けり

なるほと
おしやか
さまは
おどけの
けしん
だぞ

又当せいちこくか【また当世地獄が】
とんたはやりしやか【とんだ流行り、しゃか】
もしようさいどの【も(衆)生済度の】
ためこのしこくへ【ため、この地獄へ】
来りしめまへくら【来りし、目前暗】
やみで大きな【闇で大きな】
こへもならず【声もならず】
そのうへ
よく〳〵
きけば人の
によう
ほう【女房】なり
ぬし有る
身にて
こう
いふ
しやう
ばいを
するは
女郎ゟは 
ひやく
ばいと【?】
おもひ
かねを【金を】
たして【出して】
すくひ【救ひ】
とる【取る(見受けしたという意味)】

【左頁】
このかね
てなんそ
外の事
をしろへ
とかく
地こくの
さたも【地獄の沙汰】
金だ

【左頁下 女郎の台詞】
アヽありがたふござりやす
ほんにうかみ上ります
金をもらいしゆへ
おうごんのはだへと【黄金の肌(はだへ)と】
なり
地こくの
くがいを【地獄の苦界】
のがれけり

北方【吉原のこと】にてはしやか
のつうなることを
きゝつたへきよう
このさとのねん
ばん【年番】につきたまふ
とかづのぼさつ
かむろをひき
つれやり
て【遣手「やりて」: 遊女屋全体の遊女、かむろ、新造を管理・教育し、客や当主、遊女との間の仲介役】も
つの【角】を
かくし
てどう
らくの
大門
まで
むかい
くる

【左頁】
そふたい【総体カ】
この上土へは【浄土】
おうごんの
はだへなくては【黄金の肌(はだへ)なくては】
来る事あた
わずみちのりも
とふきよふなれと【遠きよふなれど】
くぜい【弘誓?】のちよきにのる時は
ちよんの間のうちに
ときつく事うたかひなし

【右頁】
あら有かたやしやか女来ねはん【釈迦如来涅槃】の
とこにのりたまへは家内の ぼさつ【菩薩】
あたりをかこひ二かいさしき【二階座敷】
にて二上りの【三味線の調弦法の一。本調子を基準にして第2弦を1全音「長2度」高くしたもの。はでで陽気な気分や田舎風を表す】
おんかく【音楽】
きこへ
かみ
はなこけらと
ふり来る
折ふし
此ことをきゝ
伝へとらに
馬吉丑太夫【?】
おつるおかめに
やりてのお熊【?】を
初めとしてあま
たの町るい
ちくは共
おり〳〵に
あつまり
有りかた
かりし里【?】の
とロ〳〵
にぞ
となへ

【左頁】
けり
大ぜいの
よろこび
こへにはかの
はやしこれ
にはいかで
まさるべきや
ときこへけり


このやうな
おはなもない
もんたそりや
まく〳〵ぞと

おつしやれ

いゝ

【右ページ下】
アヽ
有りがたい〳〵










【右頁上】
それよりしやかは大通
世尊【世尊は釈迦のこと】ともてはやされ
上土【浄土】のあそびもしつく
して是からちつと
気をかへて辰巳しん
じゆく南部の方へ
心ざしけるがあまり
長事こたいくつ【ご退屈】と右
三ヶ所をはごへん【後編】に
ゆづりしばらく
あそびを
とゞまり
ける
【右下端】
清長画
豊 里舟作

【左頁 左上端】
図書標 208 

【左頁裏見開き 左上端に図書標および「特別」印】


208
特別
244

富多高慢噺

冨多高慢話噺       豊里舟作
             鳥居清長画

冨多(とんだ)高慢(かうまん)噺(はなし)上

こゝろいきも
つつをとをり丁
へんにとんだかうまんといふ
いしやあり
いかい【=多くの】むだのかみさまおかゝへ
にてにしのくにで百まんごく
とりければうきよを下めに
見ることひのみばんのごとく
されどもおんなにはスコ【少しの略】あやまり
ぎみにてしよ〳〵【諸処】へみをよせ
                ける

〽大つう【だい通=遊里の事情や遊興の道によく通じていること。またその人】もうつ
とうしいといつて
いまさらやぼ【野暮】に
なるもおしいもんだ
こういふところ
をほかで
きいたら
なをいふ
よふだかとんだ
かうまんだろう

【右丁 上部】
か【別本により確認】う
まん


ぼ【野暮】と
つう【通】との
ニどう【ニ道】に
こゝろをつくし
しよ〳〵【諸処】のゆう
りをめぐり
人のあそひを
みるにまづきん〳〵したての
むすこかふが
けいしやまじり
の大さわぎ
みかけはいきな
よふなれどつう
といふものは
こうしたもん
さとはなの
さきにあら【「お」に見える字はこの作者の書き癖では「あ」なので「あ」と読んでおきます】
われみへほう【見栄坊】
といふやまい
あればこれも
できたことて
なしぐんない
しま【郡内縞=山梨県郡内地方特産の郡内織の縞物】に

【左丁 上部】
もへき
うら【萌黄色の裏地】
いなかふとりの
はをりをけふ
のはれきと
して人の
さわぎを
たちぎゝ
するたのしみ
のところは おなじこゝろ
いきはてん ちのそういどちら
にもせんお あればいつれを
とらんと
さすがの
かうまんも
まゆを八
のじに
する

【右丁 下部】
あのおりは下
やのやしき
へいくと
  いつて
てめへのい
やみも久しい
  もんだ
せんどめくろの時は
おすみさんを
つれて
わつ
ち【「わっち」=私の意】をば
よくながしな
すつた たんと
おれいをもふしや
      せう

【左丁 中段】
あのむす
こもおれ
に にて
   なか〳〵
     かうまんだ

【左丁 下部左端】
おゑどは
はん
くは【繁華】な
所たモシ
これから あ
さくさのくはん
のんさアエま
いります
  べい

【右丁 上部】
かうまんは
よく〳〵しあん
するに人の
たからとする
きんぎんを
いしころの
よふにせねば
しよせんつうとは
いわれず
せけんでやぼ
だのこけ【虚仮=ばか】だのと
いわるゝ人は
みなしわん
ぼう【「吝ん坊」=ケチな人をののしって言う語】からおこる
かねをつかつて
つうといわるゝ
もたのしみ
しわへ【出し惜しみ、けちって】して
かねのたまる
もたのしみ
おなしことなら
かねのてきる
がよさそふな
ものだと
けんやくのこゝろおこり
やきみそを

【左丁】
にじう
しちさい
より
ありがた
がり
かみ
だなの
とうめう【燈明】も
とうしん【燈心】
一すじて
しまふ
くらいに
  する

だんなさまは
にわかにしわい【けちな】こと
ばつかりおつしやる

【右丁 下部】
かまのした
もいゝかげん
にひをひけ

しはい【芝居】を
ねだるとも
しよせん
らちはあく
   まい


【右丁 上部】
こ【「か」とあるところ】うまん
はとかく
かねが
たいせつ
になり
つきあい
をしては
むだが
おほひ
と一人
あるき
大しろ
らくわん
おんの
おくやま
がいにしへ
のなかの
丁より
おもし
ろいと
それより
むかうじま
へわたり
あきは【秋場=秋の頃、または向島「秋葉大権現社」ヵ】の
やまそこ

【左丁 上部】
こゝとぶらつく
おりしもいづれ
よりかしらべあら
そふことのね【音】に
われしらずおく
やまのかたへたどり
ゆくに一人のろうじん
なり かうまんもさすが大へい【横柄】にも
でられずおまへさまはどなたさまと
とへばわれはこのやまにすむとをりてんと
いふものなりなかまうちのくめぼうは
はきのしろきみてつうをうしのふ
【歌舞伎・浄瑠璃「久米仙人吉野桜」の逸話参照】
さすれはせんにんでさへつうといふことは
あることなり まして人げんのみとして
つうをきらいやぼつたくかねを
ためるはさりとは りやうけん【了見】ちがい
わがつうりき【理義=道理であり正義であること】をもつてつうと
ふつうのしよわけ【諸分】をさくみだ
がこんたん【魂胆=いろいろと工夫をすること】にとりくみ
そのほうがまよいを
はらさんと
    ものがたる

【右丁 中央部】
おれをたちばな丁【橘町=東京日本橋三丁目付近の旧地名、江戸時代この界隈にいわゆる転び芸者が多く住んでいたという】
だとおもつてこゝまで
きたかてめへも
おんなにはよつほど
こう〳〵
【孝行、または「病膏肓に入る」=病的に好きの意ヵ】
   だそ

【右丁 下部から左丁 下部】
あのつま
おとではよつほど
ひなもの【鄙者=田舎もの 】と
思ひのほか
とんだ
てんちがい【合点違い=思い違い、了見違い】
    だ

とをりてんはもつたることを
ちすい【池水】に
うかむ【浮かぶ】れば
一ツのぶたいとへんじ やまはすな
はちざしききり
おとし【芝居の見物席の一つ。平土間の最前列で安くて下級な席】きりまく【花道の出入り口の垂れ幕】の
くゝりを
あらはしまつ
ふくかぜはぶたい
やろふのこへを
はつしその
ほかなかくりの
ゆきこふ
ありさまかうまんも
ひさしぶりの
たゆうさじき【大夫桟敷=二階桟敷の左右の舞台ぎわの席。最高級の座席】
こふいふことを
しつたら
うちの
おりせをつれて
くればよかつた
とはちつとあつが
かましい

【左丁 上部】
かうまん
〽はしらの
こつちに
よりかゝつて
いるはまつが
ねやの
こゝの人じやア
  ないか

とをりてん
〽むかふの
五けんつゞきは
ごしゆでん【御主殿・御守殿】と
   みへる

【右丁 下部】
おとし
まつかぜ
  〳〵


はまむら
   や

きつい
いりだ

【左丁 中央部】
こんどのは
よくかきやした

あとはいつから
  てますの

【右丁 】
たこうはござりますれど これよりもふし
あけます にしむらざごひゐきとござり
まして一はながけてごらん下されます
だん
せいもん【誓文=神に誓って】ありがたきしやわせ なに
がな【「何」に願望の副助詞「がな」がついたもの】御こさまがた
御なくさみと
そんじ
くろじたて【黒ずくめの装い】つうのみなかみ
ともうすしんきやうけん【新狂言】
しんまい
さく
しやの
あをびやうし
ぼん【青表紙本】に
つまらぬこと
ながら
たゞ
よい〳〵との
ごけんぶつまづは
一ばんめはつ
まくはじまり

【左丁 上段】
なにゝ
つけても
しよわけ山
せうち太郎【諸分山承知太郎】
があるうちは
てこつるの

つう
じん
てん
わうの【通人天王の】
わうじ【王子】こけたかしんわうは
おとゝみや【弟宮】いき人しんわうと
みくらゐをあらそひたまいしが
ついにいき人のみよとなりければ
むせうと【無性に、の意ヵ】ごしん【心の意ヵ】をもやし給ふ
〽ふつうなかま【不通仲間】やぼた大ぜんにたやま
はんくわんしゆ〴〵てをもきしゆこうをかんかふる

【左丁 下部右側】
とう
らくの
せちへ【節会】
のおり
なくてかなはぬ
くろしたての
ぎよいあれを
こつちへしてやる
くめんか
   かんじん
    〳〵

【左丁 中央部 左端】
それがしか
そうりとり
ぶざへい
めに申
 つけ
  ませう

【こけたかしんのうの語源は文徳天皇の皇子、惟喬親王(これたかしんのう)[844~897]の模様。文徳天皇の第一皇子で母は紀静子、「悲運の皇子」として有名。父帝に愛されたが、母が藤原氏でないため天皇になれず、弟宮・惟仁親王(これひとしんのう)即位の後隠棲したという。】

【右丁 上段】
こしもとてくだ【腰元の手管】は
かるくちむだのすけ
に人のきまりにて
ゑてもの【得意わざ】ゝ
てくた【手管】にて
   くどく


【右丁中段 右端】
これこのふくさにもおまへの
しゆせき【手跡】 よふじさしにも
もしほくさ【藻塩草=手紙】なとゝ
としむつまじき
でんのせりふにて
いちやつく

【右丁 上段中ほど】
〽また人を
うれしから
せるのかそんなこと
をまにうけて
はならん

【左丁】
やつと
ぶざへい
はむた

 す 
  け
   か
   あつ
かりの
くろじたて
のきよい【御衣】
をぬすみ
大くわん
せうじゆ【大願成就】と
はんぶんいわ
ぬうちおなじ
でたち【出立】のとう
ぞくそのきよい
をうはひ いつくともなく【何処ともなく】おちうせる【「落ち失せる」=逃亡し姿を消す】これもよくあるやつさ

【右丁 下段左端】
アゝ あてみをくつた
しかしぬきみよわ【「よりは」の意か】ました

【右丁 上部】
なかの丁
さくらかり【桜狩り】の
おりから
つうな
ごん
みつ
かみ
けう
のそく
じよ
もて
ます

めは
かねて
いき人
きみと
おん
いゝ



あり
けれ

よき

【左丁 上部】
おり
からと
つもる
うらみ



まふ

【右丁から左丁の中段】
そなたのしんせつわすれは
おかぬさりなからとうろうの
せちへ【節会】すむまては
まゝならぬいき
人かみのうえ【身の上】
かなら

うらんで
下さるな

おなににやわぬ【似合わぬ】いき
人さまサリて【さりとて、の意ヵ】あん
まりとうよく【胴欲】でござんすわいな

【左丁の中段】
おひめさまをいき人
さまのおもてなし
とはなるほと
つうなこんさま
ほどあつて
いゝおほし
めし


イヨ
あやかりもの【果報者。冷やかしの掛け声】

【左丁 下部】
こしもと【文字は消えているが「と」と思われる】
てくた【手管】は
いろ〳〵
こんたん【魂胆=工夫すること】
してとり
もつ

【右丁 上段】
にたやまはんぐはんはむたのすけてくだ【手管】が
ゑんじょ【艶書=恋文】をひろい ふき【不義】はおいへの
こはつとなりといらぬせわをやく

ふきいたづらをすいなかし【「ずいながし」。「ずい」はすぐにの意の接頭語。すばやく流して気にしないこと】


おく
所が
つうな
ごんかいへ【家】の
をきて【掟】このうへ
ともいろごとに
こゝろをくだき【力を尽くし】かなら
ずつうき【通気と忠義の掛詞】の二じをわするゝな

【右丁 中段】
つう【通】と
いふものはなるほど
したら
く【自堕落】に
よく
こしらへた
もんだ
わつち【「私」の変化した語】
ともも
ちつとこし【ちょっとは】
はもうけ
まし
 やう

【右丁 下段】
あり
かたい
こしゆ
じんさま
のおふせ【仰せ】
ついふん【随分】
つうきを
はげみ
ませふ

【左丁】
むだの
すけは大
せつなるくろしたて【黒仕立=黒ずくめの装い。遊里に行くときに好まれる】
のきよい【御衣】をぬすまれ
いゝわけなくせつふく
せんとせし所につう
なこんのなさけ
にてこのはを
たす
かり
二しなのたからを
せんき【詮議】にいつる【いづる=出る】

きよい【御衣】一いろではたつぬるに
むつかしかろふ いつそや ふんじつ【紛失…古くは「ふんじつ」とも言った】
せしひけなてまるの一チよう【一丁。髭撫丸は太刀の名】
二しなのうち一いろせんきしたら
かんとう
ゆるす
しかしやなきはら【「やなぎわら」…江戸、神田川の南岸、夜鷹が多くいた。】
あたりを
   たつねるは  ざら【押しなべてあるさま】

【左丁 下段】
ふつう【不通=不粋であること。野暮】のせつしやをきよい
かりもなく御なさけのにあつかり   ます

【右丁上部から左丁上部】
てくだはくわんおん
のぢない【地内=境内のこと】にちや
みせをたして人を
ちやにし【茶を飲ませ休憩させる意と、馬鹿にする・利用する意の掛詞】むだの
すけは人だち
とほきところ
なればちまわり【地廻】とすかた
をやつし
けんくはを
しかけ ひけ
なてまるの
せんきを
なすおり
からにた
やまはん
くはんに
であい
いろ〳〵
あつ
かふ【「悪行」=「あくぎょう」に同じ】

けれ
とも
かた
なに




ざれ

さて
わと
こゝろ
づく

たれ
やらが
くに
人は
ぶり
なせ
けい
せい【傾城?】は
きゝ【?】ふ
やうとは【このあたり意味不明】
よく
いゝやしたその
二ほんぼうは
人をきるの
しやアなしかへ
はなのしたへつけるのか

【右丁 下部】
てくたはちゞに
こゝろをいた
     める

【左丁 中段】
ちよきぶね【猪牙舟】なん
どやかた
ぶねのおごりを
しらんこういつては
どうやらいきかとまち
かへ
  そうだ

  【左丁 下部】
この二さい
やろう【「二歳野郎」=年若い、未熟な男性を軽蔑していう語】め
ぶれいが
あるとては
みせぬぞ【<抜く>手は見せぬ=一太刀で切り捨てるぞ】

【右丁】
よくおさむら
いさまを
どろぼうに
しおつた ひげなてとやらかみなでとやらが
あるか いめへ【「ゑ」とあるところ】ましい【「いめえましい」=「いまいましい」の変化した語】むたな
  や
 らう
  だ

むだの
すけは
とうざの
りに
つまり
さん〴〵
てうちやく【打擲】に
あふ

【右丁 下段】
する
こと
なす
こと
むだ
のす
けと
なつ
たか
とと【「まことに」の意】
ざん
ねん
 だ

【左丁 上部】
ゆふにこゝろ
もみたれ
がみ くしの
あて【櫛の当て】
なとも
なま
なかに【上の空に】
あふわ
なみだか
みづ
がみを
むすび
あげ
たる
しまだ
わけふたりがなかの
こまくら【「小枕」=婦人の結髪用具。かもじの根につけて自髪と結合する道具】や なをして
みたきもとゆいも
たゞ一トすじにかみ
かけて【神かけて<髪との掛詞>】こゝろの
たけをいのる
みやしろ

【左丁 中段】
こちの人かなら
ずはやまつて
くださんすな

【左丁 下段】
たしかに
それと思ひの
ほか やつこぶざ
へいめがこゝろ
  にくい
  

【右丁】
こちのひとおてからて
     ごさんす


ごかんき【ご勘気=勘当】ごしや
めん【ご赦免】のたねとなるべき

この一しな大ぐわんじやうじゆ【大願成就】
ありがたやナアと大山まいりの
よふにおたちをいたゝく
【当時、木製の大太刀を担いで大山詣をする風習があった】

【左丁 上段】
むだのすけは
ぶだ【「ざ」とあるところ】へいかあと
をちたい【地台か】どて
にておいつき
くんづころん
づ【組み合い転び合い】あらそひ
しがなんなく
ひげなでの
みたちを
とりかへす

【左丁 中段】
こう
なげられ
たところは
   さそぶざまだ
      ろう

【右丁 右端】
しよわけやまほとあつておつに
しよわけをつけるもんだ
【諸分とは、遊里のもめごとのとりなしの意】

【右丁 下段中央】
しよわけ
やませうち
さへもん【諸分山承知左衛門】が
はからいにて
やつとぶざへい
をごう
もんに
かけ
わる【悪】
じやれ
ともの
あくじを
はくしやう
 させる

【右丁 中段】
いき人を
つみにおとし
ばんじやうの
くらゐ【万乗の位=天子の位】とたくみし
もみつのあわか
 たんねんな【「堪念な」=得心がゆく、或は「丹念な」=念の入ったことだな、か】

【左丁 上段】
むだのすけでかした
一つのこう【功】たちたる
うへはもとのごとく三せの
   気ゑん【三世の奇縁:三世までもつながる縁の意。主従の深いつながり。】


あさましい
あにきみの
御こゝろ
 じや
  ナア

【左丁 下段】
せうち左エ門か
まなこのくろい内は
いき人きみのみよははんだい
ふゑきた【万代不易だ】 こう
あらわれし
うへはしよ
せんのがれ
ぬこけたか
しんわう

アゝ



〳〵

ふつう
さんす【?】
ごしゆつけ【御出家】
   あられ 
    ませう 

しんせうに【尋常に】はく
じやう【白状】ひかげ【日陰者の略】


【右丁 中段から下段】
ひけなての一チよふを【一丁を】くろしたてのきよい【御衣】をよす
ればすがかき【和琴の奏法の一つ】
のねいろ
をはつす【発す】ときゝ
さてはやほた大せんが
くはゐちう【懐中】にみたから【御宝】あ
りとおほへたり【覚えたり】しつたこけ
たかしんわうにむ
ほん【親王に謀反】
せう
心【「ふ」ヵ】を
にくめじ
もなん
しか
たくみ【汝がたくみ<たくらみ>】
ふつう
とも【不通ども=野暮天ども】の
ねをたつ
てはを
ちらす【根を断って葉を散らす】

つうも
ねへ

しよせんかなはぬ大せん
ちんしやうにもふせん
かふれ 【枕上に毛氈かぶれ:(歌舞伎で、死人になった役者を毛氈で隠して舞台を去らせるところから)失敗する。しくじる。勘当を受ける意】

【右丁 上部から左丁 上部】
こけだか
しんわうを
おた【「さ」ヵ】きに
つかひくろしたて
のきよゐをも
こつちへしてやり

六十余州【六十余りの国=日本全国の意】
をふつう
になさんと
はかり

こと

せう
ちたろう【承知太郎】
にみあら

され
しか
ざんねん

【右丁 上段】
こけたかしんわう
のこむほん
あらわれ
しかは
やけの
かん八【「やけの勘八」。「やけのやん八」に同じ。思い通りにならないため、自暴自棄な行動をとること】
となつ


くん【大軍か】をもよ
ほしいき人
きみ


りまく
所にさゝ
ゐとう【「さざえどう=栄螺堂」に同じ。内部の階段が螺旋梯子に似た構造になっている堂。】
のかた
より
せりだ
しにて
て【手】の
たんと【たくさん】

【左丁 上段】
あるく
わんぜおん
あらわれ給ひこの
ばの
いざ【いざこざの略】

くい
ながし【ぐい流し=すっかり流すこと】に


まふ

【右丁 中段】
いき人
くるひたつ
てとれヱイ

さんねん
ながらこのばは
一まづたちわか
れん

【左丁 中段】
おれがくち【口】からいゝ
にくひ【言いにくい】がて【手】さへあれば
しよじまるくゆくもんだはつ
はるそう〳〵いざ
こざもさへめい【「冴えない」の意…気が滅入ってすっきりしない】から
ずつとこのばをすみ丁【すみちょう…帳消しという意の「済帳」と江戸吉原の町名の一つ「角町」を掛けている】
にしてまつこんにちは
これきりがよか
ろう

ありが
たやナア

【左丁 下段】
ひご

しん
ずる
さゞゐ
どうの
おやだま
ちからを
そへて
たび給へ【賜び給え】

わるへさわぐと
やぼ
てん【野暮天】
ども
にしのうみへ
さらいこむ【「さらえこむ=浚込」に同じ。…かき集めて放り込む】ぞ

こ【「か」とあるところ】うまんはさき
〴〵ひやうばん
のこへにつれ
ねづみきど【「鼠木戸」=江戸時代、劇場などの興行場の木戸口に作られた観客がはいるくぐり戸。無銭入場者を防ぐため、きわめて狭く作られていた。】を
でるとおもへは
わがやのくち
ゆめかと
おもへば
ねたおぼえは
なし
ばか
されたおぼえは
もとよりなし
ありしことども
かんがふるに
あんまりやぼつたいも
とうせい【「当世」=今の世の中】のき【「気」=傾向】にあわずとかく
大づめ【「大詰」=最終幕】のくわんおんさんのおゝせのごとく
て【手】さへあればすきんにん【頭巾人=頭巾をかぶっている人、或は風流人の意ヵ】のきにかなふと
これよりかうまんもしわし【ケチ】もやめて人のいふなかに
てうし【調子】をあわせ大つう【だいつう=遊里の事情や遊興の道によく通じていること。またその人】ほどにはいたらねと
いゝかげんなつう【程よい通人】といわれける
                    豊里舟作

【 裏見返し 】
【左ページ左上に「208」「特別」「245」のラベル貼付】

【 裏表紙 】

桃太郎元服姿

桃太郎元服姿

桃太郎元服姿 通笑他 巻一


むかし〳〵より御子様方御ぞんしの
桃太郎おにがしま
よりたからをとりて
かへりしよりそのさきは
もゝ太郎がどうしたやら
ぢゞいばゞあが
どうしたやら
いちがさかへて
しまいしを
やう〳〵と
きゝいだし
むかしはなしの
第二ばんめうそと
いふてはすこしも
なくだいせいもんを
二冊となし
御なくさみに
御らん入れし
       もの也


【印あり】
「帝国図書館」朱丸印
「□□・明治三七・五・三〇・」丸朱印

もゝ太郎おにがしま
よりかづのたからを
もちかへりければぢゞい
ばゞあとはもとの
事ふたおやながら
よろこび三人の
ものにだん〳〵と
れいをいゝいろ〳〵と
ちそうしてとめおき
いつそこつちにござれと
いへどもみな〳〵さいしも
あるものゆへかへらんと
いゝあまたの
たからもほし
からず
てふるいちくるい【鳥類畜類?】と
いふものはぜにかねにかけては
            よつほと
             らくな
              もの
               なり

【挿絵内右ページ・猿?セリフ】
わたくしはたべると
かほがまつしろに
なります

【挿絵内右ページ・雉セリフ】
明日
あたりは
たちませう
わしはとんでまいる
   からよいが
   ふたりの
   しうが
    ごたいぎ
     じや
     やけ【焼け】
      のゝぎゞすよるの【野の雉子、夜の】
      つるへつして【鶴、別して】
       子をおもふ
       ゆへいそぐ

【挿絵内右ページ・ぢぢいセリフ】
 ひとつ
  まいれ

【左ページ上・本文】
たんごひとつにて
おにがしままで
ともをしてかへりし
ゆへしたゝかきみ
だんこをこしらへ
ふるまいしゆへ
このうへもなき
ちそうなり

【挿絵内左ページ・ばばあ?セリフ】
  おまへ
  かたはさり
  とはいぬと
  さるにしては
  なかのよい事
  じやどうして
  きじさまとは
    おこゝろ
    やすいかわつた
     おつきせい【おつきやい?】
        じや

桃太郎申はけんふく【元服】して
よきおとことなり
おにがしまよりかずの
たからにうちでの
こづちでかねは
ぢよふなれば
江戸へ出て
あきないを 
はじめんと
おもひふた
おやをつれて
いでける

【挿絵内右下・ぢぢい?セリフ】
   よふ
   にやい
   ました
   ほんたと
   やらには
   よしやれよ

【挿絵内左中・男セリフ】
 ほれやれよい男に
 なられた

【挿絵内左下】
   ばゞあ
    よろこぶ

【挿絵内左下・男セリフ】
    ふたりのしう□
     もふらくじや


   おにが
    しま
    にて
  たからを
とられおうこん
きうになり【大困窮になり?】

みな〳〵
ざん
ねんに
おもひ
なにとぞ
とりかへさんと大ぜいよりあい
いろ〳〵とはかり事をめくらせ
どもしやんにおちずとう〳〵
むかしよりいろ事でなくては
とりいられづ
へいけの
ほろびし 
もとき
わが
いろかに
まよい
なるかみの

ぎやうほうの
  さまたげその
  ほかかずをしらず
  こいでなけれは
  はかり事なし
  おにがしまでは
  あかおにがむすめ
  としは二八のほつ
  とりものみな
  こゝろをかけぬ
 ものはなしこれをもゝ
 太郎がかたへいりこませて
 こいにてゆたんさせとり
 かへさんとはかるおにも
 十六とはこの事
    なるへし

【挿絵内右下・鬼セリフ】
  あれで
  いかぬ
  ことは
  あるまい
  したが
  おしい
  ものじや

【挿絵内右下】
おにむかしは
つのかくしとて
みなほうしを
かぶりしがいまは
ひんさしにて
おんなのつのは
   しれぬなり

【挿絵内左下・女セリフ】
  わたしらも
  につほんとやらへいつて
  見たいも□□□□【もゝ太郎と?】
  やらはよいわるしゆ【悪衆、もしくは若衆:わかしゆ?】
       じやけな

   

あかおにかむすめ
おきよをにつほんへ
たからをとりにやりし
つもりにそうだん
きわまりみな〳〵
なごりをおしみ
なきけるおにのめに
なみだとてつねのもの
よりかなしみけり
女ぼうはなみだいつてきこほ
さずきじやうなりおにの
女ほうにきじんどてこゝろの
つよきおんなをいふはこのたとへと              見へたり

【右ページ下・母親セリフ】
くよ〳〵と□□□
しやくおこらして
たもんな大ぜいの
ためくにのため
そなたのき□□□の【きりやうの=器量の?】
よくうまれたが
いんぐわじや

【左ページ上】
ふたおやのこゝろを
さつしかごのもの
まてかなしむは
きじんに    
おふどふ     
なしなり【鬼神に横道なしなり】

【左ページ下・駕籠かきセリフ】
ずいふんおまめで
ござんせひいらげで【ござんせ、柊で】
めでもつかぬやうに
してくださんせ

【軒先看板】男女 御奉公人口入所 しんしうや清六?

【右ページ本文】
おきよすがたをやつしやうすを
うかがふうちほうこうにいでんと
せわやきの所へたのみに来り
いなかからはじめてまいり
やしたといふてはたらき
ほうこうに
いづる
おにが
しまとは
いへとも
山にすむ
ゆへやま
だしなり

【右ページ挿絵内】
てもじやう
ぶそうな
女中だ
        おまんまをたくはす□□
        きがなかばしうははた
        らきはこざりやせ□
        せけんにいく
        らも
        ある
        とふりよつ
        ほとてまへ
        てはうつ
        くしい
        ものと
        おもは
        もおかし


【左ページ本文】
ゑんといふにもいろ〳〵ありおきよおもわすも
もゝ太郎か所へほうこうにすみいろにてとり
いらんといふかおにかしまのはかり事なりしか
もゝ太郎かおとこふりにはかり事よりま事に
ほれけるがもゝ太郎はうつくしき女ほう【女房】を
もちいるゆへおかしくおもひけるは【57行目へ】

【左ページ挿絵内】
         おむめも
         ことしはよい女を
         おきしゆへ
         いろ事の
         あんじは
         なしと
         おもひけるが
         ゆだんの
         ならぬ
         よのなか
         なり
すこし
なくさみ
こゝろにもて
なせはま事とおもふ


もゝ太郎申【?】がふたおや
ながらいまはなにくら
からぬしんたいにて
あんらくにくらし
したい〳〵にとしつもり【次第次第に歳積り】
むかしのごとくになり
ければ又ももゝを
ひろいたらわかく
ならんはひつじやう
なりもはやそれ【もはや以下爺婆の台詞か】
にはおよばぬ事なり
まつたいいち江戸
にはくさかりにゆく
山もなしせんたく
するくらして
なしよめのお梅
こふ〳〵にて
あんらくせかいに
くらしける
ゆへうらやまぬ
ものはなかり 
    けり

ぢゞいもばゞあもいなかそだ
ちゆへほかにたのしみも
なしにはをいちるをたの
しみにしてもゝ太郎がもゝより
おこりし事ゆへかやは町【茅場町?】かやけん 
ほり【薬研堀?】でかいしかこれはしれずもゝの
          木をかい
          是をてう
          あいする

   えゝ木ぶりが
   よくなり
     ます

  

おにかしまよりたん〳〵と
ひかづもかゝるゆへ
やふす【様子?】いかゞとうかかいに

    来りおきよを
    よひだしたからは
    とうたなぜ
    てのびにするか
    いへはおまへかたの
    てにさへおわぬ
もゝ太郎さんわたしがおなご
の身てどふそのやふになる
  ものかといへばさすが
  おにも見てとり
  さてはおのれは
        もゝ
        太郎
        めに
    くされついた
    なその
     くさつた
     こんじやう
        でわ
     こゝろもと
     ないしま
     にてみな
     〳〵そふ
     だんして
     もゝ
     太郎を
    とりころ
      さん
       と
    とめても
    とまらす
    ふりはなし
      ゆく

【右ページ中挿絵内・おきよセリフ】
あんまり
たんりよな
まあ
またんせ

【左ページ上・桃太郎セリフ】
さてはおにか
しまよりの
まわしもの
いまひとたひ
しまへわたり
かたつはし
からなて
きりにして
くれん

【左ページ下挿絵内】
よいのくちから
だいたんな

   おきよは
   たからをとり
   かへしにきたり
   しがもゝ太郎に
   ほれはかり事も
   むになりしゆへおにが
   しまにてはもゝ太郎を
   とりころさんといふそれも
   かなしともゝ太郎は
   又おにがしまへゆかんと
   いふさとおやのなんぎ
   もかなしとよしない
   ことをおもひそめ
こひのかなふたではなけれども
おむめさまへいゝわけなしわれと
わがてにかくこしてなにとぞ
おやのいのちをおたすけと
かきをきしてじがいしてしに
けりみな〳〵ふひんにおもわぬ
ものはなしかほはおにでもしをら
しきものいまどきかほはうつく
しくてもこゝろはおにのある
なかにしをらしき事なり
       桃太郎ふびんに
        おもふ

【右ページ中段・おきよセリフ】
おきゝとゞけあり
かたやもはや心に
のこることなし
なむあみ
 だぶつ
   〳〵

【右ページ下・男セリフ】
やれ〳〵きとくなものじや
とふそ【どうぞ?】まよわぬよふに
しやうぶつをさせたいまよ
         われ
         ては
         きが
         ない

【右ページ下・書置】
なに〳〵かきをきの事
わたくし事申あくるも
はづかしながらおにの
むすめにてござ候へ
どもなにとそたからを
とりかへしまいりしやふに
申こし候へ共たんな様を
見そめまいらせ候お□□
さまへは申わけござなく
なにとぞおやどもの命
おたすけ下され候やふ
ねがいまいらせ申上たき
     事山〳〵
     候へ共心
     せくまゝ
      かきの
       こ
       し
      まいらせ候
      めで
      たく
      かしく

【左ページ挿絵内】
お梅も
このていを
見てしを
らしいおやに
   かふ
   〳〵な
   しなずと
   しやうも
   あろふのに
    〽さて〳〵
     おにのてには
     よいてじやと
     かんしんする


【挿絵内・お梅セリフ】
まだかぎが
 ござりやす

【右ページ本文】
あかおにむすめをおどしてかへりしが
もしやおんなの事こゝろもとなく
おれがおにぶてどふいふきに
なるまいものではないと
やふす見にたちかへりける
日本のはりこみの事を
あつちではおにぶといふなり
おきよがしに候とかないのそうどう
さすが子ゆへのやみうちあかしけれは
もゝ太郎もふびんにおもひおやの
いのちをたすけしにむすめがほだい【菩提】
     とむらわんと
     ほつしんするこそ
     しゆしやうなり
     いまにおふつの【今に大津の】
     ゑにのこり【絵に残り】
     おにの
     ねんぶつ
     申ゑわ
     此あかおにの
     いんゑんなり

     かないのもの
     みな〳〵
     のぞき
       見る

【ページ下本文】
    もゝ太郎も
   うちでのこづ
   ちはいりやう
  なるゆへかくれ
  がさかくれみの
  をばやらんといへば
 身をしのぶに
 こそほしけれと
くにへかへるにそれには
およばずとり
そろへてたからに
なされとおいて
   ゆきける

かゝあがもふ
かへるか〳〵と
むすめが
ものをせん
たくしてまつていま
しやうといゝしより
おにのるすにせん
  たくとはこの
     事
     なり


もゝ太郎はふうふなかよくみばゑ【実生?】のもゝ太郎を
もふけだいじやうぶのいたつらものまくわうりが
すきにてまいにちくいお梅はおきよがしに
しよりなににてもはつうをそなへしが
うりひときれはつうをとればおにかと
こがいゝし【子が言いし】よりうりにかぎりておにといゝつたへ
しなりもゝがながれてきてわかくなりたん
じやうせしがさんのふのさる【山王権現の神使の猿?】がながせしか
又はとふぼうさく【東方朔?】のもゝかぼんぶ【凡夫?】なれは
それはしれずせいおうぼう【西王母?】でもおとしたか
          して今
          にわかく
          ふうきに
          くらしいける
             なり

【挿絵内・掛軸】
山王大権現

【挿絵内・子供セリフ】
ばんに
おぢいさんや
おばあさんや
 おとつさんの
 はなしを
  しなよ
   かゝさん

【挿絵内左下】
通笑作
 清長画

【墨で、持ち主の名前か】
亀太【?】郎

大通其面影

           常 盤 松 著
大 通 其 面 影          全

むかし〳〵
さいこく

百しやうに
山もと
かん助と
いふものあり
ねんぐに
つまり
せん
かた
なく
むすめ
おかつを
七十両

江戸の
よしはらへ
うりにける

むすめや
どうも
□□かたが
ない

【この先大きな破れあり】
つと□……
ぼう□……
か□……
いつて□……
くれ□……

【右丁】


より
ぜげんに
そうだんして
うりけるゆへ
かごにてむかい
にきたりむすめ
おかつを
つれて
ゆく

【左丁】
かご
のもの
むかへに
きたり
おかつをのせて
つれゆく

【画像】
むすめ
さらば
じや
ぞや
ずいぶんまめでつとめてくりやれ
おふたり
ながら
おまめで
おいでなされ
ませよ

アヽたし
なみの【窘みの】
ふり
そで
だの

【右丁】
それゟおかつは
よしはらへうられ
しやうとくう
つくしきうまれ
にてじきに
ちう三に
なり
□□はな
をかつ山
とあら
ためてくる
わ内
一の
【左丁】
きゃくとり也
此かつ山かみ
をよくゆいて
人のふうとはちがい
めづらしきかみを
ゆひしに人今かつ
山といふかみ
この
ときからぞ【?】
はじまりける

又そのころのつう人にならのくに
うまれに茂平といふものあり
今はよしはらの大つうにてなら茂
ともてはし【はやし?】ける此なら茂かつ山が
すがたにほれいろ
〳〵
こんたん
しける
又同じつう人に
きのくにの人に
文平といふものあり
これもき文〳〵といふ

たいこ
もち
きやうおう
といふいしや
ありなら茂
にかつ山を
あわせんと
くふうする

【この先破れあり】
き文も
□□山に【かつ山に】
ほれ
うけ【?】
□□ん
□□
し□□ん
□□

【右丁下、遊女の台詞。かすれている】




さんはまだ
みへなんせん
かへ

【右丁】
こゝに
あづまの
もりのへんに
伊左衛門といふ
くちきゝあり
きぶん此
伊左衛門をたのみ
かつ山をうけ
たさんと
たのみに
きたる
この伊左衛門がことを
あづまのもりのひかし
といふく
をとり
とう伊〳〵
とよぶ
【右丁下段。破れあり】
□□□かつ山はなら茂□□□
さけだ□□□
いふがあれ□□
といふまぶが
あるか□□□□
おれが□□も
いかぬて

とう伊さんとうぞ
たのむから今から
くるわへいつてそう
だんしてみてくんなさい

【左丁】
奈良茂此ことを
立ぎゝにせ
かね金をまき
介六【助六?】を一ばんかぶ
らせてやろふ
うまい〳〵
介六さん
ならも【なら茂】とやらと
きぶんと
やらが身
うけ
しやうといふが
おまへかねの
さいくはでき
できまい
とうそとうぞ
して三百両手に
入ねばならぬはいな
こよひわたしが一ねんにて
むけんのかねになぞらへてうずばち【手水鉢(ちょうずばち)】をついて
みやせう【この先かすれ多し】
かならす
まつてご
ざんせ
よのあけ【?】
ぬうち【?】
つい□
うやせふ
【左丁 中央】
かつ山がざしきはすけ六とちん〳〵かも
のいりとりなり
いまときのむけんは
かねのてるあんじ
はないぞへ
そんならまつて
いるからついて
みやれ



それよりかつ山おきて
らうかへゆき
てうずばちをやみくもにうてば
ふしぎや
にかい
より
かねばか〳〵

ふりくだる
こゝちよくこそ
みへにける

たとへひるに
せめられても
だんない
〳〵
だいじない

かつ山が
むけん
のかね
にて
つきし

ひろい
あつめ
三百

こし
らへていしゆ
にわたし
かつ山を
うけだ
さんと
かねを
わたし
ける

介六さんあすの
ばんにむかいを
よこしなさい

てい
しゆ
かつ山を
うちへ
つれて
ゆきて
うちの女ほう
だぞよ

そのかね
にせがね
にてちや屋の
ていしゆ
まちぶせして
介六を□□□【さん〳〵?】
ふち
ちやう
ちやく
する

これ
介六これから
くるはへ
きて
みろ
いのちは
ないぞ

どろ
ぼう


此にせがね
つかいめ
ぶち
ころして
くりやうか

まつたく
にせ
がねを
つかつた
おぼへは
ないぞ
そゝう
しやる


それより
なら茂
介六の
こぬ事

しり
かつ山をうけださんと
ていしゆにだんかうする
東伊このことをきゝ
ならも【なら茂】にうけたされては
き文にたのまれしゆへ
たゝぬと東伊
しあん
しける

なんでも
ていしゆ
かつ山を
身うけ
するぞや

ハイ〳〵
かつ山にも
はなし
まして
御そう
だん
申ま□□【せふ?】



東伊きやうおうがかたへ
きたりなら茂かつ山を
うけださんといふ
さすればきぶんに
たのまれし
かほがたゝぬま□【た?】
きぶんにうけだ□【さ?】
せてはなら茂
きこうもた□□い
これはりやう□□【にん?】の
かほの
たゝぬ
ことじや
なんとよい
しあんは
あるまいか
京おう
せんせいどう
だの
そのころとういが
うちのゐ候をとういがて下
ゆへとういもの〳〵といひしを
いまはととりものといふ
この時よりぞはしまりける

【右ページ下、三行ほど一部に破れ。勝山を手にかける話をしている】
なるほどそふいふ□□……
いつそかつ山を□□……
しまふでは□□……
ぬか

そんなら京おう
せんせいばんじ
あとはおれか
のみこみだ
たのみ
ます
ぞへ

【左ページ上】
すぐに京おうは
くるはへゆき
かつ山をよび出し
さあらぬかほにて
たばかりうらへつれ行
かなしやかつ山は
此よの
なごり
なり

【勝山の台詞】
□□うらまいで
おく
べきか
京おうさんなに
ゆへわしを
ころすのだ

【京扇(きやうおう)の台詞】
きつい
きぬ川の
たに蔵と
いふみだ
【絹川谷蔵は芝居の登場人物】

ころさにや
ならぬぎりに
せめられいのちをもらつた
なむあみだぶつ
〳〵
〳〵

それより京おうはかつ山をてにかけ
あたまをそり

日本
くわいこくに【回国に】
出けり

もふ日が
くれるそう

やどをはやく
かりたい
ものだ

そのゝちならも【奈良茂】
きぶんとう伊ひを
むつまじくなしかつ山が
しを
とけしも
みなわれ〳〵
よりおこりし
ことこれから
女郎をやめて
中の町から
ずいのみの
ずいかへり中やら【?】

東伊せん
せいは
きついはくゑん【白猿または柏莚】とつし【訥子?】びいき
だのゑび蔵【蝦蔵または海老蔵】しばらくのせりふに
とうい
なんばん
といふ
はこれなり
【「とういなんばん」は『暫』という歌舞伎の台詞。市川団十郎で有名。】
【「柏莚」「海老蔵」ならば四代目市川団十郎のこと。】
【「白猿」「蝦蔵」は五代目市川団十郎のこと(四代目の息子)。この本の時代に活躍していたのは五代目だろうか。】
【「とつし」は訥子で澤村訥子(役者)の事かもしれない。】
【 草双紙『間似合嘘言曽我』で「栢莚納子」と並び称されているのでゑび蔵(はくえん)は四代目のほうかもしれない。】
【まとめると、「はくえん」「とつし」「えび蔵」は歌舞伎役者の名前。】

なるほどしばゐ
つらにも
なろふ
わへ

それが
ほんの
つらの
あそび

ちつと
さかい
丁へ

かふ
じや
ござ
らぬ

【さかい丁(堺町)は江戸の地名でこの本が書かれた安永年間には中村座(劇場)があった】

それより京おうは日もくれければ
やどをかりんと百せうやへ
たのみければふうふ
よろこびぶつじ
のあるゆへ
きやうおう
たづねければ
だん〳〵もの
がたりをはじめけり

それよりぶつ
だんに
むかい
かいみやうを
みるに山もと氏おかつと【「と」は衍字?】
とあり京おう大きにおどろき
さめらぬていにてよのあくるをまち
そう〳〵江戸へかへりいんぐわはめぐる
くるまのわなりあらおそろしやと
いよ〳〵
ぶつくわを【仏果を】
なしけり

京扇おもふよう
はきよねん
かつ山を
てにかけしも
月日もけふ
にあたりける
はてふしぎ
なことだ

【左ページ左上、かすれている】
ふうふはそれと
しらず六ぶを
とめいろ〳〵
ちそうし

かうを
たのむ

京扇(  おう)は
江戸へ
かへり
みな〳〵【汚れあり】
にかくの【汚れあり】
はなしを
しかつ山
がぼたい【ここよりかすれ】
のため
□めぐり【三めぐり?】
□せん【へせき?】
ひ□【ひを?】
たて
これ
よりそう【かすれここまで】
せう【僧正?】になり
すみだ川の
へんへいほり
をむすび
通楽庵(つうらくあん)【次コマに「つうらくあん京おう」とある】【ふりがなは「つうとくあん」】
京扇といふ
やどふだを
いだし
あんらくに
くらし
けり

三めぐりへせきひを
たてませうとぞんずる

なるほどぼだいの
ためせきひも
よい
おもひ
つきでござる

【右ページ下】
京おう江戸へかへり
なら茂
きぶん
東伊
より合かくの
ものがたりして
いよ〳〵
大つうの
さとりを
ひらき
けり

はて
おそ
ろしい
いん
ゑん

ござる

清長画

三めぐりの
しやないへ
せき

こんりうし
なをも
大つうの
ゆさん
じよに【遊山所に?】
もてはやし
つうらくあん京おうと
なのりしばのおりとの
はるのゆめさめて
おりしきむだがきを
わらんべのもてあそひに
なさんとふつうの
ゆめは
さめにけり

常盤松戯作

【石碑の文字】
其角【左の俳句の作者、きかく】
夕立や
田を
三めくりの
神ならば

珍説女天狗

208
639


珍説女天狗   完

安永九年
  水
208
◯【印、「特別」】
639



珎説女天狗 《割書:通笑作|清長画》 全二冊

こゝにたいこもちの伝介といふ
ものありいつたいしやうばいとはいゝ
ながらきがるにてくちやいよくいつれの
ざしきにてもいちざのきやうにいり
はなをたか〳〵とざしきをつとめ
此男のくせとしてあつかんをすき
大酒するとめがすわりかふまんの
きさしありていかなるごてれつの
しよろまやぼてんわがみちへ
いふいんせずといふ事なし
あるときこゝろよきほど
よいてちや屋のやねへいでゝ
すゞみいれはそよ〳〵とふきくる
かぜさもなまぐさく
小田原町か
しんばの
にをいと
まではじめの
うちはおほへしが
それよりさきは
なにとなくうつら〳〵と
そらをながめいる

いつてんちりもなくはれわたり
みづあさきにはすこしこくまるに
ごく上〻吉のそらいろすみながしの
よふなるくもいづるとそのまゝ伝介をひつつかみ
くもいはるかにのぼりこれわとおもひ
かほを見れははなたかくときんかぶり
たちつけをはいているを見てさすがは
つかにてなむさんぼうとはおもへともかのじやと
おもひみいごきもせずはつたびなれとふなちん
かごちんのせわもなくさかてもいわれづ
二十里ばかりつれゆきしばらくこずへのうへに
やすみこのとき伝介すぎのきにてしりをいため
さすがはものになれたる男りやうてをつきまだわた
くしはごあいさつも申ませぬわたくし事はこのとうふりに
ひまんいたし
さぞおてが
おくたびれ
あそばし
ましやうと
いへば
いや〳〵
なんの
これしき
そのほうは
まだよふ
すをしるまひ
このほうの
おやだまの
きよいじやに
よつてつれゆく
うぬしも
こういふふとつ
ちやうでは
たびもした
事もあるまひ
はこね八りも
むまもいらず
大井川のかわとめの
きづかいもなし
ずいぶんとこゝろ
まかせにけんぶつしやれと
見せながらゆき
きいたばかりではおそ
ろしきものなれど
すこしてもつきやつて
見ればなか〳〵やさしく
あじなものなり
【中央下の書き込み】
しづかに
見たら
おかしい事も
ござりやしやう

ほとなく伝介は
しん〳〵たる
すぎばかりある
山のなかへつれきたれけれはそふたい
しやふとおほしきはくはつたる
あからがほしやうぎにかゝり
いたまへはどふか見たよふなと
おもひやう〳〵と
おもひだしかしわか
さまのおししやう
さまであろふとのみ
こみへいふくする
「おふごよりまんしんなる
ものをあふらげのことく
さらひまどふにいれ
大てんぐ小てんぐあつまや
てんくすまんきのそのしたに
つけ□れとも日本しやうこくと
いへともなか〳〵しんこく
にてたやすくはいかづ
そのなかにもこふまんにて
なんてももの事をけなし
からみそをふちあけ
うぬばかりりかうのやふに
くちをきゝせけんに人のなき
やふにおもひかみなり
てんぐとさまつけをせづ
そのとがめによつて
おふくはまどふへ
ひきいれら
れけるなり

【画の下の書き込み】
いづれも
がまんの
やから
御ぜん
  へ
いつる

まつたくはなのさきの
こうまんよの人のがいに
なる事はいたしませぬ

はなのさきとは
みゝにかゝる
はなのさきちへ
などゝはこのほうでは
さしやい
  じやぞ

てんぐといふものはしちうとの
りやうけんとはきついちかいな
ものなんでもさらつていきそう
なものなれともそのよふな
事はけつしてなし
つまゝれたこうまん
でやいそれ〳〵にあきん
どゝなしころもやたち
つけやはうちわうり
ぼうやありいつかどの
まちやにていりやうな
ものはかいあけ人を
たをす事はなく
これではこうまんも
いゝそうなものなり

【図の下の書き入れ】
さらさうちわや
しぶうちわほぐはりの【反故貼りの】
うちわも
なし

はうちわ
ひと
とをり
こふかな
ものなり

じやうぶなをくりやれ
かゞおゝくてうちわがたまらぬ

ぢまんではござり
ませぬがせけんのと
おくらべなされて

ごろうじ
ませ

とうせいのきては
ないがもへぎの
ころもをたのむ
そんなに
しがまいとて
みそをあげ
やる

こゝへきても
くせが
やまぬ


【看板の文字】
御袈裟衣
  しな〳〵

【暖簾の文字】

ころも

伝介はこうまん中間のうちにも
こりこうにたちまわりてんぐの
ほうよりこがしらにいゝつけられ
たちつけをはいりやうして
したはのものを
とりあつかう
そうたいこがしらの
たちつけはくはこのよな
りくつなるべしすべて
このはてんぐにいたるまてはなは
もちまいにてたかしばつかに
つきしものこゝろはまんしん
にてもなみより
はなのひくいもあり
こゝらのところを
伝介がくふうにてみなのものにひと
つづゝわたしおきしはそまなとが
みつけしときのためなり
そまはさんちうにてたち
つけをはいていればろくぶ
などはてんぐかとおもふ
事もあり小てんぐの
めんはてきやいに
なきゆへいづれも
大てんぐのすかたと
なりけり

【絵の下の方の書き入れ】
わしがなりを
子共が見た
ならまもりを
くださいと
いふてあろう

でんくは
あつかんにて
のみ
ひとりも
げこは
なきゆへ
みなかほは
あかし
小てんぐは
あをし
あをい

さけ

つよ

伝介はまとふをいつはいにしこなしのこらずこゝろやすくなり
大天狗小てんぐといふ事かがてんゆかづ
小てんぐといふに大てんぐより男のおふき
ながありおふきいちいさいて大小の事も
わからずといふりくつといつぱい
のみしらへたつねけれは三十日の
うち一日もやすみなしつとめる
ゆへ大てんぐといふ小てんぐは
ひと月に一日やすみあるゆへ
小てんぐといふそのかわり
大てんぐのこづかいは一日
五十づゝ小てんぐは廿四文づゝ
それゆへまどうのなぐ
さみのはで五十を大といふ
廿四文を小といふ大小の
わけはこのとふりなりと
はなす

伝介さいはしけものにて
こせ〳〵とめくしり
たてかよふにふくそう
なしにおつきやい
もふすにどういたした
事でおかみさまにはおちかづきに
なされませぬと
ねじりかけれは
うぬしも
とんだ事をいふ
ものだてんぐにおんなが
あるものたとてつもないと
あいさつすればなるほどついに
見たものもきいた事も
ござりませぬがこうまふ
せばいかゞなれとおこさま
かたの事をてんぐのすだちと
もふしますおんなはなくて
子のてきよふはづもなし
小てんくさまをおんなかと
おもへはさうでもなしなんぼ
ない〳〵とおつしやつても今
どきのてんぐさまにゆだんは
ならぬとりくつにつめる

【絵の下の書き込み】
のむ
より

かに
たの
しみ

ござ
らぬ

うぬし
もつうのよふでも
ないによにんとふといふを
しらぬが
それから
うへは

女は
ならぬ

てんぐにはおんなは
ないといふりくつを
きゝわたくしともゝ
かふまんだとあつて
おなかまになされましたが
女にこうまんのある事おびたゝ
しき事みのかしになされておゝき
なさるはすこしあやしいとしや
くりかけられ女のひいきといわれて
もちまいのかほゝあかくして
そうゆう事ではない
そんならうぬしとつれたつて
見にでよふとたかい所より
ちや見せにいる女を見せまづ
むすめからころふじませふじ
いろのむくにしろむくばかり
三つきてあかいものはくちへに
ばかりびやうきのすけつねの
たいめんといふみなんとこう
まんなものでござりやしようたばこにとくと
おきをつけられませうさいしよはなよりけむがいで
まするのちはくちより
わをふきますと口上に
したがへば天印もあきれる

【絵の下の書き込み】
ふきや
町の
とふ
どり

いふぢい
さんだ

どふ
しや□
□□の

はゝアきれい〳〵

伝介かいふ所もいちり有
やまいのうちのよいやまいと
いふはもつたがやまひといふ
やまひ「さむくともよを
はる人のころもかへとはよい
句なりすこしさむいと
せけんにかまわずむしやうに
かさねぎあついも又人にすぐれ
三月のはじめからつゞらかさ
ともの女がおそなへのてきたてのようにあをぎ
ながらあるくむかふからはでかわりほうこう人
きよねんのめ見へはもん所
のひかるぬのこあくるとしは
もみうらの小そでか
できまだおびはねつ
からふめぬうちから
おふはゞのそでづきん
したがこのくらいをこう
まんといわばこうまんで
めがあぶなしちかごろはとこのはゝ
おやもむすめの事をわらしよりせいかたかふ
ござりやすといふなるほとこれはちがいはなし
たん〳〵そのむすめか子もちになればしまいには
てんぢくへもてかとゞくそのとき
おまへがたもはなをつまゝ
れぬよふになされとてん
ぐさままでこわからせ
おへねえ伝介くちわる
ものなり

【絵の下の書き入れ】
ごしんぞさん
さんによく
にました

おやけしからぬ
はしよりようだ

あねさんはり
かへしものを


さる

てんぐは女のこうまんなる
事はゆめにもしらぬものを
伝介がくちをたゝきしゆへしよ
〳〵を見てあるき人のめには
見へねどもひきまどからのぞくやら
まとから見るかゆだんはならずはなを
つけなからごのぢよごんこれはさしづめ
大てんぐのおくさま
はをりきたやほう
のいのうちのかわづ【野望の井の内の蛙】
せけんの事はしら
づわれより
きつしやうのよい
はつめいな
ものはないと
おもひなに
事にもさしつ
してしんだいはわれでもつているきは
あふきなりやうけんちがいあたじけ
なすびのしぎやきと人にいわれ
なれどもぢんく【てんぐ?】のほうへは
むきなしろもの
くしかうがいでも
はやりの
いろ人が
さきへ
したが事は
てまいのおもひつき
といふかほにてこう
まんがはなのさきに
見へこれをはなのさきと
いふ事しぜんと天狗
よりはじまりし
事なり

【絵の中の書き込み】
はゝ


さてと
とき
 に

まだからいの

「このぢうのびんさしを
たのむによ
さきばかりふが【ふ=斑、鼈甲の黒い部分か】
あれはよい

八百まん
ねんも
さきより
てんぐに女はなき
ものを伝介がくちゆへいよ〳〵
女のてんぐをこしらへる
つもりになりくらまの
ずつとおくへ
よりやいを
つけおふみね
のぜんきが【大峰の前鬼が】
いつとうかづらき
たかまひらよかわたかをゝ
はじめそうだんをきわめ
まんしんなるものはわが
みちへいれんときわま
わりさらうつもりに
なれども女をさら
うといふてはいかに
してもせけんの
きこへが
わるいとうか
よくしんでかねに
でもするとおもわれ
てはなにともきのどく
こうまんたから
さらうと
おもへは
よいがどうふも
人のくちにはとがたて
られぬとなか〳〵天狗も
うちきなものにてこんどのやくハ
伝介がよかろうとじよさいの
ないところをみこみいゝつけける
そのほかまんしんなるいきな
おとこおびたゝしくきていれ
どももし女をさらいそのばより
かけおちせまいものでもなしと
こみづな
ところへ
きをつけなにからなにまて
ぬけめもなくてんくのよふた
とはよくたとへたもの
なり

【絵の下の書き入れ】
このたびの
ほうびに
はうちわを
くださる
たいぎとハゆふ
ものゝよさ
そうな
やくしや

せけんのこうまんなる
ものへのきこへがいふん
かた〴〵ありがたふ
そんじます

伝介はうぬかくちゆへたいやくを
いゝつかりあながちにつひでも
なけれともてまへのこゝろ
やすき女をたゆふさじきへ
やるききでつれに来り
大ぜいにつかまり
いろ〳〵とせめられ
おまへがたを天狗に
するつもりでき
やしたといへば
伝介がまどうへ
いりたる事をしりて
かへさずわたくしさへかへら
ねばこのそうだんも
やめになり女の天狗は
てきづとのようにでも
こうまんになさりやせ
わたしがうけやいます天狗
たちもこゝろやすくいたしたが
女といふはひとりもなし
こわひ事もなんにもない
女は天狗になるきづかいなしじやに
なる事はうけやいませぬと伝介がはなしありのまゝにて
御めにかけまいらせ□□□

【右下】
通笑作
  清長
   画

208
639

道笑双六

天明六

【整理ラベル】 208 特別 455

道笑双六 芝甘交作   全三冊
     鳥居清長画


恋女房染分手綱のしやう
るり【浄瑠璃】に道中すご六をもつて
びせうじん【?】の心をす百り【数百里?】に
うごかせしもむへなるかな
こゝにそのひめきみより
百代の口【?】が十六代ほどぬけに
あたり馬のぜうとの【馬之丞殿】と
申けるは大そうくどん【愚鈍?】の
御身にしてぶんぶ【文武?】とは
ふんぶくちやかま【文福茶釜】の
事にきわめりやう
とう【両刀?】とはへひのあたまの
二ツ有事にして
まことにげいとう□
やみにてつほうを【むやみに鉄砲を?】
はなしたるごとくにて
おはしけるがかあゆひ
子にはたびをさせろの【可愛い子には旅をさせよ】
きんげん大とのゝ【大殿の】思し
めしにてたひをさせ
よとのことなれど
せんれいにまかせ又
たびはいや〳〵と御ぜう有【御定有=仰せあり?】
かろう六十□々太夫
はじめむかしの
とうりすこ六を
もつておすゝめ
中か□□ひと
いつれも
りかう
そう
なかをつぎ【利口そうな顔付き?】
にてたい
 しゆつ【退出?】
   する

【挿絵内右】
きんはん
かわり
ました
 道中
  すこ六

【挿絵内左・若殿?セリフ】
ちとこふうだが
とうちう【道中?】は
   いや〳〵

【挿絵内下】
これさ
御せん□□ 【御前じゃ?】
むだ□
 いひ
まけ
 まひぞ


こらいのとをり【古来の通り】馬かたじねんじよ
の三吉【自然薯の三吉=恋女房染分手綱の登場人物】がすこ六をもつて御しゆつ
たつ【御出立】の御かれい【御嘉例?】なり迚【とて】江戸中
馬の出口〳〵へ人を□【呼?つか?】わし
三吉といへる道中すご六を
もちたる馬こ【馬子】を御せんぎ
あれどもはこね【箱根】から
こつちにそんな
やぼなまごと
はけもの【化け物】は
ないはづの
所を百日
ばかりも
たつねけるが
どうして
あろふはづは
なかりける

〽されとも四ツや
しんしゆくしやれ
人のまのじの□と
口ずさみける□いち
しるしまことに
あつまずい一の【吾妻随一の】
馬のめいしよに
して三吉には
あらねどそ□【れ?】に
にた八わうし【八王子?】
三太郎といへる

まごにたつね
あたりしぞ

ふしきてもなん
てもなしいかほと
たつねてもちう
もんのとをりの
まこにあはねはせん
かたなく三吉と
三太郎くらゐの
まちかいはよかろふと
つもつてみても
三吉は十二三三太郎は
三十斗これもさかさまに
よめは十三とこぢ付ても
まだすこ六かなし
いかゞせんととほうふに
くれしか三人よれば
もんじゆのちゑ
こゝんとつほの
ちゑをふるひ出し
すこ六はほんやで
かふがよいとは
まことにこう
めい【諸葛孔明?】くすのき【楠木正成?】も
およはぬ所
なれは
こゝに
しるす

【挿絵内右ページ中】
じせつから【時節柄】で
ござれば
しねんじよも
長いもの
三太郎と
いたし
ませふ
時に御ぜんへは
こゑたこ【?】は
いかゞで
ござる

【挿絵内右ページ下】
そこがくさいも
ひくひも
こいの道で
  ござる

いかに馬かたなんじか
けめうはしねんじよ
の三吉とはいわさるや
まつたくとうちう
すころくはしよぢ
 なきざるや

〽あんだおゑどの
とうしんたそふだ
じねんじやうは
 ねへかやがて
ごぼ〳〵いも〳〵は
うりますよ

【挿絵内左ページ】
馬はこの人々の
ちゑにあきれ
けるかものが
いわれぬゆへ
たまつて
行こそ
しんへう
   なれ


【右ページ本文】
三太郎
はうま
すきた
口ゆへ
まゆげへ
つはを
つけ〳〵
きてみれは
うそもなし
せんれいのとをり
おちの人いまの
しけの井【重の井】たかつきに
くわし【菓子】を入うや〳〵
しくもちきたり
した□□ひやうな
あいさつする三太郎も
うれしひかあは□□
い□に付た□らひを
する
御たち合の
かた
御との□
なら
も一ツ
まけて
あはみ

三太郎も
しけの井も
このたびは
としが
合はぬゆへ
おやこの
なのりは
御□やん
やくのつもり

【右ページ下・三太郎セリフ】
おせわやきのれい金を
□ましてすころくは
金と引かへにつたしにせふ

せんれい
はま
もり
ふくろか
出ました
かわたくしは
きせる
ふたつか
やうし
さしが
たち

おくわし【御菓子】も
さつまいも
だるまとうが
たちて
よう
こさり
ます

【右ページ・しけの井セリフ】
すご六が
まん八たと
ぼうを引て
けつすによ

【左ページ本文】
かろう【家老】をはしめきんじゆ【近習】のめん〳〵
すご六をふり御目にかけければ
たびはおもしろひときうに
行くきになり
給ふぞとうりの
しゆかう【趣向?】也

上るり
〽とてもさいを
なけるなら
せめてはぜに
□本ことも
めん〳〵心に
おもへとも
あけて
いわれぬ
ものゝふの
心のうちを
とのさまも
あの双六は
どこやらが
引けんかしににた
ると手で御心
付は有かたれと
たがひにいわれぬ
心ねぞおもひ
やられて
あぢき
なき□
  きく     【ここから口三味線か】
   とく
    けん
     〳〵〳〵〳〵

【左ページ挿絵内セリフ】
おくてだれか
かたるそふだ
わかひてやいだぞ

イヨ
き□〳〵か
さるの
やにて
□□□
  〳〵



【見出し】 
日本橋 ふりいだし

【本文】
道中すこ六のよくきいたる□
引風にたはらやを用ひたる
ことくなるもどうり
ふり出しがにほんはし
とはきついものその
かわりこんなりかうな
とのさまにはめつたな
ものはみせられず
ばんじすご六の
とをりすんぶん
ちがはぬやうに
とのぎよいにて
にほんはしか
ふり出しだから
あれから
さいをなげ
なからゆかうと
くも
すけの
やふな
御じやう
ある

そのとき
とのさま
の給わく
とうさい〳〵
たかふは
ごされども
これより
ほうり
なげます□
ゑん〳〵けた
く【計度けたく・ふんべつすること】しなく
となへことを
して
さいをなけ
付給ふそ
ふしきなる
このとき
われを
わすれて
しやうぶと
こゑを
かけたる
もの
二三人
御め
とおり


くぢる

【挿絵内右ページ】
なんと
これは
よるめ
とのさまを
馬にのせたの
じやァ
ねへかの

【挿絵内左ページ】
おさき
まつくらで
ござひ

【見出し】
しな川

【本文】
とのは
にほんはし【日本橋】
にて一を
ふり給ひ
まづしな川【品川】へ
つくとも
まわりは
とつか【戸塚】
あたりまでは
日のある内に
らくに行
かれると
いふつもりを
それては
さいのめの
ほうにはつ
れると
しな川へ
むりに
つき
給ひしが
こゝにて
すこ六を
出し
よく〳〵
みれば
しな川と
いふ所に
とまりと
かいて
なければ
とまる事

けつして
ならすと
あくるあさ
まて
のこらす
たちすく
みにする
これを
そむけは
しうめい【主命?】
にそむき
さいのめに
そむき
二めいに
そむき
ますから
はて
みめいに
こんな
めに
あひ
ますると

ねほけた
りくつを
いふ

【右ページ挿絵内】
けさから
 たつて
  いんす
なんで
 ありん
   せふ
 

【見出し】
(泊)戸塚
【本文】
品川の立すくみにこりはて
そう〳〵さいをなけ給へは
五をふり給ふゆへ品川
川さき【川崎】かな川【神奈川】ほとかや【保土ヶ谷】
とつか【戸塚】とまりとこんとは
ほんのとまりへふり
あてすこ六を
みれはすへふろ【据え風呂?】に
人かはいつて
女かそはに
たつている絵
このとをりを
申つけいとの
事けらいの
うちで
ずいふん
なかゆ【長湯】の
すきな
のほせ
さふも
ない
やつを
けんぶん【検分】の
すむまて
ゆに入
女を
付て
おく
【挿絵内右・女セリフ】
いつまで
かうして
おります
【挿絵内左】
此女すこ
ろくの
 とおりの
につら【?】なりとて
御ゐに入り
とのさま
廿四文
はつみ
給ふ

きんたま
かふやけて
この所の
□いふつ
となるか
ざん
ねんや
なア


【見出し】
大いそ
【本文】
とつかにて三をふり
けるゆへふちさは【藤沢】
大いそ【大磯】にあたり
すごろくはとらか
いし【大磯延台寺の虎御石?】をもつて
いるやつと
たはこ【煙草】を
のんてみて
いるやつ
またこの
とおりに
せいとの
いゝつけ
いしを
もつちう
げん【中間】三十人
みて
いるあし
かる【足軽】廿人
かわり
はんに
つとめる
やくにん
けん
ふん【検分】に
きて
むた
はかり
いふ
【挿絵内中・殿セリフ】
とうか
きせるの
あけ
やふが
まだ
ひくい
やふだ
【挿絵内左・キセル男セリフ】
このくらいて
よふ
こさり
ませふか
【挿絵内下・右男セリフ】
との御らんの
すむまで
そうして
 いませふぞ
【挿絵内下・石持男セリフ】
しうめい【主命?】なれは
おやく人へ
しりをむけます
なんぞ
 出ましたら
   御めん


【見出し】
(泊)小田原
【本文】
大いそ【大磯】にて
また一を
ふりけるゆへ
ぢきに
おたはら【小田原】とまり
とはとんだはやい
とまりひる四ツ
じふんにのたり〳〵
つき給ふ
すこ六はうゐろう
やのみせにはんこうの
せいかわからぬ
かほのわかしゆ【顔の若衆?】
壱人ひんぼう
しみたかい人【貧乏じみた買い人?】
壱人
ひとつゝみ
下さいと
かいて有
此とをりを
おゝせ
付らるゝ
〽ういろうやの
内にわからぬかほ
のわかしゆ
なくてとの
さまは御□□
ずらなされ
けるかきう【火急?】に
きたない
わかしゆ
御せんぎ
あつて
たしておく

【挿絵内】
あの
かつて
いる
みが
きつく
出来た
ふち【扶持】を
二人□米
かぞう【加増】
させい

もつとこへを
はりあけて〳〵

一つゝみ
 下さひ
此くらいな
てうし【調子?】で
よふ
ごさり
ますか


【見出し】
はこね
【本文】

田はら【小田原】
にて
一のつら
をふり
給ひて
ちきに【じきに】
となり
のはこね【箱根】
これは
ねつから
らちのあかぬ
とけらいの
せくも御か
まひなく  【家来の急くもおかまいなく】
すころくを
ひらけはてかた【手形】
をわすれ江戸
まてかへると
あれはすくに
そのとをりの
ていをせいと
おゝせ付あしの
たつしやさふなものを
江戸へかへすぞ
 御むたなし

【挿絵内・屋形壁?】
い□いちとなんぞかつて
もらわふか
【挿絵内下】
しからは
江戸へかへり
二三へんくる〳〵
廻つて
 もとり
  ませふ


【見出し】
よしはら
【本文】
はこね【箱根】にて四をふりこんとは
はら【原】よしはら【吉原】なかしけ【時化?】にて
三日のとうりう双六はふし【富士】
をみているやつとかけて行
馬かたくもつてふしか
みへねははり
ぬき【張り抜き?・張り子の事】に□しらへ
さてまこと
中けん【中間?】を
出して
さしきを
かけさせる
【挿絵内】
ふしや伊左衛門【藤屋伊左衛門=歌舞伎「廓文章」の主人公】ては
ないかはりぬきの
ふしのゆき
おもしろやナア

ハイ〳〵〳〵

かみか
八そく とほか
れいわ たか十 〆
め入ま した  あ
まりむ たは  こ
さりま せぬ

おさしき
 しや
馬の
小へんに
きを
つけい


【見出し】
ふちう
【本文】
よし
はら【吉原】で
やう
〳〵
てん
きが
あがり




五を
ふつて
ふちう【府中】
すこ六
のゑは
あへ川
もちを
こしらへて
いるもの一人
くひ人壱人
これは道中
ちう□【ふ?に?】ない
せにやすに
あり□事
さきへ侍を
まわし
もちを
くわせて
  おく

【挿絵内・客セリフ】
ていしゆたいぎながらとのさまのごさるまで
そういふみでいておくりやれおれも
かうしてくつていねはならぬ

是には
たいぶ
わけの
ある事じや

【挿絵内・店主セリフ】
それはなに
とももち
につく事
もちあくむ
ぎで
ござり
 ます

【挿絵内・看板】
名物 あべ川もち


【見出し】
まりこ
【本文】
とのさまはとかくさいの
なげやうがおへたにて
ふちう【府中】とておし□を
ふり給ひちきに【じきに】
となりのまりこ【丸子】すこ
六はうつのや【宇津ノ谷】の十だんこ
うり人の女一人かいて一人
是は道中なたかいめいふつ【名高い名物】
すこしもちかはぬやうに【少しも違わぬ様に】
      との御ゐ【御意?】なり

【挿絵内】
うつのや 十たんご

〽女のみと申かい人の
  なりと申
是では
御ゐに
 入ませふ

かわんせしや 〳〵

〽□く【中〳〵?】むすめも
  双六じみた
 よびやう
  するもんだ

〽さやう〳〵おしつけ
 御出にまも
   あるまひ


【見出し】
しまだ
【本文】
とのさまはさいのなけやうが
おへたじや□【と?】こんどは
かろうがなげた所が
まりこ【丸子】から三をふつて
しまだ【島田】かなや【金谷】 
双六は大水にて
二日のとうりう
水も出もせぬに
二日のとうりう
かろうとのもちと
□□【は分?】ではあらぬ所を
ふられたり

〽つたへきく
しまだかなやの
はたごやの娘
なますもる迚
赤ひものかはと
古歌にもよんて
あれはと□かいはあかい
ものにも一トつゝもめ
やうとわかいものに一ト
はつまりと
りやうはう
ひとつにして
 御かんりやくの
  御ことばかでる

〽アヽおもしろひ
れんだいみもんの【輦台と前代未聞をかけている?】
はなしのたねた
 けらいどもこの
  ぢぐちは
    とふた
  なんと
   おもやる
  あたらしさふだ
   のとさかな
    をかふ
     やふな
     事を
      の
      給ふ

【挿絵内】
 おもしろくも
 なんとも
 こさり
ませぬから
おくかたあた
   らしい
   さふ
    な
   事て
   こざ
   り
   ます



鞠子

【見出し】
につさか
【本文】
しまだから
二をふつて
かなや【金谷】につ坂【日坂】
わらひもち【蕨餅】
のめいふつふりそでをきている女が
もちをこしらへているところ
もつともくい人も一人今とき

につ坂 でももめんふりそてを
きるやうなやほな娘は
一人も なし
また
是に
こまり
けるが

とふ
でも
むかし
ものは
こんな
事を
かたく
おぼへ
いると
六七十な
はヽアを
たのみ
ふりそで
をきせて
これて
まに
あわ
せる

【挿絵内・看板】
めいふつ わらび餅

【挿絵内・男客セリフ】


はちと
あたじけ
ないが
はらの
はあ
 さま
  しや

ふり袖の
かへだま
ばゞアの
 ふりそで
とのさまが
かつてん
なされは
  いゝか

【挿絵内・女セリフ】
いかに
わたしか
ばゞアしや
とてそんな

こじ付た
わるひぢ
口はおつ
しやらぬ
 ものて
こさり
  ます


【見出し】
あら井
【本文】
につ坂にて六を
ふりこい
つは一の
うらめ
なれば
けらい
のはり
がとん ぎ【だ?】つよ
くか け川【掛川】
ふくろ井【袋井】みつけ【見附】
はま松【浜松】まい坂【舞坂】
あら井【新居】まて
なでこんて一ツ
そくとひ【一足飛び】いま
までにないいゝ
めが出たといふ
所がまへをまく
つてあらた
めるはしよ
このやくに あ
たつたわか
しゆはびん
ほうくじ
しうめいなれ
はせひがないと
まつ引まくつ
てのヽしつたり
とのさまもこれ
には御きが 有と
みへてじしん
御あら
 ため
  なさる

【挿絵内中段】
扨〳〵
わかしゆの
ものには
見事〳〵
すへたのも
しひけらい
しやいぼはない
かあらためよ

あの
ものが
そつて
みせ
すす
だけ
みせ
やうか
こう
しや

こさり
 ます

【挿絵内下段】
しいはけさ
ほど
 いたしました


【見出し】
(泊)あかさか
【本文】
あらゐにて五を
ふりしらすか【白須賀】ふた
川【二川】よし田【吉田】こゆ【御油】あか
坂【赤坂】とまりんせ〳〵と
女のむりに引込所
とのさまにはつほと
いふばしよきもの
はやふりほうたい
ちからのつよひ
やつは百ましとの
御かちう
のこらずしばいの
いろ男の
ぶたれた
やうに
なつて
とまる
あか坂て
ばか
やろは
引っ
はりに
二百
やろと
五いん□う
つうの
ぜに

つかふ
【挿絵内】
てまへは
 ほんの
四十女の
きもの
やふりだ

とのさん
ならおも入
引はんな

申上
 ます
きもの
やふられ
ました
 もの
五百人
あしを
すりむき
あるひは
引かヽれ
ました
  もの
三百人
あとは
おひ〳〵
申上
 ませふ

【見出し】
くわな
【本文】
あか
坂にて六を
ふり藤川【藤川】おかざき【岡崎】
ちりふ【知立】なるみ【鳴海】宮【宮】くわな【桑名】
にあたりやきはま
くりのめいふつやき
人も一人くい人も一人
といふ所ほかのもの
はくゐたくてもけつ
してくう事ならす
くゐてのばんにあた
つたおり介がひとり
仕合にてはまくりの
くゐあきかちうのこらす
はまくりにかつへて
のどをぐび〳〵させ
みている事こそ
あわれなり
【挿絵内上段】
しるも
すはぬ
もあふ
さかの
せきと
くいたいか
して
せつない
ちぐちを
  いふ

〽なんと
内しやうて
一ツくわせる
きはないか

【挿絵内下段】
主人の
いゝ付け
しるでも
 なり
  ませぬ


【見出し】
石やくし
【本文】
くわな【桑名】から
二をふつて
四日市いし
やくし【石薬師】こんどは
ひきやく【飛脚】がはだ
かでかけて行
ばしよあしの
たつしやさうな
ものをひきやくに
してしゆくぢうを
ひはんにちほと
かけさせけるが
とのさまもあん
まりおもしろく
ないか大かいにして
たはこにしろと
さつとおしまひに
     なる
さて行く
あても
なくつて
かける
ひきやくも
へんなものた
是てもふ
行たりきたり
五十たびめだ
【挿絵内】
ハイ〳〵〳〵〳〵


【見出し】
かめ山
【本文】
こんどは二のつらが
出てせうの【庄野】かめ山【亀山】
こゝはかみかつは【紙合羽?】
をきてあめの
ふるばしよ
てんきはとんた
よけれども
おさための
とをりなれば
かつはをきねは
すまずいかに
くさそうしでも
もふこんな
事ばかりは
うつとしひ
所へかみ
かつはを
きたから
うつと
 しひが
二わり
 まし也
【挿絵内】
なんぼしうめいてもこの
てんきにかみかつははへんな
ものたアあぶらくさひ〳〵

【見出し】
大津
【本文】
こゝで六だと一とひに
みちがおふきく
きくとかちうも
六のはりが大き
かりしがよひ
つぼのまわり
あはせ六か出て
せき【関】坂の下【坂下】水口【水口】
いしへ【石部】くさつ【草津】
大つ【大津】とはり
あてこゝは双六も
くさつの□ちう
さんのやねの
うへによこに
大  つと札
は  かり



ある
 ところ
なんにも
する事
なし

とう中
ちうに
ないかすり
なところ
いまゝで
こんな所に
あたれは
このやうに
くろうはせぬ
とは御もつ
ともしごく
こゝで六の
うらめの
一と出れば
すぐに
京へ上ルと
一のかわか
つよく
しつたれ
ともとん
でもない
六ののびが
出て
五つあまり
みや【宮】へかへる
とは
おや〳〵
はから
 しい


【見出し】
みや
【本文】
五ツあまりてみや【宮】へかへり
七りのわたし一りもぬけては
すまぬととのさまも
じやうをはつてはみたれ
ともよつほどくたびれか
きたかしてあんまり
うれしさふもない
かほつきけらひも
あきれてものも
いわれずむごんの
やうにしてど
ちうする


【見出し】
くさつ
【本文】
ぼんくら□も
したかしてやう〳〵
もとの大つ【大津】へ
きてこんと
はとふぞ上リ
たいとしん
になつて
なけた所が
三をふつて
二つあま
れはくさつ【草津】へ
かへるなん
ぼとのさまの
思ひ付ても是
にはくつとあぐん 【?】
てしよてから
此とう中はよし
にすれはよかつたと
はしめてちつと
きがつく

【挿絵内中段】
なにわちう
さん【和中散】とはちう
さんのにつ
ほん一わたつ
たのてはないか
おれはそん
な所では
ない
はやく
京へ
行きたひ

【挿絵内下】
もし
わちう
さんは
とう
いたし
ませふ

それでも
さいを
なけねば
行かれ
ませぬ
まつ〳〵
□【お?】まち
なされい


【見出し】
いしべ
【本文】
くさつ【草津】へかへつてとのさま
もくつとまけはら【負け腹】を
立給ひこんどは
二さへふれは京へ
上るとせき
こんてなけた所か
いんくわと五か出て
三つあまりて
いしへ【石部】へかへり
とうも京へは
上られすとのは
はらはつかり
たつてむせう
に人をしかり
ちらしけらいも
とんたふしゆび
なれはふしゆひ
京へのほれと
御あしを
さすつて
 なだめ
  けり

【見出し】

【本文】
こうたび〳〵
かへつては
中々五十日や
百日では京へは
上られぬと
    今はかぢ
    きとう
(上り)  さま〳〵の
    事をして
    しん力
仏力のぎどく【?】か
いゝやつといしへ【石部】で
さんをふつてくさつ【草津】
大つ【大津】京へ上り
まことに
てんじやう【殿上?】した心もち
いゝやつとこのほんも
京てとめ申候
 京こうきんけん【恐惶謹言】と
 こしつけとめに
 いたしました

【挿絵内】
アヽ
おもしろ
かつたのふ
〽とのさま
 どう
 ちう
 中の
ためいき

いち
どきに
つき
 給ふ


【本文】
げにやろせいかゆめは 【邯鄲の夢の主人公が盧生】
五十年のゑいぐわを
一ツときにみしが
これは五十三次の
道中を二日のはつ
ゆめに一トはんにみしも
どうりたから舟と
とりちかへて
とう中すこ六を
まくらの下にした
からとはとうやら
うそのやうなれとも
ほんの事も
ほんのこときつと
したあを
ほんの事
すぐに馬の
ぜうとのゝ【馬之丞殿】
午にいとしの
はつゆめと
めてたく
   おかし也
〽ゆめも久しひものだ
よしにしろと
ぜんかうか申し
ましたけれども
それでも
とうもいたし
やうが
 こさり
  ませぬ

【挿絵内】
扨はゆめで
あつたかハァとは
ばか〳〵しく
    なし

〽いまおき
たてゆへ
馬之丞どの
たいこを
うつて
よろこばるゝ
しかし
これは
きものゝ
下で
みへず

【挿絵内左下】
清長画

芝全交門人
  甘交戯作

【背表紙・文字なし】

彩色美津朝

【図書ラベル 241.】
吉書はしめ
きそはしめ
弓はしめ
蔵ひらき
馬のりそめ
ゆとのはしめ
あきなひはしめ
彩色美津朝

【書き込み有り 横書き】
H.Vever No241 no1585 Haya
          I111□
         HV.□□119
7pages□□□□ □□□□   □□□□1787 Kiyonaga
saishiki mitsu asa=Les frois □□□□

【角印-林忠正印】
年立帰る旦より
いとけなき御かたの詠とも
なれかしと清長か画ける
初暦の下段に題したるものあり
数もをのつから七種を得たり
萬の寶此うちにありと永寿堂のぬし
さらに乞ふて桜木に移し猶春ふかき
梅か香に子の日の松に千代をまかせむと
画風流の始に百万歳の壽をまふす
     三州住 鶴太夫 酔序書き込む

【吉書はしめ】

【きそはしめ】

【弓はしめ】

【蔵ひらき】

【馬のりそめ】

【ゆとのはしめ】

      画工 鳥居清長 【角印-清長之印】
未青陽
      書肆 永壽堂板
           【角印-林忠正印】

千里走虎之子欲

千里を走る虎子ほしい 完

【検索用、国会図書館登録タイトル「千里走虎之子欲」】

天明三
【整理番号シールの下に】日【または月?】

千里を走虎子ほしい《割書:通笑作|長清画》全二冊

むかし〳〵の事なり江戸
日本ばしのへんに竹八といふもの
ありはゝ一人あれとしやうばい
にてくに〳〵へひきやく子【に?】
あるきさきから
さきのとせい
なれとも
はゝをあんしで
おり〳〵江戸へ
くだり
こんども
さいこくの
ほうへよふじありて
なかさきまでまわる
つもりさりなから女中の
ゑのしまくらいとも【?】
おもわずとなり【?】
あるきとはいふものゝ
かた道は
四百里
ほど上下では八百里
にて山ちにはぐるほとの【くちにはゞかるほどの?】
たびなれどまめの
くすりも
もたずいとまこいして
いてゆく

【挿絵内左】
ぢばんは
大坂てあら
つてもらい
ませう

和藤内はもろこしへ
わたり日本の
ものにて
おふはたらき
とふじんども
おふきにてこづり
とらを
はなしけれは
和藤内
しやあ〳〵まじ〳〵と
こわがりもせずあまつ
さいとらをはんふん

けをむしりおにの
ふんどしにもならぬ
よふにすればとうしん
てやいもあきれはて
のこらずかほみやわせて
はあ〳〵と和藤内か
まいへてをつけば
みな〳〵みかたに
なるかと
いへは
はあ〳〵
といふ
そんならやろうに
なれといふてもはあ〳〵
なにかいつかふわからず
いふなりしだいにはあ〳〵と
目出度なかさきのちに

つきけれはとうじんの
やろうははつものゆへ
おひたゝしき
けんぶつなり

【挿絵内左】
おとつさん
□□うりか【飴売りか?】

和藤内がともの
と□じん【とうじん?】しばらく
なかさきにとうりうの
うち竹八も長さきへ
つきとう人の内に
とらの子をいつぴき
つれて来りしものあり
竹八ハしやうはい【商売】
がらといゝほしがり【柄といい、欲しがり】
こか【古歌】にせんりはしる
やうなとらの子が
ほしいたより
きゝたや
きか
せたやと
いふうたのとふりひきやくの
事なれどよいしろもの
やふ〳〵てづるをもとめて
とう人にちかづきになり
弐貫くらいからねぎれとも
かふり〳〵をするゆべ【へ?】
おもひきつて三貫文
いだしけれはわとうない
三くわんにまける事は
たいぶこりているゆへ
又かぶり〳〵

【左ページ】
ぜひなく
その上を
弐百かい
ければ
□んてん〳〵を
するゆへ【?】
そうだん□
てき三貫弐百と
いふはどふか
やすそうな
ものなれど
とらの子
などは
いくらくらいと
いふねうちのしれぬ
ものなり見せものに
してたも
そのくらいてはと【?】
かげではおもへとも
ねこをきいろに
そめたよふて【染めたようで?】
ちつとうけとる
まいそだてゝ
ひきやくは
□ふんへつとおもふ

【右ページ下、かすれてほぼ読めず】
□□
かつ□
□には
□□□□
□□
は□□□に
する

【左ページ下、破れあり、ほぼ読めず】
ぬした【破れ】
あめ【破れ】
ゑ【破れ】

竹八はとらの
子をかいとつかは【?】
江戸へくだり
おふくろにも
よろこばせ
めづらしき
ものゆへ
おふや【大家】さま
はじめ
なかやの【長屋の】
しうにも【衆にも】
見せまつ【見せ、まづ】
はじめの
うちは
ねこの
やふにおもひ
かいでめしを【餌の意?】
くはせ
しぢうは
かねもふけの
たねなれば【金儲けの種なれば】
むしやうにだいしにして
そだて

わざに【諺に】

【左ページへ】
たいじに
するものを
とらの子の
よふにする【虎の子の様にする】と
いふこのとき
よりはじ
まりけり
ものには
いろ〳〵
くふうのあるもの
竹八かおもひつきにて
たけのこをくはせて【筍(たけのこ)】
見ればうまがりてくい
それよりめつき〳〵と
そだちければ
おふきによろこび
あさもばんも
たけのこからし
あいといふ所は
ぬいてはんげの【漢方の半夏?】
いるまで
くわせる

【右ページ挿絵せりふ】
あのかわを
きんちやくに
な【し?】たひもの
しや

【左ページ挿絵せりふ】
にやあ〳〵

とらと
いふ
もの
だよ

【右ページ】
とらもたん〳〵おゝきくなれば
竹八も□□□の□□にめくろさまへ
あるかせてゆけは日本ばしへ
ひるまへにかへり五りや
六りはおちやのこに
あるきそのゝち
六【?】つ□□つれて
ゆきあさめしも【行き、朝飯も】
すいふん
ゆるりとくい【ゆるりと食い】
かめいどから【亀戸から】
うちはしめ
したやの五ばんめまて【下谷の五番目まで】
よつまい【四つ前】にしまい
ひとゝき見んほとに【?】
六あみた【六阿弥陀】をうち
竹八もひきやくの
事なればふたり
まへはあるけども
うまれてはじめての
おふくたひれ
したやから
かこをかりとらをも
のせてかへり
きんじよの

【左ページ】
ものにも
はなしけれは
らいねんは
わしがみやうたいに
ねんまいに【?】
たのみたいと
わろふ


【右ページ下 右】
ひふゆしきが【?】
うしろへでやすよ

【右ページ下 中ほど】
もふつくころ【?】
だの

【右ページ】
いよいよ
とらもそだち
のそみの
とふり
ひきやくやを
はしめ
一日に十【千】里
いつて千里
かへるもつとも
からの一りは
六丁一り【六丁一里】
日本のわりにして
見れは千里か百六十四りと廿四丁
いきもどり
では三百廿九りと
十二丁 京大坂は
日かへりはらく
にて さぬきあたりが
ひとばんどまり
なにかさしおき
ぎんそうばこめ
そうばのたのみにて
しよにちのひから
いちをなす


【右ページ 中ほど下】
てまへには
□□【だら?】はごさり
ませぬ



【左ページ】
□□□【竹八が?】ねかいの
とふ□【通り?】しよ〳〵【諸所】
よりたのみは
山のごとく
□□【こゝ?】にひとつの
なんぎあり
とらかいつかふみちを【虎が一向道を】
しらすついてゆく【知らず、ついて行く】
あしがあれはとらは
いらすこれまてに
した所かさいみやうじとの【? 西明寺殿 か 大明寺殿のような寺の名前】
くらいであとへも
さきへもまいり
かたし【難し】千里
いつては千里
かへつてはなんの
へんてつもなし
さて〳〵わづかの
事ではなくおふきな
事にきがつかなんだと
てまへのりやう
けんにもいかず
ちへしやと
おほしき所へ
そうだんに
ゆく

【右ページ】
竹八てまへの
りやうけんにも
いかずたんな
でら【旦那寺・檀那寺】のおしやうさまに
いちぶしぢうの
よふすを
はなし
けれは
それは
とらに
のり【つ?】てあるくが
よかろふ
これいじんと【?】
いふせんもん【?】
とらをあいし
のつた事は
きいた
事も
なし
ふかん
ぜんじ【豊干禅師】は
とらをこたつの【虎を炬燵の】
やふにより【様に寄り】
かゝつて
ねるかすき【寝るが好き】
しやふき【鍾馗】が
とらに

【左ページ】
のり【つ?】て
あるかれた
きさまか
てつほう【鉄砲、嘘の隠語】
だと
おもはぬよふに
せ□□□の□でのとらのりの
せうき【鍾馗】を見□【せ?】
ませうのられぬ
事はなさそふなもの もんじゆは【文殊は】
しゝにのつてござるにんけんは【獅子に乗ってござる。人間は】
とらにのらつしやると
ものしりかほにと□□【もふ?】され
けれども仁田の四郎が
いのしゝはこれよりのちの
事と見へたり



【右ページ 中ほど】
うらしま太郎は
かめにのつたが
みづこゝろか
なければ
あぶない
もの
とらは
おち
た所【?】
が むま【馬】より
せいかひくい



【左ページ 右下】
いかさま【なるほど】
おさ
よふで
こざります

【右ページ】
竹八おしやうのおしへの
とふりとらにのつて
いでけれはそのはやき事
ほをいつはいかけし
おふふねのことくめい
しよきうせきはさて
おき六りふのならちやを
くふ事もならす
こゆ【ま?】あかさかで
ひつはりそうにずれは
そのうちに十里ほどあるき
はこね八里は
とらでも
こすが
こすに
こされぬ
大井川の
川どめをは
けんのんに
おもふ所に
とらの
川わたり
とてへい
ちのよふに
あるき
にんげん
さへ道
くさを
くうに

【左ページ】
うちへ【くにへ?】
かへるまでは
なんにも
くはすに
あるきときにふしぎ
なる事は大いそ【大磯】の道なかに
おふきなる石ひとつあり
此所にていきもとり【行き戻り】
とらすこしづゝ
やすむこれを今に
とらが石といゝつたへしなり
江戸本所のこま
とめいしもこのたぐいなるべし【本所駒止石】
そののちみやうなる事
ゆへこのゑんをひいて
大いそにとらといふ【大磯の虎御前。曽我ものに登場する人名】
ゆふじよをこしらへ
又とらすこし
やすみしゆへとら
せう〳〵【少将】とて
二人ともになをまつ
だいにのこしけり【名を末代に残しけり】


女郎のとらか石【虎が石?】のやふに
おもふものもあり□やもちでも【部屋持ち(遊女の階級)?】
たくはんをはつけず石はいらぬなり



【右ページ 下】
□のふより【昨日より?】
おはやふ
こさり
ます

【右ページ】
竹八もとていらすに
おふかねをもふけ
とらに もむせうに
うまい
もの

くはせけれは
すさまじく
ちからずきで
のせる事はさて
おきあたり【?】まはつ【り?】
こまりけれは
た□すがは□や□
としのかふにて


【左ページ】
和藤内がおふくろの
おつほぶせ大神宮
さまのおはらいを
いたゞかせければ
たちまちねこの
やうになり竹八が
いふなりにしだいに
はたらき又
かねをもふけ
させひとへに
大神宮
さまの

【左上へ】
おかけなり
ししはおか
くら【お神楽?】ふて
きついおきに
いりのやうにも
おもへともとらには
かまいも
なさらぬか
なんでも
かても
大神くうさま□【は? かすれて難しい】
すこしいものた【すごし(凄し)+い?】
とみな〳〵
かんしん
する

【右ページ 右下 かすれている】
とらまへてたけ
のませう とてんのふ
さまの あんこん□
いふ
ち□□を
いふ

【右ページ】
竹八
なか〳〵
やくしや
にて
たまる【?】
事を
しり
もと□【戻り? もはや?】
かねもたくさん
もふけすさましく
ひとへにいせ大神宮
のおんかげ【御陰】とおもひ
とらにあはれられては
ぜにもふけのさたは
さておきそ□ところ
なれとも
なに事なく
人にもてまへも
けかもせす
おれいのために
日本はしから【日本橋から】
いせまて【伊勢まで】
百日の
□つさん【日参?】
一日もけだい【懈怠なく】

【左ページ】
なくさんけい
して□たちの【ひたちの?】
ほうへ
千丁の□
竹やふをかいい
とらをも
そこへいんきよ
させ又
きやつを
かんはんにして
ひとあきないと
いふはらも【?】なく
なんほ【なんぼ】
てまへか
あり【る?】かぬ
とても
うちにいる
つもりを
して
かのものを
たんと
もつてい□【る?づ?】


【右ページ 右下】
あれもふ
みへぬ


【右ページ挿絵 看板】
壱せんめし

竹八はさるのとしの
むまれ【生まれ】にてとらの
七つめにあたり
たいうん【大運】をひらき
今なゝつめを
まつるといふも
ひさしき事と
みへたりてんぢく
などの事とは
ちがい此ひのもとの【日の本の】
しやうじき
はなし【正直話】
天明三年
みつのとのうの【癸卯の】
としまて【年まで】
七か回の十三年に【?】
なる七か回□十三ばんは【?】
よい所たとけんとくには【?】
こむやふとひさしい
ものたがきやうくんか
きついすきさ

通笑作
清長画

交古勢昔咄

【表 表紙】

交古勢昔 噺【話は異体字、タイトルの読みはまぜこぜむかしばなし?】  全

天明元【中表紙】




交古勢昔噺  《割書:芝全交作|長清画》 【清長の誤記?】二冊

【印刷なし】

そのむかし花さきぢゝいは
かのかれきに花のさく
はいをもつてしよぼく【諸木】
にはなをさかせうへき【植木】
屋をしてせうじき
一へんによをおくり
けるかまたそのころ
かにゝかたきを
うたれし
さるのこ       わたくしはおなしみのさる
おやのかたき     とかにのかたきうちのさるの
かにをうちたき    こだんのにてこさり
よし花さきぢゝい     ます
をちから【力】にたのみ
      くる

まつわしが所に
へやご【部屋子】にゐて
かにのありかを
 たつねさつしやい

とうぞかにめを
うちとふござります

【一丁裏】
こゝに花さきぢゞいがたんなでらに
さいみようじといふてらありうへきずきの
おしやうにてありしが此へんへかに
出てあまたのうへきをはさみけるが
さいきようじどのひそうのむめさくら
まつをはさみからすおりふし
ぢゝいふうふてらまいりを
せしゆへかのはいをふりかけ
かれきに花をさかせて
下されとたのむ

 ぢゝいかのはいをいだし
     ふりかけむめさくら
     まつもとのことくに

なる
 なんと
ごらうじませ
  しろいものか
     〳〵
【二丁表】
さて〳〵此へんは
 わるいかにがでゝ     これは〳〵
 みなうへきを          花が
      はさみ         さきました
      ます       い□しかけ
     どふぞ       ありがたい
    つらまへとふ
      ござる

【二丁裏】
むかしは
かにはめが
なくて
こへあり みゝずはめが
ありてこへのなきもの
なりしがたがいにこへと
めをとりかへついにふうふとなる
みなみゝづの事をめゝずと
となへるゆへおめゝとなをかへる
 たとへ木のなかどろのそこほんむずぶの
かにさんかけてかならず みすてゝ下さんすな
わたしはこれからめがなくてもこへかよいから
ごぜとなり こへじまんのながうたて
おまへ

□ぐしやせう

うれしいぞや〱
 わしもこれから
めができて
おもふよふによこに
 あるきませう         とかく人はめゝずよりたゞこゝろだに
                よつてこれからきとりが
                       かんしん〱

【三丁表】
花さきぢゝい        おやのかたきやらぬ
ふうふてら         にけるとはひきやう〱
まいりせし
るすをねら              なふさる
いにはのもゝ              ほうか
をかには                そんなら
さみにくる               にげよう
おりふしと              かたきうちは
なかのう              いや〱た
ちより
かみさま               せつかくきて
うち□かに               やらすに
かもゝをはさむと
しらせ
 ゆへ
 さる

るす  をしていたりしがかに      にげる
こそ  わがたづぬるおやの         は
かたきととんでいでる           もし
さるとはなさけの             くり
    ないかに            ざんすへ
      だんのふ         あゝほんで
                    かけよふ
                    〱

【三丁裏】
さいきやうじとの花さきぢゝいが所へ
かれきに花さかせもらいしといふ
きたり なふ 此度はかたじけなふ
こざる おかげでよいたのしみをします
いでそのときのはらのきはむめ
さくら□□にてありしになそのへん
ほかにひしほ一□□かぐにむめ
これは ばあさまゑ申らに
たばこ入
にでも
さつしやい

□□ついに
さくらずみ
一ひやう
これは
たいてあたら
   しやれ

とし
 よりの

 なれば
さむ
 かろふ

【四丁表】
       さてせうじきに
       生ついた一里
       あまりせうじきな
       しやうじてによつて
       しんぜます
それはほんどうの
ふしんのつかいのくり
ふせうながら
   つくつて
    □されと
     いたし候ふ
 これは〱
おあり
がたふ
ござり
ます

      ばゝあや
        あわの
         もちでも
        やいて
         あげやれ

【四丁裏】
さるはにくき    なるほと
かにをうち     お□ゝは
もらせしを     ふかこ□
ざんねんに     といふ
おもひ       とへだ    そふないては
女ほうのめゝずを          あしたはてんき
つれきたり                   で
おつとかにきよが
ありかをいへとせめたれば           
花さきちゝい  ぢひふかきゆへ        あ
のふひとくせ   めては           らふ
やらぬとて さいめうじとの
よりもらいし まついたを
とりいだ
し はりがねをはり              おつと
ことにしてせめる                かにきよが
これいたことの                  ありかを
はじめなり                      いへ

こりや〱
 のたくらずと
まつすぐにげりや〱

【五丁表】
そのとき さるは
わが おつとかにきよこそ
それがしがおやざるをぬかみそおけを
はじめとし ほうてう ひきうす
たまごはち せたいとうぐをもつて     なんと
うちし事 とうざい〱 といひければ      こはちと
めゝすはなく〱こへはりあげ かのこへ    むごふ
じまんにてそのときのせたいどうぐの    ござり
かず〱はほうてう ふりたる 小おけに      やす
やぐら
ならべし
そこのうち
やれしといた【破れし戸板】               松い【た が抜けている?】
のあけ                         を
たてはと                       一まい
こたひける                      そは□□へ
                           わたし
                              より
                           おまへが
                           いたでゝて
                          ござり
                            やせう

【五丁裏】
かにはさるにねらはれ所に
すみがた〱 みゝすを
おきざりにて
かけおちする


ごぜをつれて
 にけてはさへないによつて
  おきざり〱

おれはめがあるから
  よこ一もんじの
     よこすじに
      にげよふ
      それにおいで〱


          なふおきざりにする かにちく
             しやうめ めをかへせ〱
             うぬいまに おもひしら
              せゐでわ くちをしいなあ

【六丁表 刷りなし】

【印字なし】

【空白頁】




【六丁表】
みゝずはかにゝすてられしをさんねんにおもひ あさくさのいへでぢぞうへまいり とうぞめをおかし くださりませ かにきよ
にうらみが申たふござりますと ぐはんがけをする ぢぞうぼさつ ふひんにおはしめしうてやり なふ かしてはやらふが おれもふじゆふだから その
きゃうげんがすん    だら はやくかへせうそ はつうり わら九十びやう【藁 九十俵?】□
しちやと           そうしほのくめんがてきるものがよふ
                いふやつさ
                        ぢせう殿かへこと
                        しういんでにて
                        ごさります
                        とふぞめをおかし
                        下さりませその
                        かはりに□ほを
                        ぬ□ひやらに□
                           ませう

【六丁裏】
              これから
              □川
              □ん屋
              と でかけ
              て こぢ
              つけ
              ま
              せう

さるはかにのゆくへをじゆんれい
すがたで四こくへんをたつねんと
ぢゝいにいとまをもらふ
 これはよいおもひづきだ しかしたちやくは
だんぞうなどはいら女殿りくらなどでは
 ごむやう人がさる□こうだといふ
   四こくでさぢ兵へがさるとなり

           ましたによつて人の
           からだがついており
           ます そのからだを
           かりさ治兵へとなり
            たづねませう

【七丁表】
さるはさじ兵へがからだをかり
じゆんれいとなりかには六ぶすがた
となりよをしのびしがたがいに
めぐりあふ

  われもひととをりの
   六ぶではあるまい
  かにきよと
   なのれ
      〱






そふいふ
 われも
つらはにんげん  でも
   さるで あらふかや
     さあ〱
       どうだ〱

【七丁裏】
いかふさる□ゝか のふ きけ此つゑの
うちへしこみしやうじはそれがし
ひごろ しんじんするあさくさくはん
ぜをんのおないのつへ引く の
やうじなり これをみるやい□
  つらをあかくしてはを
むきだしさるのつらを
あらわせしはいかに〱又
此どくろは  なんじか
       おやを
       うちし
       ときのさる
       こうべだは
  くちおしいか
   なんとおや玉は
   □るか候ふが
   こゝでばかり
   こういふ
  かほにならすと
 よければ□
  それがし
     こうて
 こぢ
つけるから
つきやつて
やるのだは

【八丁表】
いふにはおよぶ
   われこそ
  なにをかつゝまん
  さるなり これはこがらす
  うりだこらの
  からす
    うりを
    はさ
      み
    たかつ
     て
     わが
     はさみ
      をちよき
       つかせるは

          かにきよに
              そういない
道いけ
 ぐにの一もん       さあ〱おやの
さいらいへしつみ         かたき
  あひしより         じんじやうに
あくぞうもくぞうかにの
    われ〱たわへ

【八丁裏】
みゝずはかにをおつかけ さいめうじへきたりとうじやうしにて   ずいぶんうらみをいへ〱
うらみをいわんとおもひしが   つきがねはあまりおふきい   いゝこへだぞ
こてからだそう     おにの  ふうりんをかわりの
こへじまんにて          じしん ながうたをうた
い どうじやうし          をする
                 かににうらみは
                  かす〱こざる   【風鈴の短冊 す〱しさや】
                 あなのかにを
                 つくときは
                    しよ
                     ほう
                      む
                     しやう
                       と
                    いたむ
                   なり

【九丁表】
 そのとき
 花さき
 ぢゝい
これほどの   どうじやうじにさくら
  のないはおしいとてかれきへあがり
   はいをまきどうぜうじ□う
         おにの□ぐめ
          さくらぞさか       □あいの
             せける        かねに
                        はいやふる
                         らん

【九丁裏】
      まぜこぜ下【頁折り返し部の見出し】

おめゝはふうりんのなかへ入ぞと    おれももふあきらめた  かにはせつふくしてはらより
みへしがたちまち四五寸ばかり          ふびん〱    のふみそをつかみ出し
のみゝずとなりふうりん                       もし さいみやうじさま
をまきあがるそのとき                         わたくしからなごり
かにはかけつけきたり                          におまへにこの
おめゝがしつとふかきも                         みそをあげ
われゆへまたさる                             ます
とのゝかたきと                             おれ
ねらはるゝも                              は□
ふこうのはち                              こやつ
そのいにしへおやざるを                         □の
うちしも おなじとうり            あゝとよろしく       こと
いつまでもかわり〲に             おとむらい
かたきとねらいでも               なさりませ
       はてがつかぬと
       かんしんして                       な□
      せつ                            は
      ふく                            あ
      する                            がつ
       ぞ                             と
     あわれ                           がこざり
なり
                                 ますわい
                                  これほど
                        うまいものはさ  かなの
                        うちにもござりませぬ
                         とむしやうに

【十丁表】
                        しまんしてあげる
                            これより
                           ぢまんする
                          事をみそを
                         あげるといふ



                    かには
                     こうらに
                      にせてある□と
                       ほれだ
              
いんぐわちぞう
あらわれ給ひ
みゝ ずのめ
をと りかへ
し□ふ 計いん                もふ めはきやう
ゑんにて 今                 げんがうちだしから
にみゝず        はめなくて        いるまい こつちで□い
             こへのよきとなり     やつさもつさはそつちてせい

【十丁裏】
                  はな
                  さき
                  ぢゞ
                  ば〱を
                  やしないて
                  まい日〱
                  日さんとせ
   さるはわがてにて       き□に□
  はき□くらぬ            あん
 ともかにがほと            らく
じめつしてかね〱のいひわけ       して
しければをれがまい〱といふたゆへ
今のよにさるをましいと申すなり
われらもひとへにくわんをんのめう
   いりきなれはとて焼        やしない   さるによつて
     くさまぢない           ける   今にやうじやの
        ようじみ               かんばんにさるを
            せをにて           だすもとのとき
                            より□はじまり
                             けり

                           芝 全交戯作

【印字なし】

【裏表紙】

見通占

《割書:阿部|清明》見通占

天明二寅

見通占

すんしうあべ川の
川かみに清右衛門と
いふものありとし〴〵
江戸へちやあきないに
来るしやうぶなしんたいなりて
ふそくもなけれどもしにせたる
江戸あきないなればむすこの
清兵へにわたしとんやむきは
いふにおよばすすこしのとくい
さきもしんちやひとふくろづゝ
すねんのかうしやくなれば
ぬけめなくいゝつけしたく
させてくだしけり

ぢよさいは
ござり
ませぬ

ずいぶん
はやくかへら
しやれ

清兵へは
おやぢの
とうちう
した
しぶんとは
ちがい
さんど
がさが
かま
ぼこ
なり
かわの
ひき
はごが【?】
きんの
どう
がね
づくり
されとも
しやう
とく【生得】
じよ
さいの
なき
もの
にて
なん
でも
かでも
やりて

みれども
けいこした
事もなし
とりゑには【?】
よいむさし【?】
でもありはでも【?】
とぶ風とのでも【?】
ついにした事も
なしこればつ
かりはちゝも
あんしねども【こればっかりは父も案じねども】
江戸のにぎやかな
とこかへかねをとりに
よこせばくちの
すくなるほど
いゝつけられつがも
ないそこに
ちよさいのある【?】
ものか江戸へも
もふ二三ども
でたからやるもん
しやあござり
ませぬさりとわ
どらなどうつ
ものゝとふした
ものじや□つかふ【?】
わからぬと【?】
かふまんにてくだる【?】

あしたか山や
ふじのたかね

ヤア ト ハア

おやぢの
だいから
じやうやどの
さのやと
いふにとまり
にわにむめ
さくらまつの
はち
うへか
あればこのていしゆも
おふちやくものよい
ぢふさまがとまつたなら
たいてあたらせ□に
むめだゑつちうに【?】

さくらんと
する
つもりて
あらふとなしくおもひ【?】
すこしなふるつもりにて
ごていしゆさんよいはち
うへでござりますと
いへばいつしゆなさり
ませといわれこまり
はてけれともしらぬと
いふ事がきらいにて
むめはとぶとくちの
うちにていへば
めでたいうたが
うけたまはりたいと
のぞまれすこし
こくひをかたげ
むめはとはず
さくらもかれぬ
よのなかになにとて
まつはうれしかるらんと
よみければていしゆも
ぬからぬかほにて
これは

お□きなさつた
女ぼうよろこべ
めでたいうたじやと
いふ

おどろき
いりました
わたくし
などはは
やり


できませぬ

清兵へ
江戸の
とんや

とふ
りうし

とく
いば


わり
ずいふんかたく事□
さけはひとくちも
のます
しはいを
一日
見るひまもなく
せめて□ふむさを【?】
しまい
くにへ

はなしのたね
らかんさまへは
まいりたく
おもひ
みせにて
わかい
【二、三行かすれ】
はなし
けれは
おまへの
よふに
ぜに
ばかり
ほし
かり
江戸へ
ゆさんも
せずにかへる
ものが
あるもの
かと
いへども
すこしの
ひまもおしみ【?】
こんどは
どふした
ものか
□□□□
□□もあいといふ

やまへいつていつはい
のみやせふ□


太夫が
ゑらい
もんで
ござり
ます

おちやつけを
あけませふ

□□□
ふたに【?】
たのみ【?】
ます【?】

やふ〳〵ととんやのてたいに
すゝめられふかかわのあさめし【すゝめられ深川の朝飯】
じぶん八まんへまいりすさきの【時分、八幡へ参り洲崎の】
へんてんかららかんじへゆき【弁天から羅漢寺へ行き】
かめいとのてんじん梅やしきは【亀戸の天神梅屋敷は】
梅のなつているところ
むめほしにしたらばいくたる【梅干しにしたら幾樽】
あろふとそんな事ばかり
いふてあきはみめくりへ来り【言ふて秋葉三囲へ来り】
こゝはきかくがあまごいの【こゝは其角が雨乞いの】
くをしたる所と聞きつたへて【句をしたる所と聞き伝へて】
やたてをいだしみめくりの【矢立を出し三囲の】
とてにてほとゝきすをきゝ【土手にてホトトギスを聞き】
はべりて「みめぐりや
どてのうへにて
ほとゝきすと
まいがきも
ほつくも
おなし事にて
むだばかりいゝ
むかふかしへ【向こう河岸へ】
わたり
しやうしき【正直】
そばをくつて
かへる

まつに
わかれが
かへらりよか
きた〳〵〳〵

おれる【おりる?】
人か

【深川の八幡様は富岡八幡宮。東に700mくらいに洲崎弁天がある。洲崎から北東へ3kmくらいに羅漢寺があり、羅漢寺からへ1.6kmくらいに亀戸天神。そこから北西に1.8kmくらいに其角の雨乞い伝説がある三囲神社。清兵衛は三囲の土手、隅田川の向島側でホトトギスの声を聴き一句よんでから対岸へ渡る。当時ここには竹屋の渡しがあった。対岸は浅草で、待つ乳山・聖天さんがあるところ。】
【追記:「あきば」は三囲神社から800mほど離れたところにある秋葉神社のことらしい。】
【追記:正直蕎麦は十割蕎麦で有名だった浅草の蕎麦屋とのこと。】
【追記:「すきき」ではなく「すさき」で洲崎弁天・現洲崎神社のこと】

こゝに
かねもちの
いんきよ

いつとくと
いふ人あり
しやうとくけこにてちやをすきされども
こいちやうすちやのふうりうもなく
せんしちやをすきおひたゝしく
のめともついにちやにうかされたる
事もなくあさはよつすぎまで
ねて
人の
ちやに
うかさるゝといふ事を
きゝてうらやましく
おもひとくいの事ゆへ
清兵へ来りしおり
きさまはちやに
うかされし事あるかと
たづぬればしやうばいには
いたせどもついにうかされた事なし
ためしのために
二人にてむしやうに
にばなをのんてみる

【右ページ下かすれている】
のま
がき
の□
まば

【左ページ】
いつとく
清兵へ
二人にて
さへつ
おさへつ
にば
なを
のみ
たがいに
はなうたを
うたひたし
あんまりはらが
はりました
はらこなしに
ちつとおとりましやふと
さわぎだし
とんと
さけに
よふた
よふ
なれとも
いざこざ
いわず
こまもの見せを
たさずまじ〳〵
しやお〳〵とさわぎ
かないのものもちやにうか
されたといふ事はじめて
見るゆへきもをつぶす

【左ページ下】
しのだの
もりの
きつねを
いゝつな【?】
ちん〳〵
ちゝん

ちん
つゝつん

ふたり
なから
ちやに
うか
され
こゝろ
やすく
なり
うちで
ばかり
のんでは
おも
しろく
ないと
よし
わらで
いつ
ふく
おんまもふと
くつと
ぶんのきに
なり二人
つれにて
中野町へ【仲之町へ?】
しかけける
よの中に
いふちや
のみとも
だちとは
いんきよに
そふ
おふな
ぢいさまを
いへどもこのちや
のみともだちは
おふちがいにて
へいぜいの
こゝろとはおふちがい
したじの
あるうゑへはのみうへゑは
のむゆへうかされどふしに
うかれている

【右ページ下】
せいこ□
なち
給へ

はやく
きた給へ
〳〵

いつとくはきせんといふ
女郎【?】をかひ清兵へは
ひともりをあげ
にばなをさせてむしやうに
のみあいゝたもばからしいと【飲み合い居たも馬鹿らしいと?】
おもへともきやくじんは
しごくきけんよく
あそびおてうしかかわる【お調子がかわる?】


いふ
とこ
ろて
しん
ちうの
やかんを

とりかへ
ひきかへ
いつはいも
あまれば
やりて
わかい
ものに
のま
せて
いつ
ふん【?】

やり
あまり
ぢやに
ふくあり
とか
このとき
より
いゝはじめし
事なり

すこし
こゆくに
みへるが

ちやど【で?】
ござり
ます

わたくしどもは
ごしゆより
おちやがよふ
ござり□す【ござりもうす?】
おく〳〵〳〵

二人ともに
たん〴〵
うかされ
きやう
けんをはじめ
よしわらの
せんせいを
たのみすけ六を
かたらせ
いんきよが
いきうの
やくせいこうが
すけ六を
こじつけ
じやの
めのかさと
大もんの

げた

かりが

ほんの□の
ちやに
うかされて
あつかましく
きやう
けんをするゆへ
これより
しろふとの
きやうけんを
ちや
ばん
きやう
けんと
いふ
なり

しんそう
あげまきに
なり
はづかし
がる

イヨ
市川さま
〳〵

これ
□く

まへ
わ□か
ふぜい
なり
ける
しだい
なり

五日も
六日も
いつゞけ
にて
ちやに
よつた
よふな
かほ【?】たと
いふ
ものは
あれと
ま事に
よつ
たわ
この
ふたり
よふ
〳〵と
かへる
おふに
なり
なんぼでも
清こふは
わかい
ゆへ
とり
まわし


よし
いんきよは
しんぞうかぶかつ【ぶっつ?】
まずになおられ【?】
まずにな……【かすれている】
いんきよ□
みへ【?】

してもとふしても
かまわぬゆへちやに
するといふこじらいれき
いまのよまで
つうのせりふとは
なりけり

いんきょ
さん
いつ
おいで
なんす

おはやう
こさり
ます

いつとくはひに増しかねづかいあらくいまは
五十両百両とほんだなへとりにやれば
ばんとうもあきれはていけんに来り
おまへさまもさりかは【?】つまりませぬ
わかだんなのおとなしいにせけんでは
どふらくなむすこをいんきよさせます
おまへはかんどうもならずいんきよを
やめてまたうち□れ申□□とんた
のうてんきをなさろふし【?】これからは
あら
ため



いん
きよ

いふに
いたし
ますと
あてがいも
げんしやうして
八十のよ□て
おふかぶり【?】
なり

【右ページ右下、かすれて読めず】

【右ページ左下】
これから
ちや
ひとくち

の□□【まぬ?】

【左ページ】
清兵へはいつも
あきないを
しまうとさつ
そくかへるものが
まてどくら
せどかへらぬゆへあんじて
清右衛門江戸へいでとんやへ
きたりければあんのごく【あんのごとく?】
大とらにて
てうあい
見れは
□うへなしおふきにしらを【?】
たちこのうへせけんにかりの
てきぬうちひとり
むすこなれども
かんどうするといへは
みなきのとくがりて
いろ〳〵とわひをすれと
□□たこのおの
きれた
よふに
くにへ
かへり
けり

【左ページ右下、かすれている】
とんと
おか□
□□□
ま□
たが

【左ページ左下】
おふき

ことを
いたした

清兵へかんとうの
身となり
いちもんなし
にてしやう
ばいは
できす
とかく
もの
事を
かんかへる
事が
すきにて
さんぎ【算木】
めど
ぎの【蓍の】
とりやふも
しらね
とも
うら
ない

おもひ
つく

うせものは
てませうかと
いへはでま
すといふ
てます
まいかといへば
てませぬといふてさきの
事ばをつぢうらにして
うらなへどもみとふしの
やふにあたりあたるもふしき
あたらぬもふしぎといへとも
あたらぬは
ふしきな
事もなん
にもなし

もふ
なん
とき
だの

【左ページ】
ゆふ□ひくれに
とられたものがぼさり
ますごろふじて
くたさり
まし

かんざしでごさろふ
しかも銀と
みへます

清兵へがうらない
ひにまし
はんじやう
するにつけ
おびたゝしく
たのみに来り
十三になり
ますせがれ
ほうこうに
つかわして
おきますが
きのふから
みへませぬ
ごろうじて
くたさり
ませといへば
これはたひへ
まいつたと
見へます
あんしる
事は
ござらぬ
百三十り
ほどより
さきへは
いき
ませぬ
おしつけ
かへりませうと
うらないわたくしか
むすこもさくじつ【?】
そうれいにて□□しましたか
いまもつてかへりませぬ
これは□□□□□の
ほうにいますがすい
ふんそくさいていられます
いのちに□□ぢやうは【べつぢやうは?】
こざりませぬよめを
もらいま□□□かく
こちと□□□□
きりま□せんに
ひとりだしました
か□□んとは
たいじて
ござります
これはあいしやうには
よりませぬ
すいふん
こゞとをいわず
あさねはめのさめ
しだいにさせしばいを
とき〴〵みせさへ
いたせばねこの
としでもくまのとしでも
よろしうござりますと
しんのことくに
うらない
けり

あのおから【?】
ない□はいせ
まいりと
みへるもしや
かつは□□
□□
あんじ
ました

おふきなてらちやし
うらよりいでけれは
あしたは
なにかかねが
はいると
おもふ

清兵へおもひのほか
うらなひが
とせいとなり
くらしける所へいつとこ
ひさしふりにて
たつねて来り
ちやにうか
されしより
このかた
やくししたと【?】
ちやの□の
いなりへちやを
たちものにして
□□□□く
なりおやの【?】
□□□れ□
□□□な□り
まいあとふりの
あでかい
清兵衛が
おやぢの
ほうが
かんとうゆへ
気の
どくに
おもひ

五十めや
百めは
しりを
もつて
わびを
して
やりたく
わしも
なじみ
じやから
じやうでも【?】
やりたいが
めんも
かふらず
はづかしい
まづこづかいにと
十両もらひゆふべの
てうじかしら【?】
おんやうじ
見のうへ
しらずと
いふ事も
なし

このぢうやつが【?】
ふみがでまして大わらいさ

いつとくに
かねをかりて
くにのこゝろ
やすきものに
たのまんと
ぢやうを
したゝめ
ねるそのまゝ
てまへの
さいしよの山
はれわたり
たかけしきにて
たかのまい
あそぶ事
うなきやの
まいのとひの
ごとく
なすびは
しきやきに
するやうな
やつが
いつそくで
十八文の所を
ごそくほと
ゆめに
見ている所へ
おもてにおこすおと
するゆへめをさましけれは
くにの
おじのせわにて
かんとうゆるされしと
しらせて来りけり
さて〳〵〳〵よいゆめて
あつたとよろこひけり

まだげしなつてや【?】
けしく【?】

清兵へさまは
これでこさり
ますか

かんとうゆるされ
こきやうへかへるよし
いんきよのしんせつの
こゝろゆへしらせながら
いとまこいに来り
二人ともに
よろこひ
さけにてしくじる
ものもおふけれども
たのしみの
うわもり【?】
二人ちやにて
しくじれとも
けこの事なれは
そのうへはたのしみに
なるほどのむ
つもりにていんきよも
としよつてせにをつかいしも
てまいのなの
いつとくと
わらひ清兵衛
目出度
くにへ
かへりけり

はゝがまち
かねて
おりませう

清長画
通笑作

【落書きで】
うちだ

【墨で】
もと

頓作時雨月

頓作しぐれ月  全

頓作(とんだ)しぐれ月 中 いせ治

けん久【元久】のころかまくらの
さみせんほりにくわた【?】まんぞう
てん〳〵といへける□かのしあり
此ころかまくらのふうぞく【風俗】大き
におごりぶしも町人もぎやうぎ【行儀】
みだれ大いそけわい坂【大磯化粧坂】のほかに
おかば所【岡場所】とごう【号】してゆふ女町
おびたゝしく此外しろと【素人】にて
ころびげいしや【転び芸者】なんどともいへる
うつくしきもの町〳〵にみち〳〵
ければ□すきうふ【初心?】はいふにおよ
はすいんきよのづゝにうがきよ年【去年】
ほんけがへり【本卦還り=還暦】からうわき【浮気】になりて
げいしやをかこふやらのむ【呑む】やらくう
やらゆふきやう【遊興】せさるいへは
まれなりけるぐわんらい【元来】てん〳〵もさみせんや【三味線屋】の仕
だをれ【倒れ】にてはいかい【俳諧】の事はしらねどももたつひ【?】つけた
おはい〳〵のはいのじから
おもひつきにてはいかい
し【俳諧師】となりそうしやう【宗匠】とはかりのな【仮の名】本名はたいこもち
にてうちきてあいにたよりよ【世】をおくりけるこそ
す□いふうが【風雅】なりける
もちつ□□まみが
ひけ【弾け】そうなものだがハテ

【右頁中】
あるとき
てん〳〵つるが
おか八幡宮
へさんけいし
二けんぢや屋にて


かけ
よい
たおれ
まどろ
みける

ちう【夢中】


じん
【左頁中】
そう
だん

する

【右頁上】
八幡宮の
のたまはく
なんとそん
じん【尊神】たち
もはや
十月にまも
なければ大やしろさんくわい【参会】まへにおの〳〵
がたへ一おうないだん【内談】いたしたきしさい【子細】はきん
年しよこくのうぢこども【諸国の氏子共】ことのほかおごり
なんによ【男女】ゑんむすびのきもほしいまゝになり
たるとのさた【行い】せじやう一とう【世上一統=世の中どこも同じ】なれどもわけて
かまくらのありさまほういつ【放逸】
しごく【至極】なればまづ
とうねんは
えんむすびの
はうは
すておき
おごりを
とれる
やうに
いたしたいが
なんとみな
さまはいかゞ
おぼしめすと

【左頁上】
はこ根大ごんげんの
のたまわく
いかにも〳〵おふせの
ごとくきんねんえん
むすびのぎは
此ほうのさしづを
またずうじこ
どもが
かつて

だいに
そこへもこゝへ
もやたらに
むすびますれば
われ〳〵がえんむすびいたすは
とんとむだでござる 三しま大明神ののたまはく
二じんの御しんりよ御もつともしごく
とかくふらちのおゝいはもとおごりからの事
なればきつとおごりをとりしづめ
みもちけんやくにいたさせしそんはんじやうの
御まもりがだい一でござる
大やしろさんくわいにとくとだんじませう【出雲大社に集まったときにしっかり相談しましょう】

さてもてん〳〵は ゆめさめわがやへかへりむちう【夢中】にかみ〳〵の御つげありししだい
つくつくおもひまは し大きにちからをおとしけるはもししよこくどら【諸国道楽】べつして【別して】かまくら
ぢうのうはき【浮気】
てあいが心をあら
ためみもち【身持ち】
けんやう【眷養?】ぎやう
ぎ【行儀】たゞしく
なり
ては
おはい
〳〵【「おはいはい」=「お」は接頭語。「はいはい」は応答の声を表わす。人にこびへつらい、追従(ついしょう)すること。またその者をあざけっていう語。「太鼓持ち」はそういう風にみられていました。】かたいこ
もち御【?】
しやうばいはあがつたり大
みやうじん【大明神】なればいかゞせんと
あんじ
わづらふ
これはこ
まつた
ものどう
せうじ【道成寺】の
ぢうそう【住僧】と
きたは

【左頁】
びんぼうがみ
てん〳〵が
あん【庵】へ
たづねきたり
あんない
する

こゝじや

此ごろかよふ神の
はなしをきけばつるが岡のせんせいがおもいつきで
しよこくの
どらもの【道楽者・放蕩者】にけんやくを
させしそん【子孫】
はんじやうさせやうといふことそれでは
びんぼうがみのうじこはかれむと
なるいわゞそうしやうもどら
しやうばい【道楽商売】どうぜんの
ことなれば
そうだんに
きたのさ

これには二十五てんと
いふちかいが
ある此十月
かみたち
のるす
をさい
わい
たん
【左頁上】
へい
きう【短兵急】に
かねを
つかはせ
きうに
びんぼう
させる
くふうは
いかに

【右頁中】
されば〳〵
此ことは
われら
さきだつて
しやうちの事
もふ十月にちか
よりたれば一トくふうなく
てはかなふまじ

【右頁下】
これは
とんだちゑ
きんねんに
ないおもひ
つきわれら
五十てん
はんめん
びじんと
いふ
とこ
ろだ

【右頁】
はや九月
晦日になりし
かばかみかぜ
ふきたて【?】
いづもの大【?】
やしろへ
たち給ふ  【神風を吹かせて出雲大社へ出立なされた?】

【左頁】
ゑんかとつてもよいから
はやくむすんでほしい
御ゑんしだいでは
まち□よ【?】い
わたくしはもんの介がような
おとこ


むす
ばれ
たい
もの

さるほどにひんぼうがみ【貧乏神】しよじん【諸神】の
おるすをさいわいにと  ふの【?】
かみをあつめける
まづうはきのかみ【浮気の神】は
なんによ【男女】にかぎら
ずむしやうに
とりつき
やみくもにうは
きなし給へ
つぎにへひりのかみ【屁放りの神】
はしり【尻】にゑんあれば
やろうかい【野郎買い】にとり
つきおごらせ
給へぐわんらい【元来】
きこうはせうじき
かみ【正直神】なれどもいま
どきひつてほかへ
ばかりつんむいては
まにあわずずいふん
きてんを
きかせ
給へ

か□【「おつ」にも見えますが。】と
のみこみ
小かたな
はさみ
けぬきひげ
をぬいていろおと
こはどうでござ
りやすうはきのかみ
さかやき【月代】をそり
いきちよん【粋丁髷】のすがた

なる

【空白頁】

かさ【瘡】のかみぢ【痔】の
かみはやろう
けいせい【野郎傾城?】にゑて
もの【得手物】をわづ
らわせ金
をつかわせ
るさんだん
それがしは
いろけで
もくひ
けでも
いけぬ□んがひにくへわけ入
とみ□つけさせめくり【花札】
をうたせ【打たせ】金をなく
させるくめん【工面】
てん〳〵はゑてもののおはいはい
で【?】うは
きてあい【浮気手合】
のあいてと
なりあとさき
かまわず
しめこの
うさぎ【占子の兎=しめた】よしか〳〵


まいぞ
〳〵


これは大のきまり
さりとはひんこうは
つうじんたぞ

【右頁上】
とんた五月雨中

さてびんほうかみ
がはかりことにて
かまくらぢう大
きにうはきになり
けいせいやろうの
はんじやう
ひごろに百
ばいしける

畠山しげただの
ちやくししげ安
大いそへ入こみ
まい日のゐ
つゞけ
わだ【和田義盛】が三なん
小ばやしのあさ
ひなも【小林朝比奈】此ごろは
大のつらかへとなり
ひげもそり本だに
ぎんきせる【本多髷と銀煙管】でくさづり引【草摺り引=時致と朝比奈が鎧の草摺を引きあう力比べ】
などはいやみ【嫌味】てさみせん引1【ごまかす】

【左頁上】

いやみで
でかける
御しよの五郎丸【御所五郎丸】 げんぶくして
一ざにてときむね【曽我時致】をだき
しもたやうにせう〳〵【化粧坂の少将】をだき
しめていけどりたい
てん〳〵はおもふづにしよ人を
そゝのかしむせうにつとめる
くさもきもねかふけいせい
いろおとこなんとやすさん
今こうむかふじまといふ
ところはどうでござり
やしやう


【左頁下】
これはだんな
ありがたい
おゝ



【右頁上】
ほうぜう時まさ【北条時政】わだの
よしもり【和田義盛】大江のひろもと【大江広元】
はたけ山しげたゞ【畠山重忠】大らう
のめん〳〵これもうはきに
なりちうや【昼夜】やかたへやらう【野郎帽子を着けているので陰間】
どもをめしあつめしゆえん
ゆふけう【遊興】ありけるがある日
かさい三郎【葛西三郎清重】がちやくしかさい太郎
がべつそうへいけごい【生鯉?】もて
なしにまねかれやらう【野郎】
大ぜい引つれながら太郎がたく【宅】
にて大さかもりを
はじめける

いやそうおふ
せ【仰せ】られては
いたみ入せん
ばんかたじけ
なふご
ざる

さあ
〳〵
おてあげ
られ〳〵

【右頁中】
御き
げんよふ
めしあげ
られちん
ゑつ
仕ます

【左頁上】
へひりのかみは
わかしゆくるい【若衆狂い】の
うはきものを
うけこみなれとくわんらい【元来】正じき
がみてやろうどもの大しゆ大ぐひに
きもをつぶすばんにはさぞひり
おろうとかくへにかづけてはおれが
なを出しをるにこまりたものだ

ちくの丞【市村竹〔たけ〕之丞?】がしやつきやう【歌舞伎の演目:石橋?】と
きてはとんだ
ありかたいぞ

【左頁下】
なかに

ちく之丞と
いへるやろう
ほうぜうどの【北条殿】
のにて
おそば
はな
れず
つと
める

【右頁上】
うはきのかみの
おもいつきにて
かまくらぢうの
しゆつけ【出家】にとり
つきけれども
出家もやろうかい【野郎買い】は
ほうげん平ぢのころ
までにてこの
しぶん【時分】やろう
かいのしゆつ
けは一人もなく
おしやう【和尚】も
てうらう【長老】も
しよけ【所化】もどん【貪?】
ぐるみに女郎
かいとなり
うみべの
みとうし
ざしきで
そゝもおよ
ばぬきん〳〵の
いろごとしの
しうちにうは
きのかみも
きもを
つぶし
【左頁上】
いよ〳〵
うはき
になる

これせん
こうあす
はいつゞ【?】
らうと
いふはらた
がとうだ
いふにや
およぶ
ときに
ちとうま
きものを
とりに
やりたいな

せんかうさん
なぜひで
さんをつれにて
きてくんなんせん
しみ〳〵
おうらみで
ありんす□へ

【右頁上】
さてちや屋〳〵には
ころびげいしや【転び芸者】と
いふものありて
ちよびとちぎり
をむすぶことはや
りければうはきのかみ
ゆだんなしむすこや
てだいなどながゐ【長居】
のならぬやからは
又はけいせいはまことが
ないなとぐまわり
どをいうはきものを
このずでぶつで
しあける

おとよぼう
かんざしの
ことは

われ【?】ら
のみこみ
やま

【左頁】
ひんぼう
かみは
かねて
たくみ

ごとく
諸人
こと〳〵く
うはきに
なりおび
たゝしく金
銀をつかいよほど
びんほうになり
けれどもらう人【浪人】
又はぶおとこ【醜男】さては
しやうとく【生得】しはき【吝き】 生れ
つきはなか〳〵いろけでも
くいけでもいかぬゆへ大よく
しん【欲心】をおこさせとみとり【富み取り】
のきむじんをつけさせる
□のゆめにふじさんのいたゞ
きになす【茄子】が三十たか【鷹】ゞ一は
ゐたによつて山を三百として
三百三十一を
もらおう
かへ

【左頁下】
これはよいけん
とくしう【見得衆=予想屋】も
けふはとりの日
あとの月のけふ
でるめで
ござり
ます

【枠外】
とんだ五月雨中

【右頁上】
てん〳〵が
あん
には
まい日
まいよかまくらぢうの
女らややらうや【女郎屋野郎屋】の
ていしゆをあつめ
めくり【=花札】の
くわい【会】
または
このごろ
源平の
たゝかいと
いふ

【右頁下】
あそびはやりければこれをもよほし
みな〳〵ちうや【昼夜】金銀を
うしなふ事おびたゝし

【右頁上】
さる
ほど

だん
〳〵
あそ
びに
みが
いり
所々の
けい
せい
やにて女らの
かけおち
しん
ぢう
はやり
ける

かみをついで
おきやれ

【右頁中】
またうら町の
もく兵へとのゝ
たなにしん
ぢうがござつた
げな

さやうだうさ
こまつたもので
ござる

【右頁上】
おごるもの久し
からぬならいにて
さしも日夜たへ
まなくいり
きたりし
きやくもむすこは
かんどうてだいは
つけのぼせいへの
あるじはしんしやう
たゝみしだゐにさ
みしくなりけれ
ばじぶんはよしと
痔(ぢ)のかみやらう
のしりでだまへ
とりつきいろ〳〵になやませる
どうでそうせずはなるまいかど
十てうそう〳〵やうい〳〵おいた
どうだ
これはなか〳〵まめではまいらぬ
そこたうへとうじにつかいし
ませう

【左頁上】
けい
せい
ころ
びげい
しや
どもへ
はかさ
のかみ
とりつき
ほね
がらみ
となり
くつうを
さする
よだれ
くすりで
なくはいけ
まい


【左頁中】
これで五ほうたん
百ふうほどたべさせ
ました

【右頁上】
十一月朔日八まんぐう
いづもの国よりかへり
給ひかまくらぢうのあり
さまを御らんあつて
大きにおどろき給ひ
【一行見えず】

【左頁上】
かみをせんぎまし〳〵けるに
かよふかみ屁ひりのかみ
かさのかみぢのかみさん
くわいせざればさつそく
へひりのかみをとらへ
御せん

あり
けるに
正じきがみ
なればあり
のまゝに
はく
じやう
におよ




まん
ぐう
はな
はだ
いかり給ひあたごさんの
太らほう次らぼう【太郎坊次郎坊】をめさ
れひんほうかみはじめ
一みのかみ〳〵のこらず
さらいとるべしとおふせわたさる

【右頁下】
太らほう
次らほう
いさい
かしこまり
まし


【左頁下】
屁ひりのかみ
いち〳〵
はくじやう
する

【枠外】
とんた五月雨下

【右頁上】
それより太らほう次ら
ぼうは八まんぐう
のしんちよく【神勅】に
したがいて
かしこいぎゃうして
しば□ときのまに
一みのかみ〳〵なら
びにはいかいしてん〳〵
をつかみきたる八まんぐう
だん〳〵御せんさくあり
けるに此たびのふらち
まつたくひんぼう
かみとたいこのてん〳〵
がしよい【所為】にてよじん
はかれらがくちぼこ【口鉾】
にかけられふとしたでき
ごゝろよりことおこりしに
きは
まり
ければ
よにんの
き【義】はつみ

【左頁上】
ゆる
されびん
ぼう
がみはにしの
うみへながしものに
おふせつけられ
てん〳〵をば太らぼう
次らぼうへ御ひき
わたしになりける

【右頁下】
あやまり
いりまして
ハイ
ござり
まする

【枠外】
とんた五月雨下

【右頁上】
太らぼう
次らぼうは
てん〳〵を
つれ
きたり
天ぐ
なかま

たいこ
もちにせんと
おもわれけれ
どもぐわん
らいはな【鼻】
ひくき
ゆへこの
はなか
まにも
なし□□ければ
【一行不明】

【左頁上】
□□のみせしめ
にせばや
とあり
おふしき
ぶすま【大敷衾】
にひき
つゝみ
あた
ご山

いたゞ

より
たに
そこへ
なげ
給へば
みぢん
にくだけ

し□【?に】
ける

【左頁中】
此ことを
てん〳〵てんとくじ
はあたごのしたとうたいける
となりてんとくじとうたひしは
てんぐのしきぶすまに
つゝまれあたごのたに
そこへなげられ
けるゆへ
なり
とぞ

【右頁上】
さるほどに八まんくうのしんつうき【神通気?】
をもつてかまくらぢういつとき
におさまりしよにんみもち
あらたまりて

しそん
はん
じやうに
くらしける
こそ
まことにめで
たき
ことよの
ためし
かや

御代参丑時詣

御代参丑時詣

かまくらかめがやつといふ所に【鎌倉、亀ヶ谷という所に、】
松山【松山】
かげゆと【勘解由と】
いふ人あり【いう人あり。】
御ほふこふを【御奉公を】
たいせつに【大切に】
つとめしゆび【勤め、首尾】
よくいんきよの【よく、隠居の】
ねがいかなひ【願い叶い。】
ひとり【一人】
むすめの【娘の】
こいむこ【恋婿】
新之丞に【新之丞に、】
かとくを【家督を】
おふせ【仰】
つけ【付】
られこのうへもなく【られ、この上もなく】
よろこびよをゆるやかに【喜び、世を緩やかに】
くらししちりがはまの【暮らし、七里ヶ浜の】
とりたてのさかな【取り立ての魚】
びち〳〵するので【びちびち、するので、】
御酒を【御酒を】
あがりて【上がりて】
たのしみ【楽しみ】
給ふ【給う】

【下部】
明日わか【明日、若】
とのさま【殿様】
ごと【御登】
ぜう【城】
なさり【なさり】
ます【ます】

かまくら【鎌倉】
いちの【一の】
ふうりう【風流】
おとことは【男とは、】
かじわら【梶原】
源太ばかりかと【源太ばかりかと】
おもへは【思えば、】
新【新】
之丞は【之丞は】
いわん【言わん】
かた【方】
なきふうぞくにて【無き風俗にて、】
やくしやならば【役者ならば、】
さぞひいきの【さぞ、贔屓の】
ありそふな【ありそうな】
事なり【事なり。】
きふばのみちを【弓馬の道を】
こゝろがけ【心掛け、】
こふしんのこゝろ【孝心の心】
ふかくやしき【深く、屋敷】
ぢうの【中の】
とり【取】
さた【沙汰】
も【も】
ま事に【誠に、】
ぜにの【銭の】
か?ん【勘】
じやうも【定も】
おしり【御知り】
なされず【なされず、】
ほんの【本の】
との【殿】
さまだと【様だと、】
よろこび【喜び】
ける【ける。】

【左頁左下】
どふ〳〵

御ふうふのおんなか【御夫婦の御仲、】
むつましく【睦ましく。】
まいよ〳〵九ツすきまで【毎夜、毎夜、九ツ過ぎまで】
およづめにておつぎ〳〵の【御夜詰めにて、お注ぎ、お注ぎの】
おわかいしゆ【御若い衆、】
おこしもとおさかもりの【御腰元、御酒盛りの】
おあいてになり【御相手になり、】
やどさがりにまいり【宿下がりに参り】
ますとおんざへ【ますと、御座?へ】
まいりますといふものも有【参りますと、言う者も有り。】
ふきや町へまいりますと【?町へ参りますと、】
いふものもあり【言う者も有り。】
まいよ〳〵その【毎夜、毎夜その】
あらそひ【争い】
にて【にて】
おつぼねさまに【御局様に】
しかられ【叱られて】
だまる【黙る】
とこ【とこ】
ろを【ろを】
たの【楽】
しみに【しみに】
した【し給う】
まふ

【左頁左上】
おさへた
〳〵
このはこを
□テ□ン
〳〵

【右頁下】
もんや 【名前の呼びかけか?】
さなき 【小唄三味線の曲に「さなきだに」というのがあるようです】
だを
ひかつ
しやい

【左頁下】
おやを【親を】
めすよ【召すよ?】

わかとのは【若殿は】
御ほふこふを【御奉公を】
たいせつに【大切に】
つとめ【勤め】
ごけらいの【御家来の】
うち【内】
にも【にも】
おきにいりと【お気に入りと】
いふもなし【言うも無し】
みな〳〵しごく【皆々至極】
つとめよく【勤め良く】
おすきといふ【御好きという】
事もなければ【事もなければ】
とりいる事も【取入る事も】
なしあるやつ【なし。あるやつ】
なれどおそばの【なれど、御側の】
うちにねいじん【内に、佞臣】
ものにてばんばの【者にて番場】
忠太がおいに【忠太が甥】
ばんばの忠二といふものあり【番場の忠二という者あり】
おりを見やわせごむほんをすゝめ申【折を見合わせ、御謀反を勧め申す。】
御ぜんは御かくもんやふげいの【御前は御学問や武芸の】
ごけいこばかりあ□してはきつう【御稽古ばかり】
ごこんのどくて御座ります【御根の毒で御座ります】
ちつと

□□よふの【御加?養の】
ために
おしのびで【御忍びで】
おいで【御出で】
なさるが【なさるが】
よろ【宜】
しう【しゅう】
ござります【ござります】
なんぼ【なんぼ】
御ほふ【御奉公が】
こうが
御だいしでも【御大事でも】
御びやうきでも【御病気でも】
でましてはと【でましては】
わたくし【私】
どもはきつうくろうふに【共は、きつう苦労に】
なりますとしんじつの【なりますと、真実の】
よふにこじつける【様にこじつける】

【右頁下】
おふさ【おうさ】
そうた【そうだ】
〳〵【そうだ】

【左頁下】
まつおき【先ず、御気】
ばらしに【晴らしに、】
つるがおかの【鶴ヶ岡の】
八まんまへ江【八幡前へ、】
御出あそはせ【御出遊ばせ。】
きた〳〵では【?、?では、】
きがはれ【気が晴れ】
ます【ます】

ばんばの【番場の】
忠二【忠二】
どふやら【どうやら】
こふやら【こうやら】
すゝめいだし【進め出し】
たいしやう【大小?大将?】
そのひの【その日の】
いで【出】
たちは【立は】
とびいろちりめんの三ところ【鳶色縮緬の三所】
もんにくろちりめんの小そで【紋に黒縮緬の小袖】
ひどんすのおびくろろのづきん【緋緞子の帯黒絽の頭巾】
いくび□きなしいつきどふ
ぜんのもの二三人ひきつれ【?の者二、三人引き連れ】
大いそへ【大磯へ】
おしよせ【押し寄せ】
ければ【ければ】
まい【舞】
づるやの太夫【鶴屋の太夫】
たきかわを【滝川を】
やくそくして【約束して】
おき【置き】
しよ【初】
かいなれ共【回なれ共】
ちややまで【茶屋まで】
むかいにいで【向いに出で】
新之丞か【新之丞が】
おとこふりに【男振りに】
なれそめ【馴れ初め】
ふかき中と【深き仲と】
なりけり【なりけり】
これより【これより】
忠二【忠二】
おきに【お気に】
いりとなり【入りとなり】
とふ【当】
ざの【座の】
ごほふ【御褒】
びと【美と】
して【して】
しろ【銀】
かね
づくりの【作りの】
おき【御煙管を】
せるを
くださり【下さり】
けり【けり】

【左頁下】
むかしの【昔の】
もへきがよに【萌黄?が世に】
でたも【出たも】
ありがたい【有難い】

うまい【上手い】
ねへ【ねえ】

新之丞【新之丞】
ひにまし【日に増し】
ふかき【深き】
なかと【仲と】
なり【なり】
たき川も【滝川も】
たひ〳〵【度々】
なれども【なれ共】
すこしづゝもとめおきそのうへおくがたの【少しづつも留置き、その上、奥方の】
ある事もしりながらかへらふといへは【ある事も知りながら、帰ろうと言えば】
しやくをおこし女郎かいに【癪を起こし、女郎かいに】
かふしやくもあれどいろおとこは
いちわりがたしやふぶなお
しいよふなれども
かふる事も
はやし

【右頁右下】
あしたまた【明日、また】
こよふ【来よう】

【右頁左下】
こんやに【今夜に】
おいで【御出で】
なんし【なんし】


【左頁】
かけゆいんきよ【勘解由、隠居】
してなにの【して、何の】
ふそく【不足】
なきに【無きに、】
ねいじんの【佞人の】
すゝめにて【勧めにて、】
わかとの【若殿】
身もち【身持ち】
あしく【悪しく】
なり【なり】
給ふ事ひそかに【給う事、密かに】
ひめきみにあひ【姫君に会い】
かならず〳〵【必ず、必ず】
おんなのたし【女の嗜みは、】
なみは
りんき【悋気】
しつと【嫉妬】
事にしも〳〵とは【事に下々とは】
ちかふいろはたんかのよふに【違う、いろは短歌の様に】
ふうふけんくわはなるまいし【夫婦喧嘩はなるまいし、】
とうじやう寺のやうにつのゝ【道成寺の様に、角の】
はへぬやうにいけんし給ふ【生えぬ様に、意見し給う】

【左頁下】
おんなどもの
いふ事を
ま事に
しやんな

ちゝうへのいけんを【父上の意見を】
まもりかたくりんきを【守り、固く悋気を】
たしなみたまへとも【嗜み給え共】
おつぼねとおくからうと【御局と奥家老と】
そふたんのゆめを見【相談の夢を見】
給ふ【給う】

〽おくづき石山甚太夫を【奥付、石山甚太夫を】
よびおつぎ〳〵の女中【呼び、おつぎおつぎの女中】
よりやいあれほどおなかの【寄合、あれほど御仲の】
よいごふうふ中大いそへ【良い御夫婦中、大磯へ】
ばかりおかよひなされ【ばかり御通いなされ】
なか〳〵わたくしども【中々私共】
なればたいていの【なれば大抵の】
りんき所ではあるまい【悋気所ではあるまい】
ごふくやへうろこの【呉服屋へ鱗の】
小そてをあつらへ【小袖をあつらへ】
ひたか川なら【日高川なら】
ちよきにでものつて【猪牙にでも乗って】
おつかけるにすこしも【追っかけるに、少しも】
おはらもたゝず【お腹も立たず?】
いかにしてもけいせいめか【いかにしても傾城めが】

にくいやつ【憎い奴、】
その女郎さい【その女郎さへ】
なければ【なければ、】
こふいふ【こういう】
事も【事も】
あるまい【あるまい、】
にくゝて【憎くて】
なり【なり】
ませぬ【なせぬ、】
どうそ
しやふは【仕様は】
ござり【御座り】
ます【ます】
まいかと【まいか、と】
そうだん【相談】
する【する。】

【右頁下】
ひめきみ【姫君】
くさそうしを【草双紙を】
よみかけとろ〳〵【読みかけ、とろとろ】
ねむり給ふ【眠り給う】

【左頁下】
ゆふぢよどもの
たらしをるは
このほうどもの
ふんべつにも
まいらぬ

甚太夫かたきこゝろにて【甚太夫、敵心にて】
女中ととも〴〵たき川を【女中と共々、滝川を】
にくゝおもひほかに【憎く思い、他に】
しあんもなくうしの【思案もなく、丑の】
ときまいりと【刻参りと】
こゝろづき【心付、】
まつあたまの【先ず、頭の】
うへのらうそく【上の蝋燭】
たてかなくては【立が、なくては】
なるまいと【なるまいと、】
かまくらちうの【鎌倉中の】
ふるもの見せを【古物店を、】
せんぎして【詮議して】
見れど【見れど、】

きうな事ゆへ【急な事故、】
ひとつも【一つも】
なし【なし、】
三ほん【三本】
あし【足】
□□
ごとくと【五徳と】
□て【まで?】
こゝろ【心】
づけども【付ども、】
さきか【先が】
まかつて【曲がって】
いるゆへ【いる故】
らうそくが【蝋燭が】
たゝず【立たず、】
しかくな【四角な】
ごとくにては【五徳にては、】
あしが一つほん【足が一本】
おゝしらうそくの【多し、蝋燭の】
ものいりは【物入りは】
かまわねども【構わねども】
四ほんといふは【四本というは】
きゝおよばす【聞き及ばす】
い□□【くら?】もふるいのが【古いのが】
ありそうなものひとつも【ありそうなもの、一つも】
ないといふものはゑんしう【ないというものは、遠州】
はままつじやないが【浜松じゃないが】
ひろいよふで【広い様で】
せまいとおもふ【狭いと思う。】

【右頁下】
むこふの【向こうの】
てつやかんは【鉄薬缶】
いくらだの【幾らだの】

【右頁左】
ぎん三両で【銀三両で】
ごさります【御座ります】

【左頁下】



□□
なは
ないかの

いろ〳〵と【色々と、】
せんぎ【詮議】
すれども【すれども、】
らうそく【蝋燭】
たてに【立に】
こまり【困り、】
ひそかに【密かに】
かぢやへ【鍛冶屋へ、】
きたり【来たり。】
ねだんは【値段は】
のぞみ【望み】
したいに【次第に、】
つかわす【遣わす。】
よなべにでも【夜なべにでも】
して【して、】
人のめに【人の目に】
かゝらぬ【掛からぬ】
よふに【ように】
たのむと【頼むと、】
ちうもんを【注文を】
見せ【見せ、】
すい【随】
ぶんあたまへらうそくの【分、頭へ蝋燭の】
ながれぬよふにたうをも【流れぬように】
つけか□かあたつて
き□□てはならぬ

ぼんぼりも【雪洞も】
いつしよに【一緒に】
いゝつけて【言いつけて】
くだされついでに【下され、ついでに】
かなづちも一本【金槌も一本】
とゝのへねば【調えねば】
ならぬと【ならぬと】
あつらへければ【誂えければ】
あまりたひ〳〵も【余り度々も】
なきさいくゆへ【無き細工故】
ふかつてなれと【不勝手なれど】
もちはもちやにて【餅は餅屋にて】
ぐつとのみこみ
うけとりけり

【右頁下】
かよふな【斯様な】
まるい物は【丸い物は】
むづかしふ【難しゅう】
ごさります【御座います】
か【ど?】かまるは【角が丸は?】
いかんだと
いわれては【言われては】
なり【なり】
ませぬ【ませぬ】

【左頁中】
とんだ【とんだ】
ながつちりな【長っ尻な】
きやくだ【客だ】

ほど【程】
なく【なく】
した【支度】
くもできおれきれきの【も出来、御歴々の】
事なれは【事なれば、】
御じしんには【御自身には】
したまわず【し給わず】
ごだいさんにて【御代参にて】
明神のもんぜんまで【明神の門前まで】
ひやううちののりもの【鋲打ちの乗物=鋲乗物】
しやうふかわのおとも【菖蒲革の御供=菖蒲革装束の御供】
うしの【丑の】
上こくに【上刻に】
来り【来り】

かたへに【傍に】
とも【供】
まわりを【供回りを】
またせ【待たせ】
しんぼくのそば【神木の側】
までたゝひとり【まで唯一人】

おさたまりの【御定まりの】
しろしやうぞくてんきが【白装束、天気が】
よくてもたかあしだにて【よくても、高足駄にて】
九尺ばかりあるうしの【九尺ばかりある牛の】
ねている所をひよいと【寝ている所を、ひょいと】
またぎおもふうらみを【跨ぎ、思う恨みを】
とりころさんと五寸【取り殺さんと五寸】
くぎをかなつちにて【釘を金槌にて】
とん〳〵とゝんと【とん、とん、ととん、と】
うちこむ【打ち込む】

【右頁下】
やれ【やれ、】
おそろしや【恐ろしや】
おとこの【男の】
てぎはには【手際には】
いかぬ【いかぬ】
事じや【事じゃ】

ひめきみ【姫君】
とろ〳〵と【とろとろ、と】
ねむり【眠り】
給ひ【給い】
おそろしき【恐ろしき】
ゆめにて【夢にて】
めをさまし【目を覚まし】
ちゝうへの【父上の】
ごいけん【御意見】
りんき【悋気】
しつとははづかしく【嫉妬は恥ずかしく】
うわきにもつゝしみ【浮気にも慎み】
給ひけれども【給いけれども】
こゝろにこゝろで【心に心で】
あいそかつき【愛想が尽き】
ごきぶんあしく【御気分悪しく】
おかほいろあしきゆへ【御顔色悪しき故】
みな〳〵おどろき【皆々驚き】
おくすりよ【御薬よ、】
おゆよと【御湯よ、と】
さわきけれど【騒ぎけれど】
うき〳〵とも
したまわず【し給わず】
おむづかるゆへあんしける【御憤る故、案じける。】

【左頁】
ひめ【姫】
きみ【君、】
人に【人に】
はなし【話】
たまわす【給わず】
たき【滝】
かわが【川が】
おもわく【思惑】
さぞや【嘸や】
つね〴〵【常々】
りんき【悋気】
ふかからんと【深からんと】
おもわんと【思わんと】
おぼしめし【思召し】
まいづるや【舞鶴屋】
までひそかに【まで密かに】
おつかいを【御使いを】
つかわされとのさまの【遣わされ、殿様の】
たひ〳〵御出あそはし【度々御出で遊ばし】
さぞなにか□
おせわと【御世話と】
れいながら【礼ながら】
たづね【訪ね】
来る【来る】

【左頁中】
〽はてめつらしいおきやくだおまへさま【はて、珍しい御客だ、御前様】
かどちがいては【門違いでは】
ござり【御座り】
ませぬか【ませぬか】

たき川【瀧川、】
ひめより【姫より】
おれいとして【御礼として】
こま〳〵との【細々との】
やうすを【様子を】
きゝいかばかり【聞き、如何許り】
此ほうを【此方を】
おうらみ【御恨み】
なんしても【何しても】
ごもつとも【御尤も】
なれども【なれども】
いかになかれの【如何に流れの】
身にても【身にても】
めんぼくもなし【面目もなし】
ふとなれ【ふと、馴れ】
そめしより【初めしより】
きんぎんにて【金銀にて】
たいせつに【大切に】
せしといふ【せしと言う】
でもなし【でもなし】
たとへ【譬え】
こいには【恋には】
いのちも【命も】
すつる【捨つる】

ものなれど【ものなれど】
おくさまへは【奥様へは】
ぎりたゝず【義理立たず】
けいせいは【傾城は】
人てなし【人でなし】
いづれも【何れも】
おなし【同じ】
こゝろかと【心かと】
おさげすみ【御蔑み】
なんしては【なしては】
おなじながれの【同じ流れの】
かほゝもよごして【顔をも汚して】
いゝわけなく【言い訳なく】
いつそもふ【いっそ、もう】
どふしんしやふのふ【どうしんしょうのう】
ばからしいと【馬鹿らしい】
おもふ【思う】

【右頁右】
おやしきはきれいだの【御屋敷は綺麗だの】

【右頁右下】
瀧川さんの【瀧川さんの】
きやふだい【兄弟】
しゆかの【衆かの】

【左頁下】
たび〳〵御出【度々、御出】
あそばしさぞ【遊ばし、さぞ】
御せわに【御世話に】
ござり【御座り】
ませふ【ましょう】

新之丞は【新之丞は、】
いつもの【いつもの】
とをりに【通りに】
きたり【来たり。】
瀧川に【瀧川に】
あいけれ共【会いけれ共】
ついぞなく【終ぞなく】
ふん〳〵と【ふん、ふんと】
してなにか【して、何か】
わからずがてんの【わからず、合点の】
ゆかぬ事と【ゆかぬ事と】
おもひこいなれは【思い、】
こそあやまり
ぐち
なんと【何度】
いふても【言うても】
つん〳〵と【つんつんと】
ばかり【ばかり、】
もし【もし】
また【また、】
ほかの
うちへ
でも
いくと

いふものでもあるかと【言う者でもあるか、と】
といかくればなにとも【問かくれば、何とも】
あいさつもせすくつと【挨拶もせず、くっと】
かんしやくをおこし【癇癪をおこし】
ふんごぶしのやうに【豊後節?のように】
あとであやまる【後で、謝る】
つもりにて【つもりにて】
したゝかちやうちやく【したたか、打擲】
すれど【すれど】
うむの
あいさつも【挨拶も】
せづさては【せず、さては】
ほかによい【他によい】
きやくが【客が】
あつてあいそ【あって、愛想】
つかしと見へた【尽かしと見えた。】
そふとは【そうとは】
ゆめにも【夢にも】
しらなんだ【知らなんだ】
ま事の【誠の】
ちくしやうめと【畜生め、と】
はらたち【腹立ち】
かへりける【帰りける】

【右頁左下】
見さげ【見下げ】
はてたちく【果てた、畜】
しやうめ【生め】

【左頁下】
忠二【忠二】
おとろき【驚き】
かけきたる【駆け来る】

新之丞【新之丞】
瀧川か所にて【瀧川が所にて】
はら【腹】
たち【立ち】
けれ共【けれ共】
すこしも【少しも】
とめも【止めも】
せず【せず】
かへし【帰し】
けるゆへ【ける故】
これまで【これ迄】
いろ〳〵【色々】
たまされ【騙され】
かよいしが【通いしが】
かないの【家内の】
ものにも【者にも】
めんぼくも【面目も】
なく【なく】
おもへは【思えば】
〳〵【思えば】
はらのたつ【腹の立つ】
もはや【最早】
ひとめも【一目も】

見るしよ【見る、所】
ぞんもなしと【存もなしと】
大いそ【大磯】
かよひを【通いを】
さつはりやめ【さっぱり止め】
うちに【家に】
ばかり【ばかり】
とぢ【閉】
こもり【籠り】
四きの【四季の】
ほつくを【発句を】
かんかへたり【考えたり】
百いんの【百韻の】
てんとりでも【点取りでも】
して【して】
たのしみ【楽しみ】
これほど【これ程】
おもしろい【面白い】
事をして【事をして】
よしなき【由無き】
事に【事に】
おもひたしても【思い出しても】
くちおしいと【口惜しいと】
おもひけり【思いけり】

【右頁中】
けいせいといふても【傾城と言うても】
女ほうと【女房と】
いふても【言うても】
こいさ【恋?さ】

【右頁中下】
けいせいといへば【傾城と言えば】
こいになりますか

【右頁下】
おつかいか【御使いが】
かへり【帰り】
ました【ました】

わかとの【若殿】
身もち【身持ち】
ほふらつは【放埓は】
はんはの忠二が【番場の忠二が】
しわざにて【仕業にて】
そのきよに【その虚に】
のつておゝくの【乗って、多くの】
御用金を【御用金を】
ぬすみ【盗み】
いたし【致し】
たれも【誰も】
しらぬと【知らぬと】
おもひ【思い】
まし〴〵【まじまじ】
しやあ【しゃあ】
〳〵【しゃあ】
として【として】
いれば【居れば】
そばの【側の】
もの【者】
でも【で】
しらね共【知らね共】
てんとう【天道】
さまは【様は】
御そんじ【御存じ】
にて【にて】
すこしの【少しの】
事より【事より】
あ□□

あら【顕れ】
われ
もふ【毛】
せん【氈】
かぶり【被り】
よりかせには
うけとり
にくけれども
わりたけ【割竹】
にてたゝき【にて叩き】
だされ【出され】
けれとも【けれども】
おきの【御気の】
とくと【毒と】
いふものも【言う者も】
なく【なく】
いつかちう【一家中】
くちを【口を】
そろへて【揃えて】
そうた【そうだ】
ろう〳〵と【ろう、そうだろうと】
いふもの【言う者】
ばかり【ばかり】

【右頁下】
くさそうしのせりふの【草双紙の台詞の】
とふりたいぼくの【通り,大木の】
はへぎはたち【生え際、立ち】【「大木の生え際」は当時の流行語】
ませい

【左頁下】
忠二〳〵【忠二、忠二】
□この
くわへはじつ
ちやうと
わり竹にて【割竹にて】
たゝく【叩く】

つゝいづゝのもとにてふりわけ【筒井筒の本にて振分】
かみのおりよりいもせの【髪の折より妹背の】
かたらい又かわちの国【語らい又河内国】
たかやすのさとへ【高安の里へ】
からかいけれは【からかいければ=負けまいと張り合う?】
そのときおんな【その時、女】
うらむべきを【恨むべきを】
かぜふかば【風吹かば】
おきつしらなみ【沖つ白波】
たつた山よわにや【たつた山夜半にや】
きみがひとり【君がひとり】
ゆくらんと【行くらん→越ゆらん】
よみければかわちかよひをやめけり【読みければ、河内通いを止めけり】
それにひとしく【それに等しく】
瀧川をしんせつに【瀧川に親切に】
たのみければ【頼みければ】
たき川ふり【瀧川振】
つけ大いそ【付け、大磯】
かよひやみける【通い、止みける】
又瀧川が心もかんじ【又、瀧川が心も感じ】
やしきへ身うけして【屋敷へ身請して】
たかいの心ま事あるゆへ【互い?の心、誠ある故】
長く松山の家さかゑけるそめてたかりけり【長く松山の家、栄けるぞ、目出度かりけり。】

【右頁下】
あり【あり】
がたふ【がとう】
そんじ【ぞんじ】
ます【ます】

思事夢濃枕

          市 場 通 笑 著
思 事 夢 の 枕            全

安永十年印本 (印)(印)
  思事夢乃枕



【上段】
爰に夢中庵ねぼうといふものあり
一生はゆめのことしとさとりよのなかを
ぬらりくらりとへめくりあるきうたか
はいかいのあんぎや【行脚】といふみぶりにていかめしく
いでたちけれどもなか〳〵にたところてはなし
しをからこへて【塩辛声で=しわがれ声、かすれた声で。】はなうたさへいかすはいかいも
そのとふり五もじとさへふくろばかりもち
とんといかぬしろものなれども
とりへにはおふちやくな心
なく  れいのことくしよこくを
ある  きさんちう【山中】にてせんにん【仙人】と
おぼし き人にでやい【出会い】ひとつの
箱を
さづ
かり
けり

【下段】
見かけとは
□□し□
き□□い
ちかい
 じや

【右丁】
ねぼけは
おもいも
よらす
せんにん【仙人】
より
かん
たんの
まくら【邯鄲の枕】を
さづかり犬も
あるけばぼうに
あたるとはおふ
ちかいうりもの に
しても
ひとかぶ【一株=一財産】
にはなり
そふな
ものと心
やすきもの
をたのみ
かまくら

【左丁】
あたり
のおだい
みやうへ
五百両
斗【ばかり】にうる
つもりにて
二三げんも
おめに
かけけれは
百両も
すれはおなぐさみにおかい上に
なれともすこしねうちかかふぢよ
く【「高直」=「こうじき」とも「こうちょく」ともいう。】とて下りそのはづのこと
なにもおたいみやうに
ゑいくわ【栄華】の
夢もいらぬ
事おた
のしみは
ふだんのと
ゑいくわをしたに
かたりもの【騙り者=詐欺師】にはかねが
なくかねが
あれはまくらにもおよはぬとわろふ

【右頁】
かんたんのまくら【をう】りものにしてみた
れともはか〳〵ともいかすてまへにてためし
てみたところかとほふもない
ことそれからのおもいつき
にてにぎやかなるところへ
たなをかりさきの望み
しだいのゆめをみせたつた
ひとつのまくらを
外にるいなし【類無し=くらべるものがない。では?】
かんばんをいたし
けれはおひゝ
たゝしくひやう
ばんこれはなに
をおいてもみすは
なるまいといふ
ものばかりちか
ころのおもいつき
なんでもぢきに
おつかぶせる
よのなか
なれ共

【左頁】
にせも
まねも
ならぬ
ことこれ
でまくら
かとふ計【斗とも読めそうですが?】
もあろう
なら
たち
まち
かど
やしき
ても
かはれ
そうな
こと
なり

【左頁画中】
栄華の夢
うたゝ寝
百銅
ひととき
弐百銅
御泊
金百疋
右之通御座候以上
夢中庵

【右丁 上部】
日〳〵のおふひ【やう】
はんねにくるもの
ひきもきらす【絶え間がない】
され共まくら 【ARC古典籍DBで「ま」を確認】
一ツにてもど
かしくたゝ
ねなどはこと
わりをいゝ
ひとゝきね
はかり一日に
七ツならでは
きやくも
とらすそれ
からとまり
を壱分
とりなか〳〵
てまへでなと
はつねの
ゆめより
ほかはみた
事もない
くらいの

【左丁 上部】
ことかほみ
せのさじき
のよふに十日も
さきへいゝこみ【言い込み=申し込み】か
ありくるとはきやく
かねるゆへなんの
せわもなくくる
ものもてまへの
おもふ事を二百
ばかりでみよふ
ならうまい
ものそのうへひるか
なしにする
ものもあり
まつひとゝき〳〵
おむかいを
  かける

【右丁 下部】
ちやは
あがり
ます
 な
 ね
 そ
びると
ごそん
 じや

【左手 下部】
ごを〳〵

【右丁】
一はんにねたる
男としのころ
四十ばかりて
しごくりちぎ
にみへとこのたれ
ともなもしれすふところ
よりかみ入をだしいつ
いれたかおほへぬかねか壱分
ありこれはふしきな どふも
あろふはづかないかてん【がてん(合点)】かいかぬ
といろ〳〵にしあんしていつそ
ないものにしてとみのふた【富の札】を
一まいかおふあたらぬときは
おはつに上たとおもへば
よしといちまい
かつてみた
ところだい
一ばんにて百両是は

【左丁】
けし
からぬ
おれいの
ため又一両て四枚かつてよもやと
おもいついた日にもいかす十日斗【ばかり】
過てみにゆけば四まいの
札か一二三とはなまであた
りつかもなく【つがもなく=とんでもなく】かねかでき
どうしてかうして
とたのしみ
いる内もふお
ひんなりませ【「お昼成りませ」の変化した語。お目覚めになる、お起きになる意の女房詞。】

【右丁 右下部の布に】
大願成就
 □喰□□

【右丁 中段の立札】
御富
来ル廿六日興行

【右丁 中段石灯篭の脚】
奉(納)

【右丁】
つぎのおきや【くはいな】かの人かおやしき
しれすひさしいねかいにてめしか
こわめし【もち米を蒸籠(せいろ)で蒸したり釜で炊いたりした歯ごたえのある飯】汁かむつ【魚の名。冬に美味。】にとふふ【豆腐】のこく
せう【「濃漿」こくしょう=料理の一種。肉や魚などをよく煮込んだ濃い味噌汁。】むきみ【蛤や浅蜊などの貝類の殻をとった中の肉】のぬたにとうからしを
したゝか入やつとひつたてるやうな
まぐろのやきものとくりにさけを一升をき
たとへとのやうなしんだい【「身代」=身分、地位、暮らし向き】になつてもも此上
ののそみはなしよの中でもこふ
ゆふりやうりは
しらぬか定メて
お大名はこんな物
をあがるてあろうだい
みやうにはなにかなる
やらとひとりこと はしも
とらすにためつすがめつ【あちこちの向きからよく眺めるさま。】
ながめいれば

〽モシ〳〵
ひさしい【時間が長く経っている】ねやふ【寝様】だ
 おきなさへよ

【左丁 上部の大部分が消えているので、見えている部分だけを翻刻する】
【つぎのおきやく】はつりすきとみへてねる□
【そのまゝとり】かぢ〳〵とねごとを  【「とりかじ(取舵)」=船首を左へまわすことをいう船方言葉。】
【いゝこのころにな】いであてたとん
【でもないよいなきた】とかしをふり【「舵を振り」か、「楫(かぢ)」カ】
【はりをおろすとそ】のまゝにたいやさん
【ねんくらいはめつらしくも】なし十年にも
【なるかつうのやうな】きすくふほほと【「ほふど」=困惑するほど】に  【「かつう」=「かつお(鰹)の変化した語。】
【かゝるほとにふねにおき】どころもない
【くらいこれはえさがた】りぬは〳〵と
【そのことばかりくろう】にしてまつ
【おふや様へにほんとなり】とあにきの【大家様へ二本、隣と兄貴の】
【ところとあすこへも】こそふ【小僧】か
【せわになるからやろふ】ほんに
【むかふのこんれいきす】でもよか
【ろうかすこしは】やいがたな
【うけへもせつく?】やろふ   【店請け人のこと。=店子の身元保証人。】
【のこつたのをかう】あ□?と
【ふねからあがら】ぬ
【うちに】

【〽おひん】
【なれよ】
 

【右頁】
つぎの
おきやくは
とふらく
らしく

ないふ男
ついにあ
そひに
いつても
もてたこともなく
せめてふられぬように
たちまわりどんな
ふいひきなしろ物でも
よくさへしてられれば
ためにもなるきで□に
かいのところとほふもない
うつくしいのを□□なむ
さんほふとおもいのほか
つかもない上□ゆひゆめては
ないかとゆめ
のうちに思ひ
またこの

【左頁】
ころといへとも
ちきにあす
にもくるき
にてかへろふと
いへともかへさず
しよかひなれ共
二三人はなし
にきてな
なん
ぞはなしを
しなんしとお
なじやふにとめ是は
まあとふゆうことた
そかの十郎かかち
わらげんたか
とふいふりくつか
わからすかけにいつた
そんもなしこれては
□ふもかへられぬ
とまつてていかふ
〽もしへ〳〵
おひんなれ
もふ□□が
ねよふ
〽今日は跡か
つかへております

【右上】
次のおきやくはめつらしい十四
はかり【歳が十四ぐらいの】のやぶり【「やぶいり(藪入り)」の変化した語。春と秋の二回あった。】つねはお
こされるものか七ツまへから
めをさまし
ほふひき【「ほうびき(宝引)」…福引の一種。数本の縄をたばね、その中の一本に橙(だいだい)の実(胴ふぐり)をつけてそれを引き当てた者に賞をだすもの。銭をつけて引かせることもあった。中世から近世にかけて、正月の遊戯として行なわれ家庭で行なうほかに、辻宝引、飴宝引などの賭博的なものもあった。】にかつた
弐百【価格から「ひととき寝」】でねてみれは
おさだまりに
ゑんまさまにまいり
あさくさのくわん
おんさま
かめゐど五百ら
かんそれから
うざえもんへはいる
あきたい【飽き、退屈】


【左丁】
くつをするほどみて
そとへてた所かまた
はやいからめくろへ参り
かへりにこひき丁【木挽町=東京都中央区銀座の歌舞伎座付近の旧地名。江戸時代、森田座、山村座など多くの芝居小屋があったため、それをさしていうことが多い。】
をひとまく【一幕】みて又
さかい丁【「堺町」…東京都中央区日本橋人形町のあたりにあった地名。江戸時代の芝居街で葺屋町の市村座に対して中村座があった。】かんさ【「かんざ(勘三)」…歌舞伎やその劇場をいう言葉。(歌舞伎俳優中村勘三郎の略称で、初代が江戸歌舞伎の創始者であるところから転じた語)】へはいり
これもしたゝかみて
にんきやうしばいみなん
たとひせんみ?てこれから
両国【江戸時代に火除地となり、芝居茶屋、飲食店の並ぶ盛り場であった。川開きに催された花火でも有名。】へいかふかまつ内【料理屋の屋号か】へいつて
なんそうまいものをくおう
内てもねたりおきたりして
あそひぬすつとに?て
も七日斗り□ものは
ありよく〳〵の
ことてまへのほう
からめをさま
せは まだおまへはや
     い に よ

【右丁】
つぎのおき【文字が消えていて判読不能だが、推定で翻刻】やくは
しばいすきとみへ
てまつているうちから
しばいのひやう
ばんはるきやう
げんのそがは
かほみせから
たのしみたれが
なにこれが
あれとしわすの
うちからむな
さんにやう【「むなざんよう(胸算用)に同じ。】初日
をまちかね
見物にゆけば
さじきのもふせん
切おとし【「切落」…江戸時代の歌舞伎劇場で平土間の大衆席。仕切りがなく大勢詰め込んだので追込場、大入場ともいう。】のわり
こみ【「割込」=劇場などで、土間や桟敷の一枡(ひとます)の中に、連れ以外の人と同席して見物すること。またその枡。】らかん【「らかんだい(羅漢台)」の略。…江戸時代江戸の劇場で、舞台の下手(しもて)の奥、花道の先端からさらに入り込んで、一段高く柵のように設けられた下等の見物席。客は役者の演技を背後から見ることになる。中村座、市村座だけにあり、森田座にはない。土間から見ると羅漢が並んでいるように見えるところからいう。】 には
人の山これまで
にない大入
一ばんのたい
めんのところ
左エ門祐経

【左丁】 
尾上菊五良【郎】
八わたの三良
本□京の三良
  市川團十郎
近江の小藤太
  中村仲蔵
曽我の十良  松本幸四良
五良ときむね 市川門之助
小林の朝いな 中嶋三甫右エ門
伊豆の次良  尾上松助
梶原源太   中嶋勘左エ門
大いそのとら 瀬川菊之丞
けわい坂のせう〳〵 岩井半四郎
鬼王新左エ門 坂田半五郎
同 団三良  大谷友右エ門
これはまあ
とんだおおきい
たいめんだたにんに
みせるものではないと
よろこびこれより
第二ばんめはじまりと
まくをひけば
ぞく〳〵して
たのしみければ
〽申し〳〵
おひんなれ
【これ以後数字分消えていて判読不能】
     のけぞりてよふだ

 

【右丁】
つきの【数字分消えていて判読不能】おふくろさまだんきまいり【「だんぎまいり(談義参)=寺院に参詣して法話を聴聞すること。】の
よふに□□□んとふにてとしよりには
めつらしくねつきよくまことに
ねむるかごとくびやふ〳〵たる【びょうびょうたる(渺渺たる)=広く果てしないさま。遠く遥かなさま】と
ころへいでふしきやいきやふ【「異香(いきょう)=普通と異なるよいかおり】くんじて【「薫じて」=かおって、ただよって】
おんかく【音楽】きこへそれはねりくよう【練り供養…法会で、奏楽、稚児などをまじえて練り歩く儀式】
のやうてもあり又としま丁の
とふしんではなしさては
へいせい【へいぜい(平生)】ねがふこしやう【後生=極楽に生まれること】
ゆへこくらく【極楽】へおふじやふ【往生】
するとみへたりありかたや
とおもふところへ向ふより
ちぞふほさつ【地蔵菩薩】きたり
たまいおふくろまだ
こつちからむかいも
やらぬによふきどう【「詭道=近道、抜け道」あるいは「鬼道(餓鬼道)」か】
にてやしやつた【「出やしゃった=お出になった】
二十人のほさつも
けふはほかへむかい
にまいったゆへまづ
とうもん【東門=極楽の東門】まてはわし
ひとりてとふ〳〵【同道】し
ましやうごせう【後生…死後極楽に生まれること】ねかい
かおゝいゆへごくらく

【左丁】
□【?】こみやい【混み合い】ますかきさま
などはたやう【?】の二三
のうちへわりこん
でやりませう
こふてごさるよつ
てはかわることもこ
さらぬかと
なにから
なにまで
きつい【大した、大変な】おせは【お世話】
おふくろに
おひんなりませ
めをさまし
やれ〳〵
ありかたや
ゆめで
あつたか
まづゆめ
   も
ましか

【右丁】
つきのおきやくは
しとゝみしめな
むすこおせい
かやましい
とこかへてとう
せいもなく
おさたまり
のなり
おふくろのない
しやう
にて若
け【若気=いかにも若そうなさま】のはひ
とつきやい【人付き合い】も
あるものと
とひいろ【鳶色=茶褐色】のみつもん
のはおりころものやうに大
きくしてちやかへし【茶返し=濃い茶色】の小袖に
ひとんす【緋緞子=緋色(鮮やかな赤)の緞子(地が厚く光沢の多い絹織物。多くは紋織。)】のおひ【帯】やわたくろ【八幡黒=黒く染めた柔らかな革。】の
さんまいうら付【?】にておやしきの
まとした【窓下】をとふれは女中の
こへにてやくしやかとふります
といへは外の女中いへやくしやては
ござりませぬとふりもの【通り者=世情・人情に通じた人。粋な人とやら
いふとやうてござりますときてやれはおもひ三枚うら付【?】けにて
 これから深川の方へまいろふとおもふ門〽あに様におひんなり

【左丁】
つきのおきやくも
□□【?】きひしき人
なにかしあんかほ
にてふらう?く【「ぶらから」とか「ふらつら」、「ぶらりからり」という語はあるが、ここはどう読むのか?】
あるきけれは人
通りもなき所に
千両ばこ三箱
あたりをみれは
人もななしいや〳〵
あとでしう【「主」あるいは「衆」か】の
きく事になる
しん【以下数字分判読不能】
のかね□□か□
かまをほり□□
たものもありて
さつかるものお【以下数字分判読不能】  けのさた
とおり 【以下数字分判読不能】      をたし
千両  【以下数字分判読不能】        また
ひとなとを 【以下数字分判読不能】     はこ
てはいこか 【以下数字分判読不能】    もたれ 
もせずたる□の 【以下数字分判読不能】   せう
のはしやうたりて□むなしく
 かへるかさんねんなとときむねか
   たいめん【曽我物狂言で曽我兄弟が工藤祐経と対面する場面で、慎重な兄十郎祐成に対して弟五郎時致(ときむね)が、血気にはやった行動をとろうとしたこと】のしうちどうした 
     ものとおもふうち
        〽おひんなりませ      

【右丁】
つきのおきやくはむすめを三人もち
しまんこゝろ【自慢心】にてまりうた【鞠歌…歌舞伎下座音楽の一つ。三味線と唄でにぎやかな正月の気分を表わす。】を
おもひたしひとりのあねき【姉貴…「あねぎみ(姉君)」の変化した語か】は
たいこをならわせそのつき
にはつゝみをならわせ
ことさみせんといふ
所をあしな【味な=気が利いて意外なこと】
おもひつきなり
ばつし【末子=末っ子】のむ
すめきたてな
ことかすき
ゆへこうせいに【豪勢に?】
こしらへむらさき
ちりめんにひわ
ちや【「ひわちや(鶸茶)」なら萌黄色の黄ばんだ色、「びわちや(枇杷茶)」なら黄のくろずんだ色。】のうらふし
いろのむく【無垢=同色の無地】きん
なしのしんおり【新織=新たに織り出した織物】
のおひした【帯下=搔い取り(着物の褄や裾をからげて裾が地に引かないように引き上げること、またその姿。)を着るときに使う小袖】やいちばんたてしや【伊達者=派手な服装で粋なことを好む人】て
こさるくらいては
なしさかひ丁【堺町=東京都中央区日本橋人形町のあたりにあった地名。江戸時代の芝居街で中村座があった。】ても
深川【東京都江東区西部の地名。安永・天明年間(一七七二~八九)には深川遊里がさかえた】ても橘丁【橘町=東京都中央区東日本橋三丁目付近の旧地名。江戸時代踊り子と称するいわゆる転び芸者が多く住んでいたという。】へ
てもどうぼうまち【同朋町】ても
まけぬきにてきやう
たいのたいこつゝみの

【左丁】
しやうづ【上手】にておつり【余分、それ以上】
ないかとほめるもの
かあれはこゝにいる
とまかりいて
ほしかるところ
も山〳〵あれは
しうとはひとり
かふたりか
むこはりかうか
へらほう【「べらぼう(便乱坊)」=江戸時代、寛文(一六六一~七三)末年から延宝(一六七三~八一)にかけて見世物で評判をとった奇人。】の
しばいは月にいくたひ
み付け□?たね□□よるか
とうしやう【以下数字分判読不能】
ぬかすととりかへす
のなんのかのとてりくつ
はり【「理屈張り」=ひどく理屈を言い張る。】またやう〳〵
十四をかしらにして
十一ト八ツ
〽やうおひん
  なりませ
とほうもない
ひるまねことを
  おつしやつた
 

【右丁】
つきのおきやくは
なんてもちよさい【如才】
はなさそふな
いきなおとこ
ふらり〳〵と
のかけ【のがけ(野掛け)=野あそび】にいて【いで(出で)】
はなのさう【「花の相」=花の姿、形】
をなかめたの
しみまことに
のとかなるひよ
りはなくもり
のようではなく
ゆふたちのけ
しきなれさん
ほふ【「さんぼう(山房)」=山荘か】といふまも
なくふつてくる
しりをからけて
やう〳〵とはなれや
まてかけつけし
はし【しばし=少しの間】くもきれ【「くもぎれ(雲切れ)=雲の晴れ間】を
またんとさし
のそき【差し覗き=覗いて見る】すこし
こめんなされ
ませといへば
としのころ
二十八九の

【左丁】
にやうぼう
ぞつとするほと
うつくしきのかたゝ
ひとりよほとよき
すまひなれとも
ほかに人もみへす
扨はきつねではないか
とおもふくらいのと
女房はたはこぼん【煙草盆】
をいたし【い出し】きつい【ひどい】
おぬれなされ
よふだこの
ゆかたをめし
ておかたひら【お帷子=ひとえの着物】
をちつと
ほしてあけ
ましやうと
きかへさせひつしより【びっしょり】
ぬれしゆへ少しさむく
なれはひるうち【昼内か】こ
たつへおあたりな
されませとあたらせ
おふつめたいと女房も
あたれは
  〽もしおい〳〵おひん
    なりませ

【右丁】
つぎのおきやくはひとつ
長屋【同じ長屋】にいる佐次平と
いふものこの男せう
とく【「しょうとく(生得)=生まれつき】よくとうし【欲どうし】き
ものにてねほう【ねぼう(寝坊)】
せんせい【先生】も枕か
はやりてひね【賽銭や祝儀などを紙で包んで、紙の端の部分をよじり合わせたもの。おひねり。】
かはいり【入り】きん
きんは山のことく
てきれとも子
供もなくだれ
にゆづろうと
いふものもなし
大屋さまのおせは
にて佐次平をむすこにそふたん【相談】
すれはもとより
大のよくしんもの【「欲心者」=欲深くむさぼる心をもつ者】な
れはそふたんき
わまり【決まる意】なるや
としゆへさつそく
ひつこしねほう
せんせいもよろ

【左丁】
こびすくにしん
だい【すべての財産】をゆづりて
かぎをわたし
けれはこれからはおれか
しんだいずいぶん【極力。精一杯。】
かんりやく【勘略=あまり手数や金銭がかからないように節約すること。倹約】をして
かねをこしらへねば
ならぬよつほと金
もあれ共まだ〳〵
おやしはせにつかいか
あらいそのうへある
かねをもかふ【こう】あそは
せておいてはすまぬ
まくらもひとゝき【「ひととき寝」の代金】
弐百はあんまり安い
一本かもの【「一本」とは一文銭または四文銭をつないだ銭差し一本の意で、百文または四百文のこと。ここでは「四百文くらいの値打ち」という意か】はありそふな
ものきんちよのしうへも【近所の衆へも】
さけでもふるまはすは
なるまいかさかなて
ももらつてからの
 ことと
 〽左次平さん
  おきていつふく
     あがれ

【右丁】
佐次平は
よふ〳〵
おこされへい
きにてとたな【戸棚】の
かぎをあけかね
をたして【金を出して】みれは
ねほうせんせい
きもをつぶして
これもふし
さじべいさん
おまへはなんほ心
やすいとてぶしつけ
せんばんなとふした
ものてこさります
といへはわしか
しんたいをわしか
どうしやうか
いんきやう【印形=文書などの上に押した印のあと。】の
なんのかまふ
ことはこざらぬ
いやこなさま【「こなたさま」から生じた語。あなたさま。】を
こにした【子にした】覚は【おぼえは】
ないぞ覚か
ないとは

【左丁】

きかちがつた
かおふや様
のせわて
こな【「ここな(此処)の変化した語。この】しん
たいわしにくれたで
はないかそのまゝ〳〵とした
かほはさてはろうもん【「ろうもう(老耄)」の変化した語。もうろくすること。】でも
さしつた【「する」の意の尊敬語。なさった。】かといへはいへぬし
はじめながやちう
よりやい【寄合】いつかふ
むす子のさた
もない事扨は
いまゝてそん
なゆめをみて
ねほけていら
れるとみへますと
いへはねほう
せんせいきんちよの
もの【近所の者】ねにきた
おきやくもどう
おんに【「同音に」…二人以上の人が同時に同一の音声を発すること】こへをそろへ
てはゝ〳〵〳〵〳〵
ほゝ〳〵〳〵〳〵
イヤハヤつかもない【「つがもない」=とんでもない。】とわろふ

ねほう先生とは
うきよをたわい
なくくらし仙人
よりさづかりし
まくらといふもゆめ
のうちにてその人〳〵
のゆめのしたいをきゝ
まことやおもふことかゞみに
みゆるものならはさそやすがたは
みにくかるべしとさとりけす【「げす(下衆)=身分や素性の卑しい人。品性が下劣であること。】の
らくはねらく【寝楽=寝て楽をすること】とはたつい【達意=よくわかるように述べる】も
なきことなりかほふはねてまて【「果報は寝て待て」=幸運はあせらず時機が来るのを待て】
とはこれものらくらもののいふことかほ
うはねてまてなりとねほふせん
せいてまへは【自分は。私は。】そくのな【「俗の名」=通称】もゆめすけと
いふものおさなきかたはわがまねをせず
こゝろをきれいにもちらくねする
ひまあらばくさそうし【草掃除と草双紙をかけているのか】でも
しろとおしやふ
さまのやうに
こたちを
 あつめてはなし
      けるなり

裏表紙にて文字無し

大通人穴[サガシ]

【図書ラベル207特別2803】

大通人穴杁 全

【書き込み】《割書:青本年表|  八年》
【書き込み】安永年間    第十一

大通人穴杁 《割書:通笑作|清長画》

春(はる)の花(はな)さけば
月(つき)又さやけく秋(あき)かと
おもへはゆきもふりて
しきおり〳〵のたの
しみはあれども
またそのうへを
大つうじんと
なりてくらしたき
事をねがふ
こゝにしん
だいにふそく
なくひやうとくは
余情(よせい)とて
うとくにくらし
けるが大つうの
うまみをしらす
なにとぞそのみちに
いらんと日(ひ)〳〵こゝろをくだきしか
とろ〳〵とひるねのゆめのあいだあわいゝ
かしくうちにあらずちやづけのにはなの
できるうちさとりのゆめを見る

大通人(だいつうじん)のとふり
ものゝといへば
ばくゑきでも
しているかあそんで
ばかりいるものゝやうに
おもふものありこれを
やぼてんのろまのたまこと
いふ大つうといふはあたらしき
事にあらずしんじゆぶつの
三つのみちいざなぎ
いざなみのみことあまの
うきはしよりいもせの
みちはじまりせいけんの
なまゑひしやかによ
らいいちれんたくしやうと
とき給ひしよりだるま
大し大つうしんごんひみつと
いわぬつふゑんかう大しの
このほかおくふかき事を
そんぜはにそんのあわれみ

【右頁下】
いかさま
おみきと
いふところが
よかろふ

【右頁上の続き】
にももれたゞおふじやう
ごくらくのなむあみだふつとの
おしめし
日蓮(にちれん)上人の
ふんしや
一向宗(いつかうしう)の
おまないた直(なを)し
いづれも大つうの
そなりとかく
こゝろにかど
なくして
わらつて
くらすを
大つうとも
とふりもの
とも
いふ
なり

なんとから
ばなしでは
さへませぬいつ
ばいいたそふでは
あるまいかとさけの
はじまるときは
むかしより此
とふりなり

蓮如上人(れんによしやうにん)の
御ぶんしやうにうし
ぬす人といわるゝ共
ぶつほうしやこせ
しやと見へぬ
やふにとのおかんけ
かたちをつうになき
やふにしたきものなり
ふうぞくに大つう
じんのかんばんを
いだしきん〳〵として
あるきもつともその
うちには此こもんは
おれがあんじ紋(もん)所も
をれがくふうへに
はかたでもないと
こふうにかへつて
もへぎのおび
はをりのながいもやに
さがりもほんだなは
【右頁下】
なんだかつかもなく
あるくのせいが
つきる

やぼにひが
なげいの


【右頁上の続き】
あるべしにせがおふくて
めまぐるしく大つうと
いふものがやすくなり
ねがわくは大つうの
かぶはまづ
せんせいへ
ゆづりこゝろを
おもにつうにして
やぼといふものは
にしのうみへ
さらりつと
やり
たき
もの
なり

もふいつばい
のませな

孔子(こうし)もときに
あわずとおふせらし
とふりとふせいふうを
とやかくとおせくおかまい
やるなととしよりそふおうに
ふるいはりこみにて
かみのほんだがどふしや
したむかしのやふに
たつまつふうやぶんきん
ふういまのわかいものか
なるものかきがちがつた
そうだふうぞくも
とき〳〵のやうに
せねばまづだいゝち
こゝろにはたらきも
なくみなさまの
御きけんのよいよふに
あさぎのうら
でもしらちやでも
きのふあたり
【右頁下】
おはらを
おたち
なさり
やすな
はらを
たつては
とふり
もの
ではござり
やせぬ

【右頁上の続き】
いなかから
きたやうに
それではまた
わかいものゝ一本(いつほん)
づかひにはなり
ませぬはて
なりかきん〳〵
でもしやうばいを
せいいだしおやたちを
だいじにしたら
いくぶんはござり
ますまい
あんまり
せけんの事を
とやかくとごく
ろうになされ
ますなうつちやつて
おきなさり
やし

なんだか
やまいで
じよ
だんが
いゝたい

忠臣蔵(ちうしんくら)の五段目(ごだんめ)に曰(いわく)
早(はや)の寛平(かんへい)わかげの
あやまりちあるも
おろかなるもこの
みちをたのしみ
たとへ八十五匁の
女郎をかい十三匁
ほどあそひ
はやがへりは
うちのしゆひ
よくむかふて
よろこびかたちは
やぼでもなんでも
これらはどうり
つうじんとも
いふべし
又とふり
ものふうは
十五匁の女郎を
【右頁下】
おはやう
ござります
まだひけ
まいで
ござり
ます

【右頁上の続き】
十八匁ほどに
かいしごく
こふしやな
やふなれども三匁
だけのこゝろ
づかいむかふでよろこぶ
けいはくくちしやう
ばいにかふせいを
いだしたならば
おやぢのこゝとは
なしどふでたのしみに
するものはつうゑな
事はしれてあり
女郎かいのこふしや
ばかりはなんの
やくにもたゝぬ
ものたいゆふに
あそぶをこそ
大つう人とも
とふりものとも
いふべし

こば
なわ
あり
がたい

鎌倉(かまくら)の海(うみ)にはしめて鰹(かつを)といふ
魚(うを)あがるどくぎよとてくわづ
まつだいにいたらば貴人(きにん)の
くちにもいるべしとは兼好(けんかう)の
大つうよくあてなすつた
からしみそはこふう大こんおろしは
つうじん なりかたちの
ことはとやかふいふ
ものもからしみその
こふうはすて
大こんおろしの
大つうに
あごかはづれ
そふだと
よろこび
しよじくいものゝ
事とてまいかつてな
ほめよふてまへのすかぬ
事にも人をそしる事
なくとのやうなうまい
事があろふかもしらず
【右頁下】
このぢう
まんこう
□んが
□□ほが
でねい
から
いつそ
こゞ
とを
おつ
しやり
やした

おとゝい
ふたきれ
くつたが

なんだか
ねづ□
あしか
□れ
な□

【右頁上の続き】
孟子(もふし)の曰(いわく)あくまでくらいあたるに
きてたのしみわざがなければ鳥
けだものにはしかじといましめ
給ふむしやうにいきをこのんでも
そのほどをわきまへしよくが
いけねばとうからしにて
すゝめわさびがいきでもめしの
さいにはならず
ずつとつうなすい
ものもあたまから
だしてはにほんばして
しらぬものにあつた
やうなものなりまづ
やぼでもしろみその
とろりとしたやつから
だん〴〵ととふりものに
ならねばいかずあん
まりいきすぎると
下戸(げこ)がみづぞふすいを
くふよふなものなり

子ぞうもふ
四ぜんたつけか 
五ぜん
だつ
けか

わた
くしが
どふしてぞんじ
ませう

半花先生(はんかせんせい)の曰(いわく)なんだかきがちがつたそふた
文わう町といふ所に米やの金兵衛といふもの有
しやうとくりちぎにてしやうばいにせいをだし
きぬといふては身につけづいわつきもめんの
したおびにてかせぎだし
おやににぬこはおにこと
いへどもむすこはそれに
ひきかへておふめを
きてもかたかはる
くらいにてしやうばい
よりあそびをおもに
せいをだしぜに壱文
つかわぬおやじなれ共
ひとりむすこの事
ゆへかんどうのひのべのうち
ふと風のこゝちにてめいゐ
をつくせどもついにこのよを
さりければぬのこのそでを
しぼりてかなしみける
なじみの女郎のかたより
人たのみしてぶつぜんへ
【右頁下】
どふ
した
もんだ
のみん
なを
むかふ
じまへ
よぼうかの

やをよろづのかみ
たち女郎の方
より
よこし
たる
おり

もち
来る

わたくし
どもは
おこゝろ
やすく
いたせし
ものといゝ
おやぢのあい
さつにだいの
てれ



【右頁上の続き】
そなへたきよしにとくわしを
よこしければこれほどのおやじ
なれどもせかれがこゝろやすく
いたした女郎もござりましやう
すこしながらかたみにしん
ぜてくだされと金五十両
いだしともだちしうへ
おちやでもしんぜたいが
わしかところでは
きうくつでわる
かろうよろしく
たのみますとて
金三十両いだしける
こゆへのやみの
とふりもの
わかいものに
こんな
通人(つうじん)はなし

わたくしは
ひとりも
おちかづき
てはなし
おまへがた
よろ
しく
たの

ます

鉢(はち)の木(き)のうたひにあまたきを
もちて候がみな人にまいらせて候
今も梅さくら松を
もちて候つねにも
しよてははちうへに
とふからしのきや
けいとうをうへ
よつほどしやれて
からさぼてんを
かいのこした
所が梅さくら
まつすきの
道にと
さんがの
しやうに
ありつき
ばんじ
みなこの
よなもの
【右頁下】
あれ
〳〵
たい
〳〵が
なつて
いる

【右頁上の続き】
あた海から
大つうのかぶは
まわらず
いやそのやうな
むづかしいこと
ならとをりものに
ならずとよい事
いかいたわけといふひとは
はこねのさきへ
おいでなされ
なんてもこゝろを
きやうにもち
なぐさみながら
くらしなば
くるひも〳〵
たのしみあり
いくつになつても
しぬきはなく
こゝばつかりが
ちつとやほ
かもしらず

かたときはかりて
あとでかま
わぬから

いけぬ

まきか
もつこくが
ほしい

古(ふる)き付合(つけあい)に
衣川(ころもかわ)さいづちばかり
ながれけり
道具(どうぐ)をいへはのこぎりも
どうくこしのもの
ほそみにこしらへて
まわりのとうぐは
さつまどびんから
しんちうのやくわんか
ほしくなりひろ
しまやくわんとくると
すこしからものずきに
なりからものやうわもの
やらいれまじりとなりあの
おとこのものずきが
わるいのこれがどふ
だのと人をそしり
みなそれ〳〵のたのしみの
道がちがいうたひずき
【右頁下】
おほりだし
かの

きのふ
よい
さらを
五人まへ
見て
おき
ました

【右頁上の続き】
かとふぶし半太夫ぶし
義太夫ずきあり
ぶんごぶしめり
やすながうた
すき〳〵にて
道具にめの
つくもそのとふり
あつちをそし
ればこつちも
そしられしう
ろんは御はつとの
とふりたゞめん
〳〵のたのしみに
きをつけて
なんにも
いわぬが
大つうなり
所をいふを
つうのやうに
おぼへて
いるものもあり

備後(ひんご)の三郎さくらの木に
かいて見せしより子共の
いたづらにしらかべのしろきは
なし又わづかのあいだに
今はしらかべのよごれ
たるはなしちかごろは
まづ子たちが大つうに
なり子を見ることは
おやにしかじといへども
そのおや〳〵のよくめ
かわしらねども
おいらが子共の
ときはこの
やうでは
なかつたと
いふももつ
ともなり
すべての
事がおとな
まさり
【右頁下】
ごやう
また
おふや
さまに
しから
れるな

【右頁上の続き】
わるいたづら
なくあそんで
かへるとたばこを
のみぢゞいばゞあの
はなしはせんたく
してもふるしとおとし
ばなしのいきすぎに
おちがきてわらひ
これから見れはよい
としをしてやぼな
ものはよく〳〵の
べらぼうべらと
ぼうがあると
のりうりをすると
いへどもひめのりも
今はまるくして
うるよの中
子共を見ても
つうにはなり
給へ

武部源蔵(たけへけんそう)の門人(もんにん)
ちよまが曰
おししゃうさまの
るすにてならひ
するはおふきな
そんぼうづあたまの
きよがきがのちに
なつてはいちじくも
よめずそこをあん
じてたびやのかん
ばんたびやとしらせ
いづれもぬけめは
むかしからなしそのうへを
またきんねんは
あんまもふへであんま
としらせふうりん
のおとてそはきりと
しらせぢよさいのない
よの中なりそのうへを
ゆくつうじんかたちつと
おほねがおれましやう
【右頁下】
そばやさん
なんどきたへ

ほん所のあね
さんがかへり
なさるから
よつすぎ


【右頁上の続き】
いかめしきおとや
あられのひのきがさ
はせを翁(おう)の句(く)也
いにしへはこまけたの
おとにはすこしこゝろを
うこかせしもの今のこま
げたはすつきとあてに
ならずこまのおとに
おどろかぬも太平の
しるしなるへしこま
げたはにはのうちか
となりまでもゆく
ときはくものを
今ではとふみちも
はいてあるき女の
こまはともへごぜんの
きかどふりで
女のちからもち女はおつなの
ようがよしなかぬき
そうりにひもをつけ
六あみだとはありかたい

たゝきなつとふの
おとこまげたの
おといづれも
あやしく
わからず

小野小町(おのゝこまち)の歌(うた)に
おもかげのかわらでとしの
つもれかしたとへ命に
かぎりあるとも

女子はへつしてふうぞくに
よることし来た
やまだしも
□□のやぶ入り

にはざいしよの
ものもたまげ
ひとゝをり
でさへその
くらいさあ
大つうとふり
ものゝ女中がたは
てんにんかあまくだりしか
楊貴妃(やうきひ)か小町かといふよそおい
【右頁下】
わたしはひんさしは
ぎんより
べつかう

よう
ござり
やず

かん
ざしを
こし
らい
たいか
なん


あん


ない

【右頁上の続き】
見るもの事にすごいおそろしいと
ほめおもひ〳〵にくふうをつけたぼさしが
すたれはびんさしといふものができ
くじらのいりやうはむかしも
おなじ事たぼがいたまいで
よいあんじなりかゝみを
見なからくしをまげてさす
はどふしたものあれにも
りかたのある事か
たゞしかほのまがつた
女中がはじめたかていしゆの
はかまこしがあのやうにまつ
たらおまへのやうにやりばなし
なとさぞしからるゝであろふ
おとこのうらやましいわぬきこし
ゑもんとやらきものゝゑりに油が
つかいでよしちりけのきうもはだを
ぬかずにすへよごれぬでおもひだし
ましたすそのよこれぬやうに
ごくふうもおしつけでき
ましやふ

なんぞ
おも
しろい
くさ
ぞう
しが
見たい



ゆふ
ほんを
およみ
なさ
れば
よい

湯之盤銘曰苟日新(とふのはんのめいにいわくまことにひゝにあらた也)
日日新又日新(ひゞ〳〵にあらたにしてまたひゞにあらた也)
染色(そめいろ)もやうとき
〳〵のはやりもの
あとからおつかけられる
やうにてぶてうほうな
ものははやりかたを
しまひにおぼへ
女中のこのみも
そのとふり
やつふじやてう
とりのまいだれ
てぬくいにそめるしぶんやう〳〵と
小そでがてききん〳〵としたかほでも
大つうとはいかずしかしはやいも事に
よるうらもやうのほじめにはどふか
そゝふで小そでのうらをきたよふで
きのどくらしかつた見なれたら
【右頁下】
とうせい
大つう人の
すがた

【右頁上の続き】
そふもなしあんまり
おもひつきすぎると
げびになります
くろの小そでの
すたらぬところへ
おこゝろをおつけ
なされいつきても
おなじ事きよ
年の正月もあれだとはたれも
いゝやせぬこゝには男はごしやうらく
何をきてもしらずこゝにきのつく男は
おんなもどうせん又女のおとことうぜんに
はをりとはとしよりがたはきこへたが
わかい女中のはをりごゝ
ろでははなかまをはいて
ていしゆのみやう
だいをするきでも
おんなは女のやふがよし
わたしはくちぶてうほふと
いふ女はためしてくちをたんときくなり
女中のつらはうちはを大極上〻吉くちをきくのは下の下なり

男中之女有(なんちうのによあり)
女中之男有(によちうのなんあり)
鎌倉朝比奈(かまくらあさいな)の切通(きりどを)しに
石屋(いしや)の五平といふものあり
大ざけにてどうらくものしいだいも
だいなしにしてはゝはあけくれあんじ
やふ〳〵と女ぼうをもたせすこし
おとなしくなりかすかにくらして
いたりしがきんじよのふるまいに
よばれかのさけのくせが
でゝそれより四五人にて
つるがおかの八まんまいへ
あそびにゆきあがると
そのまゝこまものみせ
いちざもきたながり
しをあいかたの女郎
うわぎをぬいてふき
まくらをさせてねせ
ければたわいなくねてあけがた
【右頁下】
女郎の
けいせい
のといへは
しろうと
の女中はどろ
ぼうのやふにおもふていれども
このくらいのものかねの女にはなし
もつともまんにんにひとりと
おもひ給へ

【右頁上の続き】
よいさめてめんぼくなくかへりしがしよかい【初会】
の女郎あのよに【あのように ヵ】せわになりそのぶん
ではおかれずさいわいはゝもしんるいゆへ
とうりうにいかれてるすなれば
女ぼうにいつわりいふてさとへやり
かないのもののこらず
うりはらい金四五両
こしらへその女郎の
ところへうらに【裏=裏を返す。二回目の指名】ゆき
だん〴〵とれいをいゝ
あまりそまつなれども
ねまきにでもきて
くだされと小そでひとつ
やりけれはかならずおまへ
おはらをおたちなさるな
これをわたしにくださるおかたとは
見うけませぬはてつとめの身で
あのよな事はいくらもある事
小そでをかへしけれは今さらなにと
いゝわけなくだん〳〵のわけをあり
ていにはなしければさしきをたつて
へやへかへり金五十両もちて来り
これをおまへにあけますからおかみさまをよびもどし
おふくろさまをたいせつになされませわたくしはふたおや
ながらないものおまへはおうらやましいといゝしはしゝたるおやにだいかう〳〵なり

陰陽師(おんやうじ)みのうへしらず
医者(いしや)の不養生(ふやうしやう)
儒者(じゆしや)の不届(ふとゝき)
算学者(さんがくしや)の
しんだいもたず
余情はゆめのさめて
たゝぼうぜんとおき
あがりはくねんのかん
らくもめいおわれば
いつすいのゆめぞかし
人をそしるもそしら
るゝもいづれもいちり
ありすべての事に
さきへすゝまず
あとへひかずちう
ぶんにてくらし
なば大つう人と
さとりゆめのやふすを
【右頁下】
これ八じやう
でもしま
ちりめんでも
すきな
ものを
かわつ
しやい
おさん
あし
たは しばい
だぞたゝ
しやかたに
しやふか

【右頁上の続き】
かないのものにはなし
なんだかおもしろかつたが
あとさきにてわすれた
事がおゝしあらましを
いゝきかする御はつと
ごとをあいもちひ
ひのやうじんを
大事にしてちう
こうふたつにかぎやう
してしやれて〳〵
しやれぬいて大つう
じんともとふりもの
ともなりてくらしなば
いつしやうくろふと
いふてはすこしも
なしげにありかたき
ぬりまくらなりと
よろこぶ

新板目録【横書き】
【上段】
虚言弥二良傾白誠(うそつきやじろけいせいのまこと)《割書:上|中》
           《割書:下|》
其数々(そのかづ〳〵)酒(さけ)の癖(くせ)《割書:上|中》
         《割書:下|》
かけねなし正直噺(しやうじきはなし)《割書:上|中》
           《割書:下|》
大通人穴杁(だいつうじんあなさがし)《割書:上|中》
        《割書:下|》
《割書:追〻めつらしき新もの|出し御覧に入申候御もとめ》
《割書:被遊可被下候|》
【下段】
かごめ〳〵籠中鳥(かごのなかのとり)《割書:上|中》
           《割書:下|》
桃太郎元服姿(もゝたろうけんぶくすがた)《割書:上|下》
日照雨狐之嫁入(ひでりあめきつねのよめいり)《割書:上|下》
   《割書:通笑作|清長画》
 《割書:通塩町|  奥村源六板》

通笑名寧字子彦誹号橘雫姓市場称小平二
通油町に住す一生無妻にして市中の仙たり好
て稗史を作る安永年中ゟ寛政の初め迄数百の
著述す其作壱教喩を以て専らとす故に世人
教訓通笑と云文化九年申八月廿七日没行
七十四浅草祝言寺ニ葬法名覚法全心
鳥居清長俗称市兵衛名人鳥居清倍の門にして近来の
名手也江戸錦絵の祖とも云へし清信の孫画不好故
姑く三芝居の看板画せり彩色摺物画本浮世美人
錦世に行れ好人の藍さひかたひら透通たるを工夫す
と云  明治二十年五月三日記 定洞主人


【図書ラベル207特別2803】

紙屑身上噺

【図書ラベル:207 56】

紙屑身上噺

【27.12.22】

【図書ラベル:207 特別 56】
【書き込み:コ-1691】

紙屑身上噺(かみくづみのうへはなし)   完

【角印:帝国図書館蔵】
【二重丸印:図/明治三一・一〇・六・購求】

夫 ̄レ一寸(いつすん)の虫(むし)に五分の魂(たましひ)ある事はさらなり艸(そう)
木(もく)其外 其情(そのせひ)なきはあらす難波(なにわ)に梅の情(せひ)あり
高砂(たかさご)のまつは祖(おぢ)父 姥(ば〳〵)とあらわれ質(しち)屋(や)の
土用 干(ほし)に小袖(こそて)のそでから細(ほそき)手の出た噺(はなし)も誠(まことに)
なる哉夫 ̄レ を思ふに屑買(くづかひ)か帋(かみ)くづを押付(おしつけ)て
見るにあとからむく〳〵持(もち)上るをかんかふれは
是(これ)にも其情有らんかとふと半紙(はんし)付小 菊(きく)さま

がたのお笑(わらひ)の端切(はしき)らずにもならんかと諸奉書(しよほうしよ)
人(にん)の美濃(みの)上田(うへだ)の穴(あな)を紙屑(かみくづ)どふぜんな新(しん)まい
作者(さくしや)の筆(ふで)にまかせ一巻(いつくわん)のそうしと
なしぬされども買人(かいて)かなくは唐(とふ)帋(し)た
物(もの)と気(き)をいため紙(かみ)本のほうぐ同(と〳〵)前(せん)【同の送り仮名「とう」か】
紙(かみ)くづとも思召永日の御 笑(わらひ)を願(ねかふ)而(の)已(み)
安永十丑のとし初春 《割書:作者》可笑 【角印:可笑】

くずかごよりちりがみ
あらわれいでほかのかみくづに
いふよう われはかみのうち
にていたつてきれいなきがみ
なれともゑゝぶんでしわん
ほうのふところ
にすまい
わるく
すると
せつちんへ二ツぎりと なつて
つるされますおの〳〵ももはやあすはかみ
すきのてへわたる身のうへてん〴〵にみの
うへのさんげはなしをなされぬか

こゝにかみくつかいの十六兵衛といふもの
日〻かみくづをかいこみしが
あるよかどのうちより
なにかかたちあらわれし
ゆへふしぎにおもひ
みゝをすまして
きゝゐる

唐紙(とうし)のほぐ
さてわたくしなどは
ゑんほう舟【?】まはしの
くるしみおさつしなされそして
わたくしも一ツ本のまゝて
かみやのくらにはいつて
おつたらいんぐわと四五まい
小がいにされなにかいきかた【行き場なく、の意?】
なつくゑの下へおしこ
まれみてゐますに
ちつとばかり
おいへ
りうをかきおぼへたやつが
いろ〳〵ときをもみほんきに
なつたりさやまゝ
をかいてみたり

【右頁下】
  せんせいもまあ
  たいがい
  とうしせんさ

【右頁上段の続き】
したあげくまだ
ろくにたて状もかけぬを
これて
ゑゝとあきらめ
此ごろからやうとおもひつき
ならひもせずてまへのゑて
かつてにむりばつかり
をかきちらしじまんらしく
しゆいんをおして人にやります
をみているきのどく
さそのゝちわたくしも
かきそこないまるめ
てうつちやられまし
たがみなさまとちがい せうの
ちがつたわたくしすきかへしに
もなるまいと【再生紙にもなれないとの意?】
それがあんじられます

【左頁下】
一はい
はい
りやう

たい

奉書(ほうしよ)のくわし袋
わたくしは 

なかまの
一そくのうちでもしよ
かんみまい【暑寒見舞い】あかいは【あるいは?】ねんし
のれい状につかはれます
れば状さしへでもさゝれ
てゐますにわたくしは

どこへゆく
事かとぞんじましたれば くわしやへ
やられなんぞかくかとおもひますれ
ばふではあてずはんぎの上へのせ
竹のかわでつゝんだ物でけばの
たつほどこすり
まわしふくろに
したてなかへせんべい
たつたりんなと入られ
人のみやげにつかはれ
そのさきでも
こどもがあとを
ねだるとてとがも
ないわたくしをちやたんすの
すみへもみくちやにして

おしこみ
あげくのはてにはから
ふくろになりてよいと
おもへばすゝはきに
ひき出しはいりも
せぬさいづちあたま【才槌頭=ひたいと後頭部が突き出た頭】へ
むりにくちの
さけるをも

まは

おし
こみ
すゝ
だら


なつ

しまい



をりに
まるめ
られ
まし


【挿絵内】
だいもつを
いたゞきます


ぞう
ひしやげ
ぬやうに
もてよ

浅草(あさくさ)の漉返(すきかへ)し
わたくしはおの〳〵様の
まへへむさくろしく
出ますもいかゞなれ
ども御めんなされませ
まつわたくしがつかはれ
ますはとかくむさい事ばかり
それをのがれましてやれ
うれしやとぞんじました
ところがうちだやのたば
こみせへかはれまして
わづか一きんで八十か百の
たばこをつゝまれたる
おはしたに
かはれ女べやのすみ
になげほうられまして
ゐましたがそばで
おはぐろをつけて
ゐてほう〴〵をたづね
てもなかつたがいんぐわまあ

【挿絵内】
  ほんの
  なで
  つけ
   さ

【右頁上段の続き】
そんざいな
わたくしを
ひつぱぎ
たばこはふき
とぶにもかまはず
まつくろな
くちをみへも
せぬひんほうな
かゞみをはなの
ひつつくほど
つらへおしつけ
さつまいもほど
あるゆびへ
わたくしを
ひんまき
大くちあいて
ふかれまして
かごの
なかへ
ほうりこまれて
こゝへ
まいりました

【挿絵内】
はやく
しまひ
なすつたの

小菊(こきく)の
鼻紙(はなかみ)
なにか
ぞんじ
ませぬかわた
くしはむまみちで
四ツでかごのなかへ
かわれましたが
どんふりと
やらのあいだへ
おしこみかごのなか
からはやうやれ〳〵と
いふとひととびにまい
りましたが大もん口で
おりてなかのてうへ
あがりさけなどのむ
と丁子やといふ
のうれんのかゝつ
たうちの二かい
へあがり女郎が
てるとやりてや
わかいものが
ざしきへきて
むしやうにおだてかけられ
【中段】
みどりヤ
おかんを
なをしや
【下段】
だんな
ちと
いたゞき
ませう

これ

あり
がた山

【右頁上段の続き】
そこでわたくしを二
さんまいだしてさかなを
しやうといちまい
づゝやりましたが
よくかんがへますれば
かねのかわりそうに
ごさるやるかねも
ないくらいなら
あそびに
ゆかぬ
がよう
ござるちや屋の
そんになりませう
そしてわかい
ものめが
もらつた所が
かねとひきかへに
でもするかと
そんじまし
たれば
らうかへでると
ちん〳〵とはな
をかんてすて
られました
【左頁下段】
たつさんたばこ
をのみ
なんし

ほぐむ古手形(ふるてがた)
わたく【「し」の抜けか】もしんるい
がきでもかゝれますれば
ゑゝにかねのしやうもんを
かゝれそれも
ひととをりなれば
大じかされますが五十両
壱分のてがたを
かゝれそのうへ
このじせつは
てがたもやくに
たゝぬとそまつに
されざとうの
かみくづかごに
おりましたが
おゝかたり
ぶんでもと
かねの三ぞう
ばいもとつ
たあげくと
みへ
ました
【右頁下段】
又あすあたり
二三人もやるが
ゑゝ

いつから
より
ませぬ

これでも
つまら
ぬさ

【左頁上段】
のり入絵【紙か】
  ばん切
わたくしもみこと
にみへますが
きんねんはやすく
なりましたせめて
しんじゆくにも
かはれますれば
ゑゝにおきゝ
なされませ
どこやら へかわれましてむしやうに
女郎のかしたがつてとんた
ぶんていをかきちらし
それてもしまひと
ひつさいてくちべに
などのついたところ
のいやらしさ
そしてくれ〴〵も
めうごにち御かよひ
くたされかしなどゝ
くぎのおれのやうな
てヾ明後日に
めう五にちとかく
あて
これでしよじ
ごすいりやうなされまし
わたくしもあきれはてました

でへふ
さぶい
ばんたぞ

半紙の
壱文たこ
わたくしはねだん
こそあらふに一もんの
たこにはられて
くだりをくう
よりたこを
かへとはなつ
たらしのがきに
かわれ町ぢう
ひきづり
まわし
とろたらけ
になり
まして
しまひの
はてがこども
げんくわの
たねとなり
さきのこが
にくさにつら
あてに
おふくめが
わたくしを
これがある
【右頁下段】
おいらあしらんよ
きんさんが
なかせなさつた

【右頁上段の続き】
などゝ
ひつさばき
うちのかみ
くずざるへ
入られその
のちくず
かいがおし
つけるとて
ほねでてを
ひつかきいま
〳〵しいと
こゞとを
いひながら
ほねを
はなし
わたくしは
たす
かり
みな様
と御いつ
しよ
にこゝ
へまいり
ました
【左頁下段】

なんぼ
こどもでも
あんまりだ
なくことは
ない
へらぼうめ

わつち
らがやろふ
はとふもいた
づらだから

とくさん
かんにん
しな

みす紙のつかい
      残り
みなさまわたくしが
ふしあわせをきいて
下さりませ御たいけの
おひめさまへ
でもおかい
あげになればゑゝにあげや町のきさみ
たばこやへかわれましてそれから二三
でうづゝやす女郎のてにわたりきやくが
あるとたいそうらしくやうたんすの
しやうまへをあけまだあとに
二三そくもあるやうなかほで
ありつきり二三でうだして
なんのやうにたつかと
おもへばうちわかあふぎ
しやアあるまへし
ひばちの
ひをむらしやう
やたらにあ
をぎたて
そのあげく
には二三まい
かさねてまる
【右頁下段】
ばからしい
おいで
なん


【右頁上段の続き】
くわにして
さきをひ
ねり きやくに
むかいこれ
みなんしいつ
そおもしろの
ありんすと
いひながら
あんどんのひを
ちよつとつけると
ぽつともへてはいは
てんじやうまであかると
うぬがもしておいて
いつそかみへかゝりんす
なんそとさしき
ぢうはたき
まわし
そのあげくが
のこつたのをば
もふこれ
ぎりに
しませう
あとをはなし
ては
やぼた
【左頁下段】
まだね
なんせん
かへまいて
くんなんし
いまき
いんし




いつそ
もふぢれつ
たくつて
なりん
せん

糊入半切(のりいりはんきり)の
    てがみ
わしはさるやしきの
かんべんしや【勘弁者?=倹約家】がいしや【医者】
の所へやく代【薬代】に一分
てはすぎるなん
りやうてはちと
ふそくなりと
なんりやうに
わしを一そく
つけてやられ
ました一年中
くすりづゝみに
いるものゆへやつたは
きこへましたがとう
でもやぶ印とみへて
薬づゝみもおゝくはいゝ
ぬかして半きりに
されましたがいやもう
いしやもないしやうへ入ツ
てみればいろ〳〵なが
ござる此いしやめはちと
むつかしいひやう人【病人】へは
たび〳〵みまひもせず
おせわかぜくらいには
ちよつ〳〵とみまひ
さあゆくがさいご

【右頁下段】
  これは
  ごたい
  き
  だへぶけふは
  おはやかつた

【右頁上段の続き】
しりがなかくいろ〳〵
のうさよはなし【浮世話?】
をはじめまた
うちでくすりを
もるときに
びやうか【病家】より
ようたいがきが
くるとそのへんじを
ろくなてゞも
ないにから
やう【唐様】らしくかき
ちらしてやるゆへ
びやうかではかん
びやう人かより合
はんじものを
みるやうに
かんがへてももし【文字】が
あくひつのからよう
なればねつ
からよめず
ゑゝはござつた
とぎきこうと
いつて状さしへ
さゝれていまし
たがどうしてか
此なかへすて
られて
かわれました
【左頁中段】
びやうかがおゝい
からとふでも
おそくなる
【左頁下段】
けふは
はん丁【番町?】
のほう
かへ
□つと【ちつと or もつと】
はやくお
かへり
なさん

端(はし)きらずの袋(ふくろ)
わしはあんまり
ゑゝ事にはなんでも
つははれませぬがなかにも
どうしんじや【道心者】の山ほうずの
てにわたりふつしやう
ぶくろにされました
かむかしはぶつしやう
ふくろは二合か三合
ツヽ米がはいりました
に今は五合のうへ
ツヽはいりまっす此ぢうも
そのぼうずめか五文か
八文でさつまいもを二ツ
三ツかつてながやのばあ
さまをあやなしまごの
ところへみやげにやると
ばあさまもかみ様も
かわいゝ子やまこに
やさしくされてうれし
がりあのさいねん様は
こぼんのうさとうれし
がる所へつけこみこんど
ぢぞうさまをこんりうし
ますからおまへかたもどふぞ
いひやわせて出てくた
されとたのみさあそれ
からはといつ
はいとりこみ
しやうこと
【右頁下段】
あゝちつと
へつたはい

そればあさん
こちらの
まどから
でる

【右頁上段の続き】
なしにやすい
ほとけを
こしらへ
又おいとま
ごいとやらか
してわたくしが
くちをあけて
まつくろな
米ごとつめつり
だいへのせほかから
よつたよふにみせ
かけおのれはのぼりを
もつてきんしよのかみ様
ばあさまをたまして
江戸ぢうひきづりまはし
しまひにはほとけさまは
どこへござつたやらゆきがたも
しれずあつめた
米をうりはらい
ぼうずも
とこへうせた
やらその
あとのあき
だなに
わた
くしは
のこつて
おり
ました
【左頁下段】
ぢぞう
ほさつ
こん
りう

もし
あげませう

あれ
のゝさまを
みや

美濃(みのがみ)紙の
   たちはづれ
わたくしはとしの
くれにやしきへ
一でうかはれなにか
うちのさむらいめが
ぶきやうにつきあわせ
せうじのはりかへ
あんどんのはり
かへにつか
われその
やろうがうぬ
がつぎやうの
わるいとせうじの
ひづみをばたなへ
あげておつていま〳〵しい
此かみはばんがせばいの
なんのとあくたいを
いひおるにくさ
 はいかいのつけあいにも
 〽あんどうの四方を
   はつてしまひけり
こういふくもござるが
さて〳〵あきれ
はてたぶきやうな
やらう

【右頁下段】
こいつは
とんだ
ひづんた
かみだ

小がたなが
ねつからいもだ
いま〳〵しい

【左頁上段】
よしの紙
の切くず
わたくしは
うるしをこすと
十月のさくらの花
になるよりほかは
あんまり入用に
ないみのうへ
いんぐわとほつけ
でらへかはれ
ましてなつしよ【納所?】
ぼうずどもが
むだをいひ〳〵
大あぐらで
きりちらかし
そしてそし【祖師】様へ
あげるはな
をこしらへる
に小べん
をした
てをあらい
もせず
よう〳〵できあがると大あくびて
いま〳〵しいよう〳〵しまつた
なぞとあしでけちらかしもつたいない
やつばりよひまつりの
とうらうやかざりものでも
こしらへるきどりさ
【左頁下段】
ばか〳〵
しいた【こ?】だく
さんなもうゑゝ
かけんにしよふは

もふちつとだ
やらかして
しまへ〳〵

日向(ひうが)半切の
    ほうぐ
さてわたくしは
江戸のまんなかのごふく
だなでつかわれいやはや
一日がきとものへんじで
のぼせきり
ますそして
いまつかはれるか
〳〵とまつて
いてもさて〳〵
かうやつもうる
やつもながいといつては
あきはてますまあ
なにかそろばんを
ばち〳〵〳〵とおとばかり
させてゑいやらやつと
もふこれでよふござり
ますかとてそれから
わたくしをとりあげ
て何をかくやらひげ
だいもくをみるやうに
むしやうにはね
ちらかし外から
みては一ツもよめ
ませぬやう〳〵
なぐりしまい
はんとりといふ
こへがすると
金といつしよに
【右頁中段】
あり
かたふ
ぞんじます
【右頁下段】
御しんぞうさまそのこしをび
をころうじまし
たゞ今これが
きつうはやり
ます

これはもふ
おまへ様
しんがた

しろ



あいもよろしう
ござりま
すさ
かい

【右頁上段の続き】
けうけのやうなはこの
なかへぶちこみおくへ
もつてゆくと
さあそれからが
またながいと
いふは一ときもかゝり
よふ入かとその
のこりのかみて
うぬかなじみの
よび出しちや屋へ
やる文をかくところが
かのひげだいもくを
かきつけたてぶし
できやうことば
のぶんていを
いやらしくかく
こつたから
ひとつもろく
にはでき
ぬゆへひき
さいてはまるめ
またかいては
ひきさきその
はきすてられた
わたくしが
こうしてこゝへ
きましたやら
【左頁下段】
ひわちや
のもん
ちりめんを
みせな

漉返(すきかへ)しの半切
さてわたくしはとほうもなく
たいくわんにつかれまして何か一日
ぞんざいになぶりがきにいたされ
ますなんほわたくしでもほかへ
まいつたならこうぞんさいにも
つかわれますまいあげく
のはてに何をかく
かとぞんじました
ところが一ツなに
〳〵としなを
かきつけすへに
みきのしな
つききれ申候
あいだ御こと
わりなくに
あいながし
申候
たれさま

したゝ
めいへ
なも
かゝず
しちや

【右頁上段の続き】

ばかり
かいて
さきへ
やり
ました
さきで
よんで
みてにが〳〵
しいかほを
してこまつ
たものだ利
あげはならず
しやうことが
なへかつてにさつ
しやれといひな
がらわた
くしをひき
さき
かん





まし

【左頁下段】
二分【万?】の
入か

これは
ちがつた
よふだ
もふ一へん
して

よう

丈長(たけなが)の元結(もとゆひ)
わたくしも
しばゐの
大入りでも
かゝれますれば
このやうな
むさいめは
いたしませぬが
たちもとゆひ
となり
あぶらうりの
てにわたり
山だしの
げぢよに
かわれ
御しんぞう
さまのまねを
してまわしもとゆひを
しならうとてなにが
いくたび【幾度】かけるかいくらやつても
こまく□がのちには
つつばしけるやら
たび〳〵てにかゝるから
【右頁下段】

太夫は
とんだ
ゑゝの
まださよは
かみか

何を
いたすやら
久しいことで
ござります
そして
できた所が
おかざり
だらけた

【右頁上段の続き】
あぶらてまつくろになり
うぬがてのかな
わぬをわた
くしがしつた
やうにぶり〳〵
はらをたつて
またよくじつ
すてるかと
おもへば
うらをおりかへして
つかわれあげく
にはつなぎ
あわせててうずを
つかふとき
はちまきに
されゑんの
したへ
すてられしを
三介どのがおにわ
そうじにまわつて
つまんでかごへ
いれられました
【左頁下段】
ゑゝもふいそげは
まわるぢれつ
たへ

上田(うへだ)の鼻紙(はなかみ)
わたくしはぞうりわらじと
いつしよにおりましたが
さるやしきの下女が
やどをり【宿下り】にきてしばゐ
へゆくとてたつた一でう
八文でかわれ
ましたがよく
じつしばゐの
きりおとしへ
まいりたかが
八文がものだ
とおもひ
おつてまづ
まつくろな
ゑりのまわり
をふきまわし
べんとうのにしめや
やきめしをのせ
しまいにはもん
ですてみかん
をくらつては
てをふき
【右頁下段】
つむりにきを
つけなさい

【右頁上段の続き】
きやうけんか
  【以降破損】

                      笑作
これだからなんでもあんじるはそんさ    清長画

【図書ラベル:207 特別 56】

鳴呼不侭世之助噺

【表紙タイトル】
嗚呼不侭世之助噺

【中表紙】
【所蔵者の朱書き】
清長 □□
天明元



嗚呼不侭世之助噺

【中表紙裏】
【所蔵者署名?】
△ 御月

【一丁表】
むかし かまくらのかたいなかに【片田舎に?】福兵衛といふ【この行綴じ目で見えず】
百姓あり むすめ一人もちけるか 百人に
すぐれし び人【美人】にて 今年十七になり
ければ 江戸へほうこうに出さんと
おもひ しんるいのかたへ つれゆく

【右下 娘の台詞】
とつさま にし【汝】も
くたびれさしつたんべい
あれみなさろ
あんなゑゝもの
をきてあるき
ますはよ

【左下父親の台詞】
おきくや わりやア
あるきつけねへから
さぞあしが
かんだるかんべい
もふは
ちく
とんべいだ

【一丁裏】
福兵へがゆかりのもの
あさくさの願人に
て めくら藤といふもの
しやらとくぶ人から
ものゆへ おきくをみる
よりむなさん用【胸算用】て
たのもしくうけあふ

【めくら藤台詞】
これは〳〵いろ〳〵
お心づかいな
おみやげどれも
よいものだ

【画面中段右 後姿女房の台詞】
これは〳〵 心つかいな
これはみな あのこ
のしたくに
してやり
ませう

【画面左下 娘の台詞】
まづ
わた
しが
そば
において
しついて
春になつて
からよい所へ
出してやり申【?】
ませう

【二丁表】
【福兵衛の台詞】
その金は
二十両ござり
申すよ 十両
はそれ様に
お上申ますべい
あとの十両は
おきくがしたく
に おたのみ
申よ
ずいぶん
しかつて
くんな
されや

【画面右下 おきくの台詞】
おんばあ
これから
かめ【自分のことをかめと自称?】 御めん
どうに
ます 何ン
にも
しり
まし
ねへ

【二丁裏】
おきくは通りものゝ女ぼうに
しこまれ今では
おざいこうもぬけ
切てよほどのしやれ
ものとなりければ
あたりきんしよ【辺り近所】の
ひやうばんものに
ていなかのひまおり
からは 又五だんも
十だんもきりやう
をあげる

これしよせん
やしきがたへ
ほうこうに
出す気はない
うつてやる
がてみぢ
かでゑゝ
てめへも
 一わりのせて
やろう おりいれ
はたらいて
みやれ

【画面左下 後姿の男の台詞】
そこは
此八が
のみこみ山だ
あれでは
きつと
あたゝ
まるに
ゑゝに

【三丁表】
もしなんとおつしやつても
がつてんのゆかぬみちだよ
きつねにばかされは
しなさらぬかへ そして
どこへゆく
のだへ

【画面左 後姿の男の台詞】
はてさて それは
大きなまちがい
けふ ゆく所は
おれき〳〵だ
しかもだんな
さまがたは
けつこうなりあすこへ
しゆび【首尾】すれば
大しあわせ
だよ


【三丁裏】
【右側の男 台詞】
こいつはどふもたまらぬ
はなはだきにり【気に入り?】だ
なんとかしてくれるきは
ないか かうじ町のいど
じやあ ねへよ

【左側の黒羽織の男 台詞】
介ぼう み給へ
きんねんの
ものだよ
かつてみる御しんは
なしか

【四丁表】
おきくはとう〳〵
よしはらへ百両
にうられ今は
松田やの
きぬ川とて
ならび
なきゆふ
くん【遊君:遊女のこと】となり
ひくて
あまたの
身となる
そのころ
与之介とて
大のいろ
おとこかの
きぬ川も
にくからず
おもひければ
おり〳〵うらちや屋ふしみ町
のいちや
つきあり

【四丁裏】
かまくらのたつの口
へんの ぶざすぎ大じん
きぬ川にうちこみ
まい日〳〵通ひける
が うけ出してかこわんと
ていしゆにそうだんする
これきぬ川が
身うけは
いかほどじや
くにかたへ
金を云て
やつてそう〳〵
さうだんを
きわめたい

【きぬ川の台詞】
いつそぬし
のこはいろ
をつかい
なんし

【五丁表】
【画面左上扇子で口元を隠す男の台詞】
はま村やと
きこへては
大さわぎだ
おれは
やまとやのこゝろだ

【画面中段 酌を受ける男の台詞】
はま
村や
あり
がたい

【画面右隅  台詞】
その
ほかに
□も
かゝみ
□川は
入ま
せふ

【画面左 平伏する茶屋の亭主 台詞】
一はこ半でな
ければ御さう
だんはでき
かねます

【五丁裏】
【遊女きぬ川の台詞】
介さんきゝなんし
ぶざめがみうけ
をすると申んす【申しんす】
くにへかねをとり
にやると申んす
からそのまへに
くめんしておくん
なんし

【世之介 台詞】
くめんといへば
にげるのだが
にげた所が
こじきと
かくごを
きわめねば
ならぬといふ
よふなものだ
なんでも
一ツ一しやう
のちへを
出して
みやうそ

【六丁表】
世之介は何かいきに
くらしけれども内ゝは
すかんひん【素寒貧】にて もとより
かんどううける親もなけ
れば □んぽな事もならず
ただ きぬ川が事を
おもひわづらひ
ゐけれども身うけは
さておき しちうけの
くめんもてきねば
こゝろをいため
文などだしてみては
気をもみしまひ
には しあんに
あぐみ いつも
こう〳〵と
たかいびき
のみなり


【六丁裏】
世之介ふと思ひ
つきて金
のくめんに下ふさのくに
はにうむら【羽生村】 にいたり
しに 大なる
家あり くら
のかたへまはり
てみ
れば
ちん【亭】ざ
しき
ありて
そのほとりの
いけに かきつ
はた【杜若】のさかり【盛り】
なるにみとれ
てやすらひける時
此家のあるじの むすめ おかねと
いふ十人なみのふりそで ちんざしき
より与之介をみそめる

【画面右下 世之介の台詞】水かゞみで
みればかきつばた
のひらき
であは
た【痘痕】は少シ
あれど

なか〳〵
□はに
はなだ

見事〳〵
しかしはま村
やば なるかみと
いふみは
ちとつよ
すぎる

【七丁表】
あるしのむすめ おかね こしもと
にさゝやき 世之介をちんさしきへ
よび入 あつかましく くときける

おまへをつれて
ゆくにはどこ
ぞの山おくかたゞしは
かみがたのほうへでも
ゆかば かくべつなん
にしても 金がまんと
なくてはできぬ
そうだん二タはこ
ぐらい くめんし給へ
いつしよに にげませう

  おかへりなされ
いまなら
わたしも
つれていて
下されませ

【こし元の台詞】
ぢよう様の
おねがいかな
へてお?上ケ
なされませ


【七丁裏】
どふも
こわくて
ならぬ
わいな


【八丁表】
此あるじは
大がねもちなるが
にわのおくに石にて
たゝみ上たるいわ
山をつくりその
いわのほうの門へ
金を入おきぬす人
をきびしくふせぎ
けるが おかねはかのいわとの
かぎをぬすみ出し
木のゑだへつなをさげ
なるかみといふみにて
やう〳〵にあがり
かねをぬすみ
いだす

【世之介の台詞】
あぶ
ない〳〵
しづかに〳〵

【八丁裏】
【おかね台詞】
これで
二タはこ
でござり
ます
【世之介 台詞】
さて〳〵御しん
せつ わすれ
おきませぬ
ありがた
山ぶき色【黄金?】
てうど これ

二タはこ
しめこのうさぎだ

【九丁表】
かくて
まつの
きへつな
をさげ
おかねは
へいの
そとへさ
がりて 世之介と一所に
にげる 心なるに世之介は
一所ににげてはくめんわるきゆへ
つなを切ておかねを木のうへより
まつさかさまにおとすとは
あんまりむごいやつなり

そなたをつれていては
ちとこちの
さん用があわぬ
此二千両は
きぬ川を
うけだそふ
といふは
かり
ことだ

【九丁裏】
おかねはつなをきられ いたべい【板塀】のうちへ
おち下のいし【石】
にてかほをうち
あしをくじきけ
ればめはかたくつぶれ
口をさき はなを
かき ほう【頬】ははれ上り
びつこ【歩行困難者の蔑称】となりふためと
みられぬていになり
大きにいかりをなして
いたべいをのりこへおつかけゆく

【おかね台詞】
あの世之介の
人でなしいづく
までかはのがす
べき

世之介は二千両のかねを
松浦やへもち来り
しに 杉大じん
がくにからの□た
かねのこぬ
うちなれば
大きによろこび千五百両
わたしほかに二百両
のしやく金【借金】を
はらひあと
三百両を
志とためて
おんくわふ
くらす心也
【きぬ川台詞】
此やうな
うれしい
事はあり
いせん

【画面右下 女郎屋亭主?台詞】
【綴じ目に隠れて一行目台詞不明】
ります 松□か
おきゝなされ
まし
たら

【画面左下 女郎屋関係者台詞】
さぞ
や 【さぞや】き
すぎの
あふぎばこ
でごさりま
せふ

【十丁裏】
世之介はもとつかいし【使い:使用人】下人 治兵衛といふものと
しやう小ぐ【少々愚】なりは □分【なにぶん?】たの
もしき男なれば きぬ川を
つれきたりて
たのむ
【世之介台詞】
はにう村のしり
もきみがわるし
しばらくてまへの
所にゐ候【居候】にして
くりやれ 金
もよほどもつて
ゐるから
ゆるりと
よいおもひ
つきが
あらふさ

【画面右下 治兵衛台詞】
おきづかいなされ
ますな いつまでも
わたくしかたに
おいりあそ
ばされ
ませ

【十一丁表】
おかねは与之介がおかけにてうまれもつかぬかたはものとなり
与之介にうらみをなさんとそここゝとあるきしか
とちゆうや 治兵衛がたにきぬ川 もろともしのびいると
きゝたづねきたり あほうのでつちをだまし
ゑぼしあめのふくろさつけて
いへのうちへはいる
【丁稚台詞】
此うちへはぬす人かたくきんぜい【禁制】にて候 ぬす人でさへなけは
はいりなさい そのかはりに こちへもうまい物をおくれよ
【画面左下 おかね台詞】
おりふし
これに
ゑぼしあめ
にて【?】候 これを
めし上かれて
われらを
うちへ
入て
おくれ



【十一丁裏】
おかねはうちに入 あほうに
やうすをきけば治兵衛も
与之介ふうふもきん所へ
ほしまつりによばれてゆきたり
ときゝ あほうをしてうの
そとへねかし
た【わ?】れはあほうが
してうのうちに入
よふけて与之助
ふうふがかへり
たるを
うかゞいおそ
ろしき
すがたにて
ふうふを
ひきさき
すてんとあら
われいで きぬ川が
にげると
ところを
おひ【帯】の
さきを

【画面左下 丁稚の様子】

ほうは
かに
くは
れる
も この
さはぎも
しらず
ねいり
いる

【十二丁表】
くわへ
てはな
さす 与之介は
でばぼうてう【出刃包丁】
にて おかねが
くびをうち
おとす

【画面右下 きぬ川台詞】
のふかなしや
なむ
くわんぜ
おんぼさつ
〳〵

【十二丁裏】
【画面右上:おかめ台詞】
うらめし
やなあと
いひた
けれども
くちが
ふさがつ
ているゆへ
たゞ
だまつて
にらめ
まわす

【画面右下:地の文】
おかねがくびは
をびをくわへ
せいけんたとのどく
かやをまいてみたれとも
なにかふじゆうとら
にてせんべいを一まい
まわしながら
くうてち
なり

【十三丁表】
【右上】
与之介ふうふはうろたへ
かやのうちへとび入 くわんをんの
ぶつそう【仏像】を
いだし
一しんに
いのる せつないときの
ほとけだのみ
なれど
たすけ
給へ〳〵

【十三丁裏】
かゝる所へていしゆ
治兵衛立かへり
かのおんりやうをうちころさんと おもい
けれども もはや 一たびしんだ
ものなれば あら□でもゆかず
わるくうちて
きぬ川がをびをやぶり
でもしては
きのどく又
をびをぶち
ころし
ては
ふじ
ゆふなら
んと
ひかん□
【画面右下 治兵衛台詞】
此うへは
しよしう【諸州?】
くわんをん
さまのことだよ

【十四丁表】
おんりやうもしまひがつかね□こゝは一はん大つらにて
く□つとりようけん【料簡】をかへてかんにんし
くりからふどう【倶利伽藍不動】もひさしいものなれば
くりのからよりおもひつきていがぐりと
なりて たんばの大江山の
さし合がよかろうなどゝ
くふうし くちにくわへし
おびをはなせば
くびはたちまち
いがぐりと
なりける
ゆめほど
たわいのなき
ものはなし

【十四丁裏】
世之介 きぬ川が夢をみて
しあんにあぐみをろ〳〵とね入
此ゆめにてそうみ□りあせ
をながし ちや屋【茶屋】の男におこ
され めをさましてやうすを
きけは きぬ川もいよ〳〵
すぎ大じんにうけいたされ
もはや きのふ くるわをいで
しとのはなし
しよせんくいてもかなはぬ
こと さつ
ぱりと
おほしめしきられませ
これはこちでかつて
まいつた いがもちで
ござります これで
おちやでも あがつて
ちやにして【冗談にして】
おしまひ
なされませ
【画面右下 世之介台詞】
ゆめはさかゆめ【「夢は逆夢」】とは
よくいふたものた
くりの
いがの
いがもちに
なつた
はかり
がとく
なやう
なものだ

【十五丁表】
世之介ゆめにてさとりをひらき これからは
身のあげつきでもきめる心になりしに
どじやうや 次兵へがとこにて こんれいとゝのへ
けり ゑどきんざい【江戸近在?】の大おたふくむすめ
よい男にそいたき ねかいにて【願いにて】
大毎【大枚】【廿両?】のぢさん金にて与之介が
所へ来る
丸わた【丸綿】を
とりて
かほを
みれば
ゆめにみたる
おたふくに
そのまゝの
かほなれば
いよ〳〵おそ
ろしく
おもい
なか
よく
そいとげ
けり
【画面右下 世之介台詞】
わしが
うちは
大のひんろう【貧陋】
たよ しよじ【諸事】
そのこゝろて
たのみます

【十五丁裏】
【見出し上段 世介噺下終】
【本文上段 杉大尽の台詞】
ずいぶん
ねんを
入て
つとめよ

ふたり
ながらはじ
めてあいま

きぬ川は
すぎ
大じん
にうけ
いだされ
なに
ふそく
なく
おく様
〳〵と
あふかれ
ければ
今は
与之介
をみて

すこし
も【画面中段左に続く】
しらぬがほにて
介さんのすのじ
いひ出さずけいせい
といふものみなこの
くらゐなものなれば
むすこさんがた あま
りふつはまりは【続きは綴じ目で隠れて判読不可】
【画面右中段】
世之介女ぼうのかげにて奉公のもとで
にありつきかまくらへ奉公に出ける
そのだんなといふはかのすぎ大じん
おく様といふは きぬ川なり いよ
〳〵まゝならぬ うきよとさとりて
りちぎまつほうにつとめ子ども
あまた もち めでたくさかへけり
【世之介台詞】
此すへは
おめを
くだ
さり
ませ

【左頁 中表紙】
【所蔵者のサイン?】
【△ 御月】

【中表紙裏】
【文字、画像なし】
【表紙裏】
【文字、画像なし】

【表紙】
【書き込みなし】

姉二十一妹恋聟

姉二十一妹戀婿  完

こゝに江戸南町二丁目に中根重兵へといふらう人
ありいぜんは四谷へんにてしくわんの身なりしが
しゆ人の用金五百両ぬすみとられそれより
らう〳〵の身となりまづしくくらしけるが
しやうとくせうじきものにておもふやう
われかとくゆづるなんしとてもなく
きさんのねがひとてもなけれども
なにとぞふんじつの金子五百両を
とゝのへこしらへさし上んと
いろ〳〵くふうせしが今のよの
なかできかねるものは金なり
されども二人のむすめをもちけりあね
をおふさいもとをおいとゝて二人ともうつくしき事はま村
やといふ
うまれなれば二三年いぜんにあねおふさを
新よしわらへ
金百両にてつとめほうかうにいだし
なにとぞ金つがふしてしゆじんへさし
上んとこゝろがけすれども
あと四百両なか〳〵きうにはでき
かね
いろ
〳〵

こゝろ

いためる

女ぼう
おつな
どうぞ
おまへの
ねがひを
かなへて
上たい


おい


あい
おちや
あがり
ませ

【右丁】
こゝにまた
四ツ谷に
松がやそね
の介と
いふものゝ
おとゝに
左七
とて
今ふう
いきちよん【粋ちょん】
なぞはした
めにみてゐる
つうのいろお
とこありされ
ばすこしよき
おとこは弓町
ろかうの本所
ろかうのと【?】
ひやうばん
するよのなか
此左七も
せん
はまむらと
いふおとこなれ
ばごけむすめ人の女ぼう
下女はしたにかきらず
一トめみるとほれぬと
【左丁】
いふことなしたれいふとなく
四ツ谷瀬川〳〵ともつはら
ひやうばんせしかばあに
そねの介ものがたき男にて
しゆ人へきこへをはゞかり今は
かんどうのみとなり
十兵へ女ぼう
おつなにすこしないゑん
ありてろう人のうちへ
まづとう
ぶんゐそうらうとはなりぬしかれども
十兵へしんせつなるものにてふびんを
くわへおきけり

これ左七さんおまへさん此うち
へおいでなさんしたその日から
かわゆらしいとおもひそめたが
わたしがいんぐわどうぞ女ぼう
にして
下さんせおまへさへがてん
して下さんすりやかゝさん
におねがい申て天下はれ
たふうふになつてみたい
わいな

おいと
左七にほれて
おもひのたけをくどく
これより左七おいとゝ
ふかいなかとなり
くらしける

お心
ざしは
うれしい
がおやの
ゆるさぬいた
づらごとその上
わが 身の
おせは は大
をん ある
十兵へ どの
御ふう ふもし
此事 あらわ れ
おはら たち の
ほども
きのとく
こればかり はおゆるし
といひたい所 だか
わしもとふから その
き さ



【右丁】
鳥山は
せ川を
一トめ
みる
より
つうでいながら
いきすぎず
おとこはよしどふも
ならぬほどほれる
それより
左七はつき日
たちておいとにも
すこしあきかぜ
にてほつこくかよひ
とでかけたくおもへ
どもないしやう
すかんひんの事
なればくふう
して
ふとおもひつき
こきやう
四ツ谷ぬける
□こゝに水右衛門と
いふしん
ござを
あやなし
女郎かいと
【左丁】
でかけ水右衛門
にはしかゝやの
鳥山(てうざん)ををあげ
させ
そのみはいつでも
じゆふに
なるやうに
しんぞうを
あげて
あそびける
これみな
水右衛門が
いたみなり

おや〳〵てう山(さん)さんの
きやくしゆは
いつそもう
よくにた

とくき


【右丁下】
□□
らしい
長山
どん

まつ


はて
きたない一ツ
のみ給へ

これは
とうで
ござります
せがはさんで
もあるめい
〳〵

【右丁】
鳥山(てうざん)は
どう
おもひ


しても
瀬川が事おもひ
きられずとう
ぞして

きやくときれて
せ川にあわんといろ
〳〵くふうをする
もし水さんへわたしは
ははづかしいことでありんすが
どうでおはなし申んせんでは
わかりんせんからまあ
きいておくんなんし
どうしいんしたやらよいの
うちはそうもありんせんが
こうしてきがおちつきんす
とねつからめがみへんせん
いつそもふざとうさん
どうぜんでおりんす
そのうへにしやくがおこつて
よこになりんすといつそ
せつなふありんす
【左丁】
しょかいからこんなばか
らしいことを申んすも
なにとかおもひなんせうが
どうでうちとけておめに
かゝりんすことは
なりんせんからおはなし
もうしんすと
いろ〳〵
あやなす
ゆしまのちぞうさんへも
ぐわんをかけん
したが
きゝいせぬ
【右丁下】
これ〳〵
きみよ
たびは
みちづれ
よはなさけ
とやら
おなさけに
あづかり
たい

【右丁】
鳥山(てうざん)はしん
ござを
いろ〳〵
あやな

せ川

おもひ




あか
さんと
きたる
もしへ
瀬川さん
まだねなん
せんかへ
きやく人の
ねなんした
まにそつと
ぬけて
きんした
わつちがぬしに
おきゝ申ん
すことが
ありんす
【左丁】
まあ

わつちが
こんやの
きやく人が
もうき□
なんぜず
はぬしや
わつちにあつて
おくんなんすきかへ
いやもうあれさへこぬなら
どうでもしてあふきさ
しかしおれが
みのうへはおめへがたになか〳〵
あいとをされる身の上で
はねへのさなま
じい一どや二ど
あつてもおもひ
のたねだから
こんなむたな
あそびをして
おもひきつて
いやすともふこいつは
おれにきたなとたゞ
あそぶくめんをふづくり【作り整える】
ける
【右丁絵】
しんぞう
よひ【宵?】よりの
よう□□
とはずす
【右丁下】
わつちが
□うから
こういゝん
すからは
どうでも
してあい□アいんす
からどうぞいつ
までもきておく
なん


【左丁下】
なにまあ
いつそ
ありがたいと
いふまゝさ




【右丁】
いやもふいま〳〵しいことさ
ねるとまづしやくが
おこつてそのうへにめが
みへぬとぬかしてざとうか
ごぜをだいてねたやうだ
もう〳〵ふつ〳〵いゝきはない
瀬川はゆふべの
やうすからとい
かける
水さん
ゆふべは
とんた
こつてあつたらふ
まあとんだうつくしいは
もふおゝつけあけやうの
しほはどうだの
ぬしをはやく
かへしていもんだ

よくいふやつさ
【左丁】
鳥山(てうざん)は瀬川にうちこみ
よぶほとに〳〵まいよよび
けるゆへ今はなしやうも
あしくなりければとかく
金のくめんとおもへどもなか〳〵
いまどきとこ花三両とくれる
きゃくはすくなくよう〳〵と
あれこれとあやなし金
二十両ばかりもくめんせしが
これにてせ川をよべは又あとのさい
かくになんぎなる事とおもひふと
此二十両を
ほう
ばい女郎のうちすかひん【素寒貧?】なやつに卅日
ぎりのやくそくにてなにかめのてるやう
な利をつけかしける

もしてうざんさんわつちにも三両
おかしなんし廿八九日にはこゝろあてが
ありんす

またじゃ
なかの町へも
いつてくるやよ

すがはら
さんも
どうぞ五両
ばかりそう
申てくれろと
いゝなんした

【右丁】
鳥山日に出し金は
ふへ今は三四百両も
まわりければまづ
ふへるがおもしろくなり
そうのうへせ川にも
しゆらに
あわれ
これほどの
たのしみはから
にもあるまじ
とおもひいよ
〳〵金を
かしだし
今は中の
町ふしみ
町その
ほかに
てまわりなる
ちや屋どもへ
かしだし日ぎり


すれば
かぶろ
かたち
かせん
二人をさきへ
やり
さいそくさせけり
【右丁中】
いやもふおめへたちのいゝなん
すがみなもつともさた□
としんなんすととりきく
□んはなしにわかでものは
いりんすしこゝろにおも
いんせん御ぶさたいたしん
す二三日のうちにはぬしが
江戸へ行なんすととるかけ
がありんすからとうぞ
あさつてまでまつておくん
なんすやうにいつておくん
なんし
どうもちとこちらにとんだ
まちがひあつて申わけがない
【右丁下】
もしごつさんおいらんのいゝなんす
だん〳〵と日ぎりもきれん
したにあと〳〵月からりも
おくんなんせんとうした
此しんろきつと
きゝ申せ

【右丁下】
いつそ
はらを
たちなん
した
ぜんたい
此金はまあ
おいらんの
なまへでおかり
なんしたが
やがてわつちら
がみせへでるにもまた
そでゞもとうかたちへや
でももつたりしんす
入月にこゝろがけんす
金のことたとへ
おいらんで
がてんしなん
してもわつち
どもがもう
がてん
しんせん
そう
また
【左丁下】
ふみつけ
にしなん

わけは
ありん

まい
【左丁上】
ふたりとも
こどものことなれは
せげんも
おうらいもゑんりよなく
たかごへをあげてはらをたちなか〳〵
かへるけしきはなし

かぶろ
どもが
何か
りくつ

いふは







【右丁】
さて鳥山が金をかり
たるちや屋ども日々
かぶろどものさいそく
にあぐみはてその上
かへりにはいたづらに
みせのすだれあるひは
せうじなどぶち
やぶりなぞあば
れけれどもこ
どものこと事しかたも
なくせんぼういき
て一両へいひ合せ
右てうざんが金
のとりたて




こと

その
町の
なぬ

へとゞ

けれ

【左丁】
ふたりともにおい〳〵へんきんすべし
もし又てうざんほかへゆきなばしかゝやかた
までとゞけべきこともいややともへ申わたす
それよりしもゝやはてうざんをほかへ
しかへんとおもへども此さたはつと
しけるゆへほかにてきうにくちもなく
そのうへ瀬川といふといふむしがついているゆへ
いつかううれぬゆへまだねんは二年
あれどもしかたなくかつてのかたへ
ゆくべしといちまをやりけるかへつて
鳥山(てうざん)がしやわせとなりけり
またてうざんはなあるけいせいのある
まじきことをいたしあと〳〵のふうぎも
あしくなることなればほかへきりかへ
くるわおいだし申べしとしかゝやへ
申わたす
鳥山もりぶんのことをいわれては
一チごんもなかばし〳〵

【右丁中段】
いや
はや
女のあるまじきこと
きた
とこ
ろが
りぶん
のきわめなぞ
もいつかうた
わいないこと
【左丁中段】
しかしかりたに
そういも
【右丁下段】
いやもうあのがき
どもがやうないたづらな
やつはこざりませぬ

かりまし

にそういは
ござりませぬ
が利がたび〳〵
ゆへあ□〳〵
月までに
もと金だけ
すみました
【左丁下段】
さて〳〵でんじ
よらぬ事
にて
おまつりを
うけ
ました





















【右丁】
かへつて鳥山はわさはい
がさいわいとなり金まで
ふやしたる
金三百両よ
をもち
まづ
りやうしんにも
あひすへは
せ川をだづね
ふうふにならん
と本町へきたる
はゝおつなは
なにこゞろ
なく
いで

みれば
あね
むすめ
おふさ
ゆへ
きもを
つぶす
【右丁中段】
なにもとり
おとしはなれ
ぬかへ

やゝまめでいてうれしい
【右丁中段】
すこし
は□ら
□た□
いふあん
ばいだ

もしちとたのみ申しんす
御きんじょに
中根十兵へさんといふ
御らう人を御ぞんじなら
おしへておくんなんし
やあかゝさんかおなつ
かしや

とりまぜた事
なからいもとのおいと
もむこをいれて
いまではふうふながら
らくでござる

【左丁】
なにあね
がもとつ
たはて
また□の
うちだにかてん【合点】
のゆかぬ
おいときやれ
よくるはのあねが
きたと
いふは












【右丁】
瀬川は
かねて
鳥山(てうざん)
がは


にて
きけば本町
にりやうしんも
いもとも
ありとの
ことゆへ
さては
わがせわに
なつて
いる十兵へが
あねむ
すめならん
とはおもへ
とも
こう
ならうふとは
しらず
りやうの
てに
うまいものと
いもとのむこになり
すまし今では
もちにつゝ
【右丁中段】
そんならむことのいれて
こんれいさんしたのあだめて

【右丁下段】

さん
きた
りし
をみ

おいとが
てまへ
てうざんが
おりわゝ
きのどくに
おもひさん
ねんのかぶり
なり
これさてう山
これにはちつとが
やうすがあると
いふ所へたしか
十□□□が
ばてあつた

【左丁】
はゝのおつなあねがかへりしをよろこび
いもとむこのふいてうしてむこ左七と
にひきあわせければおふさはみて
びつくりしいもとむこはわが
おつとゆへ大きにきをもむ
なにかふかいわけのありそうなこと
まあ〳〵しづかにしやれさ
【左丁下段】
あねさんのかへつた
ことを一しやうつれ□あ
とのごじやもの
こん
れい
せん
でさ




十兵へはたん〳〵のわけをきゝおふさが
もつてきたる三百両とかねてこゝろ
がけおきし金といつしよにして
こしうへさし上しかばはなはだしゆ
びよく十兵へはきさんのねがいも
なければいんきょいたし
むこ左七へもとのごとく本ろ
二百石くたされける
またおふさは
あねの
ことなれはば
ほんさいとなし
いもとおいとは
てかけぶんにして
よことに左七が
あだな瀬川に
ひきかへはまむら
やがぶたいがほを
ふたりならべていゝひさしく
さかへけるそ
目出度喜
【下段】
あねさん
□いやらなめで
たいことは
ござん
せん

可笑作
清長画

瞻雪榮鉢樹

芝居繪手本 安永七戌年 瞻雪栄鉢樹 中村座 
鳥居清長画 十六
【検索用 芝居絵手本】

安永七戌年 瞻雪栄鉢樹 鳥居清長翁
中村座

瞻(もとみし)雪(ゆき)榮(さかへ)鉢(はちの)樹(き) 中村座

【右上】
わかさのぜんト
やすむら
純右衛門

やす
むら
金くわん
は□

もち
三人を
けつとう
する
【右下】
桜井七郎松蔵 桜井七郎
しやう
がいせんと
せしこと
松ゑたにとゞめ
られたがい
のかたなを
みて

きやう
だひと
しり

のり

三人
にて
やす
むらを
ささ

松原
三郎
孫三郎
林田の四郎
小山三

はるの部



ぜんじ
やすむら
純右衛門
天下の
御しゆう

ずゝと

色山とともない
いで安村をさゝへる
けいせい
冊前久田里好

【右頁上】

くせものゝあとを
つけきたり かたなの
のりを ぬぐい
   さく出る

【右頁下】

源藤太友右衛門
あくじをたくみ
くらまきれに
しんのうを
ぬすみ
いだし
人しらず
てにかけ
たちのえ
とするを
さく
られ
きり
はらふ
むね
たる
しん■
松代

【左頁上より】

■□幸四郎
りやり人を
とゝめ大介
に■人のいへの
たつべきにん
じつせしふじ
まきのかまの
ありかを
たづね出
すべしと
いひわかるゝ
かつ山里好さいぜんゆび
をきりしそのちしほおもわず
■さくのたにかゝりしがちしほの
たゝみしをみてもしやたづ
ぬるかたきとあやしむ
大■三津五郎かつ山はさく
のむすめなることをしりつね
よりたへ来たりしよりを■ときゝ

【左頁中】

つねよけい■つきはし
広右衛門
さすれは
かたきは
つきはしなりと
つめかくる 

【左頁下】

行のかげへ
しのびしが
かつやまこ
ゆびを
きりしを
おどろかれ
なぎなたの

しほ
をふみ
かく

ちす
それを
みて物
は此なき
なたにて
くわ人と
かつ山とのり 
ちしほとゞ
まりおやこ
ゆへちしほ
一つになり
しは















【右頁上】

さいめうじ■頼よりのちよじをゑちごの守
光時と立あらわし上使のおもむきは
くわんばくの娘をやうし【養子】にせしはせい
てう【成長】ののちしんわうとめあわせ
むほんのねさしありとうたがい
かゝやうし【養子】
せしあや

ひめの
くび
をみつべしとの
じやういさしあたるなんたい【難題】ゆへ
何とせんとつねよにとひ
梅さくら松の元を給はて
占をひきみる
さいめうし時頼入道四郎十郎
源孝太 友右衛門
つねよいつれをきらんと
とうわくしひめになけきし
桜木をきりみかわりを
たてんとおも
【右頁下】

つきはし【継橋(常世の継母)】
広右衛門

源左衛門
つね世
幸四郎

【左頁上】

つね世幸四郎わがこたまつさ
をあやこ姫の
身がわりにせんと
したひ来りし
女ぼうにわざと

れなく
あたりむほんにんあさ
はらが
いもとなることを
しりりゑん
じやう【離縁状】をわたし
のちにりゑん
としまぢかい【間近】を
みてまこと
をあかし
しうたん【愁嘆】


此■経 松永忠五郎
めりやす【メリヤスは長唄では楽曲を意味するが、義太夫では旋律を意味する。長唄のメリヤスは手ほどきに使われることが多い。その理由は曲のテンポがゆっくりで簡単な手順で構成されているため】くきの夕べ大てがら〳〵

【左頁下】
しろたへわかみを
くやみじかい【自害】
してみがはり
のやうすを
きゝおつとの
こゝろざし

よろこび
さいご




しろたへ 半四郎
実は 
あさハラ

【右頁】
新五左衛門伝五郎
源左衛門にたの
まれしを
はくしやう
する
めのと八重
     桜
しげ八

むね
たか
しん王
吉次

大でき〳〵

秋田主馬之介
こま蔵

源左衛門つねよ
幸四郎

【右頁下】
あかほし大郎

三浦右衛門ほうけんのとうぞく
を引立きたる
つぎはし
広右衛門
つねよにあつこうしておやあま
とのえんを切つねよが
よろひのかた袖を■み
い■のせんじをうちしをつね
よになすられとせし
ことあらわれ

ねん
がる

【左頁上】

さいめうじ時より
四郎十郎つねよか
ちうしん【忠臣】にてふんしつ【紛失】
のほうけん【宝剣】をとりへ
よろこひ給ふ

あをと五郎 門之助
あしかる高岡清右衛門片蔵
 
やつこ
さふ           

八蔵

【左頁下】
つねよ玉【□つ】さを
あやこひめのみかはりに
たてくひをわたして
上しのみつ
ときを
かへし

源藤太
友右衛門

源藤太か悪し【悪事】をあらわし
おやこのゑんをきりし
ときいてつきはしがたくみ
をあらわす源藤太つき
はしと心をあわせ四はう
のおちとをこしらへつね
よをつみにおとさんと
せしかへつてたくみをあ
らわれ
まことのしん
わうをみておと
ろきいふく大小をはかれ【衣服大小を剥がれ】おいはらはるゝ














【右頁】
【枠タイトル】
なつの部
【右頁中央】
みつとき 沢蔵
 
みつとき松へた■両人
ときよりのおゝせを■けんし 
なみきぬにちからをつけか
ゆく

松枝三郎改三郎
【右頁下】
つきはし広右衛門いくのせんしをうちし事あらわれなみきぬ
とせうふしてさころもを
かへりうちにしてなみきぬに
てをおらせうち
とめんとせしところ
にかみ
なり
にお
それ


るゝ

なみきぬ
里好てをいなからつきはしを
しとめちゝのかたきを打
ちゝのいへにつたはる一くわんを


かへ



こふ

大介妹さころも富五郎

【左頁】
【タイトル枠】
あきの部

大介
しなのゝ介
大くらのいなり
へしん
くわん
あつてさん
ろうする

此所浄瑠璃にて
せり出し
はなやか
大てき〳〵

【左頁下】

二かいどうしなの介
門之介
大くらの小女郎
きつね
半四郎

ゆげ
大助
三つ五郎









【頁上段】
名見崎
徳治【 富本節の三味線方 六代目 名見崎 徳治】

富本
豊前太夫【富本節の太夫の名跡。代々家元を名乗る】


斎宮太夫


富太夫


上るり
色時雨(いろしぐれ)紅葉(もみぢの)玉垣(たまがき)

大くらのふうふぎつね
いなりのしんぜんにこめ
ありし八ゑがきのみかま
ふんじつ【紛失】ゆへめうふのくわんを
とられみかまを
たづね
いたさんと心をくだく

あかほし妹秋しの
久米次郎

【頁下】
万作狐
三つ五郎
すがたを
かへて 
信濃介
がなん
ぎを
すくふ

信濃の

門之介
  
小女郎狐 半次郎







【右頁上本文】
ふうふ
ぎつね
しなのゝ
介に
めい


あた
ゑら

もと

ふるすへ
かへらんとよろこぶ

【右頁 登場人物•役者名  女郎狐より時計回りに】
女郎狐 半四郎

入道 三甫蔵

伝五郎

大右衛門【これは左頁の亀甲衣装の役者カ】

利根蔵

万作狐 三つ五郎

【右頁左下段】
入道がけらい
と□みち

きつねにばかさるゝ

【左頁登場人物•役者名 ひわた御せん「般若の面をつけている」から時計回りに】
ひわた
御せん【檜皮御前】
ぼうこん
三甫右衛門【中島三甫右衛門 6世まである。此処では年代から見て2か3世か。1762年「宝暦12」冬、中島三甫蔵から2世を継いだ】

【ひわた御せんの下へ】
【亀甲模様の衣装役者の名は大右衛門カ】

■【かとう之介 虎に座っているので】
之介
こま蔵【 三代目 市川高麗蔵 二代目の子、1764–1838。五代目松本幸四郎】

あおと五郎門之介【青砥五郎 二代目市川門之助】
つまもりのうちを
あやしみあらそひ
はた
引だす


時よりに
うらみをな
さんといふ
秋田城之介【古代の秋田城鎮衛司令官。平安中期ごろ出羽介が兼任、後期以後は空職化したが、武門の名誉とされた】
孝四郎【松本幸四郎4代目あるいは5代目】

是より
第二はんめのはしまり








【右頁上段】

しなのゝ介
門之介時よりの
仰をうけ孫三郎に
天下のせいとう
をたのまんため
のしやしや
にきたり
かへりをまちうける
あをとむらの浪人
あをと孫三郎ゆき
みにいできやくのある
しらせのうぐひすの
こへを
きゝ


かへり
しばらく
あつて
しなのゝ介にたいめんしてやうす
をきゝもろこしのこじ【故事】を引きのちまでに
【以下の文は右頁最下端にある】こおらいのけんとらせんといふ【高麗の剣】

【右頁下】

青と孫三郎
孝四郎

孫三郎女房
おりゑ
実は
しなの介【しなゝの介とあり】

あね
やどり木
あやめ【芳澤あやめ】 

【左頁上段タイトル枠】
ふゆの部
【本文】
青と村の
庄や甚左衛門実は
浅原八郎
三甫右衛門
庄弥惣
左衛門ふう
ふをせ



して
孫三郎も二りのへ
やうつりさせる

はしばの
ぜん
■ちう
武■

【中段】

あおと村
浪人
弥惣右衛門
実は万作
きつね
三つ五郎【坂東三津五郎】

【下段】

弥惣右衛門女房おたま実は小女郎狐
半四郎【岩井半四郎】




















【右頁上】          【】

弥惣左衛門女房
おたま
幸四郎

庄屋
吉次郎
孫三郎
にやち
んの

さいそく【家賃の催促】して
ふうふけんくわ【夫婦喧嘩】
をとりさへる【取り押さえる カ】
三甫右衛門
弥惣左衛門孫三郎が
二かいへやか
はりしてやき
もちけんくわ
してさり状
をかく
孫三郎女房
おかゑ
あやめ

【右頁下】

孫三郎女房おかゑふう
ふをなだめお玉おつとの
よりそいしをみてりんきし
ふうふけんくわするを庄や
弥惣左衛門にかいよりおりたがいに
女房をとりかへる

孫三郎
幸四郎【松本幸四郎】

【左頁上】

女房おかゑ
あやめ【芳澤あやめ】

源藤汰
友右衛門【二代目大谷友右衞門】

かまくらをおひはらはれ
此所へまよひ来り
したのやうすを
見てあやしむ
弥惣左衛門
三つ五郎

【左角枠内太字で】

《割書:狂言|作者》桜田治助

【左頁下】

孫三郎幸四郎小女郎がてい
をあやしむ
にかいよりおちしあづきがゆに
ねづみのつきしをみてしやうをあらわす
小女郎狐半四郎

【芝居を褒める掛け声】
大でき〳〵
大あたり〳〵

野惣左衛門源藤汰を
よひかへしいちやの
やどをかしちそう【宿をかし馳走】
して
にしきの
ふくろ

みとがめる

清長画








【左頁左肩に図書標】
【「特別」印あり】
京 38  376

【裏見開き左肩に図書標】

京 38 376 「特別」印

茶羅毛通人

茶羅毛通人 完

天明三

《割書:珍|物》茶羅毛通人(ちやらのけつうじん)上

こゝにあつ
まのつう
じんこく【東の通人国=日本】に
ひやう
とく【表徳(号)】をかう
子とてつう
人のおや
だまとよば
れ大つうの
かしらたる
ものありける
かいませかい【ありけるが、今世界】
もつはら大つう
【へと?】なびきした
かふ事をかんじ
大から【大唐】の大王より
もつうじんにつき
やいしやれてみた
きとてつかいきたる
このつうじんこく
ねんちうちやら【出まかせ】を
いつてくらすゆへ
大からにてはちや
らのけつう人
とおほえている

と【き?】に事とまたいつたら
それいろごという所が
うるさかろふの

【この先かすれ多し】
なに大王【印?】□□□□つきやい
たいそ□□□□おもつた

とう【じ】んいまたあるひげを
【なてる?】
唐人未抔有髭【「抔」は「など」と読むが、もし「なてる」と読むなら「撫」のはずで、旁の「無」を「不」としたという素人の「ちやら」です】
【つうじん??ぬ】きひけ□なてる
通人却抔□髭
たう□□ つう人の
おしへをは 申□ら
□□□ にはきつ
いがな
□なさ
れよふ


さよふならきん〳〵おいでた
まつち山【待乳山】といふは□□□

さてももろこしの
大わうつうじんを
よびたきとのねがひ
にて大つうじん千
人はかりらいとう
するらうにやく
なんによのとう人
どもさじきをかけ
つう人をみにでる人
おびたゝしとふせいを
さかさまにしてせい
とうといふのぼりを
もつ

【台詞、かすれている】
あれ□な□□を
□び□□のよふ
にいつてらつ
さる

□【此?】としに
なるがつう
しんははじ
めてじや

大つうじんぎやう
れつやし□□
〳〵

【通人たちが持っている幟】
世当

つうしんの
かしらたる
べきもの
一三人人わ□に【二三人大わうに?】
ま□へ【まみへ?】さま〳〵大
つうの
おゝきをはなし
そのしやれ
のめす□□□が【かすれている】
はまのきしやこの
ごとし大わうつう人の
いきなる事をかんじおゝ
くのたからをあたへりんごく□【へ?】
かへし給ふされども大王
このくにのとう人どもを
つん人にしたきとのたの
みゆへ□のものをかへし
かう子【幸子】一人□どにと【ゞ?】【かすれている】
まりつうがく【通学?】の
みちをしゆぎやう
させんといふ

【台詞】
こんないた事【痛事】を
しなすつちや
きのどくだぜ

をつういうもんだぜ

こればかり
ではりん
たがすげーと【?】
いうところたが
とつていき□
〳〵

【本文・台詞ともにかすれが多い】
幸子はとう人をつうじんにせんとて
【ま】い目【日の誤りでは?】つうがくの□□をかうしやくして
とう人をありがたがらせる
エヘン
〳〵
それ
なん
とか
かとか
かういつ
たる□ん
ながわし
□□
どんな
ろに
身(み)
六(りく)
□ (けい)【藝の誤り】
通(つう)
者(もの)七十二文りくげいとは六つのげいてさみ
せんいけ花□□□□らい□□かした
かた
これを
おしへて
つうにす□□が【七】十二文□□な□とんた
□すり□〳〵

なん□いつて【は】
それなんとかかと
【かう】いふことがあつて
きゝが【き】づ【が?】し
にくし

ときに一□□
ちよん□□
□で□
じふん
たの

【貼り紙】
一六 遊子方言
二七 南閨雑話
三八 辰巳ノ園
右 九つ時より

【日ヨ】リ
吉原細見講釈

【『遊子方言』『南閨雑話』『辰巳之園』はすべて洒落本。『吉原細見』は吉原のガイドブック。】

【全体に不明瞭な部分が多い】

せいじん【聖人】
なれば
きりん【麒麟】
げこなれ
ば□りんつう人
なれはこんな
もので
□【※1】あふさ

とう人どもかう
しやくの□□□□
にしの□□へきり
とむまあわれる
せいじんのよに□【は?】
きりんあらわれ
つみ人のよには
きりとむまのものなり
いよ〳〵かう子【孔子?】がつう
人なることをとうじんども
かんしんする

此よふすではきりんより【麒麟より】
さいがで【犀が出】
ませふ

いまゝでうみ【かみ?】のそこにな
めていました□【※2】ろふ
ふしぎ〳〵

【※1と※2は、阿の一部が消えたような同じ文字に見える。】

とう人ども
どん〳〵つう
になるにし
たかいからの
ことともはぞく
ていかぬもの
なりとしやれ
そろ〳〵せう
そくなども
だいめうしま
ひわちや【鶸茶(色)】ま
すつなぎ【枡繋ぎ(模様)】
きくじゆ【菊寿(模様)】
などにする
しよもつも
わしよば
かりかい
とうほんは
ぞくなり
とはらつへ【て?】
しまいてならい
もからよふ【唐様】はす
たん【れ?】おいへ
りう【御家流】ながを
さやまなどを
かく【書く】されどもをん
なそめはあつち
のほ□□そめと
まちかふゆへに
はやらず

このにほんつくへ
どこてかいなつ
たとんだ
おそろしいの

【左ページ】
さるほどに
つうの
みちいよ〳〵ありがたくとう
しんみなほんだあたま【本多頭】に
なり
たきとてやろふにしてもらう
ふつとう【仏道】に入てしゆつけ【出家】し
たいよふなものなり
これをみればぶつどう【仏道】
かじゆどう【儒道】かわから
ぬところがつうとう【通道】
のおしゑなり
やろうの
とう
じん
あま
たて
きる【野郎の唐人数多できる?】

なむきへつう
なむみへぼう
なむきへぶき
よふことなへ給へ【よふ(良く)御唱へ給へ?】

よいやろうふりかね【?】
ひげをばすり
ますまい
なでるときの
ためじや

けふのほんた
はすこく
できた

ときに
せんせい
もへはけの【?】
さ□をまておい
て□よふござり
ます

まことにつう人の
よとなりせかい
ゆたかにおさ
まりせん
ひをつく
すよの
中にて
おんなまで
がつうと
なり□□【かみ?】
なともびん
さしをは
とうろうびん【燈籠鬢】かつやました【勝山島田】としまの
きやんはかつくりかへしとう人のおんな
つう人
の女と
なる

につほんた
よりにまつ
□とのあふらを
と□に
□□□ふ

くしは
よこへま
げてさ
すのだ


【左ページ】
このくらい
女かより
やつてはぜ

ていしゆの
うわさかいゝ
とふござんす
がそこをつう
でいゝやす
まいの

これから
ゆへいき
やせう
ゆやへいゝ
にくつを
はいていくは
□□でこさんす
こまけたはきのゆ
かこもたせさ【駒下駄はきの湯篭持たせさ】

つう人
のよには
とたゝ【
ぬみ
よ【戸立たぬ御代?】とて
人みな
だい
つうと
なり
どろ
ほう
かなん
そぬ
すみ
たかろう
とおもい
わざと
とを
あけは
なしに
してなん
でももつ
ていけと
いわぬ
ばかりは
とんだつう
なりはいる
【左ページへ】
ぬす人も
さるもの
にて
これほどつうな
うちのものをぬ
すむはきついや
ぼなりとてとろ
ぼうのほうから
ぜにをおいて
ゆく

【台詞】
これかゝア
きたそ
よろこべ
〳〵

なによたか
そはかへ【夜鷹蕎麦かへ】
どろほう
かへ

いぬはほへたい
かつうてほへ

すまい【?】
てやるこふしてもやきめしまて【?】
にはきがつくまい

あるとうじんみち
にてとをりのも
のにとりはつし
あたまへたんを
はきかけ
けるゆへ
きのどく
におもひ
いろ〳〵
わびけれは

さきのは大つうにてはなかみを
たしてわがてにふきおまへは
きついおたんもちそふな
とふところよりせいめい
□んのたんきり一かい
たしはきかけ□もの
にやるはとういふ
つ□□□ろふ【汚れあり】

わたくしがたんはゆたん大たん
と申たんかおこりますこの
たんごめん〳〵

なにおまへいくらも
□かてんさ

【左ページ】
人のあたま
たんをはき
かけるのみな
らずたん
のくすりまで
くれてよこす
よふなつう
じんのよ
なればはき
かけたもの
もあかすも【?】
あられず
そのばで
すぐにせつふくとおもへともそれでは
さきの人へつらあてのよふでつうで
ないと
おもひ
うちへ
かへつてはらをき
らんといふはとんだ
つうなり又にやう
ぼうはそのうへを
ゆくつうて此よふな
事もあらんととふに
けんのはをひきて
ていしゆをたすけるは
だいつう〳〵

それほどきがつくくらいで
はらきりのさんぼうを
あたらしくこしらへさせたは
まだあをい〳〵

これはほん
にきがつ
きんしなん
だなむ
さんぼう
〳〵

まおとこをてい
しゆがみつけうちへ
はいつたならを
とこがこまるだ
ろふとおもいずつ
とはづしててい
しゆがせうじのそと
でまで
ついている
もつうなればまおとこもみつ
かつておどろくはふつうなりと
うちからわさとせきば
らいなどしてむだを
いつているもつうの
よなるなり

あんまりおれがつう
すぎてなれやひ
だとおもはねば
いゝが
アゝどこへぞ
はづしたい
ものじや

【台詞】
ヱヘン〳〵
おつとかえりは
ふさがり〳〵

人をちやに
したせつちん
じやアあるまいし

【左ページ】
まおとこも
つうにて
さきではなん
ともいわねど
もくび代の
かねをざとう
かねをかりてもや
らねばつうでな
いとかねをかり
ればかしたかたのざ
とうも大つうで
このよふなかね
のりをとるは
ふつうなりと
ざとうのほう□
□□三両一ぶのわり
にしてかしたものへ
りをはらつてゆくは
けしからぬつうな
事なり

【台詞】
まづこんげつぶんの
りばかりおいてま
いりませう
とうしんのざとうかね
いきてはたらくのが
三両〳〵

かりたほうへりをとる
とはうまいものだ
かねもちにざとう
つけておはか【ら?】へおさ
めう

このごろあたまをまる
めたとうじんの山いしやに
せんきのきうてん【疝気の灸点】をたのみ
ければ
せんき
のきうのすへどころをしらずしらぬと
いふもふつうなりと
おもい
しつたつう【か?】にてせんき
にはちりけがよいとて
ちりけをすへてやれば
すへるものもまん八とはお
もへどもこゝではぢをかゝする
□【と?】ふつうとおもいあついをこ
たへて十てんてもろふもつう人
すへるやつもつうじんか

廿四けいといふぐんしよ
にのぼせるにはさんり
をすへよそこでわし
がくふうでこしの
いたみにちりけ
これせんき
かたが□
ねばなら
ぬりしや

【台詞】
これでな
をればせん
きめもつう
だはへ

やぼらし
いことだが
□□あついと
とういう
もん


【左ページ】
つうなとう
じんどし【どうし?】みち
にてでやい
どふだせんせ
いかのゑての事は
へんちきかと
といければ
こちらのも
のゝへん
とうに

いやもふ
しれし御【?】
事かのてん【?】
でやつてみた
がそれなにか
ごたつきのあ
つくなるのちよん〳〵
まくだよとこたへ
ければさきの
とうじんそれではいかん
てん〳〵とい□わかれ
けるとういんかわ
いんかしらねどもこれで
よふがべんじればつうな
ものなりからでもこれを
つうじんのねごとといゝて
かたい人にはわからぬげな

かし
のある
とう人
みそか
にかけを
とりに
きたりし
が大の
つうとう
じんにて
おふかたていしゆ
がるす
をつかう
だろふと
おもつて
そこ□□かみ
さんごていしゆは
るすだあろふと
いゝければかゝあもうそは
ないよといわんとせしが
むかふからあなをい□れて
あいといふもふつう□【と?】
おもいアノ
マア
るすの
よふなもんだけれど
そこはそれおまへも
よしかうんといゝなよ
それよしか〳〵と
いゝければかけとり
もおつとがつてん
よしさ〳〵
といつて
かへるはつうじんの
みよにきわまり
ぬいた

【台詞】
あんまり
つうなもばから
しいもんだあいつ□□
いうい事かり□ある


このかへりにこめやの
とわりもいつて【?】
やろうか

ぎだゆふを
かたりならい
のとう人かたつて
人にきかせた
がれどもこん□
ふしもわるいゆへ
にちやめしにも
ならずそれで
もかたつてきか
せたくてこたへ
られぬゆへかたり
てのほうから
ちやめしをたいて
人をよんでかたる
はつうなものなり
またきてきく
ともだちもそこ
はぢよさいなく
わるいじやう
るりをこたへ
てきいている
はせつなく
もあろふ
が大つう
〳〵

とうじんの
ぎだゆふ
あまり
どつとも
せぬもの
なり

【台詞】
ついに
こんなめに
あつたちや
めしがない
【「ためしがない」と「茶飯がない」をかけた洒落】

きいたことは
ないが
どふかふで
太夫【?】
せうの【?】
よふだ

があまも
だゝあも
ぱあ〳〵
〳〵〳〵

かふころんでは
ながくははやる
まい

このげたをはきこ
ろんでわらはれし
ゆへにいまのよに
これをげたゝわらい
という
またばかげたもん
だといふもこれから
の事なり

あんよはぞう
りころぶは
おげたかへ
【あんよは「上手」と「ぞうり」、転ぶは「お下手」と「お下駄」をかけた洒落。】

【左ページ】
つう人こゝでは女は三まいうら五まい
うらのそうりをはきおとこははゞの
ひろいひよりげたをはくと
いふ事をからできゝつたへはり
ほどの事をぼうほどにいふよ
の中なればうらつけは廿まい
かさねげたはまないたほどに
してはきければなんによ【男女】と
もころぶことかづしらず
いかにはやりものなればとて
をやのばかゞむすめにはかせて
みたがるやつさしかしむすめの
ころぶをおやがよろこふか
こんなおやじがからにも
あろか

そのころ
につほんに
わとうない
三くわんと
いへるきおい
のつう人
ありけるが
からにいくさ
があると□□
なんでもけ
ちをつけて
きおいのて
なみをみせん
とてあつく
せつこんで
きたりけるが
からはつう人の
よとなりいくさ
の事はさて
おきけん
くわひ
とつ
ない
よなれば
わとう
ないおふ
きに
てうされ
ほんごく
へかへる

千里がたけの
とらはわとう
ないをちらと
みかけしがお
れがでたならば
けんくはになる
であろうと
とらもつうにて
おとなしくみ
ぬふりして
いる

【和藤内の台詞】
此大だちもむだになつた
大山へでもおさめべい

ほんのこつたかあのとらはとらのをの十四郎で
いやあてこともないとおふてをしているやつさ

【虎の台詞】
こゝでおれが
たいへいをいつ
ては竹を
かつてしり
をきられる
といふもん

あまねく
幸子はもろこし
をつう人の御代となし
かづのたからをもらいつう人こくへ
かへる事こそめでたけれ

大つうといふ人は

一 ̄ニ いちやつくことがすき
二 ̄ニ 二朱ばんをちやら
つかせ

三 ̄ニ さきにつかわれて
四ツよるひるうちにいず

五ツいつでももてもせず

六ツむしやうにむだをいゝ
七ツなんでもしつたふり
八ツやましをしたがりて
九ツこんとのしんはんに
十ヲでとうじんつうふした
大つうまいをみさいな
よくだいつうをみさいな

芝 全交戯作

伊達錦對将

芝居絵手本《割書:伊達錦対将 森田座|鳥居清長画》 卅
【検索用 芝居繪手本】

伊達錦対将 《割書:鳥居清長画|森田座》

伊達錦対将(だてにしきついのゆみとり)
【墨で書き込み】安永七戌霜月

【検索用旧字体表記 伊達錦對将 : 森田座】

【表紙に壽(寿)の字とhを三つ並べた紋が散らしてあるが、これは仲蔵の替紋で人の字を三つ並べてデザインされている。江戸で三人という役者になりたいという願いを込めたものとのこと。仲蔵は市村座の役者だったが、もめごとがありこの芝居から森田座に移ったという。ソース『戯場談話』歌舞伎年表より孫引き】

【本書は芝居のパンフレット的なもので、文中の人名はほとんどが「登場人物名/役者名」のかたちになっています】
【右上段】
あがたけんもつ仲八【うとう安方と別人?】
あんばいよし
でん八実は為宗
長十郎女のなんぎ
をすくひみな〳〵を
せはして為宗と
ほん名をな
のり女に
せきしよを
とをれといふ

  貞広妹はつしも万代
  さたとう【貞任】
   一子ちよ
   どうじ
    まん蔵
【右下段】
はん
 の
 ち
 から
 の介
 此蔵
 女を
 せき
 やぶり
 といひ
 とゞ
 めん
 と
して
為宗に
りつめに
  あふ
【右中段】
安方妹
ころもで【登場人物名】
国太郎
わか君をともない
せきをこへんとして
とがめられしが為宗
が情をよろこぶ
【左上段】
貞任家来うとう安方仲蔵いもふとにめぐりあい主君
よりときのほろびしをきいておどろき此所にすがたをかへ
いるようすは主くん貞とうおのへのまへに心をかけられ
そのこひをかなへんためかなゆるまではわが女ぼう
おのへのまへに似たるゆへみやづかへさせよとの
しうめいぜひなく女房をしゆくんへ
さし上おのへのまへをくどきおとさん
ため也としさいをかたる
船頭ろ介
又太郎
実はいぐ【伊具?】の
十郎おのへの前
に心を
かけ
いたりし
が此処に
こと立ぎゝ
あかた【安方】を



【左下段】
千代
どうし
万蔵

ころもで
国太郎
しゆくん
ほろび
一もんがた
ちり〳〵になりし
ことをかたりさだ■【さだ任?】
うり【ママ、「より」の誤り?】
おのへの
まへにおく
られしかづき
あにゝわたす

黒づか入【入道の道が脱字?】■五郎【判五郎? 役者名】
でわの判官大太郎【後半役者名】
あげや町の少納言【?】
半三郎

高ひろ親王
仲蔵

【右ページ中央】
しらいと
ひめ
菊の井

【右ページ右下隅】
もの次郎【ママ、かもの次郎】
淀五郎
しんら三郎
又九郎

【右ページ左下隅】
ちか
ひと
しん王
大谷

太郎


五郎

【右ページ左上】
月日のみはた
ふんじつのかもの次郎
【左ページへ】
新羅三郎両人のおち
どまたしんら三郎と
しら糸ひめふぎ也と
いひつめ後につかん
さまたげとなる
ちかひと親王かん
げんせしきよつら
みな〳〵くびをうてと
いひつけ八まん太郎の
がくをひきおろさんと
する所へしはらく
〳〵〳〵
大あたり〳〵

きんの八郎
又太郎
ちからの介
此蔵
しらつか入
道百合
   蔵【? 役者名】
小山一藤五【?】
 熊五郎
岩間の小二郎
 光蔵
   白石三郎 嘉十郎

【左ページ左隅】
魚川太郎【荒川太郎のあやまりか】
團十郎

あら川太郎まけず
人〳〵をたすけ
親王を引お
ろさんとして
いに【威に?】おそれしが
日月のみはたのありかしれしん王を引おろし
みはたをうばいかへす
 荒川太郎
  團十郎
いつれもさまへの【?】



あわせを
たのむが
とくしんねへ【得心ねへ?】
といも
ざし【かすれを別の資料で補う】
たで【たぞ?】

【右ページ中段】
ちかひと親王めのとはき原多見蔵

【右ページ下段】
高ひろしん王
仲蔵
ウー【?】引あわせを
してやろう
したにいろ

金の八郎
又太郎

【左ページ】
権のかみ
ときさだの
そく女
尾の邊前【おのへのまへ】

常世

安方が
ぼう
 こんに【安方が亡魂に】
おそれ
よしいへより
おくりしめいこうをたく【名香を焚く(挿し絵参照)】
安かたほうこん
仲蔵なとり川にて
いぐの十郎がてにかゝりしが
ほうこん主くんの■【望?】をかなへんと
にしきをたて歌をかき
かきしかづきのかた
そでをわたさんとして

   おのへの
    まへを
     くどく

【左ページ下段】
此所浄留理
 大てき
   〳〵
大あたり
 〳〵

【右ページ上段】
上でうし
岸沢九蔵

三味線
岸沢
小式部

常磐津





ワキ同
左名【?】



【左ページ上段】
ワキ同

太夫

《割書:序|留|理》紅葉笠糸錦色木(もみぢがさいとのにしきき)

【右ページ下・訳者の説明等】
八まん太郎
よしいへ
團十郎

おのへ

まへ



ほそ布
うり【細布売り?】
実は
安方
 もうこん【亡魂】
【左ページへ】
仲蔵

【左ページ中央】
悪五郎
ため
つぐ
松介

【左ページ下、ストーリー】
悪五郎
高ひろ
しん王よりの
まわしもの
にておりを
うかゝひよしいへを
うたんとする

すいつゝの■の
かけ■まんちうを【吸筒(水筒)の緒のかけと饅頭を?】
両のほうへあて
おたふくしほふき
のしよさ
大でき〳〵
大でき
大あたり
〳〵

ひやうばん
〳〵

貞任日本
くわいこくの
しゆ行しや【修行者】
けんおうとみを【けんおうと身を】【落書き有別摺りで補う】
やつしよをし【やつし世をし】【落書き有別摺りで補う】
のぶこゝにまどろみ
しがけらい安方
がありさま

よしいへ
おのへのまへが
ていをゆめにみてふしぎにおもふ

【道標】従是右岩手山

じゆん
れいまどろみしうち
同しくふしぎの
ゆめをみてめさ
めてみればわが
そくがに
ゆめのうち
にみしかた
そでのかゝり
あるをふしぎかり
六ぶ【六部=修行者】をおこし
ものがたり
してさだとう【貞任】と
さとりかたそでを
あたへたちわかるゝ

【右ページ下】
しゆきやう
じや【修行者】
げんおう
実は
あべの
さた
とう【安倍貞任】
仲蔵

此所
せり出し

てき
〳〵

ばんな【?】ゆん
れい【巡礼?】大悲【?】
大介実は
くらんと政清【?】
團蔵

【左ページ上】
ちよくし中納言のり氏卿【コマ9では「より氏卿」】【歌舞伎年表「有氏」】
多見蔵よしいへかいぢん
の後さんたいなき事ふ
しん又ひけきりの
めいけんを大内へ【内裏へ?】
さし上べしといふ

かまくらの権五郎【平景正のこと】
團蔵りやう人をせいし
ごこく【後刻】ちよくしへへんとう
申さんといふ
とりの海弥三郎松介
高ひろしん王より
のそへちよくし
なりといひ
為宗と
あら
そふ

いよの
たん正
つた【ワた=和田?】
左衛門

【左ページ下】
わた左衛門為宗長十郎ちよくしをふしんがりみあら
わさんとする
所へ
高ひろ
しん王より
のそへちよく
しとりの
うみと【鳥の海(弥三郎)と】
あら
そふ


権五郎かけ政
團蔵
わん
てつ

みとがめ
あや



此所
ひやうし
まく

でき
〳〵

【右ページ下】
狼谷わん
てつ團十郎
ではのはん官【コマ5に既出】
いよのたん正
両人にたの
まれちか人の【ちか人=ちかひと親王】
めのとはぎ
わらの弟と
いつわり■川【出川?】
のどゝきを【銅器あるいは土器?(挿し絵で壺を持つ)】
もち来りひ
げきり丸を
うばいとり
親王よしいへ
をころさん
とうけ合【?】
御てんへ【御殿へ】
しのひ入ら
んとして
かげ政にみ
とがめられ
あかりを
けす

【左ページ】
女がていをみてほか【ほう?ほら?】 にて
むね打にしておの れと
てをおひおたへに
かたるゝ【?】

わんてつ
團十郎

ひげきり丸としり
てわんてつにれんぼしかけ
てうちやく【打擲】にあいてをおいしをみて
わんてつと【を?】うちほうけんをばいかへし【うばいかへし?】
かけまさにわたしよろこふ

【左ページ中央・女の足下】
おだへ
多見
  蔵

【左ページ下】
ちよくしをあや
しみれんほ
しかけみ
あわし
やうすを
きゝ

いひ
なつけ
の女と
しり一つ
のかうをたてなは【功を立てなば?】
ふうふに
ならん
といふ
ちよ


のより
氏卿【コマ8では「のり氏卿」『歌舞伎年表』では「有氏卿」】
実は
しつのめ
おだへ多見蔵

みあらわ
されてた
かいに
もち

【すぐ下へ】
かう
がい【笄】のあいしをみて【かすれを別摺りにて補う】
ようすをかたりひけきり丸
とりかへし一つの
こうをたてんといふ

【左ページ最下部中央】
かけ政
團蔵

いせの次次郎又九郎よしいへと【かすれを別摺りで補う】
なのりむねとう【宗任】がうち
かけしやの
ねにて
せつふく
して
しゆ
くん
さたとう
むねとうの
いのちこひを
せしといふ
かつたの
次郎【?】
山下又太郎
かけ政弥二郎【弥三郎?】にちしほ
のそみし矢のねをめきゝ
させちしほをあらいおとし
しゅくんよしいへあべの
よりときにゐかけし矢のねなりといひ
矢のねを弥三郎がみけんへ打みけんのち
しほとあらいなかせしちしほと一つになり
しゆへむねとうとみあらわしよしいへの【破れを別摺りにて補う】
ばつかにつけといふ【破れを別摺りにて補う】
鳥の海の弥三郎実はあべの宗任松介【破れを別摺りにて補う】
かけ正にみあらわされいせの二郎【次郎】心ざし【破れを別摺りにて補う】
をかんじよしいへのすみつきを■■立わかるゝ【破れを別摺りにて補う】

【右ページ中段】
是より二ばんめ
はし
まり

【右ページ下段】
かけ政
團蔵

【左ページ】
国たへいもと
にしき木
多見蔵
しゆきやうじや
玄翁実は【かすれを別摺りにて補う】
貞任仲蔵
あかたが【安方が】
女ほうの
いるをみて
ふしぎがり
あるじの名は国

たへと
きゝおど
ろく
国たへめかけみさき
実はあかた女ぼうおゆき
常世おもわずしゆくん
さだ任に
あい
おどろき
国たへ
にあや
しまれ
さあらぬていに
してつぎに
此所へきたり
ようすをかたる


【左ページ中段】
どくろはい【髑髏杯】にさけ【酒】 をかけしがちゝよし時の【破れを別摺りにて補う】
どくろなることを きゝむねんがる

三浦の
平太夫【大夫?】
国たへ
團十郎
ゆきくらし
たるしゆ
きやうじや
をとめ
ものがたりして
より 時


どくろ
をみて
さだ
とう

さとる

みさき
清兵衛に
くどかれ
なんぎ
する所おつと
のさいごをきゝ
かなしみおつとの
かたきはいぐの
十郎ときく
しやうぶして
あやうき所
へ貞任来り
いぐの十郎を
うちかた
きをとる

【右ページ中央】
安方ほう
   こん
仲蔵

【右ページ中段】
あらわれ
うたれし
ようすを
かたり
かたきを
しらする

【右ページ左端、子供を抱いた女性】
常世

【右ページ下】
石切清兵衛実はいぐの十郎【船頭ろ介】
又太郎おのへのまへ似たるゆへ
みさきにれんぼして石切

なり
此やへ

こゝて【ここで?】
いろ
〳〵
くど

ゆき
ぜめ

して
やす
たか【安方】を
うちし
■■
 あら
われ
うたるゝ

【左ページ】
さだ とう
わがこの ■■に
こゞへるをみ て■【も?】
本名をな
のらずむ
ねんとこら
    ゆる
平太夫国妙
團十郎
みさきを貞
とうの身
よりのもの
とさとり
国松もとも
にゆきぜめにして
しゆ行じやに本名を
なのらせんと国松を
てにかける
おゆきちよどうじをかいほう
し国たへをうらみかなしむ
国松実はちよどうじ
万ぞう

【左ページ下】





みさき実は
安方女ほう
おゆき常世

国たへいもうとあにのかくまひ
おきししんら三郎と
なれそめあと
をしたい
ゆかん
として

あに平太夫【平大夫=平国妙】
にいましめられ
しをひききりしんら三郎の
あとをしたひゆく
多見蔵

やつこよど平
さゝゑる
淀五郎

【右ページ下、石に書かれた文字】
爰貞任討
可取者也 清長画

【右ページ下】
那古以蔵【?】
志賀右門【志賀右衛門】
ひきの藤馬【?】
仲八

貞任石面
に父よりときのほろびし
ことをしるしあるをいかり
石をぶちかきしに
【左ページ下へ】
あいづののろし
あがり

貞任を
とり
まく

貞任
国たへがなさけをかんする

仲蔵

ちよどうじ
万蔵
国たへが一子

わか

なのり
貞任を
うら
める

おゆき【安方妻みさきの偽名】
常世

【左ページ上】
としをへし糸のみたれのくるしさに
ころものたてはほころびにけり
あべの貞任へ八まん太郎
よしいへげんざん〳〵
團十郎
大でき
〳〵

あか坂
つう八
三木


細佐【?】
藤次【?】  熊五郎

【枠内】
《割書:狂言|作者》河竹新七

神田与吉一代記

【図書シール  207-32】
神田與吉一代記 全

神田与吉一代記 《割書:鳥居| 清経》  三冊【「経」の横に薄く「長」の文字あり】
          《割書:画作|》

 安永七年戊戌歳
   かはらぬ春を
       むかへて  両橋
若水や気もかる〳〵と
      車井戸

としことにやくなん
よけとてぎおん
てんのふのはやした
ものにまもりをとらせ
子供のぶしを御子さま
がたのそくさひはおやも
よろこび申なり

はやした
もの
にや

かんだの
たいの
わい〳〵
〳〵


【角印:帝国図書館蔵】
【二重丸印:図/明治三一・六・三・購求】

明後日までに
したてましやふ

神田の八丁ほり
といふ所に
だいやのよ
きちといふ
ものありけるか
しよ〳〵の御やしき
のあつらいものにて
いそがしくふつきに

くらしける
人是を神
田のだい
の与吉と
いふ

十五日の
ごしんもん
じやに

とふせいのつふ
じんはやりの
ものは人より
さきとあらそふ
よの中の
おもしろい事のせんさく
かみかたのはやりうたははや
ひきやくできくくらいの
事このころともたちの
与吉か女房けが
ないともつはら
いふゆへみな〳〵
よりやいうわ
さする
源太郎
たれた


吉は
わか



いふまへ
やふすを
たち
ぎく

【右頁右下】
とんた事と

あれか与吉そふな

中の町で
のみやしやふ

与吉はせけんひろき
ものにて女ほうの
うわさはつとしれ
ゆくさき〳〵にてわらい
ければとりさたとて
こゝろへちがいなれ共
はなはだきのどくに
おもふ
〽与吉さんは
きんした
ばからしいの

みなよきちを
見てわら

与吉
がうわさ
せけんに
ひやう
ばんに
なりけれは
かないのもの
よりやいて
さゝやく

ほん
にか


おかみ
さまに
いふに


与吉は女ぼうおそで
おもはぬせけんのとり
さたになりしうと
こひしきのどく
なれとも人のくち
にとはたてら
れず
よん
とこ
ろなく

さりじやうを
したゝめ女ほうを
さとへかへしけり

ぜひもない
事じや

西のくぼに
金太夫と
いふらう人
神田の

与吉
にむす
めおそで
をやりむつ
ましく
くらしけるか
たゞなにと
なくいとま
をくれし
ゆへいち
ゑんう
たかい
はれず
しやん
する

なにとも
がてんのゆかぬ

はゝおや
むすめのびやう
きにもならんかと
あんする

安永七戌とし
    正月六日
    堀米氏
     すみ

与□【吉カ】一代咄中《割書:奥|村》

【角印:帝国図書館蔵】
おしたくは
よいかの

われも
いきたい


まい日
〳〵
もの
まいり
いてけり

金太夫ふうふはむすめ
おそでがりゑんせし
ことをあんじなにでも
こゝろの
はるゝやふ
にしばい
でも見て
わつらはぬやふにと
いろ〳〵こゝろをいため
けれはふたおやあんじぬ
やふ

おそではけが
ない〳〵といゝたて
られしはさしてわづらいも
せず又も□じやほんのすいものをも
くわふはずもなしなにとも
なくかみのうすくなりしゆへ
はづかしくおもひ西のくぼ
よりまい日〳〵あたごへ日参
をしてかみのはゆるやふに
いのりける

おんなさかが
たいきでは
いけぬ

かみのみくるしきゆへづきんを
こしらへけるがしごくりかたよく
ぶしやうな女中はよそへいゆくに
もかみ
をいわ

くし
かう
がいの
やふじん
よく
これ
より

けん

はつ

はやり
おそでがはしめて
【左頁】
かむりしよりそで
づきんと
いふ
そで
なり
にて
いふには
あらず

うつ
くしい
ものだ

いつ見て

たかい
事だ

ふしぎなるかなおそではかみのうす
きをあたごさんへがんかけをせしに
たちまちもとのごとくにはへ
けれともいまだびんうすきゆへ
くじらにてびんさしといふもの
をこしらへよきふうぞくに
なりよろこぶそのころ
かみがたよりきたりし
おんなをつかいしが
しごくかみじやうず

にてのちにおんなの
かみゆいとなる人のうわさに
しゝのけをつけたといゝしは
いつわりなり

【左頁】
わたしかうちへ
まづござれこなさま
おしへる事が
ござる

そで
ともない

わが
やへ
つれ
ゆく

おそではおやのもとに
いてさみしくくらし
ほんばかりなぐ
さみとろ〳〵と
ねむる

こゝにおんなの
ふうそくをし
なんするらう女
ありおそてをむ
ちうにつれきたり
こうしやくをきかせける
さてせん日も申とふり
とかくはてがわるいでもなし
ずいぶんわかいしゆはとふ
せいのはやりものなさるが
よはけれども女郎になら
ぬやうにこしらへ又女郎は
はでを第一とするかよし
うりものなればなに
【左頁】
しやうばいでもめにたつが
よいはつそこをひとつ

ぬけ

する

よし

ふう

よい


あさ

うら
では
いけ
ぬも

その
まん


おしへ

しよ

あり
かたふ
そんじ
ます

ぎんのびんさしを
きかうかの
くしもまげて
さすと
おしかり
なされ
ます

       娘
そのいろはとふせいにして小もやふすそもやふよしすべてもみうら
にしおびはもふるかふくさおひはかたのおひはうらにてしめる
ふんはくやしからすとかくにくからぬやふにこしらへおなんと
うらは人かにくむとおもふべし
      中娘
八丈もみうらしまちりめん
はむくにてもよしかのこ
のうらはちりけにはなしと
見どをしのうらないが
いわれたげなはつかしい
子おびはもふるかくろじゆ
すあさぎのおびはのちの
いろあげがきにかゝりびろうとはじがわかければ
かへりてわるしそこにこゝろをつけたまへ
      としま
くろのもん付を人上ひんとしてうらは
もみうらむらさきはすこしにくし
おひはくろじゆすいつでもよし
もんどころもこゝろ
あるへしせんその
もんてもくきぬきは
つけられまいが人の
もん所はいらぬもの
なりしたおひのあさ
きちりめん見へぬやうに
【右頁中段】
はらをたゝ
ずにきをつけ 給へ
【右頁下段】
づきんは
おそて
とのあは
じか
しごく
よし
かさは
日かざ
かほみ

をそこねす
よし
つゝら
かさがねかたかい
とておふきな
【左頁】
かほをなさるな
くしあれは
ぬつて
かふり
やす

もの


□□□
ま□

おそでしなんをきゝ
てかんしんする

ろせいはあわいゝかしくうちに
いつしやうのゑいかのゆめを見
おそてはゆふてんのばさる
まにふうぞくのゆめを見て
ま事におとろかしき大つふ
じんとなる

金太夫むすめおそではかみのうすき
もあたこのれい
げんにてもと
のことくになり
とふせいいちの
ふうそくなれ
ばまことに
あみのめより
てをいたすことく
よめ入りのくちをいゝ来る

さきは五ヶ所の
いへもち
きん〳〵で
ござります

与吉かかたより
なにのしさいもなく
いとまつかわせば
これにかまいはござ
らねともまづ
むすめがむねを
もうけたまわろう

おそでが□□□□
よりこんれいのくち
をいゝきたれば
むすめのりやう
けんをたつぬる
〽とふしやる
     きしや

〽わたしもたん〳〵
おせわになりいかやふ
ともおこころまかせと
はいゝなからいまに
神田てものちの
つまをいれぬといふ

事さすれは
これへぎり
たゝずいつ
しやうひとり
おりませう

そふ
いふ
きなれは
□りやう
けんもある

さるうとく
なる人の
むすこ
女にんにい
くらもあるが
なかにおそで
がふうぞくに
みそめなかふ
どをもつて
いろ〳〵と
もらい
かけしに
与吉に
ぎり
たゝず
てきら
ぬよし
ちからお
よばす
こゝろを
いためし
おりから
大ぜいの
まつしや

ども
又よい
しあんも
あらん
わつさりと
むかふじ
までのみ
かけんと
やねふねへ
いつる

あのちよきは
たしかに
与吉て
ござ


与吉は
ひさしく
つきやいもやめ
たゝひとりにて
あきはのへんへ
いつる

一日のさけのしやんにておそてを
くれぬも与吉かあるゆへと
こゝろづき
みめくりの
どてに

まちふせしてちせい
にて
与吉に
きり
かけ
こゝを
せんとゞ
たゝ
かふ

くらいぞ
〳〵

だましうち
とはなにもの
じや

大けんくわで
御ざりやす
まづ大黒やへ
おいで

さて〳〵
よいおあん
ばい

さいぜん
から
おび
たゝ
しく
たべまし


あまり
ごてい
ねいな
【右頁下】
神田の与吉は二度
おそでをよびかへし
ふうふとなり
むつましく
くらし
ける

みめ
くり
のどて
にて
あやう
きなん
にあい
しは
つゝら□く
□□□は子供
をもつて
いわしむる
けがない
〳〵と
いふ事なり
はやした
ものに
いゝしも
かみの
【右頁上の続き】
とこの
ふるまいで
もおなし
せりふにて
みな〳〵
ちそうに
なりける

ごぜんを
おもち
なされ

ちと
おかへ
なされませ
【右頁下の続き】
はへ


ふう
ふに
なる
しる

なり




ふう
ふむつましく
くらし一子を
もふけよの中
よしといふこゝろ
にて世吉とつけ
神田明神は
うふがみ
なれはみや
まいりに
さんけいさせ
此世吉にて今に
ふうきにくらしける

目出度
御代の
物かたり
なり
ける
【中段】
そく
さいゑん
めい
【下段】
おんば
どの
これから
てん王
さまへ
まいり
まし
やふ

          鳥居清長画

【図書シール:207 特別 32】

近頃嶋めぐり

【図書ラベル207特別2811】
《題:近頃嶋巡《割書:市場通笑著|》完》

安永九年印本
 近頃島めぐり
       清長画

こゝに小はやし
の三郎平と
いふもの有
いつたい
きさくに
して
やぼ
ならず
つふに
ちかしさけはおはらで二ツ
三ツといふものはかんかに
みくだしちよつとの所が
いつきんぐらいはいかいなとも
すこしやりほんかむしやうに
すきにてかたいものはいき
かねれども上るりほんやら
よみかけてとろ〳〵と
ねむるとそのまゝ
あふいびきはとつくり
のわざなり

三郎平
どことも
しらず
うかり〳〵と
あるきやふ〳〵
ちや屋みせありし
ゆへこゝはなんと
いふ所と
たづね
ても
あい
さつ

せず
だんごを
壱本といふても
へんじもせず
まごがあつらへし
だんごをしてやれ共
しかりもせずさては
【右頁下段】
おれもこの
かいどうではくちも
きくものくいも
せぬものをくつ
たといわれては
おとこが
たゝ


【右頁上段の続き】
いかなるつう
りきかこれは
よつほどおもしろいと
いろ〳〵のことを
してみる

それでも
ほかに人はきませぬ
【左頁左下剝れの部分】
【やれうつちやつて】
【おかつしやれ】
【あのしゆの】
【くちには】
【めな 以下剝れ有り】

三郎平だんごにて
はらをつくろいまた
むしやうやたらにあるき
けれはまん〳〵たるうみの
はたへいできく人は
なしいかゞはせんと
おもふ所へきりまくも
なしおふさつまも
なくおにか人かと
おもひしにわだが

こゝはなんと
申所でござり
ます

こゝは日本のしほさかへ
ちくらがおきといふところ也
これからしま〳〵のしやんはよしまへかた
おれがまわつたとふりのかきつけを

【右頁上段の続き】
さんなん小はやしのあさいな
あらわれるさて〳〵
そのほうも小はやし
みやうしさだめておれが
ばつよふなるべしいかゞ
したる事かそのほうが
らたちはつねのものには
見へずそれをさいわいに
せんねんおれがまわつた
とをりしまめぐりを
しやれおれはちからで
はりこんであるいたが
うぬしらのには
それでは
ゆかぬ
かたちの
見へぬを
さいわいに
くいもの
くらいは
かつてしだい
しよくなしに
めくつてきやれと
おしゑけり
【右頁下段の続き】
やりませうと
いへば三郎平
かたじけなす
びのしき
やきと
よろ
こぶ

あさいなが
おしへに
まかせ
ひとつの
しまへ
あがりのさり
〳〵とあるき
けるが此しまははなはだかたちよく
ずんとかるきすまいのうち
ひくきまどあるゆへ
のぞき見れはあるじと見へて
なにかものかいているを見るに
あをがいのつくへふでたても
ぢくもついしゆぶんちんすゝり
のけつかうさむすこと見へて
めしをくうを見ればふかそめ
つけのちやわん八せんにん
のかふものばちぬす人に
【左頁下段】
だいぶたいくつ
したあふきな
こつふつて
ひとつ
やりかけ
よう

【右頁上段の続き】
見せてんもぎんいちまいか
ものはあり
こたつふとんは
あさきでの
さらさはな
かみ入ても
ついに見た事
もないぢやい
めのまわる
ほどほしく也
よだれをたら
して見ていれす
それをとれは
わがかたちが
あらわれるゆへ
はがみをなし
そがきやうだい
ではないが
たからの山へ
いりながらてを
むなしくかへるか
さんねんなり

まんまを
くつたら
あすびやれ

だん
十郎

ゑをやり
ませう

三郎平は
しまのなは
しらねとも
きかすと
しれたてなが
しまふせう
ものにはしごく
よいくに

しかし日本などて
かふてがなかくては
人のすたりもの
ひとりものなどは
しやうべんさいすれは
一日たつ事はなし
うらやましい
やらきかない
やらめしどき
などのおもし
ろさたがいにてを
ぼうのやうにたし
みつけのうちを
まつりかとをる
やうなり

まだ
ひし
ほが
すこし

ろう

【左頁】
いやいぬきと
いふ身

あり

此くにはもふ
きがなか
ばしだ

どこへ
いきなん


ばか

しい
【右頁右下段の剝れの部分】
【あしだのはなをかつまつた】

【此くにゝは】
【から】
【かさ】
【と】
【いふ】
【ものは】
【なし】
【ゑがなか】
【くてわが】
【ために】
【ならす】
ながへと【いふかつねの】
からか【さなりゆふ】
【ぢよまちはむかふ】
かわ【をあるい】
て【もつかまり】
もの【をおとし】
た【とき】
か【ゞまぬ】
が【いつ】
【とく】
【なり】

【左頁】
かまくらのぶせう源のよりとも公の
御代に小ばやしのあさいなしまめくり
又そののちよしつね御きやうたいの
中ざんしやのざんけんに
よつてふはとなり
ひとまづ
みやこををん
ひらきあり
むさしぼうへん
けい御ともにてしま
めくりさあそれから
日本のふうを
見ならい
とかくいきな
事をこのみあし
ながじまでははつちが
はやりきものはいつ
たんがきれがでれとも
はつちは三丈もので
なくてはいかずむかし
ないものなり
したが女ほうが
すそがきれぬと
よろこふ

ぞうりで
てるには
たいこもいら

三郎平あしながしまへわた【りその の】
ぢとうと見へておびたゝしきと【うぜい】
にてたゆふおめ見へといふ

【かみしも】
に【てあと】
より大だいこを【かつがせ】
ころびしときの【やうじん】
と見へた【りしも】
【〳〵は】

こしに【たい】こを
つけてあるく
あふかせの
ときは
おふ
らい
するものも
なし
とかく
ころぶくにゝて

【左頁上段左】
こうやさん
むみやうのはしと
いふ身じや
【左頁下段】
むみやういんはたやすも【のはなし】

三郎平【も】
あきれ【はてとも】
まわりが【だいどうを】
とじや【うをふむあし】
つき【せんのろかうかいなか】
【むすめをおもひだし】
【なみだをこぼし見る】
【もの事にまたるく】
【なりそれでもなん】
【そりかたのよい】
【事かあるかとおもへは】
ま【めぞうを見れは】
さ【きもせいがたかし】
た【いかいのかちわたり】
する【ばかり一日もいや】
じや【とすぐにつきの】
し【まへゆきけり】

あさいなが
おしへの
とをり
しま〴〵をめぐり
小人しまへわたり
見ればこれは
しごくしま
らしく
三郎平がめ
にはありの
あるくよふに
見へこれまて
いろ〳〵のしまを
めくれどつうりき
にてかたちは見へず
さんしよが
こつぶ
でも
からし
三郎平が
たちはた
かりし
ゆへ

めまくるし【い】
ほとあるく【は】

どふか
くもつた
よふた

【右頁上段の続き】
なにかくらく
なつたが
ゆふたち
でもあるかと
きをつける
くらひの事
これから見れは
てながしま
やあしなが
しまはうつ
かりひよん
どふりで
あのやうに
てあしが
のびるうし
むまはおふ
きくても
にんけんに
つかわれぐわん
やくはちいさく
ても人を
たすくる
どふり
なり

ひよりの
よいに【こま】
けたは
ころ
ばねは
よいが

三郎平

小人
しまはしごく
おもしろけれ共
まづだいいちとまる
いゑはなしのじくに
こまりくいものはなん
にもなしいわしは
日本のまぐろのごとく
なまあみははなゑひ
にして大平へひとつ
もりいくらくつても
はらにはたまらず
やう〳〵とさけ二三
だんはたらきみんな
のんでも二升にたりす
せいろうも二かばかり
いちどにくつても
あやめだんごの
やうではらにも
たまらす十日も
【右頁下段】
はてしまら
しいよい
けし

かな

【右頁上段の続き】
いるとさけも
五両くちはきつと
あがるのじくもいや
なりあめのふらぬ
うちほかのしまへ
たるだいなしに
ひきこすきに
なりものが
しゆふになる
ものならば
わかとの様かた
おひめさま
御子様かたへも
小人しまは
みやけにしたい
ときのつき
しはよつ
ほどこぼん
のうと見へ
たり

おうさ
そうだよ

さまよか
とうした
ちんつちり
てん

此しまはなんによ
共にはらにあなの
あきしくになん
にもりかたのよい
事も見へずおんなは
ぼうにのるをきろふ
かねをくわいちう
するものは
此あなへ
おし
こみ
おくとんだ
くに
なり
三郎平は

くたびれても
はらにあなは
なし

これはさ
やつさ

ごふ〳〵

たんないつはい
おねかい申し
ます

【左頁】
きり

もんでも
のられず
ふねがきらい
ではあそ
びに
ゆくにこまる
どうか見ても
きみが
わるく

かうやく
屋の
みせに
いそふななり
みせものにつれて
来ても
どつとおちも
きそうもない
やつしまの
うちでの
ぶいきなり

ぼうやろヲ
〳〵
ぼうわへ

三郎平此しまは
あいそがつき
よのしまへゆかんと
まつなみきに
かゝりいづれのくにも
おなし事たひ人の
とをるを見て
おさたまりのさかて
此男さすがはぼうの
しゆれんと見へて
二人ともにとつて
なげはらへぼうを
つきとをす
三郎平うしろの
あなよりのぞき
見るぶて〳〵しき
やつらなり
【右頁下段】
これはおもしろい
せめて
これで
ぢに
なつた

二人さすを
しきやき
ざし
五人を
だんご
さし

いふ

【左頁】
ひとつのしまへあがれは
はまばたにおんなの
そうりおびたゝしく
ならべあるさてはきゝ
つたへたるにやふごのしま
ぞうりをはいてみたい
にはすかたをかくしている
ゆへならすふたつよい
事はならぬもの
まづこのそうりは
どふであろふなか
ぬきそうりはおやし
きとあさきひろうとの
三枚うらつけどうやらこれは
うつくしそふだやわたくろは
つうかなふすべはなをは
おふどしまくだりせつたは
せたいもちひちりめんの
はなをもあてにはならず
五枚うらつけかいやがるも
ありなんたかしらぬが
きがもめる

ゆめに
ゆめ見る
ごとくなり

によふごのしまは
ていしゆと
いふも
なけれは
女【ほう】
【と】
い【ふも】




なみかぜにて
みこもる事は人の
しる所なりおとこが
なければなにもかも
おんながせねばならずむき
をつくおんなは日本にも
あれどこめをつくはなし

【左頁】
女のかみゆいもむかしは
なかつたが今は日本
にもあり
あきんどは
みなそろ
ばんとつて
さんにやふする
所のふうならにく
くもなし日本など
ではこめんといふ
しろものどんなうつ
くしい女が
あき
ない
して
もよ
たれをたらす
ものもなく
やすくなればうれ



いけねばむつかしい事もあるなり

かんじんちつ【と】
おやりなん【し】

女はかりのしまゆへゆふちよ
まちといふはなし
たのしみはすくなくこと
さみせんは子共のうち
としかよるとごしやうぎ
すごろくあさいなかゆき
しじふんはよみといふ
ものがはやりきんねんは
まためくりとやらいふ事が
はやりいつたいかんじやうの
事はゑてもの大のこふしややまの
ごとくなり三郎平はしまちうに
ないめつらしい所おもしろい事
ばかりこゝにはしばらくとう
りうしてゆるりとけん
ぶつせんとなにやら
にかいにおんなのこへ
女郎屋かとおもひ
あかつてみれば日本なとで
ついぞみぬことなん
にもせよおびたゝしい
【右頁下段】
おや〳〵
四を
しら
ねい

【右頁上段の続き】
くいものてなかしま
やあしながしまはらに
あなのあるくになど
ではろくなものも
くらわすひさし
ぶりでのうまい
ものしよく
しやうする
ほとくい
けり

わたしか
いつほんきたの
いつそてにおわれる
けしからぬ

これは
とふ

もん

いふ

かう
では
ある
まい

三郎平
しよ〳〵を
けんぶつ
するに女
すもふあり
女しはいもあり
いつさいの
事みな女
たてひきの
いさこさこまけたでたゝきやい
それそふおうにはをりをきた
【右頁中段】
わつちが
のみこんで
いるわなふけいきな
【右頁下段】
なんの
こつた
いけ
すか
ねへ

【右頁上段の続き】
おうやさまのおんなが
でゝすましけんくわと
いふとだいいちくちが
やかましく日本の
女ゆでもこれほどでは
なしやかましいももつ
とも女といふじを三つ
かけはかしましいといふ
じそれがさつはり女
ばかり三郎平もちの
みちかおこりそふに
なりかま
くらのおやし
きのなが
つぼねへ
ふくひきの
すりこきを
とりしも是
にはかなわぬ
はやくほかの
しまへゆきおとこの
こへがきゝたいと
いふはよく〳〵のことなり

くわばら〳〵
〳〵

三郎平にようごのしまに
こりはてきをかへてぐつと
はなれたる所へゆき
そここゝとやうすを
見ればいたつて上ひん
なる所こそでを見れは
おふかた八丈さては八しやうが
しまかとおもへはしまちり
めんもありうへだしまぐんない
【右頁下段】
やふ
きうに
いた
そう

【右頁上段の続き】
じままがいはちじやうふとりしま
いちゑんかてんゆかずなんといふ所か
やふすがしれずこゝはどこでござり
ますとたづねければ江戸
ゆしまといゝしゆへきも
をつぶしさて〳〵しよ
〳〵を見物したがこれ
ほどの上こくはなし
米のめしとおなし
事いつまていても
あきる事なし

是から
こいと
すつ
ぽんを
見せ

せう

さるほとにチンツンチン
小林の三郎平あさいなが
おしへにまかせおもひのまゝに
しまめぐりゆめさめ見れば
大日本あしながも
なしてながもなし
女のふうならおとこ
ならひとつとして
いゝぶんなし
しまのやうす
をあらたまの
二日のゆめの
たからふねとうの
ねむりの御めざ
まし御らん被成て
おわらいとホ〻
うやまつて
まふす

通笑作【右頁下に四角の枠の中】
清長画

長生虎之巻

【表表紙】

長生虎之巻 完

【右丁】
【空白】


【左丁】
【扉】
天明二

長生虎之巻《割書:通笑作|清長画》 三冊

こゝに酒
しうばいにて
庄蔵と
ゆふものあり
しやうとく りちぎにて
あきないに せいを いたし
とほうもなく 金の
のびるが おもしろく
一日たのしみたる
事もなく 二三百も
たまると
□ぢ□をかし
四五ねんの うちには
なかれこみ こめがやすいと かいこみ
みそは
三ねんに
なるのを
くい あさから
はんまで
はたらくゆへ
なんても あじ
ないといふ事を
しらず のびるが
おもしろい
からとは
此人の
事なり

【イ】
十六〆二百
なゝ十弐文

【右丁】
庄蔵は
しだい〳〵に
てづよき
しんだいに なり
もはや
五十のうへ
六十にすこし
たりぬといふ
としになり
ひとつの
ふそくには
子共ひとりも
なし
いくら金が
あつても
ごくらくへ ぢさんきんも いらず
そうばに かまわず たつた六文 ぜに
かねで あとへ ひとつも としをとる
事もできず
たのしみを した
事もなけれど
いま
さら
ながうたの
けいこも
ならず
【左丁】
うまいものも
そのようにも
くわれず
よしわらと
しばいへ
ひつこしに
しては
おもしろくも
なし
こそでも
ふたつきる
ところへ
三つでは
あつし
こんな事を
おもふと
一日も
おもしろく
なく なんでも
ながいきをする
つもりを
くふうする

【イ】
すごされもせねと
かわいがるは

【ロ】
子共しゆが
あるでは
ないか

【ハ】
おむかふで
いつひき
ほしいと
おつしやり
ます
おかみ
さまが いつそ
おす


ござり
ます

【右丁】
庄蔵 とかく
なかいきをねがい
よねのまもり
くらいは ずいぶん
じやうぶなれと
そのくらいな
あまくちな事ではなし
よくいふ事なれども
かねが百両ほしいと いへば
五十両でもよいと
いふ 三両でまけて
や□ふはひさしいもの
やまほど ねがへは
ちりほど かのうふと
いふ たとへに おもひつき
かめはまんねんと
いへば うちはに
【左丁へ】
見ても つるくらいは
いきそふなものと
はなしどり
はなしうなぎは
ごしやうのため
はなしかめは
じゆみやうの
ためと
はなしてやり
うなぎや
こいとは ちがい
かめは よろこんで
さんとまで
れいにでれば
すいぶん
ながいきは
のみくみ
そふな
ものなり

【イ】
おほふさま
こらんあそ
はせ

【ロ】
はなし
かめ
〳〵
〳〵

【ハ】
てゝを
だす
まい

【右丁】
庄蔵はかめをかふては
かないのものに
いゝつけ
さけをのませて
はなしてやり
つるかめと
いへども
つるはげこと
見へてさけを
のんだはなしも
なし
よりとも
こう
つるが
おかにて
せんば
つるを
はなし給へども
もちをくわせ
給ひし事も
きかずかめの
さけのみと
いふ事はしらぬ
ものもなし

【左丁へ】
事に
さけ
しやう
ばいなれは
まんくわんじ【摂津池田の満願寺屋】
けんひし【摂津伊丹の剣菱】と
いふ所を
のませ
あんずるに
さけはかめが
すくから
めでたい
ものかも
しらず
てまへものゆへ
あまりのまぬ
かめにはみりんしゆ
までのませ
みな〳〵おもしろかつて
はなす

【イ】
きやつは よほど
なるわへ

【右丁】
しんだいに
ふそくも
なければ
いのちの事を
あんじ
このころは
ふら〳〵と
わづらい
女ほう【女房】も
こゝろならず
おいしや
さまをよび
さとの
おやじにも
はなしければ
あんじて
来り
さて〳〵
こなたは
らつちもない
よくきかしやれや勘平とのは三十にと
いふが勘平どのゝふたりまへまだ
いくつまでゝもいきよふもしれず
なかいきばかりしてもわづらつては
いかぬわしがこれ八十になるがあわびが
いけるたこかくへるたくあんづけの

ほか〳〵には
わかいものか
やかましがる
めがねがいらず
つへつかず【杖突かず】
そくさいなれば
子共のせわにも
ならず
ひやうしん【病身?】では
おもしろい事も
おかしい事もなし
はて人は
とかくものを
くろふ【苦労】にするがどく
もふきさまたちの
としでさつさおせ〳〵と
いふてもきつかい【気遣い】はない
かならず〳〵
きをわさ〳〵と
もたつ
しやれと
すゝめる

【イ】
わしが
よふな
もの
ばかり
では
□□はくさま【げんはくさま=杉田玄白をもじっている?】
おまへがたは
おひ□【ま?】じや

【ロ】
いや此間は
しやう〳〵
ひまに
いたし
たい


【右丁】
しうとのいけんにつきいかさまごほうべん
しだいわづらつてはつまらぬと
そこらこゝらと
ほよふ【逍遥?】にいで
かわばたを
とをりければ見なれぬ
しりを【尻尾?】のかめ庄蔵を見て
これはよいところへござつたこのほうの
おやだまよりおしつけそこもとを
むかいにまいる
しばらくまち
たまへと
おしへる

【左丁】
しはらくまちしうち
おふきなるかめ
むかいに来りむかしより
ためしのなき事なれば
いやなものなれど
うらしま太郎も
つゝがなくゆき
さるもおなじ事
庄蔵はいきぎもを
とられるあんしもなく
たからものや 
たまてばこののぞみも
なけれどもおとひめには
すこしきもあり
ろぎんもいらす
うまいものなれば
よろこびかめの
せなかにきのじやの
まつといふみに
なりてゆく

【右丁】
りうくう【竜宮】の三りほど
わきにいけの
みきわといふ
所あり
ひめこまつの
上るりのでは
なし
かめおふ【亀王】といふ
たいしやう【大将】
あり
もはや
御とし
九せん七百さいに
なり給ひすべて
かふるいとは
いへどもかには
ゆでられて
くわれすつぽんは
なべやきの
うれいあり
かめばかりはくわるゝ
事もなし

【左丁】
その
うへ
とし【歳?】
まんざいの
よわひ【齢】を
たもち
まんざい【萬歳】の
いふとをり
ま事に
めてたふ
さむらいけり
人けんかい【人間界】にて
はなし
かめをいつひき【一匹】したる
ものは十年つゝいのちを
のばすつもりにさだめおき
かめのはらにかきつけのあるを
てうめん【帳面】にしるしおきける
これではものまいりにてもでゝ
はなしたるはそんのよふなれど
かきつけがなしとぶつしやう
ふくろ【仏餉袋?】とおなじ事それ
だけの事はあるなり

【イ】
ちかころのかきつけは
おふかた庄蔵と
してござります

【ロ】
かめのはらに
万二郎【?】は
ありがたい

【右丁】
庄蔵はよふ〳〵と
みやことおぼしき所へ
つきけれはやくにんと
見へてりつは【立派】なるもの
いでむかい庄蔵とは
そのほうの事かと
五十や六十のものをば
子どもどうぜんにおもひ
とみのふだの三四千は
とほふもないよふに
おもへどこのくにの
三四千はわかての
うちなりすべて
とちのふうぞくを
見ればふうきなる
所にてなにの
ふそくもなし
これではいくつまでも
いきられそふな
ものなり

【左丁】
乁うぬしは
おみかめを
はなしたる事
大王事のほか
よろこび給ひ
それゆへむかいを
つかわした
そのほうたちが
はなすかめは
まだ弐百にも
ならぬちやくねん
もの【若年者?】しゆきやうの
ために
しよ
こくへいだしおく
それゆへ
おいらが
しつほとは
ちがふ千年に
ならねば
このやうに
みのゝやうには
ならぬと
はなす

【イ】
よろ
しく
おとりなし
くだされませ

【ロ】
としに
あわせては
りかうな
もの
じや

【右丁】
庄蔵はかしさしき【貸座敷?】の
やうなる所に
とうりう【逗留】して
いれば
せつぶんの
よにて
みな〳〵
としのかずほど
まめをくふ
いづくもおなじ事
たいかい二舛
くらいよりもすくなく
くふものはなし
これをおもへば
日本の人おいらは
としのかずほど
くふと
しよく
しやうを
するも
ちとこたいそふ
かめなどは五六舛も
くわねばめてたいとは
いわずこれほどめてたい

【左丁】
ところにて
なにゝも
ものいまいも
しそふも
ないものなれと
やつはり
やくはらいも
あぐるき【挙ぐる気=執り行う気持】て
いわふ
それから
見れば
たゞの人を
ものいまい
じやとて
かならず
おんべい
かつぎ
じや
とて
いわぬが
よし

【イ】
よつほど
くちが
くた
ひれた

【ロ】
あゝらだんなの
御やく申せは
つるが千びき

【ハ】
かめは 万びき
うらしま太郎が八千人
みうらの大介
〳〵【云云という記号か?】

【ニ】
とふぼふさくか【東方朔が】
九千人みんなの
としをひとつにして
これもだんなの
御きつきやう


【右丁】
いづくのうらても
ものみだかく
庄蔵も
よき男でも
なけれども
おんなも
めづらしがりすこしはきは
あれどもあつかましくそれとも
いわれずつゝしめばなかに
ひとりほふ【頬】のふくれた
はなのひくい日本では 
おたふくといふやつ庄蔵に
くどきかけむしやうにひつこく
しかけけれは
こまりはて
いけねへ
しろものなり
とんと
だいかく
ら【太神楽】のおかめ
女郎と
かめの
おたふくは
おかめ女郎

【左丁】
さては
いにしへも
ありしことゝ
おもひなん
にもせよ
うつくしい
やつを見ては
きはなか
ばしと
おもひいつせ
いちどの
いろおとこ
道成寺へでも
にけたいもの
あのふとりでは
日高川はおもひも
よらすと
そがの五郎といふ
しうち
にて
そけなく
ふり
はなす

【イ】
にほんは
いきな
ものじや

【ロ】
あんまり
とふよく
じや
わいなあ



【右丁】
庄蔵
おかめ女郎に
つれなくいゝ
はなし
ければ
おもひつめ
たる事
かきおき
して
しなんと
かくごきわめ
かめのしぬと
いふ事は
よく〳〵の
事これを
見ればうつくしいやつは
じやうはなしかりそめの
事にこのくらいしかし
いけぬやつのじやう
なしはふとゞき
かみ〳〵のかくらに
おかめのあるもこゝろの
よきゆへかくこには
よしあしあれと
おかめのめんにかわる事なし

【左丁】
いけのみぎはの
つるかめはほう
らいさんもう
よそならずと
うたいにもあり
にわのいさこ【砂子】は
きんぎんにて
けつかうづくし【結構尽くし】
いわんかたなし
庄蔵をとも
ない来り
ければいのちもおししにわのいさごにも 
きがありりうじんぞろいの上るりは
こゝの事かとおもふ

【イ】
はや
まるまい
まつた


【右丁】
そのほう
ちやうじゆ【長寿】
いたしたきよし
このほうどもを
したふおやだま
きこし
めしこゝろ
さしに
めんじ
壱万
ざいの
よわいを
さづくる
しかし
ながら
みもちを
かたいしに【固石に?】
して
いのちが
あつても
ぜにかなくては
いけぬ
そこは
うぬしは
じよさいは
あるまい
しなぬと
おもふて

【左丁】
寺をそまつにせまいぞ
せんぞかいつて【先祖が行って】ごさる
小そでもむしやうに
しやうぶな
ものと
こゝろ
かけても
よごれては
いけぬすみから
すみまで
きをつけても
またなかいきも
ならぬたゞおふ
やけのおきてを
もちいひのよう
じんを大事にして
そのほかわ
のんへんくらりに
しようなら
一万ねんは
さておき
百万ねん
でもいき
られる
きつと
うけやい

【イ】
なんぞみやげを
やりたいものじやが
たわら藤太には
りうぐうよりつりかねを
くだされうらしまは
たまてばこ
そのほうへはかくれみのを
つかわすみのかめとは
此事なり

【ロ】
ちがい
なしと
いゝわたし
給ふ

【ハ】
あり
がたふ
ぞんし
ます
おみやも
あげませず
はゝ
〳〵
〳〵



【右丁】
庄蔵は日ごろの
ねがいかない
こきやう【故郷】へかへり
たきよしを
申あけければ
大ぜいのかめに
おくりをいゝつけ
につほんのちへ
つれ来りける
庄蔵は六十ちかき
ものなれども
かめなどは
子ぞうのやうに
おもひ かめども
かる〴〵と
おかへあげ
かへりけり
あんずるに
かめのなかから
しやう〴〵
子ぞうが
てこ〳〵と

【左丁】
いふ事は
いへども
いかなる
事かしれず
しやう〴〵の
事なれは
しやう〴〵に
おとななしと
見ゆる
子共なれば
けしからぬ
さけくらい
とんと
わからす
ま事に
これらかめの
なかから
庄蔵
子ぞう
なり


【右丁】
庄蔵は
いつく
とも
なく
ゆき
がた
しれず
かないの
ものは
いふに
およばす
しんるいぢううより□□かねがあつて 
かけおちするものもなしもしや
かの人でもつまゝれたるかかふまんな
きもないからそふいふ事もあるまいと
まいにち〳〵
□【て?】

して
たつ
ねて
ある


【イ】
やれ〳〵
□□□
□□

【ロ】
どこへおいで
なさりました


【左丁】
【空白】


【右丁】
□□□□

【左丁】
【空白】

【裏表紙】

烏行水諺草

207 1743

烏行水諺草 上

207 1743
        新
        版
         版元

            魚
烏行水諺草(からすのぎやうすいことわざぐさ) 上
          【破れにて文字不明】

【挿絵の看板の文字】
 江
 戸 大かばやき
 前

烏行水諺草

はとにさんしのれいあり
からすにはんほのかふありとハ
しらぬものもなくきり
じんぎをしらぬ人おやを
そまつにする人ハみゝの
いたくなるほどきく事なり
はとハミゑださがりて
おやをうやまふ
からすハ百日
やしなわれて
又百日
やし
のふ
てう
るい
さへ
かくの
ことしいわんや
人ハてんちのれいなり
子をおもひ
おやを
うやまふ事ハ
いふもさらなれども
なかにハすねをかぶり

おやえ
くろふばかり
かくるものハ
てうるいにも
おとりしものなり

【左側の烏の言葉】
ちとごしゆでも
 あがりませぬか

はとハはちまんのつかわしめにてけんじのとうりうたる
よりともかふのだいなりいしばし山いてふしき
がくれのおりはとにわとびいでしゆへおふばまたのを
あざむきそふついぶしになり給ひひとへに
はとのとびいでしゆへなればこのころよりも
はとばかりハミつけにいてもおかまいなき
ものなりすこしハいしばし山を
はなにかけわかきうちよりつへなど
つきけるゆへはとのつゑとハこの事也
にはとりハ大神宮のつかわしめ
かうじんさまのおすき
きじハくわんおんさまが
ごひいきゆへ
しんじんな
ものハくわずいつれも
とりのうちでもらくじんにて
たのしミにいてけりそのころ
ひわうつくしきおんなにて
ちやみせをたしけれハ
ひわちやとて
事のほかはやりけり
かさもりのおせん
くらいの事
なり

【鳩の言葉】
せんせい
  なんどきだ
【鶏の言葉】
いまちやうと
    九つだ
【雉子の言葉】 
どうりて
 □□し
   さた

たかといへばよした□と
さきばしるものあ□たかハ
しんざんのけんそ
なる所にすむものなり
しよてう
おそれて
つきやいもせず
くらしけるが
おなじ
ところに
すまい
する
おふとり
これも
つきやいも
なくたかと
しごく
こゝろやすく
おり〳〵はなしに
来りけれども
だい所も
むづかしく
ていしゆにハ
すゞめの
すいもの
おきやくにハ
さるのすい
ものにて
のミうけ
たかが子の
なき事を
きのどくに
おもひ
そふ
おく
なる
やふしをせわを
やらんととびの子を
つらまいて
来れども
たかは上ひんなる
ものとびハ
下ひんの
ものゆへ
子にハならずと
いふ
とび
の子
たかになら
ぬといふハ
此事なり

【右丁下の文字】
わしじや
【左丁下の文字】
たれだ

からすはくまのゝこんけんのつかわしめと
なりからす勘左衛門となをあらため
日本の
めいてうと
いわれ
なに
くら
からす
くらし
けるが
さしての
事も
なけれ
ども
むすこの
からす
とかく
くちゆへ
にくまれ
その
うえ
ごん
ひやうへかたね
まくからすが
ほじくると人の
くちのはにかゝり
なかまいつどうの
つらよごし
ことにからす
勘左衛門うぬが
うちハ
やけたはやくいつて
ミつかけろ水バ
なくハ小べん
かけろとおやの
事までわるく
いわせや
くぎも
つとめるものか
これでハすまぬと
大小もいで
かんどうして
まつくろになつて
はらをたつとハ
此ときよりぞ
はじ
まり
 ける

【右丁下の文字】
あほう
からすの
たゝ□
 が□せ
つきよ
からすの
よふに
うる□□
ある□□

【左丁下の文字】  
なるで
あらう

おやが
なかじ□
こじ
つけ

うハ



しやふばいにて
うれる事おび
たゝしうなぎの
かばやきハ
ひとゝおりでさへ
うれるものが
あなごや
小ぶなのやいたのを
ゑに
すさまじく
うりうなぎの
きもを
めくすりに
かいに
くる事
ひきもきらず
いそがしく
とりの
めハ
うなぎの
きも
さへ
くへば
さつはりと□□なるもの
にんけんも
あついしぶん
よる
めの見へぬ事あり
そのおりハうなきの
きもをくへバ
よくなる物
このりくつ
なり
いわれのなき事ハ
なしおもしろき
事なりからすハ
かんどううけて
うが所にいそふろふ
となり
くちハくち
だけ
はたらく
事も
はたらき
うも
ありかた
やまのかんがらすと
よろ
こふ

【右丁の下】
だんなの
あかるのだ
つうの
うをが
あらば
□だされ

【左丁の下】
めくすりを
おくれ

【障子の文字】
江戸前
大かばやき

うかいのうたいのとふり
此川なミにはつといり
おもしろのあり
さまやそこにも
見ゆるかゞり火に
おどろくうをゝ
おいまわし
ひまなく
うをゝ
くふときハ
つミもむくひも
のちのよもわすれ
はてゝおもしろやと
つたなかりけるせつしやうとハ
おもへともこのわざにて
しんミやうをいとなミけるが
うもひさしくかせをひき
しやうばいをやすんでいれば
からすもうちにいてきのどくに
おもひうなぎとりにいで
しつけぬ事ゆへあつふうかあ
うのまねするからすハ水をのむと
すへのよまでもわらひぐさになりけり

からすはかんどうの身にてぜに壱もん
つかわずいたる所へどふゆふわけやとしれねとも
すこしのかねをからすかねとやらにかし
わづかのまにきん〳〵となり
ほんまつくろ
くろ

たて


よしわらとでかけ
おもわすさきが
たかいにあいさつもせづ
わかれけれどもこれより
さきと
からすのあらそひに
なりけり

さぎハ
ひな
つるになしみて
かよいたかいに
ふかき
なかと
なり
大ぜい
けいしやを
あつめ
しやう
ばんの
すゞめおとりを
はじめ
そが
まつりのよふに
そろいの
いしやう
竹に
すゞめハ
しな
よく
おとりて
大さ
わき
なり
しか
又こよい
しよかい
にて
からす
来りて
はつミのし
たいにて
おもてざしきの
いざこざ
にて
なにやら
かあ〳〵
やかましく
きこゆるなり
それにも
かまわす
さぎはとんと
あそんで
いるゆえ
事によし原
なれはとんどや
さきてうとハ
この事なり

【画面下の言葉】
ちどりや
おいらんハ
どふ
しなん
した

かハらでせ
それへ
 〳〵
やつとさ

またさ
 〳〵

よい〳〵
  よい

さきとからすの
いざこざひな
づるをもらい
かゝりけれとも
さきもなか〳〵
かてんせず
たてひきに
なりこの
うへハうで
つくにて
もらわんと
おもてへいで
さぎもひくに
ひかれず
たかいに
ぬきはなし
ければ
からすが
さしたる
わきざしを
見れバ
へいけの
ちょうほう
たるこがらす
丸のめい
けんなり
からすが
子がこがら
す丸を
もちつたへしも
ふしきなる
事とおもひ
たちのい□□
す□しハ
おそれて
ひるみし
おりからひなづる
なかへわつていり
おふたり
さんともに
おけがゞ
あつてハ
すミんせん
わたしが是ハ
あつかりやんすと
りやうほうを
しづめしゆへ
つるの
ひとこへ
   と
    いゝつたへし
         なり
【図の下の言葉】
いちのはらから
    でた
  とんび
   からす
     め
    ひつ□ら
    まいて
    □□□
    □□□
    いれて
    いけ
    とり
    〳〵に
    するぞ

がんくび
やろうめ
たゝき
ひしいて
とつけい
へいに
するそ
【雁首の連想から古金属の再利用「取っかえべぇ」を持ち出したか】

さきとからすの
たてひきに
ひなづる
なかへはいり
からすが
ざしきハ
つとめぬき
ゆへわけを
つけるも
むづ
かしく
こゝろを
いためしに
あんに
そうい
して
からすが
ほう
から
なか
なを
りの
さか
つき
そつち
こつちと
よあけまでかゝりけりなかなをり
すりやあけのかねにくやからすが
つけわたるとそのころくるわちうて
うたにうたひけり

からすハさきよりさきへかへり
なにかこゝろにいちもつあるけしき
さすがのひなつる見てとりこゝろ
もとなくおもひがんを大ぜい
あとより見せにやりてがらしだいに
いそいでくたされあとのがさきに
なつたらかうかいとらしよと
いへばがんハかうかいはいらねとも
金にするきでいそぐ

ひなつるかすいりやうにたかわすからすハ
道にまちふせしてさきさへふつちめれハ
ひなつるハこゝろのまゝとまちけれは
おもひかけなく
さきハおとろき
ひへのはたけへ
かけこミ
ければからすハミうしない
さぎハ
いきを
ころ


かくれていてそろ〳〵と
かほさしだしつゝと
たつたるそのありさま
まつせのいまに
いたるまておこさま
かたのおなぐさミ
ひへをまいたるかわらけに
さきをいれたるこしらいれき
この
とき
より
はし
まり
けり

ぬけ
めの
なき
からすの
はかり事
ひへの
なかへ
かゝしと
見せて
とんひを
おき
さきにいつ
はいくわせ
くわにて
あしをなくり
けれハ
さきはとちゆう
ふむあし
つきになり
せんのはまむらやの
いなかむすめといふミぶりをする

さきはちやう
ちやくにあい
ひなつるか所へ
かへりミたれし
かミをすいてもらい
長五郎かかミすきの
めりやすといふところ
なれども
さいわい
となりさしきの
さきむすめのうたに
とかしてやる長哥
「おもひかさなる
むねのやミ「合せりふひなつる
そなたハなきやるかくしけの
つゆしやわいなあ
「せめてあわれと
ゆふくれにちら〳〵
ゆきにぬれさぎの
しよん
ぼりと
かわいらしまよふこゝろの
ほそながれちよろ〳〵みずの
ひとすじにうらミの
ほかわしらさぎの

からすハさきをしたゝかなめに
あわせどろだらけになりてかへり
ゑてものゝぎやうすいをしける
この
ぎやう
ずいの
事ハ
むく
ろん
じ【無患子】ハ
三年
ミがい
ても
しろく
ならぬといふとふりからすも
いくらあらつてもしろくハ
ならずそこをからすも
あきらめてぎやうすいを
たちまちしまふゆあかりの
はやい事をからすの
きやう
ずいと
いふなり

てうるいハつかいと
きわまりて
ほかの
とりと
ふうふに
なる事ハ
ならず
ほとゝ
ぎすハ
うくひす
ひめと
いゝかわし
しよせん
ミやうとに
なる事
かなはぬハ
あのよで
そわんと
ふたりづれにて
かくごきわめ
うくひすも
ほうほけきやうと
こゝろにねんじ
めいどのとりと
いわれんかと
ほとゝきすも
ちのなミだ
やぶうくひすの
なきこえに
からすハやうすを
うかゝい
ふたり
ともに
うちへ
いれ
やうすを
きゝわが
かたへ
かくまい
おく

【烏の台詞】
はて
かわいらしい
こへじや

からすはふたりをかくまいおき
ま事にかごのとりのごとく
そとへもたさすあさねきらいゆへ
むつからおきて
うくひすが
くひものを
こしらい
しかもほとゝきす
などハくい
ものも
むつかしく
さりとハ
きどくな
事なり
うす〳〵
かもハやふすをきゝたし
からすが
所へ来り
やふすを
たつねさて〳〵
ひころに
にやわぬ
しをらしき事
あのふたりを
ころしてハ
うたをおよミ
あそハす
おかたやはいかい
なさるしうへ
まふし
わけもない
とふでゝも
きこうハ
はいきがあるゆへ
ころすまいとハ
よいしやんなんでも
こんどのしうちに
めんじてかんどうも
わび事して
しんせませう
さぎとの
りくつも
わしらが
いとこの水にして
しましやふに
こしつけますとうけやふ

【図中の書き込み】
わたしらが
ところのミその
おつぼねを
ミてくだ
 され

ありがたい

ぞう

とり
くろ
がも
まち
 い
 る
 

かもハ人にももちい
らるゝものにて
からすがせけんで
わるくいふよふても
なくやさしき
こゝろざしを
かんじひつきやう
さぎとのいしゆ
いこんもわかけの事なり
さぎもふかく
うらむ
こゝろも
なくわほくせんと
とも〳〵からすが
かんとうのわびをして
このうへはごいしのよふに
しのくろのとあらそわず
たがいになかよくいたし
たいといへばてまいものゝ
ごおふをのませせいしを
かためければおやからする
よりこひかんどうハ
しておいてもとんひなきが
わるくても
あんじけり
ひとへに
かもかはた
らきより
そうほう
ともにわぼく
してとてもの
事にわかい
ものゆへしりの
かたまるやうにと
さぎにハ
さきのもりと
いふかぶに
ありつけ
からすハ
からすもりと
なづけ
今にその
なを
のこし
 けり

【図の下の書き入れ】
今まてとハ
ちかいます
このうへハ
からす
どのゝ
くちまね
ても
いたしたらハ
くちのはたへ
きうをすへて
やるがよふござり
    ますと
きわめけり
からすの
 くち
  まねハ
   せぬ
   もの
   なり
  こわい
    事
  〳〵

おしどりふうふが
なかうとにて
ほとゝきすと
うぐひすこんれい
させずいぶん
なかよくひよくのとりと
なるように
いわいちうしん
くらの九だんめの
とふりたにの
とあけてうくひ【「す」脱か】の
むめ見つけたる
ことくにてほうし
まばゆきふせいとハ
よくあてなすつたと
ミな〳〵
おもひよるハ
とりめの事なれバ
ひるまの
しうけん
かくすを
はじめ
おとり
もち
とり

もちハ
いミ
事ばと
むだを
いふやら
なにやら
かやら
なかまの
うちの
つるに
あやかり
ちよに
やちよ
  と
いわい
 けり
【烏の下の書き入れ】
かあ
〳〵
〳〵
よろ
こひ
から
 す
【鶏の左の書き入れ】
うたいのかわりに
いちばんどりを
   うたふ
とつけかふかふ

からすのなかぬひあれとわするゝひまはないわいのとハ
きついうそそれにもねのとけぬがあり
からすハ一日もけたいなしからすのやふに
かせいだら金のおきところハあるまい
はるのよのあたい千きん
なつのよのあけやすく
おふてまもなくはや
しのゝめといづれも
からすをにくむも
わかきうちなり
ひのもとのめいてうにて
つきのかけにハうさきを
ゑがきひにハからすをゑがく
なればしよてうにすぐれたるなり
ほとゝぎすとハいへとも元日のあけからすにハおとりけり
こゝをもつて長哥にも元日ばかりミな〳〵さんが
よろこびからすとハもつとも
せんはんなりけり

【右下】
通笑作
【左下】
清長画


207
1743

207
1743

縦筒放唐の噺

清長

縦(あて)筒(づゝ)放(ほう)唐(から)乃噺(はなし)上 板元


ここにこぶねのりの長きちと
いふものありよくきやくの
てうしをあわせるゆへたれにも
きにいりあおつきりのむしと
さまよがこわいろがかぶにて
しんちのほうへきやくをのせて
かへりがけはじめのほどは
そよ〳〵かぜなりしがたちまち
おふかぜとなりたいらのともゝり
ゆふれいなりといふ□しき
どんなものでも
こまものみせと
いふところなれどもこ
とゝもせず
せんどの
こじや
もの
おたいで
どうしやう
おふさ
そふだ〳〵と
ひとりごと
いふておしけり

長吉は
いの

かぎりこん
かぎり
うでの
つゞく
たけと
こぎ
くつ
きやう
いち
のもの
なれば
三日ふた
ばんのよ
あけ
がた
いづく ともしれぬ
しまに こぎつき人の
かほも わからぬじぶん
おふかた から【唐】であろふと
思ひそろ〳〵あがりてみれば
ぢびき の さいちうにてはまがた
ぢうが さ かなだらけさては
りう ぐうへきたとこゝちへ
たまさへ と らずはなにごとも
ある まいといろ〳〵に
あんじ よもしら〳〵と

あ ければおゝぜいのぢびき
の そばへゆきまづあたまの
よふすをみればさ□もふぐも
ついてもいずいろまつくろに
かみをわらでたばねとう
じんほどではなけれども
ひ げもたいがい
はへ ていればいよ〳〵
から のきになり長きち
こし をかゞめわた
くしは 大につほんのもので
ござり ますと
いへば
いづ くの
うらで も
なかによく
わかるおとこ
ありてきさまは
なんふうにあふて
ござつたかまづ
わしがうちへ
ござれかいを
ふるまい
ましいやうと
いふ

ちと
おたづね
もふしたい


いづくかとおもひの
ほか【何処かと思いの外】てうしの
うら【銚子の浦?】へつきりうし【漁師】の
せわになりみぎの
わけをはなし
ければさぞ
うちでもあん
じるてあらふが
ぶなん【無難】とめで
たいから
なんにも
ゑんりょは
なしにしば
らくとう
りうして
ぢひき
でもけん
ぶつして
かへりにおり
をゆくがよかろふと
おもひもよらぬ
せわになりその
うへあさばん
さかなのくい
あきひらめが

しほに
なる
もの
なら
みやげに
したい
ものじゃと
おもふ
ほど
とれ
なん
ふうに【南風に】
あふても
けがも
なし
さかなの
あるところへは
つき
なにゝ
つけても
長きちは
うんの
よいもの
なり

【挿絵内】
あのふね
では
おいらは
どふして

うんの
よいのだ


長きちうまいものを
くつてとうりうの
うちそこらこゝらと
けんぶつしてあるき
ふとさみせん【三味線】の
おとにゑど【江戸】の
ことをおもひ
だしあそび
にはかねを
つかわねども
まいにち舟の
なかにいたもの
なればぢよ
さいはなく
うへのほう
ゑはむかね
どもふざけ
のほうはゑてもの【得手物】
にてこいつははなしの
たねにあがつあがつてみよふと
あがつた所がいろおとこの
かぶはなけれどなにか
あくじゃれのてうしが
よくむせうに【無性に】おもしろく
なりゑどのわかを
してみたところが

こいつは
やすい
もんだもふひとり
あげろ
もふたり
あけろと
大さわぎに
さわぎ
おいらが
むすこかぶ
ならこゝへ
あそびに
くると思ひ
ぶんさんや
じんさんは
こゝへきな
さればゑゝと
とほふもなく
よいところと
のみこみごふ
せいに
さわぎ
けり

【挿絵内】
やなぎよ〳〵すぐ
なるやなぎよ

またいつ
はいのみ
やすよ

おふさそうだ〳〵

きた〳〵〳〵〳〵

長きちうつゝをぬかして
つかつたところがきゃくに
とゞけてくれろとあづ
かつたかねが三りやうにぶ【三両二分】
まくらばこのひきだしに
どこぞへゆくつもりの
四もんせんいつほん【四文銭一本】それ
までさつはりつかつて
しまいまだこのくらい
□□たもふしぎのうち
しよてのふねのついた
ときよりめがさめ
せはになつたところへ
れいもいわずに
おりをかえるにはいち
もんなし【一文無し】しよせん
いきてもしんでもと
のつてきたふねの
つないてあるを
ほどきもはや
こぐちからもなく
ごほうべんしだいと
いたごをいちまい

ほにしてながれ
しだいてんとう
さましだいと
ふねをいだし
ければまん〳〵
たる大かい【満々たる大海】
まことに
やなぎの
ひとはの
ごとくながれ
けるがとり
かぢおもかぢの
あんばいもせずに
ゑとのくつだ
しま【江戸の佃島】へあくる
ばんの
くれすぎに
つきけり
たけだのうら方
よりよつほど
うへをいつた
ものなり


長きちぶなんにて
かへりけれどもふと
こゝろのあきしりくろ
のいわけなくふねを
てつほうづのかしへ【鉄砲洲の河岸へ】
のりすておきければ
どうふせふばいのことゆへ
しるしをみてふねぬしへ
しらせけりさつそく
よろこびきたりふね
をみてよつほどしほ
じみていれば長きちが
いのちのところをあんじ
ふねのぶなんでいるを
ふし
ぎに
おもふ

【絵の中】
おせわで
ござり
やした
【絵の中】
よつほど
おきへ
でたと
みへやす


【左ページ・白紙】


縦(あて)筒(つゝ)放(ほう)唐(から)の噺(はなし)中 板元

てうきちは
ゑどを
かぶつて
わがざい
しよへもゆか
れずすこし
のゑんをもと
めてぐつととをくの
いなかへひつこみ
おきやくとおなじ
よふにいきな
ものばかり
くつて
らくを
したものが
あさからばん
までほねをり
しごと一にち
〳〵としん
ぼうしてつい三
ねんになれどもとかくゑどか
こひしくなりましてだいたんな
こともなければよふ〳〵はかりことを
めぐらしゑどへでるつもりになる

てうきちさんねんぶりにて
からへいつたといふしゆかうにて
まつりのとうじんそうぞくを
かいひげも十四五にちはやし
シヤア〳〵まじ〳〵とかへり
ければみな〳〵きもをつぶし
まづそくさいで
めでたいそのうへ
よい
とこ
ろを
けん
ぶつ
して
きた
ろふと
さんぐうからかへつたよふにさわげはして
やつたりとおもひていしゆのみやげには
こつふのさかづきてうせんべつからの
くしはかみさまへみやげきんじょへは
あふらあふぎいつほんづゝなかには
どうちうきのかいてある
のもありおかづりにでてさばか
いわ


かつ









よふ

もの
なれ
ども
まづ
とう
ぶん

おち

くる
【絵の中】
あめうりかくすり
うり

【絵の中】
おまつりのよふだ
【絵の中】
わい〳〵〳〵
やれ〳〵〳〵〳〵
とんだ
こつた

てうきちもからのはなし
をきかれはじめのうちは
たいがいにてつほうをいゝ
さきでおちがくるとこを
だん〳〵おゝきくはなし
のちにだんなしゅへよば
れどうふかうそのよふにも
おもふものもあれどそこが
からのことゆへ
けしもされ
ずむかふから
きくほとの
ことしらぬ
といふ
ところ
なくみぬと
いふことなし
きくひとの
あいさつ
にて
いろ〳〵の
ことをおぼへ
どうやら
こうやら
したを
ぬかれると
いふ人に
なりさき
のちり
もん
どおり
くらから
でほう
だいほん
のことなら
つりもない
めつらしい
はなし
しやうじきなものは
えのしまかまくら
あたりのきになり
いつてみたがる
ものばかりなか
にはぜにもふけ
のむなかんじやうを
するものもありかばやきの
にほひかいりざけのにほひ
のやうに
はなを
ひくつかせて
はなす
【絵の中】
なん
でも
ほしい
もの
だら
けさ
【絵の中】
さとうはいくら
ぐらい
する
【絵の中】
ゆめでは
どうした
もん


【絵の中】
せとものは
さぞ
やすか
ろう
【絵の中】
しばゐは
あるかへ

さとうといふものはよし
のやうなくさでそれを
しぼつてせんじればさとう
になるといふことじやがそふ
かなとたづぬればなか〳〵
そのようなやさしいことでは
ござりませぬもつとも
からでもはなれている
やまにて
こほりざとう
はひうち
いしのやうに
たゝき
こわし
その
あんばい
によつて
あふきなもあり
こまかなも
あるしろ
ざとうは
ぜんたいすなの
やうなものところ
によつてたいはくと
なみと
わけ
くろざとうは
あかだまといふはやま
からとりたゞのくろは
かはのつちうへきは
かんぎうより
ほかの
ものは
つかずいいくら
とつてもあるゆへ
ねがやすしだん
ごをこしらへても
きなこをうなじ
さとうのほうがおて
やすい
もち
やではきな
ことあづきは
すこしもつかはず
さとうばかり
そのはづの
ことにつほん
のしほぐらいの
ねだんしよての
うちはしたゝしたか
なめました
【絵の中】
はあ〳〵〳〵
はあ〳〵〳〵うなじ

からもごふくやは
にほんの
とおりなつふゆ
やすうりのじやう
ねだんのふだ
をまわし
らしやや
にしきのひろう
とどんすの
るいはほしくも
なければねも
おほへず
ちりめんのうへ
なしがいつひき
で二十めぐらい
いらぶだすとは
ぶた人の
やうなかわり
しまのさん
とめあさぎ
でゝもくろで
でも
いつのぶとんの
さらさした
てにしてにぶ
ではずいぶん
じやう
ものもふせん
などのやす
さといふは
しばい
ではきり
おとしの
しきものに
する
くらい
のことわたし
どもはなにも
しらぬが
ほしいもの
だらけ
ねづみいろの
もめんを
さんもんめで
かつた
ばかり
とはなして
きゝてのきを
わろく
させる

からで
うれるもの
はたばこや
たとへの
とおりたばこ
のすきなも
のはとうじんの
やうだといふも
そのはづなり
きらいななもの
はひとりも
なしすきなものは
一にちに四しうめ
も五じうめものみ
たばこはしんく
わすれぐさと
いつたいがゆふてうな
ところにてきせるは
一にちつかまへつめ
それではずいぶん
五じうめも
のみ
そふな
もの

縦(あて)筒(つゝ)放(ほう)唐(から)の噺(はなし)下 板元

なにもしらねども
かつてきたいものが
せとものぶしつけ
ながらあんなどん
ぶりはみたことも
ないあいのいろが
てんぢくのよふな
あをみてとう人
を七八人かいた
やつが六十四もん
ぐらいさらには
すこしおゝきいと
いふしかくなやつが
ちつとあつさはあついが
とんだよいのがあり
おもくなければよい
みやげて
ござります
【絵の中】
ごふだんの
ならこの
たし
ちや

なさり
まし
【絵の中】
きやくには
いまりを
つかひ
ます

からのどうくやを
ほりだしものを
しやうとおもひ
あるいてみたればよい
どうくやはにほんのもの
ばかりいまりやきのひいれ
でもはこいりにしてあれは
やすがねではかわれずするが
ざいくのくずかごはにせでは
からはまいりませぬといふ
あいづのすいものわんは五人
まへづゝうりまきへの
あるものは
けしからぬことやすい
ものは
あをがいの
つくへのような
ものかねのはな
いけなどはおもし
ろいもよふながたんと
あれどわたしどものは
なにもしらぬ
ゆへらちは
あかずと
はな
せば
みな
〳〵
アゝ
くやしい
〳〵

いふ
【絵の中】
くつや〳〵〳〵
【絵の中】
大日本のめいさんは
だれた
ゑはとかく
あつ
まへ

【右丁】
からにもゆふしょ
はいくども
あれども
なかにもよし
わらちおぼし
きところ
なかの
てう
のよふに
ちやゝの
のきを
ならべ
どんす
びろう
どの
のう
れん

【右丁上】
かけ

くら

から
には
ないと
みへて
かい
どうを
うへなか
にも
【左丁】
たても
のら
しき
はゑ
どむ
らさき
のいたじめ
のしやう
ぞくき
やくも
みなは
ぶたへ
たんご
じま
つう
らしきは
うへだじま
あきんど
らしき
はあふ
じま
をき
てに
ほん
ざらさ
のたば
こいれ
をもち
【右丁下】
すきんせんばからしいは
からがほんだなか
【左丁下】
びいとろのせうじにもし
をはりぶたのあぶらげ
にはとりのなべやきにて
きん〳〵としゃれかけ
いづくもおなじこと
なり

【右丁】
どなたにも
おめにかけたいものは
とりけだものやまへ
まいつてみましたが
ぞうがいくひき
もおります
なんのことはないこうじまち
のまつりのとおりたけ
やぶをみればとらが
あそんでいるせう〴〵
いんこのよふな
とりはいくらも
ありみせもの
【左丁】
にしたいと
おもへはおふむが
くちまねをする
めづらしいとおもつたは
ゑんこうざるくじゃくは
にほんのにはとり
ほどありみぬ
ものはほうおう
としゝばかり
きくものを
ちやにして
とほふ
もなく
はなし
かければほんのことかも
しらねどもなかには
したを
だす
ものも
あり

【右丁】
てうきちくらからでほう
だいめつほうかいやたらと
はなしもちろんてまへ
のおもひつきでも
なしさきからきく
ことばかり
おゝぜいのなかには
いろ〳〵〳〵の
りやうけんな
人があり
からのどうぐも
すくないから
おもしろし
なんぼよい
ところでもに
ほんの人では
くいものにてこ
ずるはなしのうち
のけつかふにきん
ぎんがすこしもなし
いふもおゝきな
むだなれどきん
にこし
たるたからはなし
そのしろものゝ
でるところは
につほん
しらぬ
ところへ
【左丁】
いき
たがらす
きく人
ごとに
にほん
ひいき
すめば
みや
この
たとへ
のとをり
わが
いる
とこが
へんど
でも
それ
そふ
おふに
よふが
たり
十人
よれば
七いろのりやうけん
まぜ
こぜに
なつて
かへる
【右丁まんなか】
このとし
になるが
はじめて
きました
【右丁下】
よふをいで
なさり
ました
【左丁下】
たちがへりにでも
いきたい
ものじや

てうきちしよ〳〵を
はなしてあるきあへて
ぜにもうけのさたでもなし
もとよりたくみもわるぎ
もなければほうで〳〵
きにいりさきからさきと
のめくりあるきあきない
でもはじめるなら五もん
めやすもんめはうしてやろうふと
いふしうもちもでき
そんなことにもとん
じやくもせずまいばん
やしょくぐらいのげいしやと
なりからのはなしは
めずらしいときいた
人のはなし人の
うそはわがうそに
なれどまた
きらのその
またぎらを
うそかも
しらぬがおんめにかけそろ

清長画
通笑作

山谷通伏猪の床

山谷通伏猪の床  全

【空白】

【欄外】□【安】永九

山谷通伏猪能床(さんやかよひふすいのとこ)下

【山谷通い…新吉原に通うこと。猪牙舟で通うのが粋とされた】

【右ページ 右上から】
ここに
亀三【?】と云町人有
一人のむすめを
おつるといいしがいたつ
てうつくしくもの
やわらかなるうまれ也

【同 右下】
そのゑは北尾か【絵師の北尾派?】
つぼかへ

【同 左上】
家の
てうほう【重宝?】
ふすい【伏猪】のかけ
ものをしよち
する

【同 掛軸の下】
これ〳〵
この
かけ
もの


やれ

【同 一番下】
いの
ししと
いへばこ
わく思へ
ども
ふすいと
いへばかく
べつ
やさしく
きこゆる




【右ページ 右上】
亀三ふうふ
長吉をふひん【ふびん】に
思ふ【気に入られている】

【右ページ 中ほど】
ばんとう
武兵衛【?】は
日ころ
この
いへを
おふりやうし【横領し】
おつるを
女ぼうに
せんと
思ふ

【右ページ 右下から】
手代




りやう
人にす
ぐれ
正しき
なる
うまれ
なり

長吉ほうこう
大いにつとむる


【左ページ 右上から】
おつる おくへ
きや

おまへのひいきは
はち介【下男の名前】かへ

おつる
長吉を
みて
はづ
かしがる

ちと
はる
きやう
けん【春狂言】
でも
みに
お出

さりませ


【右ページ 上から】
まい日〳〵
手代
二人にて
やしき
かよひ
する

【上左】
まづ〳〵内へはやく
かへらう

【右中ほどから下へ】
うちのことはヱゝサ
しよし【?】
のをこそ【?】

武平【兵衛】長吉に
さと
通ひをすすむる【里通い…遊里へ行くこと】

【下】
ばん方は
よしはらへ
大黒まひを
みに行
かう
しやあ
ねへか【見に行こうじゃあねえか】


【左ページ】
武兵衛はおつるの美しきに
ほれていろ〳〵うつつを
ぬかす
おつるはいやがる

【同 右下】
まいよ〳〵く
どけどついに
一度のへんじも
なさんせんそれは
あん
まり
なさけ
ない

【同 上】
ヱゝ
いやらしい
はな
しやい


アレ
おつるさん
のこへが

【同 左下】
夕べ【昨夜】【?】もふん
どし一ツで
からかみの
とをあけに

【その下】
かゝつたればふん
どしのさがりをね
づみがくわへて【鼠が咥えて】
天神様ア【?】
くだせへ

【右ページ右上から】
武兵衛が
みている

さてさて〳〵
よし〳〵
おれがしのふか有

そなたを
たんとたのむ
けれと【けれど?】いや〳〵と
ばかりいやるが
なんでも
こんやはへんじ
しや

アレ
どふぞ
〳〵

長吉
めいわく

その
よな
ことは
およし
なされ
ませ


【左ページ 上から】
武平衛はこいのいしゆ【意趣】
長吉をしくじらせ
おつるを女ぼうにせんと思ふ
ふすい【伏猪】のかけものをぬすみ長吉になする【罪をなすり付ける】

やレ
いゝ物が
手に入ったわ
エゝと 天
から


やう


【右ページ】
モシがてんのゆかぬ長吉がたばこ入れに【が?】こざります【ござります】
まだあしなふみがおちて
いるわへなア

ばんとう武兵衛とうぞくのいりしとさわぎ
くらのうちをきを付る□□ひろい
とりし二いろ【ふたいろ?】を亀三にみせる


【左ページ】
くらない【蔵内】
手しょく【手燭】にて
せんぎする

【同 下】
ぬす人は
にげたか
ヱゝ
よわい
やつだ

下人【下男】
八介
りきむ

【左上】
おふくろ
きをもむ



【右ページ 上から】
武兵衛
めつたな
事をい
やるな
どふして
そふした
事を長吉が
する物だ

おつる
ひいき
する

【左上 八介の上と右横】
にが
〳〵
しい

かわ

そう


【右端 中~下~左へ】
さて
ナア

【長吉】それでもみにとつて
おぼへござらん

あらそうな【争うな】

【右下 番頭の下】
くらの
うちから
二いろながら【手紙と煙草入れの二つ】
出るうへは
ぬすみては
長吉
われだ

【左ページ】
【武兵衛】いゝざま〳〵
はやく
出て
行【ゆけ】

【同 左端上】

つる
かなしがる

【同 下】
天のなせる
つみはのが
るゝ事も
あらんかけ
ものゝ出るまでは
しばらく
みを
かく
さん

さはさりながら【とはいうものの…】



【右ページ 右上から】
おつる
長吉を
くに【苦に?】
する

ヱゝいけすかぬいやらしい


モシ〳〵日ごろおまへのおきにいりの
長吉はぬすみしたゆへひまかでやした【暇が出やした】
わたしもおとこに
かわつた
事はなし 思ひなをして
みなんせ

【右下隅】
武兵衛
うぬ
ほれ【うぬぼれ】


【左ページ 右から】
長吉は思ひよらぬ事にあいてよりしるべのかたをたのみいけるに主人
の事またおつるの事どもおもひ所のちんじゆへ【鎮守へ】ぐはん【願】をかける

長吉
つやを
する

【長吉の左】
しんしう
すわめう
じんの
やしろ【信州諏訪明神の社】

【上】
せんざい〳〵【善哉善哉】我はこれ
すわ明神なり汝がぐはん【願】
じやうじゆ【成就】せんことはこれゟしんむ
さし?ツのほりえ有此ところへ
ゆきつりをたれなばなんぢが
君しんのとくによつて【?】
かけ物の行
へまたは
まつだいに
名をのこす
事有へし【あるべし】
ゆめ〳〵うたかふ事なかれ〳〵


【右ページ上から】
そも〳〵
此すわめうじんと
申したてまつるは
しんしうの住人むら上
義清の四天王【村上義清…戦国時代の武将】
たかなしけんもつ【高梨監物仲光】と
いうものゝ
あ【?】んち?【八潮市上馬場?】

しんしうすわ
明神のつけに【告げに】

【同、左中ほど】
よつて此八?りやう
かみばゝむらに【上馬場村に】まい
ねん正月廿七日
きしやのしんじ【騎射の神事】おこのふ
中と?名主としより
庄や百しやうに【百姓に】い
たるまでそのばんに

【左ページ中ほど、右の文のすぐ横】
あたりぎやくして【?】
まとをいる
なり

べつとう【別当】は長光山明光【?】?
この寺よりさんのごふ【産の護符?】出ん
此むら一ツとうになん
ざんと【?】いふ事
なし


【右ページ下、観衆のせりふ?】
さかい丁の
ま【?】ねきを
みる
よふ


【左ページ右上】
あたり〳〵

【同、中ほど】
此や【矢】に
あたりいへ
こと【?】一本に
してかへる




【右ページ】
いにしへ此
大もんとなり
かいびやくの
ころ

今のしんよしわら
三や?なり
にてふしんの
うちは
しやう
ばい
はじ
むる

【左ページ、上】
これに
よつて
今に三や
がよひ

いふ

【同、右下から】
上だいのころはふねはなく
あさくさみつけよりむま
にのりてかよふ

よしわらへ御いで
なされたらまた
むまののりよふか
ちがいや
しやう

【右ページ、右下】
ぼうぐみや
だんなは
といる?の
だらふ
ナア

やつサ
こりや

〳〵

【左ページ、左端】
みな〳〵
ふかあみがさ
にてかよふ


【右ページ】

此ところはいにしへ佐藤たゞのぶ【佐藤忠信】が
かぶとをうめしところとかや
さるによつてかぶとがふちとも
いふ

【魚籠を持つ男】
ハア
つゞみのよふなうを【魚】がかゝつた

【長吉】コリヤ
どふ



【左ページ右下、長吉の横から】
長吉
明じん
のつげに
まかせ
このところへ来り
つりをたれしかば
一ツのつゝみ【鼓】をつる
この
ところにて
つりをたれ

【同、中左】
やどへ
かへらんとするに
なにもの
ともしれず
おいて行〳〵と【おいてゆけおいてゆけと】いふこへ
するゆへよつておいていけ

【同、水面の横線の下】
ぼりと
いふ

【同、上】
ことに
いつに
なく
たく
さんに
うを【魚】
つり
あげる

【右ページ、左上から】
いの
ほりの
ぬし
女と
へん
ずる

もし〳〵
おい

いか


んせ

【長吉のせりふ】
はて?【何?】ぎやわがやへかへ
らんとするおりから
おいてけといふこへ一ト【ひと】
ならず二トなら

てへ

りけしは

さては

そのほうよな

【右下】
しさいぞあらん
かた?きかん

おし
ぐさや
十?


【左ページ、右上から】
しさひといふはしんしうすわ明じんにてふる
いのしゝ有しかば山本かん介【山本勘助】がために
ころされしんげん【武田信玄】
ふびんにおもひ
そのかわをとり
一つの
つゞみとなし
しゝねのつゞみ
と申すとかや
別【?】そのつゞみの
子でござり
ます

【右端から】
わたしやおやのあとを
しとふて【慕うて】

はる〳〵
まいり
ました

【同、中ほど、長吉のせりふ】
おまへ
のね
かいも
じやう
じゆ
いたし

しやう【お前の願いも成就いたしやしょう=聞き届けて鼓を置いていきましょう】

【同、下、風呂敷包みの下から】
此つゝみし
ものをあけ
ますから
あけてみ
さしやんせ

さて〳〵およばぬ事
だん〳〵のおがたつ【?】
そうは【とうは?】百ぎやうの
みなもと
かや

【右ページ、右中ほどから】
おいてけほりにて
女にもらいし
つゝみをひら
きそれはとし
ふる
【同、上へ】
いのきば【猪の牙】
なりいのき
ばとかいて
ちよきとよむ
ゆへわがやはすなは
ちやなぎばし明神
のかげといゝ
かよふ
とはを
ふねとなし
やのしる
でとくくふ
うをなす
ならば
よしわら
【同、左端の縦に細長いところ】
かよひの人にもうちのしゆひ【首尾?】もよからん

【同、右下】
ヲヤ〳〵

【同、長吉の横】
これ
にて
ちよき
ふね

いふを
はじめて
つく



【左ページ、右上から】
はるはまた
かくべつ日か
ながい

一ふく【一服】あがれ

みな〳〵
ちよき
ふねの
できるを
めつらしかる

きよふな
人だ

【同、舟の下】【※わかりません】
らと
ふぞら
はめ
たい


【右ページ、右上から】
あれかちよき
ふねといふもの


あの舟に
のつて
あそひに
ゆく
のだ

【同、舟の上】
もう【?】
かぢ
〳〵


【左ページ】
猪の


ならふ類
深つ







【右ページ、右中ほどから 挿絵の横線をまたいで縦に】
さけに ゑひ わがやに
つたはるふす いのかけ
もの【伏猪の掛物】主 い ちうに
有こと を 
かたる

ちと
あげ
もふしや
しやう

【同、下】
たんな【旦那】
おいたゝ

申しや
しやう

【同、左側、長吉】
ふねやど
長吉 武兵衛が
ようすたち
きゝするかくりに
まちぶせして
手に入れぬと
思ふ


【左ページ、上から】
長吉あと
より
おつ
かける

【同、右下から横へ】
あい〳〵
おしづかに

きのふよりのい
つゞけゆへこん
やかへります

ハテ
くらいばんだ


【右ページ、右上から】
かけもの
手にいる

このかけものをうぬがものにし
そのうへにて
おつる様にむたい
をいゝかけことに
いへおも一おふりやう【横領】
せんとはふと印?
やつだ

どつ
こい


【左ページ】
亀三が
いへも

おふれう【横領】
せんと思ひ
のほかたん
ぼへなけ
らるる

【同、左下隅】
やゝ
つよい
やつだ


【右ページ、右上から】
亀三
ふうふは
おつると
長吉が

こと

しり
ふうふにする

【同、亀三夫婦の横】

よろ
こぶ


がら
〳〵【手柄手柄】

【同、左上、挿絵の横線をまたいで縦に】
是と いふ
もひ とへに
十八 ?のさかへ
き??
かけて
??やう ばんを
松 むらは?

【同、挿絵の濡れ縁】
武兵衛
あく

あら

れ【悪事顕れ】
つれ
きたる

めてたい
〳〵


【同、下】
たん〳〵の
こと
武兵衛

はく
じやう
する

【同、左の柱】
むすめうれしかる【嬉しがる】

清長画


奥州咄

天明元丑年

紅皿欠皿奥州話《割書:可笑作|清長画》合三冊

【柱題「おうしう噺」】
【国会図書館登録タイトル「奥州咄」】

むかし〳〵おうしう
あだちがはら
くろづかといふ所
に一つやあり此あるしは
らうぢよににてあくばゞなり二人
のむすめをもちあねはまゝしき【継しき】なかにて
おさだといひいもとをおむねとて
ふたりとも
きりやう
すぐれいなかにはおしき
うまれつき
なりけり
此ばゞ
はたして
あねの
おさだを
にくみ
いもとのおむねを
きまゝいつはい
にそだて
あねをあね
ともおもわ
さり
けり

【婆の台詞】
これおむね
ちと
ひねつ

くりや


【むねの台詞】
またあねが
さしでた事をいふ
いやでござる

【さだの台詞】
かゝさんおかたでも
さすりませう

【下の書き込み】
恋の
みちころは【転ばぬ?】
さきの
杖しは
くて【?】
□お
□り
か【?】□□
□□□

其ころのぶせう【武将】
八まん太郎よしいへ公
にてまし〳〵けるが
今日□【け?】んじやうなをかたか
しやうだいなしたて
まつりちんぶつのしな
〳〵をさゝげごちそう
なしける
しかるにこのとしに
あたつて
くだ物
みいり
なく
きん
こく
いつ
とう

かき
くりの
たぐい

すく
なく
めづら


かり
ければ
なを
かた
りやう
ふんの
もゝくり
かきを
ゑだいつ
にして
よくみのり
たるをさし
上ければ
御よろこび
かぎりなし

此ときより
もゝくり
三年
かき八年と
いふ事は
はじまり
ける

これは〳〵
なおかた
めづらしき
くだ物の
みのり
かな
きんごく
までも
二三年
いつこうに
みいりあしき
ときくに



のり

はわが
くにの
きつけう
それにつき
おもふ
したい
あれば
三年があいだ
こくちう【国中?】もゝ山
をとめ山【留山】に
申つけくりばやし
の山もこれに
じゆんじかきの
おほき山は八年が
あいだとめ山にいひ
つけおくべし
きつと申
つけたぞ

当年はくた物
ふあたりに候
ところわたくし
りやうふんの
もゝくりかき
かくのごとくみのり
候まゝ今日の
御ちそうにさし
上まする

いさい
かしこ
まり
たて
まつり
まする

そのころおうしうのうちに
まつりありけるにかのばゞは
いもとおむねにしたくさせ
きら【綺羅=美しい衣装】をかざりつれゆく

おむね
はやく
かみを
しまやれ
おそく
なる
あのあねへめは
どこへいき
おつた
るすの
しごとには
おのすにも【?】
おつつけて
いかふさ

あねのおさだ
まつりの
ようすをきく
いもとはつくり【?】みがき【?】
きかざりゆくに
われはそのるすを
してゐる事の
くちおしきと
おもひとても
かくのごとくして
うきよに
いきている
かいなしと
おもひ
さため
いつそうみ
かはへなりとも
みをすてんと
なく〳〵わか
やをみすてゝ
いでゆく

いもと
さらば
すいぶん
かゝさんにかう〳〵にして
くたされ

それよりさだは
いつくといふ
あても
なく
いで
しが


川ぎしへよりかくご
きわめすてに
みをしづめんと
せしがむかふの
かたより人を
はらつてくる【?】
ものあるゆへ
ゆうよして
かたかげに
いたりしに
八まん太郎
よしいへの
□□□□
しきたへ【敷妙】
御ぜん
かみもふ
でのかへ□

さとをり
かゝり給ひ
のりものゝうち
よりさい
ぜんおさだ
がかくごの
ていを
みさせ
られ
のり
物よ

おり
給ひ

ことの
やうす
をつぶ
さにきゝ
ふびんに
おほしめし
御きがへの
小そでを
たまわり
ける

【姉さだの台詞】
御もつたいない
これは〳〵
みにあまり
ありがたふ
ござり
ます

これそれなる女子
これはみづからがきかへなれどもそのほう
につかわすまゝこれをちやくし
てそのまつりけんぶつにゆく
へしたいせつのいのち
かならずたんきな事
をせすともとかく
しせつをまつがよい
□はうぢなや【?】して
のこしとやういへ【?】
ばこゝろなかに
しゆつせを
まする【?】

おさだはうれしくそう〳〵うちへかへりよふすをみればもはや
はゝもいもともいでゆきしあと
ゆへおむねがくしとうぐにて
かみをゆひかの小そでをき
かへしるべのかたへ【知る辺の方へ】まつりけん
ぶつに
きたり二かい
ざしきに
いたりしに
よく〳〵みれば
したには
はゝいもと
いるゆへ

もちくわしなどなにとなく
おくりけれども
はゝもいもとも
おさたとはおもはず

たいけのひめぎみ
にてあらんと
おもふ

【姉さだの台詞】
おゝかあいらしい
とふしやうの

こゝによしいへの
御おとゝかもの【賀茂の】
次郎どのと申は
御こゝろだてやさしく
わかのみちにもくらからず
そのうへ大のいろ
おとこなり

けふも
御しのびにて
いでさせられさいれいの人
くんじゆけんぶつながら
此ところをとをり給ひ
おさだがゑんしよくに
たちとまりあぢな
きもちにならせらるゝ

【婆の台詞】
これむすめや
どこのよ【?】
おひめさまが此
お事を下されたお
れい□しやあり
かたふござります
あれみやれゑゝ
おこそてを【お小袖を】
□□□た

【賀茂次郎の台詞】
はてうつくしいものたいつれの
ひめしやが
しらぬ

【見物人の台詞】
此まつり
はずふら【?】

ついことき【?】
れやうだ

あゝたい
くつの

くろづかのはゝはこれといふいと
なみもなくたゞわるたくみやま
ごとにてくらしけるがきんねんくり
のねたんよきとかんがへきやうだい
のむすめにぬのゝふくろをもたせ
山へやりてたまさかあるおち
ぐりをひろわせけるそのうへ
あねにはそここゝ【?】やふれたるふくろ
をあ□い【あてがい?】けるゆへひろひしくりも
大かたやぶれよりおちこぼれいもとの
ひろいし
より
かすすくなきを
いきどをりいろゝせつ
かんする
【継子にわざと穴の空いた袋を持たせて落ち穂拾いなどさせる話は、「ぬかぼこ・こめぼこ」という昔話のパターン。】

【婆の台詞】
これて なのんつゝめろう
あ□むね はまい日〳〵とれ
□□□□ ひろつてくる
におのれ はやう〳〵
六つ七つ これがせつ【?】
ならは あすから
□ふし みてひ
ろへその つらは
なんだ

【妹むねの台詞】
ほんになあ
あねさまのは
でへぶすて
なへのふ

【姉さだの台詞】
あす
つうたん【?】
こひらい
ませうから
かゝさん
かんにん
して

さん


その
のち
きやう
だい
のもの
はたし
なき
くりも
ひろい
つくし
たん〳〵
山ふかく
入て
ひろ
いしに
なを
かたがとめ山の
くりをとりしを
やく人にみとかめ
られなんきする
おのれはにくいやつこのきびしい
とめ山へはいり
くりをひろうといふ事が
あるものかさあおきて
のとをりなわをうけて
御せんへひくさあうてまはせ
とはいふものゝとれも〳〵うつくしいものた

【妹むねの台詞】
サア
いもと
かくご
しや
とふもぜひが
ない

【姉さだの台詞】
おやく人さま
とうそ
御めん
なされ
ませ

けんじやう
なをかたは
二人のとがにんを
□と□うつたへ
けるに御せんぎ
あるべき
むねにて御ぜんへ
ひき出しける
はゝはこの事を
きゝそう〳〵うつたえ
なに
とぞ二人のうち
一人は御せいばい
なしくだされ一人は
おゆるしを
たまけ下さるべし【?】
とねがふ
よしいへ公も此うつたへ
をきこしめし
かもの次郎へおゝせ
てせんきし給ふ
しかるに
はゝかねがい
ゆへいづれ
をたすけ
いつれを
つみにつゝおこ【?】
なわんやとおゝせ
けるにはゝは
いもとのおむねを
おゆるしくださ
るべしとへがふ
かもの次郎あくみ給ひ
てぼんにさらをのせ【盆に皿をのせ】
しほをつみわか【塩をつみ若】
まつをさしこれは【松をさし、これは】
なになるや
きやうだいにたつね
給ふ
あねがうたの
こゝろし□□き
をう□□きゝ【?】
あつてあねは
たすけかへし
いもとの
おむねは
まづ
らうしや【牢舎】申
つけよとの
上ゐなりしかは母は
なく〳〵おむねをつれかへる【つれかへける?】

【賀茂次郎の台詞】
おむねはわ
れたすからんとあねを
おしのけすゝみいてそれに
もち給ふはぼんの上へさらあり
さの上にしほありしほの上
にまつありと
申上ゝ

【婆の台詞】
御ぜんもはゞ
からずおむねが【?】
こしやくとふ
ぞいもとを
おたすけ下
さりま


【役人の台詞、かすれてほとんど読めず】
なりは
きた
ないが

□□

ゆ□
おつた
□□いつこが
□□のむめ
の花をおつ【?】
□□□□やう
かしたな【?】

あね

おさだ
は心
しほ
らしき
□□れ
□□□□
を□て
ぼんざら
□□□
□□き
に□て
ゆ□□を
ねとして
そたつ
松かへを
ゑいしける【詠じける】
【昔話のパターンで、姉は賢く歌の心得があるが、妹にはそれがなく、出された盆を見て「盆の上に皿、皿の上に塩……」と見たままを答えてしまう。しかし姉のほうは盆を題材に見事な歌を詠じて許される、というのがある。この見開きはそれを説明したものだと考えられる。】

それより
ばゞはおさだ
をつれ
かへりいも
とにち
ちよくを【恥辱を】
とらせしと
いゝせめ


【婆の台詞】

ろう

うぬ
かいら
ぬことを
しやへつ
たからいも
とにらうしや
させたこゝな
くちまつ
のおちやつ
ひいめつらめ【?】
これからうぬ 一人で二人
まへのかう
〳〵をせね
はならぬぞ

【姉さだの台詞】
かゝさん
どふぞ
かんにん
して
こゝを
はなし
て下
さんせ
あや
まり




やればゝまて上いがあるそゝうすな
このたひかもの次郎とのわかきみへ
おねかいあつてそのほうがむすめ
そのおさだどのをれんちうにあそ
ばされんとの事それゆへ
おのりものにてわん〳〵御むかいに
まいりしなりそう〳〵かみもとり
あけまゝて【?】してよかろう
きくよりおさだは
とひたつ
よふに
うれ
しく
みご
しらへしてかねてはゝに
かくせしこそでをきかへ
のり物にのりいでゆく

【お侍の家来の台詞】
あゝしやわせな
事たおいらも女に
うまれゝば
よかつた

ほどすぎておさだのまへは
かもの次郎とのへひた
すらねがいいもとが
らうしやをゆるし
たまへとたび〳〵
いひけるゆへよし
いへ公へ申上ねがい
の□□りゆるし
給へば又ふるさと
あたちかはらへかへり
はゝもらつ【?】ともくらし
ける
これ〳〵おむね
あねめがいまの
かついくわうら
やむてはないが
あいつか大ぜい
ともをつれて
あるきおるか
むねかわるい

【婆の台詞】
あのあねめが
おれをよび
らくをさせん
とたび〳〵
いつてよこす
がいやな事
やつはりそな
たとふたり
こうしてくらしとう
うれしう
ござる

【妹むねの台詞】
まああねさまのおかげ
でゆるされましたが
おなしよふにうまれて
あねさまはあのやふにつき〴〵
にかしつかれちよつと物みゆさん
にも
のり物

あるか
しやんす


このやうにわたしは
水をくんたらひをたいたり
おもへはくちおしう
こさんす

おむねはそのゝち
はゝのおもひつき
にてとこげい
しやとなり
所々かごにて
あるかせはゝも
きがへの小そで
なともちて
おくりむかい
をする

【荷物をかついでいる人の台詞】
もしばあさん
さみせんばこの
じやうはおりて
いやすか

このころはおむねさんは
きついものどこても
こゝてもこのこで
なけれはなりやせぬ

【駕籠かきの台詞】
もしばあさん
こんやあ
なにやで
ごせへす

【妹むねの台詞】
かゝさんこんやは
おふかた
とまりで
ごさんせうから
あすはやく
むかいにきて
くたさんせ

おむねは
うまれついて人を
かけるがたけて
ものにてざら
にきやくを
だましおびたゝしく
なじみきやくあり
けるなか
にも□□ひはふてなじみし
うりわりの四郎といふとふり
ものにあけられ
つとめをはなれ
たのしみける

【妹おむねの台詞】
もふおやすみ
なんしあれ喜八【?】
どんもふよさつし
いつそよひな□
たはな

【うりわりの四郎の台詞】
これおふくろ
におゝめを一たん
やるやくそくだ
し□はとんな
がよかろう

【お銚子を持つ人の台詞】
たんなも おむね
さんに □□□
□□や
ものた



〴〵
□□□の
□は□□
□□




そのゝち四郎は
おむねを女ぼう
にせんとはゝへ
わたりしがれいの
どうよくものゆへ
金子三千両
おくり給へむすめを
しんぜんと
いふゆへ
せんかたなく
おむねと
そうだんしてばゞが
めをしのびつれ
だちにげる
かゝさんが
ひとりで
ふじゆふで
ござんしやう

あのばゞあが
めがさめたらきよ
ひめがばけた
ような
みをして
おつかけ
よふ【大蛇みたいに追いかけて来ると言ってる】
くちを
きかずに
いや
しつかりと
かたへつか
まつて
あゝおうきな
なりだぞ

四郎は
おむねを
□□□いだし
それより
ところがへ
をしてとう
ぶんしのび
いたりしが
だん〳〵
しやわせ
わるく
うつ〳〵に
ふうふ
くらし
ゐる

よいから【?】のてらまで
はりこんだとんやの
よふな事もない
もんだ
かゝあやもつと
かんをしろ
いま〳〵
しい
だまつて
いろ
うぬが
しつた
こつちやあ
ねへ
けさ
ぞうりめ

またさけかへ
おめへ
よいなさる
からなを
みへねへ
まあちつと
やすみな
されば
ゑゝ

かくて四郎は
半年あ
まりたち
つゞきしや
わせわるく
所のすまい
もなりかね
女ぼうを五十
ぞうみせへ
つとめほうかうに
うりやう〳〵かしの
もとでにあり
つきける


【妹むねの台詞】
はごの
しゆ

きい
てくだ
さんせ
ほんにわし
がよふな
いんぐわな
ものがあらふ


よふな
つとめ
ぼう
かうに
きてすへは
どふなり
ませう

【駕籠かきの台詞】
どふもごていしゆのためだ
しやう事がなへまた
ゑゝこともある物だと
あきらめて月日を
まちなさい

【店の主の台詞】
いやそつちや【?】そうだんづく
なんぎのすじもきゝとゞけ
ましたまたわしへもふ
ずいぶんとやでもをると【?】
じきに
ひつこませて
りやうじはします
きづかいならふ
あづけ
さつしやい

おゝほんに
ゑゝうまれだ
としは
いくつだへ

【四郎の台詞】
わしが
女ぼう
だかしかつ【?】
ものはたい
がいなものさ
これおむね
はやく
きやれ

そのゝちおさたの
まへはいもふとが
ゆくゑしれぬゆへ
はゝをよひとらん【呼びとらん(引き取ろう)】
といへどもくろつか【黒塚(地名)】
にひとりすみか【一人住み処(一人暮らし)】
のぞみ
のよし
せんかた
なく
かもとのへ【加茂殿へ】
ねがい
はゝへ十
人ふち【扶持】
くだされけるぞ
ありかたき

【役人の台詞】
こりや〳〵らう女ありかたくおかひめされ
たゞ今よりそのほうへいんきりやう十人ふち
くださるあいだおうけ申されい

【婆の台詞】
いもとのおむね
めも此ほとうけ
給はりますれば
何かわるいやま
ひをわつらい
いづくへまいつ
たかゆくゑもしれませず
かくこかしまもごさらぬに【?】
はい〳〵ありがたふ
ぞんじまする

扨もばゞは二人の
むすめをもちしに
あねはやさし
き心さしにて
ことものとき
よりうたを
よみな□□【らい?】
とらわれの
時もへんを
もつてしや
わせとなり
いもとははゝの
ねがいが□かご
にのせて引つり
あるきあげくのはてには
五十ぞうとなりさかりかさ【瘡】を
わづらひいづくへゆき
かゆくへもしれねは
ふかいどへはまつたかどう
ぜんなり【深井戸へはまつたが同然なり】これといふも
おとこのよしあしにも
かまわず人が□まず
まずざらに人をかけたる
ゆへなりそれゆへあけ【ね?】はさて【?】
にへんにまかせてうたをよみ
しゆへべんさらいもとは人を
ざらにかけてたませしゆへかけざらといひはやせしをへんざら
をいひあやまりべにさらかけざらとすへのよまでもはなしのたねを のこしぬ
【いじめられている継子の姉が、歌を詠むことでお殿様に見初められ……というパターンの昔話を「紅皿欠皿」と言う。】

これまでのあくねんを
ほつきしてじひしんも
てきればねんぶつにこゝろへ
ごしやういつさんまいにらく
いんきよはまことに
けつこうな
おいれ【老入れ(老後)】なり

清長画
可笑作

色男其処此処

【表表紙】
色男其所此処《割書:万象亭作|清長画》 合三冊
【検索用国会図書館登録タイトル:色男其処此処】
【旧字体をまじえたタイトル表記:色男其所此處】

【右丁】
【見出し?】【表紙を切り抜き保存したものと思います】

天明七

《割書:新|版》色男(いろおとこ)其所(そこでも)此処(ここでも) 上

【左丁】
こゝにとしとく【歳徳】あきの方【明きの方】によろ
づや与四郞といふものありはかり
めをせゝる うばいもなくしやくせんも
なく女ぼうもなくまだひとりみの
わかいんきよじぶんではあつはれ
いろおとこの心なれど
うぬにほれるほど人か
ほれてはくれねばとり
しめたいろ事もなく
ぶら〳〵ものにてくらしける
とうざい〳〵
此所におき
まして作者万ぞうちよつ
と口上を申
上ます
をの〳〵様方御きげんよくあら
たまのはるを御むかへあそはされ
大悦しごくにぞんじ
上まするしたがいまして此
くさぞうしのしゆこうは
きよ【さよ?】はる芝のけんぶんのい
たされましたるもんもう
づゐの後へんのやうなものゝ
こうへんでもないやうなへんてこなそうしでござりますれば
あやのきれぬ所をばちやにあそばして万【?】が作はむだていゝ
たわいのない所が
日本だとあい
かはらず御ひやうばんねがい上奉りますその
ために口上さやうに思しめされませう

【イ】
みればみるほどおれは
いゝおとこだわへび
なんめうなる
かな〳〵

【右丁】
ころしもやよ
いの花ざかり
あすか山の
さくらかり
さだめて
われに心ある
ひめきみか
又ははこ
入のむ
すめ
なんぞ
さくらのゑだ
へこい歌のたん
ざくをつけてお
いたもしれぬと
とみの出ばんを見る
ごとくこゝかしこのたん
ざくをよんで
みれどきれ
字のないほ
つくやてには
をしらぬこ
しをれきやう歌ばつ
かりたくさんにてけが
にこい歌はなかり
ける


【イ】
お□【し?】さん見
ねへなりは
いきだが
ふけい
きな
おとこ
だの

【ロ】
はい〳〵
やくしやだ
さうだ

【ハ】
小ぞう
べんさい

【ニ】
わうじの杉の木に
うつてあるくぎは
みんなをれ
をのろう
のだと見へ
るがなぜ
恋歌が
ないかしらぬ

【右丁】
ある人おしへていわく
とかくいろ事をかせ
ぐきならば女を
はるにしくは
なしといゝ
ければさう〳〵
あさくさくはん
をんへさんけいし
女おそしとまつところへやし
き女中四五人つれ
にて御だいさんに
まいりたるなかにす
ぐれてうつくしき
女中をむにむざんにひきたをしたまのやうなるよこすつほうを
したゝかにはりのめしけるぞにが〳〵しき

【イ】
わたくしがひたいと
ほうのひくゝなり
まして其かはり
にはなのたかく
なりますやう
におまもりくた
さりましなむお
びんづる様〳〵

【ロ】
おらがせうねに
ならふかなるまいか
ならふと
おしやれ

【ハ】
アヽ
これび
らふな
人じや

【右丁】
かゝるところへともの
ものおくればせにかけつけ
与四郞をとつてひつふせしたゝかに
ふみのめす

【左丁】
与四郞はそんじも
よらぬてうちやくに
あひみふしもかな
わずうちふし
ける出入のゐしや
げんちやうらう
見まひにきたり
やうすをきいて
大きにあきれ
いろ事という
ものはさうきう
にはゆかぬもの 
よりさわりに
そてつまをひき
なさいとはこほう
か【古方家】のおゐしやさま
とて御こうしや
〳〵


【イ】
やしき女中を
はるとつて
とものや
らうにはら
れまし


【ロ】
それはきついご
さいなんでござり
ました地口でもなん
でもないやつさ

【ハ】
ちから
はまけて
も口には
まけま
いかない
やんせん
土足(どそく)
さいゑん
めいは
とうした

【ニ】
しかもに
ぎりこぶしで
あめやはら
れのふるご
とくはられ
ました

【右丁】
げんちやう
らうのことはおもし
ろしとかゝへのと
びのものにしやち
大つななんとを
もたせ人どをりしげきは
とかくあさくさ

【左丁】
なりとて廿
けんのちや
やをかり
きりめにつ
いた女のそでつまを
ひきにでる

【イ】
七尺のふりそてもひかば
などかきれざらん
いたしめの
たもともひ
かばなどか
こけざらん

【ロ】
よどの川せのさやつとこ水
ぐるまたれをまつのかさく
るりやくうるりと
まはつてたのみ
ますひんやア
ほんや
らや

【ハ】
ちややの女ちや
つくしではゝをたつこれちや
よしなちやいといふに
ちや

【ニ】
とびのものも
まけずにぢぐる
あれはしやちな
これはしやちな

【ホ】
此しごとがちう
れんじでやいで
いゝこつちやア
ない

【ヘ】
あれさ此人はなにを
さつしやるこれさよ
さつせいよ

【右丁】
いまゝでは女のほうからほれる
のをまつていたかららちがあ
かずとはつめいし江戸
中のおんなにふみ
づかいをやといふみ
をつけさせる

【イ】
これ御ようどんこゝ【御用聞きの略で御用と言うそうです】
らにいゝむすめは
ないかの

【ロ】
むかふのこぢよく【小職?】と
となりのこもりが
いゝのさ

【ハ】
付みをひかせてし
かふして【而して?】のちこ□【か?】うを
しよつてひかり□
玉ければやけんほ
りにな□□き
おゑんといふ

【ニ】
おとり子
やらうあた
までごかうを
しよつたは本田
よしみつ様ならんと
おもいてのうちをいれる【?】
をさてはおれにほれたと
おもふ

【ホ】
これしんぜ
やせう

【ヘ】
お心ざしの女中がたはほれてしんぜ
さつ
しやい
まし

【ト】
ひかアり〳〵
あゝひかりくた
ひれた

【チ】
たんなさん
いろ事の
こんりう

【右丁】
よしんばけいしや
たりともいろ事と
なるときはとりもち
なふてはかなふまじと
さほの
さきへとりもちをぬり
つけおゑ【ま?】んがふどうさまへ
まいる
ところを
ちよいとさいて
おつとつた

【イ】
とをりかゝりのよたか
とりさしの
もんくをきゝ大
きにあつくなる

【ロイ】
此くされ
鳥さしめ
おやふしてもいゝ
ふりそでを
とらめへて
おかしなとりでの
なんのかのとよく
とく

きやアがつたな
はつつけとり
さしめ

【ハ】
さすがはげい
しやもさるもの
にて両手を
ひろげちう
〳〵もあり
かてへ

【ニ】
おらがなじみを
なぜざんそうひろ
いだ此をり介はな
ばしらにかけてかん
にんならないといふ
お手まはりだ

【右丁】
ゑさしざほのとりもちだけすつはりいろ事に
なり此上はころばせる一だんになりければやね舟【屋根舟】
むかふじま【向島】とでかけ
みめぐり【三囲】のとりゐさきにて
かのげいしやが
さきへたつてゆく
所をねらいすまし
てどふとつきこ
ろばしけるぞむ
ざんなる

【イ】
サア
すつはりとこ
ろばしたぞ

【ロ】
そのころんだところを
ほつてみやれ大かたかねが
出やうそれでさしひきにせうはさ

【ハ】
まわしだまつてゐろ
てめへにも一ふんだぞ

【ニ】
ひさがしらが
あいた
いたさは
鳥居たつ
ばかりだ
是はあふない
〳〵〳〵〳〵〳〵

【ホ】
もしたんな御しうぎ三分の外
ころびちんが一ふんでござります

げいしやをころばせたもそんしの
ほかおもしろくないものさらばきをかへて
ふる川のよび出しにおもむかんとな
すびづけのかうのものをしたゝか
くらいてたんをおこしごほ〳〵と
せきこんてかよふ

【船頭の台詞】
だんなきつい
せきこみだね

アヽのとかいたいどふぞ
たんきり【痰切り】かかんせう【甘草】が
□【と?】いふところだがそれを
のんじやアこれほどせつ
こんだかひがねへ女郎に
□□□ちされよふと思ふ
もなまやさしいくるしみ
ではないわへ
これをおもへばやつはり
やぼでかうほうが
らくだつうになる
もたいていではない
ごほ〳〵ごほ

さてなか丁【仲町、吉原の通りの名前】
おばなやに
おいてしたたる
女郎をかきの
めすその
式【?】すへて
せきかき千
まいがきに
ならゑり

【左丁】
此ゑは
あとで
くし
どりにい
たしてお
たち
あい様
がたのお
てにふ
れま
□□【破れ】

おいまさん
見ねへとんだ
いゝの

おことさんがあわ
せるやつさべつは
ねへ大つゑ【大津絵?】の
やうだものを

【右丁下】
だんなはいんきん
たむしときて
がうてきに【?】
うつしやる【?】
ぜへ

けんふつの子どもの
うちきにいつたおこと
といふ子にかねてよう
いしたる足をつけて
あそぶせきかきのか
みしもにて出づかい
の思入は大でけ〳〵

ついぞ
ねへ
のふ

おばなやのむすめ
おや〳〵けしからねへ
とはおもへどももらつ
たおびのおかげがなる
ゆへしやう事なしに
やんや〳〵

【右丁下】
そのと
きたか
つな【古かつな?】大
おん上
さあ〳〵
くつと
ふん
だり
〳〵

【左丁】
ふ□【る】川のあ
そびもあま
りどつとせ
ねばよしはらへ
くびだけはまつて
かよいけるふろかき
のかごのものなか
まのあいことはに
てだんなもいゝ
ごきりやうだと
いひければおもた
いといわれる事
とはゆめにも
しらず大
きによろ
こひ一ふんづゝ
はづむ

せつこんでか
よつたよりく
びだけはまつ
たほうかあたゝ
かくつていゝ
わへ

なまりの
しりの
与四郎
なんでも
よしはらで
一ばんは
りあてん
とあたま
から女郎に
しんでみ
せる
たいこ
もち藤【?】
兵へめり
やすにてよび
いけるおなじく
五丁さみせんの
手つけみやう
〳〵
メリヤス
旦那様いけ
だんなさまだんな
さまやれだんなさま
うつゝないぞやこれ
のふだんな合【左丁上へ続く】

【左丁上】
あいかさの
おいらん
たゝみても
いられ
ずかうろに
いゝ付
よびい□
さ□ける
かふろもよび
ようにこまり
みゝの
はたへ
口をよ
せ大きこへてむかふの人□〳〵

ほんにいゝ
こゝろいき
だね

布代云や内【?】
ほて□【?】
ほてや【?】
ほてし【?】

【右丁下、破れあり】
こゝはし□ひ
三平【?】がいゝ
わへチヽ〳〵〳〵
ツヽ〳〵〳〵
ごわ【?】〳〵〳〵

ダア引【?】

よしはらのあそびはなはだ
おもしろくこれからしては
女郎をひいてあそぶがお
もしろみのさいじやうと
地ぐるまをこしらへあ
いかたのけいせいそのほ
かまわりしんざう
をのせけいしやをてこ
まへにして五丁まち
中ひいてあそぶ

ゆふべよ□いとが二かいからおちて
なべやちやがまなべやちやがまが
ちんろうりとなればねこの
まねしてふんにやうにや

しんぞう地くるまでひかれながら
たかをの長うたをうたう


〽人のながめと
なるみはほん
にせんく万
くのくの
せかい四き
のもん日は地【ぢと読ませるために地に濁点がついている】
ぐるまや

いまの世はこゝろなき
しんぞうさへかゝる
めいぢぐちをいう
やうになりぬまこ
とにこうせい
おそるべし

女郎を

ぶちころ
すからば【よらば?】
おれがい
のちもな
なけ【七ケ】出して
いるはなせ
〳〵

【右丁下】
おまへさまもてつ
ぼうかいなめつ
ほうかいとき
こへます


【左丁】
よいやさ
〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵
よいやさた引【?】【この部分は落書きかもしれない】

どふやらかうやらほてのにきまりて
かよふほとに此かへはすつはりとぶち
ころす事たと長さ八尺
のてつほうをこしらへ
させとこの下へかくしをき
おやすみなんしたかへ□
よきの中へはいるところを
ひらりとかはしてとつてな
げふせてつのぼうにてぶち
ころさんとする此ものをとに
おどろきわかいものやかて
かけつけやう〳〵になた
めるさて〳〵ひやい
せんばんなること也

〽これはまあおくぜつ【?】でもないからごりやう
けんなさいともいわれぬなんにせいおい
らんへほうべこ【と?】のようじんをなさりやし

かゝるところへていしゆ
ほていや市右衛門
まかりいでまことに
あそびのこんたん
をこと〳〵くをし
へければ与四郎
はじめていろ
ことのしよわけ
をさとりそれ
よりしてほて
のがしんのき
まりとなり
にける
市右様が
せりふ長
けれはこゝ
にりやく


じつの
事でお
すがぬしは
とんだた
のもしい
ところが
おす

とかくくへさぞう
しの【草双紙の】しまいぎ
わ【仕舞際】はいけんかゆめ【はい、喧嘩夢?】
だがきさ
まのいけん
はしんの
ことだ


いまゝでのおあ
そびはあんま□【り?】
ちやすきまし
たがぜんたい
もち兵へ【?】の
おこゝろ
いきが

よふござり
ますからだん〳〵
ごけいこがあがり
ますのさ

【右丁に墨で書き込み】
あま川や□□て
ないろは□も
こまる

【卍の着物の人物、頭を墨で塗られて女の髪形にされ、墨で】

 

【本文】
そのゝち万や与四郎
はほてのをうけいたし
けふぞいくるわのなごり
とて見おくりのけいせい
うんかのごとくほてのさん
あやかりものでお□
うらやましいそよ引

清長画
万象亭作

【墨で何か書き込みがある】

間違月夜鍋

□□月夜鍋 完
【間違月鍋】

天明元年

間違月夜鍋《割書:通笑作|清長画》全二冊

郭清(くわつきよ)はかたい【?】といふ所の人也まづしうして
はゝおやをやしないけり
いつしをうみて三才に也
くわつきよ□いうほ
かのまごをいつくしみ
わがしよくしをわけて
あたへけりあるとき
くわつきよつまにかたるやうは
まづしければはゝの
しよくしさへこゝろに
ふそくとおもひしに
そのうちをわけてまごにたまわれはとぼしかるべし
是ひとへにわがこのありしゆへなりしよせん
なんじとふうふたらは子はふたゝひあるへし
はゝはふたゝひあるへからずとかくこの子を
うづみてちゝをやしないたくおもふなりと
いゝければつまもさすがかなしくおもへとも
おつとのめいにたがわづして三才の子を
ひきつれてうづみにゆきけり
すなわちくわつきよなみだを
こぼしてほりたれば
おふこんのかまをほりいだせり
そのかまをゑて子を
うづまつしてつれかへりけり


くわつ
きよ
おふ
こんの
かまを
ほりいたし
たる事
そう
もん
しけれは
そのかま
ゑいらん
ありしに
ふしぎの
もんじ
すわり【?】
あり

其文 ̄ニ曰
天賜孝子郭
_一巨不得
大集民不得取_二 ̄ニ

このぎはてんとうよりくわつきよに
たまふほとによしんはとる
へからずとなりきみも
かふしんなる事ぎよがん
まし〳〵かづのたからを

くだされかまを
たいせつにいたす
べしとなり

二十

かふ【二十四孝】



まれ

その
壱人
なり
いや
□そうも
ないしたが【?】
おふがまなら
どふで
あろふ


くわつきよてんのめくみにより
おもふまゝにはゝにかふしんを
つくしゆたかにくらしけり
二十四かふのうちにも
おやをとらにくわれじと
身かわりに
いで
とらかとふりものゆへあやうき
なんをのがれおやのかわりに
かにくわれいまではふかうな
ものかにくわれるかんのうち
たけの子をくおふといふむりな
おやがあれどもたけのこがでる
今でゝもいつ□ふんははづ
まね

ならずなまうをがくいたいと
いへはこほりのうへに
はだかてねてこほりを
こわすちゑもなし
のめくりこんたらとう
したものいづれてんとうの
おんめくみおちいてもおはあても
かふしんのみちさへあれはありかたき
ものなりそのなかにもこかねのかまほど
ねうちのよいてんのおんめぐみ
これはづかりはかうぢうのこらす
かうやみけり【?】

しまつたらどう
じきやうを【童子教を】
よみやれ

くわつきよあまたのさかしらを
くだされけれともあへてまた
金をのはすこゝろもなく
まこのじぶんまてはあんらくに
くらしけれともまこ
もとのほうらくと
なりかまはあれども
つぶしにもならす
せんぞがでんしても
かつておかしやれは【?】
よけれども是では
すまぬとおもひ
あきないをはしめ
うり〳〵なが
さきへにもつを
つみてわたり
うつたりかつたり
なんぞほりたし
ものでもしたいと
とかくかまの
くせかやまつ

これより
あきないに
ほりだしものと
いふ事はじめ
けり

くわつきよにはよだいの
まごとし〳〵
おかさきへ
あきないに来りしが
まるやまのゆふくんに
はまりこのころまてはからも
にほんもでいりを
かまわぬじぶん
なれはこくせんや
のやうに
やろふとなり
とうしんの
とうの
じを
とり
なを
とう
兵へと
あら
ため
もはや
からへは
かへらぬ
きに也【て?】
これと
いふも
おやの
なきゆへ
なり
おやかあれば
またかう〳〵を
つくし
かまを
ほりだそふと
いふ
たの
しみも
あり
とかく
まるやまの事が
きにかゝり
につほんの
人となり
けり

ひけも
けんぶく
しま
しやふ

けんぶく
した所はきついものた
□に□て見た
もんの介のやうた

とう兵へとなをかへいよ〳〵
ふかくなじみかぢわら
けんたくらいてあげたいに
こまるまてかよいむけんの
かねより一のとみでも
とりたくおもふ

なかさきまるやまは
からよりあきないに
来るとうじん
こゝにて
にもつを
さばき
とうから
のうち
まるやまへ
くらべこみ
かんりともにへかいすて
もふけをだいなしに
するゆへはあ〳〵と
いふはこの事なり

とう兵へ
まるやまへ
はまり
もとでも
さつはり
なくし
いけんの
してもなけれとひとりてにおとなしくなり
これをおもへはあるうちのいけんは
やくにたゝぬものなりもつとも
なくなると
かりても
かたつても
つかへども
さすが
くわつきよが
たねほど
ありてつかう
ほと
つかつてしまひ
これからはひと
かせきとひとり
しあんにとろ〳〵と
ねむりうたゝねのうち
ゆめを見る

とう兵へは
なかさきの
てつほう丁の
しんみちに
たなをかり
かすかにくらしけるが
ものはいわいからと
なかやのうちで
こゝろやすきものを
よびさけいつきんおごり
ゑてものゝかんふらを
こしらへふるまいけり
みな〳〵きけんよく
はなしなかにもしやうざに
わたり給ふおふやさま
これはなにのおいわいと
たつね
けれは
おこゝろやすいから
おはなしもふします
此あいたよいゆめを
見ましたすこし
わたくしものぞみが
ござれはほんの

こゝろいわいで
ござりますと
かち〳〵と
よつをうつをも
かまわず
とう兵へかくにの
はなしまてきく

【台詞】
ねごとは
おとなも
いゝますかな

なんと
□とは
□とや

どふで
ござり
ます

たばこやは
うれ
ましやう


なんにもかわる事も
ござりませぬが
かみそりが
ござり
ませぬ

とう兵へはよのふくるまで
きんぢよのしうを
はなさせ
とろ〳〵と
ねむりしに
がつたりと
ものおとに
おどろき
おき
あかりて
たい所を
見れば
うらくちの
とをあけ
はなしに
してあり
ひるのやうなる
つきよにて
かまといふ
事は
いくらも
れいの
ある事
なれ

ともなべを
とられし事
がてん
ゆかず

とう兵へが
かまはくわつ
きよより
ゆつられし
こかねのかま
まづし
けれとも
うりも
せず
これをとられ
ては
おふ事と
どろぼうにあつても
よろこひけり

とう兵へとうぞくに
あいし事を
いゑぬしに
はなしわたくしが
しよじのかまは
おやぢよりゆづり
にてこかねのかま
このうへはひとり
ものにて
おいてあるくも
こゝろ
もとなし
さいわい
あきないの
もとでに
金五十両
かり
いへぬしの
かはん【加判?】
にて
五十両は

しやふぶな
かしもの
そのかねを
なんぞ
かいます
までおまへに
おあつけ
まふし
ますと
いへぬしに
あつけ
かまを
かりて
おふやへ
あつけると
今のよに
いたるまて
しらぬ
ものは
なかりけり

【台詞】
五十目よく
おあらため
きれはある
まい

あり
かたふ
ぞんじ
ます
これと
いふ

せん
ぞの
おかげ
しや

とう兵へは
五十両の
もとて
にて
いろ〳〵の
にもつを
ひき
うけ
事に
もとが
くにもの
ゆへ
せんとうの【?】
ほまちもの【?】【本マジ物?】
とうもんの【唐物の?】
へつかうのと【鼈甲のと】
もちこみ
むしやふに
こなし
なからかい
こむゆへ
さんじのまに
あめを
のばす
ごとし
につほんの
ふうは
のみこみ

ふるぞめ
つけと
見ゆる
とんぶりの
ちうもん
さらさのこきれをたのみ
くいあまるほど
さとうはもらい
てりやかても【?】
さふらんでも【サフランでも?】
きんじよへ
せつたいにする
ゆへせけんの
もちいは
よし
うまいものゝ
おやたま
なり

【下段】
あきないとうじんと
いへとも
まつり
のとは
きつい
ちがい

きよ
ねん
たのまつ
した
ふるい物は
わしも
ほし見せ
までせん
ぎしたか
おもしろい
ものは
こさ
らぬ

かいた【かつた?】
ものは
もち
ろん

月夜になべをぬすまれしゆへ
かまへ五十両かりそれより
しやわせなをりしをとくと
かんがへければゆめに見たるを
たかのこゝろでいわいしに
とんびなりそれをよろこび
かまとなべとのまちがいたかと
とんびのまちがいこれよ□【り?】
ゆめちがいといふよきゆめは
よしあしきゆめもいわい
からはんじの事この
とふりなりこよみの
てんしや日にもあくを
なせばあしくくろびにも
ぜんをなせはよし
なすびのかわりに
しろうりのゆめも
いわいからにて
たいきちじ
ならん

なかき
よの
とふの
ねむりの
みな
めさめ








よき
かな

通笑作
清長画

地獄沙汰金次第

地獄沙汰金次第

地獄沙汰金次第  天明二年
         可笑作
         清長画

今ハ地こくも■■
なりて■■も■も
むかしのやうに一年中
か■■になりて
しや■■■■にかま
へてハ■■らす其
うへほこりかついて
いろいろのし■■
をなされ
月にいちと
つゞ■■■
むかしの■■
なり

新例矢口渡

207
1758

       櫻川杜房
新例矢口の渡     全

抑武州 荏原(うはら)【えはら】郡矢口の村に 鎮座(ちんざ)まします新田大明神
の由来をくわしく 尋(たつね)たいと思召すおかたは 神(しん)灵(れい)【靈】矢口渡を
御 覧(らん)に出たがよし此 草(そう)□や只しやれに 洒落(しくれ?)てしやれのめし
上大 堂(どう)の 義興(よしおき)【新田義興】より下は 末社(まつじや)の 篠塚(しのづか)【篠塚八郎】まて通てまろめし通□
大中 黒(くろ)【新田氏の紋】の 三紋(みもん)とはとん兵衛【頓兵衛】みゝとんのはなしの 種(たね)むせうにうそを
筑波(つくば)御 前(せん)万八たゝ□の此本を 湊(みな)といふのもめんどうながらよんで 水(み)
無(な)瀬(せ)の六郎【南瀬六郎】がやつす日本廻国の六部な趣向は 書(かき)もせずお
舟(ふね)作者が 下手(へた)ゆへに作者〳〵と名斗 ̄リ作者是で作者と由
良兵庫のか出来も不出来もまくれ当り是も竹沢つ
もり西エ 【?】義岑(よしみね)へでもよし〳〵とたゞひやうばんを 待(まち)江
田の判官しんそんりこんたけん【震巽離坤兌乾・神尊利根陀見】はらい給へ清給へと
                生麦村道念(なまむぎむらどうねん)敬白

【右頁上】










つて
ゐを


人は

のめぐみ によつ
て女郎にもてる
こと有れば又ふら
れることも有り
水道じり【水道尻】の
水清けれは
其中の月

【左頁上】
やどると
やら月のゑ
とゝころむさし
のゝほとりに
よしだや原右衛門
といへる大あきんど
ありけりかれが
せがれ興二郎は
廿二三のいろ男
どふしたわけ
やら新田大
明神がきつい
しんじんにて
月まいりと
 出かけ
    る
爰に畑道誓【畠山道誓による】と
云いしや竹沢源
兵へといふ者と二人
つれ新田参りの
もどり興二郎に
あひむり□【に?】女郎やへ
引 ̄き どうる【ずる?】

【右頁下】
是はお二人 ̄り
様おはやう
ござります
そんじたら お



申ま
せうもの


是むすこ【?】
今からまいるの

【左頁下】
か【?】でいぶ【大分】おそい
ぜへいつそしん
□酒【?】とくらはせ
ねへか

それが
いゝ〳〵
内へ
かへつ
てわる
かア此矢

やろう
から
もつていきねへ
きつい すいは
へうは【水破兵破】 の矢
たの

【右頁上】
竹沢
がすすめ

とう〳〵
三人
一座

女郎
かい


坂【?】へ
上つた
所茶や
のてい
しゆが
はか
らい ̄に て
興二郎はつくばといふ部やもち道誓は

【左頁上】
定 ̄り の新ぞう也竹沢が女郎は新ぞう
でもなくおはりでもなくねつからつ
まらぬさむそふな女郎夫【それ】に引かへ
つくばがうつくしさもほ目
立ゆへ竹沢はすこしぢれつ
ていなり

【右頁下】
何さ
たんと
あげ
たが
いゝ

【左頁中】
夕べは
よく
よはせ
なんし
たの

【左頁下】
ちと
さし
あげ
ませう

【右頁上】
竹沢は
つくばを
一 ̄ト目みし
よりそつと【ぞっと】
するほど
くらいこみ
此くらいなら
おれひとり
上つてあれ
を見立れば
よかつたと
思つていて
もつまらへ【?】
ずしよ
せん興二郎
が来ても
かふ事も
ならずどふ
ぞ興二郎
が来ねへ
やうにと
色〳〵
しあんを

【左頁上】
めぐらし
そつと
おきて
先へ
かへる

【右頁中】
ようございやすわたしが
のみこんだこんどおめへに
出させやす


コレ半兵へ此矢は興二郎に
やつたのだがふれかけつて【?】
先へうつると
あいつは矢
がねへから内へ
かへること天のもう
せん【天の毛氈?】だアそふすると
当分出にくいはそこ
へおれかかよひあみがさ花
あふぎ【編み笠花扇?】といふの所だ

【左頁下】
ア ̄レ いつ
ごろ
きなん
すへ

【左頁左端】
いつごろもゐらね ̄エ せつく【節句】に
来よう二日三日としまつていやけふはおもしろく
なかつたから大ぜいづれできてさわがせう

【右頁上】
されば
おき二郎【興二郎】
がせつく
のし
まひ【節句仕舞】
その
はな〴〵
しき
こと
あつ
はれ

国の
大将
ぐんとは
三才のこ
ぢよく【小じょく=子供】迄
に□んへ
たり
つきし
たがふ十
人のたいこ

【左頁上】
持の中でも
由良上戸
之介のむたゞ【由良兵庫之介信忠による】
とゐめう【異名】を
とりたる
はいかい
し【俳諧師】又はいなせの六郎【南瀬六郎による】と
いふ文かづかい【文使?】はべつして
きにいりの御家老
しよくなればひる
から女郎屋に
まちうける

【右頁中】
ぬしや ̄ア なせ
おそいねへ上
戸様何ぞ用
でもでき
やしたか

いつそ
ぢれつ
てへ


よくならへたは
だいのもの
つう人だわ

【左頁下】
もし
茶びんと
いふとこで
うつね

【右頁上】
かゝるさわぎの折とそあれに通人と
呼ばり〳〵興二郎がでつち【丁稚】しの
づか八ぼう【篠塚八郎による】一々様子を物かたる
〽ヤア待かねししの塚
八坊お出
のおそい
は何と〳〵
〽されば
そうろう若
だんなは此間の大もて
よりいさみにいさむまつ
しやのめん〳〵我おとらじ
とのりぬけ〳〵高
なは【高輪】さしていそが
するかねてたくみし竹沢
源兵へ江田や半兵へと心を
合せ茶やが二かいの
大ちようぼ【丁場?】一ばくちの
あたりの人々を大ぜいかた
らいかたづをのみ今やかとし
こと侍もとは夢にもいざやや
わた黒【八幡黒】のこまにむちうち若たん
な【若旦那】おかど ̄に は【?】たちせき【咳き?急き?】こんてかの内

【右頁下】
▲ちや屋へ入給ふ
そこ ̄に したかふ人
〳〵【々】はつうた大【?】
しほうぬたんぜふ
 ̄チヨイ 【?】市川を始としてたなし【田無】
に上つ【?】茶やの二かいむ
りにばくちに引すり
とまれさん〳〵大
まけ大しくぢり
てんばをあざ
むく若たん
なき
もの
ぬくま
もあら【か?】
むね
んや
とつ
いあへ
なく
まつ

【右頁中】

はだか【真っ裸】
通人の□
も□く ̄に ぢ
ばらを
きりそこ
はかとなく
逃行は今よいのしまいは思ひも
よらずと大いきついで物かたる

【左頁上】
されば
興二郎
が大ばた
きより
せつくのし
まいあ
てがちがひしゆへ
女郎やの
そうどう
大かたならず
かくる所へ竹沢
源兵へたいこを大
ぜい引つれ来りしよ
せん興二郎らはもうこられぬから
つくばをかわせさへするならすぐ ̄に
せつくのしまいきやく【節句の仕舞客】とならんと茶やをもつて
申【?】来る
上戸の介はかわせうと云いなせの六郎はかわせ
まいと云
あらそいとれ
もやぼでない
故けつく【結句】訳が
付にくいかして

だれも
かまわぬ
そう


【左頁中】
ハテてめへはなせふつう
たくわへは玉子 ̄に
てきすべから
ずだ

たいこと成て
たんとかゆふゟ【?】
ばうと
ひしほ【醬】
に成迄
もかわせる
ことはなら
づけ〳〵

【左頁下】
なつて
ふざけ
よく
通人
のとば
身は

【右頁上】
何ぼ
いなせ
の六郎が
ひとり
團十郎
をいつても
相手が大ぜい
故とう〳〵
竹沢が
しまいと
なりゆら
上戸が手引にて
つくばが
ざしき
をのつ
とら
せし故一
はいきげん
のいな
せの六郎
大きに
あば
□れり【?】

【左頁上】
ゆら上戸で
もむだ上
手でも竹
沢でもやけ
ざかでもく
やしか ̄ア こゝへ出やあがれかたつはし
どんぶりの中へ
さらへこん
でうて
くずを
かけて
あたま
からわ
さびを
すりか
けるぞ
しかし
おれは
つうだ
からあん
まりさは
きたくア

【左頁中】
ねへか
こう
あば
れねへと上
方【?】の
やう ̄に
なら
ぬの

【右頁中】
そいつ
引つり
出せ〳〵【?】

まづ
にげ

ほう
がよし




かん
ざましも
こぼし

【左頁中】
をつた

【右頁上】
竹沢はとう〳〵
つくばを
かいおふ

たれ共
古風に
ふつてふり付る故めつた
やたらにむだ金をつかい
ゆら上戸其外
かみたちを引
つれ□□【「江の」カ】
しま
行と
でかける

【右頁中】
こゝは
やき

ち坂と云
からふつうな
物ばかり
ゐ【?】るだらう


【右頁下】
いつそくたび
れんしたちつと
出て見や
せうか

【左頁下】
御はんじやう
様から一せん
下さりまし

又いなせの六郎も江のしまへさんけいの道
やきもち坂にて竹沢を見付なんでも一ぱい
きやうけん【狂言?】をかいてやらんと心に思ふ

【右頁下】
それより六郎は竹沢由良か後をしたいいつて
見た所が生麦村の大百せう【百姓】
ゆらがおぢとやらの内がとまり
なれば同じやう ̄に とまられも
せず思ひ付きて六十六ぶ【六十六部=行脚僧】のす
がたとなり一夜のやど
を御むしんとこじ付る


行くらし
たるしゆ
きやう【修行】じや


やどを
かして
くんなさい

【左頁上】
何だ
六ぶか大かた八ぶされて
六ぶになつた
のだらうしかし
日本【?】だけつう
だの

【右頁上】
いなせの六郎つくばをたておろし ̄に する

おもてにひかへしねこと【寝言】
の長蔵様子は
聞たといふ□を
ゆら上戸の□
エイと小判の
しゆり
けんを



【右頁中】
おめへあれ程興
二郎さんのせわに
成たことを
わすれ
て今

竹沢としつ
ほりごとは
ついぞねエ
とか云所
た何ぼ女郎
でもチツ
ト斗り
ぎり【義理】と
しつた
がいゝ

【右頁下】
そん なら身
がわり を身方
でこじ 付るのか


【右頁中】
六郎
様はたと□【?】
なさんなこりやア

【左頁中】
ゆら様といゝ合せの□□だはな
竹沢まつれほりてきた様 ̄つ だが
内はみんなかつちがみ上りて来た
のだか□竹沢をたいこにしてやるのサ
そうとはしらず竹沢が一はい
だんなづらをして
ゐるせいサ
かへ
つて
見ると竹沢
は大うちで
ありいす

【左頁下】
こいつはありがてへ
しかしとつたほうが
いゝことだの

【右頁下】
是へきて爰【ここに】興二郎が弟
峯二郎は兄のいろ〳〵
つくすのうらやましく
恩へともへや住【部屋住み】のことなれ
ばくめん【工面】といふ所も出来
ず前【?】かたつかつためし
たき【飯炊き】の久助といふ者大もり
へん【大森辺=飯と大盛も掛けているカ】にらくぼう
ず【楽坊主】 ̄に なり
ゐるよ

是にたよつて
そうだんせんと大もり
さして【大森指して】ぞいそぎゆく
さて〳〵女のない道行は
て【?】れたもんだば ̄ア様【婆様】でも
つれにほしい

【左頁上】
おき二郎【興二郎】がめしたき久助
今は道念と名をかへ【替え】い
なりの
みや【稲荷の宮】を
あつかり【預り】て
少 ̄し のいほ
り【庵】を結び
ゐる所へ
峯二郎
来りて
むだ金
の才
覚を
頼と
しよせん【所詮】店を
うつても二百か□
百か物はなしいなりの道具
をしち【質】 ̄に やらんとふつたくり【ぶったくり】の 
万八といふ見たをしや【見倒屋=江戸の古物商】を
よびよせそうだんする

【左頁下】
ぬしや
なぜや
ぼなこと
をいふ世
はすへに
なつたそ

【左頁中】

めへが
そふいつ
ても
いなり
様の物たから
もつていねへ【勿体ない】どふも
関【かかわる?】ことはできやしねへ

【右頁中】
おれがうるからたれもてんの
打 ̄チ てはねへぞはりこんて【張り込んで】
かつたり【買ったり】〳〵すいぶんね【値】をよく
かわぬとまもつてやらぬで

こんせへす
こゝんこん

【左頁上】
ふつたくりの
万八【ぶったくりの万八】さへいなり様
の道具たといつ
てかはねばまして
わちき一□んの百姓
どもはかいはせましこゝ
は一ばんこじつけんと
きつねのめんをかぶり
□□太夫がこはいろで
のこらすうり
はらふ

【左頁中】
二一天作五【五に見えないが】
二しんか一し
みしんか一月
一六かため
おろし

しんきやう
ありつたけおはらい
しよふる□と
所にたいてな
まう
が□も
道□

【右頁上】
道念がくめん【工面】
ゆへ峯二郎
きんくといふ
□なり女【女郎?】
やへ来り
つくはに
あいいろ〳〵
様子を
はなす
竹沢は
大き
につく
ばが
たわに
やつ
つけ
□□
とやら
や ̄に かは
はら
ゑのしまへ
きれ
□る□し□かへ

【左頁上】
たでくふ
むしも
すき〴〵と
やらで
若 ̄い者
のどん
平は
竹沢
ひい
き故
此こと
を立聞
竹沢方
へしら
せる

【右頁中】
峯かあいかた うてな


ちや□
いれ
□かね


【右頁下】
に□□かへ
もふこ□
思やせん
わな


さわき竹沢を
ち□□見付た ̄り
大かたなるたつう
つかめへて
てんせう
見せて
やりなさ□


そんなら竹沢が
せるてきあの太二
を打やせうんな
    から
□んな
出て
□□て
も切て

【左頁下】
やりなせへし
わつちが太
二を打やす


こゝは一はん
しりわり四郎【尻割り四郎】
と出かけ
やう

【左頁上】
どん平か
しらせ
に竹沢大
きに【大いに】
きもを
つぶし
しよせん
おもて
通りは かなふ
まじと女郎や
のうしろをのり
出す折からあゝ
らせうしや風が
かわりてふ通に夕
立ふりかゝれは此
ていてはふねも
あふなし此ふき
ふり ̄に通りを通ても
見付はせまいとかいつ
てまたあとへ
こぎ
もどす

【左頁中】
よひ【宵】
立は
いゝが
夕立はき
がねエ

くわ
ばら〳〵



やう
な時はしや
れも

ねエ


こいつ
はをへ
ねへ何
でも
こき
もど
す【漕ぎ戻す】の
て【手】

【右頁中】
どん〴〵〴〵〴〵
たいこは
りう〳〵【細工は流々の洒落】
しあげ
を見やれ


【左頁上】
いふ

ふね

のり
もと
して【乗り戻して】
女郎
やの
まへを
通る所
を竹沢
とみるより娘のおふね
くそくのはこ【具足の箱?】を
とん〳〵〳〵しんぞう
どうろへ【どうつと?】
せいいで【急い出で?】
竹沢を
とらへ
大きなめに
あわせは
とりも二つに
引さきとてか

【左頁下】
あやしくて
しはらく
せいな
らん

え【?】

【左頁中】
いつそ
すかねエ
といふ
□□□だ

□ちかく
めらすつ
こんやにちかく
なつて□つ
しんそう□ ̄る そく
おふねはむねきだ

新田大明神の御神德【?】は
中〳〵此くらゐの本にかき
つくされることにあらず
たゝ十分一をしるし
たかのやもなし
しかし
此神の
めぐみや
門のき□□
様□□
のふ母【?】にむすこ様方新田参り
のもどり足ちよんの間遊びの
此よりわんば新田大通【?】神ともあふぎ始へかし

【右下】
櫻 杜芳戯作

【左下】
清長画

通増安宅関

通増安宅関

通増安宅関(とおりますあたかのせき)上

かやうに御者はかゞの国
とがしの何がしにて候さても
頼朝(よりとも)義経(よしつね)御なかふわに
ならせ給ふにより判官(ほうぐわん)どの主従(しう〳〵)
つくり山ぶしとなりて
おくへ御下りのよし
頼朝
きこしめし
およばれ国〻に
新せきをたて山ふしを
かくゑらび申せとの御事にて候此所
をばそれがしうけ給はり山ぶしを
とゞめ申候いかにたれか
ある今日も山ぶしの
御通あらばこなたへ申候へ

たびのころもすゞかけの〳〵つゆけき
そでやしぼるらん

かいぞん師の
おうせのごとく
とがしめを
だきこむさんだんが
よかろふ

さては御下
こう
を存
て立
たるせき
とぞんじ候
これ
はゆゝしき
御大じ
【右頁下】
ちゑも
ひやう
たくれ

いらぬ
ぶんのめして
とをるのを

【右頁上の続き】
にて候これには
とんだちゑの
いりそうな
事すん州
なんとぬのはらは
どうだ

いかにべんけいたゞ今たび人の
申て とをるをきけば
あたかの
みなとに
しんせきを
たてゝ
山ぶし
をかたく
ゑらぶと
こそ申
つれ
【右頁下の続き】
しばら候おう
せのごとく此
せき一ツうち
やぶるはやすき
ことにて候へ共
それではあとがわるい
□□がつらのいる
ところで
ありそうな
ものだ

とがしがくみ下
つかみしめ之丞これへんしう
きさまとわれらがやうに
うちとけて御だんじ申うへは
ふくぞうなくおさしづいたす
まづわれらめう日せき
しよでつつかゝりかとん
だむつかしくいふは所で
きそうがくわんちん
てうだとなづけ
なんでもかいた物を
ひろちやくしてよい
かげんにこちつける
くわんちんてうだか
あん
じん町だかめを ぬつた
さぎどうぜんのものどもだから
それでざつとおもてむきは
すむのさしかし判官どの
をひよつとみしつたはのが
あつたときはめんどうだから
ともの
ごう
りきに
【右頁続き】
みをやつしなどが
おもしろかろふよ

いやはやとかくつかみ
せんせいのおひき
まわしでなければ
われらしう〴〵
大のなんぎ
これは
けいてうのいたり□れど
りよちうの
ことゆへすんし
ばかり
おかげで
こゝろがすみ
だ川ひとたる金うり
吉次がうりのこりの品一つゝみ
ぶしつけながらせうの
ものをせうと
ところが
いゝね

へんしう
めは大の
ごうけつ
ものたぞ

べんけいくわんじん
てうとなづけ
どうちうの
小づ かい帳を
こうまんに

よみ上る
それつら〳〵
おもん


れば
だい

【左頁上】
戸がしの
左へもんしめ
之丞が
ぎんみ
をきゝ
いる人〳〵
のしんてい
をさつし
しよじ
のみこみ
でせき
しよ
をとをす
くわんじん帳の
もんくは
あいの山
といふ
ものだ
はへ
【左頁中】
つかみ山ぶし
一〻ぎんみ
するくわんじん
てうがあるうへは
うたがいはれ
ました

とをし
てやりませう

つかみ



いめ
はきれ
しやた

【右頁続き】
□□きんう
しゆのあきの月は
ねはんのくもにかくれ
しやうし□□やのなが
きよのながき
ゆめをおとろかす
人もなし

あの山ぶしは大
きなおとこだ
あとのこうり
きは人がらのよ
い色をとこ

よしつねしう〴〵
はしめ之丞
とべんけいが
うなづき
あいにて
なんの へんてつも
なくあたか
のせきを
こへよろこび
のあまりに
みな〳〵酒
もりをはじ
めべんけい
御きげんになり
まひを
まふ

なるは
たきのみづ
ひはてるとも
たへずとう
たり〳〵たへすにようの
がまことのこけよそつ
ちもしよさいはなけれ

【右頁続き】
どもこつちのぽつぽに一もつが
あるそうで
ちよ〳〵らいふ
だけやぼらしい
とく〳〵たてやたつか
ゆみのこゝろ
ゆるすな人〳〵


おいを
おつとりかたにうち
かけとらのおをふみ
どくじやのくちを
のがれたるこゝろ
してむつのくにへ
ぞくだり
ける

弁とうは
きつい
ものだ

しづか御ぜんはよしつねの
御あとをしたひあたか
のせきしよへきかゝり
大きにてこずり給ひ
けるがこれも
しめ之丞へ
せう〳〵
にぎ〳〵
のりくつ
をもちい
やす〳〵と
せきをこへおうしうへと
いそき給ひける
やれ〳〵うれしや〳〵
アヽとものものが
みへそうなものじやが

通増(とおります)安宅(あたか)のせき
         《割書:下|》

それより
よしつね
しう〴〵ゆめ
のさめたる
こゝちして
たがいにおもて
おみあわせした
をだしてわらい
ながらおうしうへ
くだりひでひらが

かたへ
あん
ない

給ふ

山ぶしが
大ぜいづれてき
たは大江山と
かどちがいではないかあゝ人
くさいかぜがふくとおになく
ばいひそうなところだ
山ぶしがたくさん
でゝは あとが
つけにくい

わたくしがのみ
こんだうへはすこしも
きづかいなく山みち
から東かいどう
かまくらぢうはせがれ
ともが一はいにつき
あいますからどふ
でもしやうがあり
そうなものさと
かくながいものには
まかれろだから
げぢ〳〵などをも
あやなしておくが
ちゑささいわい
きん日かぢわら
ふしがまつしまけん
ぶつにみへるによつて
よくのみこませて
あな
たと
さか
ろのときの
なかなをり
をさせて
しまい
あとで

【右頁続き】
しづかさま




どうりじやうじで
おやぢめをぐつと
うはにしてだき
こむはどうごさり
ます
 とかくぬしたち
御ふしの
おさしづしだいさ

きこうわしはそうしやうと
いふみでたいこをたゝかずは
なるまい
むすこたち
がみんいろ
おとこ
だは

よしつね公もなでつけを
うつとうしがり
給ひていき
めかせ給ふ

せん年
さかろ
のあら
そい
いたした
じぶん
はとんだ
むだを
申て
おきに
さわつ
た事
もござ
ろうが
このぎ
はい□
にもお
ながし
なさ


じこん
【右頁下】
まづなか
なをりが
すんで
うれ
しい

これから
まつしまの
へつそうで
わつさり
とたべ
ませう

【右頁上続き】
はまえ〳〵
のとを
りお
たのみ
申す
これは
おたがい

の事さ
いまさら
おもへばふつうの
いたり此のうへは
りきみなしに
へんけいさん
のちからでも
みぢんもうご
かぬいし山のあき
の月ほど
まんまるな
おつきあいに
いたしませう
かいぞんけぢ〳〵めも
つきあいてみれば
なか〳〵
わるい
人でも
ない
【左頁中】
とんだ
しやれる
やつさ
【左頁下】
げぢさんは
いつそ
つよいじ□□
ごだの

はなの
みやこは
うたでやはらぐ
しきしまばらに


こくうん
弁慶
白うん
かいぞん

べん子
かみは
すごい


二人
のほう
さま
たちは
らいし
十町を
よく
のみ
こんだ

かぢわら
ふしは秀ひら
かもてなしにて
みちのくのめい
しよのこりなく
一けんしもはや
日か□もかさなりければ
人〳〵にいとまをこいかまくらへ
かへるときにへんしう
かまくらの御ぜんむきは
われらよいよふに申なれ
どよしつね公のみうちに
おゐてきこうは座がしらかぶ
のことだからそれなり けりに
もしにくいによつて
御しうきは千年きこう
はころもかはへじゆすいあつて
こじんになられしと万八を
いふてせうこのために七つどうぐ

われ
らぢ
さんいたす
さんたん

【右頁下】
おみやげ
のしな〳〵はみちのくの
しのぶずり なんぶの
かたくり
まつまへのおつ
とせい金くは
ざんのきんこ
これはあとから
ふなまわして
つかはしませう

何から何まで
のこる所はない
とんだつうだぞ

【右頁上の続き】
しかし
ころも川
さいつち
はかりなかれ
けりと申
こ度もあれは
さいづちは
のこしおき
のこりの
とうくを
もつ

ゆき
なには
よろしう
はからいませう

さるほとによしつね          清長画
しう〴〵ひでひらおやこか
とりもちにてかぢはらと
わほくもすみ
かまくらの御ぜんむきは
かぢはらがちよゝらを
もつてさつぱりと
おさまりければ
人〳〵あんとのおもひを
なしゑぞが
しまへ出みせを
いだしすへはんじやうに
さかへたまひける
こそ
まことに〳〵
  めて度
   そんじ上
    参らせ候
  かしこ

【右ページに墨で書き込みあり】

狆の嫁入

《割書:大通|時代》狆の嫁入《割書:市場通笑著|完》

天明元年印本
《割書:大通|時代》狆の嫁入


そんぞそこの
しんみちに
こうしつくり
にてなにせう
ばいともしれ
ずきれいな
すまいだんな
どのはついにみ
た事もなけれ
どもかみさまは
うつくしくいきな
なりにて
ちんをかい
かゝりきつてせはを
しければその
きんしよのせはしよ【近所の世話しよ】
かわかしめいぬゆへ
よきところによめの
くちありとて
そうだんにきたりけり
よく〳〵なせわやき
ずきなり

まづ
ゑんの
ものじや
から
めぐろ
さまて
みせませふ

わたしが
げいも
よく
しつけ
やした

やくそくの日にめくろ
さまのにわにてみせ
むこのほうもれつきと
したるてうにんの□【ち?】ん
なかふどくちとは
いひながらかほが
よくしやくんでいるの
みゝのたれがよいのと
とりなしければ

□【其?】あらましそうだん
きわまりければ
せわやきはもちろん
ちんもしつぽを
ふつてよろこぶ



【右ページ人の足下】
いつそ
かはいら
しい


【右ページ旗のようなもの右から】
□□□□
奉納 【奉納の間に】松 松通
芝壹丁目

【左ページ坊主の上】
あの
しろ


ざります

【左ページ女性の上】
おやしきの
ちん
しろを
みる

【左ページ黒い狆を抱く人の足下】
ひとりさへたい
ぎじや
いぬをつれて
□□□じ
□□□

【左ページ柱】
願主 シ戸【江戸?】  門



いよ〳〵やるはづにそふだん
きわめしに
ついぞにわへおり
たこともないめいぬひつさら
われたかぬすまれたかと
さかせども
しれぬはづ
もと五両貳分
にてかわれしいぬ
こんどのこんれい
にもたい
ていなもの入ではなし
そこてさき
をかけおちして
おやのところへかへり
さきのせわにならぬ
つもり
しろいぬは
ものをしつた
ものと
よくいふたものなり

【右ページ下】
とつとつま
あかりなどが
よろしう
ござります

いまの
わかい
しゆは
わしらがこのみは
きに入ませぬ

【右ページ右の包み】
大□上吾
□□□

【右ページ左の包み】
本八丈三丈物

【左ページ上】
かみゆふにむすめの
うちはひちりめんの
きれにてゆひ
これをくびたま
むすびといふ
いつのころ
よりか
人までが
いふよふに
なり
けり

【左ページ下】
むら
さきの
いたしめ
とやらは
たかい
もの【以下破れている】


むこのちんも大きなあきんどにつとめて
い□【た?】れどもおやのあとをとらねば
ならずそふだんがすむとしんるいへ
はなしふたおやながらよろこび
きち日をゑらびしるしを
おくらんとりつはに
こしらへきど
までかつぎ
出すとなり町の
ぢいぬどもいつれも
かい犬といふでも
なしそこのうらやこゝの
まへにいそふろうにて
くまさかの【熊坂長範のことでは】
てしたの
ものさへ
こまらせる
やつゆい
のふをみると
ほへ【吠へ】
出し

さいりやう
はじめ

みな〳〵
しりをゝ【尻尾を】
さげても
とをさず
みなひたいは
つがもなくぬき
あげたるてやい
やつこさまなぞの
ひたいのぬきあけ
たるをとうけん
びたいとは
このこと
なり


【右ページ下】
これからかへるといふも
こんれいにはさしやい
わんとした
ものしや

【右ページと左ページにかけて】
わん〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵
わん わん〳〵〳〵〳〵

わあん〳〵

わん〳〵〳〵
〳〵〳〵
〳〵
〳〵〳〵
〳〵〳〵
〳〵〳〵

ゆひのふのさしつかへに
こまりこのうへの事を
あんじぢいぬの
わかいものかしらを
たのみもくろくのなんのと
いやみなしにかほみせか
そでとめのやうに
せいろうをつみかけ
ければわたりひきの
わけさへのみこめば
いざこざなし一ひきも
ぐうといふものもなし
きついものなり
きやんといふ
ことばも
わんはくもの【腕白者?】と
いふ事もこれが
はじめなり
いぬもあるけば
ほうにあたると
いへどもぶたれた
うへでおとこ
になり
ほんの
しらつこ【白っ子?】
ゆへもちい
らるゝなり

【左ページ台詞】
たいへいらく
しやあねいが
わしがのみこんしやあ
きづかいのきんのじも
ござりやせぬ

よろ
しくおた
のみ申ます

【右ページ下台詞】
まさに
おゝべい

【右ページ箱】
新和泉町【現・日本橋人形町三丁目あたり】
虎屋高?
進上 □□
佐?□□
とらや【とらやは日本橋の和菓子屋か?】

よめごのに
もつ
はなぶちの
もんつきの【花菱紋の「はなびし」と犬の「鼻ブチ」の洒落?】
ゆたん【油単】にて
七千五か
二百つゝの
しうぎに
しても
とほうも
ないこと
なり

あすの
ばんには
そゝりに
いこふ

【右ページ下】
みちを
わすれぬ
やうにみち〳〵
せうべんをして
ゆく

【樽】


【左ページ】
せけんのふるまひとはこんだても大ちがい
めしなともあたまからしるかけめしさけのほうより
くわしがだいせんにてりやうりのしかたも
むつかしくとかくなまさかなはけなみが
わるくなるゆへにたものをおもに
しゆこうするなり

【左ページ下】
うすぢやのくちとりも
まんぢうでも
あるまい

なんぞござりま
せふ

いつそ
けふは日が
みぢかい

【左ページ箱】
南京
吸物椀十人前
拾人前

さい
じやう
きち日を
ゑらひ
てんきも
よく
はなよめの
こし入なり

みやわせ
ませふ

このけんぶつは
つかもないもの
みだかいことだ

おびたゝしい

おむかいしや
さきの【しっぽに続く】

しつほ【尻尾】







おな
かふどの【お仲人の】
おかごが
はやい

おま□【い?】様は
は□【な?】付やが
さぎむすめといふ
こと【?】じや
【鼻突きはばったり出会う事なのでお見合いではないという意味か。それに犬の鼻が突き出していることもかかっているかもしれない。花嫁衣装で綿帽子をかぶっているから鷺娘。犬なのに鷺だねと言ってる】

あかいなことはしらず
とふぼへをほへませ□【う?】
わん〳〵〳〵〳〵

あの

おさか
つきを
はじめ
さつしやい

よふに合た
御ふうふ
じや

こう〳〵にして
□【下?】され

しゆび
よく
こん
れい
とゝのい
かないの
もの
ゆきの
ふりし
ことくに
よろこび
もち
ろん
よめの
はつあい
げいはなんでも
ぬけめなく
めしときにぜん
まわりもせず
しらぬきやくが
あつてもほゆる

ことなし
しうとが
わんといへと
いふとわんといふ
すなをもの
これかゝ
てら
まいり
にも
つれて
いきませふ

いぬの
ねこなで
ごへも
おかしき

【右ページ下】
おさとのおつかい
のついでに
しもむらへ
よせませう
ぎん出は
まつもくを
とり
ませふ

【左ページ下】
て□【な?】くわつ【お手のような芸をさせる時の言葉?】
〳〵

そのやうになじみ
なさつては
さぞお
かはゆに
ござり

せふ

あんじるより
うむがやすい
としかも
たまのよふ
なるおとこ
ばかり
四ひき
たんじやう
むめわう
まつわう
さくらまる
にしら
太夫【に、しら太夫】
ぐるみ
にうみ


し【産み落とし】
人けん
なれば
ひとりで
さへかま
けきれ
ども
さと人の
とをり
いぬのこの
そだつよふに
なんのくもなく
よろこぶ

【右ページ下台詞】
たんなの
小ひき出しに
ぞうしかや【雑司が谷】の
おせんまい【お饌米?】が
あつた

しつほをこうしてもおなき
なさらぬみんな
いちもつだ

あつ


させ
まい

むやう

いぢつ

ふとらせるが
よい

【左ページ台詞】
ときに
とんと
おかぶりは
ない
わん〳〵

あづきは
ずい
ぶん
おあげ
なされ

さとでも
きつう
よろこび
ます

おひとりは
おあとゝり
あら【と?】は
ほう〴〵
からやく
そくがござり
ます

くさめもせず四ひき
いつしよにみやまいりみち
にておびゑるのなんのと
いふこともなくむしけ【虫気】も
なしにじやうぶなり人げん
のこのおびゑるを
いんのこ〳〵といふことは
いぬのこ〳〵といふりやく
こ【略語】なりけりなにゝ
つけてもそくさい【息災】ほど
めでたきものはなしと
いちがさかへ
けり

おんは【お乳母】どん
しい【り?】は
どふたの

【柱】
通笑作

美南見十二候

美南見十二候    清長画

鬼子宝

天明元

鬼乃子宝 鳥居清長画 三冊

むかし源のらい
くわうたんばの国
大江山のきじんたいぢ
じ【し】給ひめでたくかい
ぢんまし〳〵けるこの
おりからしゆ天どうし
がせがれ三才にてあり けるを
きんときみつけすでにうち
ころさんとせしかともどふ
したひやうしかいのちをたす
かり千丈がたけ【千丈ヶ嶽】をのがれいで
なを山ふかくみをしのびおく
山にてせいてう【成長】したれども此
後はおゝやけよりのはつと【法度】き
びしく人をとることはさて
おきむしけらのいのちを
とることもかのわざればぜひも
なく〳〵木のみをとりこれを
しよくとしすひやくねんの
月日をおくりみづから
そのなを鬼市と
なのり
ける

【書き込み?】
かし此あなは
しんてかいたほゝたよ【?】

扨も鬼市はす百年の
あいだおく山にすみけれども
きん年?つよく
御せいとう
たゝしくまこと
にいつくか鬼の
すみかなるらん

いふ歌の【草も木もわが大君の国なればいづくか鬼の棲なるべき 太平記 巻第十六「日本朝敵の事」】
あり
さまにて山〳〵
たに
〳〵
まで



じん
とゝ

いたらざる
所なくその上
きん年みせ
物師といふもの
ありて何かなめづらし
きものをみ出さん
とみ山ゆふこくのころなく
たつねもとむるゆへさすかの
鬼市も大江山のすまひも
なりがたくなりければいまは
人ざとへいでゝいかなる身にも
なるつもりなれともおそろしき
おにのすがたてはつまらぬゆへまづ
つのをもぎさかやきをそりほんだに
かみをゆいければなか〳〵よいをとこ
ふりになりけるしかし
本田にかみをゆふを
どふしてしつたやら
ときをりくも
に ても
のり あるい



ぼへし
もの


【鬼市の台詞】
これは
とんだいきな
ふうになつた
わへこれからむさし
のくに江戸へ出て
たんばや鬼市とこじ
つけよう

しよせん山おくにこけ
おしみをしても
おにてはくへぬ
これから
江戸で
人になり
ませう

それより
鬼市は
江戸へ
きたり
まづ
なた
かい【名高い】
上の【上野】
あさくさ【浅草】
なか
つ【中州?】両
こる【く?(両国?)】
のに
ぎわひよし□□【絵の一部?】わらさかい町【堺町】のくわれい【華麗 or 佳麗】
そのほか町〳〵のはんじやういづれをみても
めをおとろかすありさまなればつのめ立
たる鬼のきとりはさかりき【?】なくなりなん
てもしんぼうして人にならふと一ねんほつき
しければしごくにかわなる【?】よいうまれ
つきにてまつとうぶんかん田【神田】へんのうら
たな【裏店】にゐ候にて日をおくりける

なんじや大江山のふもとからきた
かりうどのむすめおやのいんぐわが
むくひのかたははておらが
くにものそうな
きのどくな

よのことわざに人に 人おにはないと
いふたとへのごとく鬼市
は大江山の千丈がだけ【千丈ヶ嶽】から
きのふけふ江戸へ出たところが
さうおうに【相応に】せわに
する人ができて
あさくさへんへ町の
かゝへに【雇われ人として?】すみければおやぢ
のかぶのどうじかうし【童子格子、着物の模様】の
はんてんもゝひきで
かなぼうをひきすり
町内をまわりけるが
くわんらいおとこは
大きしちからはつよし
どうもいへぬかゝへのものと
大屋さまたちのきにいり
き市〳〵とめされけるこそおこ
がましあるときてう内【町内】のゐさかや【居酒屋】へ
わるもの四五人酒のみにきたり
けんくわをしだしあばれけるを
鬼市はことゝもせず五人の
あばれものをれいのかなぼう
にてうち
ふせけるこれ
おににかなぼう
のつよみならん

かさねての
ためじや
大きな
めに
あわせるか
よふござる

みるものじやない
とをらしやい〳〵

かくて鬼市は酒屋のみ
せにてあばれたるわる
ものを五人までやす〳〵

とり
しづ
めしかば 町内はいふに
およばす きんへんの町々
にても ゐ候をきゝおよび
ともだちつき合にも人にたてられおや
ぶんかぶになりそこのけんくわこゝの出入ひき
にも鬼市がかゝつてすまぬといふはなく
もしきゝ入ずたいへいらくをならべる
ものがあれば
おれがいふ事
をきかぬからは
百年めだと
鬼市がはだを
ぬぐ

みな〳〵
おそれて
たちまち
しづまり
ける
これ鬼
ぶ【?】はり
こみの
こじ【故事】なり

【鬼市の台詞】
わいらおれが
いふ事を
きかぬか

【仲間の台詞】
おやぶんが
おみこん
だらなんでもいゝ□さ

【仲間の台詞】
かしら一つ
うつてお□【き?】
やしやう
しやん〳〵〳〵【三本締

鬼市はたん〳〵せ
けんひろくたてられ
ければ所々の
女郎又は下女むすめ
うば手代なとの
にげかくれしてゆくへ
しれざるも鬼市
をたのむとさつそく
ありかゞしれそのうへ
それ〳〵にわけをつけ
てすましけるゆへいよ
〳〵人に用ひ
られける
今こども
あそびのかくれんぼにかくれたものをたづね
たすやくをおにとなづけたるは此いわ
れならんか
きやん【侠】きたりてこれおやぶん
もしなんでもあの女を三日でも
女ぼうにもたねへけりややろうが
たちやせぬじやがひても【邪が非でも】もらつて
下さいおやぶん
アゝいゝさけふおれがしんち【おそらく深川の新地、岡場所のひとつ】からすそ
つぎ【裾継、深川にあった岡場所】へわたればぐつとすむのさ
きをもむな〳〵

鬼神におうとうなし【横道なし】
のたとへのごとく鬼市
はしごくたゞしきもの
にて所々
のでいりにたのまれ
それ〳〵にわけもつけ
人のためにもなりける
ゆへほう〴〵よりれいもつ【礼物】も
あれどすこしもうけずひんにくらしける
ゆへ女ぼうは人のいるいなどちんしごとし【賃仕事】し
けるがこれも鬼市が心には男
たるものが女ぼうに人しごとさせては
ぐわいぶん【外聞】がわるい
としかるゆへ
女ぼうもぜひなく
やめてみたれ
どもひまに
くらすも
むだことゝ鬼市
が留守の時は
し事をはじ
めるこれなん
鬼のるすの
せんたくなるべし
うちでかへらぬうち
はやくのりをつけ
てしまひ
たい

鬼市は所々のけん
くわこうろん又はで入【出入り】
ひきにたのまれよる
ひるわかち
なくあるきける
つかれにや
ある日大きに
ほつねつして
わづらふ

いしの
みたての
ごとく
鬼の
くわく
らん
とは
此たぐい
なら



【医者の台詞】
いかさま
これはつね【常】
がじやうふ【が丈夫】
ゆへちとき
じやうがすぎ
てしよじや【諸邪?】
を受られ
たとみへ
ます

【鬼市または妻の台詞】
わたくしらがうちでは
つね〳〵ずんどしやうぶ【ずんど丈夫】で
ござりますがけさからとんだ
つよいねつ
でござり
ます

鬼市はほど
なくほんふくしけるがちと
ほようの
ためととも
だちさそわ
れよしわらへ
けんぶつに
大ぜいに
すゝめ
られかしへ
上りしん
ぞうかい【新造買い】
としやれ

おやぶんは
いつでも
しんぞう
すきだぞ
いかさま
鬼も十七とやらで
しんのほうが
わり□□く【?】ださ
しかし
□るは
でたぞ【?】

ぬしやいつそしん〳〵と
いひなんすすかねへ

めにみへぬ鬼がみ
をもやはらげるはわか【和歌?】のとくと
いへどもわか百ばいもやはらげる
はゆうり【?】のこんたん日ごろは
いしへ【?】鬼市ともいつ川べき【?】男なれ
どもふとしんぞうになじみ身うけ
のやくそくをする

【新造の台詞】
なんぼ
おまへそう
いひなんしても
おかみさんが
あるもの
どふして
わたしを
そうなるものか
いゝかげんにたまし

なんしあんまりたまし
なんすとおにが
じゃにか
なりんす
にへ

【鬼市の台詞】
これはとんだきう
くつなことをいふもんだ
のくぎ
づけにし
た女ぼう
じやある
まいし
てめへさへ
じつなら
なんどき
でも
山の
かみは
はちぶ
する
のさ

鬼市は
かりそめの
あそびに
みがいり
しんぞうに
きせうを【起請を】
かゝせる
おにのき
せうのもんごん
さのごとし

起請文の事
わが身こと
そなた様へふうふの
かたらひいたし候し
うへは二世かけて
かはり申ましく候
もしけいやくたかい
参らせ候ばゑんま
大王ごどうの
めうくわん
こづめず【牛頭馬頭】あほう
らせつ【阿傍羅刹】みるめ【見る目】かぐ
はな【嗅ぐ鼻】とうの【等の】
御ばつをうけ
みらいゑい〳〵【未来永々】
むけんぢごくの【無間地獄の】
やつことなり
申べく候
よつて
きせうもん
くだんの
ごとし【よって起請文件の如し】

【新造の台詞】
おや〳〵
けし
からぬ
きせうの
もんくだ


【鬼市の台詞】
てめへじつならおれが
このみのとをり
きせうをかけた

それより鬼市はしんぞうに
起請をかゝせなんでも
女ぼうになんだいをいひかけ
りべつせんとおもひ
つきしがさすが鬼じんに
おうどうなし
にてとがもない
女ほうを
でゝゆけとも
いわれまいと
いら〳〵と
くふうを
く【こ?】らし
ものおもひ
すがた
にてかへる

おのれは何がふそくで此
やうなこわいめしをおれにくわせる
そしてとうなすにまくろの【とうなす(南瓜)にマグロの】
にもの【煮物】これがくわれるものか
もふかんにんならぬでゝ
うせおろう
こなたはきがちがつたの
めしのこはいもとうなす【芋、とうなす】
もつね〳〵こなたのこのみ
のこんだでそれに
ひきかへけさの
はらたちかてんが
ゆかぬたつて
よくはおやぶん
をよんでひき
わたしや
これ鬼の
女ほうの
きじんのていなり【「おにの女房に鬼神」】
これさ〳〵かみさんおまへのが
もつともじやいかにおかみじや【おとこだ?】
とてあんまりなむりの
いひやうわしがしり
もちだ

鬼市がいへぬし【家主】ふうふけんくわのとりあつかいにはいり
りやうほうとりしずめわかをいふ
これ鬼市□こなたは人にす【?】
たてられるみぶんではないか
めしのこはいくらい
なことで
女房がさら
れるものか
さりとはひ
ごろにに合
ぬせんさく
ことにらいねん
はてうない【町内】の
みちぶしん
これもき様
うけ合ふて
じやないか
たがいに中
よくして【?】
らいねんは
金もふけだ
なんとかが【?】
やのかみ【?】
さまかつ【?】
すうばいうきらぬか【?】

さやうとも〳〵
ほんにわたし
らが内でも
らいねんは
おやぶん
のおかけでしごと
もたんとあらふと
たのしんでおります
鬼市はにがりきつ
てふりくつ【不理屈?】をいふ
さいちうへらいねんの
みちぶしんのことを
いへぬしにいひたされはらを
かゝへてわらひけるゆへなん
のへんてつもなくふうふ
けんくわの
中なをり
もすみける
これらいねんのことを
いへは鬼の
わらふと
いふは
このとき
のこと
なり

【右ページ、物売りの台詞】
鬼打ちまめや?〳〵

【左ページ、物売りの台詞】
まめがら
ひいら

〳〵

【本文、七行ほどかすれて読めず】
いへぬし【家主】がいひたし
たるゆへわらひになり
はり合ぬけ少してさつ
そくなかもなをり女郎
のこともこれぎりにし
てまへのごとくふうふ
なかよくくらしほど
なくこのとしも
くれにおよびせつ
ぶんになりけるが
ぐわんらい鬼市
鬼のちすじ
なれ
【「ば」が入りそう】
せつぶん
のおに【?】は
ゐと□□ずに
まよひ
大□□に
□□□
こ□□へ
とうして
くるしき
もの
あらふ

よに入けれは鬼市
もせひなく【是非もなく】
せけんなみに【世間並みに】
まめをまく
鬼はうち
〳〵
〳〵
福も
うち
〳〵
〳〵

鬼市が
まめを
はやす
こへを
きゝつけ
せじやうにて【世上にて?】
うち出され
たる鬼
ども

大ぜい鬼市が
かど口へ【?】
きたり
すでにうちへ
はいらんと
せしところ
をやく
はらひが
みつけ
かい
つかんで
にしのうみへ
さらり〳〵と
なげ
いだし
ける

鬼市は
しやうことなしに
せつふんのとうき【?】
もゝうおさめ一はい
ひつかけすでにやすまんと
する所に
さいぜん
やくはらい
かみおとしたるくろ
おに一ぴきひきまど
より
しのび入
鬼市ふうふを
ひつつかみ
まこく【?】へつれ
ゆかんとしたれ
どもぐわんらい
鬼市はおにの
ことなれば□□□
と□のかいといふまゝに
くろ鬼がふん
どしの三つゆひを
かいつかみ
ひざふひつしき【?】
□□てこでに【?】
□ましめる【いましめる?】

くろおには
鬼市にむかい
おまへさまとも
ぞんじませず
ふてうほうの【不調法の】
だん〳〵あやまり
入ましたと
おそれ入てなき
けるこれ
おにのめにも
なみだの
はしよ【端初(たんしょ)?】
なり

それより鬼市はくろおにがいましめをゆるしとうぶん
へやどにおきおり〳〵ゐけんしけるはとかく鬼では
よがわたられぬからしんぼうして人になれ
人になれとし□〴〵きやうくんしけれは
くろおに□□にふうしあやまつて
あ□□むるにはばかりなく大□か【おおみそか?】
のあけ
かたにつのを
おとしげんふく【元服】してこん日【元日?】からは
人のまじはりもできめでたき
はるをむかへけるはまことにきみが【?】
よ【?】のめぐみならんあなかしこ

はきつたあとを
とですり【砥で擦り】
やしやう

清長画

通人為真似

通人為真似

【「通人為真似:全」と内容はまったく同じでこちらのほうが摺りの状態がいいです。いちおう、全コマを翻刻完了にしておきますが、必要な場合は翻刻してください。別刷りのURLは編集履歴で見られるようにしておきます。】

安永七□
【整理番号の下】マ

通人為真似(まのふりをして)

【鉛筆で】
安永七戌年

【墨で】
おわりや
友二郎
【友の右に何か書きかけて消したあと】



【左ページ、墨で】
尾張屋
友次郎

止而道致虚録

【タイトルの上、三行割書きですが並べて書きます】
はやり歌
あんけら
こんけら



止而道致虚録(ヤンシテドウシタキヨロク) 《割書:鳥居清長画|    全》


【上】
建久の頃相州
江の嶋へんに
きたい【希代?】のしゆけんじや
あり人はあんけら
ほうとこうし【あんけら坊と号し】又
一人ははんけら坊
とてかち【加持】
きとふに【祈祷に】
□してあり
けれはしよ人
こうほうてん
きやうのさいらい【弘法大師空海、伝教大師最澄の再来】
なりとてそのころ
かまくらの御所をはしめ
大小めうのいへ〳〵町〳〵まて
もしよにんこれ
をうやまふを
おうかたならす
【あんけら坊台詞】
なんとこんけらほう とそ【屠蘇】も
けんひし【剣菱】てはかくへつ【格別】のめるの
ときに きう□うおしまい
いかに〳〵


【下】
されば おたかい
に きん年は たん
ほうも
ふへ
御き
とうも
よくあたる
から まつ
さらおら
のくれさ
しかし年
礼のふへ
たには
うんさり

【画面左下】
ことしは
たいかい
な所は
くつと
なかし〳〵

【一丁裏】
此比鎌倉の
はんしやうおひたゝしき
なかにも鎌倉のまん
中日本橋のにきわひ
あしたより夕戸にいたりさかな
市の人くんしゆますに大一味
金□□くいひなかは
せしをく 大商人のきを
ならへし なかにも徳わうや
万左衛門とて大金
もちの
人あり
七条 和田畠之の
三□□へ出入御□て
向の御用をうけなり
此外御洲□には
かち原大江□〃本
とらへしも 立入御用金
とゝこほりなくさし
出しけれは □家より
御ふち【扶持】御ちふく まへ〳〵と
てうたいし御殿つきの
小そて上下て
ひけらかし
ける ものへしかつ
へらしくそ
みへけるしかる
に一子 万作
今年廿【二十】才

【二丁表】
にて御出入やしき
の殿様へすみ
じんひん【人品】こつがら【骨柄】
いひふんなくむすこ
一ひきとみへけるが
いかなることにや せう
とく【生来】女きらいにて
女の□かり者とくす
小袖さへ女のしたてたは
むさいとてきらひ 百
人しゆ【百人一首】をよむにも
小町清少納言いづみ
式戸【部】□うの歌はよまず
よつほどとんちき 成ル
うまれつきなり
これ〳〵のうさくい□
とかくきろうをおたのみ
申から せがれへおとかめ
なされてそらほかづ
ゑんだん御とりもち
たのみそへする
これはもう さくまの御
むらめでなければ中〳〵
あのこか かてんいたす
まい はてきにさへ
入ましたらかるいもの〳〵
むすめてゝもすこし
もくるしからぬとさ
【画面右下 老女の台詞】
此きは
この
もう
さくか
いあん
のほかの
ちを
めくらし
さいか
しかう
ろへんを
もつてり
かいをとり
ばかたやにおい
て石山金太夫
にもせよ御
とく
しんあらん
こと
かゞそ
にかけてみる
かことし

これさ〳〵
もうさく□
【左頁下】
めつたな
ことをおふせ
られますな 此
ぎはか
りは
おうけ
はいた

ませ
ぬそ
ひつ
きやう【畢竟:つまり】
つまを
めとるは 子そん そう
ぞくのためなれば
おそかぬこと すて
に 大せい人たらしの
御くらくしやり□
こ□は六すやう
よにしてかんし
をめとるはかし
をらむとござ
ればせつしやなぞ
はまた四十条も
はやうごさる

【二丁裏】
【画面下 娘台詞】
もうさんが久しいもんだ
人をばはうさせて
ばからしい
いけすかねへ
【羽織坊主の台詞】
これ〳〵
わかだんな此
うつくなものを御らうじろ
今で此おいそといふては おそらく かま
くら中にかたをならべるげいしやは
ない そのくせ おやぢがけたや【下駄屋】た
からこれまで一どもころんた【売笑すること】こと
なし ところをわれらが
女はうのおくの
てゞたつた
今ころは
せるが御□は
なるずる〳〵
かうさくつきらうには
おふ人けなされぬひろう
のおふるまいしこん おたし
なみなされい

【三丁表】
はてさてせがれか女ぎらい
にはこまりはてる どうぞ
くめんして けいせいなりと
一どかはせてみたいぞ
□【とかく?】くながいきをすれば
いろ〳〵のくろうをします
どうしたら せがれが女ずき
になりませうやら
われらふるなのへんをもつてときかけ
たれどもいかな〳〵
大人じん【人参】の
かはりにほし【干し】
大こんほども
きゝませぬ
てだいまかりいで
もうさく【申さく】さま【旦那様】かさし【匙】を
おなげなされたうへは
御てん□がたでもとゞき
ますまい 此上は江のしまへん
のあんけら
さまにこん
けら様
の御きとふ
をおたのみ
なされ
ます
ばかりき






【三丁裏】
徳わうや万左衛門がりんかに住吉や松兵衛とて
是も□□家のおかねしおくり
を かぎやう【稼業】にて 徳わうのやにおとらぬ
町人なり 一子 きしまつ【岸松】たう年廿才
にて此比かくれなき びなんのうへに
大のいき男にて女を
うれしからせることにめう【妙】
をゑてあたり
きんじよのごけ
むすめはもちろん
大いそけはい坂の
けいせいにいたるまで
此きし松にうちこまぬ
女もなく
源氏なり平なとも此
岸松にはせいもうづうゐの
手合とみへし□□
物にてまことにしんのいろ
男とは岸松がことなりけるゆへ
いつとなくまんしんきざし
めつたにうぬぼれより身もち
ほうらつになりゆき よるひるなしの
大いそかよひに金銀を
ついやしそのうへその
ごけのはゝが
ふられあそこの
むすめがかけこんたのとまい日〳〵のつけとゞけ
にかない中がかつてそれらにあいさつするあと
からはかけ込 又ははらんだしりがきてのちは【左頁上に続く】

【四丁表】
かぎやう【稼業】はわきにしてちうや【昼夜】このとりさはぎ
にひまのない仕合なれはせけんも
ますりやうしんもあきれはてしに
しんるいをまねき けんとうせんと
ひやうぎをする
これは御もつともしごくわかいとは
いひながらきのどくせんばん
しかし
うら山
しい
たつしやなことだ
おとこのこ
のう生まれ付
のよいは大
きなきず
としよつた
このはゝおや
になげき
をかけます
にくいながらも
みなさまとうふぞ
よい御りやうけんは
ござります
まいか
【画面左父親の台詞】
およそはらませしを
五十人かけこみ八十人
こゝん【古今】にまれなる
ふらちものてござる
【画面右下 茶運びの坊主台詞】
いかにもあふせのとをり
一寸のびれはひろ【尋:一尋は約1.8mで一寸の六十倍】のびる
でござる ましてとうじ
ほうりきあらたかな
こんけらぼうの
いのり
これが上
ふんべつきまり〳〵
御母上の
あふせ御是
しごく〳〵
もとより
きし松どの
はつめいのうまれ
つきなれば
なか〳〵いけん
などてまいるまい
しかし せつしや
めが一ユ夫は
ゑのしまへん
のめい
そう
あん
けらぼうか
こんけらぼうか
の内を
おたのみ
なされ
ほう
りきをもつて【左頁下に続く】
いのりあらば
御きやうせき【行跡】も
なをりそうなものと
そん
ずる此義は
いかゞ
おぼしめす

【四丁裏】
とく若やの
一子万作は
とかく女をきらい
めつたむしやうにへんくつ
なるをりようしんはぢめ
所のものまできのどくに
おもひいしや
もうさくが
いけんの
のうちは
名主とし
よりまでが
かゝりいろ〳〵
すゝむれどもいかな〳〵きゝいれず【左頁上に続く】
【五丁表:左頁】
みな〳〵もてあましけるゆへ
りやうしんもあまりのことに
りつふくし是もかんどうせん
とありけるが よふ〳〵しんるいの
あつかりになりてとかく仏
神のかこ【加護】をたのむにしくは
なしとさつそく あんけら こん
けらのかたへつかいのものをたて
あんけらぼうとしやうじける
さてもとくわうや
住よしやのりやうけ
よりあんけらこんけらの
りやうほうをしようじて
きとうたのまんとむかい
として 弥作は茂作八【もさ八】
といへる手代一同に
しゆつたつする【右頁下に続く】
【右頁下】
もさが久しい
ものよ まづ
大じの
つかいを
すまして
ばんにゆるりと
あじのうしほに【鯵の潮煮】で
いけだの山〃【遊郭の女郎】とつか
まつり
よく日
かへりに
ゆきの下で
けころ【蹴転ばし 下級の街娼】といふ所は
おそろし
かろふ【左頁下へ続く】
住吉やのもさ八
なんと 申さると 江のしまへ
いつたらまつもの
をもいわず
あわびの丸
かぢりに
けんびしと
おめにかけて
ぐつとさく
ようじや
ないか

【五丁裏】
画【画面中段】
まづとうざの
おはつを【御初穂】と
して
金子
十両
おうけ下され
ませう【画面上段へ】

さるほとに
両けのつかい
江のしまへんに
つきりやうそう【両僧】に
たいめんして
つかい
のおもむき
をのへる
こんけらぼう
めうてう【明朝】さつ
そく両人とも
しゆつたついたす
でこさろう
こんやはゆる
りと御
きうそく〳〵
あんけらほう是は〳〵御てい
ねいなおはつを【御初穂】たしかにじゆ
のうふいたした 御たいぎ〳〵 御□のおもむき大ののみ込【以降は綴じ目で判読不能】
【画面左下】
せつしや
しゆ人
住吉やよりも
なんりやう
百へん
御じゆのふ
下されませう
【左頁 中表紙印刷なし】

【六丁裏】【右頁上段】
これは名□□御□い□か
子万作をぞ御法力を以て
せがれが女ぐるひの止みます
ように頼上ます 御き
とうがきゝましたらば
御礼は小判で千両
いかに
も御
たのみの
おもむき
せうちいたした
しかし
ながら
むづかしい
いのりで
ござれば
あんけら
ほうとも
申し合て
いの
るで
ござ
らう
【中段】
ひとへにあなた様
しだいてせがれが
みのうへうき
しづみ
いくへ
にも御法力を
ねがひ上ます
【下段】
これはちれたものぼう様が
なんぼいのつても
てう山とげいしやの
おかねがてゝばかりは
わすれられまい
【七丁表上段】
おたのみのおもむきさることなから
すきをきらいにするよりことの外
むつかしふこざる 一七日だん食
ていのらねはなりませぬ
そのかはりにしんのすき
にいたすじや
それは御くろうな
ことおかげて倅か
女ずきになりましたら
御礼は□両上ませう

【下段】
おれが主さまと
ちと入
合せると
よい
ものか
二人てきるに
まゝならぬみの中じや
わしはあのほうさまのきとふで
門三介にほれられたい
もんだのう
わしやぁ
門三介ても
門介でも
かまわぬ
たゝくちぢかいかよい

【七丁裏 画面右下】
さるほどにあんけらこんけらの両
そうは御きとうりやう□の両つゝに
直ことしてさつそく立かへり極を
かざり日夜おこたりなく
一七日か間いのりしけれども
何のしるしもなかり
しかは いのり
くたひれ 両僧
ともにまどろ
みける
【あんけら坊台詞】
ぜんざい〳〵
われはこれいわやの
弁天方の居候 止而(やんして)
通致(ふくみした) 御□とはわか事なり
汝らまへ大金のきとう料にめが
くれてとんだ事をかけ込弁天を
いのるをさりともむたなりとかく 道理
をわき【脇】 主に天の一年わかれて 陰陽となり
陰陽の気化して日月星辰山河草木珠玉金衣
人間鳥獣魚□虫の類陰陽の気化なりある
か中にも人は天地の正気を具へたるものゆへ万【横棒が欠損?】物の
霊長なりとて高勝【高尚?】といふではないが其中
【八丁表】
に黒大極上々吉無類底切天にひとしき順正の気
を留たる人□を聖人といふこれよりしだいして□より大に
いたり□上々吉日上々吉或は上々くだりては めはな【目鼻】は同
しくしてそらにのこる下辺事ちうさん【昼三】とにたるよりも
□し無で気化するに順送りあり□正ありへん□
にへん気をはのたけをかたわといひ心にこれを□
たるをとんちきべらぼうどろほうしわんぼう
みなかたわものなりしかれ共
かたわもとりえあり
めくらへびに
おちず
ばこんけ者を
こはがらす
しわんほう□所をとずぶなん
女房にはまらずこれを天の人ころさずといふ
こうき□つたものしやからいのりとはとんだ
やぼの□りなりけるをよく〳〵いひきかせ
てくれふと弁天のたのみなれど今この
きとうがきかずはなんぢらがくぶがすたるであらふに
よつておれがないしやうでくめんをしてこぢまな
りやくをあらわしえさすべし〴ゆめがさめ
たならばこの一くわんをみよ
さらば〳〵

【八丁裏】
あんけらこんけらゆめさめ
たれはむちうに御つげありし
一どくの一くわんだん上に
ありければこはありがた
やとひらきみるにまき
ものゝうちに□魂の名
一酉の辛□の日西の法とくに
生れた□藤が一辛年来
もちつたへたる□□のかず
七〃四十九一高利をとらぬ
□□のめやに七かし一魚くわぬ
出家のはなくそ一悪女形
のぬれことの時のかづらのけ七之助
右四か所悪女きにして水みるをく
くみ切ひにて月べし□壱三度
夜三度あんけらが衣をこんけら□□
こんけらか衣をあんけら□しその度
〳〵□ふきかへおこたりなくl一七日うま
しむふ文をとなへ用ゆるならば全く
しるしあるべしことかふべからず
其呪文に曰
【以下呪文の読み仮名のみ記載】
おで でこ て

児訓影絵喩

【表紙】
児訓影絵喩 完

【空白】

【左丁】
善悪邪正(ぜんあくじやしやう)はかたちとかげ絵(え)のごとし 人面(にんめん)のかげゑに獣身(じうしん)なるものあり
菩薩(ぼさつ)のかけゑに夜叉(やしや)なるものあり人に
してそのかげゑ犬(いぬ)あり蛇(じや)ありせきぞろ
のかげゑたちまち万歳(まんさい)とへんずるを
もつてくはうゐんのはやくすくるを
さとるべしくづのはのかげゑすみ
やかにきつねと化(け)するをもつて
美女(びじよ)の人をまどはす
をおもふべし
天道(てんとう)の
あきらかなるともしびをもつて
てらしうつすときんば人げんばんじの
異形(いぎやう)をあらはすべし豈(あに)おそれ
つゝしまざらんや

 寛政十戊午年春日
   京伝子戯述

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
のみくいにむた
ぜにをつかふ人の
かげゑ
おほみそか
のくるしみ
めのまへ
にうつる


【影絵の解説】
一ねんのはかりことは元日にありとは
むべなるかな 乁あすありとおもふこゝろの
あださくらよるはあらしのふかぬものかは
といふうたのごとくばんじあすありと
おもふてその日〳〵のかきやうにおこ
たりぜにかねをむへきのことにつかふ
ときはおふみそかのくるしみもくぜん
にきたりみをせむるなりされば
ぐはんじつよりわがこゝろのかけゑに
おほみそかのくるしみをうつして
かぎやうにおこたりあてなきしやつ
きんをおはぬやうにこゝろがくべし
そのばにいたりてくゆるともゑき
なし


【中段】
たつのとし二六
にうめんが
さめる
はやく
やらつ
せへ


乁さんや
とうらい


【下段】
たからぶね
うりがいふ
乁さけを
すごしたら
だいふんなが
きよのとを
のねむりが
きざしてきた

乁いつそけふは
あきないを
やすんで
こつちで
はつゆめを
見て
くりやう


【左丁】
【上段】
乁いつそ
けふは
やすんで
梅見にでも
でかけよふ
かづのこに
たゝき
ごほう
では
のめぬ
〳〵

【中段】
さるがいふ
乁こちちは
かちぐりと
でよふ

【下段】
乁ごうさい
いつかう

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
りんき
ふかき
女の
かげゑ
わかむねの火
わかみを
こがす

【影絵の解説】
【上段】
おんなのだいいちに
つゝしむべきはりんき
しつとのこゝろなり
ゆへに古人(こしん)もりん
きふかき女はさる
べしといましめ
たもふしかれとも
女のりんきふかきは
おほくはおつとの
みもちあしきが
ゆへなりまづ
おつとのみもちをたい
いちにつゝしむべし
おつとのみもちあ
しく女りんきふか
きときはふうふの
【左丁に続く】
なかをわじゆ
くせずついには
いへをやふるこれ
みなわがこゝろの
かけえに
むねの
ひもへわかみを
こかすどおりを
わきまへさる
ゆへなり
よく〳〵こゝろの
かげゑを見て
つゝしみ
たまへ



おとこいふ
乁それをみられては
いちごんもなしの
わんぎりしや



【右丁の中段】
おまへのはな
がみふくろから
でたこのふみは
どこから
きたのだへ


【右丁の下段】
いけあつ
かましい
だんなさま
おんもとへ
とかい
てある
ぞへ

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
こひのやみにまよふ
人のかけゑぼんのふ
のいぬわがみを
ほゆる

【影絵の解説】
【上段】
人たるものおそれつゝしむべきは
色欲(しきよく)なりいにしへよりちある
人も此みちにふみまよひてくにを
かたむけいへをほろぼしたるひとあけ
てかぞへがたしおろかなる人はこと
さらいふべからず此みちのやみ
にまよふ人のかけゑはぼん
のふのいぬわがみをほへ
こでふちんのともし火
もこゝろのやみを
てらすことなし
わかきなんによ
のつゝしむ
べきだい
いち
なり

【下段】
乁うつくしい
おわかしゆさん
じやどふも
むねがどき
〳〵して
とまらぬ

女いふ
乁お七さんも
あのめづかい
【左丁へ】
ではもふ
ゆたんが
ならぬ


乁はてさて
うつくしの
ものじや
やうきひに小まち
そとおりひめを
へに【紅】とおしろいで
ぬたにしたような
むすめじや

上もの〳〵

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
よめをにくむしう
とめのかげゑ
こゝろのおにわがみを
せむる


【影絵の解説】
まいにちたんき【談義?】せつほうをてう
もんしつねにねんぶつおこたら
ずおもてむきはよきごしやうねかひ【後生願い?】
と見ゆれともこゝろのうちは
かう〳〵なよめをいびりよくかせぐ
むこをにくむおばゝせけんにいくらもあり
たんきをきゝねんぶつをとなへるは
悪(あく)をしりぞけ善(ぜん)にすゝまんか
ためなり心にあくをなして
まうすねんふつははな
うたをうたふもどう
ぜんなりいかんぞ
ほとけのこゝろに
かなわんやみせかけ
【左丁へ】
ばかりのごしやう
ねがひこゝろのかげゑ
をうつして見ればみぎの
ごとしよめをいびりむこ
にくむべからすぢごくにおつる
をこはくおもはばわがいけんに
つきたまへ


乁いつれもようさんけいをさ
しやつたこんにちのだんぎは
ゆいしんのみだごしんの
しやうど【浄土?】ゝもふす
せつほうて
ござる
ごくらくも
ぢごくも
みなおの〳〵がたの
むねのうちに
ござるぞ


【右丁中段】
なむあみだ
〳〵〳〵

乁いつれもかはらの
せしゆに
おつき
なされ

乁おばゝたちはだんきは
きゝへかしてよめむこの
さんそう【讒奏?】する


【左丁中段】
わしらかよめしよは
あさね【朝寝?】ばかりしてなん
のやくにたゝぬおひき
づりてこまり
ます


わしらむこはよめと
なかゞよくてとしより
きらいでごさる
アヽなんまみだ

【右丁囲みの中の影絵】
美人(びしん)のかげゑ
たちまち
がいこつに
うつる

【影絵の解説】
男女(なんによ)のいんらくはくさきかばねをいだくとは
東坡(とうば)せんせいのいましめなりやうきひ
小まちもひとかはむけはしたははな
くさきかばねぞかしうつくしき女の
ためにまよはされてふかうふちう
をなしいへをやふりみをほろぼす
なとみなひとかはうへのまよいにて
それもはんぶんはべにおしろひに
まよはさるゝなりいかほどうつくしき
女もむしやう【無常?】のかぜにさそはれて
たちまちかげゑのへんするを
見れはみなあさましき
はつこつ【白骨?】なり

【中段】
このたのしみはみにもいへにも
かへられぬあすはのとなれ山
ざくらてんつく〳〵〳〵


乁はなとびてふおどろ
けとも人しらず
われもまよふや
さま〴〵に


【左丁】
【右上囲み内の影絵】
よるのつるのかけゑ
こむ
そうの
すがたに
うつる

【影絵の解説】
おやの子を思ふほどはなはたしき
はなし子をもつておやのおんをしると
いふはよきたとへなりされば人の子と
しておやのをんをしらされば鳥にも
おとるへしやけのゝきゞす
よるのつるの子をおもふ
こと人にまされり
よるのつるの子をおもふ
かげゑは九たんめの
こむそうのすかた
にうつる人として
子にじひなきも
また鳥におとる
べし

【中段】
乁とつさん
つるのこもちをかつてくんな

乁われももふあにじやから
ちとおとなしくせい

【下段】
かゝのとりが
ところへ
いつて
ちゝを
もらおふ

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
おんしる人
かけこん
ではてを
あはせ
おがんで
いる所
うつる

【影絵の解説】
むかしもろこしにかめを
たすけておんをかへされ
すゝめをやしなふて
おんをむくわれたる
人あり人のをんを
うけてそのおん
をわするゝは
鳥けだもの
にもおとる
べしいぬも
やしなわるゝ
人をみては
おをふりねこも
そのぬしのあと
をしたふてにやふ〳〵と
【左丁へ】
なくおんをわすれ
ぬ人のかげへはてを
あはせておかむべし

しけの井では
ないか
乁よさくさんかあい
たかつたわいナア
乁左門とのゝおんを
かならす
わするゝな

乁こゝろへ
ました
うれ
しう
こざんす

乁サア
こひ
チン
チン〳〵〳〵〳〵

【右丁下段】
乁あんやにまよふ
ねぐらのすゞめ
もちざをに
かゝらぬうち
はやくこのばを
とんで
おゆきやれ

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
みだりに
人をほむる人
かけゑは
かならず
したをいだして
わらふ

【影絵の解説】
ほめられてよるこぶ人は
人のじやうといゝながらめの
まへてほめる人かならずかげ
ではわらふものなりほめらるゝ
ともかならずをこる【驕る?】べからず
わかげいにほこる人はめいじん
になりかたし此かげゑを
見て人のはくじやうを
しるべし

【中段】
乁てんかのさい
ぶつと申は
わかたんな
の事で
こさる

【下段】
わかだんなのおきよう【お器用?】にはおそれいり
ましたゑ【絵】は一てう【英一蝶ヵ】もふでをなげて
にげ しよ【書】はかうたく【細井広沢ヵ】もすみを
ちらしてしりぞきます
いやはやみやう〳〵



【左丁】
【上段】
乁これさふたりの
のしうかこ代【二人の衆、駕籠代ヵ】
は一両づゝじや
あすもきて
ほめて
くりやれ


【下段】
しかし一てふや
かうたくと
どうじつに
ろんぜられては
ちとあやまる

【右丁】
【右上囲み内の影絵】

見へぼうな
人のかげゑ
むけん【無間】のかねを
つく所
うつる


【影絵の解説】
乁おまへのすそへ
とろ【泥?】がかゝつた
そへ

乁わたしが
すそへかへ

【左丁】
【上段】
たいじ【大事?】ない〳〵正月
ものは うへしたふつかさ
ねて おれがこしらへて
やるぞ ちつとそんな
むだな事でもせねば
くらのなかで かねが
うなつて
やかましくて
ならない

【下段】
おもてをかざりみやう
もん【名聞?】をこのむ人ないしやう【内証?】には
はなはだくるしき事おふく
その人のかげえはかならず
むけんのかねをつくべし これ
みなわがふんげんをしらず
ひとにほこらんとおもふかゆへなり
かやふなこと 道をまなぶ
人にはなき事なり みなしやう人(じん)【小人】
のおろかなる心よりうまるゝ
しはさ【仕業?】ぞかし

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
かねもちの
かげゑ
がきの
すがた
うつる

【影絵の解説】
【上段】
金をたくさんもちたる人の
しはざをみるに じひぜん
ごんの心なく ふぎ
ふじんをなして利(り)を
のみむさぼり
きんぎんの
ために一しやう
をつかわれ
死してののちは
そのかねをもち
ゆく事あたはず
金をもつてかへつて
心のくるしき事 がき
だう【餓鬼道?】のくるしみのことし
これをうざいのがきと
なつく

【中段】
乁あなたの御しんだい
で五文や八もん ふう
ぜんのちりがみ
でごさります
わたくしらが
やうなまつ
しきも
のをおた
すけ△
【下段】
△なさるが
まことの
しひ【慈悲】て
こざる

【中段左】
もふ八文かはつしやい そふ
なけれは うられぬ ころん
てもたゞおきてはましやく【間尺?】に
あはぬ


【左丁】
【右上囲み内の影絵】
せいひんを
まもる人の
かげゑには
大こくが
うつる

【影絵の解説】
ふうきはてんめいに
して いかんともしがたき
ものなり たとへそのみ まづ
しくとも そのたる事を
しつてむさほることなく
まがれることなく心をきよくもてば ひん
ほうな人のかげゑも
かならずふくじん
うつるべし

乁ふぎにしてとめるは
うかべるくもにのりたるが
ごとくあやういかな〳〵

【下段】
くはずひんらくとは
われらがこと
これほど
たのしひ事は
ないぞ

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
人についしやうを
いふ人かげゑは
かならず
そしる所
うつる

【影絵の解説】
巧言令色(かうげんれいしよく)は古人の
いましむるところ 人の
まへで ついしようけい
はくのおほき人 かなら
ずかけでは そしるもの
なり ついしようおほき
人にかならず ゆだん
すべからず 事を
やふる事おほし

乁すみだ川をひと
たる かもをいちは
もらつておきました
ひとつあがれ

【中段】
かやうもふせば とふやら【どうやら】ついしやうのよふて
ござれど あなたのやうなおむねの
ひろい ばんじにゆきわたつた
おかたは おふくないもの
でござる
モシおさか
づきは
ごむように
なされませ

【左丁】
【右上囲み内の影絵】
定九郎の
かげゑ

なつのむしの
ひにいるとこ
ろ うつる

【影絵の解説】
ぬすみを
なしひとの
きんせんを
うばふは ひつ
きやう そのみ
かきやう【家業?】をつと
めすして ふう
きなる人と
おなじやう
に くはんらく【歓楽?】
をなさ
んとおもふ
ゆへなり
しかれども
天そのあく
をにくんで たち
まちその人を
がゐしたまふこと
さだまりあること也 みを
うしなふては くはんらくも なにの
ゑき【益】かあらん さればあくをなす△
【中段】
△人のかけゑは なつのむしとんでひにいり われとわが
みをこがすところうつる おろかなるしわざならずや

【下段】
かねがかたきの
よの中じや かね
がなければ
ころしや
せぬ

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
大功(たいこう)を
たつる
人の
かげゑ
かんにん
ふくろ
うつる

【影絵の解説】
人たるものは
一 生(しやう)を無事(ぶじ)に
くらすは かんにんが
せんいちなり かんにん
五両まけて三両と
ことわざにはもふせ
とも かんにんは千
金(きん)にも かへかたき たから
なり はらのたつをこら
ゆるばかりを かんにんとは
もふさず ばんじの事
たへしのび こらゆる
は みなかんにん
なり 大 星(ほし)ゆらの
介が しゆじんのたい
やに たこざかなを
くらひ そがのすけなりが
かちはらがために あざけらるゝ
【左丁へ】
をこらゆるも みな忠孝(ちうこう)の
ためのかんにんなり すこし
のことをはらたちいかる人は
なみ〳〵の人にて 千(せん)にんにひいて
人にうやまはるゝ人にはなりがたし
されはもろこしの韓信(かんしん)がごとき
大 功(こう)をたつる人のかげゑは
かならず まつ かんにんふくろの
かたちうつるなり


きをひが曰
乁よはひやつだ さあ
おれがまたの御門を
くゞりをれ

乁さて〳〵かん
にんづよい
人じや

【右丁下段】
きのつをい
やつだ

【左丁下段】
くゞる人曰
乁かやうの小人(せうじん)にむかつ
て はらたつは むやうの
こと まづ かんにん
をして またを
くゞり
ましやう
御門


【右丁】
【右上囲み内の影絵】
家業(かぎやう)を
せいいだす
人の
かげゑ

こま【独楽】いと【糸】を
わたるところ
うつる

【影絵の解説】
金のたくさんある人も
その身 くわぎやう【家業】におこたる
ときは とをからずして しん
だいをつぶすなり びんほう
なる人もかぎやうにおこたら
されば ついにはふうきのみとなる
こときはまりたるだうりなり
さるほとに かぎやうに甘い
いだす人のかげゑは はか
たごまの いとをわたる
ところうつる いとの
やふなるほそき
もとでのあやうき
うへをわたるとも
こまといふ こゝろの
しんほうまがらず
手のさだまりさへ
よければあやまち
【左丁へ】
おつるといふことなし
よく〳〵このこま
のりかたを
かんがうべし

【右丁】
【中段】
乁なか〳〵ゆだんして
は くらされぬ
にんじんや
こほう【牛蒡?】や
だいこ〳〵〳〵

乁いつもよく せいたす
人しや われらも ちと
きをつけて あき
ないをせいいたし
ませう

【下段】
乁此人あさはなつとう
つけなをうり ひるは
せんさいもの【前栽物?】 または
おめさまし【目覚まし草=煙草=ヵ】 おちや【お茶?】くは
し【菓子?】をうり ゆふかたは
あふらをうり よるは
あんばいよし お
てんをうる

乁かやうにかせぐ
ときんば おいつく
ひんほうかみ【貧乏神?】
あること
なし


【左丁】
乁さつさと
こざれや
せきそろ
そいふん【?】
せい
たして
あるき
ませう


【右丁】
【右上囲み内の影絵】
危(あやうき)を
おもはさる
人の
かげゑ
つるき【剱】の
うへをわたる所
うつる

【影絵の解説】
【上段】
たかきにのぼらず ふかきにのぞまずとは
古人(こじん)のいましめなり わかみは わかものにあら
ず おや〳〵よりたまわりたる たいせつの
みなれば あやうきにのぞみ みを
うしなふは おほひなる ふかうなり
なぐさみなりとて おきづりに
いでゝ風波(ふうは)のあやうきをおも
わず毒魚(とくきよ)としつてふぐじるを
このみくらふ人などはそのかけゑ
つるきのうへをわたるところうつるべし
それのみにあらず 利欲(りよく)色欲(しきよく)の
ためにつるきのうへのあやうきをわた
る人おほし つゝしむべし〳〵

【中段】
乁もふひるても
あろふがたいふん
はらがきた山
のむしやところ【「腹が少し北山の武者所だ」@賢愚湊銭湯新話】
じやむくはんの
たゆふあつもりか
ぶつかけてもして
やりたい

乁ちとかせが
でたはへ
つよくなら
ねば
よいか

【左丁】
【右上囲み内の影絵】
ものをかりる
人のかげ
ゑ ぢぞう
うつり
反【かへ】す人の
かけゑ
ゑんま
うつる

【影絵の解説】
かりるときのちぞう
かほ反すときの
ゑんまかほとは よく
にんしやう【人情?】をいひかなへ
たることはざなり かりる
ときの反すあてをおもはす
反すときのくるしみをおもはざる
ゆへちぞうかほなり 反すとき
かりたときの をんをわするゝ
ゆへにゑんまかほなり ひつきやう
は 人にものをかりぬやうに
こゝろがくへし 人にものをかりる
やうになりては そのみの
はめつなり


乁まちがひましては
すみませぬぞ


【中段】
これは〳〵
かたしけのふ
ござり
ます


【下段】
乁しやうもんの
とをりの年月
そふいなく
へんさい
いたし
ませう

【右丁】
【右上囲み内の影絵】
心ざし
よき
女の
かげゑ
おのゝ
小まち
うつる

【影絵の解説】
女はみめかたちのよきをもつて人
これがためにまどへとも かたちうつくしく
とも 心さしみにくければ まことの女
といふへからず かたちはむまれつき
なれは なをしがたし こゝろはあ
しきより よきにもなをせば なを
さるゝものなり 人は見めよりたゞ
こゝろといふたとへを わするへからす
心さしよき女は たとへおたふくなり
とも かけゑには やうきひ小まち
のごときひじん【美人?】のすがた
うつるへし

乁そなたのかう〳〵
わかみにこた
て うれしう
こざる

【下段】
これは〳〵よめが
しうとめにこう
〳〵いたしま
するは人の
みちとうけ
たまわり
ますれど
なか〳〵その
まねかたも
できませぬ
に さように
おほしめして
くたさります
と もつたいのふ【勿体のう】
ぞんします

【左丁】
【右上囲み内の影絵】
かうまんなる
ひとのかけゑ
てんぐの
すがた
うつる

【影絵の解説】
文学(ふんがく)に通達(つうたつ)し ちゑさいかく
人にすぐれとも みづ
から ほこるべからず わが
人にほこるは 小人(しやうじん)のしはさなり いつくいかなる
ところにわれにまさる人あらんも はかり
がたし ひつきやうは せけんのひろきをしらざる
井のうちのかはつなり されは かうまんなる
人のかげゑはかなら
ず てんぐのすがた
うつるべし


【下段】 
乁かんのちやうりやう【張良】
しよくのかうめい【孔明】が
はかりことも わが
めからみれば
しやうに【小児】のたは
むれのやうじや
いまにかれら
をたつとむか
世にちゑある
人がないと
みつる

【上段】
荘子(そうじ)斉物論(せいふつろん)に罔両(もうりやう)と景(かげ)との問答(もんどう)を載(のせ)たり罔両(もうりやう)は
景(かげ)のうちにまたかげのごとくうすきものあるをいふ今(いま)予(よ)が
あらはす影絵(かげゑ)の喩(たとへ)へも是(これ)に相(あい)似(に)たり世(よ)の人
善悪(ぜんあく)表裏(ひやうり)のかげひなたあることをしめす而已(のみ)


口演
京伝店御はなかみ袋の
類(るい)くわいちうもの一 式(しき)御たばこ
いれるい御きせるるい当年はかくべつ
めつらしきしんものたくさん仕入候間
ゑん国御ひいきの御かたさま御ひきやくにて
御用被 仰付可被下候以上

◯附て申上候京伝と申大道にてあきなひ候一まいずりのるい
いつれも私自作にこれなく偽名(ぎめい)にてこざ候此義かねて御せうち
くださるべく候已上


【下段】
京伝子戯編

清長画

【裏表紙】

飲中八人前

飲中八人前

飲中八人前
通笑作
清長画

もちの
よき
ものなり

その
かけんに

まし


おかげ
さま

じゃき

さり
ました
【以下かすれて読めず】

通玄女ぼうはしんだいにふそくは
なけれども一子なきことをつね〳〵
おもいいんぐわぢぞうさまへ
七日まいりをしてまんするよに
大き
なる
おとこ
五升だるを
かつき
たるを
ゆめ

みる
ぜんさい〳〵
われはこれ
なんぢがせんぞ
かまくらにかくれなき
五藤兵衛【?】なり
なんぢらこのなき
ことをかなしむ
ぢぞうそんの
おふせによつて
ふたゝび
なんちがはらにやどると
ゆめみてくわいにんするぞ
ふしぎなり

【女中の台詞】
ごしんぞうさまはきつい
げしなりやうだ【御寝なりやうだ】
七介どんしまいなすつ
たら
下むらへ
いつてくんなよ

ほどなに一子をもうけなを宗之(そうし)と
なつけうまれつき きれいにて
いとけなきときより 通玄とはちがい
さけをすき
おやぢのまへては
ゑんりよゆへ
だいところで
めしのたひに
してやりけり
はゝいろ〳〵
とめれども
なか〳〵
き【こ?】りず
まことに
これが
しやうちう
こぞう
なり

【子供の台詞】
これは
あま
くちだ
から
よいはな

そのかわりに
がくもんはみるも
きらいなり

【左ページ】
そうしかはゝ大しゆをあんじ
あさくさのぢそう寺へ
ぐわんをかけとうそ酒の

やみ
ます
ように
なされて
下さりませあのやうに
すきますはいんくわて
ござり
ます

【参拝者の台詞】
おろさんぢそう【?】
さんはきついおまいりでござります

なむあみたふつ〳〵

そうし
みめ
くりの【三囲の】
へんへ
あんじつを【庵室を】
こしらへ
つねに
みろく
ぶつの
ゑを
とこへ
かけ此ほと
けもさけ
すきで

あつたけなと【あったげなと?】それ
ゆへおれはこのほとけを

さかなにしてのむといふはまだしもやすき
おもひつきなり
こゝろやすきそう四五人あつまり酒もんとう
はしめる
「聖(せい)とはすみ酒の事なり
「賢(けん)とはにごりさけの事なり
「氵(さんづいに)酉(ひよみのとり)天(てんニ)口(くち)一人(いちニン)
一口(ひとくち)とはいかに
酒呑一合(さけいちかうをのむ)とうんぬん
【返り点を打つとルビをふれなくなるみたいなので省略しました。】

【挿し絵中の「醉中往々愛逃禅(酔中往々愛逃)」は杜甫の『飮中八仙歌』の一節。「飲中八人前」というタイトルの元ネタでもある。】


そうし
けん
ざけ
にて
しゆつけは
のみたをれ
けれども
てまへはだい
じやうぶにて
せいろうへ【青楼へ】
のり
かけ
ゆく

【橋上の通行人の台詞】
だん
なの
にほひ

さか
ては
いらぬ

【船頭の台詞】
大川ばしへ
きやした
とりかぢよ

【宗之の台詞】
すらァ
はやい

【遊女の台詞】
わつちも
のりんしやう

【本文】
それよりせいろう【青楼】にて
にわへいけをほりいくたる
ともなくさけをいれ
大さかつきをうかめ

女郎かぶろしんぞう
げいしや八人のつて
大さわぎまことに
これが
さけびたし
なり

【左頁下】
たち
なんすな
あぶなふ
ありんす


つうげんはせがれの
大しゆにてみ
もちふらちの
ことを
あけくれ
いけんすれどもきゝ入ぬゆへ
かんどうせんとおもふおり
ふしさはに【藤沢に?】万右衛門といふ
ずんとやぼでないらうにん
ありしがつうげんとはこゝろやすく
このことをきゝきの
どくにおもい
御くろうには【ここから浪人の台詞】


らうが
金子
五十両
おだし
なされ

【浪人・万右衛門の台詞】
さつはり
さけの
やみます
やうに
いたして
しんぜ
ませうと
うけやう

【通玄の台詞】
なをりさへ
いたせば
あれも
しやわせで
ござり
ます

万右衛門は大しごとをうけやいおびたゝしくりやうりを
いひつけそうしをよんでふるまいが
しゆかうなりいりさけ【煎り酒】のにほひは
二□町【二丁町?】のしんみちの
かほみせの
ごとくに
やりか
ける

【台詞】
ときにこ【?】
なんでか
あつた

よしの山
〳〵
いつはいのんで
いきな

はまやきは
ちいさくはぼざり
ますまい

【左ページ】
そうしは万右衛門かたより
ごしゆ一つしん上にゑてに
ほうあげてこくげんより
はやくきたる

【宗之の台詞】
さくじつからのたのしみ
せんばんありがたふぞんじ
ます

【万右衛門の台詞】
これはおかたい
さあ〳〵あれへ〳〵

宗之ははじめのうちははなはだ
いんぎんにてだん〳〵と大さかづきにて
ひつかけよにいるとにはへおり
きよくば【曲馬】のまねをしてさわぎ
あげくのはてはいけへのめりこみ
たわいなしになりしを
万右衛門ははかりことの
とをり
□【に?】
なり

たり

おもひ
いけより
ひき
あげ
あたまを
くり〳〵
ぼうずに
して
しろき
ほぐそめの【反故染めの】

ひとへ
もの
をきせ
かごにのせ
りやうごくの
ひろかうじへ
すてる

【台詞】
ついぞ
ねへ
どう
しやうの

【宗之、馬に見立てた箒にまたがり、台詞】
はい〳〵〳〵〳〵

そうしは
りやう
ごくに
すて
られし
ことは
しらず


けに
なれば
さむく
なり
よいは
さめ
めを
ひらき
みれば
びやう〳〵
たるはら
ほしの【?】
かげに
すこし
てみれ
ばしろき
ひとへもの

あたまを
なでゝ
きもをつ
ぶしさては
万右衛門がふる
まいにいけへ
おちたがその
ときしんだと
みへたさて〳〵
わかしにして
かなしや〳〵と
あたりを
みれば
くるま
あり
これが
おとに
きく
ひの
くるま
なるへ


ぢごくもひのやうじんがきびしいか【?】
してひのかいなしいかゞはせんとうろ
たへあるくとしのころ四十ばかりの
女まつしろにおしろい付もうし〳〵と
いへばさんづがはのばゞのむすめと
おもひ此ひとへものをはがれては
ならぬとにげまわりむかふのほう
よりすみごろものそうこれこそ
六どうのぢぞうぼさつとおもひ

わたくしは
おやにふかうをいたし
ました
ものなにとぞおたすけ
なされてくださりませ

わしのぶつしやう
にでる
ものだと
ころもを
ふりきり
いそぎ
ゆく

宗之
はあた
りを
うろ
〳〵



七つ
ごろ
より
はや
おきの
かぢや
とは
つねしらずふいごのおとをきゝつけ
とのすきまよりのぞきみれば
あかをにあをおに
ともみへずひのそばにたち
はだかりとらのかわのふんどしも
かんりやくかして
はないろのもめんふんどし
きもたましいもうばわれ
けるおりふし万右衛門は
ゑたりとおもひめばり
づきんをひげとなし
はをりきう
すへる□□【すへるやう?】にきて

□□しやのせつかいを
もちつくりごへ
にてぜんざい〳〵
われはこれゑんま
大わうなりなんじ
しやばにて
大しゆをこのみ
ふたおやにくろうをかけしゆへ
大ねつかんちごくへおとすなり
楞厳経曰(りやうごんきやうにいわく)人にさけを
のますものは七百しやうが【飲ます者は七百生が】
あいだてのなきものに【あいだ手のなき者に】
うまるいわんやのむ【生まる、いわんや飲む】
ものにおいておや【者においておや】
なんにうまれ□□
しれずなんじしやばへ【知れず、汝娑婆へ】
かへりたくおもはゞ
ぎやうこう【僥倖】
さけをおもひ
きるべし
いかに〳〵

【宗之の台詞】
なにがさて
〳〵
かしらを
ちにつけ
ならづけでも
たべますまい
なむあだ
ぶつ〳〵


そうしはめをてぬぐいにて
つゝみおにのとりあつかふ
ようにめくぎ【?】にして
たかいところより
おとしたるこゝもちに
おもはせつうげんが
うちのひやうぶの
うちでてぬぐいを
とればよみかへりし
こゝちにて大きに
よろこびかないも
大きにおどろきたる
ていさて〳〵万右衛門
どのゝふるまいに
いけへおちたことまでは
おぼへていた
それからちごくへ
おちておそろしい
めにあふたこぢきの
ゑんまがいふとをり
ぢごくもい□う
こんきうとみへた
こんどしんでも
いく
とこじやない
さけはふつつり
やめて
おとなしく
なります

【台詞】
さて
〳〵
おそろ
しい
ことの

ぢごく
とやらには
かとふ【?】があると
申が
そうか

万右衛門
しゆびまいつて
よろこふ

おや〳〵〳〵〳〵

これは
はらのかはだ
〳〵

それより宗之は
酒をふつつりおもひきり
がくもんをせい
いだしおやにも
まさるほど
のがく
ゐ【学医】となり
くすりのきく
ことしんのごとし
ふろうふか【?】といふぐわん
やくをこしらへしよにんにあたへ
ければそのゝちびやう人といふは
一人もなしてまへのくばりし
とそざけも一くちものまず
四日ばかりかゝる
れいをさけが
やんだゆへ二日に
まわりはるの日の
ねむけ
ざましに
御らん
くだされ
かし



ます

通笑作
清長画

親父布子鳶握

親父布子鳶握

親父布子鳶握(おやぢぬのこをとんびがさらつた)上中下《割書:奥|村》

こゝに松屋喜兵へとて
ざいもくしやうばいにて
せがれ壱人もちけるが
いたつてしつてい【実体=実直】にて
しやうばいにせいいだし
すこしのものもそろばん
はなさずはたらく故
手代のこらずせい
いだしなにくらからぬ
しん
だい
なり

おやしきの
たてまい
すみましたか
〽喜三郎さんあ□【し?】
□【た?】のしこと【?】に
たのみ
やす

むすこのかたき【気質】にひき
かえておやぢの喜兵へ
あそびずきにてよる
ひるとなくたのしみ
おやぢの事なれは
いけんのいゝてもなく
うまいものゝおやだま
にてしやうぎもすき
なればごもすき
にてつりにもでれは
しはいへゆき【芝居へ行き】

すこしのまても
ゆだんなく
あそぶ事にて
いちねん
ちういそ
がしく
くらしける

けふはふきやしへ【ふきや丁(葺屋町)へ】
ゆきますしはいへ
【左ページへ続く】
ゆくにへんとうがいるものか
あれはなにのためのちややたと
おもふ
【葺屋町には中村座などの芝居小屋と芝居茶屋があった】

よめの
おむ


しごく
よき物
にてへん
とうを
【左ページへ続く】
あけま
せう

いふ

喜三郎は
ばんにねんぶつ
こうに
【このあと七行ほど大きな破れあり】
□【と?】う出なされて
だされと
ごきが
ない
□れて
い□
き□
そがし
□や□

喜兵へはしばいより
うちへかへるはつふへ【?】
とすぐにのみなを
しにゆき内からは

小袖をもたせて
むかいをたせども
さきからさきへ
ののくりあるき
ふところには
なんりやう
いつへんもなく
かんじやうは
いくらでも

見せへとりにやれと
おいりやうしだいの
大さわぎ

【台詞】
ちよ一か【千代一が?】【ちよいちり(千代一里)?】
ちよつと
これ

こふもつて
かすみにつきは
どでごん


おもんや
もつと
だれぞ
よひ

やり
なへ

くめさん
あんまり
あたら
しい
くつて
むしか【?】
ゑわの【?】
ついぞ
ねヱ

喜兵へやふ〳〵とうちへかへり
たま〳〵うちにいるおもへはこゝろ
やすきものをおふぜいあつめ
むぎめしなどをたいてふる

まいさかなやへ
人ばしをかけ
こゝろまかせにた
のしめともうちに
いればよめもむすこも

よろこひすきしだい【好き次第】
にしてほふそう【?】
とふぜんにとり
あつかいける

お□【破れ】
□【破れ】
お□【破れ】
をりを【お羽織を?】
めし
ませ【挿し絵で羽織を着せかけている】

なんといつれもさいぜんから
きがつきましたらへても【気がつきましたら屁でも?】
太郎へでもまいろふでは
御座らぬか

おがさわりう【小笠原流】
めはちふんにて【目八分にて】
さかづきをもち
いづる

【台詞】
しやうはく【しやうはく老(人の名前)?】
らうもし
こんど【もし今度】
ごとこ
ろで【碁所で】
のごが【の碁が】
いち
ばんに【一番に(ひと勝負に)】

三日かゝると
申がそれ
見れはこの
ほうとも【この方ども(この人たち)】
はめい
じん【は名人】
□□
□【じやな?】
【さらに下の段にも文字見えるが破れている】
よ□……
と□……

つふ【通?】ばかりおふきに
やすきあそひにて
きんじよのものふたり
つれにてつりにゆくを
見て喜兵へもつれたち
ゆき三百の舟ちん
ひとりまへか百つゝ
しな川のおきへ
ゆきついに
はなしにも
きかぬ事
喜兵へおふ
きな事
ぶりをつり
あげみな〳〵
きもをつぶし
けり百のわり合
にてぶり一本
つりあけしより
百ぶりとて
此所へおび
たゝしく つりにゆき

はやりけり又
おきづりの
きらいのものは
その百ぶりと
いふなにておか
つりかでき【百鰤を釣ってくると言って女漁り(陸釣り)ができるので。品川には遊廓がある。】
殊之外
はやり
けり

きばの
おやぢで
あア
つかも
ない

ふり一本つりし
いわいがなしみの
うちをそう
じまい【総仕舞い】くじら
一本かいし
ほとかねがかゝり
ちや屋ふな宿は
いふにおよばず
ま事になゝ
さとのうる
をいなり【「鯨一頭七里の潤い」という言葉がある】

かごのしゆ
しつかにやつて
下されせけんの
女郎かいのやうに
いそぎはせぬ
さかてはのぞみ
しだいじや
日かゝつても
だいしない

松屋のうちの十四日
晦日あそひさきの
はらひいくらあつても
かきつけにてわたし
はぎん壱文でも
のこらすはらひ
とりに来たものには
壱分つゝのはなをやり
うけとるものもあき
れはていかさまざいもく
やの事なれはかねの
なる木があるかも
しれぬとのうわさ也

新八
とん
ます

から
ちよ【?】
きて
いかふ
のふ

やふ〳〵せつくを
だんなのつもりに
あつちをへんがへ
いたしました□

喜兵へひゞ〳〵に
あそひにてうし
金のやまでもすこしひくゝなるくらひの
事喜三郎はおやの事ゆへたとへしんだいを
いれあけてもかまわすいつけちう【一家中】
より合たとへおやの事でも事による
ごせんぞへいゝわけたゝぬ喜兵衛とのゝ
しだしたしんだひといふではなし
なか〳〵今いけんいふてもきく
まひこゝがそふだんざいしよの
あねごのところへやりいけんせは
なんぼてもいはい【違背?】はなるまひ
その
つもり

そう
たん
きは
まる

せけん

とし
より

ため
じや
まづくら
しめの
ためにうま
くないもの

よふござ
ろふ

いなかへ
おいで
なされたら
ごふじやうで
なるまひ
それがもふ
しんきだ

しんるいの
うちのちゑ
じや【知恵者】いなかへと
いゝだしても
ひとゝをりでは
いくまひと
おもひさいしよの【在所の】
あねごのたいひやう【姉御の大病】
とにせじやうをこし【と偽状をこしらへ】
らへ
見せければ
これはゆか
ずはなる
まひ
あしたの
やくそくが
あるかよくいつて
やつてくれと
そう〳〵たびの
したくして
たちけり

ずいぶん
ごきけん
よふ

五なしの【?】
たびても
どふか
よくない
ものじや
あしたはそふ〳〵
むかいをたして
くれせつくの
しまいがある
からせひかへら
ね□□らぬ【ねばならぬ?】

〽むすめは下女の
いもをかふをきゝ
おやは
いや
おやは
いやと
ゆふゆへ
わが
身のうへ

ひきくらべ
どふも
せけんへ
きの
どく

おもふ

いもやとの
おやは
いやよ

喜兵へはあねのひやうきときゝさいしよへ

ゆきしに
あんにそふいして【案に相違して】
八十にちかよれども
ずいぶんじやうぶてびん〴〵と
する事あたかも
十四五のむすめ
のしりを

つめりしごとくにてきもを
つふ□【す?】さて〴〵こなたは
どふしたものじや
くわしくふみて
きいたがどふいふ
てんまの見いれ
じやあまり

きのどくゆへ

むすめ

むこも
ほかへやつて
いけん
する
まあ

江戸へは

かへさぬから
そふこゝ
ろへて
いやれ

大の
かふり
なり

喜兵へは
あねの
いけんに
ほつきして
おもやのわきへ
すこしのいへを
つくり
江戸へかへる
きをやめて
しばんまで【じばん(襦袢)まで】
もめんと
なり

きくを【危惧を?】
するに
およばす

おいのしん
だいゆへきくなど【老いの身代ゆへ菊など】
つくりたのしみ
あたゝかゆへぬのこを
ぬいでおきしを
なにとおもひてか
とんびさらひ
ゆく

子共大ぜい
見ていたり
しが

おや

ぬの
こを

とんびがさら
つたとはやし
それ
より
今に
いたる
まで

おやぢなにと
やらをとんびが
さらつたとおかしき
事をいふはまち
がいなりとふもさら
われるはずは
なし

おもやのわかいものどもぬのこを
とんびがさらいしときゝ
おつかけおいまわしやふ
〳〵とうらのゑの木に
いる所をたゝきおとし
より合てけをむしり

けり大ぜひにて
たゝきしゆへむらさきいろの
あざかできむらさきににたいろを
とびいろといふはこの
いんゑんなり
〽いのちをとるな
ぬのこがかへれば
よいなんぞくめんの
わるい事があるも
しれぬ

けを
大ぜひ
にて
むし
りし

ゆへ
けん
けを
むし


いふ
なり

とんびははねをぬかれしゆへ
とぶ事かなわずこまり
はてはごろものうたひを
おもひいだしはねがなくては
ひぎやう【飛行】の道もたへ
てんじやうにかへらん
事もかなふ
まじちに
またすめは
げかいなり
とやあらん
あらんとかなしめば
きのどくにおもひ
はねのはへるうち
おれがところに
いしゅろうになり給へ
【能楽の『羽衣』の謡い。「悲しやな羽衣なくては飛行(ひぎょう)の道も絶え。天上に帰らん事も叶ふまじ」「地に又住めば下界なり」のパロディになっている。】

あぶらげをふる
まふからずいぶん
はたらき給へ

とんび
ともたちの事を
おもひだし
ありがたやまの
かんがらす

よろ
こぶ

喜兵へは
まへにはひきかへて
いなかずまいに身を
こなしとんびをも

へやこにおきりやうり
はさかい丁【堺町】かよいの
あしたましそふへ【?】
ゆくのといゝしものが
米のめしもやめて
むぎめしとなり
すましじるにこして【として(とじて)?】
やれともとんびはすましが
きらいゆへとろゝしるにてくわせる
ゆへとんびとろゝといふ事は此時よりはしまりける

こなたのいるで
ねづみがなくて
よい

いなかすまいとは
いへどもまちばにてむかふの
うちがとうふやにて
むすこのとんひかへらぬ
ゆへおゝくのとんひ
来りかなしむやけのゝ
きゞすよるのつるこをおも
わぬはなしこのとうふやを
たつねるにはやねにとんびの
いるうちといへはちかいはなし

とんびははねが
なきゆへかへる事は
ならずいつしん
ふらりはたらきしが
喜兵へもしごく
おもしろくなり
人を大ぜひかゝへて
さく【作(農作)】をはじめとんびを
はんとう【番頭】にして
さくの
せわを
させはた
けのま
わりを
くる〳〵と
まわる
けふも
とんびとのかまわる
からひよりがよいと
いゝならわせけり

喜兵へはたん〳〵と
もとでなしに
しんだいをしあげ
大ぜいのくらしに成
しゆへにしんを
ひろくたてなをし
むねあげにておびたゝしくさけさかなを
ふるまいとんひは下戸ゆへ
もちをくいへいぜいは
とろゝがすきとん
びとろゝむねあけの
もちが二十四五たりぬ
と今にお子さまがた
のくちづさみ
とは
なり
けり

かふけづ
つては
さげなわ
がゆくまい

とりけだ
ものとは
いへとも
うしは
ねかい
から
はなを
とをす
とびは
はねが
ほしい
〳〵

ねかいしゆへ
はねかでき喜兵へは
かねがほしい〳〵と
ねかいしより金が
てきおもふ事も

ねかはぬはそんなり
とんびきん〳〵にもと
のふるすへかへらんと
おもひさきへたよりを
したくとんひたこと
いふものをはしめて
こしらへじやうを
つけてあげ
けんとんひ
たこのはじ
まり
なり

喜兵へも
くふうして
ひきやくを
たすも
まちとふ
なればやつこ
たこといふ
ものをこしらへ
是にしやうをつけて
やりやつこをつかいに
やるはよきしかふなり
おやりごめんはすこし
ぶゑん
りよ
なり

たまを
やりま
せう

喜兵へはいなかにてなれぬ事
てもいつしんふらんとかせぎだ
し大かねをこしらへ江戸の
たな喜三郎にて見せを
ださせたかせ壱そう【高瀬(舟)一艘】こし
らへこくもの【穀物】しやうゆ【醤油】をおくり
ざんじのまに大しんだい
本店のざいもくのほうは
や□をしんにはてきらせ【?】
いろ〳〵ひやうばんもざん
じのあいだにとりかへし
さいくはりう〳〵しあげを
ころふじろ

くらへ
やり
ますかへ

おちや
まいれ

もちが
五百
しやう
づ【小豆】が
七百
かの

松屋の家とみさかへまつはときはの【松は常盤の】
いろまして【色まして】むすこの喜三郎にきやう
くんしておれが今までにみもちはその
ほうがためなりわかきうちは
りやうけんなしにしんだいも
しまふずいぶんとおとなし
けれどもそこかおやの
よくもしやとおもひ
てとふらくのせんを
こし金はつかゑと
人をたをさず
こゝろでしまりを
してたのしみわかき
ときはかけひきなし
たのしみは六十から人のそし
りもなにもかもみなふうふの
ためまことにかんるいきもに
めいじむすこのかふ〳〵【孝行】よめ
のしんせつとゞき〳〵て三福神
目出度はるの永〳〵しき
物かたりなり

千秋
はんぜい

めて
たしふ
ぞん




通笑作 清長画


親動性桃太郎

 親動性桃太郎 鳥居清長 全

天明四年印行

むかし〳〵あつたとさむすこは山へ
しはかりにむすめは川へ
せんたくにこゝにもゝ
太郎とてふうふ
ありけるかかの
おにかしまより
かつのたからを
とりきたり今
はなにふそくなく
さま〳〵のゆうけい【遊芸?】
せんせいしつくし
ゑよふゑいぐわ【栄耀栄華?】あまりにすぎて
おもしろふなくこのころはなぐ
さみににようぼは川へせんたくに
てたりていしゆは山へ
しはをかりにゆく

されとももゝ太郎は
三日ほとてよふ〳〵
まきが一わてき
女ほうはひとへ【単衣】もの
一まいのせんたくに
五日ほとかゝる金もち
なれはなぐさみひんほう
にんなれはなまけもの
ひきうりのたくい
      なり

【右ページ・女中セリフ】
 ごしんそ□へ【御新造様へ?】
 いかにおなくさみても
 よいかげんにあそばし
 ませひろうなから
 おてがふやけませう

【右ページ本文】
もゝ太郎か女ぼうお
かき【女房の名前・お柿】は川にてせんたくをする
おりからむめほし一つ
  なかれきたりれれは
かのいにしへもゝ太郎かしゆつ
しやうももゝからおこつた事
なれはこれもなにそにならん
とうれしくひろいそのまゝ
わかやへもちてかへる

【右ページ・お柿セリフ】
 そふいやんなおれも
 なにもせんたく
 なしのなく
  さみた

 おや〳〵
 むめぼしが
 ながれて
 きたよ

【左ページ本文】
もゝ太郎山よりしばを
かりてかへる
おらがおかきめがまだせん
たくをしているすきなやつさ
ばんにおれがもゝも一つあらわせ
ねはならぬかかきかもゝ太郎
はさむかへちくせうめ

【左ページ・桃太郎セリフ】
 さて〳〵
 ゑよう【栄耀?】に
 つきて此
 よふなことをして
 あそんでいるも
 つまらぬ
 ものだ


さてもゝ太郎おさ
たまりのとをりむめ
ほしのたねをわりて
みれば中よりこつせん
としわくちやたらけの
むめほしおやぢあらはれ
いづる
これひとへ
にもゝ太郎
ふうふわ
かいなりを
してあけ
くれなま
けあそひ
だい一と
せいをいた
せしゆへ
てんとうの
御めくみに
てかゝる
おやぢの
居候を
しよいこむこと
こそありかた
  き
ちいさん
はつかり
とむめの
たねを
わり
かけた
ところが
□十六か
八十六か
わからぬ
 〳〵

【挿絵内右】
ちひさん〳〵
ほれはこれありはらの
せみ丸の長うたにも

おやぢねぼけたかこりや
またへ□へかし
ヨ□□

〽きゝすなくむめは
くふともたねくふ
な中にへんじん
ねてこさるかなと
よんてある

【挿絵内左】
ごしんぞ
さまなにか
てましたへ

□とわけし
からねへ【間とわけしからねへ? 間=間男】

おや〳〵
とんた
ものが
でた
もん付
ならき
つと万 八た

もゝ太郎
ふうふは
かねて
おやをほ
しくおもふ
をりからむめ
のたねより
らうしん
一人たんぜう
しけれは
ふうふよ
ろこびかき
りなくじつ
のおやのご
とくさま
〳〵かうをつく
しうやまいたつ
とむ

おやぢの
うまれたは
とりあげはゝも
いらずまくりの
せわもなしずんと
いきなもの也
なきごへ
おやア〳〵
となく
これからは
そなた
のせわ
になり
ふりも
むかしには
にぬぢゝい
   とのさ

【挿絵内】
おとつさんへま
くりでもめくり
でもとちらて
もあかり
ませぬか

きゝす ではござりま
せぬがおす きなものを
あけはの てふわれ〳〵
とてもふう ふつれす
いなむめ ぼしおや
ぢさん

やれ〳〵とんた
よいおこと
いゝそふにする
   やつさ

もゝ太郎おやぢを
もふけはしめて
おとこの子のう
まれたよふ
にいろ〳〵
かいものをせん
とて手だいどもを
よひていゝつける

そうりやうのおや
ちたからくつとおご
らねはならぬ

むかしをれか
うまれたしぶん
とはじせつが
ちがう
てだいどもかい
ものゝかき付
をよむ



一さんごじゆかんきん
のじゆず一れん【珊瑚珠看経の数珠一連】
一ゑんぶだごん【閻浮檀金】
たゝきかね一てう【叩鉦一丁】
たゞししたんのしゆもく共【ただし紫檀の撞木とも】
一のらまわり【野良回り】
ぞうげつへ一本【象牙杖一本】
一ろういろきん
いろかけおかは一つ【臘色金色掛緒革一つ】
一こきんらんたけやまち【古金襴竹屋町】
はなふき一つ【鼻拭き一つ】
一あからくしゆびん一つ【赤楽酒瓶一つ】
一こわたりとう
さらさよだれ
かけ一つ【古渡り唐更紗よだれかけ一つ】
一ぎよくらんせん【?】こゞと
のときたゝきあふき一本【小言の時叩き合ふ木一本】
一きんのすりはがし【金の摺り剥がし】
やなぎこうりのべん
とうばこ一つ【柳行李の弁当箱一つ】
一うこんらしやゑつ
ちうふんとし一すじ【鬱金羅紗越中褌一筋】
一白とびぢりめんお
いずり一つ【白飛び縮緬笈摺一つ】
たゞしせなかの
もじしん
なぞめ【ただし背中の文字親和染め】

これは
とんだ
金が
入ます

つるかめのはく
もんのかみこと【鶴亀の箔紋の紙衣と】
申ところはこしん
るいからまいり
ませふさ【御親類からまいりませふさ】

ときにぢゝ
いのくいぞ
めは何日
めだの【時に爺ぃの食い初めは何日目だの】

【右ページ本文】
むめぼしをやぢ
うまれたとうざは
としよりのあたり
まへのごせうき【さ?】ん
まいりちぎにして【ごせう三昧律義にして?】
いたりけるがしん
しやうのよいに
まかせそろ
〳〵おごりが
でゝこのころは
ごせうも
やめてせつ
しやうにかゝる
ていりのとりや【出入りの鳥屋】
さま〳〵の
ものをうり
 つける
【右ページ下挿絵内セリフ】
のろま【?】のた
まこをあびる
のかへしたがご
さりますがおきは
ござりませぬか

【左ページ上セリフ】
こいつはさつま【薩摩】でも
すつとよいので
こさります十五両
より一せんもひけ
     ませぬ

それはちとねだんが
たか印たしかした
かいもひくいも
犬のみちかへ

【左ページ上本文】
むめぼしをやぢ
あるときとり
やにて
よきちん【狆】
をたか
がねを
たして
かいて
かへる

【左ページ下セリフ】
だんなさまさ
 つまいぬ
 よりさ
 つまいも
 がよふ
 ごさり
  ます

【本文】
もも太郎はおやぢの
かいたる犬なれば
むかしのおやぢ
のとをりいぬ
のころんた
あとには金
がでるもの
ならんとおふ
きによ
ろこび
にはへ
つれゆき
ころびも
せぬちんを
むりにこ
ろばせあ
とをほつて
みれども
かねのことは
おいてせに
が一もんでぬ
もおかしき

【右ページ挿絵内】
これはどう
だろう
なんにも
でぬ

ちんともそつ
ともてぬ
やつさ

【左ページ挿絵内】
ものをいゝや【?】
すにくらし
いちんだね

むかしとちがい
いまときのいぬで
  何がでるもの
  かへおまへも
  やほな

むりに
ころばし
なさつた
からこつちへ
一分およ
こし


むめぼし
やゆぢ
だん〳〵と
おごり【驕り】
てうじて【長じて】
せつ
せうも
あきて
此ころ
はちやの
ゆにかゝり
せんせい
をよび
てまい日
けいこなり
としよりの
おこりのは
じまりは
おふかた【大方】は
ちやのゆの
ものなり
一はんとう
いつの
はやいも
のゆへか
しらぬ

ときにせん
せいあした
のばんの
きやくには
おれがあん
じのりやう
りでま
づしる
がかめの
子のつみ
いれに
ちくわ
こんにやく
はこべひら【平=にものなどをのせる平皿】
がほとゝ
ぎすに
てんぐたけ【毒キノコ】
へん〳〵
ぐさ
ちよくが【猪口=酒の肴を盛る小鉢】
どん
ぐりの小口切にはせをのは【芭蕉の葉】のよごし
だが何と□□いもんでございやしやう

【挿絵内】
これは
きついお
あんじそ
して此間
はちやのお
てまへかお
あがりで
ござり
 ます

おやぢちやのゆ【おやぢ茶の湯】
をはじめさま〴〵
のだうぐをかい【の道具を買い】
こむうちにも
ちやうすを【茶臼】
もとめければ
もゝ太郎はせう
もこりもなく
むかしのおや
ぢのひきう
すではかねが
いでしゆへ
このうすも
かねがでるな
らんとちん
にもこりず【狆にも懲りず】
またひかせ
てみれども
いよ〳〵なん
にもでぬぞ
どうり
なり

【二人の台詞】
なんでもでたら
一分やろう

なにう
すばつ
かり

ぢゞいさま〴〵
のゆふきやう
しつくし
ふやうな
がらたびへ
でゝみたい
といゝける
ゆへもゝ太郎
はわれがおに
がしまへゆき
たる事をお
もいやりこん
どこそはしめ
たりさだめて
おにがしまへ
でもわたり
たからものを
とりてかへる
ならんと
おもいおや
ぢがのぞみ
のまゝに
こしらへて
やるおやを

わがまゝ
にそだて
まことに
はくはい
での【白梅出の?】
ぢゞいに
するむかしは
つねのだんご
ですみしが
いまはおごつ
てかなさわの
よふかんぎう【金沢の羊羹、求肥、】
ひすゞきの【すゞき or すぐき、不詳。松風は京菓子にある】
まつかぜひくは
しもちくはし
ぎんみして【干菓子、餅菓子吟味して】
いれる

【台詞、右ページ】
さて日本一のきみ
たんごふるいやつだから
こんどはかけ
かつだんごに【景勝団子に】
しませう

【台詞、左ページ】
みちにさるも
いぬもおりませうが
こぞうを
おつれなされませ

いかさまひがん
ではあるまいし
こめのだんこも
やほかへ
【米の団子=牡丹餅の事?】

ぢゞいはおにがしまは
むかしのこととしやれ
まづこんにやくじま【蒟蒻島=霊岸島のこと】
なかづむかふじまへ【中洲、向島へ】【すべて隅田川沿い】
わたりければむかし
にちがはぬものは
さるいぬきぢに
おともを
いたそふといふ
だん
ごも
ふるい
とか
いふ
ところ
でかみ
をいち
まい
つゝは
なさ
きぢゝ
いさ
【鼻紙を渡して鼻先爺=花咲爺をきどっている】

【右ページ台詞】
もゝさんの
おとつさんは
つうぢい
さんだ【通爺さんだ】

花よりだんご
といふはむかしさ
だんごより
おはなの
事さ

【左ページ】
それより
さるきし犬
おやぢ〆て
四人ほつ
こくのまめか
しまとしや
れかけしが
いぬのあいかた
うつくしく
さるが女郎は
すへたゆへ【すべた=ブス】
さるはきを
もみさけ
にゑいま
きれいぬ
にいやみ
をいゝて
せきこ
ませる
これより
中のわ
るいこと
を犬と
さるとは
いひな
せり

【犬の台詞】
いぬをばかにしたあん
まりだこれおぬしも
さるもんだそふいわ
れてはふちか
たゝぬこの【「淵が立たぬ」=「立つ瀬がない」】
さるめか

【遊女の台詞】
きのよはい
わんといつて
おとして
やんなん


【猿の台詞】
なんだ
もてだ
なちく
しやうめか
あんまり
いぬぼれ
だそふだ
小へんしよ
てかけ小
へんを見
たらあい
そかつう
だろう【愛想が通だろう】

おやぢむめの
ゑんをとつて
むめさんと名を
よばれかねもち
なれはくるめられ
大とらもいゝ〳〵

【ぢゞい台詞】
としよりの事だ
からひかん七日と
お十やはあけづめじや

【遊女台詞】
それはほん
かへまたう
そつきやぢ
をやぶの中
であとは
いゝんす
めヱね

【左ページ】
きしは犬に
もさるにも
かまはすも
てのめす

ぬしはどこ
そになじ
みがあり
なんせう
などゝきじ
やきにやき
かける

【遊女の台詞】
うそをつき
なんすとつ
めりんす
にへ
それ
みなん
しいゝき
じしやん
とした

【左ページ 中段右側】
けん〳〵〳〵あいた〳〵きじのほうからてつほう
              を いつて
              つ まるも
                のか

ぢゝい百日
あまりいつゝけに
いて金をし
たゝかつかいかへ
りけれはうち
のものはもゝ太郎
をはしめたからものを
もちきたりしと
よろこひしが
いさいをきいてあ
きれかへりもゝ
太郎いさこさを
いゝちらすももつ
ともなり
おやぢうちへ
はいりにく
きゆへした
たかさけに
ゑいてか
ゑりとん
た事を
□きたす
かくれみのにかくれがさうちでの
こづちと
いふところももつてはきた

がむかしとはぐつとちがい
山□□のはみのだがみの
ふと□これはかごにし
いてきやしたつちは
つちだがどぶつちさ
大をんじまへ【大音寺前(新吉原に隣接した地域)】
でふみこんで
かゝとについて
いやすかさは
かさだがかくれ
かさでめにみへ
まい
その
はづだ
かさはからだ
にほね
からみさ
これで
がつてん
せずは
どう
でも
しろ〳〵
おゝいや
だ〳〵

【左ページ台詞】
むすこ
そだちの
ぢゝいこゝな
三百あ
がり
めが

ほんに
にくいのふ

わたしとも〆て
三人ながらごもつとも〳〵

うぬら三人もいかさまだろふ
さる〳〵いぬらへんとうわ
わんとだきじ〳〵
ぬかせ

もゝ太郎ぢゞいにもちあつ
かいせんかたなくときのぢ
とうどのへおやぢかんどう
したきとねがいおふきに
しからるゝ
子がおやをかんどう
いたします
によつてだい
じある
まい
とぞんじ
ました

なんにしても
おれがかふり【こうりごうり、こりごり】
〳〵どうぞ
よし原へぢんきよ【隠居と腎虚の洒落】
いたし
たうござり
ます

じんむこのかた【神武(天皇)このかた】
おやをかんどう
といふ事はつい
ぞねヱいやはや
とほうもない
ぢどうばかに
した

いもやではあるまいし
おやは三がいのくび
かせもいゝ〳〵

それみろ
やつことぢ
とうにかた
れるもの

もゝ太郎おやぢにせんかたなくぼうぜんとして
いるぞとみへしがたちまちあたりはのはらと
なりていにしへのぢゝいはやまへしばかりにはゝあ
は川へせんたくのすがたあらわれせんさい〳〵
われはこれといふもあまりかたくそれ
やぼとかなんとかいわずともしれた
なりなんじもゝの
たねよりしゆつ
せうしいまかとく
にくらす事もこれ
ひとへにわれ〳〵が
まもるゆへなりそれ
になんぞやおやの
ゆずりをおのれ
がてづくりの
しんせうか
なんぞの
よふにお
ごりおごり
だいいちあ
とをいふもやぼそれ
ゆだんするなかせげとか
それなんとかがつてんか

このよふにしやれのめす
こともなけれどもむかしの
あかほんなれはやつはり
ぢゝいばゞあとかたく
でるけれどいまの
ほんだけにとし
よりのしやれ
それよしかよく
は山へいき山と
ねふりのゆめわ
さめにけりだん
なさまこしんぞ
さまおぞうにが
できました

もゝ太郎
は二日はつ
ゆめに
せんぞ
のきやうくんあり
がたくおごりをしり
そけ百せうのわ
ざたいせつにかせぐ
事こそ
めてたけれ

むめぼし
ぢいさんを
みるはずさ
ふくちやの
むめぼしが
たもとに
あつた

ふたりながら
おなじゆめを
みるとはめで
たい〳〵

清長画

化物昼寝鼾

化物昼寝鼾 完

天明四

化物昼寝鼾(ばけものひるねのいびき) 上下

むかし〳〵よりばけ物なかまの
そうざかしらみこし入とう
みな〳〵てした【手下】の物は
入道のけちをうけれども
おやだまいたつてこふう
にてなんてもこれか
はやるといふことを
しらずてまへも
大しまのぬのこ
まるくけのをひくびを【丸ぐけの帯、首を】
のばしておとすより
ほかにしあんもなし
さりによつて
ばけものしだい〳〵に
おとろへつうじんと
やぼとは
ちやうちんと
つりがねほど
ちがへともやぼ
ばけものと
くるしめられ
なかまいつ
とうにはながひしげ
一寸のむしに五ぶのたましいと
やらしごくさんねんに
おもひひとそうだん
はしめける

人をこはからせるがおいらがしやうはい
それにまあばけものぼんは
こどもかうれしかるとは
どうしたものなんぞよい
しゆかうはないか
やぐちのわたしといふ
ところがきこへませぬ

たいざ
さんといふ
ところであたりを
とり
たい

【全体に汚れと虫食いが多い】

ばけ物はごくいんき【極陰気】なる物人のねるときを
おき人のおきるときねりぬす人のひるね
ばけ物のひるねは
あてかあるゆへに
うしみつごろをばけ物の
につちうのことくかけめぐれは
たまにてなぐさみにて
めをさらのごとくにして
よをひるに
するものありばけ物は
日りんをおそれてひるは
ひまでもなぐさみもでき
ずあめのある日はひるでも
ひのめなきゆへやぼに
よみ【読みカルタ】などを
うち ちかころ
うつ者が やねふね【屋根船】
でめくり【巡り、遊覧?】をきゝつけ
あめのふるひは
たのしむをそのまね
をしてつね
人かよいしめり
だといふはちつと
ふとゞきよみ【読みカルタ】
をうつにはやね
をふくといへは【屋根を葺く(カルタ賭博を意味する隠語)】
あめにゑんか【厭が】
あり めくりはあめ
にはつまらぬと
ばけもの
さへわらひ
けり

大あたまの
こぞうなかま
のふれに
きたり
くわいじやうを
みる
ひるでも
なるほと
あめには
でると
いふはこの
こそう
なり

【小僧の台詞】
おぢさん
あけて
くん


【雨の日に出現し、大頭で大きな笠をかぶっている小僧姿の妖怪は、現在では豆腐小僧と呼ばれている。『化物鼻がひしげ』では手に豆腐のようなものを持った姿でも描かれている。】

【右ページ上段】くわいじやうにてなかまの
ものよりやいそうだんを
はしめきつねたぬき
てうめんをくりてみれは
金□がしふん【時分】は大きな
めにあい ちかごろはそのくろう【近頃はその苦労】
せぬとおもへばはこねからうちの【箱根から内の】
つうじんにはおとりわけはなく【通人には劣りわけはなく】
ばけものはしろうとか【化物は素人が】
上ずにて三十はふりそで
四十はしまだころもを
ぬいて【好いて?】いしやとみせ【衣を脱いでいしやと見せ?】
女がたかおくがたと【女形が奥方となり】
なりかたきやくが【敵役が】
しうたん【愁嘆】いろ
おとこが【色男が】
はんどう【半道】
そういろが【添う色が(彼氏)が?】【総色が?】
くろとなり【玄人(娼妓)となり?】【黒となり?】
がまくち【ら?】て
ほたる【かたる?】でんそ
けしてたづか【こづか、こづら、などとも読める?】
おさだまりに
ばけては
いけぬいづれも
ちえをおん
だしなされい
【9行目〜22行目までは、化けるのは妖怪よりも素人(人間)のほうが上手という例をあげている。】

【右ページ下段】
おうこぞう
めは【大小僧めは】もうかへり
そうなものだ
どこへやつてもみちくさで
らちがあかぬ
【大小僧は前のコマに出てきた頭の大きな小僧のこと】

てうめんをくりてみれば
どつとおちのきたばけ
ようもなしとかく女で
なければいけぬ きつねどの
大ふりそででなごりきやう
げん【名残狂言】といふあたりをとり給へ

【左ページ上段、大首の台詞】
おうぜいの
そうだんには
わつちが
あたまは
じやまに
なりやすから
かへり
やせうか

【左ページ下段、狸の台詞】
なるほど
どうも
おもしろい
しゆこうも
みへぬ

きつねはかぶ【?】の大ふりそでにばけくつと
おちをとるきでたしなみの
大もやうにふさちりめんの
をびいまどきはみせものも
こんなねじれものはきずしちや
もふるぎやもぶいき〳〵と【不意気〳〵と】
いふてふまぬ
しろものをきて
□いこ【舞子?】のふりてやつて
みればどんなものが
みてもきついばけもの
とうせいのふりそての
きん〳〵とは大ちがいいきななかへこういふ
なりででかけるはおもへは〳〵ほんの
ばけものといふものは
さりとは
やほでりちぎなものなり

ゆきゝの人みな〳〵ふりかへらぬ
ものはなしてまへのきではばかした
きなれどはけん□れてのばけものなり
やぼななりに
ばけおつたなせ
うろつくの
じや

やれ〳〵
きの
どく


あれ
こん〳〵をみや
どう
しやう

きつねは大ふりそでのしよさごと
でもいつはいくらふものがなし
てまへのほりか【?】うつ〳〵とぶら
つききつねにはかされたやうに
なりいるはたわけなものきん
ねんはゑとへ【江戸へ】はじめてきた
ものもおこはにかけられる【御強に掛けられる(騙される)】
ものはなしばかそう【化かそう】といふは
きついりやうけんちがひなかま
のきつねむかいにきたりつれたつて
かへらんとはなしなからかへればしはわらに【?】二三人
としまや【とうまや?とらまや?】の三升【?】だかをまんなかにおきひつこ
ぬいてもきづかいないわきさしをさしてよい
きげんにてたのしみいればせめてこれでも
けふのしごとにせんと
おもひもしおあいを
いたしやしやうといへば
したじはすき
なりぎよいは【下地は好きなり御意は良し】
よし ゆめかうつゝ【夢か現】
かとよろこび
さへつおさへ
つよねん
なくたの
しめば
してやつ
たりと女

のともあつ
きもちを
あかりいませ【女の供「小豆餅をあがりませ」】
とさしいだ
せはなかに
すばやき
おりすけ
といふもの
こういふ
ところで
あづきもち
とはかてん
もゆかぬ
やつらと
二人ともに
ひつしばる

【中段】
ふりそでにて
さくらのきへしばられ
しんかうき【(祇園祭礼)信仰記】の四段めゆきひめが
あしにてねづみをかいて【足にて鼠を描いて】
なわをときしを

おもひいたしねづみをかいて
なわよりもはらがへつた
ゆへしよしめる【せしめるの意】つもりこの
ねづみはなぜてぬぞ
こま太夫【二代目豊竹駒太夫か?】が上るりはないか
せめてめりやすで【めりやす、愁嘆場で流れる長唄】
しうたんが【愁嘆が】
したい

【下段、台詞】
おれはげこゆへ一つくつた
たれぞげどくは
もたぬか

げろ〳〵か
でそうだ

いまとき
そばきりや
あつきもちで
いゝものか

さあ
どうだ
ちく
しやうめ

きつねがかへりの
おそきゆへたぬき
むかいにいでそここゝと
人だちのおゝきところを
のぞきあるけばもみぢの
すいものほたんのすいものと
あり
うまい〳〵
として
やるをみて
さて〳〵おれか
むかしばゞあ
をしるに
してくつ
たとは
きついちがひ
おらがなかまは
人をあたま
からしほをつけて
くうものが 人に
くわるゝとは
きついちがひと
おそれをなして
ふけゆき
ける

【下段、台詞】
ちとあたゝま
ろうか

かもよりは
ありがたいな

【左ページ】
ばけものなかま
そうだんにあくみ
はてなんでも
かでも人げんにせん
をとられとく【とて?】人の
こゝろをしら
ねばならずいまゝで
のそうだんにねつみ
ばかり一どもてずこれ
は人のいへにすまひを
するもの ことにしそうをさとり
きうそかへつてねこをはむ【窮鼠かへつて猫をはむ】
ねこはばけてもおどりが大きな
こと ねこも人のうちにはいれど
へつついの下へ そさふを【粗相を】
してはなをこすられ
ねづみもめしびつをかぢるゆへ
ぢごくをこし いわみぎんざんのうれいは
あれども大こくさまのおすきとて
もちひられることあり よつてじん
かをはなれずとかくねづみと
そうだんをたのむ

【下段】
みな〳〵の
そうだんにたぬきは
すこしもしあん
なきゆへ
いねむりて
ゐるなり
此ときより
たぬき
ねいりとは
いふ也

きつねはねつみといろ〳〵そうだんをすれば
なるほどおまへのようにふりそでゞも
いまどきあのやうなやぼなことではいかぬ
わしがたなからみていればむかしと
ちがひてきついしやれやう こどもでも
もゝんぢいいつても
こはからずからいといつてもうそだと
おもふなんでもおさだまり
のことではいかずおにむすめ
のしやうじんがでるとじかたにまがへが【?】
でるはかたのをびが二分【?】すれば
七りわ五じ【?】のひきふだが
まはるわしもしか〳〵と
みてゐればおかしい
ことだらけおまへも女がたで
あたりをとるきならば
げいしやといふものをみて
きものゝしゆかうをあんじ
かみかたちくしこうがい
いきなところをみならい
とうせいをおもにして
つうといふみで
なくはいけまいと
おしへる

【下段】
ねづみは
おしへにまかせ
おどりこを二人
たのみにやり
おやしきといつわり
つれゆく
ばけもの
やしき
とは
このこと
なり

ばけものやしきのおくた【さ】しきへげいしやを
とうしけれはすこしのことさへおやこはと
びつくりするものにみこし入どうはじめ
そのほかてしたのものぞろ〳〵といで
びつくりすれば入どうみてとり
おまへがたなんにもこはい
ことはないなんとも
いたしませぬふきやを【?】
みるとおもへばすみ
ますせう〳〵わたくし
どもはぬしたちに
おねがいかあり
とうせいとやらいきとやら
そのあとでめりやすも
すこしけいこが
いたしたいと
くびをどう
へおしこみ
ければやう
〳〵とこゝろ
おちつきみた
ところがとれも
やほななりたいがいに
こじつけんとのそこみ

しつふつなざしき
おゝ
なま
ゑい【?】
より
こゝろ
やすく
おもふ

ばけ
もの
ども
せうじ

すき
より
のぞく
いやはや
うつくしいは〳〵
てんとたまらぬ

【下段】
のこらず
まつさかさになりたのめど
かつはは【河童は】うつむくとみづが
こぼれるゆへてばかりつく【手ばかりつく】

【踊り子の台詞】
おまへは
ぜひ大つうに
してあげやしやう

【見越し入道の台詞】
それは
あり
かたい

【狐の台詞】
みな〳〵あねさんがたの
こわがらぬやうに
しほのめを【潮の目を】
しませうぞ

女げいしや
のさく
にて
ふるめかし
きしゆ
かうを
やめ
とうせいふうの
つもりになりばけものゝ
おやだまさんがいにて【?】入どう
大しまのぬのこをやめ
はをりでもなしじつとく【十徳、医者等の礼服】でも
なしころもでないねづみいろの物を
こしらへ一くせあるふうにしたて
きつね

ひわちやちりめんの三つもんの
たけよりふりそでをながく
してふじいろちりめんのうら【?】
あさぎちりめんのむくを三つ
ほどにとびいろじゆす【繻子】のをび
きりむねのくしにてんひんほう
のやうなべつかうのかんざしをおち
そうに二三
ぶんさしこまげた
のおとをがたり〳〵と
するやうにとおしへ
られそのとをりに
こしらへければ
ばけものであい
きもをつぶし
なるほどこれて
ばかされぬもの
はあるまい
いきな
ものだと
よろこぶ
まづおいらが一日やね
ぶねでむかうじまと
いふやつへいきたい

【猫の台詞】
かつぶしといふ
しろもの
ありがたい

【狸らしき化物の台詞】
かねばこ
きつい
もの
いよ〳〵

むかし
ふうの
ばけもの
すりこぎ
にはねが
はへさかつき
だいや
あんどうの
はけ物
ふるめかしと
とうせい
からわたり
どんぶりの
ばけもの
なんてもいきに
ばけねば
おもしろくなし
まいねんの
はるきやうけんそがきやうたいの
びんぼうでいろおとこかぢはらか
いぢわる

おなじことでもしゆかうが
かはるゆへしんきやうけんに
なりて大入ばけものも
しゆかうをかへて
あてるきは
きどく
なり

諺野暮化物とはぐのつらでもかけると
ほりのめにそげることをしらずしぶいかきを
くうとあまいかきのあることをしらず
しよくわいのあんばいがよければしんだい
にはなるゝをもしらず一つまなこで
こはがればやつはり一つまなこきのふ
だましたことでけふだまされる
べらぼうもないものやう〳〵と
ゆめのさめたるやうにとう
せいにばけるつもりになり
けれども人はてんちの
れいなればあまつち【?】
ではいけずばけものら
しんきやうげんなれば
てまがとれはや
そのうちにひかしが
しらみからすの
こへか
かあ〳〵〳〵
ひうちいしの
おとが
かち〳〵〳〵〳〵

通笑作  清長画

【墨で】
七沢作之進 十四才

花の春上手談義

天明二

花の春上手談義



趣向(しゆかふ)は浜(はま)の真砂(まさご)とはへらず口いつも
替(かは)らぬ□【努にふりがなありのようにも?】ふ趣向を板本の乞(こ)ふに任(まか)せ
じするも何か高慢(かふまん)らしくしたしが横好(よこずき)
一作(いつさく)して新板ものとは不届(ふとゞき)なれども
おりにふれ時(とき)によりては時(はやり)花といふことを
見るに大名嶋(たいめうじま)も常(つね)のしま菊寿(きくじゆ)も古(ふるき)
模様(もよふ)なり飛色(とひいろ)萌黄(もへき)もあるやつなり


ひわ茶(ちや)といふが鶯(うぐひす)□□古きをもつて
新(あた)らしきもまけをしみのよふなれど
年々(ねん〳〵)歳々(せい〳〵)花(はな)相似(あいにたり)松は常盤(ときは)の色まさ
り替(かは)らぬ春(はる)の御伽(おとぎ)にもと葛飾(かつしか)の
翁(おきな)静観和尚(じやうくわんおせう)の下手談義(へただんき)は近来一(きんらいいち)の
読本(よみほん)なり上手(ぜうず)に下手(へた)と卑下(ひげ)されて
下手がじやうづもあつかましくうぬが
口から上手とはおきやあがれまて此方(このほう)

にて又売ものには花(はな)の春(はる)上手(ぜうず)談義(だんぎ)とぞ題(だい)す
  とらの春         通笑述 (印)

附言(ふげん)
通笑子(つうしやうし)が筆(ふで)のすさみ清長子(きよながし)の当世風(とうせいふう)の
画図(ぐわと)とんだいゝのと御子様方(おこさまがた)隅(すみ)からすみ迄
御贔屓(ごひゐき)を松の内より賑(にぎ)やかに御召(おめし)なされて
暮(くれ)の金(かね)といらざることを後に附(ふ)す   文化


  寅歳新板目録奉御覧入候
【上段】
写昔男(むかしおとこにうつして)  通風伊勢者語(つうふういせものがたり) 上中下
道楽世界(どうらくせかい)  早出来(にはかのたんぜう)  上中下
楽和(たのしみは)  富多数寄砂(とんだすきさ)   上中下
敵討(かたきうち)梅(むめ)と桜(さくら)     上中下
ついぞない  金持曽我(かねもちそが)  袋入
追〳〵めづらしき新板差出申候間
おもとめ御らんの程奉希候
【下段】
芸者五人娘(けいしやごにんむすめ)   上下
地獄沙汰金次第(ぢこくのさたもかねしだい)  上下
豆男江戸見物(まめおとこゑどけんぶつ)  袋入
上手談義(ぜうずだんき)     袋入
        作 通笑
        者 可笑
        画 清長
(紋) 永寿堂 馬喰町二丁目 西村屋与八版


【左ページ本文】
こゝにぜんしんぼう【善心坊】といふしゆつけ【出家】ありさけものまず
としはより【年端より】すみのころも【墨の衣】でいまどのさいぎやうと【今戸の西行 という通称?】
いふみなれはおしいほしいのよくも
なければてんねんごかい【五戒】をたもち
されどもなにもしらぬゆへ
百まんべん【百万遍念仏】のおんどばかり
とりせめてしゆつけのみで
すこしなりともせつほう【説法】をと
おもへどもほんの
これかてつほう
     なり
【挿絵内立て札】
 説法
御□御のぞみ
次第御気に
より説申候
  善心和尚
 月日
【挿絵内】
きによりて
ほうをとくもちと
ちやぶくろ
のちゆいで
あろふ



s

さてとみなさまよふごさんけいなさり
ましたときにせつそう【拙僧】は八しう【八州廻り=関東取締出役?】の
おかたがてうもんなされてもだいじ
ござらぬいづれもぬけめのない
そしがた【祖師方?】そしつては【誹っては】くちが
まがりますくちがまがつ
てはだんぎもできずまづ
そこの所はたなへあげておき
ますさて人はとんちのれい
じや人としてちうかう【忠孝?】の二ツ
いわずときかずとこれをしらぬの
しよろまもないものおふやけの【公の】
ごはつとはきつとまもり【御法度は急度守り】ひの【火の】
よふじんかたいせつ【用心が大切】くそふ【愚僧?】などは
ひうちばこへみつ【水】をかけます
こればつかりぐそふ【愚僧】が一ツのじまんで
ござるふるいせりふにきんげんみゝに
さこふ【金言耳に逆ふ】又は人のもふす【申す】ことを
わるふもふす人のきにさかろふては

とんといかぬいけん【意見】がましい
ことはいつかふまふさぬ【一向申さぬ】
かよふもふせはとふか
おつゝけべつたりうち
またかうやく【内股膏薬=節操のない事やその人】おま□
けいはくねいしん
ものともおもはつ
しやろうがしやか
によらい【釈迦如来】のおしへ
のとをりみなさま
のきのとをり
ほふをときます【法を説きます】

【挿絵内】
さんけいの
  めん〳〵【参詣の面々】
そくさひゑん【息災延命】
めい千ねんも
すぎてごく
らくおふ
じやう【極楽往生】


あみだ〳〵【南無阿弥陀】


ときにわかいむすこ
とのゝよしわらへ
いきたかるもむり
ともおもいませぬ
あれかすなはち
ごくらくのてみ
せ【出店】てござるくせい
のふね【「弘誓の船」=生死の苦海を渡って涅槃(ねはん)の彼岸に至らせる仏菩薩の救いを船が人を渡すのにたとえた。】はちよきふね【猪牙舟=江戸の明暦の大火以後、江戸市中の河川などで広く使われた小舟。】あり
九ほんれんたい【九品蓮台】はよつてかご
とうもんか大門口すがゝき【「清掻」=和琴(わごん)の奏法の一つ。】の
をとりおんがくときこへばい□
のかほり八もん〳〵にてちう
そん【中尊=中央に立つ尊像。三尊仏(観音・阿弥陀・勢至)のうちの阿弥陀仏。】にせんせいふたり
かむろ【禿】がくわん
おん
せいし【観音勢至】しんぞう【新造】あまたを二十五の
ぼさつ【菩薩】と
してよふかふありて
むかへ
たまふ
とのほん

たなへ
おう
じやう【後出の「往生」は「をうじやう」ですが、ここも「おうじやう(往生)」とみていいのでは。他の言葉で仮名遣いの乱れがまま有りますから。】
するの
ちや
うそ
をつい
ては
こくらく
をうじやう【極楽往生】は
なりませぬ
よい所じやと
うた
かい
なく【疑いなく?】こしやう【後生】
をすいふん
ねか
 わ
しやり
 ませ

【挿絵内】
たいぎ

はい〳〵

おはかい【お若い】
ちよ中【女中】
も大せい
ごさるか
しづい□【傅いて?】
すいぶん
たび〳〵
みる
がよい
どの
よふ

もので
もはち
まきて【鉢巻きで】
はりこみ【張り込み=悪口?】
をいふ
ものも
たい
へい
らく【太平楽=好き勝手言うこと?】で
わりこみ
もさせぬ
ともすか

はらの
四だんめ【菅原の四段目=菅原伝授手習鑑寺子屋の段】
といふ所ではなみた

こほししせんと【自然と】
なむあみだ
ふつ【南無阿弥陀仏】なむみやう
ほう
れん□【?】きやう【南無妙法蓮華経】
といふきに
なります
しかし
八百やお七は
どくぢや
のなんのと
いへともわるい
ことはみつとなら
はすとできる
ものしひや【慈悲や】
なさけの心
さしはみたり
きいたり
  せねはできぬものでござる

【挿絵内】
かた〳〵
 まいれ


ぐそふ【愚僧】は六十をこへて
しゆつけ【出家】になりまし
たから
おきやうも
ならはす【御経も習わず?】
なんにも
しりま
せぬその
かわりには
さかなの
あし【魚の味】はよく
しつています
うまいやつか
うなきのかは
やき【うなぎの蒲焼】さてたい【鯛】
ひらめ【鮃】ともに
せとさしみに
してはかつを【鰹】か
をやだますへて
のうをか 人に
くわれてじやう
ぶつ【成仏】します

うまいもの
をしてやつて
うつくずを
たすけはつ
がつほ【初鰹?】などは
四〆ても五〆
でもかま
わず百も
たかいとき
くつて
ちつとも
はやく
じやう
ぶつ【成仏】
させるが
かふだい
むへん【広大無辺】の
くどく【功徳】に
なります
  ぞや

【挿絵内】
かつちりは
  ねへよ

どう
しやう
  ね

 

【右ページ】
さてちかごろみますに
すげかさ【菅笠】をひたいの
うへにかぶりてあるか
しやる【「歩かしやる」…歩くようにしている】があれはしごく
よふごさるむかしは
あみだかさ【「阿弥陀笠」=画面右側の人のように、笠をあおむけかげんにして笠の内側の骨が阿弥陀の光背にみえるようにかぶること。またそのようにかぶった笠。】といふ
かぶりよふ【かぶり様】
ふとゝきせん
ばん【不届き千万】あみた
によらい【阿弥陀如来】は
ごいつたい【御一体】
こんなことに
ごとんじやく【御頓着】は
なさらぬがいまの
しう【衆】はかうまんの
よふでもこゝをひげ
してひた
いのうへゝ
かぶるとは
きついつう
なもので
ごさる

【左ページ】
ちうしんぐらともふし
ますしよにやくしじ
二郎左衛門【薬師寺次郎左衛門】がもふすには
とうせいふうの
なかばおり【長羽織】ぞべら
〳〵とやしらるゝはと 【仮名手本忠臣蔵では「当世風の長羽織。ぞべら〳〵としらるるは」】
いかふ【大層。ひどく。】ながばおりを
しかりました
はてあれは
あじなことが
きにいらなんだの
わしらはながいのが
よふござるこふもり
ばをり【蝙蝠羽織=丈が短く袖が長い羽織】はやすくてなり
ませぬそでもずいぶんおゝきく
たけもながくころものよふで
      どふもいへませぬ



つめの
さきに
ひをと
ぼしみた    【爪の先に火を灯し】
いものも
みずうまい   【見たい物も見ず】
ものもくい
たいとも
おもはずよい  【うまいものも食いたいとも思わず】
ものがきたい
ともおもはず  【良いものを着たいとも思わず】
かねばかり
ためる
ものは     【金ばかり貯める者は】
大ごく
上【大極上】の
ごしやう【後生】
ねがい
まづ
さい
ほう
じやうど【西方浄土】の

しう【衆】はおう
ごんのはだ【「黄金の肌」…仏の身体の黄金色の肌。転じて有難い肌、遊女などの肌をいう。】へ
そのひかる
ものをたんと
もつて
そのそばに
いればごく
らくのつき
やいとうせん【極楽の付き合い同然】
しんだところは
たつた六もん【六文】なれど
あとによいものを
たんとのこしておく
ゆへはつものつくし【初物尽くし】の
大ほうし
にあい
ほとけな
かま【佛仲間】のみへはよしふだんうまい
ものをくいつけねは十万おくと【「十万億土」=「十万憶仏土」に同じ。この世から西方の極楽浄土の行くまでにある無数の仏土(仏の住む国土)。】の
なかたび【長旅】の
くいものにもこまらずぼん【盆】にきても
ひやうのよごし【冷卯の汚し?=おからの和え物?】もずいきやい【芋茎あえ】もうまく
くへますを□のはへいぜいなら
わしがら【習わし柄】ねてもさめてもかのもの
をたんとためたすへ

【挿絵内】
そのくらいで
  よかろふ

いわしを
 かつたことは
 ないそうだ

いづれもかたはごぞんじも
こざるまいが三百年
もさきによみといふ
ものがはやり
ましたかるた
といふもの
それたこのもや
ふ【凧の模様】になど
あるもので
ござるその
かるたがみだ
の四十八くわん
をひやうし□【も?】
四十八まいこ□【れ?】
をなぐさみに
いたすをおきやう【御経】を
よむともふし
そのなかに
しやか【釈迦】もいつ
たい【一体】まします
しやかじに【釈迦死】
ともふすが
ねはん【涅槃】の
こゝろしやか
て一トやく【役】に
なれはごたん

じやう【御誕生】にて天上
天下てんにも
ちにもわれひとり【天にも地にも我一人】
だん十ろう【団十郎?】とよふ
すへもしやかゞは
いりますそれ
ゆへだんぢうろう【団十郎?】
をおやだまともふし
またすこしつゝ
はこへぜにをいれ
るをてら【寺銭のこと?】といゝ
ますいろこそ
かわれむかし
からごせう【後生】
ねがひもたんと
あるものて
   こさる

【挿絵内】
八のあたり

によにんじやうぶつ【女人成仏】うけやいと
もふすところをといてきかせ
ましやう
このよふに
たんぎまい
りにつのを
おりにござる
にもおよび
ませぬやつ
はりうちに
いてかんきん【閑吟?】
をしなからも
こゞとちやを
のみながらも
がみ〳〵とつい
にはよめ【嫁】もいば
りだしあの
おふくろも
やかましいと
人がみます
みるはこせう
みしるしは
いんぐわ【因果】

このよて【この世で】
いんぐわを【因果を】
はたすゆへ【果たす故】
それでこん
とのよは
こくらく
しや【極楽じゃ?】そん
ならばよい
ものはきつ
いむた【無駄】じやと
おもはしやろふ
がそこはこく
らくもじよさい
はない【如才はない】一人も
もらすまいと
いふがみた【弥陀】の
ほんくわん【本願】たいふ
の二三へゆるもの
□□た〳〵あたり
かむかふさしきか
わりこみにして
なりともごくらく
おふじやう【極楽往生】はうた
がいはござらぬ

【挿絵内】
妙しんさん
おあかり
 なさり
  まし


ときにおんなと
いふものはとかく
うたぐりのふかい
ものでござる
なにをもふし
ても【申しても】うそのよふ
におもわしやるが
うそをつけば
ゑんまさまに
したをぬかれ
ますしたを
ぬかれますと
ちがすさまし
くてます
いたふござる
ものがいわれ
ませぬとふしてうそか
つかれるものでござるごく
らくもたいていきのつくことでは
ござらぬこともは【子供は】はすのはの
うへも【蓮の葉の上も】あぶないからさいの

かはら【賽の河原】ていし
をつませて【石を積ませて】
あそばせいつ
たいがあたゝ
かなところ
ゆへなつふゆ
はらかけ
ひとつで
おきます
またとしを
とつてもによう
ぼうもたぬものは
これもさい
のかわらへ
やりこどもの
せわやきにします
すこしも
うそはござら
ぬうそをつけ
はかのゑんま
 さまじや


ぜんしんがせつほう【善心が説法】
おもひのほかの
大入にてこのほか
おくふかきことを
まふさば【申さば】みなさまの
ごきげんをもそこ
ないぼうづかにく
けりやけさまで
にくい【坊主が憎けりゃ袈裟まで憎い】といわれぬ
さき百日のゑかう【回向】の
おりからとふいふひやうしか
とりはづしぽんといつ
たるそのおとは玉や〳〵の
ごとし百日のせつほう
へひとつとおふわらい【大笑い】にぞ
        ありけり

【挿絵内】
これは
ごめんだ

【左下】
清長画
通笑作

【朱印】
江戸四日市
古今珍書絵
達摩屋五一


【裏表紙】

草紙の曙

208
特別
243

【題簽】
《割書:舞|謡》草紙乃曙   全

【書き入れ】天明三

208
特別
243

【題簽】
《割書:舞|謡》草紙乃曙 《割書:豊里舟作|清長画》 三冊

はねとはころもを
とりちがへられしゆへ
ひたちぼう大ぞん
なりされども
きうこよう
なれバはころ
もでまをあわ
せゑそへきたり
そうじやう
ぼうよりの
こうぜう
ならひにしん
もつをひろふ
しけれバ
よしつね
こうにも
御よろこび
あつていろ〳〵
ごちそうなされ
     けり
【図中の言葉】
くらま
にもおか
わりもなしかの

うしわか
じぶんか
ますれ
どもは
ばけ

てんとミハ
りうぐう
よりをん
とももふし
この所へ
きたり
ありける
がひたち
ぼうの
はころも
をミて大
きによろ
こびさす
がそれ
しやなれ
バいろ〳〵
あやなし
さけに
よわせ
ころも
をとり
かへす
てんに
いつわり
なき
ものを
とハ
いへとも
いまどき
のてん
にんに

だんの
ならぬ
もの
なり

「ひたちぼうハはね
をはくりうにとら
れたのミに思ふはごろ
もハおとミがちゆうとう
にかゝりはねなきとり
のごとくなり
【図中の言葉】
おいや
ならおよ
しな
さへ

ナニサ
おれへの
おしやく
ならいくらでも
たべやす

むけんのはねも
ふるしはねどう
したもんだナア

かくて
はく
りう
ハしつ
かご
ぜんを
とも
ない
よし
つね
こうに
さs8
あいえ
つぎ

ひた
ちぼ
うか
なげきを思ひはねをかへし
あたふれバよし
つね
こう
にも
御よろ
こひなされごほうび
としてあそのミやのかん
ぬしにはくりうを
おゝせつけっれてんとミを
やとのつまに下されける
はね
をかへし
あたふれバ

たちが
よろ
こび

かた
なら

くらま
へかゑる
しかし
おとミに
ちやにされ
なこりのうたに

はねハとる
くらまへかへる
 そのなかにてん
とミ
われに
つれか
 かるらん

【義経の言葉】
おとミぼう先へ
のほつて一せう
まミゑい
をおそう
よりト
かいにいて
かね付かほ
なをしといふ
所がましだ
   ろう

【静御前の言葉】
御久しぶりでわかぎ□【墨の汚れ】
さまのおかほを
□した アヽうれしい

【白りう・お冨の言葉】
ありが
とう
ぞんし
ま□【以下破れ】

よし
さ□【以下破れ】

はくりう
おとミハよし
つねこう
御なかうど
にてむつま
じくその
うへあその
ミやのかん
ぬしとなる
こと人の
くハほう
ハしれぬ
ものなり
こんとおミや
ごふしんに
つきはく
りうが
あんしに
てわれと
おとミかなをとり
はくりうどミといふ
を初ける三両
のふたが
とう
じつ
より
ミるほど
まへにうれ
きれ大の
かねもふけ これハマアうけに
でもいつたそふだ

「おとミハかぐらどう
にてゑての
ぶぎきょくをそうし
けるまことのてん
にんをミることなれ
バわれも〳〵とくんじゆして
百とう十二ものたから
をふらせおとミにこれを
ほどこし給ふ

【図中の言葉】
おやしきヲ
ミな
さへ

このくらい
 うつくしい
    ミたことな□
  女郎にあろふ□いう
         かほだ

なるほと
よくうれる
  ことだ

アヽ
とり
たいな

あそのミやこふしんじやうじゆ
しけれハなをこのうへの
あるべきとてはくりう
ハおとミをともないふる
さと高さこへきたり父
母にたいめんしふうふ
もろともこう〳〵を
つくしける
「高さごの
ちゝはゝアハ
いままでの
ほうき
くまてに
ひき
かへて
ひた

うち
わの
たの
しミ

かミ
こと
□□
□の




豊の





目出た
けり
〳〵

【白りうの言葉】
おやし
さまをむ
かいにまいり
ました又
これなるハ
わたくしが
さいでござり
ますをミ
しりをかれ
ませう

【父母の言葉】
アレ〳〵
久しや〳〵
まつそくさい
で何より
もつてよい
ハ〳〵

うれしや〳〵
アレ〳〵
かわ□
□□【破れ】

【右丁】
八まん大名のしつけんしよく太郎くバしやハ
はるのよのつれ〳〵にはころものくせまいを
うたいわれしらすいねむり
しが舟弁慶のありこと
色にひかるゝてんじよの
たハむれことをましへ
てゆめミたことを
そのまゝに御子さま
かたの御わらひ草
にもせんものと
高さごのまつの
色かへぬしゆこうを
うつすこと
 あのとをり
【右下】
豊 里舟作
【左下】
清長画

【左丁】
そも〳〵これハ
ミほのまつハらに
はくうりうと申す
ぎよふにて候われ
おもハずもてんにん
のはごろもをひろひ
とミざわ丁へミせ候所
何のやくにたち申さぬ
ものゝよしにて候あいだ
なにとぞこのぬしをたづね
かへたばやとぞんし候
とんなに申し候がたんと
でハおしのてがミを
見たようふでねつから
さへやせんちよつと
くだいていわふなり
ぢいろにあきててんにん
をはつてミ るこゝろ
     いきさ
【白りうの言葉】
これをきて
てんへぐいのぼり
いろをしらふなりチツト
やほらしいが
そらいろの
   ことだ

【右丁】
しかるにげつきうでんの
ありさまハむかしとハ
大ちがひにてくハげんの
道具もミすしのいとて
しまいせうひちりきハおつりきにしやれのめし
あじなせかいとハ成ぬ
てんにんのうちでも
おとミといふなとり
ものこのごろ
はごろもを
どよ
うぼしをしてより
ゆくへしれずとなか
まのてんにんをあつめ
そうだんする
「しかしてんにんにおとミ
おたミ
とや
げんほ
りめいたなハあるまいと
いふ人有
【左丁】









ちが
いが
はやれハ
これも
ないこと
でハなし

【右丁、お富の言葉】
おたミさま
どうせう
ばか

しい
いつ

下かいへをりてたづね
よふと思ふよ
【同、お民の言葉】
そうたあのひわちやの
はころ
もハ
よくおめい
ににやつた
ものを
おしいことをしたの
【左丁、天人の言葉】



さん
こま
つたもん
だわりい
てうし
だぜ

【右丁】
ミなもとのよし
つね公ハこのかミ
よりとも公とすこ
いざこざのきミ
にてきうしうへ
おちたまふとてをん
ふねにて大もつの
うらを御とをり
ありときにとも
もりのゆふれい
をんむかいに
あらわれ
りうぐうへ
御とも申
けるこれハ
あんとく
てんわうを
たすけられし
へんれいなり
【義経の言葉。右丁から左丁にかけて】
ともさまハ
ごしゆが
すぎたか
して
をあしが
又ひく
しほに
ゆられ
ながれた
【左丁。知盛の言葉】
ずつときをかへて
りうぐうへいき
ミんたん

ぎけいさん【義経さん】
ちつとわつち
どもがいる
りうぐうへも
つきやつてミたが
      いゝ
     とんだ
     ことだ
       よ

【右丁】
よしつね公はとももりの
すいきよにてりうくうへ
きたりたまいりう人と
ちかづきになりたもふ
このよでつうじんといふ
よふなものでりうくうで
もしやれたものをハりう
じんとなづけるももつとも
なりさりなからりうじん
つきやいにハかミのうへいせう
てあしまでかねづくめで
なけれハゆかすとかく
りう人にハかねをつか
わねばなられぬ
    ものなり

りう王ちんきやく
をよろこびいろ〳〵
ちそうし給ふ モシぎけいさん
ほかにけんじますものも
ござへせんが□かなのめ□らしいと
いふところばかりさ

【右丁の知盛の言葉】
「八しまだんのうらのつぎハ
ぐいながしこれからしん
つきあいがかん
〳〵じん ハア
うつてをけ
しやん〳〵
祝て
ミた
しやん〳〵
【右丁右下の言葉】
ゆふれいといふものハさて〳〵
きのつまつた
もんた

【左丁】
わたしがまいも
だしのうえといふ
よふでさへやせん アヽこふ
ゆふところをて








でも
させ
たら
よか
ろふ

おとミハ
はごろも
せんぎの
ためしら
ひやうしと成
もとがてんにん
ゆへまいことハ
をても
  もの

【右丁】
よい所へてんとミ
きたりし
ゆへよしつね
公きやう
あふの
ためどう
しやうし
をすゝ
めて
おどら



〳〵


しげいをだし
てしたかた
をつとめ




わぎ

【右丁右下】
よしハらのはるのゆふぐれ
きて見れバ□□あいの
さけにはなやちるらん【元歌「山寺の春の夕暮れ来てみれば入相の鐘に花や散りける」】
アヽ
  いゝこへだ

【左丁上側の言葉】
べんしうハ
きつ
いもの
  た

おとミぼうが
てうと
いゝ所へ
きた

こういゝ
つがふもねへ
   もんだ

「つんと
した
所が
たか袖か
すがた若づる
かをもさし
有がてい


【下方の右丁から左丁へかけての言葉】
せうぼりにやぐらなか丁
□□ぼうにしながわ
しんめいさいほうによつや
しんじゆく北ほうにハ
高道よしハら大つう

【左丁下側の言葉】
ふつうの
ちからを
あわせて
いのれや
いのれ
このかね

ふなべんけいに
いのりかないかハり
こんとはねんをいれて
いのりませう

【右丁】
よしつね公
りうくうにい
つゝけもなり
かたく
ゑそへ
わたらんとおゝせけれハりうしんとも
もりそうだんのうへいろ〳〵たから
ものを
はな
むけに
いたし
けるとも
もりも
さるものなれ
ハてんとミを
はなむけがてら
ゑぞまで御見
おくりにつかわし
      ける

【竜王の言葉】
たまて□【破れで字数不明】
こを□
じま
せ□


よつ
とふ




たと
きを
こま


ござりませう

【義経の言葉】
これハごてい
ねいなありかた
やま【ありがた山。ありがたいの洒落】といゝていか
こゝハうミた

【左丁】
はくりうハはごろもを
てんにんにかへさんと
しよ〳〵をとひあるき
じんよりのゑにきたり
せう〴〵にあい
しがせう〴〵
もはくりう
とハうたい
ともだち
なれバ
わかやへ
とものふ

【白りうの言葉】
せう〳〵
ごうわさばかり申しやした
【猩々の言葉】
これハせんせいをめつらしいどつ
ちへのおほしめしだそして
こう

なり

やつ




いふふうた

【右丁】
まづ
せう〴〵
といふ
ものハ
によう
ぼう

あり
それ

から
こも
あり

さき



るゝ


じん
ろく


【左丁】
なづけ
ます
せう〴〵の
じん
ろく
とハ
このこと
なり
はくりう
ハ二三日
とうりう
せしが
さかもり
のながいと
せう〴〵
まいに
あき
はえ
そのうへ
のぞミのある
ミなれバほかをたつねんと
     いとまごひをする

【右丁の猩々たちの言葉】
おつかさん
これがほしい

こぞう一ツ
まつてをミせもふ
せそのかわりとおとゝ
をやろう

おぢさんが
をかへりだ
じんろくおじ
ぎをしや
   よ

【左丁の白りうの言葉】
これハごちそう
になりました
せう〳〵さまへ
     の
をいと
まごひ
   で
ござり
  ます

【右丁】
このたび
よしつね公
ゑぞへわたら
せたまふよし
くらまさん
にてそう
ぜうぼう
きこし
めしむかし
のよし
ミすて
をかれ
づと
くわい
ぜうにて
しよ〳〵の
てんぐを
あつめたまふ
ひこさんのぶぜんぼう
いづなの三郎ふじ
太郎あふミねの
ぜんきが一とう
【左丁】
そのかづ三万三千三百
卅三人なりてんぐと
いふものもなか〳〵
たんとあるものさ

いろ〳〵そう
だんのうへ
そうじやう
ぼうハご
ろうたいな
れハおでしの
ひたちぼう
をかわり
にゑぞへ
つかわ
され
  ける
【右丁。そうぜうぼうの言葉】
こんどよし
ぼうがゑぞへの
とうどりに
なつ
たそう

ミねいかほも
なるまいちよび
としたしんもつ
をそへて
いかひ
でもやりませう

【右丁。ひたちぼうの言葉】
とかくとり
せいハせうのもの
をせりといふ
所でござります
【左丁。続き】
たん
ものや
ひだ□
ばこ

どう



かさ
ばつ




せん

【右丁】
ひたち
ぼうハ
くらま
さんを
たち
いでゝ
ゑそが
しまへと
おもむき
ける
ミちにて
はくりうに
てあいこゝろ
やすく
なつて
よき
ミち
づれ

【左丁】
なれバ
とて
とも
ない
ゆき
けり

【右丁の白りうの言葉】
わつちハはごろも
おめいハはねとんだ
いゝつれさマア〳〵
はなしながらとび
やせるこう二人り
ならんだ所が
はねと
〳〵の
かゞミ
  山

【左丁のひたちぼうの言葉】
あゝはねが
くたびれた
ばか〳〵しい
おれがはな
よりながいどう
ちうだ

いゝこずへ
でもあればいゝ
おやすミ所と
したい

【右丁】
こゝに
しづか
ごぜん
ハよし
つねこう
ミやこをち
のおりより
おわかれ
ありて
山おく
にかくれ
すミ給ひ
ける所へ
はくりう
ひたち
ぼうハ
大ゆきに
こまり
いちやの
やどを
ねがふ

「なねもちの
どうちうハ
はやいもの

【左丁。続き】
ものなれどゆきふり
などにハはねか
こほりついてていかん
ものなりなんでも二ツいゝ
ことハないものなり

「こうした所ハはちの
きといふミたひたち
ぼうゆきをかきを
としなんどハ
とうた□□
かさがあると
もゝよをして
をめに
かけうか
これ
でハさまよも
    てない

「よくしやれるの
むだをいわすと
マア一やのやとをたのむかいゝ

それからしづ
かをいゝくるめ
いちやのやとをかり
てはくりうハしつか
ごぜんのおんミのうへを
きゝこのしろものをよしつね公
にてわたしすれバいつかどの
ごほうびなちとひたちほう
をねこかしにしてしつかごぜん
をともないたちのくあまり
うろたへしゆへはごろ
もとてんくの
はねをとりち
がへしハそゝう
なり

「なんとおはん長右衛門ハ
どうてごさります

  しつかりをんぶ
  していなよ


208
243

208
【印「特別」】
243

蟹牛房挟多

【図書ラベル 208 特別 633】
《割書:かみさん|内にか》蟹午房挟多 完

《割書:|天明元丑》三十九番
《割書:   南|》
【図書ラベル 208 特別 633】
             三
             十
             九
《割書:かみま|内にか》蟹午房挟多《割書:通笑作|清長画》三冊

比はもゝくり
三ねんかきの
八月の事なりとよ
さるはかきのたねを
ひろいけりこれは
ずいぶんありそふな
ものなれどもかにが
ひろいしやきめしは
つまらぬものしかし
こしべんとうからでも
おとしたものかしらず
そのやきめしを
かきのたねととりかへ
ひろうくらいのこんじやうで

かきのたねととりかへるも
おかししたゞし
やきめしがすへたかも
しらずあんずるに
さるがどうでも
はなつぽろと
見へけり
【二重丸印:IMPERIAL LIBRARY/帝国図書館】
【二重丸印:図/明治三七・五・三〇・購求】

ひとつ
むいて
まいれしかし
はさみては
むけまい

かにはしごく
りちぎものにて
さるととりかへしかきのたねをうへけれは
たいぼくとなりて八ねんめにおびたゝしく
なりけりきさまととりかへしたる
かきのたねことしはじめて
なりましたと
はなしけれは
さる見に来り
わしがきのぼりは
ゑてものもいで
やりましやうと
うまいやつはうぬが
ほうへしよしめ
かにゝはしふい
やづ
ばかり
さつける

きさまの
やうに
はてはむけぬ

さるはかにゝ
しぶかきを
あてがふのみならす
むしやうになげ
つけ
かにの
こうらを
うち
こわし
たる事は
日本
こくちうの
御子様かた
ひとりでも
おしり
なされぬは
なしそれより
かにはたいひやうと
なりけれは
こゝろやすき
もの見まいに
きたりける
今のよの中とは
ちがいこの
ぢぶんの
【右頁中段】
だれか

ました
【右頁下段】
このころもかになどは
おごりものと見へて
きやうそくにもたれ
いる今どきの
かになどはきやう
そくなどは見た事も
なししかし
むかしのかには
□つくへは
見た事は
ある
まい

【右頁上段の続き】
つきやいは
あじな
でやい
にてかにがうすやきねとつきやい
はちなどのとりやわせ
うたくつて見れは
うそらしけれとも
三百五十になるとし
よりの【三百五十才になる年寄りの?】
はなし
すい
ぶん
こゝろ
やす
かつ
たと

いふ
事成り
【左頁下段】
うす
きね

たり
つれ
にて
見まい
きたる
これは

きやう
だいふん
なり

かにはひやうきもほんふく
してもとかくくちおしく
おもひいしかへしをしたく
ともたちをよびあつめ
そうたんすればたまして
さるをよぶかよかろふ
いるりのそばへ
よると
くりと
たまごか
はねだしやけとをして
ぬかみそへてをつゝこむと
はりがはいつているきもを
つぶしてにける所を
うしのくそとあらめで
すべらせところへうすが
はつたり
おち
きねであたまを
はりたをす
こゝをしきつて
こふしめとて
本蔵もゆらの介も
そつちへゆけと
つかもないはかり
事なり

いつはいたべたら
むしやうに
しやうべんが
したい

しやうへんを
すくし
おもらい
申たい
ちと
ねりやくを
いたす

【左頁】
みな〳〵のせわを
やくにつけてもかにと
いふものはよいもの
なり

さるはかにが所より
ばんにはなしにござれと
いわれひるのうちより
だのしみはかり事の
ある事はゆめにも
しらずずいぶん
ぢよさいのない
ようなれど
さるりこうとは
よくいふたものなり
かゝる所へくらげ
来りけり
二人のせんぞ
こゝろ
やすく
さるが事にて
くらげはおふかぶり
おやのことてむすこのくらけも
おしやべりにてこんどのさるが
いかさまにおふ事あらめゝが
くちかすべりしをきゝかぢり
りうくうよりおしおくりにて
ひとはしりに
来り
さるに
おしへけれは

ひつくりして
きもをつぶす
さるといふものは
きもに
たゝるものと
見へたり

さるはくらけがしらせにおとろき
女ぼうむすめ二人つてれにて
かけおちなんのかのとて
やくにもたゝぬものまで
ひとふろしきこれを
さるひきどうぐといふなり
かけおちしてほかの
所ではとせいも
てきまいし
とかく江戸が
よかろふと
こゝろづき
それぞといふあても
なしにこきやうを
たちいでけり

くたびれたら
しみづでも
のみやれ

【左頁】
おやこ三人にて江戸へ
おちつきもしやはんくわの
ちゆへたづねてこまいものでは
なし見つけ
られては
かぶ□□□【じまい?株仕舞-まったくの終り】
なり
むかしも
さるためし
あり
佐次平と
いふもの
しこくをめくりて
さるとなる
もしさるにて
めぐりたらは
人にもならん
かとおもひ
女ほうに
むすめを
あづけ
じゆん
れいと
なりて
いで
けるそあわれなり

きやつ
〳〵
〳〵

けがでも
せぬやうに
そだてゝ
くだ
され

むかしよりさるのかたきをうちしよふにおもひしが
とんとりやうけんちがいさるはかけおちしてしまい
かにはいよ〳〵くちおしくおもひ
ほう〴〵たづねあるけども
とかく
人よりは
よこに
あるく ゆへ
らちが
あかずたれが
こゝろもおなしに
まづ江戸□
こゝろがけうなぎか
所へたつねつき
けり
【右頁下段】
まづはいつて
したのあしを
あらわしやれ

【左頁】
うなきが女ぼう



うなぎはふかかわの
きばにきれいなる
すまいにて
そふおうに
くちもきく
もとはぬらり
くらりと
したものなれど
ふか川で
もちい
られ
うまいものゝおやかたとなり
かにかたづねて来りしゆへ
ぐつとのみこみまんねん
はしにいるかめどもこゝろ
やすけれはしらせてやり
かにがいちぶしぢうをきく
なんのかけすかまわぬ
うすやきねや
うしのくそまで
そのやうにせわをしたに
事にさるにはいしゆも
ありおやじのかふらが
いまてもとようかんには
【右頁下段】
わたしは
すこし
のみますと
あかくなり
ますがさだめて
かめしるしは
いまでもあかるで
あろう

きつい
もんで
こせいす

【右頁上段の続き】
いたみ
ます
ぜひ
かたきを
うたそふと
ちからを
そへる

このころは
ます
そうは
とふだの

すさきの
ざるでも
とり
ませう

さるは女ほうむすめを江戸へおき
けれはかせいのものにてすゝぎ先たく
ものなぞしてむすめをそだて
ゑんをもとめて両こくよねざは
丁八丁目にたなをかりきんじよに
うつくしきげいしやありて
けふはおやしきあすは
ふねへゆくととりかへ
ひきかへおふふりそで
ぎんむねのくし
てん
びん
ぼうほどの
へつかうの
やうしかふがい
うらやま
しく
おもひ
おやの
よくめに
十人なみと
おもひ
ふじま
中むらの

【右頁上段の続き】
りう

では

けれ
ども
おどり

なら
わせ
おやしきは
おんまや
ふね
ゆさんに
だし
かけんと
けいこ
させる

あぶらやの
ひとり
むすめに
おそめとて

あねさんころび

さん

さるはとうやら
こふやら
げいしやと成
すゞみぶねで
かねをもふけ
はゝをらく〳〵と

すこしおとこの子より
むすめがよいとよろ
こびけりかにはさるを
たつねんとおもへども
てがゝりもなく
かめにすゞみに
ござれと
すゝめ
られ

せなかへ
のせていで
けり

せんせい
よしのを
見給ひ
うつくしい
のが
ある

【左頁】
むかしはさるをのせ
こんどはかにをのせる
いんねんといふものは
あじなもの
なり

かにはすゞみにいでさるの
おどりを見ておや子とは
いゝながらおもざしが
そのまゝもしやかたきの
むすめにてはなきかと
両ごくよりあがり
うちへつけんと
まなべかしといふ所の
いしかけのきわを
いつたりきたりまちければ
ふねはやなぎはしへつき
うつへつれかへり
けるをはゝざる
むかいにいてける
かほゝ見れば
かたきの
女ぼうゆへ
よろこび
かへりけり

此やねぶねは
おふやさま

あねさん


【左頁】
かにはかふらに
にせてあなを
ほるとは
よくいふた
もの
むすめの
おもざしにて
おやのあり
かをしり
うなぎかたへ
かへりかたきを
うたんと
おもへとも
さるはかねて
きのほりの
めいじん
なか〳〵
あまくちでは
いかずとふしたものと
そうだんすれば
むかしよりさるがしりは
まつかいなごぼうやいて
おつつけろといへとも
ついにごぼうをやいた事
はりやうりにもなし
ねんしんはせきの
くすりにやく事も
あり

ひつかき
おると
わしも
はさんて
やり
ます

かには三人よつてももんぢゆのちゑもでず
さるのしりにごぼうといへはまづきらいとおもひ
やく事はいろ〳〵せんぎしても
とんとしれずなまなやつを
壱ほんもちさるが
かどぐちにまちかけ
いれば大ぜい子ども
見つけかみさん
うちにか
かにがごぼう
はさんだと
はやしけり
それを
のちに
かにが
ごぼう
はさん
だと
いへは
あじに
どく
ぐちの
やふ

きこ
【右頁下段】
かみさん
うち
にか
かにか
ごぼう
はさん


かみさん
うち
にか

【右頁上段の続き】
ゆれども
ま事は
かみ
さんに
見ろとて
しら
せし
事成
そふ
あり
そふな
ものなり

さるが
女ぼうおもてにかにが
いる事をしりてうちへいれ
おつとの
やうすを
はなし
たん〳〵
あやまりにて
ふうふも
わかれ〳〵
むすめを
わたしが
そだてました
二人の
もの


めん

なさ

おつとが事を
ごりやう
けんひとへに
おねがい
申ますと
【右頁下段】
かにか
こぼう
はさん
だの
かに

もゝを
はさん
だと
人のわる
くちには
いへども

【右頁上段の続き】
むしやうに
かにを
あや
なし
さる
ものとは
この女の
事なり
かにも
たん〳〵の
よふすを
きゝにくい
とはいふ
ものゝ
かわゆい
子をすてゝ
にけるくらいの
事もとこゝろ
やすき
から
おこりし事
此うへはかへりしだい
わぼくせんといへば
はゝもむすめも
よろこび これより
こゝろやすくなり
けり
【右頁下段の続き】
これは
どふか
しれ

ばんじの
事おす

おさ
れぬ
ものさるは
しこくをまわりて
人となりさつ
そく女ぼう
むすめをも
たづねるはつ
なれども
かにかよふすを
きくかちと
すかたをやつし
しをからこへなれ
どもすこし
うなりぢうぶん
ゑらいきで
げいしやになり
まる
太夫と
つきそのきでは
ある
まいが
【右頁下段】
いつはいなる
かをたがの

さか
しを
にも
よい
ます

【右頁上段の続き】
さる
まる
太夫も
おかしし
たて
くふ
むしも
すき
〴〵
げいが
よくて
いそがしいも
あり
げいか
わるくても
おかしいで
はやるもあり
うつくしいも
ふとつちよやうも
うれるりくつと
おなし

なり

いふもんた

さるはよふすをきゝだし今ではかにがせわをすると
いふ事きゝ大やきもちにてぐつとふんごみはらを
たちしかほにもちまちまいのさるまなこ
すこしてまいも今はいき人のきになり
よいさいわいにしてかにゝおつゝける
つもりかにがさるにごぼうをもつて
かたきをうとふといふはこゝろいちがい
むかしもこふいふ
ためしもあり
むづかしい事をしりといふうそも
まつかなうそといふさるはごぼうしり
りんきをやくといふうぬがあきた
女ほうをかにゝおつつけるこゝろ
さるがしりはまつかいな
ごんぼうやいておつつけろ
此りくつはこれでさらりと
わかりしなり
【右頁下段】
おれが女ほうを
さるといふては
わからぬゆへ
りゑん
するぞ

かには
きの
どく
かりて
あたまを
かけば
人のてかと
おもひて
はさまれる
〽いきなおとこに
なつたとおもつて

【右頁下段の続き】
たいへいらくか
いけ
すか
ねえ

かにはむじつのなんをいゝかけられ
けれどもしやうじきのこうべのうゑに
かにやどるさらりとわかり今さらさるも
かほをまつかにして是まての
事をたん〳〵あやまり
またそのうへに
かにがせわにて
ふうふの中も
なをしたがいに
中よく
さかゑけり
御子様方の
おはなしに
さるのかたきを
かにがうちしとは
あふまちがいなにがな春(はる)の
おんなぐさみにじつせつをさがし
いたし御らんにそなへ奉り候
千秋万歳つるかめさるかに
めでたし〳〵       清長画    通笑作

【右頁 雲の絵の書き込み有り】

【左頁 図書ラベル208特別633】

虚言弥二郎傾城誠

安永八

虚言弥二郎傾城誠《割書:通笑作|清長画》三冊

大阪に与二郎兵衛と
いふものありそのこに
弥二郎といふてしやう
とくりちきにて
江戸へとせいに
来りつきじへ
たなをもち
のちにてつほう
づ【鉄砲洲】へ所がへしけるがこの男の
やまいにてなんのやくにもたゝぬ
事にもうそをつくがくせにて
たいかい人もしりみな〳〵うそを
つきじとなをつけけりのちにてつ
ほうづへこしけるゆえいまはうその事を
てつほうといふなり
うちのまへがじきに
川なればまい日つりを
たのしみ
壱寸ばかり
のはぜをつり
ても壱尺ほと
あつたといふ
うそつきなり

【通行人の台詞】
なんそ
くいます


【弥二郎の台詞】
つがもなく
あたり
ます

【右ページ下、本文】
弥二郎はきんしよの材木や
のむすめをなかふ
とくちにかゝり
やふすをはなしに
来りのみこませける
さきは二十が所の
家持だいいちむす
こどのがはつめい
あきないにせい
だしそのうへうたい
でもつゞみでも
人からはよしおふ
くろさまかけつこう
じん【結構人】あちらをむいて
御出なされといへば三
ねんても四年でもむい
てござるおいてなされは
おしやわせしはいは
三けん
なから
ひい



【左ページ上、本文】
ふたおや
ながら弥
二郎がだい
のてつほう
とはしらすうまいものゝおやかたと
おもひ五百両じさんのつもりにて
そふだんきわめるいませけんにて

【左ページ下】
まい月二けん
できて
ころふ
しろなん
ても
おまへ
のすき
しやと
あやなす

【盃を乗せたお膳の上】
なかふ
とくち
といへ
とも
【お膳の下】
なかうとのみな
うそをつくには
あらすこの弥二郎が
なかうとよりいふなり

【台詞、右ページ中ほど】
もんちり
めんのはらい
ものをおとり
なさらぬか
弐分づゝ
じや

【女中ので台詞、左ページ左下】
御そうだんか
きまつた
そうだ

弥二郎せわにてむすめをかたつけしか二十か所のいへもちとは
そのとなりの事あふきなやくそくちかへともむこの吉兵へ
【ここからかすれ、別摺りにて補う】
りち
きも
のにて
それ
かしや
すむ【?】

□つ
たんやり
もの
【ここまで】
とりかへす

いふ


なし

事に吉兵衛も
おしうしゆへよろ
こひかるき【軽き】所へ
五百きんの
【左ページ吉兵衛の尻あたりへ続く】
じさんゆへ
たん〳〵いへ
とみさかへ
ける

【台詞】
わた
くしは
ごぶさた
ばかり
まだおたつしや
な事じや

【左ページ上、本文】
おはなはかるき所へかたづけ
ともきりやうほとこゝろも
よくはゝをたいせつにして
五百両をかをにもたさす
すこしのじさんにておゝきな
かをゝするものにこのおはなを
みせたき
ものなり


弥二郎はなかふとのあふしことをこじつけ
れいを五十両といふものしよしめそのかつ
たるさかなをもらいなかやのものをよび
ふるまいけるかまたやまいのはなしをは
しめる江戸なそではかもかたかうござ
りますがわたしかくにからまいるときゑち
ごでみまし
たがおふ
きないけ
にかもの
いるとき
ふるいすげ
かさをなげ
こみます
かもか人かと
おもつてとんで
ゆき見れば
人てはなし
それからかさを
五かいも十かい
もなけこめ
ともとはす
にいますそ
れからかさを
かふつていけへ
はいれは□□【かすれている】
かしよての
かさだと
おもつている
所をとつて
くひをねぢ
りをつては
ねちつて
おかへなける
あの
やふに
しを
とり


ます【?】
日に
ひとりて
五十
はも
【ここよりかすれと破れ。別摺りにて補う】
とるか
もつ
かも
なく
やすい
とてつ
ほう
ましり
にはなしかける
【ここまで】

【弥二郎の台詞】
わたくしは
まへには酒の
五升や
七升
のんては
なんとも
なかつたいまは
よはくなりました

【台詞】
はてなア

そんな所へ
ひとふゆゆき
たい

□ふかこれは
つきじらしい

かもても
なんても
人のちへ
には
かな
わぬ

弥二郎はすこし
もふけてきん
〳〵とたのし
みよしわらへ
ゆかんと
つれをこし
らへとふ
ざんし
たてに
あをちや
つむぎのはをり
くりと
のみこむ
ふうにて
くろき
なり
はかたの
をひをいちたんぬけしは
しよかつこうめいくすのき【諸葛孔明・楠木】
このかたのはかりことなり

大さかへのほりなさつ
たらしんまちでわた
しがなをきいてみな
さいたれてもしらぬ
もの

ない

中の町は
はやく
しや
しやう

きかうのがとめたて【?】
てまどり
ました

【破れあり。別摺りにて補う。ここから】
じん五兵へとの
むつはんに
まいり
たいの
【ここまで】

みどりや
いまゆくと
いや

「おなかさんみせの
こしばりをさせて
あきやうとんたゑを
よくかくものかある
なんとこのころ
まつさきといふ
所はとふだの
一日しやれよふ
ではないかの

おい
らんのが
はやく
おいで

なん
しと

【左ページ台詞】
どこぞへ

ゆきなん
すへ

ずいがへりさ

むかう
の人引

なんといまは
大門をうつもの
はないかのおれ
か大阪のおや
ぢが所から金
がくると大の
しゆかうが
あるが

それ

とん

もの


ござ


しやふ

弥二郎はそめかわと
いふけいせいになしみ
むかふからくちを
きくにおよはず

しんぞうそてとめ
もん日【?】〳〵せん
ねんも
いつゞけ
にいると

いふ
すが
たにて
あそ

これが
ほんの
こと
なら
【このあたりからかすれ。別摺りにて補う。】
けい

らく

もの
なり
【ここまで】

【台詞】
これ
おふ
くろ
ぬしにこんと
くるときかわ
たび【革足袋】をやり
ませう

ちと
いたゞ
きま
せう

ふき
や町を
見せ
なんし

喜八との
ぬしに
おたのみ
まふ
そふ
かの

はりやまけんきやう
そめ川になじみ
みうけせんとそふ
だんすれどもほか
に身うけのたんかう
あるゆへはらをたち
かねづくならいくらでも
こゝろはり山けんきやう
なんでもこよいちうに
へんじがきゝたいと
つめかける

「わかいものやりてあまり
うまきそふだんはり
やまにむしやう
にかねをもらい
弥二郎が

身うけせんと
いふもために
なるよふなり
ゆめかうつゝか
わからねども
弥二郎かほう
のつもりにき
わめ大の
よく
しん
なり

弥二郎身うけ金千両の事はさておき
いまは壱量もできずいつせいいちだいの
うそをつきあしたはどふもこら
れぬがあさつててつけをわた
さんといふ
「いまさらうそのしやんにあ
くみとうなゝす【?】おれがおやぢ
のほうがやかましくおち
ぶれたらそのときはどふだ

【染川の台詞】
あちらへゆけば
わたしがよくしん
おまへのほふへ
いきんすこの
うへは女ほうに
かならず見す
てゝおくんなん
すな

【台詞】
染川
さんは
きのとく


するがやの【別摺りにて確認】
あにさん
おさんにん
かへ

ぬし
には
いつはい
くいました

たゞしこんどかぶつた【?】
のかの

【本文】
そめ川身うけ
あらかたきま
りにかいをも
さけしに【二階をも避けしに?】弥
二郎三日も四
日もこぬゆへ
さわぎたし
たづねけるかしれ
ずちや屋もわ
かいものもない
しやうへよばれ
これまでのさん
にようも五十
両ほとありあふ
さわきにてぜひ
きゝいだしわけをつ
けんとみな〳〵そう
たんする

弥二郎はうその
ばけあら
われさす
がはいゝわけ
なくきん
じよゑも
しらさづ
あさふへ
こして
ゆき
ける
これ
より
うそ



事をあざふと
いゝならわし
けりさとの
ものやふ
〳〵にきゝ
いだしまい日
〳〵このへんを
さがしけるが
道にて弥
二郎にゆき
やい弥二郎かな
わじとやおもひ
けん竹やふのうちへにげ
こみしをつゞいておつかく
ればせつな【刹那】べ【屁、濁点ママ】をひり
けるそふたい【総体】きつねいたちのるい
かなわぬときはさいごへをひる
弥二郎もいつしやうけんめい
さいごべ【濁点ママ】をひりけるいま
おこさまがたのい【ゝが消えている?】
つたへうそつき
弥二郎やぶの
なかでへをひつ
たとはこのとき
のことなり

【台詞】
どろぼうか
しらん

てもくさいは
これでおもひ
だした
つらまいて
おふやさまへ
あづ
けるは

にげててもにが
さぬかねがなく
ばこのげいで
みせものに
たすぞ

染川は弥二郎をあつけおきしといふ
事をきゝやりてをよびあのきやく
しんだん〳〵わたしどもをたまし
それをとやこういへはわたしども
のぐわいぶんもわるし
わたしさへかをゝ
よごしてつと
めれはすむ事
はてさきか
いろ男といふで
はなしこういへは
よくしんのやうなれ
どもそこはわたしかむねに
ある事ほうごいしう【?】の
かおもわたしかかほもたつ
やうにりやうけんがありん
すとおとなしきいゝぶん
なり

わたしかやう
ないんくわ
などふ
しやう
のう

あつち
にはい
ちもん
もな
いと

いふ
事お
まへお
つとめ
なさ
れば





弥二郎は大うそつきと
ふてうがつきいまは
せけんのまじわりもな
らずそめ川がな
さけにて
せいろ


のほうはすめども
もはやうその
ねがきれかなし
きくらしにて
うつら〳〵と
ひとりいて

めしを
たき
なから
ねいる

【弥二郎の夢】
なんじが
うそつきの事
ゑんのう【閻王】きこし
めしそれがし
むかいに
来りしと
弥二郎を
ひつたて
ぢごくのかたへつれゆく

おのれは
しやば
にていろ
〳〵の
うそをつ
きそのうへ
あそひにう
せてはとほう
もないみへ
をぬかしさきは
だますもしやう
ばいそのしやうばい
にんのうへをこし
うそはつかりつ
き今はおのれを
見ならいどのきやく
もうそをつくやれ
このころはいなかへ
いつたのひさしく
わづらつたのといゝ
すこしのみへはずいと

こつちてもゆるす
なんとちかいわ
あるまいが

弥二郎はうそを
つきじごくへおち
ゑんまわうのせめ
にあふ

あかおにあをおに
はないろのおに
それ〳〵のせめ
やくなれども
うそをつきし
ものはゑんのふ
じしんにした
をぬき給ふ
よつてしよ
もつにもう
そをつけば

ゑんまさまに
したをぬかれ
るとあるなり
まだ〳〵うそをつくやつが
あるみんなてう【帳】について
いるおれかやくがいそがしい

なんとこのほんの
さくしやもした
をぬかれませう

いや これは
ほんの
ことで
ござる

弥二郎はゆめさめみのけも
よだちておそろしくおもひ
もつとも人のなんぎなる
うそもつかねどもあのよふ
なるせめにあふこのうへはこゝろ
をあらためいさゝかにもうそを
つくまじとおもひひとりにて
江戸をたちふし山へのぼり
これまでのうそをさんけ〳〵
ろこんしやう
ぜうとあらため
しんこくなれば
すくにいせ
さんぐう
をこゝろ
づき
うつて
かゑたる
うそ
なし


しやう
じき
ものと
なりに
けるうそ
からでた
ま事じや
とはおふ
ぼしゆら
之介が【大星由良之介が】
きんけん【金言】
なり
【「うそから出た真でなければ根がとげぬ」仮名手本忠臣蔵・七段目の台詞】

【茶店の客、台詞】
もふなんときで
ござりませう

【弥二郎、台詞】
もふやつ
でもござ
りま
しやうが
ときを
うけたま
わり
ませぬ
から
しつかりとは
まふされ
ませぬ

【茶店の客、台詞】
てもしやう
じきな
わろ
しや

【馬に乗っている人の台詞】
アゝ
ねむけか
きた

染川は弥二郎にたまされ
しより又身うけするものも
あれどもねんのとをりをつと
めそれ〳〵におきみやげして
さとをはなれ弥二郎にこゝろを
かけしにはあらねどもおちぶれ
しときは女ほうにはなるまいと

いゝしをわすれずつがいし
ことばのいつわりのなき
ま事をたてたつね
きたれば弥二郎いま
はしやうじきいつ
へんにてかすかの
くらしをして
いけるがかんしん
してふうふと
なりける

そのころ
染川がま事を
かんしんせぬものは
なし なんぼうつ
くしくてもおんな【なんぼ美しくても女】
はないしんによや【は内心如夜叉と】
しやと しやかむに
によらいもとき【釈迦牟尼如来も説き】
給へはみんなかう【給へば、みんなかう】
ではあるまいと
石部金吉と
いふ人むすこ
どのへいわれ
しといふ
さた
なり

【駕籠かきたちの台詞】
何たり【?】とやらの
うたいのやうだ

ほうぐみ
けづり
かけよう

【弥二郎の台詞】
さて〳〵めんぼくも
ない此てい

弥二郎染川ふうふとなり
あきないのもとでもなし
おもひつきにてふたりして
たまごやきをはじめしに
そめ川がうつくしきゆへ
大うれにてざんじのまに
きん〳〵といふあきんどに成( ル)

【台詞】
たまこやきて
みこかでれま【?】



かゝ
さん
たま
たま
こといふ
はとこ
じやへ

かへりに

くさぞう
しも
かつて
やり
ます

ふうふでやくとはうま
いやつしや

かのひやうばんの
じやの

とんだたまごが
やかんとばけた
うまい〳〵

女郎のま事とたまご
のしかくあればみそかに
つきがでるとない事にして
おきしに染川がやくそくの
ま事それよりあきないの
たまごやきのしかく
みそかのやみに
月のてよふはつ
はなけれどあき
ないにせいをだし
大晦日のよのとう
めう【灯明】にまんど【万灯(会)?】の
ごとくなりかり
にもうそをつく
ことなくしやう
じきのこう
べのうへにかみ
のたなしだい〳〵
に家とみさかへ今
さかりのしんだいなり
よいくれしやと大晦日にも
うそをつかぬやうになり
けり

めてたふ
ござんすと
まちなれ
たることば
なれ

目出たし
〳〵

通笑作
清長画

【「女郎の誠」「玉子の四角」「晦(旧暦月の三十日)の月」は有り得ないことのたとえ。】


鎌倉山紅葉浮名

鎌倉山紅葉浮名 文渓堂 全

ころは建仁(けんにん)三年源のよりいへ公
御年廿二才のはるとかやかまくらの
武しやうとならせ給ひ
けれどもしゆ
しよくにふ
けりせいむ
おこたり給へば
ちゝぶ【秩父一族】ほう
じやう【北条】のきう
しんいさめのじゆ
つもつきしゆつし
もとをざかれば
ねいじんどもさいわい
いろ〳〵御きやうせきふ
らちなる事ともすゝめ
申けるぞこたえける
ひきのはんぐわん【ひきの判官は源頼家の舅・比企能員】
なかのゝ五郎などゝ
いへるねいかんの
ともがら御そばさら
ずあいつめける

【ひきの判官の言葉】
おあそびの
しゆこうは
いくらでも
御ざり
   ます

【右丁】
げにせんたんな
ふたばより
かんばしく
こゝに千万
ぎみときこへしは
よりいへ公の御しやていきみにて
御年
十二の
すへのはる
御むま
のたづな
しづ〳〵と

のがけの
こま

のりす
がた
おと

【左丁】
【上段】
なし
やか

うつ
くしく
ぼつとり
として
しほらしき
これぞまこと
にかまくら山の
花ざかりと
まくうちま
わしせき
をとり御つき
〳〵には
わだが
三なん
小林の
あさひな

【下段】
きう
しんには
ちゝぶの
六郎
しげ
やす
など
御とも
にて
御しゆゑん
はじ
まり
ける

【右丁】
又こゝに
きめういん
ごうかい
といふ
げんじや
ありひき
のはんぐわん
にたのまれ
人がたをつくり
千万ぎみ
をちやうぶく
するぞ
おそ




【験者の言葉】
きめうてうらい〳〵
たちどころにめいを
たゝせたび給へ
なむふどうめうわう
       〳〵

【左丁】
【上段】
おりふし千万ぎみの御さ
のうしとらのかたにふりよき
松のきあり此松を御にわ
のみこし【見越しの松=日本庭園で、塀際に植えて外から見えるようにした松】にせよとおふせ
あればしげやすふぎやうし
ほらせけるに松のねに一ツの
はこあり人をとを
さけほり出し
あけ
てみるに
わら人形
にくぎを
うち千万年
十二才とかき
つけあり

【下段】
しげやすこれをとり
てひそかに本田の次郎
にもたせたちかへり
        ける

【右丁】
しげやすたちかへり
本田にもたせしはこ
ちゝしげたゞ【畠山重忠】のまへに
いだし今日千万きみの
御にはの松うへかへさせ
よと上ゐにつき
わたくしぶぎやう
つかまつり
ほらせ
候所
ねにかくのごときものこれあり
候ゆへぢさんいたせしとさしいだし
ければしげたゞみ給ひてよくも
ぢさんせしよな千万きみを
ちやうぶくせんとたくむ
ものわれこと〴〵より
みぬいておいたり
よこしまをもつて
ちやうぶくする
ともてんこれを
ちうばつす
千万きみの
御みにさらに
うくること
  なし

【重忠の言葉】
天につみをうる
ときはいのるべき
てんもなく【し?】かへつて
ねいじんのみにつみは
うくるぞよ此こと
さたなしに
せよ
しげやす
ちかつね

【左丁】
【上段】
ひきのはん
ぐわんがむすめ
わがさ【若狭】の
まへとて
び人
ありもと京六じやうのけいせい
なりしをはんぐわんうけいだし
むすめにこしらへきみへさし
上いろとさけとをもつて
ほうらつにすゝめ申はかり
ことをなす
わがきみさまへいろ〳〵御い【ゐ?】けん
申せども御もちひもなく
御みのうへほうらつにあれが
かまくらのぶ
しやうの御みの
うへかと
人のさげ
しみ
二ツ
には

【下段】
みづ
からが
御てう
あいに
あづかりて御いさめ
もせぬかと
わけてちゝぶ
ほうじやうわだ
のきうしんの
おもわく

きの
どく
じや

【図中の言葉】
御もつとも
でこざります
こまつたものでござります

【右丁】
【上段】
はんぐわん御すゝめ





けいせい
高まどを
御よび御しゆ
ゑんの御あい
てになされ
そのうへいろ〳〵
御なさけの
御ことば
かゝりけれ
どもたか
まどは
かまくら
ぶしのうち
にふかくいひ
かはしければ
てい女を立
御ねまの
御とぎを
御ぢたい
申ける

【左丁】
此の八日
かげも
のどけしと御ふねにてかまくらうみへ御ゆふ
らんに出させ給ひけるに高まととも
御つれせんちうにていろ〳〵くどき
給へども御へんとうも申上ず
たゞ御かへし下されとのみ申上
ければよりいへ公わかげのたんりよ
にてせかせ給ひたかまどが
たぶさをつかみ御かたな
ぬき給ひてさげぎり

【右丁】
【下段】
まふたつにうみへきりこみ給ひ
ければどうより下はうみへ
ながれどうよりうへは御てに
のこりける御ともにつきし
なかのゝ五郎かさはら太郎
などもぞつとこはげ
たちひかへける

【右丁】
ひきのはん
ぐわんは千万君
へどくしゆを
のませころ
さんとやぶがき
ゐあんといふ
いしをよび
どくやくを
もらせける

ゐあんは
しげ
たゞ
よりのまわしもの
なればどくやくと
いつわりてうじゆの
くすりをもりて
はんぐわんにどくやくなりと

たゆる

【ひきの判官の言葉】
これがじやうじゆ
するときこうへ
三百石
がてんか〳〵

【左丁】
どくやくをもりしかど千万君
のめのとかたをかこれを上ケ
ざればはんぐわんかさわら
太郎をよひなんじは
しのびのめいじんなり
ばんほどは千万ぎみ
のね
まへ人しれずしのび
こみひそかにさし
ころすべしと
いひつけければ
いさいせうち仕る
はんほどしのび
こみさしころし
申さんになんの
てまひま入
ませぬとうけ
合けるぞ
ふてきなり

【ひきの判官の言葉】
ばんじ
よろしく
はからふ
べし

【笠原の言葉】
御きつかい
なされ
まする
  な

【右丁】
千万君
の御ざの
御つぎ
にあさ
ひなの
三郎
きんばん
して
ゐたる
によ
ふけ
人し
づま
まり



らう
かの
かた
より
あしおとするゆへ
あさひなきつと
まなこをくばり
いたる所に大きなるねづみ一ひき
かけき
たるあさ
ひなは

【左丁】
心へずと
かの大だち
のつかにて
ねづみの
あたまを
ちからに
まかせて
うちけれ
ば一トうちに
うちころし
ける
しばらく
すぎ
かの
ねづ
みの
しがいを
をみるに
かさはら
太郎
なれば
さつそく
重忠
北条
和田のらう
しんへちうしん
   しける

【朝比奈の言葉】
おのれ
ちく
しやうめ
此あさ
ひなが
てなみ

みろ

【右丁】
【上段】
かくて北条の四郎ときまさちゝぶの庄司次郎
重たゞ和田の小太郎よしもりちゝふの六郎
しげやす御きげんうかゞひとしてしゆつし
しければ御そばにつきそひしねいかんのとも
がらこそ〳〵〳〵と御つぎていでけるよりいへ
公おふせありけるはいつれもうちそろひ
てのしゆつしはさだめてわれにいけん
ならん

【中段】
さん候御いゐけんにあらずおそれ
ながら御こしのものを此しけやす
に御あづけ下されよとしげやす
御こしのものをうけとりければ
四人のもの口をそろへて君
には御みもち御なからつ

【下段】
京とへの
きこへと
いひたみの
あざけりその
うへねいかんの
ともがらのために
御命あやうしさす
れば天下の御ために
ならず一じんたんれいな
れは一こくらんをおこし
一けんことをやぶり一じん
くに
をさ
だむ
きみ


ゟ【より】

いん
きよ
なされ
かまくら
三代
せうぐん

【左丁】
千万君の御代となし奉らん是
よりすぐにあふぎがやつの御てんへうつら
せ給ひ御つき〳〵のものゝふはわれ〳〵
四人とくより申付候と申上ければ
よりいへ公一言の御へんとうなく
ともかくもこのうへはよきにはから
いられよとてあふぎがやつへうつら
せ給ふそ
いたわし

【右丁】
【上段】
重忠
とき政
など四人の
そうたんの上
よりいへ公今
まで御みもち
御こゝろまゝに
もち給へば にはかに御気
つまりにて万一 御びやうきいで

【左丁】
【上段】
なば
ねい人ども
われ〳〵



こめ

せし
ゆへ
いか
やう


なん
だい
を以

きう
しんども
をおし
とめんも
はかりがたし
よつてあふき
がやつへおりどの【織殿=機を織る建物・家】
をたて京と
上しち【上七軒か?】より女を
よひよせ

【右丁】
【下段】
△にしきさや
をおら
せ御なぐ
さみに
せばや
とそれ
より
おり
どの



にし


あや

【左丁】


おらせ
月に三
どつゝ
上らん有
けるその
間は者【?】
〳〵かま
くら中の
きせん
うちまじ
りけん物
くん
じゆ【群集=多人数のむらがり集まること。また、その人々】
する

【右丁】
【下段】
【見物人の言葉】
なるほど
よく
おつた
ものだ
こちとは
上がたへは
いかれずこんな
ことでなければ
みることはならぬ

【右丁】
ひきのはんぐわんがたくへは中の【中野能成?】そのほかかぢはら平次【梶原景高】
などをはじめねいかんとゝふのともがら
よりあつまりげいしやをおゝくよび
あつめさみせんながうた大さわき
此げいしやをよひしもまた候
千万君をも何とぞして
うはきになし四人のらうしんをも
とつてしめてんかをまるのみに
せんとのしたごゝろなり

こんどはとう〳〵
ちゝぶわだ
ほうじやうの
きうしん

【左丁】
どもゝとり
入て

きやつ
めら
から

さけ【き?】へ
すゝめおとすいゝて【?】

いやしかし
ちゝぶめは
どうも
むつかしいて

【右丁】
はん
ぐわんは
きめう
いんをよび
いろ〳〵そう
たんしける
何とぞ千万を
はやくおつころすくめんを
したい
物た

【験者の言葉】
さやう
なら
そこもと
さまはじめ
一みのやからわれ〳〵
もうちつれたち
御きげんうかゞいと
かうしてずいふんちかより
むにむ三にひつつかまへさし
ころしてしまふがよふござります

【ひきの判官の言葉】
できた
  〳〵
なるほど
これが
ちかみち
   た
みなの
ものと
てはつを
申だんじて
おき
ませう

【左丁】
きたる十五日に
千万ぎみつるがをか八まん
ぐうへ御さんけいの候おふ
せいたされ御かへりにあふ
ぎがやつ御いんきよ所へ
御立よりなされおり
との上らんあるへきと
御ともゑま【江馬】の小四郎
ちゝふのしけやす
小林のあさひな
など御とものつもり
しげたゝ申
わたされ
ける

【右丁】
此間は
ひきの
はん
ぐわん
おう
こゝろ
あしく
ひきこ
みゐけ
るが
ある




なく
もの
さみしく
ねられず
一人おもひ
けるは一日も
はやくいら【?】
らちつけて
天下を
して
やり
たい


【左丁】
【上段】
つく〳〵

おもひ

けるは
おりしも


ころ
かいちうにてよりいへ公の御てに
かゝりしたかまどあらわれいで
うらみをいふ
もとのおこり
ははん
くわん
との

こゝ

つかざ
るより
いへ公に
おすゝめ
申ついに□【わ?】が
みは大かいの
そこのもくずと
なりはてし
おもふおとこにそふ事もならず
あだしおとこのあだ
はなにちらされける
なみだのあめ

【下段】
おもひ
しらさで
おくべきかと
うらみたるにぞ
おそろしき

【右丁】
そも〳〵
つるが
おか
八まんぐう
は八まん
太郎よしいへ
のうぢかみにて
源けぢうだいの
まもりがみにして
源じにしたがふ
ともがら此御がみへ
あゆみをはこひ
りやくにあづ
かり
ゐへ【候? 紙が付着していて判読しづらいです】
けふ
しも
千万
ぎみ
御さん
けい
して
けいご
きひ
しく

【左丁】
かため
さも
きら
びや
かに

みへ
にける

【右丁】
ひきのはんぐわんはきめうゐんがうかいを
めしつれ千万きみの御きげんうかゝい
といつわり御めみへしこそわか
きみにも御きげんうるは
しき御そんがんをはいし
きやうゑつたてまつりなど
とのべきめういんにめくばせ
し千万きみをむ二む
三にとつておさへすで

から



ける
おり
しも
ゑんの
したより
めり〳〵
くわう〳〵とぢ
ひゞきし御てん
もくづるゝば
かりにゆるぎ
いで大ぢしん
かとあやまたれ
たゝみをはね
えし和田が
三なん小はやしのあさひなの三郎

【左丁】
よしひであらわれいでければはん
ぐわんもかうかいもぎやうてんし
うろつくうちに御小せうおかた
もんとの介御めのとかたをか【乳母・片岡】りやう人【両人】
わかきみの御手をとつてかたはきへ御とも
するやあこゝなあく人つらめさだめて
かくあらんと此
御ざのゑんの
したにわれ
とくよりさん
ばんしていたこと
をしらいでこの
おひいなさまを
みるやうなわか
きみをがい
そうとは
どんな
こんじやう
だうぬが
むねの
うちを
ふんさばい
てみべいかと
二人をとつて
ねぢつけるは
こゝこちよく
    こそ
みへにける

【図中の言葉】
よいとこ
ろへあさひなどの
うれしや〳〵

【右丁】
かゝるおりふしちゝぶの
重安花かき
いをりの介本田
の次郎ちかつね
三人のものなかのゝ
五郎なか川久太に
なわをかけ草〳〵
ひつたてきたり
けれは一まの
うちよりちゝ
ふのしけたゞ
ほうじやうの四郎
ときまさわたの
よしもり出給ひ
いつれもてうされ【徴する=召す。呼び出す】し
はんくわんはむほん
人のてうほん【張本=張本人に同じ】
なればくび
うつて
ゆいが
はまへ
ごくもんに
かけ
のこり
のやつばらは
てりやうり【手料理】にし
給へとありければ
こゝろへたりとあさひな
はきめういんがくひひつつ
かみゑいやうんとひきぬき
ければ重やす花かきちか

【左丁】
つねも三人のくびうちおとし
あく人ほろびうせければ
よりいへ公いつれものちう
きんにてわれも千万も
あやうき命をたすかり
しぞと御よろこび
かぎりなし
あく人
ほろひうせ
ければよりいへ
公も御こゝろ
あらためられ
せいむをば
ちゝぶほうじやう
わだにあづ
けきんしん
にはしげ
やす小林花がきおがた
のめん〳〵あいつめけれは
げにおたやかなるげんじの
御代かまくら三代せうぐん
さねとも公といくよ【幾世】かはらめ御
ぢせいとあふかぬものこそなかりける

子年新版目録(ねのとししんはんもくろく)
大通其面影(だいつうそのおもかげ)《割書:上|下》 鎌倉山紅葉浮名(かまくらやまもみちのうきな) 上中下
遊人三幅対(ゆふじんさんぶくつい)《割書:上|下》 笑語於臍茶(おかしばなしおへそのちや) 上中下
頓作時雨月(とんだしぐれつき) 上中下  通略三極志(つうりやくさんこくし) 上中下

【上段】
追々めつらしき新もの
出し御覧に入申候御もとめ
被遊可被下候
【下段】
山下御門外山下町中程
伊勢屋冶助

藝者五人娘

芸者五人娘 上、下、

寅歳

藝者五人娘(げいしやごにんむすめ)上

こゝにとうぶの
北にあたつて
みのはといふかん
きよのちあり
このおくに草の
いほりを
かまへ
呑童(てんどう)
といふもの
ありつねに
酒をこのみ
いくらのんても
まわきれた
ことをおぼへず
ただひとりこも
かぶりのあき
だるをながめて酒
くさいをともとしてたのみしくらしける

あ衣せんきたあしたあたりはちとかれ
野をでよふいつそ太郎か孫四郎でびふ共も
もりいぶしてたのしむもおもしろからふ

でんとうは 
やねふねにて 
出かけ
も□ぼうし 
より秋 
葉を 
かけ
かれの 
ゑて 
こゝろ 
ざし 
はて
は孫四郎がざしきへ
みこしおすへおとら
おとせおたつなぞ
よびよせれはれいの
大さかもりにてん
とうも六七升の
きげんになりいろ〳〵
さわぐ
【右ページ挿絵中】
おちやう 
しが 
かわり 
ました
【右ページ挿絵下】
わつ
ちやあ
こんな
事では
なか〳〵
ひくとも
しねへ
といふ
やつさ
なんと
あり
がたへ
かへでん
とうさん
なせ
おめへは
でんとう
さんだへ

【左ページ】
アゝ
二人り
ながら
よわい
やつの
もう
いき
つき
おつた

かごのしう
こりやあ
大きに
おせわだ
のふ

いつもなから
よはひやつら
あのざまはへ
たまつていけ
いくじなしめら

【右ページ挿絵中】
もし
しつかりと
かたへつか
まんな
さへ

【右ページ挿絵下】
かごのしうやよつたと
もつてわらひはなしに
なによひもしね□□   
でんどうさんまた此
間にね

【左ページ挿絵上】
なにさうつ
ちゃておき
な わつちらは
あのおとら□ン
おたつさんのやうに
つふされるのぢや
ねへのさなぐ
さんで見なはんな
とれ〳〵もとんた
よいやうだ

【左ページ挿絵下】
おとら□ん
あふねへよ
うしろへよつ
かかんな


其後でんとうか
ためにゑひ
つふれし
けいしや
かつを
しらす
かゝへは
おやかた
のなん
き又
その
ものゝ
はゝ
など
ただ日【?】〳〵
なまゑい
のかんびやう
にのみ日お
おくりけるか
みな〳〵いゝ
合此むねうつ
たへかのでんどう
を御
せん
ぎ下されとねかい出ける
いまにうつてをさし
むけとらせんありかだふおもへ
□岡ちうな
ごんとのげい
者かゝへの
ものゝうつ
たへを
きゝ
給い民のなげき
そのぶんにすて
置かたしと
とうばんのぶし
ちうや
けんばんへ
申渡し
此うつては
宮本のお【?】こう
其外衆の事ニ
酒のみをゑらんて
そう〳〵
うつてを
遣しべしと
有る

夫よりけん
ばんはみや
もとのおかう
其外おつな
おきんおかつ
おたけを
よびよせ申渡す
そのほう共
をよひ
出たせしは
外の
きにても
なし この
たひみの
はへんより
むかふじ
まにけら
まりいる
てんとう
といふゑ
せものおゝ
くのげい者をもりつぶす事
すて置かたしよつて五人の者へ
かのでんとうがうつてをおゝせ付
らるる間ずいぶんてたて
てし
たお
もつて
そやつ
をもり
つぶし
いけどり
きたる
べし

夫よりおかうをはしめ五人のもの
山ふしすがたもふるめかしけれはおもひ〳〵に
いでたちまつ舟にうちのりいでしか
ほどなくミめくりへつけさせもしや
ここかと太郎かふひをのぞき
秋はのかたへ
こころさし
そこにこゝ
にと
でんとうか
ありかを
さかす

寅歳

藝者五人娘(げいしやごにんむすめ)下

さても五人のげいしやハみめくりより
上りあきはのちやゝに心を
かけそれより
秋葉の
庵へゆき
こしかけ
茶やをも
たつねしが
でんとうは有か
かしれずさすか
女のことなれバ
これよりさきハ
みちも知らずいつ
くをあてに尋ん
とうち向かう そ
ろ〳〵とかへらんと
おもふ所へ□□より
□□とおぼしき女
来りみちつれ
になりまた
みめくりの方へ
かへりわれもろ
ともにふねに
のり
まつさきの
ほうへゆくべしと
いふ

又神子とはなしながらの野みち
いつとなくみめくりにつき舟にうち
のりまつさきへゆかんとふね内にてハ
さいつおさへつふしきのゑんにこゝろ
やすくなりたのしみけるにこの
みこたもとよりとくりを二つ出し
是ハ神酒なれハおまへ方にかくお
こゝろやすくいたせしお礼のため
心ざしハまつのはとやうなれバ
とくり二ツをあたへよもやまのは
なしにほとなく船ハ
まつさきに
つきけり

左ページ

せんどう
とんひとつ
入まつし
おつなさんハ
色にでねへで
とくす
おみつさん
もういなり
さんたの
でしぶはやく
きたの

かくてまつさきへあがりとせしに
ふしぎや今まで神子おもひし
おんなの
姿はゝ
うんに
うち
のり
五人の
げい者
にてん
とうか
ありかを
おしへ給ふ
ぜんざいぜんざいわれは
これへふ神の 入
れいなりかりに神子と
すがたをかへなんじらに
まみへでんとうかありか
をおしゆるなり
是より浅草に
あたつてとまたの
かしへりにうか
むせといへるふう
がの
一トつまへあり
今さいちう 所
にでんどうのみ
あかしているなり
しかし人間わざ
にてなか〳〵
かなふまじ今
さつけし二つの
とくりのうち一ツハ
九年ぼうするめを
もつてせいしたる薬
なりこれを酒に
入てのませなば
たちまち
つふれん事うた
がいなし又今
一ツは袖の按(梅か)といふ
薬をせんしたる水
なれは是ハ五人の
者まわされんと
せしとき出し
ツゝもちゐなば
せうきをうし
な(ふ ヌケか)ことなしゆめ〳〵
うたがふ事なかれ
























五人の
者ハ
かよふ
神の
おしへ
にまか
せ尋
あたり
又ふうが
なる
さしき
とみれハ
でんとう
一人てい
しゆと
おぼしき
ものふ
てうを
付させ
うつむせの
大さかづき
を引うけ
いたるやうす
みとどけ五人の
けいしやハどう〳〵と
うちに入ちと
お相手をいたし
ましやうと
いへハこしやく
なるやつら
にくさも
にくしつ
ぶしてやら
んとす
はいを
かたむけ
おける
五人のものハ
袖の按の
めいすいを
もちひける
ゆへいくら
すごしても
よハねども
けらな
ますいを
つかいでん
どうを
よわせる














扨もさすがの
でんどうも
五人のもの
のてだてに
のり一生
におぼへ
ぬ大酒して
大きにつ
ぶれぜん
ごも
しらず
ふしける
をみの
本の
おみつハ
てばし
かく
おひ


のしをほどきくる〳〵まきいま
しめそのまゝかごにうちのせ
かちときお上ケすなはちこの
だんうつたへしかバ  どのいへ
の爺やへかづのほうひ給りける
是よりしていつくのげいしやも
よきほどに いたるおれるはなし
なんほよつたやくでもみなげいだと
おぼしめせ
  
五人の
  
   
 き
たし
是ハ
   
八月
廿ち
日侍 
もの
び共
五人

  
薬て
やるハ
よし
〳〵

でんどうハ ゑいたる事と
しらすほうのかみて
なれ共五人のけいしや
にてたてをかへてもり
つぶされ
ついにハ
こし
にきて
過の
はてに
あさしケ
はらへ
すて
られ
夜 
れハ
はや
くわん
ぢつ
のけ
しき
しせん
とゑい
もめも
いつとき
にさめ
てき
もお
つぶす


こりゃあ
れだあ
さじケ
はらの
まんなかの
あの□□や
め□を□□
つ□□に□ゑ
□□とんため
にあつたお
れも□□□
を□すきてい
□□□
□□□□□


可笑作

清長画

かんなんの夢枕

かんなんの夢枕       全

【両頁文字無し】

あら玉のとしたちかへる
あしたよりふくじゆそうは
とこのまにひゝきあさがみ
しも【麻上下=麻布で作った上下】のかどまつをくゞる
にぎわいさんごく一のにほん
ばしへんにあふみやとて
きんぎんはみづうみのわくが
ごとく
され
ども
しゃうとく【生得=もとより】
いしやまの
うまれなれば
みかけからしれ
たかたいしにて
おごることもなく
一ト人【「ひとり」と読ませるつもり】むすめにおふ
みとてことし
十七のさかりなれどもはなみ
ゆさんはさてをき しばゐさへみせづ おふみはさすがすいど【水道…江戸で徳川幕府によって設けられた玉川上水や神田の上水を差していう。規模の大きいところから江戸っ子の自慢の種となっていた。普通は「すいどの水で育つ」という】てそだ
ちしほど
あつてしやれぼんにまなこをさらし
なさけのいろはをおほへいきま【「意気間・粋間」=粋であること】の
みちにこゝろをつくすと
いへどもひたすらおやのいしべ【いしべきんきち〈石部金吉〉の略】にはこまり入けり

【右丁】
やくら下ばんづけのこへは
きけどもしんしや【神社】とつし【辻】が
おもかげはとし玉てみるぐらひ
のことおふみはふつとしあん
しけるはなんともせけんの
むすめをみるにとかくしんしやう【「身上」=身分、地位、暮らし向き】
のよきものはこゝろのまゝに
ならずしんみち【新道…町家の間にある狭い道。またそれに面した家。多く借家などのあるところ】におやこ
三人ねて
くらすと
いふところ
でなけれ
ばいかん
とにわか
にかるいくらしに
なりたくおもふ

〽ふし
きやく
ろはぶたへ【黒羽二重】
のくれすぎ【意味不明。多分ヨレヨレにくたびれた物という意】
なるをちやくし【「着し」=まとう、着る】
たるおとここつ
せんとあらわれふる
いがぜんざい【善哉=よきかな】〳〵われは
なんじがいのるところの

【左丁 上部】
すかんひん【素寒貧=貧しくて身に何も無いこと。】なりそれくさぞうしの
こんたんにかみ〴〵さまをいのること
まゝあれどもいまだこのすかんびんをいのる
もの一にんもなしあんまりてめへの
こゝろいきがうれしいからこれこ
のまくらをさつく【授く】なりかた
じけなくもこのまくらは
せつくまへのかき
だし【書出し=請求書】あるひは
もん日もの日【「紋日物日」もんびものび…江戸時代、主として官許の遊里で五節句やその他特別の日と定められた日。この日遊女は必客をとらねばならず、揚代もこの日は特に高く、その他、祝儀などで客も特別の出費を要した。】に
つまり【いっぱいになる】たるかん
なん【患難=身に降りかかってくる災難。ここでは遊女からの誘いの手紙】のふみ
がら【文殻=読み終わって不要となった手紙】にて
しあげ
たるまくら
なり
これ
にてぐ
いね【すぐに寝込むこと】をするならば
なんじかこゝろのまゝなるべし

【左丁 中央】
あなたは 
きのいゝ
さだくろう【定九郎…歌舞伎「仮名手本忠臣蔵五段目の登場する人物で。人を殺して金を奪うところから無頼の武士、泥棒,追はぎのことをいう】と
 いふふうだ

【右丁 上部】
すかんびんにかんなんの
まくらをもらいし
よりゆめともなく
今までのざしき
もどこへや
らこう〳〵【荒荒】
たるのはら【野原】となり
大あらしきう【急】にふり
きたれはおふみは
かくるきももたず
これもかんなんの
うちだろうとつぶ
やくおりしもいづく
よりかよつで【「四手駕籠」の略。…四本の竹を四隅の柱とし、割竹で簡単に作り、小さい垂れをつけた粗末な駕籠。】一てう
かけきたり
おふみをのせる

【右丁 下部】
ぼうぐみ【棒組=駕籠かきの相手。相棒。】や
わるいあめだの

【左丁 上部】
これよかごのるものら
ぬもふられてはゆくよ
ゆくのはおやかたのうち
かたはせみまるすがたは
おかる

ゆめ
といふ
ものは
よく
あん
じた




【左丁 下部】
かごかきの
よるのあめは
さつはりいかん
      の

おやかたのいゝつけで
をむかいにめいりやした
これからなかあふみや
のたゆふしよく【大夫職=江戸時代遊里で大夫としての資格をもつ遊女。遊女の最高級のもの】あふ
        みの
      さまだよ

【右丁】
もゝとせをかさぬるといへ
どもしんよしはらといへば
どうやらあたらしい
ところのよふにおぼ
ゆるもおかし【可笑し】まし
てや二日のはつ
がい【初買=新年になって初めて遊女を買うこと】よりせかい【世界=遊興の行われる場】の
はる
を大
もん【大門=遊郭の入り口にある門。新吉原のものは特に有名】の
うちへ
とりこみ
にぎわい
きのじや【喜字屋=江戸新吉原の遊郭内の仕出し屋の通称】
がだい【台=料理の品々を松竹梅などのめでたい飾りつけに盛り合わせたもの。特に近世、遊里で仕出し屋から遊女屋へ運ばれてくる料理品をさすことが多い。台物】
もいろ
かへぬ
まつのうちはゑどふし【江戸節=江戸浄瑠璃の一派】の
なかあふみの
あ【「お」とあるところ。あふみやのおふみ】ふみのは
けふつき
だし【突出=江戸時代の遊里で、禿〈かぶろ〉の時期を経ないで、十四、五歳の頃、すぐに遊女となって客に接すること。またその遊女】 の
はじ

よりみる人ごと

【左丁 上部】
にわれも
〳〵
とこゝ
ろをかけ
 けり

〽なんでも
きりやう
のことだ
みつき【身付=見かけ】が
いゝやつは
どうでも【如何ようにでも】
のりてが
たんとあり
   やす

いゝ〳〵よつ
ほどうつ
くしいもの
     だ
きりやう【器量】が
いゝにりが

【左丁 中段】
ある【利がある…有利】にとこが
いゝじやア
たまらねへ

【左丁 下段】
これで又
ちぐらる【このあたり意味不明】
みついゝのはん
じやうは
  ゑん
  とり
  かな

【右丁 上段】
大つう【だいつう=遊里の事情や遊興の道によく通じていること。またその人。本当の通】に
にてをよ
ばざるを
よふにた
やまと
いふたとへ
ばする
がのふじ
にたかたの
ふじ【「高田富士」…東京都新宿区西早稲田甘泉園にある水稲荷神社=高田稲荷社境内につくられた築山】を
みるが
ごとし
こゝに
ぶざ【「武左衛門」の略。武士をあざけっていう語。特に遊里で田舎侍の野暮で無骨なさまをあざけっていった語。】の
てんわう【「天王」または「天皇」。ばかにして尊称をつけている】
のこういん【後胤】
たかのまん
ちうがばつ
りう【末流=子孫の末。末裔】に

【左丁 上段】
にたやま
しんござへ
もんといふ
ものあり
かの
あふ
みのを
あげ
て大
いざ【「おおいざ」=「いざ」は「いざこざ」の略。おおいに事態をもつれさせるような不平。】
 を
いゝ
ちら
 す【言い散らす=思慮分別なくやたらに言う】

【右丁 中央部】
りきうが
でしかはしら
ねいがあんま
りちや【茶…いい加減なことを言うこと】が
すぎるかへ てめい
からあげてみるよつや
とんび【四谷鳶=江戸時代、江戸四谷から作って売り出したとんびだこ。形が普通のものと少し異なっていたという】じやア
ねいがぐわん
てう【元朝=元旦に同じ】からつご
もり【月末】まで
一ト人
 ねた

【右丁 下部】
ことの
ねへ
おと
こだ
そしてまた
おれにかわれる女郎
はきついしや
わせだぜへ

【左丁 下部】
おめへの
つうは

しれて
いゝす
わいながい
ふん【外聞】

わるいし
よせん【所詮=結局、どうせ】
およばぬやつたとさげ【下げ。揚げの反対】にてしてを
                  くれなんし

【上段】
あふみのは
このとちにも
あきはて
また〳〵
ほかへゆかんとおもふ
もと
よりうられてきたので
なけれはみのしろ【身代=身を売った代金】のでいり
はなししかしないせう【内証】のかり【借り】
をは
ななつや【質屋のこと…「質」と「七」との音が通じるところから】の
やりくりて
すまし
   ける

【中段】
喜【原文は「喜」の崩し字】八どん
せわたかふ
がのこれを
やまとやへ
もつて
いつて
くだせい

【下段】
おめ
いも
たい

ひさ【久=長く続いていること】
なり
 な
すつた
   ね

【両頁文字無し】

【上段】
つういきま
なつら【まじめなつらの意。真面目顔】はうぢ
はたちばなてう【「橘町」…東京都中央区東日本橋三丁目付近の旧地名。江戸時代大坂屋平六という薬種問屋があり、界隈を中心にいわゆる転び芸者が多く住んでいたという。】ほん
てう【「本町」…東京都中央区日本橋の地名。江戸時代は江戸屈指の目抜き通りで、金座、桝坐のほか老舗、豪商が軒を並べていた。】の
おみかた【お見方】
にてわつか
さみせんよき
をひきて
こくてう【「石町」…東京都中央区日本橋本石町の旧名。江戸時代は外国人を泊める宿屋があることで知られた。】の
すまんにん【数万人】
をあいてとして
うけあうこと太平
きんじふ
にみへたり
あふみのも
このみちに
いつてなも?もと
のおふみとなりあるひは
をやしきふな
ゆさんに心
をくだきけり

【下段】
ばん丁【番町…東京都千代田区南西部の地名。江戸時代には幕府の旗本大番衆の屋敷地であった。】の
ばいし【陪仕…お供して仕えること。またその人】さん
からおつ
かひか
めいりやした

【中段】
大かた
四き
あん【「四季庵」=江戸時代、江戸日本橋中洲にあった有名な料理茶屋。】の
ことだ
  ろう

音も

【右丁 上部】
こうなんの
たちばな
こうほゝ【懐】に
うゆれ【飢えれ】は
からいたちとなるその
ふうそくをちよびと
つまんてもうしたところ
がまつひゞろうどのおび
はのぼせたきやくをぐつと
しめこのうさぎにして
ながい
ふりそで
は引たうへでふり
つけるのすがたなりべつ
かうのあつむねにつらの
かわをあらわしこまげた
の本ぬりはよくひかるかたへ
ころぶよふに
見せ
かけ

【左丁 上部】
かう
ぐや【香具屋】

見せ
びら
きの
ごとく
ゆふかた
をてらし
けれは

下た【下駄】

せき
しやう【夕焼】さ

【右丁 下段】
さきへかへるならの
このふみ
をせい
さんの所へとゞけて
くだ
さへ

きかへはむらさき
ちりめんをもつて
まいり
   やした

【右丁】
もみちはの
あをばにしげ
るなつこだちは
たかを【高尾…江戸時代、江戸新吉原の三浦屋に抱えられていた遊女の名。初代から十一代までいた。】がうきな
ながせしなかづ【中洲…東京都中央区北東部の地名。明和八年(一七七一)大川(隅田川)と箱崎川との分流点を埋め立てて竣工した。埋め立て後茶屋が並び、吉原焼失(一六五七)の際仮宅が設けられたこともあり、私娼も多くにぎわった。俗称みつまた(三俣)】みつ
またいまはむかしにひき
かへてすみやからすみ
まて人のすし【「人のすじ(筋)」とみるか「人のすし(鮨)」とみるかで意味が違ってくる。】たるさぶ【「ざぶ」とも。さぶらひ(侍)の略という。近世、士の身分の者に対する軽蔑した呼び方。】
が二日ゑひ【二日酔い】もまるやか【まろやか】
こわいろにひらけ
四きや【コマ10に出てくる「四季庵」のことか。】おり〳〵の
たのしみおふみは
けふをさいわいと
せいといふいろおとこ
をこそと【ひそかに】よびよせ
あわんとおもへども
つかいのまちがひにて
せいわこずこれを

【左丁】
あわつ【会わず】のせいさまと
いふ

〽あれむかふの
やかたにおみよさんに
おまきさんが見へる
        よ

〽おふみさみせんを
よしてひとつ
 すけてくんな

【右丁】
いつしかなつもすぎ
ゆくそらのあまの
がはじぶんになれ
ばおふみはたちば
なてふにもあき
はてふかがわ【深川…東京都江東区西部の地名。安永・天明年間(一七七二~八九には遊里が栄えた。)】の
ほうへとこゝろさし
まつどばしにみを
よせわつかのうちに
このちのふり【習慣】もをぼへ
けふはしほどめの
ちよんのまづとめ
ふ【妙】なやどにてきやく
をかへしそのみは
ふねにてどばしへかへる
これを
どばしのきわん【「極む」か】とも

【左丁】
またみあがりにてらく
なれば
からだのらくがんとも
思ふ

ゑひすやの庄さんに
しかけ【打掛の称。江戸の遊里でいわれたが、遊女の着る小袖類をさしていうこともある。】をたのんだら
ついせうちす

これからやまへ
まわつてかへりや
      しやう

【右丁】

ぐる
つき


くる
まの


ごと

その
としも
あき
すきて
ふゆぞら
にもなりぬ
おふみも
しよ〳〵【諸処】
をあるきいまは
うねめがはら【「采女原」…江戸の地名。松平采女正定基の邸があったために呼ばれた。辻講釈、見世物小屋が並び、夜鷹が多かった。現在の東京都中央区銀座四、五丁目付近。】へ

【左丁】
よごと
にかよふ
みとなり
きのふま
でなれし
ふすまも
よしづばり【葦簀張=葦簀を張りわたして囲うこと。またそのように囲った家屋。】
とへんじ【変じ】
にしきの
しとね【褥=すわったり寝たりする時、下に敷く敷物。】も
わつか【僅か】一ま
いのねござ
とかわりはて
    けり

〽はやすきていまきに
けりなうろたゆるこも【植物のまこもを粗く織って作ったむしろ】の
かりねにゆきはふりつる【百人一首の持統天皇の歌「はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすてふ」と山部赤人の歌の後半「ふじのたかねに ゆきはふりつつ」とをミックスさせている】

はらのぼせつ【暮雪】とはこのこと

【右丁 下部】
モシ〳〵
あそびねへ

【左丁 下部】
おでうづがわきましたをひんなり【「お昼成る」の変化した語「おひんなる」=お目覚めになる意】ませ

かんなんの                豊里作
まつ□
のゆめはるは
中の丁【仲町…江戸、元吉原および新吉原の中央を貫き、北東より南西へ、大門口より京町まで達する通り。現在の台東区千束四丁目あたり。】のきぬ
〳〵にわかれ
をおしみ
なつかしく
もたち
ばなのにほ
いにひかるゝ
いとたけの
きよくあき
ぬ思ひはふか川の冬のよさむきつじ
ぎみと四きおり〳〵のくるしみにしき
どう【色道=色ごとの道】のさとりをひらきうはきをあらため
こう〳〵をつくしけれはふつき【「ふうき(富貴)】はんじやう【繁昌】
して
うきたつ
はるをそ
むかへ
   けり           清長画

餅酒腹中能同志

《割書:餅|酒》腹中能同志 完

《割書:餅|酒》腹中能同志《割書:少嬪堂作|清長画》二冊

【検索用タイトル:餅酒腹中能同志】
【検索用、国会図書館登録著者名:女嬪堂】

こゝにきやうのいなかのかたほとり
なんとしやう兵衛【なんとしようのもじり?】といふ
かたおやし【片親父?】 子二人あつて
うとくにくらしけるが
しかるにあにはうまれ
ついて大さけ
をのみ をとゝは
いつさいけこにして
めくり【江戸期にめくり餅なる和紙を食すものあり、江戸ではめくりかるたもあり】 にさへもちくい
となつけるとかや
こをおもふことおや
にしかすとしやう
兵衛かおもふやら
けんこうほうしの
たはむれにもけこ
ならんとそ【係り結び?】 おのこは
よけれとあれば
上戸なる子は心元
なし又よのたとい
にけこのたてたる
くらもなしといへば
けこなる
子にもよを
ゆづられずと子ゆへのやみふみまよいたる【ふのように見えるのは挿絵の葉脈?】 くたひれやすめ

ついとろ〳〵の
くいねむり
一すいのゆめを
むすひける

フウ
〳〵
〳〵

【もちさけ 一丁】
こゝにしん川の
しやう主【上酒?】九年
しゆ【酒】とよはれ
しはさけなか
ま【酒仲間】のすい【随】一と
あをかれいなる
あくざけ【悪酒】にて
もこれにした
かい其なにも
小あら【濁点?】はせしか

【挿絵人物右】
けんひし【着物の紋が清酒剣菱】
なんそ其【も?】【剣菱の台詞】
けんきの
ない
もち
くわし
めら【餅菓子めら】
ふつゝ
ふして
くりやう【次頁にまたがる台詞】

【挿絵人物中】
しやうちう【着物紋にしやうちう の文字】
そうさ〳〵【焼酎の台詞】

【挿絵人物左】
あはもり【着物の柄が琉球絣の紋様に近似】

【もちさけ 二丁表】
入とひ庄兵衛か
かとく
さために
心をくるしめけるよしをきゝ
なにとぞわれ〳〵をひとつてう
あいし給ふあにきみの
かとくにせんとしよ〳〵【諸ゝ】
のししや【使者】をよひ
よせまつ弟公
のてうあいし
給ふもちかし【餅菓子】
めらこそしやま【邪魔】の
一つなりまつこれを
ほろほさんと
むほんを
をこし
ける

【画面上段人物】
九年しゆ【袴に九年酒の丸囲い文字】

【画面左下 九年酒の台詞】
おの〳〵こゝろをいちにして
たゝかははなにほどの
ことかあらん


【団十郎煎餅の台詞】
もしいくさかはし
まつたらひさしふり
たとおもつてアゝ
つかも ねヱ
はたらきを
してみせよう

【本文】
さるほとに九ねんしゆか
くはたてたれいふとなく【企て誰言ふとなく】
もちかたへ【餅方へ】きこへけれは
いまさかの【今坂】しやうしゆ【城主】
こしたかまんぢうこう【腰高饅頭公】
これをきこしめし
につくき九ねんしゆ
かはからい以てこのほう
より一いくさせんと
の給いけれはちう
しんいくよもちの
かみ【幾代餅守】すゝみいてゝいふ
【左ページへ続く】
やうこはごたんりよなる
をんあらせ一まつことの
しつふを□しいよ〳〵
むほんにきわまらは
さかよせにおしよせ
給ふへしとい□いけれは
大しやうけふもととうし
給いおそはにありける
よつやすけそうといふ
ものをしててきの
やふすうかゝはしめ
給ふ



【右ページ下、すけそう焼きの台詞】
いさいかしこまり
たてまつりました
さつそくたちこへ
ましやう
【この後ろ二行は人物名】

【左ページ左下、幾代餅守の台詞】
ずい
 ぶん
きをつけめされ


【挿し絵人物の名前】
たんぢうらう
せんへい【団十郎煎餅】

大ふつ
もち

すけそう
やき【助惣焼】

いくよ
もちのかみ【幾代餅守】
 

【左ページ本文】
かくてすけそうは
大将のおうせを
うけやつこある
平【有平糖】をめしつれ
まんくわんしの
さくらんほうけん
ふつにことよせて酒
かたのやうすをうかゝふ
しかるにさけかたのとをり
者みりん酒と云ぼつ
とりものすけそうを
みそめひとしれす
くとく
すけそうもてきのやうすを
みるてかゝりにもとおもひ
いれをいちやつく
されはみりんしゆは
もちかたと
ゑんをくみし
ゆへいまに
けこの



あふと
かや

やつこ
ある平
は大つう
にて
みな
ふり
する【みなふり返る、の意】

【右ページ下、本文続き】
さけなかまのわる者
おにころしのとふ六
かねてみりんしゆに
こゝろをかけていたり
しか此ていをみて
あつくなる
けちいま〳〵しい
やつらた

【みりん酒の台詞、ある平を見ながら】
アゝ
もう
とう
しやう
のふ

【助惣の台詞】
それは
ありかたいの

【ある平の台詞】
コリヤ旦那は
ちうしや【市川中車】と
きているわヱ

とふ六は是をみてさん
ねんにおもひ大ぜいのこ
もかふりをたのみ
助惣みりん酒を
ふみつけんと大ぜいを
たのみけんくわをしか
ける
助惣みりんしゆうまい
はなしのさいちう
大せいのこもかふりとも
きたり二人を手こ
めにしけるところへ
奴ある平一さんに
かけきたりこも
かふりともを
ふみこかし【踏み転かし】のみ
くちをきりおとし
ける

やくにも
たゝぬかん
たい【緩怠?】めらいて
ものみせんと
いふなかに
これはさと


おたんな
様なさ
けて
こさり
ます
もふし
〳〵〳〵

あい

〳〵〳〵

こもかぶりこも
のみぐちをき
られみな〳〵
むなしくなる
ある平でかした【助惣の台詞】
〳〵〳〵
わたくしらをぶつ【みりん酒の台詞】
たかわりにふみ
のめされてよいきみ

とぶ六いまはたまりかね
ある平にとつてかゝるをある平
□□【破れ】入をれ□しあとにのこり
とふ六をとろた【泥田】へふみこみける
されば今にとぶ六はにごりあるなり

なんと此ある平が
てなみのほどを
思ひしつたか
〳〵
〳〵

どふ六どろたへ
ふみこまれ
そこら一めんに
にごりけるゆへ
にごりさけと
あだなをつけ
られる

あい
たし【あいたー?】
こゝら
がしん
ぼう
どころ


【左ページ、滲み多し】
かくて
すけそふ
はある平に
あとをまかせ
みりんしゆをと
もない大しやうの
ごぜんへいでてきの
やうすをちく一( チ)申
あげける

まんちう大つうにてみりんしゆを
すけそうがやどのつまにくださる
むほんにそういなくばそう〳〵
うつたらん【?】でかした〳〵

助そう
みりん酒

あ□□□ふ【ありかたふ】
ぞんじ
たてまつり
まする

【左ページ左上、登場人物名】
まんちう

□□て【かくて】さけかたの大
しやう九ねんしゆか
たてこもるこなからが【?】
さきかんなべのしろ【燗鍋の城】といふは
まへにいづとがはといふ大がを
ひかへ左( り)はおとこ山といふ
けん山をかたどりやうがい
けんこ【要害堅固】のしろなりしかるに
てきよりさかよせにきたる
をみていづみ川のはし〴〵
ひきていまやおそしと
まちいたる

もちかたの
せんしんてきの
やふすをうかゝふ

はや〳〵たゝかい
たいもんだ
ヱイ〳〵
おふ

【左ページ本文、かすれと破れ多し】
よせて【?】やふいやしたり
けんまへかぜかるやき【軽焼き?】を
はしにわたしてやす〳〵と
わたりてきのしろ
きわちよく
よせけれはしやう
ちうにはたまりかね
九ねんしゆが
こ□りのしかん
しやうちう
あわもりの
二人うつていで
さん〴〵にふみ
ちらしける
さればいまにしやうちう
あわもり□□きついさけ
□□いゝつたへけり

かのこもち
にげるよりほかは
なかりけりあいつがなりはにんぎやうてう【人形町?】のしこみと
きている

【右ページ下、登場人物名】
あわもり

しやうちう

【左ページ下、大仏餅の台詞】
なむ
さん
すな
たらけに
してのけ
□□□【破れ】【た、いま?】
〳〵
しい

大ぶつ
もち

【右ページ本文、大きな破れとかすれあり】
こゝに□□……
のむねときの□……
□る□□十郎□……
□□□□かつきとうげ
にひかへていたりしが
このていをみて
いつさんに
かけきたり
そはありける
大ほくをひき
ぬきあくさけ
めらをさん〴〵に
うちゝらす
よつてそのひの
いくさはごかくの
たゝかいなり

いでものみせんと
いうまゝにありや
〳〵
〳〵

コリヤ
〳〵〳〵〳〵

はや〳〵人にのまれて
しまへばよかつたに
いくさにでゝ【た】からふみ
つけられた

これおやだま【おやごま(親駒)?】
しづかにふみ
ねへ

アゝ
つがも
ない

そりや
〳〵
きたぞ
〳〵

にげろ
〳〵
〳〵

かくてりやう大しやうとみだれて
たゝかいければ大つう神これを
きゝしらぬふりにもなりがたく此とこ
ろへきたり給いりやうじんを取し【り?】しづめ【取り鎮めるなら争いを止めること】
たかいにわぼくをとりむすひける
よつて事まろくしてかどのとれたる
人を大つうとは
このときよりぞはじ
まりける

いくさなどゝは
やぼらしい
ぶんながせ
〳〵〳〵

なんとりやう人このたんざくをみて
かならずやしんをおこすへからす
また庄兵衛にも二人のこにかとくを
わけてあたへなばすへはんしやう
ならんかならず
うたがう事なかれ
ぴイ〳〵でん〳〵と
云所だ

【大つう神が持つ短冊】
しん川は上戸の立た
くらばかり
すゞき越後をみせよともくら【?】【鈴木越後なら当時の菓子屋】


【一同の台詞】
ありがとふ
ぞんじたて
まつり
ます

【酒樽の枠内】
酒方

けん
びし

九年
酒【挿し絵着物に】

【蒸篭の枠内】
餅方

まんぢう【挿し絵着物に】

だんぢう
ろう
せんべい

【本文、大きな破れあり】
庄兵衛□□□□□のおゝせ
ありが□□□□□しんきもに
めいじ子ゆへのやみも□し
ゆめもいつときにさめにけれはりやう
人□こどもに
しんしやうを
わけてあたへし
かはかぢやう□お
こたりなくめで
たきはるをむかへ
してすへはん
じやうに
さかへける

やれ〳〵ながいゆめ
をみたの
五十ぞう【誰?】

くた
びれた
〳〵

【庄兵衛のかたわらにある箱、鳥居清長の草双紙のタイトル】
女嬪堂戯

豆男江戸見物

208
【印「特別」】
635

豆男江戸見物  完

【印あり】           208    【書き入れ】地
【朱の書き入れ】天明二寅  【印「特別」】
                 635

豆男江戸見物   通笑作

【欄外右側書き入れ「地一」】

井(い)のうちの蛙(かいる)大海(たいかい)をしらすとはりこま
れてみれば六十六部(ろくしうろくふ)ハものしりか歌人(かしん)
有居(い)なから名處(めいしよ)を知(し)ると高(たか)く泊(とまつ)て
みても品川(しなかわ)の先(さき)の川崎(かわさき)もしらす
千住(せんじゆ)の次(つき)の草下(そうか)やらをみたことも
なしされば他国(たこく)をもしりもせず隙(ひま)
さへあろふものなら天竺(てんぢく)まても行(ゆき)

【右丁】
たひもの世間(せけん)しらすの内(うち)はだかと
江戸(ゑど)の事(こと)ならつがも無いとハいふものゝ
つがもなひ唐(から)の噺(はなし)とおなしこと諺(ことわざ)に
吉原通(よしハらつう)あり深川通(ふかかわつう)あり八幡(やわた)の是(これ)
がやわたしらす江戸は廣(ひろ)ふごさる
とはなんにもかにも言ふせりふ中(なか)
にも江戸の名高(なたか)き所すこしも誉(ほめ)す
かけねなし有(あり)のまゝとはついそない何の

【左丁。欄外右側書き入れ「地二」】
こつたとおつしやるなかの豆男のゐばかり
おふきに御せ話と言つこなしちひさな者(もの)ても
ばかにせずおふきなものにもかまいもせぬ
爰(こゝ)ばつかりが江戸の味噌(ミそ)なんそといふと久(ひさ)
しいもの版元(はんもと)からさへはからしい又(また)江戸の自(じ)
慢(まん)かへどうしやふのふと笑(わら)ふもかまわすいふ
もんの上下(かミしも)だのと通笑述

  とらのはる           【印「三文之印」】

【右丁】
   寅年新板目録奉御覧入候
《割書:写(うつし)|昔(むかし)》 通風伊勢者語(つうふういせものかたり) 上中下  芸者五人娘(げいしやごにんむすめ) 上下
《割書:男(おとこ)》
《割書:道楽(とうらく)| 世界(せかい)》 早 出 来(にわかのたんぜう) 上中下  地獄沙汰金次第(ぢこくのさたもかねしだい)上下

《割書:楽(たのしミ )| 和(ハ)》 富多数奇砂(とんだすきさ)上中下   豆男江戸見物(まめおとこゑどけんふつ)袋入

敵討梅(かたきうちむね)と 桜(さくら)上中下    上手談儀(せうずたんぎ)  袋入
              作  通 笑
《割書:ついぞ| ない 》金持曽我(かねもちそが) 袋入   者  可 笑
              画  清 長
追〳〵めづらしき新板差出シ申候間      馬喰町弐丁目
御求御らんの程奉希候     【屋号】永寿堂    西村屋与八版

【左丁。欄外右側に「地三」の書き入れ】 
かまくらしやうぐん頼朝公の
じだい小林のあさつな小人嶋
よりいんろうへいれてつれ
きたりそのしそん豆男
とてはなはだこふしよく
なるものにて
所〳〵を
はいかい
せしことハ
人のしる所なり
またそのすへにさかしき
ものありてだいぶつでんの
ミヽのあなにすまいして
人のゆふことをきゝえぬことハ
はなしにならぬとおもひいまを
はじめのたひころもむまの
しりやかごのやねへのり
つちもふまずに
ろぎんいらず
 花の御江戸へくだりけり

④【右丁】
ほどなく
品川□
しゆくにつき
江戸いりなれは
しのゝめの
ときにたかなわを
くわへぎせるにて
うミのほう
をミれバおびたゝしき
いりふねの
かづ〳〵ひだり
のほうハぞう
上寺のきんもん
あさひにかゝ
やきおふきど
より日本橋
までのきを
ならへし町
つゞきさかな
いちのさいちう
にとをりかゝり
これが江戸の
まんなかか
もしりう
ぐうでハないかとおもひ
しかもけふが初かつほ
にていつほんが

【左丁。欄外右側書き入れ「地四」】
四〆五〆と
うれこの
つもりに
たいや
ひらめや
すゞき
のるいが
うれるなら
ひとあさに
百万両
くらいハ
うれるで
あろう
まい日こゝが
せうじんのゑひすこう
四つじふんまでミて
いればひしこ【注:ひしこはカタクチイワシ】
いつひきのこらず
からはんだいとなり
すてづへん
からきもを
つふす

【図中の言葉】
たのます
〳〵

こりや〳〵

三百
五十せん
やろふ

かるこう〳〵

アヽイ
いをだ

きり
かれ

〳〵

【右丁】
江戸ふあんないのことなれバまづ
ばくろ町に立なり
あんないをたのんで
まるのうちを
けんぶつに
でるものが
あるゆへおなじ
ようにあとに
つきもめんやの
壱丁ある所
やくしやの
壱丁ある
所をとをり
ときは橋へ
はいり
これ
からハ
どちら
をミて
もおやし
きばかり
六十よしう
のお大名様
これじや
から江戸が
にきやかで
ござるお
まへかたハ
かまくらへ

【左丁。欄外右側書き入れ「地五」】
ござつた
ろふが
おやしきの
あと
らしい所も
ミへ
ませぬの
江戸の
おやし
きをミんな
ミるにハ
十日や
廿日
あるいてハ
ミられることでハ
ござらぬこゝがけばさき
とゆふところまつこの
おともまもりのおひたゝしい
ことをごろうしろざいで
でハおさむらいさまハ
さぞめつらしかろふ
正月のおぎしき
なぞのきらびやかさ
ミせましたいもんた
おのおやしきのごもんハ
どふでごさる
おがんでも
ようこさるか

【図中の言葉】
まめ男
じや□



ゆへ山坂
のことく
に思ふ

あのごもんハ
おてが
たハいり
ませぬか

【右丁】
ぶつかくハしよ
こくにれい
ちあること
はゆふこと
さらなり浅草の
くわんぜおんハ元日より
大三十日まであさハ
七つおり夜ハ九つ
までさんけい
たゆることなし
とりわけ
ゑん日の
くんじゆ
としの
いちにハ
所の
ものが
きもを
つぶしおゝ
やまにもミぢ
ふミわけといふ
しふんよりもつと
すへにうりてかいてに
山いつはいおと
した銭をひ
ろふこともならず
ほい四文銭と
いつたばかり

【左丁。欄外右側書き入れ「地六」】
きゝのこすへの
おちはして
おく山となの
ついた所にこう
ゆふ人日本の
うちにもふた
つとなしまことに
たいひのおん
ちかひかれ
たる木にも
はなの
江戸きつひ
さんけいじやと
豆おとこなどハ
わけてきもを
つぶす
ほかにハないそ〳〵

【図中の言葉】
はとに
まめを
くわせませう

【右丁】
両こく□□【字数不明】しもうさに
また□□【かり?】□□に大はし永代橋
北にあづまはし【吾妻橋】まつ
ち山【待乳山?】をなかめとふくハ
ふじつくばのめいさんミゆる
ふうけいといへば
さミしきものなるにミせ
物のたいこハ大にひゞき
さんげくのこへハ大山へ
きこゆゑこういんにハ
しよこくよりかいてう
たえすあり
あゆミをはこふ
このぎもやふんの
けいしよく
とかわり
さすれば
ちや屋
〳〵
のあんどう
てうちんに
のこらす火が
とぼり
ます
すいへん
なれば
なつの
うちハ
そのはづ
のこと
なれどかんお
うちでも

【左丁。欄外右側書き入れ「地七」】
しもがれ
にも
やたいの
くいもの
のこらず
とり
きれ
ます
れば
また
もや
あすも
この
とをり

【右丁】
五百らかんハまいるたびにこれハきついものたとゞゞ
いわふものハひとりもなしそのうへに
百ばんのくわんぜおんをさゞいどう
とてひとめぐりにはいし
唐人にミせたいといふところハ
こゝなり江戸けんぶつの
ぢいさまばあさまやぶいり
ばかりいく所が
さゞいどうが
できてやねふねで
きん〳〵として
人のゆくところ
にハなりけり

【左丁。欄外右側書き入れ「地八」】
豆男しよ〳〵をけんぶつ
してあるき上野の
くんじゆ【群集】すれば
ぞうしがやにもさん
けいおゝしまたしば
の神明もにぎやかに
ゆしまいちかへふか
かわへでる人あり
たま〳〵のことなら
ありそふなこと
なれどてんきさへ
よけれバまい日
おなしこと
ふりなか〳〵五日や
十日にミられることでハ
なければすこし
ゆるりとくいくちに
かゝりいり酒のにをい
やぺん〳〵といふ
所へはいり
あしたハしばいへ
いこうじやない
かといへば
豆おとこも
こいつハよいと
よろこぶ

【図中の言葉】
おいらがほうハ
どうあたる

なんだかふんだ
ようだが

おいた〳〵

【右丁】
しばいの
大入にハ
ちいさな
きもを
またつぶし
さじきのこ
らずもう
せん
にててり
かゞやき
どま【土間】さじき【桟敷】ハ
よつわいつかわとり
おちまなるのまおいこミ
のはめをはづし
ひきふね【曳舟。観客席の名称】もちや屋つきの

【左丁。欄外右側書き入れ「地九」】
けんぶつらかん【羅漢。羅漢台のこと】にも千五百人ほど
のぼりぶたいにもしんさじきが
でききやうげんする所ハ
たゝミにじやうほど
ありよりとも
公ハけんぶつのあいだ
からいでたまふ
きんねんの大入
切おとしのわりこミ
をミてハ豆男
にハとんとわからず
ぜにをだしたものが
しからておしこまれハ
せまいおしこんだものハ
でゝゆくからけんぶつ
てハあるまい
ぜにをたしたほうが
りくつがわるいか
たゞしきハきりおとしハ
ミんなふるまいか
どうもこれハ
わからぬと
一日くろふに
する

【図中の言葉】
こら
あがれ

こむしばや
だハナ

【右丁】
豆おとこ中の丁のゆふ
けしきへきたりきん〳〵と
したりやうかわのミせ
さきまてによし原
とハよい名しやと
おもひあとげつ【後月】
とうろけん
ぶつ【灯籠見物】のをりハ
あまり人
こミにて
おとこより
女がおゝく
くろはをり
あいさひ
ゑちこ
のこらず
ついの客
大じんやら
せうじん
やらかい
てうか
かほミ
せのよふ
ても
あり

【左丁。欄外右側書き入れ「地十」】
あまり
人こミ
にて
ふミ
つぶされ
てハなるまいと
大門口から
のぞいて
かへり
もはや
月見
すきにて
あわせ
小そでの
きやたじんひと
つぼよりにして
大もんを
はいれば
豆おところ
きよろ
〳〵
〳〵
する

【図中の言葉】
もしへわたし
かちでござり
やす

ゑゝ〳〵

【右丁】
し□やともしらす
きやくのあとから
二かひへついて
あかりおもて
ざしきからおく
ざしきまでろう
かをふら〳〵
のそいてあるき
ことさミせんハ
ありそうな
ものなれど
とうつくゑの
あるところも
ありたくあん
おしやうのいち
ぎようものに
きのあるミづさしの
かざりつけて
あるところも
ありこちらの
さしきハ
ミうけのそうだんいさひ
かまわす八百きんのつもりと
いえへはなんだかわるいものか
ろうかをいつたりきたり
どうすることかとあとから
【左丁。欄外右側書き入れ「地十一」】
ついていつてミれば
となりざしきの
きやく
ほかへたしてハ
おとこが
たゝぬ
あした
てつけを
わたそうと
やくそくきわめ
ねぎり
こぎりも
なしによく
ものゝよれる
ところこれで
ばんじの
うりものを
うれ
そうな
ことと
かん
しん
する

【図中の言葉】
どうでも
よいように

このぢう
おまへの
いわしつた
とふり
よしかへ
それで
それ
わかり
やしやうか
よしかへ

ちつとも
おはやく

【右丁】
□【豆】おとこいきあたり
さんぼうに
あそんであるき
子どものひる
ねをしている
まへゝかやへはいり
こゝろもちよく
ねわすれて
つらまりうち
のものも
ぼうがね
あそびと
おもひいぢ
つてミれば
いごくゆへ
りやうほう
できもを
つぶしけれバ
豆おとこ
ちいさな
こへにてうろんな
ものでハこざらぬと
いへばかないのものも
ふしぎにおもひ
なんぼ
ちいさな

【左丁。欄外右側書き入れ「地十二」】
なりでも
よるなら
きミのわ
るいもの
なれど
まつひるまのこと
だん〳〵よふす
をきけバ江戸
けんぶつにき
たものときゝ
やれ〳〵おふきなものにハ
ましなりそふおう
しほらしいと
かないぢうか
かわいがりまづ
しばらくこの
ほうにとう
りうさつしやれ
なんにも
こゝろつかひ
なことハ
なき
こなたくらいが
くふぶんハたかのしれた
こと五十のよになる
ものを子のように
かわゆがる

【図中の言葉】
ぼうや
ねんね
両国で
ミたら
ほしがろう

おや〳〵
けし
からぬ

豆おとことうりうのうち
おひたゝしくきんしよのものあつまりければさて〳〵
はな□【し?】にきひたとハ
百ばいもけつかふな
にぎやかなところわしらが
ちいさなこゝろでハこの
にきやかかわかいしゆハ
ごようじんなされ
ふうきてんにありと
まうせどもそこらあたりに
ぶらついてありうまい
ものハめをつくほどれいぶつハ
いて〳〵おがミはつものハ
とし〳〵はやしまことに
ゆたかな花の御江戸と
  どつとほめたるおうこへか
    つねの人のこそ〳〵
      はなしくらい
         なりけり
          清長画   通笑作

【図中の言葉】
さて〳〵
きどくな
ものじや

208
【印「特別」】
635

冷水灰毛猫

【表紙】天明元
【タイトル】雀敵打冷水灰毛猫《割書:芝金交作|清長画》 二冊

【国会図書館登録タイトル「冷水灰毛猫」】

【頁上部の文】爰に両ごくへんにひや水をうりて
とせいとするひや水の清右エ門といふ
ものありなつは水を
うりふゆは水より
おもひつきぢしゆの
さくらあめをうりて
年ぢうくいのみの二つを
とせいとしていたりしが
此清右エ門がうちにとし久し
くかいたるはいげねこのめ
ねこありけるがふる
ねこの事なればいつの
ころよりかばけねこ
となりあたりきん
じよの食物を
ぬすみくらい清右エ門
もほうどこまり
けるがぐわんらい
ねこずきなればたび〳〵
ねこにいけんをくわへ
たいていのばけのあら
わるゝ事はみのがしにして
かいおきけるあるときはいげ
ねこすゞめをいちわくわへきたり
清右エ門にみせる だんなさんなんぼ
おしかりなさつてもこうばけかゝつてはこわくもにやんとも
ござりませぬきじねこもなかずはうたれはしまいわれははいげねこ
だからぶたれはしまい
【人物画右の文】またおのれはどこからすゞめを
とつて
きた
【人物画左の文】すゞめ
ひとりにねこ
八人だちらとも
いつてみろ
【猫画の左の文】ちら〳〵〳〵
しめら
れた
【団扇画の左の文】のら
 ねこ
 にならふ
【頁下部の文】
こまつた
ものだ
しかしすゝめ
でまだ
よかつた
むすめだと
しきに大やへ
しりがくるは
めねこの
たましい百
までだ
われも

ぢう
やく

たゝ
 ぬ

【頁上部の文】さても清右エ門がねこは
日々にばけつのり
あまたてうるいの【鳥類の】
いのちをとりさて
はきんじよのものを
ぬすみくらいに
ゆくゆへ清右エ門
もとくといんぐわ
をふくめおのれ
かいにくいやつ
なれども
これまで
おれがかつた
よしみにこれよりこゝろを
あらため一ねんほつきして
あまとなりいまゝで
てうるいのいのちを
とりしぼたいを
とへ【?】またぬすみ
ぐらいもとゞまる
ならばかうべし
さなくばおいだす
べしといひければ
ねこも
ほつき
して
あまと
  なる
またせけんで
はいげねこの
事をへいけ
ねこといふゆへ
すぐにほう
めうをへい
げんとつけ
ひやみづうりが
ねこなれば
ひやみづのへい
げんねこと
ぞなのり
   ける
【画真ん中ホウキ画左文】これからは心をあら
ためますごせう大
じや金ほしや人は
わるかれねこよかれ
アゝにやんまみだぶつ
〳〵そうだがねこ
に小ばんはいらぬもの
【画真ん中ホウキ画下文】わた
くしが
ころも
をき
まし
たらおうか
め【狼】があき
れま
せう
【画右下文】にやんだかしら
ぬがしゆせうな
びくにだとんだ
ねこげですり
よかつたしもつま
のだんなでらのおしよ
け【お所化】のことづけにめねこさへ
そだてば□□がすつてやつても
いゝといふ事だこれからはおれがめをかけて
やるかはりにかつぶしもかけてやらふ

【右頁の上部文】爰に又竹町のわたしばにすねんすむ
ふうふすゞめありけるが二人のむすめを
もちておやこむつましくくらしけるかすぎし
ころおやぢすゞめを清右エ門が所の
ねこにとられしをざんねんにおもひ
ばゝあすゞめ
もつとも二人の
すゞめもおやのかたき
をたづねいだしうたんと
心がけしがおやすゞめなき
ゆへゑをひろいくう
くらしかたにこまり
なんぎせしをりから【折柄?】
よしわらにちうじやの
ちうざんといへる
ちう三ことのほか
すゞめすきにて
すゞめこをかいたがる
ゆへ二人のすゞめの
うち一人吉原【ちう三の所】へすゞ
めんとはなしとりを
うるものをよび
よしはらへやらんと
そうだんすること
ふびんなれ
二人のすゞめはわれが
ゆかふかれがゆかふと
ちら〳〵あらそふ
【右頁の右側雀の上の文】そいやり
にいやる
もはふ
のちら〳〵
だどち
らなり
ともいつて
たも
【右頁の真ん中雀の左文】そな
たは
ゆかれぬ
わしがゆかふ
【右頁の左側雀の左文】いへ〳〵あね
さんよりは
わしがゆかふ
【右頁右側の雀左文】とりの
せわを
する
からは
あの人は
ちよ
げんだ

【右頁の下の男右側文】さてもべちやくちやすゞめのやうだ
やかましいとちらでもかねとせう
もんが引かへだおれははなしどりも
うれははつのがめもうるその前
きんぎよめだかよたかもくるそん
なせばいのではないこのまへ松ばや
のせがわさんにうつてやつた
金ぎよ
なんどは
こうやの【こうやの=紺屋の?】
金ぎよ
といつ
てたい
てい
□□し
がつた ことでは ねへ
【左頁上部右側文】いもと
すゞ
めは
かごに
のせて
よしはらへ
うられゆく
たつた一わの
いもとをよし
わらへみを
すゞめさせ
きかはいや〳〵
これもたれ
ゆへねこ
ゆへじや
【左頁上部左側文】ぼうくみや
あんほつよりはかつぎ
にくいの
こんなかごははじめてだ
かゝさん此こはすりゑを
くふだろうのかへりがけ
に大おんじまへのくもを
ほつてゆかふしかし
かゝさんあんぢん町へうつて
しめらるゝにはましだ
【左頁右下雀の左上文】あねさん
かゝさん
おさらば〳〵
ちら〳〵〳〵
【左頁右下雀の左下文】すゞめさらば
よはんまり
はねばたきを
してかぜでも
ひきなるなよ
【左頁中央男の下文】□【破れ】へうる□
おまへ□□つとは
あ□【破れ】町だ

【見開き上部の文】竹町の
すゞめ
おやこは
いもと
すゞ
めをよし原へうりし金をかたき
うちのよういとしてくらしけるが
又そのとしのなつころ
本所ゑこういんにて
めぐろのゆふ天の
かいてうあり
ければすゞめ
はおやこづれ
にて
竹丁
のわ
たし
より
ゑかう
いんへ
日さん
して
かたきの
ねこを
うち
たき
よしを
ゆふ天へ【祐天(祐天上人)】
ねがふ
いかにすゞめ
らりやう人【すずめ等両人?】
なんぢら
かたき
ねこ
をう
たんと
日さん
すること
ふびん
なるに
よつて
ゆくすへ【行く末?】
まもりしゆ
びよくほん
もうとげ
させんすゞ
めの事なる
によりはま
ぐりとなり
清右エ門が処へ
しのび入
ねこのくひに
かゝる所
をしつ
くりと
したを
はさみ
くひころ
せと
の給ふ

あり
がたき
【右頁中央 雀画上文】さらは
お十ねんを
つつつき【つっつき】
ませう
【右頁右雀画左文】ありがたや
〳〵
【左頁人物画右文】さらば十ね
んをすゞめ
ませう
【見開き中央下文】 祐天記(ゆうてんき)と
いふ 書(しよ)に
かさねをうかませ【浮かばせ(成仏させ)】
給ひたることはみへたれ
どもすゞめをう
かませ給ひたる
ことは
のふてんきに
みへたり

【右頁上部の文】【「雀海中へ入り蛤となる」という諺のパロディ】
雀開帳入(すゞめかいちうへいり)蛤成(はまぐりとなる)清右エ門が
うちへしのび入ればねこはつねの
はまぐりとこゝろへくちあきし
ところをくわんとしてしたを
はさまれはま
ぐりはねこをくわんと
たがいにあらそいける
を清右エ門はこれを
みてつく〴〵とかんじ
さてはむさしのすみだ
川の水は一はい一文にうり
下ふさのさくらの
さくらあめは
十斗で三文に
うればよいと
此りやうごく
のあきないを
しり両ごく
ばしにてうら
んことをさとる

はておもしろのありさまやな
それはいゝがおれがこゝせんやに
すつておいたみそを
このさわぎにこほされた
さて〳〵いま〳〵しいちくせう
めだ うぬにこまりはてた
【右頁すり鉢画の上文】くちをはつかり
とあいてばからしい
やつだとおもつてくちを
つけてしめ
られたにやん
とするのだ
【右頁の左下の文】おのれ
なんと
いふみで
まきじた
でたいへい
をいつても
□□んで□□□
【左頁人物画の上文】ねこは此みそをこぼしたるを
ちよつかい【ちょっかい】にてかきよせ
なめらふよつて【なめしによつて?】今に
みそをかくものを
ちよつかいとて
たゝしやまと
ことばに
てはこれ
を【ただし大和言葉ではこれを】
せつかい
といふ
【この部分は言葉遊びになっている。猫がじゃれて前脚でものをかき寄せることを「ちょっかい」と言うが、「この猫はこぼした味噌をちょっかいでかき寄せてなめた。そのため味噌をかくもの(道具?)をちょっかいと言う。ただし大和言葉ではこれを(お)せっかいという」ちょっかいと呼ばれていた道具があるかは未確認。】
【せっかいは狭匙という道具がある。お節介にもかかっていると思う。】



【右頁右上文】清右エ門はてんびんほうにてはまぐりをたゝきはなせばふしぎやはま
ぐりはくち□け【あけ?】竹町のわたしばのけしきをふきいだしすゞめわ
あらわれいづるこれはこれすぎしころねこにとられし
おやぢすゞめのむすめなるがかたきねこをはさみ
ころさんとおもひのほか□れ【これ?】がぼうをくつたはざんねん〳〵
とし月ねこをうたんとておやこしんき【しんき(辛気)?】をいためし【?】
かいもなくこのありさまはぜひもないおしつけ【おしつけ(おっつけ)?】
おもひ
しら
さんと
とんだねつを
ふきだし
ていろ
〳〵な
いざ
こざを
いふ此はまぐり
のふきしは
とし月
かたきをうたん
とくろうせし
しんきのつかれ【辛気の疲れ?】
にて のうは【?】
ことなるべ
しとてこれより
はまぐりの
ふきしきを
しんきろう
といふとぞ
【右頁猫画下文】にやにが
にやんと
ふ□□□□
ない
【右頁下の文】あめうり
だから
あめん
ほうを
くわ

そふ



てんびんぼう
をくわせた
がとちめん
ぼうをふつ
てにげても
おれがてなみに【?】ぼうをみろ
かういつたらばち□かひうり
べらぼう
にならふ

□【扨?】ばけねこはひゝにとなりぬすみくらい
もやめおとなしくなりたるゆへ清右エ門も
あんしんしてある ときねこにるすをさせ
いでけるか ちくせう のあさ
ましさに うり物 の さくら
あめを みて
なに
とぞ
くいた

きとみとれまたほんのうをおこす清右エ門
かへりて此てい□【を?】みてとても心がなをらぬ
とねこをおいいだす
これではかはれぬ
くらかへをさせませう
久しいもんたがもうにやん
にんふくろのおがきれた
はへ
【左頁中央猫画左文】へいげん
ねこはひや水
のぶたいより
さくらあめを みすめるおやかた
のるすにあの あめをしめたい
ものだがいや〳〵 おれはこう
いふ心になつては しくじり
まのものがみい れたか
【左頁下文】あじ十方三ぜぶつ
あめ十ほん三せんづゝ
にゃんまみだぶつ〳〵
□【と?】はいふものゝのアヽうつ
くしいいろじやなア
こたへられぬ
いつそかぶると
おもつてくおふ〳〵







【見開き図の上部文】さても吉原へうられし
すゞめははしめはちう
ざんも□□に□□□
すゞめのことなれは
□しやうにへちや
くちや〳〵と
さへつりしゆへ
のちにはとんだ
くちのわかい
すゞめだめだと
いいてちう
ざんもにくみ
やりてに
いひつけ
したを
きらせ
てにがして
やる此とき
すゞめは
きも【肝?】の
ふと【太?】き
やつにて
たゝく
くいなの
くちまめ
どりに
とてちり〳〵
いつかくるわを
はなれてほん
にとくらくを
うたひながら
にげますゆへ
此ながうた【長唄?】を
いまによしはら
すゞめ【吉原雀】といふ
とかくすゞめ
はくちよりすだちといふ
よくいろ〳〵なつげくち
をしたるそのかはりに
したをきつてやるぞ
いまときのすゞめこに
ゆだんがなるものてはない
【図左上雀画の上文】
あゝいま〳〵
しいと
いつても
あとで
した
うちが
ならぬ
【見開き図の下の文右から】
おいらんへあのしたはかはらしいしたで
ありんすね  おひなさんのしたに
なせん


にくらしい
とんだちら〳〵□
すゞめだ

したきり
すゞめちよろ
ちよとくる事も
ならぬで
やりでも
なぎ
なた
でも
ない
はさみで
きつた

【右頁図 上の文】へいげんねこは清右エ門におい
いだされせんかたなくにんげんにばけ
しながはへゆきてみけの
といへる女郎になり
しがあるとき
びやうぶのかけにて
がり〳〵ときやくの
うでをくらい
このむしんを
いわにばつかり
に よいから
つとめた

てのほり物
のせんぎ
をするから
うれしい
すこしもて
だと お
もつて
うでを
だして
くわれる
とはこの
ことだ
いた
でた〳〵
【右頁 右端中文】おれはどうせうの みけのさんがねこ
□【に?】なりなんした うでくふねこも
□こ〳〵だ【猫だ猫だ(猫じゃ猫じゃ)?】
【右頁 右下文】かつぶし うりは
や□□□□□
□すりだ    がり
        〳〵
        〳〵
【右頁 左下文】あんまり
そのやうに
くいついたり
つめつたり
するなちく
せうめ【畜生め】とれ
でもりて
た□き□□
かうだ
【左頁上の文】それよりした切すゞめはおや
さとへねんあきてあげかへり
あねすゞめもろとも
かたきねこをせんぎのため
ぢまへをかせがんとゑこう
いんまへにきやうたいげいしや
をつとめて有けるがあるとき
ざしきへでるみちにて
おでしにおめにかゝりける
これ〳〵すゞめども今
なんぢかうちへゆかふと
おもつたてうどいゝ
所であつたちと
はなしがあると
いつて
□いゝ
をこ
ろばす
ような
そうだん
ではないが
ごんどねこ
めがしな川から
くらがへにどてかは
へきた
から
なん
ぢら入
こんで
ほんもうを
とげよまづ
ねこをころす
にはさけをにへがへ
にしてのますへし
【左頁 右端中央】ありがたや
  〳〵
【左頁 左中段 雀画の左文】ねこはれ いのねこした□【て】
そのまゝした をやいてしすべし
なんじはのんで もした切すゞめ故
したをやくき づかいはないと
            の給ふ

だいじにつかへ
さけはけん
びしだ
【左頁 左下文】らいこう
もどきだが
なんといゝ
ちへかすゞめ
にねこ
ころしのさけを
てうしくるみにあたへよふ
ぞくにおにころしの
さけありてぶつほう
にねこころしの
さけがあるしかし【この?】
てうしはふしぎで
□□□のてうし
たぞ

【見開き 図上の文】ばけねこ
しな川にて
きやくのうでを
くひしるせけんへ
かくれなく
とてがはへ
くらがへして
つとめけるか
すゞめども
御でし

おしへ
にま
かせ
にへがし

さけ

もりて
ねこを
ころし
ほんもう

とげる
これ
より
ねこ
といふ
ことはじ
まつたり
【右頁下 雀画下文】ちよ〳〵さんの【ととさんを雀訛りで言ったものか?】
かたきおもひ
しつたかみづ
からはそのさけを
のんでもした
きりすゞめだ
からなんとも
ないおのれは
ねこじた
だから
さい
ど【西土?】【さいご(最期)?】

【右頁下 猫画下文】やれ
あつや
にへがへ
やいき
かはりしに
かは□【り?】
さみせんの
かはとなり
べん〳〵いわ
さでおく
べきか
ごろ〳〵〳〵
【左頁 雀画右文】そつちはねこ
したこつちは
よくした
でかした
   〳〵

【右頁 上部文】かうてねこはほろびければ御でし
あらわれ給ひつかふすゞめの三人
清右エ門もよつくきけ□□く
ねこをころしたればもはや
うらみもあるまいまた
おれもしゆつけのやくた
からねこをうかめせ
てやらんとの給ひ
ねこ□□□わんのあわびかい
をごかう□□□□のだいざの
うへえあがりまん□□□□□やう
    をとげ  ありがたきそのときおん御でしの給はゝ
ねこのし□□□□□たれもかいてがあるまいからかはをはいで
さみせんを
はりかへ
つみほろぼしの
ためすゞめは
さみせんを
ひきねこの
かしらを切
て清右エ門
はしやつきやう【石橋?】
をおどり
又もち
をつい
てほうじ
をして
やれと
□□□
□□
【右頁中央 僧侶画の右文】あまり□□□□□
かわを下やへすて
けるゆへ此所を
いまに
【右頁 左端中央文】さみ
せん
ぼりと
いふ
【右頁中央 雀画の上文】すゞめの
□□へ
にやんまみ
だぶつ
〳〵〳〵〳〵
【右頁下文 右から】これでおもひのこす
ことはくきりまで□が
まだことし
かずのこを
たべませぬ

此ほうじは
しやつけう
をしちに
おいても
せずはなるまい
あいつも
うれしいか
して
のどを
ごろ〳〵
ならす

【左頁 上の文】それより御でしのおふせにまかせ
清右エ門はすゞめとぢひきにしてしやつ
きふうをおどり又もちをついて
ねこg
ねこがついせんを しける此ときぼたん
のときふつてい【払底?】ゆへ もちをほたんの
かはりにつかふここれ よりほたもち
といふ事はじまり のちのよに
ぼたもちといふ
はとなへちがい
なり又めぐろ
にもちつき
といふ事も
此□□□□
なり
【左頁 下 文】さればすゞめは此あ□□て
おどり
けるゆへ
よにこれ
をすゞめ
おどりと
いひ
しやつきやう
のあ□□
すゞめどう
じやうじの
ま□いりを
したるゆへ
いまにこの
まいをひいて
ねんぶつこう
□すい□□し
□□□□
ぼたもちや
□□□□を
して
□□□□
みへ

【右頁 上の文】それより
清右エ門は
おどりをおどり
    ならひ
めねこのついぜん【追善?】に
ならひたる事
なればめねこ
おどりといつて
はやりおびたゝしく
あめのうれるぞ
  めでたけれ
めねこかはねば
おどりてが
  ない

【右頁 下右端】
芝全交戯作
清 長 画

【左頁左上ラベル 上から】
208
特別
328

【裏表紙】

飛た間違矢口噂

飛間違矢口噂 完
【検索用:飛た間違矢口噂】

安永九年

飛間違矢口噂《割書:可笑作|清長画》 二冊

京の
いなかのかたほとり
にはあらす江
戸のいなかのかた
ほとりやぐち
といふところ
にいみやう【異名】を
ゆりわかの六
といふとをりものあり
大しゆのみてひよつ
とねるとおきる
ことをしらす
又女ほう
おみね
も大ねぼう
にて一日ひるなかにて
もいねむりふねを
こぎゐるゆへよの人
きんざいまてもおみねと
いわずおふね〳〵と
 いみやうせしなり

かゝあやこれではまた
たりぬもう一升かつて
こいまたいねむるか

おりしもなつの事なりしが六蔵
ふうふのものれいのとをりしきり
にねむけきたりことに夕立ふり
すこしすゞしきこゝろもちこらへかね
ふうふともにこゝろよくねいりける

あつ
さは
あつし
ふう
 ふの
ものは
それより
せんごしらず
ひるまへより
あたりかま
わずとり
ちらしたるまゝ
うちふしけるに
ふしぎやよく
ね入たるむな
もとかくちかは
しらず
二つのたましい
とおしき
ものいつく
  ともなく
    とびさりゆく

わたりに
ふねと
六蔵は
アヽフ【?】
ねせつけ
られて
すそに
あわせ
ふわと
かけて
ねる

きんねんに
なくゑゝ
あめだ
  はへ
何もかも
うつちやつ
ておいて
ねらく【寝楽?】
  〳〵

【右丁中】
しかるに
へいぜいは
おみねはな
はだかみなり
きらひなりしがさほどにも
おどろかずいたりしにかへつて
六蔵はふるひわなゝき耳
をふさぎまつさほになつて
うちふしける
アヽおそろしや〳〵

【右丁右下】
なつのくせとてにはかに
まつくろになりとう
さいもわからぬほと
の大雨にかみなり
きひしく
なりいだし
おそろし
かりける
なかにも
ひかり

【右丁中ほど下】
はなはだ
つよく
目のまへ
にもおち
たるかと
おもふほど
のはたゝ
 がみ【霹靂神(雷神)】
六蔵
ふうふ
かみゝに
いり
りやう
人いつ
しよに
めを
【左丁右下】
さま
しき
もを
つぶす
【左丁中ほど下】
おみ
ねは六蔵
がうへより
よぎ
うち
きせおしすくめ
そらをながめかい
ほうしける

【右丁上】
ふしぎなるかなそのゝち六蔵はこのみけるさけいつこうに
のまずまして人にたて
られし通りもののわる
ものなればすべて
あらくましきおとこ
なりしがうちに
ばかりゐて
とかくおとこを
みがきあさも
ゆをくみて
あらひこに
ててふずを
つかひそれ
よりかほ
にはうす
げしやう
をして今まで
ついにつけた
こともなき
百介がくこ
あぶら松本が
ぎんだしを
ぬりまわし
水がみに
ゆひたて
女のびんを
【左丁上】
出すやうに
まげほらにて
中ぞりのうち
をすかしあらゆる
たわけをつくしける
女ぼうおみねは又
おつとがばかをつくす
をいけんしても
きゝ入
ぬゆへごうをわかし
あしなきになりて
かみかたちにもかまはず
あさからばんまてさけ
びたしになり大はたぬき
てれいのてまくらにて
おゝかみの
ごとくの
いひきを
かきねいり
    ける
【右丁左下】
よくねる
め【女?】だぞ

【右丁上】
さてもおみねは
おつとがちかき
ころは一かうにそ
        と
へも出すすこしの
かせぎもなき
ゆへにあさかい【朝買い?】の小つかい
せにもなくこれにて
もすますとおもひすこし
づゝのめくりにかゝりいまはさいふを
かたにかけ
あそここゝの
とばとやらへ
あるきてそふ
おふにかせぎて
六蔵をはごくみ
けるかかみ【めて(右手)?】はいつ
がよにも女らし
くいゝし事も
こゝをはれと
いふ所がいろ
ほんだ【色?本多】とやら
いふひつつめ【ひっつめ(髪)】なん
だかかつそうた【喝僧=総髪】【鰹太鰹(ソウダガツオのこと?ソウダ節の原料)】
やら山ぶしだ
やらしれぬあた
まとうのいも成【頭、唐の芋なり?】
【左丁上】
くきをさした
やうな
まげつき
女らしいところ【こころ(心)?】
は少しもなし

かみさん
まあいつ
    はい
  のみなさへ

せうぶなむさん
  しまつた

こりやきたな〳〵

どうだ
   あにさんたち
     ゑゝのが
      てきるかの

【右丁上】
おみねはしやうばいにかゝりなか〳〵いまははりしことも
ならずちうやひまなきゆへとうでうちにゐて【遠出、(六蔵は)うちに居て】
つくりみかきのかたてまに六蔵はしごとをおぼへ
一日したてものにかゝりゐけり

かゝあが
うちに
ゐては
くふことが
ならず
又たん〳〵さむ
そらにむかふ
     から
ちと
  わた入
ものゝ
  したく
     を
せねはならぬ

てんきが
  よくは
 あしたは
  かみでも
   あらおふす

【左丁上、ここから別の場面】
そのゝち六蔵はきん所より
しばゐけんふつに【芝居見物】さそわれゆき
しがいぜんとはかはりてかみかたち
をつくりみがき
いるいはくろき
にそでにもみ
うらのそて口
からみへるへに
入のかゞもん
ちつとばかり
すそつぎ
をして一寸
五分ほと引
つるやうにしたて
おびはふうつうの
はゞひろそでづ
きんにてかほを
かくしさもいやうしく【異様しく? いやらしく?】いで
たちける
ゑゝいやうしい【異様しい? いやらしい?】ゑゝかとおもつ
てなんのまねだばか〳〵
しいるすにはさけの
四五升もあれはなんにも
いりませぬ
     そんならよく
     るすをたのむよ
        いつてきませう
又るすにきん所のかみさまたちや
 むすめこどもをよひ入まいよ
  どふでしまいにはろくな事もてきぬ
                ものだ

ころしもおみねはとりのまちへいてかけしがそのかは
とをみちなれは【川遠道なれば川東道なれば】はつちしりはしよりにくろ
つむきのはをりにて
さいふをかたに
かけふすへかはの
たび【燻革の足袋】大さかせつた【雪駄】
さげ
たは

入を
こしにさけたてから
みてもよこからみても さらに
女とはみへすちかいころは此るいの女おりふしみかけるものおゝし
おみねみち〳〵のせうふ【勝負】の
あげく大けんくわを
はしめる

なんだ
うぬらあ
まの
ふりを
して
おれをたれ
だとおもふ
ゑゝやぐち
のおふねといつ【「おふね」はおみねの徒名】
ちやあなちつと
人のしつた
けむてへおやま
だぞ


【左ページ上】
こいつ
もとい
つもいふ
所ていつ
てみ
せう
まつくら
な所に
すまは
せてしら
みにくは
せるそ
あてこと
もなへ【当て事もなへ】

【通行人の台詞】
けんくわ
かある
むすめ
こつちへ
よつて
とを
りや
けし
からぬ
女も
あれば
あるものた

【左ページ下、その娘の台詞】
かゝさん
あいつは
おそろしい
人たね

【右ページ下、仲裁に入った 通行人の台詞】
はてかみさん
まあしつかに
物をいゝねへ
みんなおまへが
もつともだかよ
おれが
のみ
【左ページへ】
こんだ
とうても
や【す】るわな

はやとしもおしつめけるに
おみねはとりのまち
いらい所々にて
しゆひ【首尾】あしく此ごろはもとでもてきかね
そのうへかいがゝり【買掛り】の町人廿五六日ごろ
よりつめかけさいそくしける
此人たちやあ【このひとたちゃぁ】みゝはなへか【耳はねえか】さつき【さっき】
からいふ事がきこへぬかやるまいとは【やらないとは】
いわぬはな【言わぬわな】【花札】あるときならぜにの
二くわんやさんぐわんたふでも【どうでも】やる
けれどなへ【ない?】からまてといふ
のだはなきゝ入すは【聞き入ずば】や口【矢口】
のおふね【おみねの徒名】だアおれを
はだかにしてもつてい
きやれもふふんどしませ【まで】
ひつはずして
はら
わね
はかつてん【合点】せぬ

いや〳〵はらはねば
ならぬもつて
いきやれこともしの【子供衆(こどもし)の】
やうな

申かみさんそういふ
ことではないよう【ことではない。よう】
ござります
はるまでも
なつまで
もまち
ますどうぞ
かんにんして
はらわずに
おいて
くだ
さりませ
そこがおなじみ
おでいりだけ
ひとへにおたのみ
申ます

はて
どうぞ
御りやう
けん
なされ
ませ

六蔵

そち
のすみ
にかた
いてめたか【目高(見物人)?】
となりの
おもわし女ほう【恋女房?】
がたかごへ【高声】を
きのとくにおもひ
はら〳〵する
もうゑゝわな
しつか【静か】にいやれさ
あのやうにいわしやる
ものを

さてもやぐちきんじよ
むら〳〵にても六蔵が
みもちおみねがてい
たらくはつと
ひやうばんあり
ふたりともに
きがちがひしか
又はきつねた
ぬきのみいれか
なんでもひと
とをりのこと
ならずと
なぬしを
はじめより
あいそうだん
をする

さしあたつて
むらの
なのでる
ことまづ
ふびん
なこと
でもあり
どうぞ
しかたが
ありそうな
ものだ

【右ページ台詞等】
名ぬしさまのおつしやるとをり
どうでもきつねが
ついているもしれ
ませぬ

なんと
万八どの
六蔵
ふうふが
みもちどう
もがてんが
まいらぬ

さやふにいたしても
まいらねば
いたしかたは【致し方は】
まだある〳〵
とぞ
申ける

【右ページ屋根の下】
しかるに人□かしら
とん兵へといふもの
こくびをかたむけ
いふやうわたくし
【左ページへ】
ぞんぜしいなかのべつ
とうにどうねんと申
きとふじや【祈祷者】きちがい
きつねつきなどき
めうにきとふをいたし
まするとはなし
それよりどうねん
をよひなつ
ちうゟ【より】六蔵

ふうふ
かていを
くわしく
はなしけるに
どうねんいふよふ
それはまづ二人ともにさけを
すゝめよくねいらせておき
いたしかたありとうけあふ

かくてとん兵へ万八は六蔵かたへきたり
ふうふにさけをすゝめゑいにさせ
それよりどうねんをよびきたり
きとうをたのみけるにどうねん
こゝろへふたりがよくねいりたる
ところをまづ六蔵をけわしく
おこしければのきくちより
一つのしんくわきたり
六蔵がくちへ入らんと
する所をもちつたへたる
きつねのめんをくわい
ちうよりいだし
六蔵がかほへ
かふせければ

しんくわはあちこちう
ろたへはいるべき口を
めんにてふさがれ
おみねがねいりたる
くちよりはいりける

【右ページ、おみねの下】
ほどなく
又一つのしん
くわ
そと
より
きたり
おみねが口へ
はいらんとせし
ところを又き
つねのめんをかけ
ければこれもまた
うろ〳〵して六蔵が
くちへ
はいりける

【右ページおみねの頭の左】
それより
りやう人を
ゆりおこ
せしに
ぼうぜん
としていたりしがおみねは
【左ページへ】
しとやかに
みな〳〵へあい
さつしていさいを
きゝふうふかぎりなく
よろこびまづあたりを
そうじなぞしてかけうわ
ごさを【掃除なんぞしてかけ、上ござを?】【掃除なんぞして、掛川ござを?】
さらりとしき
とうねんを
しやうじて
いろ〳〵もてなし
一礼のべて
かへしける

それよりみな〳〵いとまこひしてかへりしあとにて
にかき【苦き】【ふうふ?】かほとかほを
みあわせ
あきれて
しばらくものもいわず
おみねはすこし
はつかしくゆめ
みしこゝちにて
かみなりこの
かたのはなしあい
おもへば
おかしく
たかいにわらひ
をもよほしける
□【そ?】まづ大じのとしのよだおとうめうを
あげやれこのいごともになんほねむ
かろうともふたりいつしよにはねぬ
ようにしませうとんだ
ものがまちがつて大き
に人のせわになつた
とちの人どうねん
さまのおかけてまことの
ふうふらしくはつ
はるをむかへめてたふ
ござんす
このよふなめてたい
ことはない

清長画 可笑作

【墨で逆さまに】りゑ【里ゑ】

化物箱根先

化物箱根の先 全

安永七年
清長画

化もの
箱根
の先

はこねより
こつちにはやぼ
とばけもの
なしととんと【=まったく】
なきもの
にして
あれば
ばけ物
此【?】間【仲間?】
さんねんにおもひ
これまてあり来り
にてはおも
しろくなし
あたらしき
ばけやふを
はじめんと
ばけものゝ
おやだまとも
そふだんする
【野暮と化物箱根の先=江戸に野暮はいない、という諺をしたじきにした話】

【火鉢の下、つぶれていて読めず】

【火鉢の左】
しらうと
しう
きついものさ【素人衆きついものさ】

あたらしき
ばけ
やふに
くふうせんと
くさぞうしを
かいあつめ
よりやいて
    見る
もふさかつき
のばけ
もの
では
子供


こわ
からぬ
みこし
入道□【も?】
おと
なげ
なし
【入道の首の下、かすれて読めず】
これらは
□□り
しや□
□□
□□□

【右ページ下、たぬき】
おれが
きん
たま

とつ
く【とっく?】
から
すた

まし


ちと
いき

はけ
よふは
□□【つぶれて読めず】

【左ページ、蝋燭のばけもの】
しんを
きつて

やう

【左ページ、化け猫の背側】
わたしも
品川て
ない事を
いわれる
し【〳〵?】

ばける事はしやうばいに
するきつねなれども人
けんのわなにかゝりとら
るゝ事かづをしらず
その中にばかさるゝ人も
あれどまれなりとかく
まゆけをぬらすは
人と人となり【?】つゝ
しむべし

【右ページ下、かすれている】
きつねは
かりうど
のかけし
わ□
といふ
□□
がつ□
にて
ねづみ
はかり
とり
くらいしに
いわみ
ぎんさん【石見銀山=砒素、殺鼠剤】

くいし
ねづみ
ゆへ大
しよく
しやう
をす

【左ページ一番下】
さて〳〵
がいぶん
のわるい
中間の
ものには
さた
なし


【輪のついた構造物、墨で落書き?】
きつ
きつね


【左ページ左下、かすれている】
かりうど
やふ□□□
さやへ□□ね
いろに□□
くるしみ
をる

【左ページ左上】
きやつ
して
やつた
 

ばけものどもなにぞよい
しゆこうもあらんといゝ
やわせ
しばい
けんぶつ
にで
かけ

がくや
しん道【楽屋新道、日本橋人形町三丁目あたり】
ゑかゝる

【右ページ中】
いまにたゝて
めぐされにす【「目腐れにす」?】


【左ページ】
こま
さん
〳〵

【箱】
福山

【左ページ下、かすれている】
けんぶつ
してな□
ぞよい【?】□
しうち【?】
かきた

□□…
□□
□やれ

ばけもの共
しはい見物
してかくや
入を見たとは
大ちがいにて
きもをつぶし
のこらず
ばけやふを
あきらめる

【舞台下】
おれは
おなし
ねでは
そんだ

さて〳〵
かん【?】
しん
〳〵

中村
〳〵

【左ページ】
とう
ざい
〳〵

此所
上なり
大当り

【左ページ裃の男優の後ろ】
かみすき【(髪梳き=歌舞伎の演出法の一)】のもん【?】

【右ページ、かすれが多い】
がてんだ〳〵

あれかて□だ【?】ぞ【「あれがてら(寺)だぞ」?】
〳〵

むかふからくる□や【(医者かも?)】□【「向こうから来るぞや」かも?】
まゆけをぬらし【(=化かされないように)】なへ

どふやら
きみが
わるい

たぬききつねしはい【(芝居)】
にてはかされ【(化かされ)】大きに
おじけがつき
いしや【(医者)】さまを
見てたしか【?】に
おてら様【(=坊さん)】の
はけた【(化けた)】のと
おもひこわ
かる

【左ページ】
三十ふりそで四十しまだばけものから【ばけもの成り(也)?】
ごせつくをとる【(=節句売=売笑)】あねさまたちゆきのやう
なるかほにて
もふ

〳〵


すばらしき
どうじや
よろうかの

およりなんし
な□さん

おさだまりの
うしみつころ
ばけものもしやう
ばいなればそろ〳〵と
でかけれどもせけんは
みなねいりしまい
ばかす人もなく
そばうりにてあい
くいにけとでかけ
さん〳〵のめにおふ

【蕎麦売りの看板】
一八

【右ページ下】
今じぶん【墨で重ね書き?】
くらう
物らろく
なやつで
あるまい

おもふた

ごめん
〳〵
にう
めん
壹ぜんで
むこい
めにおふ

【左ページへ】
あいた〳〵

こめん
〳〵

うぬがあたまは
こん〳〵と
いふ

【屋台の看板】
あま酒


見こし入道は中間のはけ物共しろふとにはかされるをふかいなく
おもひ大ぜひひきつれあさくさのへんへ出けるかこうや山の
むみやうのはしへとうばをおさむるきやうしやいつ□【ほ?】ん
ばのあしだにてみこし入道をのぞきけれははし
めて人にのぞ
かれきもをつふし
てきをうしのふ

【入道の上】
なむあみ
たふつ
〳〵
【入道の下、左ページに続く】
やれ
おそ
ろし
ゆるし
たまへ

【左ページ、にげまどう妖怪たち】
そりやでたは
にけろ
〳〵

おそろしや
〳〵

みな〳〵
おそれ
にける

かしこまり
ました

はけ物共人けんに
ばかされしよせん
かなわじとおもひ
みな〳〵いゝ
やわせに の
うみ【西の海?】へ
【左ページ下へ続く】
ひきこして行
きつねは日本へのこし
人けんのはけるしやう
たいを見あらわせと
いつけておきけり
したがかならずあそび
なぞにゆくまいぞ
またとのや□【ふ?】な
めにあほふに
□れない
【12コマに筑羅が沖とあり、13コマには西の海もある。単純に上方へ逃げたのではなく海外へ逃げた設定になっている?】

【大八車を引く一つ目の下、かすれている】
やれ□□
□□□

【大八車の上】
やき



のやう
じん

【焼き鼠の用心、鼠が火事の前に逃げ出すという事だろううか?】

【一つ目の上】
ばん
には
あつき
かいだ【小豆粥だ?】

ばけものはのこらずはこねのさきへ
ひきこしきつねばかりのこしおき
しにさすがはつうつはきにて人間
のはけるしやうたいをあらわさんと
せんきせし所に人間のばけ
ものゝおやだまうら
嶋太郎もゝ
太郎が
おやに
あふ

ほか

ものは
ちく
らが
おきへ【筑羅が沖】
まいり
ました

三人の
ものあら
われいで
きつねに
人けんの
はける
【左ページ下へ続く】
しやうたい
をみせその
ほふたちは
はこ

より
こち
へ□
【看板の左へつづく】
おくほど

かな□す【かすれあり】【かならず?】
人のま□【かすれあり】【人のまね?】
をし【破れあり】
はけ
まい


【左ページ上】
うらしまは八千さいまで
いきのびたるによりとし
のよりしものをばけそふ
だと
いふ

此事也
もゝ太郎が
おやふた
たび

わかく
なりし
ゆへ是も
ばけもの
なり

かゝる目出度
世のしるし
あつきやふがいのたぐいのこらず
にしのうみへゆききつね
ばかりのこりしゆへ
きつねの事をいなり
といゝしゆへいなりを
きつねと
おもふ
人おゝし
こつちに
いなりといふ事なり
【下へ、かすれ多し】
きつねを午
にのせたと
いふ事わざ
より
□【午?】
の日を

ゑん
日うたがふ
へからず
ばけ物
ほんの
事なれは
御子共
様方

まゆ
げをぬ
らして
御らん
被成
かし

【右下隅】
鳥居清長画

九替十年色地獄

《割書:狂伝和尚|廓中法話》九替十年色地獄 全

九替十年色地獄 完

《割書:狂伝和尚(きやうでんおしやう)|廓中法語(くわくちうほうご)》九替十年色地獄自序(くがいじうねんいろぢごくしじよ)
諺(ことわざ)に北洲(ほくしう)の千歳(せんねん)も。 限(かぎ)り有(あり)といへるに。などてかく。
苦界(くがい)十年の限(かぎ)りなき事よ。九年 面壁(めんへき)の。 達(だる)しうと。
いへども。 年(ねん)ン一( ̄ツ)しのわる長(なが)き事を知(し)るべからず。 突出(つきだ)し
より年明(ねんあけ)まで。 憂(うき)年月(としつき)の隙(ひま)行(ゆ)く駒下駄(こまげた)。無理(むり)な
驤(はるび)【※】もとかねばならず。いやな風(かぜ)にもなびかにやならぬ。
柳(やなぎ)の髪(かみ)にさす笄(こうがい)は。八 本( ̄ン)九 本( ̄ン)の浄土(しやうど)とも見
ゆれど。 旦(あした)にはたちまち損料(そんりやう)物の蔵にいたるときくならく。
誠(まこと)に㮈楽(ならく)【奈落】の責(せめ)なるべし。なんとマアそうじやねへかへ

寛政しん亥【?】の春   山東京伝 述

【※はるび=腹帯。字はこれではないかもしれないが、空欄ではルビをふれないため似た文字をあてた】

こゝに安( ̄ン)本( ̄ン)山三東寺 狂伝(きやうでん)
おしやうといふのうらく【和尚といふ能楽】
ほうしはなの下のこんりうの【法師、鼻の下の建立の】
ため百日かあいだいろだんき【ため百日が間色談義】
をときけれはうわきでやいくん【を説きけれは浮気出会い群】
じゆしてちやうもんする【衆して聴聞する】
「きやうでん和尚しかつへらしく
せきばらひしていわく
これはいつれもごきどく
にこさんけいなされた
それつら〳〵おもんみれは
むかしよりゆうりを【昔より遊里を】
こくらくと見たて大門口は【極楽と見立て大門口は】
とう門とし太夫の【(極楽の人間界に開いている)東門とし太夫の】
あけや入( ̄リ)はさん
ぞんの御らい【三尊の御来】
かう大じんの【迎、大尽の】
ふところは
わうこんの【黄金の】
はだへ【はだえ=肌】
などゝ
たとゆれ
とも
それはきやくの【それは客の】
りやうけんにて【了見にて】
女郎の心には
中〳〵こくらくの【なかなか極楽の】

せつちんくらひ【雪隠くらひ】
てもなく【でも無く】
くがい十年の【苦界十年の】【九替十年とかかっている】
かしやくの【呵責の】
せめはちこくの【責めは地獄の】
しやううつして【「しょう」は「性」或は「象」か。正体、本性、姿、有様の意。うつして】
ごさるかゝる【ござる。かゝる】
くるしき
女郎の
みの
うへを
しりなから
みあかりを【身上がりを】
させ引て
あそふをつう【遊ぶを通】
しやと思ふしゆじやう【じゃと思ふ、衆生】
そうはとらのかはのふん【僧は虎の皮のふん】
どしをしめぬはかりのおに【どしを締めぬばかりの鬼】
じやとかくほんぶがつうに【じゃ。とかく凡夫が通に】
なりたかるかおいらん上人の【なりたがるが、花魁(親鸞にかける)上人の】
おしへはたゞ一心いつかうになむやぼ【教へはたゞ一心一向に南無野暮】
だふつ〳〵と申せとの事てごさる【陀仏〳〵と申せとの事でござる】
これからいろぢこくのありさまを【これから色地獄の有り様を】
ときましやうみな【説きましょう。皆】
ゆるりつとちやう【ゆるりっと聴聞】
もんさつしやれや


【台詞、右ページより】
「狂伝おしやう
はなの下の
こんりうて
こさるこめの
せにを【銭を?】
上られ
ませう

「おやぢの
おだんぎと
ちかつて

おもしろひ
自笑(じせう)か【自笑が】【八文字屋自笑】
きんたんき【禁短気】【禁談義にかかっている】
このかたの
せつほう【説法】
じや

「アヽありがたふ
ごせへす
なむやぼたふつ
〳〵〳〵

此いろちこくへおちるものゝはじめを
たづぬるに身をすてるやぶさへ
しらぬびんぼう人の娘にて
しはゐてもするとをり【芝居でもする通り】
ゑてはおやはらからの【得ては親同胞の】
ためにしつみし【ために沈みし】
こひのふちにんじん【恋の淵。人参の】
のみかわりに此いろぢ
こくへおちる事にて
うられて行ときは
四鳥(してう)のわかれに
ひとしくたとへて
いはゝしでのたび【言はば死出の旅】
いきわかれの
門出にてそのみに
ぜげんのつら【女衒の面】
つきもほんだにゆうた【つきも本多に結うた】
おにと思はれむかい
の四ツ手かごはひのくるまの【四手駕籠(死出とかかる)】
やうにみへ
ますじやに
よつてびんぼう
な事 を火の車と
申( ̄ス)はこのゐん
ゑんでごさる

【左ページ】
かの川柳和尚の
うたに
「こう〳〵にうられ
ふこうにうけ出され
とはむへなるかな〳〵
アゝなむやぼだ
ふつ〳〵
「ふたりがなみ
だのおちる
おとぽた〳〵
〳〵〳〵
ぽたり
〳〵

【駕籠かきの台詞、右ページから左ページ下へ】
「コレおむすあんまり
なきやんななみ
だて
かごが
ふやける

「さきぼう
しつかりか上るぞ

「二人のし うき
づかいさつしやんな
おつゝけ きん




おいらんになると
今のくらしでは
まもりふくろ
にももたれぬ
やうなよき
ふとんをきて
ねる
ぞや

さてかのおにのやうなぜげんに
いざなはれいろぢこくのあるじ
ないしやうのていしゆ大王のまへゝ
出れはまづじやうッぱりの
かゞみといふにうつしはなすじか
とをるかとをらぬかみのしなへが
よいかわるひかをみさだめよびだし
つけまわし中三へやもちまはり【中三、部屋持ち等は遊女の階級】
とそれ〳〵のつみをきはめる
かゞみなりぢごくのさたも
かほしだいなり又そはに
おかみさんといふがつきそひ
ゐるおにの女ほうにはきじん
といへどゑてはこのおかみさんと
いふやつていしゆ大王より
むねきなものにてつねに
わがひざもとに
ひるねかむはなと
いふ二人の
ものをつけ
おきたれ【おき、誰】
さんはこの
ころぢいろが
できたの
だれさんは
よくきやく
じんを
ふるのと二かい【二階】
中の事を
みだしかぎ
出しして
いつ付口を
これは
いつでも
こしもとの
やくなり
「此かゞみを
じやうッぱりの
かゝみとなつくる
ゆゑんはとかく
女郎はしやうッ
ぱりなこんじやうで
なけれはよき
おいらんに
なられぬゆへに
かくなつくと
なり

「もしおかみさんへうわきのさんは
此ころいせやのきやく人にほれて
すつぱたかになんなんすつたと
おはりしゆがはなしましたよと
ひるねかむはなおはむきにいろ〳〵な事をしやべる

「ていしゆ
大王女郎の
きやくに
あがるをいち〳〵
くろがねの
かんばん
いたにつける

此ほうこう
人はおや
はんを
通して


へり
やし

わつ
ちら

ふみ玉【?】
なざァ
つかつた事は
ござりやせん
マアむなくらの
五両も
かして
おくんな
せへしな

【左ページ挿し絵内説明】
じやうッぱりの鏡(かゞみ)【浄玻璃と強情っ張りがかかる】

昼寝(ひるね)

かむ鼻(はな)

きめうてうらいそれよりはさいのかはらの【帰命頂礼それよりは賽の河原の】
ことくにて今はかふろのなかま入り【如くにて今は禿(かむろ)の仲間入り】
じやけんな女郎につかはれてからだ
中はあざとなりまた竹村の
あきぢうはこいちぢうつんではちゝこひし【空き重箱、一重積んでは父恋し】
二ぢうつんてははゝこひし又は【二重積んでは母恋し又は】
用たすそのひまにあき
ざしきへあつまりてきしやご【きしゃご=食用の小さな巻き貝、おはじきにして遊ぶ】
はしきやいしなごにすこしは
うきをわするれど
たちまち
やりてが【遣り手=遊女と客を取り持ち遊女を管理する女、遣り手婆】
みつけだし
しかり
ちら
すぞ
あはれ
なり
なむ
やぼ
だん
ぶつ
なむやぼた

「此所のかき大しやうを
しんぞうぼさつと
申奉り
かたてに
かなほうを
もちたゝせ給ふ
これはかふろの
わるひ事を
みだして
おいらんへかなぼうを
ひかんとの御せい
ぐわんなり
「又かたてには
玉子やきの
四角をふた
ちやわんに
入てもち給ふ
これ女郎の
まことといふ
みせかけなり
「又此しんそう
ぼさつもあん
まりきやくを
ふるときは
やりてが大
こくはしらへ
ゆはへつけ
しんそう
ぼさつきやく
しろこん
りうとぞ
しかりける

【台詞、右ページより】
「今用をしてくるから
おれもしんに
入てくだせへ

「おらは
きさまは
いやだいのふ
しげみ
どん

なにやら
あたりな
ものか
ほん
とうに

たつ
たは

それよりだん〳〵
せいじんして
ひつこみ
かぶろとなり
ほどなく
ばからしう
ざんすの川と
いふにいたり
此川にて
水あげをされて
みせへ出るそれを
いやがるときは
やりてばゞァ
つらのかはを
はぐ
「此川をわたれは
それ〳〵の
きりやうにて
中三にも
へやもちにも
しんさうにも
なるなり

「わつ
ちやァ
みづ
あげは
いやで
ざんす
ほうい
〳〵

やりて一名
しぶいかほの
ばゝァ

おめへの
つらの
かは

とん

あつい
かはた

おしい
もの

きん
ちやく

ぬつ

もら
はふ

【立て看板】
ざん


しよくわいなぞ
にはさしき
いろ〳〵
うまさふ
なものか
出ても
みたば
かりで
くふ事
ならず
アゝそんじよ
それをくつ
たらさぞうまからふ
たれそれをたへたら
おいしからふと
思へとも
まん
ざらめ
のまへに
ありなから
くわれぬ
ゆへげびぞう
な女郎なぞ
にはくいもの
からひが
もへるやう
にみゆる
なり又
きやく

みへ
ほう

くひたくつても
くわすたがいに
にらみ
つけて
いる
これ
かき

くの【?】
くるし

なり
「そうで
おす
ぞくに
とうもろこし
なぞが
よう
すよ
「もし
おいらん
ちよつと
みゝを
おだし
なんし
竹村の
上あん

まん
ざらで
ない
ねへ

「ナニ
わつちらは
やつはりねぎ
まがおい
しひ


「りてふちつとなんぞ
くわつせへ

マアぬし
くわつ


おいらァ
まだ
はらが
よし


作者曰
「くいもの
からは
ひが
もへる
きやくは
きが
もめ


らう

「ちと
なんそ
めし
上り
まし

ちくしやう
とうの【畜生道の】
くるしみは
ふりそで
しんそうの
みのうへに
ありさし
きではきやく【座敷では客】
にみへとこの【に見え床の】
内へはいつて
みると馬の
やうなきやく
たび〳〵
ある事也
これらにも
しんほう
して
あはねはならず
そのくるしみ
ふでにのへかたし【筆に述べ難し】

「又ことはら
れるか
馬〳〵
しひ

「あのきやく人□きりは
あるのだしんぼう


せへ

「ばからしひ
ざしき
では
人のやうだが
とこの内ては
馬だものを
とうして
あわれるものか

またいけづなひしんそうなぞは
やりてがもらつたぶらへ【?】小がたな
はりをたてゝせめる
づるひきの女郎を
かしやくするゆへ
これをづるきの
山といふ【づる引きと剣(つるぎ)がかかる】

「あんまりだ
かう
せずは
きく
まひ
「これから
ともべやへ
にけこまふ
「まちなんし
ながしへ
ゆびのわを
おとしんした
とつてきて
から
せめら
れん
しやうと
しんぞう
へいき
なり

中でもとうらくな
女郎はいろとさけと
くらいものに
しんしやうを
いれあけもの日の
みあがり八重【?】かり
のそんりやうが
つもり〳〵てつまら
なくなりこふくや【呉服屋】
こまものやそん【小間物屋、損】
りやうやきのじや【料屋、喜の字屋】
までにかしやく【まで呵責】
せられかんの
うちても【寒の内でも】
すつはだかで
いるこれを
はつかんぢごく【八寒地獄】

いふ


「へいきも
ほどのある
ものだ
ほんのへいき
の引たをしだ
おごるへいき
ひさし
からずとは
おめへの
こつた

「なにさ
これても
からたじうを
かほだと
思へはへいきさ
おまんまの
かわりに
風くすり
をたべれば
かぜも
ひきん
せん
「みなんす通り
わつちとした
おびばかりだから
りやうけんが
ならざァ
くびでも
もつて
いきなんし
ばか
らしひ

小まものや
「わたし
がほんの
すいぎう【水牛】
ておまへに
かしたが
べつ

う【鼈甲】
かた

つき
ませ

ぞう
げそん【象牙】
なこつ
ちやァ
らちやァ
あく
めへ
【かんざしなどの原料名をならべてツケ取り立ての口上にする洒落。】

きのじや
「だん〳〵か
した
せにのかづのこ【数の子】
なつけの【菜漬け】
しやうゆのからひ事を【醤油の辛い事】
いつてもそつちの
まゝには【まま(飯)】
ざぜんま【座禅豆】
ごまめ【鱓】
口まめ
その
いゝわけも
ひたしもの【浸し物】
もふあさつけの【浅漬け】
事はおけ二日と
またれぬふた
ちやわん
ふしめを
みぬうち
はらつた
〳〵
【食べ物の名前を並べてツケ取り立ての口上にする洒落。】

此いろぢごく
にてはしや
ばでまだ
かたびら
をきる
じぶん八月
数日に白むくの
かさねぎを
させるざんしよの
つよひじぶんは
そのあつさ
こたへられず
そのくめんの
くるしさ
たとへんに
ものなし
べつして
かねのまち
がつた
女郎なぞは
そのうへにこびん
からひがでる
いわゆる
しやうねつ
ぢごくの【焦熱地獄】
くるしみ
これなり

あせ
つらゝの
ごとくに
ながれる

ほんとうのぢごくては
うそをついたものは
ゑんまわうみづから
したをぬき給ふ
此いろぢごく
にてはこつち
からうそを
ついてむかふの
したのやうな
ものをぬきたがる
しかしこれもぬか
るゝほうよりぬく
ほうがくるしみ
なりこれを
抜舌(はつぜつ)ぢごくといふ
「此したを三まひ
おくんなんし
ても此うちを
ちや屋へつけ金が
一分にかへしのつかひものゝ
たばこばこが二しゆと一( ̄ツ)ほんよ
のり入とみづ引で二十四文よ
さし引くと
二両二分なにがしと
なりんす
「今どきの
きやくしゆは
したをこまひ
つかひなんす
からいゝのさ

とこ
ばな□
舌を三
まひ
ぬかれは
アゝ
いた【?】

〳〵
てへ
〳〵
くる


こつ
ちやァ
ねへ

ためになるきやくはらをたつてよその女郎に
なじみさきの女郎がほりものをしたと
きけばこつちでもやりてやばんとう
女郎ら立合にてゆびをきらせる
たがいにしんけんしやうぶの
きやくあらそひこれしゆら
だうのくげんなり【修羅道の苦患なり】
「ゆびをきる所の
ゑにひとりで
きつてゐるは
あんまり
うそで
おすねへ
「てうしのしりで【銚子の尻で】
ぶつも久しい
ほうだよ
「ついてに
このちで
でき合の
きしやうを【起請を】
二三まひ
かいて
おきい
しやう

「ばけのと
さん一きれ
もりに
しても
ばの
あるやふに
きり
なん


「ち
こめ

ぎん
はゝは
きて
ゐん
すかへ

月のさはりと
なるときは人
なみにすへふろへも
はいられず
さふひ【寒ひ】
じぶんも
ぎやう
ずいを
つかふ
その
ゆをわかして
したはたらきに
一分つゝもやらねば
ならずつがうの
わるいときなぞは
みをきらるゝ
思ひなりこれぞ
ちのいけのくるしみと
いつ川べし【?】
「下はたらきのおにくち
小言をいふ
「いゝかげんにして
あがんなせへ
わつちらがくめの【久米と汲めがかかる】
仙人てみたがいゝ
じやうふだんめを【?】
まわしやす

「モシちよつと
みゝをおだし
なんし

「はんに又松やの
きやくつらが
きんすとさ
いや□
の□

むけんぢこくといふはこのいろぢごくに
うつてつけたるぢごくにてそのかみ
梅がへより此ぢごくはしまりいしにもせよ
金にもせよといふたことばののこりて
女郎のみふんさうをうに【身分相応に】いしにもかぎらず
金にもよらずてうづ
はちをくめんして
かつてしだいに
つく事なり
「さきのよは
ゑい〳〵ゆきの
ゆうべのよたかと
なりこのよはあさ
めしがひるに
なるともだんなへ
だんなおかみさん
ましのかわで【?】
おす
ねへ
「わつちやァ
ちつと
ねがひの
すじが
ちがふ
金なら
たつた
六十か
七十りやう

しゆうながらしろもの
ならふしきのよぎに
いたじめの三( ̄ツ)ふとん
しきぞめのそばまで
つけてほしひナア
「中にもふりそでの
しんぞうなぞはてうづ
ばちやひしやくのくめんも
できかねれど
心ざす所はやつはり
むけんのかねちやわんを
てうづはちになぞらへ
かんざしをひしやくに
たとへてむけんの
はしたぜにを
つくもあり
「わたくしはぜになら
たつた二( ̄タ)すじか
三すじ
キの字やへ
おまんまの
おかづを
とりにやる
ほどのぜにがほしひナア
「二八十六でぶつかけ一( ̄ツ)
二九の十八てあまさけ三ばい
四五の二十でだんごか四くし
【無間の鐘は歌舞伎『ひらかな盛衰記』に出てくる伝説で、ある仙人が不動明王に捧げるため鐘を作り山の上の松の木にかけたが、これを七回つけば末長く長者になれると聞き、極悪な長者が欲に駆られてついたところ三度の食事がみな蛭になり大変な苦しみの末に死んだとされる。「女房の朝寝と無間の鐘は朝のごはんが蛭)昼)になる」と歌われた。歌舞伎では遊女の梅ヶ枝が恋人の鎧を質屋から出すためにお金が必要になり、無間の鐘の伝説を思いだし、手水鉢を鐘に見立ててつくと三百両降ってくる。】

かゝるいろぢごくのくるし
き事をごくらく
通土(つうど)の一( ̄ツ)寸さきは
やみだによらいと申
大じんぼとけふびんに
おぼしめし
ていしゆ大王に
さう
だん


しま【?】
わう
ごんを
おゝく出しみうけ
してごくらくつうどへ
すくひとり給ふぞ
あらありがたやおたうとや
いもとやおぢや
いとこはとこふた
おやは申におよばず
たちまちじやうぶつ

うたがいなくうかみ上ると
いふ事はこんな事から
はじ
まり
ける

女郎
ごうの
はかりに
かゝる

「よい
とりが
かゝつたと
よく
しん
まん〳〵
たるおにのやうな
ものあつ
まり
かの三うらやの
ためしを引ごうの
はかりに

かけていれは
女郎のからだより
みうけきんの
ほうが
おもひゆへ
これにて
さうだん
きまる

「此おいらんも
ものまへなぞには
おしがおもかつ
たがからだは
べらぼうに
かるひぞ

「てい
しゆ
大わう
けん
ぶつ
する

「おいらんは
おしあわせだ

かくてみうけのだんかう きはまれはあす
からみせを引やんすやつ さもつさの
いさくさなく吉日を
えらみつゝかのいつすん
さきはやみだによらい
御らいくわうまし〳〵
ごくらくつうどへ引とり
給ふくがい十年の
くるしみ一じ

めつしきやくの
うてなに
いざなはれ
くわたく
をいづる
よつでかご
のりのみち
をぞいそ


「によらいこくうに
そう花を
ふらせ二てう
つゞみの
げいしや天人
おんがく
する

御しんのほど
ありかたふ
おす

こつちも
あり
がたや
〳〵

ふところ
から
さす
ごくわうはみな
かねのひかりなり
やみだもぜにとは
此事〳〵

かふ
して
いては
どうも
ひき
にくい

かくのごとくにくがい十年があいだいろ
ぢごくのせめをふびんにおもはば
ふられてもはらたつべからずもてゝも
はまるべからずよけいの金あらば
くるしみをもすくふべしよいほど〳〵に
あそひてたるをしりはやく丘隅(きうぐう)にとゞまるべし
つうのつうとすべきはつねのつうにあらず
此ことはりをしらばかのなむやぼだぶつも
いらぬほどにつうともいわれず
やぼともいわれずたゞ
無名(むめい)だ〳〵と
となへ
さつ
しやれ
まず
こんにちの
せつほうは
これまでに
いたさう
ヂヤン〳〵〳〵
〳〵〳〵〳〵
「アゝ百日の
せつほうも
への一としだ【「屁のごとし」または「屁の一文字」か】

京伝戯作

清長画

絵本物見岡

画本物見岡

【整理ラベル】京乙 255


【白紙ページ】

画本物見岡
   序
絵(ゑ)の事(こと)は素人(しろうと)なりと
後(のち)の譏(そし)りをも恥(はち)すおよはさる
道(みち)にいまた迷(まよ)ひつたなき



【印あり】
「東京図書館蔵」角印 
「購求・明治二四・六・二三」丸印

筆(ふて)の行先(ゆくさき)もわきまへす
東都の名所をこゝかしこ得(ゑ)たり
ねかわくは乳房(ちふさ)をつくる
手枕(たまくら)に夢(ゆめ)はかりなるなかめとも
なれかしと題(たい)を物見岡(ものみかをか)と
ものして 桜木(さくらき)にうつす
春(はる)のあした関清長自序
   青陽     [角印]

あら
 玉の
空(そら)
  青(あを)み
たるとの
一ふしは
此花街(このくるわ)に
 とゝまり
娼門(せうもん)
 家〳〵の
松錺(まつかさり)の
青(あを)きは
春(はる)の
 近を
あらわし
袨服(けんふく)の

黒小袖(くろこそて)
明(あけ)の
 烏(からす)と
ともに
 来る
おふ
 よう
  なる
日の出に
諸君(しよくん)の
容窕(あてやか)
 なる
道中は
佐保姫(さほひめ)を
あさ
 むく
  かと
 あやし


【印あり】
「東京図書館蔵」角印

如月(きさらぎ)は午(むま)
  祭りにて
いつくも
  同し
賑(にき)わひなれど
  別して
当社(とうしや)は

稲荷(いなり)の
  統領(とうれう)
なりとて
毎年(まいねん)
十二月

八ケ国 狐(きつね)
此所に
 あつまり
  おひたゝし

田畑(たはた)のよし
   あしと
所の民(たみ)
 うらなふ

年毎(としこと)に
  刻限(こくげん)
  おなし
   からす

一夜
 とゝまれば

  見るといふ


当山(とうさん)は

第一の
  霊場(れいぜう)
  なり
いにしへは

  諸集(しよしう)にも
古歌(こか)おゝし

桜樹(さくら)の
  古木(こぼく)
   おゝく
生ひしけり
 御かりの
   頃は

貴賤(きせん)
  群(くん)を
   なして

好人の
   詩歌(しいか)
 筆にも
  つくし
   かたし


春(はる)の頃
うらゝ
 なる日
汐干(しほひ)とて
なまめ
  ける女
若(わか)とのはら
 うちましり
われ
 おとらしと
貝(かい)を
拾ふさまも
  おかし
海原(うなはら)は
   八十限(やそくま)の
霞(かすみ)をへだて

房総(ほうそう)の
両州をなゝめに
真帆片帆(まほかたほ)の
いて入る舟に
 目をよろこはしめ
殊(こと)に文(ふみ)月廿六日夜は
万客群集(まんきやくくんじゆ)して
昼夜を
わかたす
まことに
喜見城(きけんぜう)
  とも
いうへし


卯月(うつき)の
   頃
つれ〳〵
 なるまゝに
日くらし
  辺(へん)にきて
そこはかと
   なく
行みれは
此辺の
寺院(じいん)
おの〳〵
庭(にわ)を
まふけ
所〳〵に
亭(てい)を
かまへて

いと
興(きよう)あり
四時に
遊(ゆふ)人
おゝく
此山より
見わた 
 せは
風景
すくれ
たること
江都(こうと)
遊観(ゆうくわん)
第一の
地と
いふ


かけまくも
当社(とうしや)は
筑紫(つくし)宰府(さいふ)の
聖廟(せいびよう)を
遷座(せんざ)まし〳〵て
いと尊(とうと)く
真如(しんによ)の月(つき)は
心字(こゝろじ)の
  池(いけ)に澄(すみ)
璥門(けいもん)廻廊(くわいらう)の
玲瓏(れいらう)たるは
五塵(ごちん)六欲(りくよく)を
 はらふ
ことさら

初夏(しよか)の頃は
名木(めいほく)の
  藤花(とうくわ)
咲(さき)みたれ
口すさむ
遊客(ゆうかく)の妙文(めうぶん)は
連歌堂(れんがどう)に
     満(みち)
才人の
佳句(かく)は
ふじの花(はな)と
ともに
 さかりて
初夏の
遊興(ゆうきよう)こゝに
 つくせり

【亀戸天神社の様子か】

晋子(しんし)か雨乞(あまこひ)の
 名句より
黄口(かう〳〵)の赤児(せきし)迄
此処の名高きを
知て糸遊(いとゆう)の
長閑(のどか)
なる日は
嫁菜(よめな)
蒲公草(たんほ)の
摘草(つみくさ)に
秋葉(あきは)の道を
忘(わす)れ

畔上(あぜみち)の
つぼ
菫(すみれ)は
鼻紙(はなかみ)の
□□しほれ
三伏(さんふし)の
暑(あつき)日は太郎
大黒やが洗鯉(あらいこひ)に
汗熱(かんねつ)の苦(くるしき)を濯(そゝ)き
いや高き
公子(こうし)繁華(はんくわ)のうかれ人
爰に燕酒(さかもり)して杯(さかつき)の
   朽(くち)るをもしらす


いせ物かたりに
遠(とを)くもきぬる
   ものかなと
筆(ふで)すさみし
名ところも
   いつしか
ことかはり
今(いま)は江都(ゑと)
随一の景地(けいち)と
     なり
春秋(しゆんしう)の遊舟(ゆうせん)
 このわたりに
    □□ (ふくそう)【輻輳?】し
むかし男の
 いさこととはんと

よみたまひし
都鳥(みやことり)も
妓女(ぎちよ)舞(まい)子の
    三弦(さみせん)に馴(な)れ
振袖(ふりそで)のとめ木は
甲子屋か
    薫(かほり)に
     出さる
ことに
 隅田(すみだ)八景も
この所にて
四時の眺望(てうぼう)
   おゝし


きぬ〳〵の噂(うわさ)をなかす
        宮戸(みやと)川に
歓喜(くわんき)の御社(おんやしろ)森〻(しん〳〵)として
貴賤(きせん)此処の杜(もり)を 見ても
心をうこかすも
ひとへに
此神を恋(こひ)の
媒(なかたち)とや
  いわん

清風(せいふう)起橋辺(きやうへんにおこり)
名月(めいけつ)入楼船(ろうせんにいる)と
     納涼(すゝみ)は
三国一ともいふへし
避暑(あつさしのぐ)涼舟(りうせん)に
妓女(きじよ)の三絃(さみせん)は
雲舞(かるわざ)の太皷(たいこ)にまがへ
諸講師(しよこうし)の戦談(こうしやく)にも
皷角(ときのこへ)かとあやしまる
三伏(さんふく)の暑(しよ)きに
あわ雪の〳〵聲(こへ)に
聞なれぬ鄙人(いなかもの)のきもを
  つふすもおかし

夕汐(ゆうしほ)のさしくる
浪(なみ)にさき立て
影(かげ)みつまたと
歌(うた)にもよみし
月の名所にして
初夏(しよか)の頃より
扇(あふぎ)わするゝおりまでは
大河(だいが)も集舟(しうせん)して
流(なかれ)をとめ
陸(くが)は茶店(さてん)の
万燈星(まんどうほし)を
あざむき
昼夜の
わかちなく
誠に繁花なり

故人 半井(はんせい)の
翁か美しき
月も二八の
十六夜月も
みつまたある
ものでないとは
さりとては
後世に
あたりし
    事
    かな

かけ
 まくも
此 精舎(みてら)は
江東(ほんぜう)第一にして
法雲(のりのくも)香(かう)
臺(たい)を
繞(めぐ)り
祇樹(きよらかなる)諸天(きてん)に
連(つらな)り賞心(おのづから)

出塵(きよきにいづ)梵宮(ぼんとう)には
釈迦(しやか)に二尊(じそん)
ならひに五百(いを)の
尊者(みでし)いける
    ことし
真(まこと)に鷲嶺(わしのみね)の
説法(せつほう)も
かくやと
あやまる百尋(いやたかき)の
大士閣(くわんおんどう)は秩坂西(ちゝぶばんとうさいこく)の
三所(さんしよ)の□通(くわんぜおん)を写し奉る
俗染万慮(きたなきこゝろもよろづのおもひ)を揮(はらふ)ておのつから
普陀(くわんおんのぜうと)にのほり眼(め)を眺(のぞめ)ば万井(みやこのまち〳〵)
入檻(らんかんによる)遊賞(ゆうせう)こゝにとゝめたり

風土(ふど)洛東(らくとう)の
祇園(ぎおん)に似(に)て
花車(きやしや)都(みやこ)に
はぢす待宵(まつよい)の
月は塩浜(しおはま)の
盃(さかづき)に照(てり)二 軒(けん)
茶屋の
酔覚(ゑひさめ)は
十六夜(いざよひ)の
入(いる)かたを
おしむ
をもひを
たてし

矢来(やらい)の
数(かづ)〳〵をうたひ
しは東(あつま)
歌(うた)の風流
なるへし
羽織芸者(はをりけいしや)の
一節(いつせつ)に楼(やかた)船
家根舟(やねふね)をも
かたむけん事
火縄箱(ひなわはこ)の
 縄の
 たゝん
  うちに
    あり

この廓(さと)の賑(にきわい)
     燈籠(とうろう)は
玉菊(たまきく)より
はしまり八朔の
白無垢(しろむく)は

高橋(たかはし)より
とやら
此朔日
より

稲荷(いなり)の

祭礼(さいれい)とてねりものを
いだす日〳〵の物好寄(ものすき)に
黄金(こかね)を瓦(かはら)のことくにし
長袖能舞禿(てうしうよくまふかむろ)の
おとりやたい妓婦(きふ)
のうたふ獅子(しゝ)の
きやり万客(まんきやく)これが
ために魂(たましい)を
飛(とば)して
山谷船(さんやふね)もど
   かしく
四手駕籠(よつでかご)に
 羽なきを
  うらむ

顔見世(かほみせ)の
 ありさま
まことに
待(また)るゝ花(はな)の
ことし
明(あけ)の春(はる)とて
桟敷(さんしき)の雑煮(ぞうに)は
周(しう)の代(よ)の元朝(くわんてう)
積(つみ)ものゝ
井籠(せいらう)は
孝霊(かうれい)五年の
冨士(ふじ)なるへし

くだり役者(やくしや)の
盃(さかつき)は手の
うちのさんご珊瑚(さんご)
の珠(たま)を愛し
狂言(きやうげん)の評(ひよう)は
一日に千里を
はしる
今生(こんぜう)にて
歌舞伎(かぶき)を見ぬ
ものは来世(らいせ)も
野暮(やぼ)の果(くわ)は
 のがるへからす

袴(はかま)着(ぎ)
帯解(おびとき)
  の
産神(うぶすな)まいり
かゝる
花麗(くわれい)
なること
他国(たこく)
にきかず
髪置(かみおき)
のことは
弁(べん)□ 【鹿の下に毛】と
左伝(さでん)にも

見へたれとも
詩酒(ししゆ)を設(もうけ)しことも
なければ
   こつちの
国の賑(にぎわひ)をみせたし

花紅葉(はなもみぢ)に
衣装(いせう)の繍(ぬい)を
    あらそひしは
これや
吾妻(あづま)の
袖(そで)くらべ
なら

 東第一の大市
なり極月十七
 八日にかぎり
往来(おうらい)は馬(むま)駕籠(かご)を
とゞめ船は
  川を
せましとす
陣笠(じんがさ)は朝霜(あさしも)にきら
めきわたり革(かわ)
羽織(はをり)のいかめし
きは
潤(くわつ)達(だつ)なり
蕎麦切(そばきり)は裏(うら)

店をかりて
仕込(しこみ)餅(もち)は
十五日より
竹の皮(かわ)に
   つゝむ
醴(あまさけ)は嘉例(かれい)と
       なり
燗酒(かんさけ)はたちなから
呑(のむ)にさだまる
商(あきない)物に千代(ちよ)を
つむらんと
    よまれし
為頼卿(ためよりきよう)は
猪牙(ちよき)にて
市にたゝれ
 つらんかいふかし

《割書:後|編》続物見岳 《割書:此絵本は風流なる|地名のものたるを著》
   画 工  關 清長 【角印】清長
      《割書: |江戸本石町二丁目》
    書 林  西村源六 版

【上段】
画図勢勇(ぐはとせいゆうだん) 《割書:鳥山石燕筆|奇談を画たる本なり》
            《割書:全三冊| 》
《割書:𠮷原|契情》新美人合自筆鏡(しんびじんあはせじひつかゞみ)《割書:北尾政演画|さいしきずり》
            《割書:折本全一冊| 》
烟花清談(ゑんくはせいだん) 《割書:駿守亭作|古代遊君客人の珍話》
           《割書:全五冊| 》
《割書:挿|花》手毎(てごと)の清水(しみづ)《割書:師をもとめずして投入|のけいこをする本なり》
            《割書:全一冊| 》
滸都洒美撰(ことしやみせん) 《割書:𠮷原のけいせいのてうちん|の相しるし何屋のたれと》
      《割書:いふことをしるし|     全一冊》
《割書:契|情》手管智恵鏡(てくだちゑかゞみ)《割書:こんたんでんじゆてくだ|のしなんしたる本なり》
         《割書:    全一冊| 》
□□□本記 《割書:□□・・・□きよりたん〳〵|□・・・□る本なり》
          《割書:    全一冊| 》
【整理ラベル】京乙 特別 255

【下段】
気(き)のくすり 《割書:同作|当世のおとしばなし》
      《割書:      全一冊| 》
《割書:座|奥》腹筋三略巻(はらすじさんりやくのまき) 《割書:ざしきのたはむれを品々【?】|しるす》
            《割書:    一枚摺| 》
小紋新法(こもんしんほう) 《割書: 山東京傳作|おもしろくこぢつけたるこ》
      《割書:もん帳なり|        全一冊》
客衆肝照子(きやくしゆきもかゞみ) 《割書: 同作|あそびのてくだをくはしく》
        《割書:しるす|        全一冊》
《割書:遊君|稚言》柳巷化言(さとなまり)《割書:物からのふあんど集|けいせい□□□□》
        《割書:をしるす|  □□冊》
《割書:通神|孔釈》三教色(さんきやうしき)《割書: 唐来三和作|儒仏神の詞にてしや□》
《割書:                全一冊| 》
 江戸本町筋北ヱ八丁目通油
書肆   蔦屋

新板替道中助六

新板替道中助六 完

《割書:富士之白酒(ふしのしろさけ)|安倍川紙子(あへかはかみこ)》新板替(しんはんかわりました)道中助六(だうちうすけろく)
土山(つちやま)の雨(あめ)を。店清搔(みせすがゞき)とうたがひ。長持唄(ながもちうた)を河東節(かとうふし)と聞(きゝ)なしては。
意休(いきう)が顔(かほ)の朝日(あさひ)でとける。富士(ふじ)の白雪(しらゆき)に総角(あげまき)が白粉(おしろい)を思ひ。助六が
一つ印篭(いんろう)には。虎(とら)が石(いし)を以(もつ)て根付(ねつけ)とし。十団子(とうだんご)□【を?】以て緒〆(おじめ)とし。五葉牡丹(ぎよようぼたん)は
脚半(きやはん)にかけ。蛇(しや)の目(め)の傘(かさ)は菅笠(すげかさ)にかはり。鶴見(つるみ)の饅頭(まんぢう)を最中(もなか)の月と
味(あぢは)ひ。梅(むめ)の木(き)の和中散(わちうさん)を袖(そで)の梅に比(くら)べては原(はら)くるしはらも新吉原(しんよしはら)と
し。大津八町(おゝつはつちやう)も土手(とて)八丁とし。きみなら漬(つけ)は桑名(くわな)の名物(めいぶつ)。
しんぞ命(いのち)を安倍川餅(あべかはもち)。馬(むま)で通(かよ)ひし古(いにしへ)の。廓(くるは)に似(に)たる道中(だうちう)助六。
江戸紫(ゑどむらさき)の鉢巻(はちまき)に。かはる三巻(みまき)の青表紙(あおびやうし)。これは双六(すごろく)の前書(まへかき)は不出来(ふでき)に
なりける次第なり
 寛政五癸丑春 山東京伝序

さてもそのゝち助六と意休と中なをりして
あげまきは助六がつまとなりみな〳〵
うやなやのめでたきはるをむかへ
けるがある日はるさめのつれ〳〵
なるにみな〳〵より合ひ
道中すご六をふりふと助六
申出しけるはなんとみなのしゆ
此れん中でかみがたへのぼり
あつちの男だてに
けちを付るはどうで
あらふといひければ
みな〳〵大きにのり
なんでもちか〳〵に
吉日をゑらみかみがたへ
のぼらんといふしからば
みち〳〵おいらが狂言の
すじにこぢ付
ながらいつたら
なをいつきやう
ならんと
そうだんする
すけ六
「さつたとうけ
は女ぼうの
あけまきへ
さしあい
おやしらす
子しらずとは
かふろのみのうへに
あるやつだ

すけ六
「おれもふちうは竹さいくが

めいぶつだから
尺八をきらせ
かけ川は
あいざめか
めいぶつだから
さやをぬらせやう

いきう
「あげまきが
ふたりの
かぶろも
もふよほど
こわめし
くさくなつたから
まへいわゐに
ふぢゑだへいつたら
せとのそめいゝを
くわせべいぞせとの
そめいゝこわい
やらとはちうしん
ぐらの道行の
文な【?】でもしつて
いやう

すけ六
「おきつへいつたら
めいぶつのそばきりを
くわんぺらがあたまへ
ぶつかけはどうだ
たゞしもりにするきか

【すぐ下】
しろ
さけうり
かす兵へ

【左ページ下】
あさがほ千兵へ
「あけまきか
はみな口の名物
のきせるを長
らふにして
ゆいのめい
ぶつ






こを


らせ
など

よか
らふ

くはん
へら
門兵へ
「わた



この
きやうげんの
すじではゆあがりの
ところがとをりだから
なるみへいつたら
ゆかたを
しぼらせやせふ

【枠内】
しな川
【本文】
かくて吉日をゑらみ
みな〳〵うちつれ
たびだちして
品川まできた
所が助六ことはを
あらため申けるは
なんとみなのしゆ
日ごろおれが
あくたいに
はけのあいだから【刷毛の間から】
あわかづさが【安房上総が】
みへるとは【見へるとは】
申せど
さだめて
へらず口とも
おぼされん
よきついで
なれば
ためしのため
こんなとき
みておきやれと
すなはち
尺八をとを
めがねのきとり
にてはけの
あいだにはさみ
みな〳〵にみせる

「とをくはてんわうすの
あみひきはつかけぢゝい
ちかくは名代の梅が
ちや屋梅ぼし
ばゞァにいたるまで
ちやのみはなしの
たびのさたつれか
ふへれは龍に水
とつとのさきの
みなもとから
ひもんやの仁王の【碑文谷の仁王の】
めんそうまで【面相まで】
よくみへるは
まげはなましめ【髷は生締め】
まげのあいだ
からあはかつさが【安房上総が】
うきゑの
やうにみへるは
さい〳〵わさに【?】
おめとまり
ましたら
せんの
かたは
おかはり

【右ページ下へ】
「みどりどん
ちつとうちの
ほうを
みたつ
せへ

すけ六
「いゝ
かげん
にして
しまへ
しびれが
きれ
るは
どう


〳〵

しび

から
さき

□にへ
のぼり
そう


【左ページ下へ】
「ほんに
みへるか
どれかはつて
おれにも
見せろ

意(い)
休(きう)
ことの
ほか
おと
なけ
なし

【枠内】
川さき
【本文】
川さきの
つるみにては
助六が上がたへ
のほりとて此所を
とをるときゝうつ【通ると聞き、うっ】
ちやつてもおられまいと【ちゃってもおられまいと】
きをはり助六と
あけまきへ
とう所のめいふつ
つるみのまん
ぢうのせい
ろうを
つむ

【下へ】
「助六さんおまへ
もわらぢに
おなんなん
しな
げたがけ
ては





なん
せう
ぞへ

【中段へ】
「いや〳〵
助六と
ゑんのきやうじやは
下駄がないと
しんかうが
うすひ

「けし
からず
いかひ事
せいろうを
つんだりやしや
明王とでかけた【軍荼利夜叉とつんだりやしやの洒落】

【枠内】
かな川
【本文】
それよりかな川にいたり
けれは
助六ははなの
あなへやかたふねを
けこむといふひごろの
あくたいになぞらへ
大もりてかつてきた
むぎはらさいくの
やかたぶねを
ふじの人あなへ
けこむあくたいに
なぞらへたは
きこへたか
何ゆへ
せつかく
かつて
きた
ものを
けこんて
しまつたか
そこは
今に
げせふ申候
「なんとよく
けこんだらう
ろぎんをかう
けこむとおへない

「このあなの
はたで
さつま
いもを
うれば
いゝ
人あな
三又〳〵と【三文三文?】
いひ
ながら

「手さき
のきよう
な人は
あるもん
だが
ぬしの
やうに又【文?】
あし
さきの
きやうな
人は
すけ
なふ
ござん


【挿し絵】
ふじの


【円内】ほ【枠内】ほどがや
【本文】
ほどがやのしゆ
くにとまりける
とき助六思ふ
やうこゝは



双六
では
すへ
ふろへ
はいつ
ている
ところ
なれば
このみへも
なくてはかなふ
まじと
すへふろ
おけのきどり
にててん
すいおけ
にて
ゆを
つかふ

【すぐ上の段へ】
白さけうりいふ
「わたしはきやう
げんのやくがらでは
かたへてん
ひんぼうを
おきつけているから
にをかついても
めげはせぬ
のさ

【左ページ】
助六
「おれも
かう
てん水
おけから
かほを
だした所は
ぼうふりの
おんれうと
いふものだ

「これがこいため
だと
きつねに
ばかされたと
ほきや
みへぬ

【右ページ中ほどから左へ】
「わたくしは
かうゑんへこし
をかけるとつい
また中の町の
きどりに
なりんす

【枠内】
とつか

【本文】
助六わが男だての
きつい所をみせつけて
やらんととつかの
大きんたまのかたを
もちたひ人をつかまへて【持ち、旅人をつかまへて】
くゞらせるこれきんたまも
つりかたのはじめなり【「金玉も釣り方」のはじめなり】
助六
「もろこしの
かんしんがわいかの【韓信が淮河の】
市で千人の
またをくゞつた
よりも
わいらが
いぢでせんきの
またを
くゞるがました

たび人
「こゝのふぐり
戸はくゞり
ふぐり戸だ
大ぶつのはしらを
くゞるよりもくゞり
にくい


「ハテきんたまを
くゞれといわつしやるなら
かんにんしてくゝるがよひ
狸はそんきじや
【中段へ】
くゞりはくゞり
ませふが
おならのぎは
こめん
なされ
ませ
【下へ】
いんきんたむしが
うつらねば
よい

【人物の左へ】
「モシ
助六さん
十束(とつか)のけんと
戸つかのきんとは
どちらがあり
がたからふ
【一番下へ】
みぎりのあしが
なにはのあし
ひだりのあしか
かたはのあし
コレあしを
みろ〳〵

【坊主頭の左】
いつてはゆで
だこのねをするやうだ

【左ページ枠内】
ふぢさわ
【本文】
おりふし
大山ま
いりの
とうしや
おほかりけれは
助六ひとり〳〵に
友きり丸のきとり
にておさめ太刀の
寸尺をあらためる
これもなにゆへ
あらためるか
わけはしれす
「いつたいこの
本は正月の
じかうだが
なぜこゝ
ばかりぼん
だかぼんと
正月かいつ
しよに
きたのか

【黒い腹掛けの男が持っている納め太刀】
□大山石尊大権現 大願成就

【納め太刀の左】
「なん
まいたん
ぶつなま
むぎだんぶつとは
川さきの
立ばだ

【左ページ中段】
「きのせいか
大山へ
ほうのうの
【燈籠の左へつづく】
とうろう
まてが
たそやあんどうの【誰哉行燈の】
やうにみへる
やつ


【下へ】
大太刀はあらた めるにおよはぬ〳〵
かまはすと とをつた〳〵


太刀
の寸
尺を

かる
には
一日
ぜつ
しよく

かゞら
ねば
ならぬ
「さて〳〵
さわか
しひ
やつらた
あいつらか
いつて
しまつたら
大太刀の
ふいたあとの
やうだろう

【枠内】
大いそ
【本文】
とらが石はふじんにゑんちかき
ものにはかろくもて
ゑんとをきものには
おもくもてるときくあさがほ
せんべいためしてみたくなり
もつて
みればうごきもせず
どうしてもふじんには
ゑんとをきしろものと
みへたり
くわんへら
「これからこんやのとまりでは
めしもりのどてつぱらへ
あなをあけてはたごやの
二かいでひなたくさひ
百万べんをくらふやァ
なら
ねへ

【中段から下段へ】
「なんごで【南湖で】
くつた一ぜんめしの
はらを ら

ふした
又梅ざはで【又、梅沢で】
くわずは
なる
まひ

「くわんへら文兵衛
おさだまりの
ゆあがりのみへにて
みがるにいで
たちこいつも
とらがいしを
ためしてみる
つもり
なり

【左ページ枠内】
小田原
助六小田原へ
きたりけれは
こしのひとつ
いんろうを出してとう所の
めいふつうゐろうをかふ
「たゞ今は此くすり
ことのほか世上に
ひろまりやれうれるは
はやるはとこさつてぼんよくぼんごの
かけうりなく
うりたて
うりぬけ
うわかん
じやう
小うりの
につゝみ〳〵
御くすりの
つゝみかみ
おやもかせ
き子もかせ
きくるは〳〵【親も稼ぎ子も稼ぎ来るは〳〵】
なにかくる
おとくい様の
おつかひ小そう
今に百疋
せに百せん
御くすり
百ふく
代は百文
ちよと
四五万くわん
目のあきない
などはあを
竹ちやせんて
おちやのこさ

【ういらうの看板左へ】
助六
「ういらうやの
小ぞうとは
いひなから
さて〳〵
よく
したが
まはるぞ

【ういらうの看板下】
「こぞうせには【小僧、銭は】
いくらする

【枠内】
吉はら
【富士山横】
ふじ山
正めんに
みゆる
【本文】
よしはらの
しゆくは名からして
助六にはもつてこひな
しゆくにてことにふじの
しろさけとてめいぶつ
なれば助六もとよりけこにて
しろさけをのみすごし
まつかになる
「しろざけうり かす兵へ【かすべへ】
しやうばいからとて
こみすな事をいふ【?】
その白さけはかさを
ひひているのんてみやれ
ちとすけ六て
あらふ

【上へ】
「ふじと
はこねの
山あいに
しろさけ
□【こ?】ひしきみ
こひし

かす兵へ
「きさまも
よくちよひ〴〵
ものをくふ
おとこた
そこてくつたは
たれしやすけ六
こゝてくつたはたれ
しや助六万年やの
ならちやを十ッぱい
くつたはたれじや助六こはたの
ほたもちを三十くつたはたれじや助六そのたび〳〵に
しよくしやうてもしやうかと大ていあんじることじやない
これをおもへはそのさけも白さけてははふてくろうさけ〳〵
【「助六由縁江戸桜」で、白酒売りに身をやつした助六の兄が、弟の乱暴をいさめる説教のパロディーになっている。】


【左ページ枠内】
まりこ
【本文】
まりこのしゆくにて
くも助くわんへら門兵へに
にもつをつきあて
大きになんきする所へ
助六中へはいり
わびけるか
せうちせぬゆへ
にくさもにくしと
とうしよの
めいぶつ
とろゝしるを
あたまから
ぶつかけやろうの
むぎめしのきどりに
とりあつかふ
「梅わかな
まりこの
しゆくのとろゝ汁とは
翁のとをり句た
あたまから
いつぱい
あひら
うんけん
そわかと
しる
【梅若菜…は芭蕉の句】
【頭からいっぱいあひ…「助六由縁江戸桜」にかんぺら門兵衛がうどんをかけられるシーンがある。】
【あひらうんけんそわか…大日如来の真言。「浴びる」から「あびら」へつなげる洒落】

【中段へ】
「やれきつたは〳〵千兵へ〳〵きづはあさいか
ふかいかみてくれろこれをしつたら
おきつでかうやくをかつて
くるものを

【下段へ】
「このやろうかわしかあたまを
したゝかうつのやにしをつて
ひたいにとう
【格子柄の着物の男の下へ】
だん

ほと

こぶを
てかし
おつた
【荷物の下へ】




そ道
ては
なく

一りづか
の大木
ふと□な
やろうた

【荷物の左】
「こゝなる

のねに
て【?】
とんと
思はす
そゝう
いたし
ました
こめん
〳〵

まりこの
しゆくとはいひ
なからアゝ【?】いきかはつむ〳〵

【枠内】
しま田
【本文】
かゝる月やりはんじやうの
たびも日を かさねけれは
はや
みな
〳〵
大井川へ
かゝる

くわんへら
「千兵衛〳〵
なんだ〳〵
川はあさいかふかいか
みてくれろ

「あけまきか
大井川を
こすとは
れんだい
みもんの早瀬(はやせ)の
たねだ
【前代未聞の話のタネとかけている。れんだい:輦台は人をのせて川を渡す道具。あげまきが乗っている】

「これからは
此あげまきが
あくたいの
はつねか

【左ページへ】
助六さんと
いきうさんものに
ことへて いわふなら
小田はらのてうちんと
三井寺のつりがね
ふしのしらゆき
ならのすみ
天龍川も大井川も
川といふじは一ツでも
ふかひあさひはふねと
かちくらがりとうげで
みたといふて助六さんと
いきうさん
みちがへてよひ
ものかいナア
「いきうどのあさせの
所で一ツめしあがれ
手がとゞかぬから
ふしつけながら
あしでしん上いたす
ごめん〳〵
【助六が遊女からもらった煙管を意休に足で渡すシーンのパロディ】

「川の中では
おもふやうにりきみ
にくひ
「川ごしも中〳〵
こゝろきいたるものにて
下から口でひやうしをとる
かたり〳〵〳〵
かた〳〵かつたり

【下へ】
「ひへもので
ごめん なさい
やつとこ
とつ
ちやァ
うん
とこな

【右ページ下】
いきうはかねて
あたじけない
男ゆへ
川こし

ちよ
せん

かはひ
ひとり
にて
こす

助六
にく
かり
そつと
あたまへ
げたを
のせて
おく
いきうは
しらずに
いるゆへ
みな〳〵
これを
みて
けた
〳〵
下駄
【左ページへ】
〳〵
〳〵〳〵

わらふ
【助六の芝居に意休の頭へ下駄をのせるシーンがある】

【枠内】
日坂
【本文】
あさがほ
せんべい
はにつさかの
しゆくてまへ
よりひとさきへ
かけぬけさげたばこ入れを
つゑのさきへつゝかけ
やりとみせ道中
すころくの
やつこのきどりにて
とう所のめいぶつ
わらびもちをしてやる
「助六さんはなぜおそひ
わらびがきらひか川とめか
「かうわらびもち
ばかりくつては
やろうの
伯夷叔斉(はくいしゆくせい)のやうだ
【伯夷叔斉は孝も忠もない王の国で食べて行くのを恥として山にこもり山菜ばかりたべて餓死した兄弟の名前。中国の故事】

「さよの中山のあめのもちと【飴の餅】
きく川のなめし【菜飯】にでんがくを
してやつたらはらの中は
さかりばの
ひろ
こうぢと
きてゐる

【枠の下】
「はァさんもう
なんときだ【婆さんもう何時だ】

【枠内】
よし田
【本文】
よしだ
とをれは
二かいから
まねくと
うたにも
うたひ
【斜め下へ読み進める】
いと
なま
めきたる
めしもり
ども助六といふ
れつきとした
男か
とをる

なれ

【上へ】
なに
かは
もつて
たまる
べき二かい
からすいつけ
たば
この

あめ
をふら


【傘の下】
「こゝぞ
ばつかり
からかさが
やくに
たつ

火の
用心が
わるふ
ごん
しやう
ぞへ

【すぐ下】
きせるやを
たつかまいたそふだ【竜が巻いたそふだ】

【下】
いきうもきせるの
あめて目はなが
あぶなくて
ならぬゆへ
てんきの
よひにあま
しやうぞくと
出かける

「やりが
ふつても
とは
きいた

きせる

ふるとは
ねんだいき
にも
ねへ

「こんな
てんきが
二日ほと
つゞくといゝ
きせるみせが
たされる
【「助六由縁江戸桜」に花魁たちがこぞって助六に煙管を挿し出すシーンがある。】

【円内】

【枠内】
ごゆ

【本文】
とかく助六はびなんゆへ
とめ女がみてはとめ
たがりはたごやのまへを
とをるとひつぱり大ぜい
だきつきひつつきするゆへ
あげまきぐつとあつくなり
ほとがやのしゆくならねど
チトやきもちさか【焼餅坂?】とでかけ
きつとしあんしてあべ川ひ【で?】
とゝのへ
おきたる
めいぶつのかみこを
したてゝまいにち
とまりじぶんに
なるときせかへ
かならずこの
かみこをやぶらぬ
やうにしなさんせと
あげまき
すいほど【粋ほど】けつか
やほとなる【野暮となる】
「助六さんかならずかみこをわすれまいぞと
あげまきうしろできをもむ
【助六の母親が息子の乱暴をいさめて紙の着物を着せ、これがやぶれぬように暮らしなさいと言うシーンのパロディ】

【中段、枠の下】
「とまらんせ〳〵とは
道中双六おさだ
まりのかきいれで
ござんす
わいな
「此かみこ
がやぶれ
ちやァ
モウとまら
にやァなら
ねへ

【左下】
「そもじたち は
あさひなのほうこんか
てう〳〵うりの【蝶々売りの】
生れがはりか
むしやうに
とまれ〳〵と
いふせかみこ
ざはりが
あらひ
〳〵

【左ページ枠内】
くはな
【本文】
それよりくわなの
しゆくへつきみな〳〵
とうしよのめいぶつ
やきはまぐりを
してやる中
にもゐきうは
かうろの
きとりにて
はまぐりが
やけたか
やけぬか手を
かさしてみる

【すぐ下】
「街道(かいだう)
こかげに
やすまずはま
くりを
やくに
なんで
御酒(ごしゆ)のさかなを
もちひん


「サア
〳〵
むけ〳〵
るぜむかねへ
からは
ちいさんが
みの大きひ
はまぐりだよ
アゝつがもねへ

【下段へ】
「此しうたちァ
ハァなにを
いわつしやるか
ハァきちげへ
しみたたび
うと
しゆだァ
むし

「わるい〳〵
わらつて
やれいくわな
あたりにめふいふ【?】
ことはは
ねへやつさ

【枠内】
せうの
【本文】
助六意休をはじめ
みな〳〵上がたへ
たびだちたる事をきゝ
そばやのかつぎもうら山しく
おもひあとより
おひつかんといそぐ
これも
道中双六の
はやびきゃくと
みゆれば
まん
ざらの
むだ
には
あらず

【下段】
「ナントおれが身はずいぶん
はやびきゃくとみへやうかや

「鬼王では
ないが
ひきやく
四そくの
わらぢより
たびほど
つらひ
ものはない

「せんしう
ばんぜいの
ひきやくも
山をかけ
まする

「ヤアハイと
いふかき入れも
道中双六の
久しひつけめだ

「すこはらが
きた山のむしや所だ
こゝのめいぶつ
たはらの
やきこめでも
してやらふ

【かめ山】
助六は
今ま
でい
きう
をつけ
ねら
つた
くせが
うせ
すあみ
がさを
かぶつた
人さへ
みると
なのり
かけて
【すぐ下へ】
みたく
なり
うつかりとして
とをる
たびこむそうの
うしろから
友切丸を
わたせと
こへをかけ
たれば
こむそうは
すけ六を
ごまのはい【護摩の灰=押し売り】
ならんと思ふ

【中段、枠の下】
「ごまのはいとはとく【?】よりもそんじ
参らせ候べくのこむそうすがたと
あなどつて
わるく【?】三の口【?】をならすが
さいご此尺がぼんのう
くぼへおみまひ申ぞ
たゞし御しよもう
めさるなら
こつちに
おぼへのての
うちでいきの
ねいろをぶつとめやうか
つるのすごもりくびすつこんで
れんぼながし【鈴慕流し】によけるがましくやんで
かへらぬうへ尺八此てんがい【天蓋】を
とつたらば
ために
なる
めへ
ぞよ

【下段】
「助六もまけじとこむそう
のうさ【かさ?】にかゝつてたいへいらく
をのべる 「おれをだれだと
思ふ
花川戸
の助六と
いつちやあ
人に
しら


男山八まんきか
ぬといひ出す

尺八の七ツの
あなへみやの
しゆくの
【ここから】
わたしぶねを
けこむぞよ
けがのねへうち
さやまはりをして
四日市でつくつき
まんじうでも
くらへサ
サア〳〵〳〵〳〵
ひるやすみの
弁当(べんとう)は
どうた

【ここまで別刷りにて確認、詳細は編集履歴】

【枠内】
せき
【本文】
助六は道中
みち〳〵いろ〳〵と
むだなせにを
つかひしゆへ
ろぎんことの外
とぼしくなり
この所まで
うりたる【かりたる?】
かごのさかての
やりやうが
すけない
とて
くもすけ
ども
てんでに
いきづへ
かいこんで
助六をおつとり
まく
あげまきは
おくればせに
おいつきしが
此ていをみて
大ぜいの中へ
わつて入り
さかてを
のぞみほど
【左ページへ】
とらせければ
やう〳〵くも介
どもはなつとく
してかへり
ける

助六
「めいぶつのなんぜんじ
どうふで山やとうふを
思ひ出す一ツはいせしめ
うるしとですは【?】
なる
まひ

【右ページ・枠の下】
アリヤ〳〵〳〵
〳〵〳〵

【右ページ・下】
【ここから】
日にやけて
くろひも
あり
さけを
のんで
あかいも
ありふんつまり
がしてあをいも
ありあるひは
白なまつ又は
わうだん
やみもあり
五 色(しき)五の
【ここまで別刷りにて確認】
雲(くも)
すけ
ども
とり
まく
【すぐ上へ】
「このあけまきに
そなたしゆのやうな
へらぼうが
あたると
このかい
どうを
くらやみに
するぞへ
【助六のお芝居に、あげまきが助六を追ってからかばって「わたしに傷でもつけたら吉原中が暗闇になる」と啖呵を切るシーンがある。】

【左ページ中段】
アリヤ〳〵〳〵
〳〵〳〵

【左ページ下段】
助六
ほとのものも
ぜにといふ
大てきには
うしろを
みせ
あまり
あはてゝ
あげまきか
うちかけと
まちかへ
とめ女の
まへだれの
うちへ
かくれ
大きに
くさがる
【お芝居ではあげまきが助六を意休の目から隠すために自分の着物をかぶせるシーンがある】

【枠内】
坂の下
【本文】
あけまきはあとの
しゆくのてんやわやの
かたをつけことの外
くたびれたるゆへ
ひさしぶりにて
ふたりかふろを
まわきにつれ
三ぼうくわう
じんの馬に
のつていそぐ

【中段・枠の下】
「馬でする道中は
八もんじのあしどりも
できぬ

「太夫さん
わたく
しは
こたつやぐらへ
はじめて
のつて
みん
した

【下段へ】
「もはや日が
くれければ
むまかた
わかひ
ものゝ
きどりにて
やどやの
てうちんを
もつ

【上へ】
「そんなら
あげまき
大津へいつて
まつているぞよと
此坂をはしごの
きどりにて
たちわかろく【?】

【左ページ上へ】
「かくて助六
ろぎんを
つかひはたし
ければあげまきが
いふやうあの
ゐきうさんはかね
もちだからとうても
ぜにつかひがあらひ
それとはり合ふては
たまる【ら?】ぬから
此ろきんをもつて
一日さきへのぼり
しやんせと助六に
ちゑをつける
さりとはじみな
太夫しよくなり

【すぐ下へ】
「かういふ
ざとうは
道中双六には
よくおるやつ
なれと
助六のきやう
げんには
あるまいと
なんした人あり
よく〳〵
たゞした所がかとうぶしの【河東節の】
うはでうしをひくざとうだと【上調子をひく座頭だと】
いふ事なり

【下段へ】
【ここから】
「此かに坂を
のぼると田村明じん
すゞかごんげん
土山へはほど
ちかいとかね〳〵
道中双六で
そらんして
おきやん
した
助六さんこゝ
かまはずと
ゆかしやんせ
【ここまで、別刷りにて確認】

【枠内】

【円内】
上り
【本文】
さるほどに
助六
いきう
あげ
まきをはじめ
みな〳〵一つも
あまらす京へのぼり
助六はむかしより
かみがたに名高き
かりがねぐみを
はじめおほくの
男だてを
へいこうさせ
ければ
三井の
仁王も
うでおしに
まけ
あたごの
てんぐも
はな
くらへに
まけ
みな
〳〵
【左ページへ】
今に
はじめ

助六が
りき
りやう
をかん

これより
三ヶのつ
くろ
極上
男だての
ざがしらと
あをぎ
けるぞ
こゝち
よき

【右ページ下】
「あさがほ千兵衛

「助六か
こうけん
上方にて
つき
そふ

【下駄を持つ人の上】
「くわんへら
けたを
目八ぶんに
もつ

【下へ】
助六
「このはちまきはすぎしころ
江戸をたつときあけまきか
むすんてくれたまゝだ
【左ページへ】
上がたの
男だて
ども
へいこう
する
「とつと
【ここから】
もふわた
くしどもは
せたの
めいぶつ
けじめ
じるを
ゑらふ
たべ
ました
【ここまで、別刷りにて確認】

【黄色い頭巾の男たちの上】
「イヨ〳〵
すけ六さま
とつて
おります

出口の
やなぎ

心のまゝにすけ六は
かみがたの男だての
はなをひしぎもはや
江戸へたちかへらん
われ一トたび上ミがたへ
のぼりししるしを
まつだいまでのこしおかんとて
たづさへしじやの目のからかさを
地本(ちほ)ンいんののきばにさしこんでぞ
かへりけるされば
今の世までも
地本ンゐんのわすれがさとて
こゝにのこりさんけいの
たび人すけ六が
ふるまひを
かんぜぬものこそ
なかりける
□いらもよつほど
めでたいじやァ
ねへじやァねへか

京伝作
清長画

化物鼻がひしげ

化物鼻がひしげ
市場通笑著

安永十年印本
化物(もゝんぢい)鼻がひしげ



はけものはこねのさきと
いふくさそうしにはけものは
はこねのさきへゆきし事は
御子様かたごぞんじあとに
のこりしきつねどもばかす
つもりでいれともなか〳〵
今のよのなかにそうめん
でもあづきもちでも
くふものはなし二つや
三つになるおこたちも
からい【辛い?】といつてもうそしやと
おもふ
もゝん
ぢいも
ひさ
しい
ものと
こわからず
むかしとちかい
ひやくものかたりはすたる
なんにもよふかなかなかはしも【用がないから中橋につなげる洒落】
あんまりふるいからあたらしく【く?】はしを
そうたんにゆく

のらきつねの
なかにもあたまの
けまでも
しろく
なりし
おやふんの
きつね
わかての
もの来り
しゆへ
ばけものゝ
おとろへ
たる事を
くちをしく
おもひ
さて〳〵
おいらが
わかい
じぶんは
なんでも
しよかつた【しやすかった、の意?】
とかく人が
なんでも
ゆだんせず
そのうへを
くさぞうしの
さくしやめが
とんたやすく
しやあがつて
すなをな
こどもしゆ
までもなんの
おもしろくもない
ばけものと
やすくさせむしやう
やたらにだいつふ
〳〵としやれやがる
このへんほふには
そばだといつても
くふまいから
てうちじやと
いつてくわせねば
ならぬしばいの
さくしやもたいせつな
おふやさまを
やすくしてたな
でもおわれたら
どふしたもんだ

【障子のかげで】
「いつそいきること【?】じや【いつそ生きる苦じや?】

【右ページ下】
ぬし
たちの
なりはあじたの【味だの?】
人けん【人間】には□【化?】されはせぬか

たゝいまはかふいふことで
なくてはまいり
ませぬおまへかたの
ようにしては
やい□とばけ
ものともみ
こと【?】に
なり
ます

ばけものゝそふ
さがしら
大にうどう
はこねのさきへ
ひきこみあきない
しやふにはもとても
なしでんじてんはたも
もたずぜに三文もなく
されどもむかしのかぶは
たやさずせんたく
ものでも大しまの
ぬのこ女ほうおろくが
なかにできし
ひとつ
まなこを
てふあいし
どふして
くらす事やら
こゝか【ここが】ばけもので
しれず
いつぞは
じせつを
まちひと
はたあけんと
おもひし
ところに
江戸のきつねが
かたより
じやふ【状(手紙)】
来り
もはや江戸の
事はとんと
おもひ
きゝしやれと
いふてよこし
けれは□□□
おこし
たのしみの
ねがきれ
ひさしい
ものじやか
また
〳〵
いかぬそう
だんを
はじめずは
なるまひ

【右ページ下】
女ほう
おろくさしで
ものにて【さしでもの=でしゃばり?】
のぞく

た□□きつねより【たぬききつねより?】
来□してかみをよむ【来りし手紙をよむ?】

【左ページ下】
おとつさん【ひとつまなこのセリフ】
にんけんはこわいの



こころ
だに
ま事の
みちに
かないなば
いのらず
とてもかみや
まもらんと
はけものども
うぬがこゝろの
まがりたる事を
しらずとかくふつじん【仏神】の
ちからでなくはゆ【?】くまいと
おもひ大いそのちぞうそんは
てまいのなかまとおもひたのみに
来りけれはおれはみなのしるとふり
小ばやしのあさいな【小林朝比奈】におふきなめに
あつたそれにあさくさのじぞうの
ごりしやうのじまのちぞうおび
たゝしくほうこうにんをかゝへ
それほどにはなくともおとなしく
せねばならぬうぬしたちのなかまは
ごめんだかならずわるいこゝろを
もちやるなといけんし給ふ
【「あさひな」など「ひ」になりそうな部分も「い」と同じ書体で、どうすべきか悩みますが、見たまま「い」にしました。。】

此ちそうそんはみもち
ふらちなりしかかたくなり
給ひ人かかたひ人を
いしのやふだといふ
事はこのそんぞう
よりはじ
まり
けり

きつねは江戸より
しやふ【状(手紙)】をよこし
それにても
わからぬゆへ
そうめうだいに壹人
来り江戸のやうすを
はなすぬしたちが
あつちにいたときとは
またちがいました今では
こけのいつしん【虚仮の一心】のろま
なぞといふものもなし
べらぼうなしたわけ
なしやぼといふもの
なしはけものは
もちろんとはなせは
たぬきもねこ
またもあきれはて
そしてまあ
どふいふところが
いまはい〳〵【ゝ?】のと
たづねければ
おとこもおんなも
いきといふ事が
はやり
みなつうと
いふものになり
なにいつても
ありがたい〳〵と
むしやふ【無性】に
ありがたがり
このほうども
いちゑん
がてんゆかず
どうか
やまし
にでも
つかまつて
ばかされそうで
きみがわるい
それで
まゆげを
ぬらして
います

【左ページ下】
かのこもちの【?】
かんしん【?】
□やく【早く?】お【?】ちやを
あげろ

みこし入道
なかま
いつ
とうに
おや
だま

そん
きやふ【尊敬】
せられ
ばけもの
たいてん
しては
かぶに
はなれその
うへかわゆひさいしの事を
おもひなんでもひとつこじ
つけんとさいみやうしどのと
いふみにてゑちごより
いてたるそうにて候といづく
ともあても
なくいとまこい
していてけるゑちごの
くにのおふぼふず
とはこのことなり

【右ページ下】
ぼうに
けがでも
させやるな
子ゆへの
やみとは
ばけものゝ
事なり


【左ページ上】
みこし入道
いつくとも
なく
たち
いで

はや
よあけまいに
なりけれは
やどを
とらんと
たのみ
ませうと
いふもめん
とうゆへ
くびばかり
うちに
いりなに【?】は【?】
□なし【?】
から
だわお【?】とも
どうせんに
おもてに
□【な?】つている
ちやも
たばこも
のまぬと
みへて

ても
もんの
そとに
あり

【左ページ下】
おうかめはかり
おくりて来りし
ゆへおくりおう
かめといゝつたへ
しなり

みこし
入道は
しやうじのうちへ
ぬつとくひを
さしたしけれは
ひさしふりにて
さかたの
きんとき
ぴつくりすれは
これ〳〵おぼう
こわい事はない
まつはなしやれ

〽坂田の金時は
御子様かたの
ご存知のとふり
四てんわうの【四天王の】
すいいちてなみの【随一、手並みの】
ほとはよに【ほどは世に】
しらぬ
ものなし
なれとも
十【?】四ねん
ほとさきの
事金平は

もといづの山
うばの子
なりと
上るりにも
あれども
しゆつしやうも
しれず
せんじゆつを
ゑて今に
そくさい
にて
いづの
やまおくに
ひきこみ
くまやさるを
あいてにして
いたりしが
入道来りし
ゆへうちへ
いれむかし
はなしを
はじめる

だん
なのたば
こはきつか
ろう

さけの
さかなは
こほうに
とう
からし
金平
ごほう【?】


□【かすれている】
□□【かすれている】
なり

みこし入道おもわず金平が所へ
来りしがむかしにひきかへ
あらき事なく入道も
あんにそういしておまへ
さまはとうしてこのやうに
おとなしくおなり
あそばしました
わたくしどもが
おちをとらうと
おもへはばんくるわせ
なかまのものも
こまりはて
ましたといへば
うぬしかいふとをり
金太郎子ぞろのじぶんから
わんはくものいたつらものうてんきも【腕白者。いたづらも、能天気も】
わかゐうちいくつになつてもおなじ
事てすむものかどく〳〵のしんはんに

【左ページ上】
わかとの様まて
ごひいきになされ
このうへののぞみも
なしよいとしをして
しやれとやらもてき
まいしいろ事は
むかしからきらい
くまやてんぐを
あいてにして
やまのうし【ち?】は
おれひとりが
らくじや

【右ページ下】
てまへも
いつまでばける
つもりた
とふりて【道理で?】
ひさしい
ものを
ばけ
□□り
だと
いふ


【左ページ鼻をすりこぎにする天狗に】
はなが
いたくはよしなに
なされ

きつねたぬきと
いへはきりもんき【?】なぞは
あるまいとおもへど
入道がゆくへをあんじ
【ここまで一部が破れている可能性あり】
【左ページへ】
ほう〴〵と
たづねあるき
よう〳〵とめくりあい
よろこふこれをおもへは
人けんものをしらずと
じやうなしの事を
わらうはづなり

【右ページ下】
入道金平が
いゑにすこし
こゝろをやわらき
しよせんばけものゝ
しやうばいでおち

とれ

いくつ

なつてもむすこ【?】
かふのやうにふん
べつをしかへんと
おもひなをとろう【?】
よりとらむきの
くふう人はいちたい
なわまつだいと【人は一代名は末代と】
いふととへは【云ふと問へば】

きかつかず
げ【?】ひのほうへ
かた
むき
こゝが

どふでも
ばけ
ものなり
【いくつになっても以降さっぱり意味不明です】

【入道を探し当てた狐と狸は】
金平に
でやいしと
きゝ
きもを
つぶす

【右ページ入道の台詞】
みなかわる
事も
なかつたか

【看板】

大坂
下り

廿四

【木戸番?の台詞】
まちふだ
〳〵

【看板】
大坂
下り

【右ページ下】
き□□□が
すさまじい

おもつ
たが
い□の【いまの?】
かるわ
さは
つがも
ない

【左ページ下】
けしからぬい□た

たんば

くに

ひさしい
ものた

これはこしらへ
ものであ
ろう

【左ページ看板】
丹波の国

【左ページ上】
入道とかくぜにもふけをあんじても
くふうもなしてうやはなよとおもう【工夫もなし。蝶やはなよと思う】
ひとりむすこをみせものと
おもひつきつかみどりのきにて
大やすうりしやうのものを
たつた四文ぜにはもとりにて
□に【廿文?】ぜにゝしてはたつた【銭にしては、たった】壹【?】文
今は十六文か廿四文のみせ
ものでなければみてはなし
とうせいをしらぬ
なるほとやぼと
ばけもの
なり

御子様方へ申上ますわたくし□□御そんじの
とをりふてうほうものとて【不調法者とて】ひさしく
初春【?】のおわらひぐさとなりました
ところにちかごろはとかく大つうとやら
                ばかり
おなぐさみあそはしはけものかなんの
こつたろくろくびかひさしいもんだと
きよい【?】あそはし【遊ばし】よすれども【?】わた
くしどものい□ねいこゝろからは
おぼう様やおあねいさまにはいきな
事をごろふじたらおわるかろうと
おもんじますこのしんはんのふてふほう【不調法】
又々しゆこふいたしかへ御気けん直しに【趣向いたしかへ御機嫌直しに】
御覧に入ますそのため口上すみからすみまてとは
はけものに□□しやいさよふに【?】

通笑作
清長画

江戸大芝居新役者附

江戸大□□【芝居】新役者付
【検索用:江戸大芝居新役者附】

【蔵書印】帝国図書館蔵
【印】帝図 昭和二・八・九・購求・

【欄外赤い文字で書き込み】意馬心猿
【欄外】売出所ふきや町山本重五郎
江戸太夫河東《割書:十寸見子明|十寸見東佐|十寸見東州》《割書:十寸見蘭示|山彦源四郎|十寸見東支》

【上段】
新立役女役之次第【?】








【中段】
古立役はやし方の次第【?】















常磐津造酒太夫
常磐津文字太夫
常磐津兼太夫
【下へ】
同 仲太夫
同 政太夫
【下へ】
三味線 鳥羽屋里長
上てうし同 里桂
三味線 岸沢式佐
同 惣吉

明□七つ時より相はじめ暮六つ時まで□□残奉入□□□候

【下段】
江戸
歌舞妓
大芸□始
続狂言
【下へ】
元祖
寛永十一甲戌年ゟ酉霜月朔日ゟ
寛永元己酉年迄 新役者附
凡【?】百五十六年相続千穐万歳叶
【下へ】
板元
市村茂兵衛
【挿し絵内】



【欄外】絵師 鳥居清長筆【印】

【書き込み】寛政三年市村座役者附《割書:天保五年まで|四十四年 ̄ニ 及フ》
          【朱書き込み】芝海老 天明五年  【印】帝図

【上段】 富本齋宮太夫
富本豊前太夫
 富本安和太夫
【下段】
三弦 名見崎徳 治

上調子 名見崎喜惣治
 
【上枠内】来 ̄ル 五日より

【中枠内】浄瑠璃
【その上段】



【その下段】諸手綱親子心中(もろ た づな おや こ しん じう)
  《割書:沢村宗十郎|市川海老蔵》 相勤申候

【下枠内】室町桜舞?台
第二番目四幕??
      取組
中幕
 道行浄るりのだん
大切り
 水じあいのだん
大道具大じがけ ̄ニ 仕奉?? ̄ニ 候

 役人替名
一与作一子三吉    海老蔵
一馬士ふみ馬はね蔵  義? 蔵
一繁坂佐五右衛門   勝五郎
一ざとうけいまさ   升五郎
一馬士大長橋?のさぶ  鉄五郎
一同夜あけの市    仲五郎
一同剣先 ̄キ の五六   宗太郎
一同とらの尾の十四郎 富右衛門
一同御茶壺仁介    森 蔵
一同三日坊主の三太  与 市
一質屋藤右衛門    村 蔵
一あさくら團平    孫? 蔵
一くも介かげろふの権 淀五郎
一出女小よし     哥 川
一同 おまき     とよ【虫食い】蔵
一小五郎兵衛妹おゆり   勘太郎
一馬士勢?【跡付?】仁九郎    広 八
一与作母お幸     宗三郎
一竹村定吉      紋三郎
一与作女房小まん   万 菊
一馬士梅沢の小五郎兵衛 広右衛門
一馬士江戸兵衛    助五郎
一藤沢家【宿?】丹波や与作  宗十郎
一馬士戻馬の八蔵   團十郎

 其外惣座中不残
 罷出相つとめ申候
さかい丁
中村座
  大叶
【枠外】 正めい 新いづみ丁 村山 源兵衛板【手擦れ】

【蔵書ラベル】別7 538

安永四年森田座役者附《割書:天保五年まて|六十年に及ふ》

   二代目坂東三津五郎【良】一才の小像
二代目秀佳此役者附のとし安永四年
生る幼名三田八同八年春森田座初舞
台【臺】也此とき五歳天明二年春森田座にて
巳之助と改此とき八歳又森田勘次郎と
改寛政五年十一月元服して坂東簑助【簔助】と
改桐座初舞台【臺】此とき十九才同十一年中
村座にて二代目三津五郎と改此とき三十才
天保二年十二月十二月廿七日終る行年五十七才
これ元祖の実子にして三代目当【當】三津五
郎には父なり近代の名人と称す
   文政十年評判記位
       大極上上吉

           安永四


【以下次コマ】

安永五年市村座役者附《割書:天保五年 マテ|五十九年 ̄ニ 及フ》




鐘とうらみ 安永五

【印】帝図

【以下次コマ】

【朱書きで】五指(イツヽノヲヨビ)

安永七年森田座役者附

二代目坂東秀佳此翌年正月此座にて
初舞台時に五歳なり
此役者附の肖像は四歳の像なり

天明二年森田座役者附《割書:天保五年まて|四十九年に及ふ》

天明六

天明七年役者附《割書:天保五年マデ|四十八年 ̄ニ 及ブ》
 雪戯子記(ゆき け し き)
 ○団【團】十良【郎】 五代目白猿也
ー○門之助 《割書:二代目新車也|白猿門人》
ー○広【廣】右ヱ【衛】門 ■【塗りつぶし】《割書:三代目也二代目|十町【丁】弟子也》
ー○三津五郎【良】 《割書:元祖也当【當】秀朝|祖父ナリ》
ー○菊之丞 三代目仙女也
ー○半四郎 四代目也杜若父也
 ○升五郎 《割書:海老蔵 ̄ニ 付あるきて男の乳母 ̄ト |異名されし者なり》
ー○海老蔵 《割書:五代目実子六代目団【團】十郎也|此時十才ナリ》
ー○粂三郎 《割書:四代目半四郎【良】実子|今の杜若ナリ》
ー○弁之助 《割書:二代目新車実子|男女蔵ナリ》
ー○こま蔵 《割書:二代目こま蔵 四代目幸四郎【良】実子|今の幸四郎也》
 ○万菊  二代目山下金作弟子三代目金作也

    已下略【畧】


帝図【印】

天明七

【印】帝図

 天明八年市村座役者附 《割書:天保五年マデ|四七年 ̄ニ 及》


天明八

天明五年四月五日 ̄ヨリ ノ狂言也《割書:天保五年マデ|五十年 ̄ニ 及フ》

団十郎  五代目白猿也
宗十郎  四代目訥子也
助五郎  魚楽実子始仙石助治
広右衛門
万 菊  二代目山下金作弟子後三代目金作トナル
紋三郎  尾上 後二代目荻野伊三郎也
升五郎  市川 海老蔵 ̄ニ 付テ男ノ乳母ト云ハレシ者也
海老蔵  五代目実子後六代目市川団十郎也

芝海老              【印】雀?爾

此役者附は五代目団十郎蝦蔵と改名倅
海老蔵六代目 団十郎(十四才)と改名せしときのもの也
 ○ゑび蔵口上に祖父親は海老蔵の文字を付
 ましたが私がえびは天鰕(ざこ えび)で厶【ござ】り升 祖父柏莚私は
白い猿と書て白猿と申升此心は名人上手には毛
が三筋足らぬと申義で厶り□【升?】と口上評判有
ける故口上にて入のあるは【分?】恥のうちと四日限にてやめし
となり 改名の発句
〽毛が三すち 上手に足らず蓑寒し
  此句を聞て
〽卑下してもしらさるものゝあるべきや
  足らぬ  三すぢは三升にて足る
           吉川 露翰
  又ざこえびとの口上をきいて
〽鰕の卑下ざこと思ども評判は
  げに大鵬の羽根もしばらく
         立川 焉馬



       寛政三

寛政元年市村座役者附 《割書:天保五年マテ|四六年 ̄ニ 及フ》



【蔵書ラベル】別7 五三八 【印】別図

【印】帝国
図書
館蔵              【印】帝図 昭和 二・八・九・購求

諸事米の飯

諸事米の飯     全

諸事米の飯 完

たかきやにのぼりて見れば煙(けむ)りたつたみのかまどはにぎわいにけりとは
ありがたきぎよせい一代のまもりほぞんはめしとしるなりとは
一休(いつきう)おしやうのおふせのとをり花(はな)よりは
だんご月を見るもだんごいろけより
くいけぢうわりがくわんじんもくおふが【「が」の字が半分有るように見える】
ためおきる朝(あさ)めしねるにやしよく命(めい)は
しょくにありほた餅【ぼた餅=牡丹餅】は棚(たな)にあり
むしやうにかせぐもどふするも はなのした【口のこと】に
つかわれる めしとしるとを しゆこふにして
大めしくいのぶてふほう【不調法】くうとじきにねると うしに
なるとまふせばせふ事なしにあんどんをかきたて【搔き立て=燈心などを掻いて火の勢いを強くする】はんぶん
ねて居(い)ていたし候まゝねぼけたそふだとおぼしめし御らんあそはし
可被下候

ここにお□【文字が消えているが多分「ふ」と思われる。「おふ百性」=「おお百性」】百性【姓】にてもとより
りちぎいつへん【いっぺん】にておひ
たゝしく【おびただしく】こめはつくれと
江戸ゑ【「江」とするところ】だしそのみは【身は】むき【麦】
ばかりくふゆへ人みな
むきめしとなをつけ
たいしよく【大食?】なれども
はたらくゆへむびやう
にてなにくらからず【何不足なく】
くらしける又そのころ
大坂のやまちうといふもの
どのよふなしよくのいけぬ
ものにもしよくをすゝめ
さら〳〵とすますゆへ
すましといふも
もつともなり

〽大こん【大根】ねき【葱】とふ
からしはところのやくにん
なるゆへやくみといふは
この事なり三人つれにて

【左丁】
来りむきめしに
しよくをすゝ
    める

【右丁 上部】

むきめしはひとりむすこいたつてびやうしん【病身】にて
百性のわざもできずこゝろまかせに
あそばせておきせけんの人とはなすも
きらいろふしやう【老少】のやうにわり【割り麦の略】ばかり
くふゆへこれをわりめし【ひき割り麦を混ぜて炊いた飯】とつけ
ふたおやながらくにするゆへ
こゝろやすきもの来りて
        はなす

【右丁 下部】

そ□□□【文字うすく判読不能】
はかり
して
いても
すまぬ
 ちと
江戸へ
 でも
でゝ
 たの
しむか
よかろふ

【左丁 上部】

とふからし
わりめしとすましが
はなしのよふすを
しのびて
 きく

とうがらしは
にげたが
ちつとのむと
あの人もあかくなる

【左丁 下部】

また
おゝさへ【御押さえ=相手が酒をさそうとするのを、押さえて重ねて飲ませること】か

  【右丁 上部】           【右丁 下部】
  なめしのひとり              女川
  むすめ女川こしもと          わりめし
  きのめをつれはな見に    【このあとの数行、                   文字うすく判読不能】
  いでよもをながめて           
  たのしむおりふし          
   わり               
   めし【ひき割り麦を混ぜて炊いた飯】も
   花を
   なが

めんとたゝひとり
女川を見そめ ちゃ屋の
しやうぎにこしを
かけしに なにもの
ともしれずふかあみ
がさにかほをかくし
てまえのほうより
わりめしにあたりて
けんくゎをしかけけれども

【左丁 上部】
いろ〳〵わびるゆへ
このばはたがいにたち          
 わかれけり              
 
【左丁 右下部】                      
人にあたつて
なせあいさつを
せぬ                           


さわり
ましたら                    
  【このあと数文字ありそうだが文字が消え判読不能】

ませ

【左丁 下部左端】                
わりめし
 なんぎ
 
                        

【右丁 右上】
そばきりがおい うんとんは
すこしおろかなる
ものなれとそばも
このなきゆへあと
しき【跡職】をもゆず
らんとおもへと
そばほどのはたらきは
なきぶてう
ほう【無調法】ま事
にしん
るいゆへ
わがこ
とう
せん【同然】に

おもふこのしんるいの
事をいつのころよりかめんるい〳〵といふ也
おろかなものをとんだ【「どんだ」=「鈍太郎 どんだろう」のこと】といふもうどんより
はじまりけり なめしがむすめ女川を
見そめとうからしをたのみいなりの
かんぬしあづきめしがかたにて
そふたんする

【右丁 中段】
〽うんどんは
やらずのかさず
かんぬしの
小しやうに
ほれるうんどんは
小しやうがきつい
すきなり

【左丁】
〽とうからしかんぬしとしめしあわせ
女川をうばいとらんと
はたらく うんどんどのがあのやうにのびては
たまらぬととうからし
ゆへから〳〵〳〵とわろふ

【神社の鳥居の額】
稲荷大明神

【右丁 上部】
とうからし
うんどんに
たのまれ
こしもと
きのめに
あてみを
くわせ
女川をうはい
ほうびにせんと
はたらきせちがらき
やつからきめ【「おお辛き目」か】にあふといふは此とうからしよりはじまりけり

【右丁 下部】
ほうびは
のぞみ
しだい
じや
おれ
き□


じや□

いふ
あらもの【荒者=乱暴者】だ

【左丁 上部】
とうからしは女川をぬすみやう〳〵と
ちそが所へかくしてもらい
ちそがとうからしをかくせし
よりいまにちそまき
とうがらしとかくせし
ばかりでめいぶつに
  なりけり

【左丁 下部】
ひへめし【冷飯或は稗飯】といふわかもの
ちそかところへ
見なれぬ
女はいりしゆへ
つけこみ
ゆすりかけ
弐百や
三百では
きかず
やう〳〵いつ
ほんで
りやう
けん【了見…我慢】
する

【右丁 上部】なめしはむすめ女川を
なにものともしらず
ばいとられ【奪い取られ】所のなぬし
ゆへとしよりみな〳〵
より合そうだんする
ゆへなめしをたいて
ふるまふなめし五人ぐいと

【左丁 上部】
いふはこれなりなめし女ぼう
おでんおつとは
きついでんがくかすき
なれどもぶせうものゆへでんがく
ほどのやきどうふへみそかくずを
かけいくじかなきゆへひきづ□【「り」?文字半分欠けていて判読しづらい】とふふと
いふなり

  
 〽 さあ〳〵みなさまあがりませ
   もふなんにもてませぬそれを
   あがつてかうしんまちのきで
   おはなしなされまし


   【中央下部の文字】

        これは〳〵おかみ
        さまいつも
        ながらこぞう
        さ【御造作】わしか
        かゝもこの
        おりやうりが
        きついすき
             た


   【左丁 左下部】

         おまへも
         おせうばん【相伴】
          なさり
           ませ
        

【右丁 上部】

わりめしは江戸へ出そくさい
になり大のいきしん【粋人】と
なりてまい日〳〵ならちや屋へ
あそびにゆき
そのころの
なだいもの
かめやの
かすがのつぼやの
こみ山五井やの
わかもりわたやのかんばやし日のや
あかしやのあわゆきそのほか
なだいものおびたゝしくあつめ

【右丁 下部】
くるほどの人
ちやめしに
うかされよとを

さわぎ
あそぶ

のま【?】□□□【この行何文字かうすくて判読不能】といきに
【この行も上部何文字かうすくて判読不能】 てし□【文字うすく判読不能】と

【左丁 下部右端】
なり        つとめる

【左丁】

かすがのになじみ
むしやうやたらにてを
たゝき太平ちやわんと
おごりかけむかし
ろくかうのおくやまん
ねんやは人がたのしみに
ゆきしものが今は江戸に
おびたゝしく
できてはやり
けりこれを思ふ
に女郎のちやを
ひくといふも人を
ちやにするといふも
このちやめしからはじまりし事か
またちやめしといへばとうふのぐつに【ぐつ煮=長時間とろ火で煮ること。またその煮物。「豆腐のぐつ煮」はポピュラーな料理だったよう。】
ひつこいものなれどどふ
でもきやくはひつこいのが
よいと見へてはやり
くずだまり【葛溜り=葛餡のこと】もしたじ【下地…味付けのもととなるものの意から醤油のこと】
よりよいとみへて
きやくがあるなり

【右丁 上部】

わりめしはならちや屋に
あそひすごしかね四ツ
まいかとおもひかへりしか
もはや九ツすぎあそんで
いてはよのふけるもしれず
うどんわりめしが
江戸にいる事を
きゝ女川がかけ
      おち
     したる
ゆへわりめし
めをぶつちめん【ぶちのめす・たたきのめす】と
かへりをまちぶせ
してやなぎばしにて
でつくわせくらやみにて
さん〴〵にちやうちやく【打擲】し
二人ともに
にけかへる

【右丁 下部】
なぜ今
しぶん
おかへり
あそはす

【左丁 上部】
ちやう
ちんをけし
なん


【左丁 中央部】
こんだ
しほに
□□□【文字うすくて判読し辛い】


し 
 た

【右丁】
わりめしはあそひより
のかへり
   かけ
  なにもの
  ともしら
  ずちやう
  ちやく【打擲】に
 あいむねんには
おもへどもそれと
いふてかわりもなく

ばんし【万事】の事にものおぢしてうしじま
へんのへつそうをかいものしづかにくらし
いるおりふし女の二人のあんないありし
ゆへたちいで見ればそのいぜん花見の
おり見そめし女たがいにあかしやい
うちへいれけり

【左丁】
見れは
ほかに
ともゝなし
がてんが
 まいらぬ

みめぐりからでもおいで
ではないかたじ【堅地】
 やねぶね【屋根船】があやしう
       ごだる
【右下】
おはなしもふ
せはながい□
よふ〳〵□・・

まい□
ました□、、、

【右丁上部】

女川が
うし
じまに
いるおり
あさ
くさの
もの
とをり
かゝり
いわん
かたなき
うつ
くしき
ふう
ぞくほしかるもの
やまのごとしせめて
なんぞしゆこうも
あらんとひろこうし【広小路=東京都台東区上野を南北に通じる大通り、および、その付近の通称。江戸初期の明暦の大火以後に寛永寺黒門から南へ延びる通りを拡張してできた。】へ
女川なめしといふもの
をはじめければすさまじくはやり
だん〳〵にるいみせ【類店】おゝくできいつれが
女川らいるかとおしなべてはんじやうし
和中さん【和中散=近世売薬の一】のやうにとれがほんけ【本家】か
しれぬやうにうれもつとも
でんかくのじんじやう【尋常=ありさまが立派なこと。品のよい、しとやかなさま】もすべて
女川かふうぞくにならひしなり
女川なめしのじつせつ【実説=実話】なり

【右丁 右下部】

まづおかんおんさままいつてからよ□【文字うすく判読不能】
【後の2行も文字が消え判読不能】


【右丁 左下部】

女川とやらは
なに
や□

やらか
うけこし
たてはないか

【左丁 上部】

わりめしは江戸にいては 人めにたゝんと
女川をつれてたちのきやう〳〵と
あれたる百性の
いゑにやどを
たのみけれはやさしき
ばゞにてやどをかし
なにもなけれど
あわのめしを
しんぜませうと
ふるまいければそれは日本一にて候と
さいみやうじどの【最明寺殿=北条時頼】ゝやうによろこび
そうおう【相応】なるうつはもなけれは
まつのはにのせいたしけれは
こゝろざしはまつのはと
かんしやうじやう【菅丞相=菅原道真の異称】のせりふにて
ま事にさむしきときまづい
ものなし女川もじんじやうな
くちにしてはなか〳〵よくくい
よろこぶおりふし【折節…丁度その時】このやの
あるじぢゝめしおやぢ
かへりかゝりひとたくみ
         する

【左丁 下部】

おまえかたもなにかわけのあり
そふな
事わしが
あわめしを
おふるまい
もふし
ろせい【盧生】   
といふ人は   
あわめしかしく【炊く】うち
ゑいがのゆめを
見たといふ事
二人あやかつて
ゑいくわを
なさり
ませ

【左丁 左中央部】

やさしきばゞさま
ゆへよろこぶ


【右丁 上部】
ばゝめしがしらせにて
うとんは女川をばいとらん【奪い取らん】と
とうからしをたのみ来りし
にねき大こんにでつくわせ【「出交わす」=でくわす。偶然に出会う】
むごいめにあいあまつさい【あまつさえ=「剰え」=それだけでなく】うどんはふみのめされ【踏みのめされ=したたかに踏みつけられ】たつ
事もならず今のよに
いたるまてうどんのふま
るゝいんゑん【因縁…いわれ、由来】はこのとき
よりぞはじまり
けりとうから
しも大こん
二人おつはさ
まれ【おっぱさまれ=「押挟まれ」=ぐっと挟まれ】からみなかま【「辛味仲間」】の
つらよごし
たゞさへ人に
いやがられ
そのうへ
こんどの
 かたきやく

 りやうりのやくみも

【左丁 上部】
するものがそふいふ事で
すむものかと大こんと大こんの
中へたてはさみ むしやう
やたらに【無性やたらに=無闇やたらに…考えもなく度を越すこと】
おろせし
ゆへふつ
かけ【ぶっかけ=ぶっかけそば「打掛蕎麦」の略。かけそば】の
とう
からし
ゆどう
ふの
 とう
 からし。

【右丁 下部】
ばゝ
めしほう
ひはおもひ
のほか
此□【?】を
見て
むねに
つかへる

□□
かき
  は
こめ

〳〵
 と
ひやむ
 ぎに
なりて 【泣いて の誤りヵ】
あやまる

【左丁 中段】
大こん
おろしの
あかいの【紅葉おろし】は
これより
まへはなき
事なり二人
にてとぐてあ
かせ【意味不明】いやみ【嫌味】
からみ【辛味】の
こじらい
れき【「故事来歴」=昔から伝わってきた事物についてのいわれや歴史】
これにて
さらりと
わかりけり

【左丁 下部】
たゞさへおのれ
げすはつたと【下司ばったと】
わさびにいわれさん
しよはこつぶでも
たいていはらをたつて
いるとたかのつめ
のよふな
もの
なれ
 と
ま事に
これが
てん
しやう
まもり【天井守】あをとう
からし ようからくして
竹のつゝゑ【「江」とあるところ】も
いれられての事で
つか□□どく【「気のどく」か】
    なり


【右丁 上部】
うどんがだん〳〵のわる
たくみねぎと大こんに
きめられそばきりかたへ
つれ来りやうすのこらず
はなしければそは
きりはもつてのほかの
いきどうりめんるいの
つらよごしてうちに
せんとりつふくする
そのばにそうめん
いやわせまづりやうけんも
あらんととゞめおはら
たちはごもつともそれ
がしなどはずいぶん
こゝろをすぐにもち
きをながくして
人にさからはずひや
ぞうめんがきらいの人
ならにうめんときけんを
とりわがまゝではすみま
せぬそばきりどのも
そのとをりごぜん【御膳】〳〵と

【左丁 上部】
もちいられ たいかい【大概】きらい
な人はなしそれに
こなたはふとい人と
きめつけられてそば
きりそうめんは
きりやうしだいほそく
すれとまん〳〵年の
そのすへもうとんはほそく
ならぬ事そうめんが
いちごんなり

【右丁 下部】
お【?】くのてまいもめんぼく
ないそれほどなわるたくみ
するこんじやうとは
おもわぬ よふしやふの
ときよりがくもん
させてほんのはし
〳〵見おぼへて
たいがいのかぜくらい
はあせをかゝせて
さらりとなをし
人々をよろこばす
もおれがかけ【御蔭と「かけ」の掛詞ヵ】もふ
りやうけんがならぬ
ときめつくる

〽ねぎ大こんはそは
きりがけつはく【潔白か】ひと
とふりのなかでは
なじまづ□□□□く
とゆふあんとの  【このあたり意味不明】
とを□をむぎ
めしどのに

【左丁 下部】
はなしその
うへで□【文字うすく判読不能】
そばに
うとんを
つなぐ

 此

とき
より
 ぞ
はじ
まり
けり


【右丁 上部】
ねぎ大こんは
そはきりが 
しんてい【心底】を
むぎめしに
はなし
そのもとへ
ぎり
たたぬ
   と
ついぞ
  ない
うどんを
てうちに
するといわれ
やふ〳〵とまづしづめて
かへりましたと
むぎめしきゝ
さて
〳〵
それはきのどくな
事 ひつきやう【畢竟】
せがれめかこゝろ
まかせにくわせて
おけばはらがくろいから
いろ〳〵の事しいだし

【左丁 上部】
そばきりとのへのいゝわけに
かんとう【勘当】するわりめしを
かんとうしたらなにを
くらうかそれでおもひ
しりおるであろふ
ねぎ大こんもりやう
ほうのわけをきゝ
とりあつかわん
しやん【思案】なく
こまりはてけり

【右丁 右端中部】
さゝぎ【「ささげ」のこと】めしは
いなりのかん
ぬしあづき
めしとは

【右丁 下部】
ゑんある
ゆへ








したる事
わびに
来り


やくにて
むぎ
めしが
やふすを
きゝなか〳〵
いゝたし
てもす
むま□【済むまじ ヵ】【これより以下数文字判読不能】

【右丁 中央部から左丁中央部】
女川がはゝおでん
わりめし二人か
ありかゞしれむぎ
めしか女ぼうにあい
なにとぞおもひおもふたなか
ふうふ□【夫婦に ヵ】【文字半分消え判読不能】したきよし
おつとにかくしそう
だんに来たる

【右丁 上部】
めしのそうおかしら
米のめしそはむぎめしの
ていりをきゝたまいそう
ほふにわけをつけ給ふ
もつともめいは【「わ」となるところ】くなる事
ゆへいちごんのへんとうも
なしむぎめしがせかれ
わりめしなめし
むすめ女川と
ふうふにいたすへし
うどんはさき
にてとくしんも
せぬ事にてごめ
になし事に
とうからしを
たのみ

ふとゞき
このうへはやくみといつしやうつきやいは
ならぬすこしいこゝろ【医心=医者の心得】あるゆへ
こせう【胡椒】をいちみゆるす此うへは
ずいふんみもちをたいせつに
してほしうとんともなり
なば きにん【貴人】のまへゑ【「江」となるところ】も
いだすべしあづきめしとのも
おとなしからぬいたしかた

【左丁 】
あかのまんま【赤飯】にとゝ【魚】そへてと
こどものやうではすみませぬ
こわめしのやうにもちいられ
わざと
あつき
めしでも
たきませうとやすく
いわれぬやうにするか
ましさゝぎめしは
しんるいゆへすいぶん
きをつけつかわすへし
なにからなにいるまで
こめがすこしはなれては
ならずどふかそばは
しはいちがいのやふなれど
あごておさへ【最後に出すもの】に
めしがでる
壹人りとして
きらいなく
これかきらいに
なるくらいでは
おいとまごい
    なり

【右丁から左丁にかけて 下部】
とうかうしにはくわたい【過怠】
をいゝつけるずいぶん
うまくないものも
むしやうにすゝ
めて人々の
ためになれ
いわしのぬたで
むしやうに
のんでばかり
いては
 すまぬ

〽みな〳〵
 ありかたく
  おもふ

いぢきたないぢみやうはなつ□□【?】三冊ものゝさうし
上からおわるまでくふ事御子様方がこのよふに
くふ事ばかりおつしやるとぢきにきふ【灸】を
すへられこれはきついむりなり
とこぞ【何処ぞ】へゆかふではないかもくふ事
あそびにゆくもよくするよきその
はなしも今はよい百まんへんも
内からこんだて月雪花にはおさだ
まりもつともくいものにおしかりは
あるまいがなんぞいきなこんだてが
めいぶつなとでとおぼしめしも
あらんがそこがかの米のめし
こいつはよいと御ひやうばん
よろ
しく
ねがい
たて
まつり
  候

【下】
のゝさまを
おが
みやれ
なに事も
かみしん
じん

【両頁文字無し】

【裏表紙 「帝国図書館藏」の押圧文字あり】